説明

ATオリゴヌクレオチドを有効成分とする免疫応答増強性薬剤及び食品組成物

【課題】ATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強させる、さらに、リンパ球幼若化活性を増強する、NF-κB転写活性を増強する、Toll様受容体を介する活性を増強する薬剤及び食品組成物の提供。
【解決手段】ピロリ菌の増殖抑制効果を有するL.gasseri OLL2716(LG21)株の8塩基からなる免疫応答増強性のある新規なnonCpG配列(AT5AC-L)に含まれる特徴的なコア配列(5'-ATTTTTAC-3')をゲノムDNA中に385種類の配列を発見した。化学合成した上記 ATオリゴヌクレオチドのリンパ球幼若化活性試験を指標に解析した。標的細胞として、ブタ腸管パイエル板細胞、ブタ脾臓細胞およびヒト末梢血単核球を用いた。さらに、ブタToll様受容体9(TLR9)強制発現細胞株(トランスフェクタント)を用いたNF-κB転写活性試験を行い、最終的にTLR9を介する活性の強い新規なオリゴヌクレオチド10種を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強させる薬剤及び食品組成物に関する。さらに、本発明はATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する薬剤及び食品組成物、NF-κB転写活性を増強する薬剤及び食品組成物、またはToll様受容体を介する活性を増強する薬剤及び食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
「プロバイオティクス(腸内菌叢を改善し、宿主に有益な効果をもたらす微生物の総称)」という用語は、昨今の健康ブームに後押しされて広く世の中に浸透してきている。しかし、その曖昧な定義と健康維持・増進のメカニズムが不明瞭なため、プロバイオティクスの機能を食品として有効活用する上で、医学的な価値を見出すまでには至っておらず、医学、薬学の範疇外とされているのが現状である。しかし、近年の結核菌の流行などに見られるように、抗生物質の開発により撲滅していたと考えられていた病原細菌が抗生物質に対して抵抗性を持ち、全世界に再び蔓延するようになってきたことで、薬剤に頼りきってきた現代医学は大きな衝撃を受けている。そこで、医療とは別の観点から疾病の予防策として、日本の特定保健用食品の概念が注目されるようになり、生体が本来有する生命維持回復力に興味関心が益々高まってきている。
【0003】
これまでのプロバイオティクス研究は、腸内菌叢において悪玉菌と呼ばれる病原細菌を抑制し、腸健康(Gut-health)の向上を目的とした腸内の細菌学を基礎として展開されてきた。しかし、学術面においては、従来のプロバイオティクスの整腸作用以外の効果、特に腸管粘膜免疫系に与える影響について考えられており、その歴史は長い(非特許文献1〜4)。最近ではプロバイオティクスが免疫系において、未分化なヘルパーT細胞(Th-0細胞)を1型ヘルパーT細胞(Th-1細胞)へと分化誘導する効果が注目され、Th-2系に偏っていると言われるアレルギー罹患者においてアレルギー治療およびその予防へと繋がる研究として大いに期待されている(非特許文献5、6)。しかし、粘膜免疫系におけるヘルパーT細胞バランスの改善によって健康を増進する微生物については、その作用メカニズムの複雑さと基礎研究報告数が少ないため、世間一般にまで理解を得ることが難しかった。整腸作用=プロバイオティクスという用語を使用し続けることが一般化し、時代に取り残されたような形となっていた。最近になって、粘膜免疫の活性化を通じて、免疫系の活性化を促進する微生物を識別する新しい用語「イムノバイオティクス(immunobiotics)」が提唱され(非特許文献7)、近未来型品食品"バイオディフェンスフード(Biodefense food)"の開発に向けた基礎研究が期待されている。
【0004】
生体防御機構の誘導は病原体の認識に始まり、病原体のセンサーとして働くToll様受容体(Toll-like receptor; TLR)は、すべての生体防御機構において重要とされ、TLRファミリーはそれぞれ認識分子、すなわち細菌性モデュリンが異なると考えられている(非特許文献8)。細菌性モデュリンとは、細菌に特異的な分子パターン(pathogen associated molecular patterns; PAMPs)であり、宿主に対しサイトカイン誘導能を示し、免疫応答を制御するものと定義されている。とくにTLR9は微生物ゲノム中に多く存在する5'-シトシン非メチル化CpG DNAを認識することが報告され(非特許文献9)、CpG DNAはTh-1系免疫応答(自然免疫系を活性化する機構)を強く励起することから、臨床面での応用が期待されている分子である。この機能性DNAを用いたワクチンの開発は、感染症、癌、アレルギーの予防および治療など、幅広い応用が期待されている(非特許文献10〜14、特許文献1)。本発明者らはこれまでに食品の有する生体調節機能、特に生体恒常性の維持・調節に関わる機能に注目し、乳業用乳酸菌由来ゲノムDNAおよびDNAモチーフの生物活性、とくに免疫賦活化作用について精力的に追究し、その免疫活性配列を同定してきた(非特許文献15〜17)。 とくにL. gasseri JCM1131T由来の新規なCpGを含まない(non CpG)配列(AT5AC-L)が免疫刺激作用を持つことを発見している(非特許文献15、18)。
【0005】
だがこれまでに、ピロリ菌の増殖抑制効果を有するL. gasseri OLL2716(LG21)からは、免疫賦活化作用を持つ機能性DNAの報告はなされていなかった。
【0006】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】A.C. Brown, A. Valiere: Nutr. Clin. Care., 7, 56 (2004)
【非特許文献2】H. S. Gill, F. Guarner: Postgrad. Med. J., 80, 516 (2004)
【非特許文献3】S.J. Cunningham-Rundles: Nutr. Health. Aging., 8, 20 (2004)
【非特許文献4】O. Vaarala: Clin Exp Allergy., 33, 1634 (2003)
【非特許文献5】E. Pohjavuori, M. Viljanen, R. Korpela, M. Kuitunen, M. Tiittanen, O. Vaarala, E. Savilahti: J. Allergy. Clin. Immunol., 114, 131 (2004)
【非特許文献6】P. Kidd. Altern: Med. Rev., 8, 223 (2003)
【非特許文献7】R. Clancy: FEMS Immunol Med Microbiol., 7, 403 (2005)
【非特許文献8】K. Takeda, S. Akira: J. Dermatol. Sci., 34, 73 (2004)
【非特許文献9】H. Hemmi, O. Takeuchi, T. Kawai, T. Kaisho, S. Sato, H. Sanjo, M. Matsumoto, K. Hoshino, H. Wagner, K. Takeda, S. Akira: Nature., 408, 740 (2000)
【非特許文献10】T. Shirakawa, T. Enomoto, S. Shimazu, J. M. Hopkin: Science., 275, 77 (1997)
【非特許文献11】G. J. Prud'homme: J. Gene. Med., in press.
【非特許文献12】R. J. Ulevitch: Nat. Rev. Immunol.,4, 512 (2004)
【非特許文献13】R. K. Ahmed, G. Biberfeld, R. Thorstensson: Mol. Immunol., 42, 251 (2005)
【非特許文献14】D. M. Klinman: Expert. Opin. Biol. Ther., 4, 937, (2004)
【非特許文献15】H. Kitazawa, S. Ueha, S. Itoh, H. Watanabe, K. Konno, Y. Kawai, T. Saito, T. Itoh, T. Yamaguchi: Int J Food Microbiol., 65, 149 (2001)
【非特許文献16】H. Kitazawa, H. Watanabe, T. Shimosato, Y. Kawai, T. Itoh, T. Saito: Int. J. Food. Microbiol., 85, 11 (2003)
【非特許文献17】ID. Ilieve, H. Kitazawa, T. Shimosato, S. Katoh, H. Morita, F. He, M. Hosoda, T. Saito: Cell. Microbiol., in press.
【非特許文献18】T. Shimosato, H. Kitazawa, S. Katoh, Y. Tomioka, R. Karima, S. Ueha, Y. Kawai, T. Hishinuma, K. Matsushima, T. Saito: Biochem. Biophys. Acta., 1627, 56 (2003)
【特許文献1】特開2002−034565
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強させる薬剤及び食品組成物を提供することにある。また、本発明はATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する薬剤及び食品組成物、NF-κB転写活性を増強する薬剤及び食品組成物、またはToll様受容体を介する活性を増強する薬剤及び食品組成物も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ピロリ菌の増殖抑制効果を有するLactobacillus gasseri OLL2716(LG21)株のゲノムDNAに注目し、まずAT5AC-Lに含まれる特徴的なコア配列(5'-ATTTTTAC-3')をLG21ゲノムDNA配列において相同性解析し、ATコア配列を含む385種類の配列を発見した。
【0009】
それから、一次スクリーニングとして、化学合成した上記 ATオリゴヌクレオチドの免疫活性についてリンパ球幼若化活性試験を指標に解析した。試験には標的細胞として、ブタ腸管パイエル板細胞、ブタ脾臓細胞およびヒト末梢血単核球を用いた。二次スクリーニングとして、ブタToll様受容体9(TLR9)強制発現細胞株(トランスフェクタント)を用いたNF-κB転写活性試験を行い、最終的にTLR9を介する活性の強いオリゴヌクレオチド10種を見出した。
【0010】
即ち、本発明者らは、ATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強させる薬剤及び食品組成物の開発に成功し、これにより本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、より具体的には、以下の(1)〜(16)を提供する。
(1)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強する薬剤。
(2)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する薬剤。
(3)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、NF-κB転写活性を増強する薬剤。
(4)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、Toll様受容体を介する活性を増強する薬剤。
(5)Toll様受容体がToll様受容体9である、(4)に記載の薬剤。
(6)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドがLactobacillus gasseri OLL2716由来のオリゴヌクレオチドである、(1)〜(5)のいずれかに記載の薬剤。
(7)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1〜28のいずれかに記載の配列からなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の薬剤
(8)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1、2、7、9、11、15、21、22、24、または26のいずれかに記載の配列からなる、(1)〜(6)のいずれかに記載の薬剤。
(9)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強する食品組成物。
(10)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する食品組成物。
(11)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、NF-κB転写活性を増強する食品組成物。
(12)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、Toll様受容体を介する活性を増強する食品組成物。
(13)Toll様受容体がToll様受容体9である、(12)に記載の食品組成物。
(14)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドがLactobacillus gasseri OLL2716由来のオリゴヌクレオチドである、(9)〜(13)のいずれかに記載の食品組成物。
(15)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1〜28のいずれかに記載の配列からなる、(9)〜(14)のいずれかに記載の食品組成物。
(16)ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1、2、7、9、11、15、21、22、24、または26のいずれかに記載の配列からなる、(9)〜(14)のいずれかに記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、食品への利用性の他、イムノバイオティック乳酸菌由来DNAモチーフのTLR9による認識およびシグナル伝達システムを応用したDNAワクチンの開発にもつながるものである。また、TLR9がパイエル板および腸管膜リンパ節で強い発現が認められたこと(T. Shimosato, M. Tohno, H. Kitazawa, S. Katoh, K. Watanabe, Y. Kawai, H. Aso, T. Yamaguchi, T. Saito: Immunol. Lett., in press.)は、TLR9が腸管免疫系において重要な役割を担っていることを強く示唆するものであり、食餌性の乳業用乳酸菌のDNAがTLR9を刺激し、免疫を活性化する可能性が考えられる。一方で、腸管の常在乳酸菌のDNAに対する免疫応答の巧妙な調節も存在することが考えられる。それゆえ、乳酸菌DNAのTLR9を介する腸管免疫系を明らかにすることは、腸管常在乳酸菌や乳業用乳酸菌を用いた機能性の食品やDNAワクチンの開発に必要不可欠である。本発明で得られた知見は、免疫活性を有するCpG DNA以外に,non-CpG DNAであるATオリゴヌクレオチドの免疫活性に関する新たな展開の可能性を示すと同時に、今後、ATオリゴヌクレオチドの腸管におけるTLR9を介するシグナル伝達経路について、その認識メカニズムを分子レベルで明らかするための糸口となり、自然免疫という基本的な免疫システムがより発展的に解明されるための原動力にもなると確信する。ATオリゴヌクレオチドを有するイムノバイオティック乳酸菌を含む食品は、「生体防御食品」(Bio-defense foods)と位置付ける基礎として大いに期待出来る。
【0013】
また、本発明の薬剤および食品組成物は、アレルギー、炎症性腸疾患、癌の予防・改善等への利用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、ATオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強する薬剤に関する。本発明において、「ATオリゴヌクレオチド」とは、ATコア配列5'-ATTTTTAC-3' または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドと表すことも出来る。
【0015】
本発明において、「ATコア配列」とは、8〜10塩基からなる免疫応答増強性のある新規なnon CpG配列であり、5'-ATTTTTAC-3'、5'-TTTATTATAT-3'、またはAT5AC-Lと表すことが出来る。
【0016】
本発明のオリゴヌクレオチドは、ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を含んでいれば、他の部分のDNA配列については特に制限はない。本発明のオリゴヌクレオチドとして、好ましくは配列番号:1〜28のいずれかに記載のDNA配列からなるオリゴヌクレオチド、より好ましくは配列番号:1、2、7、9、11、15、21、22、24、または26のいずれかに記載のDNA配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることが出来る。本発明のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号:1〜28のいずれかに記載のDNA配列からなるオリゴヌクレオチドと機能的に同等なオリゴヌクレオチドを挙げることが出来る。ここで「機能的に同等」とは、対象となるオリゴヌクレオチドが、本発明のオリゴヌクレオチドと同様の免疫賦活活性を持つことをいう。このようなオリゴヌクレオチドには、配列番号:1〜28のいずれかに記載のDNA配列からなるオリゴヌクレオチドにおいて、1若しくは複数の塩基が置換、欠失、付加および/または挿入されたオリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、配列番号:1〜28のいずれかに記載のDNA配列からなるオリゴヌクレオチドの3'末端、5'末端がそれぞれ最大10塩基分(例えば、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10塩基分)欠失または付加された(欠失または付加される塩基数は両端で同数でなくてもよい)オリゴヌクレオチドも本発明のオリゴヌクレオチドに含まれる。
【0017】
また、本発明のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号:1〜28のいずれかに記載のDNA配列の相補鎖に、選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを挙げることが出来る。選択的にハイブリダイズするとは、あらかじめ定められた配列をもつ分子(すなわち第2のポリペプチド)がDNAまたはRNAの試料中に存在する場合、適切にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下で、ハイブリダイズする、二本鎖になる、または本質的に互いにのみ結合する核酸分子を指す。ストリンジェントな条件とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1%SDSの条件であるが、これらの条件に特に制限されない。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0018】
本発明のオリゴヌクレオチドは、特に由来は限定されないが、好ましくは微生物由来であり、より好ましくは、Lactobacillus gasseri OLL2716(LG21)を挙げることが出来る。
【0019】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製してもよいし、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製してもよい。オリゴヌクレオチドのサイズは様々であってよく、例えば、約5〜約500塩基、約5〜約100塩基、約5〜約50塩基、約5〜約25塩基、約5〜約10塩基、約5〜約6塩基 のサイズを挙げることが出来、好ましくは5〜50塩基のサイズ、より好ましくは15〜25塩基のサイズを挙げることが出来る。
【0020】
本発明の薬剤は、対象に対して投与することを一つの目的として使用される。
【0021】
本発明において、「対象」とは、本発明の薬剤を投与する生物体、該生物体の体内の一部分、または生物体より摘出または排出されたその一部分をいう。生物体は、特に限定されるものではないが、動物(例えば、ヒト、家畜動物種、野生動物)を含む。
【0022】
本発明において、「投与する」とは、経口的、あるいは非経口的に投与することが含まれる。
【0023】
経口的な投与としては、経口剤という形での投与を挙げることができ、経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することが出来る。
【0024】
非経口的な投与としては、注射剤という形での投与を挙げることができ、注射剤としては、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることが出来る。また、投与すべきオリゴヌクレオチドを含む遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、本発明の方法の効果を達成することが出来る。また、本発明の薬剤を、処置を施したい領域に局所的に投与することも出来る。例えば、手術中の局所注入、カテーテルの使用、または本発明のオリゴヌクレオチドを含むDNA配列の標的化遺伝子送達により投与することも可能である。
【0025】
本発明の薬剤としては、試薬やDNAワクチン等を挙げることが出来る。
【0026】
本発明の薬剤には、保存剤や安定剤等の製剤上許容しうる担体を添加してもよい。製剤上許容しうるとは、それ自体は上記の活性を有さない材料であって、上記の薬剤とともに投与可能な製剤上許容される材料を意味する。
【0027】
安定剤としては、0.2%程度のゼラチンやデキストラン、0.1-1.0%のグルタミン酸ナトリウム、あるいは約5%の乳糖や約2%のソルビトールなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。保存剤としては、0.01%程度のチメロサールや0.1%程度のベータプロピオノラクトンなどを使用することが出来るが、これらに限定されるものではない。
【0028】
注射剤を調製する場合、必要により、pH 調製剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を添加し、常法により、皮下、筋肉内、静脈内注射剤とする。注射剤は、溶液を容器に収納後、凍結乾燥等によって、固形 製剤として、用時調製の製剤としてもよい。また、一投与量を容器に収納してもよく、また、投与量を同一の容器に収納してもよい。
【0029】
本発明の薬剤の接種法としては、公知の種々の方法が使用出来る。接種法としては皮下注射、筋肉注射、経皮接種等が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0030】
投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分の種類などにより異なるが、通常成人一人あたり、一回につき0.1mgから500mgの範囲で、好ましくは0.5 mgから20 mgの範囲で投与することが出来る。しかし、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量よりも少ない量で充分な場合もあり、また上記の範囲を超える投与量が必要な場合もある。
【0031】
どの接種方法が適切かは薬剤の種類、接種する対象の種類等を考慮して決定される。容器はバイアル、プレフィルド シリンジ製品 (pre-filled syringe) が可能である。必要に応じて、溶液状でも凍結乾燥などによる粉末製品でもよい。一回接種用でも複数回接種用でも良い。投与量は、接種する対象の種類や体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0032】
また、生物体より摘出または排出された生物体の一部分に投与を行う際には、本発明の薬剤を生物体の一部に「接触」させてもよい。
【0033】
また、本発明において「接触」は、生物体の状態に応じて行う。例えば、生物体の一部への本薬剤の散布、あるいは、生物体の一部の破砕物への本薬剤の添加等を挙げることが出来るが、これらの方法に制限されない。生物体の一部が培養細胞の場合には、該細胞の培養液への本薬剤の添加あるいは、本発明のオリゴヌクレオチドを含むDNAを、生物体の一部を構成する細胞へ導入することにより、上記「接触」を行うことも可能である。
【0034】
本発明の方法を実践する際に、本発明の薬剤は、少なくとも1つの既知の化学療法剤と共に薬学的組成物の一部として投与されてもよい。または、本発明の薬剤は、少なくとも1つの既知の免疫増強剤と別に投与されてもよい。一つの態様において、本発明の薬剤および既知の化学療法剤は、実質的に同時に投与されてもよい。
【0035】
本発明において、「免疫応答」とは、対象の免疫系が外来として認識する免疫原(対象において免疫応答を誘導することが出来る抗原)に対する免疫系による対象の応答をいう。免疫応答は、細胞媒介免疫応答(免疫系の抗原特異的T細胞および非特異的細胞によって媒介させる応答)および体液性免疫応答(血漿リンパおよび組織体液に存在する薬剤によって媒介される応答)を共に含む。「免疫応答」という用語は、免疫原(例えば、病原体)に対する初期の応答ならびに「獲得免疫」の結果である記憶応答を共に含む。また、自己抗原に対する寛容が崩壊し、T細胞やB細胞がその個体の組織の自己抗原と反応してしまう現象(自己免疫疾患)も、本発明の免疫応答に含むものとする。また、特定の抗原に免疫応答が過剰に惹起される現象(アレルギー疾患)も、本発明の免疫応答に含むものとする。
【0036】
本発明において、「免疫」とは、病原体への曝露に際しての病気からの保護をいう。免疫は先天性であるもの(抗原への曝露の不存在化で存在する免疫応答)、または獲得したもの(抗原への曝露に続いてBおよびT細胞によって媒介され、抗原に対して特異性を呈する免疫応答)ものであってもよい。
【0037】
本発明において、「免疫応答を増強する」とは、上記に記載の免疫応答を促進させるものをいう。免疫応答が増強される期間は特に限定されないが、免疫応答の増強は一時的な増強であってもよいし、一定期間の増強であってもよい。
【0038】
一時的な増強とは、本発明のオリゴヌクレオチドの投与に起因する、免疫応答が増強された状態が一定期間継続し、その後、免疫応答が再度定常状態に戻ることをいう。
【0039】
本発明は、ATコア配列5'-ATTTTTAC-3' または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する薬剤に関する。
【0040】
本発明において「リンパ球幼若化活性」とは、末梢血リンパ球が、抗体刺激を受けると抗体獲得、あるいは抗体産生のために若返り(分裂・増殖)を行う活性のことをいう。
【0041】
リンパ球幼若化活性の測定方法としては、リンパ球を分裂促進因子で刺激し、それらの刺激に反応して分裂・増殖するかを調べる方法が行われ、これらは当業者に公知の方法である。具体的には固定染色標本で染色体の出現した細胞数を数える方法、形態学的に観察する方法、H-チミジンの細胞核への取り込みを測定する方法等が挙げられる。
【0042】
本発明において、「リンパ球幼若化活性を増強する」とは、本発明の薬剤を対象に投与することにより、リンパ球の分裂・増殖が促進されることをいう。リンパ球幼若化活性の増強は一時的な増強であってもよいし、一定期間の増強であってもよい。一時的な増強とは、本発明のオリゴヌクレオチドの投与に起因する、リンパ球幼若化活性が増強された状態が一定期間継続し、その後、リンパ球幼若化活性が再度定常状態に戻ることをいう。
【0043】
本発明は、ATコア配列5'-ATTTTTAC-3' または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、NF-κB転写活性を増強する薬剤に関する。
【0044】
本発明において「NF-κB(Nuclear Factor kappa B)」とは、サイトカインや接着因子など免疫反応に関する遺伝子の発現を調節する役割をもつ転写因子のことを示し、NF-κB がゲノム上の結合部位に結合すると、免疫反応に関する遺伝子が過剰に発現することがわかっている。哺乳類には5種類のNF-κBタンパク質、RelA, RelB, c-Rel, NF-κB1, NF-κB2があり、多様な二量体(ホモまたはヘテロ)を作り、それぞれ決まった組み合わせの遺伝子群を活性化する。炎症反応、免疫応答、アポトーシスなどに寄与している多くの遺伝産物がNF-κBにより調節されており、NF-κBは、κB結合部位を含む広範囲の遺伝子の転写を活性化し、一般的なセカンドメッセンジャーを構成しているとも考えられている。NF-κB転写活性測定は、NF-κB転写レポーターベクターを用いる等、当業者に公知の方法で行うことが出来る。
【0045】
本発明において「NF-κB転写活性を増強する」ことは、サイトカインや接着因子など免疫応答に関する遺伝子の発現を増強することになり、結果的に免疫応答を増強することとなる。NF-κB転写活性の増強は一時的な増強であってもよいし、一定期間の増強であってもよい。一時的な増強とは、本発明のオリゴヌクレオチドの投与に起因する、NF-κB転写活性が増強された状態が一定期間継続し、その後、NF-κB転写活性が再度定常状態に戻ることをいう。
【0046】
本発明は、ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、Toll様受容体を介する活性を増強する薬剤に関する。
【0047】
本発明において、「Toll様受容体を介する活性」とは、樹状細胞の成熟、CD40, CD86発現誘導、未分化T細胞の成熟誘導、Th-1系サイトカインの産生誘導、または細胞内シグナリング(IRAK, NF-κBなど)活性等を挙げることが出来る。最終的には、これらの活性を通して、免疫応答の調節が行われる。
【0048】
本発明の、「Toll様受容体」としては、全てのタイプのTLRが包含され、例えばTLR1〜TLR12が挙げられ、より好ましくはTLR9を挙げることが出来る。現在までにタンパク質レベルで12種類のTLRの存在が報告されており、TLRファミリーはそれぞれ認識分子すなわち細菌性モデュリンが異なると考えられている。細菌性モデュリンとは、細菌に特異的な分子パターン(pathogen associated molecular patterns; PAMPs)で、宿主に対しサイトカイン誘導能を示し、免疫応答を制御するものと定義されている。また、TLRは、細胞外にロイシンリッチリピート(LRRs)、細胞内にインターロイキン1受容体と相同性のある領域(TIRドメイン)を持つことが知られている。また、腸管組織において発現しているTLRが由来する生物としては、ブタ、ヒト、マウス、ネコ等、無脊椎、脊椎動物全般あるいは生物一般が挙げられる。
【0049】
TLRは菌体成分を認識すると細胞内シグナル伝達系路を活性化し、共通のアダプター分子MyD88を介してIL-1 receptor associated kinase (IRAK)、TNF receptor associated factor 6 (TRAF6)、そして転写因子であるNF-κBの核移行を促し、最終的にtumor necrosis factor α(TNF-α)、interleukin(IL)-6、IL-12、IL-18、IFN-γなどといった様々な炎症性サイトカインの産生や、細胞表面共刺激因子(co-stimulatory molecule)の発現を誘導する(Kaisho T. and Akira S. Trends in Immunology. 22 (2001) 78-83)。TLRは主に病原体の糖質、脂質や核酸を認識することから、タンパク質を認識する獲得免疫と相補的であるといえる。
本発明は、ATコア配列5'-ATTTTTAC-3' または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、食品組成物に関する。
【0050】
本発明の食品組成物の態様としては、牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト等を挙げることが出来るが、好ましい態様としては、乳酸菌や酵母を含む食品、ドリンク等が挙げられる。乳酸菌や酵母を含む食品、ドリンクとしては、例えば乳製品が挙げられる。本発明の乳製品としては、発酵乳、チーズ、発酵食品(乳酸菌を含む食品、キムチ等)が挙げられる。これらは、当業者に周知の方法で製造出来る。本発明のオリゴヌクレオチドは、乳酸菌のゲノム配列に含まれていてもよい。本発明のオリゴヌクレオチドが乳酸菌に含まれる場合は、乳酸菌は生きた状態でなくてもよく、また菌体破砕された(ホモジナイズされた)ものでもよい。
【0051】
本発明のオリゴヌクレオチドを含有する食品には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することが出来る。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂、パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0052】
本発明の食品組成物は、免疫賦活化機能を有する食品組成物(例えば機能性食品、健康食品、特定保健用食品等)として、癌、アレルギー、感染症等の治療または予防に使用出来る。
本発明の薬剤、食品組成物は、前記特定のオリゴヌクレオチドを含んでいれば良く、例えば医薬上許容される賦形剤等の添加物や食品用の添加物を添加して用いることが出来、その剤型は、固体状、液状であっても良い。投与経路が経口摂取の場合、その使用量は症状、年令、体重、投与方法および剤形等によって異なる。
【0053】
本発明は、本発明のATオリゴヌクレオチドを含み、免疫応答を増強する作用を持つことを特徴とし、「免疫応答を増強するために用いられるもの」である旨の表示を付した医薬品または飲食品に関する。
【0054】
また、上記の医薬品または飲食品において「免疫応答を増強するために用いられるもの」という記載が、「リンパ球幼若化活性を増強するために用いられるもの」、「NF-κB転写活性を増強するために用いられるもの」、「Toll様受容体を介する活性を増強するために用いられるもの」という記載に変更されていてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕細胞調製
以下の方法によって、ブタ由来免疫細胞(ブタパイエル板細胞、ブタ脾臓細胞)およびヒト末梢血単核球細胞の調製を行った。
【0057】
1-a)ブタ由来免疫細胞の調製
成熟ブタより脾臓組織および腸管組織を摘出し、腸管についてはパイエル板組織を単離して、-PBS(pH7.5,penicillin-streptomycin含)で洗浄後、メッシュ上ですりつぶして細胞を回収した。細胞はRPMI1640 complete medium (10%FCS,penicillin -streptomycin含)に懸濁し、1500rpm×5minにて3回遠心洗浄した。最後にセルストレイナーに通し濾過後、細胞懸濁液を氷上に置いた。
【0058】
1-b)ヒト末梢血単核球細胞(PBMC)の調製
成人男性より採血した静脈血をHISTOPAQUE-1077(Sigma-Aldrich)に重層し、濃度勾配遠心分離によりPBMCを採取した。最後にセルストレイナーに通して、細胞懸濁液を氷上に置いた。
【0059】
〔実施例2〕リンパ球幼若化活性試験
下記の方法によって、ブタパイエル板細胞、ブタ脾臓細胞、およびヒト末梢血単核球細胞を用いて、リンパ球幼若化活性試験を行った。
【0060】
2-a) オリゴヌクレオチド刺激
96well plate に100μM に調製したオリゴヌクレオチドを1検体につき10μLずつ3wellに播き、その上から、〔実施例1〕で調製した細胞を90μL (2×105個/well)ずつ播き、32時間インキュベート(37℃, 5%CO2)した。
【0061】
2-b)RIラベル
Methyl-[3H]-Uridineを9.25kBq/wellとなるように添加し、16時間パルスラベルした。
【0062】
2-c)セルハーベスト
インキュベート(37℃、5%CO2)終了後、セルハーベスターにより細胞をラボメッシュフィルターに回収しよく乾燥させた。
【0063】
2-d)RI測定
専用バイアルに移し、液体シンチレーター用カクテルを加え、液体シンチレーションカウンターにより細胞に取り込まれたMethyl-[3H]-Uridine量を測定した。
まず、ブタパイエル板細胞を用いてリンパ球幼若化活性試験を5回行い、SI値が1.0以上の上位113種を選抜した(図1)。次に、ブタ脾臓細胞を用いて,選抜した113種のオリゴヌクレオチドで刺激した時のリンパ球幼若化活性試験からSI値が1.4以上の上位28種を選抜した (図2)。さらに、選抜した28種のオリゴヌクレオチドについて,ヒト末梢血単核球細胞を用いて、リンパ球幼若化活性試験を行い,活性の再現性ならびにヒト免疫細胞に対する効果について検討した結果、全てについてSI値が1.5以上で有意な活性が得られた (図3)。
【0064】
選抜された28種類のオリゴヌクレオチドの名称およびDNA配列を以下に示す。
LG114 : ATTGTCATTTTTACCATAGT (配列番号:1)
LG127 : CATGGTATTTTTACAATAGA (配列番号:2)
LG140 : CCGAGCATTTTTACTGCTTA (配列番号:3)
LG147 : CTATTCATTTTTACCAAATT (配列番号:4)
LG150 : CTCACGATTTTTACCGCACA (配列番号:5)
LG171 : GACTTTATTTTTACCGGCGA (配列番号:6)
LG172 : GAGTATATTTTTACAATATG (配列番号:7)
LG174 : GAGTATATTTTTACCGTTGA (配列番号:8)
LG175 : GATAAAATTTTTACCAATGA (配列番号:9)
LG178 : GCAATAATTTTTACATCATA (配列番号:10)
LG179 : GCAATAATTTTTACCAACTA (配列番号:11)
LG180 : GCATTTATTTTTACGAAATT (配列番号:12)
LG181 : GCCCATATTTTTACGATGAG (配列番号:13)
LG182 : GCGGGTATTTTTACTCTTAT (配列番号:14)
LG186 : GCTGGCATTTTTACCTTAAG (配列番号:15)
LG187 : GCTGGTATTTTTACGGGATT (配列番号:16)
LG190 : GGAAAAATTTTTACTAAATC (配列番号:17)
LG284 : TGAAATATTTTTACGATTAC (配列番号:18)
LG289 : TGAGCCATTTTTACCGATTA (配列番号:19)
LG297 : TGGAATATTTTTACCAACAA (配列番号:20)
LG301 : TGGTTGATTTTTACATGAAA (配列番号:21)
LG310 : TTAACAATTTTTACCCAAGA (配列番号:22)
LG359 : TTTTTTATTTTTACGTTGAT (配列番号:23)
LG360 : TTTTTTATTTTTACTATTAT (配列番号:24)
LGe01 : AATAATTTATTATATTGTTC (配列番号:25)
LGe02 : ACACTTTTATTATATAGCAC (配列番号:26)
LGe11 : GTTAGTTTATTATATATGGC (配列番号:27)
LGe14 : TGATTTTTATTATATTGGTG (配列番号:28)
【0065】
〔実施例3〕細胞内シグナル伝達分子(NF-κB)を指標としたレポーターアッセイによる活性評価
以下の方法により、ブタTLR9トランスフェクタント(T. Shimosato, H. Kitazawa, S. Katoh, Y. Tomioka, R. Karima, S. Ueha, Y. Kawai, T. Hishinuma, K. Matsushima, T. Saito: Biochim. Biophys. Acta., 1627, 56 (2003)、T. Shimosato, H. Kitazawa, M. Tohno, S. Katoh, Y. Kawai, T. Saito. Anim. Sci. J. 75,377 (2004))を用いて、NF-κB転写活性試験を行った。
【0066】
3-a)細胞調製
ハムスター卵巣細胞(CHOK-1 cells)にブタTLR9遺伝子をトランスフェクションし、遺伝子を強制発現させた細胞株(CHOK-1sTLR9 trans) を4×104個ずつ24wellプレートdishに播き、37℃、5%CO2下で一晩培養した。
【0067】
3-b)レポータープラスミドの導入およびオリゴヌクレオチド刺激
リポフェクション法によりヒトNF-κB転写レポーターベクター(pGLM-ENH luci vector:1μg)をトランスフェクションし、6時間後にPBSで洗浄後、-FCS DMEM培地に置き換えた。24時間インキュベート後、各種オリゴヌクレオチドを3wellごと1μMで刺激した。刺激開始から24時間後にPBSで洗浄し、細胞を溶解後回収し、15,000rpm×5min、4℃遠心し上清のみを回収した。
【0068】
3-c)ルシフェラーゼアッセイ
細胞溶解液にルシフェリンを添加した直後2sec〜10secまでの発光変化についてプレートルミノメーター(MicroLumat LB96V)を用いて測定し、発光強度をNF-κB mRNA転写活性として評価した。
【0069】
4)データ解析
リンパ球幼若化活性試験およびNF-κB転写活性試験より得られたデータ数値からTTEST、標準偏差を算出し、controlを1.0とした場合の刺激係数(Stimulation Index (SI))としてグラフ化した。
【0070】
上記の実験の結果から、SI値が3.0以上でかつCpG配列を含まない10種の活性オリゴヌクレオチドを選抜した (図4)。それらのオリゴヌクレオチドは、L.gasseri JCM1131T由来のATオリゴヌクレオチド(AT5AC-L)よりも強い活性を示した(図4)。このことより、本発明のオリゴヌクレオチドは従来のATオリゴヌクレオチドよりも、より強い活性を持つことが明らかとなった。
【0071】
本研究において、幼若化活性試験により活性の強い上位28種(うちnon CpG配列は18種)のATオリゴヌクレオチドを見出し、LG21ゲノム中に新規な免疫刺激DNA配列を発見した。また同モチーフの中からTLR9を介し、NF-κBの転写を強く誘導し、CpG配列を含まない10種のオリゴヌクレオチド(配列番号:1、2、7、9、11、15、21、22、24、または26)が見出され、Th-1系のサイトカイン誘導能を有する可能性が強く示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1−1】Lactobacillus gasseri OLL2716ゲノムDNA由来のATオリゴヌクレオチドのブタパイエル板細胞に対するリンパ球幼若化活性を示す図(ATオリゴヌクレオチド 385種から113種が選抜された)である。選抜された113種類のオリゴヌクレオチドのリンパ球幼若化活性を示す。縦軸は刺激係数、横軸はオリゴヌクレオチドの名称を示す。
【図1−2】図1-1の続きを示す図である。
【図1−3】図1-2の続きを示す図である。
【図1−4】図1-3の続きを示す図である。
【図2−1】Lactobacillus gasseri OLL2716ゲノムDNA由来のATオリゴヌクレオチドのブタ脾臓細胞に対するリンパ球幼若化活性を示す図(ATオリゴヌクレオチド113種から28種が選抜された)である。縦軸は刺激係数、横軸はオリゴヌクレオチドの名称を示す。
【図2−2】図2-1の続きを示す図である。
【図2−3】図2-2の続きを示す図である。
【図2−4】図2-3の続きを示す図である。
【図3】Lactobacillus gasseri OLL2716ゲノムDNA由来のATオリゴヌクレオチド28種のヒト末梢血単核球に対するリンパ球幼若化活性を示す図である。AT5ACLと表記したバーは、L.gasseri JCM1131T由来のATオリゴヌクレオチドの刺激係数を示す。縦軸は刺激係数、横軸はオリゴヌクレオチドの名称を示す。
【図4】Lactobacillus gasseri OLL2716ゲノムDNA由来のATオリゴヌクレオチド28種のブタTLR9トランスフェクタントにおけるNF-κB転写活性を示す図(ATオリゴヌクレオチド28種から10種が選抜された)である。黒いバーはCpG配列を含まないATオリゴヌクレオチドの刺激係数を示し、白いバーはCpG配列を含むATオリゴヌクレオチドの刺激係数を示す。AT5ACLと表記したバーは、L.gasseri JCM1131T由来のATオリゴヌクレオチドの刺激係数を示す。縦軸は刺激係数、横軸はオリゴヌクレオチドの名称を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強する薬剤。
【請求項2】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する薬剤。
【請求項3】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、NF-κB転写活性を増強する薬剤。
【請求項4】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、Toll様受容体を介する活性を増強する薬剤。
【請求項5】
Toll様受容体がToll様受容体9である、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドがLactobacillus gasseri OLL2716由来のオリゴヌクレオチドである、請求項1〜5のいずれかに記載の薬剤。
【請求項7】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1〜28のいずれかに記載の配列からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤
【請求項8】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1、2、7、9、11、15、21、22、24、または26のいずれかに記載の配列からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤。
【請求項9】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、免疫応答を増強する食品組成物。
【請求項10】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、リンパ球幼若化活性を増強する食品組成物。
【請求項11】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、NF-κB転写活性を増強する食品組成物。
【請求項12】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドを有効成分とする、Toll様受容体を介する活性を増強する食品組成物。
【請求項13】
Toll様受容体がToll様受容体9である、請求項12に記載の食品組成物。
【請求項14】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドがLactobacillus gasseri OLL2716由来のオリゴヌクレオチドである、請求項9〜13のいずれかに記載の食品組成物。
【請求項15】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1〜28のいずれかに記載の配列からなる、請求項9〜14のいずれかに記載の食品組成物。
【請求項16】
ATコア配列5'-ATTTTTAC-3'または5'-TTTATTATAT-3'を有するオリゴヌクレオチドが、配列番号:1、2、7、9、11、15、21、22、24、または26のいずれかに記載の配列からなる、請求項9〜14のいずれかに記載の食品組成物。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−232790(P2006−232790A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53998(P2005−53998)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】