説明

9−アミノシンコナアルカロイドの製造法

【課題】α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応の触媒または触媒の合成中間体であるシンコナアルカロイドを安価に高収率で製造できる方法の提供。
【解決手段】式(1)で表されるシンコナアルカロイドと、


(式中、Rは水素原子またはアルキル基を、Rは水素原子またはアルコキシ基を表す。)塩基存在下、ハロゲン化スルホニル化合物を反応させて9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドを製造し、続いて、アルカリ金属等のアジド塩を反応させて、9−アジドシンコナアルカロイドを製造し、続いて、還元剤と反応させて、式(5)で表される9−アミノシンコナアルカロイドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不斉触媒または不斉触媒の合成中間体として有用な光学活性9−アミノシンコナアルカロイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式で表される9−アミノシンコナアルカロイドおよびそのチオ尿素誘導体は、α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応などの不斉触媒として有用である(非特許文献1および2参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
これまでに報告された光学活性9−アミノシンコナアルカロイドの製造法としては、ジイソプロピルアゾジカルボキシレートとトリフェニルホスフィンの存在下、シンコナアルカロイドにジフェニルホスホリルアジドを作用させた後、トリフェニルホスフィンで処理する方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、この方法においては、使用する試薬がいずれも高価であり非経済的であることに加え、実験ごとに収率のバラツキが見られ、満足のいくものとは言えなかった(記載されている3つの実施例の収率:55%、57%、86%)。
【非特許文献1】Orgic Letter.2007,Vol.9,No.4,p.599−602
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.2005,Vol.44,p.6367−6370
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術の上記問題点に鑑み、安価かつ高収率で光学活性9−アミノシンコナアルカロイドを製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の問題点を解決すべく種々検討を重ねた結果、安価かつ高収率で光学活性9−アミノシンコナアルカロイドを製造する新たな方法を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明はすなわち、
[1]下記工程(a)および(b)を含むことを特徴とする、式(4)
【0007】
【化2】

【0008】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を意味し、Rは水素原子またはアルコキシ基を意味する)で表される9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩の製造方法、
(a)式(1)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表されるシンコナアルカロイドまたはその塩と、塩基試薬の存在下、式(2)
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rはアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を意味する)で表されるハロゲン化スルホニル化合物を反応させて式(3)
【0013】
【化5】

【0014】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程、および
(b)該9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩を反応させて、前記式(4)で表される9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;
[2]下記工程(a)ないし(c)を含むことを特徴とする、式(5)
【0015】
【化6】

【0016】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を意味し、Rは水素原子またはアルコキシ基を意味する)で表される9−アミノシンコナアルカロイドまたはその塩の製造方法、
(a)式(1)
【0017】
【化7】

【0018】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表されるシンコナアルカロイドまたはその塩と、塩基試薬の存在下、式(2)
【0019】
【化8】

【0020】
(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rはアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を意味する)で表されるハロゲン化スルホニル化合物を反応させて式(3)
【0021】
【化9】

【0022】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程、
(b)該9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩を反応させて、式(4)
【0023】
【化10】

【0024】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程、および
(c)該9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩を、還元剤と反応させて、前記式(5)で表される9−アミノシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程;
[3]上記[2]記載の方法で製造される式(5)
【0025】
【化11】

【0026】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を意味し、Rは水素原子またはアルコキシ基を意味する)で表される9−アミノシンコナアルカロイドまたはその塩を、イソチオシアン酸3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルと反応させる工程(以下、工程(d)という。)を含むことを特徴とする、式(6)
【0027】
【化12】

【0028】
(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−置換チオウレイドシンコナアルカロイドまたはその塩の製造方法;
[4]工程(a)において、4−ジアルキルアミノピリジンをさらに添加することを特徴とする、上記[1]ないし[3]のいずれかに記載の製造方法;
[5]工程(a)において、有機溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、塩基試薬がトリエチルアミンであり、4−ジアルキルアミノピリジンが4−ジメチルアミノピリジンである、上記[4]に記載の製造方法;
[6]工程(b)において、有機溶媒としてジメチルスルホキシドを使用し、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩がナトリウムアジドである、上記[1]ないし[5]のいずれかに記載の製造方法;
[7]出発原料として光学活性シンコナアルカロイド(1)を使用することを特徴とする、上記[1]ないし[6]のいずれかに記載の製造方法;等に関する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応における触媒または触媒の合成中間体として有用な光学活性9−アミノシンコナアルカロイドを安価に高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を工程ごとに詳述する。
本発明で使用される化合物は、塩の形態であってもよい。そのような塩としては、例えば無機酸塩(例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等);有機酸塩(例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、メタンスルホン酸塩、4−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩等)等が挙げられる。化合物がフリー体である場合は、公知の手法により、塩にすることができ、塩である場合は、公知の手法により、フリー体にすることができる。
【0031】
1.工程(a)
シンコナアルカロイド(1)またはその塩に、塩基試薬の存在下、ハロゲン化スルホニル化合物(2)を反応させると9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩が得られる。
【0032】
出発原料である式(1)のシンコナアルカロイドにおいてRで示される置換基としては、水素原子またはアルキル基が挙げられる。また、Rで示される置換基としては、水素原子またはアルコキシ基が挙げられる。
で示される「アルキル基」とは、炭素数が好ましくは1〜6である、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる。中でも、エチル基が好ましい。
で示される「アルコキシ基」とは、炭素数が好ましくは1〜6である、直鎖状または分岐鎖状のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基などが挙げられる。中でも、メトキシ基が好ましい。
【0033】
式(2)のハロゲン化スルホニル化合物においてXで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、塩素原子または臭素原子が好ましい。
また、Rで示される置換基としては、アルキル基(上述のアルキル基と同義、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基等)、または置換基(例えば、上記定義のアルキル基、上記定義のハロゲン原子、ニトロ基等)を有していてもよいアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基、好ましくは、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等)が挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0034】
ハロゲン化スルホニル化合物(2)の使用量はシンコナアルカロイド(1)またはその塩に対して1当量以上であるが、使用量が少ないと未反応のシンコナアルカロイド(1)が残り反応が完結しない。好ましくは1.5〜2当量である。
【0035】
工程(a)は、好ましくは有機溶媒中で行われる。使用できる有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン、酢酸エチル等のケトンおよびエステル系溶媒、ならびにこれらの混合溶剤が挙げられ、好ましくはテトラヒドロフランである。
有機溶媒の使用量は、シンコナアルカロイド(1)に対して、通常、1倍以上(w/v)であり、好ましくは5〜10倍(w/v)である。この範囲より少ないと原料が溶解しづらく、収率が落ちる場合がある。また、この範囲より多いと工業的に非経済的である。
【0036】
使用できる塩基試薬としては、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ルチジン、コリジン等の3級アミン、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属の水素化物、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられ、好ましくはトリエチルアミンである。
塩基試薬の使用量はシンコナアルカロイド(1)またはその塩に対して1当量以上であるが、使用量が少ないと未反応のシンコナアルカロイド(1)が残り、反応が完結しない場合がある。好ましくは5〜10当量である。
【0037】
本反応は無触媒でも進行するが、好ましくは、4−ジアルキルアミノピリジンを添加することにより、反応速度が促進される。
4−ジアルキルアミノピリジンとしては、4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。
4−ジアルキルアミノピリジンの使用量は、シンコナアルカロイド(1)に対して、好ましくは0.01〜0.1当量である。
【0038】
工程(a)の反応温度は0℃〜溶媒の還流温度の範囲でよいが、低温になるにつれて反応液中に固形物が増えて撹拌しづらくなり反応効率が低下するので注意が必要である。好ましくは20〜50℃である。反応時間は、該反応温度の範囲で、通常1〜24時間である。
【0039】
反応終了後、反応液に水を加えてクエンチし、分離した有機層を回収してそのまま次の工程に使用することができる。また、有機層中の溶媒を減圧下留去し、残さに蒸留、再結晶、あるいはシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を施すことにより高純度の9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩を得ることもできる。
【0040】
2.工程(b)
上記工程(a)で得られる9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイド(3)またはその塩に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩を反応させると9−アジドシンコナアルカロイド(4)またはその塩が得られる。
【0041】
使用できるアルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩としては、リチウムアジド、ナトリウムアジド、カリウムアジド、カルシウムアジド等が挙げられ、好ましくはナトリウムアジドである。
アジド塩の使用量は9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイド(3)に対して1当量以上であり、好ましくは1〜3当量である。
【0042】
工程(b)は、好ましくは有機溶媒中で行われる。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン、酢酸エチル等のケトンおよびエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、水溶媒ならびにこれらの混合溶剤が挙げられ、好ましくはジメチルスルホキシドである。
有機溶媒の使用量は、9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイド(3)に対して、通常、1倍以上(w/v)であり、好ましくは2〜10倍(w/v)である。この範囲より少ないと原料が溶解しづらく、収率が落ちる場合がある。また、この範囲より多いと工業的に非経済的である。
【0043】
反応温度は室温〜溶媒の還流温度の範囲でよく、好ましくは50〜80℃である。反応時間は、該反応温度の範囲で、通常6〜24時間である。
【0044】
反応終了後は反応液に水を加え、分離した水層を除去した後、有機層を特に精製することなく次の工程に使用することができる。また、有機層中の溶媒を減圧下留去し、残さに蒸留、再結晶、あるいはシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を施すことにより高純度の9−アジドシンコナアルカロイド(4)またはその塩を得ることもできる。
【0045】
3.工程(c)
上記工程(b)で得られる9−アジドシンコナアルカロイド(4)またはその塩に、還元剤を作用させると9−アミノシンコナアルカロイド(5)またはその塩が得られる。
【0046】
使用できる還元剤としては、パラジウム、白金、ニッケル等の金属から調製された接触還元剤(例えば、パラジウム炭素、酸化白金など)と水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム等の金属ヒドリド、亜鉛、マグネシウム等の金属末、塩化スズ(II)、ヨウ化サマリウム(II)等のハロゲン化金属、硫化水素、1,3−プロパンジチオール等の硫黄化合物、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン等の有機リン化合物等が挙げられ、好ましくは、トリフェニルホスフィン、パラジウム炭素と水素ガス等である。
還元剤の使用量は、接触還元剤または金属末の場合は9−アジドシンコナアルカロイド(4)に対して0.5〜50重量%、その他の還元剤に関しては1当量以上であり、好ましくは1〜2当量である。
【0047】
工程(c)は、好ましくは有機溶媒中で行われる。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン、酢酸エチル等のケトンおよびエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、水溶媒ならびにこれらの混合溶剤が挙げられ、テトラヒドロフラン、イソプロパノールが好ましい。
有機溶媒の使用量は、9−アジドシンコナアルカロイド(4)に対して、通常、1倍以上(w/v)であり、好ましくは2〜10倍(w/v)である。この範囲より少ないと原料が溶解しづらく、収率が落ちる場合がある。また、この範囲より多いと工業的に非経済的である。
【0048】
反応温度は0℃から溶媒の還流温度までの範囲で適宜選択され、好ましくは室温から溶媒の還流温度である。反応圧力は通常は常圧であるが、加圧下で反応を行うことも可能である。反応時間は、温度、圧力等の関係で適宜決められる。
【0049】
反応終了後は、ろ過あるいは抽出による余剰試薬の分離後、過剰の溶媒の減圧下留去、そして、結晶化やシリカゲルカラムクロマトグラフィーなどの精製処理を施すことにより、9−アミノシンコナアルカロイド(5)またはその塩を得ることができる。
【0050】
本発明により得られる9−アミノシンコナアルカロイド(5)またはその塩は、α,β−不飽和カルボニル化合物に対する不斉1,4−付加反応において触媒自体としても利用されるが、例えば非特許文献2に示される触媒として有用な9−置換チオウレイドシンコナアルカロイドの合成中間体としても利用できる。
【0051】
4.工程(d)
9−アミノシンコナアルカロイド(5)またはその塩を、イソチオシアン酸3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルと反応させると、9−置換チオウレイドシンコナアルカロイド(6)またはその塩が得られる。
【0052】
イソチオシアン酸3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルの使用量は、9−アミノシンコナアルカロイド(5)に対して1当量以上であり、好ましくは1〜1.5当量である。
【0053】
工程(d)は、好ましくは有機溶媒中で行われる。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の非プロトン性極性溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトン、酢酸エチル等のケトンおよびエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、水溶媒ならびにこれらの混合溶剤が挙げられ、トルエンが好ましい。
有機溶媒の使用量は、9−アミノシンコナアルカロイド(5)に対して、通常、1倍以上(w/v)であり、好ましくは2〜10倍(w/v)である。この範囲より少ないと原料が溶解しづらく、収率が落ちる場合がある。また、この範囲より多いと工業的に非経済的である。
【0054】
反応温度は0℃〜溶媒の還流温度の範囲でよく、好ましくは20〜40℃である。反応時間は、該反応温度の範囲で、通常1〜5時間である。
【0055】
反応終了後は反応液にヘプタン等の貧溶媒を加え、冷却して結晶化させることにより、高純度の9−置換チオウレイドシンコナアルカロイド(6)またはその塩を得ることができる。
【0056】
本発明において、出発原料として光学活性なシンコナアルカロイド(1)またはその塩を用いると、光学活性な9−アミノシンコナアルカロイド(5)またはその塩または光学活性な9−置換チオウレイドシンコナアルカロイド(6)またはその塩が得られる。この場合、各工程において反応中の顕著なラセミ化は起こらない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
(8S,9S)−9−アミノ−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナン三塩酸塩の製造
【0058】
【化13】

【0059】
500mLの丸底フラスコにテトラヒドロフラン(300mL)、トリエチルアミン(93.0g,0.919mol)、4−ジメチルアミノピリジン(374mg,3.06mmol)を仕込み、続いて25℃下、ジヒドロキニン(50.0g,0.153mol)を少量ずつ加えた。同温度下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した後、25℃下、メシルクロライド(26.3g,0.230mol)を1時間かけて滴下し、さらに同温度下で2時間撹拌した。褐色懸濁状の反応液にイオン交換水(75mL)を加えて反応をクエンチした後、48%水酸化ナトリウム水溶液(19.2g,0.230mol)を25℃下で加え、分離した水層を、1L分液ロートを用いて除去した。有機層を減圧下濃縮して(8S,9R)−10,11−ジヒドロ−9−メタンスルホニルオキシ−6’−メトキシシンコナンの粗物を得た。
【0060】
500mLの丸底フラスコに上記の(8S,9R)−10,11−ジヒドロ−9−メタンスルホニルオキシ−6’−メトキシシンコナンの粗物とジメチルスルホキシド(150mL)を仕込み、50℃下で固形物がほとんど溶解するまで撹拌した。続いて、ナトリウムアジド(19.9g,0.306mol)を加えた後、60℃下で18時間撹拌した。反応液にトルエン(200mL)とイオン交換水(100mL)を加えて45℃まで冷却し、分離した水層を、1L分液ロートを用いて除去、有機層をイオン交換水にて水洗した(150mL×2)。有機層を減圧下濃縮して(8S,9S)−9−アジド−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナンの粗物を得た。
【0061】
500mLの丸底フラスコに上記の(8S,9S)−9−アジド−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナンの粗物とテトラヒドロフラン(150mL)を仕込み、25℃下でトリフェニルホスフィン(44.2g,0.168mol)を加え、同温度下で2時間撹拌した。続いて、反応液にイオン交換水(100mL)を加えた後、70℃に加熱して2時間撹拌した。反応液を25℃に冷却した後、トルエン(100mL)を加え、次いで35%塩酸水(79.8g,0.766mol)を30分かけて滴下した。反応混合物を1L分液ロートに移して分離したトルエン層を除去、水層をトルエン(100mL)にて洗浄した。ジメチルスルホキシド(150mL)を加えた後、水層を減圧下濃縮し、次いで釜残に2−プロパノール(450mL)を加えて結晶化させた。固形物を減圧ろ過にて回収し、2−プロパノール(300mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8S,9S)−9−アミノ−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナン三塩酸塩を淡橙白色固体として得た(64.3g,収率97%)。
m.p.210−215℃(dec).
[α]23=+7.1°(c1,MeOH).
HNMR(270MHz,CDCl+DMSO−d)δ0.89(3H,t,J=7.3Hz),0.95(1H,m),1.40−1.72(3H,m),1.95(4H,bs),3.27(1H,bd,J=13.8Hz),3.40(1H,m),3.70(1H,bt,J=12.5Hz),4.15(3H,s),4.42(1H,m),5.08(1H,q,J=9.9Hz),6.34(1H,d,J=9.9Hz),7.79(1H,dd,J=9.2,2.3Hz),8.23(1H,d,J=2.3Hz),8.66(1H,d,J=9.2Hz),8.90(1H,d,J=5.6Hz),9.15(1H,d,J=5.6Hz).
13CNMR(67.8MHz,CDCl+DMSO−d)δ10.12,22.07,22.90,24.76,33.09,40.73,47.01,53.22,55.62,57.22,77.20,101.86,120.80,122.46,125.79,128.26,133.30,139.55,159.08.
【0062】
実施例2
(8S,9S)−9−[N’−ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]チオウレイド−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナンの製造
【0063】
【化14】

【0064】
1Lの丸底フラスコにイオン交換水(120mL)、トルエン(240mL)を仕込み、続いて室温下、(8S,9S)−9−アミノ−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナン三塩酸塩(60.0g,0.138mol)を少量ずつ加えた。同温度下で固形物が溶解するまで撹拌した後、25℃下で48%水酸化ナトリウム水溶液(34.50g,0.414mol)を加え、同温度下で30分間撹拌した。反応混合物を1L分液ロートに移して水層を除去、トルエン層を水洗し(30mL)、有機層を減圧下濃縮した。
1Lの丸底フラスコに上記の濃縮残渣とトルエン(120mL)を仕込み、続いて25℃下、イソチオシアン酸3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル(39.3g,0.145mol)を滴下して加え、同温度下で2時間撹拌した。反応液の液温を40℃に調整し、同温度下でヘプタン(480mL)を加えて結晶化させ、得られた懸濁液を0℃に冷却後さらに同温度下で1時間撹拌した。固形物を減圧ろ過にて回収し、ヘプタン(180mL)にて洗浄後、減圧下で乾燥して標題の(8S,9S)−9−[N’−ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]チオウレイド−10,11−ジヒドロ−6’−メトキシシンコナンを白色粉末として得た(59.5g,収率72%)。
m.p.137−151℃.
[α]20=−150.3°(c1,DMF).
HNMR(270MHz,CDCl)δ0.80(3H,t,J=7.3Hz),0.90(1H,m),1.19−1.72(7H,m),2.47(1H,bs),2.72(1H,m),3.06−3.37(3H,m),3.97(3H,s),5.82(1H,bs),7.15(1H,bs),7.37(1H,dd,J=9.2,2.6Hz),7.67(2H,s),7.80(2H,s),7.98(1H,d,J=9.2Hz),8.56(1H,bs).
13CNMR(67.8MHz,CDCl)δ12.06,18.75,24.91,25.67,27.55,28.22,32.48,37.06,41.34,55.80,56.65,102.00,118.80,120.80,121.93,123.64,124.82,131.66,132.06,144.57,147.24,157.95.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)および(b)を含むことを特徴とする、式(4)
【化1】


(式中、Rは水素原子またはアルキル基を意味し、Rは水素原子またはアルコキシ基を意味する)で表される9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩の製造方法、
(a)式(1)
【化2】


(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表されるシンコナアルカロイドまたはその塩と、塩基試薬の存在下、式(2)
【化3】


(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rはアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を意味する)で表されるハロゲン化スルホニル化合物を反応させて式(3)
【化4】


(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程、および
(b)該9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩を反応させて、前記式(4)で表される9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程。
【請求項2】
下記工程(a)ないし(c)を含むことを特徴とする、式(5)
【化5】


(式中、Rは水素原子またはアルキル基を意味し、Rは水素原子またはアルコキシ基を意味する)で表される9−アミノシンコナアルカロイドまたはその塩の製造方法、
(a)式(1)
【化6】


(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表されるシンコナアルカロイドまたはその塩と、塩基試薬の存在下、式(2)
【化7】


(式中、Xはハロゲン原子を意味し、Rはアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を意味する)で表されるハロゲン化スルホニル化合物を反応させて式(3)
【化8】


(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程、
(b)該9−置換スルホニルオキシシンコナアルカロイドまたはその塩と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩を反応させて、式(4)
【化9】


(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程、および
(c)該9−アジドシンコナアルカロイドまたはその塩を、還元剤と反応させて、前記式(5)で表される9−アミノシンコナアルカロイドまたはその塩を製造する工程。
【請求項3】
請求項2記載の方法で製造される式(5)
【化10】


(式中、Rは水素原子またはアルキル基を意味し、Rは水素原子またはアルコキシ基を意味する)で表される9−アミノシンコナアルカロイドまたはその塩を、イソチオシアン酸3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルと反応させる工程を含むことを特徴とする、式(6)
【化11】


(式中、各記号は前掲と同じものを意味する)で表される9−置換チオウレイドシンコナアルカロイドまたはその塩の製造方法。
【請求項4】
工程(a)において、4−ジアルキルアミノピリジンをさらに添加することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
工程(a)において、有機溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、塩基試薬がトリエチルアミンであり、4−ジアルキルアミノピリジンが4−ジメチルアミノピリジンである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(b)において、有機溶媒としてジメチルスルホキシドを使用し、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアジド塩がナトリウムアジドである、請求項1ないし5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
出発原料として光学活性シンコナアルカロイド(1)を使用することを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−24173(P2010−24173A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186505(P2008−186505)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】