説明

6位修飾デオキシグルコースの製造方法

【課題】6位修飾デオキシグルコースを効率よく製造する新規な方法の提供。
【解決手段】(i)多糖類カードランに、ハロゲン化剤またはスルホニル化剤を反応させ、カードランの6位の水酸基をハロゲン基または−SO2−R基(ここで、Rは、メチル基等)に置換する工程、(ii)必要に応じて、前記工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランの6位のハロゲン基または−SO2−R基をアジド化する工程、および(iii)前記工程(i)または(ii)より得られた6位修飾デオキシカードランに酸加水分解剤を反応させ、6位修飾デオキシグルコースを得る工程を含む、下式(I)の6位修飾デオキシグルコースの製造方法。


[式中、X基は、アジド基、ハロゲン原子、または−SO2−Rを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カードランを用いた6位修飾デオキシグルコースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6位修飾デオキシグルコース、例えば6−アジド−6―デオキシグルコースは、ポリアミドの合成に有用であるとされる6−アジド−6−デオキシアルドン酸などの極めて重要な中間体として知られている(Ludovic Chaveriat, Imane Stasik, Gilles Demailly and Daniel Beaupere, Tetrahedron: Asymmetry, 17 (2006), 1349-1354 (非特許文献1))。
【0003】
これまでに、6−アジド−6−デオキシグルコースを合成するために従来用いられていた手法は、下記スキーム1に示すとおり、単糖であるグルコースを出発材料として合成する方法である(米国特許出願公開第2008/0114157号 (特許文献1)、Griffith, Byron R. et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129(26), 8150-8155 (非特許文献2)参照)。この方法では、(1)グルコースの1位の水酸基のエーテル保護、(2)6位の水酸基のO−トシル化、(3)6位のO−トシル基のアジド基への変換、(4)酸触媒による1位の水酸基の脱保護、という手順により、6−アジド−6−デオキシグルコースを得ることができる。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながら、上記手法における各反応段階での合成収率は低く、グルコース(原料)から6−アジド−6−デオキシグルコース(目的物)までの全収率は、高く見積もっても29%程度であった。また、上記(2)トシル化の過程では、グルコースの3位の水酸基もトシル化されて副生成物が生じるため、各反応過程では、生じた副生成物および反応溶液を除去するためのカラムクロマトグラフィーによる精製が必須となり、大量合成することは困難であった。
【0006】
そこで、6位修飾デオキシグルコースを、高収率で、簡便かつ大量に製造できる手法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0114157号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ludovic Chaveriat, Imane Stasik, Gilles Demailly and Daniel Beaupere, Tetrahedron: Asymmetry, 17 (2006), 1349-1354
【非特許文献2】Griffith, Byron R. et al., J. Am. Chem. Soc., 2007, 129(26), 8150-8155
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、今般、原料(出発物質)としてカードランを用いることで、保護基による保護および脱保護ならびに各反応過程におけるカラムクロマトグラフィーによる精製など煩雑な手法を行うことなく、高収率かつ低コストに、純度の高い6−アジド−6−デオキシグルコースを大量に合成することに成功した。この方法を利用することで、6位修飾デオキシグルコースを効率よく製造できることが分かった。本発明は、これら知見に基づくものである。
【0010】
本発明は、カードランを用いた6位修飾デオキシグルコースを効率よく製造する新規な方法の提供を目的とする。
【0011】
本発明の方法は、下記式(I)の6位修飾デオキシグルコースの製造方法であって、
【化2】

[式中、X基は、アジド基、ハロゲン原子、または−SO−R(ここで、Rは、メチル基、エチル基、p−メチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、またはトリフルオロメチル基を表す)を表す]
(i)カードランに、ハロゲン化剤またはスルホニル化剤を反応させ、カードランの6位の水酸基をハロゲン基または−SO−R基に置換する工程、
(ii)必要に応じて、前記工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランの6位のハロゲン基または−SO−R基をアジド化する工程、および、
(iii)前記工程(i)または(ii)より得られた下記式(II)の繰り返し単位からなる6位修飾デオキシカードランに酸加水分解剤を反応させ、式(I)の6位修飾デオキシグルコースを得る工程
を含んでなる、方法である;
【化3】

[式中、X基は、繰り返し単位間で同一または異なっていてもよく、水酸基、アジド基、ハロゲン原子、または−SO−R(ここで、Rは、メチル基、エチル基、p−メチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、またはトリフルオロメチル基を表す)を表し、
nは、2〜100,000の整数を表し、
ただし、X基がすべて水酸基である場合を除く]。
【0012】
本発明の好ましい態様では、ハロゲン化剤は、トリフェニルホスフィンと四ハロゲン化炭素との組合せ、またはトリフェニルホスフィンとN−ハロスクシンイミドとの組合せである。
【0013】
より好ましくは、ハロゲン化剤は、トリフェニルホスフィンと四臭化炭素との組合せ、またはトリフェニルホスフィンとN−ブロモスクシンイミドとの組合せである。
【0014】
本発明のもう一つの好ましい態様では、−SO−R基は、メチルスルホニル基(メシル基)またはp−トルエンスルホニル基(トシル基)である。
【0015】
より好ましくは、スルホニル化剤は、メシルクロライドまたは塩化パラトルエンスルホニル(トシルクロライド)である。
【0016】
本発明のさらに好ましい態様では、酸加水分解剤は、塩酸、モンモリロナイト、アンバーライト、硫酸、または塩酸である。
【0017】
本発明の方法によれば、6位修飾デオキシグルコースの製造プロセスにおいて、原料として多糖であるカードランを用いることで、1位の水酸基がグリコシド結合として消費(保護)されているため、1位の水酸基の保護および脱保護の過程が不要になる。また、本発明の方法によれば、カードランの3位の水酸基もグリコシド結合として消費されているため、該位置へのトシル化による副反応は起こらず、純粋な生成物を得ることができる。さらに、本発明の方法によれば、多糖は、メタノールを用いた再沈殿により、容易に、低分子試薬である反応溶液から分離することができ、各反応過程におけるカラムクロマトグラフィーなど煩雑な手段による精製作業は不要になる。
したがって、高収率かつ低コストに、純度の高い6位修飾デオキシグルコースを大量に合成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、6−ブロモ−6−デオキシカードランの13C NMRスペクトルの結果を示した図である。
【図2】図2は、6−アジド−6−デオキシカードランの13C NMRスペクトルの結果を示した図である。
【図3】図3は、6−アジド−6−デオキシグルコースのMALDI−TOF−MSスペクトルの結果を示した図である。
【図4】図4は、6−アジド−6−デオキシグルコースのH NMRスペクトルの結果を示した図である。
【図5】図5は、6−アジド−6−デオキシグルコースをアセチル化した後のH NMRスペクトルの結果を示した図である。
【発明の具体的な説明】
【0019】
前記式(I)において、X基は、アジド基、ハロゲン原子、または−SO−Rを表す。前記式(II)において、X基は、水酸基、アジド基、ハロゲン原子、または−SO−Rを表す。
【0020】
本願明細書において、「ハロゲン原子」とは、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、またはヨウ素原子を意味する。好ましくは、ハロゲン原子は、臭素原子である。
【0021】
−SO−R基におけるRは、メチル基、エチル基、p−メチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、またはトリフルオロメチル基を表し、好ましくは、メチル基、p−メチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、o−ブロモフェニル基、またはトリフルオロメチル基を表し、さらに好ましくは、メチル基またはp−メチルフェニル基を表す。Rがメチル基またはp−メチルフェニル基であるときは、−SO−R基はメチスルホニル基(メシル基)またはp−トルエンスルホニル基(トシル基)である。
【0022】
本発明の式(I)の6位修飾デオキシグルコースの製造方法は、前述したように、
工程(i)、必要に応じて工程(ii)、および
工程(i)または(ii)より得られた式(II)の繰り返し単位からなる6位修飾デオキシカードランに酸加水分解剤を反応させ、式(I)の6位修飾デオキシグルコースを得る工程(工程(iii))
を含んでなる、方法である(スキーム2参照)。
【0023】
【化4】

【0024】
本発明において「6位修飾デオキシグルコース」とは、6位の水酸基が選択的に目的の置換基により置換されたデオキシグルコースを意味する。好ましくは、6位修飾デオキシグルコースは、デオキシグルコースの6位以外の水酸基が置換されていないデオキシグルコースである。
【0025】
本発明において「6位修飾デオキシカードラン」とは、6位の水酸基の1部または全部が選択的に目的の置換基により置換されたデオキシカードランを意味する。好ましくは、6位修飾デオキシカードランは、デオキシカードランの2位と4位の水酸基は置換されていないデオキシカードランである。
【0026】
工程(i)
工程(i)は、カードランに、ハロゲン化剤またはスルホニル化剤を反応させ、カードランの6位の水酸基をハロゲン基または−SO−R基に置換する工程である。好ましくは、該工程は、カードランの6位の水酸基に対する位置選択性および置換度が高い点で、ハロゲン化剤によるカードランの6位の水酸基をハロゲン基に置換する工程である。
【0027】
カードラン
本発明において「カードラン」とは、D−グルコースが1位炭素と3位炭素でグルコシド結合した直鎖状β1,3−グルカンであって、式(III)の繰り返し単位からなる多糖類の1種を意味する。
【化5】

[式中、nは、2〜100,000の整数を表す]。
【0028】
本発明に用いられるカードランは、酸加水分解後に得られる6位修飾デオキシグルコースを高い純度で得ることができれば、特に限定されない。好ましくは、該カードランは、β1,3以外の側鎖を有さないカードランである。
【0029】
本発明に用いられるカードランのグルコース重合度は、カードランが溶媒に均一に溶解できれば特に限定されない。重合度は、例えば、2〜100,000であり、好ましくは、5〜70,000であり、より好ましくは、10〜50,000であり、さらに好ましくは、20〜30,000であり、特に好ましくは50〜21,000であり、最も好ましくは、100〜15,000である。
【0030】
本願明細書において「重合度」とは、重合体を構成する繰り返し単位の数を意味し、数平均分子量と繰り返し単位あたりの分子量に基づいて算出することができる。したがって、重合度は、例えば、ゲル濾過法や、動的光散乱法などを行うことで測定することができる。
【0031】
本発明に用いられるカードランは、市販品を使用してもよい。市販品は、例えば、和光純薬工業株式会社、SIGMA−RBIなどより入手することができる。
【0032】
カードランを溶媒に均一に溶解させるのに使用可能な溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびN−メチルピロリドン等の極性溶媒が挙げられる。
【0033】
カードランを溶媒に均一に溶解させるために、溶解補助剤を用いることもできる。
【0034】
溶解補助剤としては、例えば、塩化リチウム、フッ化リチウム等のハロゲン化リチウムなどが挙げられ、好ましくは、塩化リチウムである。
【0035】
溶媒の量は、カードランを均一に溶解することができれば特に限定されない。溶媒の量は、例えば、カードラン1gに対して50〜500mlで添加することができる。
【0036】
溶解補助剤の量は、カードランを均一に溶解することができれば、特に限定されない。溶解補助剤の量は、例えば、カードラン1gに対して2〜10gで添加することができる。
【0037】
ハロゲン化剤
本発明において「ハロゲン化剤」とは、カードランの水酸基をハロゲン基に置換する反応を起こすものを意味する。
【0038】
ハロゲン化剤としては、カードランの6位の水酸基を位置選択的かつ目的の置換度でハロゲン基に置換できれば特に限定されない。好ましくは、ハロゲン化剤は、トリフェニルホスフィンと四ハロゲン化炭素との組合せ、またはトリフェニルホスフィンとN−ハロスクシンイミドとの組合せである。
【0039】
本願明細書において「位置選択的」とは、6位修飾デオキシグルコースまたは6位修飾カードランそれぞれに存在する1位炭素〜6位炭素の水酸基のうち、6位炭素の水酸基のみを目的の置換基で置換することを意味する。位置選択性は、例えば、核磁気共鳴法(NMR)や酸加水分解後のHPLC分析を行うことで評価することができる。
【0040】
本願明細書において「置換度」とは、6位修飾デオキシグルコースまたは6位修飾デオキシカードランそれぞれに存在するすべての6位炭素の水酸基のうち、目的の置換基で置換された水酸基の割合を意味する。置換度は、例えば、核磁気共鳴法(NMR)や酸加水分解後のHPLC分析を行うことで測定することができる。
【0041】
ハロゲン化剤の組合せとカードランとの反応は、組合せのそれぞれの化合物を同時に反応させてもよく、また別々に行ってもよい。好ましくは、該反応は、カードランとトリフェニルホスフィンとを反応させた後、四ハロゲン化炭素またはN−ハロスクシンミドとを反応させるものである。
【0042】
トリフェニルホスフィンは、1以上のC1−4アルキル基(好ましくは、メチル基)またはC1−4アルコキシ基(好ましくは、メトキシ基)で置換されてもよい。好ましくは、トリフェニルホスフィンは、非置換である。
【0043】
本願明細書において「C1−4アルキル基」とは、基が直鎖または分岐鎖のアルキル基を意味する。C1−4アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、i−ブチル基、s‐ブチル基、またはt‐ブチル基などが挙げられる。
【0044】
本願明細書において「C1−4アルコキシ基」とは、基が直鎖または分岐鎖のアルコキシ基を意味する。C1―4アルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n‐プロポキシ基、i−プロポキシ基、n‐ブトキシ基、i−ブトキシ基、s‐ブトキシ基、またはt−ブトキシ基などが挙げられる。
【0045】
C1−4アルキル基またはC1−4アルコキシ基で置換されていてもよいトリフェニルホスフィンの量は、カードランの6位の水酸基のみを活性化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。トリフェニルホスフィンの量は、例えば、カードラン溶液中のカードラン1gに対して、0.1〜20g、好ましくは、3〜10gで添加することができる。
【0046】
反応時間は、カードランの6位の水酸基のみを活性化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。反応時間は、例えば、0.08〜24時間であり、好ましくは、0.5〜10時間、より好ましくは、2〜8時間、さらに好ましくは3〜5時間である。
【0047】
反応温度は、カードランの6位の水酸基のみを活性化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。反応温度は、例えば、0〜150℃であり、好ましくは、0〜100℃、より好ましくは、0〜50℃、さらに好ましくは、15〜40℃である。
【0048】
四ハロゲン化炭素としては、例えば、四臭化炭素、四塩素化炭素、四フッ化炭素および四ヨード化炭素などが挙げられ、好ましくは、試薬入手の容易さや、ブロモ基に対するアジド化が良好な点で、四臭化炭素である。
【0049】
四ハロゲン化炭素の量は、カードランの6位の水酸基のみをハロゲン化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。四ハロゲン化炭素の量は、例えば、カードラン溶液中のカードラン1gに対して、0.1〜20g、好ましくは1〜10g、より好ましくは、3〜6gで添加することができる。
【0050】
反応時間は、カードランの6位の水酸基のみをハロゲン化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。反応時間は、例えば、0.08〜170時間であり、好ましくは、1〜50時間、より好ましくは、15〜35時間、さらに好ましくは、23〜25時間である。
【0051】
反応温度は、カードランの6位の水酸基のみをハロゲン化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。例えば、0〜150℃であり、好ましくは、5〜100℃、より好ましくは、30〜80℃、さらに好ましくは、55〜65℃である。
【0052】
反応は、例えば、カードラン溶液と四臭化炭素とを接触させ、必要に応じて、これを磁気攪拌、機械攪拌、手動攪拌、または振とう攪拌などに供することにより、実施することができる。撹拌としては、好ましくは、磁気攪拌である。
【0053】
N−ハロスクシンイミドとしては、例えば、N−ブロモスクシンイミド、N−クロロスクシンイミドおよびN−ヨードスクシンイミドなどが挙げられ、好ましくは、N−ブロモスクシンイミドである。
【0054】
N−ハロスクシンイミドの量は、6位の水酸基のみをハロゲン化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。N−ハロスクシンイミドの量は、例えば、カードラン溶液中のカードラン1gに対して、0.1〜20g、好ましくは1〜10g、より好ましくは、3〜6gで添加することができる。
【0055】
反応時間は、6位の水酸基のみをハロゲン化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。反応時間は、例えば、0.08〜170時間であり、好ましくは、1〜50時間、より好ましくは、10〜35時間、さらに好ましくは、12〜18時間である。
【0056】
反応温度は、6位の水酸基のみをハロゲン化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でハロゲン基に置換されるように適宜調整することができる。反応温度は、例えば、0〜150℃であり、好ましくは、5〜100℃、より好ましくは、10〜80℃である。
【0057】
反応は、例えば、カードラン溶液とN−ブロモスクシンイミドとを接触させ、必要に応じて、これを磁気攪拌、機械攪拌、手動攪拌、または振とう攪拌などに供することにより、実施することができる。撹拌としては、好ましくは、磁気攪拌である。
【0058】
スルホニル化
本発明において「スルホニル化剤」とは、カードランの水酸基を−SO−R基に置換する反応を起こす化合物を意味する。スルホニル化剤は、1級水酸基に対して選択的に反応するため、カードランの6位水酸基と選択的に反応することができ、定量的に置換される。
【0059】
スルホニル化剤としては、塩基共存下で、カードランの6位の水酸基を位置選択的かつ目的の置換度でスルホニル基に置換できれば特に限定されない。スルホニル化剤は、例えば、メシルクロライド、トシルクロライド(塩化パラトルエンスルホニル)、2−ニトロベンゼンスルホニルクロリド、4−ニトロベンゼンスルホニルクロリド、2−ブロモベンゼンスルホニルクロリド、4−ブロモベンゼンスルホニルクロリド、ベンジルスルホニルクロリド、またはトリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられ、好ましくは、6位水酸基への位置選択性および置換度が高い点で、メシルクロライドまたはトシルクロライドである。
【0060】
スルホニル化剤の量は、カードランの6位の水酸基のみをスルホニル化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でスルホニル基に置換されるように適宜調整することができる。スルホニル化剤の量は、例えば、カードラン溶液中のカードラン1gに対して、0.01〜100g、好ましくは、1〜10gで添加することができる。
【0061】
スルホニル化剤の反応溶媒に含まれる塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、またはジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。
【0062】
塩基の量は、カードランの6位の水酸基のみをスルホニル化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でスルホニル基に置換されるように適宜調整することができる。塩基の量は、例えば、カードラン1gに対して、0.01〜100gであり、好ましくは、0.1〜10gで添加することができる。
【0063】
反応時間は、カードランの6位の水酸基のみをスルホニル化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でスルホニル基に置換されるように適宜調整することができる。反応時間は、例えば、0.01〜100時間であり、好ましくは、1 〜50時間である。
【0064】
反応温度は、カードランの6位水酸基のみをスルホニル化することができれば特に限定されず、その6位の水酸基が目的の置換度でスルホニル基に置換されるように適宜調整することができる。反応温度は、例えば、−100〜200℃であり、好ましくは、位置選択性の高い置換ができる点で、0〜30℃である。
【0065】
反応は、例えば、カードラン溶液にピリジンを加え、トシルクロライドを接触させ、必要に応じて、これを磁気攪拌、機械攪拌、手動攪拌、または振とう攪拌などに供することにより、実施することができる。撹拌としては、好ましくは、磁気攪拌である。
【0066】
工程(i)で得られる6位修飾デオキシカードランは、6−ハロ−6−デオキシカードラン、6−メシル−6−デオキシカードラン、6−トシル−6−デオキシカードラン、6−ノシル−6−デオキシカードラン、6−ブロシル−デオキシカードラン、または6−トリフリル−6−デオキシカードランなどである。
【0067】
工程(i)で得られる6位修飾デオキシカードランは、X基が、繰り返し単位間で同一または異なって、ハロゲン基もしくは−SO−R基、または水酸基であり;ハロゲン基または−SO−R基の繰り返し単位当たりの置換度が、0より大きく1以下であり、残部は水酸基であり;nが2〜100,000である、式(II)で表される繰り返し単位からなる6位修飾デオキシカードランである。
【0068】
式(II)において、X基は、ハロゲン基もしくは−SO−R基、または水酸基であり、好ましくはハロゲン基または−SO−R基である。
【0069】
式(II)において、ハロゲン基または−SO−R基の繰り返し単位当たりの置換度は、酸加水分解後に得られる6位修飾デオキシグルコースを高い純度で得ることができれば、特に限定されない。置換度は、例えば、0より大きく1以下であり、好ましくは、0.5〜1であり、より好ましくは、0.8〜1であり、最も好ましくは、0.9〜1である。
【0070】
式(II)において、nは、本発明による6位修飾デオキシグルコースを効率よく得ることができれば特に制限されない。nは、例えば、2〜100,000であり、好ましくは、10〜50,000である。
【0071】
本発明の工程(i)で得られる6位修飾デオキシカードランの数平均分子量は、特に限定されず、その6位に存在する置換基や該置換基の置換度によって異なり、例えば、300〜16,000,000である。
【0072】
工程(i)で得られる6位修飾デオキシカードランを用いて工程(iii)を行うことで、6−ハロ−6−デオキシグルコース、6−メシル−6−デオキシグルコース、6−トシル−6−デオキシグルコース、6−ノシル−6−デオキシグルコース、6−ブロシル−6−デオキシグルコース、または6−トリフリル−6−デオキシグルコースなどを合成することができる。
【0073】
また、工程(i)で得られる6位修飾デオキシカードランは、その6位の水酸基のみが選択的にハロゲン化またはスルホニル化されていることから、SN反応を利用して該ハロゲン基または該−SO−R基をアジド化しても主鎖カードラン構造が維持される。よって、工程(i)で得られる6位修飾デオキシカードランを用いて工程(ii)を行うことで、6−アジド−6−デオキシカードランを合成することができる。
【0074】
工程(ii)
工程(ii)は、分離精製された工程(i)で得られた6位修飾カードランのハロゲン基または−SO−R基をアジド化する工程である。好ましくは、アジド化の効率が高い点で、本発明による6−ハロ−6−デオキシカードランを用いて、ハロゲン基をアジド化することである。
【0075】
アジド化
本発明において「アジド化」とは、ハロゲン基または−SO−R基を選択的にアジド基に置換するアジド化剤による反応を意味する。
【0076】
アジド化剤としては、工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランのハロゲン基または−SO−R基の一部または全部をアジド化することができれば、特に限定されない。アジド化剤は、例えば、アジ化ナトリウムや、アジ化リチウムなどが挙げられ、好ましくは、アジ化ナトリウムである。
【0077】
アジド化剤の量は、工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランのハロゲン基または−SO−R基の一部または全部をアジド化することができれば特に限定されず、ハロゲン基または−SO−R基が目的の置換度でアジド基に置換されるように適宜調整することができる。アジド化剤の量は、例えば、6−ハロ−6−デオキシデオキシカードラン1gに対して、0.5〜5g、好ましくは2〜3gで添加することができる。
【0078】
反応時間は、工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランのハロゲン基または−SO−R基の一部または全部をアジド化することができれば特に限定されず、ハロゲン基または−SO−R基が目的の置換度でアジド基に置換されるように適宜調整することができる。反応時間は、例えば、0.5〜170時間であり、好ましくは、2〜100時間、より好ましくは、20〜80時間、さらに好ましくは、40〜60時間である。
【0079】
反応温度は、工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランのハロゲン基または−SO−R基の一部または全部をアジド化することができれば特に限定されず、ハロゲン基または−SO−R基が目的の置換度でアジド基に置換されるように適宜調整することができる。反応温度は、例えば、30〜140℃であり、好ましくは、50〜100℃、より好ましくは70〜90℃である。
【0080】
反応は、例えば、分離精製した6−ハロ−6−デオキシカードランを溶媒に溶解し、得られた溶解液とアジ化ナトリウムを接触させ、必要に応じて、これを磁気攪拌、機械攪拌、手動攪拌、または振とう攪拌などに供することにより、実施することができる。撹拌としては、好ましくは、磁気攪拌である。
【0081】
工程(ii)で得られる6位修飾デオキシカードランは、6−アジド−6−デオキシカードランである。
【0082】
6−アジド−6−デオキシカードランは、X基が、繰り返し単位間で同一または異なって、アジド基、ハロゲン基もしくはスルホニル基、または水酸基であり;アジド基の繰り返し単位当たりの置換度が、0より大きく1以下であり、残部はハロゲン基もしくはスルホニル基または水酸基であり;nが2〜100,000である、式(II)で表される繰り返し単位からなる6位修飾デオキシカードランである。
【0083】
式(II)において、X基は、アジド基、ハロゲン基もしくはスルホニル基、または水酸基であり、好ましくはアジド基である。
【0084】
式(II)において、アジド基の繰り返し単位当たりの置換度は、酸加水分解後に得られる6位修飾デオキシグルコースを高い純度で得ることができれば、特に限定されない。置換度は、例えば、0より大きく1以下であり、好ましくは、0.5〜1であり、より好ましくは、0.8〜1であり、最も好ましくは、0.9〜1である。
【0085】
式(II)において、nは、本発明による6位修飾デオキシグルコースを効率よく得ることができれば特に制限されない。nは、例えば、2〜100,000であり、好ましくは、10〜50,000である。
【0086】
6−アジド−6−デオキシカードランの数平均分子量は、特に限定されず、その6位に存在する置換基や該置換基の置換度によって異なる、例えば、300〜16,000,000である。
【0087】
工程(ii)で得られる6−アジド−6−デオキシカードランを用いて工程(iii)を行うことにより、6−アジド−6−デオキシグルコースを合成することができる。
【0088】
また、6−アジド−6−デオキシカードランは、その6位の水酸基のみが選択的にアジド化されていることから、還元剤を利用して該アジド基をアミノ化しても主鎖カードラン構造が維持される。よって、工程(ii)と工程(iii)との間に、還元(アミノ化)工程を加え、6−アミノ−6−デオキシカードランを合成し、その後工程(iii)により、6−アミノ−6−デオキシグルコースを合成してもよい。
【0089】
還元(アミノ化)工程
還元工程は、分離精製された工程(ii)で得られた6−アジド−6−デオキシカードランに還元剤を反応させ、6−アジド−6−デオキシカードランの6位のアジド基をアミノ基に還元する工程である。
【0090】
還元剤
本発明において「還元剤」とは、アジド基をアミノ基に選択的に還元(アミノ化)する化合物を意味する。
【0091】
還元剤としては、アミド基をアミノ基に選択的に還元することができれば特に限定されない。還元剤は、例えば、水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化シアノホウ素ナトリウム(NaBHCN)などが挙げられ、好ましくは、水素ガスである。
【0092】
還元剤の量は、工程(ii)で得られた6−アミノ−6−デオキシカードランのアジド基の一部または全部をアジド化することができれば特に限定されず、アジド基が目的の置換度でアミノ基に置換されるように適宜調整することができる。還元剤の量は、例えば、6−アジド−6−デオキシカードラン溶液の6−アジド−6−デオキシカードラン1gに対して、0.1〜100g、好ましくは、1〜10gである。
【0093】
反応時間、反応温度は、工程(ii)で得られた6−アミノ−6−デオキシカードランのアジド基の一部または全部をアジド化することができれば特に限定されず、アジド基が目的の置換度でアミノ基に置換されるように適宜調整することができる。
【0094】
6位修飾デオキシカードランの分離精製
前記工程(i)または(ii)より得られた6位修飾デオキシカードランは、工程ごとに、反応溶液から6位修飾デオキシカードランのみを分離精製する。
【0095】
本発明における6位修飾デオキシカードランの分離精製は、6位修飾デオキシカードランのみを反応溶液から分離することができれば特に限定されない。分離精製は、例えば、メタノール、エタノール等極性溶媒を用いた沈殿法や、透析法などが挙げられ、好ましくは、メタノールを用いた再沈殿法である。メタノールによる再沈殿法では、反応溶液中の多糖である6位修飾デオキシカードランを再沈殿させ、遠心分離して沈殿物を得るという工程を数回繰り返すことにより、分離精製された6位修飾デオキシカードランを得ることができる。
【0096】
極性溶媒の量は、本発明による6位修飾デオキシカードランを再沈殿することができれば特に限定されず、再沈殿されるように適宜調整することができる。極性溶媒の量は、例えば、6位修飾デオキシカードランを含む反応溶液1mlに対して、1〜1,000mlであり、好ましくは、5〜500mlである。
【0097】
遠心分離は、本発明による6位修飾デオキシカードランを再沈殿することができれば特に限定されず、再沈殿されるように適宜調整することができる。遠心分離の回転数は、例えば、100〜20,000rpmであり、好ましくは、500〜10,000rpmである。
【0098】
再沈殿の回数は、沈殿物として得られる6位修飾デオキシカードランから反応溶液である低分子試薬を除去することができれば特に限定されない。再沈殿の回数は、例えば、1〜10回であり、好ましくは、3〜4回である。
【0099】
工程(iii)
工程(iii)は、分離精製された前記工程(i)または(ii)より得られた式(II)の繰り返し単位からなる6位修飾デオキシカードランに、酸加水分解剤を反応させる工程である。
【0100】
酸加水分解
本発明において「酸加水分解」とは、式(II)の6位修飾デオキシカードランの主鎖カードラン構造のグリコシド結合の一部または全部を切断し、遊離グルコースにすることを意味する。
【0101】
酸加水分解剤としては、式(II)の6位修飾デオキシカードランを6位修飾デオキシグルコースに分解できれば特に限定されない。酸加水分解剤は、例えば、塩酸、モンモリロナイト、アンバーライト、硫酸、または酢酸などが挙げられ、好ましくは、分解後の溶媒除去が容易である点で、塩酸である。
【0102】
酸加水分解剤の量は、式(II)の6位修飾デオキシカードランのグルコシド結合の一部または全部を切断することができれば特に限定されず、単離グルコースに分解されるように適宜調整することができる。酸加水分解剤の濃度は、例えば、塩酸であれば、6−アジド−6−デオキシカードランに対して、1〜40%、好ましくは30〜40%の水溶液として添加することができる。
【0103】
反応時間は、式(II)の6位修飾デオキシカードランのグルコシド結合の一部または全部を切断することができれば特に限定されず、単離グルコースに分解されるように適宜調整することができる。反応時間は、例えば、塩酸であれば、6−アジド−6−デオキシカードランに対して、0.1〜1000時間であり、好ましくは、1〜200時間、より好ましくは、10〜100時間、さらに好ましくは、40〜55時間である。
【0104】
反応温度は、式(II)の6位修飾デオキシカードランのグルコシド結合の一部または全部を切断することができれば特に限定されず、単離グルコースに分解されるように適宜調整することができる。反応温度は、例えば、塩酸であれば、6−アジド−6−デオキシカードランに対して、0〜100℃であり、好ましくは、5〜50℃、より好ましくは15〜30℃である。
【0105】
反応は、例えば、分離精製した6−アジド−6−デオキシカードランを塩酸に懸濁し、必要に応じて、これを磁気攪拌、機械攪拌、手動攪拌、または振とう攪拌などに供することにより、実施することができる。撹拌としては、好ましくは、磁気攪拌である。
【0106】
6位修飾デオキシグルコースの分離
工程(iii)より得られた6位修飾デオキシグルコースは、反応溶液から分離する。分離方法としては、6位修飾デオキシグルコースのみを反応溶液から分離できれば特に制限されない。分離方法は、例えば、減圧留去、イオン交換クロマトグラフィー法などが挙げられる。反応溶液が塩酸の場合には、減圧留去により塩化水素および水分を除去することができる。
【0107】
本発明により得られた6位修飾デオキシグルコースは、目的の置換基で置換された6位修飾デオキシグルコースの純度を高めるために、分離した工程(iii)により得られた6位修飾デオキシグルコースを、さらに、精製してもよい。精製方法としては、例えば、カラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【実施例】
【0108】
本発明を以下の実施例を示して説明するが、本発明は本実施例の内容によって限定されるものではない。
【0109】
(1)6−ブロモ−6−デオキシカードランの製造
カードラン(和光純薬工業株式会社製、カードラン(034−09901)、重合度:約500、数平均分子量:約81,000)2.0gおよび塩化リチウム5.2gを、200mlの二口なすフラスコの中で混合した。トルエンを用いた共沸により、水分を完全に除去したのち、系内を窒素置換した。混合物に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)60mlを加え、60℃にて20時間磁気撹拌し、カードランおよび塩化リチウムを溶解させた。得られた溶液は、均一な淡黄色であった。溶液の温度が室温程度になるまで放冷したのち、反応溶液に、DMF40mlに溶解させたトリフェニルホスフィン8gを加え、室温にて4時間撹拌した。さらに、DMF20mlに溶解させた四臭化炭素10gを加え、60℃にて24時間磁気撹拌した。反応溶液に、メタノールを加えて再沈殿を行い、遠心分離によって沈殿物を回収した。この再沈殿処理を、四回繰り返し、トリフェニルホスフィンおよび四臭化炭素を完全に除去することで、6−ブロモ−6−デオキシカードラン1.8gを得た。
13C NMRスペクトル(300MHz,DMSO−d,60℃)
【0110】
13C NMRスペクトル測定の結果、カードランの6位の水酸基(−CH−OH)に位置するピークが消滅し、ブロモメチル基(−CH−Br)由来のピークが新たに観測されたことから、カードランの6位の水酸基が、全て、ブロモ化されたことが示された(図1参照)。また、6位の炭素以外のカードランの炭素のピークには、ブロモ化による明確な化学シフト値の変化は認められなかった。
【0111】
以上の結果から、カードランの水酸基のブロモ化が、6位特異的に、置換度1で進行したことが示された。
【0112】
(2)6−アジド−6−デオキシカードランの製造
前記(1)で得られた6−ブロモ−6−デオキシカードラン1.8gをDMF/DMSO(1:1 v/v)混合溶媒に溶解した。得られた溶液に、アジ化ナトリウム8gを加え、85℃にて36時間加熱撹拌することで、ブロモ基からアジド基への変換を行った。反応溶液にメタノールを加えて再沈殿を行い、遠心分離によって沈殿物を回収した。この再沈殿処理を、四回繰りし、アジ化ナトリウムおよびDMSOを完全に除去することで、6−アジド−6−デオキシカードラン1.4gを得た。
赤外吸収(IR)スペクトル(KBr、cm−1):2101
13C NMRスペクトル(300MHz,DMSO−d,60℃)
【0113】
IRスペクトル測定の結果、2101cm−1付近にアジド基由来の吸収が確認でき、カードランへのアジド基の導入が確認された。
【0114】
また、13C NMRスペクトル測定の結果、カードランの6位の水酸基(−CH−OH)またはブロモメチル基(−CH−Br)由来のピークは全く観測されない一方で、新たにアジドメチル基(−CH−N)のピークの出現が観測されたことから、カードランの6位の水酸基が全てアジド化されたことが示された。また。6位の炭素以外のカードランの炭素のピークに化学シフト値の変化は認められなかった(図2参照)。
【0115】
以上の結果から、ブロモ基のアジド化が6位特異的に、置換度が1で進行したことが示された。
【0116】
(3)6−アジド−6−デオキシグルコースの合成
前記(2)で得られた6−アジド−6−デオキシカードラン1.4gを35%塩酸に懸濁し、室温にて48時間磁気攪拌した。反応溶液を、減圧下、30℃にて溶媒を留去し、黄白色粉末の6−アジド−6−デオキシグルコース15.3g(収率100%)を得た。
MALDI−TOF−MSスペクトル:イオン化促進試薬として、αCHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸)、Positive Refrectionモード
H NMRスペクトル(300MHz,DO,室温)
【0117】
MALDI−TOF−MSスペクトル測定の結果は、6−アジド−6−デオキシグルコースの単量体のピーク(m/z=227.33)のみが見られ、二量体のピークは見られなかった。よって、得られた生成物は、6−アジド−6−デオキシカードランの全てのグリコシド結合が加水分解されたものであることが分かった(図3参照)。
【0118】
6−アジド−6−デオキシグルコースのH NMRスペクトル測定の結果は、5.03ppmおよび4.45ppmに、それぞれ6−アジド−6−デオキシグルコースのαアノマーおよびβアノマーのプロトンピークがみられた。それ以外のアノマープロトン由来のピークは確認されなかった(図4参照)。また、アセチル化後の6−アジド−6−デオキシグルコースのH NMRスペクトル測定の結果でも、同様の結果がみられた(図5参照)。よって、得られた生成物は、副生成物を含まず、6―アジド−6−デオキシカードランの全てのグリコシド結合が加水分解されたものであることが分かった。
【0119】
以上の結果から、得られた生成物が、6−アジド−6−デオキシグルコースであること、さらには、不純物が全く含まれていない純度の高い6−アジド−6−デオキシグルコースであることが示された。
【0120】
前記(1)〜(3)のプロセスは下記スキーム3に示す。
【0121】
【化6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の6位修飾デオキシグルコースの製造方法であって、
【化1】

[式中、X基は、アジド基、ハロゲン原子、または−SO−R(ここで、Rは、メチル基、エチル基、p−メチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、またはトリフルオロメチル基を表す)を表す]
(i)カードランに、ハロゲン化剤またはスルホニル化剤を反応させ、カードランの6位の水酸基をハロゲン基または−SO−R基に置換する工程、
(ii)必要に応じて、前記工程(i)で得られた6位修飾デオキシカードランの6位のハロゲン基または−SO−R基をアジド化する工程、および
(iii)前記工程(i)または(ii)より得られた下記式(II)の繰り返し単位からなる6位修飾デオキシカードランに酸加水分解剤を反応させ、式(I)の6位修飾デオキシグルコースを得る工程
を含んでなる、方法。
【化2】

[式中、X基は、繰り返し単位間で同一または異なっていてもよく、水酸基、アジド基、ハロゲン原子、または−SO−R(ここで、Rは、メチル基、エチル基、p−メチルフェニル基、o−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、o−ブロモフェニル基、p−ブロモフェニル基、またはトリフルオロメチル基を表す)を表し、
nは、2〜100,000の整数を表し、
ただし、X基がすべて水酸基である場合を除く]。
【請求項2】
ハロゲン化剤が、トリフェニルホスフィンと四ハロゲン化炭素との組合せ、またはトリフェニルホスフィンとN−ハロスクシンイミドとの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロゲン化剤が、トリフェニルホスフィンと四臭化炭素との組合せ、またはトリフェニルホスフィンとN−ブロモスクシンイミドとの組合せである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載の−SO−R基が、メチルスルホニル基(メシル基)またはp−トルエンスルホニル基(トシル基)である方法。
【請求項5】
スルホニル化剤が、メシルクロライドまたは塩化パラトルエンスルホニル(トシルクロライド)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸加水分解剤が、塩酸、モンモリロナイト、アンバーライト、硫酸、または酢酸である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−180328(P2012−180328A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45588(P2011−45588)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】