説明

C型肝炎検査方法およびC型肝炎検査装置

【課題】容易かつ正確にC型肝炎の進行度を把握できるC型肝炎検査方法およびC型肝炎検査装置を提供すること。
【解決手段】C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査方法であって、被験者から採取した血液から血清試料を取得する血清取得ステップS2と、血清試料を、ゲルに点着させる血清点着ステップS4と、血清試料に含まれる成分をゲル内に拡散、凝集させて凝集物を形成させる凝集物形成ステップS5と、ゲルにおける血清試料の点着位置から凝集物の拡散方向に沿った当該凝集物の分布を測定する分布測定ステップS6と、分布測定ステップS6で検出された凝集物の分布に基づいて、前記被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する進行度判定ステップS7とを有する。これによれば、凝集物の分布に基づいて、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を、正確かつ客観的に把握することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C型肝炎の罹患の有無や進行度、例えば、慢性肝炎、慢性活動性肝炎および肝硬変等を判定するC型肝炎検査方法、および、当該C型肝炎検査方法に用いられるC型肝炎検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒトに対するC型肝炎ウイルスの感染の有無を検出する方法が知られている。このようなC型肝炎の検査方法としては、HCV(C型肝炎ウィルス)抗体検査やHCV−RNA検査等が知られている。これらの検査は、それぞれ単独の1回の検査では、C型肝炎の罹患の有無や病態を正確にとらえることができないという問題があった。
【0003】
また、HCV抗体検査においては、クリオグロブリンなどの妨害物質があり、検査精度が低いという問題がある。また、HCV−RNA検査においては、C型肝炎罹患者の血中ウイルス密度が低いため検出精度が高くないという問題がある。また、これらの検査においては、検査者の手技が煩雑で、コストが高いなどの問題もあった。
【0004】
このような問題に対して、本発明者らによって提案されたC型肝炎の検査方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この検査方法では、ゲル状プレートの表面に凹部を形成し、当該凹部に被験者から採取した血液の血清試料(血清成分)を点着する。そして、当該血清試料が点着されたプレートを冷却して、血清試料中に存在するHCV、および、その免疫複合体をリング状に凝集させ、濃縮によってC型肝炎ウイルスの有無を検査する。これによれば、簡単な装置と簡単な操作で、血清中のC型肝炎ウイルスの有無を安価に調べることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−43047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたC型肝炎ウイルスの濃縮検査法では、C型肝炎の罹患の有無を判定できるものの、当該C型肝炎の進行度を把握するのに充分でないという問題がある。
すなわち、C型肝炎の進行度を把握するには、前述の各種C型肝炎の検査方法の他に、血液中のALT(Alanine Aminotransferase)、AST(Asparate Aminotransferase)等の酵素活性を測定した上で、肝機能の障害度を判断したり、ChE等の酵素活性やヒアルロン酸を測定した上で、肝臓の線維化を判断したり、α―フェトプロテイン測定を行った上で、肝再生状態を判断したりする必要がある。また、これらの他に、免疫グロブリン検査や胆汁検査などの経時的変化から総合的に判断する必要があった。このため、C型肝炎の進行度を把握するには、多数の検査を組み合わせて行う必要があり、検査工程が複雑かつ煩雑であるという問題がある。
また、C型肝炎の進行度の診断においても、専門家の高度な熟練が必要であり、当該進行度を容易に把握することができないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、容易に、かつ、正確にC型肝炎の進行度を把握できるC型肝炎検査方法およびC型肝炎検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した目的を達成するために、本発明のC型肝炎検査方法は、C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査方法であって、被験者から採取した血液から血清試料を取得する血清取得ステップと、前記血清試料を、ゲルに点着させる血清点着ステップと、前記血清試料に含まれる成分を前記ゲル内に拡散させ、当該成分を凝集させて凝集物を形成させる凝集物形成ステップと、前記ゲルにおける前記血清試料の点着位置から前記成分の拡散方向に沿った前記凝集物の分布を測定する分布測定ステップと、前記分布測定ステップで検出された前記凝集物の分布に基づいて、前記被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する進行度判定ステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、C型肝炎の罹患の有無および進行度を容易に判定することができる。
すなわち、血清取得ステップで、被験者から取得した血液から血清試料を取得し、血清点着ステップで、取得した血清試料をゲルに点着させる。そして、凝集物形成ステップで、血清試料に含まれる成分をゲル内に拡散させるとともに、当該成分を凝集させて凝集物を形成させる。この後、分布測定ステップで、ゲル内の凝集物の分布を測定し、進行度判定ステップで、当該凝集物の分布に基づいてC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する。
これによれば、被験者から取得した血清試料を点着させたゲルから、当該血清試料に含まれる成分に由来する凝集物の分布を測定することにより、C型肝炎の進行度を判定することができる。すなわち、被験者の血清試料の成分に由来する凝集物のゲル内での分布から、当該凝集物の局在性や密度分布の傾向等を判定することにより、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定することができる。このため、前述した肝臓の状態検査等の複数の検査を組み合わせることなく、C型肝炎の罹患の有無および進行度を判定することができる。従って、検査者の特別な手技や診断能力を要することなく、簡易に、かつ、正確にC型肝炎の罹患の有無および進行度を把握することができる。
【0010】
さらに、ゲルにおける凝集物の分布を測定することにより、各凝集物の定性分析や定量分析を行うことができる。
すなわち、ゲル内に形成された各凝集物は、当該ゲルに点着された血清試料中のHCVおよび免疫複合体が拡散しつつ凝集することで形成されるため、血清試料が点着された点着位置からの距離に応じて、それぞれの凝集物を分類することができる。このため、当該点着位置からの距離に応じた凝集物の分布を測定することで、ゲル内に形成された凝集物の中に、所定の凝集物が含まれるか否かを判定することができる。
また、前述のように、血清試料の点着位置からの距離に応じて凝集物の分類が可能であるので、例えば、ゲルにおける点着位置からの吸光度の測定や、所定の凝集物と特異的に反応し、蛍光を発する標識物質を結合させて得られる蛍光量の測定等により、凝集物の種別ごとの定量を行うことができる。
【0011】
本発明では、前記進行度判定ステップは、前記分布測定ステップで検出された前記凝集物の分布と、C型肝炎非罹患者に係る前記凝集物の平均的な分布パターンおよびC型肝炎の進行度に応じた前記凝集物の平均的な分布パターンとを比較して、前記被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定することが好ましい。
【0012】
ここで、血清試料をゲルに点着させ、当該血清試料に含まれる成分をゲル内で拡散および凝集させた場合、当該成分に由来する凝集物の分布は、C型肝炎の罹患の有無および進行度で異なるパターンを示す。このため、進行度判定ステップで、被験者に係る凝集物の分布と、C型肝炎非罹患者、慢性肝炎患者、慢性活動性肝炎患者および肝硬変患者に係る凝集物の平均的な分布パターンとを比較し、被験者に係る凝集物の分布の特徴が、どの分布パターンの特徴に該当するかを判定することで、C型肝炎の罹患の有無および進行度を容易に判定することができる。また、被験者に係る凝集物の分布の特徴と、各分布パターンの特徴とを比較するので、被験者に係る凝集物の分布のみからC型肝炎の罹患の有無および進行度を診断する場合に比べ、検査者の特別な診断能力を要することなく、当該罹患の有無および進行度を客観的に判定することができる。従って、C型肝炎の罹患の有無および進行度を、一層容易に、かつ、客観的に把握することができる。
【0013】
本発明では、前記ゲルに光束を照射する光源と、前記光源により光束が照射された前記ゲルから射出される光束の強度を検出する検出手段とを備え、前記分布測定ステップは、前記ゲルから射出される光束の強度を前記検出手段により検出し、検出された前記光束の強度に基づいて前記凝集物の分布を取得することが好ましい。
本発明によれば、被験者から取得した血清試料に含まれ、ゲル内に拡散する成分に由来する凝集物の分布を、より簡易に取得することができる。
【0014】
ここで、ゲル内に拡散した血清試料中の成分に由来する凝集物の分布を測定するには、凝集物に対して、当該凝集物に特異的に反応する抗体、および、当該抗体に蛍光や放射線等を発する標識物質を結合させ、これら抗体および標識物質が結合した凝集物から発せられる蛍光や放射線量を測定することで、凝集物の分布を測定する方法がある。しかしながら、このような方法では、抗体および標識物質が必要になるだけでなく、凝集物と反応させた後に、蛍光や放射線量を測定する必要があり、検査工程を複雑化および煩雑化させる要因となる。
【0015】
これに対し、本発明では、光源および検出手段を用いて、凝集物が形成されたゲルから射出される光束の強度を直接測定することにより、当該凝集物の分布を決定することができる。これによれば、前述の抗体および標識物質を用いた場合に比べ、凝集物の分布を簡易に取得することができる。また、抗体および標識物質を作用させる必要がないので、検査時間を短縮することができる。従って、検査工程をより簡略化することができ、検査時間の短縮化を図ることができる。また、検出される光束の強度から、凝集物の定性および定量分析を簡易に行うことができる。
なお、ゲルから射出される光束は、当該ゲルを透過した光束、および、ゲルから反射した光束のどちらでもよい。
【0016】
本発明では、前記凝集物形成ステップは、0〜15℃の温度範囲内で前記血清試料が点着された前記ゲルを保温することが好ましい。さらに、前記凝集物形成ステップは、前記ゲルを4℃近傍の温度で保温することがより好ましい。
本発明によれば、凝集物形成ステップの実施温度を、0〜15℃の温度範囲内とすることにより、血清試料中に含まれるHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を、効率よく、かつ、確実に行うことができる。
【0017】
すなわち、HCVおよび免疫複合体は、環境温度が高いと凝集しづらく、また、環境温度が0℃以下であると、ゲル中の水分が凍結してしまい、当該HCVおよび免疫複合体の拡散が生じづらくなる。さらに、15〜37℃では、血清試料中のHCVおよび免疫複合体の凝集の速度が遅くなり、また、凝集によって生成される凝集物の生成量が少なくなり、当該凝集物の検出精度が低下してしまう。これに対し、0〜15℃の温度範囲で、血清試料が点着されたゲルを保温することにより、当該血清試料中に含まれるHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を確実に、かつ、効率よく生じさせることができ、また、凝集物の融解を防ぐことができる。
また、凝集物形成ステップの実施温度を、4℃近傍の温度とすることにより、血清試料を充分に低温な状態とすることができるので、当該血清試料中に含まれるHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を、より確実に生じさせることができる。従って、C型肝炎の検査精度を向上することができる。
【0018】
本発明では、前記凝集物形成ステップは、6時間以上行われることが好ましい。また、凝集物形成ステップは、12〜24時間行われることがより好ましい。
本発明によれば、凝集物形成ステップを6時間以上行うことにより、ゲルに点着された血清試料中に含まれるHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を、確実に生じさせることができる。
【0019】
ここで、凝集物形成ステップを6時間未満の時間で実施した場合では、凝集物形成が完了せず、ゲル内での当該凝集物の分布の検出精度が低下する。また、当該凝集物の形成は、24時間でほぼ完了するため、後に行われる分布測定ステップでゲル内における凝集物の分布を測定するには、凝集物形成ステップを6時間以上24時間以下の時間で行えば充分であり、当該凝集物形成ステップを24時間を越える時間行うことは、C型肝炎検査の検査時間を長引かせることとなる。
【0020】
これに対し、凝集物形成ステップを12〜24時間行うことにより、拡散したHCVおよび免疫複合体の分子の大きさや凝集の速さ等に応じて得られる凝集物の分布を、より適切に、かつ、顕著に測定することができる。従って、HCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を確実に生じさせることができ、また、凝集物の分布をより明確に測定することができるので、検査精度を一層向上することができる。また、これにより、C型肝炎検査の検査時間の短縮を図ることができる。
【0021】
本発明では、前記血清点着ステップの前に、前記血清取得ステップで取得した前記血清試料を、30〜40℃の温度範囲内で保温する血清保温ステップを有することが好ましい。また、血清保温ステップは、人体の体内温度に略一致する37℃付近の温度で行われることがより好ましい。
本発明によれば、被験者から取得した血清試料のゲルへの点着の前に、血清保温ステップで、当該血清試料を30〜40℃の温度範囲内で保温することにより、次に実施される凝集物形成ステップでのHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を効率よく行わせることができる。
【0022】
ここで、血清試料を30℃未満の温度で保温した場合、当該血清試料中のHCVおよび免疫複合体の中には凝集を開始してしまうものもあり、凝集物形成ステップでのHCVおよび免疫複合体の拡散が効果的に行われない場合がある。また、血清試料を40℃より高い温度で保温した場合、例えばパイログロブリンなどが稀に凝集物を形成する恐れがあるため、40℃より高い温度で血清試料を保温することは好ましくない。
このため、HCVおよび免疫複合体を拡散および凝集させる前に、体温状態で保温することにより、既に形成された凝集物を再融解することができるとともに、これらを活性状態に保つことができ、凝集物形成ステップでのHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集の効率を向上させることができる。
【0023】
また、この際、血清保温ステップを37℃付近の温度で行うことにより、人体の体内温度と略同じ温度とすることができ、HCVおよび免疫複合体の活性を至適状態とすることができるので、凝集物の形成を一層効率よく行うことができる。
従って、当該凝集物の分布の検出精度を向上することができ、ひいては、C型肝炎の検査精度を向上することができる。また、凝集物の形成効率を向上することができるので、検査に必要な血清試料の量を低減することができる。
【0024】
本発明では、前記ゲルは、アガロースを含んで構成され、前記血清試料を点着させるための凹状の試料注入部を有する平板状に形成されていることが好ましい。
本発明によれば、HCVおよび免疫複合体の拡散を生じさせるゲルが、アガロースを含むアガロースゲルとして構成されているので、分子篩効果により、HCVおよび免疫複合体の分子の大きさや凝集の速さ等に応じた拡散を効率よく行わせることができる。従って、ゲル内で拡散したHCVおよび免疫複合体に由来する凝集物の種別に応じた分布をより正確に検出することができ、C型肝炎の検査精度をより一層向上することができる。
また、ゲルには、試料注入部が形成されていることにより、血清試料の点着を容易に行うことができるほか、当該ゲルは平板状に形成されているので、ゲルの形成および取扱いを容易に行うことができる。
【0025】
また、本発明のC型肝炎検査装置は、C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査方法に用いられるC型肝炎検査装置であって、前記血清試料が所定の点着点から拡散したゲルから、前記血清試料に含まれる成分が凝集して形成される凝集物の分布を測定する分布測定手段と、前記分布測定手段で測定された前記凝集物の分布を出力する分布出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、前述のC型肝炎検査方法と同様の効果を奏することができる。
すなわち、被験者から取得した血液の血清試料が点着され、当該血清試料に含まれる凝集物が拡散したゲルから、分布測定手段がゲルにおける凝集物の分布を測定し、分布出力手段が当該凝集物の分布を出力することにより、当該凝集物の分布に基づいて、被験者のC型肝炎の進行度を判定することができる。
これによれば、検査工程を簡略化できるだけでなく、検査者の特別な手技や診断能力を要せずに、C型肝炎の進行度を客観的に把握することができる。従って、C型肝炎検査を一層簡易に行うことができる。また、ゲル内にて形成された凝集物の定性および定量分析を行うこともできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、被験者から取得した血液の血清試料に含まれるHCVおよび免疫複合体をゲル内で拡散させ、当該HCVおよび免疫複合体に由来する凝集物のゲル内での分布を測定することにより、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を把握することができる。これによれば、複雑な肝臓の状態検査等を組み合わせる必要がないので検査工程を簡略化できるだけでなく、検査者の特別な手技や診断能力、および、特別な装置を要することがなく、C型肝炎の罹患の有無および進行度を検出することができる。従って、C型肝炎の罹患の有無だけでなく、C型肝炎の進行度を把握することができ、また、検査自体を容易かつ正確に行うことができる。さらに、ゲル内にて形成された凝集物の定性および定量分析を行うことも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
(1)C型肝炎検査装置1の構成
図1は、本実施形態のC型肝炎検査装置1の全体構成を示す図である。
本実施形態のC型肝炎検査装置(以下、「検査装置」と略す場合がある)1は、被験者の血液から分離した血清試料が点着されたゲルプレート9から、当該血清試料中の成分であるHCVおよび免疫複合体に由来し、ゲルプレート9内で形成された凝集物の分布を測定し、当該凝集物の分布から、被験者のC型肝炎の罹患有無および進行度を判定して、判定結果および凝集物の分布を出力する。
【0029】
この検査装置1は、図1に示すように、ゲルプレート9を恒温状態で保温する恒温室2と、ゲルプレート9に光束を照射する光源3と、ゲルプレート9を透過した光束を検出する検出手段4と、操作手段5と、結果出力手段6と、操作手段5に対する操作に応じて恒温室2、光源3および検出手段4を制御するとともに、検査結果を結果出力手段6に出力する検査装置本体7とを備えて構成されている。
【0030】
恒温室2は、検査装置本体7による制御下で、室内を恒温状態に保つ。すなわち、この恒温室2内に載置されたゲルプレート9は、恒温状態に保たれる。この恒温室2は、少なくとも0〜15℃および30〜40℃の温度調節が可能に構成されており、温度設定がなされた場合には、当該温度設定が変更されるまでは、設定された温度で室内を保温するように構成されている。例えば、恒温室2は、後述するC型肝炎検査方法において、恒温室2内にて血清試料をゲルプレート9に点着させる際には、室内を30〜40℃の温度範囲に保つことができるように、また、ゲルプレート9に点着された血清試料中のHCVおよび免疫複合体の拡散および凝集を行わせる際には、室内を0〜15℃の温度範囲に保つことができるように構成されている。
【0031】
光源3は、恒温室2内に載置されたゲルプレート9に対して、当該ゲルプレート9の軸方向に平行な方向からレーザ光を照射する。このゲルプレート9の軸方向に平行な方向は、後述するゲルプレート9内での凝集物の拡散方向に直交する方向となる。このような光源3として、Arレーザや、He−Neレーザ等のレーザ光を照射するレーザ光源が採用されている。
検出手段4は、光源3から照射され、ゲルプレート9を透過した光束の強弱を検出する。このような検出手段4として、光源3から入力するレーザ光の強度を検出可能な検出装置が採用されている。
【0032】
操作手段5は、キーボードやポインティングデバイス等から構成され、検査者が後述する検査装置本体7に対して検査条件等を入力できるように構成されている。この操作手段5は、入力された検査条件等を検査装置本体7に出力する。
結果出力手段6は、検査装置本体7に接続され、当該検査装置本体7から入力する検査結果を出力する。この検査結果には、検査装置本体7によるC型肝炎の罹患の有無および進行度を示す判定結果と、ゲルプレート9における被験者の血清試料に係る凝集物の分布パターンとが含まれ、結果出力手段6は、当該判定結果および分布パターンを出力する。すなわち、結果出力手段6は、本発明の分布出力手段に相当する。なお、本実施形態では、結果出力手段6を、分布パターン等の画像や文字情報を表示可能な画像表示装置で構成したが、当該検査結果を印刷出力する印刷装置、フレキシブルディスクドライブやフラッシュメモリ等の記録媒体に検査結果を記録する記録装置で構成することも可能である。
【0033】
(2)ゲルプレート9の構成
図2は、ゲルプレート9の一例を示す図である。また、図3は、被験者から取得した血清試料中のHCVおよび免疫複合体が拡散し、凝集物を形成したゲルプレート9の一部を平面的に見た際の部分拡大図である。
ゲルプレート9は、アガロースを含むアガロースゲルとして構成され、当該アガロースゲルをシャーレ等の容器内で凝固させた平面視略円形の平板状体である。このゲルプレート9の略中央には、図2に示すように、平面視略円形状で凹状の試料注入部91が形成されている。この試料注入部91には、後述するC型肝炎検査方法における血清保温ステップS3で30〜40℃で保温された血清試料が点着され、当該血清試料はゲルプレート9内に染み込む。そして、詳しくは後述するが、血清試料が点着されたゲルプレート9は、凝集物形成ステップS5で低温状態に保温されると、血清試料に含まれるHCVや免疫複合体が試料注入部91から放射状に拡散し、これらが凝集して沈降する。そして、分布測定ステップS6において、図3に示す測定領域MAの透過光束の強度を測定することで、HCVおよび免疫複合体に由来する凝集物の分布が取得される。
なお、本実施形態のゲルプレート9は、以下に示す材料を基に、以下の方法で作成することができるが、他の製法により作成したものでもよい。
【0034】
(組成物A)
NaCl : 800mg
KCl : 200mg
リン酸一水素ナトリウム : 1150mg
リン酸ニ水素ナトリウム : 200mg
【0035】
(組成物B)
アジ化ナトリウム : 0.75g
グリシン : 56.25g
アガロース : 4.50g
【0036】
上記組成物A,Bを、750mlの蒸留水に加えて充分に攪拌した後、沸騰湯浴中で溶解させる。この際、所定時間ごとにスターラで撹拌して、均一なアガロース溶液とする。これら組成物A,Bの溶解後、当該アガロース溶液を直径30mmのシャーレに注ぎ、室温で凝固させて、ゲルプレート9を形成する。このゲルプレート9に、直径5mmの試料注入部91を当該ゲルプレート9から抜き取るなどして形成し、当該ゲルプレート9を冷蔵保存する。
なお、図2においては、試料注入部91は、1つのゲルプレート9に1つ形成されているが、2つ以上形成してもよい。また、試料注入部91は、アガロース溶液の凝固前に、試料注入部91の形状に応じた部材を埋め込み、アガロースゲル溶液の凝固後に、当該部材を除去しても形成することができる。
【0037】
(3)検査装置本体7の構成
図4は、検査装置本体7の内部構成を示すブロック図である。
検査装置本体7は、前述のように、操作手段5の操作に応じて恒温室2、光源3および検出手段4の動作を制御するとともに、ゲルプレート9を透過し、検出手段4で得られた光束の強度に基づいて、当該ゲルプレート9に点着された血清試料に係る被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する。この検査装置本体7は、図4に示すように、制御手段71、分布測定手段72、進行度判定手段73および記憶手段74を備えて構成されている。
【0038】
このうち、記憶手段74は、検査装置本体7の駆動やC型肝炎検査時に必要な各種データが記憶されている。このような記憶手段74には、C型肝炎の各進行度に応じたHCVおよび免疫複合体に由来する凝集物の平均的な分布パターンを記憶するパターン記憶部741が設けられている。
【0039】
図5〜図8は、C型肝炎の進行度に応じたゲルプレート9内での各血清試料に係る凝集物の平均的な分布パターン(モデルパターン)の一例をそれぞれ示す図である。具体的に、図5はC型肝炎非罹患のモデルパターンであり、図6は慢性肝炎のモデルパターンであり、図7は慢性活動性肝炎のモデルパターンであり、また、図8は肝硬変のモデルパターンである。なお、これら図5〜図8において、縦軸は、透過レーザ光の強度から導き出されるグレイ値(gray value:値が大きくなるほど、透過光量が小さくなる)を示し、横軸は、試料注入部91からの凝集物の沈降位置をピクセル単位で示している。
【0040】
パターン記憶部741には、図5〜図8に示すC型肝炎非罹患者、慢性肝炎患者、慢性活動性肝炎患者、および、肝硬変患者に係る血清試料をゲルプレート9内に拡散させた場合の各血清試料中のHCVおよび免疫複合体に由来する凝集物の平均的な分布パターン(モデルパターン)を記憶している。なお、パターン記憶部741に記憶されている各モデルパターンは、予め検査装置本体7で後述するC型肝炎検査を実行し取得された分布パターンであり、当該モデルパターンの取得時の検査条件は、後述するC型肝炎検査方法の検査条件と同じである。
【0041】
ここで、パターン記憶部741に記憶された各モデルパターンの特徴について説明する。
C型肝炎非罹患者のモデルパターンは、図5に示すように、試料注入部91側からHCVおよび免疫複合体の拡散方向に向かってグレイ値が略一定の略平坦な分布パターンを示す。
具体的に、C型肝炎非罹患者のモデルパターンでは、試料注入部91からの距離が0の位置のグレイ値(初期値)が25近傍にあり、測定範囲全体に亘ってグレイ値50付近の略平坦なパターンを示す。
【0042】
慢性肝炎のモデルパターンは、図6に示すように、試料注入部91近傍のグレイ値が最も高く、当該試料注入部91から遠ざかるにしたがって急激にグレイ値が低下し、後に略平坦となる分布パターンを示す。
具体的に、慢性肝炎のモデルパターンでは、初期値にグレイ値のピークがあり、当該グレイ値は130〜250の範囲内にある。そして、グレイ値は、距離10に達するまでに、50〜150程度に急速に低下する。また、距離10〜120にかけては、グレイ値は多少の増減を繰り返すものの略一定の値を示す。
【0043】
慢性活動性肝炎のモデルパターンは、図7に示すように、試料注入部91から遠ざかるにしたがってグレイ値が一度高くなってから低下し、その後、略平坦となる略山型形状の分布パターンを示す。
具体的に、慢性活動性肝炎のモデルパターンでは、初期値が130〜200の範囲内にあり、距離0〜50までの範囲で山型形状を示す。詳述すると、グレイ値は、距離15付近でピークに達し150〜200の範囲の値となる。そして、グレイ値は、距離50に達するまでに緩やかに低下して100近傍の値となり、その後、徐々に低下して、距離120に達するまで、80近傍の値を維持する。
【0044】
肝硬変のモデルパターンは、図8に示すように、試料注入部91から遠ざかるにしたがって、なだらかにグレイ値が低下し、後に略平坦となる分布パターンを示す。
具体的に、肝硬変のモデルパターンでは、初期値にグレイ値のピークがあり、当該グレイ値は250付近の値となる。そして、距離0から距離50までの間に、グレイ値は直線的に低下し、当該距離50では、80近傍の値となる。その後、グレイ値は、距離120に達するまで、80近傍の値を維持する。
【0045】
図4に戻り、制御手段71は、検査装置本体7の動作制御を行うとともに、操作手段5に対する操作により入力された検査条件等に基づいて、恒温室2の温度制御を行う。
分布測定手段72は、光源3および検出手段4により、ゲルプレート9の試料注入部91から半径方向、すなわち、試料注入部91に注入された血清試料中のHCVおよび免疫複合体が拡散する方向の透過レーザ光の強度を取得して、当該HCVや免疫複合体に由来する凝集物の分布を測定する。
【0046】
具体的に、分布測定手段72は、図3において示したゲルプレート9の測定領域MAに、当該測定領域MAを走査するように、光源3によりレーザ光を照射する。また、分布測定手段72は、ゲルプレート9を透過したレーザ光を検出手段4により受光させ、透過レーザ光の強度を取得させる。そして、分布測定手段72は、検出手段4から測定領域MAの透過レーザ光の強度を取得し、当該透過レーザ光の強度から前述のグレイ値を算出し、ゲルプレート9の試料注入部91からの距離とグレイ値とが対応した凝集物の分布パターンを生成する。
また、分布測定手段72は、分布パターンの生成の際に、測定領域MAにおける試料注入部91からのレーザ光の照射位置と、当該照射位置で得られる透過レーザ光の強度またはグレイ値とに基づいて、ゲルプレート9内で形成された各凝集物の定性および定量を行う。
【0047】
進行度判定手段73は、分布測定手段72で生成された被験者の血清試料に係る凝集物の分布パターンに基づいて、当該被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定し、判定結果および被験者の分布パターンを結果出力手段6に出力する。
具体的に、進行度判定手段73は、まず、分布測定手段72で生成された被験者の血清試料に係る凝集物の分布パターンに基づいて、被験者のC型肝炎の罹患の有無を判定する。詳述すると、進行度判定手段73は、被験者の分布パターンの特徴と、パターン記憶部741に記憶された各モデルパターンの特徴とを比較する。そして、被験者の分布パターンの特徴が、どのモデルパターンの特徴に該当するかを判定する。そして、進行度判定手段73は、該当すると判定したモデルパターンに係るC型肝炎の状態、すなわち、C型肝炎の罹患なし、慢性肝炎、慢性活動性肝炎および肝硬変のいずれかの状態を示す判定結果と、当該被験者の分布パターンの画像とを、結果出力手段6に出力する。ここで、進行度判定手段73による進行度の判定の際に、分布測定手段72による凝集物の定性および定量分析結果を判定要素に加えることにより、一層精度の高い進行度判定を行うことができる。
【0048】
ここで、進行度判定手段73は、被験者の分布パターンの特徴と、各モデルパターンの特徴との比較に際して、ゲルプレート9の試料注入部91からの距離が0である場合のグレイ値(初期値)の範囲、距離に応じたグレイ値の傾斜勾配の変化率、および、一定化したグレイ値の範囲等を、所定の幅を持って比較する。
【0049】
例えば、被験者の分布パターンにおける初期値が230であり、距離0から距離50に達するまでにグレイ値が直線的に低下し、その後、グレイ値が一定となるパターンを示す場合には、進行度判定手段73は、当該被験者の分布パターンの特徴が、図7において示した肝硬変のモデルパターンの特徴に該当するとして、被験者のC型肝炎の進行度は、肝硬変であると判定する。
また、被験者の分布パターンにおける距離0から距離50までのパターン形状が略山型形状を示す場合には、初期値および一定化したグレイ値の値に関らず、進行度判定手段73は、被験者のC型肝炎の進行度は、慢性活動性肝炎であると判定する。
【0050】
(4)C型肝炎検査方法
図9は、C型肝炎検査方法の手順を示す図である。
以下に、C型肝炎検査装置1を用いて行われるC型肝炎検査方法について説明する。
本実施形態のC型肝炎検査方法においては、図9に示すように、まず、C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査する検査対象である被験者から血液を取得する(血液取得ステップS1)。
この後、取得した血液を遠心分離するなどして、当該血液の血清試料を取得し(血清取得ステップS2)、取得した血清試料を体温状態、すなわち、30〜40℃の温度範囲で所定時間、保温する(血清保温ステップS3)。
【0051】
次に、ステップS3において保温した血清試料を、ゲルプレート9の試料注入部91に注入して、当該血清試料をゲルプレート9に点着させる(血清点着ステップS4)。
そして、ステップS4で血清試料を点着させたゲルプレート9を低温状態で保温して、血清成分中の遊離HCVおよび免疫複合体をゲルプレート9内に試料注入部91の半径方向に拡散させるとともに凝集させ、形成された凝集物を沈降させる(凝集物形成ステップS5)。
【0052】
このステップS5において、恒温室2にて0〜15℃の温度範囲で12時間以上、ゲルプレート9を静置することにより、血清試料中の遊離HCVおよび免疫複合体が拡散および凝集して白色の凝集物が形成される。これにより、ゲルプレート9の試料注入部91の周囲には、凝集物により白色のリングが形成される(図2下段参照)。
ここで、凝集物形成ステップS5を低温状態で実施するのは、血清試料中に含まれるHCVおよび免疫複合体から凝集物を形成させるためであり、また、形成された凝集物が温度上昇により測定中に再融解しないようにするためである。
【0053】
この後、血清試料中のHCVおよび免疫複合体に由来する凝集物が形成されたゲルプレート9における当該凝集物の分布を測定する(分布測定ステップS6)。このステップS6では、光源3からゲルプレート9の測定領域MAにレーザ光を照射し、当該ゲルプレート9を透過したレーザ光の強度を検出手段4で検出し、分布測定手段72により凝集物の分布パターンを生成する。また、分布パターンの生成の際に、分布測定手段72は、各凝集物の定性および定量分析を行う。
具体的に、ステップS6では、分布測定手段72が、ゲルプレート9の試料注入部91から半径方向に、当該ゲルプレート9を走査するように、光源3からレーザ光を照射させる。そして、検出手段4が、透過レーザ光の強度を試料注入部91からの距離に応じて検出する。この後、分布測定手段72が、検出手段4から試料注入部91からの距離に応じた透過レーザ光の強度を取得し、当該強度に基づいて、試料注入部91からの距離とグレイ値とが対応したパターンを生成する。ここで、透過レーザ光の強度に基づくグレイ値は、凝集物の分子の大きさおよび密度等に依存するため、当該パターンは凝集物の分布パターンに略一致する。
【0054】
この後、進行度判定手段73が、ステップS6で生成された被験者に係る分布パターンと、記憶手段74のパターン記憶部741に記憶された各モデルパターンとを比較して、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する(進行度判定ステップS7)。
具体的に、進行度判定手段73は、前述のように、被験者の分布パターンの特徴と、記憶手段74のパターン記憶部741に記憶された各モデルパターンの特徴とを比較する。そして、進行度判定手段73は、被験者の分布パターンの特徴が、どのモデルパターンの特徴に該当するかを判定する。
この後、進行度判定手段73は、該当すると判定したモデルパターンに係るC型肝炎の状態、すなわち、C型肝炎罹患なし、慢性肝炎、慢性活動性肝炎および肝硬変のいずれかの状態を示す判定結果と、被験者の分布パターンとを検査結果として、結果出力手段6に出力する(結果出力ステップS8)。この際、進行度判定手段73は、分布測定手段72によって得られた凝集物の定性および定量分析の結果も合わせて、結果出力手段6に出力するようにしてもよい。
以上により、C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査が終了する。
【0055】
(5)実施形態の効果
以上のような本実施形態のC型肝炎検査方法およびC型肝炎検査装置1によれば、以下の効果を奏することができる。
すなわち、被験者から採取した血液から血清試料を取得し、当該血清試料を点着させたゲルプレート9を0〜15℃の温度範囲内で6時間以上保温することで、血清試料中の遊離HCVおよび免疫複合体の拡散、並びに、これらに由来する凝集物の形成および沈降を生じさせることができる。そして、分布測定ステップS6で、当該ゲルプレート9における凝集物の分布パターンを取得し、進行度判定ステップS7で、当該分布パターンと各モデルパターンとを比較することにより、C型肝炎の罹患の有無だけでなく、被験者のC型肝炎の進行度を判定することができる。これによれば、複雑な検査を組み合わせることなくC型肝炎の進行度を判定できるほか、複雑な手技を必要とせずに検査を行うことができる。従って、C型肝炎の進行度を簡易に検査することができる。
【0056】
進行度判定ステップS7では、進行度判定手段73が、被験者に係る凝集物の分布パターンと、C型肝炎非罹患者、慢性肝炎患者、慢性活動性肝炎患者および肝硬変患者に係るモデルパターンとを比較することで、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する。これによれば、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を、客観的に判定することができる。従って、検査者に対して特別な診断能力を要求せず、C型肝炎の罹患の有無および進行度を、より簡易に、かつ、適切に判定することができる。
【0057】
分布測定ステップS6では、分布測定手段72が、ゲルプレート9の測定領域MAを走査するように光源3にレーザ光を射出させ、ゲルプレート9を透過してレーザ光の強度を検出手段4に検出させる。そして、分布測定手段72は、当該透過レーザ光の強度に基づいてグレイ値を算出し、試料注入部91からの凝集物の沈降位置とグレイ値とのパターンを、凝集物の分布パターンとして生成する。
これによれば、抗体および標識物質を凝集物に結合させ、当該標識物質から放射される蛍光や放射線量を測定して凝集物の分布を測定する場合に比べ、より簡易に凝集物の分布を測定することができる。従って、検査工程をより簡略化できるだけでなく、検査時間の短縮化を図ることができる。
また、取得した透過レーザ光および算出されたグレイ値により、ゲルプレート9における各凝集物の定性および定量分析を簡易に行うことができ、また、これにより、進行度判定手段73による進行度判定の精度を向上することができる。
【0058】
凝集物形成ステップS5は、0〜15℃の温度範囲で行われる。これによれば、ゲルプレート9に点着された血清試料中に含まれる遊離HCVおよび免疫複合体の凝集による凝集物の形成を確実に生じさせることができる。また、0〜15℃の温度範囲内で凝集物の形成を行わせることにより、形成された凝集物の融解を防ぐことができる。
また、この凝集物形成ステップS5は、6時間以上行われるので、HCVおよび免疫複合体の拡散、および、凝集物の形成をより確実に行わせることができるだけでなく、凝集物の分布を検出しやすくすることができるので、検査精度を向上することができる。
【0059】
さらに、血清点着ステップS4の前に、血清保温ステップS3で、ゲルプレート9に点着する血清試料を30〜40℃の範囲で保温する。これによれば、血清試料内のHCVおよび免疫複合体を活性状態に保つことができるとともに、既に形成された凝集物を融解させることができるので、凝集物形成ステップS5におけるゲルプレート9でのHCVおよび免疫複合体に由来する凝集物の形成効率を向上することができる。従って、当該凝集物の分布を適切に、かつ、簡易に検出することができ、検査精度を向上することができるだけでなく、C型肝炎検査に必要な血清試料の量を低減することができる。
【0060】
ゲルプレート9は、アガロースゲルで構成されている。これによれば、アガロースゲルの分子篩効果により、分子の大きさや凝集の速さ等に応じた位置に、HCVおよび免疫複合体に由来する凝集物を形成させることができ、凝集物の種別に応じた分布を確実かつ正確に生じさせることができる。従って、凝集物の分布測定を精度よく行うことができる。
また、ゲルプレート9は、凹状の試料注入部91を有する平板状に形成されている。これによれば、ゲルプレート9への血清試料の点着を容易に行うことができるだけでなく、ゲルプレート9の形成および取扱いを容易にすることができる。
【0061】
(6)実施形態の変形
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、進行度判定ステップS7で、進行度判定手段73が、被験者に係る凝集物の分布パターンと、各モデルパターンとを比較して、当該被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定するとしたが、本発明はこれに限らない。例えば、分布測定ステップS6で測定された被験者の分布パターンと、各モデルパターンとを結果出力手段6に出力し、検査者が当該被験者の分布パターンと各モデルパターンとを比較して、被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定するようにしてもよい。なお、進行度判定手段73が、被験者の分布パターンと各モデルパターンとを比較して、当該被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定するようにすれば、検査者の特別な診断能力等を要せずに、客観的にかつ適切に判定することができる。
【0062】
前記実施形態では、光源3および検出手段4として、レーザ光を照射する光源と、ゲルプレート9を透過して入力する透過レーザ光の強度を検出する検出装置を採用したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、検出手段4に入射する光束は、ゲルプレート9を透過した光束でもよく、ゲルプレート9で反射した光束でもよい。
また、光源3および検出手段4の構成として、例えば、可視光線を照射する光源ランプや、CCD(Charge-Coupled Device)デバイスまたはデジタルカメラの組合せを採用してもよい。このような光源ランプおよびデジタルカメラを採用した場合には、デジタルカメラでゲルプレートを撮像し、当該撮像画像をデジタル処理して凝集物の進行方向に沿った輝度値の変化を取得し、当該輝度値の変化に基づいてゲルプレート9内にて形成された凝集物の分布パターンを生成すればよい。
【0063】
前記実施形態では、ゲルプレート9を透過するレーザ光の強度によって、凝集物の分布を測定したが、本発明はこれに限らない。例えば、血清試料と、凝集物に特異的に作用する抗体および標識物質とを混合し、当該混合試料をゲルプレート9に低温条件下で展開させるようにしてもよい。このような場合、標識物質から放射される蛍光または放射線量を測定することにより、凝集物の分布を測定するようにすればよい。なお、ゲルプレート9に対して光束を照射し、当該ゲルプレート9から射出される光束の強度を測定する前述した検査方法によれば、より簡易に凝集物の分布を測定することができる。
【0064】
前記実施形態では、血清保温ステップS3は、凝集物形成ステップS5で血清試料を低温状態で保温するのと同じ恒温室2で行われるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、血清試料をゲルプレート9に注入して凝集物を形成させるまでの工程、すなわち、血清保温ステップS3および血清点着ステップS4を、別室で行うようにしてもよい。
【0065】
前記実施形態では、ゲルプレート9は、アガロースゲルで構成されるとしたが、本発明はこれに限らず、寒天(ager)ゲルで構成してもよい。なお、アガロースゲルを用いれば、HCVおよび免疫複合体の拡散、並びに、凝集物の形成が不純物等に阻害されることを抑えることができ、当該凝集物の分布をより正確に測定することができる。
また、前記実施形態では、ゲルプレート9は、凹状の試料注入部91を有するとしたが、本発明はこれに限らず、血清試料が染み込んだ布等をゲルプレート9上に当接させることで、血清試料をゲルプレート9に点着させるようにしてもよい。
さらに、前記実施形態では、ゲルプレート9は、平面視略円形の平板状に形成されるとしたが、平面視略矩形状としてもよく、また、円柱形状等の他の形状としてもよい。すなわち、ゲルプレートは、血清試料中のHCVおよび免疫複合体の拡散、並びに、凝集物の形成が可能な形状であればよい。
【0066】
前記実施形態では、C型肝炎の進行度を判定する際に、被験者に係る凝集物の分布パターンと、慢性肝炎、慢性活動性肝炎および肝硬変の各モデルパターンとを比較したが、本発明はこれらに限定されない。すなわち、他の進行度のモデルパターンと比較するようにしてもよい。
【0067】
前記実施形態では、血清試料を点着させたゲルプレート9を低温条件下で静置することで、当該血清試料中に含まれるHCVおよび免疫複合体をゲルプレート9内で拡散させつつ凝集させるようにしたが、本発明はこれに限らず、血清試料を点着させたゲルプレート9を低温状態に維持しつつ、電気泳動等により、当該HCVおよび免疫複合体に由来する凝集物を分離させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査方法およびC型肝炎検査装置として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態に係るC型肝炎検査装置の構成を示す図。
【図2】前記実施形態におけるゲルプレートを示す図。
【図3】前記実施形態におけるゲルプレートの一部を示す部分拡大図。
【図4】前記実施形態における検査装置本体の構成を示す図。
【図5】前記実施形態におけるC型肝炎非罹患のモデルパターンを示す図。
【図6】前記実施形態における慢性肝炎のモデルパターンを示す図。
【図7】前記実施形態における慢性活動性肝炎のモデルパターンを示す図。
【図8】前記実施形態における肝硬変のモデルパターンを示す図。
【図9】前記実施形態におけるC型肝炎検査方法の手順を示す図。
【符号の説明】
【0070】
1…C型肝炎検査装置、3…光源、4…検出手段、6…結果出力手段(分布出力手段)、9…ゲルプレート(ゲル)、72…分布測定手段、91…試料注入部、S2…血清取得ステップ、S3…血清保温ステップ、S4…血清点着ステップ、S5…凝集物形成ステップ、S6…分布測定ステップ、S7…進行度判定ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査方法であって、
被験者から採取した血液から血清試料を取得する血清取得ステップと、
前記血清試料を、ゲルに点着させる血清点着ステップと、
前記血清試料に含まれる成分を前記ゲル内に拡散させ、当該成分を凝集させて凝集物を形成させる凝集物形成ステップと、
前記ゲルにおける前記血清試料の点着位置から前記成分の拡散方向に沿った前記凝集物の分布を測定する分布測定ステップと、
前記分布測定ステップで検出された前記凝集物の分布に基づいて、前記被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定する進行度判定ステップと、
を有することを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のC型肝炎検査方法において、
前記進行度判定ステップは、
前記分布測定ステップで検出された前記凝集物の分布と、C型肝炎非罹患者に係る前記凝集物の平均的な分布パターンおよびC型肝炎の進行度に応じた前記凝集物の平均的な分布パターンとを比較して、前記被験者のC型肝炎の罹患の有無および進行度を判定することを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のC型肝炎検査方法において、
前記ゲルに光束を照射する光源と、
前記光源により光束が照射された前記ゲルから射出される光束の強度を検出する検出手段とを備え、
前記分布測定ステップは、
前記ゲルから射出される光束の強度を前記検出手段により検出し、検出された前記光束の強度に基づいて前記凝集物の分布を取得することを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のC型肝炎検査方法において、
前記凝集物形成ステップは、0〜15℃の温度範囲内で前記血清試料が点着された前記ゲルを保温することを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のC型肝炎検査方法において、
前記凝集物形成ステップは、6時間以上行われることを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のC型肝炎検査方法において、
前記血清点着ステップの前に、前記血清取得ステップで取得した前記血清試料を、30〜40℃の温度範囲内で保温する血清保温ステップを有することを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のC型肝炎検査方法において、
前記ゲルは、アガロースを含んで構成され、前記血清試料を点着させるための凹状の試料注入部を有する平板状に形成されていることを特徴とするC型肝炎検査方法。
【請求項8】
C型肝炎の罹患の有無および進行度を検査するC型肝炎検査方法に用いられるC型肝炎検査装置であって、
前記血清試料が所定の点着点から拡散したゲルから、前記血清試料に含まれる成分が凝集して形成される凝集物の分布を測定する分布測定手段と、
前記分布測定手段で測定された前記凝集物の分布を出力する分布出力手段と、
を備えることを特徴とするC型肝炎検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−198937(P2007−198937A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18628(P2006−18628)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(501302430)
【Fターム(参考)】