説明

4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造方法

【課題】エポキシ樹脂のエポキシ化原料またはエポキシの硬化剤として有用な4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を、重合速度が速く、生産性に優れ、効率的に、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を製造し、従来よりも低コストで提供しうる該樹脂の製造方法の提供。
【解決手段】4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類とを、飽和脂環式炭化水素の溶媒中、パラトルエンスルホン酸触媒の存在下で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールノボラック系エポキシ樹脂のうちでも、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール骨格を有するエポキシ樹脂は、低吸水性および靭性などに優れ、半導体封止剤やプリント配線基板積層板の材料として用いられており、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂は、このようなエポキシ樹脂のエポキシ化原料またはエポキシ硬化剤として有用である。
【0003】
上記4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造には、フェノール重合体の製造方法として従来公知のフェノールと、そのフェニル環に結合するアルキレン基を導入するアラルキル化合物との重縮合反応を利用することができる。縮合反応の形態は、アラルキル化合物(縮合剤)の末端基により、通常、脱水反応、脱アルコール反応または脱塩化水素反応である。具体的には、ヒドロキシメチル末端のアラルキル化合物が用いる場合の脱水反応(特許文献1など参照)、アルコキシアルキル末端のアラルキル化合物を用いる場合の脱アルコール反応(特許文献2〜4など参照)、またはハロゲノアルキル末端のアラルキル化合物を用いる場合の脱塩化水素反応(特許文献5〜9など参照)である。これら反応は、通常、アラルキル化合物に対し過剰量のフェノールを用い、たとえば50℃〜200℃の反応温度で行われ、反応後、過剰のフェノールは蒸留除去される。
【0004】
触媒としては、塩化アルミニウム、塩化第一錫、硫酸、塩酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、粒状粘土、塩化第二錫、塩化亜鉛、塩化第二鉄、塩化鉄、三フッ化ホウ素、酸性白土、合成ゼオライト、硫酸第一水銀、硫酸銀などの酸性化合物が知られている。
【0005】
上記のうちでも、脱塩化水素反応に用いられる触媒としては、縮合剤として二塩化パラキシレンを挙げる例において、粒状粘土、塩化第二錫、塩化亜鉛、塩化第二鉄などのフリーデルクラフツ形触媒、中でも塩化第二錫の使用が推奨されている(特許文献5参照)。この文献には、二塩化パラキシレンの実施例はないが、必要ならば反応混合物に有機溶剤を加えてもよいとし、クロルベンゼンなどの不活性の芳香族環を有する塩素化芳香族化合物を挙げている。
【0006】
脱塩化水素反応は反応触媒の塩酸が大量に発生することから、縮合剤として芳香族ビスハロゲノメチルを用いる脱塩化水素反応は無触媒で行うこともできる(特許文献6参照)。この文献には、必要ならば、トルエンやモノクロルベンゼンなどの反応に不活性で、沸点110℃以上の有機溶媒を使用してもよいことが記載されている。芳香族ビスハロゲノメチルとしてジクロロ−p−キシレンを用いる実施例が示されるが、有機溶媒の使用はない。
【0007】
芳香族ビスハロゲノメチルとして、特に4,4’−ビスクロロメチルビフェニルを用いる反応において、触媒の塩酸は、反応中に生成する塩化水素だけでなく予め加えてもよいことを記載する(特許文献7,8参照)。ここには、反応は無溶媒で行うこともできるが、メタノール、エアタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコールを用いることが好ましいとし、メタノールを用いる実施例が示されている。
【0008】
また、副生する塩化水素を中和するための塩基性物質を存在させる4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノールの反応(特許文献9参照)では、酸性条件にない場合には、酸性物質を添加することを提案し、p−トルエンスルホン酸を添加する実施例を示す。ここでも反応に溶剤を用いるならば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、酢酸などを用い得ることが記載される。
【0009】
【特許文献1】特開平4−110317号公報
【特許文献2】特許3122834号公報
【特許文献3】特許2952094号公報
【特許文献4】特公昭47−13782号公報
【特許文献5】特公昭47−15111号公報
【特許文献6】特許2866747号公報
【特許文献7】特開2001−64340公報
【特許文献8】特開2001−40053公報
【特許文献9】特開2008−56944公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特に4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類との重合速度を速め、従来よりも短時間に効率的に4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するものとして、以下のような本発明が提供される。すなわち、本発明に係る4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造方法は、4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類とを、飽和脂環式炭化水素の溶媒中、パラトルエンスルホン酸触媒の存在下で反応させて、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を得る。
上記飽和脂環式炭化水素は、具体的に、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカリンから選ばれる少なくとも1種である。
【0012】
本発明では、上記のような4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造方法を、エポキシ化の原料樹脂の製造工程として含むエポキシ樹脂の製造方法も提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、重合速度が速く、生産性に優れ、効率的に、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を製造することができる。よって、エポキシ樹脂のエポキシ化原料またはエポキシの硬化剤として有用な4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を従来よりも低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いられるフェノール類は、各種化合物が市販されており、4,4’−ビスクロロメチルビフェニルと重縮合反応し得るものであれば特に限定されないが、好ましくは、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,6−キシレノール、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。中でも、製造する樹脂の特性や経済性の点から、フェノールを用いることが最も好ましい。
【0015】
また、本発明で用いられる4,4’−ビスクロロメチルビフェニルは、その製造方法が知られており、例えば、ビフェニル、パラホルムアルデヒド、塩化水素を塩化亜鉛などの触媒を用いて反応させる方法(特公昭46−29908)、ビフェニルとパラホルムアルデヒドと塩酸を低級脂肪族カルボン酸などの溶媒中で反応させる方法(特公昭40−3774)、ビフェニルとパラホルムアルデヒドと塩化チオニルを塩化亜鉛などの触媒を用いて反応させる方法(特開平3−188029)などによって製造することができる。これら特許公報に記載された4,4’−ビスクロロメチルビフェニルの製造方法は、引用により本明細書に記載されているものとする。本発明に用いられる、4,4’−ビスクロロメチルビフェニルは、前述した方法や、それ以外のいかなる製造法を用いて製造されたものを用いてもよい。市販品としても入手可能である。
【0016】
4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類との反応は、通常、フェノール類を理論当量に対し、過剰に用いて行うことが好ましい。フェノール類の過剰量を調節することにより、得られるフェノール樹脂の軟化点を制御する事ができるからである。すなわち、原料のフェノール量を増やすと軟化点は低下し、フェノール量を減らすと軟化点は向上する。4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類の仕込み比として好適な範囲は、フェノール/4,4’−ビスクロロメチルビフェニル=1.1/1〜15/1(モル比)である。これよりもフェノールの割合が少ない場合や多い場合は、工業的に有用な軟化点の4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を得られにくくなる。
【0017】
本発明では、触媒として、特にパラトルエンスルホン酸を用いる。パラトルエンスルホン酸は、原料全量に対して、0.01〜10mass%、好ましくは0.1〜5mass%の範囲で用いることが好ましい。この範囲よりも触媒量が少ないと反応速度が遅くなり、この範囲よりも触媒量が多いと、コスト的に高価であるばかりか、軟化点などの特性が変化するので好ましくない。
【0018】
また本発明では、反応溶媒として、特に飽和脂環式炭化水素が用いられる。この飽和脂環式炭化水素としては、具体的には、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン(デカヒドロナフタレン)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、また2種類以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中では、安価で、工業的に入手が容易なシクロヘキサンを用いることが好ましい。
上記溶媒は、原料全量に対して、0.1〜100mass%、好ましくは1〜50mass%、更に好ましくは5〜30mass%の範囲で用いることができる。なお、この範囲よりも溶媒量が少ないと重合速度が遅く、また、この範囲よりも溶媒量が多いと、同じ反応容器では、製造できる樹脂の量が少なくなるので、生産性が低下することになる。
【0019】
本発明では、上記のとおり4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類との反応を、特にパラトルエンスルホン酸触媒下で、反応溶媒として飽和脂環式炭化水素を用いて行うが、この触媒がたとえば塩酸などの他の酸化合物であったり、また溶媒がアルコール、あるいは同じ環員数であっても芳香族化合物を用いる場合、あるいは無溶媒の場合に比べ、芳香族化合物の水素添加物である飽和脂環式炭化水素を用いることにより、格別に高い重合速度を得ることができる。上記原料と、特定触媒と、特定触媒におけるこのような特異的効果を教示する公知技術はなく、本発明により始めて提供される知見である。
【0020】
上記反応溶媒は、蒸留によりフェノールとともに回収し、フェノールとの混合物の状態で再利用することが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法では、反応温度は特に限定されない。通常、−50℃〜250℃、好ましくは、20℃〜200℃、更に好ましくは、30℃〜150℃の範囲である。この範囲よりも反応温度が低いと、重合速度が遅くなり、この範囲よりも反応温度が高いと、副反応生成物が生じ易くなる。
【0022】
本発明において、上記により、得られる4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の工業的に有用な軟化点は、通常50〜100℃、好ましくは60〜90℃である。
また、得られた4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂は、グリシジルエーテル化することにより4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール骨格を有するエポキシ樹脂を得ることができる。グリシジルエーテル化は、フェノール重合体のグリシジルエーテル化で公知の方法、たとえば特許文献7,9などを利用して実施することができる。これら特許公報の記載は、引用により本明細書に記載されているものとする。
【実施例】
【0023】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(分析)
反応混合物の分析:高速液体クロマトグラフ(島津製作所社製高速液体クロマトグラフ20Aシリーズ)を用いて、アセトニトリルと水の混合物溶媒混合割合により分析した。反応混合物に残存する4,4’−ビスクロロメチルビフェニルの含有量は、面積%で算出した。
軟化点:環球式軟化点測定装置(MEITEC社製25D5−ASP−MG型)を用いて、グリセリン浴中、5℃/分の昇温速度で測定した。
【0024】
(実施例1)
攪拌装置、温度計、還流装置、不活性ガス導入管、オイルバスを備えた1リットルの反応容器(セパラプルフラスコ)に、フェノール(和光純薬工業(株)製)83.5g(0.89mol、理論量に対して約3.4倍)、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル(和光純薬工業(株)製)66.0g(0.26mol)、パラトルエンスルホン酸0.5g(原料全量に対して0.33%)、シクロヘキサン33.5g(原料全量に対して、22.4%)を加えて、70℃に昇温し、反応開始した。
反応開始直後から、所定時間ごとに、少量のサンプルをサンプリングし、高速液体クロマトグラフの測定を行なって、4,4’−ビスクロロメチルビフェニルの消費速度を調べた。
4hr反応した後、温度を140℃に過熱し、過剰のフェノールを減圧燕留で除去して、軟化点74.5℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレンーフェノール樹脂)を得た。4,4’−ビスクロロメチルビフェニルの残在量の経時変化を図1に示す。
【0025】
(実施例2)
実施例1において、シクロヘキサンの代わりにデカリンを用いた以外は同様の反応を繰り返し、軟化点74.0℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【0026】
(実施例3)
実施例1において、シクロヘキサンの代わりにメチルシクロヘキサンを用いた以外は同様の反応を繰り返し、軟化点75.0℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【0027】
(比較例1)
実施例1において、パラトルエンスルホン酸の代わりに塩酸を用いた以外は同様の反応を繰り返し、軟化点72.0℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【0028】
(比較例2)
実施例1において、シクロヘキサンの代わりにヘキサンを用いた以外は、実施例1と同様の反応を繰り返し、軟化点73.0℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【0029】
(比較例3)
実施例1において、シクロヘキサンの代わりにトルエンを用いた以外は、実施例1と同様の反応を繰り返し、軟化点71.5℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【0030】
(比較例4)
実施例1において、シクロヘキサンの代わりにメタノールを、またパラトルエンスルホン酸の代わりに塩酸を用いた以外は、実施例1と同様の反応を繰り返し、軟化点72.5℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【0031】
(比較例5)
実施例1において、シクロヘキサンを用いなかった以外は、実施例1と同様の反応を繰り返し、軟化点73.4℃の目的物(4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂)を得た。結果を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例および比較例における、反応時間に対する4,4’−ビスクロロメチルビフェニル残在量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’−ビスクロロメチルビフェニルとフェノール類とを、飽和脂環式炭化水素の溶媒中、パラトルエンスルホン酸触媒の存在下で反応させて、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂を得る、4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記飽和脂環式炭化水素が、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびデカリンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の4,4’−ビフェニルジイルメチレン−フェノール樹脂の製造方法。

【図1】
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