説明

2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤

【課題】本発明は、特定のポリイソシアネートを使用することにより、2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤に関し、優れた貯蔵安定性の硬化剤を提供することを目的とする。
【解決手段】ヘキサメチレンジイソシアネートから得られるビウレット構造を有するポリイソシアネート(A)とヘキサメチレンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート(B)からなる硬化剤であり、(A)/(B)が1/99〜60/40の質量部比であることを特徴とする2液型ポリウレタン被覆組成物硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料、接着剤、粘着剤などに使用される貯蔵安定性に優れたポリウレタン被覆組成物用硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサメチレンジイソシアネートから得られるポリイソシアネートは、耐候性、耐薬品性、付着性に優れるため自動車補修用、橋梁、建物などの構築物用、プラスチック用、木工用など広範囲のウレタン塗料や接着剤、粘着剤用硬化剤として使用されている。その中でも特にイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートは、イソシアヌレート構造の化学的安定性が高いことから、耐候性や耐久性に特に優れていることが知られている。
このように、イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートはきわめて優れた特性を有するものであるところから、一層幅広い産業上の用途に利用されていくことが望まれている。しかしながら、このイソシアヌレート構造を有するポリイソシアヌレートを塗料として使用するため有機溶剤で希釈する際、また、希釈後貯蔵する際、有機溶剤由来の水分等が原因になり、白濁、固化などの現象が起こることがあった。
【0003】
イソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートの耐水分安定性をあげるために様々な方法が提案されている。例えば、非特許文献1にはイミノオキサジアジンジオンを添加することが耐水分安定性に良好であることが示されているが、イミノオキサジアジンジオンを合成するためには高価なフッ素を含む触媒を調整する必要があり、また、触媒調整も多段階必要なので経済的に不利になり、反応の制御も困難である。さらに、熱安定性も低い。
有機溶剤中に含まれる水分を除去するため、オルト蟻酸エステルや単官能モノイソシアネートを添加して溶剤中の水分と優先的に反応させてイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートの耐水分安定性をあげる方法もあるが、水と反応した生成物がポリイソシアネート溶液中に残り最終的な物性の低下をまねき好ましくない。
【非特許文献1】Congr FATIPEC、Vol.24th、D PAGE.D.131−D.145、1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定のポリイソシアネートを使用することにより、2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤に関し、優れた貯蔵安定性、特に水分に対する安定性をもつ硬化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討の結果、特定のポリイソシアネート組成物を用いることにより、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の通りである。
1)ヘキサメチレンジイソシアネートから得られるビウレット構造を有するポリイソシアネート(A)とヘキサメチレンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート(B)からなる硬化剤であり、(A)/(B)が1/99〜60/40の質量部比であることを特徴とする2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤。
2)紫外線吸収剤及び/または光安定剤を全体の0.01〜1.0質量%含有することを特徴とする1)記載の2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤。
3)イソホロンジイソシアネートから得られるポリイソシアネート(C)を(A)と(B)の合計質量部に対し1〜80質量%含有することを特徴とする1)または2)記載の2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、特定の脂肪族及び/または脂環族のジイソシアネート系ビウレットタイプポリイソシアネートと脂肪族及び/または脂環族のジイソシアネート系イソシアヌレートタイプポリイソシアネートを特定の比率で組み合わせることにより、イソシアヌレートの高耐候性を維持しつつ十分な保存安定性と水分に対する安定性の良好な2液型のポリウレタン被覆用組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に用いるジイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/またはイソホロンジイソシアネートである。
ヘキサメチレンジイソシアネート及び/またはイソホロンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート(B)及び/または(C)は、例えば特公昭59−1289、特開昭64−33115、などの方法で得られる。また、市場で入手可能なもの、例えばヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートとしてはデュラネートTPA−100(旭化成ケミカルズ社製品)(商品名)、デスモデュールN3300(バイエル社製品)(商品名)、バソナートHI−100(BASF社製品)(商品名)、コロネートHX(日本ポリウレタン社製品)(商品名)などが使用できる。イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレートとしては、Vestagon T1890(Degussa社製品)(商品名)、デスモデュール Z4470(バイエル社製品)(商品名)などが使用できる。
【0008】
ヘキサメチレンジイソシアネートから得られるビウレット構造を有するポリイソシアネート(A)は、例えば特公昭48―8088、特公昭57−29029、英国特許1044932で示される方法で製造できる。また、デュラネート 24A−100(商品名),同 22A−75PX(旭化成ケミカルズ社製品)(商品名)、デスモデュール N−75(商品名),同 N3200(バイエル社製品)(商品名)、バソナートHB−100(BASF社製品)(商品名)、トロネートHDB(ローディア社製品)(商品名)などを使用することも可能である。
(A)と(B)および(C)の比率は以下の通りである。
(A)と(B)の比率は1/99〜60/40の範囲である。好ましくは5/95〜40/60、さらに好ましくは5/95〜20/80である。(A)の比率が1より低い場合は十分な水分安定性が得られず、60より高い場合は耐候性がややおとる。(C)が混合される場合の比率は、(A)と(B)の合計質量部に対し1〜80質量%の範囲である。好ましくは1〜50質量%、さらに好ましくは1〜30である。(C)の比率が1質量%より低い場合は十分な乾燥性が得られず、80質量%より高い場合はイソホロンジイソシアネートの反応性が低いために十分な膜物性が得られない。好適には1〜50質量%である。
【0009】
本発明のポリウレタン被覆組成物硬化剤には紫外線吸収剤及び/または光安定剤を含有する事が好ましい。紫外線吸収剤及び/または光安定剤の含有量は全体の0.01〜1.0質量%が好ましい。さらに好ましくは0.02〜0.5質量%、最も好ましくは0.02〜0.3質量%である。紫外線吸収剤及び/または光安定剤の含有量が全体の0.01質量%より低い場合、十分な安定性が得られず好ましくない。また、含有量が1.0重量%をこえると紫外線吸収剤及び/または光安定剤が比較的高価なため経済的に好ましくない。
【0010】
本発明で用いられる紫外線吸収剤としては、化学構造式にベンゾトリアゾールを含むもの、具体的には、例えば、チヌビンP、チヌビン213、チヌビン234、チヌビン320、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン329、チヌビン571、チヌビン1130(以上いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製商品名)、スミソルブ250、スミソルブ310(以上いずれも住友化学株式会社製商品名)、アデカスタブLA−31(旭電化工業株式会社製商品名)、等が挙げられる。また、光安定剤としては、化学構造式に2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを含むもの、具体的には、例えば、チヌビン123S、チヌビン144、チヌビン292、チヌビン765、チマソルブ119FL、チマソルブ2020FDL、チマソルブ944、チマソルブ622LD(以上いずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製商品名)、スミソルブ577(住友化学株式会社製商品名)、アデカスタブLA−52、アデカスタブLA−57、アデカスタブLA−62、アデカスタブLA−67、アデカスタブLA−63P、アデカスタブLA−68LD、アデカスタブLA−82、アデカスタブLA−87、アデカスタブLA−503、アデカスタブLA−601(以上いずれも旭電化工業株式会社製商品名)サノールLS−2626、サノールLS−292、サノールLS−744、サノールLS−440(以上いずれも三共ライフテック株式会社製商品名)等が挙げられる。
【0011】
本発明のポリウレタン被覆組成物硬化剤を溶解させるために、当該分野で公知のイソシアネート基に不活性な溶剤を使用することもできる。例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などである。これらの溶剤中に含有される水分は500ppm以下のものが望ましく、好適には300ppm以下のものである。
本発明のポリウレタン被覆用組成物として、当該分野で公知の顔料、着色剤、分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの添加剤を添加しても支障がない。
【実施例】
【0012】
次に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、実施例によりなんら限定されるものではない。実施例中の部、%は各々質量部、質量%である。
〔粘度測定法〕JIS K5600−2−3
〔イソシアネート含有量測定法〕 ASTM D2572
〔ガスクロマトグラフィー測定方法〕
使用機器 (株)島津製作所製 GC−8A
カラム 信和化工(株)製 Silicone OV−17
検出方法 FID
測定条件 インジェクション/デテクター温度 160℃
カラム温度 120℃一定
〔赤外線吸収スペクトラム測定方法〕
使用機器 日本分光(株)製 FT/IR−600
〔水分測定方法〕
使用機器 京都電子工業(株)製 MKC−510
〔耐候性試験〕
使用機器 スガ試験機(株)製 サンシャインウェザーメーターS80
〔光沢測定器〕
使用機器 スガ試験機(株)製 デジタル変角光沢計 UGB−5D
【0013】
[製造例]
ポリイソシアネート(A−1):ヘキサメチレンジイソシアネート6700部とリン酸トリメチル1000部及びエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート2300部とを含む混合液を還流冷却器をつけた反応器に入れ窒素雰囲気下良くかき混ぜながら水50部を加え160℃まで20分かけて昇温し、さらに160℃60分間常圧で反応させた。反応後液中にはなんらポリ尿素などの沈殿をみとめられず、この反応液を0.2Torr/180℃の条件で薄膜蒸発器で未反応のヘキサメチレンジイソシアネート及びリン酸トリメチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートを回収し、ポリイソシアネート1190部を得た。
得られたポリイソシアネートは、黄色、透明の液体であり、25℃での粘度が1200mPa.s、イソシアネート含量(以下、NCO%と略)23.9%、残存ヘキサメチレンジイソシアネートは0.2%であった。
得られたポリイソシアネートの赤外線吸収スペクトラムを測定したところ、1770cm−1にビウレットの特性吸収が観察された。
ポリイソシアネート(B−1):攪拌機、温度計、還流冷却管を取り付けた四つ口フラスコにヘキサメチレンジイソシアネートを1000部、キシレンを300部仕込み、60℃、攪拌下、触媒としてテトラメチルアンモニウム・カプリエート0.3部を4分割して30分ごとに加えた。
【0014】
60℃で反応を続け、4時間後、反応液のNCO%滴定および屈折率測定により、ヘキサメチレンジイソシアネートの転化率が21%になった時点でリン酸0.2部を添加して反応を停止した。その後、さらに90℃で1時間加熱を続け、次いで、常温に冷却し、反応液の濾過を行なった後、薄膜蒸発器を用いて、1回目0.8Torr/160℃、2回目0.1Torr/160℃の条件下で、溶媒及び未反応のヘキサメチレンジイソシアネートを除去、回収した。
得られたポリイソシアネートは、微黄色、透明の液体で、収量は210部、25℃における粘度は1300mPa.s、NCO%は23.5%、残存ヘキサメチレンジイソシアネートは0.2%であった。
得られたポリイソシアネートの赤外線吸収スペクトラムを測定したところ、1690cm−1にイソシアヌレートの特性吸収が観察された。
【0015】
[実施例1]
ポリイソシアネート(A−1)を4部、ポリイソシアネート(B−1)を36部、水を0.2部含む酢酸n−ブチル30部とキシレン30部の混合溶媒を混合させた。温度20℃に保った部屋に放置し、目視により外観が白濁するまでの日数を観察した。結果を表1に示す。
【0016】
[実施例2〜3]
表1に示した重量部で混合した以外は、実施例1と同様にして目視による外観試験を実施した。結果を表1に示す。
【0017】
[比較例1]
ポリイソシアネート(B−1)を単独で使用した以外は、実施例1と同様にして外観を観察した。結果を表1に示す。
【0018】
[実施例4]
ポリイソシアネート(A−1)を10部、ポリイソシアネート(B−1)を100部、酢酸n−ブチル43部とキシレン43部の混合溶媒を混合させた。温度20℃飽和水蒸気下で20hr吸湿させたあと、水分を測定し、温度20℃に保った部屋に放置し、白濁するまでの日数を観察した。結果を表2に示す。
【0019】
[実施例5〜6]
表2に示した重量部で混合した以外は、実施例4と同様にして目視による外観試験を実施した。結果を表2に示す。
【0020】
[比較例2]
ポリイソシアネート(B−1)を単独で使用した以外は、実施例4と同様にして外観を観察した。結果を表2に示す。
【0021】
[実施例7]
ポリイソシアネート(A−1)を4部、ポリイソシアネート(B−1)を30部、ポリイソシアネート(C)としてVestagon T1890(Degussa社製品)(商品名)を6部、水分を0.2部含む酢酸n−ブチル30部とキシレン30部の混合溶媒を混合させた。温度20℃、に保った部屋に放置し、目視により外観が白濁するまでの日数を観察した。結果を表3に示す。
【0022】
[実施例8〜9]
表3に示した重量部で混合した以外は、実施例7と同様にして目視による外観試験を実施した。結果を表3に示す。
【0023】
[比較例3]
ポリイソシアネート(A−1)を使用しなかったこと以外は、実施例7と同様にして外観を観察した。結果を表3に示す。
【0024】
[実施例10]
ポリイソシアネート(A−1)を4部、ポリイソシアネート(B−1)を36部、紫外線吸収剤としてチヌビン292を0.1部混合し、ポリオールとしてアクリディックA−801(酸価50mgKOH/g、固形分50%、大日本インキ化学工業(株)製、商品名)を使用して表4に示した重量部で配合した。配合液を、厚さ50μmになるようにアプリケーターで塗装し、120℃、30分焼き付けた後に、サンシャインウエザーメーターで耐候性試験を実施した。結果を表4に示す。ただし、光沢保持率は(耐候性試験後の塗膜の光沢)/(初期の塗膜の光沢)×100とする。
【0025】
[比較例4]
チヌビン292を添加しなかったこと以外は、実施例10と同様にして耐候性試験を実施した。結果を表4に示す。
【0026】
[比較例5]
ポリイソシアネート(A−1)とチヌビン292を添加しなかった以外は、実施例10と同様にして耐候性試験を実施した。結果を表4に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に示すように特定のヘキサメチレンジイソシアネート系ビウレットタイプポリイソシアネートとヘキサメチレンジイソシアネート系イソシアヌレートタイプポリイソシアネートを組み合わせることにより、十分な保存安定性と水分に対する安定性の良好な2液型のポリウレタン被覆用組成物が得られる。本発明の被覆用組成物は、ウレタン塗料、接着剤、粘着剤、注型剤などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサメチレンジイソシアネートから得られるビウレット構造を有するポリイソシアネート(A)とヘキサメチレンジイソシアネートから得られるイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート(B)からなる硬化剤であり、(A)/(B)が1/99〜60/40の質量部比であることを特徴とする2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤。
【請求項2】
紫外線吸収剤及び/または光安定剤を全体の0.01〜1.0質量%含有することを特徴とする請求項1記載の2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤。
【請求項3】
イソホロンジイソシアネートから得られるポリイソシアネート(C)を(A)と(B)の合計質量部に対し1〜80質量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の2液型ポリウレタン被覆組成物用硬化剤。

【公開番号】特開2007−169361(P2007−169361A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365967(P2005−365967)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】