説明

A▲l▼製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシート

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明はAl製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシートに関するもので、芯材にこれより電位の卑な犠牲陽極材を内側(冷媒側)に犠牲材としてクラッドし、冷媒通路内側の孔食発生を防止するものである。
〔従来の技術〕
従来Al製熱交換器、例えばラジエーター,ヒーターコア等はフッ化物系の非腐食性フラックスを使用したフラックスろう付けで製造されている。ラジエーターは第1図R>図(イ)(ロ)に示すように、冷媒を通すチューブ(1)間にフィン(2)を配置し、チューブ(1)の両端にヘッダープレート(3)を取付けてコア(4)を組立て、ろう付け後にヘッダープレート(3)にパッキング(6)を介して樹脂タンク(5)(5′)を取付けたもので、フィンにはJIS3003合金にZnを1.5wt%(以下wt%を%と略記)程度添加した厚さ0.1mm前後の板を用い、チューブにはJIS3003合金からなる芯材の外側(大気側)にJIS4343合金ろう材をクラッドし、内側(冷媒側)にJIS7072合金を犠牲材としてクラッドした厚さ0.3〜0.4mmのブレージングシート(内外層クラッド率は5〜10%)を用い、ヘッダープレートにはチューブと同様のブレージングシート(板厚1.0〜1.8mm)を用いている。
このようなラジエーターにおいて、冷媒側の孔食発生を防止するため次の様な対策がとられている。即ちチューブの板厚が0.3〜0.4mmと薄く、JIS3003合金だけではAl合金特有の孔食が発生し、早期に液洩れを起す場合があるため、第2図(イ)に示すようにJIS3003合金からなる芯材の内側に、これより電位の卑なJIS7072合金(Al−Zn系合金)を犠牲材としてクラッドしている。
JIS7072合金からなる犠牲材とJIS3003合金からなる芯材は、上記ろう付け加熱時に、600℃程度の雰囲気にさらされ、これによってJIS7072合金中のZnは第2図(ロ)に示すようにJIS3003合金側へ拡散し、表面Zn濃度0.4〜0.8%,内側表面からの拡散深さ80〜150μmのZn拡散パターンを示す。このZn拡散層の優先腐食により、冷媒側から発生する孔食は深く成長せず、浅く広い腐食形態をとり、長期の耐孔食性を示すようになる。
Al−Zn合金自体広く浅い腐食形態(面食)をとる特徴があり、更に芯材とAl−Zn合金犠牲材との電位差により、芯材が曝露した後も犠牲材層が優先的に腐食され、芯材の腐食を防止する。また芯材中に拡散したZnにより芯材表面も面食を起し、孔食発生を抑制する。このような犠牲材としては、Al−Zn,Al−Zn−Mg,Al−Mn−Zn,Al−Mn−Zn−Mg合金等が使用されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
上記ラジエーターのチューブ材のZn拡散パターンは、ろう付け条件の変動により犠牲材表面のZn濃度が低下し、拡散深さが深くなる場合があり、そのため、芯材との電位差が十分に確保できず、孔食性が著しく低下する。
またチューブ材の板厚が更に薄くなると、従来と同様のろう付け加熱を行なった場合、上記のように過度の加熱によりZn拡散が進むだけでなく、チューブ材板厚に占めるZn拡散層の比率が大となり、腐食による板厚の減少が耐食性ばかりでなく、構造強度に大きな影響を及ぼすことになる。
〔課題を解決するための手段〕
本発明はこれに鑑み種々検討の結果、チューブ材の犠牲材として使用されるAl−Zn系合金から芯材へのZn拡散を抑制し、ろう付け加熱条件の変動や板厚の減少によっても優れた耐孔食性を示すAl製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシートを開発したものである。
即ち本発明の一つは、Al合金からなる芯材の外側(大気側)にAl合金ろう材をクラッドし、内側(冷媒側)にAl合金犠牲材をクラッドしたブレージングシートにおいて、犠牲材にZn0.5〜5.0%,Zr0.03〜0.3%,Fe0.4%以下,Si0.6%以下を含み、残部Alと不可避的不純物からなる合金を用い、芯材に犠牲材より電位の貴なAl合金を用いたことを特徴とするもので、犠牲材のろう付け後の再結晶粒径を100μm以上とするとよい。
また本発明の他の一つは、Al合金からなる芯材の外側(大気側)にAl合金ろう材をクラッドし、内側(冷媒側)にAl合金犠牲材をクラッドしたブレージングシートにおいて、犠牲材にZn0.5〜5.0%,Zr0.03〜0.3%,Fe0.4%以下,Si0.6%以下を含み、更にMn0.05〜1.5%,Cr0.03〜0.3%,Ti0.03〜0.3%,V0.03〜0.3%の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなる合金を用い、芯材に犠牲材より電位の貴なAl合金を用いたことを特徴とするもので、犠牲材のろう付け後の再結晶粒径を100μm以上とするとよい。
〔作 用〕
本発明においてZnを含む犠牲材の成分を上記のように限定したのは次の理由によるものである。
即ち本発明はろう付け加熱時の芯材側へのZn拡散を抑制し、耐孔食性を著しく向上させると共に、犠牲材のろう付け加熱時の再結晶粒径を粗大とすることにより、Zn拡散抑制効果を増大せしめたものである。
しかして犠牲材のZn含有量を0.5〜5.0%と限定したのは、犠牲材の電位を卑とし、犠牲陽極としての作用を与えるためで、0.5%未満では効果がなく、5.0%を超えると効果が飽和するばかりか犠牲材の融点を低下するためである。またZr含有量を0.03〜0.3%と限定したのは、再結晶粒径を粗大として芯材側へのZn拡散を抑制すると共に、強度を向上させるためで、0.03%未満では効果がなく、0.3%を越えると加工性を低下するためである。またFe含有量を0.4%以下と限定したのは、再結晶粒径を粗大とし、芯材側へのZn拡散を抑制するためで、0.4%を越えると再結晶粒径が微細となって、Zn拡散抑制作用が低下するためである。またSi含有量を0.6%以下と限定したのは、Siを添加すると再結晶粒径を粗大化し、Zn拡散を抑制すると共に犠牲材の強度を向上するも、0.6%を越えると犠牲材の融点を低下するためである。
次に犠牲材にMn,Cr,Ti,VをMn0.05〜1.5%,Cr0.03〜0.3%,Ti0.03〜0.3%,V0.03〜0.3%の範囲内で何れか1種又は2種以上を添加するのは、何れも再結晶粒を粗大とし、Znの拡散作用を抑制すると共に、犠牲材の強度を向上するためで、下限未満では効果がなく、上限を越えると加工性を低下するためである。
上記組成の合金を犠牲材として常法によりブレージングシートを製造すると、ろう付け加熱後50〜200μm程度の再結晶粒径となるが、製造工程において均質化処理温度及び中間焼鈍後の最終冷間圧延率をコントロールすることにより、ろう付け加熱後の再結晶粒径を100μm以上とすると、Zn拡散抑制効果を一層向上することができる。
芯材としては、上記犠牲材より電位の貴なAl合金を用いれば問題なく、例えばAl−Mn系のJIS3003合金,Al−Mn−Mg系のJIS3004合金,Al−Mg−Si系のJIS6951合金又はこれ等合金にCuを添加した合金が使用される。芯材の外側(大気側)にはAl−Si系のAl合金ろう材をクラッドして三層構造とする。犠牲材と外側ろう材のクラッド率は5〜15%で、板厚が薄い場合には高目に、逆の場合には低目に設定し、その厚さは10μm以上とすることが望ましい。
〔実施例〕
以下本発明を実施例について説明する。
実施例1 第1表に示す組成の合金を犠牲材として使用し、常法により溶解鋳造後550℃で均熱化処理した。これを500℃で熱間圧延した後、冷間圧延により厚さ2.5mmの板とした。
一方芯材に厚さ45mmのJIS3003合金鋳塊を用い、その一方の表面に厚さ2.5mmのJIS4343合金からなるAl合金ろう材を、他方の表面に上記犠牲材をクラッドし、熱間圧延,中間焼鈍,冷間圧延をへて厚さ0.4mm,ろう材のクラッド率5%,犠牲材のクラッド率5%のブレージングシートを作製した。
これを600℃で10分間ろう付け加熱し、犠牲材表面の最大Zn濃度及び犠牲材表面からのZn拡散深さを断面EPMA線分析により求め、更に犠牲材の加熱後の再結晶粒径を測定した。またCu2+イオンを10ppm添加した水道水中に3ケ月間浸漬し、80℃×8時間と室温×16時間のサイクル腐食試験を行ない、犠牲材表面に発生したピット深さを光学顕微鏡による焦点深度法により測定した。その結果を第1表に示す。


第1表から明らかなように、本発明例は何れも犠牲材の表面Zn濃度が高く、しかもZn拡散深さが浅く、優れた耐孔食性を示す。これに対し犠牲材の組成が外れる比較例では表面Zn濃度が低いか又はZn拡散深さが深く、耐孔食性が劣ることが判る。
実施例2 実施例1における本発明例No.4,10を使用し、犠牲材の均質化処理条件とクラッド材の中間焼鈍後の冷間圧延率を変化させて、ろう付け加熱後の犠牲材の再結晶粒径を変化させた。
これについて実施例1と同様のろう付け加熱を行なって、Zn拡散状況と腐食試験によるピット深さ及び犠牲材の再結晶粒径を実施例1と同様にして測定した。その結果を第2表に示す。


第2表から明らかなように、犠牲材のろう付け加熱後の再結晶粒径を100μm以上とした本発明例は何れも芯材側へのZn拡散が抑制され、優れた耐孔食性を示すことが判る。
尚実施例で使用したJIS3003合金からなる芯材のろう付け加熱後の再結晶粒径は50〜150μmであり、また芯材と犠牲材の電位は、5%NaCl液で飽和カロメル電極を基準として、芯材は−720mV,犠牲材は−730〜−900mVであった。
〔発明の効果〕
このように本発明によれば、犠牲材から芯材へのZn拡散を著しく抑制することが可能となり、過酷なろう付け条件での表面Zn濃度低下による耐孔食性の低下を防止し、ブレージングシートを薄肉化したときにもZn拡散を抑制することができるため、高Zn材を犠牲材に使用し、犠牲材を薄くクラッドすることで、Zn拡散層の厚さの全板厚に占める割合を小さくすることができ、長期の耐孔食性を得ることが可能になる等工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図(イ)(ロ)はラジエーターの一例を示すもので、(イ)は正面図、(ロ)は(イ)におけるA−A線の拡大断面図、第2図(イ)(ロ)はチューブ材のろう付け加熱前後のZn拡散状況の一例を示すもので、(イ)はろう付け加熱前の犠牲材表面のZn濃度、(ロ)はろう付け加熱後の犠牲材表面からのZn拡散深さを示す説明図である。
1……チューブ、2……フィン
3……ヘッダープレート、4……コア
5,5′……樹脂タンク、6……パッキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】Al合金からなる芯材の外側(大気側)にAl合金ろう材をクラッドし、内側(冷媒側)にAl合金犠牲材をクラッドしたブレージングシートにおいて、犠牲材にZn0.5〜5.0wt%,Zr0.03〜0.3wt%,Fe0.4wt%以下,Si0.6wt%以下を含み、残部Alと不可避的不純物からなる合金を用い、芯材に犠牲材より電位の貴なAl合金を用いたことを特徴とするAl製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシート。
【請求項2】犠牲材のろう付け後の再結晶粒径を100μm以上とする請求項1記載のAl製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシート。
【請求項3】Al合金からなる芯材の外側(大気側)にAl合金ろう材をクラッドし、内側(冷媒側)にAl合金犠牲材をクラッドしたブレージングシートにおいて、犠牲材にZn0.5〜5.0wt%,Zr0.03〜0.3wt%,Fe0.4wt%以下,Si0.6wt%以下を含み、更にMn0.05〜1.5wt%,Cr0.03〜0.3wt%,Ti0.03〜0.3wt%,V0.03〜0.3wt%の範囲内で何れか1種又は2種以上を含み、残部Alと不可避的不純物からなる合金を用い、芯材に犠牲材より電位の貴なAl合金を用いたことを特徴とするAl製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシート。
【請求項4】犠牲材のろう付け後の再結晶粒径を100μm以上とする請求項3記載のAl製熱交換器の冷媒通路用ブレージングシート。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2685926号
【登録日】平成9年(1997)8月15日
【発行日】平成9年(1997)12月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−261152
【出願日】平成1年(1989)10月5日
【公開番号】特開平3−124393
【公開日】平成3年(1991)5月27日
【出願人】(999999999)古河電気工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭60−187653(JP,A)
【文献】特開 平3−124394(JP,A)
【文献】特公 平7−116543(JP,B2)
【文献】特公 平7−4678(JP,B2)
【文献】特許2564190(JP,B2)
【文献】特許2577962(JP,B2)