説明

BiMeVOx系VOCsセンサ

【構成】 耐熱絶縁基板4に、BiMeVOx膜6と検知極8と参照極9とを設け、参照極9を触媒膜10で被覆する。検知極8や参照極9は、酸素の吸脱着が容易なLa0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3等のペロブスカイトに、BiMeVOxを混合したものとする。
【効果】 VOCxガスを、プロパンや水素,COから選択的に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、BiMeVOx系酸素イオン導電体を用いたVOCsセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、BiMeVOxを酸素イオン導電体とし、LaSrCoO3等のペロブスカイトを電極材料とした酸素センサを提案した(非特許文献1)。発明者はここで、BiMeVOxが350〜500℃程度の低い温度でも酸素イオン導電性が有ること、LaSrCoO3等のペロブスカイトは酸素の吸脱着が容易であることから、このセンサをVOCxガスのセンサとすることを検討した。
【0003】
非特許文献1では、BiMeVOxのディスクの両面に検知極と参照極を設けるが、この構造は製造上不利である。そこで発明者は、ディスクを用いず、基板上にBiMeVOx膜と検知極膜と参照極膜とを設けた、プレーナーなセンサ構造を検討した。ここで参照極をBiMeVOxと基板との間に設けると、参照極が雰囲気から遮断されるので、センサ特性が不安定になった。しかしながら参照極を雰囲気中に露出すると、参照極がVOCxガスに感応しないようにする必要がある。
【非特許文献1】Sensors and Actuators B,108,335(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、酸素イオン導電体としては低温で動作し、VOCxガスに高感度で選択的なセンサを提供することにある。
この発明の他の課題は、参照極がVOCxガスの影響を受けないセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のVOCsセンサは、絶縁基板上に設けたBiMeVOx酸素イオン導電体と、
BiMeVOxの基板との反対面に設けた、ペロブスカイト化合物ABO3(ここにAは希土類もしくはアルカリ土類元素を,Bは遷移金属元素を表す)を電極材料とする検知極膜と、
BiMeVOxの基板との反対面に設けた参照極膜で、参照極の内部へVOCsガスが拡散する前に、VOCsガスを除去するための酸化触媒を備えたものと、
基板を加熱するためのヒータ膜とを設けたものである。
【0006】
好ましくは、前記ペロブスカイト化合物が、La1-xSrxCo1-yMyO3(xは0.1〜0.8,MはCo以外の遷移金属元素を表し、yは0〜0.4)、及びLaxBa1-xMy-Fe1-yO3(xは0〜0.2で0を含み、yは0.01〜0.2、MはIn,Zr,Bi,Zn,Ce,Nbからなる群の少なくとも一員の元素)からなる群の少なくとも一員の物質である。
また好ましくは、BiMeVOxがBi2CuyV1-yOz(yは0.05〜0.2で、zはyに応じて定まる数),Bi2Cuy-TiwV1-y-wOz(yは0.05〜0.2,wは0.01〜0.05で、zはy及びwに応じて定まる数),Bi2SbyV1-yOz(yは0.05〜0.2で、zはyに応じて定まる数)からなる群の少なくとも一員である。
【0007】
好ましくは、参照極が、検知極と同種のペロブスカイト化合物を電極材料とする膜を、貴金属触媒膜で被覆したものである。
特に好ましくは、検知極と参照極とが共に、ペロブスカイト化合物とBiMeVOxとの混合物である。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、酸素イオン導電体としてBiMeVOxを用いるので、例えば300〜400℃の比較的低い温度でセンサを動作させることができ、その結果、VOCxガスの酸化を抑制して、検知極の内部までVOCxガスを到達させることができる。次に検知極に酸素の吸脱着が容易なLaSrCoO3等のペロブスカイトを用いるので、VOCxガスを検知極で酸化すると、BiMeVOxと検知極の界面付近での酸素イオン濃度、あるいは酸素の活量を変え、VOCxガスを検出できる。
【0009】
この発明では参照極をBiMeVOxや基板で雰囲気から遮断しないので、参照極と検知極とでの酸素活量はVOCx等のガスがなければ共通である。このため非加熱放置後の加熱開始時に起電力等のセンサ出力が安定するまでの待ち時間を短くし、また水蒸気濃度や高度等が変化してもセンサ出力への影響がない。そして酸化触媒で参照極を被覆し、あるいは参照極に酸化触媒を混合して、VOCxガスを除去すると、検知極とBiMeVOx間の界面と参照極側の界面との間で、酸素イオン濃度をVOCx濃度により変化させることができる。なおセンサ出力は起電力の他に、検知極でのVOCxガスの酸化に伴う電流としても良い。
【0010】
検知極材料は、電子導電性が高く、酸素の吸脱着が容易なペロブスカイトが良く、例えば、La1-xSrxCo1-yMyO3とする。ここに、xは0.1〜0.8,好ましくは0.2〜0.6とし、MはCo以外の遷移金属元素を表し、例えばFe,Ni,Crで、特にFeとする。yは0〜0.4で、好ましくは0.1〜0.4とする。検知極材料には他に、BaIny-Fe1-yO3(yは0.01〜0.2で、より好ましくは0.02〜0.1)、あるいはBaZny-Fe1-yO3(yは0.01〜0.2で、より好ましくは0.02〜0.1)が適している。さらにInやZnをZr,Bi,Ce,あるいはNbで置き換えても良く、またBaの0〜20atom%をLaで置換しても良い。これらのものは検知極材料としての特性が類似で、総称してLaxBa1-xMy-Fe1-yO3(xは0〜0.2で0を含み、yは0.01〜0.2、MはIn,Zr,Bi,Zn,Ce,Nbからなる群の少なくとも一員の元素)という。
【0011】
検知極と参照極とを同じ材料で構成し、参照極を酸化触媒膜で被覆すると、検知極や参照極の特性が揃い、かつ製造も容易になる。
ここで検知極を、前記のペロブスカイトにBiMeVOx酸素イオン導電体を混合したものとすると、ペロブスカイトの酸素の吸脱着によりVOCxガスを酸化し、これに伴って検知極中のBiMeVOxによりペロブスカイトへ酸素を補給し、この結果、検知極との界面でBiMeVOxの酸素イオン濃度が変化する。なお検知極中でのBiMeVOxは酸素イオン導電体としてのBiMeVOxとは組成が異なっても良い。
【0012】
酸素イオン導電体としてのBiMeVOxは、低温で酸素イオン導電性が高いものが好ましく、例えばBi2CuyV1-yOzとし、yは0.05〜0.2で、zはyに応じて定まる数で、Biの価数を3、Cuを2,Vを5とすると、Bi2Cu0.1V0.9O5.35等となる。またCu-VをCu-Ti-Vとしても良く、その場合の組成は例えばBi2Cuy-TiwV1-y-wOzとして、yは0.05〜0.2,wは0.01〜0.05で、zはy及びwに応じて定まる数となる。さらにCuをSbに代えても良く、その場合の組成は例えばyは0.05〜0.2で、zはyに応じて定まる数となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0014】
図1〜図6に、実施例のVOCsセンサとその特性とを示す。VOCは揮発性有機物を意味し、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類やケトン類、エーテル類、芳香族炭化水素などが主なものである。またこの明細書では、化学式を非化学量論的因子を含めずに示す。図1にVOCsセンサ2の構造を示すと、4は耐熱絶縁基板で、例えばアルミナ基板とし、6はBiMeVOx膜で、厚さは例えば1〜20μm程度とし、BiMeVOx膜6に代えて、BiMeVOxのチップを基板4に接着しても良い。8は検知極で、厚さ1〜20μm程度の膜状で、BiMeVOx膜6上に積層されている。9は参照極で、同様にBiMeVOx膜6上に積層され、電極材料は検知極8と同一で、その上部を多孔質のPtから成る触媒膜10で被覆してある点が異なる。基板4の裏面にはヒータ膜12を設け、検知極8,参照極9,ヒータ膜12を適宜のパッドに接続して、リード14を取り付ける。ここでは基板4をアルミナとしたが、シリコンの微細加工により設けたシリカ薄膜の表裏両面、もしくは表裏一面に、BiMeVOx膜6〜ヒータ膜12を設けても良い。
【0015】
実施例ではBiMeVOxとして、Bi2Cu0.1V0.9O0.35を用い、Cu:Vは0.05:0.95〜0.2:0.8程度の範囲で変えてもよい。BiMeVOxは例えばBi2O3,CuO,V2O5などを化学量論比で混合し、粉砕後に600℃で例えば空気中10時間焼成して調製した。得られたBiMeVOxを粉砕し、ペースト化して基板4上にスクリーン印刷などで膜厚10μm程度に成膜し、空気中で700℃5時間焼結した。
【0016】
検知極や参照極のペロブスカイト化合物として、La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3を用い、これらの各金属の硝酸塩を混合し、空気中1000℃で5時間焼成することにより、ペロブスカイト化合物とした。この化合物をαテルピネオールでペースト化し、BiMeVOx膜6上に厚さ10μm程度にスクリーン印刷し、850℃で空気中3時間焼成した。触媒膜10は例えばPtペーストを参照極9上に塗布して、850℃で空気中1時間焼成することにより成膜し、その厚さは1〜数μm程度で、多孔質である。
【0017】
センサの特性を先行して取得するため、前記の調製条件でプレーナーなセンサ2ではなく、BiMeVOxディスクの両面に検知極8と参照極9及び触媒膜10を設けたものを調製し、加熱管内に配置して、流通法で特性を測定した。ただしディスクセンサの場合も、実施例のプレーナーセンサ2の場合も、特性は同様であった。
【0018】
図2に、350〜500℃での、各10ppmのプロパン、トルエン、ホルムアルデヒドに対する起電力の変化を示す。なおこの明細書で、起電力は参照極を基準とする検知極の電位を意味し、起電力の変化は空気中の起電力からガス中での起電力を引いたものである。実施例のガスセンサはホルムアルデヒドに大きな感度を示し、次いでトルエンに対して感度を示すが、プロパンに対する感度は僅かである。また感度はセンサ温度が低いほど大きく、BiMeVOxは酸素イオン導電体として例えば300℃以上で動作するので、センサの好ましい温度は300〜400℃である。高温で感度が低下する理由は、検知極中のペロブスカイトが、BiMeVOx膜と検知極との界面付近まで到達する前に、VOCxガスが到達するためと考えられる。
【0019】
図3に、被検ガスに、ホルムアルデヒド、プロパン、トルエンの他に、10ppmのメタンを加え、さらに200ppmの水素と50ppmのCOとに対する感度を測定した結果を示す。センサはホルムアルデヒドに対して選択性を示し、メタンに対する感度は殆どなく、同じ濃度の場合、トルエンに対する感度は、水素やCOに対する感度よりも大きい。
【0020】
図4に、350℃と400℃とにおける、ホルムアルデヒド濃度と起電力との関係を示す。ホルムアルデヒドに対して350℃で、2〜40ppmの範囲で起電力の変化は濃度の対数に比例する。400℃では、10〜40ppmの範囲で起電力の変化が濃度の対数に比例する。作動温度を低下すると、低濃度域まで起電力の変化が濃度の対数に比例することは、ペロブスカイト表面でのホルムアルデヒドの酸化が抑えられるためと考えられる。
図5に、トルエンに対する起電力変化の濃度依存性を示す。350℃で10〜40ppmの範囲で起電力の変化は濃度の対数に比例し、400℃で20〜50ppmの範囲で起電力の変化が濃度の対数に比例する。
図6に、400℃でのホルムアルデヒドへの応答特性を示す。ホルムアルデヒドに対する応答も、空気中に戻した際の応答も速やかで、かつ安定している。
【0021】
以上のことから、実施例のVOCxセンサは、酸素を含有するVOCガスや、トルエンなどの芳香族炭化水素系VOCの検出に有効であることが分かる。
【0022】
実施例で用いたBi2Cu0.1V0.9O5.35は、低温で酸素イオン導電性の高い物質の例であり、Bi2Cuy-TiwV1-y-wOz(yは0.05〜0.2,wは0.01〜0.05)やBi2SbyV1-yOz(yは0.05〜0.2)などに変えてもよい。またLa0.8Sr0.4Co0.8Fe0.2O3のFeはNi,Co,Crなどに代えてもよく、LaSrCo系のペロブスカイトに代えて、BaIn-Fe系やBaZn-Fe系、BaZr-Fe系、BaNb-Fe系、BaBi-Fe系、BaCe-Fe系などのペロブスカイトに代えてもよく、Ba原子の20atom%以下をLa原子で置換しても良い。
【0023】
実施例では参照極9をBiMeVOx膜6の外部に設けたが、参照極9をBiMeVOx膜6と基板4との間に設けると、非加熱放置した後に再加熱すると、起電力が安定値に移行するまでの時間が長くなり、また周囲の水蒸気濃度や高度が変化すると、起電力が不安定になる。これらのことは、検知極8と参照極9とに雰囲気の影響が同等に働かず、起電力がVOCx以外のものにより変化することを示している。さらに検知極8にBiMeVOxを添加しないと、350℃でのホルムアルデヒドへの感度(起電力の変化)が約1/2になった。
【0024】
350〜400℃で、実施例のセンサのエタノール感度を調べたところ、ホルムアルデヒドよりもやや高い感度があった。そこで実施例のセンサは、アルコールセンサとして用いることもでき、またアルコール感度が好ましくない場合、MnO2等のアルコール酸化触媒で検知極8を被覆し、アルコールが検知極8の内部へ拡散する前に除去しても良い。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例のVOCsセンサの断面図
【図2】実施例のVOCsセンサの、各10ppmのプロパン、トルエン、ホルムアルデヒドへの350〜500℃での感度を示す特性図
【図3】実施例のVOCsセンサの、ホルムアルデヒド、メタン、プロパン、トルエン、及び水素とCOへの、350℃と400℃での感度を示す特性図
【図4】実施例のVOCsセンサの、350℃と400℃での起電力のホルムアルデヒド濃度依存性を示す特性図
【図5】実施例のVOCsセンサの、350℃と400℃での起電力のトルエン濃度依存性を示す特性図
【図6】実施例のVOCsセンサでの、ホルムアルデヒドへの応答特性を示す特性図
【符号の説明】
【0026】
2 VOCsセンサ
4 耐熱絶縁基板
6 BiMeVOx膜
8 検知極
9 参照極
10 触媒膜
12 ヒータ
14 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に設けたBiMeVOx酸素イオン導電体と、
BiMeVOxの基板との反対面に設けたペロブスカイト化合物ABO3(ここにAは希土類もしくはアルカリ土類元素を,Bは遷移金属元素を表す)を電極材料とする検知極膜と、
BiMeVOxの基板との反対面に設けた参照極膜で、参照極の内部へVOCsガスが拡散する前に、VOCsガスを除去するための酸化触媒を備えたものと、
基板を加熱するためのヒータ膜、とを設けたVOCsセンサ。
【請求項2】
前記ペロブスカイト化合物が、La1-xSrxCo1-yMyO3(xは0.1〜0.8,MはCo以外の遷移金属元素を表し、yは0〜0.4)、及びLaxBa1-xMy-Fe1-yO3(xは0〜0.2で0を含み、yは0.01〜0.2、MはIn,Zr,Bi,Zn,Ce,Nbからなる群の少なくとも一員の元素)からなる群の少なくとも一員の物質であることを特徴とする、請求項1のVOCsセンサ。
【請求項3】
BiMeVOxがBi2CuyV1-yOz(yは0.05〜0.2で、zはyに応じて定まる数),Bi2Cuy-TiwV1-y-wOz(yは0.05〜0.2,wは0.01〜0.05で、zはy及びwに応じて定まる数),Bi2SbyV1-yOz(yは0.05〜0.2で、zはyに応じて定まる数)からなる群の少なくとも一員であることを特徴とする、請求項1または2のVOCsセンサ。
【請求項4】
参照極が、検知極と同種のペロブスカイト化合物を電極材料とする膜を、貴金属触媒膜で被覆したものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかのVOCsセンサ。
【請求項5】
検知極と参照極とが共に、ペロブスカイト化合物とBiMeVOxとの混合物であることを特徴とする、請求項4のVOCsセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241299(P2008−241299A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78736(P2007−78736)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)