説明

2重被覆光ファイバ及びその形成方法

2重被覆光ファイバ及び2重被覆光ファイバを形成する方法が開示される。2重被覆光ファイバはコア領域及びクラッド層領域を有するガラスファイバ並びにガラスファイバを囲む2重被覆層を有する。2重被覆層は内層被覆及び外層被覆を有する。内層被覆はガラスファイバを囲み、第1のポリイミド材料を含む。一実施形態において第1のポリイミド材料は定着剤も含有する。外層被覆は、内層被覆を囲んで内層被覆と直接に接し、第1のポリイミド材料より高い分解閾温度を有する、第2のポリイミド材料を含む。第2のポリイミド材料は第1のポリイミド材料より大きい弾性率及び第1のポリイミド材料より少ない水分吸収量も有することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2010年2月24日に出願された、米国仮特許出願第61/307484号の優先権の恩典を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、全般的には被覆光ファイバに関し、さらに詳しくは、高温環境及び/または水環境における使用のための被覆光ファイバに関する。
【背景技術】
【0003】
光ファイバは普通、伝送容量が大きく、電磁干渉を受けないことから、またその他の有用な特性により、遠距離通信用途に利用される。近年、光ファイバは、点センシング及び分散センシング用途を含む、センシング用途にも受け入れられるようになっている。例えば、光ファイバは、橋梁、建築物及びその他の公共建造物において歪を測定するために利用されている。光ファイバは、油井及びガス井戸、石油及びガスの採掘プラットフォーム及びパイプラインの温度及び圧力を、また軍用及び商用の宇宙船及び海洋艦船の構造完全性も、測定するためにも用いられている。
【0004】
センシング用途における光ファイバの使用が、高温及び高湿等を含むがこれらには限定されない、さらに一層極端な環境における用途を含むまでに拡張されるにつれて、そのような極端な環境条件に耐え得る被覆を有する代替光ファイバが必要になっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態にしたがえば、被覆光ファイバは、ガラスファイバであって、コア領域、クラッド層領域及び、ガラスファイバを囲む、2重被覆層を有するガラスファイバを含む。2重被覆層は内層被覆及び外層被覆を有する。内層被覆はガラスファイバを囲み、第1のポリイミド材料を含む。外層被覆は内層被覆を囲んで内層被覆に直接に接し、第1のポリイミド材料より高い分解閾温度を有する、第2のポリイミド材料を含む。
【0006】
別の実施形態において、被覆光ファイバを形成する方法は、ガラスファイバを囲む内層被覆を形成するために、ガラスファイバに第1のポリイミド材料を塗布する工程を含む。内層被覆を含むガラスファイバは次いで、内層被覆の第1のポリイミド材料を硬化させるために加熱される。その後、外層被覆を形成するために、第2のポリイミド材料が内層被覆上に直接に塗布される。第2のポリイミド材料は第1のポリイミド材料より高い分解閾温度を有する。内層被覆及び外層被覆を含むガラスファイバは次いで、外層被覆の第2のポリイミド材料を硬化させるために加熱される。
【0007】
別の実施形態において、2重被覆光ファイバはコア領域及びクラッド層領域を有するガラスファイバを含む。2重被覆層がガラスファイバを囲む。2重被覆層は内層被覆及び外層被覆を有する。内層被覆はガラスファイバを含み、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンポリマーのポリアミック酸と有機シラン定着剤の混合物を含む。外層被覆は内層被覆を囲んで内層被覆に直接に接する。外層被覆はs-ビフェニル二無水化物/p-フェニレンジアミン主鎖化学構造に基づくポリマーを含む。
【0008】
本明細書に説明される実施形態のさらなる特徴及び利点は以下の詳細な説明に述べられ、ある程度は、当業者にはその説明から明らかであろうし、あるいは以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を含み、また添付図面も含む、本明細書に説明される実施形態を実施することによって認められるであろう。
【0009】
上述の全般的説明及び以下の詳細な説明のいずれもが様々な実施形態を説明しており、特許請求される主題の本質及び特質を理解するための概要または枠組みの提供が目的とされていることは当然である。添付図面は様々な実施形態のさらに深い理解を提供するために含められ、本明細書に組み入れられて本明細書の一部をなす。図面は本明細書に説明される様々な実施形態を示し、記述とともに、特許請求される主題の原理及び動作の説明に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、本明細書に示され、説明される1つ以上の実施形態にしたがう2重被覆構造を有する光ファイバを簡略に示す。
【図1B】図1Bは、本明細書に示され、説明される1つ以上の実施形態にしたがう2重被覆構造を有する光ファイバを簡略に示す。
【図2】図2は、本明細書に示され、説明される1つ以上の実施形態にしたがう2重被覆構造を有する光ファイバを作製するためのシステムを簡略に示す。
【図3】図3は、本明細書に示され、説明される1つ以上の実施形態にしたがう被覆光ファイバの引っ張り強さへの温度及び時間の効果と比較例の引っ張り強さへの温度及び時間の効果をグラフで示す。
【図4】図4は、本明細書に説明される1つ以上の実施形態にしたがう被覆光ファイバの脱イオン水浴内浸漬前後にとられた画像及び比較例からのファイバの脱イオン水浴内浸漬前後にとられた画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで、それらの例が添付図面に示される、2重被覆光ファイバの実施形態を詳細に参照する。可能であれば必ず、図面を通して同じ参照数字が同じかまたは同様の要素を指して用いられる。2重被覆光ファイバの一実施形態が図1Aに簡略に示される。2重被覆光ファイバは一般に内層被覆及び外層被覆を有する2重被覆層によって囲まれたガラスファイバからなる。内層被覆は第1のポリイミド材料及び、内層被覆とガラスファイバの間の結合を向上させるための、定着剤の混合物を含む。外層被覆は、第1のポリイミド材料より高い分解閾温度を有する、第2のポリイミド材料を含む。2重被覆光ファイバの構造及び組成並びに2重被覆光ファイバの特性は本明細書でさらに詳細に説明されるであろう。
【0012】
図1Aを参照すれば、本明細書に説明される1つ以上の実施形態にしたがう2重被覆光ファイバ10が簡略に示される。2重被覆光ファイバ10は高温及び/または高湿の環境における使用に特に良く適する。2重被覆光ファイバ10は、内層被覆30及び外層被覆40を有する2重被覆層で囲まれたガラスファイバ20を有する。内層被覆30はガラスファイバを囲み、続いて、外層被覆40で囲まれて外層被覆40に直接に接している。図1Aに示される実施形態において、内層被覆30はガラスファイバ20に直接に接している。ガラスファイバ20は、中心線からの半径Rを有し、シリカベースガラスで形成される。半径Rは、約12.5μmから約155μm、さらに好ましくは約125μm未満、さらに一層好ましくは約100μm未満とすることができる。いくつかの実施形態において、半径Rは、約61.5μmから約63.5μm、さらに好ましくは約62μmから約63μmである。別の実施形態においてはガラスファイバの半径Rは約14.5μmから約15.5μmであり、別の実施形態においてはガラスファイバの半径Rは約39μmから約41μmである。また別の実施形態において、ガラスファイバの半径Rは約290μmから約310μmである。
【0013】
ガラスファイバ20は一般にガラスコア領域(図示せず)及び、コア領域を囲む、クラッド層領域(図示せず)を有する。コア領域はガラスファイバ20を通る光の導波を容易にする。いくつかの実施形態において、クラッド層領域はガラスコア領域を囲む1つ以上のガラスクラッド層(図示せず)を有する。ガラスコア領域及び/または(1つまたは複数の)ガラスクラッド層領域は純石英ガラス(すなわち、石英ガラスは純石英ガラスの屈折率を変えるであろういずれのドーパントも実質的に含んでいない)で形成することができ、あるいは石英ガラスの屈折率を高めるドーパント(例えば、ゲルマニウムまたは同様の屈折率上げドーパント)または純石英ガラスの屈折率を低めるドーパント(例えば、フッ素、ホウ素または同様の屈折率下げドーパント)を含む石英ガラスで形成することができる。本明細書に説明される実施形態において、ガラスファイバ20は、2重被覆光ファイバ10が、単一モード、多モード、曲げ不感または高屈折率になるように、あるいは他のいずれかの、所望の光学特性及び/または物理特性を有するように、構成することができる。
【0014】
内層被覆30はガラスファイバ20を囲む。内層被覆30はガラスファイバ20の半径Rから半径Rまで拡がり、よって内層被覆30は径方向厚さT=R−Rを有する。本明細書に説明される実施形態において、内層被覆30の径方向厚さTは約1μmから約10μm、さらに好ましくは約3μmから約7μm、最も好ましくは約4μmから約6μmである。
【0015】
一般に、内層被覆30は外層被覆40の第2のポリイミド材料の分解閾温度より低い分解閾温度を有する第1のポリイミド材料を含む。内層被覆30の第1のポリイミド材料は、外層被覆40の第2のポリイミド材料の弾性率より小さい弾性率及び第2のポリイミド材料の水分吸収量より大きい水分吸収量も有することができる。一実施形態において、第1のポリイミド材料は、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4-オキシジアニリン、フェニレンジアミンまたはこれらの組合せからなる群から選ばれる置換基を含む。例えば、第1のポリイミド材料はベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンのポリアミック酸からなるポリマーを含む。
【0016】
内層被覆での使用に適する市販ポリイミド材料の例は、HD Microsystemsによって製造されたPyralin(登録商標) PI-2574である。Pyralin PI-2574は、硬化後、2.4GPaの弾性率、2〜3%の水分吸収量及び550℃の分解閾温度を有する。しかし、Pyralin PI-2574は内層被覆の第1のポリイミド材料に用いることができる市販ポリイミド材料の一例であり、適する特性を有する他のポリイミド材料も内層被覆の第1のポリイミド材料として用い得ることは当然である。
【0017】
一実施形態において、内層被覆の第1のポリイミド材料は、内層被覆30とガラスファイバ20の間の結合を向上させる、定着剤を含む。例えば、定着剤はアミノ基またはエポキシ基を含む有機シランとすることができる。そのような有機シランの例には、a-アミノプロピルトリメトキシシランのような、アミノシランベース定着剤がある。しかし、異なる官能基を有する他の有機シランも本明細書に説明されるファイバにおいて定着剤として用い得ることは当然である。さらに、ポリマーのガラスへの密着を向上させるに適する他の定着剤も用い得ることも当然である。アミノシランベース定着剤のいくつかの非限定的例には、HD Microsystemsによって製造された定着剤のVM-651及びVM-652がある。
【0018】
いくつかの実施形態において内層被覆30は定着剤を含むポリイミド材料を有するが、他の実施形態において、第1のポリイミド材料がガラスファイバ20の回りに塗布される前に、定着剤を別途にガラスファイバの回りに塗布することができる。別途塗布定着剤は一般に、上述したように、第1のポリイミド材料のシリカガラスと結合できる能力を向上させる材料を含むことができる。例えば、別途塗布定着剤は、アミノ基またはエポキシ基を含む有機シランとすることができる。そのような有機シランの例には、a-アミノプロピルトリメトキシシランのような、アミノシランベース定着剤がある。しかし、異なる官能基を有する他の有機シランも本明細書に説明されるファイバにおいて別途塗布定着剤として用い得ることは当然である。さらに、ポリマーのガラスへの密着を向上させるに適する他の定着剤も用い得ることも当然である。
【0019】
一例において、内層被覆は、HD Microsystemsによって製造されたPyralin PI-2525のようなポリイミド前駆体または同様のポリイミド前駆体材料から形成することができる。本例において、PI-2525ポリイミド前駆体は定着剤を含んでおらず、したがって、ポリイミド材料のガラスファイバへの密着を向上させるため、内層被覆の塗布の前に、いずれもHD Microsystemsによって製造されたVM-651及びVM-652のような、別途塗布アミノシラン定着剤をガラスファイバに塗布することができる。
【0020】
外層被覆40は内層被覆30を囲み、内層被覆30に直接に接している。外層被覆40は内層被覆30の半径Rから半径Rまで拡がり、よって外層被覆40は径方向厚さT=R−Rを有する。本明細書に説明される実施形態において、外層被覆40の径方向厚さTは、好ましくは約5μmから約20μm、さらに好ましくは約7μmから約13μm、最も好ましくは約9μmから約11μmである。
【0021】
外層被覆40は、第1のポリイミド材料の分解閾温度より高い分解閾温度を有する第2のポリイミド材料を含む。本明細書に説明される実施形態において、外層被覆40の第2のポリイミド材料は、好ましくは約550℃より高く、さらに好ましくは約580℃より高く、最も好ましくは約620℃より高い、分解閾温度を有する。さらに、いくつかの実施形態において、第2のポリイミド材料は第1のポリイミド材料の弾性率より大きい弾性率も有する。例えば、第2のポリイミド材料の弾性率は約2.5GPaより大きく、さらに好ましくは約5.0GPaより大きく、最も好ましくは約8.5GPaより大きい。いくつかの実施形態において、第2のポリイミド材料は第1のポリイミド材料の水分吸収量より少ない水分吸収量も有する。例えば、第2のポリイミド材料は、好ましくは約3.0%より少なく、さらに好ましくは約1.5%より少なく、最も好ましくは約0.5%より少ない、水分吸収量を有する。
【0022】
一実施形態において、外層被覆の第2のポリイミド材料は、ビフェニル二無水化物、フェニレンジアミンまたはこれらの組合せからなる群から選ばれる置換基を含む。一実施形態において、第2のポリイミド材料はビフェニル二無水化物/フェニレンジアミン主鎖化学構造に基づくポリマーを含む。例えば、第2のポリイミド材料はs-ビフェニル二無水化物/p-フェニレンジアミン主鎖化学構造を有するポリマーとすることができる。
【0023】
外層被覆としての使用に適する市販ポリイミド材料の例は、HD Microsystemsによって製造されたPI-2611である。PI-2611は、熱硬化後、8.5GPaの弾性率、0.5%の水分吸収量及び620℃の分解閾温度を有する。しかし、PI-2611は外層被覆の第2のポリイミド材料に用いることができる市販ポリイミド材料の一例であり、適する特性を有する他のポリイミド材料も外層被覆の第2のポリイミド材料として用い得ることは当然である。
【0024】
図1Bを参照すれば、別の実施形態の2重被覆光ファイバ11が簡略に示される。本実施形態において、2重被覆光ファイバは内層被覆30によって囲まれたガラスファイバ20を有し、内層被覆30は、続いて、外層被覆40によって囲まれて外層被覆40と直接に接している。2重被覆光ファイバ11のガラスファイバ20,内層被覆30及び外層被覆40の材料及び諸元は、図1Aに示し、上述した、2重被覆光ファイバ10と同じである。しかし、本実施形態においては、ガラスファイバ20と内層被覆30の間に気密被覆25が、ガラスファイバ20及び内層被覆30のいずれにも直接に接するように、配置される。気密被覆25は光ファイバの保全性を向上させる。詳しくは、気密被覆はガラスファイバ20への水分子または水素分子の侵入を防止する保護層としてはたらく。気密被覆25は小コイル径の下での2重被覆光ファイバの布設も容易にする。
【0025】
気密被覆25は、内層被覆30が光ファイバに施される前に、ガラスファイバ20上に被着させることができる。気密被覆25は気相成長(CVD)または他のいずれかの適する技法によって施すことができる。気相被覆が形成される材料には、アルミニウム、金、ニッケルまたは同様の元素金属または合金化金属のような金属及び合金、炭素または炭素の化合物、あるいは、TiO,TiN,Si,SiC,TiCのようなセラミック材料または同様のセラミック材料を含めることができる。本明細書に説明される実施形態において、気密被覆25は非晶質炭素であり、約30nmから約500nmの径方向厚さを有する。
【0026】
さらに、光ファイバが気密被覆を有する実施形態において、気密被覆25の径方向厚さはガラスファイバの半径Rに対してごく僅かである。これらの実施形態において、ガラスファイバの半径Rは気密被覆25の径方向厚さを含む。
【0027】
第1のポリイミド材料の内層被覆及び第1のポリイミド材料より分解閾温度が高い第2のポリイミド材料の外層被覆を有する、本明細書に説明されるように形成された2重被覆光ファイバは長時間にわたり水環境に暴露しても剥離が生じない。さらに、本明細書に説明されるように形成された2重被覆光ファイバは、600℃の高温への216時間の暴露後に、少なくとも100kpsi(6.9×10Pa)、さらに好ましくは200kpsi(1.4×10Pa)より大きく、最も好ましくは300kpsi(2.1×10Pa)より大きい、引っ張り強さを有する。次に図1A及び2を参照して、2重被覆光ファイバを形成する方法を説明する。
【0028】
図1A及び2を参照すれば、被覆光ファイバを作製するためのシステム100の一実施形態が示される。システム100は、光ファイバプリフォーム112を、光ファイバプリフォーム112からガラスファイバ20を線引きできるように、加熱するための線引き炉114を備えることができる。線引き炉は、光ファイバプリフォーム112から線引きされたガラスファイバ20が実質的に垂直な経路(すなわち、図2に示される座標軸のz方向に実質的に平行な経路)に沿って線引き炉を出るように、縦型とすることができる。
【0029】
ガラスファイバ20が線引き炉114を出た後、ガラスファイバ20の直径及びガラスファイバ20に印加される線引き張力を、非接触型センサ118,120を用いて測定することができる。
【0030】
2重被覆光ファイバがガラスファイバ20に接する気密被覆25を有する場合、気密被覆は、ガラスファイバが線引き炉を出た後で、ガラスファイバ20の直径及びガラスファイバに印加される張力の測定の前または後に、ガラスファイバに施すことができる。この実施形態において、ガラスファイバ20は、気密被覆25をガラスファイバ20上に被着させる、CVDシステムのような、気密層被覆形成システム(図示せず)を通して引くことができる。
【0031】
一実施形態において、ガラスファイバ20は必要に応じて、内層被覆30がガラスファイバ20に施される前に、ガラスファイバを冷却する冷却システム122を通して引くことができる。冷却システム122は一般に、冷却システム122に入る前に2重被覆光ファイバ10のガラスファイバ20が周囲温度まで冷えるように、線引き炉114から隔てられる。例えば、線引き炉114と冷却システム122の間隔は、ガラスファイバ20が冷却システム122に入る前に、光ファイバを線引き温度から(例えば約1700℃〜2000℃から)約1300℃まで、さらに好ましくは約1200℃まで、冷却するに十分な間隔とすることができる。ガラスファイバ20が冷却システム122を通って進むにつれて、ファイバは約80℃未満まで、さらに好ましくは約60℃未満まで、冷却される。
【0032】
本明細書では冷却システム及び気密被覆形成システムを、被覆光ファイバを作製するためのシステム100の一部として説明したが、冷却システム及び気密層被覆システムは必要に応じて備えられ、他の実施形態においては冷却システム及び/または気密層被覆システムが無く、ガラスファイバを線引き炉から直接に被覆形成システムに引き得ることは当然である。
【0033】
図1A及び2の参照を続ければ、ガラスファイバ20が冷却システム122を出た後、ガラスファイバ20は、内層被覆30及び外層被覆40がガラスファイバ20に施される、被覆形成システム130に入る。図2に示される実施形態において、被覆形成システム130は、内層被覆30を塗布するための一次被覆形成ダイ132,内層被覆30を硬化させるための一次硬化ユニット134,外層被覆40を塗布するための二次被覆形成ダイ136,及び外層被覆40を硬化させるための二次硬化ユニット138を備える。一次硬化ユニット134及び二次硬化ユニット138はポリイミド材料の硬化に適する熱硬化ユニットである。しかし、内層被覆30がガラスファイバ20に施される前に定着剤がガラスファイバ20に塗布される場合のような、他の実施形態において、被覆形成システム130は、一次被覆形成ダイ132の上流に配置された予備被覆形成ユニット(図示せず)をさらに備えることができる。予備被覆形成ユニットは、ガラスファイバ20が一次被覆形成ダイ132に入る前に、ガラスファイバ20に定着剤を塗布するために用いることができる。
【0034】
ガラスファイバ20が一次被覆形成ダイ132を通過するにつれて、内層被覆30がガラスファイバ20に塗布される。上述したように、内層被覆30は第1のポリイミド材料及び定着材を含み、したがって定着剤が別途にガラスファイバに塗布される必要はない。図2に示される実施形態において、ガラスファイバ20は一次被覆形成ダイ132を出てから一次硬化ユニット134に入る。一次硬化ユニット134は、内層被覆30を硬化させ、第1のポリイミド材料内に存在するいかなる溶剤またはその他の揮発物質も追い出すに適する温度ではたらく。第1のポリイミド材料は外層被覆40が塗布される前に硬化させられるから、本明細書に説明される2重層被覆形成はウエットオンドライ被覆形成系と称することができる。
【0035】
内層被覆30がガラスファイバ20に塗布されて硬化させられた後、ガラスファイバ20は、外層被覆40が内層被覆30に被せてガラスファイバ20に塗布される、二次被覆形成ダイ136を通して引かれる。上述したように、外層被覆40は、第1のポリイミド材料の分解閾温度より高い分解閾温度を有する、第2のポリイミド材料を含む。第2のポリイミド材料は、第1のポリイミド材料より大きい弾性率及び/または第1のポリイミド材料より小さい水分吸収量も有することができる。
【0036】
外層被覆40がガラスファイバ20に塗布された後、ガラスファイバは二次硬化ユニット138を通して引かれる。二次硬化ユニット138は、外層被覆40を硬化させ、第2のポリイミド材料内に存在するいかなる溶剤またはその他の揮発物質も追い出すに適する温度ではたらく。二次硬化ユニット138を出たときの内層被覆30及び外層被覆40を有するガラスファイバ40が、2重被覆光ファイバ10である。
【0037】
2重被覆光ファイバ10が被覆形成システム130を出ると、2重被覆光ファイバ10の直径が非接触型センサ118を用いて再び測定される。その後、2重被覆光ファイバ10の製造中に生じていることがあり得る損傷及び/または傷について2重被覆光ファイバ10を検査するため、非接触型探傷器139が用いられる。ガラスファイバ20が被覆された後の2重被覆光ファイバ10が機械的接触による損傷を受けにくくなっていることは当然である。したがって、以降のプロセス段階(図示せず)においては2重被覆光ファイバ10との機械的接触が許容され得る。
【0038】
図2に示されるように、ファイバ巻取機構140は、2重被覆光ファイバ10がシステム100を通して引かれている間に2重被覆光ファイバ10に印加される所要張力を与えるため、様々な引張機構142及びプーリー141を利用する。したがって、2重被覆光ファイバ10がシステム100を通して引かれる速度をファイバ巻取機構140が制御することは理解されるであろう。2重被覆光ファイバ10の製造完了後、2重被覆光ファイバ10は貯蔵用スプール148上に巻き取られる。
【実施例】
【0039】
本明細書に説明される実施形態は以下の実施例によってさらに明解になるであろう。
【0040】
実施例1
ガラスファイバに内層被覆及び外層被覆を施すことによって2重被覆光ファイバを形成した。ガラスファイバはシリカベースガラスからなり、外径(すなわち2×R)は124.6μmであった。第1のポリイミド材料を含む内層被覆を、内層被覆がガラスファイバと直接に接するように、ガラスファイバに直接に塗布した。熱硬化後の内層被覆の径方向厚さは5.2μmであった。内層被覆はHD Microsystemsによって製造されたPyralin PI-2574で形成した。Pyralin PI-2574材料は、定着剤を含有し、一般に、硬化後、2.4GPaの弾性率、2〜3%の水分吸収量及び550℃の分解閾温度を有する。外層被覆は分解閾温度が第1のポリイミド材料より高い第2のポリイミド材料を含む。外層被覆を内層被覆に直接に塗布し、硬化後の外層被覆の径方向厚さは9.5μmであった。外層被覆はHD Microsystemsによって製造されたPyralin PI-2611で形成した。PI-2611材料は、硬化後、8.5GPaの弾性率、0.5%の水分吸収量及び620℃の分解閾温度を有する。
【0041】
内層被覆層及び外層被覆層を硬化させた後、2重被覆光ファイバを脱イオン水浴に室温で7日間浸漬した。浸漬後、2重被覆光ファイバを脱イオン水浴から取り出して、2重被覆層がファイバから剥離しているか否かを定性的に判定するために目視検査した。浸漬前及び浸漬後の2重被覆光ファイバの画像をそれぞれ図4のC及びDに提示してある。図4のC及びDに示されるように、2重被覆光ファイバは7日間の浸漬期間中に剥離をおこしていない。
【0042】
比較例A
ガラスファイバに直接にポリイミド材料の単層被覆層を塗布することによって単層被覆光ファイバを形成した。ガラスファイバの外径は124.8μmであった。ポリイミド材料には、実施例1で上述したような、HD Microsystemsによって製造されたPI-2611を用いた。硬化後のポリイミド材料の単層被覆層の径方向厚さは13.6μmであった。
【0043】
被覆を硬化させた後、単層被覆光ファイバを脱イオン水浴に室温で7日間浸漬した。浸漬後、単層被覆光ファイバを水浴から取り出して、単層被覆がファイバから剥離しているか否かを定性的に判定するために目視検査した。浸漬前及び浸漬後の単層被覆光ファイバの画像をそれぞれ図4のA及びBに提示してある。図4のA及びBに示されるように、単層ポリイミド被覆は7日間の浸漬期間中に剥離し、図4のBに示されるように被覆層に分解が生じた。
【0044】
実施例2並びに比較例B及びC
実施例2の光ファイバは実施例1で説明したように作製した2重被覆光ファイバである。比較例Bの光ファイバは比較例Aで説明したように作製した単層被覆光ファイバである。比較例Cの光ファイバは定着剤を含有するポリイミド材料の単層被覆層をガラスファイバに直接に塗布することによって形成した単層被覆光ファイバである。ガラスファイバの外径は124.8μmであった。比較例Cのポリイミド材料は、実施例1で上述したような、HD Microsystemsによって製造されたPI-2574である。硬化後のポリイミド材料の単層被覆層の径方向厚さは15.6μmであった。
【0045】
被覆を硬化させた後、実施例2並びに比較例B及びCのそれぞれの光ファイバを、300℃の温度に2〜216時間さらした。様々な継続時間での高温への暴露に続いて、ゲージ長50cmの光ファイバを、相対湿度が50%で温度が22度の制御された環境内で張力試験した。光ファイバを、破損がおこるまで、500mm/分のクロスヘッド速度で引っ張った。張力検査の結果を図3に示す。
【0046】
図3に図式表示されるように、実施例2なたびに比較例B及びCの被覆光ファイバは、高温にさらす前は、約800kpsi(5.5×10Pa)と900kpsi(6.2×10Pa)の引っ張り強さを有する。高温への暴露後、3つの実施例の全ての光ファイバの引っ張り強さは低下した。しかし、比較例Cの被覆光ファイバの引っ張り強さは72時間に満たない高温への暴露後にゼロまで低下したが、実施例2及び比較例Bの被覆光ファイバの引っ張り強さは同じ時間内で半分までは低下していない。144時間の暴露後、実施例2の被覆光ファイバの引っ張り強さは比較例Bの被覆光ファイバより低くならず、216時間の暴露後の実施例2の光ファイバの引っ張り強さは300kpsi(2.1×10Pa)より高かった。
【0047】
実施例1〜2及び比較例A〜Cの結果は、本明細書に説明される実施形態にしたがって作製された2重被覆光ファイバが同様の材料で構成された単層被覆光ファイバに対して向上した性能特性を有することを示す。詳しくは、第1のポリイミド材料の内層被覆及び分解閾温度が第1のポリイミド材料より高い第2のポリイミド材料の外層被覆によって形成された2重被覆光ファイバは長時間にわたる水中浸漬後に剥離が生じないと判定された。しかし、単層の第2のポリイミド材料によって形成された被覆光ファイバは長時間の水中浸漬後に剥離が生じた。
【0048】
同様に、高温への暴露後の2重被覆光ファイバの引っ張り強さは単層の第1のポリイミド材料で被覆された光ファイバの引っ張り強さほど暴露時間に関して急速には低下しないと判定された。さらに、300℃の高温への144時間の暴露後、2重被覆光ファイバの引っ張り強さは単層の第2のポリイミド材料で被覆された光ファイバの引っ張り強さ以上であるとも判定された。
【0049】
特許請求される主題の精神及び範囲を逸脱することなく、本明細書に説明される実施形態に様々な改変及び変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、本明細書に説明される様々な改変及び変形が添付される特許請求項及びそれらの等価形態の範囲内に入れば、本明細書はそのような改変及び変形を包含するとされる。
【符号の説明】
【0050】
10,11 2重被覆光ファイバ
20 ガラスファイバ
25 気密被覆
30 内層被覆
40 外層被覆
100 被覆光ファイバ作製システム
112 ガラスファイバプリフォーム
114 線引き炉
118,120 非接触型センサ
122 冷却システム
130 被覆形成システム
132 一次被覆形成ダイ
134 一次硬化ユニット
136 二次被覆形成ダイ
138 二次硬化ユニット
139 非接触型探傷器
140 巻取機構
141 プーリー
142 引張機構
148 貯蔵用スプール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2重被覆光ファイバにおいて、
コア領域及びクラッド層領域を有するガラスファイバ、及び
前記ガラスファイバを囲む2重被覆層であって、
前記ガラスファイバを囲む内層被覆であり、第1のポリイミド材料を含む内層被覆と、
前記内層被覆を囲んで前記内層被覆に直接に接する外層被覆であり、前記第1のポリイミド材料より高い分解閾温度を有する第2のポリイミド材料を含む外層被覆と、
を有する2重被覆層、
を備えることを特徴とする2重被覆光ファイバ。
【請求項2】
2重被覆光ファイバにおいて、
コア領域及びクラッド層領域を有するガラスファイバ、及び
前記ガラスファイバを囲んで前記ガラスファイバと直接に接する2重被覆層、
を備え、前記2重被覆層が、
前記ガラスファイバを囲む内層被覆であって、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンポリマーのポリアミック酸と有機シラン定着剤の混合物を含む内層被覆と、
前記内層被覆を囲んで前記内層被覆に直接に接する外層被覆であって、s-ビフェニル二無水化物/p-フェニレンジアミンポリマーを含む外層被覆と、
を有することを特徴とする2重被覆光ファイバ。
【請求項3】
二重被覆光ファイバを形成する方法において、
ガラスファイバに、前記ガラスファイバを囲む内層被覆を形成するため、第1のポリイミド材料を塗布する工程、
前記第1のポリイミド材料を硬化させるため、前記内層被覆を有する前記ガラスファイバを加熱する工程、
外層被覆を形成するため、前記内層被覆上に直接に第2のポリイミド材料を塗布する工程であって、前記第2のポリイミド材料は前記第1のポリイミド材料より高い分解閾温度を有するものである工程、及び
前記第2のポリイミド材料を硬化させるため、前記内層被覆及び前記外層被覆を有する前記ガラスファイバを加熱する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記第1のポリイミド材料がベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンポリマーのポリアミック酸を含み、前記第2のポリイミド材料がビフェニル二無水化物/フェニレンジアミンに基づくポリマーを含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−520710(P2013−520710A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555047(P2012−555047)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2011/025216
【国際公開番号】WO2011/106231
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】