説明

9,10−ビス[5(または6)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンおよびその製造方法

【課題】
製造物に蛍光を賦与することができる9,10−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン構造をポリマー主鎖などに導入する容易な手段を提供する
【解決手段】
二つのアミノ基を有し、川下製造物、たとえばポリマーなどに9,10−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン構造を導入することができる新規化合物9,10−ビス[4(または5)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンを提供し、さらにアントラセン−9,10−ジカルボン酸あるいはアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとを原料とする9,10−ビス[4(または5)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族系ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドなどを製造するためのモノマーまたはその他有機合成の原料として用いることができ、蛍光を示すためそれを用いる製造物に蛍光を賦与することができる新規な芳香族ジアミンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,10−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセンは蛍光を示すことが知られており、ポリエステル繊維用の分散染料としての使用が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】D.W.Rangnekar et al., Journal of Chemical Technology & Biotechnology 1990,47,137−142
【0004】
しかしながら、9,10−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン構造をポリマーの主鎖などに導入する方法は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、9,10−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン構造を川下製造物、たとえばポリマー主鎖などに導入する容易な手段を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは9,10−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン構造をポリマー主鎖などに導入する一つの方法として、この化合物にアミノ基を導入した化学構造を有し、市販の原料から容易に製造できる9,10−ビス[5(または6)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンがポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドなどに容易に導入できることに着目して本発明に到達した。
【発明の効果】
【0007】
アミノ基を介して川下製造物、たとえばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミドなどに蛍光発光機能を付与することができるジアミンの提供が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の第1の発明は、下記構造式
【化1】

で表される9,10−ビス[5(または6)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセン(以下、本化合物)である。
【0009】
次に、本発明の第2ないし第4の発明である本化合物の製造方法について述べる。
【0010】
本化合物はアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとを反応させ、得られるアントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス[2−ヒドロキシ−4または5−ニトロフェニル]アミドを閉環して9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンとし、次いでニトロ基を還元することにより得ることができる。
【0011】
本発明の方法に用いることができるアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドには、アントラセン−9,10−ジカルボン酸ジフルオリド、アントラセン−9,10−ジカルボン酸ジクロリド、アントラセン−9,10−ジカルボン酸ジブロミド、およびアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジヨージドがあるが、好ましくはアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジクロリドがよい。
【0012】
本発明の方法に従ってアントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス[2−ヒドロキシ−4または5−ニトロフェニル]アミドを得るには、アントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとを非プロトン性溶媒中で混合し、生成するハロゲン化水素を蒸発し去るか、または塩基性物質を用いて中和すればよい。
【0013】
前記のアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとの反応に用いることができる非プロトン性溶媒としてはトルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族化合物、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族化合物、シクロヘキサンなどの脂環式化合物、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化脂肪族化合物、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グライム、ジグライムなどのエーテル類、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレンウレア、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの非プロトン性極性溶剤などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0014】
前記のアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4−ニトロフェノールまたは2−アミノ−5−ニトロフェノールとの反応において生成するハロゲン化水素の中和に用いることができる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウムなどの無機塩基、あるいはトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルモルホリン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、ピコリン、ルチジンなどの有機塩基、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレンウレアなどのアミド類を挙げることができるがこれらに限定されない。N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレンウレアなどのアミド類は前記の如く溶媒として用いることができ、溶媒を兼ねた中和剤として用いてもよいが、中和用の添加剤として他の溶剤に添加して用いてもよい。
【0015】
本発明の方法においてアントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとの反応で得られるアントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス[2−ヒドロキシ−4または5−ニトロフェニル]アミドを閉環して9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンを得る方法としては、硫酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下に加熱する方法、ポリリン酸中で加熱する方法、および塩化チオニル、五塩化燐、三塩化燐、オキシ塩化燐、ホスゲンなどの塩素化剤とピリジン、トリエチルアミンなどの塩基を作用させる方法などが挙げられる。
【0016】
9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンはまた、例えばポリ燐酸を溶媒を兼ねた脱水縮合剤として用いる方法を利用してアントラセン−9,10−ジカルボン酸と2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとを直接反応させることによっても得ることができる。
【0017】
9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンを還元して本化合物を得るには、ニトロ基の還元に通常用いられる方法を用いることができ、たとえば水素を用いる接触還元またはヒドラジン還元が好適に用いることができる。
【0018】
[実施例]
次に、実施例により本化合物の製造方法をさらに具体的に説明するが、この実施例も本発明の具体例に過ぎず、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
<アントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス(2−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)アミドの合成>
500mL四つ口フラスコに2−アミノ−4−ニトロフェノール7.86g(51mmol)、トリエチルアミン5.67g(56mmol)およびトルエン200gを仕込み、アントラセン−9,10−ジカルボン酸ジクロリド7.72g(25.5mmol)を100gのトルエンに溶解した溶液を室温で滴下した後、110℃に昇温して23時間攪拌した。この反応混合物を室温に冷却し、水100gを加え、生成した沈澱を濾過した。得られた濾過ケーキをN,N−ジメチルアセトアミド200gに130℃で溶解し、活性炭を用いて脱色した後、水50gを加えて放冷し、生じた固体を濾過・水洗し乾燥し、アントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス(2−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)アミドの淡黄色粉末8.7g(16 mmol)を得た。収率63%。
<9,10−ビス(5−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセンの合成>
200mL四つ口フラスコにアントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス(2−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)アミド11.7g(21.7mmol)と五塩化燐9.05g(43.5mmol)を加えてよく混合し、100℃で30分、さらに140℃で1時間加熱攪拌した後、100℃に冷却してピリジン3.50mL(43.5mmol)を加え、同温で2時間攪拌した。反応液に60℃で水50gを加えて放冷し生じた沈殿をN,N−ジメチルアセトアミド溶液中で活性炭処理し、再結晶させ、9,10−ビス(5−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセンの黄色結晶4.83gを得た。収率44.3%。
<9,10−ビス(5−アミノベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセンの合成>
500mL四つ口フラスコに9,10−ビス(5−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン4.83 g(9.61 mmol)、50%含水5%Pd/C触媒0.5g、N,N−ジメチルアセトアミド200gを仕込み、110℃で60%水加ヒドラジン3.6g(43mmol)を1時間かけて滴下し、その後同温度で5.5時間撹拌した。反応液を110℃で熱濾過し、濾液を40℃に冷却してイオン交換水50gを加え、10℃まで冷却した。生じた沈殿を濾過・水洗・乾燥し、9,10−ビス(5−アミノベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセン3.34gを得た。 収率78.6%、LC純度96.8%。この粗生成物の全てをN,N−ジメチルアセトアミド200gに加え、160℃に加熱して溶解し、イオン交換水50gを加えて5℃まで冷却し、生じた沈殿を濾過・水洗・乾燥し、黄色粉末状の9,10−ビス(5−アミノベンゾオキサゾール−2−イル)アントラセンの精製品2.82gを得た。精製収率84.4%、LC純度99.2%、融点328.4〜333.2℃。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式
【化1】

で表される9,10−ビス[5(または6)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセン
【請求項2】
アントラセン−9,10−ジカルボン酸と2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとを直接反応させて得られる9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンを還元することを特徴とする9,10−ビス[5(または6)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンの製造方法。
【請求項3】
アントラセン−9,10−ジカルボン酸ジハライドと2−アミノ−4(または5)−ニトロフェノールとを反応させ、得られるアントラセン−9,10−ジカルボン酸ビス[2−ヒドロキシ−4または5−ニトロフェニル]アミドを閉環して9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンとし、次いで還元することを特徴とする9,10−ビス[5(または6)−アミノベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンの製造方法。
【請求項4】
水素を用いる接触還元またはヒドラジン還元により9,10−ビス[5(または6)−ニトロベンゾオキサゾール−2−イル]アントラセンを還元することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2011−213597(P2011−213597A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80146(P2010−80146)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(391029462)和歌山精化工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】