説明

C型肝炎ウイルス由来ペプチド

【課題】 HLA−A3スーパータイプを有する患者に適用することができる,HCV関連疾患の治療法を提供すること。
【解決手段】 C型肝炎ウイルスに対する抗体により認識されるペプチドであって,以下のいずれかのアミノ酸配列:IVGGVYLLPR(配列番号1),YLLPRRGPR(配列番号2),YLLPRRGPRL(配列番号3)またはLIRACMLVR(配列番号4)を有するペプチドが開示される。これらのペプチドを有効成分として含有する,HCV関連疾患を治療するための医薬組成物,ならびにHCV関連疾患を診断するかまたはHCV関連疾患の進行を予測するための組成物も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はC型肝炎ウイルス関連疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV)は,フラビウイルス科に属する1本鎖RNAウイルスであり,HCV感染者は世界では約1.7−2億人,本邦では約150−200万人以上いるといわれている。その多くは慢性肝炎を発症し,さらに病状が進行すると肝硬変そして肝細胞癌へ移行する。慢性肝炎から年率1〜2%,肝硬変からは年率6―8%に肝細胞癌が発症する。本邦での肝細胞癌発症患者のうち約70%がHCV1bに感染している。HCV1b感染に起因する肝硬変と肝癌での年間死亡者数は4万人近くに及ぶ。
【0003】
現在,C型肝炎ウイルス慢性感染患者に対しては,インターフェロン(IFN)療法が広く行われており,全体では約30%の完全著効が得られている(Kasahara et al., Hepatology 27, 1394-1402, 1998:非特許文献1)。しかし本邦で多いとされるウイルスのタイプ(HCV1b型)はこれらの現行治療法に抵抗性であり奏効率は約50−60%である。とりわけ高ウイルス血症状態(血中RNA値が500KIU/ml以上)の慢性肝炎症例への奏効率は30%以下である。また,IFN治療の適応外の症例やIFNの有害事象により治療完了できない症例も多数存在する。インターフェロンとリバビリンの併用は,ウイルス量が多い症例でもある程度効果が認められているが,その奏功率は20%程度である(非特許文献2)。
【0004】
本発明者らは,先に,ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen: HLA)の型であるHLA−A2およびHLA−A24拘束性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識されるいくつかのペプチドと反応性を有するIgGが,HCV感染患者の大多数に検出されること,さらにこれらのペプチドが対応するHLA型を有するHCV患者の末梢血単核球(PBMC)からペプチド特異的CTLを誘導しうることを見出した。これらの結果に基づいて,HLA−A24もしくはHLA−A2を有する患者で標準治療(IFN療法もしくはリバビリン併用療法)が無効な症例に対し,HCV1b由来ペプチドを投与したところ,ペプチドによる免疫賦活作用は大多数の症例にて,またウイルス量の低下は半数以上の症例で認められた(WO2005/028503:特許文献1)。しかし,HLA−A2およびA24陽性者を対象とする抗原ペプチドは,日本人患者の7割しかカバーできない。
【0005】
HLA−A11,HLA−A31およびHLA−A33,ならびにHLA−A0301およびHLA−A6801は,類似する抗原結合モチーフを共有しており,したがって,HLA−A3スーパータイプとして分類される(Takedatsu H, et al., Clin Cancer Res 2004; 10: 1112-1120:非特許文献2)。このスーパータイプは,ヒト集団の中で比較的優勢であり,HLA−A3スーパータイプの表現型の頻度は,HLA−A6801を除き,白色人種,北アメリカのアフリカ系黒人,日本人,中国人,ヒスパニックの間でそれぞれ約30%,約35%,約44%,約52%,および約35%である(Sette, A., and Sidney, J., Immunogenetics, 50: 201-212, 1999:非特許文献3)。これまでに,HCV由来のHLA−A3スーパータイプ拘束性抗原ペプチドに関する報告はない。
【0006】
【特許文献1】WO2005/028503
【非特許文献1】Kasahara et al., Hepatology 27, 1394-1402, 1998
【非特許文献2】Takedatsu H, et al., Clin Cancer Res 2004; 10: 1112-1120
【非特許文献3】Sette, A., and Sidney, J., Immunogenetics, 50: 201-212, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,HLA−A3スーパータイプの患者に適用することができる,HCV関連疾患の治療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は,C型肝炎ウイルスに対する抗体により認識されるペプチドであって,以下のいずれかのアミノ酸配列を有するペプチドを提供する:
コア30-39:IVGGVYLLPR(配列番号1)
コア35-43:YLLPRRGPR(配列番号2)
コア35-44:YLLPRRGPRL(配列番号3)
NS2 918-926:LIRACMLVR(配列番号4)。
【0009】
好ましくは,本発明のペプチドは,HLA−A11,HLA−A31またはHLA−A33拘束性細胞傷害性T細胞を誘導することができる。
【0010】
別の観点においては,本発明は,上述の本発明のペプチドを有効成分として含有する,HCV関連疾患を有する患者を治療するための医薬組成物を提供する。好ましくは、患者HLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33を有する。本発明はまた,上述の本発明のペプチドを含有する,HCV関連疾患を診断するかまたはHCV関連疾患の進行を予測するための組成物を提供する。
【0011】
本明細書において用いる場合,「HCV関連疾患」とは,C型肝炎ウイルスの感染によって引き起こされる疾患を意味し,例えば,急性および慢性の肝炎,肝硬変,および肝細胞癌が含まれる。HCV関連疾患の進行は,典型的には,慢性肝炎から肝硬変への進行,さらに肝硬変から肝癌への進行である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は,HCVに感染したHLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33を有する患者の治療に用いることができる免疫原性HCV1b由来ペプチドを提供する。以下の実施例に示されるように,本発明においては,HCV1b関連疾患を有するHLA−A11,HLA−A31またはHLA−A33を有する患者におけるCTLの認識する抗原ペプチド(CTLエピトープ)を調べた結果,HCV−1bに広く保存されており,かつHLA−A11,A31,またはA33に結合するモチーフを有するペプチド48種の中より,4種の新規候補ペプチドが同定された。30−39番に位置するコアータンパク由来ペプチド(IVGGVYLLPR(配列番号1))はHLA−A11,A31,およびA33陽性患者末梢血単核球(PBMC)よりペプチド特異的CTLを誘導した。一方,コアータンパク由来の35−43ペプチド(YLLPRRGPR(配列番号2))および35−44ペプチド(YLLPRRGPRL(配列番号3))はHLA−A31およびA33陽性患者PBMCから,非構造タンパクNS−2由来の918−926ペプチド(LIRACMLVR(配列番号4))はHLA−A11およびA33陽性患者PBMCよりペプチド特異的CTLを誘導した。これらのペプチドに反応性のIgG抗体がHCV−1b感染患者血漿中から検出された。
【0013】
本発明のC型肝炎ウイルス由来ペプチド(HCVペプチド)は,C型肝炎ウイルス由来の蛋白質の部分アミノ酸配列を含み,かつ,患者のHLAと適合するHLA結合モチーフを配列中に含む。このペプチドは,C型肝炎ウイルス感染患者の血中抗体により認識されることができる。
【0014】
好ましくは,本発明に係るC型肝炎ウイルス由来ペプチドは,CTLを誘導することができ,このようにして誘導されたCTLは,HCV感染細胞を標的にしてこの細胞を攻撃する。
【0015】
本発明のペプチドは,所望の作用効果を奏する程度に上記のアミノ酸配列を有していればよく,付加的な配列がさらに含まれていてもよい。当業者であれば,抗原ペプチドとして所望の作用効果を奏するためには,そのN末端側およびC末端側にそれぞれどの程度の配列の付加が許容されるかを当然に理解することができる。したがって,例えば,本発明にかかるペプチドのN末端側および/またはC末端側に,免疫感作を促進するのに有用なアミノ酸配列や,製剤化を容易にするアミノ酸配列や,融合蛋白質としてペプチドを発現させるのに便利なアミノ酸配列や,ペプチドの製造および精製に便利なアミノ酸配列などが付加されていてもよい。また,本発明にかかるペプチドは,抗体との結合の特異性が失われない限り,化学的に修飾されていてもよく,ポリマーや糖鎖が付加されていてもよい。
【0016】
本発明に係るHCVペプチドは,通常の化学的合成法,タンパク分子の酵素的分解法,目的のアミノ酸配列をコードする塩基配列を発現するように形質転換した宿主を用いる遺伝子組換え技術などにより製造することができる。
【0017】
目的とするペプチドを化学的合成法で製造する場合には,通常のペプチド化学においてそれ自体公知の慣用されている手法によって製造することができ,例えば,ペプチド合成機を使用して,固相合成法により合成することができる。このようにして得られた粗ペプチドは,タンパク質化学において通常使用されている精製方法,例えば,塩析法,限外ろ過法,逆相クロマトグラフィー法,イオン交換クロマトグラフィー法,アフィニティークロマトグラフィー法などによって精製することができる。
【0018】
一方,所望のペプチドを遺伝子組換え技術で生産する場合には,例えば,合成またはクローニングした目的のアミノ酸配列をコードするDNA断片を適当な発現ベクターに組込み,この発現ベクターを用いて微生物や動物細胞を形質転換して,得られた形質転換体を培養することによって,所望のペプチドを得ることができる。使用できる発現ベクターとしては,当該技術分野において公知であるプラスミド,ウイルスベクターなどを用いることができる。
【0019】
このペプチド生産技術における発現ベクターを用いた宿主細胞の形質転換方法としては,それ自体公知の方法,例えば,塩化カルシウム法,リン酸カルシウム共沈殿法,DEAEデキストラン法,リポフェクチン法,エレクトロポレーション法などが使用でき,使用する宿主細胞に基づいて適宜選択するのがよい。得られたペプチドの精製は,培養した培地から回収した細胞抽出液もしくは培養上清から上記精製法により行うことができる。
【0020】
本発明のペプチドは,HCV関連疾患を有する患者を治療するための医薬組成物,すなわちペプチドワクチンとして有用である。C型肝炎ウイルス由来ペプチドからなるワクチンは,上記のようにして製造したペプチドを,医薬的に許容される補助剤および/または担体と適宜混合することにより調製する。補助剤としては,免疫応答を強化し得るアジュバント,例えばフロイントの不完全アジュバント,水酸化アルミニウムゲルなどを使用することができる。また,担体としては,例えば,リン酸緩衝生理食塩水(PBS),蒸留水などの希釈剤,生理食塩水などを使用することができる。
【0021】
ペプチドワクチンは,その使用形態に応じて,例えば,経口または静脈投与や皮下投与など経皮経路で投与することができる。その剤形としては,例えば,錠剤,顆粒剤,ソフトカプセル剤,ハードカプセル剤,液剤,油剤,乳化剤などが挙げられる。かかる医薬組成物の投与量は,投与する患者の症状などにより,適宜変動し得るが,一般的には,成人に対して1日当たり,ペプチド量として0.1−10mgが好ましく,投与間隔としては数日ないし数ヶ月に1回投与することが好ましい。また,ペプチドワクチンとインターフェロンとを併用してもよい。
【0022】
好ましい態様においては,投与されるC型肝炎ウイルス由来ペプチドは,患者の血液中に存在する抗HCV抗体のペプチド反応性もしくはCTLの存在に基づいて選択される。更に好ましくは抗HCV抗体のペプチド反応性とCTLの両方の存在に基づいて選択される。ここで,「抗HCV抗体のペプチド反応性」とは,投与すべきペプチドのいずれかが,患者の血液中に存在する抗HCV抗体により認識されることをいう。それぞれの患者における抗HCV抗体のペプチド反応性を検査して,各人に適するペプチドのみを投与する,いわゆるテーラーメイド型の投与により,より高い治療効果を期待することができる。癌ペプチドワクチン臨床試験における経験により,テーラーメイド型投与により二次免疫の賦活が速やかに誘導されるため,より安全により良い臨床効果が発現することが立証されている(Mine et al., Clin. Can. Res. 929-937,2004)。
【0023】
HCV関連疾患の治療効果の確認は,HCV関連疾患に罹患している被験者の血中抗体価,すなわちペプチドに対する反応性を有する抗体の血中濃度を,ELISA等の慣用の方法によりモニターすることによって行うことができる。また,HCV RNAの量をRT−PCR等の慣用の方法により測定することにより,ウイルス量をモニターすることができる。
【0024】
本発明のペプチドはまた,HCV関連疾患を有する患者を診断し,あるいは疾患の進行を予測するための組成物としても有用である。本発明のペプチドを用いて,当該技術分野においてよく知られる抗原抗体反応を用いて,被験者の血液中の抗体価を測定することができる。例えば,典型的なELISA法を用いる場合には,以下のようにして測定を行うことができる。抗原であるペプチドを96ウェルなどの慣用のELISAプレートに結合させ,非特異的吸着を防止するためにプレートを適宜ブロッキングする。次に被験者の血液から調製した血清を適宜希釈してプレートの各ウェルに加えて,所定時間反応する。プレートを洗浄して未結合成分を除去した後,ヒト抗体と結合しうる抗体(例えばウサギ抗ヒト抗体)を加える。IgGを検出することが望まれる場合には,γ鎖特異的抗ヒトIgGを用いることができる。所定時間反応した後,プレートを洗浄し,検出可能なように標識した抗体(例えば抗ウサギIgG)を加える。標識は,酵素,蛍光色素,化学発光物質,ビオチン,放射線化合物等を用いて,当業者によく知られる方法により行うことができる。プレートを所定時間反応した後,適当な基質を加えて基質の減少もしくは生成物の増加を測定するか,または蛍光,発光,放射活性を測定することにより,標識を検出する。このようにして,被験者の血清における特定のペプチドに対する抗体の量を測定することができる。さらに,抗体の量をモニターすることにより,HCV関連疾患の進行の予測を行うことができる。
【0025】
このような抗原抗体反応により抗体を検出する方法のうち,感度の高い方法の1つとしてxMAP技術がある。これは,Luminex社が開発した蛍光マイクロビーズアレイシステムによるフローメトリー測定法であり,ペプチドを結合させたマイクロビーズと血清とを接触させ,次に,蛍光標識二次抗体を結合させて,フローメトリーにより蛍光強度を測定する。
【0026】
また,病院の検査室などで抗体価を測定する場合には,免疫クロマト法を用いることができる。この方法は,試験紙上に抗原(または抗体)を線状に分布させた部分を作っておき,検体中の抗体と着色粒子で標識された抗原との複合体が試験紙上を移動する際に,抗原(または抗体)に集中的に捕捉されることで現れる色付きのラインの有無によって定性分析を行う方法である。この方法を用いれば,簡便な設備で短時間(20〜30分以内)に結果を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし,これらの実施例は本発明をより具体的に説明するために例示的に示したものであり,本発明は実施例により限定されるものではない。
【0028】
被験者
HLA−A3スーパータイプを有するHCV1b感染患者および健康なドナーを被験者とした。これらの被験者は,HLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33のいずれかのHLAタイプを有しており,いずれもHIVには感染していなかった。末梢血単核細胞(PBMC)を得るためには,20mlの末梢血を採取し,フィコール−コンレー密度勾配遠心分離によりPBMCを調製した。すべてのサンプルは実験に用いるまで低温保存した。HCV1b患者のPBMCにおけるHLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33分子の発現は,以下の抗体を用いてフローサイトメトリーにより測定した:抗HLA−A11モノクローナル抗体(mAb)(Cat#0284HA;One Lambda Inc.,Canoga,CA),抗HLA−A31mAb(Cat#0273HA;One Lambda),および抗HLA−A33mAb(Cat#0612HA;One Lambda)。
【0029】
細胞株
使用した細胞株,C1R−A11,C1R−A31,およびC1R−A33は,それぞれHLA−A1101,HLA−A3101,およびHLA−A3303遺伝子で恒常的にトランスフェクトされたC1Rリンパ腫のサブラインである。これらのサブラインにおけるHLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33分子の発現は先に報告されている(Takedatsu H, et al., Clinical Cancer Research 2004; 10: 1112-20)。すべての細胞株は10%FCSを含むRPMI1640(Invitrogen)中で維持した。
【0030】
ペプチド
HLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33分子の結合モチーフ(Parker KC et al., J Immunol 1994; 152: 163-75)に基づいて,47種類のHCV−1b蛋白質由来ペプチドを用意した。すべてのペプチドはBiologica Co.(Nagoya,Japan)より購入し,90%以上の純度であった。HLA−A3スーパータイプに結合する対照ペプチドとして,インフルエンザ(Flu)ウイルス由来ペプチド(NVKNLYEKVK(配列番号5)),エプスタインバーウイルス(EBV)由来ペプチド(AVFDRKSDAK(配列番号6)),チロシナーゼ関連蛋白質2(TRP2)由来ペプチド(LLGPGRPYR(配列番号7)),およびHIV由来ペプチド(RLRDLLLIVTR(配列番号8))を用いた。すべてのペプチドはジメチルスルホキシドで溶解後,10μg/mlに希釈して用いた。
【0031】
統計学
統計学的分析は,スチューデントt検定を用いて行った。P<0.05の値を統計学的に有意とした。
【0032】
ペプチド特異的IgGの検出
最初に,HCV−1bに感染した12名の患者の血清の1:100希釈サンプルを用いて,48種のペプチドのそれぞれに対して反応性のペプチド特異的IgGのレベルを測定した。ペプチド特異的IgGの血漿レベルは,先に記載された方法にしたがってルミネックス(登録商標)法により測定した(Komatsu N. et al., Scand J Clin Lab Invest, 64, 535-546, (2004))。簡単には,200μLの血漿(1:100希釈)を25μLのペプチド結合カラーコードビーズ(Luminex Corp.(Austin,TX))とともに96ウエルフィルタープレート(MABVN1250;Millipore Corp.,Bedford,MA)中で,プレート振盪器で室温にて2時間インキュベートした。2時間後,プレートを0.05% Tween 20−PBSで洗浄し,100μLのビオチン化ヤギ抗ヒトIgGとともにプレート振盪器で室温にて1時間インキュベートした。次に,プレートを洗浄し,100μLのストレプトアビジン−PE(5μg/ml)をウエルに加え,プレート振盪器で室温にて30分間インキュベートした。蛍光強度(FI)をルミネックス(登録商標)により測定し,ペプチド特異的抗体のレベルを求めた。15名の健康なドナーの血漿を負対照として用いた。カットオフFI値は,健康なドナーのFI値の平均+2SDより高い値として決定した。
【0033】
その結果,HCVコア30−39,35−43,35−44,およびHCVNS2918−926ペプチドに対して反応性のIgGが,12名の患者中それぞれ7,7,7,および9名の血漿において検出された。これに対し,これらの各ペプチドは,15名の健康なドナーのいずれからの血漿にも反応性ではなかった。患者における,HCVコア30−39,HCVコア35−43,35−44,およびHCVNS2916−926ペプチドに対して反応性である平均IgGのレベルは,それぞれ健康なドナーに比べて統計学的に有意に高かった(図1)。
【0034】
HCV1b感染患者のPBMCからのペプチド特異的CTLの誘導
HCV1b感染患者血中のIgGにより高頻度に認識された上述の4種類のペプチドがHLA−A11,HLA−A31,もしくはHLA−A33を有するHCV−1b患者のPBMCからペプチド特異的CTLを誘導しうるか否かを調べた。PBMCをインビトロでHCV由来ペプチドまたは対照ペプチドで刺激・培養し,対応するペプチドをパルスしたC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞に対する反応性をIFN−γ産生を指標として調べた。
【0035】
ペプチド特異的CTLを検出するためのアッセイは,先に報告されている方法にしたがい,若干の改変を加えた(Hida N et al., Cancer Immunol Immunother 2002; 51: 219-28)。簡単には,PBMC(1×105細胞/ウエル)をU底96ウエルマイクロカルチャープレート(Nunc,Roskilde,Denmark)で200μlの培養液中で,10μl/mlの各ペプチドとともにインキュベートした。実験は4重に行った。培養液は,45%RPMI1640,45%AIM−V培地(Gibco−BRL,Gaithersburg,MD),10%FCS,100U/mlのインターロイキン−2(IL−2),および0.1mM MEM非必須アミノ酸溶液(Gibco−BRL)からなるものであった。3日ごとに,培養液の半分を除去し,対応するペプチド(10μg/ml)を含む新たな培地に置き換えた。培養第15日に,培養細胞の半分を,対応するペプチドでパルスしたC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞で刺激し,残りの半分の細胞はHIVペプチドでパルスしたC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞とともに培養した。18時間のインキュベートの後,上清を回収し,ELISAによりIFN−γのレベルを測定した。
【0036】
対応するペプチドでパルスしたC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞に応答して,対照群のHIVペプチドでパルスしたC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞と比較してP値が0.05より低い場合に,かつ50pg/mlより多いIFN−γが産生された場合に,ペプチド特異的CTLの誘導が成功したと判定した。その結果,HCVペプチド(コア蛋白質の30−39,35−43,および非構造蛋白質2の918−926)では,それぞれ,HLA−A11陽性HCV1b患者の3/7,0/7,および2/7,HLA−A31陽性HCV1b患者の1/4,0/4,および0/4,HLA−A33陽性HCV−1b患者の3/5,3/5,および3/5のPBMCから,対応するペプチドに反応性のCTLが誘導された(図2)。
【0037】
HCVコア35−44ペプチドがHLA−A2拘束性CTLを誘導しうることは既に知られている(Takao Y et al., Microbiol. Immunol., 48(7), 507-517, 2004)。上述の結果は,HCVコア35−43ペプチドがHLA−A3スーパータイプ陽性のHCV1b患者からもCTLを誘導しうることを示す。
【0038】
次に,HCVコア35−44ペプチドがHLA−A3スーパータイプ拘束性CTLを誘導しうるか否かを調べた。HLA−A2およびHLA−A3スーパータイプ陽性のHCV1b患者のPBMCを,インビトロでHCVコア35−43および35−44ペプチドまたは対照ペプチドで刺激して,対応するペプチドをパルスしたT2(HLA−A2を有する),C1R−A11,C1R−A31,C1R−A33細胞に応答したIFN−γ産生について調べた。その結果,コア蛋白質35−44のペプチドは,HLA−A11陽性HCV1b患者(0/7),HLA−A31陽性HCV1b患者(1/2),およびHLA−A33陽性HCV−1b患者(1/2)のPBMCからペプチド反応性CTLを誘導した(図2)。陽性対照として,HCVコア35−43またはコア35−44ペプチドは,それぞれHLA−A2陽性HCV−1b患者3名中0名または3名中2名においてペプチド特異的CTLを誘導した(データ示さず)。
【0039】
これらの知見は,HCVコア30−39,35−43,コア35−44,およびHCVNS2918−926ペプチドがHLA−A11,HLA−A31またはHLA−A33を有するHCV−1b患者のPBMCにおいてペプチド特異的CTLを誘導しうることを示す。
【0040】
ペプチド刺激PBMCの細胞傷害活性
ペプチドで刺激したPBMCを,標準的な6時間の51Cr−放出アッセイにより,対応するペプチドまたはHIVペプチドのいずれかで予めパルスしたC1R−A11,C1R−A31,およびC1R−A33細胞に対する細胞傷害活性について調べた。ウエルあたり2000個の51Cr標識細胞をエフェクター細胞とともに,所定のエフェクター/標的細胞比で96丸底ウエルプレートで培養した。特異的51Cr−放出は,以下の式にしたがって計算した:(試験群c.p.m.−自然放出c.p.m.)。自然放出はエフェクター細胞なしでインキュベートした標的細胞の上清により決定した。総放出は,1% Triton−X(Wako Pure Chemical Industries,Osaka,Japan)とともにインキュベートした標的細胞の上清により決定した。いくつかの実験においては,培養の最初に,10μg/mlの抗HLA−クラスI(W6/32:マウスIgG2a),抗HLA−DR(L243:マウスIgG2a),抗CD4(NU−TH/I:マウスIgG1),抗CD8(NU−TS/C:マウスIgG2a),または抗CD14(H14:マウスIgG2a)モノクローナル抗体をウエルに加えた。
【0041】
HCVペプチドで刺激・培養したHLA−A3スーパータイプ陽性のPBMCは,対応するペプチドを予め負荷したC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞に対して細胞傷害活性を示すことができたが,HIVペプチドについては示さなかった(図3)。
【0042】
さらに,各ペプチドでパルスしたC1R−A11,C1R−A31,またはC1R−A33細胞に対する細胞傷害活性は,HLA−クラスI(W6/32)またはCD8モノクローナル抗体(mAb)により阻害されるが,試験したHLA−クラスII(DR−1)またはCD4またはCD14mAbでは阻害されなかった。このことは,ペプチド特異的細胞傷害活性は主としてCD8+T細胞によりHLA−クラスI拘束性に発現することを示す(図4)。
【0043】
以上の結果より,これら4種のペプチドはHLA−A11,HLA−A31,またはHLA−A33陽性のHCV−1b関連疾患患者に対するペプチド免疫療法に有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のペプチドはHCV関連疾患の治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は,HCV感染患者におけるペプチド特異的IgGの検出を示す。
【図2】図2は,HCV1b患者のPBMCからのペプチド特異的CTLの誘導を示す。
【図3】図3は,ペプチドを予め負荷した細胞に対するペプチド刺激PBMCの細胞傷害活性を示す。
【図4】図4は,ペプチドを予め負荷した細胞に対するペプチド刺激PBMCの細胞傷害活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C型肝炎ウイルスに対する抗体により認識されるペプチドであって,配列番号1−4のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項2】
HLA−A11,HLA−A31またはHLA−A33拘束性細胞傷害性T細胞を誘導しうる,請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のペプチドを有効成分として含有する,HCV関連疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載のペプチドを有効成分として含有する,HLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33を有する患者においてHCV関連疾患を治療するための医薬組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のペプチドを含有する,HCV関連疾患を診断するかまたはHCV関連疾患の進行を予測するための組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載のペプチドを含有する,HLA−A11,HLA−A31,およびHLA−A33を有する患者においてHCV関連疾患を診断するかまたはHCV関連疾患の進行を予測するための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−18990(P2009−18990A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310203(P2005−310203)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】