説明

3端子型固体電解コンデンサ

【課題】 容量調整が容易で、金属部の直流抵抗を低減でき、陽極引き出し部と陰極端子との段差を最小限に抑えられる3端子型固体電解コンデンサを提供すること。
【解決手段】 弁作用を有する金属板41と、金属板41の拡面化された表面に形成された誘電体層46と、誘電体層46の表面に形成された固体電解質層47と、固体電解質層47の表面に形成されたグラファイト層48と、グラファイト層48の表面に形成された下地銀層49からなる導電体層と、金属板41の両端部にそれぞれ接続された陽極端子44a、44bと、前記導電体層に接着銀層50を介して接続された陰極端子51とからなる3端子型固体電解コンデンサにおいて、金属板41は板状または箔状の金属体であり、その片側(上側)表面に金属粉末からなる焼結体45を形成して拡面化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路部品に関し、特に集積回路などの周辺近傍に配置され、広い周波数帯域のノイズを除去する3端子型固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話をはじめとする情報電子機器が、世の中に広く用いられている。これらの情報電子機器には、デジタル回路技術が用いられている。最近ではコンピューターや通信関連機器、家庭電化製品や車載用機器にもLSI等のデジタル回路技術を利用した部品が使用されている。一般にLSIを動作させた場合、高周波電流がLSIの電源ラインに発生することが知られている。この高周波電流は、LSI近傍にとどまらず、プリント基板等の実装回路基板内の広い範囲に伝搬し、信号配線やグランド配線に誘導結合して高周波ノイズを発生させ、信号ケーブルなどからも電磁波ノイズとして漏洩する。この高周波電流は自機の誤動作の原因になるだけでなく、上述のように電磁干渉により他機にも影響を及ぼすので大きな問題となっている。
【0003】
この対策には、高周波電流の発生源であるLSIを供給電源系から高周波的に分離すること、すなわち、電源デカップリングの手法が有効である。従来からこの目的のデカップリング用素子にはバイパスコンデンサなどのノイズフィルタが使用されてきた。しかし、LSIの高速化に対応できる低インピーダンスのノイズフィルタの開発は遅れていた。特にコンデンサの自己共振現象のため高周波領域まで低インピーダンスを維持するのは困難であった。このため、電気的ノイズの除去を広い周波数帯域に渡って行う場合には、複数種類のコンデンサ、たとえば自己共振周波数が異なるアルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサ、セラミックコンデンサ等の異種のコンデンサをLSI近傍に複数個配置することによって行われてきた。
【0004】
しかしながら、近年、LSIから発生するノイズを抑制し、LSIの動作を安定にするデバイスとして、高周波領域まで低インピーダンスを維持できる小型でかつ高性能な3端子型固体電解コンデンサが開発された。
【0005】
特許文献1においては、平板形状の弁作用金属からなる板を陽極体とし、その板上に形成した誘電体上に固体電解質層を形成し、その上に導電体層を形成してなる固体電解コンデンサを分布定数回路形成部とし、上記導電体層に導通する陰極端子と上記陽極体の両端に接続した2つの端子を備えることにより前記分布回路形成部が伝送路構造を形成するように設定された3端子型固体電解コンデンサが示されている。
【0006】
図2は特許文献1に示されている従来の3端子型固体電解コンデンサの実際の構造を説明する図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は図2(a)を上面から見た鳥瞰図である。図2(c)は図2(b)をA−A’線で切断した断面図である。図2(d)は図2(b)をB−B’線で切断した断面図である。
【0007】
図2において、平板形状の弁作用金属からなる金属板1を陽極体とし、その金属板1の表面をエッチング処理により拡面化してエッチング層13を形成し、その表面を酸化して誘電体層14を形成し、その上に導電性高分子からなる固体電解質層7を設け、その上にグラファイト層8、下地銀層9からなる導電体層を設けて固体電解コンデンサを構成し、下面より接着銀10を介して陰極端子11を取り出し、金属板1の両端よりそれぞれ陽極端子4a、4bを取り出して3端子型固体電解コンデンサを構成している。
【0008】
また、図3は特許文献2に示された従来の3端子型固体電解コンデンサの実際の構造を説明する図であり、図3(a)は斜視図、図3(b)は図3(a)を上面から見た鳥瞰図である。図3(c)は図3(b)をA−A’線で切断した断面図である。図3(d)は図3(b)をB−B’線で切断した断面図である。
【0009】
図3において、弁作用金属で形成された所定の長さを有する金属細線35と、金属細線35の中央部周囲を被覆する前記弁作用金属と同一の金属の焼結体36と、焼結体36の表面に形成された誘電体層37と、誘電体層37の表面に形成された固体電解質層27と、固体電解質層27の表面に形成されたグラファイト層28、下地銀層29からなる導電体層と、金属細線35の両端にそれぞれ接続した陽極端子24a、24bと、前記導電体層に接着銀30を介して接続した陰極端子31を有する3端子型固体電解コンデンサが示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−164760号
【特許文献2】特開2004−007105号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に示された3端子型固体電解コンデンサの容量は、金属板1のエッチング層13を構成するエッチングピットの表面に形成された誘電体層14の厚さと表面積に依存する。容量を大きくするためには金属板1の深さ方向に均一に深いエッチングピットを形成してその表面積を大きくし、そこに薄い酸化皮膜を形成する必要がある。しかしながら、エッチングピット形状が均一に成長する深さには限界がある。また、大容量化が必要な場合には積層型構成がとられるが、製品コストが高くなる。そこで特許文献1の3端子型固体電解コンデンサは実用上容量の値が制限されることになる。また、エッチング層13と誘電体層14が金属板1の上下両側に形成されるため、陽極を構成する金属板1と回路基板上に設置される陽極端子4a、4bおよび陰極端子11との段差が大きくなり、陽極端子4a、4bと金属板1の溶接時に破断が発生しやすい。
【0012】
特許文献2の3端子型固体電解コンデンサでは、前述した容量が焼結体の種類、厚み、焼結条件により調整可能であり、耐薬品性の高いタンタルやニオブといった弁作用金属を使用できる。しかしながら陽極電極として金属細線35を用いているので直流抵抗が大きくなり、また、焼結体36が金属細線35の上下両側に形成されるため、陽極引き出し部と陽極端子24a、24bおよび陰極端子31との段差が大きく、陽極端子と金属細線35の溶接時に破断が発生しやすい。
【0013】
そこで、本発明の課題は、上述のような従来の3端子型固体電解コンデンサの欠点を改善し、容量調整が容易で、金属部の直流抵抗を低減でき、陽極引き出し部と陰極端子との段差を最小限に抑えられる3端子型固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の3端子型固体電解コンデンサは、弁作用を有する金属からなる陽極体と、該陽極体の拡面化された表面に形成された誘電体層と、該誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、該固体電解質層の表面に形成された導電体層と、前記陽極体の両端部にそれぞれ接続された電極端子と、前記導電体層に接続された電極端子とからなる3端子型固体電解コンデンサにおいて、前記陽極体は弁作用を有する板状または箔状の金属体の片側表面に金属粉末からなる焼結体を形成して拡面化されたことを特徴とする。
【0015】
また、弁作用を有する金属からなる陽極体と、該陽極体の拡面化された表面に形成された誘電体層と、該誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、該固体電解質層の表面に形成された導電体層と、前記陽極体の両端部にそれぞれ接続された電極端子と、前記導電体層に接続された電極端子とからなる3端子型固体電解コンデンサにおいて、前記陽極体は弁作用を有する板状または箔状の金属体の片側表面に金属蒸着体を形成して拡面化されたことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、焼結体または蒸着体の厚みで容量が調整できるため容量調整が容易である。また、陽極体として弁作用金属を用いた金属板を使用することで直流抵抗を低減でき、該金属板の片面にのみ拡面化した誘電体層を設けることで陽極引き出し部と陰極端子の段差を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、本発明による3端子型固体電解コンデンサの第一の実施例の構造を説明する図であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は図1(a)を上面から見た鳥瞰図である。図1(c)は図1(b)をA−A’線で切断した断面図である。図1(d)は図1(b)をB−B’線で切断した断面図である。
【0019】
図1において、弁作用を有する金属からなる陽極体として金属板41と、金属板41の拡面化された表面に形成された誘電体層46と、誘電体層46の表面に形成された固体電解質層47と、固体電解質層47の表面に形成されたグラファイト層48とグラファイト層48の表面に形成された下地銀層49からなる導電体層と、金属板41の両端部にそれぞれ接続された陽極端子44a、44bと、前記導電体層に接着銀50を介して接続された陰極端子51とからなる3端子型固体電解コンデンサにおいて、金属板41は弁作用を有する板状または箔状の金属体であり、その片側(上側)表面に金属粉末からなる焼結体45を形成して拡面化されている。
【0020】
ここで、固体電解質層47は、二酸化マンガンより高い導電率を有する導電性高分子が望ましい。また、金属板41の下側表面には焼結体45は形成されていないが、金属板41の表面に形成された誘電体層42を有し、この誘電体層42上に上述と同様な層構造が形成されている。
【0021】
焼結体45は、弁作用金属の粉末をプレス成型した後、あるいは弁作用金属の粉末を含むペーストを塗布した後、所定の温度で焼結したものが用いられる。弁作用金属等としては、化学的安定性の高いタンタル、ニオブおよび一酸化ニオブが好ましい。金属板41と同種の金属または異種の金属であってもよい。
【0022】
具体的な構成の一例としては、金属板41としてタンタル板を使用し、その上側表面にタンタル粉末の焼結体を設け、その表面に誘電体層を形成し、その誘電体層の表面に固体電解質であるポリチオフェン層、グラファイト層、下地銀層を形成する。タンタル板の下側表面にも同様に誘電体層を形成し、その上にポリチオフェン層、グラファイト層、下地銀層を形成する。その後、下地銀層と陰極端子を接着銀によって接続し、タンタル板の両端に陽極端子を溶接する。上記タンタル粉末の焼結体は、タンタルの粉末をプレス成型した後、所定の温度で焼結したものを用いる。
【0023】
ここで、上記の弁作用を有する金属板等および焼結体の材料としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、一酸化ニオブ、チタン、ジルコニウムなどを用いることができる。
【0024】
次に、本発明による3端子型固体電解コンデンサの第二の実施例について説明する。本実施例の構造は図1に示した第一の実施例と基本的に同じであるが、金属板41の片側(上側)表面に焼結体45の代わりに弁作用金属が蒸着により粒子を析出させることで拡面化されている点のみが異なっている。金属板41としては材料コストの安いアルミニウムを用いることができ、また前記蒸着体にもアルミニウムを用いることができる。
【0025】
ここで、上記の弁作用を有する金属板等および蒸着体の材料としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、一酸化ニオブ、チタン、ジルコニウムなどを用いることができる。
【0026】
以上のように、本発明では特許文献1のようにエッチングによる拡面化ではなく焼結体または蒸着体による拡面化を行っているのでその焼結体または蒸着体の厚みで容量が調整できるため容量調整が容易であり、また、陽極体として弁作用金属を用いた金属板を使用することで直流抵抗を低減でき、さらに金属板の片面にのみ上記焼結体または蒸着体を設けることで陽極引き出し部と陰極端子の段差を最小限に抑えることができ、電極端子溶接時の破断の発生を抑えることができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、例えば、金属板の形状、固体電解質層や導体層の材料、層構造、形状、陽極端子、陰極端子の形状などは目的とする3端子型固体電解コンデンサの容量、形状、端子位置などに応じて最適な材料、形状を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による3端子型固体電解コンデンサの第一の実施例を説明する図。図1(a)は斜視図、図1(b)は図1(a)を上面から見た鳥瞰図、図1(c)は図1(b)をA−A’線で切断した断面図、図1(d)は図1(b)をB−B’線で切断した断面図。
【図2】従来の3端子型固体電解コンデンサの一例の実際の構造を説明する図。図2(a)は斜視図、図2(b)は図2(a)を上面から見た鳥瞰図、図2(c)は図2(b)をA−A’線で切断した断面図、図2(d)は図2(b)をB−B’線で切断した断面図。
【図3】従来の3端子型固体電解コンデンサの他の例の実際の構造を説明する図。図3(a)は斜視図、図3(b)は図3(a)を上面から見た鳥瞰図、図3(c)は図3(b)をA−A’線で切断した断面図、図3(d)は図3(b)をB−B’線で切断した断面図。
【符号の説明】
【0029】
1、41 金属板
3、23、33、43 導電体層
4a、4b、24a、24b、44a、44b 陽極端子
14、37、42、46 誘電体層
7、27、47 固体電解質層
8、28、48 グラファイト層
9、29、49 下地銀層
10、30、50 接着銀
11、31、51 陰極端子
13 エッチング層
35 金属細線
36、45 焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用を有する金属からなる陽極体と、該陽極体の拡面化された表面に形成された誘電体層と、該誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、該固体電解質層の表面に形成された導電体層と、前記陽極体の両端部にそれぞれ接続された電極端子と、前記導電体層に接続された電極端子とからなる3端子型固体電解コンデンサにおいて、前記陽極体は弁作用を有する板状または箔状の金属体の片側表面に金属粉末からなる焼結体を形成して拡面化されたことを特徴とする3端子型固体電解コンデンサ。
【請求項2】
弁作用を有する金属からなる陽極体と、該陽極体の拡面化された表面に形成された誘電体層と、該誘電体層の表面に形成された固体電解質層と、該固体電解質層の表面に形成された導電体層と、前記陽極体の両端部にそれぞれ接続された電極端子と、前記導電体層に接続された電極端子とからなる3端子型固体電解コンデンサにおいて、前記陽極体は弁作用を有する板状または箔状の金属体の片側表面に金属蒸着体を形成して拡面化されたことを特徴とする3端子型固体電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−78543(P2008−78543A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258608(P2006−258608)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)