説明

ADSL回線の安定性改善方法及びプログラム並びにこれを用いたADSLモデム

【課題】 ADSL回線を切断かつ再接続することなく、ADSL回線の安定性を確保する。
【解決手段】 ADSLモデム2は、ADSL回線4の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行うものであり、エラー検出部15、ADSLインターフェース部14及びエラー・ビット制御部16を備えている。エラー検出部15は、ADSL回線4でのエラー量を検出する機能を有する。ADSLインターフェース部14は、ADSL回線4の各トーンのビット数を調整する機能を有する。エラー・ビット制御部16は、エラー検出部15で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、エラー量が規定量以上になるとADSLインターフェース部14に対して各トーンのビット数を減らすように要求する機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ADSL(Asymmetry Digital Subscriber Line)回線の安定性を改善する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ADSL回線はノイズなどの影響を受けやすく、またノイズも定常的ではなく環境の変化や時間帯により変化する。ADSL回線はノイズの影響を受けると通信エラーを起こすため、データの再送が必要になることによってリンクした速度よりも実際のデータ通信速度が遅くなったり、通信が不安定になったり、また回線が切断されたりする。
【0003】
特許文献1にADSLルータが開示され、特許文献2にRADSL機能が開示されているように、電話用に引かれた加入者回線を利用して数百Kbps〜数Mbpsの高速通信を可能にするモデム技術として、ADSLが周知である。
【0004】
そのADSLの特徴として、距離、線路の特性等の線路条件に応じて、伝送速度を調整するレートアダプティブ(RADSL)機能も周知である。この機能により、リンクアップのネゴシエーション(G.hs)中に線路条件に合った伝送速度が決定され、その伝送速度でデータ通信が行われる。ここで、G.hsは、モデム同士のネゴシエーション規格としてITU−T勧告G.994.1(G.hs:ハンドシェーク手順)で規格されている。線路条件が悪化したときには、リンク断が発生し、再リンクアップすることで伝送速度を下げて遅くするように接続が行われる。
【0005】
一方、特許文献3には、線路条件が良くなった場合に、自動的に伝送速度を上げて速くすることを可能にする、ADSLモデムが開示されている。図8は、そのADSLモデムを示すブロック図である。以下、この図面に基づき説明する。
【0006】
ADSLモデム20は、ADSL回線40の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行う。そして、ADSLモデム20は、線路条件に合った伝送速度でADSL回線40と接続する手順を有するレートアダプティブ部22Aと、レートアダプティブ部22Aの手順に従って、ADSL回線40を接続し、一旦接続したADSL回線40を切断する接続部22Bと、増加したADSL回線40のノイズレベルが減少したか否かを監視する回線監視部23と、回線監視部23からノイズレベルの減少の情報を受けた場合、データ通信が行われていないことを確認して、接続部22BにADSL回線40の切断要求を送信し再接続を行わせることにより、ADSL回線40のノイズレベルの増加により遅くなった伝送速度を回復させる回線切断要求送信部24Aと、を備えている。
【0007】
ユーザ宅のADSLモデム20、パーソナルコンピュータ30はADSL回線40に接続される。ADSL回線40は、図示しないADSL交換機(DSLAM)の収容局を介して、インターネット等のネットワークに接続可能な回線である。
【0008】
パーソナルコンピュータ30はLAN(Local Area Network)インタフェースを有する一般的なパーソナルコンピュータである。ADSLモデム20は、ADSL回線40の線路条件に応じて伝送速度を調整するレートアダプティブ機能を含み、ADSL回線40と接続しデータ通信を行い、パーソナルコンピュータ30と接続しデータ通信を行うモデムである。
【0009】
ADSLモデム20には、内部構成として、LANインターフェース部21、ADSLインターフェース部22、回線監視部23、制御部24が設けられる。LANインターフェース部21はパーソナルコンピュータ30、制御部24に接続され、接続部21A、データ送出部21Bを有する。接続部21Aはパーソナルコンピュータ30との接続、切断を行う。
【0010】
データ送出部21Bは、パーソナルコンピュータ30からのデータを制御部24に送出し、制御部24からのデータをパーソナルコンピュータ30に送出する。ADSLインターフェース部22はADSL回線40、制御部24に接続され、レートアダプティブ(RADSL)部22A、接続部22B、データ送出部22Cを有する。
【0011】
RADSL部22Aは、G.hsの規定で、ADSL方式を決定し、その後、ADSL交換機(DSLAM)の収容局からユーザ宅に至るADSL回線40の線路長、回線品質等の回線条件に応じて伝送速度を調整する手順を有する、レートアダプティブ機能を有する。この機能により、ADSL回線40の回線に何らかの、例えば、ノイズの増加のような異常があった場合、ADSL回線40の回線のリンクを一度切断し回線の伝送速度を下げ遅くすることを可能にする。
【0012】
接続部22Bは、RADSL部22Aの手順に従ってADSL回線40との接続、一旦接続したADSL回線40との切断を行い、さらに、制御部24からの切断要求により、ADSL回線40との切断を行った後、再接続を行う。データ送出部22Cは、ADSL回線40からのデータを制御部24に送出し、制御部24からのデータをADSL回線40に送出する。
【0013】
回線監視部23は、ADSL回線40、制御部24に接続され、ノイズレベル算出部23A、ノイズレベル記憶部23B、アラーム発生部23Cを有する。ノイズレベル算出部23Aは、ADSL回線40のノイズの状態を監視し、ノイズレベルを算出する。ノイズレベル記憶部23Bは、ノイズレベル算出部23Aで算出されたノイズレベルを保持する。
【0014】
アラーム発生部23Cは、ノイズレベル算出部23Aで算出されたノイズレベルと、ノイズレベル記憶部23Bで保持されたノイズレベルを比較し、ノイズレベルが減少している場合には、伝送速度を上げて速くするようにアラームを発生する。制御部24は、回線切断要求送信部24A、送信データ変換部24Bを有し、回線切断要求送信部24Aは回線監視部23からアラームを受けADSLインターフェース部22に回線切断要求を送信し、送信データ変換部24BはADSLインターフェース部22とLANインターフェース部21の送受信データの変換を行う。
【0015】
【特許文献1】特開2001−111620号公報
【特許文献2】特開2000−324198号公報
【特許文献3】特開2003−309620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、従来技術では、回線不安定の原因となるような規定量のエラーをADSLモデムが検出した場合、回線の安定性を確保するようにADSL回線リンクを切断し、ノイズに対する耐力を適正値にするよう再度ADSL回線リンクを張り直していた。そのため、図10に示すように、ADSL回線リンクが切断された場合、再接続してADSL回線リンクが確立するまで、ユーザはインターネットなどのデータ通信を利用できなかった。
【0017】
そこで、本発明の目的は、ADSL回線を切断かつ再接続することなくADSL回線の安定性を確保できる、ADSL回線の安定性改善方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係るADSL回線の安定性改善方法は、ADSL回線の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行う場合に用いられ、次のステップ(1)〜(3)を有する。(1)ADSL回線でのエラー量を検出する。(2)検出されたエラー量と予め設定された規定量とを、比較する。(3)エラー量が規定量以下になるように、ADSL回線の各トーンのビット数を調整する。したがって、ADSL回線でのエラー量を検出し、検出されたエラー量が予め設定された規定量以下になるように、ADSL回線の各トーンのビット数を調整することにより、ADSL回線を切断かつ再接続することなく、ADSL回線の安定性を確保できる。
【0019】
上記(3)の具体例として、次のステップ(4),(5)が挙げられる。(4)エラー量が規定量以上になると、各トーンのビット数を減らす。この場合は、確実に、検出されたエラー量が予め設定された規定量以下になる。(5)規定量には第一の規定量と第一の規定量よりも小さい第二の規定量とが含まれ、エラー量が第一の規定量以上になると各トーンのビット数を減らし、エラー量が第二の規定量以下になると各トーンのビット数を増やす。この場合は、ADSL回線の安定性を確保しつつ、伝送速度の向上が図れる。
【0020】
また、上記ステップ(3)〜(5)において、各トーンのビット数を減らすことに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らす、としてもよい。この場合は、ビット数の減少するトーンが限られるので、ビット数の減少に伴う伝送速度の大幅な低下が抑えられる。
【0021】
本発明に係るADSLモデムは、ADSL回線の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行うものであり、エラー量検出手段、ビット数調整手段及びエラー・ビット制御手段を備えている。エラー量検出手段は、ADSL回線でのエラー量を検出する。ビット数調整手段は、ADSL回線の各トーンのビット数を調整する。エラー・ビット制御手段は、エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、エラー量が規定量以下になるようにビット数調整手段に対して各トーンのビット数を調整することを要求する。また、エラー・ビット制御手段は、エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、エラー量が規定量以上になるとビット数調整手段に対して各トーンのビット数を減らすように要求する、としてもよい。更に、エラー・ビット制御手段は、エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された第一の規定量及びこれよりも小さい第二の規定量とを比較し、エラー量が第一の規定量以上になるとビット数調整手段に対して各トーンのビット数を減らすように要求し、エラー量が第二の規定量以下になるとビット数調整手段に対して各トーンのビット数を増やすように要求する、としてもよい。更にまた、エラー・ビット制御手段は、各トーンのビット数を減らすように要求することに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らすように要求する、としてもよい。本発明に係るADSL回線の安定性改善プログラムは、本発明に係るADSLモデムの各手段をコンピュータに実現させるためのものである。
【0022】
換言すると、本発明では、ADSL回線を使用する場合、ADSL回線上のエラー量に応じてトーン(Tone)に積載可能なビット数を調整することにより、ADSL回線の安定性の改善をする。つまり、ADSL回線リンクを切断することなく、一定のスパンでADSL回線のエラー状況を監視し、予め設定した規定値以上のエラー量に達した場合、約4kHz間隔の各トーンに積むビット数を減らすことにより、ADSL回線の安定性を確保するとともにADSL回線リンクを保持する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ADSL回線でのエラー量を検出し、検出されたエラー量が予め設定された規定量以下になるように、ADSL回線の各トーンのビット数を調整することにより、ADSL回線を切断かつ再接続することなく、ADSL回線の安定性を確保できる。つまり、ADSL回線の安定性を確保するためにADSL回線を切断かつ再接続する必要がないため、ユーザは常にデータ通信を利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明に係るADSLモデムの第一実施形態を示すブロック図である。図2は、第一実施形態のADSLモデムを含む代表的なADSL環境を示すブロック図である。図3は、第一実施形態のADSLモデムで使用される各トーンのビット数を示すグラフである。以下、これらの図面に基づき説明する。
【0025】
図2において、パーソナルコンピュータ(以下「PC」という。)1はユーザが使用する端末である。局舎には、回線収容装置(以下「DSLAM(Digital Subscriber Line Access Multiplexer)」という。)3が設置されている。ADSLモデム2とDSLAM3との間でADSL回線リンクが確立すると、ADSL回線4を通してユーザはインターネット網5へのデータ通信が可能となる。
【0026】
ADSL通信では、ADSLモデム2とDSLAM3との間で接続時にハンドシェーク処理をした後、トレーニングと呼ばれる処理で約4kHz間隔の各トーンにどれだけのビットが積めるかを、回線状況から決定する。図3に示すように、G.992.1dmt方式を例にすると、トーンは、上り26個(25kHz〜138kHz)、下り224個(138kHz〜1104kHz)で、最大16ビットまで積める。トーンに積載する総ビット数によって、上り/下りのリンクアップ速度が決められる。
【0027】
図1において、PC1はユーザが使用するインターネット端末である。ADSLモデム2は、LANインターフェース部11、データ制御部13、ADSLインターフェース部14、エラー検出部15、エラー・ビット制御部16、タイマー部12等で構成される。LANインターフェース部11は、PC1との間でデータを送受信するとともに、データ制御部13との間でデータをやり取りする。データ制御部13は、各インターフェースとの間でデータのやり取りを処理及び制御する。ADSLインターフェース部14は、ADSL規格に基づくデータの変復調や、DSLAM3との間でネゴシエーションにより伝送方式及び通信速度の決定を行う。エラー検出部15は、ADSL回線4でのエラーを検出し、その情報をエラー・ビット制御部16へ伝達する。エラー・ビット制御部16は、検出されたエラーが予め設定された規定量を越えるか否かを判断し、規定量以上のエラーであればADSLインターフェース部14に対し各トーンのビット数を減らすよう要求する。また、エラー・ビット制御部16は、データ制御部13からデータ通信状況の情報をもらい、ADSLインターフェース部14への要求のタイミングを制御する。タイマー部12は、エラー検出スパンのタイマーの役割をする。
【0028】
換言すると、ADSLモデム2は、ADSL回線4の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行うものであり、エラー量検出手段としてのエラー検出部15、ビット数調整手段としてのADSLインターフェース部14及びエラー・ビット制御手段としてのエラー・ビット制御部16を備えている。すなわち、エラー検出部15は、ADSL回線4でのエラー量を検出する機能を有する。ADSLインターフェース部14は、ADSL回線4の各トーンのビット数を調整する機能を有する。エラー・ビット制御部16は、エラー検出部15で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、エラー量が規定量以上になるとADSLインターフェース部14に対して各トーンのビット数を減らすように要求する機能を有する。
【0029】
図4は、第一実施形態のADSLモデムの動作を示すフローチャートである。図5は、第一実施形態のADSLモデムの動作を示すタイムチャートである。以下、これらの図面に基づき、ADSLモデム2の動作を説明する。
【0030】
図4において、動作を開始した後(ステップS1)、エラー・ビット制御部16は、ADSL回線4上のエラー発生の有無を検出するためエラー検出部15からエラー情報を引き取り、そのエラー検出値をX1とする(ステップS2)。続いて、エラー・ビット制御部16は、エラー検出値X1が予め設定された規定値Y以上であるか否かを確認する(ステップS3)。もし、エラー検出値X1が規定値Y以上(Y≦X1)であれば、エラー・ビット制御部16は、各トーンに積載可能なビットを1個減らすようADSLインターフェース部14に指示する(ステップS4)。すなわち、積載可能なビット数をN−1個に変更する。ここでN個とは、ステップS1での開始時に積載可能なビット数である。一方、エラー検出値X1が規定値Y以内(Y>X1)であれば、ADSL回線4は安定していると判断し(ステップS7)、再度エラー監視を実施するようにステップS1に戻る。
【0031】
また、ステップS4で各トーンのビット数を1個減らした後に、エラー検出部15で検出されたエラー検出値をX2とする(ステップS5)。続いて、エラー検出値X2が規定値Y以上(Y≦X2)であるか否かを確認する(ステップS6)。もし、エラー検出値X2が規定値Y以上(Y≦X2)であれば、ステップS4に戻り更に1個ビットを減らし、エラー検出値X2が規定値Y以内になるまでステップS4〜S6の処理を繰り返す。この繰り返し処理は、エラー・ビット制御部16、エラー検出部15及びADSLインターフェース部14で実行する。最後に、ステップS6でエラー検出値X2が規定値Y以内(Y>X2)であることが確認できれば、ADSL回線4が安定していると判断し(ステップS7)、再度エラー監視を実施するようにステップS1に戻る。
【0032】
図10に示すように、従来技術では、エラー状況を検知してからADSL回線を切断し、続いてADSL回線の再リンクアップしていたために、ユーザはその間データ通信を利用できなかった。これに対し、本実施形態では、一定のスパンでADSL回線4のエラー状況を監視し、予め設定した規定値以上にエラー量が達すると、約4kHz間隔の各トーンに積むビット数を減らし、ADSL回線4上のデータ使用量(速度)を強制的に落とすことにより、ADSL回線4の安定性を確保する。すなわち、図4に示すように、ADSL回線リンクを常に保持できるので、ADSLのユーザが常時データ通信を利用できる。
【0033】
図6は、第二実施形態のADSLモデムの動作を示すフローチャートである。図7は、第二実施形態のADSLモデムで使用される各トーンのビット数を示すグラフである。以下、図1、図6及び図7に基づき説明する。
【0034】
第一実施形態では、全トーンのビット数を1個減らすことにより、伝送速度は下りで約1Mbpsの低下を伴う。そこで、本実施形態では、ビット数を減らす際に新たな条件を追加し、その条件を満たすトーンに対してのみビット数を1個減らすことにより、大きな速度低下を防いでいる。その条件とは、しきい値(設定値をM個とする)以上ビット積載可能なトーンに対して、ビット数を1個減らすようにすることである。すなわち、図6では、第一実施形態のフローチャート(図4)にステップS100を追加している。規定値以上のエラーがあった場合(ステップS3)、エラー・ビット制御部16は、予め設定されたしきい値(M個)以上のビットを積載可能なトーンを抽出する(ステップS100)。図7の例では、番号6,7,30,32,33,34のトーンがM個以上ビット積載可能である。そして、ステップS100で抽出したトーンに対しビット数を減らす(ステップS41)。
【0035】
図8は、第三実施形態のADSLモデムの動作を示すフローチャートである。以下、図1及び図8に基づき説明する。
【0036】
第一及び第二実施形態では、ADSL回線のエラーを検出し、そのエラー量が多い場合にビット数を減らすことにより、ADSL回線の安定性を確保している。これに対し、本実施形態では、ADSL回線の安定性を確保することに加え、エラー量が少ない(規定値Z以下)場合には各トーンに積載可能なビット数を増やすことにより伝送速度の向上を図る(ただし規定値Z<Y)。
【0037】
図8で説明すると、回線安定が確認できた(ステップS7)後、エラー・ビット制御部16はエラー検出値X3が規定値Z以下か否かを確認する(ステップS200)。ここで、エラー検出値X3は先の処理で検出したエラー検出値X1又はエラー検出値X2である。もし、エラー検出値X3が規定値Z以下(Z≧X3)であれば、エラー・ビット制御部16は各トーンに積載可能なビットを1個増やすようADSLインターフェース部14に指示する(ステップS201)。すなわち、積載可能なビット数をN+1個に変更する。ここでN個とは、開始時(ステップS7)に積載可能なビット数である。一方、エラー検出値X3が規定値Zよりも多ければ(Z<X3)、ADSL回線4は安定かつ伝送速度が適正であると判断し(ステップS204)、再度エラー監視を実施するようにステップS1に戻る。
【0038】
また、ステップS201で積載可能ビット数を1個増やした後、エラー検出部15で検出したエラー検出値をX4とする(ステップS202)。続いて、エラー・ビット制御部16は、検出したエラー検出値X4が規定値Z以下(Z≧X4)であるか否かを確認する(ステップS203)。もし、エラー検出値X4が規定値Z以下(Z≧X4)であれば、ステップS201に戻り更に1個ビットを増やし、エラー検出値X4が規定値Zより多くなるまでステップS201〜S203の処理を繰り返す。この繰り返し処理は、エラー・ビット制御部16、エラー検出部15及びADSLインターフェース部14で実行する。最後に、ステップS203でエラー検出値X4が規定値Zより多い(Z<X4)ことが確認できれば、ADSL回線4が安定かつ伝送速度が適正であると判断し(ステップS204)、再度エラー監視を実施するようにステップS1に戻る。
【0039】
次に、本発明に係るADSL回線の安定性改善方法の実施形態を説明する。本実施形態は、本発明に係るADSLモデムの第一乃至第三実施形態で用いられ、次のステップを有する。(1)ADSL回線でのエラー量を検出する。(2)検出されたエラー量と予め設定された規定量とを、比較する。(3)エラー量が規定量以下になるように、ADSL回線の各トーンのビット数を調整する。上記(3)の具体例として、次のステップが挙げられる。(4)エラー量が規定量以上になると、各トーンのビット数を減らす(本発明に係るADSLモデムの第一実施形態に対応する)。(5)規定量には第一の規定量と第一の規定量よりも小さい第二の規定量とが含まれ、エラー量が第一の規定量以上になると各トーンのビット数を減らし、エラー量が第二の規定量以下になると各トーンのビット数を増やす(本発明に係るADSLモデムの第三実施形態に対応する)。また、上記(3)〜(5)において、各トーンのビット数を減らすことに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らす、としてもよい(本発明に係るADSLモデムの第二実施形態に対応する)。
【0040】
次に、本発明に係るADSL回線の安定性改善プログラムの実施形態を説明する。本実施形態は、本発明に係るADSLモデムの第一乃至第三実施形態で用いられ、次の手段をDSPなどのコンピュータに実現させるためのものである。(1)ADSL回線でのエラー量を検出するエラー量検出手段。(2)ADSL回線の各トーンのビット数を調整するビット数調整手段。(3)エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、エラー量が規定量以下になるようにビット数調整手段に対して各トーンのビット数を調整することを要求するエラー・ビット制御手段。また、エラー・ビット制御手段は、エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、エラー量が規定量以上になるとビット数調整手段に対して各トーンのビット数を減らすように要求する、としてもよい(本発明に係るADSLモデムの第一実施形態に対応する)。更に、エラー・ビット制御手段は、エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された第一の規定量及びこれよりも小さい第二の規定量とを比較し、エラー量が第一の規定量以上になるとビット数調整手段に対して各トーンのビット数を減らすように要求し、エラー量が第二の規定量以下になるとビット数調整手段に対して各トーンのビット数を増やすように要求する、としてもよい(本発明に係るADSLモデムの第三実施形態に対応する)。更にまた、エラー・ビット制御手段は、各トーンのビット数を減らすように要求することに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らすように要求する、としてもよい(本発明に係るADSLモデムの第二実施形態に対応する)。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るADSLモデムの第一実施形態を示すブロック図である。
【図2】第一実施形態のADSLモデムを含む代表的なADSL環境を示すブロック図である。
【図3】第一実施形態のADSLモデムで使用される各トーンのビット数を示すグラフである。
【図4】第一実施形態のADSLモデムの動作を示すフローチャートである。
【図5】第一実施形態のADSLモデムの動作を示すタイムチャートである。
【図6】第二実施形態のADSLモデムの動作を示すフローチャートである。
【図7】第二実施形態のADSLモデムで使用される各トーンのビット数を示すグラフである。
【図8】第三実施形態のADSLモデムの動作を示すフローチャートである。
【図9】従来のADSLモデムの一例を示すブロック図である。
【図10】従来のADSLモデムの動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0042】
1 PC
2 ADSLモデム
3 DSLAM
4 ADSL回線
5 インターネット網
11 LANインターフェース部
12 タイマー部
13 データ制御部
14 ADSLインターフェース部
15 エラー検出部
16 エラー・ビット制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ADSL回線の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行う場合に用いられる、ADSL回線の安定性改善方法において、
前記ADSL回線でのエラー量を検出し、
検出された前記エラー量と予め設定された規定量とを比較し、
前記エラー量が前記規定量以下になるように、前記ADSL回線の各トーンのビット数を調整する、
ことを特徴とするADSL回線の安定性改善方法。
【請求項2】
前記エラー量が前記規定量以下になるように、前記ADSL回線の各トーンのビット数を調整することは、
前記エラー量が前記規定量以上になると、前記各トーンのビット数を減らすことである、
請求項1記載のADSL回線の安定性改善方法。
【請求項3】
前記規定量には第一の規定量と当該第一の規定量よりも小さい第二の規定量とが含まれ、
前記エラー量が前記規定量以下になるように、前記ADSL回線の各トーンのビット数を調整することは、
前記エラー量が前記第一の規定量以上になると前記各トーンのビット数を減らし、前記エラー量が前記第二の規定量以下になると前記各トーンのビット数を増やすことである、
請求項1記載のADSL回線の安定性改善方法。
【請求項4】
前記各トーンのビット数を減らすことに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らす、
請求項2又は3記載のADSL回線の安定性改善方法。
【請求項5】
ADSL回線の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行うADSLモデムにおいて、
前記ADSL回線でのエラー量を検出するエラー量検出手段と、
前記ADSL回線の各トーンのビット数を調整するビット数調整手段と、
前記エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、当該エラー量が当該規定量以下になるように前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を調整することを要求するエラー・ビット制御手段と、
を備えたことを特徴とするADSLモデム。
【請求項6】
前記エラー・ビット制御手段は、前記エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、当該エラー量が当該規定量以上になると前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を減らすように要求する、
請求項5記載のADSLモデム。
【請求項7】
前記エラー・ビット制御手段は、前記エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された第一の規定量及び当該第一の規定量よりも小さい第二の規定量とを比較し、当該エラー量が当該第一の規定量以上になると前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を減らすように要求し、当該エラー量が当該第二の規定量以下になると前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を増やすように要求する、
請求項5記載のADSLモデム。
【請求項8】
前記エラー・ビット制御手段は、前記各トーンのビット数を減らすように要求することに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らすように要求する、
請求項6又は7記載のADSLモデム。
【請求項9】
ADSL回線の線路条件に合った伝送速度でデータ通信を行う場合に用いられる、ADSL回線の安定性改善プログラムにおいて、
前記ADSL回線でのエラー量を検出するエラー量検出手段と、
前記ADSL回線の各トーンのビット数を調整するビット数調整手段と、
前記エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、当該エラー量が当該規定量以下になるように前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を調整することを要求するエラー・ビット制御手段と、
をコンピュータに機能させることを特徴とするADSL回線の安定性改善プログラム。
【請求項10】
前記エラー・ビット制御手段は、前記エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された規定量とを比較し、当該エラー量が当該規定量以上になると前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を減らすように要求する、
請求項9記載のADSL回線の安定性改善プログラム。
【請求項11】
前記エラー・ビット制御手段は、前記エラー量検出手段で検出されたエラー量と予め設定された第一の規定量及び当該第一の規定量よりも小さい第二の規定量とを比較し、当該エラー量が当該第一の規定量以上になると前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を減らすように要求し、当該エラー量が当該第二の規定量以下になると前記ビット数調整手段に対して前記各トーンのビット数を増やすように要求する、
請求項9記載のADSL回線の安定性改善プログラム。
【請求項12】
前記エラー・ビット制御手段は、前記各トーンのビット数を減らすように要求することに代えて、しきい値以上のビット数を有するトーンのビット数を減らすように要求する、
請求項10又は11記載のADSL回線の安定性改善プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−319706(P2006−319706A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140750(P2005−140750)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000197366)NECアクセステクニカ株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】