説明

Al含浸3次元C/Cコンポジット及びその製造方法

【課題】加工性に優れ、殆どゼロに近い熱膨張率を示すAl含浸3次元C/Cコンポジット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】C/Cコンポジットにアルミニウムを含浸させて成り、平均密度が1.9〜2.3g/cm、平均熱膨張係数が−7×10−6/℃〜3.0×10−6/℃のAl含浸3次元C/Cコンポジットである。平均熱膨張係数が3.0×10−7〜3.0×10−6である。
炭素繊維をプリフォームとし、該プリフォームに、CB含浸し、高圧炭素化し、黒鉛化し、アルミニウム溶湯で鍛造し、機械加工して、Al含浸3次元C/Cコンポジットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al含浸3次元C/Cコンポジット及びその製造方法に係り、更に詳細には、耐熱性、高強度高剛性、寸法安定性、耐摩耗性、耐化学薬品性などに優れ、例えば、ロケットノズル、ブレーキ材料、高温金型、ガスタービンブレード、再突入カプセル、ヒーター材などに好適に用いられるAl含浸3次元C/Cコンポジット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
C/Cコンポジットとは、Carbon Carbon Composite(炭素/炭素複合材料)の略称であり、炭素繊維を強化材とし、炭素マトリクス材とした複合材料であり、炭素繊維の織り構成により1次元、2次元、3次元(多次元)の材料が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【特許文献1】特開平8−109076号公報
【特許文献2】特開平6−143469号公報
【特許文献3】特開平6−116032号公報
【0003】
また、C/Cコンポジットは、高温特性、軽量高剛性、耐食耐燃焼性、摩擦制動性、生体適合性及び熱電気伝導性に優れており、従来からロケットノズルなどの宇宙開発用耐熱材料として開発が進められている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献4】特開平5−124884号公報
【0004】
かかるC/Cコンポジットの製造方法としては、炭素繊維(CF)にフェノール、フラン樹脂及びピッチなどを含浸した材料の成形物を高温で炭化し、再含浸・炭化を繰り返して高密度化する方法、CVD法で直接熱分解炭素を沈着させる方法などがある(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】航空宇宙工学便覧 第3版、日本航空宇宙学会編、平成17年11月30日発行、199頁
【0005】
また、電子機器用基板として、炭素質マトリックス中に金属成分を分散させた炭素基金属複合材料が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【特許文献5】特開2001−58255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献5に記載の炭素基金属複合材料は、面方向の弾性率を低減したものであり、また熱膨張率が十分ではでなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工性に優れ、殆どゼロに近い熱膨張率を示すAl含浸3次元C/Cコンポジット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、3次元に形成したC/Cコンポジットの空隙にアルミニウムを含浸することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットは、C/Cコンポジットにアルミニウムを含浸させて成るAl含浸3次元C/Cコンポジットであって、
平均密度が1.9〜2.3g/cmであり、平均熱膨張係数が−7×10−6/℃〜3.0×10−6/℃であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの好適形態は、C/Cコンポジットとアルミニウムとの比率が体積換算で90:10〜98:2であることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法は、上記Al含浸3次元C/Cコンポジットを製造する方法であって、以下の第1〜6工程
1.炭素繊維を三次元網目構造に製織し、プリフォームとする工程
2.該プリフォームに、カーボンブラックを含浸する工程
3.高圧炭素化工程
4.黒鉛化工程
5.アルミニウム溶湯で鍛造する工程
6.機械加工工程
を行うことを特徴とする
【0012】
更にまた、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法の好適形態は、上記第2〜4工程を繰返して、緻密化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3次元に形成したC/Cコンポジットの空隙にアルミニウムを含浸することとしたため、加工性に優れ、殆どゼロに近い熱膨張率を示すAl含浸3次元C/Cコンポジット及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットについて詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示す。
【0015】
本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットは、C/Cコンポジットにアルミニウム(Al)を含浸させて成る。
ここで、上記C/Cコンポジットは、3次元配列のもの(3DC/C)を使用する。この3次元C/Cコンポジットは、縦・横・前後方向に炭素繊維を配列して成り、熱特性、機械特性に異方性がない均質な材料である。
かかる3次元C/CコンポジットにAlを含浸することで、殆どゼロに近い熱膨張率を示すようになる。図1に本Al含浸3次元C/Cコンポジットの一例を示す。
【0016】
また、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットは、平均密度が1.9〜2.3g/cmであり、平均熱膨張係数が−7×10−6/℃〜3.0×10−6/℃である。
これにより、従来の材料に比べて密度、加工性が向上し、製品の大型化が可能となる。
例えば、表1に示すように、インバー(登録商標)、スーパーインバー(登録商標)に対しては、特に密度が1/4程度まで低減され、極めて軽量となる。また、ゼロデュア(登録商標)に対しては、特に比弾性、熱膨張係数が大きい。
【0017】
【表1】

【0018】
更に、熱膨張率をよりゼロに近づける観点からは、平均熱膨張係数が−0.41×10−7〜0.37×10−7であることが好適である。
このようなAl含浸3次元C/Cコンポジットを得るには、例えば、後述する製造方法の緻密化処理を6〜7回繰返すことが挙げられる。
【0019】
以上のような構成により、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットは、弾性率、熱膨張率のバランスが良好であり、代表的には、次のような優れた特徴を有する。
1.耐熱性があり、不活性ガス中では、約2500℃まで強度が低下しない。
2.黒鉛材料に比べて高強度高剛性であり、耐衝撃性及び耐熱性に優れる。
3.熱膨張率が小さいので、寸法安定性がある。等方的性質を有する。
4.耐磨耗性である。
5.軽量である。
6.耐化学薬品性である。
7.生体との親和が良い。
【0020】
更に、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットは、C/Cコンポジットとアルミニウムとの比率が体積換算で90:10〜98:2であることが好適である。
アルミニウムの含浸量をこの範囲とすることで、熱膨張率をよりゼロに近づけることができる。図2にC/Cコンポジット中のAl含有率に対する熱膨張係数の一例を示す。
【0021】
次に、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法では、以下の第1〜6工程
1.炭素繊維を三次元網目構造に製織し、プリフォームとする工程
2.高圧炭素化工程
3.黒鉛化工程
4.アルミニウム溶湯で鍛造する工程
5.機械加工工程
を行い、上述のAl含浸3次元C/Cコンポジットを得る。
このような工程を経ることにより、殆どゼロに近い熱膨張率を示すようになる。
なお、上記プリフォームにはカーボンブラック(CB)などを含浸させることもできる。
【0022】
ここで、各工程について具体的に説明する。
まず、第1工程では、代表的には、直径7〜10μmの炭素繊維を使用することができ、当該炭素繊維を直交3軸組に織り込むことでプリフォームを成形できる。
【0023】
第2工程の高圧炭素化は、代表的には、ピッチ含浸処理、HIP処理のいずれか一方又は双方により行うことが好適である。
【0024】
上記ピッチ含浸処理は、ピッチ炉側温度を250〜300℃、ワーク側温度を280〜300℃に保持して、真空〜加圧の条件下で行うことができる(真空下〜約0.5MPa)。
これにより、炭化時のピッチのバブリングを抑制し緻密化を進めることができる。
【0025】
上記HIP処理は、HIP炉側温度を600〜800℃、ワーク側温度を600〜800℃に保持して、約50〜100MPa程度の高圧化で行うことができる。
特に、約50MPa程度の条件で1,2回処理した後、約100MPa程度の条件で3〜7回処理することが好ましい。
【0026】
次に、第3工程では、上記高圧炭素化処理の後に、黒鉛化処理(高温化処理)を、段階的に1500℃以上で行うことができる。
このときは、脱ガスがマイルドになり易いので有効である。なお、700〜1200℃の温度領域では脱水素が行われるため注意を要する。
【0027】
上述の第2,3工程は、プリフォームである3次元C/Cコンポジットを緻密化する処理であるが、これらの処理は4〜7回繰返すことが好適である。
これにより、所望量のAlを含浸するのに適した空隙を残してプリフォームが緻密化されうる。
特に、かかる緻密化処理を6,7回繰返すことがより好ましく、得られた3次元C/CコンポジットにAlを含浸させることで、ほぼゼロに近い熱膨張率を示すAl含浸3次元C/Cコンポジットが得られる。
なお、Alの含浸量を高めるときは、上記緻密化処理の回数を減らして、空隙を増大すればよい。
【0028】
次に、第4工程では、代表的には、700〜750℃程度のアルミニウム溶湯中に、700〜750℃程度に加熱したプリフォームを入れ、80〜100MPaの加圧下で含浸させることができる。
【0029】
次に、第5工程では、代表的には、バンドソー、フライス、旋盤などを用いて、所望形状に機械加工できる。
なお、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの大きさは、現時点では、450mm×450mm×400mm程度まで製造できる。
【0030】
上述した第1〜5工程により、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットが得られるが、更にニッケルメッキ処理を行うことが好適である。
これにより、耐摩耗性を向上することができる。また、脆性破壊を抑制することができる。
かかるニッケルメッキの厚みは、代表的には5〜10μm程度とすることができる。図3にニッケルメッキを膜厚5μm、10μmで施したAl含浸3次元C/Cコンポジットの写真を示す。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
図4に示すフローチャートに基づいて、Al含浸3次元C/Cコンポジットを製造した。
以下、このフローチャートをプロセス順に説明する。
【0033】
まず、プロセス1(以下、「P1」のように略す)では、炭素繊維としてピッチ系の炭素繊維(XN20、日本グラファイトファイバー社製)を用意した。
この炭素繊維は、引張弾性率200GPa、引張強度2730MPa、電気抵抗率11×10Ω・m、熱伝導率13W/m・K、熱膨張係数−0.9×10−6/Kである。
【0034】
次に、この炭素繊維を用いてφ0.97mmのロッドを引抜き成形した(P2)。
また、得られたロッドを直交3軸組みしてプリフォームを得た(P3)。
【0035】
次に、得られたプリフォームに対して、ピッチ含浸処理を真空〜加圧の条件下で行った(P4)。
また、HIP処理を、1,2回目が約50MPa、3〜7回目が約100MPaで行った(P5)。
更に、黒鉛化処理を2400℃で行った(P6)。
なお、P4〜P6の緻密化処理は、4回行った。
【0036】
次に、緻密化処理後のプリフォームを試験片の大きさに切り出し、Al含浸処理を行った(P7)。
具体的には、加圧力約100MPa、加圧時間5分でAl溶湯鍛造を行った。
【0037】
得られたAl含浸3次元C/Cコンポジットをバンドソーにて機械加工し(P8)、無電解ニッケルメッキ処理を施して、試験片を得た(P9)。
【0038】
(実施例2〜4)
P4〜P6の緻密化処理を5〜7回としたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、Al含浸3次元C/Cコンポジットの試験片を得た。
【0039】
(比較例1,2)
P4〜P6の緻密化処理を6回、7回としたこと、Al含浸処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、3次元C/Cコンポジットの試験片を得た。
【0040】
[性能評価]
各例で得られた試験片について、以下の評価試験を行った。この結果を表2に示す。
【0041】
(1)密度計測
試験片の寸法、重量から密度を算出した。寸法計測はノギスを用いた。重量は0.1mg間隔で計測した。
【0042】
(2)熱膨張計測
以下の条件で熱膨張係数を測定した。また、熱膨張係数の温度依存性について図5,6に示す。
a.測定試料 :10mm(幅)×8mm(厚み)×15mm(長さ)
b.装置 :アルバック理工(株)製 レーザ熱膨張計LIX−1型
c.データ処理 :TRC製データ処理システム THADAP−TEX
d.測定モード :等速昇温測定
e.昇温速度 :2℃/min
f.測定温度範囲 :25〜100℃
g.測定雰囲気 :ヘリウム中
h.負荷荷重 :約17g
i.測定n数 :1
j.測定方向 :測定試料の長手方向
k.温度校正 :ウッド合金、インジウム、スズの各融点
【0043】
【表2】

【0044】
表2及び図5,6より、実施例1〜4で得られたAl含浸3次元C/Cコンポジットは、Alを含浸させたことにより、熱膨張係数が小さくなっていることがわかる。
また、実施例3,4と比較例1,2を比較すると、図6より、Alを含浸させたことにより、熱膨張率が極めてゼロに近づいていることがわかる。
よって、本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットは、低密度で、熱膨張係数も小さく、加工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの一例を示す偏光顕微鏡写真である。
【図2】Al含有量と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【図3】ニッケルメッキを施したAl含浸3次元C/Cコンポジットの一例を示す写真である。
【図4】本発明のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造工程の一例を示すフローチャートである。
【図5】熱膨張係数の温度依存性を示すグラフである。
【図6】熱膨張係数の温度依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C/Cコンポジットにアルミニウムを含浸させて成るAl含浸3次元C/Cコンポジットであって、
平均密度が1.9〜2.3g/cmであり、平均熱膨張係数が−7×10−6/℃〜3.0×10−6/℃であることを特徴とするAl含浸3次元C/Cコンポジット。
【請求項2】
平均熱膨張係数が3.0×10−7〜3.0×10−6であることを特徴とする請求項1に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジット。
【請求項3】
C/Cコンポジットとアルミニウムとの比率が体積換算で90:10〜98:2であることを特徴とする請求項1又は2に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジットを製造する方法であって、以下の第1〜6工程
1.炭素繊維を三次元網目構造に製織し、プリフォームとする工程
2.該プリフォームに、カーボンブラックを含浸する工程
3.高圧炭素化工程
4.黒鉛化工程
5.アルミニウム溶湯で鍛造する工程
6.機械加工工程
を行うことを特徴とするAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法。
【請求項5】
上記第2〜4工程を繰返して、緻密化することを特徴とする請求項4に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法。
【請求項6】
上記第2〜4工程を4〜7回繰返すことを特徴とする請求項5に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法。
【請求項7】
上記第3工程がピッチ含浸処理及び/又はHIP処理であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1つの項に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法。
【請求項8】
上記第6工程の後にニッケルメッキ処理を行うことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1つの項に記載のAl含浸3次元C/Cコンポジットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−217256(P2007−217256A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42291(P2006−42291)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年10月19日〜21日 日本複合材料学会主催の「第30回複合材料シンポジウム」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年12月7日 炭素材料学会発行の「第32回炭素材料学会年会要旨集」に発表
【出願人】(500302552)株式会社アイ・エイチ・アイ・エアロスペース (298)
【Fターム(参考)】