説明

4−クロロ−4−アルコキシ−1,1,1−トリフルオロ−2−ブタノン、それらの調製、および4−アルコキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを調製するためのそれらの使用

アルキルビニルエーテルとトリフルオロアセチルクロリドとを反応させることにより調製した4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンは、4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを調製するのに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年6月29日に出願された米国仮出願第60/937,903号の優先権を主張する。本発明は、新規の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノン、それらの調製方法、および4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを調製するためのそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンは、殺虫剤を調製するのに有用な中間体である;例えば、米国特許公開公報第2005/0288511号を参照のこと。これらの調製は、例えば、米国特許第5,708,175号;同第7,057,079号(B2);WO2004/108647(A2);および米国特許出願公開公報第2006/0084813(A1)に既に記載されている。残念ながら、4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンは、比較的高価で、いくぶん不安定である(すなわち、冷蔵保存されることが推奨されている)。4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを調製するためにもっと費用のかからない方法があることが望ましいと思われる。また、より簡単に輸送および保存できる、あるいはまたin situで生成し易い、より安定した前駆体が望ましいと思われる。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、新規の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノン、それらの調製方法、および4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを調製するためのそれらの使用に関する。特に、本発明は、以下の式:
【化1】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンに関する。
【0004】
本発明の別の態様は、以下の式:
【化2】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの調製方法であって、以下の式:
【化3】


(式中、Rは先に定義した通り)
のアルキルビニルエーテルを、トリフルオロアセチルクロリドと、無溶媒で、または無水有機溶媒の存在下で、-10℃〜35℃の温度にて接触させることを含む、方法に関する。
【0005】
本発明の別の態様は、以下の式:
【化4】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンの調製方法であって、以下の式:
【化5】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを、以下の式:
【化6】


(式中、R2は独立してC1-C8アルキルまたはフェニルを表し、R3は独立してH、C1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
のスルホキシドまたはホルムアミド触媒と、無水有機溶媒の存在下で、-10℃〜20℃の温度にて接触させることを含む、方法に関する。
【0006】
本発明は、以下の式:
【化7】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンに関する。特に限定しない限り、本明細書で使用する「アルキル」という用語は、その範囲内に、直鎖、分岐鎖、および環状部分を含む。
【0007】
4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンは、以下の式:
【化8】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
のアルキルビニルエーテルを、トリフルオロアセチルクロリドと反応させることにより調製される。
【0008】
通常、おおよそ等モル量のアルキルビニルエーテルおよびトリフルオロアセチルクロリドを上記方法において使用するが、どちらか一方を過剰量で使用してもよい。実際には、アルキルビニルエーテルが10〜50%の化学量論的過剰量(stoichiometric excess)であることが好ましい場合が多い。
【0009】
反応は、溶媒の不在下(例えば、過剰量のアルキルビニルエーテルで)、または無水有機溶媒の存在下のいずれかで行われる。好ましい溶媒は、炭化水素溶媒、最も好ましくはトルエン等の芳香族炭化水素である。
【0010】
反応は、-10℃〜35℃の温度で行われる。0℃〜20℃の温度が通常好ましい。
【0011】
典型的な反応においては、トリフルオロアセチルクロリドを、無溶媒でまたは炭化水素溶媒の存在下で、0〜5℃にて、アルキルビニルエーテルの表面より下で泡立せる。反応液は、温まるままにして1時間攪拌し、室温を超えない温度に保つ。4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを含む粗反応混合液は、通常、反応混合液をそれ以上単離または精製すること無くそのままで使用する。
【0012】
本発明の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンは、以下の式:
【化9】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを調製するのに有用であり、4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを、以下の式:
【化10】


(式中、R2は独立してC1-C8アルキルまたはフェニルを表し、R3は独立してH、C1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
のスルホキシドまたはホルムアミド触媒と接触させることにより、4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを調製する。
【0013】
スルホキシドまたはホルムアミド触媒は、一般的に、4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの量に基づき0.1〜10モル%のレベルで使用される。0.5〜5モル%のレベルが通常好ましい。
【0014】
反応は、無水有機溶媒の存在下で行われる。好ましい溶媒は、炭化水素溶媒、最も好ましくはトルエン等の芳香族炭化水素である。
【0015】
反応は、-10℃〜20℃の温度で行われる。0℃〜20℃の温度が通常好ましい。
【0016】
4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンは、通常、反応混合液をそれ以上単離または精製すること無しにそのままで使用する。従って、典型的な反応において、トリフルオロアセチルクロリドは、炭化水素溶媒の存在下で、0〜5℃にて、アルキルビニルエーテルの表面より下で泡立せる。反応液は、温まるままにして1時間攪拌する。次いで、4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを含む粗反応混合液を、0〜5℃に冷却し、スルホキシドまたはホルムアミド触媒を一度に添加する。反応は、一般的に、さらに12〜24時間攪拌してから終了する。4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンは、反応混合物をそれ以上単離または精製すること無しに、そのままで都合よく保存される。
【0017】
本発明を説明するために以下の実施例を提示する。
【0018】
実施例
実施例1 4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの調製
熱電温度計およびドライアイス/アセトン冷却器(condenser)を取り付けた100 mL三つ口丸底フラスコに、26.4 g(0.37モル)のエチルビニルエーテルを充填した。その後、反応容器を、氷水浴に沈めて冷却した。次に、49 g(0.37モル)のトリフルオロアセチルクロリドを、表面下で反応混合液を通じて泡立せた。酸塩化物の添加終了後、氷水浴を除去し、溶液を室温まで温めた。内部反応温度は、25℃を上回らせないようにした。反応の進行はGCでモニタリングできた。GC分析は、反応混合液が未反応出発材料を含むことを示した。反応混合液を氷水浴で冷やし、さらに13 g(0.09モル)のトリフルオロアセチルクロリドを、表面下で反応混合液を通じて泡立せた。GC分析は、反応液がまだ出発材料を含むことを示したため、さらに19 g(0.14モル)のトリフルオロアセチルクロリド添加により上記プロセスを繰り返した。反応混合液を回収して、58.6 g(GC面積比で約94%の粗収率、および約71%の純度)を得た。4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンについて:1H NMR (CDCl3, 300 MHz), δ1.25 (t,J=6 Hz, 3H), 3.38 (dd,J=18.0, 3.0 Hz, 1 H), 3.51(dd,J=15.0, 9.0 Hz, 1 H), 3.63 (dq, J=9.0, 6.0 Hz, 1H), 3.98 (dq, J=9.0, 6.0 Hz, 1H), 5.97 (dd, J = 6.0, 3.0 Hz, 1H))。GCMS(PCI-NH3): m/z 204.0165。
【0019】
実施例2 4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの調製
熱電温度計およびドライアイス/アセトン冷却器を取り付けた50 mL三つ口丸底フラスコに、20 mLのトルエン、その後3.77 g(0.052モル)のエチルビニルエーテルを充填した。その後、反応混合液を、氷水浴中で冷却した後、8.77 g(0.066モル)のトリフルオロアセチルクロリドを、表面下で反応混合液を通じて泡立せた。内部反応温度は、3℃から5℃まで上昇した。氷水浴を除去し、溶液を周囲温度まで温まらせ、さらに一時間攪拌した。反応終了後、GC分析は、粗反応混合液が、4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを主要生成物として含むことを示した。
【0020】
実施例3 4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの調製
500 mL被覆反応器(jacketed reactor)に、冷却浴および機械式攪拌機(mechanical stirring)を装備した。窒素で覆われたこの容器に、95.81 g(1.33モル)のエチルビニルエーテルを一度に充填した。浴槽の循環温度は0℃に設定し、機械式攪拌機を稼働させ、反応器の内容物を冷やした。内部反応温度が2℃に到達したら、148.1 g(1.12モル)のトリフルオロアセチルクロリドを、表面下浸漬管を介して、反応混合液を通じて、2.5時間かけてゆっくりと泡立せた。内部反応温度は、ガス添加の速度を調整することで12℃未満で維持した。トリフルオロアセチルクロリド添加終了後、表面下浸漬管を容器から外し、反応混合液をさらに1時間27分間冷却しながら攪拌した。反応混合液を、容器の底から排液させて、232.1 gの無色の液体を得た。この混合液の19F NMRアッセイ(98% 2,4-ジクロロベンゾトリフルオリドを内部標準として使用)は、4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロブタン-2-オンについて93%の単離収率および92%の純度を示した。
【0021】
実施例4 ジメチルスルホキシドを触媒として使用した4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンの調製
実施例2で得た4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンのトルエン溶液を、その後、氷水浴を使用して2℃まで冷やした後、184μL(0.003モル)のジメチルスルホキシド-d6(DMSO)を、シリンジを介して一度に添加した(この添加の間、いくらかの発熱が見とめられたことに留意する)。次いで、この反応液を、21時間攪拌した際に、GC分析は4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンが50%の面積比で(in 50% relative area percent)存在することを示した。さらに184μL(0.003モル)のDMSO-d6をシリンジを介して一度に添加した。この二回目のDMSO添加の間に3℃の温度上昇が見とめられた。反応液をさらに3時間攪拌した後、ポリシール(poly-seal)蓋付きのガラス瓶に移した。生成物/トルエン溶液の重さは26.75であり、4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを、(出発エチルビニルエーテルモル濃度に基づく)「浴収率(in pot yield)」で65%含むことがGCアッセイによって測定された。GCMS:m/z測定(M+1) 169。
【0022】
実施例4 ジメチルスルホキシドを触媒として使用した4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンの調製
熱電温度計およびドライアイス/アセトン冷却器を取り付けた50 mL三つ口丸底フラスコに、20 mLのトルエン、その後3.77 g(0.052モル)のエチルビニルエーテル(EVE)を充填した。その後、反応混合液を、氷水浴に入れて冷却した後、7.6 g(0.057モル)のトリフルオロアセチルクロリド(TFAC)を、表面下で反応混合液を通じて泡立せた。氷水浴を除去し、溶液を周囲温度(約20℃)まで温め、さらに一時間攪拌した。GC分析は、TFACの添加がさらに必要であることを示した。反応混合液を、氷水浴を使用して冷却した後、さらに2.1 g(0.061モル)のトリフルオロアセチルクロリドを、表面下で反応混合液を通じて泡立せた。氷水浴を除去し、溶液を周囲温度にてさらに40分間攪拌した。この時点で、CG分析は、粗反応混合液が、4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを主要生成物として含むことを示した。その後、反応を次の工程に進めた。
【0023】
4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの約1 mLのトルエン溶液を対照参照物質(control reference)として確保しておいた。4-クロロ-4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを含む残りのトルエン反応混合液を、その後、氷水浴を使用して2℃まで冷やした。次いで、400μL(0.005モル)のN,N-ジメチルホルムアミド-d7(DMF-d7)をシリンジを介して一度に添加した。その後、反応液を24時間攪拌した際に、GC分析は4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンが57%の面積比で存在することを示した。次いで、反応混合液をポリシール蓋付きのガラス瓶に移した。生成物/トルエン溶液の重さは26.32であり、4-エトキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンを、(出発EVEモル濃度に基づく)「浴収率」で62%含むとGCアッセイによって測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化11】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノン。
【請求項2】
以下の式:
【化12】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンの調製方法であって、以下の式:
【化13】


(式中、Rは先に定義した通り)
のアルキルビニルエーテルを、トリフルオロアセチルクロリドと、無溶媒で、または無水有機溶媒の存在下で、-10℃〜35℃の温度にて接触させることを含む、方法。
【請求項3】
以下の式:
【化14】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンの調製方法であって、以下の式:
【化15】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを、以下の式:
【化16】


(式中、R2は独立してC1-C8アルキルまたはフェニルを表し、R3は独立してH、C1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
のスルホキシドまたはホルムアミド触媒と、無水有機溶媒の存在下で、-10℃〜20℃の温度にて接触させることを含む、方法。
【請求項4】
以下の式:
【化17】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-3-ブテン-2-オンの調製方法であって、
a)以下の式:
【化18】


(式中、Rは先に定義した通り)
のアルキルビニルエーテルを、トリフルオロアセチルクロリドと、無溶媒で、または無水有機溶媒の存在下で、-10℃〜35℃の温度にて接触させて、以下の式:
【化19】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを得る工程;および
b)以下の式:
【化20】


(式中、RはC1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
の該4-クロロ-4-アルコキシ-1,1,1-トリフルオロ-2-ブタノンを、以下の式:
【化21】


(式中、R2は独立してC1-C8アルキルまたはフェニルを表し、R3は独立してH、C1-C8アルキルまたはフェニルを表す)
のスルホキシドまたはホルムアミド触媒と、無水有機溶媒の存在下で、-10℃〜20℃の温度にて接触させることを含む、方法。

【公表番号】特表2010−532376(P2010−532376A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515124(P2010−515124)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/068378
【国際公開番号】WO2009/006217
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(501035309)ダウ アグロサイエンシィズ エルエルシー (197)
【Fターム(参考)】