説明

4−ケトルテインの調製および食品添加剤としての使用

ルテインから4−ケトルテインを調製する方法を記載する。生成物は、卵黄および鶏の皮膚の望ましい着色を提供する飼料添加剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
4−ケトルテインの化学合成について記載する。合成された化合物は、鶏卵の卵黄を着色するのに有用である。
【関連技術の説明】
【0002】
ルテインは、食品添加剤として使用するためにマリーゴールドの花(Tagetes erecta)から大量に商業生産されている。特定的には、それは、鶏卵の卵黄を着色するために広く使用されている。しかしながら、ルテインは卵黄に鮮やかな黄色を付与するとはいえ、多くの市場では、得られる卵黄の色がより橙色になるように赤色着色を付加することが望ましい。典型的には、この赤色着色は、パプリカ抽出物またはカンタキサンチンを飼料に添加することにより得られる。これらの抽出物を飼料に添加すると、費用が著しく増大される。したがって、他の着色剤を後続的に添加することなく所望の着色を付与しうるルテイン生成物が必要とされている。所望の橙赤色着色を生成するようにルテイン自体を経済的に改変することができれば、所望の効果を達成するために高価な抽出物を添加する必要はないであろう。これは、実際上、本発明者らの本発明の基礎である。
【0003】
これまでに、本発明者らは、ゼアキサンチンをアスタキサンチンに変換するための温和な酸化手順を明らかにした(米国特許第5,973,211号明細書および米国特許第6,329,557号明細書)。本発明者らは、このたび、ルテインを4−ケトルテインに良好な収率で変換するための類似の手順を明らかにした。4−ケトルテインとルテインとの混合物は、部分酸化によりまたはルテインと得られた4−ケトルテインとの後続混合により取得可能であり、試験において卵黄の優れた着色を示す。
【0004】
ルテインは、マリーゴールドの花から抽出されるルテインエステルを加水分解することにより良好な純度で得られる。それは、いくつかの手段により半精製されて鶏用飼料中への配合用として販売されている。この場合、それは、卵黄にさらには皮膚に黄色の着色を付与する。しかしながら、天然の条件下で飼育される鶏は、一般的には、卵黄にいくらかの赤色着色を付与する他のカロテノイドを摂取する。したがって、ルテインと帯赤色着色を有する他のカロテノイドとの混合物を用いることによりこの着色を模擬することが望ましい。
【0005】
ルテインから4−ケトルテインへの変換は、次の図で示される:
【化1】

【発明の概要】
【0006】
本発明の実施形態は、有機溶媒にルテインを溶解させる工程と、ルテインを酸化剤と反応させて4−ケトルテインを生成する工程と、反応混合物から4−ケトルテインを分離する工程と、を含む、ルテインから式(I)で示される4−ケトルテインを調製する方法に関する。
【化2】

【0007】
好ましくは、有機溶媒はハロゲン化有機溶媒である。より好ましくは、ハロゲン化有機溶媒はクロロホルムである。好ましい実施形態では、有機溶媒対ルテインの重量/体積比は、1部あたり5〜40部である。
【0008】
好ましい実施形態では、酸化剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、重亜硫酸ナトリウム、または重亜硫酸カリウムでありうる飽和水溶液を臭素酸塩の飽和溶液と混合することにより生成される。より好ましくは、酸化剤は、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸ナトリウムの飽和溶液と混合することにより生成される。好ましい実施形態では、重亜硫酸ナトリウム対臭素酸ナトリウムの重量比は約1.5:1である。
【0009】
他の好ましい実施形態では、酸化剤は、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸カリウムの飽和溶液と混合することにより生成される。他の好ましい実施形態では、酸化剤は、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸カルシウムの飽和溶液と混合することにより生成される。他の好ましい実施形態では、酸化剤は、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸セリウムの飽和溶液と混合することにより生成される。好ましい実施形態では、酸化剤対ルテインの重量比は、カロテノイド1部あたり0.5〜5部である。好ましい実施形態では、水性酸化剤のpHは1〜4である。好ましい実施形態では、反応温度は2〜10℃である。
【0010】
好ましい実施形態では、ルテインは、植物抽出物の鹸化により得られる。好ましくは、植物はマリーゴールドである。代替的な好ましい実施形態では、ルテインは合成により調製される。
【0011】
本発明の実施形態は、構造1で示される4−ケトルテインを動物用飼料添加剤として使用する方法に関する。好ましい実施形態では、動物は産卵鶏であり、4−ケトルテインは飼料に添加される。好ましい実施形態では、4−ケトルテインは、約1〜80ppmの濃度の4−ケトルテイン生成物を生じるのに十分な量で飼料に添加される。好ましくは、4−ケトルテインは、産卵鶏の飼料中で約2〜10ppmの濃度の4−ケトルテイン生成物を生じるのに十分な量で産卵鶏の飼料に添加される。より好ましくは、飼料中で2〜3ppmのルテイン濃度のルテインを生じるのに十分な量で、ある量のルテインが4−ケトルテインと組み合わせて飼料に添加される。
【0012】
本発明の実施形態は、4−ケトルテインを動物用飼料添加剤として使用する方法に関する。ただし、該4−ケトルテインは、有機溶媒にルテインを溶解させることと、ルテインを酸化剤と反応させて4−ケトルテインを生成することと、反応混合物から4−ケトルテインを分離することと、により調製される。
【0013】
本発明のさらなる態様、特徴、および効果は、以下の好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0014】
記載の実施形態は本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、当然のことながら、当業者であれば本発明の趣旨から逸脱することなく変更を加えられよう。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定されなければならない。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は、ルテインを4−ケトルテインに変換するための酸化手順に関する。本発明者らは、簡単な酸化手順によりルテインを良好な収率で実際上望ましい帯赤色着色を有する4−ケトルテインに変換しうることを見いだした。
【0016】
この酸化手順は、分子の所望の側だけが影響を受けるように種々の方法で行うことが可能である。好適な条件は、水性/有機性混合媒体中またはペルオキシド中のハロゲン化条件である。これらのハロゲン化剤は、臭素、NBS、または類似の試剤でありうる。同様に、オレフィンのα位をヒドロキシル化する公知の条件を利用することが可能である。アリル酸化を行う非限定例または酸化反応に利用しうる試剤は、トロスト(Trost)およびラロック(Larock)著、「総合有機合成(Comprehensive Organic Synthesis)」、第7巻、パーガモン・プレス(Pergamon Press)刊、ニューヨーク(New York)、1991年、83〜117頁ならびにリチャードC.ラロック(Richard C.Larock)著、「総合有機変換(Comprehensive Organic Transformations)」、ワイリーVCH(Wiley−VCH)刊、ニューヨーク(New York)、1999年、1207〜1209頁(それらの全体が参照により本明細書に援用されるものとする)の主要参考図書にレビューされている。
【0017】
好ましい実施形態では、臭素酸塩と重亜硫酸塩との混合物が酸化剤として使用される。好ましい実施形態では、これらの反応は、水性媒体と非反応性非混和性有機媒体とを利用する二相条件で行われる。使用される臭素酸塩は、一般的には、ナトリウムまたはカリウムの重亜硫酸塩またはメタ重亜硫酸塩と併用されるナトリウムまたはカリウムの臭素酸塩である。臭素酸塩および重亜硫酸塩は、反応中または反応直前に混合可能である。最も好ましい実施形態では、臭素酸塩/重亜硫酸塩混合物を調製し、次に、これを有機溶媒中のルテインのスラリーに徐々に添加する。好ましい実施形態では、適度の混合を行いながら重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液と臭素酸ナトリウムの飽和溶液とを約1〜3:1、好ましくは約1.0〜1.5:1の比で反応させる。
【0018】
ルテインを溶解しうる溶媒であるかぎり、任意の非反応性非混和性有機媒体を有機溶媒として使用可能である。好ましい実施形態では、溶媒はクロロホルムである。
【0019】
好ましくは、反応は、0℃〜70℃の任意の温度で行われる。より好ましくは、反応は、2〜10℃の温度で行われる。
【0020】
カロテノイド生成物は、有機相中に抽出することにより反応混合物から分離可能である。場合により、生成物を抽出した後、有機相を洗浄してもよい。
【0021】
カロテノイドは、未反応ルテインと4−ケトルテインとの混合物として使用可能である。精製された4−ケトルテインをルテインおよび/または他のカロテノイドと組み合わせて所望の着色を提供することが可能である。好ましい実施形態では、記載の方法により得られた4−ケトルテインは、得られる食品で望ましい着色が提供されるように動物用飼料に添加される。好ましい実施形態では、記載の方法により調製された4−ケトルテインを含む組成物は、鶏の皮膚および/または卵黄の望ましい黄橙色着色が達成されるように鶏用飼料添加剤として使用される。4−ケトルテイン生成物はまた、望ましい着色が提供されるように食品に直接添加することも可能である。
【実施例】
【0022】
好適な槽内で、106グラムのカロテノイド(そのうちの90グラムはルテインに対応する)を含有する1Kgのマリーゴールド抽出物をスラリー化し、180mlの水中の180グラムの水酸化ナトリウムを添加した。1時間にわたり攪拌しながら混合物を103℃に加熱した。鹸化の終了後、18リットルのヘキサンを添加し、混合物を攪拌した。ヘキサン層を分離し、140mmHgの絶対圧力下で水性層を50℃に加熱した。水性層を1.4リットルの25%リン酸で処理することにより、溶液を約pH=4に中和した。鹸化された抽出物を分離し、水性塩層を除去した。有機層を12,800mlのクロロホルムおよび7.2グラムのヨウ素と混合し、温度を5℃に調整した。次に、1200mlの水、53.6グラムの臭素酸ナトリウム、24.3グラムの炭酸ナトリウム、29.2グラムのメタ重亜硫酸ナトリウム、および48.6グラムのクエン酸を混合することにより調製された溶液を、連続攪拌しながらかつ5℃の一定温度を保持しながら1時間かけて添加することにより、この混合物を処理した。HPLC分析により決定したときに98%超のルテインが4−ケトルテインに変換される時点まで反応をさらに2時間進行させた。この時点で、1,400mlの28%炭酸ナトリウム溶液を添加することにより、反応を停止させた。混合物を25℃で10分間攪拌し、次に、1,400mlの水を添加し、さらに5分間混合した。次に、相分離させるべく混合物を静置した。水性相を分離し、続いて、45℃で640mmHgの真空を用いて溶媒を除去することにより有機相を処理した。溶媒を除去した後、40℃で200グラムのトゥイーン80(Tween−80)を濃縮物に組み込み、12.7リットルの体積になるまで水を添加することにより乳化させた。得られた生成物は、5.1gr/kgの全カロテノイド(そのうちの57%は4−ケトルテインであった)を含有していた。出発原料に対する全カロテノイドの収率は60%であり、ルテインからの4−ケトルテインの収率は41%であった。
【0023】
当業者には当然のことであろうが、本発明の趣旨から逸脱することなく多数のさまざまな変更を加えることが可能である。したがって、ごく当然のことながら、本発明の形態は、例示的なものにすぎず、本発明の範囲を限定しようとするものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテインから式(I)
【化1】


で示される4−ケトルテインを調製する方法であって、
ルテインを有機溶媒に溶解させる工程と、
前記ルテインを酸化剤と反応させて4−ケトルテインを含む反応混合物を生成する工程と、
前記反応混合物から4−ケトルテインを分離する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記有機溶媒がハロゲン化有機溶媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化有機溶媒がクロロホルムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、重亜硫酸ナトリウム、および重亜硫酸カリウムからなる群から選択される飽和水溶液を臭素酸塩の飽和溶液と混合することにより生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化剤が、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸ナトリウムの飽和溶液と混合することにより生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
重亜硫酸ナトリウム対臭素酸ナトリウムの重量比が約1.5:1である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化剤が、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸カリウムの飽和溶液と混合することにより生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化剤が、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸カルシウムの飽和溶液と混合することにより生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化剤が、重亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液を臭素酸セリウムの飽和溶液と混合することにより生成される、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
反応温度が2〜10℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
酸化剤対ルテインの重量比がカロテノイド1部あたり0.5〜5部である、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
水性酸化剤のpHが1〜4である、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
有機溶媒対ルテインの重量/体積比が1部あたり5〜40部である、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
ルテインが植物抽出物の鹸化により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記植物がマリーゴールドである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ルテインが合成により調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
構造1で示される4−ケトルテインを動物用飼料添加剤として使用する方法であって、4−ケトルテインを動物用飼料に添加することを含む、方法。
【請求項18】
前記動物が産卵鶏である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
4−ケトルテインが、約1〜80ppmの濃度の4−ケトルテイン生成物を生じるのに十分な量で飼料に添加される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
4−ケトルテインが、産卵鶏の飼料中で約2〜10ppmの濃度の4−ケトルテイン生成物を生じるのに十分な量で飼料に添加される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
飼料中で2〜3ppmのルテイン濃度のルテインを生じるのに十分な量である量のルテインを飼料に添加することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
色素が強化された動物用飼料を調製する方法であって、
ルテインを有機溶媒に溶解させることと、
前記ルテインを酸化剤と反応させて4−ケトルテインを含む反応混合物を生成することと、
前記反応混合物から4−ケトルテインを分離することと、
前記4−ケトルテインを動物用飼料に添加して色素が強化された動物用飼料を取得することと、
を含む、方法。

【公表番号】特表2008−506732(P2008−506732A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521847(P2007−521847)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007479
【国際公開番号】WO2006/008016
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】