説明

3次元炉心解析方法及び3次元炉心解析プログラム

【課題】計算機の負荷が少ないうえに正確な炉心解析をおこなうことが可能な3次元炉心解析方法を提供する。
【解決手段】複数の燃料棒を備えた炉心が複数の3次元形状の燃料棒モデル1に分割された体系における、燃料棒モデル内の中性子の挙動を解析するための3次元炉心解析方法である。
そして、燃料棒モデルの平面をある方位角Ψで通過する中性子の飛跡を複数の直線パス2で規定し、その直線パスから面領域pを生成し、その面領域にある仰角θで入射する中性子束と出射する中性子束とから面中性子束を算出する計算を、すべての直線パス上でおこなって角度中性子束を算出し、複数の方位角Ψ及び前記仰角θについて同様の計算をおこなって角度積分することで立体セルの3次元中性子束を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料棒を備えた原子炉の炉心の出力分布や反応度を数値計算によって解析し、評価及び管理するための3次元炉心解析方法及び3次元炉心解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子炉の炉心における中性子の実効増倍率や中性子束分布を数値解析によって求め、実効倍増率や出力分布などの特性データを評価し、炉心管理をおこなう方法が知られている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
このような原子炉の炉心解析方法には、中性子拡散理論に基づいた拡散計算法、中性子輸送理論に基づいた輸送計算法、確率論的手法であるモンテカルロ法などがある。
【0004】
一方、原子燃料の開発の流れにおいて、将来的には最高燃焼度が55GWd/tを超える高燃焼度燃料利用など、非均質性の高い炉心の開発が予想されることから、精度の高い3次元の炉心解析方法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2005−227174号公報
【特許文献2】特許第3245640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、3次元の非均質幾何学体系に対して精度の高い炉心解析をおこなうには、中性子の運動の多方向性を考慮した中性子輸送計算をおこなうことが望ましく、その結果、計算量やデータ量が膨大になって、記憶容量の大きなコンピュータで長時間に亘って解析をおこなわなければならなくなる。
【0006】
そこで、本発明は、計算機の負荷が少ないうえに正確な炉心解析をおこなうことが可能な3次元炉心解析方法及び3次元炉心解析プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の3次元炉心解析方法は、複数の燃料棒を備えた炉心が複数の3次元形状の立体セルに分割された体系における、立体セル内の中性子の挙動を解析するための3次元炉心解析方法であって、前記立体セルの2次元面についてその面をある方位角Ψで通過する中性子の飛跡を複数の直線パスで規定し、その直線パスを前記2次元面に直交する方向に延伸した面領域を生成し、その面領域の面内にある仰角θで入射する中性子束と出射する中性子束とからその面領域の面中性子束を算出するとともに、その面中性子束を前記した複数の直線パス上の面領域のすべてに対して算出することで前記立体セルの角度中性子束を算出し、複数の前記方位角Ψ及び前記仰角θについて同様の計算をおこなってすべての角度中性子束を算出して角度積分することで前記立体セルの3次元中性子束を算出することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記面領域は、前記直線パスが前記立体セルの2次元面を任意に分割した分割線と交差する点で区切られた線分を上辺又は底辺とする四角形の領域とすることができる。
【0009】
また、前記入射する中性子束の分布を関数式に基づいて入力することができる。
【0010】
さらに、本発明の3次元炉心解析プログラムは、複数の燃料棒を備えた炉心が複数の3次元形状の立体セルに分割された体系における、立体セル内の中性子の挙動を解析するためにコンピュータを機能させる3次元炉心解析プログラムであって、解析条件を入力する入力手段と、その解析条件に基づいて、前記立体セルの2次元面内をある方位角Ψで通過する中性子の飛跡を平行する複数の直線パスで規定するとともに、その方位角Ψを変更して同様にその方位角Ψ毎の直線パスを生成し、それらの直線パスを前記2次元面に直交する方向に延伸して面領域pを生成する面領域生成手段と、その面領域pの面内にある仰角θで入射する中性子束と出射する中性子束とからその面領域内の面中性子束φ(p,θ,Ψ)をすべての直線パスについて算出するとともに、前記立体セルの空間内に含まれる面領域pの前記面中性子束φ(p,θ,Ψ)を空間内で積分することで、仰角θ、方位角Ψに向かう立体セルの角度中性子束φ(θ,Ψ)を算出する角度中性子算出手段と、前記角度中性子束φ(θ,Ψ)を角度で積分することで、前記立体セル内の3次元中性子束φを算出する中性子束算定手段と、前記3次元中性子束φに基づいた解析結果を出力する出力手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の3次元炉心解析方法は、3次元形状の立体セルを2次元化し、その2次元面について複数の直線パスを規定し、その直線パスを2次元面に直交する方向に延伸して2次元面に直交する面領域を生成することで3方向の成分を確保している。
【0012】
そして、2次元面の直線パスから展開した面領域に入射する中性子束と出射する中性子束とから面中性子束を算出し、それらを積分することによって3次元中性子束を算出する。
【0013】
このように2次元面に規定した直線パスを展開させる方法を採用することで、計算量及びデータ量の増加を抑えることができ、高精度の3次元の炉心解析を短い時間でおこなうことができる。
【0014】
すなわち、3次元の立体セルを通過する中性子の飛跡を3次元空間ですべて個別に設定し、その飛跡に基づいて解析をおこなえば、計算量や、入力パラメータ量、メッシュデータなどのデータ量が膨大になり、演算処理速度に優れた記憶容量の大きなコンピュータを使用しても長時間に亘って解析をおこなわなければならなくなる。
【0015】
これに対して上述したような本発明の構成とすることで、3次元であっても計算機の負荷が少ないうえに正確な炉心解析をおこなうことができる。
【0016】
また、直線パスの分割数を増加させると、計算時間は長くなるが、解析領域の境界面からの影響を少なくして精度を上げることができるで、所望する解析精度及び計算時間に合わせて直線パスの分割数を設定すればよい。
【0017】
さらに、入射する中性子束の分布を任意の関数式に基づいて入力するように構成することで、実際の中性子束の分布に合わせた関数式を選択して高精度の解析をおこなうことができる。
【0018】
また、関数式で入力することで、入力データ数及び演算経過を記憶する記憶容量を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図2は、本実施の形態で解析をおこなう加圧水型原子炉(PWR)の炉心をモデル化した炉心モデル100の平面図を示したものである。
【0021】
炉心は、燃料集合体と制御棒(制御棒クラスタ)を原子炉(圧力)容器内に収容したもので、炉心上部には制御棒クラスタ案内管、制御棒駆動装置等が配置され、炉心周囲には炉心バッフル、熱遮へい体等が配置されている。
【0022】
そして、図2に示した炉心モデル100は、燃料集合体をモデル化した複数の燃料集合体モデル10,・・・から形成されており、例えば、平面視略正方形の193体の燃料集合体モデル10,・・・を円状に集めると、図2に示すような4ループ(4つの蒸気発生器)の炉心モデル100となる。
【0023】
ここで、解析する原子炉の出力によってループ数が異なり、燃料集合体モデル100を121体挿入する2ループタイプや157体挿入する3ループタイプなどがある。
【0024】
また、この燃料集合体モデル10,・・・は、すべてを一度に炉心に装填するものではなく、例えば3回に装填時期をずらして一度に出力が上昇しないようにする。また、新しい燃料集合体モデル10を外側に配置するようにして、外部境界から離れた中心部の出力だけが高くなることがないようにして出力分布を平坦化させる。
【0025】
このような炉心モデル100に装填する燃料集合体モデル10は、図1に示すような燃料棒をモデル化した燃料棒モデル1を複数装填して図3のように形成される。
【0026】
ここで、燃料集合体の構成の一例を説明すると、17×17本型の正方配列を形成する燃料棒264本と、炉内計装用案内シンブル1本と、制御棒案内シンブル24本と、支持格子9個と、上部ノズルおよび下部ノズルとから構成されている。
【0027】
そして、この燃料集合体を構成する要素のうち、解析結果に影響を与える要素をモデル化したものが燃料集合体モデル10である。
【0028】
なお、燃料集合体の他のタイプとして、14×14本型などがある。
【0029】
一方、燃料集合体に装填される燃料棒は、例えば低濃縮二酸化ウランの焼結ペレットをジルカロイ−4被覆管に挿入し、上部にステンレス鋼バネを入れ、ヘリウムを加圧封入して両端にジルカロイ−4端栓を溶接して密封構造に形成される。
【0030】
また、燃料棒は、焼結ペレットから放出される核分裂生成ガス、被覆管と焼結ペレットとの熱膨張差又は燃焼に伴う燃料密度変化等によって、被覆管や端栓溶接部に過大な応力が加わることがないように、焼結ペレットと被覆管との間に適度な間隙を設けた構造となっている。
【0031】
そして、この燃料棒は、図4(a)に示すように、低濃縮二酸化ウランの焼結ペレットを充填する円筒状の燃料領域1aと、その外周のジルカロイ−4被覆管をモデル化した環状の被覆管領域1cと、その外周の減速材領域としての水領域1bとからなる燃料棒モデル1として形成される。
【0032】
本実施の形態では、この燃料棒モデル1を3次元形状の立体セルとして解析をおこなう。
【0033】
ここで、この燃料棒モデル1の2次元面としての平面を示したのが図4(b)であり、複数の燃料棒モデル1,・・・の平面を並べた燃料集合体モデル10の一部を示したのが図3である。
【0034】
この図3には、平面内を通過する中性子の飛跡としての直線パス2,・・・が複数示されている。この直線パス2,・・・は、方位角Ψで所定の間隔を置いて平行に引かれた直線状の中性子の飛跡であり、その位置をkで示す。
【0035】
そして、この直線パス2を平面に直交する方向である燃料棒モデル1の軸方向に延伸し、面領域31〜33を生成した状態を図1(a)に示した。
【0036】
この図1(a)では、説明を簡単にするために、燃料棒モデル1の燃料領域1aと水領域1bだけを示し、各領域内の分割は考慮していない。
【0037】
この面領域31〜33は、長方形状であって、手前から水領域1bを横切る面領域31、燃料領域1aを横切る面領域32、反対側の水領域1bを横切る面領域33となる。
【0038】
ここでは、一番手前の面領域31を例に、図1(b)を参照しながら、この面領域31を通過する中性子束について説明する。この中性子束とは、炉心のある点をある方向に向かって通過する中性子の割合をいい、単位体積中の速さV(エネルギーE)とある方向に向かう中性子密度nによってV×nで表すことができる。
【0039】
また、面領域31は、幅w、高さhの長方形をしており、その各辺を側辺3a,3c、底辺3b、上辺3dとする。
【0040】
そして、この面領域31に底辺3bに対して仰角θで中性子束が通過する際に、一方の側辺3aから中性子束φinが入射するとともに、底辺3bからも中性子束φbottomが面領域31に入射される。ここで、中性子束φbottomは、入射する中性子束の入射位置を具体的に指定した符号である。
【0041】
また、他方の側辺3cからは中性子束φoutが出射するとともに、上辺3dからも中性子束φtopが面領域31から出射される。この中性子束φtopも、出射する中性子束の出射位置を具体的に指定した符号である。
【0042】
なお、この入射する中性子束φin,φbottomと出射する中性子束φout,φtopとの関係は、中性子の個々の飛跡を示すものではない。
【0043】
そして、この面領域31における中性子バランスに着目し、入射する中性子束φin,φbottomから、Characteristics法により面領域31を通って出射する中性子束φout,φtopを算出する。
【0044】
このCharacteristics法は、輸送現象について正確な予測を与えるボルツマン方程式を、直線パス2上で連続して解く作業を、体系全体を覆いつくす複数の直線パス2,・・・上で繰り返しおこなうことで、最終的に求めたい中性子束φを算出する解析手法である。
【0045】
この図1(a)では、燃料棒モデル1で区切られた体系に、1本の直線パス2が例示されており、この直線パス2上で連続する3つの面領域31〜33に対してボルツマン方程式を解くことになる。
【0046】
そして、方位角Ψ、位置kの面領域31の仰角θのときの中性子束の関係式を示すと以下の式になる。
【0047】
【数1】

【0048】
この式において、φpは燃料棒モデル1の平均中性子束で示した面中性子束φ(p,θ,Ψ)、Qは燃料棒モデル1の中性子源、Σは燃料棒モデル1の全マクロ断面積を示す。この全マクロ断面積は、中性子が物質中を単位長さ飛行する間に物質中の原子核と相互作用する確率である。
【0049】
そして、この面中性子束φ(p,θ,Ψ)は、面領域p(31)の中性子束の大きさを示している。
【0050】
続いて、この面領域31に隣接する面領域32について、面領域31から出射した中性子束φoutを面領域32に入射する中性子束φinとして、上記と同様にして面中性子束φ(p,θ,Ψ)を算出し、この計算を位置kの直線パス2上で繰り返す。
【0051】
なお、ここでは図示していないが、面領域31の上辺3dから出射した中性子束φtopは、面領域31の上辺3dに接する面領域の底辺から入射する中性子束φbottomとなる。
【0052】
また、その他の位置k-1,k+1,・・・などについても同様に計算をおこない、それらの結果に基づいて燃料棒モデル1の空間で積分することで、燃料棒モデル1の仰角θ、方位角Ψの角度中性子束φ(θ,Ψ)を算出する。
【0053】
また、この計算は、残りの仰角θ、方位角Ψに対してもおこなって、それらの結果に基づいて仰角θ、方位角Ψで積分することで、3次元の燃料棒モデル1の3次元中性子束φを算出する。
【0054】
なお、直線パス2の数、仰角θの設定数、方位角Ψの設定数は、所望する計算精度及び時間によって任意に設定することができる。
【0055】
次に、本実施の形態の3次元炉心解析プログラムの処理の流れについて説明する。
【0056】
この3次元炉心解析プログラムによって機能するコンピュータは、キーボードやマウス等の入力装置と、プログラムや各種データを記憶したり、入力値や演算値を一時的に記憶したりするハードディスク、ROM、RAM等の記憶装置と、記憶装置から読み出されたり入力装置から入力された値や指示によって演算をおこなう中央演算処理装置(CPU)と、演算結果を出力するモニタやプリンタ等の出力装置とから主に構成されている。
【0057】
そして、3次元炉心解析プログラムの入力手段によって上記入力装置や記憶装置を機能させ、出力手段によって上記出力装置を機能させる。
【0058】
また、炉定数や群定数などの炉心解析に必要となる核データファイルは、日本原子力研究所の核データセンターなどから入手できるので、それらのデータ及びそのデータを加工したデータを記憶装置に記憶させておき、必要に応じて読み出させることができる。
【0059】
図5は、本実施の形態の3次元炉心解析プログラムの全体の処理の流れを示したフローチャートの一例である。
【0060】
まず、ステップS1において、入力装置による入力や記憶装置に記憶されたデータから、初期値や形状データなどの解析条件を読み込む。
【0061】
この解析条件としては、立体セルとしての燃料棒モデル1,・・・の各形状データ、直線パス2や面領域pを設定するためのデータ、燃料集合体モデル10や炉心モデル100などの解析対象モデルの全体形状データ、各燃料棒モデル1,・・・の核反応断面積データ、境界条件、各燃料棒モデル1,・・・の3次元中性子束φの初期値、面領域の高さ、入射中性子束分布の関数式の形式などを入力する。
【0062】
続いて、ステップS2では、面領域を生成するために必要な直線パスデータの作成をおこない、ステップS1で入力した面領域の高さと組み合わせることにより、後のステップで面領域を生成する(面領域生成手段)。
【0063】
この直線パス2は、燃料棒モデル1,・・・の平面に対して図3に示すように解析範囲を覆うように複数の位置kに設定する。また、この直線パス2は、方位角Ψを変えて複数の方向に向けて設定する。
【0064】
この直線パス2を引く本数(位置k)や、方位角Ψを何度毎に設定するかなどは、ステップS1で入力しておく。
【0065】
このように平面内で設定された直線パス2のデータなどはRAM等に一時的に記憶させておき、後のステップで直線パス2の幅wと面領域の高さhから図1に示すような面領域31〜33を各直線パス2,・・・について生成する。
【0066】
ここで、以下の演算値についても、適宜、RAM等の記憶装置に記憶させ、必要なときに読み込むこととする。
【0067】
この3次元炉心解析プログラムでは、中性子のエネルギー領域を複数に分割し、分割されたエネルギー区間毎に解析をおこなうため、ステップS3ではこのエネルギー群の指定をおこなう。
【0068】
そして、ステップS4では、中性子束分布から燃料棒モデル1で発生する中性子源Qの計算をおこなう。
【0069】
すなわち、各燃料棒モデル1,・・・及び各エネルギー群における、初期値又は計算の収束過程で算出された最新の3次元中性子束φと核反応断面積とから、核分裂で発生する中性子束と、中性子と原子核の散乱で発生する中性子束とを求め、それらをエネルギー群ごとに各燃料棒モデル1内で足し合わせた中性子源Qを求める。
【0070】
続いてこの中性子源Qから、後述する方法で中性子束分布を計算し(ステップS5)、求めたい中性子束の値が収束するまでの繰り返す(ステップS6)。ここで、「中性子束が収束」とは、先に求めた中性子束とその値を基にして求めた中性子束の値が設定した誤差の範囲内にある状態をいう。
【0071】
この中性子束分布を求める計算は、分割されたすべてのエネルギー群に対しておこなうことになるので、未計算のエネルギー群が残っていれば同様の計算を繰り返す(ステップS7)。
【0072】
そして、ステップS8では、上記で算出された中性子束から増倍率の計算をおこなう。
【0073】
この増倍率Kとは、炉心の核分裂に関する増倍率であり、K=(単位時間あたりの中性子発生数)/(吸収及び漏れによる単位時間あたりの中性子消滅数)で表される。
【0074】
この増倍率Kは、K=1のときが臨界であり、K>1のときは核分裂が世代とともに増大して連鎖反応が発散する臨界超過の状態であり、K<1のときは連鎖反応が停止する臨界未満の状態である。
【0075】
そして、燃料棒モデル1が無限に配列されていると仮定したときの増倍率Kを無限増倍率K∞という。
【0076】
このようにして算出した増倍率が収束するまで計算を繰り返す(ステップS9)。ここで、「増倍率が収束」とは、先に求めた増倍率とその値を基にして求めた増倍率の値が設定した誤差の範囲内にある状態をいう。
【0077】
そして、計算が終了した際には、ステップS10において、増倍率などの計算結果を出力装置に出力する。
【0078】
次に、図5のステップS5の中性子束分布の計算について、図6のフローチャートを参照しながら詳細に説明する。
【0079】
まず、図5のステップS3でエネルギー群を指定し、ステップS4で各燃料棒モデル1,・・・の中性子源Qの計算をおこなう。
【0080】
そして、入射する中性子束φin,φbottomの仰角θを図6のステップS11で読込み、直線パス2の方位角ΨをステップS12で読み込む。
【0081】
続いてステップS13では、中性子束分布の算定の繰返し計算を開始するにあたって、解析領域の境界での初期値となる中性子束φin,φbottomの入力をおこなう。この入力は、ステップS1で入力装置から入力した値を記憶装置に記憶させ、計算開始時に記憶装置から読み込ませるものであってもよい。また、予めデータベースとして記憶装置に記憶させた値を読み込ませるものであってもよい。
【0082】
そして、初期値として入力した中性子束φin,φbottomから面領域pの面中性子束φ(p,θ,Ψ)を算出する(ステップS14)。
【0083】
詳細には、まず、記憶装置から直線パス2の幅wと高さhのデータを読み込み、面領域31〜33を生成する。
【0084】
さらに、図1に示すように、方位角Ψ、位置kの直線パス2の仰角θにおける面領域31〜33の面中性子束φ(p,θ,Ψ)を、Characteristics法に基づいて上記した数式1で算出する。このとき、面領域pに入射する中性子束はステップS1で入力された関数式に基づいて表すことができる。
【0085】
続いて、図3に示すような位置k以外の位置k+1,k-1,・・・の直線パス2,・・・についても、同様に面中性子束φ(p,θ,Ψ)を算出する。
【0086】
この面中性子束φ(p,θ,Ψ)の計算は、面領域pに入射する中性子束φin,φbottomが収束するまで繰り返しおこなう(ステップS15)。
【0087】
また、この仰角θ、方位角Ψの面中性子束φ(p,θ,Ψ)を算出する計算は、燃料棒モデル1の空間にあるすべての面領域pに対しておこなう。なお、解析対象が対称性のあるものであれば、解析対象の半分(180度)、1/4(90度)に対してだけ解析をおこなって全体系に展開することもできる。
【0088】
そして、ステップS16において、これらの計算結果を各燃料棒モデル1,・・・の空間で積分して、方位角Ψの仰角θのときの角度中性子束φ(θ,Ψ)を角度中性子算定手段として算出する。
【0089】
その後、方位角Ψの値を変えて、解析条件として設定したすべての方位角Ψについて角度中性子束φ(θ,Ψ)を算出する(ステップS17)。続いて、仰角θの値を変えて、解析条件として設定したすべての仰角θについて角度中性子束φ(θ,Ψ)を算出する(ステップS18)。
【0090】
そして、すべての方位角Ψ及び仰角θについて算出した角度中性子束φ(θ,Ψ)を、各燃料棒モデル1,・・・の空間で角度積分し、各燃料棒モデル1,・・・の3次元中性子束φを中性子算定手段として算定する(ステップS19)。
【0091】
この3次元中性子束φの算定は、収束するまでおこない(図5のステップS6)、収束後は次のエネルギー群での計算に移る(図5のステップS7)。
【実施例1】
【0092】
以下、前記した実施の形態の実施例1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0093】
この実施例1では、前記実施の形態の3次元炉心解析プログラムによってコンピュータを機能させておこなった解析例について説明する。
【0094】
まず、実施例1では、加圧水型原子炉(PWR)の炉心に、17×17本型の燃料集合体を装填する場合を想定し、ウラン濃縮度4.8%の燃料を充填した燃料棒モデル1について解析をおこなった。
【0095】
ここで、燃料棒モデル1は、高さ5cm、燃料領域1aの直径0.82cm、水領域1bの各辺1.26cm×1.26cmとした。
【0096】
また、燃料棒モデル1の周囲は、完全反射境界とし、エネルギー分割は70群とした。
【0097】
さらに、図4(b)に示すように、燃料棒モデル1は燃料領域1a、被覆管領域1c、水領域1bの境界線に加えて、燃料領域1aを5分割する分割線11,・・・と、水領域1bを2分割する分割線12を分割線として加えた。
【0098】
このように燃料棒モデル1の分割数を増やすと、直線パス2が横切る分割線の数が増え、直線パス2の分割数及びその直線パス2上の面領域の数が増えることになる。
【0099】
また、本発明の3次元炉心解析プログラムの解析結果を検証するために、2次元解析をおこなって参照解とした。
【0100】
【表1】

【0101】
この表1の結果から、燃料領域1aの分割数が5分割の場合、燃料棒モデル1の軸方向高さが低くなるに従って2次元解析結果よりも無限増倍率が高くなる傾向があることがわかる。
【0102】
これに対して燃料領域1aの分割数を増やして10分割にした場合、2次元解析結果との差が小さくなったことから、中性子束が軸方向境界面で平均化されていることが中性子束分布の算出結果に影響していることが考えられる。
【0103】
また、この実施例1では、図7(a)に示すように面領域31の側辺3aと底辺3bに入射させる中性子束φin,φbottomの入力値F1を各範囲の平均値である定数で設定し、面領域31から出射される中性子束φoutを隣接する面領域32の入射させる中性子束φinとし、面領域31から出射される中性子束φtopを上接する面領域(図示省略)の入射させる中性子束φbottomとした。
【0104】
これに対して、面領域31に入射させる中性子束φin,φbottomを、図7(b)の入力関数F2に示すように二次関数(ax2+bx+c)にしたり、一次関数(dx+e)としたりすることができる。
【0105】
この場合、面領域31に隣接する面領域32や上接する面領域(図示省略)に入射させる中性子束φin,φbottomも、入力関数F2などで指定することができるので、軸方向境界面からの影響による誤差を低減することができる。
【0106】
また、面領域毎に関数の係数(a〜cやd,e)を変化させることで、面領域の位置や特性を反映させた高精度の解析をおこなうことができる。
【0107】
すなわち、入射させる中性子束φin,φbottomを定数で表すか、関数で表すかは、コンピュータの演算処理能力や記憶容量、計算時間、所望する計算精度によって任意に設定することができる。
【0108】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0109】
以下、前記した実施の形態の実施例2について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0110】
この実施例2では、図8(a)に示したように、軸方向に断面が変化する燃料棒モデル5を立体セルとして解析した解析例について説明する。
【0111】
この燃料棒モデル5は、高さ25cmの燃料体51の下に高さ10cmの反射体52を配置した立体セルである。
【0112】
この燃料体51には、直径0.82cmの燃料領域51a、直径0.95cmの被覆管領域51c、1.26cm×1.26cmの水領域51bが形成されている。また反射体52はすべて水領域52aとなっている。
【0113】
さらに、燃料棒モデル5の周囲は、完全反射境界とし、エネルギー分割は70群、燃料領域の分割を10分割とした。
【0114】
この実施例2の解析結果では、解析対象全体の無限増倍率が1.2329、多群モンテカルロ法(GMVP,日本原子力研究所)による3次元解析結果との差が0.0014となった。また、図8(b)に、エネルギーが低い領域の中性子束についての相対中性子束の軸方向分布を示した。
【0115】
この解析結果から、無限増倍率の3次元解析結果との差は若干大きかったが、図8(b)に示すように中性子束の軸方向分布が充分に再現されており、本発明の3次元炉心解析プログラムが3次元の解析に適したものであることは明らかである。
【0116】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例1と略同様であるので説明を省略する。
【0117】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0118】
例えば、本実施の形態では、燃料棒モデル1を立体セルとして解析をおこなったが、これに限定されるものではなく、燃料集合体モデル10を立体セルにしたり、炉心モデル100の平面図を任意の数でメッシュ状に分割して形成される区画を2次元面とする直方体を立体セルにしたりすることができる。
【0119】
また、エネルギー群の分割数は70群に限定されるものではない。
【0120】
さらに、燃料領域1aの分割数も5分割、10分割について説明したが、これに限定されるものではない。
【0121】
また、前記実施の形態で示した図5,6に詳細なフローチャートを示したが、これに限定されるものではない。
【0122】
さらに、前記実施の形態では加圧水型原子炉(PWR)の炉心ついて説明したが、これに限定されるものではなく、沸騰水型原子炉、ガス冷却炉などその他の炉心解析に本発明を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の最良の実施の形態の3次元炉心解析方法で使用する立体セルの構成を示す図であって、(a)は燃料棒モデルの斜視図に直線パス及び面領域を示した説明図、(b)は面領域に入射する中性子束とそこから出射する中性子束を説明する説明図である。
【図2】炉心モデルの構成を示した平面図である。
【図3】燃料集合体モデルの構成を示した部分平面図である。
【図4】燃料棒モデルの詳細構成を説明する図であって、(a)は斜視図、(b)は分割線を加えた燃料棒モデルの平面図である。
【図5】本発明の最良の実施の形態の3次元炉心解析プログラムの全体の処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】中性子束分布の計算の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図7】面領域に入射する中性子束の入力値を説明する図であって、(a)は定数、(b)は二次関数を示したものである。
【図8】(a)は実施例2の燃料棒モデルの構成を説明する斜視図、(b)は解析結果の軸方向分布を示した図である。
【符号の説明】
【0124】
100 炉心モデル
10 燃料集合体モデル
1 燃料棒モデル(立体セル)
2 直線パス
31〜33 面領域
F1 入力値(定数)
F2 入力関数(関数式)
5 燃料棒モデル(立体セル)
φ 3次元中性子束
φ(p,θ,Ψ) 面中性子束
φ(θ,Ψ) 角度中性子束
Ψ 方位角
θ 仰角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料棒を備えた炉心が複数の3次元形状の立体セルに分割された体系における、立体セル内の中性子の挙動を解析するための3次元炉心解析方法であって、
前記立体セルの2次元面についてその面をある方位角Ψで通過する中性子の飛跡を複数の直線パスで規定し、
その直線パスを前記2次元面に直交する方向に延伸した面領域を生成し、
その面領域の面内にある仰角θで入射する中性子束と出射する中性子束とからその面領域の面中性子束を算出するとともに、その面中性子束を前記した複数の直線パス上の面領域のすべてに対して算出することで前記立体セルの角度中性子束を算出し、
複数の前記方位角Ψ及び前記仰角θについて同様の計算をおこなってすべての角度中性子束を算出して角度積分することで前記立体セルの3次元中性子束を算出することを特徴とする3次元炉心解析方法。
【請求項2】
前記面領域は、前記直線パスが前記立体セルの2次元面を任意に分割した分割線と交差する点で区切られた線分を上辺又は底辺とする四角形の領域であることを特徴とする請求項1に記載の3次元炉心解析方法。
【請求項3】
前記入射する中性子束の分布を関数式に基づいて入力することを特徴とする請求項1又は2に記載の3次元炉心解析方法。
【請求項4】
複数の燃料棒を備えた炉心が複数の3次元形状の立体セルに分割された体系における、立体セル内の中性子の挙動を解析するためにコンピュータを機能させる3次元炉心解析プログラムであって、
解析条件を入力する入力手段と、
その解析条件に基づいて、前記立体セルの2次元面内をある方位角Ψで通過する中性子の飛跡を平行する複数の直線パスで規定するとともに、その方位角Ψを変更して同様にその方位角Ψ毎の直線パスを生成し、それらの直線パスを前記2次元面に直交する方向に延伸して面領域pを生成する面領域生成手段と、
その面領域pの面内にある仰角θで入射する中性子束と出射する中性子束とからその面領域内の面中性子束φ(p,θ,Ψ)をすべての直線パスについて算出するとともに、前記立体セルの空間内に含まれる面領域pの前記面中性子束φ(p,θ,Ψ)を空間内で積分することで、仰角θ、方位角Ψに向かう立体セルの角度中性子束φ(θ,Ψ)を算出する角度中性子算出手段と、
前記角度中性子束φ(θ,Ψ)を角度で積分することで、前記立体セル内の3次元中性子束φを算出する中性子束算定手段と、
前記3次元中性子束φに基づいた解析結果を出力する出力手段とを備えたことを特徴とする3次元炉心解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−51509(P2008−51509A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224921(P2006−224921)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物 社団法人日本原子力学会、「日本原子力学会 2006年春の年会 要旨集」、2006年3月9日発行 2.指定学術団体の研究集会における発表 日本原子力学会 2006年春の年会、社団法人日本原子力学会、2006年3月24日〜26日
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【Fターム(参考)】