説明

2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法

【課題】工業的規模での製造に適した2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】フェニルアセチルクロリドを塩素(Cl2)と反応させ、2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを得る。次いで、得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と反応させ、2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを得る。次いで得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを、アルコールと反応させ、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の重要中間体である、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬の活性の強化、副作用の軽減などを目的として特定部位にフッ素原子を導入する手法は新薬開発では多く用いられており、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルならびその誘導体は特異的な薬効が期待できる医薬中間体化合物である。
【0003】
従来の2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法としては、非特許文献1に、フェニル基の隣接部位にカルボニル基を持つ化合物に、フッ素化剤であるジメチルアミノサルファートリフルオリド(DAST)を反応させる方法(スキーム1)がある。
【0004】
【化6】

【0005】
特許文献1にはジフェニルセレニドと1−ブロモ−2,2−ジフルオロアセト酢酸エステルを反応させた後、得られたα、α−ジフルオロ−α−フェニルセレノ酢酸エステルを光照射させる方法(スキーム2)がある。
【0006】
【化7】

【0007】
また、非特許文献2にはN−フルオロベンゼンスルホンイミド(NFBS)などのフッ素化試薬により求核的にフッ素化させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−145913号公報
【非特許文献1】M.Hudlicky,Org.Reac.,21,1988,513.
【非特許文献2】横松 力,渋谷 皓,有機合成化学協会誌,Vol.60 NO.8 2002,12.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1の方法は、DASTを用いた方法であるが、反応を良好に進める為には大過剰に使用する必要がある。更に非常に高価で、かつDAST自体、爆発性があることから、大量の取り扱いが非常に危険である。
【0009】
特許文献1の方法は、光照射により該目的物を得る方法であり、室温でも容易に進行することからも、非常に有用な方法である。しかしながら、原料のジフェニルセレニドが非常に高価であることや、さらにラジカル反応を必要とする為、工業的な製造という点でいくぶん難があった。
【0010】
また、非特許文献2の方法は、NFBSによる方法はNFBSが高価であること、また反応を−78℃で行なう必要があることから、大量合成には幾分不向きであった。
【0011】
これらのことから、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造に関して、該目的物を工業的規模で、かつ製造コスト、安全性、簡便性において有利である製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、安価なフェニルアセチルクロリドを出発物質とし、安価かつ安定な原料物質を用い、これを短工程で非常に高選択率、高収率にて上記課題が解決することを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明の製造方法は、以下の工程からなる、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法である。
【0014】
第1工程:式[1]で表されるフェニルアセチルクロリド
【0015】
【化8】

【0016】
を塩素(Cl2)と反応させ、式[2]で表される2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリド
【0017】
【化9】

【0018】
を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と反応させ、式[3]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド
【0019】
【化10】

【0020】
を得る工程。
第3工程:第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを、式[4]で表されるアルコール
【0021】
【化11】

【0022】
(式中、nは炭素数1〜10の整数を表す。)
と反応させ、式[5]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステル
【0023】
【化12】

【0024】
(式中、nは前記に同じ。)
を得る工程。
【0025】
本発明者らは、フェニルアセチルクロリドを塩素(Cl2)と反応させると、(例えば、95%以上の選択率で、さらに90%以上の収率で)2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドが得られる(第1工程)という知見を得た。
【0026】
さらに、得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセト酢酸エステルに対し、液相でフッ化水素(HF)と反応させたところ、2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドが効率良く(例えば、85%以上の選択率で)得られる(第2工程)ことがわかった。
【0027】
また、得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドを、アルコール(詳細は後述するが、例えばエタノールなど)と反応させることで、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルが収率良く(例えば、90%以上の選択率で、蒸留精製後でも78%以上の収率で)得られる(第3工程)ことがわかった。
【0028】
本発明者らはさらに、上記第1工程、第2工程、第3工程の各工程が、ある特定の条件及び操作によって特に好ましく達成できる知見も見出した。
【0029】
本発明者らはまた、本研究を通じて、簡便な方法を展開させることで、従来の2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法と比べ、安価かつ容易に供給することが可能となった。該目的物を工業的規模で効率良く製造する上で非常に優れた方法である。
【0030】
すなわち本発明は、以下の[発明1]〜[発明5]に記載する、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法である。
[発明1]次の3工程からなる、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法。
第1工程:式[1]で表されるフェニルアセチルクロリドを塩素(Cl2)と反応させ、式[2]で表される2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを得る工程。
第2工程:第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と反応させ、式[3]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを得る工程。
第3工程:第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを、式[4]で表されるアルコールと反応させ、式[5]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルを得る工程。
[発明2]
第3工程の式[3]で表されるアルコールがメタノール、エタノール、またはプロパノールである、発明1に記載の方法。
[発明3]
第2工程の2,2−ジクロロ−フェニルアセト酢酸エステルとフッ化水素(HF)との反応を、無溶媒で行うことを特徴とする、発明1又は2に記載の方法。
[発明4]
第1工程後に得られた化合物を、精製せずにそのまま第2工程に用いることを特徴とする、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
[発明5]
第2工程後に得られた化合物を、精製せずにそのまま第3工程に用いることを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、工業的に入手が容易なフェニルアセチルクロリドを原料として、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルを従来よりも安価で、高選択率かつ高収率で、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明では式[1]で表されるフェニルアセチルクロリドを塩素(Cl2)と反応させ、式[2]で表される2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを得(第1工程)、第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを、液相でフッ化水素(HF)と反応させ、式[3]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを得(第2工程)、第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを、式[4]で表されるアルコールと反応させ、式[5]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルを得る(第3工程)工程によってなる。
【0033】
なお、本発明の出発原料である、式[1]で表されるフェニルアセチルクロリドについては、従来公知の方法により、当業者が容易に製造することができる。また、市販されたものを用いることもできる。
【0034】
以下、第1工程について説明する。第1工程は、フェニルアセチルクロリドを塩素(Cl2)と反応させ、2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを得る工程である。
【0035】
反応容器としてはガラス、またはガラス、フッ素樹脂などでライニングされた反応容器が好適に採用される。一方、ステンレス鋼、鉄などが内壁となっている反応容器の場合、金属が塩化物に変換され(例えば鉄(Fe)の場合、塩化鉄(III)FeCl3)、これがルイス酸触媒となりフリーデル−クラフツ型の副反応を起こし、ベンゼン核(フェニル基)に塩素原子(Cl)が直接結合した化合物が生成しやすくなるので、好ましくない。
【0036】
本工程において、塩素を加える方法は特に限定されず、流通系またはバッチ式あるいは半バッチ式で行うことができる。例を挙げれば、予め反応容器に仕込まれたフェニルアセチルクロリドに塩素ガスを吹き込むことで反応を行うのが一般的であり、好適に採用される。反応に伴い発生する塩化水素(HCl)ガスは、未反応の塩素ガスとともに、反応領域から排出させ、水、アルカリ性水溶液などでトラップすることができる。
【0037】
本反応を進行させるためには反応温度を160℃以上にすることで、系内にラジカルを発生させ行なわれる。通常、反応温度は100℃〜300℃であり、130〜250℃が好ましく、150〜220℃がより好ましい。100℃未満では系内に水が溜まり触媒を失活させ反応は殆ど進まず、300℃を超えると分解などにより反応収率が低下するので好ましくない。
【0038】
反応に使用する塩素量はフェニルアセチルクロリド1モルに対し2モル以上であればよいが、おおよそ2〜4モル程度であり、反応装置あるいは反応操作を最適化することで2〜3モル程度とすることができる。最適化は反応条件を設定するとともに、塩素化反応が気−液接触反応であることから、接触効率を高めるための慣用の手段、例えば、ガスの導入速度の調節、撹拌装置、ガス吹き込み装置、スパージャーなどの使用、または多段塩素化反応装置による方法を適宜採用することは有効である。
【0039】
本工程の塩素化反応における反応圧力は反応に殆ど影響を及ぼさないので特に加圧することは必要がなく、通常0.05〜1MPa(絶対圧。以下、本明細書において同じ。)であり、0.1〜0.3MPaで行うことができる。
【0040】
また、本工程は、溶媒の存在下で行うこともできる。溶媒を用いる場合、使用される溶媒としては原料および生成物を溶解することができ、塩素化反応で不活性な溶媒であり、さらに生成物と充分な沸点差を有することが好ましく、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、o−、m−、p−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、モノブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−ジクロロベンゾトリフルオリド、3,4,5−トリクロロベンゾトリフルオリドまたはビストリフルオロメチルベンゼンなどが挙げられる。
【0041】
しかしながら、反応原料のフェニルアセチルクロリドは液体であり、また、生成物の2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドも反応条件下において液体であり、かつ塩素を十分に溶解させ、溶媒の役割を兼ねるので、敢えて別途溶媒を使用する必要はなく、その方が工業的にも負荷がかからず、また経済的にも好ましい。
【0042】
本反応を進行させるためにはラジカル開始剤、例えば、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、(1−フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソブチル酸ジメチル、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ドデカノイル、過酸化ジラウロイル、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチル−クミル−パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化物などのラジカル開始剤、赤燐、五塩化燐、三塩化燐、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルなどの燐化合物などを使用することができ、また、光を照射することでも行うことでも可能である。さらにこれらのラジカル開始の手法を適宜組み合わせて用いても良い。
【0043】
ラジカル開始剤を用いる場合、ラジカル開始剤は通常、原料1モルに対して0.0001〜1mol添加するが、0.001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.05モルがより好ましい。ラジカル開始剤は反応の進行状況を観察して、適宜追加することもできる。ラジカル開始剤の量が原料1モルに対して0.0001モル未満では反応が途中で停止しやすく、収率が低下する恐れがあるため好ましくなく、1モルを超えると経済的に好ましくない。また、ラジカル開始剤は必要に応じて、反応の途中で追加することもできる。
【0044】
光照射を行う場合、その光源は高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、各種ハロゲン灯、タングステンランプ、発光ダイオード等からなる群より選ばれる少なくとも一種であるが、これらのうち高圧水銀ランプ、タングステンランプが好ましい。
【0045】
しかしながら、本塩素化反応の実施に際して、上述したラジカル開始剤を添加、又は光を照射しなくても、高温(概ね160℃以上)に加熱することで、それらを用いたのと同様の反応を起こすことも可能である(系内にラジカルが発生しているものと推定される)ことから、操作上の簡便さ、反応の選択性などを考慮すると、ラジカル開始剤等を必要とするメリットは少ない。
【0046】
本工程は、目的物である2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドの他に、別の部位に塩素原子が置換した位置異性体(詳細は後述の実施例参照)や、他の化合物を含む混合物が得られることがある(スキーム3)。
【0047】
【化13】

【0048】
この時点(第1工程)で精製することも可能ではあるが、これら位置異性体は沸点が近いために、蒸留などの精製操作で分離することが非常に困難であり、製造的にも精製操作は非常に負荷がかかる。そこで本発明者らは、一般的に分離が非常に困難であるこれらの混合物を、この第1工程の時点で精製操作をせずに、第1工程で得られた混合物のまま、後述する次の第2工程における出発原料として使用することでも、第2工程を高い選択率で良好に進行する知見を得た。
【0049】
このことからも、反応後得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドは、精製をせずにそのまま第2工程(フッ素化)の原料として使用することは、生産性という観点からも好ましい態様である。
【0050】
以下、第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得られた2,2−ジクロロフェニルアセチルクロリドを、液相でフッ化水素(HF)と反応させ、式[3]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを得る工程である。
【0051】
反応容器としては、モネル、ハステロイ、ニッケルまたはこれらの金属やポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロポリエーテル樹脂などのフッ素樹脂でライニングされた耐圧反応容器中で攪拌機を使用して行われ、バッチ式反応、連続式反応または半連続式反応の形式が採られる。
【0052】
液相フッ素化反応で慣用される金属ハロゲン化物、例えば、五塩化アンチモン、四塩化スズなどを触媒として使用することもできるが、無触媒でもよい。
【0053】
無触媒の場合、反応温度は通常40〜80℃であり、50〜70℃が好ましい。40℃未満では反応が遅く、80℃を超えるとタール化が起こり、2,2−ジフルオロフェニルアセチルフロリドの収率、純度を低下させるので好ましくない。例えば、本実施例において55℃で反応を行うことは、特に好ましい態様の一つである。
【0054】
本工程におけるフッ素化反応は可逆的であり、反応の進行は平衡に依存するので副生する塩化水素が過剰に存在するとフッ素化が進まなくなるので、反応圧力を調整しながら系内の塩化水素を系外に排気させる必要がある。反応圧力は通常0.2MPa〜1.0MPaで、好ましくは0.4MPa〜0.8MPaで調整することが好ましい。
【0055】
フッ化水素量は、2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリド1モルに対し通常は8〜30モル、好ましくは10〜25モルを、さらに好ましくは15〜23モルを使用する。8モル未満だと収率が低下するので好ましくなく、また30モルを超えて用いると、反応性の上では問題ないが、フッ化水素の量が増えることにより生産性を悪くするなどの工業的な問題が生じるので好ましくない。
【0056】
本工程では、不活性な溶媒を使用することもできる。溶媒としては、例えば、トルエン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼンなどが挙げられる。しかし、本工程の原料、生成物ともに液体であり、溶媒が存在しなくとも反応は円滑に進むので、経済性、操作性の観点から、無溶媒の方が好ましい。
【0057】
本工程のフッ素化反応については、該目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドの他に、フッ素原子が2つのみ導入された2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドが生成することがある。この混合物から酸処理操作や有機溶媒による洗浄、再結晶、カラム精製等の精製手段を用いても、該目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドのみを選択的に得るのが非常に困難である。
【0058】
また、前第1工程後で精製操作をせずに本工程の原料として用いた場合、第1工程後の位置異性体を含む混合物(前述スキーム3参照)、又はそれ自身が本工程にてフッ素化反応を受けた化合物も随伴することがある。
【0059】
本工程で生成したこれら不純物についてはカラムクロマトグラフィー等の精製処理により分離することもできるが、工業的にも煩雑な操作を必要とする。そこで、後述する次の第3工程においてもこれら不純物を蒸留操作で簡便に精製することが可能となることから、分離操作への工程が削減でき、生産性が向上するという本工程の利点を生かすためにも、第2工程終了後の反応混合物は敢えて精製せずに、そのまま第3工程(エステル化反応)の原料として使用する方が好ましい。
【0060】
得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドは通常の方法で処理される。すなわち、未反応のフッ化水素を分離除去した後、水で洗浄を行い、塩化カルシウムでフッ化水素、水分を系内から除去する。水又はアルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)での洗浄を行い、フッ化水素を系内から除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することもできる。
【0061】
次に、第3工程について説明する。第3工程は、第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを、式[4]で表されるアルコールと反応させ、式[5]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルを得る工程である。
【0062】
本工程で用いられる、式[4]で表されるアルコールは、炭素数1〜10の直鎖、分岐鎖、あるいは環状のアルキル基が挙げられる。
【0063】
この中で、炭素数1〜6の直鎖、分岐鎖、あるいは環状のアルコールが、生成物の有用性や、共存させることの効果が特に顕著であることから好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖、分岐鎖、あるいは環状のアルコールである。
【0064】
具体的には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等を挙げることができるが、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、さらに好ましくはメタノール、エタノールである。
【0065】
本工程の反応は、無溶媒で行っても溶媒中で行ってもよい。溶媒を使用する場合、溶媒としては、反応基質そのものを使用できる他、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジンなどの第三アミン類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)などの酸アミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホランなどの含硫黄化合物等が使用することができる。本発明においては上述したように、反応試剤としてアルコールを使用しており、これらが溶媒としても機能できることから、通常は特に他の溶媒を使用する必要はない。
【0066】
溶媒の使用量としては、2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドに対して通常1倍容量〜10倍容量、好ましくは1〜6倍容量の範囲、より好ましくは2〜4倍容量の範囲から適宜選択される。
【0067】
本工程は、塩基の存在下で行っても良い。塩基を用いる場合、水に1mol・dm-3の濃度で溶解したときのpHが8以上となる強度を有するものが好ましい。使用する塩基は無機塩基及び有機塩基、共に制限はない。塩基として無機塩基を用いる場合、具体的にはアンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどが使用できる。これらのうち、反応が円滑に進行することから、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムが好ましい。塩基として有機塩基を用いる場合、具体的には有機塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,5−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,3,4−コリジン、2,4,5−コリジン、2,5,6−コリジン、2,4,6−コリジン、3,4,5−コリジン、3,5,6−コリジン等が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、ピリジン、2,3−ルチジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,4−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジンおよび3,5,6−コリジンが好ましく、特にトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジンおよび2,4,6−コリジンがより好ましい。塩基の量は、2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドの1モルに対して通常等モル以上であるが、1〜2倍モルが好ましく、1〜1.5倍モルがより好ましい。
【0068】
本工程では、エステル化反応でもあるが、反応するにつれて、フッ化水素(HF)ガスが発生する。この発生するフッ化水素は通常、反応系内に共存している塩基などを用いて中和させることが多いが、本工程では窒素など不活性ガスを用いてフッ化水素を系外から除去させながら反応させることも可能である。これにより、塩基を特に必要としなくても、良好に反応が進行することが可能である知見を得た。不活性ガスとしては、窒素(N2)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などが挙げられる。
【0069】
また、本工程の出発原料である2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドの他に、フッ素原子が2つ導入された2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドが含まれている場合は、反応するにつれて、フッ化水素の他に塩化水素(HCl)ガスが発生することになるが、塩化水素に関しても前述した方法で除去することも可能である。
【0070】
本工程の反応温度に特別に制限はないが、好ましくは0〜220℃で、さらに好ましくは50〜120℃である。0℃未満であると反応が遅い。一方、120℃を超えると、副生物が生じやすく、また過剰な加熱はエネルギー効率が悪く、経済性の面からも好ましくない。この範囲より低い温度の場合には、反応が充分に進行せず、収率低下の原因となり、経済的に不利となる、あるいは、反応速度が低下して反応終了までに長時間を要するなどの問題を生ずる場合があり、好ましくない。また、反応時間は1〜48時間が好ましい。
【0071】
反応で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルは通常の方法で処理される。すなわち、水、酸性水溶液(塩酸水溶液)での洗浄を行い、エチルアルコール、塩、塩基を除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することで、式[5]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルが得られる。
【0072】
2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの精製操作として、蒸留することができる。蒸留を行う場合には、常圧(0.1MPa)でも良いが、減圧条件にすることが好ましい。通常、前記の後処理によってフッ化水素を除去したものを用いる。この場合、蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留等中には、充填剤を詰めることもできる。蒸留は、減圧条件下で行うと、比較的低い温度で達成できるため、簡便であり、好ましい。この蒸留に要求される蒸留搭の段数に制限はないが、5〜100段が好ましく、さらに好ましくは10〜50段である。
【0073】
本蒸留操作によって、無色透明の2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルを高純度で得られる。
【0074】
なお、本工程は、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの他に、本工程の出発原料に含有していた、第1工程及び第2工程由来の混合物が不純物、もしくは第1工程及び第2工程由来の混合物が本工程によりエステル化された化合物が不純物として随伴することがある(後述の実施例参照)。そこで本工程において蒸留操作を行うことにより、容易に分離できることから、前工程における精製操作に手間をかけずに容易に該目的物を高純度かつ高収率で供給することが可能である。該目的物を工業的規模で製造する上で非常に優れた方法である。
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(GC。特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【実施例1】
【0076】
(第1工程:塩素化)
ジムロ−ト管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコにフェニルアセチルクロリド:154.5g(1.0mol)仕込み、攪拌しながら内温を160℃に昇温し、塩素ガスを約0.5mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を160℃に保ちながら、塩素ガスを6時間供給した。その結果、反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドが97.6%(選択率)であった。その他の副生成物として、過塩素化体である2,2−ジクロロ−(2−クロロ−フェニル)アセチルクロリド及び2,2−ジクロロ−(3−クロロ−フェニル)アセチルクロリド及び2,2−ジクロロ−(4−クロロ−フェニル)アセチルクロリドの合計が1.8%、ベンゾイルクロリドが0.2%であった。反応液の重量は223.5gであった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く第2工程(フッ素化)に使用した。
(第2工程:フッ素化)
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1L耐圧反応容器に、第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリド:217.0g(0.97mol)及び無水フッ化水素:388.4g(19.4mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を85℃に昇温し、反応を開始した。内圧が0.7MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら、3時間反応した。3時間後の反応液の組成は、ガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリが88.0%(選択率)であった。その他に2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドが0.4%であった。反応終了後、窒素で押出しながら無水フッ化水素を排気した。無水フッ化水素を排気して得られた反応液の重量は141.9gであった。この反応液(フッ素化混合物)は精製することなく、続く第3工程(エステル化)に使用した。
(第3工程:エステル化)
ジムロート冷却管、温度計および滴下ロートを備えた1000ml四つ口フラスコにエタノール:75.4g(1.64mol)及びピリジン:96.5g(1.22mol)および滴下ロートに第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド:141.9g(0.82mol)を仕込み、攪拌しながら内温を8℃に冷却した。滴下ロートより2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドの滴下を開始し、反応を開始した。内温を30℃以下に保ちながら、2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド:141.0gを30分掛けて滴下した。2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド滴下終了後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルが96.0%(選択率)であった。その他に2−クロロ−2−フルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルが0.1%であった。
【0077】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄1回、10%−HCl洗浄1回した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は114.3であった。
【0078】
得られた反応液を、Dixonパッキン(Dixon packing)を充填した45cmの蒸留塔で蒸留精製した。この蒸留によって1733Pa、温度96℃の留分を分取したところ、純度99.7%の目的物が85.3得られた。原料のフェニルアセチルクロリドからの総合収率は44.6%であった。
【実施例2】
【0079】
(第1工程:塩素化)
ジムロ−ト管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコにフェニルアセチルクロリド:154.5g(1.0mol)仕込み、攪拌しながら内温を180℃に昇温し、塩素ガスを約0.5mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を180℃に保ちながら、塩素ガスを5時間供給した。その結果、反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドが96.3%(選択率)であった。その他の副生成物として、過塩素化体である2,2−ジクロロ−(2−クロロ−フェニル)アセチルクロリド及び2,2−ジクロロ−(3−クロロ−フェニル)アセチルクロリド及び2,2−ジクロロ−(4−クロロ−フェニル)アセチルクロリドの合計が2.3%、ベンゾイルクロリドが0.3%であった。反応液の重量は221.5gであった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く第2工程(フッ素化)に使用した。
(第2工程:フッ素化)
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1L耐圧反応容器に、第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリド:217.0g(0.97mol)及び無水フッ化水素:388.4g(19.4mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を75℃に昇温し、反応を開始した。内圧が0.6MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら、7時間反応した。7時間後の反応液の組成は、ガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドが84.3%(選択率)であった。その他に2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドが4.7%であった。反応終了後、窒素で押出しながら無水フッ化水素を排気した。無水フッ化水素を排気して得られた反応液の重量は132.2gであった。この反応液(フッ素化混合物)は精製することなく、続く第3工程(エステル化)に使用した。
(第3工程:エステル化)
ジムロート冷却管、温度計および滴下ロートを備えた1000ml四つ口フラスコにエタノール:139.8g(3.04mol)及び炭酸カリウム:78.8g(0.57mol)および滴下ロートに第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド:132.2g(0.76mol)を仕込み、攪拌しながら内温を9℃に冷却した。滴下ロートより2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドの滴下を開始し、反応を開始した。内温を30℃以下に保ちながら、2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド:132.2gを1時間掛けて滴下した。2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド滴下終了後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルが93.8%(選択率)であった。その他に2−クロロ−2−フルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルが1.9%であった。
【0080】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄1回、10%−HCl洗浄1回した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は104.7gであった。
【0081】
得られた反応液を、Dixonパッキン(Dixon packing)を充填した45cmの蒸留塔で蒸留精製した。この蒸留によって1733〜1467Pa、温度93℃の留分を分取したところ、純度99.4%の目的物が75.9得られた。原料のフェニルアセチルクロリドからの総合収率は39.6%であった。
【実施例3】
【0082】
(第1工程:塩素化)
ジムロ−ト管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコにフェニルアセチルクロライド:154.5g(1.0mol)仕込み、攪拌しながら内温を200℃に昇温し、塩素ガスを約0.5mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を200℃に保ちながら、塩素ガスを4.5時間供給した。その結果、反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドが91.1%(選択率)であった。その他の副生成物として、過塩素化体である2,2−ジクロロ−(1−クロロ−フェニル)アセチルクロライド及び2,2−ジクロロ−(2−クロロ−フェニル)アセチルクロライド及び2,2−ジクロロ−(3−クロロ−フェニル)アセチルクロライドの合計が4.1%、ベンゾイルクロライドが0.1%であった。反応液の重量は213.5gであった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く第2工程(フッ素化)に使用した。
(第2工程:フッ素化)
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1L耐圧反応容器に、第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリド:210.0g(0.94mol)及び無水フッ化水素:375.8g(18.8mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を75℃に昇温し、反応を開始した。内圧が0.6MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら、7時間反応した。7時間後の反応液の組成は、ガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドが84.3%(選択率)であった。その他に2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルクロリドが4.7%であった。反応終了後、窒素で押出しながら無水フッ化水素を排気した。無水フッ化水素を排気して得られた反応液の重量は132.2gであった。この反応液(フッ素化混合物)は精製することなく、続く第3工程(エステル化)に使用した。
(第3工程:エステル化)
ジムロート冷却管、温度計および滴下ロートを備えた1000ml四つ口フラスコにエタノール:138.0g(3.00mol)及びトリエチルアミン:113.1g(1.12mol)および滴下ロートに第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド:130.0g(0.75mol)を仕込み、攪拌しながら内温を9℃に冷却した。滴下ロートより2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドの滴下を開始し、反応を開始した。内温を30℃以下に保ちながら、2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド:130.0gを30分掛けて滴下した。2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド滴下終了後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルが96.0%(選択率)であった。その他に2−クロロ−2−フルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルが0.1%であった。
【0083】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄1回、10%−HCl洗浄1回した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は104.5であった。
【0084】
得られた反応液を、Dixonパッキン(Dixon packing)を充填した45cmの蒸留塔で蒸留精製した。この蒸留によって1733Pa、温度96℃の留分を分取したところ、純度99.7%の目的物が78.0g得られた。原料のフェニルアセチルクロリドからの総合収率は39.0%であった。
〈2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドの物性データ〉
1H−NMR(基準物質:TMS,溶媒:CDCl3)δ(ppm):7.58(mlut,1H).
GC−MS m/z(rel.intensity):222(M+,0.8)、163(10.4)、161(63.6)、159(100.0)、124(10.5)、89(27.1)、63(14.8).
〈2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドの物性データ〉
GC−MS m/z(rel.intensity):174(M+,26.7)、127(10.4)、77(25.2).
〈2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エチルエステルの物性データ〉
1H−NMR(基準物質:TMS,溶媒:CDCl3)δ(ppm):7.51(mlut、1H)、4.29(q、7.13、2H)、1.29(t、7.13、3H).
19F−NMR(基準物質:CCl3F,溶媒:CDCl3)δ(ppm):−104.34(s、2F).
GC−MS m/z(rel.intensity):200(M+、8.0)、127(100.0)107(2.0)、77(9.5).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の3工程からなる、2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステルの製造方法。
第1工程:式[1]で表されるフェニルアセチルクロリド
【化1】


を塩素(Cl2)と反応させ、式[2]で表される2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリド
【化2】

を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた2,2−ジクロロ−フェニルアセチルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と反応させ、式[3]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリド
【化3】

を得る工程。
第3工程:第2工程で得られた2,2−ジフルオロ−フェニルアセチルフロリドを、式[4]で表されるアルコール
【化4】

(式中、nは炭素数1〜10の整数を表す。)
と反応させ、式[5]で表される2,2−ジフルオロ−フェニルアセト酢酸エステル
【化5】

(式中、nは前記に同じ。)
を得る工程。
【請求項2】
第3工程の式[3]で表されるアルコールがメタノール、エタノール、またはプロパノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2工程の2,2−ジクロロ−フェニルアセト酢酸エステルとフッ化水素(HF)との反応を、無溶媒で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第1工程後に得られた化合物を、精製せずにそのまま第2工程に用いることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
第2工程後に得られた化合物を、精製せずにそのまま第3工程に用いることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。