説明

3次元構造観察用の試料支持台及び分度器、並びに3次元構造観察方法

【課題】試料を常に電子顕微鏡の視野中心で保持可能な構成を採用しながら、簡素な構成で汎用性の高い3次元構造観察用の試料支持台及び分度器、並びに3次元構造観察方法を提供する。
【解決手段】基準姿勢から±一定角度範囲で回転可能な回転部材16の先端部に、ベース31と該ベース31に対して回転自在に配された試料支持部材32とを有する試料支持台30を、ホルダー10を介して設置する。また、試料支持台30に一定角度間隔で複数の角度目盛りが印された分度器40を組み付ける。試料支持部材32の指標34を分度器40の目盛り42に合わせながらベース31に対して一定角度間隔で段階的に回転させた複数の回転角度状態を維持させ、それぞれの回転角度状態において順次回転部材を±一定角度で回転させることで、試料を360°全方向から観察することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を360°全角傾斜させて3次元的に構造を観察可能な3次元構造観察用の試料支持台とこれに適した分度器、及びその3次元構造観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば観察対象たる試料の組織やその構造を観察する場合、高い空間分解能を有する透過電子顕微鏡(以下、TEM:Transmission Electron Microscopeと称すことがある)によって行うことが必要である。TEMは、電子線を試料に照射し、試料と相互作用して透過した電子線を結像・拡大表示する。TEMにより得られる像は、試料を透過した電子線の投影像であるため、ある一定角度から電子線を透過させた場合、試料の厚さ方向の情報は加算されて2次元像となり、この2次元的な像のみでは的確に試料構造等を把握することが困難である。そこで近年では、試料を360°全角傾斜して撮影した複数枚の像を組み合わせることで3次元的な像として再生し、厚さ方向の情報をも抽出できる3次元情報再生法(電子線トモグラフィー)が採用されている。これを採用した電子顕微鏡として、例えば特許文献1や特許文献2がある。
【0003】
ところで、一般的にTEM観察では、薄片状に形成された試料を、回転可能なロッドの先端部に設置されるホルダーのリング状試料支持台に固定している。そのうえで、例えば特許文献3のように、ホルダー及び試料支持台がそれぞれ互いに異なる方向へ一定の角度で傾斜可能な2軸傾斜機構を採用して、試料をxyz方向に任意に傾斜できるようになっているものがある。しかし、薄片状の試料を大きく傾斜させると、電子線の透過距離が大きくなってしまう。また、試料支持台を大きく傾斜させると、当該試料支持台が電子線の経路を塞いでしまう。さらに、高空間分解能のTEMほど電子レンズのギャップ(距離)は狭く設計されているため、ホルダーを挿入する試料室の幅は狭くなりホルダーの傾斜角度に限界がある。などの理由により、従来からの汎用TEMにおける試料の傾斜角度範囲は±70度程度であった。これでは、図9に示されるように、観察可能領域(角度)が限られて情報欠落領域(角度)が生じてしまい、試料を全角方向から観察できず3次元観察は根本的に不可能となる。
【0004】
そこで特許文献1では、試料の先端部を突起状に形成し、当該突起の軸心をロッド(及びホルダー)の回転軸と平行な状態で設置したうえで、ホルダーを360°全方向に回転させることで、上記問題を生じることなく全角傾斜観察すなわち3次元構造観察を可能としている。特許文献2では、ロッド先端のホルダーや試料支持台の詳細な構成が記載されていないが、試料の3次元構造観察に際して試料を360°全方向に回転させたとき、常に試料を電子顕微鏡の視野中心(ユーセントリック位置)に保持できる技術を提案している。その他、特許文献4には、針状の試料支持体の先端に試料を固定し、電子線の入射方向に対して直角な水平面にて360°周回可能な電子顕微鏡用ホルダーが開示されている。また、特許文献5には、ロッドの先端部に球体を設けることで試料をxyz方向へ任意に位置設定可能とすることで、3次元構造観察において試料を電子顕微鏡の視野中心で保持可能としている。
【0005】
【特許文献1】特許第3677895号公報
【特許文献2】特開2001−312989号公報
【特許文献3】特開平6−68828号公報
【特許文献4】特開2007−188905号公報
【特許文献5】特開2001−256912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、1軸全角傾斜機構なので、試料の突起部をロッドの回転軸上に正確に位置合わせする必要がある。そのために、わざわざ目印として光軸上に十字のパターンが挿入された光学顕微鏡により確認したりしているが、μm単位で正確に突起をロッドの回転軸上に位置合わせするには限界があると共に、その確認作業も煩雑である。突起部がロッドの回転軸からズレていると、試料傾斜時の視野ずれが数百μmになり操作性を損なうのみならず、焦点合わせが可能な視野が数μm角に限定されるという問題があり、観察可能な傾斜角度が極めて限定されることになる。つまり、設置当初〜低角傾斜において試料が電子顕微鏡の視野内に存在していても、高角傾斜させるにつれて試料が視野外へ外れてしまい、結果として図9に示すような情報欠落領域が生じてしまう。この問題は、TEMが高空間分解能仕様であり高い倍率で観察可能であればあるほど顕著となる。また、試料支持台へ設置した当初は試料がロッドの回転軸上にあったとしても、全角傾斜させながらTEM観察していくうちに、試料が観察電子線による熱振動や機械振動によりドリフトして、ロッドの回転軸から外れてしまう場合もある。1軸全角傾斜機構であれば、このような経時的な位置ズレに対応できない。
【0007】
これに対し特許文献2では、ロッドを回転、すなわち試料を全角傾斜させても試料が常に電子顕微鏡の視野中心で保持可能な構成となっているので、特許文献1のような問題は生じ難い。しかし、特許文献2ではロッド及びホルダーをxy方向で位置調整させたうえでこれを360度回転させているので、ホルダーを挿入する試料室を大きくする必要がある。これでは、電子レンズのギャップを狭く設計することができず、TEMの性能が低下してしまう。したがって、特許文献2のような視野中心で保持可能な構成を採用しながらも、従来のように試料の傾斜角度範囲は±70度程度が好ましい。
【0008】
特許文献3は薄片状の試料を試料支持台へ固定しているのみなので、3次元構造観察には適さない。特許文献4では、針状の試料支持棒の先端に試料を固定しているが、電子線の入射方向に対して直角な平面において周回する機構なので、やはり3次元構造観察には適さない。また、特許文献5は特殊な機構を採用しているので、汎用性に欠ける。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、試料を常に電子顕微鏡の視野中心で保持可能な構成を採用しながら、簡素な構成で汎用性の高い3次元構造観察用の試料支持台及び分度器、並びに3次元構造観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明で提案される試料支持台は、一定の角度範囲で回転可能な回転部材の先端に設けられたホルダーに設置され、電子顕微鏡における3次元構造観察用の試料支持台であって、薄板リング状のベースと、前記ベースの片面に回転自在に配され、その先端に試料を固定する長細状の試料支持部材とを有し、前記試料支持部材の先端は前記ベースの中心に向けて配され、その回転軸が前記回転部材の回転軸と略平行となっている。回転部材の回転軸と試料支持部材の回転軸とが略平行とは、試料支持部材は基本的には回転部材の回転軸と平行に配されるが、試料観察上の都合からその回転軸の方向が若干変更される場合もあり、その場合は両回転軸が若干ズレて完全には平行となっていない場合もあることを意味する。ここでの試料支持部材の形状は、その回転軸まわりに回転可能な細長形状であれば特に限定されない。例えば、円柱形であっても構わない。本発明におけるリング状ベースは、従来の電子顕微鏡における試料支持台に相当する。
【0011】
そのうえで、前記試料支持部材をその先端部が先窄まり状となった針形状に形成し、その先端頂部に棒状の試料を固定することが好ましい。また、前記試料支持部材の側面には、該試料支持部材の回転角度を示す指標を設けておくことが好ましい。当該指標は、試料支持部材の左右両側面に設けられていてもよいし、左右どちらか一方の側面に設けられていてもよい。
【0012】
また、本発明では、前記試料支持台を使用した3次元構造観察に際して好適に使用される分度器を提供することができる。具体的には、試料支持部材をベースに対して一定角度で回転させた状態を維持するために、前記3次元構造観察用の試料支持台に、前記試料支持部材と対向状に組み付けられ、前記試料支持部材との対向面には、正面視において前記試料支持部材を中心にして囲むように、一定角度間隔で複数の角度目盛りが印されている。
【0013】
この分度器は薄板部材であって、前記試料支持台のベースを挿入可能な開口が形成されており、当該開口に、前記試料支持部材の対向面側から前記ベースを挿入することで、前記分度器が前記ベースに対して直角に組み付けられる。
【0014】
前記ベースの片面には、前記分度器の挿入限界を規制するストッパーを設けておくことが好ましい。当該ストッパーは、試料支持部材と同じ面であると反対面であると問わない。また、前記ストッパーは、前記分度器を前記ベースの中心よりも前記試料支持部材の対向面側寄りにて位置規制可能な位置に設けておく。
【0015】
前記回転部材は、電子顕微鏡へ装着する際の奥行きを微調整する微動機構と、前記回転部材の回転軸に垂直な面内において前記回転部材位置を調整する第1の調整機構と、前記回転部材の電子顕微鏡鏡への装着角度を調整するための第2の調整機構と、によって回転軸が制御されており、当該回転部材の先端部にホルダーを介して前記試料支持部材が設置される。これにより、常に試料が電子顕微鏡の視野中心に保持されるよう、電子線に対する試料の位置や角度が制御される。
【0016】
また、前記試料支持台は、前記試料支持部材の回転軸に対して直交する方向の回転軸を中心として回転自在であり、前記回転部材の傾斜軸と前記ベースの傾斜軸とによって2軸傾斜可能となっている。
【0017】
このような試料支持台によって、本発明ではさらに次のような電子顕微鏡における3次元構造観察方法を提供することができる。すなわち、基準姿勢から±一定角度範囲で回転可能な回転部材の先端部に、ベースと該ベースに対して回転自在に配された試料支持部材とを有する試料支持台を、ホルダーを介して設置する。そして、前記試料支持部材を前記ベースに対して一定角度間隔で段階的に回転させた複数の回転角度状態を維持させ、それぞれの回転角度状態において順次前記回転部材を±一定角度で回転させることで、試料を360°全方向から観察することができる。
【0018】
さらに、前記試料支持台に一定角度間隔で複数の角度目盛りが印された分度器を組み付ければ、前記試料支持部材の段階的な回転角度状態の変更を、前記試料支持部材の側面に設けられた指標を前記分度器の目盛りに合わせることで行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の試料支持台によれば、回転部材自体は一定の角度範囲で回転可能となっているだけであるが、試料支持部材をベースの片面に回転自在に配していることで、試料支持部材の回転角度と回転部材の回転角度とを組み合わせることで、容易に試料を360°全方向から観察、すなわち電子顕微鏡において3次元構造観察用をすることができる。従来の試料支持台に相当するベースに、細長状の試料支持部材を回転自在に配しただけの簡単な構成となっているので、従来からの電子顕微鏡にそのまま適用することができ、汎用性も高い。このとき、試料支持部材の先端をベースの中心に向けて配してあれば、試料支持部材の先端に固定される観察用試料をベースの中心に位置させることができる。また、試料支持部材の回転軸が回転部材の回転軸と略平行となっていれば、回転部材の回転に伴い試料を回転させることができ、かつ回転部材の回転軸を微調整することで、試料を電子顕微鏡の視野中心にて回転させることができる。
【0020】
試料支持部材を針形状に形成しておけば、その先端頂部に試料を固定するだけで、的確に試料を試料支持部材の断面中心、すなわち試料支持部材の回転軸上に位置させることができる。また、試料を棒状に形成しておけば、例えば薄板形状の試料のように、試料自体の形状によって情報欠落領域が生じることなく確実に360°全方向からの観察が可能となり、3次元構造観察用に適している。
【0021】
試料支持部材の側面に指標を設けていれば、当該試料支持部材をベースに対して回転させた角度を的確かつ容易に把握することができる。
【0022】
その際、試料支持部材を中心にして囲むように一定角度間隔で複数の角度目盛りが印された分度器を使用し、試料支持部材の指標を分度器の目盛りに合わせて回転させれば、試料支持部材のベースに対する回転角度をより的確かつ容易に把握することができる。また、試料支持部材をベースに対して段階的に回転させる場合には、各回転角度状態の角度間隔を均等化し易い。
【0023】
ベースに分度器の挿入限界を規制するストッパーを設けて、分度器をベースの中心よりも試料支持部材の対向面側(反対側)に位置規制可能としていれば、試料を観察するに当たり分度器が試料と接触することを避けられ、かつ分度器が電子線を遮蔽することもないので、確実に試料の3次元構造観察が可能となる。
【0024】
試料支持台を回転軸の角度調整可能な回転部材の先端部に設けることで、常に試料が電子顕微鏡の視野中心に保持されるよう、電子線に対する試料の位置や角度が制御されていれば、試料を360°回転させても試料が電子顕微鏡の視野外へ外れるおそれはないので、情報欠落領域が生じることを回避できる。また、試料支持台が2軸傾斜可能となっていれば、試料が試料支持部材の先端に傾斜して固定されていても、試料を試料支持部材の回転軸と平行になるよう調整できる。
【0025】
回転部材を基準姿勢から±一定角度範囲のみで回転可能な構成としていれば、試料を観測する試料室を大きくする必要がないので、電子レンズのギャップを小さくでき、電子顕微鏡の空間分解能を高水準にできる。また、この構成は従来からの汎用電子顕微鏡にも採用されている構成と同様なので、電子顕微鏡を特殊な構成を採用する必要がなく汎用性が高い。そのうえで、試料支持部材をベースに対して一定角度間隔で段階的に回転させた複数の回転角度状態を維持させ、それぞれの回転角度状態において順次前記回転部材を±一定角度で回転させれば、簡素な構成の試料支持台を使用しながら確実に試料を360°全方向から観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明するが、これに限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。図1に、本発明の試料支持台及び分度器、並びに3次元構造観察方法が主に適用される透過型電子顕微鏡(TEM)の概略構成図を示す。図1において、TEM1は従来からの一般的なものと同様であり、上方から電子銃(フィラメント)2と、第1収束レンズ3と、第2収束レンズ4と、対物レンズ5と、中間レンズ6と、投射レンズ7と、蛍光板8と、カメラ9とを有し、第2収束レンズ4と対物レンズ5との間の試料室内に観察対象たる試料S(図1には図示せず)を保持するホルダー10が配されている。なお、第1収束レンズ3及び第2収束レンズ4が照射系であり、対物レンズ5、中間レンズ6、および投射レンズ7が結像系である。電子銃2から照射された電子線Eは、第1・第2の収束レンズ3・4によりスポット状に収束されて試料Sを透過する。電子線Eが試料Sを透過することで、試料Sから二次電子が放出される。試料Sを透過した二次電子は対物レンズ5により結像され、その像は投射レンズ7により拡大され、蛍光板8に投影される。蛍光板8に投影された透過電子像は、カメラ9を介して図外のモニターに表示される。符号14は、TEM1の筐体である。試料Sは、ロッド16の角度等を調整する試料傾斜機構15により電子線軸上でその位置や角度を変更調整可能で、試料Sを電子顕微鏡の視野中心に保持しながら、種々の角度から透過電子像を観察することが可能となっている。
【0027】
図2に、試料傾斜機構15の一例の横断平面図を示す。なお、以下ではロッド16の回転軸と略平行な方向(図2の左右方向)をx方向とし、水平面にてx方向に対して直角な方向(図2の上下方向)をy方向とし、x方向及びy方向と直交しTEMの高さ方向に相当する方向(図2の正背面方向)をz方向とする。図2において試料支持台30を有するホルダー10は、円柱形のロッド16の先端に固定されており、当該ロッド16は左右両面が開口する円筒形の鞘管17に挿入・固定されている。鞘管17の先端は球面になっており、球面座18内に納められる構造である。ロッド16はTEM1の視野中心を通るx方向の回転軸X1を中心として一定の角度範囲で回転可能となっていることで、これの先端に固定されたホルダー10や試料Sも、x方向の回転軸X1を中心として一定の角度範囲で回転するようになっている。このロッド16が本発明の回転部材に相当する。試料Sをyz方向で高精度に制御するため、鞘管17の外層に設けられた回転シリンダ19上に、yz2方向から固定された微動アクチュエータ20を設け、当該微動アクチュエータ20とこれの対向面側に設けられたリターンスプリング21とで鞘管17が挟持されている。微動アクチュエータ20は電気的パルス入力を受けて回転シリンダ19に対して出没可能であり、球面座18の中心Cを不動点としてロッド16を数nmレベルでyz方向へ任意に傾斜可能である。位置復元力はリターンスプリング21の付勢力により生成する。ロッド16は、回転モータ22により軸X1まわりに回転する回転シリンダ19と一体的に回転し、軸X1に対して歳差運動する。このように、ロッド16が球面座18の中心Cを不動点として任意な角度でyz方向へ傾斜可能であることで、ロッド16先端のホルダー10に設置された試料Sをyz方向へ任意に移動できる。x方向への試料の位置調整は、ロッド16の先端部に固定された梃子27により実現される。すなわち、把手28を梃子27で押し上げることで試料Sをx方向へ微動調整できる。
【0028】
ロッド16は回転シリンダ19をガイドとして回転するほか、球面座18をもガイドにして回転する。このとき、ロッド16の回転軸が球面座18の中心Cからズレていると、ロッド16は、これの回転軸と球面座18中心Cとの離心距離を半径とした首振り回転現象を起し、試料S自体もロッド16の回転軸X1周りに歳差運動を起こしてしまう。そこで、ロッド16の回転軸X1が球面座18の中心Cと一致するように、回転シリンダ19の位置を微調整するためのシリンダ調整機構23がyz2方向に設けられている。この調整プロセスをユーセントリック調整と呼ぶ。このユーセントリック調整により、試料Sに対しては不動の回転軸を形成でき、この軸上に試料Sの目的部位を微動アクチュエータ20で移動できることから、試料Sを回転観察したときの視野ずれや焦点ずれを抑えることが可能になる。しかし、ロッド16の回転軸方向は回転シリンダ19と筐体14との位置関係で決まるため、常にTEM1の視野中心を通るとは限らない。そこで、回転シリンダ19を保持し、球面座18を含むシリンダガイド24を第2球面座25で筐体14に固定し、筐体14とシリンダガイド24との相対位置関係を調整するシリンダガイドの位置を微調整するためのシリンダガイド調整機構26を設けている。これにより、ロッド16や回転シリンダ19のユーセントリック条件を崩すことなく、また試料Sの形状、ロッド16における試料Sのyz方向取りつけ位置、及び観察倍率によらず、ロッド16及びこれの先端に設けられたホルダー10を第2球面座25で回転させ、ロッド16等の回転軸X1を電子顕微鏡の視野中心に通るように設定できる。なお、シリンダ調整機構23が本発明の第1の調整機構に、シリンダガイド調整機構26が本発明の第2の調整機構に、梃子27が本発明の微動機構に、それぞれ相当する。
【0029】
次に、ロッド16の先端に固定されるホルダー10と、当該ホルダー10に設置される本発明の試料支持台30及び分度器40について、図3〜図8を参照しながら詳しく説明する。図3に、ロッド16の先端部分の拡大平面図を示す。図3に示すごとく、ホルダー10は平板矩形を呈しており、先端寄り部位に穿設された開口11内に試料支持台30等を設置する設置台12が配されている。設置台12は、捻りコイルバネ13を介してホルダー10に設置されていることで、y方向の回転軸Yを中心に回転自在となっており、この設置台12の中央部に、本発明の試料支持台30及び分度器40が配されている。このように試料支持台30は、回転軸X1と回転軸Yとの2軸傾斜可能となっていることで、試料Sを回転軸X1と一致させながら全角傾斜観察が可能となる。すなわち、先ず試料Sが回転軸X1からズレた位置に固定されていれば、上述のように試料傾斜機構15によってユーセントリック調整することで、試料Sを回転軸X1上に移動させる。さらに、試料Sが回転軸X1に対して斜めに固定されていれば、試料支持台30を回転軸Yまわりに回転傾斜させることで、試料Sを回転軸X1と一致させることができる。これにより、試料Sが回転軸X1に対して歳差運動することを防ぐことができる。ここまでは、従来のTEMでも採用されていた機構である。
【0030】
図4は、試料支持台30に分度器40を組み付けた状態の平面図である。図5は、同じく試料支持台30に分度器40を組み付けた状態の側面図である。図6は、同じく試料支持台30に分度器40を組み付けた状態の正面図である。また、図7は分度器40の正面図である。図4〜図6において試料支持台30は、薄板リング状のベース31と、試料Sを固定支持する試料支持部材32とを有する。試料支持部材32は先端が先窄まり状となった細針形状に形成されており、x方向に沿ってベース31の中心に向けた状態で配されている。試料支持部材32はタングステン製とした。試料Sは集束イオンビーム加工装置(FIB)によって略円柱形の棒状に形成され、試料支持部材32の先端頂部に接着等により固定される。なお、試料支持部材32の先端頂部は、試料支持部材32の縦断面において略中央に位置している。試料支持部材32は、これの先端頂部に試料Sを固定したとき、当該試料Sがベース31の中心(TEM1の視野中心)にあるような長さに設計されている。また、試料支持部材32は、ベース31の上面に固定されたアタッチメント33に回転自在に挿入されていることで、x方向に延びる軸X2まわりに回転自在となっている。試料支持台30をホルダー10へ設置したとき、試料支持部材32の回転軸X2とロッド16の回転軸X1とが一致する位置状態にある。試料支持部材32の左右両側面には、当該試料支持部材32の回転角度を容易に確認できるようにするための2つの指標34が、互いに水平となる状態で溶接等によって固定されている。
【0031】
図7において分度器40は、平板薄肉の矩形部材であって、その上下方向の中央やや下方位置に横長溝状のスリット41が開口している。そして、このスリット41にベース31を試料支持部材32の反対側から挿入することで、図6等に示されるように、試料支持部材32と対向する状態でベース31に対して分度器40が直角に組み付けられる。このとき、試料支持部材32が分度器40の中央部に位置している。また、ベース31の上面の左右2箇所には、分度器40の挿入限界を既定するストッパー35が設けられており、当該ストッパー35の位置まで分度器40を挿入したとき、分度器40はベース31の中心よりも試料支持部材32の対向面側(反対側)に位置している。また、分度器40のスリット41は、ベース31の厚みよりも僅かに大きい程度の厚み寸法となっていることで、ベース31は分度器40に圧入された状態となり、分度器40がベース31に対してガタ付くことはない。そのうえで、分度器40の試料支持部材32との対向面には、試料支持部材32を中心にして囲むように、一定角度間隔で複数の角度目盛り42が印されている。本実施例では、45°間隔で計8個の線状の目盛り42が印されている。なお、図6及び図7において目盛り42に沿った円形の線は、各目盛り42を容易に印すための単なる基準線である。
【0032】
次に、図8を参照しながら3次元構造観察方法について説明する。先ず、棒状の試料Sを試料支持部材32の配設方向(x方向)に沿ってその先端頂部へ固定する。このとき、図8(A)に示すように、試料支持部材32の回転角度を示す指標34を分度器40の0°角目盛り42aに合わせ、ベース31に対する試料支持部材32自身の回転角度を0°にしておく。なお、試料Sは正確に試料支持部材32の断面中心位置に固定する必要はない。試料Sが試料支持部材32の先端頂部から若干スレた位置にあれば、試料傾斜機構15によってxyz方向に任意にユーセントリック調整して試料Sを中心位置に移動させる。また、試料Sがロッド16の回転軸X1及び試料支持部材32の回転軸X2に対して斜めに固定されていれば、試料支持台30を回転軸Yまわりに傾斜させて、試料Sを回転軸X1と一致させておく。このとき、ロッド16の回転軸X1と試料支持部材32の回転軸X2とは若干ズレた略水平状態となっている。そして、図8(A)に示すように、この0°角基準状態から、ロッド16を回転軸X1まわりに±一定角度で回転させることで、±一定角度範囲内において種々の傾斜角度における複数枚の試料SのTEM像を得る。本実施例では、ロッド16を±70°の傾斜範囲で回転させた。なお、分度器40も試料支持台30と一体的に回転する。
【0033】
次に、一旦ホルダー10をTEM1から取り出し、ベース31を水平にした状態において試料支持部材32の指標34を分度器40の45°角目盛り42bに合わせ、水平状態のベース31に対して試料支持部材32自身の回転角度を45°にしておく。試料支持部材32を回転させるには、指標34をピン部材などで押しても良いし、試料支持部材32の後端に形成された溝36(図6参照)にドライバーを合わせて回転させてもよい。そして、再度ホルダー10をTEM1へセットした後、図8(B)に示す45°角基準状態から、先と同様にロッド16を±70°回転させることで複数枚の試料SのTEM像を得る。この場合、先の0°角基準状態を基準とすれば、試料Sの−25°〜+115°の傾斜範囲におけるTEM像が得られることになる。さらに続いて、再度ホルダー10をTEM1から取り出し、今度はベース31を水平にした状態において試料支持部材32の指標34を分度器40の90°角目盛り42bに合わせ、水平状態のベース31に対して試料支持部材32自身の回転角度を90°にしておく。そして、再度ホルダー10をTEM1へセットした後、図8(C)に示す90°角基準状態から、先と同様にロッド16を±70°回転させることで複数枚の試料SのTEM像を得る。この場合、先の0°角基準状態を基準とすれば、試料Sの+20°〜+160°の傾斜範囲におけるTEM像が得られることになる。この作業を、試料支持部材32がベース31に対して360°回転した状態となるまで、目盛り42a〜42dに合わせながら段階的に繰り返す。このように、各傾斜角度基準状態を段階的に維持させたうえで、それぞれの回転角度状態において順次ロッド16を±同じ角度範囲で回転させることで、最終的に試料Sを360°全角傾斜させた状態のTEM像を得ることができ、これら各傾斜角度における2次元的なTEM像を制御装置にて組み合わせることで、試料Sの3次元像を再構成することができる。
【0034】
なお、TEM観察では、電子線の入射角αとα+180°の投影像は等価なので、3次元像を再構成する場合は、180°(±90°)の投影像が観察されるので必ずしも試料Sを360°全角傾斜させる必要はない。しかし、本発明では敢えて試料Sを全角傾斜させて360°全方向からの投影像を得ることで、各回転角での情報量を2倍に増やしている。これによれば、カメラの検出精度の分散や傾斜角度の読み取り誤差などの測定誤差を平均化して少なくすることができる。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、これに限られず種々の変形が可能である。特に、上記試料傾斜機構15の構成はほんの一例であって、常に試料Sが電子顕微鏡1の視野中心に保持されるよう、電子線Eに対する試料Sの位置や角度が制御し得る構成のものであれば、特に限定されない。例えば、試料傾斜機構15のx方向微動操作用の梃子27は、ロッド16の先端部に限らず、TEM1の筐体14においてロッド16と対向面(反対側)に構築した梃子機構によって行うこともできる。
【0036】
試料支持台30のストッパー35は、試料支持部材32と反対側となるベース31の下面に設けてもよい。また、ストッパー35の設置個数は、1つでもよいし、3つ以上であっても構わない。分度器40は、その中心部に大きな円形開口を穿設して、試料支持部材32と重なる位置で位置決めされるようにすることもできる。分度器40の外形は、矩形に限らず円形、楕円形、多角形としても構わない。また、本発明の試料支持台30は、従来からの汎用的な試料支持台に若干の部材を加えただけの簡素な構成となっていることから、従来からある種々のTEMに適用できることはもちろん、走査型電子顕微鏡(SEM)や集束イオンビーム加工装置(FIB)に適用することも可能である。指標34は、試料支持部材32の回転角度を確認できるものであれば、その形状、配設位置、固定方法などは特に限定されない。例えば、指標34は試料支持部材32と一体成形されていてもよいし、接着や溶接により接合されていてもよいし、試料支持部材32に穿設した開口へ圧入固定することもできる。
【0037】
そして、最も重要なのが、試料支持部材32自身を段階的に傾斜させる角度間隔と、ロッド16の回転角度である。すなわち、試料支持部材32をベース31に対して一定角度間隔で段階的に回転させた各回転角度状態において、順次ロッド16を±一定角度で回転させることで、最終的に試料Sを360°全方向から観察できれば、試料支持部材32自身を段階的に傾斜させる角度間隔及びロッド16の回転角度範囲は特に限定されない。例えば、試料支持部材32を30°間隔や60°間隔で回転させた基準状態を作成してもよいし、ロッド16の回転角度範囲は±30〜±65°の範囲で適宜調整すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】TEMの概略断面図である。
【図2】試料傾斜機構の断面平面図である。
【図3】ロッド先端部分の要部拡大平面図である。
【図4】試料支持台へ分度器を組み付けた状態の平面図である。
【図5】試料支持台へ分度器を組み付けた状態の側面図である。
【図6】試料支持台へ分度器を組み付けた状態の正面図である。
【図7】分度器の正面図である。
【図8】3次元構造観察方法の各工程における回転機構説明図である。
【図9】従来のTEM観察における観察可能領域を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 透過型電子顕微鏡(TEM)
2 電子銃
3 第1収束レンズ
4 第2収束レンズ
5 対物レンズ
6 中間レンズ
7 投射レンズ
8 蛍光板
9 カメラ
10 ホルダー
12 設置台
13 コイルバネ
14 筐体
15 試料傾斜機構
16 ロッド(回転部材)
17 鞘管
18 球面座
19 回転シリンダ
20 微動アクチュエータ
21 リターンスプリング
22 回転モータ
23 シリンダ調整機構
24 シリンダガイド
25 球面座
26 シリンダガイド調整機構
27 梃子
28 把手
30 試料支持台
31 ベース
32 試料支持部材
33 アタッチメント
34 指標
35 ストッパー
40 分度器
41 スリット
42 目盛り
C 球面座の中心
E 電子線
S 試料
1 ロッドの回転軸
2 試料支持部材の回転軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の角度範囲で回転可能な回転部材の先端に設けられたホルダーに設置され、電子顕微鏡における3次元構造観察用の試料支持台であって、
薄板リング状のベースと、前記ベースの片面に回転自在に配され、その先端に試料を固定する長細状の試料支持部材とを有し、
前記試料支持部材の先端は前記ベースの中心に向けて配され、その回転軸が前記回転部材の回転軸と略平行である3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項2】
前記試料支持部材は、その先端部が先窄まり状となった針形状に形成されており、その先端頂部に棒状の試料を固定する請求項1に記載の3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項3】
前記試料支持部材の側面には、該試料支持部材の回転角度を示す指標が設けられている請求項1または請求項2に記載の3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の3次元構造観察用の試料支持台に、前記試料支持部材と対向状に組み付けられ、
前記試料支持部材との対向面には、正面視において前記試料支持部材を中心にして囲むように、一定角度間隔で複数の角度目盛りが印されている電子顕微鏡における3次元構造観察用の分度器。
【請求項5】
前記分度器は薄板部材であって、前記試料支持台のベースを挿入可能な開口が形成されており、
当該開口に、前記試料支持部材の対向面側から前記ベースを挿入することで、前記分度器が前記ベースに対して直角に組み付けられる請求項4に記載の3次元構造観察用の分度器。
【請求項6】
前記ベースの片面には、前記分度器の挿入限界を規制するストッパーが設けられている請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項7】
前記ストッパーは、前記分度器を前記ベースの中心よりも前記試料支持部材の対向面側にて位置規制可能な位置に設けられている請求項6に記載の3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項8】
前記回転部材は、電子顕微鏡へ装着する際の奥行きを微調整する微動機構と、前記回転部材の回転軸に垂直な面内において前記回転部材位置を調整する第1の調整機構と、前記回転部材の電子顕微鏡鏡への装着角度を調整するための第2の調整機構と、によって回転軸が制御されており、
当該回転部材の先端部にホルダーを介して前記試料支持部材が設置されることで、常に試料が電子顕微鏡の視野中心に保持されるよう、電子線に対する試料の位置や角度が制御される請求項1ないし請求項3または請求項6ないし請求項7のいずれかに記載の3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項9】
前記試料支持台は、前記試料支持部材の回転軸に対して直交する方向の回転軸を中心として回転自在であり、前記回転部材の傾斜軸と前記ベースの傾斜軸とによって2軸傾斜可能となっている請求1ないし請求項8のいずれかに記載の3次元構造観察用の試料支持台。
【請求項10】
基準姿勢から±一定角度範囲で回転可能な回転部材の先端部に、ベースと該ベースに対して回転自在に配された試料支持部材とを有する試料支持台を、ホルダーを介して設置し、
前記試料支持部材を前記ベースに対して一定角度間隔で段階的に回転させた複数の回転角度状態を維持させ、それぞれの回転角度状態において順次前記回転部材を±一定角度で回転させることで、試料を360°全方向から観察する電子顕微鏡における3次元構造観察方法。
【請求項11】
前記試料支持台に、一定角度間隔で複数の角度目盛りが印された分度器を組み付け、
前記試料支持部材の段階的な回転角度状態の変更を、前記試料支持部材の側面に設けられた指標を前記分度器の目盛りに合わせることで行う請求項10に記載の3次元構造観察方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−70604(P2009−70604A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235315(P2007−235315)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】