説明

2,4−ジヒドロキシフェニル−4−メトキシベンジルケトン類を調製する方法

本発明は、フッ化水素(HF)中でのフリーデル−クラフツアシル化を用いて、一般式(I)で表される2,4−ジヒドロキシフェニル−4−メトキシベンジルケトンを製造する方法に関する。式(I)[式中、R及びRは、水素、塩素、フルオリド、臭素、ヨウ素、CF、メチル、場合により置換されていてもよいアルコキシ、OCF、−C(CH、−CH(CH、−CH(CHであり、Rは、水素、Cl、F、Br、場合により置換されていてもよいアルキル、場合により置換されていてもよいアルコキシ、−C(CHであり、及び、Xは、ヒドロキシ、F、Cl、Br、場合により置換されていてもよいアルコキシである。]で表される2,4−ジヒドロキシフェニル−4−メトキシベンジルケトンは、液体フッ化水素(HF)の中で式(III)で表されるフェノールを用いて式(II)で表されるフェニル酢酸誘導体を変換することにより、高い収率及び高い純度で生成される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化水素(HF)中でのフリーデル−クラフツアシル化による、式(I)で表される2,4−ジヒドロキシフェニル4−メトキシベンジルケトン類を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般式(I)で表される2,4−ジヒドロキシフェニル4−メトキシベンジルケトンは、イソフラボン類を調製するための、例えば、ホルモノネチン又はゲニステイン、ダイゼイン及びクメストロール(一般式(IV))などのための重要な合成単位である。
【0003】
2,4−ジヒドロキシフェニル4−メトキシベンジルケトン類は、例えば、フェニルアセトニトリル、レゾルシノール及び塩化水素から出発して多くの時間を必要とするHoeben−Hoesch反応によって、中程度の収率で得られてきた(W. Baker et al., J. Chem. Soc 1929, 2902)。
【0004】
レゾルシノールとフェニル酢酸無水物の反応又は三フッ化ホウ素エーテラートの存在下における当該遊離酸の反応(収率67%)についても記載されている(「S. Mohaty et al., Current Science, May 20, 1988, vol. 57, N.10」、及び、US 5,981,775)。
【0005】
さらに、40モル当量のBF/EtO錯体の存在下においてレゾルシノールと4−メトキシフェニル酢酸からデオキシベンゾインが合成されることについても記載されている(T.A. Hase in J.Chem Soc. Perkin Trans. 1, 1991, 3005)。
【0006】
さらに、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)と4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)を用いてフェノールとフェニル酢酸から2−フェニルアセトフェノン誘導体が合成されることについても記載されている(WO 2005/054169)。
【0007】
AlClの存在下におけるフリーデル−クラフツアシル化によってベンゾイン類を得ることができるということも知られている(Indian J. Chem. vol. 6, 1968, p. 482)。
【0008】
さらに、ビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミン又はBF/OEtの存在下でイオン性液体をマイクロ波合成することによってポリヒドロキシベンゾイン類を得ることができるということも知られている(Tetrahedron Letters, 47, 2006, 8375)。
【0009】
上記方法は全て、一連の不利点を有している。それらは、収率が低いか、又は、反応時間が長いか、又は、DCC及びDMAPなどの高価な試薬を使用する。BF及びAlClなどの触媒を使用すると、複雑な方法で処理することが必要な大量の廃水が生成される。
【0010】
BF/EtO錯体は、引火点が非常に低いので、工業規模での合成に関しては、実際的に不適切である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,981,775号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/054169号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】W. Baker et al., J. Chem. Soc 1929, 2902
【非特許文献2】S. Mohaty et al., Current Science, May 20, 1988, vol. 57, N.10
【非特許文献3】T.A. Hase in J.Chem Soc. Perkin Trans. 1, 1991, 3005
【非特許文献4】Indian J. Chem. vol. 6, 1968, p. 482
【非特許文献5】Tetrahedron Letters, 47, 2006, 8375
【発明の概要】
【0013】
液体フッ化水素(HF)の中で、式(II)で表されるフェニル酢酸誘導体を式(III)で表されるフェノールと反応させることによって、式(I)
【0014】
【化1】

[式中、
及びRは、それぞれ、水素、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、CF、メチル、メトキシ、場合により置換されていてもよいアルコキシ、−OCF、−C(CH、−CH(CH、−CH(CHであり;
は、水素、Cl、F、Br、場合により置換されていてもよいアルキル、場合により置換されていてもよいアルコキシ、−C(CHであり;及び、
Xは、ヒドロキシル、F、Cl、場合により置換されていてもよいアルコキシ又はBrである。]
で表される2,4−ジヒドロキシフェニル4−メトキシベンジルケトンを高収率及び高純度で合成することが可能であるということが分かった。
【0015】
【化2】

【0016】
上記調製方法のさらなる有利点は、蒸留することにより生成物からHF(HFは、20℃の沸点を有する)を容易に除去することが可能であるということ、及び、従って、HFを完全に再利用することが可能であるということである。HFは、さらにまた、非常に安価な原料であり、数千トンの規模で工業的に調製され、使用される。
【0017】
及びRは、好ましくは、水素、メチル、メトキシ、C−C−アルコキシ、−OCF、−C(CH、−CH(CH、−CH(CH、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、CFである。
【0018】
及びRは、さらに好ましくは、水素、メチル、メトキシ、C−C−アルコキシ、−C(CH、−CH(CH、−CH(CH、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、−CFである。
【0019】
は、最も好ましくは、メトキシである。
【0020】
は、最も好ましくは、水素である。
【0021】
は、好ましくは、水素、C−C−アルキル、塩素、フッ素、臭素、C−C−アルコキシ、−C(CHである。
【0022】
は、さらに好ましくは、水素、C−C−アルキル、Cl、F、Br、C−C−アルコキシ、−C(CHである。
【0023】
は、最も好ましくは、水素である。
【0024】
Xは、好ましくは、ヒドロキシル、フッ素、塩素、C−C−アルコキシであり、さらに好ましくは、ヒドロキシル、フッ素、塩素、C−C−アルコキシである。
【0025】
Xは、さらにまた、好ましくは、臭素である。
【0026】
アルキル及びアルコキシについて可能な置換基は、以下のものである:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、NO、CN、SCN、NCO。
【0027】
該反応は、場合により、さらなる触媒を添加することによって促進することができる。例えば、触媒、例えば、ルイス酸、例えば、BF、SbF、PF、BiF、AsF、AlCl、SbCl、TiCl、NbCl、SnCl、SiCl及びInClなどを使用することができる。好ましい触媒は、以下のものである:BF、SbCl、AlCl、SiCl、PF。特に好ましい触媒は、BF、AlCl、SbClである。
【0028】
本発明の調製方法を実施する場合、その反応温度は、比較的広い範囲内で変えることができる。一般に、その反応温度は、−10℃〜120℃である。その反応温度は、好ましくは、0℃〜50℃である。20℃〜40℃の反応温度が特に好ましい。
【0029】
フッ化水素と式(III)で表されるフェノールのモル比は、広い範囲内で変えることができる。一般に、本発明の調製方法は、1:1〜100:1のフッ化水素と式(III)で表されるフェノールのモル比で実施する。50:1〜10:1のモル比が好ましい。
【0030】
本発明の調製方法は、場合により、さらなる希釈剤の存在下で実施することができる。適切なそのような希釈剤は、例えば、エーテル、フレオン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トルエン及びクロロベンゼンなどである。
【0031】
本発明の調製方法は、さらなる希釈剤の非存在下で実施するのが好ましい。
【0032】
上記反応は、自原的な圧力下周囲圧力で実施することができるか、又は、保護ガスの圧力下で実施することができる。
【0033】
一般式(I)で表される化合物は、以下のスキームに従って、一般式(IV)で表される化合物に変換することができる。
【0034】
【化3】

【0035】
上記反応に適する化合物は、CH(OEt)の他に、さらに、CH構造単位に加えて求核性脱離基も有している一般的な化合物である(Pivovarenko et al., Klim. Pirod. Soed. (Ukraine) 5 (1989), 639-643)。
【実施例】
【0036】
調製実施例
1−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2−(4−メトキシフェニル)−エタノンの調製
【0037】
実施例1
オートクレーブの中に、−10℃で、4−メトキシフェニル酢酸(83.9g)、レゾルシノール(55g)及びフッ化水素(450g)を最初に入れ、得られた混合物を20℃で12時間撹拌する。次いで、40℃でフッ化水素を留去し、沈澱物を水で洗浄し、乾燥させる。
【0038】
これにより、96%の純度及び160〜162℃の融点(m.p.)を有する123g(理論値の91%)の当該生成物が得られる。
【0039】
実施例2
オートクレーブの中に、−10℃で、4−メトキシフェニルアセチルクロリド(93g)、レゾルシノール(55g)及びフッ化水素(450g)を最初に入れ、得られた混合物を20℃で12時間撹拌する。次いで、40℃でフッ化水素を留去し、沈澱物を水で洗浄し、乾燥させる。
【0040】
これにより、96%の純度を有する125g(理論値の92%)の当該生成物が得られる。
【0041】
実施例3
オートクレーブの中に、−10℃で、4−メトキシフェニル酢酸(83.9g)、レゾルシノール(55g)及びフッ化水素(300g)を最初に入れ、得られた混合物を20℃で12時間撹拌する。次いで、40℃でフッ化水素を留去し、沈澱物を水で洗浄し、乾燥させる。
【0042】
これにより、93%の純度を有する120g(理論値の89%)の当該生成物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化4】

[式中、
及びRは、それぞれ、水素、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、CF、メチル、場合により置換されていてもよいアルコキシ、−OCF、−C(CH、−CH(CH、−CH(CHであり;
は、水素、Cl、F、Br、場合により置換されていてもよいアルキル、場合により置換されていてもよいアルコキシ、−C(CHであり;及び、
Xは、ヒドロキシル、F、Cl、Br、場合により置換されていてもよいアルコキシである。]
で表される2,4−ジヒドロキシフェニル4−メトキシベンジルケトンを調製する方法であって、式(II)で表されるフェニル酢酸誘導体をフッ化水素の中で式(III)で表されるフェノールと反応させることによる、前記方法。
【請求項2】
及びRが、それぞれ、水素、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、CF、メチル、C−C−アルコキシ、−OCF、−C(CH、−CH(CH、−CH(CHであり;
が、水素、Cl、F、Br、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、−C(CHであり;及び、
Xが、ヒドロキシル、F、C1、Br、C−C−アルコキシである;
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
及びRが、それぞれ、水素、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素、CF、メチル、C−C−アルコキシ、−C(CH、−CH(CH、−CH(CHであり;
が、水素、Cl、F、Br、C−C−アルキル、C−C−アルコキシ、−C(CHであり;及び、
Xが、ヒドロキシル、F、Cl、C−C−アルコキシである;
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2−(4−メトキシフェニル)エタノンを調製する方法であって、4−メトキシフェニル酢酸又は4−メトキシフェニルアセチルクロリドをレゾルシノール及びフッ化水素と反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項5】
フッ化水素と式(III)で表されるフェノールのモル比が50:1〜10:1の範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応温度が10℃〜50℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
反応をルイス酸の存在下で進行させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
1−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2−(4−メトキシフェニル)エタノンを調製する方法であって、4−メトキシフェニル酢酸又は4−メトキシフェニルアセチルクロリドをレゾルシノール及びフッ化水素(ここで、フッ化水素とレゾルシノールのモル比は50:1〜10:1の範囲内にある。)と0℃〜40℃の範囲内にある温度で反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
一般式(IV)で表される化合物を調製する方法であって、一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物を請求項1に従って一般式(I)で表される化合物に変換し、次いで、一般式(I)で表される化合物を環化させて一般式(IV)で表されるフラボンとすることによる、前記方法。

【公表番号】特表2010−519231(P2010−519231A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550235(P2009−550235)
【出願日】平成20年2月16日(2008.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001203
【国際公開番号】WO2008/104297
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】