説明

BiVO4コロイド分散液及びその製造方法

【課題】可視光領域で高い光触媒活性を有する薄膜電極等を形成することができ、しかも長時間安定な分散状態を維持することが可能なBiVO微粒子コロイド分散液及びその安価で効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】BiVO粉末を水系溶媒に分散させた懸濁液を撹拌しながらレーザー光を照射することにより、平均粒径1μm以下のBiVO微粒子を水系溶媒に分散させた、170時間静置後にも相分離を生じないBiVOコロイド分散液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域で光触媒機能を有する材料を製造するのに有用なBiVOコロイド分散液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン等種々の金属酸化物が光触媒活性を示すことは広く知られており、その抗菌性、防汚性、脱臭性等の性能を利用して建材等広い用途に用いられている。
しかしながら、二酸化チタン等の光触媒反応に利用できる光は紫外光領域に限られており、エネルギーの有効利用及び屋内での利用を実現するには、可視光領域でも利用可能な光触媒が求められている。
【0003】
最近、可視光領域でも活性を有する光触媒としてバナジン酸ビスマス(BiVO)が注目され、BiVOを主成分とする微粒子を、必要に応じて他の金属或いは金属酸化物等と組み合わせた光触媒が提案されている。(例えば、特許文献1〜4参照)
【特許文献1】特開2004−24936号公報
【特許文献2】特開2004−105957号公報
【特許文献3】特開2004−202335号公報
【特許文献4】特開2004−330047号公報
【0004】
このような光触媒から電極等の実用製品を製造する際には、通常基板等に光触媒を塗布する等により薄膜化して利用することが必要となる。そして、均質な性状を有する薄膜を形成するには、微粒子化した光触媒を安定な状態で塗布可能な分散液として得ることが重要となる。
従来、BiVOは尿素の存在下にNHVOとBi(NOを反応させる方法(特許文献1参照)や、機械的に粉砕することにより(特許文献2参照)微粒子化されていたが、長時間安定な分散状態を維持することができ、均一な性状を有する薄膜を製造することが可能な、微粒子化されたコロイド分散液を得ることはできなかった。また、機械的に粉砕した場合には、摩擦による不純物が混入するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は可視光領域で高い光触媒活性を有する薄膜電極等を形成することができ、しかも長時間安定な分散状態を維持することが可能なBiVO微粒子コロイド分散液及びその安価で効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記課題を解決するために次の構成1〜8を採用する。
1.平均粒径1μm以下のBiVO微粒子を水系溶媒に分散させたBiVOコロイド分散液。
2.コロイド分散液100mL中にBiVO微粒子を0.1〜10g含有することを特徴とする1に記載のBiVOコロイド分散液。
3.BiVO微粒子の結晶構造が単斜系であることを特徴とする1又は2に記載のBiVOコロイド分散液。
4.コロイド分散液が170時間静置後に相分離を生じないものであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のBiVOコロイド分散液。
5.BiVO粉末を水系溶媒に分散させた懸濁液を撹拌しながらレーザー光を照射することを特徴とする1〜4のいずれかに記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
6.照射するレーザーとして、波長308nmのXeClレーザーを使用することを特徴とする5に記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
7.レーザー光のパルス幅が20〜30nsであり、繰返し速度が1〜10Hzであることを特徴とする5又は6に記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
8.レーザーを照射する前に懸濁液に超音波を照射することを特徴とする5〜7のいずれかに記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、可視光領域で高い光触媒活性を有する薄膜電極等を形成することのできる、長時間安定な分散状態を維持することが可能なBiVO微粒子コロイド分散液を低コストで効率良く製造することができる。本発明のBiVO微粒子コロイド分散液はきわめて安定であり、170時間以上静置後にも相分離を生じずコロイド状態を維持することができる。また、可視光領域に近い波長308nmのXeclレーザーを低エネルギーで照射することから、BiVOの結晶構造を変化させずに微粒子コロイド分散液を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明では、BiVO粉末を水、又は少量のアルコール類等の水溶性有機溶媒を含有する水系溶媒に分散させ、攪拌しながらレーザー光を照射することによってBiVO粉末を微粒子化し、平均粒径が1μm以下、通常は10〜500nm程度のBiVOコロイド分散液を得る。
原料となるBiVO粉末は、平均粒径が10〜20μm程度のものが市販品として入手可能であり、これを利用する。この市販品を分散させた分散液は、攪拌を中止するとBiVO粉末が直ちに沈降し、相分離を生じる。
【0009】
BiVO粉末の結晶構造としては、正方晶系、単斜系が知られているが、コロイド分散液から調製される薄膜の光触媒活性の点で、結晶構造が単斜系のものを使用することが好ましい。
原料となるBiVO粉末は、水又は水系溶媒100mLに対して、0.1〜10g程度、通常は0.8〜3.2g程度、好ましくは1.2〜1.6g程度使用する。
【0010】
このBiVO粉末を分散させた水系分散液を攪拌しながら、レーザー光を照射してBiVO粉末を粉砕することにより平均粒径が1μm以下、通常は10〜500nm程度、好ましくは50〜500nm程度のBiVOコロイド分散液を得る。
照射するレーザー光としては特に制限はないが、可視光領域に近いXeClレーザーの308nm、又はYAGレーザー3倍波355nmを使用した場合には、BiVOの結晶構造を変えずに微粒子することができるので好ましい。結晶構造の変化を防ぐには、レーザー光のパルス幅は10〜50ns程度、特に20〜30ns程度、繰返し速度は1〜20Hz程度、特に10HZ程度とすることが好ましい。また、50〜100mJ/pulse程度と比較的低いエネルギーで、BiVO粉末に集光し、微粉末化することが好ましい。
【0011】
BiVO粉末を分散させた分散液には、分散性を改善するためにレーザー光を照射する前に、攪拌下に超音波を10〜30分程度照射してもよい。
分散液の攪拌は、マグネットスターラー等通常の攪拌装置を使用し、100〜1000rpm程度で行うことができる。レーザー光の照射時間は、原料となるBiVO粉末の粒径や含有量等に応じて適宜選択されるが、通常は30分〜3時間程度、好ましくは1〜2時間程度である。
【実施例】
【0012】
つぎに、実施例により本発明のBiVOコロイド分散液及びその製造方法についてさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
図1は、本発明においてBiVOコロイド分散液を製造するのに使用する装置の1例を示す模式図である。この装置1は、レーザー発生装置2、反射板(鏡)3、集光レンズ4、及び攪拌子5を備えた反応槽6により構成されている。レーザー発生装置2から照射されたレーザー光は、反射板3で反射されて方向を変更された後に集光レンズ4により集光されて、撹拌子5により撹拌され懸濁状態の反応槽6内のBiVO粉末に照射され、該粉末を微粉砕する。以下の実施例では、この装置1を使用してBiVOコロイド分散液を調製した。
また、得られたコロイド分散液中のBiVO粉末の平均粒径は、動的散乱法により次の手順で測定した。
(粉末粒径の測定)
レーザー照射したBiVO懸濁液25mLを1日静置し、その上澄液を数mL採取、全体を10mL程度になるように蒸留水で薄めた後、10秒ほど超音波照射し、その液を大塚電子製動的光散乱粒子径測定装置(DLS−7000)にて測定した。励起光源はアルゴンインレーザーでフイルター等で光量を調整し、散乱光を計測器内部の光電子増倍管で散乱光強度の揺らぎを計測、自己相関関数から粒子径を算出した。
【0013】
(実施例1)
図1に示す装置1の反応槽6内に水25mLを入れ、市販のBiVO粉末(Alfa Aesar社製、商品名「Bismuth vanadium oxide, 99.9%」:粒径10〜20μm)0.4gを分散し、撹拌子5により撹拌(100〜1000rpm)して懸濁させた。この懸濁液は、攪拌を中止すると粉末が沈降して相分離する。
この懸濁液を撹拌(100〜1000rpm)しながら、30分間超音波を照射した。ついで、エキシマレーザー(XeCl:308nm、100mJ/パルス)を焦点距離15cmで、攪拌下(100〜1000rpm)に懸濁液中のBiVO粉末にパルス幅20〜30nsで2時間照射して、コロイド分散液を得た。この分散液は、良好な安定性を有し、170時間以上静置した後にも相分離を生じなかった。このコロイド分散液中のBiVO粉末の平均粒径は、200〜400nmであった。
このコロイド分散液中のBiVO粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に、また比較のために、レーザー照射前の粉末のSEM写真を図3に示す。
【0014】
(光触媒薄膜電極の製造)
基板となる市販のFTOガラス電極(サイズ:4cm×1.5cm×1mm)をエタノールで洗浄した後に、ガラス電極表面にKOH0.05重量%を含有するエタノール溶液を1〜2滴垂らし、2000rpmで10秒間スピンコートすることにより、基板を洗浄した。
このガラス電極表面に、上記の実施例1で得られたBiVOコロイド分散液を1〜2滴垂らし、2000rpmで10秒間スピンコートした。得られた表面にBiVO被膜を有するガラス電極を乾燥機に入れて、150℃で5分間乾燥した。乾燥後に、このコロイド分散液のスピンコートと乾燥の操作を5回繰り返した後に、450℃で30分焼成することにより、表面にBiVO薄膜(厚さ:0.8〜1.0μm)が形成された光触媒薄膜電極を得た。なお、焼成温度は400〜500℃程度とすることもできる。
【0015】
この光触媒薄膜電極について、図4の光電流測定装置を使用して、つぎのようにして光触媒特性を測定した結果を、図5に実線で示す。
図4は、光電流測定装置の構成を示す模式図である。この光電流測定装置11は、電解液及び撹拌子13を収容する容量50mLのビーカー12、電解液中に浸漬される光触媒薄膜電極14、Ag/AgClを用いた参照電極15、Ptからなる対極16に接続されたポテンシオスタット17、及びXeランプからなる光源18に接続された分光器19により構成される。
【0016】
光電流を測定する際に使用する電解液としては、還元剤として1mMのKI、KSCN、KBrを含有する0.5M硫酸ナトリウム(NaSO)水溶液50mLを用いた。光電流の測定にはポテンシオスタット17を用いて、測定中にはNバブリングを行い、一室セルで測定した。
薄膜電極14(照射面積:1.5cm)の対極16にはPt、参照電極15にはAg/AgClを用い、印加電圧を+1.0Vに固定した。暗所で電流が安定するまで放置し、その後測定を開始した。光源18には150WのXeランプを使用し、薄膜電極14の基板ガラス側から光を照射した。光照射の際には、分光器19を用いて光の波長を5nmずつ変化させ、電流値が安定する60秒後の値を読み取り、その電流値とした。
【0017】
(比較例1)
以下に示す手順で、従来のゾル−ゲル法によりBiVO薄膜電極を作製した。
(1)硝酸ビスマス0.291gを酢酸10mLに溶解した硝酸ビスマスの0.3M酢酸溶液と、VO(acac)0.160gをアセチルアセトン20mLに溶解した0.03Mアセチルアセトン溶液を、当モル混合した。
(2)この溶液をFTOガラス電極に1〜2滴垂らし、4000rpm、10秒でスピンコートした。
(3)電気炉にて500℃で、30分間空気中で焼成した。
(4)空冷した後、(2)、(3)の操作を5回繰り返し、薄膜電極を作製した。
【0018】
上記手順(1)で作製した溶液は深緑色で、数時間放置しても粉末の沈澱は確認されず、コロイド溶液であることが確認された。このコロイド溶液をスピンコート後、電気炉で焼成することにより黄色の均一膜が得られ、最終的にFTOガラス電極上に約1μmの厚さの薄膜が形成された。この薄膜は、FTOガラスと非常に強く結合しており、指で擦る程度の物理力を加えても剥がすことはできなかった。
得られた薄膜電極を使用して、上記実施例1で得られた薄膜電極と同様にして、光電流を測定した結果を図5に点線で示した。図5によれば、本発明のBiVOコロイド分散液を使用して作製した光触媒薄膜電極は、従来のゾル−ゲル法により作製した光触媒薄膜電極に比較して、紫外域においてIPCE(光電変換効率:ある波長において入射した光子数に対する電子へ変換されたものの割合)が大幅に増加していることが判明した。
【0019】
(実施例2)
実施例1において、レーザーを照射する前の懸濁液として、水25mLにBiVO粉末をそれぞれ0.2g、0.6g、0.8g分散させた懸濁液を使用した以外は、実施例1と同様にしてコロイド分散液を製造した。
これらのコロイド分散液は、いずれも170時間以上静置した後にも相分離を生じず、実施例1で得られたコロイド分散液と同様に、光触媒薄膜電極を製造する原料として有用であった。
【0020】
(実施例3)
実施例1において、エキシマレーザーの照射時間をそれぞれ30分、1時間、3時間とした以外は、実施例1と同様にしてコロイド分散液を製造した。
レーザーの照射時間が1時間及び3時間のコロイド分散液は、いずれも170時間以上静置した後にも相分離を生じず、実施例1で得られたコロイド分散液と同様に、光触媒薄膜電極を製造する原料として有用であった。
これに対して、レーザーの照射時間が30分のものは、BiVO粉末の微細化が不十分であり、相分離が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明において、BiVOコロイド分散液を製造するのに使用する装置の1例を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られたコロイド分散液中のBiVO粉末のSEM写真である。
【図3】実施例1でレーザーを照射する前の懸濁液中のBiVO粉末のSEM写真である。
【図4】光電流測定装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施例1及び比較例1のコロイド分散液を使用して得られた光触媒薄膜電極について、光電流を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 コロイド分散液製造装置
2 レーザー発生装置
3 反射板
4 集光レンズ
5、13 撹拌子
6 反応槽
11 光電流測定装置
12 ビーカー
14 薄膜電極
15 参照電極
16 対極
17 ポテンシオスタット
18 光源
19 分光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1μm以下のBiVO微粒子を水系溶媒に分散させたBiVOコロイド分散液。
【請求項2】
コロイド分散液100mL中にBiVO微粒子を0.1〜10g含有することを特徴とする請求項1に記載のBiVOコロイド分散液。
【請求項3】
BiVO微粒子の結晶構造が単斜系であることを特徴とする請求項1又は2に記載のBiVOコロイド分散液。
【請求項4】
コロイド分散液が170時間静置後に相分離を生じないものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のBiVOコロイド分散液。
【請求項5】
BiVO粉末を水系溶媒に分散させた懸濁液を撹拌しながらレーザー光を照射することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
【請求項6】
照射するレーザーとして、波長308nmのXeClレーザーを使用することを特徴とする請求項5に記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
【請求項7】
レーザー光のパルス幅が20〜30nsであり、繰返し速度が1〜10Hzであることを特徴とする請求項5又は6に記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。
【請求項8】
レーザーを照射する前に懸濁液に超音波を照射することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のBiVOコロイド分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−19156(P2008−19156A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340741(P2006−340741)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】