説明

ABS系樹脂及びその製造法

【課題】 環境や人体に悪影響を及ぼす有害物質を発生させることがなく、燃焼速度が低下するとともにドリップが抑制された難燃性のABS系樹脂を提供する。
【解決手段】 共役ジエン系ポリマー、或いはSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合させた共役ジエン系ポリマーに、シアン化ビニル化合物と一部又は全部の芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を含むビニル化合物とを反応させて得られる芳香族側鎖上にカーボネート基が結合したABS系樹脂である。このABS系樹脂は、燃焼速度が遅く、また燃焼時のドリップ抑制効果に優れた難燃性の熱可塑性樹脂であることから、安全性の高い樹脂として広範な分野に使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボネート基を芳香族側鎖上に有し、熱分解もしくは燃焼時にドリップ抑制効果を有するABS系樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ABS系樹脂は、加工性、寸法安定性、電気特性、機械特性及び化学的安定性等の諸特性に優れているために、輸送機器、電気電子機器、住宅設備及び汎用雑貨等の広範な分野に利用されている。ところが、ABS系樹脂は、易燃性であることから用途が制限されており、火災時の被害を最小限に食い止めるために難燃性を要求される用途分野が多く、従来より、ハロゲン系化合物及び三酸化アンチモンを添加することによる相乗効果により難燃化する方法等が採用されてきた(例えば、特許文献1参照)。しかし、燃焼時に発生するハロゲン系ガスの毒性が問題となっており、これらハロゲン系ガスの発生しない難燃化方法の開発が望まれていた。
また、ABS系樹脂に添加する非ハロゲン系難燃剤としては、リン酸エステル類が知られている(例えば、非特許文献1参照)が、未だ性能的に不十分であり、また、リン酸エステル類固有の加水分解性も、樹脂物性の安定性との関連で問題視されている。更に、リン化合物の環境への影響は、通常ハロゲン系化合物に比して少ないと言われているが、必ずしも明らかになっていない。
【0003】
一方、火災時の延焼による被害の拡大を防ぐために、難燃性の規格であるUL−94、JIS Z 2391等では、その評価項目として、燃焼速度と、軟化した材料が燃焼しながら滴下(ドリップ)することへの規制が取り込まれている。このため、単にポリマーそれ自体を燃え難くする添加物に加えて、他への延焼を引き起こすドリップを抑制する添加物を加えることも行われている。このドリップを抑制するための添加剤としてはフッ素系樹脂を用いることが多い(例えば、特許文献2参照)が、フッ素系樹脂は、高温では毒性ガスを発生することが知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−147692号公報
【特許文献2】特開平6−9887号公報
【非特許文献1】技術情報協会誌、2000、p320「オレフィン系、スチレン系樹脂の高機能化/改質技術」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の技術における上記した実状に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、環境や人体に悪影響を及ぼす有害物質を発生させることがなく、燃焼速度が低下するとともにドリップが抑制される難燃性のABS系樹脂、及びその簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した問題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、ABS系樹脂中の芳香環上に特定の官能基を付与させることにより、燃焼時の燃焼速度が低下する上に、ドリップを効果的に抑制できる難燃性のABS系樹脂が得られることを知見し、この事実に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(5)を提供するものである。
(1)一部又は全部の芳香環が有機カーボネート基で置換されたものであることを特徴とするABS系樹脂である。
(2)一部又は全部の芳香環が有機カーボネート基で置換され、さらに共役ジエン系ポリマーの炭素−炭素不飽和結合がSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を付加したものであることを特徴とするABS系樹脂である。
(3)上記の芳香環に直接結合する置換基の有機カーボネート基が、アリールオキシカルボニルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基であるABS系樹脂である。
(4)共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法である。
(5)Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合した共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法である。
(6)共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物及び芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法である。
(7)Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合した共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物及び芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、燃焼時に燃焼速度が遅く、また耐ドリップ性に優れていることから、安全性の高い合成樹脂として広範な分野に利用できる良好な難燃性ABS系樹脂が容易に提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるABS系樹脂は、基本的な成分であるアクリロニトリルとブタジエンとスチレンの三元共重合体のみならず、アクリロニトリル成分の一部または全部をメチルメタクリレート等の他のシアン化ビニル化合物に置き換えた樹脂、ブタジエン成分を他の共役ジエンポリマーに置き換えた樹脂、スチレン成分の一部または全部をビニルナフタレン類またはビニルビフェニル類等の他の芳香族ビニル化合物に置き換えた樹脂、そのほかに、アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、ビニルエステル類等のビニル化合物を加えた樹脂、α−メチルスチレン、N−フェニルマレイミド等の不飽和化合物を加えた樹脂、さらにこれらを混合して得られる混合樹脂などにおいて、その中に含まれる一部又は全部の芳香環が有機カーボネート基で置換されているもの、及びさらに共役ジエンポリマーの炭素−炭素不飽和結合にSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を付加しているものである。
【0010】
上記したABS系樹脂の製法としては、例えば、共役ジエン系ポリマーまたはその炭素−炭素不飽和結合にSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を付加した共役ジエンポリマーに、定法に従ってシアン化ビニル化合物と芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を重合反応、特にグラフト重合反応、させることにより得ることができる。このようにして得られたABS系樹脂は、燃焼時には燃焼速度が遅く、有害な化学物質を発生させることはなく、かつ耐ドリップ性の向上した難燃性の熱可塑性樹脂である。
【0011】
本発明のABS系樹脂は、単独で用いることができるが、これに更に添加剤を適宜添加して用いることもできる。また、他の樹脂と混合して用いることもできる。
【0012】
このABS系樹脂の製造に用いる共役ジエン系ポリマーは、モノマー中に共役ジエン類を含むものであれば如何なるものも使用可能であって、ホモポリマー、コポリマーなどが含まれ、具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体等が挙げられるが、なかでもポリブタジエンが好ましい。
【0013】
次に、共役ジエン系ポリマーまたはその炭素−炭素不飽和結合にSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を付加した共役ジエンポリマーを、次の段階であるシアン化ビニル化合物及び芳香環上をアリールオキシカルボニルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基等の有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物とのグラフト重合反応に用いてABS系樹脂を製造する。
【0014】
シアン化ビニル化合物としては、特に制限されるものではないが、これを例示すれば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができる。シアン化ビニル化合物は、1種を単独で、または2種以上を混合して使用することもできる。
また、芳香族ビニル化合物としては、何ら制限されないが、その代表的なものとしては、例えば、スチレン、4−メチルスチレン等のスチレン類、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類、4−フェニルスチレン等のビニルビフェニル類等が挙げられる。
【0015】
芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物としては、芳香環に直接カーボネート基が結合しているものであれば何ら制限されないが、その代表的なものとしては、芳香環が有するビニル基以外の芳香環上にアリールオキシカルボニルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基等の有機カーボネート基が直接結合しているものであり、これを例示すると、4−フェノキシカルボニルオキシスチレン、3−フェノキシカルボニルオキシスチレン等のアリールオキシカルボニルオキシスチレン類、1−アリールオキシカルボニルオキシ−4−ビニルナフタレン、2−アリールオキシカルボニルオキシ−6−ビニルナフタレン等の(アリールオキシカルボニルオキシ)(ビニル)ナフタレン類、4−(アリールオキシカルボニルオキシフェニル)スチレン等の(アリールオキシカルボニルオキシ)(ビニル)ビフェニル類、4−アルコキシカルボニルオキシスチレン、3−アルコキシカルボニルオキシスチレン等のアルコキシカルボニルオキシスチレン類、1−アルコキシカルボニルオキシ−4−ビニルナフタレン、2−アルコキシカルボニルオキシ−6−ビニルナフタレン等の(アルコキシカルボニルオキシ)(ビニル)ナフタレン類、4−(アルコキシカルボニルオキシフェニル)スチレン等の(アルコキシカルボニルオキシ)(ビニル)ビフェニル類等が挙げられる。
【0016】
上記アリールは、特に制限されるものではなく、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、ナフチル基等が好ましく、特にフェニル基が好ましい。また上記アルコキシとしては、特に制限はないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ基等が好ましく、特にメトキシが好ましい。これら芳香族ビニル化合物は、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。また、これらのアリール基またはアルキル基は、さらにアルコキシ基、アリロキシ基、アリール基、アルキル基等で置換されていても良い。
【0017】
共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物及び一部又は全部の芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物の比率には特に制限はないが、好ましくは、共役ジエン系ポリマー1部に対して、重量部でシアン化ビニル化合物を1/50〜10部、芳香族ビニル化合物を0〜20部、芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を1/10〜50部、さらに好ましくは、共役ジエン系ポリマー1部に対して、重量部でシアン化ビニル化合物1/20〜5部、芳香族ビニル化合物を0〜10部、芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物1/2〜20部を用いてグラフト重合させる。
【0018】
さらに、シアン化ビニル化合物または一部又は全部の芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物に、さらに共重合可能な他のビニル化合物を加えることができる。このようなビニル化合物には特に制限はないが、これを例示すれば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類、各種アクリルアミド類、酢酸ビニル等のビニルエステル類、α−メチルスチレン、N−フェニルマレイミド等の芳香族化合物等が挙げられる。
【0019】
グラフト重合は公知の方法で行うことができ、塊状重合、乳化重合、乳化懸濁重合、乳化塊状重合等を適宜使用できるが、好ましくは塊状重合である。このグラフト重合に際しては、通常公知のラジカル開始剤を用いることができる。これを例示すれば、ジクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、ジターシャリーブチルパーオキシド、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等が挙げられる。その使用量は任意であるが、好ましくは共役ジエン系ポリマーに対して重量で1/20000〜1/20の範囲、好ましくは1/2000〜1/100程度の量である。グラフト重合の反応温度には特に制限はないが、反応速度を考慮すれば、50〜200℃の範囲が好ましく、70〜150℃の範囲が特に好ましい。反応時間にも特に制限はないが、1時間から2日程度の反応時間が望ましい。グラフト重合反応を終えた後、減圧で溶媒や未反応の低沸点物を除去し、カーボネート基を芳香族側鎖上に有するABS系樹脂を得ることができる。
【0020】
一方、共役ジエンポリマーに、Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合させた共役ジエンポリマーを、次の段階であるシアン化ビニル化合物及び一部又は全部の芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物とのグラフト重合反応に用い、ABS系樹脂を製造することもできる。
【0021】
Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合させた共役ジエン系ポリマーを用いる場合において、その共役ジエン系ポリマーと結合させるSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類としては、分子中に少なくとも1個以上のSi−H結合を有するものであれば使用可能であって、その例としてはペンタメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、メチルトリス(ジメチルシロキシ)シラン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルシクロペンタシロキサン、オクタキス(ジメチルシロキシ)オクタシルセスキオキサン、オクタキス(ヒドリドシルセスキオキサン)、ヒドリドシルセスキオキサン、H末端ポリジメチルシロキサン、メチルHシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー、ポリメチルHシロキサン、ポリエチルHシロキサン、ポリフェニル(ジメチルHシロキシ)シロキサンH末端、メチルHシロキサン−フェニルメチルシロキサンコポリマー、メチルHシロキサン−オクチルメチルシロキサンコポリマー、HシロキサンQレジン等が挙げられる。
【0022】
これらのSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類の使用量は、特に制限されないが、共役ジエン系ポリマー中の炭素−炭素二重結合の総量に対して、好ましくは1〜0.001モル当量、より好ましくは0.7〜0.01当量である。
【0023】
共役ジエン系ポリマーとSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類とを結合させるには、オレフィン性二重結合のヒドロシリル化反応を用いて行う。ヒドロシリル化反応は、触媒の存在下で行うのが好ましく、公知の遷移金属触媒あるいはラジカル開始剤触媒が用いられる。遷移金属錯体としては、鉄ペンタカルボニル、三塩化ルテニウム、ジコバルトオクタカルボニル、トリストリフェニルホスフィンロジウムクロリド、三塩化イリジウム、ビストリフェニルホスフィンエチレンニッケル、ビストリフェニルホスフィンニッケルジクロリド、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド、トリストリフェニルホスフィン白金、エチレン白金ジクロリドダイマー、塩化白金酸、白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体等が挙げられる。ラジカル開始剤触媒としては、過酸化ベンゾイル、ジターシャリーブチルパーオキシド、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)等が掲げられる。用いる触媒には、白金を含むものが好ましく、特に白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が好ましい。これらの触媒の使用量には特に制限は無いが、好ましくは反応するオレフィン性二重結合の総量の0.5〜0.00001当量、より好ましくは0.1〜0.001当量を用いる。
【0024】
ヒドロシリル化反応に用いる溶媒は、原料と反応する可能性のある、活性水素や脂肪族二重結合等を含むものを除いて、任意のものが使用可能であって、例えば、トルエン、キシレン、へキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。溶媒の使用量は、反応原料の総重量の0.1〜1000倍、好ましくは1〜200倍を用いることができる。
【0025】
ヒドロシリル化の反応温度には特に制限はないが、好ましくは−20〜200℃、より好ましくは0〜150℃で行われる。また、反応時間には特に制限は無いが、反応温度を低くすると長時間が必要となるが、反応温度により、1分から10日の反応時間が用いられる。
【0026】
このようにして得られた共役ジエン系ポリマーにSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合させた反応生成溶液を、そのままあるいは適度に濃縮して、または乾固して、始めに用いた共役ジエンポリマーと同様に、次の段階であるシアン化ビニル化合物及び一部又は全部の芳香環上を芳香族カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物とのグラフト重合反応に用い、ABS系樹脂を製造する。
【0027】
次に、1)共役ジエン系ポリマーに、シアン化ビニル化合物、芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を含むビニル化合物を反応させて得られるABS系樹脂、2)共役ジエン系ポリマーに、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を含むビニル化合物を反応させて得られるABS系樹脂、3)Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合させた共役ジエン系ポリマーに、シアン化ビニル化合物、芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を含むビニル化合物を反応させて得られるABS系樹脂、および4)Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合させた共役ジエン系ポリマーに、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、芳香環上を有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物を含むビニル化合物を反応させて得られるABS系樹脂、について、定法に従って成形した後、難燃性をUL−94に準拠したHB法により評価することにより、燃焼速度が抑制されるとともに、燃焼時にはドリップは殆ど発生することがなく抑制されていることが分かる。
【0028】
以下、本発明について実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
ポリブタジエン(アルドリッチ社製、38,369-4、1,2−付加物20%)0.75g、(4−エテニルフェニル)フェニルカーボネート7.86g、アクリロニトリル1.5ml、ジクミルパーオキシド2mg、トルエン4mlをステンレス製耐圧容器中に入れ、100〜140℃の湯浴中で2日間加熱した。その後反応物を取り出し、0.1mmHgの真空下で溶媒を除去し、目的物とするABS系樹脂を得た。
次に、押し込み金型に充填し加熱成形した上記ABS系樹脂の試験片を、UL−94に準拠したHB法で難燃性及びドリップ性を評価した結果、燃焼時にドリップは認められず、燃焼速度は11mm/分であった。
【実施例2】
【0030】
ポリブタジエン(アルドリッチ社製、38,369-4、1,2−付加20%)0.75g、オクタキス(ヒドリドシルセスキオキサン)0.8g、トルエン75ml及び白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のキシレン溶液(ゲレスト社製、SIP6831.0)20μLを、500ml丸底フラスコに入れ、マグネチックスターラーで室温4日間攪拌し反応させた。その後、室温減圧下で13mlになるまで濃縮した。
次に、その濃縮液をステンレス製耐圧容器に移し、(4−エテニルフェニル)フェニルカーボネート7.86g、アクリロニトリル1.5ml、ジクミルパーオキシド2mgとともに100−140℃の湯浴にて一夜加熱し反応させた。その後反応物を取り出し、0.1mmHgの真空下で溶媒を除去し、目的物とするABS系樹脂を得た。
【0031】
次に、押し込み金型に充填し加熱成形した上記ABS系樹脂の試験片を、UL−94に準拠したHB法で難燃性及びドリップ性を評価した結果、燃焼時にドリップは認められず、燃焼速度は9mm/分であった。
【比較例1】
【0032】
ステンレス製耐圧容器中で、ポリブタジエン(アルドリッチ社製、38,369-4、1,2−付加20%)1g、トルエン2ml、スチレン5ml、アクリロニトリル2ml、ジクミルパーオキシド2mgとともに110℃の湯浴にて一夜加熱し反応させた。その後反応物を取り出し、0.1mmHgの真空下で溶媒を除去し、ABS樹脂を得た。
【0033】
次に、押し込み金型に充填し加熱成形した上記ABS系樹脂の試験片を、UL−94に準拠したHB法で難燃性及びドリップ性を評価した結果、燃焼時にドリップが認められ、燃焼速度は30mm/分であった。
【比較例2】
【0034】
市販のABS樹脂(関東化学社製、31080−1A)を押し込み金型に充填し、加熱成形したABS系樹脂の試験片を、UL−94に準拠したHB法で難燃性及びドリップ性を評価した結果、燃焼時にドリップが認められ、燃焼速度は25mm/分であった。
【0035】
以上の例から、本発明のカーボネート基を芳香族側鎖上に有するABS系樹脂は、カーボネート基を芳香族側鎖上に有しないABS系樹脂に比べて燃焼速度が遅いこと、また、燃焼時にドリップが抑制されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のABS系樹脂は、カーボネート基を芳香族側鎖上に有するABS系樹脂であり、燃焼速度が遅く、また燃焼時に問題となるドリップの発生を抑制できる難燃性の熱可塑性樹脂であって、火災時に延焼を抑制できる。また、環境汚染源となる恐れのある難燃化剤やドリップ抑制剤を添加しないので、製造時、使用時、廃棄時に環境負荷が低いものであり、したがって広範な分野に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部又は全部の芳香環が有機カーボネート基で置換されたものであることを特徴とするABS系樹脂。
【請求項2】
一部又は全部の芳香環が有機カーボネート基で置換され、さらに共役ジエン系ポリマーの炭素−炭素不飽和結合がSi−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を付加したものであることを特徴とするABS系樹脂。
【請求項3】
有機カーボネート基が、アリールオキシカルボニルオキシ基又はアルコキシカルボニルオキシ基である請求項1または2に記載のABS系樹脂。
【請求項4】
共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法。
【請求項5】
Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合した共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法。
【請求項6】
共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物及び芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法。
【請求項7】
Si−H結合を有するシロキサン類またはシルセスキオキサン類を結合した共役ジエン系ポリマーと、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物及び芳香環が有機カーボネート基で置換された芳香族ビニル化合物、を含むビニル化合物とを反応させることを特徴とするABS系樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−282908(P2006−282908A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106188(P2005−106188)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】