説明

7−オクテナールの製造方法

【課題】2,7−オクタジエン−1−オールの気相での異性化による7−オクテナールの製造方法を提供する。
【解決手段】2,7−オクタジエン−1−オールを気相で異性化することによる7−オクテナールの製造方法において、銅系触媒の存在下、2,7−オクタジエン−1−オールのLHSVを0.8〜5h−1とし、窒素/水素=85/15〜99.5/0.5(容積比)の混合ガスのGHSVを700〜2000h−1として反応を行なうことを特徴とする、前記7−オクテナールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,7−オクタジエン−1−オール(以下、ODAと略称する。)の気相での異性化による7−オクテナールの製造方法に関する。7−オクテナールは反応性に富む末端二重結合およびアルデヒド基を有し、種々の工業化学品の出発原料として極めて有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来の7−オクテナールの製造方法としては、[1]ODAを、銅系触媒およびクロム系触媒よりなる群から選ばれる触媒の存在下に異性化させる方法(特許文献1参照)、[2]銅、クロムおよび亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも2種の金属を金属成分とする金属酸化物触媒の存在下、ODAに対してn−オクタノール、3−オクタノールおよび7−オクテン−1−オールからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を50〜200質量%の割合で存在させ、かつ180〜250℃でODAを異性化させる方法(特許文献2参照)、および[3]銅系触媒および水素の存在下、ODA/水素=99/1〜75/25(モル比)の範囲において、気相でODAを異性化させる方法(特許文献3参照)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−118535号公報
【特許文献2】特開平2−218638号公報
【特許文献3】特開平11−171814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、2,7−オクタジエナール(191℃/常圧)が多量に副生してしまい、該2,7−オクタジエナールは、本発明で使用する銅系触媒の活性を低下させるという問題がある。特許文献2の方法では、特許文献1に比べて2,7−オクタジエナールの副生量が低減される方法となっているが、n−オクタノールおよび3−オクタノールは脱水素されて、それぞれn−オクチルアルデヒド(沸点173℃/常圧)および3−オクタノン(沸点168℃/常圧)に変換されてしまい、7−オクテナールの蒸留分離が極めて困難になるという問題がある。特許文献3に記載の方法では、2,7−オクタジエナールの副生を抑制することができており、高純度の7−オクテナールを得られると見受けられる。そこで、本発明者らは、特許文献3に記載の方法を追試してみた。すると、特許文献3には記載されていないが、窒素および水素の混合ガスのGHSV(気体空間速度;gas hourly space velocity)によっては、反応の進行に伴って7−オクテン酸が副生してくる場合があることが判明した。かかる7−オクテン酸は、目的生成物である7−オクテナールの自己縮合を促進するため、収率低下の原因となり、また、蒸留塔などの腐食の原因にもなるという問題があり、特許文献3に記載の方法には、なお改良の余地があるといえる。
【0005】
しかして、本発明の目的は、上記問題を解決し、2,7−オクタジエナールの副生の抑制と同時に、7−オクテン酸の副生を抑制し得る7−オクテナールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の目的は、ODAを気相で異性化することによる7−オクテナールの製造方法において、銅系触媒の存在下、ODAのLHSV(液体空間速度;liquid hourly space velocity)を0.8〜5h−1とし、窒素/水素=85/15〜99.5/0.5(容積比)の混合ガスのGHSVを600〜2000h−1として反応を行なうことを特徴とする、前記7−オクテナールの製造方法を提供することにより達成される。
なお、本明細書においては、GHSVの値は室温(25℃)での値を意味する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、銅系触媒の活性を低下させる2,7−オクタジエナールのみならず、収率低下の原因となり、また、蒸留塔などの腐食の原因にもなる7−オクテン酸の生成量までを抑制することができる。特に、7−オクテン酸の生成量を、目的生成物である7−オクテナールに対して0.5質量%以下に抑制することで、7−オクテナールの熱安定性を向上させ、蒸留操作により安定に取り出すことができると共に、蒸留装置の腐食の問題も低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、銅系触媒並びに窒素および水素の混合ガスの存在下に、2,7−オクタジエン−1−オール(ODA)を気相で異性化させる。
【0009】
本発明で使用する銅系触媒としては、例えば銅亜鉛酸化物、銅クロム酸化物、銅アルミニウム酸化物、銅鉄アルミニウム酸化物、銅亜鉛アルミニウム酸化物、銅亜鉛チタン酸化物などが挙げられる。銅亜鉛酸化物とは、主として酸化銅および酸化亜鉛からなる触媒である。銅クロム酸化物とは、主として酸化クロムと酸化銅の複合酸化物からなる触媒である。銅アルミニウム酸化物とは、主としてアルミニウム酸化物(アルミナ)と銅酸化物からなる触媒である。銅鉄アルミニウム酸化物とは、酸化鉄、アルミニウム酸化物と酸化銅の複合酸化物からなる触媒である。銅亜鉛チタン酸化物とは、主として酸化亜鉛、酸化チタンと酸化銅からなる触媒である。かかる銅系触媒は、タングステン、モリブデン、レニウム、ジルコニウム、マンガン、チタン、バリウムなどから選ばれる金属成分またはその酸化物で部分的に変性されていてもよい。
これらの中でも、環境への配慮、反応選択性および保存安定性の観点からは、銅鉄アルミニウム酸化物を使用するのが好ましい。
銅系触媒は1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を併用してもよい。
これらは工業的に容易に入手することができるほか、公知の方法(例えば触媒工学講座10元素別触媒便覧、p.365−367、昭和42年2月25日、株式会社地人書館発行)に従って製造することもできる。
また、銅系触媒は、反応速度および選択率の観点から、その使用に先立ち、予め水素で処理することにより活性化しておくことが好ましい。
【0010】
本発明で使用する銅系触媒の形態に特に制限はなく、タブレット状に成型したものでもよく、シリカ、アルミナなどのゾルを加えてから押し出し成型し、その後焼成して成型したものであってもよい。
【0011】
銅系触媒の形状に特に制限はなく、円柱状、球状、さいころ状、ドーナツ状、燐片状などのいずれの形状のものも使用できるが、強度および長期安定性の観点からは、円柱状、球状、ドーナツ状であるのが好ましく、円柱状であるのが特に好ましい。銅系触媒の大きさにも特に制限はないが、例えば円柱状触媒の場合、通常、銅系触媒の直径は、0.5mm〜10mmの範囲であるのが好ましく、強度および生産性の観点からは、1mm〜5mmの範囲であるのがより好ましい。また、銅系触媒の高さは、0.5mm〜10mmの範囲であるのが好ましく、強度および長期安定性の観点からは、1mm〜5mmの範囲であるのがより好ましい。前記範囲の大きさを超える場合、銅系触媒を長期間にわたって使用した場合に、水素の吸脱着、ODAの吸脱着、および酸素移動反応による酸化反応によって発生する熱が銅系触媒に蓄積され、その結果、銅系触媒の結晶化を促進することになるため好ましくない。
【0012】
銅系触媒の使用量は、触媒槽の形や大きさに合わせて適宜設定できるが、7−オクテン酸の副生の抑制の観点からは、触媒槽に銅系触媒を全て充填した際(以下、銅系触媒が触媒槽に充填されてできた層を「触媒層」と呼ぶことがある。)、ODAなどの気体の流通方向への触媒層の長さが10mm〜2000mmの範囲に納まるようにするのが好ましい。10mm未満では、気孔率が高く、局所的な片流のため、2,7−オクタジエノールの転化率が向上しない傾向にあり、2000mmを超えると、7−オクテン酸の副生が起こり易くなる傾向にある。
【0013】
本発明では、原料であるODAをLHSV(液体空間速度;liquid hourly space velocity)=0.8〜5h−1で、さらに好ましくはLHSV=1.2〜2h−1で銅系触媒が充填された触媒槽へ供給するが、その途中、190℃以上に加熱することにより、ODAを気体にしておく必要がある。また、気体のODAを触媒槽へ供給する際には、窒素および水素の混合ガスによりODAを触媒槽へ流し込む形態をとる。かかる窒素と水素の混合比は、窒素/水素=85/15〜99.5/0.5(容積比)の範囲であり、窒素/水素=88/12〜99/1(容積比)の範囲であるのが好ましい。
【0014】
窒素および水素の混合ガスは、GHSV(気体空間速度;gas hourly space velocity)=600〜2000h−1で触媒槽へ供給し、GHSV=700〜1000h−1で触媒槽に供給するのがより好ましい。かかる範囲内とすることにより、異性化反応における7−オクテン酸の生成量を、7−オクテナールに対して0.5質量%以下に抑制することができる。GHSV=700h−1未満であると7−オクテン酸が副生し、一方、GHSV=2000h−1を超えると、ODAの転化率が低下する傾向にある。
【0015】
本発明の方法においては、銅系触媒への水素供給を円滑にするため、第一級アルコールを使用してもよい。かかる第一級アルコールの具体例としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール、イソペンチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、ネオペンチルアルコール、n−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、n−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、n−デカノールなどの飽和アルコール;アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、4−ペンテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オールなどの不飽和アルコール;ベンジルアルコールなどのアラルキルアルコールなどが挙げられる。これらの第一級アルコールは1つを単独で使用してもよいし、2つ以上を併用してもよい。特に、7−オクテン−1−オールを使用すると、反応系にて該7−オクテン−1−オールの一部が7−オクテナールへ変換されるため、生産性向上の観点から、好ましい。かかる第一級アルコールも、銅系触媒を充填した触媒槽へ供給する際は、沸点以上に加熱して気体にしてから供給する必要がある。
第一級アルコールを使用する場合、その使用量は、ODA1モルに対して0.01〜10モルの範囲であるのが好ましく、0.1〜1モルの範囲であるのがより好ましい。
【0016】
反応温度は100〜260℃の範囲であるのが好ましく、160〜220℃の範囲であるのがより好ましい。100℃未満である場合、反応は極めて遅く進行する傾向にあり、一方、260℃を超えると、銅系触媒のシンタリング現象が起こり、表面に金属銅が析出して触媒が変質し、選択性の低下および触媒寿命の低下をもたらす傾向にある。
反応圧力に特に制限はなく、常圧下、加圧下、減圧下のいずれでも実施できる。
【0017】
反応装置としては、懸濁床反応蒸留装置、固定床反応蒸留装置、固定床流通式反応装置などが挙げられ、これらの中でも、固定床流通式反応装置では、反応系から目的生成物である7−オクテナールを速やかに除去することが可能であり、7−オクテナールの副反応を未然に防ぐことができ、好ましい。
実施方法としては、例えば、固定床流通式反応装置に銅系触媒を固定しておく。そして、ODAを所定のLHSVで反応装置へ供給する途中、190℃以上に加熱して気化させておき、所定比率の窒素および水素の混合ガスを所定のGHSVで、気化したODAを反応装置へ流し込むようにして供給し、同時に、必要に応じて第一級アルコールを気化させて反応装置へ供給しながら、所定圧力、所定温度にて反応させることにより、7−オクテナールを製造することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。
なお、本実施例において、ガスクロマトグラフィー分析は以下の条件で行なった。
[ガスクロマトグラフィー分析条件]
分析機器:GC−14B(株式会社島津製作所製)
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
使用カラム:DB−WAX(30m、直径0.25mm、液相0.25μm)
(J&W Scientific社製)
分析条件:injection temp.280℃、detection temp.280℃
昇温条件:100℃(2分保持)→(6℃/分で昇温)→240℃(5分保持)
【0019】
<実施例1>
−反応装置の準備−
内部に温度計さや管を備えた内径24mmおよび全長720mmの石英ガラス製反応管に、直径3mmおよび高さ3mmの円柱状の銅鉄アルミニウム酸化物(ペレット状成型物、日揮化学株式会社製)を18ml充填した。触媒層部分の長さは約30mmであった。触媒層上部に平均粒径3mmのガラスビーズを長さ約300mm分充填し、予熱部とした。反応管下部には冷却器、サンプリング装置、受器およびコールドトラップを取り付け、留出反応液(以下、留出液と称する。)を回収できるようにした。
−反応開始前における銅鉄アルミニウム酸化物の活性化処理−
上記の反応装置の系内を充分に窒素置換してから、窒素をGHSV=300h−1で供給しながら円筒型電気炉で触媒層を徐々に加熱した。触媒層の温度が120℃を超えた後、窒素/水素=97/3(容積比)の混合ガスを触媒層へ供給した。急激な発熱により触媒層内の温度が220℃を越えないよう、徐々に水素の混合割合を高めていき、発熱が観察されなくなった時点で、水素のみをGHSV=300h−1で供給し、触媒層の温度200〜220℃で4〜5時間保持した。
−異性化反応−
引き続き水素を流したまま、触媒層の温度を200℃に設定した。それから、窒素/水素=97/3(容積比)の混合ガスに切り替え、該混合ガスをGHSV=700h−1にて触媒層へ供給した。それから、ODAをLHSV=1.5h−1で反応管へ供給する途中で190℃に加熱して気化させ、気化したODAを、前述の窒素および水素の混合ガスにより反応管へ流し込んだ(およそ、ODA/水素=90.5/9.5(モル比)となる。)。運転開始から200時間後の留出液のサンプリングを行ない、ガスクロマトグラフィー分析を行なった。結果を表1に示す。
【0020】
<実施例2>
実施例1において、窒素および水素の混合ガスのGHSVを700h−1から1000h−1に変えた以外は実施例1と同様に実験および分析を行なった。結果を表1に示す。
【0021】
<実施例3>
実施例1において、窒素および水素の混合ガスのGHSVを700h−1から1500h−1に変え、留出液のサンプリングの時間を、「運転開始から200時間」から「運転開始から120時間」に変えた以外は実施例1と同様に実験および分析を行なった。結果を表1に示す。
【0022】
<比較例1>
実施例1において、窒素および水素の混合ガスのGHSVを700h−1から200h−1に変え、留出液のサンプリングの時間を、「運転開始から200時間」から「運転開始から30時間」に変えた以外は実施例1と同様に実験および分析を行なった。結果を表1に示す。
【0023】
<比較例2>
実施例1において、窒素および水素の混合ガスのGHSVを700h−1から630h−1に変え、留出液のサンプリングの時間を、「運転開始から200時間」から「運転開始から120時間」に変えた以外は実施例1と同様に実験および分析を行なった。結果を表1に示す。
【0024】
<比較例3>
実施例1において、窒素および水素の混合ガスのGHSVを700h−1から2100h−1に変えた以外は実施例1と同様に実験および分析を行なった。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1〜3より、ODAのLHSVを1.5h−1とした場合、窒素および水素の混合ガスのGHSVを700〜2000h−1の範囲にした場合、ODAの転化率を高く維持したまま、7−オクテン酸の副生および2,7−オクタジエナールの副生を共に効果的に抑制できた。また、7−オクテン酸の生成量は、7−オクテナールに対して0.5質量%以下に抑制できていることがわかる。一方、比較例1および2より、窒素および水素の混合ガスのGHSVが700h−1未満であると、7−オクテン酸の副生量が大幅に増加した。7−オクテン酸の生成量は、7−オクテナールに対して0.5質量%を超えていることがわかる。また、比較例3の様に、窒素および水素の混合ガスのGHSVが2000h−1を超えると、7−オクテン酸の副生および2,7−オクタジエナールの副生は抑制できているものの、ODAの転化率が低下してしまい、工業的には好ましくない結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,7−オクタジエン−1−オールを気相で異性化することによる7−オクテナールの製造方法において、銅系触媒の存在下、2,7−オクタジエン−1−オールのLHSVを0.8〜5h−1とし、窒素/水素=85/15〜99.5/0.5(容積比)の混合ガスのGHSVを700〜2000h−1として反応を行なうことを特徴とする、前記7−オクテナールの製造方法。

【公開番号】特開2008−247865(P2008−247865A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94195(P2007−94195)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】