説明

5A族金属系水素分離膜を用いた水素分離システム

【課題】Pd系合金水素分離膜と5A族金属合金水素分離膜を併用することにより、従来の改質器より高い水素回収率が得られる水素分離システムを得る。
【解決手段】水素分離膜を支持する役割を果たす筺状もしくは円筒状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5A族金属系水素分離膜を用いた水素分離システムに関し、より具体的には、Pd系合金水素分離膜と元素の周期律表5A族金属合金水素分離膜を使用してなる水素分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来型の水素分離型改質器の水素分離膜としては、一般的にPd系合金水素分離膜(特許文献1等)が知られ、使用されている。水素分離型改質器において、投入原料ガスつまり水素含有被処理ガス(炭化水素の水蒸気改質等により得られる水素を含む被処理ガス)に対して多くの水素分離膜を搭載すれば、分離される水素量も増えて効率的に水素製造が行えるが、Pd系合金水素分離膜は高価であるとともに、装置が大きくなる。
【0003】
Pd系合金からなる水素分離膜によって水素を選択的に透過精製し、効率的な水素製造を行うためには、例えば1次圧(反応側)=0.8MPaG、2次圧(透過側)=−0.06〜0MPaG、500〜550℃、S/C=2.5〜3.5の条件において、原料投入量2〜6cc/min/cm2、好ましくは3〜4cc/min/cm2程度で運転するのが適当である。
【0004】
Pd系合金水素分離膜のみの水素分離型改質器においては、そのように最適化された運転条件において、水素分離膜の面積を増やしたり、水素分離膜モジュールの搭載量を増やしたりしても、水素分離膜の増加分に値する水素製造量は得られない。
【0005】
例えば、炭化水素の改質時における見掛けの水素透過係数が0.7×10-8mol・m-1・s-1・Pa-1/2である、長さ450mm、幅120mm、厚さ20μmのPd系合金水素分離膜に、95NL/h(およそ3cc/min/cm2)の13A都市ガスと、S/C(水蒸気/カーボン比)=3の水蒸気を、1次側(反応側)を0.8MPaGで投入し、2次圧(透過側)を−0.06MPaGにして、550℃において水素製造を行った場合を考えると、長さ600cmとして膜面積を33.3%増加させた場合、水素製造量は294NL/hから355NL/hへと20.7%しか増加しない。
【0006】
ところで、Nb、V、Taなどの元素の周期律表5A族金属または5A族金属を含む合金は、Pd−Ag合金などのPd系合金と比較して高い水素透過係数Φを有しているが、水素脆化が起こるために水素分離膜としての使用が困難である。そこで水素脆化を抑制するために、添加元素を加えて水素脆化を抑制する方法などが提案されている(特許文献2、3)。しかし、添加物質を何%加えると言った単純な制御によって、単に高い溶解度や水素透過係数を得るだけでは、耐水素脆性と工業的に重要な高い水素透過速度の両立は困難であり、添加物質、添加量に加えて適切な使用温度、使用圧力(一次側及び二次側)を選択することが必要である。
【0007】
本発明者らは、PCT曲線(=圧力組成温度曲線)を利用することで、他成分添加によって水素固溶量を抑制しつつ、高い水素濃度差を実現する最適条件を求める方法を先に開発、提案している(特許文献4、5)。この方法によると、脆性破壊を起さない条件を明らかにすることで、低水素分圧、低圧差での使用が可能になることを純Nb、Nb−W合金において示した。しかし、その最高使用圧力は、0.05MPa(絶対圧)と言う大気圧以下であり、高水素分圧では使用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第2773561号公報
【特許文献2】特開2001−170460号公報
【特許文献3】特開2006−000722号公報
【特許文献4】特願2008−072607号(2008年3月19日出願)
【特許文献5】特願2008−072609号(2008年3月19日出願)
【0009】
本発明者らは、この度、大気圧以上の水素分圧でも使用可能な5A族金属合金水素分離膜を新たに見出した。すなわち、例えば500℃において、V−W系合金水素分離膜であれば0.3MPa(絶対圧)まで使用可能であり、Ta−W系合金水素分離膜であれば0.15MPa(絶対圧)まで使用可能である。そして、500℃における見掛けの水素透過係数は最大でPd−Ag合金の5倍であることを明らかにした(図1〜4)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、そのように、例えば500℃において、0.3MPa〔=3気圧(絶対圧)〕まで使用可能なV−W系合金水素分離膜、0.15MPa〔=1.5気圧(絶対圧)〕まで使用可能なTa−W系合金水素分離膜を利用し、それらをPd系合金水素分離膜と併用することにより、すなわち、Pd系合金水素分離膜と5A族金属合金水素分離膜を併用することにより、従来の改質器より高い水素回収率が得られる水素分離システムを提供することを目的とするものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(1)は、水素分離膜を支持する役割を果たす円筒状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする2段式水素分離型改質器である。
【0012】
本発明(2)は、改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす円筒状の改質触媒兼多孔質支持体の外周面に水素分離膜を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システムである。
【0013】
本発明(3)は、水素分離膜を支持する役割を果たす筺状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする2段式水素分離型改質器である。
【0014】
本発明(4)は、改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす筺状の改質触媒兼支持体の外周面に水素分離膜を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システムである。
【0015】
本発明(1)〜(4)の水素分離システムにおいて、被処理ガスの下流側に用いる5A族金属合金水素分離膜としては、V−W系合金水素分離膜、Ta−W系合金水素分離膜などを用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下(1)〜(4)の効果が得られる。
(1)天然ガスなどの原燃料から、従来の改質器より高い水素回収率が得られる水素分離型改質器が実現できる。
(2)Pd等の貴金属の使用量を低減することで水素分離膜の低コスト化につながる。従来と同じ水素製造量が必要であれば、後段に5A族金属合金水素分離膜を付与して前段のPd系合金水素分離膜の量を低減できる。
(3)2段式水素分離膜によって、500℃でもPd系合金水素分離膜のみ550℃のときと同等の水素製造量が得られる。このため、反応炉の運転温度を低下させることが可能であり、高効率化につながる。
(4)高い回収率で水素を引き抜くため、改質器のオフガス中のCO2濃度が上昇し、圧縮液化によるオフガスからの効率的なCO2分離回収が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1はV−W系合金膜について、温度400℃、450℃、500℃における、雰囲気の水素圧力Pと固溶水素量Cの関係をプロットした図である。
【図2】図2はPd−26Ag合金、Nb−5W合金、V−5W合金について、水素透過速度試験の試験条件、結果を示す図である。
【図3】図3はTa−W系合金膜について、温度400℃、450℃、500℃における、雰囲気の水素圧力Pと固溶水素量Cの関係をプロットした図である。
【図4】図4はPd−26Ag合金、Ta−5W合金について、水素透過速度試験の試験条件、結果を示す図である。
【図5】図5は本発明(1)〜(2)の構成態様例を説明する図である。
【図6】図6は本発明(3)〜(4)の構成態様例を説明する図である。
【図7】図7はPd系合金水素分離膜を設置した水素分離器1等を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明(1)は、水素分離膜を支持する役割を果たす円筒状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムである。そして、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする。
【0019】
本発明(2)は、改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす円筒状の改質触媒兼多孔質支持体の外周面に水素分離膜を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムである。そして、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする。
【0020】
本発明(3)は、水素分離膜を支持する役割を果たす筺状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムである。そして、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする。
【0021】
本発明(4)は、改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす筺状の改質触媒兼支持体の外周面に水素分離膜を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムである。そして、前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする。
【0022】
本発明(1)〜(4)の水素分離システムにおいて、被処理ガスの下流側に用いる5A族金属合金水素分離膜としては、V−W系合金水素分離膜(VにWを添加して合金化した合金からなる水素分離膜)、Ta−W系合金水素分離膜(TaにWを添加して合金化した合金からなる水素分離膜)などを用いることができる。
【0023】
例えば、Pd系合金水素分離膜を用いた水素分離では、シーベルトの法則(Sievert's law:C=KP1/2。以下“シーベルツ則”と略称する。)に従うため、高い水素透過量J(J=D・ΔC/d、Dは拡散係数、ΔCは固溶水素量差、dは膜厚)を稼ぐためにある程度の水素分圧差(ΔP)が必要であるが、Nbはシーベルツ則に従わない領域があることがわかった。このため、低水素濃度においても水素圧力差や水素分圧差が発生すれば、高い固溶水素量差(ΔC)が得られ、高い水素透過量(J)を得ることができる。
【0024】
使用温度でのPCT曲線を測定することで、合金の使用可能な水素圧を決定できる。例えば、500℃においてV−W系合金は0.3MPa〔=3気圧(絶対圧)〕以下、Ta−W系合金は0.15MPa〔=1.5気圧(絶対圧)〕以下の水素分圧であれば水素分離膜として使用可能である(図1、図3)。
【0025】
また、水素の透過流束Jと合金の膜厚dの積であるJ・d値の評価から圧力条件によっては、V−W系合金やTa−W系合金がPd−Ag合金と比較して高い水素透過速度を得ることが分かった(図2、図4)。
【0026】
図2のとおり、500℃において、水素透過条件、プロセス側(一次側)/透過側(二次側)=0.20MPa/0.01MPaの場合、見掛けの水素透過能Φは、Pd−26Ag合金が2.3×10-8(mol-1・m-1・s-1・Pa-1/2)であるのに対し、V−5W合金膜1.2×10-7(mol-1・m-1・s-1・Pa-1/2)と約5倍であり、同じ面積、同じ厚さの分離膜であれば、約5倍の水素透過量が得られる。
【0027】
例えば、改質時における見掛けの水素透過係数が0.7×10-8(mol-1・m-1・s-1・Pa-1/2)である、長さ450mm、幅120mm、厚さ20μmのPd系合金水素分離膜に、95NL/h(おおよそ3cm3/min/cm2)の13A都市ガスと、S/C(水蒸気/カーボン比)=3の水蒸気を、一次側(改質側)を0.8MPaで投入し、二次側(透過側)を−0.06MPaGにして、550℃において水素製造を行った場合を考えると、水素製造量は294L/h、原料転化率は80.4%となる。
【0028】
このとき反応管出口におけるガス組成は、550℃において、CH4=7.0%、H2O=51.6%、CO=1.9%、CO2=26.9%、H2=12.6%であり、出口部分における水素分圧は0.11MPa(絶対圧)となるため、プロセスガス側の圧力が0.8MPaGであっても、Pd系合金水素分離膜の後段においてV−W系合金水素分離膜やTa−W系合金水素分離膜の使用が可能となる。
【0029】
V−W系合金膜やTa−W系合金膜を使用した水素分離膜モジュールを、Pd系合金水素分離膜の後段、改質器上部の温度が500℃以下の位置に設置すれば、Pd系合金水素分離膜のプロセスガス側オフガスからさらに水素を分離し、高い水素製造量が得られる水素分離型改質器が実現できる。
【0030】
特許文献6では、ユニットを直列につなぐことで、並列的に接続して均一に原料ガスを同時に供給する場合に比べて、ユニット内での原料ガスの線流速を上昇させ、流れと直交する方向において改質触媒上で反応した水素の混合拡散を促進し、水素製造量を増大させることが提案されている。
【0031】
【特許文献6】特開2004−182297号公報
【0032】
効率的な水素製造を行うためには、例えば一次圧(反応側)=0.8MPaG、二次圧(透過側)=−0.06〜0MPaG、500〜550℃、S/C=2.5〜3.5の条件において、原料投入量2〜6cm3/min/cm2、理想的には3〜4cm3/min/cm2程度で運転するのが適当である。同じ単位面積、単位時間当たりの原料投入量であれば、直列に反応管を接続した場合、二つの反応管を直列に接続した場合は2倍、四つの反応管を直列に接続した場合は4倍と、接続した反応管の数に比例して線速度は速くなる。
【0033】
上述のPd系合金水素分離膜を用いた反応管を二本つなげ、膜面積当たり同じとなる原料、189NL/h(おおよそ3cm3/min/cm2)を投入し、理想的に全体が550℃と仮定した場合、原料転化率は80.4%、水素製造量は588NL/hとなる。前段の温度の高い部分(〜550℃)にPd系合金水素分離膜を用いた反応管を一本、後段(上部)の温度が低く500℃程度の場所に、5A族金属合金水素分離膜を用いた反応管一本を設置して、3cm3/min/cm2を投入する場合は、一本目のPd系合金水素分離膜を用いた反応管の出口部分における水素分圧が0.152MPa(絶対圧)となるため、Ta−W系合金膜は使用できないが、V−W系合金膜が使用できる。
【0034】
二本目のPd系合金水素分離膜の代わりに長さ450mm、幅120mm、厚さ40μm(加工性がPd系合金より低いため)の5A族金属合金水素分離膜を用いたとき、出口の原料転化率は85.8%、水素製造量は679NL/hとなり、Pd系合金水素分離膜のみ2本を用いた場合の水素製造量588NL/hに対して15.5%増加する。
【0035】
同様に、上述のPd系合金水素分離膜を用いた反応管を三本つなげ、膜面積当たり同じとなる原料、284NL/h(おおよそ3cm3/min/cm2)を投入し、理想的に全体が550℃と仮定した場合、原料転化率は80.4%、水素製造量は883NL/hとなる。前段の温度の高い部分(〜550℃)にPd系合金水素分離膜を用いた反応管を二本を、後段(上部)の温度が低く500℃程度の場所に、5A族金属合金水素分離膜を用いた反応管一本を設置する場合は、Pd系合金水素分離膜を用いた反応管の出口部分における水素分圧が0.138MPa(絶対圧)となり、Ta−W系合金膜も、V−W系合金膜も使用できる。
【0036】
このとき、三本目のPd系合金水素分離膜の代わりに上述と同じ寸法の5A族金属合金水素分離膜を用いれば、三本目出口の原料転化率は82.8%となり、水素製造量は974NL/hと10.3%増加する。このように、Pd系合金水素分離膜を用いた反応管の一部を5A族金属合金水素分離膜を用いた反応管に置き換えることにより、低コストで高効率な水素分離型改質器を実現できる。
【0037】
また、反応炉全体をほぼ均一な温度にすることが可能であって、500℃で運転を行う場合は、原料の入口側のみにPd系合金水素分離膜があれば十分にプロセスガス側の水素分圧を0.15MPa(絶対圧)以下に下げることができる。500℃で反応管を五本つなげる場合、1本目のPd系合金水素分離膜を用いた反応管の出口部分における水素分圧は0.136MPa(絶対圧)となり、二〜五本目に5A族金属合金水素分離膜を使用できる。
【0038】
二〜五本目にPd系合金水素分離膜の代わりに上述と同じ寸法の5A族金属合金水素分離膜を用いた場合、五本目出口の原料転化率は89.7%となり、水素製造量は1529NL/hとなり、550℃において5本のPd系合金水素分離膜反応管を用いた場合の1471NL/hと比較して4.0%増加する。Pd系合金水素分離膜の使用量を大幅に減らすことができ、原材料コストを低減できるだけでなく、反応炉の運転温度を低下させることで反応管加熱のための投入エネルギーを低減し、放熱等のエネルギーロスを低く抑えることで高効率化が可能となる。
【0039】
また、改質ガスつまり水素含有ガスから高い回収率で水素を引き抜くため、改質器からのオフガス中のCO2濃度が相対的に上昇する。現在、世界最高効率を実現している出願人の40Nm3/hメンブレンリフォーマー(改良型)の100%出力時=40Nm3/h水素製造時の改質器オフガス中のCO2濃度は72.2%であるが、条件によってはこれより高いCO2濃度を得ることが可能である。2段式水素分離型改質器のオフガスからは、圧縮液化のみによって、より高効率にCO2を分離し回収することが可能である。
【0040】
〈本発明(1)の構成態様例〉
図5は、本発明(1)の構成態様例を説明する図である。図5のとおり、容器10中にPd系合金水素分離膜を設置した水素分離器1と5A族金属合金水素分離膜を設置した水素分離器2を配置する。それら水素分離器1、水素分離器2を収容した容器10にはその下部にバーナー11が配置される。12はバーナーでの燃焼ガスの分散板である。符号13は容器10からの燃焼排ガス導出管である。
【0041】
Pd系合金水素分離膜を設置した水素分離器1を図7(a)に示し、5A族金属合金水素分離膜を設置した水素分離器2を図7(b)に示している。図7(a)〜(b)においては、水素分離器に改質触媒層を配置した場合の態様例を示している。
【0042】
容器10中には、水素分離器1と水素分離器2を直列に組み合わせた列を複数列に配置する。その列の数は適宜設定することができる。図5にはその列数が4列の場合を示している。また、水素分離器1と水素分離器2を直列に組み合わせた列における、水素分離器1の数と水素分離器2の数は適宜設定することができる。図5には水素分離器1が2個、水素分離器2が1個の場合を示している。
【0043】
水素分離器1には改質触媒層を配置する。図5には各列の最下部の水素分離器1に改質触媒層を配置した場合を示している。改質触媒は、プロセスガス(原燃料+水蒸気)中の原燃料を水蒸気改質して水素を生成する。
【0044】
水素分離器1は、合金からなる多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体にPd系合金水素分離膜を配置して構成される。多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体は円筒体でもよく筺体でもよい。水素分離器2は、合金からなる多孔質の円筒体または筺体に5A族金属合金水素分離膜を配置して構成される。多孔質とはガスを通す連通孔を有するとの意味である。水素分離器1と水素分離器2の配置は、プロセスガス(原燃料+水蒸気)の流れ方向でみて、まず水素分離器1を配置し、次いで水素分離器2を配置する。符号5はプロセスガス導入管であり、水素分離器1の下端部に開口している。
【0045】
原燃料と水蒸気の混合ガスであるプロセスガスは、その導入管5を介して導入される。最下部の水素分離器1の下端部に導入されたプロセスガス中の原燃料は、水蒸気とともに当該水素分離器1に配置された改質触媒層中を上昇しながら改質触媒により改質されて水素を生成する。改質触媒層の改質触媒により改質されて生成した水素を含むプロセスガスは、水素分離器1中を上昇しながら、水素がPd系合金水素分離膜を透過して精製され、透過した水素は水素導出管8を介して取り出される。
【0046】
最下部の水素分離器1を経たプロセスガス(当該最下部の水素分離器1で分離されなかった生成水素を含む)は、連結管6を介して、次の水素分離器1すなわち第2の水素分離器1に導入され上昇し、プロセスガス中の水素がPd系合金水素分離膜を透過して精製され、透過した水素は水素導出管8を介して取り出される。
【0047】
上記第2の水素分離器1を経たプロセスガス(当該第2の水素分離器1で分離されなかった生成水素を含む)は、連結管6を介して、水素分離器2に導入され、水素分離器2中を上昇しながら、プロセスガス中の水素が5A族金属合金水素分離膜を透過、精製され、透過した水素は水素導出管8を介して取り出される。
【0048】
このように、プロセスガスは、順次、最下部の水素分離器1、当該最下部の水素分離器1に続く第2の水素分離器1、当該第2の水素分離器1に続く水素分離器2を経ながら、それらそれぞれで水素を分離精製し、水素導出管8を介して取り出される。
【0049】
一方、プロセスガスのオフガス、すなわち、その中の水素を分離した後の残余のガスはオフガス排出管7を介して排出される。より詳しくは、原燃料と水蒸気の混合ガスであるプロセスガスは、水素分離器1に配置された改質触媒層中を上昇しながら改質触媒の触媒作用により原燃料が水蒸気により改質(水蒸気改質)されて水素を生成する。生成水素は水素分離器1、2により分離、精製されるが、分離されなかった残余のガスはオフガス排出管7を介して排出される。
【0050】
図5に示す例では水素分離器1、水素分離器2の組み合わせの列が4列であるので、各列毎に水素導出管8があるが、導出水素は、各水素導出管8を1本の水素導出管に纏めて取り出すことができる。また、図5には4列の各列毎のオフガス排出管7があるが、オフガスは、各オフガス排出管7を1本のオフガス排出管に纏めて排出すことができる。
【0051】
〈本発明(2)の構成態様例〉
図5において、最下部の水素分離器1を構成する「合金からなる多孔質支持体」は、改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす円筒状の改質触媒兼多孔質支持体に換えることができる。この構成は本発明(2)の構成態様例となる。その他の構成は〈本発明(1)の構成態様例〉と同様である。
【0052】
〈本発明(3)の構成態様例〉
図6は、本発明(3)の構成態様例を説明する図である。図6のとおり、容器10中にPd系合金水素分離膜を設置した水素分離器1と5A族金属合金水素分離膜を設置した水素分離器2を配置する。それら水素分離器1、水素分離器2を収容した容器10にはその下部にバーナー11が配置される。12はバーナーでの燃焼ガスの分散板である。
【0053】
Pd系合金水素分離膜または5A族金属合金水素分離膜を設置した水素分離器を図7(c)に示している。Pd系合金水素分離膜を設置した水素分離器が水素分離器1となり、5A族金属合金水素分離膜を設置した水素分離器が水素分離器2となる。
【0054】
容器10中には、水素分離器1と水素分離器2を直列に組み合わせた列を複数列に配置する。その列の数は適宜設定することができる。図6にはその列数が3列の場合を示している。また、水素分離器1と水素分離器2を直列に組み合わせた列における、水素分離器1の数と水素分離器2の数は適宜設定することができる。図6には水素分離器1が1個、水素分離器2が4個の場合を示している。
【0055】
水素分離器1には改質触媒層を配置する。図6には各列の最下部の水素分離器1に改質触媒層を配置した場合を示している。改質触媒は、プロセスガス(原燃料+水蒸気)中の原燃料を水蒸気により改質して水素を生成する。
【0056】
水素分離器1は、合金からなる多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体にPd系合金水素分離膜を配置して構成される。多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体は円筒体でもよく筺体でもよい。水素分離器2は、合金からなる多孔質の円筒体または筺体に5A族金属合金水素分離膜を配置して構成される。多孔質とはガスを通す連通孔を有するとの意味である。水素分離器1と水素分離器2の配置は、プロセスガス(原燃料+水蒸気)の流れ方向でみて、まず水素分離器1を配置し、次いで水素分離器2を配置する。符号5はプロセスガス導入管であり、水素分離器1の下端部に開口している。
【0057】
原燃料と水蒸気の混合ガスであるプロセスガスは、その導入管5を介して導入される。最下部の水素分離器1の左端部に導入されたプロセスガス中の原燃料は、当該水素分離器1中に配置された改質触媒層中を流れながら改質触媒により改質されて水素を生成する。生成水素を含むプロセスガスは、水素分離器1中を流れながら、プロセスガス中の水素がPd系合金水素分離膜を透過して精製され、透過した水素は水素導出管8を介して取り出される。
【0058】
最下部の水素分離器1を経たプロセスガス(当該最下部の水素分離器1で分離されなかった生成水素を含む)は、連結管6を介して、水素分離器2に導入され、水素分離器2中を流れながら、プロセスガス中の水素が5A族金属合金水素分離膜を透過、精製され、透過した水素は水素導出管8を介して取り出される。
【0059】
このように、プロセスガスは、順次、最下部の水素分離器1、当該水素分離器1に続く水素分離器2を経ながら、水素を分離精製し、水素導出管8を介して取り出され、さらにその次の水素分離器2を経ながら、水素を分離精製し、水素導出管8を介して取り出される。
【0060】
一方、プロセスガスのオフガス、すなわち、その中の水素を分離した後の残余のガスはオフガス排出管7を介して排出される。より詳しくは、原燃料と水蒸気の混合ガスであるプロセスガスは、水素分離器1に配置された改質触媒層中を上昇しながら改質触媒の触媒作用により原燃料が水蒸気により改質(水蒸気改質)されて水素を生成する。生成水素は水素分離器1、2により分離、精製されるが、分離されなかった残余のガスはオフガス排出管7を介して排出される。
【0061】
図6に示す例では水素分離器1、水素分離器2の組み合わせの列が3列であるので、各列毎の水素導出管8があるが、導出水素は、各水素導出管8を1本の水素導出管に纏めて取り出すことができる。また、図6には3列の各列毎のオフガス排出管7があるが、オフガスは、各オフガス排出管7を1本のオフガス排出管に纏めて排出することができる。
【0062】
〈本発明(4)の構成態様例〉
図6において、最下部の水素分離器1を構成する「合金からなる多孔質支持体」は、改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす円筒状の改質触媒兼多孔質支持体に換えることができる。この構成は本発明(4)の構成態様例となる。その他の構成は〈本発明(3)の構成態様例〉と同様である。
【符号の説明】
【0063】
1、2 水素分離器
2 多孔質支持体
3 筺状容器
5 プロセスガス導入管
6 連結管
7 オフガス排出管
8 水素導出管
10 容器
11 バーナー
12 分散板
13 燃焼排ガス導出管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素分離膜を支持する役割を果たす円筒状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、
前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システム。
【請求項2】
改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす円筒状の改質触媒兼多孔質支持体の外周面に水素分離膜を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、
前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システム。
【請求項3】
水素分離膜を支持する役割を果たす筺状の多孔質支持体もしくは多孔板からなる支持体の外周面に水素分離膜を配置し、当該水素分離膜の外周に改質触媒層を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、
前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システム。
【請求項4】
改質触媒としての役割と水素分離膜を支持する役割を同時に果たす筺状の改質触媒兼支持体の外周面に水素分離膜を配置してなる水素分離型改質器を複数直列に配置してなる水素分離システムであって、
前記水素分離膜は、被処理ガスの上流側にはPd系合金水素分離膜を用い、被処理ガスの下流側には5A族金属合金水素分離膜を用いてなることを特徴とする水素分離システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素分離システムにおいて、前記被処理ガスの下流側に用いる5A族金属合金水素分離膜がV−W系合金水素分離膜、Ta−W系合金水素分離膜であることを特徴とする水素分離システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143375(P2011−143375A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7613(P2010−7613)
【出願日】平成22年1月16日(2010.1.16)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】