説明

2相モータ

【目的】 ロータの磁束の減少を防止し、ステータの磁気抵抗の増大を防止する。
【構成】 軸方向に異方性を有したマグネット1cの上下に上側ロータコア1a、下側ロータコア1bを取り付けてロータ1を構成し、ロータの磁束の減少を防止する。ロータ1の左側に第1のステータ21、右側に第2のステータ22を設け、各ステータ21,22に上側ロータコア1aと対向する上側ステータコア2,4および下側ロータコア1bと対向する下側ステータコア3,5を設ける。コイル8,9を有したヨーク6,7を各ステータにおける上側ステータコア2,4および下側ステータコア3,5の間に設け、ステータコアのアームの長さを短くし、磁気抵抗の増大を防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はカメラのフォーカシングや絞り用動力源に好適に使用される2相モータに関する。
【0002】
【従来の技術】カメラの鏡筒に収納されてフォーカシングや絞りを行う従来の動力源としては、特開昭62−163556号公報に記載されたステッピングモータがある。このステッピングモータにおけるロータはシャフトとシャフトに取り付けられた円筒状のマグネットから構成され、マグネットはラジアル方向に8極が着磁されている。一方、ステータはマグネットに対向する磁極面を有したコ字状の2個のコアより構成される。このコアのアーム部分には巻線が施され、2つの巻線を交互に2相で励磁することにより、ロータが回転するようになっている。なお、従来技術においては、これとほぼ同じ構成で、ロータのマグネットを4極もしくは12極に着磁したモータも知られている。これらのモータにおいては、いずれの場合も着磁がラジアル方向にされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところでカメラの鏡筒に収納できるモータとしては、その径が10mm以下の程度の小型のものに限定される。したがって、ステッピングモータやブラシレスモータにおけるマグネットもその径が10mm以下程度である必要がある。ところが、このような小径のマグネットをラジアル方向に多極着磁する場合においては、マグネットの中心に向かう方向で磁極巾が狭くなるため、磁極が混み合っている。これによりステータの磁極とロータとのギャップに発生する磁束が少なくなる。
【0004】一方、モータの回転位置の分解能を向上させるためには、磁極の数が多い方が望ましいが、反面、磁極数を多くすればする程磁束減少の度合が大きくなって、大きなトルクを出力できなくなる問題がある。また、4極以上の多極のモータでは、ロータ径が小さいため、異方性磁石を使用出来ず、マグネットの特性上でも磁束が低く抑制されることから、トルクが減少する問題がある。さらに、従来のモータでは円柱状のマグネットをラジアル方向に着磁し、その着磁面に対向するようにコ形のステータコアを配置し、このコアのアーム部分に巻線が施されているため、アーム部分が長くなり、これにより磁路の磁気抵抗が増大して、漏れ磁束が発生し易い問題もある。
【0005】本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、ロータの磁束が減少しないと共に、ステータのアーム部分の磁気抵抗も増大することのない構造を有した2相モーターを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明の2相モータは、ロータとロータの−側に配置された第1のステータと、モータの他側に配置された第2のステータと、駆動回路とを備えている。ここでロータは軸方向に磁気異方性を有してシャフトに取り付けられたマグネットと、電気角で180度巾で360度ピッチの6個以上の突極を外周部に有し前記マグネットの上側に取り付けられた上側ロータコアと、この上側ロータコアと同一形状に成形されると共に上側ロータコアの突極と円周方向に電気角で180度ずれた突極を有した状態で前記マグネットの下側に取り付けられた下側ロータコアとより構成される。
【0007】また、ロータの−側に配置される第1のステータは、ロータの上側ロータコアの突極と略同一巾を有した磁極がギャップを介して対向する上側ステータコアと、ロータの下側ロータコアの突極と略同一巾を有した磁極がギャップを介して対向する下側ステータコアと、コイルが巻装されてこれらのステータコアの間に配設されるヨークとにより構成される。ロータの他側に配置される第2のステータは、第1のステータの下側ステータコアと同一形状で且つ当該ステータコアと回転対称位置に配置され、磁極が上側ロータコアの突極と対向する上側ステータコアと、第1のステータの上側ステータコアと同一形状で且つ当該ステータコアと回転対称位置に配置され、磁極が上側ロータコアの突極と対向する上側ステータコアと、前記第1のステータの上側ステータコアと同一形状で且つ当該ステータコアと回転対称位置に配置され、磁極が下側ロータコアの突極と対向する下側ステータコアと、コイルが巻装されてこれらのステータコアの間に配設されるヨークとにより構成される。前記駆動回路は第1のステータのコイルと第2のステータのコイルを90度の位相差で2相で励磁する。
【0008】
【作用】上記構成では軸方向に異方性を有し軸方向に着磁されたマグネットがロータのシャフトに取り付けられており、このマグネットの上部磁極より発生した磁束が上側のロータコアの突極→上側ステータコアの磁極→ヨーク→下側ステータコアの磁極→下側ロータコアの突極を経てマグネットの下部磁極に戻る磁気回路を構成する。この磁気回路において、マグネットを単一方向(軸方向)に着磁すれば良く、エネルギー積の大きい異方性磁石を使用できる。また、マグネットの上下にロータコアを設け、上下のロータコアに対向する磁極面を有したステータコアを上下に配置し、上下のステータコアをヨークで磁気的に持続する構造になっている。このため、ヨーク部分への巻線が可能で、ステータコアのアームの長さが短くなる。さらに、2個のロータコアの突極は上下に別れて円周方向に180度ずらして配置された状態となっており、この状態でマグネットにより異なる極性に磁化されているため、N極とS極がロータの円周方向に交互にならんで配置されている。このような配置では、上下のロータコアに対向する2組のステータコアの磁極を2相の励磁電流で磁化することにより、ロータを回転させることができる。
【0009】
【実施例】図1は本発明の一実施例の2相モータの平面図、図2は図1のシャフト10を通る円弧線AA′における断面図を示す。図1において、1aは上側ロータコアであり、その外周部に6個の突極が等しいピッチで配設されている。この突極の巾は電気角で180°、機械角で30°である。なお、以後の説明においては、全て電気角で表示する。上側ロータコア1aにおける突極と突極の間隔も180°であり、これにより突極のピッチは360°となる。1bはシャフト10に対し、上側ロータコア1aと同軸上に設けられた下側ロータコアである。これらの上側ロータコア1aと下側ロータコア1bは、その形状が同一であるところから珪素鋼板をプレスし、積層する等の手段で作製されるが、これらのコア1a,1bの中心にはシャフト10が挿通している。
【0010】図3および図4は、これらのロータコア1a,1bからなるロータ1の構成を示し、上側ロータコア1aと下側ロータコア1bは円柱状のマグネット1cを挟んだ状態でシャフト10に取り付けられている。マグネット1cは軸方向に磁気異方性を有すると共に、図4R>4に示すように、軸方向に着磁されている。したがって、図3に示すように、上側ロータコア1aの突極は全てN極に、下側ロータコア1bの突極は全てS極に磁化されている。しかも、双方のコア1a、1bの突極は180度位相をずらしてシャフト10に取り付けられているため、シャフトの軸方向からロータを見た場合、N極に磁化された突極とS極に磁化された突極が円周上に交互に配置された状態となる。
【0011】図1および図2において、21はロータ1の左側に配置された第1のステータであり、上側ステータコア2と、下側ステータコア3と上下のステータコア2,3を磁気的に接続するヨーク6と、ヨーク6と巻装されたコイル8より構成される。22はロータ1の右側に配置された第2のステータであり、上側ステータコア4と、下側ステータコア5と、上下のステータコア4,5を磁気的に接続するヨーク7と、ヨーク7に巻装されたコイル9より構成される。なお、図2においては、上側ステータコア2と下側ステータコア5を鎖線で示している。
【0012】本実施例において、第1のステータ21の上側ステータコア2、ヨーク6および下側ステータコア3の組み合わせに対し、第2のステータ22の下側ステータコア5、ヨーク7および上側ステータコア4の組合せはロータ1の中心を通る線BB′(図1参照)に対し、左右に回転対称の位置に配置されている。その場合の回転の中心は図2で示した上下のロータコア1a,1bおよび上下のステータコアの間隔の中点となるC点である。なお、第1のステータ21のコア2,3およびヨーク6と、第2のステータ22のコア4,5およびヨーク7は珪素鋼板をプレスし、積層する等の手段で作製することができる。その場合、第1のステータ21の上側ステータコア2と第2のステータ22の下側ステータコア5は形状が同一であるところから、同一の金型を使用できると共に、第1のステータ21の下側ステータコア3と第2のステータ22の上側ステータコア4も同一形状のため同一の金型を使用できる。
【0013】ステータコア2,3,4および5はそれぞれ狭いギャップを介してロータの突極に対向する磁極2a,3a,4aおよび5aを有する。各磁極の巾はロータの突極の巾とほぼ等しく180度である。そして、磁極2aと磁極4aは上側ロータコア1aの突極と対向し、磁極3aと磁極5aは下側ロータコア1bの突極と対向している。また、第1のステータ21の磁極2aと3aはロータ1を取り巻く同一円周上で3磁極ピッチ(540度)離間している。一方、第2のステータ22の磁極4aと5aも上記した円周上で3磁極ピッチ離間している。さらに、第1のステータ21の磁極2aと第23のステータ22の磁極5aは上記した円周上で2.5磁極ピッチ(450度)離間しており、第1のステータ21の磁極3aと第2のステータ22の磁極4aは上記した円周上で3.5磁極ピッチ(630度)離間している。
【0014】第1および第2のステータ21,22は円弧形状の下側基板12上に組立てられている。またロータ1のシャフト10は下側基板12とほぼ同じ形状でアーム部17を有した上側基板11に設けられた軸受15と下側基板12に設けられた軸受16とにより回転自在に支持されている。
【0015】図5はステータの作製手順を示し、第1のステータ21の上側ステータコア2、コイル8が巻かれたヨーク6、下側ステータコア3はこの順序でそれぞれの部材に設けられた穴を利用してピン13により下側基板12の穴に仮止めされる。このとき、上側ステータコア2と下側ステータコア3はその磁極2a,3aの位置が図1に示す位置に配置されるように治具により位置出しした後、接着、かしめ等の手段でヨーク6と共に下側基板12に固定される。第2のステータ22においても同様に、上側ステータコア4,コイル9の巻かれたヨーク7、下側ステータコア5、下側基板12の順にピン14を通し、磁極4aと5aの位置出し後、下側基板12に固定される。
【0016】次に、本実施例の作動を図6ないし図8により説明する。図7および図8は図示していない駆動回路より第1のステータ21のコイル8と第2のステータ22のコイル9に印加される90度の位相差を有した2相の励磁電圧の波形を示す。この励磁電圧により、コイル8とコイル9には90度位相差の励磁電流が流れて、各磁極がN極またはS極に励磁される。これらの図において、コイル8へ印加される励磁電圧は磁極2aがN極(したがって磁極3aがS極)に励磁される場合を「H」とし、S極に励磁される場合を「L」としている。一方、コイル9へ印加される励磁電圧は磁極4aがN極に励磁される場合を「H」とし、S極に励磁される場合を「L」としている。
【0017】図6は図7において、ロータの位置が0度の場合の各磁極の磁化の状態を示す。このロータの位置において、ロータの突極のN極は、磁極の2aのN極に、また突極のS極は磁極3aのS極に反発するのでロータは時計方向に回転する。この時計方向に回転が開始すると、磁極4aと磁極5aにそれぞれ突極のN極と突極のS極が反発されて同方向への回転が断続する。90度回転した位置で磁極2aと3aは極性が逆になり、磁極4aと5aの極性は変化しない。この状態では磁極4aと5aによりそれぞれ突極のN極とS極が反発され、また磁極2aと3aはそれぞれS極とN極となって、突極のN極およびS極を吸引し、時計方向の回転が継続されている。更に90度回転すると磁極2aと3aの極性は変化せず、磁極4aと5aは極性が反転する。この場合、磁極2aと3aはそれぞれ突極のN極とS極の吸引を継続する。一方、磁極4aと5aはそれぞれ突極のN極とS極を吸引し、時計方向の回転が更に継続する。このように、コイル8に印加される励磁電圧がコイル9に印加される励磁電圧より90度位相が進んでいる場合、ロータ1は励磁電圧の極性の変化に同期して時計方向に回転する。
【0018】図8はロータ1を逆転するために印加する励磁電圧の波形を示す。図8において、コイル8に印加される励磁電圧はコイル9に印加される励磁電圧より90度位相が遅れている。これら図7および図8に示すように、2つのステータのコイル8,9に90度位相の異なる2相の励磁電圧を印加、すなわち、2相の励磁電流を2つのコイル8,9に供給することによりロータ1を時計方向または反時計方向に回転させることができる。
【0019】以上のように、本実施例はロータのマグネットが単一方向(軸方向)に着磁されているので、ラジアル方向に多極着磁する場合のようにマグネットの中心部で磁石が混み合ってギャップの磁束が減少することがない。また、マグネットとしてエネルギー積の大きい異方性磁石を使用できるため、ギャップの磁束を大きくでき、これにより出力トルクが大きくなる。加えて、ロータのマグネットをラジアル方向に多極着磁する場合、磁極数を増すとギャップの磁束密度が減少するのに比べて、本実施例の場合は上下のロータコアの突極が単一の磁極に磁化されているため、突極の数を増加しても、ロータコアの各部の磁束密度はほぼ同じであり、ギャップの磁束密度が減少することがない。さらに、コイルが上下のステータコアの間に配置されるヨークに巻装されているため、ステータコアのアーム部分を短くでき、これにより漏れ磁束が少なくなる。このような本実施例の2相モータはカメラの鏡筒のスペースの形状に合わせた円弧形状の基板上に組み立てられており、ラジアル方向の巾もロータの径にわずかな寸法を付加する程度で良く、従ってカメラの組み込みが容易となっている。
【0020】なお、上記実施例では上側ロータコア10の突極のN極と下側ロータコア1bの突極のS極との間に隙間を有しているが、図9に示すようにこの隙間をなくしても良い。すなわち、同図はロータを上から見た図で、斜線部分で上下のロータコアの突極が重なっているが、これらのロータコアの突極のN極とS極は上下に分離しているので作動上、何らの問題は生じない。また、上記実施例では各ロータコアの突極の数を6個で、合計12個としているが、この突極の数を各ロータコアに対して例えば、12個、合計で24個としても良く、これにより回転の分解能を2倍とすることができる。
【0021】
【発明の効果】以上のとおり本発明の2相モータは、ロータの磁束が減少することがなく、しかもステータの磁気抵抗が増大しないため、カメラの鏡筒に組み込んで良好に作動することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の平面図。
【図2】図1におけるAA′線断面図。
【図3】ロータの平面図。
【図4】ロータの側面図。
【図5】ステータの組み立てを示す分解斜視図。
【図6】作動を示す平面図。
【図7】励磁電圧の波形図。
【図8】励磁電圧の波形図。
【図9】ロータの変形例の平面図。
【符号の説明】
1 ロータ
1a 上側ロータコア
1b 下側ロータコア
2,4 上側ステータコア
3,5 下側ステータコア
6,7 ヨーク
8,9 コイル
10 シャフト
21 第1のステータ
22 第2のステータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸方向に磁気異方性を有してシャフトに取り付けられたマグネットと、電気角で180度巾で360度ピッチの6個以上の突極を外周部に有し前記マグネットの上側に取り付けられた上側ロータコアと、この上側ロータコアと同一形状に成形されると共に、上側ロータコアの突極と円周方向に電気角で180度ずれた突極を有した状態で前記マグネットの下側に取り付けられた下側ロータコアとより構成されたロータと、前記上側ロータコアの突極と略同一巾を有した磁極がギャップを介して対向する上側ステータコアと、前記下側ロータコアの突極と略同一巾を有した磁極がギャップを介して対向する下側ステータコアと、コイルが巻装されてこれらのステータコアの間に配設されるヨークとにより構成され、前記ロータの−側に配置される第1のステータと、この第1のステータの下側ステータコアと同一形状で且つ当該ステータコアと回転対称位置に配置され、磁極が前記上側ロータコアの突極と対向する上側ステータコアと、前記第1のステータの上側ステータコアと同一形状で且つ当該ステータコアと回転対称位置に配置され、磁極が前記下側ロータコアの突極と対向する下側ステータコアと、コイルが巻装されてこれらのステータコアの間に配置されるヨークとにより構成され、前記ロータの他側に配置される第2のステータと、第1のステータのコイルと第2のステータのコイルを90度の位相差で2相に励磁する駆動回路とを備えていることを特徴とする2相モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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