説明

AUTOSARソフトウェアシステムのAUTOSARソフトウェア要素をバイパスする方法

【課題】開発されるAUTOSARソフトウェア要素モデルに対し高い柔軟性と、近い関連性とを実現する。
【解決手段】選択された1つのAUTOSARソフトウェア要素(1)の機能の少なくとも一部をバイパスし、かつ、別のAUTOSARソフトウェア要素候補(C1a、C1b)に提供しまたは所定の外部システム上で当該機能を提供するために、カスタムAUTOSARソフトウェア要素(Bh)を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランタイム環境を介して接続された複数のAUTOSARソフトウェア要素を有するAUTOSARソフトウェアシステムのAUTOSARソフトウェア要素をバイパスする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AUTOSARは特定のアプリケーション機能を具体化する複数のソフトウェア要素のコンセプトである。当該ソフトウェア要素は、各ソフトウェア要素との間でイベントおよびデータをやりとりするポートを有する。ランタイム環境(RTE)と呼ばれるソフトウェアは複数のソフトウェア要素のポートを接続し、複数のソフトウェア要素は互いに通信可能とされる。したがって、ソフトウェア要素は、これらのポートを介した相互作用から、その働く環境を知るのみである。図1は、ランタイム環境(RTE)を介してAUTOSARシステムにおいて通信する2つのソフトウェア要素C1、C2を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
AUTOSARソフトウェア要素の開発には3つの段階があり、それはデスクトッププロトタイプ、ラピッドプロトタイピング、および、電子制御ユニット(ECU)の製造である。AUTOSARソフトウェア要素の開発の際、特定のソフトウェア要素の機能の少なくとも一部をバイパスし、当該機能を他に、すなわち、別のソフトウェア要素に提供し、または、他の外部システム上で提供することが必要な場合がある。ソフトウェア要素をバイパスする既存のアプローチは、別個の付加的な通信線を用いて作業することに向けられている。従って、これらは、柔軟性に欠け、開発されるAUTOSARモデルとの関連性の近さにも欠ける。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高い柔軟性と、開発されるAUTOSARソフトウェア要素モデルとの近い関連性とを有する、AUTOSARソフトウェアシステムにおけるAUTOSARソフトウェア要素をバイパスする方法を示すことである。
【0005】
上記課題は、選択されたAUTOSARソフトウェア要素の機能の少なくとも一部をバイパスし、当該機能を別のAUTOSARソフトウェア要素候補に提供するために、または、所定の外部システム上で提供するために、カスタムAUTOSARソフトウェア要素を用いることにより解決される。カスタム化されたAUTOSARソフトウェア要素はバイパスに似た機能を提供するために用いることができる。選択されたAUTOSARソフトウェア要素を、システムのソフトウェアの再構成にほとんど労力を必要とせずにバイパスさせることができる。
【0006】
一実施形態では、このカスタムAUTOSARソフトウェア要素は、複数のソフトウェア要素候補の間で切り替え、選択されたAUTOSARソフトウェア要素についてランタイム環境を介して置き換える。選択されたAUTOSARソフトウェア要素を置き換えるために別個の設備を用いる必要はない。
【0007】
さらに、このカスタムAUTOSARソフトウェア要素は、選択されたAUTOSARソフトウェア要素を外部データ線、特に外部バスを介して置き換える、AUTOSARソフトウェア要素候補に接続される。このようにして、異なるプロセッサ上で動作するソフトウェア要素候補を、選択されたAUTOSARソフトウェア要素を置き換えるために用いることができる。
【0008】
さらに、カスタムAUTOSARソフトウェア要素は、変えないAUTOSARソフトウェア要素をランタイム環境を介して置き換えるために、命令の受信により、選択されたAUTOSARソフトウェア要素を異なるソフトウェア要素候補と接続する。バイパス動作を行うため、カスタムAUTOSARソフトウェア要素には異なるAUTOSARソフトウェア要素候補を用いるように信号が送られる。このように実現が簡便であることおよびAUTOSARシステムの性質により、カスタムAUTOSARソフトウェア要素およびAUTOSARソフトウェア要素候補は、何らの付加的な設備も必要とせず、ワークステーション、ラピッドプロトタイピングハードウェアまたは実際の電子制御ユニット(ECU)上で動作可能である。
【0009】
本発明の別の態様では、ランタイム環境は、選択されたAUTOSARソフトウェア要素の機能の少なくとも一部をバイパスし、当該機能を別のAUTOSARソフトウェア要素候補に提供しまたは所定の外部システム上で提供するために用いられる。このランタイム環境は、カスタムAUTOSARソフトウェア要素を必要とすることなくバイパス動作が可能なように修正される。
【0010】
さらに、このバイパスランタイム環境自体が異なるソフトウェア要素候補を切り替え、選択されたAUTOSARソフトウェア要素を置き換える。このバイパスランタイム環境は、バイパスを実行するために修正されたランタイム環境である。すなわち、これは既存のランタイム環境技術の拡張である。ランタイム環境が静的な通信マトリクスを有するように具体化されているためにこの修正は必要であり、全体のランタイム環境(およびおそらくはほとんどのAUTOSARソフトウェアシステム)は、ランタイム環境の通信マトリクスが変化する場合には再構成する必要がある。バイパスランタイム環境により、ランタイム環境を再構成する必要なく、または、システムの他の部分を必要とすることなく、通信マトリクスを変えることができる。
【0011】
特に、ランタイム環境の一部としての切り替えソフトウェアは、1つのAUTOSARソフトウェア要素候補を別のものに切り替える。したがって、開発中のバイパス動作の柔軟性が増す。
【0012】
さらに、切り替えソフトウェアの状態はフラッシュメモリソフトウェアに保存され、このフラッシュメモメモリソフトウェアはバイパスランタイム環境の一部であり、選択されたAUTOSARソフトウェア要素候補、および、選択されたAUTOSARソフトウェア要素を置き換えるAUTOSARソフトウェア要素候補はバイパスランタイム環境を介して通信する。このような再構成可能な静的なバイパスランタイム環境において、異なるAUTOSARソフトウェア要素候補への接続は固定され、1つのAUTOSARソフトウェア要素候補から別のAUTOSARソフトウェア要素候補に切り替えるためには、フラッシュメモリの内容を変える必要がある。
【0013】
あるいは、切り替えソフトウェアはランタイム環境にコードされている。この動的な場合には、バイパスランタイム環境のコードにより、実行時にはソフトウェアによる切り替えが行われる。したがって、選択されたAUTOSARソフトウェア要素候補は、実行時には別個のAUTOSARソフトウェア要素候補によりバイパス可能である。動的なバイパスRTEの構成は、静的な場合よりもよりも高速に変えることができる。
【0014】
本発明においては種々の実施形態が可能である。そのいくつかについて以下の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術による、2つのソフトウェア要素を含むAUTOSARソフトウェアシステムを示す。
【図2】従来技術による、AUTOSARソフトウェアを有しない2つの通信しているソフトウェアモジュールを示す。
【図3】「バイパスフック」としてのカスタムAUTOSARソフトウェア要素を用いる内部および外部バイパスを示す。
【図4】バイパスランタイム環境の静的な切り替えを示す。
【図5】バイパスランタイム環境の動的な切り替えを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
同一の特徴は、同一の参照番号により示される。
【0017】
AUTOSARは、特定のアプリケーション機能を具体化するソフトウェア要素のコンセプトである。ソフトウェア要素は、各ソフトウェア要素の間でイベントおよびデータをやりとりするポートを有する。ランタイム環境(RTE)といわれるソフトウェアは複数のソフトウェア要素のポートを接続し、これによりソフトウェア要素は互いに通信可能である。したがって、ソフトウェア要素は、このポートを越えた相互作用から、動作環境を知るのみである。
【0018】
図3は、カスタムソフトウェア要素のバイパスの例を示す。バイパスフックBhといわれるカスタムソフトウェア要素は、第1のランタイム環境RTE1を介して第1のAUTOSARソフトウェア要素C1および第2のソフトウェア要素C2に接続されている。さらに、バイパスフックBhは第1のランタイム要素RTE1を介して第1のAUTOSARソフトウェア要素候補C1bおよび第1のAUTOSAR通信スタックAcs1に接続されている。第1のAUTOSAR通信スタックAcs1は、CAN(登録商標)、LINまたはFLEXRAY(登録商標)などの通信バスCBを介して、第2のAUTOSAR通信スタックAcs2に接続されている。この第2のAUTOSAR通信スタックAcs2は、バイパスハードウェアのランタイム環境RTE2を介して第2のAUTOSARソフトウェア要素候補C1aに接続されている。
【0019】
バイパスフックBhは、バイパスする必要のある選択されたAUTOSARソフトウェア要素C1の情報から生成されたカスタムAUTOSARソフトウェア要素である。記載されているシステムにおいて、AUTOSARソフトウェア要素C2は、内部ランタイム環境RTE1を介して選択されたソフトウェア要素C1の1つおよび第1のAUTOSARソフトウェア要素候補C1bに接続され、通信バスCBを介して第2のAUTOSARソフトウェア要素候補C1aに接続されている。第1のソフトウェア要素候補C1aは、選択されたAUTOSARソフトウェア要素C1および第2のAUTOSARソフトウェア要素候補C1bに対して異なるプロセッサ上で動作し、選択されたAUTOSARソフトウェア要素C1および第1のソフトウェア要素候補C1bは同じプロセッサ上で動作する。
【0020】
AUTOSARソフトウェア要素候補C1aおよびC1bは選択されたAUTOSARソフトウェア要素C1を置き換えることが意図されたモジュールである。バイパス動作を実行可能とするため、バイパスフックBhには、異なるAUTOSARソフトウェア要素候補C1aまたはC1bを用いるように命令が送られる。したがって、第1のAUTOSARソフトウェア要素候補C1bは内部のバイパスランタイム環境RTE1を用いる候補であり、第2のAUTOSARソフトウェア要素候補C1aは通信バスCBの形態の外部バイパスを用いる候補である。
【0021】
AUTOSARシステムの性質から、バイパスフックBhの形態のカスタムAUTOSARソフトウェア要素、および、AUTOSARソフトウェア要素候補C1aおよびC1bは、何らの追加の設備なく、ワークステーション、ラピッドプロトタイピング用ハードウェアまたは電子制御ユニット(ECU)上で動作可能である。
【0022】
図4および5は、別個のバイパスフックBhを必要としないバイパスランタイム環境の例を示す。したがって、バイパスランタイム環境はバイパスを実行するために修正されたランタイム環境である。すなわち、それは既存のランタイム環境技術の拡張である。静的な通信マトリクスを有するように具体化されているためにこの修正は必要であり、したがって、全体のランタイム環境(およびほとんどのAUTOSARソフトウェアシステム)はランタイム環境の通信マトリクスが変わる場合には再構築する必要がある。バイパスランタイム環境により、ランタイム環境または他のシステム部分を再構築することなく、通信マトリクスを変えることができる。
【0023】
図4および5に示す例は、図2に示す2つの要素の例に基づくものである。バイパスランタイム環境の2つの下位分類、すなわち、静的な切り替えおよび動的な切り替えがある。静的な切り替えが図4に示されている。AUTOSARソフトウェア要素候補C1aおよびC1bならびに選択されたAUTOSARソフトウェア要素C1はフラッシュメモリFMに接続されており、フラッシュメモリはバイパスランタイム環境RTE1の一部である。切り替えの状態はフラッシュメモリFMに保存される。したがって、選択されたAUTOSARソフトウェア要素を置き換える1つのAUTOSARソフトウェア要素候補C1aまたはC1bから、AUTOSARソフトウェア要素C2に切り替えるためには、フラッシュメモリの内容を変える必要がある。この実施形態では、AUTOSARシステム要素候補C1aは別のプロセッサ上でも動作し、したがって外部モジュールである。
【0024】
バイパスランタイム環境RTEの動的な場合が図5に示されている。全ての要素、選択されたAUTOSARソフトウェア要素C1、AUTOSARソフトウェア要素候補C1aおよびC1bならびに外部AUTOSARソフトウェア要素C2は、バイパスランタイム環境RTEの一部であるスイッチSWに接続されている。バイパスランタイム環境RTEのコードにより、スイッチSWは実行時に修正される。したがって、選択されたAUTOSARソフトウェア要素候補C1はAUTOSARソフトウェア要素候補C1bにより、または、AUTOSARソフトウェア要素候補C1aによりバイパス可能である。
【符号の説明】
【0025】
C1、C2 AUTOSARソフトウェア要素、 C1a、C1b AUTOSARソフトウェア要素候補、 RTE、RTE1、RTE2 ランタイム環境、 FM フラッシュメモリ、 SW スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AUTOSARソフトウェアシステムのAUTOSARソフトウェア要素をバイパスする方法であって、該システムはランタイム環境(RTE)を介して接続される複数のAUTOSARソフトウェア要素(C1、C2)を有しており、
選択された1つのAUTOSARソフトウェア要素(1)の機能の少なくとも一部をバイパスし、かつ、別のAUTOSARソフトウェア要素候補(C1a、C1b)に提供するために、または、所定の外部システム上で当該機能を提供するために、カスタムAUTOSARソフトウェア要素(Bh)を用いる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記カスタムAUTOSARソフトウェア要素(Bh)は、前記選択されたAUTOSARソフトウェア要素(C1)をランタイム環境(RTE1、RTE2)を介して置き換えるために、複数のソフトウェア要素候補(C1a、C1b)の間で切り替える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記カスタムAUTOSARソフトウェア要素(Bh)は、バイパスする必要のある選択されたAUTOSARソフトウェア要素(C1)の接続性に基づいて生成される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
外部データ線(CB)、特に外部バスを通じて前記選択されたAUTOSARソフトウェア要素(C1)を置き換える前記AUTOSARソフトウェア要素候補(C1a)に、前記カスタムAUTOSARソフトウェア要素(Bh)を接続する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
選択されたAUTOSARソフトウェア要素(C1)をランタイム環境(RTE1、RTE2)を介して置き換えるために、命令の受信により、前記カスタムAUTOSARソフトウェア要素(Bh)をAUTOSARソフトウェア要素候補(C1a、C1b)と接続する、請求項2乃至4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
AUTOSARソフトウェアシステムのAUTOSARソフトウェア要素をバイパスする方法であって、該システムはランタイム環境(RTE)を介して接続される複数のAUTOSARソフトウェア要素(C1、C2)を有しており、
選択された1つのAUTOSARソフトウェア要素(1)の機能の少なくとも一部をバイパスし、かつ、別のAUTOSARソフトウェア要素候補(C1a、C1b)に提供するために、または、所定の外部システム上で当該機能を提供するために、前記ランタイム環境を用いる、
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記ランタイム環境(RTE)は、前記選択されたAUTOSARソフトウェア要素(C1)を置き換えるために、異なる複数のソフトウェア要素候補(C1a、C1b)の間で切り替える、請求項5記載の方法。
【請求項8】
1つのAUTOSARソフトウェア要素候補(C1a)から別のAUTOSARソフトウェア要素候補(C1b)に切り替えるための、ランタイム環境(RTE)の一部としての切り替えソフトウェアを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記切り替えソフトウェアにおいて、当該切り替えソフトウェアの状態はフラッシュメモリソフトウェア(FM)に保存され、かつ、当該フラッシュメモリソフトウェア(FM)はランタイム環境(RTE)の一部であり、前記選択されたソフトウェア要素(C1)と、前記選択されたAUTOSARソフトウェア要素(C1)を置き換える前記AUTOSARソフトウェア要素候補(C1a、C1b)とを、前記ランタイム環境(RTE)を介して通信させる、請求項6または7記載の方法。
【請求項10】
前記切り替えソフトウェアはランタイム環境(RTE)にコードされている、請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−133786(P2012−133786A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−280224(P2011−280224)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】