2n配偶子またはアポマイオシス性配偶子を産生する植物
本発明は、減数分裂Iから減数分裂IIへの移行に関与するタンパク質OSD1が不活性である植物に関するものである。これらの植物は、第二分裂を行わない(SDR)2n配偶子を産生する。本発明はさらに、OSD1の活性化が、植物における減数分裂性の組換えに関与する遺伝子および減数分裂中の動原体の単極配向に関与する遺伝子の不活性化と組合わされている植物に関するものである。これらの植物は、アポマイオシス性配偶子を産生する。これらの植物は、植物の品種改良に有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第二分裂を行わない(SDR:Second Division Restituition)2n配偶子を産生する植物、およびアポマイオシス性配偶子を産生する植物、および植物の品種改良におけるそれらの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2n配偶子(2倍体配偶子としても公知である)は、配偶体の染色体数ではなくむしろ体細胞の染色体数を有する配偶子である。これらは、複数の作物の遺伝的改良のために有用であることが示されてきた(精査のためには、例えばRAMANNA & JACOBSEN、Euphytica 133、3〜18、2003を参照)。詳細には、2倍体配偶子の産生により、異なる倍数性レベルの植物間での交雑、例えば4倍体の作物植物とその2倍体の野生相対物との間の交雑が可能となり、こうして植物品種改良計画にそれらの遺伝的多様性が利用されることになる。
【0003】
2n配偶子の形成は、減数分裂間の異常の結果である(精査のためにはVEILLEUX、Plant Breeding Reviews3、252−288、1985、またはBRETAGNOLLE & THOMPSON、New Phytologist 129、1−22、1995を参照)。
【0004】
正常な減数分裂において、染色体はまず最初に複製し、姉妹染色分体の対がもたらされる。この複製期の後には、減数分裂Iと減数分裂IIとして公知の2期の分裂がある。減数分裂Iの間に、相同染色体は組換えられ、各々が染色体の半数体の全内容を一つ含む、二つの細胞に分けられる。減数分裂IIで、減数分裂Iによってもたらされた二つの細胞はさらに分裂し、姉妹染色分体は分離する。したがって、この分裂によってもたらされた胞子は半数体であり、組換えられた遺伝情報を有する。
【0005】
2n配偶子の形成に導く異常としては、詳細には、細胞質分裂異常、第一もしくは第二の減数分裂の飛び越し、または紡錘体幾何形状異常がある(精査のためにはVEILLEUX、Plant Breeding Reviews3、252−288、1985、またはBRETAGNOLLE & THOMPSON、New Phytologist 129、1−22、1995を参照)。これらの異常は、異なる部類の非還元配偶子を導く。例えば第一の減数分裂の障害は、第一分裂を行わない(FDR)配偶子をもたらし、一方、第二の減数分裂の障害は、第二分裂を行わない(SDR)配偶子をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さまざまな植物種において、2n配偶子を産生することのできる数多くの変異体が報告されてきたが、今までのところ2n花粉の形成に関与する一つの遺伝子だけが同定され、分子レベルで特徴づけされている。AtPS1(Arabidopsis thaliana Parallel Spindles)と呼ばれるこの遺伝子の不活性化は、2倍体の雄性胞子を生成し、生存能力のある2倍体花粉粒と、後代における自然発生的な3倍体植物とを発生させることになる。この遺伝子および2n花粉産生のためのその使用は、2008年7月8日出願の欧州特許出願公開第08490672号明細書およびD’ERFURTHら(PLoS Genet.2008 Nov;4(11):e1000274.Epub2008 Nov28)の刊行物に開示されている。
【0007】
発明者らは今や、モデル植物であるシロイヌナズナタリアナ(Arabidopsis thaliana)において、植物中の2n配偶子の形成に関与する別の遺伝子を同定した。発明者らは、この遺伝子の不活性化が、第二減数分裂の飛び越しをもたらすことを発見した。これは2倍体の雄性および雌性胞子を生成し、SDR配偶子である生存可能な2倍体の雄性および雌性配偶子を発生させる。この遺伝子を以下、第二分裂の脱落(omission of second division)を略してOSD1と呼ぶ。シロイヌナズナタリアナのOSD1遺伝子の配列は、At3g57860というアクセッション番号でTAIRデータベースで、またはNM−115648というアクセッション番号でGenBankデータベースで入手可能である。この遺伝子は、243aaのタンパク質(GenBank NP_191345)をコードし、その配列も配列番号1として添付の配列表に表わされている。
【0008】
シロイヌナズナタリアナのOSD1遺伝子は、HASEらの刊行物(Plant J、46、317−26、2006)において「UVI4様」遺伝子(UVI4−L)として先に記述されており、この刊行物はUVI4という名のそのパラログについて記載している。HASEらによると、UVI4は、核内倍加の抑制因子として作用し、有糸分裂状態を維持するために必要であり、一方OSD1(UVI4−L)はこのプロセスには必要とされないように思われる。対照的に、本明細書で示されているように、OSD1は、減数分裂Iから減数分裂IIへの移行を可能にするために必要不可欠であると思われる。
【0009】
発明者らは同様に、イネ(Oryza sativa)において、シロイヌナズナタリアナのOSD1遺伝子のオルソログも同定した。Oryza sativaのOSD1遺伝子の配列は、OryGenesまたはTAIRデータベースで、Os02g37850というアクセッション番号で入手可能である。それは、234aaのタンパク質をコードし、その配列は、配列番号35として添付の配列表に表わされている。シロイヌナズナタリアナおよびイネのOSD1タンパク質は、その配列の全長にわたり23.6%の同一性および35%の類似性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明は、第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物を得るための方法であり、前記方法は、以下OSD1タンパク質と呼ぶタンパク質を前記植物において阻害することを含み、前記タンパク質は、配列番号1のAtOSD1タンパク質または配列番号35のOsOSD1タンパク質と、少なくとも20%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または、少なくとも29%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有する。
【0011】
別段の規定の無いかぎり、本明細書で提供されているタンパク質の配列の同一性および類似性の値は、デフォルトパラメータ下のBLASTPプログラム、またはNeedleman−Wunschグローバルアラインメントアルゴリズム(デフォルトパラメータ下のEMBOSSペアワイズアラインメントNeedleツール)を用いて、配列の全長にわたって計算される。類似度の計算は、重み行列BLOSUM62を用いて行われる。
【0012】
本発明にしたがって産生されたSDR2n配偶子は、2n配偶子の、全ての通常の利用分野において、例えば倍数体植物を産生するため、または異なる倍数性レベルの植物間の交雑を可能にするために有用である。これらの配偶子は同様に、遺伝地図作成の方法、例えば米国特許出願公開第20080057583号明細書に開示された「逆後代地図作製」方法においても有用であり得る。
【0013】
発明者らはさらに、OSD1の不活性化を他の二つの遺伝子の不活性化と組合せることにより、後続する性的プロセスに影響を及ぼすことなく減数分裂が有系分裂によって完全に置換される遺伝子型をもたらすことを発見したが、該二つの遺伝子の一方は、植物中の効率的な減数分裂性の組換えに必要不可欠なタンパク質をコードし、かつその阻害が、組換えおよび対合を無くす、遺伝子(SPO11−1)であり(GRELONら、Embo J、20、589−600、2001)、他方は、減数分裂中の動原体の単極配向に必要不可欠なタンパク質をコードし(CHELYSHEVAら、J Cell Sci、118、4621−32、2005)、かつその阻害が染色分体の分離を変更する、遺伝子(REC8、At2g47980)である。この遺伝子型は、以下「mitosis instead of meiosis(減数分裂に代わる有系分裂)」を略してMiMeと呼ばれる。この有系分裂による減数分裂の置換は、親の遺伝情報を全て保持するアポマイオシス性配偶子を結果としてもたらす(BICKNELL & KOLTUNOW、Plant Cell、16 Suppl、S228−45、2004)。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】有系分裂、正常な減数分裂、osd1変異体における減数分裂、SPO11−1活性が欠如した変異体(Atspo11−1)における減数分裂、SPO11−1活性およびREC8活性の両方が欠如した二重変異体(Atspo11−1/Atrec8)における減数分裂、ならびにMiMe変異体における減数分裂の機序間の概略的な比較を提供する図である。
【図2】OSD1遺伝子のイントロン/エクソン構造および二つの異なるDs挿入の場所を示す図である。
【図3】野生型植物における減数分裂を表す図である。
【図4】osd1変異体における減数分裂を表す図である。
【図5】osd1/Atrec8/Atspo11−1変異体の雄性および雌性減数分裂中の染色体挙動の観察結果を示す図である。
【図6】有糸分裂中期ならびに対応する4週齢の植物および花を示す図である。
【図7】野生型における胞子の四分染色体、およびAMB12における胞子の二分染色体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
2倍体細胞における有糸分裂の間、染色体は複製し、そして姉妹染色分体は、分離して、2倍体であり、遺伝的に始原細胞と同一である娘細胞を生成する。正常な減数分裂の間、単一の複製期の後に2期の染色体分離が続く。分裂1において相同染色体が組換えられ、分離される。減数分裂IIは、より有糸分裂に類似しており、姉妹染色分体の均一の分配をもたらす。したがって、得られた胞子は半数体であり、組換えられた遺伝情報を有する。osd1変異体(本研究)においては、減数分裂IIは飛び越され、組換えられた遺伝情報を伴う2倍体胞子およびSDR配偶子を発生させる。
【0016】
Atspo11−1変異体は、不均衡な第一分裂を起こし、その後、不均衡胞子および不稔性を導く第二分裂が生じる。
【0017】
Atspo11−1/Atrec8二重変異体は、正常な第一減数分裂の代わりに有糸分裂様の分裂を起こし、その後、不均衡胞子および不稔性を導く不均衡な第二分裂が生じる。
【0018】
osd1/Atspo11−1/Atrec8三重変異体(MiMe)においては、Atspo11−1およびAtrec8突然変異の存在によって有糸分裂様の第一減数分裂が導かれ、osd1突然変異の存在によって第二減数分裂の発生が阻止される。こうして減数分裂は、有糸分裂様分裂により置換される。得られた胞子および配偶子は、遺伝的に始原細胞と同一である。
【0019】
MiMe変異体により産生されたアポマイオシス性配偶子を、SDR2n配偶子と同じように、倍数体植物を生産するために、または異なる倍数性レベルの植物を交雑するために使用することができる。これらは、単為生殖植物、すなわち胚珠の母体組織から種子を形成して母親の遺伝的クローンである後代をもたらす植物の生産にも有利である。単為生殖植物は400種超の被子植物において存在するものの、単為生殖である作物種はきわめて少なく、交雑によりこの形質を導入する試みは失敗に終わっている(SAVIDAN、The Flowering of Apomixis:From Mechanisms to Genetic Engineering 2001;SPILLANEら、Sexual Plant Reproduction、14、2001)。
【0020】
したがって本発明のさらなる目的は、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るための方法であり、該方法は、前記植物において、
a)上記で定義したOSD1タンパク質、
b)植物における減数分裂性組換えの開始に関与するタンパク質であって、
i)以下SPO11−1タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号2のSPO11−1タンパク質と少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または、少なくとも60%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
ii)以下SPO11−2タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号3のSPO11−2タンパク質と少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または、少なくとも60%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
iii)以下PRD1タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号4のPRD1タンパク質と少なくとも25%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または少なくとも35%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
iv)以下PAIR1タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号5のPAIR1タンパク質と少なくとも30%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
から選択されるタンパク質、
c)以下Rec8タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号6のRec8タンパク質と少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または少なくとも45%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質
を阻害することを含む。
【0021】
配列番号2は、シロイヌナズナタリアナのSPO11−1タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、SwissprotデータベースでQ9M4A2というアクセッション番号で入手可能である。
【0022】
配列番号3は、シロイヌナズナタリアナのSPO11−2タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、SwissprotデータベースでQ9M4A1というアクセッション番号で入手可能である。
【0023】
配列番号4は、シロイヌナズナタリアナのPRD1タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、GenBankデータベースでABQ12642というアクセッション番号で入手可能である。
【0024】
配列番号5は、シロイヌナズナタリアナのPAIR1タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、GenBankデータベースでNP_171675というアクセッション番号で入手可能である。
【0025】
配列番号6は、シロイヌナズナタリアナのRec8タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、GenBankデータベースでNP_196168というアクセッション番号で入手可能である。
【0026】
SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびRec8タンパク質は、高等植物、単子葉植物ならびに双子葉植物において保存されている。単子葉植物におけるシロイヌナズナタリアナのSPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびRec8タンパク質のオルソログの非限定的な例として、Oryza sativa SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびRec8タンパク質を挙げることができる。Oryza sativa SPO11−1タンパク質の配列は、GenBankでAAP68363というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa SPO11−2タンパク質の配列は、GenBankで、NP_001061027というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa PRD1タンパク質の配列は、GenBankでEAZ30311というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa PAIR1タンパク質の配列は、SwissProtでQ75RY2というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa Rec8タンパク質の配列は、GenBankでAAQ75095というアクセッション番号で入手可能である。
【0027】
以上で言及したOSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはRec8タンパク質の阻害は、その機能を廃止、遮断もしくは低減させることによってか、または有利には、対応する遺伝子の発現を防止または下方調節することによって得ることができる。
【0028】
一例としては、前記タンパク質の阻害は、対応する遺伝子またはそのプロモーターの突然変異誘発と、前記タンパク質の活性を部分的または完全に喪失した変異体の選択によって得ることができる。例えば、コード配列内の突然変異は、その突然変異の性質に応じて、不活性タンパク質または活性障害を有するタンパク質の発現を誘発し得る。同様にして、プロモーター配列内の突然変異は、前記タンパク質の発現の欠如またはその減少を誘発し得る。
【0029】
突然変異誘発は、前記タンパク質もしくはその一部をコードする遺伝子のコード配列もしくはプロモーターの標的欠失か、または、前記コード配列もしくは前記プロモーター内への外因性配列の標的挿入によって実施可能である。これは同様に、例えばEMS突然変異誘発またはランダム挿入突然変異誘発を介して、ランダム突然変異を誘発し、その後、所望の遺伝子内の変異体をスクリーニングすることによっても実施可能である。ハイスループットの突然変異誘発およびスクリーニングの方法が、当該技術分野において利用可能である。一例として、TILLING(McCallumら、2000、により記載されたTargeting Induced Local Lesions IN Genomes)に言及することができる。
【0030】
OSD1遺伝子における突然変異の中でも、SDR2n配偶子の産生を可能にする突然変異は、この突然変異に対してホモ接合性である植物の表現型特性に基づいて同定可能である。これらの植物は、減数分裂産物として、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、なお一層好ましくは少なくとも50%、そして最高100%の二分染色体を形成することができる。
【0031】
SPO11−1遺伝子またはSPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子などの、植物における減数分裂性組換えの開始に関与するタンパク質をコードする遺伝子における突然変異の中でも、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るのに有用な突然変異は、この突然変異に対してホモ接合性である植物の表現型特性、詳細には減数分裂Iにおける二価染色体に代る一価染色体の存在および植物の不稔性に基づいて同定可能である。
【0032】
REC8遺伝子に突然変異を有する変異体の中でも、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るのに有用な変異体は、この突然変異についてホモ接合性である植物の表現型特性、詳細には、減数分裂における染色体の断片化および植物の不稔性に基づいて同定可能である。
【0033】
SDR2n配偶子を産生することが可能な植物を得るための本発明の方法の好ましい実施形態によると、前記方法は、
a)OSD1遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
b)前記突然変異に対してホモ接合性である植物を得るために、ステップa)の前記植物を自家受精させるステップと
を含んでいる。
【0034】
アポマイオシス性配偶子を産生することができる植物を得るための本発明による方法の好ましい実施形態によると、前記方法は、
a)OSD1遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
b)SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
c)REC8遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
e)OSD1遺伝子の対立遺伝子内に突然変異を、SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子の対立遺伝子内に突然変異を、そしてREC8遺伝子の対立遺伝子内に突然変異を有する植物を得るために、ステップa)b)およびc)の植物を交雑するステップであり、前記植物が各突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
f)OSD1遺伝子内の突然変異、SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子内の突然変異、そしてREC8遺伝子内の突然変異についてホモ接合性である植物を得るために、ステップe)の植物を自家受精させるステップと
を含む。
【0035】
代替的には、標的タンパク質の阻害は、対応する遺伝子のサイレンシングによって得られる。植物における遺伝子サイレンシング方法は、それ自体、当該技術分野において公知である。例えば、米国特許第5,190,065号明細書および5,283,323号明細書に例として記載されているように、アンチセンス阻害または同時抑制によるものに言及することができる。前記タンパク質のmRNAを標的化するリポザイムを使用することも可能である。
【0036】
好ましい方法は、サイレンシングすべき遺伝子を標的化するサイレンシングRNAを用いて、RNA干渉(RNAi)によって遺伝子サイレンシングを誘発する方法である。当該技術分野においては、サイレンシングRNAの送達のためのさまざまな方法およびDNA構築物が利用可能である。
【0037】
「サイレンシングRNA」とは、本明細書では、相補的mRNA分子に対する塩基対合により、配列特異的に標的遺伝子をサイレンシングすることができる、低分子RNAとして定義される。サイレンシングRNAは、詳細には、低分子干渉RNA(siRNA)およびマイクロRNA(miRNA)を含む。
【0038】
当初、植物にサイレンシングRNAを送達するためのDNA構築物は、前記植物において活性なプロモーターの転写制御下で、標的遺伝子のcDNAの300bp以上(一般的には300〜800bp、ただしさらに短い配列が効率のよいサイレンシングを誘発することもある)のフラグメントを含んでいた。現在、より広く使用されているサイレンシングRNA構築物は、ヘアピンRNA(hpRNA)転写産物を産生することのできる構築物である。これらの構築物においては、標的遺伝子のフラグメントは、通常は反復間にスペーサー領域を伴って、逆反復している(精査のためには、WATSONら、2005を参照のこと)。同様に、サイレンシングすべき遺伝子に対する人工的マイクロRNA(amiRNA)を使用することもできる(植物中の、詳細にはamiRNAを含む、サイレンシングRNAの設計および利用分野についての精査のためには、例えばOSSOWSKIら(Plant J.,53、674〜90、2008)を参照のこと)。
【0039】
本発明は、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された一つ以上の標的遺伝子をサイレンシングするための手段、詳細には前記遺伝子を標的化するhpRNAまたはamiRNAのための発現カセットを含む手段を提供するものである。
【0040】
本発明の発現カセットは、例えば、
−植物細胞中で機能するプロモーターと、
−OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された標的遺伝子のcDNAもしくはその相補体のフラグメントを各々が含むか、または、前記フラグメントと少なくとも95%、そして順に好適度が高くなる、少なくとも96%、97%、98%もしくは99%の同一性を各々が有する、200〜1000bp、好ましくは300〜900bpの一つ以上のDNA構築物であり、前記プロモーターの転写制御下に置かれているDNA構築物と
を含んでいてよい。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によると、hpRNAのための発現カセットは、
−植物細胞中で機能するプロモーターと、
−転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するヘアピンRNAを形成することのできる、一つ以上のヘアピンDNA構築物と
を含むものであり、前記一つまたは複数のDNA構築物は、前記プロモーターの転写制御下に置かれている。
【0042】
一般に前記ヘアピンDNA構築物は、
i)標的遺伝子のcDNAのフラグメントで構成されるか、または前記フラグメントと少なくとも95%の同一性、そして順に好適度が高くなる、少なくとも96%、97%、98%または99%の同一性を有する、200〜1000bp、好ましくは300〜900bpの第一のDNA配列、
ii)前記第一のDNAの相補体である第二のDNA配列であり、前記第一および第二の配列は相対する配向にあり、ならびに、
iii)前記第一および第二のDNA配列が転写されると、単一の二本鎖RNA分子を形成できるように、これらの第一および第二の配列を分離する、スペーサー配列
を含む。
このスペーサーは、DNAのランダムなフラグメントであり得る。しかしながら好ましくは、標的植物細胞によりスプライシング可能であるイントロンを使用することができる。そのサイズは、一般的に長さが400〜2000ヌクレオチドである。
【0043】
本発明の別の好ましい実施形態によると、amiRNAのための発現カセットは、
−植物細胞中で機能するプロモーターと、
−転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するamiRNAを形成することのできる、一つ以上のDNA構築物と
を含むものであり、前記一つまたは複数のDNA構築物は、前記プロモーターの転写制御下に置かれている。
【0044】
有利には、本発明の発現カセットは、OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物を含む。特に好ましい実施形態によると、該発現カセットは、OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化するDNA構築物、ならびにREC8を標的化するDNA構築物を含む。
【0045】
植物中の異種遺伝子の発現に適したプロモーターの幅広い選択肢が当該技術分野において利用可能である。
【0046】
これらは、植物、植物ウイルス、またはアグロバクテリウム(Agrobacterium)のような細菌から得ることができる。これらは、構成的プロモーター、すなわち、大部分の組織と細胞において、そして大部分の環境条件下で活性であるプロモーター、ならびに、一部の組織または一部の細胞型においてのみ、またはそれらにおいて主に活性である、組織特異的または細胞特異的プロモーター、および、線虫感染症からもたらされるような物理的または化学的刺激によって活性化される誘導性プロモーターを含む。
【0047】
植物細胞において一般的に使用される構成的プロモーターの非限定的な例として、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、Nosプロモーター、ルビスコプロモーター、キャッサバ葉脈モザイクウイルス(CsVMV)プロモーターがある。
【0048】
本発明において利用可能である器官または組織特異的プロモーターには、詳細には、減数分裂関連発現を付与できるプロモーター、例えばDMC1プロモーター(KLIMYUK & JONES、Plant J、11、1−14、1997)が含まれる。遺伝子OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはREC8の内因性プロモーターのいずれかを使用することもできる。
【0049】
本発明のDNA構築物は一般的に、転写ターミネーターをも含んでいる(例えば35S転写ターミネーターまたはノパリンシンターゼ(Nos)転写ターミネーター)。
【0050】
本発明は同様に、本発明のキメラDNA構築物を含む組換えベクターも含んでいる。従来、前記組換えベクターは、形質転換された宿主の選択を可能にする一つまたは複数のマーカー遺伝子も含んでいる。
【0051】
適切なベクターの選択およびその内部にDNA構築物を挿入するための方法は、当業者にとって周知である。ベクターの選択は、意図された宿主および前記宿主の意図された形質転換方法に左右される。双子葉植物または単子葉植物の数多くの植物種に、植物細胞または植物の遺伝形質転換のためのさまざまな方法を利用することが可能である。非限定的例として、ウイルス媒介性形質転換、マイクロインジェクションによる形質転換、エレクトロポレーションによる形質転換、微粒子銃媒介型形質転換、アグロバクテリウム媒介性形質転換などに言及することができる。
【0052】
本発明はまた、本発明の組換えDNA構築物を含む宿主細胞も提供している。前記宿主細胞は、原核細胞、例えばアグロバクテリウム細胞、または真核細胞、例えば本発明のDNA構築物によって遺伝的に形質転換された植物細胞であり得る。構築物は、一時的に発現されてよい。これを安定した染色体外レプリコンに取込むかまたは染色体に組込むことも可能である。
【0053】
SDR2n配偶子を産生することのできる植物を提供するための本発明による方法の好ましい実施形態によると、前記植物はトランスジェニック植物であり、前記方法は、
a)OSD1遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクターで、少なくとも一つの植物細胞を形質転換するステップと、
b)前記DNA構築物を含む導入遺伝子をそのゲノムに有する植物を再生するために、前記形質転換された植物細胞を栽培するステップと
を含む。
【0054】
アポマイオシス性配偶子を産生することのできる植物を得るための本発明による方法の好ましい実施形態によると、前記植物はトランスジェニック植物であり、前記方法は、
a)OSD1遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクター、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクター、ならびにREC8遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクターで、少なくとも一つの植物細胞を形質転換するステップと、
b)前記DNA構築物を含む導入遺伝子をそのゲノムに有する植物を再生するために、前記形質転換された植物細胞を栽培するステップと
を含む。
【0055】
アポマイオシス性配偶子を産生することのできる植物を得るための本発明の方法の別の好ましい実施形態によると、前記植物はトランスジェニック植物であり、前記方法は、
a)OSD1遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクター、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物、ならびにREC8遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクターで、少なくとも一つの植物細胞を形質転換するステップと、
b)前記DNA構築物を含む導入遺伝子をそのゲノムに有する植物を再生するために、前記形質転換された植物細胞を栽培するステップと
を含む。
【0056】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる、SDR2n配偶子またはアポマイオシス性配偶子を産生することのできる植物を包含する。
【0057】
これには、詳細には、
−この突然変異の結果OSD1タンパク質が阻害される、OSD1遺伝子内の突然変異、
−この突然変異の結果、遺伝子によりコードされるSPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1タンパク質が阻害される、SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子内の突然変異と、
−この突然変異の結果Rec8タンパク質が阻害される、REC8遺伝子内の突然変異と
を含む植物が含まれる。
【0058】
これには同様に、本発明の一つ以上のDNA構築物によって遺伝的に形質転換された植物も含まれる。好ましくは、前記植物はトランスジェニック植物であり、ここで、前記構築物は植物ゲノムに組込まれた導入遺伝子に含まれ、その結果、連続する植物世代へと伝えられる。
【0059】
OSD1タンパク質の下方調節をもたらす、OSD1遺伝子を標的化するキメラDNA構築物の発現は、前記トランスジェニック植物に、2nSDR配偶子を産生する能力を提供する。OSD1遺伝子を標的化するキメラDNA構築物、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化するキメラDNA構築物、ならびにREC8遺伝子を標的化するキメラDNA構築物の共発現は、これら三つの遺伝子によりコードされるタンパク質の下方調節をもたらし、前記トランスジェニック植物に、アポマイオシス性配偶子を産生する能力を提供する。
【0060】
本発明はまた、本発明の方法により得ることのできる植物を栽培するステップおよび前記植物により産生される配偶子を回収するステップを含む、SDR2n配偶子を産生するための方法をも包含している。好ましくは、前記配偶子は、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%の生存可能な2n配偶子を含む。
【0061】
本発明はまた、本発明の方法により得ることのできる植物を栽培するステップおよび前記植物により産生される配偶子を回収するステップを含む、アポマイオシス性配偶子を産生するための方法をも包含している。好ましくは、前記配偶子は、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%の生存可能なアポマイオシス性配偶子を含む。
【0062】
本発明は、広範な農学的に有利な単子葉または双子葉植物に適用される。非限定的例としては、ジャガイモ、イネ、小麦、トウモロコシ、トマト、キュウリ、アルファルファ、サトウキビ、サツマイモ、マニオック、クローバ、大豆、ホソムギ、バナナ、メロン、スイカ、綿花、または例えばバラ、ユリ、チューリップおよびスイセンのような観賞植物に言及することができる。
【0063】
本発明の以上のおよびその他の目的および利点は、以下の詳細な説明および添付図面からさらに明らかになるものである。ただし、この以上の詳細な説明は例示的なものであり、本発明を制限する趣旨のものではない。
【実施例】
【0064】
実験手順
【0065】
植物材料と成長条件
【0066】
シロイヌナズナ植物を、VIGNARDら、(PLoS Genet、3、1894−906、2007)に記載されている通りに栽培した。発芽検定およびサイトメトリー実験のために、Arabidopsisをインビトロで、21℃で昼間16時間/夜間8時間の光周期で、そして70%の湿度測定で、Arabidopsis培地(ESTELLE & SOMERVILLE、Mol.Gen.Genet.、206、200−06、1987)において栽培した。
【0067】
遺伝分析
【0068】
二つのプライマー対を用いて、PCR(94℃で30秒、56℃で30秒および72℃で1分のサイクル30回)によって植物の遺伝子型を決定した。各々の遺伝子型について、プライマー対を表Iに示し、挿入に特異的なプライマー対を表IIに示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
osd1−1(No−0)/osd1−2(Ler)×Col−0 F1集団およびosd1−(No−0)/spo11−1(Co1−0)/rec8(Co1−0)三重変異体×LesF1集団の遺伝子型を決定するために用いられる遺伝子マーカーが表IIIに列挙されている。PCR条件は、94℃で30秒、Tmで30秒、そして72℃で30秒のサイクル40回であった。
【0072】
【表3】
【0073】
これらのマーカーを、示されたプライマーを用いて増幅させ(94℃で30秒、58℃で30秒そして72℃で30秒のサイクル40回)、3%のアガロースゲル上の泳動後に観察した。
【0074】
Eco47III/HpaII二重消化の後にCAPS K4 10355を観察した。osd1−1およびosd1−2の挿入境界に特異的な二つのプライマー対を、染色体3上のマーカーとして使用した。
【0075】
細胞学およびフローサイトメトリー:
【0076】
AZUMIら(Embo J、21、3081−95.、2002)に記載されている通りに、最終的な減数分裂産物を観察し、40倍の乾燥対物レンズの備わった従来の光学顕微鏡で検分した。染色体の拡散および観察を、MERCIERら、(Biochimie、83、1023−28、2001)に記載された技術を用いて実施した。オープンLAB40.4ソフトウェアを用いて、花粉精核のDNA蛍光発光を定量化した。各々の核について、周囲のバックグラウンドを計算し、核の全体的な蛍光発光から減算した。DAPIを用いてDNAを対比染色したということを除いて、MERCIERら(Genes Dev、15、1859−71、2001)に記載されているプロトコルにしたがって、減数分裂紡錘体を観察した。観察は、LeicaのSP2共焦点顕微鏡を用いて行なわれた。xyz方向で63倍の水浸対物レンズを用いて画像を収集し、Leicaソフトウェアを用いて3次元再構成を行った。投影が示される。各々Alexa Fluor488およびDAPIを用いて、488nmと405nmの励起で細胞を撮像した。標準としてトマト、Lycopersicon esculentum cv「Montfavet」を用いて、MARIE & BROWN、(Biol Cell、78、41−51、1993)に記載されている通りに、Arabidopsisのゲノムサイズを測定した(2C=1.99pg、%GC=40.0%)。
【0077】
実施例1:osd1変異体による2倍体配偶子の産生
【0078】
AtGenExpress組織セット(SCHMIDら、Nat Genet、37、501−6、2005)と共にExpression Anglerツール(TOUFIGHIら、Plant J、43、153−63、2005)を用いた、減数分裂遺伝子のための発現プロファイリングスクリーニングの一部として、複数の公知の減数分裂遺伝子とのその同時調節に起因して優れた候補として、At3g57860を選択した。At3g57860は、そのパラログUVI4遺伝子の研究(HASEら、Plant J、46、317−26、2006)に手短に記載されているUVI4様遺伝子(UVI4−L)に対応する。減数分裂におけるその役割に起因して(以下参照)、我々は、At3g57860遺伝子を、omission of second division(第二分裂の脱落)を略してOSD1と再命名した。OSD1およびUVI4タンパク質は、植物界全体に保存されているが、明らかな公知の保存された機能的ドメインを全く含んでいない。植物界以外では、いかなるホモログも同定されなかった。
【0079】
我々は、二つの変異体を単離、そして特徴づけすることによって、OSD1遺伝子の役割を調査した。osd1−1(pst15307)およびosd1−2(GT21481)Ds挿入突然変異体は、各々Nooseen(No−0)およびLandsberg(Ler)バックグラウンドにあり、両方のケースで、挿入はOSD1遺伝子の第二エクソンにある。
【0080】
OSD1遺伝子のイントロン/エクソン構造および二つの異なるDs挿入の場所は、図2に示されている。OSD1遺伝子は三つのエクソンと二つのイントロンを含み、243個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。二つのDs挿入の位置は、三角形によって示されている。
【0081】
図3は、野生型植物における減数分裂を表わし、図4はosd1変異体における減数分裂を表す。
【0082】
図3の凡例:(A)太糸期。相同染色体が完全に接合している。(B)移動期。キアズマにより連結された五対の相同染色体(二価)が観察される。(C)中期I。五つの二価染色体が中期板上に整列している。(D)後期I。相同染色体は分離している。(E)終期I。(F)中期II。姉妹染色分体の対が中期板上で整列している。(G)後期II。姉妹染色分体は分離している。(HおよびI)終期II。四つの半数体胞子が形成される(四分染色体)。スケールバー=10μm。
【0083】
図4の凡例:(AおよびB)トルイジンブルーで染色した雄性減数分裂産物。(A)野生型四分染色体。(B)osd1−1変異体内の二分染色体。(C〜D)osd1内の雄性減数分裂は、終期Iまでは野生型と区別不能である(図3と比較されたい)が、第二分裂に特徴的な形態は一切観察されなかった。(C)太糸期。(D)移動期。(E)中期I。(F)後期I。(G)終期I。(H)osd1内の雌性減数分裂の中期I。
【0084】
両方の独立したosd1変異体において、雄性減数分裂の産物は、四分染色体ではなく二分染色体であった(osd1−1:714/714 osd1−2:334/334)(図4AおよびB)。osd1−1とosd1−2の間の相補性試験は、これらの突然変異が対立遺伝子変異である(osd1−1/osd1−2:369dyads/369)ことを確認し、したがって、観察された二分染色体がOSD1遺伝子の分断に起因することを実証した。Osd1変異体は、体細胞発生上の欠陥、雄性および雌性配偶体の致死性または受精率低下を全く示さなかった(野生型では果実1個あたり38±11の種子、osd1では果実1個あたり35±6)。
【0085】
次に、我々は2倍体osd1変異体の子孫の間で倍数性レベルを測定した。自殖後代の中には、4倍体(84%)および3倍体(16%)が見られたが、2倍体植物は全く観察されなかった(osd1−1:n=56、osd1−2:n=24)。変異体花粉を使用して野生型植物を受精した場合、得られた後代は全て3倍体であった(osd1−1:n=75)。変異体胚珠を野生型花粉粒で受精した場合、12%の2倍体植物および88%の3倍体植物を単離した(n=25)。このことは、osd1変異体が高レベルの雄性(100%)および雌性(約85%)2倍体胞子を産生し、これが機能的配偶子をもたらすということを実証した。
【0086】
osd1中の二分染色体の産生を導く機序を解明するために、我々は、減数分裂中の染色体の挙動を調査した。雄性および雌性減数分裂Iは、野生型から区別不能であった(図4と図3を比較のこと)。とりわけ、交差の細胞学的徴候であるキアズマ、および二価染色体が観察された。しかしながら、(前期から胞子形成までの500超の雄性減数分裂細胞のうち)いかなる減数分裂IIの形態も発見することはできず、このことは、二分染色体の産生が第二減数分裂の欠如に起因することを強く示唆していた。この第二分裂が起こらない場合には、動原体におけるヘテロ接合は、第一分裂中の姉妹染色分体の同時分離およびホモログの分離を理由として、2倍体配偶子でことごとく喪失される。組換えのため、動原体に連結されていないあらゆる遺伝子座が分離する。我々は、osd1−1変異体(No−0)およびosd1−2変異体(Ler)の二つの異なる遺伝的バックグラウンドを利用することによって、我々の仮説を試験した。二つの突然変異を有するF1植物(osd1についての変異体および任意のNo−0/Ler多型に対するヘテロ接合体)を、雄または雌として第3の遺伝的バックグラウンドColumbia(Col−0)に対し交雑させた。三形性分子マーカーについて得られた植物の核型および遺伝子型を決定することにより、花粉粒の遺伝的構成、および変異体により産生された雌性配偶体についての直接的な情報が得られた。試験した全ての2倍体配偶子は、予測された遺伝的特性を有していた。これらは、系統的に動原体においてホモ接合性であり、その他の遺伝子座では、組換えを理由として、分離性であった(雄性2倍体配偶子についてn=48、そして雌性2倍体配偶子についてはn=41)。これらの結果は、第二減数分裂の不在が実際に、osd1における2n配偶子産生の原因であることを確認した。この機序は同様に、減数分裂Iにおける不均衡な染色体分離がosd1における不均衡な二分染色体を発生させると考えられることも意味している。このことは、二重Atsp11−1/osd1−1変異体を分析することによって確認された(データは示さず)。
【0087】
第二減数分裂の不在に起因して、osd1変異体は、高頻度の生存可能な雄性および雌性配偶体を産生し、これは受精の後、生存可能な4倍体植物を生成する。ただし、この現象は、産生された配偶子が母植物と遺伝的に異なるという点で、アポマイオシスと異なっている。
【0088】
実施例2:三重osd1/Atrec8/Atspo11−1変異体によるアポマイオシス性配偶子の産生
【0089】
二重Atspo11−1/Atrec8変異体において、第一の減数分裂は、有糸分裂様の分裂により置換され、その後に、不均衡な胞子および不稔性を導く不均衡な第二分裂が続く(CHELYSHEVAら、J Cell Sci、118、4621−32、2005)。
【0090】
我々は、osd1/Atrec8/Atspo11−1変異体を生成した。Atspo11−1およびAtrec8突然変異の両方についてヘテロ接合性の植物は、各突然変異についてヘテロ接合性である植物を交雑することによって得られるものであり、これらをosd1についてヘテロ接合性である植物と交雑した。同定された三重ヘテロ接合性植物を自家受精させ、三つの突然変異についてホモ接合性である植物を分析した。
【0091】
これらの変異体の雄性および雌性減数分裂中の染色体挙動の観察結果が、図5に示されている。
【0092】
図5の凡例:(A)雄性中期I。(B)雄性後期I。写真は、MiMe中の二分染色体を示す。(C)雌性中期I。(D)雌性後期I。スケールバー=10μm。
【0093】
これらの観察結果は、有糸分裂様の分裂、すなわち中期板上に整列した10個の一価染色体そして後期で分離した姉妹染色分体を明らかにした(図5)。
【0094】
Atspo11−1およびAtrec8突然変異は、有糸分裂様の第一の減数分裂を導き、osd1突然変異は、第二の減数分裂が発生するのを妨げる。この結果、有糸分裂様の分裂による減数分裂の置換およびアポマイオシスがもたらされる。
【0095】
我々はこの遺伝子型を「減数分裂に代る有糸分裂(mitosis instead of meiosis)」を略してMiMeと呼んだ。MiMe植物は、二分染色体(408/408)を生成し、繁殖力に富む(果実1個あたり25±6個の種子)。したがってosd1突然変異はAtspo11−1/Atrec8二重変異体の不稔性表現型を抑制した。
【0096】
MiMe植物の自殖後代は、系統的に4倍体(n=24)であり、2倍体MiMe植物と野生型植物の間の戻し交配は、雄性(n=24)または雌性(n=67)MiMe配偶子のいずれが使用されるかに関わらず3倍体植物を生成し、この有糸分裂様の分裂が機能的2倍体配偶子を発生させることを示した。以上で記述した通りに同様の要領で試験した全ての配偶子(雄性および雌性)は、試験された全ての遺伝子マーカーについて母植物のヘテロ接合性を系統的に保持し、こうして遺伝的に母植物と同一であった。これらの結果は、MiMe植物が、その後の性的プロセスに影響を及ぼすことなく、正常な減数分裂の代りに有糸分裂様の分裂を起こすことを確認している。
【0097】
減数分裂が有糸分裂により置換された場合、各世代で倍数性は2倍になると予想される。これは、図6に示されている通り、MiMe植物で観察された。
【0098】
図6の凡例:左欄:有糸分裂中期、スケールバー=10μm。右欄:対応する4週齢の植物(スケールバー=2cm)および花(スケールバー=1mm)。
【0099】
後続する世代において、我々は4倍体(4N、20染色体、n=26)および8倍体(8N、40染色体、n=33)を得た。
【0100】
実施例3:Arabidopsis OSD1遺伝子のイネオルソログの同定
【0101】
Oryza sativaゲノムは、二つのOSD1/UVI4ホモログ候補(Os02g37850およびOs04g39670)を含む。我々は、この推定ホモログの一つ(Os02g37850)の中で二つのT−DNA挿入突然変異体を単離した。二つの系列AMBA12およびAMQF10の遺伝子型をPCRにより決定して、ホモ接合体を選択した。両方の系列において、2倍体変異体植物の子孫の中に自然発生的な4倍体植物が観察され、これは、機能的な雄性および雌性の2n配偶子の産生を示唆していた(AMBA12:100%の4倍体、n=30;AMQF10 37%の4倍体、n=27)。次に我々は、AMB12変異体内の減数分裂産物を研究し(n>400)、図7により示されている通り、四分染色体に代って100%の二分染色体の産生を観察した。
【0102】
図7の凡例:A:野生型における胞子の四分染色体、B:AMB12における胞子の二分染色体。
【0103】
この表現型は、Arabidopsis osd1変異体と同一である。AMBA12ホモ接合体変異体において二分染色体の産生を導く機序を解明するため、我々は減数分裂中の染色体の挙動を調査した。減数分裂Iは、野生型と区別不能であった。とりわけ、交差の細胞学的徴候であるキアズマ、および二価染色体が観察された。しかしながら、いかなる減数分裂IIの形態も発見することはできず、このことは、2N胞子の産生がArabidopsis osd1の場合と同様、第二減数分裂の欠如に起因することを強く示唆している。全体として、これらの結果は、Os02g37850がArabidopsis OSD1の機能的ホモログであることを示しており、したがってそれをOsOSD1と呼んだ。OSD1およびOsOSD1タンパク質は、配列の全長を網羅するアラインメントで23.6%の同一性と35%の類似性を有する(EMBossペアワイズアラインメントNeedleツール)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、第二分裂を行わない(SDR:Second Division Restituition)2n配偶子を産生する植物、およびアポマイオシス性配偶子を産生する植物、および植物の品種改良におけるそれらの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2n配偶子(2倍体配偶子としても公知である)は、配偶体の染色体数ではなくむしろ体細胞の染色体数を有する配偶子である。これらは、複数の作物の遺伝的改良のために有用であることが示されてきた(精査のためには、例えばRAMANNA & JACOBSEN、Euphytica 133、3〜18、2003を参照)。詳細には、2倍体配偶子の産生により、異なる倍数性レベルの植物間での交雑、例えば4倍体の作物植物とその2倍体の野生相対物との間の交雑が可能となり、こうして植物品種改良計画にそれらの遺伝的多様性が利用されることになる。
【0003】
2n配偶子の形成は、減数分裂間の異常の結果である(精査のためにはVEILLEUX、Plant Breeding Reviews3、252−288、1985、またはBRETAGNOLLE & THOMPSON、New Phytologist 129、1−22、1995を参照)。
【0004】
正常な減数分裂において、染色体はまず最初に複製し、姉妹染色分体の対がもたらされる。この複製期の後には、減数分裂Iと減数分裂IIとして公知の2期の分裂がある。減数分裂Iの間に、相同染色体は組換えられ、各々が染色体の半数体の全内容を一つ含む、二つの細胞に分けられる。減数分裂IIで、減数分裂Iによってもたらされた二つの細胞はさらに分裂し、姉妹染色分体は分離する。したがって、この分裂によってもたらされた胞子は半数体であり、組換えられた遺伝情報を有する。
【0005】
2n配偶子の形成に導く異常としては、詳細には、細胞質分裂異常、第一もしくは第二の減数分裂の飛び越し、または紡錘体幾何形状異常がある(精査のためにはVEILLEUX、Plant Breeding Reviews3、252−288、1985、またはBRETAGNOLLE & THOMPSON、New Phytologist 129、1−22、1995を参照)。これらの異常は、異なる部類の非還元配偶子を導く。例えば第一の減数分裂の障害は、第一分裂を行わない(FDR)配偶子をもたらし、一方、第二の減数分裂の障害は、第二分裂を行わない(SDR)配偶子をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さまざまな植物種において、2n配偶子を産生することのできる数多くの変異体が報告されてきたが、今までのところ2n花粉の形成に関与する一つの遺伝子だけが同定され、分子レベルで特徴づけされている。AtPS1(Arabidopsis thaliana Parallel Spindles)と呼ばれるこの遺伝子の不活性化は、2倍体の雄性胞子を生成し、生存能力のある2倍体花粉粒と、後代における自然発生的な3倍体植物とを発生させることになる。この遺伝子および2n花粉産生のためのその使用は、2008年7月8日出願の欧州特許出願公開第08490672号明細書およびD’ERFURTHら(PLoS Genet.2008 Nov;4(11):e1000274.Epub2008 Nov28)の刊行物に開示されている。
【0007】
発明者らは今や、モデル植物であるシロイヌナズナタリアナ(Arabidopsis thaliana)において、植物中の2n配偶子の形成に関与する別の遺伝子を同定した。発明者らは、この遺伝子の不活性化が、第二減数分裂の飛び越しをもたらすことを発見した。これは2倍体の雄性および雌性胞子を生成し、SDR配偶子である生存可能な2倍体の雄性および雌性配偶子を発生させる。この遺伝子を以下、第二分裂の脱落(omission of second division)を略してOSD1と呼ぶ。シロイヌナズナタリアナのOSD1遺伝子の配列は、At3g57860というアクセッション番号でTAIRデータベースで、またはNM−115648というアクセッション番号でGenBankデータベースで入手可能である。この遺伝子は、243aaのタンパク質(GenBank NP_191345)をコードし、その配列も配列番号1として添付の配列表に表わされている。
【0008】
シロイヌナズナタリアナのOSD1遺伝子は、HASEらの刊行物(Plant J、46、317−26、2006)において「UVI4様」遺伝子(UVI4−L)として先に記述されており、この刊行物はUVI4という名のそのパラログについて記載している。HASEらによると、UVI4は、核内倍加の抑制因子として作用し、有糸分裂状態を維持するために必要であり、一方OSD1(UVI4−L)はこのプロセスには必要とされないように思われる。対照的に、本明細書で示されているように、OSD1は、減数分裂Iから減数分裂IIへの移行を可能にするために必要不可欠であると思われる。
【0009】
発明者らは同様に、イネ(Oryza sativa)において、シロイヌナズナタリアナのOSD1遺伝子のオルソログも同定した。Oryza sativaのOSD1遺伝子の配列は、OryGenesまたはTAIRデータベースで、Os02g37850というアクセッション番号で入手可能である。それは、234aaのタンパク質をコードし、その配列は、配列番号35として添付の配列表に表わされている。シロイヌナズナタリアナおよびイネのOSD1タンパク質は、その配列の全長にわたり23.6%の同一性および35%の類似性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって本発明は、第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物を得るための方法であり、前記方法は、以下OSD1タンパク質と呼ぶタンパク質を前記植物において阻害することを含み、前記タンパク質は、配列番号1のAtOSD1タンパク質または配列番号35のOsOSD1タンパク質と、少なくとも20%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または、少なくとも29%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有する。
【0011】
別段の規定の無いかぎり、本明細書で提供されているタンパク質の配列の同一性および類似性の値は、デフォルトパラメータ下のBLASTPプログラム、またはNeedleman−Wunschグローバルアラインメントアルゴリズム(デフォルトパラメータ下のEMBOSSペアワイズアラインメントNeedleツール)を用いて、配列の全長にわたって計算される。類似度の計算は、重み行列BLOSUM62を用いて行われる。
【0012】
本発明にしたがって産生されたSDR2n配偶子は、2n配偶子の、全ての通常の利用分野において、例えば倍数体植物を産生するため、または異なる倍数性レベルの植物間の交雑を可能にするために有用である。これらの配偶子は同様に、遺伝地図作成の方法、例えば米国特許出願公開第20080057583号明細書に開示された「逆後代地図作製」方法においても有用であり得る。
【0013】
発明者らはさらに、OSD1の不活性化を他の二つの遺伝子の不活性化と組合せることにより、後続する性的プロセスに影響を及ぼすことなく減数分裂が有系分裂によって完全に置換される遺伝子型をもたらすことを発見したが、該二つの遺伝子の一方は、植物中の効率的な減数分裂性の組換えに必要不可欠なタンパク質をコードし、かつその阻害が、組換えおよび対合を無くす、遺伝子(SPO11−1)であり(GRELONら、Embo J、20、589−600、2001)、他方は、減数分裂中の動原体の単極配向に必要不可欠なタンパク質をコードし(CHELYSHEVAら、J Cell Sci、118、4621−32、2005)、かつその阻害が染色分体の分離を変更する、遺伝子(REC8、At2g47980)である。この遺伝子型は、以下「mitosis instead of meiosis(減数分裂に代わる有系分裂)」を略してMiMeと呼ばれる。この有系分裂による減数分裂の置換は、親の遺伝情報を全て保持するアポマイオシス性配偶子を結果としてもたらす(BICKNELL & KOLTUNOW、Plant Cell、16 Suppl、S228−45、2004)。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】有系分裂、正常な減数分裂、osd1変異体における減数分裂、SPO11−1活性が欠如した変異体(Atspo11−1)における減数分裂、SPO11−1活性およびREC8活性の両方が欠如した二重変異体(Atspo11−1/Atrec8)における減数分裂、ならびにMiMe変異体における減数分裂の機序間の概略的な比較を提供する図である。
【図2】OSD1遺伝子のイントロン/エクソン構造および二つの異なるDs挿入の場所を示す図である。
【図3】野生型植物における減数分裂を表す図である。
【図4】osd1変異体における減数分裂を表す図である。
【図5】osd1/Atrec8/Atspo11−1変異体の雄性および雌性減数分裂中の染色体挙動の観察結果を示す図である。
【図6】有糸分裂中期ならびに対応する4週齢の植物および花を示す図である。
【図7】野生型における胞子の四分染色体、およびAMB12における胞子の二分染色体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
2倍体細胞における有糸分裂の間、染色体は複製し、そして姉妹染色分体は、分離して、2倍体であり、遺伝的に始原細胞と同一である娘細胞を生成する。正常な減数分裂の間、単一の複製期の後に2期の染色体分離が続く。分裂1において相同染色体が組換えられ、分離される。減数分裂IIは、より有糸分裂に類似しており、姉妹染色分体の均一の分配をもたらす。したがって、得られた胞子は半数体であり、組換えられた遺伝情報を有する。osd1変異体(本研究)においては、減数分裂IIは飛び越され、組換えられた遺伝情報を伴う2倍体胞子およびSDR配偶子を発生させる。
【0016】
Atspo11−1変異体は、不均衡な第一分裂を起こし、その後、不均衡胞子および不稔性を導く第二分裂が生じる。
【0017】
Atspo11−1/Atrec8二重変異体は、正常な第一減数分裂の代わりに有糸分裂様の分裂を起こし、その後、不均衡胞子および不稔性を導く不均衡な第二分裂が生じる。
【0018】
osd1/Atspo11−1/Atrec8三重変異体(MiMe)においては、Atspo11−1およびAtrec8突然変異の存在によって有糸分裂様の第一減数分裂が導かれ、osd1突然変異の存在によって第二減数分裂の発生が阻止される。こうして減数分裂は、有糸分裂様分裂により置換される。得られた胞子および配偶子は、遺伝的に始原細胞と同一である。
【0019】
MiMe変異体により産生されたアポマイオシス性配偶子を、SDR2n配偶子と同じように、倍数体植物を生産するために、または異なる倍数性レベルの植物を交雑するために使用することができる。これらは、単為生殖植物、すなわち胚珠の母体組織から種子を形成して母親の遺伝的クローンである後代をもたらす植物の生産にも有利である。単為生殖植物は400種超の被子植物において存在するものの、単為生殖である作物種はきわめて少なく、交雑によりこの形質を導入する試みは失敗に終わっている(SAVIDAN、The Flowering of Apomixis:From Mechanisms to Genetic Engineering 2001;SPILLANEら、Sexual Plant Reproduction、14、2001)。
【0020】
したがって本発明のさらなる目的は、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るための方法であり、該方法は、前記植物において、
a)上記で定義したOSD1タンパク質、
b)植物における減数分裂性組換えの開始に関与するタンパク質であって、
i)以下SPO11−1タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号2のSPO11−1タンパク質と少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または、少なくとも60%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
ii)以下SPO11−2タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号3のSPO11−2タンパク質と少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または、少なくとも60%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
iii)以下PRD1タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号4のPRD1タンパク質と少なくとも25%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または少なくとも35%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
iv)以下PAIR1タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号5のPAIR1タンパク質と少なくとも30%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質、
から選択されるタンパク質、
c)以下Rec8タンパク質と呼ばれるタンパク質であり、配列番号6のRec8タンパク質と少なくとも40%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列同一性、または少なくとも45%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも50、55、60、65、70、75、80、85、90、95もしくは98%の配列類似性を有するタンパク質
を阻害することを含む。
【0021】
配列番号2は、シロイヌナズナタリアナのSPO11−1タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、SwissprotデータベースでQ9M4A2というアクセッション番号で入手可能である。
【0022】
配列番号3は、シロイヌナズナタリアナのSPO11−2タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、SwissprotデータベースでQ9M4A1というアクセッション番号で入手可能である。
【0023】
配列番号4は、シロイヌナズナタリアナのPRD1タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、GenBankデータベースでABQ12642というアクセッション番号で入手可能である。
【0024】
配列番号5は、シロイヌナズナタリアナのPAIR1タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、GenBankデータベースでNP_171675というアクセッション番号で入手可能である。
【0025】
配列番号6は、シロイヌナズナタリアナのRec8タンパク質の配列を表わす。この配列は同様に、GenBankデータベースでNP_196168というアクセッション番号で入手可能である。
【0026】
SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびRec8タンパク質は、高等植物、単子葉植物ならびに双子葉植物において保存されている。単子葉植物におけるシロイヌナズナタリアナのSPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびRec8タンパク質のオルソログの非限定的な例として、Oryza sativa SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびRec8タンパク質を挙げることができる。Oryza sativa SPO11−1タンパク質の配列は、GenBankでAAP68363というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa SPO11−2タンパク質の配列は、GenBankで、NP_001061027というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa PRD1タンパク質の配列は、GenBankでEAZ30311というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa PAIR1タンパク質の配列は、SwissProtでQ75RY2というアクセッション番号で入手可能であり、Oryza sativa Rec8タンパク質の配列は、GenBankでAAQ75095というアクセッション番号で入手可能である。
【0027】
以上で言及したOSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはRec8タンパク質の阻害は、その機能を廃止、遮断もしくは低減させることによってか、または有利には、対応する遺伝子の発現を防止または下方調節することによって得ることができる。
【0028】
一例としては、前記タンパク質の阻害は、対応する遺伝子またはそのプロモーターの突然変異誘発と、前記タンパク質の活性を部分的または完全に喪失した変異体の選択によって得ることができる。例えば、コード配列内の突然変異は、その突然変異の性質に応じて、不活性タンパク質または活性障害を有するタンパク質の発現を誘発し得る。同様にして、プロモーター配列内の突然変異は、前記タンパク質の発現の欠如またはその減少を誘発し得る。
【0029】
突然変異誘発は、前記タンパク質もしくはその一部をコードする遺伝子のコード配列もしくはプロモーターの標的欠失か、または、前記コード配列もしくは前記プロモーター内への外因性配列の標的挿入によって実施可能である。これは同様に、例えばEMS突然変異誘発またはランダム挿入突然変異誘発を介して、ランダム突然変異を誘発し、その後、所望の遺伝子内の変異体をスクリーニングすることによっても実施可能である。ハイスループットの突然変異誘発およびスクリーニングの方法が、当該技術分野において利用可能である。一例として、TILLING(McCallumら、2000、により記載されたTargeting Induced Local Lesions IN Genomes)に言及することができる。
【0030】
OSD1遺伝子における突然変異の中でも、SDR2n配偶子の産生を可能にする突然変異は、この突然変異に対してホモ接合性である植物の表現型特性に基づいて同定可能である。これらの植物は、減数分裂産物として、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、なお一層好ましくは少なくとも50%、そして最高100%の二分染色体を形成することができる。
【0031】
SPO11−1遺伝子またはSPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子などの、植物における減数分裂性組換えの開始に関与するタンパク質をコードする遺伝子における突然変異の中でも、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るのに有用な突然変異は、この突然変異に対してホモ接合性である植物の表現型特性、詳細には減数分裂Iにおける二価染色体に代る一価染色体の存在および植物の不稔性に基づいて同定可能である。
【0032】
REC8遺伝子に突然変異を有する変異体の中でも、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るのに有用な変異体は、この突然変異についてホモ接合性である植物の表現型特性、詳細には、減数分裂における染色体の断片化および植物の不稔性に基づいて同定可能である。
【0033】
SDR2n配偶子を産生することが可能な植物を得るための本発明の方法の好ましい実施形態によると、前記方法は、
a)OSD1遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
b)前記突然変異に対してホモ接合性である植物を得るために、ステップa)の前記植物を自家受精させるステップと
を含んでいる。
【0034】
アポマイオシス性配偶子を産生することができる植物を得るための本発明による方法の好ましい実施形態によると、前記方法は、
a)OSD1遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
b)SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
c)REC8遺伝子の対立遺伝子によりコードされるタンパク質の阻害をもたらす、この対立遺伝子内に突然変異を有する植物を提供するステップであり、前記植物がこの突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
e)OSD1遺伝子の対立遺伝子内に突然変異を、SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子の対立遺伝子内に突然変異を、そしてREC8遺伝子の対立遺伝子内に突然変異を有する植物を得るために、ステップa)b)およびc)の植物を交雑するステップであり、前記植物が各突然変異についてヘテロ接合性であるステップと、
f)OSD1遺伝子内の突然変異、SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子内の突然変異、そしてREC8遺伝子内の突然変異についてホモ接合性である植物を得るために、ステップe)の植物を自家受精させるステップと
を含む。
【0035】
代替的には、標的タンパク質の阻害は、対応する遺伝子のサイレンシングによって得られる。植物における遺伝子サイレンシング方法は、それ自体、当該技術分野において公知である。例えば、米国特許第5,190,065号明細書および5,283,323号明細書に例として記載されているように、アンチセンス阻害または同時抑制によるものに言及することができる。前記タンパク質のmRNAを標的化するリポザイムを使用することも可能である。
【0036】
好ましい方法は、サイレンシングすべき遺伝子を標的化するサイレンシングRNAを用いて、RNA干渉(RNAi)によって遺伝子サイレンシングを誘発する方法である。当該技術分野においては、サイレンシングRNAの送達のためのさまざまな方法およびDNA構築物が利用可能である。
【0037】
「サイレンシングRNA」とは、本明細書では、相補的mRNA分子に対する塩基対合により、配列特異的に標的遺伝子をサイレンシングすることができる、低分子RNAとして定義される。サイレンシングRNAは、詳細には、低分子干渉RNA(siRNA)およびマイクロRNA(miRNA)を含む。
【0038】
当初、植物にサイレンシングRNAを送達するためのDNA構築物は、前記植物において活性なプロモーターの転写制御下で、標的遺伝子のcDNAの300bp以上(一般的には300〜800bp、ただしさらに短い配列が効率のよいサイレンシングを誘発することもある)のフラグメントを含んでいた。現在、より広く使用されているサイレンシングRNA構築物は、ヘアピンRNA(hpRNA)転写産物を産生することのできる構築物である。これらの構築物においては、標的遺伝子のフラグメントは、通常は反復間にスペーサー領域を伴って、逆反復している(精査のためには、WATSONら、2005を参照のこと)。同様に、サイレンシングすべき遺伝子に対する人工的マイクロRNA(amiRNA)を使用することもできる(植物中の、詳細にはamiRNAを含む、サイレンシングRNAの設計および利用分野についての精査のためには、例えばOSSOWSKIら(Plant J.,53、674〜90、2008)を参照のこと)。
【0039】
本発明は、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された一つ以上の標的遺伝子をサイレンシングするための手段、詳細には前記遺伝子を標的化するhpRNAまたはamiRNAのための発現カセットを含む手段を提供するものである。
【0040】
本発明の発現カセットは、例えば、
−植物細胞中で機能するプロモーターと、
−OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された標的遺伝子のcDNAもしくはその相補体のフラグメントを各々が含むか、または、前記フラグメントと少なくとも95%、そして順に好適度が高くなる、少なくとも96%、97%、98%もしくは99%の同一性を各々が有する、200〜1000bp、好ましくは300〜900bpの一つ以上のDNA構築物であり、前記プロモーターの転写制御下に置かれているDNA構築物と
を含んでいてよい。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によると、hpRNAのための発現カセットは、
−植物細胞中で機能するプロモーターと、
−転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するヘアピンRNAを形成することのできる、一つ以上のヘアピンDNA構築物と
を含むものであり、前記一つまたは複数のDNA構築物は、前記プロモーターの転写制御下に置かれている。
【0042】
一般に前記ヘアピンDNA構築物は、
i)標的遺伝子のcDNAのフラグメントで構成されるか、または前記フラグメントと少なくとも95%の同一性、そして順に好適度が高くなる、少なくとも96%、97%、98%または99%の同一性を有する、200〜1000bp、好ましくは300〜900bpの第一のDNA配列、
ii)前記第一のDNAの相補体である第二のDNA配列であり、前記第一および第二の配列は相対する配向にあり、ならびに、
iii)前記第一および第二のDNA配列が転写されると、単一の二本鎖RNA分子を形成できるように、これらの第一および第二の配列を分離する、スペーサー配列
を含む。
このスペーサーは、DNAのランダムなフラグメントであり得る。しかしながら好ましくは、標的植物細胞によりスプライシング可能であるイントロンを使用することができる。そのサイズは、一般的に長さが400〜2000ヌクレオチドである。
【0043】
本発明の別の好ましい実施形態によると、amiRNAのための発現カセットは、
−植物細胞中で機能するプロモーターと、
−転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するamiRNAを形成することのできる、一つ以上のDNA構築物と
を含むものであり、前記一つまたは複数のDNA構築物は、前記プロモーターの転写制御下に置かれている。
【0044】
有利には、本発明の発現カセットは、OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物を含む。特に好ましい実施形態によると、該発現カセットは、OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化するDNA構築物、ならびにREC8を標的化するDNA構築物を含む。
【0045】
植物中の異種遺伝子の発現に適したプロモーターの幅広い選択肢が当該技術分野において利用可能である。
【0046】
これらは、植物、植物ウイルス、またはアグロバクテリウム(Agrobacterium)のような細菌から得ることができる。これらは、構成的プロモーター、すなわち、大部分の組織と細胞において、そして大部分の環境条件下で活性であるプロモーター、ならびに、一部の組織または一部の細胞型においてのみ、またはそれらにおいて主に活性である、組織特異的または細胞特異的プロモーター、および、線虫感染症からもたらされるような物理的または化学的刺激によって活性化される誘導性プロモーターを含む。
【0047】
植物細胞において一般的に使用される構成的プロモーターの非限定的な例として、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、Nosプロモーター、ルビスコプロモーター、キャッサバ葉脈モザイクウイルス(CsVMV)プロモーターがある。
【0048】
本発明において利用可能である器官または組織特異的プロモーターには、詳細には、減数分裂関連発現を付与できるプロモーター、例えばDMC1プロモーター(KLIMYUK & JONES、Plant J、11、1−14、1997)が含まれる。遺伝子OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはREC8の内因性プロモーターのいずれかを使用することもできる。
【0049】
本発明のDNA構築物は一般的に、転写ターミネーターをも含んでいる(例えば35S転写ターミネーターまたはノパリンシンターゼ(Nos)転写ターミネーター)。
【0050】
本発明は同様に、本発明のキメラDNA構築物を含む組換えベクターも含んでいる。従来、前記組換えベクターは、形質転換された宿主の選択を可能にする一つまたは複数のマーカー遺伝子も含んでいる。
【0051】
適切なベクターの選択およびその内部にDNA構築物を挿入するための方法は、当業者にとって周知である。ベクターの選択は、意図された宿主および前記宿主の意図された形質転換方法に左右される。双子葉植物または単子葉植物の数多くの植物種に、植物細胞または植物の遺伝形質転換のためのさまざまな方法を利用することが可能である。非限定的例として、ウイルス媒介性形質転換、マイクロインジェクションによる形質転換、エレクトロポレーションによる形質転換、微粒子銃媒介型形質転換、アグロバクテリウム媒介性形質転換などに言及することができる。
【0052】
本発明はまた、本発明の組換えDNA構築物を含む宿主細胞も提供している。前記宿主細胞は、原核細胞、例えばアグロバクテリウム細胞、または真核細胞、例えば本発明のDNA構築物によって遺伝的に形質転換された植物細胞であり得る。構築物は、一時的に発現されてよい。これを安定した染色体外レプリコンに取込むかまたは染色体に組込むことも可能である。
【0053】
SDR2n配偶子を産生することのできる植物を提供するための本発明による方法の好ましい実施形態によると、前記植物はトランスジェニック植物であり、前記方法は、
a)OSD1遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクターで、少なくとも一つの植物細胞を形質転換するステップと、
b)前記DNA構築物を含む導入遺伝子をそのゲノムに有する植物を再生するために、前記形質転換された植物細胞を栽培するステップと
を含む。
【0054】
アポマイオシス性配偶子を産生することのできる植物を得るための本発明による方法の好ましい実施形態によると、前記植物はトランスジェニック植物であり、前記方法は、
a)OSD1遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクター、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクター、ならびにREC8遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクターで、少なくとも一つの植物細胞を形質転換するステップと、
b)前記DNA構築物を含む導入遺伝子をそのゲノムに有する植物を再生するために、前記形質転換された植物細胞を栽培するステップと
を含む。
【0055】
アポマイオシス性配偶子を産生することのできる植物を得るための本発明の方法の別の好ましい実施形態によると、前記植物はトランスジェニック植物であり、前記方法は、
a)OSD1遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクター、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物、ならびにREC8遺伝子を標的化する本発明のDNA構築物を含むベクターで、少なくとも一つの植物細胞を形質転換するステップと、
b)前記DNA構築物を含む導入遺伝子をそのゲノムに有する植物を再生するために、前記形質転換された植物細胞を栽培するステップと
を含む。
【0056】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる、SDR2n配偶子またはアポマイオシス性配偶子を産生することのできる植物を包含する。
【0057】
これには、詳細には、
−この突然変異の結果OSD1タンパク質が阻害される、OSD1遺伝子内の突然変異、
−この突然変異の結果、遺伝子によりコードされるSPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1タンパク質が阻害される、SPO11−1、SPO11−2、PRD1またはPAIR1遺伝子から選択された遺伝子内の突然変異と、
−この突然変異の結果Rec8タンパク質が阻害される、REC8遺伝子内の突然変異と
を含む植物が含まれる。
【0058】
これには同様に、本発明の一つ以上のDNA構築物によって遺伝的に形質転換された植物も含まれる。好ましくは、前記植物はトランスジェニック植物であり、ここで、前記構築物は植物ゲノムに組込まれた導入遺伝子に含まれ、その結果、連続する植物世代へと伝えられる。
【0059】
OSD1タンパク質の下方調節をもたらす、OSD1遺伝子を標的化するキメラDNA構築物の発現は、前記トランスジェニック植物に、2nSDR配偶子を産生する能力を提供する。OSD1遺伝子を標的化するキメラDNA構築物、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化するキメラDNA構築物、ならびにREC8遺伝子を標的化するキメラDNA構築物の共発現は、これら三つの遺伝子によりコードされるタンパク質の下方調節をもたらし、前記トランスジェニック植物に、アポマイオシス性配偶子を産生する能力を提供する。
【0060】
本発明はまた、本発明の方法により得ることのできる植物を栽培するステップおよび前記植物により産生される配偶子を回収するステップを含む、SDR2n配偶子を産生するための方法をも包含している。好ましくは、前記配偶子は、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%の生存可能な2n配偶子を含む。
【0061】
本発明はまた、本発明の方法により得ることのできる植物を栽培するステップおよび前記植物により産生される配偶子を回収するステップを含む、アポマイオシス性配偶子を産生するための方法をも包含している。好ましくは、前記配偶子は、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%の、そして順に好適度が高くなる、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%の生存可能なアポマイオシス性配偶子を含む。
【0062】
本発明は、広範な農学的に有利な単子葉または双子葉植物に適用される。非限定的例としては、ジャガイモ、イネ、小麦、トウモロコシ、トマト、キュウリ、アルファルファ、サトウキビ、サツマイモ、マニオック、クローバ、大豆、ホソムギ、バナナ、メロン、スイカ、綿花、または例えばバラ、ユリ、チューリップおよびスイセンのような観賞植物に言及することができる。
【0063】
本発明の以上のおよびその他の目的および利点は、以下の詳細な説明および添付図面からさらに明らかになるものである。ただし、この以上の詳細な説明は例示的なものであり、本発明を制限する趣旨のものではない。
【実施例】
【0064】
実験手順
【0065】
植物材料と成長条件
【0066】
シロイヌナズナ植物を、VIGNARDら、(PLoS Genet、3、1894−906、2007)に記載されている通りに栽培した。発芽検定およびサイトメトリー実験のために、Arabidopsisをインビトロで、21℃で昼間16時間/夜間8時間の光周期で、そして70%の湿度測定で、Arabidopsis培地(ESTELLE & SOMERVILLE、Mol.Gen.Genet.、206、200−06、1987)において栽培した。
【0067】
遺伝分析
【0068】
二つのプライマー対を用いて、PCR(94℃で30秒、56℃で30秒および72℃で1分のサイクル30回)によって植物の遺伝子型を決定した。各々の遺伝子型について、プライマー対を表Iに示し、挿入に特異的なプライマー対を表IIに示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
osd1−1(No−0)/osd1−2(Ler)×Col−0 F1集団およびosd1−(No−0)/spo11−1(Co1−0)/rec8(Co1−0)三重変異体×LesF1集団の遺伝子型を決定するために用いられる遺伝子マーカーが表IIIに列挙されている。PCR条件は、94℃で30秒、Tmで30秒、そして72℃で30秒のサイクル40回であった。
【0072】
【表3】
【0073】
これらのマーカーを、示されたプライマーを用いて増幅させ(94℃で30秒、58℃で30秒そして72℃で30秒のサイクル40回)、3%のアガロースゲル上の泳動後に観察した。
【0074】
Eco47III/HpaII二重消化の後にCAPS K4 10355を観察した。osd1−1およびosd1−2の挿入境界に特異的な二つのプライマー対を、染色体3上のマーカーとして使用した。
【0075】
細胞学およびフローサイトメトリー:
【0076】
AZUMIら(Embo J、21、3081−95.、2002)に記載されている通りに、最終的な減数分裂産物を観察し、40倍の乾燥対物レンズの備わった従来の光学顕微鏡で検分した。染色体の拡散および観察を、MERCIERら、(Biochimie、83、1023−28、2001)に記載された技術を用いて実施した。オープンLAB40.4ソフトウェアを用いて、花粉精核のDNA蛍光発光を定量化した。各々の核について、周囲のバックグラウンドを計算し、核の全体的な蛍光発光から減算した。DAPIを用いてDNAを対比染色したということを除いて、MERCIERら(Genes Dev、15、1859−71、2001)に記載されているプロトコルにしたがって、減数分裂紡錘体を観察した。観察は、LeicaのSP2共焦点顕微鏡を用いて行なわれた。xyz方向で63倍の水浸対物レンズを用いて画像を収集し、Leicaソフトウェアを用いて3次元再構成を行った。投影が示される。各々Alexa Fluor488およびDAPIを用いて、488nmと405nmの励起で細胞を撮像した。標準としてトマト、Lycopersicon esculentum cv「Montfavet」を用いて、MARIE & BROWN、(Biol Cell、78、41−51、1993)に記載されている通りに、Arabidopsisのゲノムサイズを測定した(2C=1.99pg、%GC=40.0%)。
【0077】
実施例1:osd1変異体による2倍体配偶子の産生
【0078】
AtGenExpress組織セット(SCHMIDら、Nat Genet、37、501−6、2005)と共にExpression Anglerツール(TOUFIGHIら、Plant J、43、153−63、2005)を用いた、減数分裂遺伝子のための発現プロファイリングスクリーニングの一部として、複数の公知の減数分裂遺伝子とのその同時調節に起因して優れた候補として、At3g57860を選択した。At3g57860は、そのパラログUVI4遺伝子の研究(HASEら、Plant J、46、317−26、2006)に手短に記載されているUVI4様遺伝子(UVI4−L)に対応する。減数分裂におけるその役割に起因して(以下参照)、我々は、At3g57860遺伝子を、omission of second division(第二分裂の脱落)を略してOSD1と再命名した。OSD1およびUVI4タンパク質は、植物界全体に保存されているが、明らかな公知の保存された機能的ドメインを全く含んでいない。植物界以外では、いかなるホモログも同定されなかった。
【0079】
我々は、二つの変異体を単離、そして特徴づけすることによって、OSD1遺伝子の役割を調査した。osd1−1(pst15307)およびosd1−2(GT21481)Ds挿入突然変異体は、各々Nooseen(No−0)およびLandsberg(Ler)バックグラウンドにあり、両方のケースで、挿入はOSD1遺伝子の第二エクソンにある。
【0080】
OSD1遺伝子のイントロン/エクソン構造および二つの異なるDs挿入の場所は、図2に示されている。OSD1遺伝子は三つのエクソンと二つのイントロンを含み、243個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。二つのDs挿入の位置は、三角形によって示されている。
【0081】
図3は、野生型植物における減数分裂を表わし、図4はosd1変異体における減数分裂を表す。
【0082】
図3の凡例:(A)太糸期。相同染色体が完全に接合している。(B)移動期。キアズマにより連結された五対の相同染色体(二価)が観察される。(C)中期I。五つの二価染色体が中期板上に整列している。(D)後期I。相同染色体は分離している。(E)終期I。(F)中期II。姉妹染色分体の対が中期板上で整列している。(G)後期II。姉妹染色分体は分離している。(HおよびI)終期II。四つの半数体胞子が形成される(四分染色体)。スケールバー=10μm。
【0083】
図4の凡例:(AおよびB)トルイジンブルーで染色した雄性減数分裂産物。(A)野生型四分染色体。(B)osd1−1変異体内の二分染色体。(C〜D)osd1内の雄性減数分裂は、終期Iまでは野生型と区別不能である(図3と比較されたい)が、第二分裂に特徴的な形態は一切観察されなかった。(C)太糸期。(D)移動期。(E)中期I。(F)後期I。(G)終期I。(H)osd1内の雌性減数分裂の中期I。
【0084】
両方の独立したosd1変異体において、雄性減数分裂の産物は、四分染色体ではなく二分染色体であった(osd1−1:714/714 osd1−2:334/334)(図4AおよびB)。osd1−1とosd1−2の間の相補性試験は、これらの突然変異が対立遺伝子変異である(osd1−1/osd1−2:369dyads/369)ことを確認し、したがって、観察された二分染色体がOSD1遺伝子の分断に起因することを実証した。Osd1変異体は、体細胞発生上の欠陥、雄性および雌性配偶体の致死性または受精率低下を全く示さなかった(野生型では果実1個あたり38±11の種子、osd1では果実1個あたり35±6)。
【0085】
次に、我々は2倍体osd1変異体の子孫の間で倍数性レベルを測定した。自殖後代の中には、4倍体(84%)および3倍体(16%)が見られたが、2倍体植物は全く観察されなかった(osd1−1:n=56、osd1−2:n=24)。変異体花粉を使用して野生型植物を受精した場合、得られた後代は全て3倍体であった(osd1−1:n=75)。変異体胚珠を野生型花粉粒で受精した場合、12%の2倍体植物および88%の3倍体植物を単離した(n=25)。このことは、osd1変異体が高レベルの雄性(100%)および雌性(約85%)2倍体胞子を産生し、これが機能的配偶子をもたらすということを実証した。
【0086】
osd1中の二分染色体の産生を導く機序を解明するために、我々は、減数分裂中の染色体の挙動を調査した。雄性および雌性減数分裂Iは、野生型から区別不能であった(図4と図3を比較のこと)。とりわけ、交差の細胞学的徴候であるキアズマ、および二価染色体が観察された。しかしながら、(前期から胞子形成までの500超の雄性減数分裂細胞のうち)いかなる減数分裂IIの形態も発見することはできず、このことは、二分染色体の産生が第二減数分裂の欠如に起因することを強く示唆していた。この第二分裂が起こらない場合には、動原体におけるヘテロ接合は、第一分裂中の姉妹染色分体の同時分離およびホモログの分離を理由として、2倍体配偶子でことごとく喪失される。組換えのため、動原体に連結されていないあらゆる遺伝子座が分離する。我々は、osd1−1変異体(No−0)およびosd1−2変異体(Ler)の二つの異なる遺伝的バックグラウンドを利用することによって、我々の仮説を試験した。二つの突然変異を有するF1植物(osd1についての変異体および任意のNo−0/Ler多型に対するヘテロ接合体)を、雄または雌として第3の遺伝的バックグラウンドColumbia(Col−0)に対し交雑させた。三形性分子マーカーについて得られた植物の核型および遺伝子型を決定することにより、花粉粒の遺伝的構成、および変異体により産生された雌性配偶体についての直接的な情報が得られた。試験した全ての2倍体配偶子は、予測された遺伝的特性を有していた。これらは、系統的に動原体においてホモ接合性であり、その他の遺伝子座では、組換えを理由として、分離性であった(雄性2倍体配偶子についてn=48、そして雌性2倍体配偶子についてはn=41)。これらの結果は、第二減数分裂の不在が実際に、osd1における2n配偶子産生の原因であることを確認した。この機序は同様に、減数分裂Iにおける不均衡な染色体分離がosd1における不均衡な二分染色体を発生させると考えられることも意味している。このことは、二重Atsp11−1/osd1−1変異体を分析することによって確認された(データは示さず)。
【0087】
第二減数分裂の不在に起因して、osd1変異体は、高頻度の生存可能な雄性および雌性配偶体を産生し、これは受精の後、生存可能な4倍体植物を生成する。ただし、この現象は、産生された配偶子が母植物と遺伝的に異なるという点で、アポマイオシスと異なっている。
【0088】
実施例2:三重osd1/Atrec8/Atspo11−1変異体によるアポマイオシス性配偶子の産生
【0089】
二重Atspo11−1/Atrec8変異体において、第一の減数分裂は、有糸分裂様の分裂により置換され、その後に、不均衡な胞子および不稔性を導く不均衡な第二分裂が続く(CHELYSHEVAら、J Cell Sci、118、4621−32、2005)。
【0090】
我々は、osd1/Atrec8/Atspo11−1変異体を生成した。Atspo11−1およびAtrec8突然変異の両方についてヘテロ接合性の植物は、各突然変異についてヘテロ接合性である植物を交雑することによって得られるものであり、これらをosd1についてヘテロ接合性である植物と交雑した。同定された三重ヘテロ接合性植物を自家受精させ、三つの突然変異についてホモ接合性である植物を分析した。
【0091】
これらの変異体の雄性および雌性減数分裂中の染色体挙動の観察結果が、図5に示されている。
【0092】
図5の凡例:(A)雄性中期I。(B)雄性後期I。写真は、MiMe中の二分染色体を示す。(C)雌性中期I。(D)雌性後期I。スケールバー=10μm。
【0093】
これらの観察結果は、有糸分裂様の分裂、すなわち中期板上に整列した10個の一価染色体そして後期で分離した姉妹染色分体を明らかにした(図5)。
【0094】
Atspo11−1およびAtrec8突然変異は、有糸分裂様の第一の減数分裂を導き、osd1突然変異は、第二の減数分裂が発生するのを妨げる。この結果、有糸分裂様の分裂による減数分裂の置換およびアポマイオシスがもたらされる。
【0095】
我々はこの遺伝子型を「減数分裂に代る有糸分裂(mitosis instead of meiosis)」を略してMiMeと呼んだ。MiMe植物は、二分染色体(408/408)を生成し、繁殖力に富む(果実1個あたり25±6個の種子)。したがってosd1突然変異はAtspo11−1/Atrec8二重変異体の不稔性表現型を抑制した。
【0096】
MiMe植物の自殖後代は、系統的に4倍体(n=24)であり、2倍体MiMe植物と野生型植物の間の戻し交配は、雄性(n=24)または雌性(n=67)MiMe配偶子のいずれが使用されるかに関わらず3倍体植物を生成し、この有糸分裂様の分裂が機能的2倍体配偶子を発生させることを示した。以上で記述した通りに同様の要領で試験した全ての配偶子(雄性および雌性)は、試験された全ての遺伝子マーカーについて母植物のヘテロ接合性を系統的に保持し、こうして遺伝的に母植物と同一であった。これらの結果は、MiMe植物が、その後の性的プロセスに影響を及ぼすことなく、正常な減数分裂の代りに有糸分裂様の分裂を起こすことを確認している。
【0097】
減数分裂が有糸分裂により置換された場合、各世代で倍数性は2倍になると予想される。これは、図6に示されている通り、MiMe植物で観察された。
【0098】
図6の凡例:左欄:有糸分裂中期、スケールバー=10μm。右欄:対応する4週齢の植物(スケールバー=2cm)および花(スケールバー=1mm)。
【0099】
後続する世代において、我々は4倍体(4N、20染色体、n=26)および8倍体(8N、40染色体、n=33)を得た。
【0100】
実施例3:Arabidopsis OSD1遺伝子のイネオルソログの同定
【0101】
Oryza sativaゲノムは、二つのOSD1/UVI4ホモログ候補(Os02g37850およびOs04g39670)を含む。我々は、この推定ホモログの一つ(Os02g37850)の中で二つのT−DNA挿入突然変異体を単離した。二つの系列AMBA12およびAMQF10の遺伝子型をPCRにより決定して、ホモ接合体を選択した。両方の系列において、2倍体変異体植物の子孫の中に自然発生的な4倍体植物が観察され、これは、機能的な雄性および雌性の2n配偶子の産生を示唆していた(AMBA12:100%の4倍体、n=30;AMQF10 37%の4倍体、n=27)。次に我々は、AMB12変異体内の減数分裂産物を研究し(n>400)、図7により示されている通り、四分染色体に代って100%の二分染色体の産生を観察した。
【0102】
図7の凡例:A:野生型における胞子の四分染色体、B:AMB12における胞子の二分染色体。
【0103】
この表現型は、Arabidopsis osd1変異体と同一である。AMBA12ホモ接合体変異体において二分染色体の産生を導く機序を解明するため、我々は減数分裂中の染色体の挙動を調査した。減数分裂Iは、野生型と区別不能であった。とりわけ、交差の細胞学的徴候であるキアズマ、および二価染色体が観察された。しかしながら、いかなる減数分裂IIの形態も発見することはできず、このことは、2N胞子の産生がArabidopsis osd1の場合と同様、第二減数分裂の欠如に起因することを強く示唆している。全体として、これらの結果は、Os02g37850がArabidopsis OSD1の機能的ホモログであることを示しており、したがってそれをOsOSD1と呼んだ。OSD1およびOsOSD1タンパク質は、配列の全長を網羅するアラインメントで23.6%の同一性と35%の類似性を有する(EMBossペアワイズアラインメントNeedleツール)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物を得るための方法であり、前記方法が、以下OSD1タンパク質と呼ぶタンパク質の前記植物における阻害を含み、前記タンパク質が、配列番号1のAtOSD1タンパク質または配列番号35のOsOSD1タンパク質と、少なくとも20%の配列同一性または少なくとも29%の配列類似性を有する、第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物を得るための方法。
【請求項2】
OSD1タンパク質の阻害が、OSD1遺伝子またはそのプロモーターの突然変異誘発によって得られ、OSD1タンパク質活性を部分的または完全に喪失した変異体が選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
OSD1タンパク質の阻害が、前記タンパク質をコードする遺伝子を標的化するサイレンシングRNAを前記植物で発現させることによって得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るための方法であり、前記方法が、
a)請求項1に記載のOSD1タンパク質と、
b)植物における減数分裂性組換えの開始に関与するタンパク質であって、
i)以下SPO11−1タンパク質と呼ばれる、配列番号2のSPO11−1タンパク質と少なくとも40%の配列同一性または少なくとも60%の配列類似性を有するタンパク質、
ii)以下SPO11−2タンパク質と呼ばれる、配列番号3のSPO11−2タンパク質と少なくとも40%の配列同一性または少なくとも60%の配列類似性を有するタンパク質、
iii)以下PRD1タンパク質と呼ばれる、配列番号4のPRD1タンパク質と少なくとも25%の配列同一性または少なくとも35%の配列類似性を有するタンパク質、
iv)以下PAIR1タンパク質と呼ばれる、配列番号5のPAIR1タンパク質と少なくとも30%の配列同一性または少なくとも40%の配列類似性を有するタンパク質、
から選択されるタンパク質と、
c)以下Rec8タンパク質と呼ばれる、配列番号6のRec8タンパク質と少なくとも40%の配列同一性または少なくとも45%の配列類似性を有するタンパク質と、
を前記植物において阻害するステップを含むことを特徴とする、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るための方法。
【請求項5】
OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはRec8タンパク質の少なくとも一つの阻害が、前記タンパク質をコードする遺伝子またはそのプロモーターの突然変異誘発によって得られ、前記タンパク質の活性を部分的または完全に喪失した変異体が選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはRec8タンパク質の少なくとも一つの阻害が、前記タンパク質をコードする遺伝子を標的化するサイレンシングRNAを前記植物において発現させることにより得られることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
−植物細胞中で機能的するプロモーターと、
−a)OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された標的遺伝子のcDNAもしくはその相補的DNAのフラグメントを各々含む、または前記フラグメントと少なくとも95%の同一性を各々有する、200〜1000bpの一つ以上のDNA構築物であり、前記一つまたは複数のDNA配列が前記プロモーターの転写制御下に置かれているDNA構築物と、
b)転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するヘアピンRNAを形成することのできる一つ以上のヘアピンDNA構築物と、
c)転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するamiRNAを形成することのできる一つ以上のDNA構築物
から選択された少なくとも一つのDNA構築物と、
を含み、前記一つまたは複数のDNA構築物が前記プロモーターの転写制御下に置かれていることを特徴とする、発現カセット。
【請求項8】
OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物を含むことを特徴とする、請求項7に記載の発現カセット。
【請求項9】
OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化するDNA構築物、ならびにREC8を標的化するDNA構築物を含むことを特徴とする、請求項7に記載の発現カセット。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の発現カセットを含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項11】
請求項8に記載の発現カセットを含む導入遺伝子を含むトランスジェニック植物であることを特徴とする、第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物。
【請求項12】
請求項4〜6のいずれかに記載の方法によって得ることのできる、アポマイオシス性配偶子を産生する植物。
【請求項13】
請求項9に記載の発現カセットを含む導入遺伝子を含むトランスジェニック植物であることを特徴とする、請求項12に記載の植物。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によって得ることのできる植物を栽培するステップと、前記植物により産生された配偶子を回収するステップとを含むことを特徴とする、第二分裂を行わない2n配偶子を産生するための方法。
【請求項15】
請求項4〜6のいずれかに記載の方法により得ることのできる植物を栽培するステップと、前記植物により産生された配偶子を回収するステップとを含むことを特徴とする、アポマイオシス性配偶子を産生するための方法。
【請求項1】
第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物を得るための方法であり、前記方法が、以下OSD1タンパク質と呼ぶタンパク質の前記植物における阻害を含み、前記タンパク質が、配列番号1のAtOSD1タンパク質または配列番号35のOsOSD1タンパク質と、少なくとも20%の配列同一性または少なくとも29%の配列類似性を有する、第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物を得るための方法。
【請求項2】
OSD1タンパク質の阻害が、OSD1遺伝子またはそのプロモーターの突然変異誘発によって得られ、OSD1タンパク質活性を部分的または完全に喪失した変異体が選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
OSD1タンパク質の阻害が、前記タンパク質をコードする遺伝子を標的化するサイレンシングRNAを前記植物で発現させることによって得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るための方法であり、前記方法が、
a)請求項1に記載のOSD1タンパク質と、
b)植物における減数分裂性組換えの開始に関与するタンパク質であって、
i)以下SPO11−1タンパク質と呼ばれる、配列番号2のSPO11−1タンパク質と少なくとも40%の配列同一性または少なくとも60%の配列類似性を有するタンパク質、
ii)以下SPO11−2タンパク質と呼ばれる、配列番号3のSPO11−2タンパク質と少なくとも40%の配列同一性または少なくとも60%の配列類似性を有するタンパク質、
iii)以下PRD1タンパク質と呼ばれる、配列番号4のPRD1タンパク質と少なくとも25%の配列同一性または少なくとも35%の配列類似性を有するタンパク質、
iv)以下PAIR1タンパク質と呼ばれる、配列番号5のPAIR1タンパク質と少なくとも30%の配列同一性または少なくとも40%の配列類似性を有するタンパク質、
から選択されるタンパク質と、
c)以下Rec8タンパク質と呼ばれる、配列番号6のRec8タンパク質と少なくとも40%の配列同一性または少なくとも45%の配列類似性を有するタンパク質と、
を前記植物において阻害するステップを含むことを特徴とする、アポマイオシス性配偶子を産生する植物を得るための方法。
【請求項5】
OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはRec8タンパク質の少なくとも一つの阻害が、前記タンパク質をコードする遺伝子またはそのプロモーターの突然変異誘発によって得られ、前記タンパク質の活性を部分的または完全に喪失した変異体が選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1またはRec8タンパク質の少なくとも一つの阻害が、前記タンパク質をコードする遺伝子を標的化するサイレンシングRNAを前記植物において発現させることにより得られることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
−植物細胞中で機能的するプロモーターと、
−a)OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された標的遺伝子のcDNAもしくはその相補的DNAのフラグメントを各々含む、または前記フラグメントと少なくとも95%の同一性を各々有する、200〜1000bpの一つ以上のDNA構築物であり、前記一つまたは複数のDNA配列が前記プロモーターの転写制御下に置かれているDNA構築物と、
b)転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するヘアピンRNAを形成することのできる一つ以上のヘアピンDNA構築物と、
c)転写されると、OSD1、SPO11−1、SPO11−2、PRD1、PAIR1およびREC8から選択された遺伝子を標的化するamiRNAを形成することのできる一つ以上のDNA構築物
から選択された少なくとも一つのDNA構築物と、
を含み、前記一つまたは複数のDNA構築物が前記プロモーターの転写制御下に置かれていることを特徴とする、発現カセット。
【請求項8】
OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物を含むことを特徴とする、請求項7に記載の発現カセット。
【請求項9】
OSD1遺伝子を標的化するDNA構築物、SPO11−1、SPO11−2、PRD1およびPAIR1から選択された遺伝子を標的化するDNA構築物、ならびにREC8を標的化するDNA構築物を含むことを特徴とする、請求項7に記載の発現カセット。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の発現カセットを含むことを特徴とする、組換えベクター。
【請求項11】
請求項8に記載の発現カセットを含む導入遺伝子を含むトランスジェニック植物であることを特徴とする、第二分裂を行わない2n配偶子を産生する植物。
【請求項12】
請求項4〜6のいずれかに記載の方法によって得ることのできる、アポマイオシス性配偶子を産生する植物。
【請求項13】
請求項9に記載の発現カセットを含む導入遺伝子を含むトランスジェニック植物であることを特徴とする、請求項12に記載の植物。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によって得ることのできる植物を栽培するステップと、前記植物により産生された配偶子を回収するステップとを含むことを特徴とする、第二分裂を行わない2n配偶子を産生するための方法。
【請求項15】
請求項4〜6のいずれかに記載の方法により得ることのできる植物を栽培するステップと、前記植物により産生された配偶子を回収するステップとを含むことを特徴とする、アポマイオシス性配偶子を産生するための方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【公表番号】特表2012−514467(P2012−514467A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544947(P2011−544947)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000184
【国際公開番号】WO2010/079432
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【国際出願番号】PCT/IB2010/000184
【国際公開番号】WO2010/079432
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【Fターム(参考)】
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