説明

B−アリールボラジンの製造方法

【課題】半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層などの用途に有用なB−アリールボラジンの工業上有利な製造方法を提供する。
【解決手段】化学式1で表されるボラジン化合物と、ハロゲン化アリールとを、パラジウム−トリアルキルホスフィン錯体などの触媒存在下で反応させて、化学式1におけるRが水素原子の位置にアリール基を導入するB−アリールボラジンの製造方法。


(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または有機基であり、少なくとも1つのRが水素原子である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B−アリールボラジンの製造方法に関する。B−アリールボラジンのようなボラジン化合物は、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられうる、新たな低誘電率材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。ボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率を示す。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【0005】
ボラジン化合物の一形態として、ボラジン環骨格上のホウ素(B)原子がアリール基により置換された、いわゆるB−アリールボラジンが知られている。このようなB−アリールボラジンの製造方法として、例えば非特許文献1には、下記反応式1に示すように、ホウ素(B)原子が非置換のボラジン化合物をグリニャール試薬と反応させる手法が開示されている。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,1959,81,582−586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した反応式1から明らかなように、非特許文献1に記載の手法によってB−アリールボラジンを合成するには、導入するアリール基に対応した化学量論量のグリニャール試薬を反応に用いる必要がある。その結果、反応終了後に、副生物である塩を除去するための脱塩操作が必須となる上、大量の廃棄物が生じるという課題がある。また、導入される置換基の種類によっては、グリニャール試薬による製造が困難であるものも存在する。さらに、グリニャール試薬自体が不安定で発火性を有するため、その取扱いには特別な注意を要することから、工業上より有利なB−アリールボラジンの製造方法が望まれているのが現状である。
【0010】
そこで本発明は、上述したような従来の技術における課題に鑑み、工業上より有利な手法によりB−アリールボラジンを製造するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行なった。その結果、ホウ素(B)部位が非置換のボラジン化合物を、触媒存在下でハロゲン化アリールと反応させるという手法を採用することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記化学式1:
【0013】
【化2】

【0014】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または有機基であり、少なくとも1つのRが水素原子である、
で表されるボラジン化合物と、
下記化学式2:
【0015】
【化3】

【0016】
式中、Arは炭素数6〜20のアリール基または炭素数4〜20のヘテロアリール基であり、Xはハロゲン原子または擬ハロゲンである、
で表されるハロゲン化アリールとを、
触媒存在下で反応させて、下記化学式3:
【0017】
【化4】

【0018】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または有機基であり、少なくとも1つのRが化学式2におけるArである、
で表されるB−アリールボラジンを合成する、B−アリールボラジンの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、工業上より有利な手法によりB−アリールボラジンを製造するための手段が提供される。すなわち、本発明の製造方法によりB−アリールボラジンを製造した場合には、多量の金属を使用する必要がなく、脱塩操作のような後処理に起因する負担が低減される。また、従来の手法では製造が困難であったB−アリールボラジンの製造も可能となる。さらに、発火性を有する反応剤の使用を回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0021】
本発明の一形態は、下記化学式1で表されるボラジン化合物と、下記化学式2で表されるハロゲン化アリールとを、触媒存在下で反応させて、下記化学式3で表されるB−アリールボラジンを合成する、B−アリールボラジンの製造方法である。
【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
【化7】

【0025】
以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。
【0026】
[第1の原料;ボラジン化合物]
まず、原料として用いられる、化学式1で表されるボラジン化合物を準備する。
【0027】
化学式1において、各Rおよび各Rは、それぞれ同一であってもよいし異なってもよく、水素原子または有機基である。有機基としては、例えば、炭素数1〜20個(好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個)の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数3〜20個(好ましくは3〜8個、より好ましくは4〜7個、さらに好ましくは5〜6個)のシクロアルキル基、炭素数6〜20個(好ましくは6〜8個、より好ましくは6〜7個、さらに好ましくは6個)のアリール基、炭素数7〜20個(好ましくは7〜8個、より好ましくは7個)のアラルキル基、炭素数1〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアシル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルケニル基、炭素数2〜20個(好ましくは2〜8個、より好ましくは2〜4個、さらに好ましくは2個)のアルキニル基などが挙げられる。なお、これらの有機基は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基(−NO)、アミノ基(−NH)、アルキルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基などで置換されていてもよい。
【0028】
やRを構成するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基などが挙げられる。また、シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−もしくはp−トリル基、2,3−もしくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基などが挙げられる。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基などが挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、アセチレニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基などが挙げられる。
【0029】
化学式1で表されるボラジン化合物の例としては、下記化合物が挙げられる。ただし、これらに限定されるわけではない。
【0030】
ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(neo−ペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン
B−メチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(neo−ペンチル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、B−メチル−N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン
B−エチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(neo−ペンチル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、B−エチル−N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン
B,B’−ジメチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’−ジメチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B,B’−ジメチル−N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B,B’−ジメチル−N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、B,B’−ジエチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’−ジエチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B,B’−ジエチル−N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B,B’−ジエチル−N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、B−メチル−B’−エチル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B−メチル−B’−エチル−N,N’,N”−トリエチルボラジン、B−メチル−B’−エチル−N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、B−メチル−B’−エチル−N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン。これらのボラジン化合物は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0031】
上述した形態のうち、Rおよび水素原子以外のRはそれぞれ、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、アルキル基またはシクロアルキル基であることが特に好ましい。なお、これら以外の基がRや水素原子以外のRとして用いられてもよい。ここで、Rがすべて水素原子である場合のボラジン化合物の例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(iso−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(tert−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(neo−ペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。なお、ボラジン化合物の耐水性等の化学的安定性を考慮すると、ボラジン化合物は、3つのRのうち、少なくとも1つが有機基である(水素原子でない)ボラジン(N−置換ボラジン)であることが好ましく、3つのRのすべてが有機基である(水素原子でない)ボラジン(すなわち、ボラジン環骨格の3つの窒素原子のすべてに有機基が結合したボラジン)であることがより好ましい。
【0032】
また、N−置換ボラジンのなかでも、液状化合物であることから取扱い性にも優れ、かつ耐水性にも優れるという観点から、ボラジン化合物は、Rの少なくとも1つがアルキル基である、N−アルキルボラジンであることがさらに好ましく、3つのRのすべてがアルキル基であるN,N’,N”−トリアルキルボラジン(「N−トリアルキルボラジン」とも称する)であることが特に好ましい。
【0033】
ボラジン化合物の入手方法については、特に限定されない。ボラジン化合物は、公知の手法に従って合成されてもよいし、市販されているボラジン化合物が用いられてもよい。
【0034】
なお、自ら合成したボラジン化合物が本発明の製造方法の原料として用いられる場合、ボラジン化合物の合成方法により本発明の技術的範囲が限定されることはない。ここで、上記の化学式1で表されるボラジン化合物のうち、N−トリアルキルボラジンの好ましい合成方法の一例を挙げると、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、(RNHX(Rは上記と同様の定義であり、Xがハロゲン原子でありnが1であるか、または、Xが硫酸基でありnが2である)で表されるアミン塩とを、溶媒中で反応させる手法が例示される。
【0035】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素リチウムが挙げられる。
【0036】
アミン塩((RNHX)において、Rは上記と同様の定義であり、Xは硫酸基またはハロゲン原子である。そして、Xが硫酸基である場合にはnは2であり、Xがハロゲン原子である場合にはnは1である。nが2である場合、Rは、同一であっても異なっていてもよいことは上述した通りである。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアルキル基である。なお、アルキル基およびシクロアルキル基の具体的な形態については、上述した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0037】
アミン塩の例としては、塩化アンモニウム(NHCl)、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、モノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)、硫酸アンモニウム((NHSO)、モノメチルアミン硫酸塩((CHNHSO)が挙げられる。
【0038】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアミン塩は、合成するボラジン化合物の構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアミン塩を用いればよい。
【0039】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0040】
合成用の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等が挙げられる。
【0041】
水素化ホウ素アルカリとアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0042】
合成装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を合成するのであれば、工業的規模の合成装置が用いられうる。
【0043】
合成されたボラジン化合物は、必要に応じて精製されうる。ボラジン化合物の精製方法としては、例えば、蒸留精製が用いられる。
【0044】
蒸留精製装置の大きさや種類は、環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量のボラジン化合物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。
【0045】
蒸留精製の際の温度は特に制限されず、合成されたボラジン化合物の種類に応じて適宜設定されうる。一例を挙げると、通常は100〜150℃程度である。
【0046】
さらに、得られたボラジン化合物の純度を向上させることを目的として、濾過処理などの追加的な処理が施されてもよい。
【0047】
[第2の原料;ハロゲン化アリール]
一方、ボラジン化合物と反応させるための他方の原料として、化学式2で表されるハロゲン化アリールを準備する。
【0048】
化学式2において、Arは、炭素数6〜20のアリール基または炭素数4〜20のヘテロアリール基である。ここで、炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、o−,m−もしくはp−トリル基、2,3−,2,4−,2,5−,2,6−,3,4−もしくは3,5−キシリル基、4−メトキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、1−もしくは2−ナフチル基、1−,2−もしくは9−アントリル基などが挙げられる。また、炭素数4〜20のヘテロアリール基としては、2−,3−もしくは4−ピリジル基、2−もしくは3−チエニル基などが挙げられる。
【0049】
また、化学式2において、Xはハロゲン原子または擬ハロゲンである、具体的には、ハロゲン原子は、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、またはフッ素原子である。また、擬ハロゲンとしては、トリフリル(トリフルオロメタンスルホニル)基、トシル(p-トルエンスルホニル)基、メシル(メタンスルホニル)基、アジド基などが挙げられる。Xは、好ましくはヨウ素原子または臭素原子である。ここで、化学式2で表されるハロゲン化アリールの具体例としては、例えば、ヨードベンゼン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、トリフルオロメタンスルホン酸フェニル、2−ヨードトルエン、3−ヨードトルエン、4−ヨードトルエン、2−ブロモトルエン、3−ブロモトルエン、4−ブロモトルエン、3−ヨード−o−キシレン、4−ヨード−o−キシレン、2−ヨード−m−キシレン、4−ヨード−m−キシレン、5−ヨード−m−キシレン、2−ヨード−p−キシレン、3−ブロモ−o−キシレン、4−ブロモ−o−キシレン、2−ブロモ−m−キシレン、4−ブロモ−m−キシレン、5−ブロモ−m−キシレン、2−ブロモ−p−キシレン、4−エチルヨードベンゼン、4−エチルブロモベンゼン、4−メトキシヨードベンゼン、4−メトキシブロモベンゼン、4−フルオロヨードベンゼン、4−フルオロブロモベンゼン、4−トリフルオロメチルヨードベンゼン、4−トリフルオロブロモベンゼン、1−ヨードナフタレン、2−ヨードナフタレン、1−ブロモナフタレン、2−ブロモナフタレン、2−ヨードピリジン、3−ヨードピリジン、4−ヨードピリジン、2−ブロモピリジン、3−ブロモピリジン、4−ブロモピリジン、2−ヨードチオフェン、3−ヨードチオフェン、2−ブロモチオフェン、3−ブロモチオフェンなどが挙げられる。これらのハロゲン化アリールは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
[反応]
本発明の製造方法では、ボラジン化合物とハロゲン化アリールとの反応の際に、触媒が用いられる。触媒は、ボラジン化合物とハロゲン化アリールとの反応を促進する機能を有していれば、特に限定されない。触媒としては、触媒活性の点からは、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)などの金属触媒が好ましい。より具体的には、PdCl、Pd(OAc)、PdCl(1,5−C12)、PdCl(CHCN)、Pd(CCH=CHCOCH=CHC、Pd(CCH=CHCOCH=CHC、Pd(PPh、PdCl(PPh、PdCl(C)、PdCl[(CP(CFe]、NiCl[(CPCHCHP(C]、NiCl[(CPCHCHCHP(C]、NiCl[(CPCHCHCHCHP(C]、PtCl(1,5−C12)、Pt(PPh、CuI、CuClなどの金属錯体が挙げられる。
【0051】
金属触媒として金属錯体が用いられる場合、ボラジン化合物とハロゲン化アリールとの反応は、金属触媒としての金属錯体の配位子となる化合物の存在下で行なうことが好ましい。金属錯体の配位子となる化合物を反応系中に添加して反応を進行させることによって、製造されるB−アリールボラジンの収率を向上させうる。
【0052】
収率向上の原因としては、明らかではないが、金属へ配位する配位子が変わることで、触媒サイクルに含まれる酸化的付加反応や還元的脱離反応が促進され、反応率向上に寄与していることが推測される。また、他の原因としては、何らかの微量の不純物が錯体へ付加することで錯体が失活する虞があるが、配位子となる化合物を添加することで、錯体と不純物との反応を抑制し、錯体の失活が防止されると推測される。ただし、これらは単なるメカニズムの推測に過ぎず、他の要因によって収率が向上している場合であっても、本発明の技術的範囲に含まれうる。
【0053】
金属錯体の配位子となる化合物としては、リン配位子、窒素配位子、炭素配位子、酸素配位子などが利用でき、具体的には、トリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)ビフェニル、トリ−t−ブチルホスフィン、2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)−2’,4’,6’−トリ−iso−プロピル−1,1’−ビフェニル、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)キサンテン、ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル、ビス(2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェニル)エーテル、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,1’−ビス(ジ−t−ブチルホスフィノ)フェロセン、1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)イミダゾール−2−イリデン、1,3−ビス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン、ビピリジン、1,10−フェナントロリンなどが挙げられる。
【0054】
また、本発明の好ましい形態としては、塩基の存在下で、ボラジン化合物とハロゲン化アリールとの反応が行なわれる。この際に用いられる塩基について特に制限はなく、従来公知の有機塩基または無機塩基が適宜用いられうる。有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、イソプロピルジエチルアミン、ピリジン、ジアザビシクロウンデセンなどが挙げられる。また、無機塩基としては、例えば、t−BuOK、酢酸カリウム、水素化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどが挙げられる。なお、塩基を添加することによる効果としては、副生するハロゲン化水素(HX)の中和などが考えられる。
【0055】
ボラジン化合物とハロゲン化アリールとの反応条件は、特に限定されない。ボラジン化合物を含む溶液が用いられてもよい。ボラジン化合物および触媒は、溶媒中に含有されてもよい。
【0056】
用いられる溶媒としては、特に限定されないが、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物が挙げられる。化学式1で表されるボラジン化合物を反応させる場合、芳香族化合物を溶媒として用いることによって、反応熱を効率よく除去することが可能である。なお、場合によっては、溶媒を用いずにボラジン化合物とハロゲン化アリールとの反応を進行させてもよい。溶媒を用いずに反応させた場合、原料コストの削減、反応装置の簡略化などが達成されうる。
【0057】
圧力および温度条件は、用いるボラジン化合物およびハロゲン化アリールの種類に応じて制御すればよい。反応温度は、好ましくは−196〜200℃、より好ましくは−78〜150℃、さらに好ましくは0〜150℃、特に好ましくは30〜100℃である。上記範囲の温度で反応を進行させることによって、反応を効率的に進行させうる。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0058】
ボラジン化合物に対するハロゲン化アリールの使用量は、ボラジン化合物の構造を考慮して決定されるとよい。例えば、3つのRの全てが水素原子であり、Rが結合した全てのホウ素(B)原子に対してアリール基を導入したい場合には、少なくともボラジン化合物の3モル倍のハロゲン化アリールを用いることが好ましい。Rの1つが水素原子である場合には、ボラジン化合物と同程度のモル量のハロゲン化アリールが用いられてもよい。
【0059】
触媒の使用量は、触媒の種類によって異なるが、金属触媒の使用量は、一般的には、ボラジン化合物の使用量1モルに対して0.00001〜0.05モルである。また、塩基の使用量は、一般的には、ボラジン化合物の使用量1モルに対して1〜5モルである。この範囲の触媒を用いることによって、反応が効果的に促進されうる。
【0060】
溶媒を用いて反応を進行させる場合に用いられる溶媒量についても、特に限定されないが、少なすぎると、溶媒による反応熱の除去が効果的でなくなる虞がある。また、溶媒が多すぎると、製造コストが上昇する問題や、反応後の溶媒除去処理に要する手間が増大する問題が生じる虞がある。これらを考慮すると、溶媒量は、好ましくは、ボラジン化合物に対して0.1〜100倍量である。
【0061】
金属錯体の配位子となる化合物を添加する場合、その添加量は種類によって異なり、特に限定されない。一般的には、金属錯体の配位子となる化合物は、金属触媒としての金属錯体1モルに対して0.5〜5.0モル当量が好ましい。
【0062】
製造されるB−アリールボラジンは、化学式3で表される構造を有する。
【0063】
化学式3において、Rは、化学式1と同様の定義であり、水素原子または有機基である。また、化学式3において、Rは、化学式1におけるR(すなわち、水素原子もしくは有機基)または化学式2におけるAr(炭素数6〜20のアリール基または炭素数4〜20のヘテロアリール基)であり、少なくとも1つのRが化学式2におけるArである。これらの具体的な形態については、既に記載した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0064】
化学式3において、Rはそれぞれ、同一であっても異なっていてもよい。合成反応の収率や取り扱いの容易性を考慮すると、Rは好ましくは同一のアリール基である。
【0065】
B−アリールボラジンの具体例としては、B−フェニルボラジン、B,B’−ジフェニルボラジン、B,B’,B”−トリフェニルボラジン、B−フェニル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’−ジフェニル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリフェニル−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(2−メチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(3−メチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−メチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(3,4−ジメチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(2,6−ジメチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−エチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−ビフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−メトキシフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−フルオロフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−クロロフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−トリフルオロフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(1−ナフチル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(2−ナフチル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(4−ピリジル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(2−チエニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン、B,B’,B”−トリス(3−チエニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジンなどが挙げられる。
【0066】
合成されたB−アリールボラジンは、精製されることが好ましい。精製の方法については、蒸留精製や昇華精製などの公知の精製法から、適宜選択されればよい。
【0067】
蒸留精製の手法については、目的物であるB−アリールボラジンと、不純物とを分離可能であれば、特に限定されない。蒸留精製に先立って、有機合成の分野で一般的な処理が行なわれてもよい。例えば、反応溶液は、濾過され、エバポレータを用いて濃縮される。
【0068】
蒸留精製装置の大きさや種類は、本発明が適用される環境や規模に応じて決定されればよい。例えば、大量の粗製物を処理するのであれば、工業的規模の蒸留塔が用いられうる。少量の粗製物を処理するのであれば、蒸留管を用いた蒸留精製が用いられうる。例えば、少量の粗製物を処理する蒸留装置の具体例としては、3つ口フラスコにクライゼン型の連結管でリービッヒ冷却管を取り付けた蒸留装置が用いられうる。ただし、このような蒸留装置を用いる実施形態に、本発明の技術的範囲が限定されるわけではない。
【0069】
昇華精製とは、化合物の昇華温度の差を用いて、不純物と目的物とを分離する精製法である。昇華精製の態様については、特に限定されない。アルキルボラジン化合物の製造規模や製造環境などに応じて、適宜、昇華精製装置の形態が選択されればよい。ガスをフローし、温度調節を厳密に行うことによって、得られる目的物の純度が向上しうる。
【0070】
本発明の製造方法によって得られるB−アリールボラジンは、グリニャール試薬を用いずに、より安価なハロゲン化アリールを用いることで、ボラジン環のホウ素(B)原子がアリール基で置換される。このため、グリニャール試薬を用いた反応が、理論的に化学量論量のグリニャール試薬を必要とする従来の技術と比較して、触媒の効率を高めることで製造コストの削減が可能となる。また、それ自体が発火性を有するグリニャール試薬を用いる場合と比較して、安全に製造を行なうことができる上、大量の金属(Mgなど)を用いることがないために、廃棄物の生成量をも削減することが可能となる。このように、本発明の製造方法は、B−アリールボラジンを工業的規模で製造する際に、様々な有利な効果を有する。
【0071】
製造されたB−アリールボラジンは、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際には、B−アリールボラジンがそのまま用いられてもよいし、B−アリールボラジンに改変を加えた化合物が用いられてもよい。B−アリールボラジンまたはB−アリールボラジンの誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。
【0072】
重合体は、ボラジン環骨格を有する化合物をモノマーとして用いて形成されうる。重合方法や重合形態は特に限定されない。重合方法は、ボラジン環に結合している官能基によって、選択される。例えば、アミノ基が結合している場合には、縮重合によって重合体が合成されうる。ボラジン環にビニル基またはビニル基を含む官能基が結合している場合には、重合開始剤を用いたラジカル重合によって、重合体が形成されうる。重合体は、ホモポリマーであってよく、2以上のモノマーユニットからなる共重合体であってもよい。共重合体の形態は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などのいずれでもよい。他のモノマーと結合を形成しうる官能基を3つ以上有するモノマーを用いれば、モノマーがネットワーク状に結合した重合体を得ることも可能である。
【0073】
続いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成する方法について説明する。なお、以下の説明においては、「B−アリールボラジン」、「B−アリールボラジンの誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0074】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成するには、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを塗布することによって、塗膜を形成する手法が用いられうる。その際に用いられる、ボラジン環含有化合物を溶解または分散させる溶媒は、ボラジン環含有化合物や、必要に応じて添加される他の成分を溶解し得るものであれば特に制限されない。溶媒としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジグライム、テトラグライムなどが用いられ得る。これらは、1種単独で使用しても良いし、2種以上を混合して用いてもよい。スピンコーティングを用いて成膜する場合には、ジグライムが好ましい。ジグライムまたはその誘導体を溶媒として用いると、製造される膜の均一性が向上する。また、膜の白濁が防止されうる。ボラジン環含有化合物を溶解または分散させる溶媒の使用量は、特に制限されるべきものではなく、低誘電材料の製造手段に応じて決定すればよい。例えば、スピンコーティングにより成膜する場合には、スピンコーティングに適した粘度になるよう、溶媒および溶媒量を決定すればよい。
【0075】
ボラジン環含有化合物を含む組成物は、所望する部位に供給され、乾燥することにより、固化される。例えば、半導体用層間絶縁膜を形成するには、スピンコーティングにより、基板上に塗布し、乾燥させればよい。一度のコーティングおよび乾燥では所望する厚さの被膜が得られない場合には、コーティングおよび乾燥を、所望の厚さになるまで繰り返しても良い。スピンコーターの回転数、乾燥温度および乾燥時間などの成膜条件は、特に限定されない。
【0076】
基板への塗布は、スピンコーティング以外の手法を用いてもよい。例えば、スプレーコーティング、ディップコーティングなどが用いられ得る。また、場合によっては、プラズマCVDなどのCVD法(化学気相蒸着法)等が用いられてももちろんよい。
【0077】
その後、塗膜を乾燥する。塗膜の乾燥温度は、通常、100〜250℃程度である。ここでいう乾燥温度とは、乾燥処理をする際の温度の最高温度を意味する。例えば、乾燥温度を徐々に上昇させ、100℃で30分維持し、その後、冷却した場合の乾燥温度は100℃である。焼成温度は熱電対を用いて測定されうる。塗膜の乾燥時間については、特に限定されない。得られる低誘電材料についての、誘電率、耐湿性等の特性を考慮して、適宜決定すればよい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明の製造方法の作用効果をより具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の形態によって制限を受けることはない。
【0079】
[実施例1−1]
アルゴン雰囲気のグローブボックス中、5mLのバイアルチューブに触媒としてビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(3.6mg、0.063ミリモル、2.5モル%)、配位子としてトリ−t−ブチルホスフィン(2.5mg、0.0126ミリモル、5モル%)、トルエン(0.5mL)を添加し、80℃にて10分間撹拌した。その後、トリエチルアミン(228mg、2.25ミリモル、3当量)、ヨードベンゼン(306mg、1.5ミリモル、2当量)、ボラジン(20.2mg、0.25ミリモル)を添加し、80℃にて24時間撹拌して反応を進行させた。
【0080】
反応終了後、空気中において、溶媒を除去することなくベンゼン/水で抽出を行ない、有機層を硫酸マグネシウムにより30分間乾燥させた。溶媒を除去した後、溶離液としてベンゼンを用い、約3cmのシリカゲルカラムクロマトグラフィに通した。その後、クーゲル蒸留(230℃、0.5mmHg(66.6Pa))を行なって、B,B’,B”−トリフェニルボラジン(71.8mg、0.233ミリモル、収率93%)を得た。
【0081】
(B,B’,B”−トリフェニルボラジン(実施例1−1)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=5.90(s,3H),7.45(m,9H),7.78(m,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=128.2,130.1,131.9
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=32.8
HRMS:calc for C1818,[M]=309.1780;found:309.1783
[実施例1−2〜実施例1−12]
ハロゲン化アリールとして、ヨードベンゼンに代えて下記の表1に記載のものを用いたこと以外は、上述した実施例1−1と同様の手法により、B−アリールボラジンを合成した。その際の生成物および収率についても下記の表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
(B,B’,B”−トリス(2−メチルフェニル)ボラジン(実施例1−2)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.53(s,9H),5.53(s,3H),7.22−7.48(m,12H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=22.6,125.2,128.9,129.7,132.4,140.3
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=35.0
HRMS:calc for C2124,[M]=351.2249;found:351.2251
(B,B’,B”−トリス(3−メチルフェニル)ボラジン(実施例1−3)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.44(s,9H),5.87(s,3H),7.28−7.37(m,6H),7.59(bs,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=21.6,128.1,128.9,130.7,132.7,137.5
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=34.5
HRMS:calc for C2124,[M]=351.2249;found:351.2248
(B,B’,B”−トリス(4−メチルフェニル)ボラジン(実施例1−4)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz, CDCl) δ=2.41(s,9H),5.84(s,3H),7.31(d,J=7.8Hz,6H),7.71(d,J=7.8Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=21.5,129.0,132.0,139.9
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=33.1
HRMS:calc for C2124,[M]=351.2249;found:351.2248
(B,B’,B”−トリス(3,4−ジメチルフェニル)ボラジン(実施例1−5)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.32(s,9H),2.35(s,9H),5.82(s,3H),7.22(d,J=6.4Hz,3H),7.52(d,J=7.2Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=19.84,19.86,129.51,129.55,133.3,136.2,138.6
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=32.8
HRMS:calc for C2430,[M]=393.2719;found:393.2722
(B,B’,B”−トリス(2,6−ジメチルフェニル)ボラジン(実施例1−6)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.36(s,18H),5.27(s,3H),6.98(d,J=7.6Hz,6H),7.10(t,J=8.0Hz,3H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=22.3,126.1,127.8,139.1
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=36.5
HRMS:calc for C2430,[M]=393.2719;found:393.2722
(B,B’,B”−トリス(4−エチルフェニル)ボラジン(実施例1−7)のスペクトルデータ)
H NMR(400MH,CDCl) δ=1.28(t,J=7.3Hz,9H),2.61(q,J=7.8Hz,6H),5.84(s,3H),7.20(d,J=7.8Hz,6H),7.62(d,J=7.8Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=15.5,28.9,127.7,132.0,146.3
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=34.3
HRMS:calc for C2430,[M]=393.2719;found:393.2717
(B,B’,B”−トリス(4−プロピルフェニル)ボラジン(実施例1−8)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=0.88(t,J=7.2Hz,9H),1.61(sextet,J=8.0Hz,6H),2.55(t,J=8.0Hz,6H),5.76(s,3H),7.18(d,J=7.6Hz,6H),7.60(d,J=8.0Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=13.9,24.5,38.1,128.4,132.0,144.7
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=32.0
HRMS:calc for C2736,[M]=435.3188;found:435.3190
(B,B’,B”−トリス(3−チエニル)ボラジン(実施例1−9)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=5.66(s,3H),7.43(m,3H),7.77(m,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=126.1,130.3,131.5
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=30.9
HRMS:calc for C1212,[M]=327.0473;found:327.0470
(B,B’,B”−トリス(4−メトキシフェニル)ボラジン(実施例1−10)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=3.85(s,9H),5.75(s,3H),6.99(d,J=8.4Hz,6H),7.72(d,J=8.4Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=55.1,113.7,133.5,161.2
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=33.9
HRMS:calc for C2124,[M]=399.2097;found:399.2094
(B,B’,B”−トリス(4−フルオロフェニル)ボラジン(実施例1−11)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=5.78(s,3H),7.14(t,J=8.8Hz,6H),7.74(dd,J=6.0Hz,6.0Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=115.3(d,J=17.2Hz),133.9(d,J=7.6Hz),137.9(d,J=8.6Hz)
11B NMR(128MHz,DMSO) δ=30.0
HRMS:calc for C1815,[M]=363.1497;found:363.1497
(B,B’,B”−トリス(4−クロロフェニル)ボラジン(実施例1−12)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=5.80(s,3H),7.45(d,J=8.4Hz,6H),7.68(d,J=8.0Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=128.5,133.3,136.3
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=33.0
HRMS:calc for C1815Cl,[M]=411.0610;found:411.0605
[実施例2−1]
アルゴン雰囲気のグローブボックス中、5mLのバイアルチューブに触媒としてビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(3.6mg、0.063ミリモル、2.5モル%)、配位子としてトリ−t−ブチルホスフィン(5.0mg、0.025ミリモル、10モル%)、トルエン(0.5mL)を添加し、80℃にて10分間撹拌した。その後、トリエチルアミン(228mg、2.25ミリモル、3当量)、ヨードベンゼン(306mg、1.5ミリモル、2当量)、N−トリメチルボラジン(30.6mg、0.25ミリモル)を添加し、80℃にて24時間撹拌して反応を進行させた。
【0084】
反応終了後、空気中において、溶媒を除去することなくベンゼン/水で抽出を行ない、有機層を硫酸マグネシウムにより30分間乾燥させた。溶媒を除去した後、溶離液としてベンゼンを用い、約3cmのシリカゲルカラムクロマトグラフィに通した。その後、クーゲル蒸留(200℃、0.1mmHg(13.3Pa))を行なって、B,B’,B”−トリフェニル−N,N’,N”−トリメチルボラジン(56.1mg、0.160ミリモル、収率64%)を得た。
【0085】
(B,B’,B”−トリフェニル−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−1)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.55(s,9H),7.24−7.40(m,15H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=37.1,127.1,127.88,127.93,130.8
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=35.3
HRMS:calc for C2124,[M]=351.2249;found:351.2245
[実施例2−2〜実施例2−7]
ハロゲン化アリールとして、ヨードベンゼンに代えて下記の表2に記載のものを用いたこと以外は、上述した実施例2−1と同様の手法により、B−アリールボラジンを合成した。その際の生成物および収率についても下記の表2に示す。
【0086】
【表2】

【0087】
(B,B’,B”−トリス(3−メチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−2)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.37(s,9H),2.55(s,9H),7.13−7.28(m,12H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=21.7,37.1,127.77,127.79,127.82,131.5,137.0
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=37.5
HRMS:calc for C2430,[M]=393.2719;found:393.2722
(B,B’,B”−トリス(4−メチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−3)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.28(s,9H),2.49(s,9H),7.19(d,J=8.0Hz,6H),7.28(d,J=8.0Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=21.4,37.1,128.6,130.9,136.5
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=32.8
HRMS:calc for C2430,[M]=393.2719;found:393.2722
(B,B’,B”−トリス(4−メトキシフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−4)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.57(s,9H),3.82(s,9H),6.94(d,J=8.0Hz,6H),7.31(d,J=8.4Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=37.3,55.0,113.6,132.4,158.8
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=33.5
HRMS:calc for C2430,[M]=411.2566;found:411.2569
(B,B’,B”−トリス(3−チエニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−5)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.59(s,9H),7.13(d,J=4.8Hz,3H),7.29(bs,3H),7.41(d,J=2.8Hz,3H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=37.0,125.3,127.0,130.3
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=36.0
HRMS:calc for C1518,[M]=369.0942;found:369.0943
(B,B’,B”−トリス(4−エチルフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−6)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=1.26(t,J=7.6Hz,9H),2.16(s,9H),2.67(q,J=7.6Hz,6H),7.23−7.31(m,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=15.3,28.7,37.1,127.3,130.9,142.8
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=35.6
HRMS:calc for C2736,[M]=435.3188;found:435.3187
(B,B’,B”−トリス(4−フルオロフェニル)−N,N’,N”−トリメチルボラジン(実施例2−7)のスペクトルデータ)
H NMR(400MHz,CDCl) δ=2.44(s,9H),7.02(t,J=8.8Hz,6H),7.26(dd,J=6.4Hz,6.4Hz,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl) δ=37.0,115.1(d,J=19.8Hz),132.5(d,J=7.4Hz),163.6
11B NMR(128MHz,CDCl) δ=35.2
HRMS:calc for C2121,[M]=405.1967;found:405.1975
以上のように、本発明の製造方法によれば、工業上より有利な手法によりB−アリールボラジンを製造することが可能となることがわかる。より具体的には、本発明の製造方法では、グリニャール試薬を用いる場合のように多量の金属を使用する必要がなく、脱塩操作のような後処理に起因する負担が低減される。また、従来の手法では製造が困難であったB−アリールボラジンの製造も可能となる。さらに、発火性を有する反応剤の使用を回避することができるという点で、工業上極めて有利な手法によるB−アリールボラジンの製造方法が提供されうるのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または有機基であり、少なくとも1つのRが水素原子である、
で表されるボラジン化合物と、
下記化学式2:
【化2】

式中、Arは炭素原子数6〜20のアリール基または炭素数4〜20のヘテロアリール基であり、Xはハロゲン原子または擬ハロゲンである、
で表されるハロゲン化アリールとを、
触媒存在下で反応させて、下記化学式3:
【化3】

式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子または有機基であり、Rは、化学式1におけるRまたは化学式2におけるArであり、少なくとも1つのRが化学式2におけるArである、
で表されるB−アリールボラジンを合成する、B−アリールボラジンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、金属触媒を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基の存在下で反応を行なう、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
金属触媒としての金属錯体の配位子となる化合物の存在下で反応を行なう、請求項2または3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−280637(P2010−280637A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137319(P2009−137319)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月13日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第89春季年会 2009年 講演予稿集 II」に発表
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】