説明

CD34幹細胞に関連した方法および組成物

本発明は、多数の病態を治療する新規の幹細胞ベースの方法を提供する。これらの方法はCD34幹細胞を使用し、治療されている被験体において骨髄除去を必要としないという点で並はずれた長所を有する。治療される障害に依存して、本方法において使用されるCD34幹細胞は遺伝的に修飾されるか、または修飾されない。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年5月24日に出願された米国仮特許出願番号第60/931,622号、および2007年11月14日に出願された米国仮特許出願第61/003,050号からの優先権を主張する。
【0002】
(背景技術)
(技術分野)
本出願の全体にわたって、様々な出版物が引用される。本発明に関する最先端技術についてより完全に記述するために、上記の仮出願に加えてこれらの出版物の開示を参照することにより、ここで本出願の中に組み入れる。
【0003】
幹細胞は、再生産、および後の細胞世代への遺伝情報の伝達を仲介する。幹細胞は自己更新することができ、分化した子孫を生成する。近年、幹細胞とそれらの組織ニッチとの間の相互作用の基礎となる分子機構についての我々の理解が進んできた。これは、幹細胞における作動分子の調節機構のより深い理解を導いた。
【0004】
遺伝子療法はまだ実験的アプローチであるが、この技術はヒト健康に影響を与える将来性がある。遺伝子療法の範囲および定義は過去数年にわたって変化し拡大した。遺伝子療法アプローチは、嚢胞性繊維症、血友病および他のものなどの遺伝性の遺伝障害の補正に加えて、癌、AIDS、慢性血管虚血、骨関節炎、糖尿病、パーキンソン病およびアルツハイマー病などの後天性疾患と闘うためにも開発されている。
【0005】
現在のところ、生殖細胞系列の遺伝子療法は、複雑な技術的性質および倫理規定のために検討されていない。しかしながら、もっぱら1つの個体のための体細胞の遺伝子療法(それは次世代に受け渡すことができない)は、幹細胞研究の主な焦点である。マウス造血幹細胞の中への遺伝子導入成功の最初の記述から、X連鎖複合免疫不全(SCID)およびアデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA欠損症)を持って生まれた患者における最初の明確に成功した臨床試験まで、15年を超える取り組みが必要だった(Aiuti et al., 2002; Cavazzana-Calvo et al., 2000; Gaspar et al., 2004)。幹細胞療法の多くの態様が調査されている。例えば、多くの設定においてレトロウイルスベクターを幹細胞への遺伝子導入のために使用して、変異遺伝子または不完全遺伝子を修復する。これらは重症複合免疫不全症、ファンコニ貧血および他の異常血色素症を含む(Herzog et al., 2006)。
【0006】
幹細胞操作の中心的な問題は、祖先細胞の中に治療用遺伝子を導入するために用いられる特異的方法である。レトロウイルスは活性遺伝子の中に挿入される傾向があるので、(凝縮されたクロマチンはこれらの領域において開くと考えられる)、そして細胞増殖に関与する遺伝子の近くでのレトロウイルスベクターの挿入が理論上は前駆癌幹細胞を生成できるので、それらの使用もまた癌のリスクを増加しうることが示唆された(Young et al., 2006)。しかしながら、このタイプの事象の全体的なリスクは確立するのが困難である。現在、慢性肉芽腫症(CGD)に罹患した患者において達成された多くの完全な成功例(遺伝的に改変された血液幹細胞の注入後にNADPHオキシダーゼ活性が回復した)がある(Barese et al., 2004)。
【0007】
実り多い遺伝子療法のための最小必要要件は、適切な生物学的背景において最小の有害副作用で治療用遺伝子産物を持続的に産生することである。この結果を達成するために、遺伝療法における幹細胞の適用は、幹細胞への外来遺伝子の効率的な送達のための方法に加えて治療用遺伝子発現を修飾するための新しい戦略の開発を必要とするだろう。定義された組織環境内の幹細胞の分化による治療用遺伝子発現の選択的制御は、幹細胞操作の重要な目標である。このアプローチは、例えば特異的系譜への幹細胞分化の制御、後の移植のためのそれらの未分化状態の維持、増殖、および定義された組織環境における自殺遺伝子、サイトカインまたは増殖因子などの治療用遺伝子の発現の調節を支援することができた。
【0008】
(発明の概要)
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、胃腸障害に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されない、(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、および(c)胃腸障害が胃腸内皮における細胞増殖の必要性によって特徴づけられる、方法を提供する。
【0009】
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、糖尿病被験体または前糖尿病性被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されない、および(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないかまたは同時に起こらないかまたは後続しない、方法もまた提供する。
【0010】
本発明は、被験体の血流の中への非自己CD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、筋ジストロフィーに罹患した被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されない、および(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0011】
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、手術をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)CD34-幹細胞が被験体の手術の直前に、その間に、および/またはその直後に血流の中へ導入される、(b)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されない、および(c)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0012】
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、物理的外傷をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)CD34-幹細胞が被験体の物理的外傷の直前に、その間に、および/またはその直後に血流の中へ導入される、(b)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されない、および(c)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0013】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、腫瘍に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(ii)プロモーターまたはプロモーター/エンハンサーの組合せへ作動可能に連結された(i)細胞毒性タンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、それによって遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が血管新生を受ける腫瘍組織の近傍の中に入る場合およびその近傍において分化する場合、細胞毒性タンパク質が選択的に発現される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法を提供する。
【0014】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、胃腸障害に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、および(c)胃腸障害が胃腸内皮における細胞増殖の必要性によって特徴づけられる、方法をさらに提供する。
【0015】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入含む、糖尿病被験体または前糖尿病性被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0016】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、筋ジストロフィーに罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)被験体の筋細胞に不在であるかもしくは低発現(under-expressed)であるか、または被験体の筋細胞における過剰発現が所望されるタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)筋肉特異的プロモーターまたは筋肉特異的プロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0017】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、手術をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。最終的に、本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、物理的外傷をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法を提供する。
【0018】
他の目的および本発明の特色は、添付の図面と併用して考慮した以下の詳述から明らかになるだろう。しかしながら、図面は、添付された請求項を参照するべき本発明の範囲の定義としてではなく、もっぱら図解の目的のためにデザインされていることは理解されるべきである。図面が必ずしも正しい縮尺で描かれないこと、および特別の指示の無い限り、それらは単に本明細書において記述された構造および手技を概念的に図示するように意図されることはさらに理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】上部列:ほとんど完全にインスリンを枯渇させた、アロキサン(ALX)処理前(左側)および処理後(右側)の正常なマウスβ−膵島のインスリンの発現。下部列:異なる拡大(20×;40×)の正常なインスリン産生β−膵島のサイズ。ALX処理後のインスリン枯渇β−膵島のCD34陰性幹細胞(SC)による治療は、肥大の徴候と共にインスリン産生を完全に回復する(20×および40×)。
【図2】ALX誘導性糖尿病後のマウス膵臓からの単離細胞およびインスリン産生のSCによる回復。移植されたCD34陰性幹細胞は、構成的に発現される緑色蛍光タンパク質によりマークされ、インシュリン分泌細胞は赤色蛍光を示した。両方のマーカーの共発現はなく、移植された幹細胞自体はインスリンを発現しないが、むしろ内在性再生を促進することを示唆する。
【図3】左側:SC移植無しのALX処理後のマウス(上部)、SC移植有りおよび血糖値の補正の無いALX処理後のマウス(中央)、ならびにSC移植後に正常化された血糖値のマウス(下部)の血糖レベル。右側:膵臓(FACS分析および緑色蛍光の検出のためにホモジナイズされた)において幹細胞の存在を示したマウス(E3;赤色円)のみが正常化された血糖値を示し、インスリン産生の補正における移植細胞の極めて重要な役割を示唆する。
【図4】上皮内癌から浸潤癌への上皮性悪性腫瘍の発達および内在性血管系への連結の図式的な提示。CD34陰性幹細胞はここで示されるように新しい血管新生の部位へホーミングし、したがって、細胞毒性剤または免疫修飾剤を送達するためにトロイの木馬として利用することができる。
【図5A】乳腺腫瘍におけるRFP陽性細胞の検出。Tie2−RFPをトランスフェクションした幹細胞は内皮へ分化し、RFPを転写する。DAPIにより対比染色した。
【図5B】乳腺腫瘍におけるRFP陽性細胞の検出。Tie2−RFPをトランスフェクションした幹細胞は内皮へ分化し、RFPを転写する。管を形成するRFP陽性細胞。
【図6A】GCV治療下で減少した腫瘍進行。幹細胞−GCV適用プロトコール。示されるように、細胞懸濁物(0日目)およびGCV溶液(5〜8日目)をそれぞれ適用した。すべての乳房が含まれていたので、マウスの治療の間の体重の増加は、合計腫瘍量を反映した。体重を、治療法の各々のサイクルの0日目および5日目、ならびに解剖の日に測定した。
【図6B】GCV治療下で減少した腫瘍進行。22週目に開始するマウス治療群、平均は標準偏差を示す。マウスを1つの治療群および2つの対照群に選別した。第1の対照群は、幹細胞懸濁物の代わりに1×PBSを受け取り、薬物注入はない(破線);第2の対照群は、Tie2−RFPをトランスフェクションした幹細胞懸濁物を受け取るが、GCVは受け取らない(点線)。治療群は幹細胞およびAにおいて示されるようなGCVを受け取った(実線)。
【図6C】GCV治療下で減少した腫瘍進行。18週目に開始する治療群、平均および標準偏差。
【図7】解剖時齢。22週目に治療を開始するマウスの対照群vs治療群。MSC TK−ビヒクルおよびGCVによる成功した治療後に、類似する腫瘍サイズに達する時間にかなりの差があること(表1を参照)およびマウスの寿命が延長されることに注目。
【図8】腫瘍再増殖モデル。原発性乳房腫瘍を18週で切除し、MSC/tk治療を腫瘍の再増殖の間に開始した。
【図9】緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するMSCは増殖膵臓腫瘍へホーミングする。平行実験において、Tie2プロモーター/エンハンサーの制御下で赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するように操作されたMSCは、腫瘍血管において指令された発現を示す。上部列:CMVプロモーターの制御下でGFPを発現するように操作したMSCは、静脈内注入後に腫瘍へホーミングする。下部列:Tie2の制御下でRFPを発現するように操作されたMSC。
【図10】次にtk/GCV治療の効果をC57B1/6 MSC(Tie2−tk)細胞の注入後に査定した。治療レジメンは、本質的には、乳癌研究について記述されるようなものであった。500,000細胞を1日目に注入し、続いて3日間増殖腫瘍へ細胞を動員させ、内皮様Tie2発現細胞へと分化させて、それによりTK自殺遺伝子を発現させる。次にマウスをGVCにより4日間治療した。休息の1日後に、このサイクルを実験の期間反復した。
【図11】GCVを加えた治療用幹細胞による同所性膵臓腫瘍の治療効果の追加の例を示した図である。無治療群と比較して、腹膜癌腫症の減少に加えて腫瘍サイズの劇的な減少(50%)も見られた。
【0020】
(発明を実施するための形態)
本出願において、以下のように説明される意味を有する特定の用語が使用される。
【0021】
本明細書において使用されるように、「急性創傷治癒」は、生物学的シグナルおよび機械的シグナルの制御下で、損傷の瞬間から組織を修復するように活性化される細胞プロセスおよび分子プロセスを含むが、これらに限定されない。仮マトリックスにわたって配置された負荷と修復細胞のフィードバックとの間の動的なバランスが満される場合、成功した急性創傷治癒が生じる。
【0022】
本明細書において使用されるように、細胞またはその任意の前駆細胞のが同一の種の別の被験体からであるならば、細胞は被験体に関して「同種異系」である。
【0023】
本明細書において使用されるように、細胞またはその前駆細胞が同一の被験体からであるならば、細胞は被験体に関して「自己」である。
【0024】
本明細書において使用されるように、「CD34-幹細胞」は、その表面上でCD34を欠く幹細胞を意味する。例えば、CD34-幹細胞、およびそれを単離する方法は、Lange C. et al.,移植および再生医学のための動物血清不含有培地中のヒト間充織間質細胞の促進された安全な増加(Accelerated and safe expansion of human mesenchymal stromal cells in animal serum-free medium for transplantation and regenerative medicine)。J. Cell Physiol. 2007, Apr. 25[印刷前の電子出版]中で記述される。
【0025】
本明細書において使用されるように、「細胞増殖」は、細胞の分裂、サイズの成長および/または分化を意味する。
【0026】
本明細書において使用されるように、「細胞毒性タンパク質」は、細胞の中に、その上におよび/またはその近傍において存在する場合、その細胞の死を、直接的におよび/または間接的に引き起こすタンパク質を意味する。細胞毒性タンパク質は例えば、自殺タンパク質(例えばHSV−tk)およびアポトーシス誘導物質を含む。細胞毒性遺伝子は、遺伝子ノックダウン(例えばCCR5−/−)のためのヌル遺伝子、siRNAまたはmiRNAを含む。多数の自殺遺伝子システムが同定され、それらは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、シトシンデアミナーゼ遺伝子、水痘帯状ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子、ニトロ還元酵素遺伝子、大腸菌(Escherichia coli)gpt遺伝子および大腸菌Deo遺伝子を含む。シトシンデアミナーゼ;シトクロムP450;プリンヌクレオシドホスホリラーゼ;カルボキシペプチダーゼG2;ニトロ還元酵素。Yazawa K, Fisher WE, Brunicardi FC:癌のための自殺遺伝子療法の最新の進歩(Current progress in suicide gene therapy for cancer)。World J Surg. 2002 Jul; 26(7):783-9中で詳述される。細胞毒性因子は(i)ケモカインおよびムチンケモカインGPI融合などのホーミング因子(ケモカイン由来薬剤は操作された幹細胞の指令された動員を促進するために使用することができる、例えばPCT国際特許出願第PCT/EP2006/011508号を参照、GPIによりアンカーされたムチン融合に関して);(ii)細胞毒性タンパク質としてのウイルス抗原(麻疹、水痘);ならびに(iii)Her2/neu抗原(それらは操作された幹細胞の表面上に提示し、続いてher−2/neu抗体を投与できる)およびCD52エピトープに対して向けられるキャンパス(CamPath)(登録商標)(アレムツズマブ)を含む。
【0027】
本明細書において使用されるように、「内皮細胞」は、血管新生と呼ばれるプロセスの間のまたはそのプロセス後の血管内の内膜の内側の裏打ちを形成する細胞を含むが、これらに限定されない。このプロセスを制御する因子は血管形成因子と呼ばれる。内皮細胞は、受容体リガンド相互作用によって循環血球ともまた作用する。
【0028】
本明細書において使用されるように、「内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せ」はそれぞれプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せであり、それが内皮細胞中にまたは内皮細胞の近傍にある場合、作動可能に連結されたコード領域が被験体中の他の環境において発現する以上の発現を引き起こす。
【0029】
本明細書において使用されるように、核酸がその細胞またはその細胞の任意の前駆細胞の中へ人工的に導入されるならば、核酸は細胞に関して「外来性」である。
【0030】
本明細書において使用されるように、「胃腸障害」は、胃、小腸および/または大腸の任意の障害を意味する。
【0031】
本明細書において使用されるように、幹細胞またはその任意の前駆細胞のいずれかがその中へ核酸を人工的に導入しているならば、幹細胞は「遺伝的に修飾」されている。遺伝的に修飾された幹細胞を生成する方法は、ウイルス遺伝子または非ウイルス遺伝子の導入(例えばプラスミド導入、ファージインテグラーゼ、トランスポゾン、AdV、AAVおよびレンチウイルス)の使用を含む。
【0032】
本明細書において使用されるように、事象の「直前の」は、例えば、事象の前の5、10もしくは30分以内、または事象の前の1、2、6、12もしくは24時間以内を含む。事象の「直後の」は、例えば、事象の後の5、10もしくは30分以内に、または事象の後の1、2、6、12もしくは24時間後以内を含む。
【0033】
本明細書において使用されるように、細胞への核酸の「組込み」は、一過性または安定したものでありえる。
【0034】
本明細書において使用されるように、「被験体の血流の中への」CD34幹細胞の「導入」は、注入を介する被験体の静脈または動脈の1つの中へのかかる細胞の導入を含むが、これに限定されない。かかる投与は、例えば、1回、複数回、および/または1つもしくは複数の延長期間にわたってもまた実行することができる。単一注入が好ましいが、長期にわたる(例えば、3ヶ月ごと、半年ごとまたは1年ごとの)反復注入は、いくつかの例において必要でありえる。かかる投与は、好ましくは、CD34-幹細胞および薬学的に許容される担体の混合物を使用してもまた実行される。薬学的に許容される担体は当業者に周知であり、0.01〜0.1Mおよび好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液または0.8%の生理食塩水を含むが、これらに限定されない。さらに、かかる薬学的に許容される担体は、水溶液または非水溶液、懸濁物および乳化物でありえる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注入可能な有機酸エステルである。水性担体は、生理食塩水および緩衝培地を含む、水、アルコール溶液/水溶液、乳化物および懸濁物を含む。非経口媒質は、塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸リンゲルならびに固定油を含む。静脈内媒質は、液体および栄養補充液、リンガーのブドウ糖などの電解質補充液、リンガーのブドウ糖に基づいたもの、および同種のものを含む。例えば、静脈内投与のために一般に使用される液体は、Remington:製薬の科学および実践(The Science and Practice of Pharmacy)、第20版、808ページ、リッピンコット、ウィリアムズ&ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)社(2000)中で見出される。防腐剤および他の添加物は、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスおよび同種のものなどでもまたありえる。
【0035】
本明細書において使用されるように、「微小循環」は、細動脈から毛細血管または洞様構造から細静脈への血液の流れを含むが、これらに限定されない。特定の状況下では、用語微小循環はリンパ管にもまた適用される。
【0036】
本明細書において使用されるように、「骨髄除去」は、例えば、化学療法または放射線療法の高用量の投与によって引き起こされる、骨髄細胞の重度または完全な枯渇を意味する。骨髄除去は標準的手技であり、例えば、Deeg HJ, Klingemann HG, Philips GL、骨髄移植に対するガイド(A Guide to Bone Marrow Transplantation)。シュプリンガー−フェアラーク(Springer−Verlag)社、ベルリン、ハイデンベルグ1992中で記載される。
【0037】
本明細書において使用されるように、幹細胞もその任意の前駆細胞もその中へ核酸を人工的に導入していないならば、幹細胞は「遺伝的に修飾されていない」。
【0038】
本明細書において使用されるように、「核酸」は、DNA、RNAおよびそのハイブリッドを含むが、これらに限定されない任意の核酸分子を意味する。核酸分子を形成する核酸塩基は、塩基A、C、G、TおよびUに加えて、その誘導体でありえる。これらの塩基の誘導体は当該技術分野において周知であり、PCRのシステム、試薬および消耗品(PCR Systems, Reagents and Consumables)(パーキン・エルマー(Perkin Elmer)カタログ、ロッシュ・モレキュラー・システムズ(Roche Molecular Systems)社、ブランチバーグ、ニュージャージー、アメリカ1996〜1997年)中で例示される。
【0039】
本明細書において使用されるように、かかるプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せが、細胞毒性タンパク質の発現を引き起こすならば、細胞毒性タンパク質コード核酸領域は、プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せに「作動可能に連結」される。
【0040】
本明細書において使用されるように、「ポリペプチド」は、アミノ酸残基のポリマーを意味する。「ペプチド」は典型的にはより短いポリペプチド(例えば10アミノ酸残基)を指し、「タンパク質」は典型的にはより長いポリペプチド(例えば200アミノ酸残基)を指す。アミノ酸残基は、その天然に存在するアナログまたは化学的アナログでありえる。ポリペプチドは、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、ヒドロキシル化およびADPリボシル化などの修飾を含むこともまたできる。
【0041】
本明細書において使用されるように、「前糖尿病性」被験体は、恐らくインスリン依存型糖尿病を発症するだろうことを示す複合症状を有する被験体を含むが、これらに限定されない。前糖尿病性被験体は、正常よりも高いインスリンレベルを有する。
【0042】
本明細書において使用されるように、「プロモーター」は、エンドセリン−1プロモーター、プレプロエンドセリン−1プロモーター、myoDプロモーター、NeuroDプロモーター、CD20プロモーター、インスリンプロモーター、Pdx−1プロモーター、VEGFプロモーター、VEGF−Rプロモーター、SCLプロモーター、Sealプロモーター、BDNF(−R)プロモーター、NGF(−R)プロモーターおよびEGF−Rプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書において使用されるように、「プロモーター/エンハンサー」は、Tie2プロモーターエンハンサーおよびFlk1プロモーターおよびイントロン性エンハンサーを含むが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書において使用されるように、組織の「近傍に」は、例えば、組織の1mm以内、組織の0.5mm以内、および組織の0.25mm以内を含む。
【0045】
本明細書において使用されるように、細胞毒性タンパク質が被験体中の他の環境において発現される以上にその環境において発現されるならば、細胞毒性タンパク質をコードする遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が血管新生を受ける腫瘍組織の中へ入る場合およびその近傍において分化する場合、細胞毒性タンパク質は「選択的に発現」される。好ましくは、細胞毒性タンパク質は被験体中の他の環境において発現されるよりも、その環境において少なくとも10倍以上発現される。
【0046】
本明細書において使用されるように、「被験体」は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、モルモットまたはウサギなどの任意の動物を意味する。
【0047】
本明細書において使用されるように、「CD34-幹細胞の治療上効果的な数」は、(i)約1×102〜約1×108細胞/kg体重;(ii)約1×103〜約1×107細胞/kg体重;(iii)約1×104〜約1×106細胞/kg体重;(iv)約1×104〜約1×105細胞/kg体重;(v)約1×105〜約1×106細胞/kg体重;(vi)約5×104〜約0.5×105細胞/kg体重;(vii)約1×103細胞/kg体重;(viii)約1×104細胞/kg体重;(ix)約5×104細胞/kg体重;(x)約1×105細胞/kg体重;(xi)約5×10s細胞/kg体重;(xii)約1×106細胞/kg体重;および(xiii)約1×107細胞/kg体重の量および量の範囲を含むが、これらに限定されない。想定される人体重量は、約50kg、約60kg;約70kg;約80kg、約90kg;および約100kgを含むが、これらに限定されない。これらの数は、CD34+造血幹細胞の移植からの前臨床的動物実験および標準的プロトコールに基づく。単核細胞(CD34+細胞を含む)は、通常1:23,000〜1:300,000の間のCD34-細胞を含む。
【0048】
本明細書において使用されるように、障害に罹患した被験体を「治療する」ことは、障害の進行を減速させるか中止するかまたは好転させることを意味する。好ましい実施形態において、障害に罹患した被験体の治療は、理想的には障害自体を除去するまで障害の進行を好転させることを意味する。本明細書において使用されるように、障害の改善と障害の治療は等価である。
【0049】
本明細書において使用されるように、「腫瘍」は、前立腺腫瘍などの血管が発達した腫瘍、膵臓腫瘍、扁平上皮癌、乳房腫瘍、黒色腫、基底細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、神経芽細胞腫、神経膠腫または多形性神経膠芽腫などの悪性星状細胞系腫瘍、大腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、頚部腫瘤、骨肉腫、横紋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNETおよび悪性リンパ腫を含むが、これらに限定されない。これらは転移性疾患に加えて原発腫瘍も含んでいる。
【0050】
本明細書において使用されるように、細胞またはその任意の前駆細胞が異なる種の別の被験体からであるならば、細胞は被験体に関して「異種」である。
【0051】
(発明の態様)
本発明は、特定の病態を治療する新規の幹細胞ベースの方法を提供する。これらの方法は、後のステージ幹細胞とは異なって、CD34-幹細胞を使用し、治療されている被験体のための骨髄除去を必要としないという点で並はずれた長所を有する。治療される障害に依存して、本方法において使用されるCD34-幹細胞は遺伝的に修飾されるか、または修飾されない。本方法は、遺伝的に修飾されていないCD34-幹細胞を使用する方法から始まって、続いて遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞を使用する方法を詳述する。
【0052】
具体的には、本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、胃腸障害に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、および(c)胃腸障害が胃腸内皮における細胞増殖の必要性によって特徴づけられる、方法を提供する。
【0053】
この方法において、胃腸障害は、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、クローン病、急性および慢性の腸管虚血に起因する大腸炎、セリアック病、ウィップル病、または幹細胞移植後の移植片対宿主病を含むが、これらに限定されない。
【0054】
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、糖尿病被験体または前糖尿病性被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法もまた提供する。
【0055】
この方法の1つの実施形態において、被験体はI型糖尿病またはII型糖尿病のいずれかについて前糖尿病性である。別の実施形態において、被験体はI型糖尿病またはII型糖尿病のいずれかに罹患して糖尿病である。
【0056】
本発明は、被験体の血流の中への非自己CD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、筋ジストロフィーに罹患した被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0057】
この方法の好ましい実施形態において、被験体はデュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはベッカー型筋ジストロフィーに罹患し、CD34-幹細胞は被験体に関して同種異系である。
【0058】
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数を導入することを含む手術をこれから受けるか受けているかまた受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)CD34-幹細胞が被験体の手術の直前に、その間に、および/またはその直後に血流の中へ導入される、(b)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(c)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0059】
この方法は、腹部手術、胸部手術、脳手術(neurosurgery)、形成手術または外傷手術を含むが、これらに限定されない任意のタイプの手術に適切である。さらに、手術は腹腔鏡下手術または開腹手術でありえる。
【0060】
本発明は、被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、物理的外傷をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)CD34-幹細胞が被験体の物理的外傷の直前に、その間に、および/またはその直後に血流の中へ導入される、(b)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(c)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0061】
この方法は、任意のタイプの物理的外傷に適切である。具体的には、(i)出産(CD34-幹細胞が事象の直前に、その間に、またはその直後に被験体の血流の中へ導入される)、(ii)暴力行為によって引き起こされた軽傷(CD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される)、および(iii)熱傷、(CD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される)が想定される。
【0062】
遺伝的に修飾されていないCD34-幹細胞を使用する上述の方法において、治療される被験体は任意の被験体でありえる。好ましい実施形態において、被験体はヒトである。さらに、遺伝的に修飾されていないCD34-幹細胞を使用する対象の方法において、CD34-幹細胞は、特別に明記または暗示しない限り、被験体に関して、同種異系、自己、または異種でありえる。
【0063】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、腫瘍に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(ii)プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結された(i)細胞毒性タンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、それによって遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が血管新生を受ける腫瘍組織の近傍の中に入る場合およびその近傍において分化する場合、細胞毒性タンパク質が選択的に発現される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法を提供する。
【0064】
例えば、前立腺腫瘍、膵臓腫瘍、扁平上皮癌、乳房腫瘍、黒色腫、基底細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、神経芽細胞腫、神経膠腫または多形性神経膠芽腫などの悪性星状細胞系腫瘍、大腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、頚部腫瘤、骨肉腫、横紋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNETおよび悪性リンパ腫を含む腫瘍群はすべて、この方法について想定される。
【0065】
多数のプロモーター/エンハンサー組合せおよび細胞毒性タンパク質もまたこの方法について想定される。1つの実施形態において、プロモーター/エンハンサー組合せはTie2プロモーター/エンハンサーであり、細胞毒性タンパク質は単純ヘルペスウイルス性チミジンキナーゼであり、被験体は、単純ヘルペスウイルス性チミジンキナーゼがガンシクロビル(登録商標)を細胞毒性にするようにする様式でガンシクロビル(登録商標)により治療される。ガンシクロビル(登録商標)およびその使用法は当該技術分野において周知である。
【0066】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、胃腸障害に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、(b) 骨髄除去は、遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、および(c)胃腸障害が胃腸内皮における細胞増殖の必要性によって特徴づけられる、方法をさらに提供する。
【0067】
この方法において、胃腸障害は、好ましくは、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸管障害またはクローン病である。
【0068】
多数のプロモーター/エンハンサー組合せおよび内皮細胞増殖を促進するタンパク質が、この方法について想定される。1つの実施形態において、プロモーター/エンハンサー組合せはTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進するタンパク質は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である。VEGFに加えて、HIF−1aおよびカルボアンヒドラーゼIXのような他の血管形成因子もまた想定される。
【0069】
本発明は、糖尿病被験体または被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、前糖尿病性被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0070】
この方法の1つの実施形態において、被験体はI型糖尿病またはII型糖尿病のいずれかについて前糖尿病性である。別の実施形態において、被験体はI型糖尿病またはII型糖尿病のいずれかに罹患して糖尿病である。
【0071】
多数のプロモーター/エンハンサー組合せおよび内皮細胞増殖を促進するタンパク質が、この方法について想定される。1つの実施形態において、プロモーター/エンハンサー組合せはTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進するタンパク質は血管新生に関連した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である。
【0072】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、筋ジストロフィーに罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)被験体の筋細胞に不在であるかもしくは低発現であるか、または被験体の筋細胞における過剰発現が所望されるタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)筋肉特異的プロモーターまたは筋肉特異的プロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34T幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0073】
この方法の好ましい実施形態において、被験体はデュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはベッカー型筋ジストロフィーに罹患し、CD34-幹細胞は被験体に関して同種異系または自己である。
【0074】
多数の筋肉に特異的なプロモーター/エンハンサー組合せが、この方法について想定される。1つの実施形態において、筋肉特異的プロモーター/エンハンサー組合せはMyoDプロモーター/エンハンサーである。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの好ましい実施形態において、被験体の筋細胞に不在のタンパク質はジストロフィンである。
【0075】
本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、手術をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法をさらに提供する。
【0076】
この方法は、腹部手術、胸部手術、脳手術または形成手術を含むが、これらに限定されない任意のタイプの手術に適切である。さらに、手術は腹腔鏡下手術または開腹手術でありえる。
【0077】
多数のプロモーター/エンハンサー組合せおよび内皮細胞増殖を促進するタンパク質が、この方法について想定される。1つの実施形態において、プロモーター/エンハンサー組合せはTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進するタンパク質は血管新生に関連した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である。
【0078】
最終的に、本発明は、被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、物理的外傷をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法を提供する。
【0079】
この方法は任意のタイプの物理的外傷に適切である。具体的には、(i)出産、(ii)暴力行為によって引き起こされた軽傷、(CD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される)、および(iii)熱傷、(CD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される)が想定される。
【0080】
多数のプロモーター/エンハンサー組合せおよび内皮細胞増殖を促進するタンパク質が、この方法について想定される。1つの実施形態において、プロモーター/エンハンサー組合せはTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進するタンパク質は血管新生に関連した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である。
【0081】
遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞を使用する上述の方法において、治療された被験体は任意の被験体でありえる。好ましい実施形態において、被験体はヒトである。さらに、遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞を使用する対象の方法において、CD34-幹細胞は、特別に明記または暗示しない限り、被験体に関して同種異系、自己、または異種でありえる。
【0082】
遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞を使用する本方法において、幹細胞が、(i)標的組織中の適切な細胞の近傍へと入り、(ii)分化し、および/または(iii)標的組織中の適切な細胞と融合する場合、外来遺伝子は発現する(すなわち「オンになる」)。
【0083】
本発明において使用される様々なタンパク質および調節配列は、当業者によって容易に得ることができる。例えば、Tie2プロモーターエンハンサーの内皮細胞特異性は、Schlaeger TM, Bartunkova S, Lawitts JA, Teichmann G, Risau W, Deutsch U, Sato TN.胚および成体のトランスジェニックマウスにおける一様な血管内皮細胞特異的遺伝子発現(Uniform vascular-endothelial-cell-specific gene expression in both embryonic and adult transgenic mice)。Proc Natl Acad Sci USA. 1997 94:3058-63中で示される。HSV TK−V00467ヘルペス遺伝子をチミジンキナーゼのために使用することができる(ATP:チミジン5’ホスホトランスフェラーゼ、e.c.2.7.1.21)(タイプ1系統CL101)。
【0084】
本発明は以下の実験の詳細への参照によってよく理解されるだろうが、当業者は、詳述された具体的な実験が、その後に続く請求項中でより完全に記述される本発明の単なる例示であることを容易に認識するだろう。
実験の詳細
パートI
治療用遺伝子送達のために遺伝子操作した遺伝子導入CD34陰性幹細胞
【0085】
(摘要)
幹細胞および遺伝子療法のアプローチは、生死にかかわる多くの病気を治療する新しいツールの開発のための高い可能性を持つ。選択的な遺伝子療法と幹細胞療法の連結は、疾患細胞または欠けている細胞の再生または置換のための治療法の選択肢を促進する。CD34陰性のインビトロで接着増殖する幹細胞の分化の背景における組織特異的遺伝子発現を使用して、遺伝子導入したCD34陰性の祖先細胞を生成し、それにより安全上の理由のための細胞選択性および遺伝子発現誘導性もまた導かれるだろう。ウイルス遺伝子および非ウイルス遺伝子の送達技術は、幹細胞の動員および分化の背景における遺伝子発現の修飾のための技術として詳述される。この新しい治療方針のために可能な臨床応用は、遺伝子導入祖先細胞が、癌または組織再生の部位に抗腫瘍療法を誘導するか、または組織再構築および創傷治癒を促進するようにさせることを記述する。遺伝子導入祖先細胞は強力な遺伝子送達ビヒクルとして働く。
遺伝子送達ビヒクルとしての幹細胞
【0086】
幹細胞は、他の治療に抵抗性がある疾患のための細胞療法を提供する可能性を供する。各々のタイプの幹細胞について、究極の目標は同じである。細胞は遺伝子の特異的レパートリーを発現するはずであり、そのため細胞同一性を修飾して、特定の組織を維持、置換、または救済する。特異的組織環境における分化のサポートを支援するために、幹細胞の「核プログラミング」を修飾する試みがなされている。
【0087】
多能性幹細胞、間葉系幹細胞および多能性成体祖先細胞(MAPC)は、異なる系譜に沿って分化することができるので、それらは有望な幹細胞集団を表わす。それらは、成体哺乳類組織の更新を駆動する「細胞エンジン」を表わす。これらの細胞は生涯にわたって連続的に分裂して、分化および成熟のプログラムを行なって、古い期限切れになった組織細胞を置換する新しい子孫細胞を生ずる。成体組織の修復および再生のための細胞ソースを提供するいくつかの事例において、同様の細胞ターンオーバープログラムが考えられる。目下の関心は細胞置換療法における適用のためにこれらの細胞を適応させることであり、基礎となるのは異なる幹細胞タイプの再生能である。
【0088】
治療法のための幹細胞の可能なソースは、骨髄、末梢血、CNS、肝臓、膵臓、筋肉、皮膚、肺、腸、心臓および脂肪を含む(Koerbling M, Estrov Z、組織修復のための成体幹細胞- 新たな治療概念なのか?(Adult stem cells for tissue repair - anew therapeutic concept?)NEJM 2003 349: 570-582)。臨床応用のために、幹細胞のソースは、容易に接近可能であり、患者へのリスクは最小でたやすく採取されるべきであり、多量の細胞を提供するべきである。この点において、脂肪組織は有望な組織ソースである(損傷組織の再生のための脂肪由来幹細胞(Adipose derived stem cells for the regeneration of damaged tissue)Parker M, Adam K, Expert Opion Biol Therap, 2006, 567-568)。脂肪由来幹細胞および骨髄由来幹細胞は、類似した増殖速度、細胞老化に関する特性、遺伝子形質導入効率、CD表面マーカー発現および遺伝子転写プロフィールを共有する(Cells Tissues Organs. 2003; 174 (3): 101-9.ヒト脂肪組織および骨髄からの多系譜細胞の比較(Comparison of multi-lineage cells from human adipose tissue and bone marrow)。De Ugarte DA, Morizono K, Elbarbary A, Alfonso Z, Zuk PA, Zhu M, Dragoo JL, Ashjian P, Thomas B, Benhaim P, Chen I, Fraser J, Hedrick MH、Mol Biol Cell. 2002 Dec; 13(12) : 4279-95.ヒト脂肪組織は多能性幹細胞のソースである(Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells)。Zuk PA, Zhu M, Ashjian P, De Ugarte DA, Huang JI, Mizuno H, Alfonso ZC, Fraser JK, Benhaim P, Hedrick MH)。
【0089】
異なるソースに由来する幹細胞もまた、疾患に対する細胞特異的療法および遺伝子特異的療法のための可能なビヒクルとして評価されている。それらの高い自己更新能ため、それらは器官システムの回復もしくは置換および/または遺伝子産物の送達のための有望な候補になる。祖先細胞はインビトロで優れた増殖能および分化能を示しうるが、それらの生物学的特性はインビボで定義すべきである。インビトロで増幅する幹細胞は、間充織(間質)細胞子孫の複数世代を含む不均一集団を表わし、それはCD34のような大部分の分化マーカーの発現を欠く。これらの集団は、間充織系譜および非間充織系譜に沿って、最終分化および成熟のための限定された増殖能および応答性を保持しうる。今後望ましくは、多能性幹細胞集団のためのよりよいマーカーは、これらの幹細胞と他の祖先細胞集団を区別する能力を改善するだろう。
適切な生物学的背景における治療用遺伝子発現の送達に使用される組織特異的プロモーター。
【0090】
幹細胞仲介性療法は、核の再プログラミング(多様な組織および器官の中の細胞タイプに特有の遺伝子発現パターンを改変すること)を最終的には引き起こす。多数の遺伝性の幹細胞疾患において、遺伝的欠陥は、影響を受けた幹細胞集団の生存を不利にする。これらの疾患において、「補正された」幹細胞集団の移植は、外来的に適用される任意の選択圧の非存在下において自然なインビボの選択を受けると考えられる。例えば、X連鎖SCIDにおいて、治療用導入遺伝子の導入は、形質導入細胞集団の継続的な増殖および生存を有利にする(Neff et al., 2006)。しかしながら、類似したインビボの選択効果は、疾患の大部分において通常、直接可能ではない。治療用遺伝子の過剰発現が生存を有利にしない設定において、第2の選択可能な遺伝子を理想的には薬理学的調節下でベクターへと組み入れることができる(Tirona and Kim, 2005)。薬理学的に調節された選択を可能にするシステムは、いわゆる「二量体化化学誘導物質」(CID)を使用する可逆的な強制的タンパク質間相互作用を含む。これらのシステムは2つのコンポーネントに依存する。第1のものはリガンドまたは薬物であり、第2のものは、リガンド結合タンパク質ドメインおよびエフェクタードメイン(通常増殖因子受容体の細胞内部分)を組み合わせる融合タンパク質である。エフェクタードメインは、タンパク質二量体化を導く薬物結合によって活性化される。シグナリング融合は、したがってCIDの存在下においてオンになり、CIDの退薬後にオフになるスイッチとして働く。幹細胞集団へのこのようなシステムの取り込みは、形質導入細胞集団の増殖の薬物依存性制御を可能にすることができる(Neff et al., 2006; Neff and Blau, 2001)。
【0091】
治療用遺伝子のための送達ビヒクルとしての幹細胞の使用は、一連の長所を提供すると考えることができる。幹細胞が組織修復の間に分化する場合には、幹細胞はしばしば損傷組織に活発に動員される。例えば、CD34+骨髄由来祖先細胞は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、造血細胞、および恐らく他の細胞タイプへと分化することによって、組織修復に寄与する。しかしながら、循環祖先細胞が再構築組織にホーミングする機構は明らかではないままである。Jin et al.は、活発に再構築する新生血管上に発現されるα4β1リガンドのVCAMおよび細胞性フィブロネクチンへの循環祖先細胞のホーミングを、インテグリンα4β1(VLA−4)が促進できることを実証した。インテグリンα4β1を発現する先祖細胞は、正常組織ではなく、活発な腫瘍の血管新生部位へホーミングすることが示された。他のインテグリンではなく、インテグリンα4β1のアンタゴニストは、内皮へのこれらの細胞の接着および分化した細胞タイプへの成長をブロックした(Jin et al, 2006)。
【0092】
インテグリンに加えて、ケモカインおよびそれらの受容体もまた、幹細胞の組織特異的ホーミングにおいて中心的な役割を果たすように思われる。それらのケモカイン受容体発現プロファイルに基づいて、CD34-MSCは、二次リンパ器官(CCR7)、皮膚(CCR4、CCR10)、小腸(CCR10)および唾液腺(CCR10)へホーミングすると予測された。CMFDAによりCD34-MSCを一過性に標識するか、または緑色蛍光タンパク質(GFP)発現プラスミドを安定的に導入した後に、細胞を健康な同系のマウスへと注入し、細胞の組織分布を1、3および7日後に決定した。興味深いことには、幹細胞は骨髄へホーミングしなかったが、それらのケモカイン受容体発現プロファイルに一致して、二次リンパ器官、唾液腺、腸および皮膚へ移動することが見出された。
【0093】
幹細胞が疾患設定に加えて正常な設定において異なる組織微小環境へ選択的移動を示すことができるとすれば、動員された幹細胞中で開始される分化経路に繋がる組織特異的プロモーターの使用を用いて、理論的には、定義された生物学的背景内でのみ治療用遺伝子の選択的遺伝子発現を駆動することができる。他の組織ニッチに動員されるが、同じ分化のプログラムを行わない幹細胞は、治療用遺伝子を発現しないはずである。このアプローチは、定義された微環境内での治療用遺伝子の選択的遺伝子発現のために有意な程度での制御を可能にし、血管新生の間の治療用遺伝子の発現を調節するような適用が成功している。
【0094】
多数のプロモーターは組織特異的発現のために特徴づけられてきた。この情報のために優れたソースは、導入遺伝子の文献において、または例えば、マウスにおける組織特異的CRE/Lox標的化遺伝子欠失モデルの駆動に使用されるCRE導入遺伝子の発現のための組織特異的プロモーター活性をリストする様々なデータベース(例えば:http://www.mshri.on.ca/nagy/Cre-works.htm)において見出すことができる。炎症または血管新生の背景において選択的に調節されるプロモーターを導入することができる。この点において、Tie2プロモーター、Flk1プロモーターおよびイントロン性エンハンサー、エンドセリン−1プロモーターおよびプレプロエンドセリン−1プロモーターは、内皮の特異的発現のために研究されている(Huss et al., 2004)。特異的レポーター遺伝子および新しい画像技術の適用を使用して、幹細胞移植の背景内で候補プロモーターの組織特異的発現を定義する。遺伝子の送達に関する他の選択肢は、単一プロモーターからの複数の遺伝子の発現のための内部リボソーム侵入部位(IRES)シグナルの適用を含み(Jackson, 2005)、例えば、レポーター遺伝子と併用して治療用遺伝子を使用して、実験的背景における治療用遺伝子の発現の分布をよりうまく追跡できる。
【0095】
重要なことには、多くのプロモーターが、操作された細胞において、他の組織タイプでの発現または低いレベルの基本的発現の「漏出」を示しうる。プロモーター操作は、プロモーター特異性を「チューニング」して交差組織活性を限定するによって、発現を特異的細胞タイプへより限定することを可能にできる新技術である(Fessele et al., 2002; Werner et al., 2003)。
【0096】
遺伝子送達法
幹細胞操作に現在適用されている様々な遺伝子送達方法は、トランスフェクションの生物学的方法または化学的方法に加えて、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを含む。この方法は、使用されるシステムにおいて、安定性遺伝子発現または一過性遺伝子発現のいずれかをもたらすことができる。
ウイルスによる遺伝子送達システム
【0097】
遺伝的に修飾されたウイルスのトランスフェクションは高効率であるために、幹細胞への遺伝子の送達のために広く適用されてきた。
DNAウイルスベクター
【0098】
(i)アデノウイルス
アデノウイルスは、36kbのウイルスゲノムを含む、二本鎖のエンベロープの無い二十面体のウイルスである(Kojaoghlanian et al., 2003)。それらの遺伝子は、それらの発現がDNA複製前または後に生じるかどうかに依存して、初期遺伝子(E1A、E1B、E2、E3、E4)、遅延遺伝子(IX、IVa2)および主要後期遺伝子(L1、L2、L3、L4、L5)へと分けられる。現在までに、広範囲の器官において感染および複製できる、51のヒトアデノウイルス血清型が記述された。ウイルスは、A−高頻度および短潜伏期で腫瘍を誘導する、B−弱い腫瘍形成性である、およびC−非腫瘍形成性である、のサブグループへと分類される(Cao et al., 2004; Kojaoghlanian et al., 2003)。
【0099】
これらのウイルスを使用して遺伝子導入細胞操作のための一連のベクターが生成された。アデノウイルスベクターの最初の世代は、E1遺伝子(ウイルス複製のために必要とされる)の欠失によって産生され、4kbのクローニング容量を備えたベクターが生成された。E3(宿主免疫応答に関与する)を追加で欠失することにより、8kbのクローニング容量が可能になった(Bett et al., 1994; Danthinne and Imperiale, 2000; Danthinne and Werth, 2000)。ベクターの第2の世代は、E1またはE3の欠失と併用して、E2領域(ウイルス複製に必要とされる)および/またはE4領域(宿主細胞アポトーシスの阻害に関与する)を欠失することによって産生された。結果として生じたベクターは10〜13kbのクローニング容量を有する(Armentano et al., 1995)。ベクターの第3の「内部が空にされた」世代は、逆方向末端反復(ITR)およびシス作用パッケージングシグナル以外のウイルス配列全体の欠失によって産生された。これらのベクターは25kbのクローニング容量を有し(Kochanek et al., 2001)、静止細胞および分裂細胞の両方で高トランスフェクション効率を保持した。
【0100】
重要なことには、アデノウイルスベクターは通常は宿主細胞のゲノムの中へ組込まれないが、成体幹細胞の中への一過性遺伝子送達で有効性を示した。これらのベクターは一連の長所および短所を有する。重要な長所は、高力価で増幅することができ、広範囲の細胞に感染できるということである(Benihoud et al., 1999; Kanerva andHemminki, 2005)。ベクターは様々な保存条件において安定性があるので、取り扱いが一般的に容易である。アデノウイルスタイプ5(Ad5)は、ヒトおよびマウスの幹細胞における遺伝子の送達に成功して使用された(Smith-Arica et al., 2003)。アデノウイルスの使用は治療用遺伝子の一過性発現のみを可能にするので、宿主細胞の遺伝物質へのアデノウイルス組込みがないことは、多くの例において短所として見なすことができる。
【0101】
例えば、TGF−β1および骨形態形成タンパク質−2(BMP−2)がアデノウイルス仲介性発現によって送達された場合に、軟骨形成する間葉系幹細胞の容量を評価する研究において、軟骨形成は、一過性に発現されるタンパク質のレベルおよび継続期間と密接に相関することが見出された。すべての凝集における導入遺伝子発現は高度に一過性であり、7日後に著しい減少を示した。軟骨形成は、>100ng/mlのTGF−β1またはBMP−2を発現するように修飾された凝集において阻害されたが、これは部分的にはアデノウイルスの高ロードへの暴露の抑制効果のためだった。(Mol Ther. 2005 Aug; 12 (2) : 219-28.インビトロにおける初代間葉系幹細胞の遺伝子誘導性の軟骨形成(Gene-induced chondrogenesis of primary mesenchymal stem cells in vitro)。Palmer GD, Steinert A, Pascher A, Gouze E, Gouze JN, Betz O, Johnstone B, Evans CH, Ghivizzani SC)。組換えヒト骨形態形成タンパク質−7(BMP−7)遺伝子を保有するアデノウイルスにより形質導入された、ラットの脂肪由来幹細胞を使用する第2のモデルにおいて、BMP遺伝子療法のための幹細胞の自己ソースについて有望な結果が示された。しかしながら、インビトロのアルカリフォスファターゼの測定によって査定された活性は一過性であり、8日目でピークに達した。したがって、結果は軟骨形成モデルにおいて見出されたものに類似していた(Cytotherapy. 2005; 7 (3) :273-81)。
【0102】
したがって、安定性遺伝子発現を必要としない療法または実験に関しては、アデノウイルスベクターは優れた選択肢でありえる。アデノウイルスベクターの使用における追加の重要な問題は、宿主への導入に際して、操作された細胞に対する強い免疫応答を誘発しうることである。明らかに、治療設定において操作された細胞の適用を検討する場合、これは重要な問題点でありえる(J. N. Glasgow et al.,臨床応用のためのアデノウイルスの形質導入および転写の標的化(Transductional and transcriptional targeting of adenovirus for clinical applications)。Curr Gene Ther. 2004 Mar; 4(1):1-14、BMP−7を発現するラット脂肪由来成体幹細胞を使用するエクスビボ遺伝子療法に基づいた骨形成のインビトロおよびインビボの誘導(In vitro and in vivo induction of bone formation based on ex vivo gene therapy using rat adipose-derived adult stem cells expressing BMP-7)、Yang M, Ma QJ, Dang GT, Ma K, Chen P, Zhou CY)。
【0103】
Adタイプ5に基づいたアデノウイルスベクターは、一次受容体、コクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)を介して、外来遺伝子を効率的かつ一過性に導入することが示されている。しかしながらMSCおよび造血幹細胞などのいくつかの種類の幹細胞は、CAR発現の欠如のために、明らかにAd血清型5(Ad5)に基づいた従来のアデノウイルスベクターにより効率的に形質導入することができない。この問題を克服するために、ファイバー修飾アデノウイルスベクター、およびアデノウイルスの別の血清型に基づいたアデノウイルスベクターが開発されている(Mol Pharm. 2006 Mar-Apr; 3(2):95-103.幹細胞へのアデノウイルスベクター仲介性遺伝子導入(Adenovirus vector-mediated gene transfer into stem cells)。Kawabata K, Sakurai F, Koizumi N, Hayakawa T, Mizuguchi H.遺伝子導入制御プロジェクト(Laboratory of Gene Transfer and Regulation)、 独立行政法人医薬基盤研究所(National Institute of Biomedical Innovation)、大阪567−0085、日本)。
【0104】
(ii)アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遍在的な非細胞変性の複製能力がない、パルボウイルス科のssDNAの動物ウイルスのメンバーである(G. Gao et al.,AAVベクターの新しい組換え血清型(New recombinant serotypes of AAV vectors)。Curr Gene Ther. 2005 Jun; 5 (3): 285-97)。AAVは、4.7kbゲノムを備えた小さな二十面体ウイルスである。これらのウイルスは、ヘアピンへと折り畳まれるパリンドロームリピートからなる特徴的な末端を有する。AAVは、通常アデノウイルスの多くの血清型のうちの1つであるヘルパーウイルスの支援によって複製する。ヘルパーウイルスの非存在下において、AAVは染色体19上の特異的遺伝子座(AAVS1)でヒトゲノムの中へ組込まれ、ヘルパーウイルス感染が起こるまで潜在形態で存続する(Atchison et al., 1965, 1966)。AAVは、マウス、ラットおよびサルを含む異なる種の細胞タイプに形質導入することができる。血清型の中で、AAV2は、遺伝子送達ベクターとして最も研究され、広く適用されている。そのゲノムは、2つの大きなオープンリーディングフレーム(ORF)のrepおよびcapをコードする。rep遺伝子は、ウイルスの生活環の様々なステージ(例えばDNA複製、転写制御、部位特異的組込み、ウイルスのパッケージングのために使用する一本鎖ゲノムの蓄積)に重要な役割を果たす4つのタンパク質のRep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする。cap遺伝子は、ウイルスの3つのカプシドタンパク質のVP1、VP2、VP3をコードする(Becerra et al., 1988; Buning et al., 2003)。ゲノムの3’末端は第2のストランド合成のためのプライマーとして働き、その配列が染色体19上の配列と同一なので、ウイルスのための組込み配列として働く末端分離部位(TRS)を有する(Young and Samulski, 2001; Young et al., 2000)。
【0105】
これらのウイルスは、広範囲の分裂細胞および非分裂細胞に感染できるという点でアデノウイルスに類似する。アデノウイルスとは異なり、それらは、ヒトゲノムにおける特定部位で宿主ゲノムの中へ組込まれる能力を有する。あいにく、かなり大きなゲノムのために、AAVベクターの外来遺伝子挿入物の導入のための容量は限定される(Wu and Ataai, 2000)。
【0106】
RNAウイルスベクター
(i)レトロウイルス
レトロウイルスのゲノムは、長い末端反復(LTR)が隣接する3つの遺伝子(gag、polおよびenv)をコードする、長さで7〜10kbの一本鎖プラスセンスRNAの2つの同一のコピーからなる(Yu and Schaffer, 2005)。gag遺伝子は、gag前駆体タンパク質の分解産物である、マトリックスエレメントおよびヌクレオカプシドエレメントを含むコアタンパク質カプシドをコードする。pol遺伝子は、gag−polの前駆遺伝子に由来するウイルスプロテアーゼ、逆転写酵素およびインテグラーゼ酵素をコードする。env遺伝子は、ウイルスの侵入を仲介するエンベロープ糖タンパク質をコードする。レトロウイルスのゲノムの重要な特色はゲノムの各々の末端でのLTRの存在である。これらの配列は、ウイルスDNA合成の開始を促進し、宿主ゲノムへのプロウイルスDNAの組込みを加減し、ウイルスによる遺伝子転写の調節においてプロモーターとして働く。レトロウイルスは、オンコレトロウイルス(マロニーマウス白血病ウイルス(Maloney Murine Leukemia Virus)、MoMLV)、レンチウイルス(HIV)およびスプマウイルス(フォーミーウイルス)の3つの一般的なグループへと細分される(Trobridge et al., 2002)。
【0107】
レトロウイルスベースのベクターは遺伝子療法のために最も一般に使用される組込みベクターである。これらのベクターは、一般的におよそ8kbのクローニング容量を有しており、LTRおよびシス作用パッケージングシグナル以外のウイルス配列の完全な欠失によって生成される。
【0108】
レトロウイルスベクターはゲノム中のランダムな部位で組込まれる。これに関連した問題は、挿入変異生成の可能性、およびLTRから駆動される腫瘍生成活性の可能性を含む。LTRのU3領域はプロモーターエレメントおよびエンハンサーエレメントを保有し、従ってこの領域をベクターから欠失させた場合LTRで駆動される転写は阻害され自己不活性化ベクターを導く。次に、内部プロモーターを使用して導入遺伝子の発現を駆動することができる。
【0109】
マウスにおける幹細胞遺伝子導入の初期の研究から、ヒトへの遺伝子導入が同等に効率的だろうという希望が持たれた(O'Connor and Crystal, 2006)。長期にわたって再び集団を作る複数の系譜の幹細胞のトランスフェクションに利用可能なレトロウイルスベクターシステムを使用する遺伝子導入が、あいにくマウスにおいてまだ有意に効率的である。レトロウイルスベクターの制御されない組込みに加えて、ヒトにおける遺伝子導入の効率の減少も、幹細胞操作の背景における治療法としてのこれらのベクターの適用に対する重大な障害である。
【0110】
(ii)レンチウイルス
レンチウイルスはレトロウイルス科のメンバーのウイルスである(M. Scherr et al.,
レンチウイルスベクターを使用する造血幹細胞への遺伝子導入(Gene transfer into hematopoietic stem cells using lentiviral vectors)。Curr Gene Ther. 2002 Feb; 2 (1) :45-55)。それらは、オンコレトロウイルスと比較して、より複雑なゲノムおよび複製サイクルを有する(Beyer et al., 2002)。それらは、ウイルス転写のトランス活性化を仲介するtat遺伝子(Sodroski et al., 1996)、およびスプライスされていないウイルスRNAの核外輸送を仲介するrev(Cochrane et al., 1990; Emerman and Temin, 1986)などの追加の調節遺伝子およびエレメントを持つ点で、より単純なレトロウイルスと異なる。
【0111】
レンチウイルスベクターは、ウイルス複製のために必要な遺伝子を除去してウイルスを不活性にした、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)に由来する。それらは複製遺伝子を欠損するが、ベクターはまだ効率的に宿主ゲノムの中へ組込まれることができ、導入遺伝子の安定性発現を可能にする。これらのベクターは、低細胞毒性および多様な細胞タイプに感染する能力という追加の利点を有する。レンチウイルスベクターは、サル、ウマ、およびネコの起源からもまた開発されているが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来するベクターは最も一般的なものである(Young et al., 2006)。
【0112】
レンチウイルスベクターは、LTRおよびシス作用パッケージングシグナル以外の全体ウイルス配列の欠失によって生成される。結果として生じたベクターは約8kbのクローニング容量を有する。レトロウイルスベクターからこれらのベクターを区別する特色の1つは、最終分化細胞に加えて分裂細胞および非分裂細胞にも形質導入する能力である(Kosaka et al., 2004)。レンチウイルス送達システムは、ヒトの間葉系幹細胞および胚性幹細胞における高感染率が可能である。Clements et al.による研究において、レンチウイルス骨格はモノシストロン性導入遺伝子およびバイシストロン性導入遺伝子を発現するように修飾され、ヒト幹細胞における遺伝子発現の特異的サイレンシングのための短鎖ヘアピン型リボ核酸を送達するために使用された(Tissue Eng. 2006 Jul; 12 (7): 1741-51.ヒトの成体幹細胞および胚性幹細胞における遺伝子発現のレンチウイルスマニピュレーション(Lentiviral manipulation of gene expression in human adult stem cells and embryonic stem cells)。Clements MO, Godfrey A, Crossley J, Wilson SJ, Takeuchi Y, Boshoff C)。
表1は、上述されたウイルスベクターを要約する。
【表1】

【0113】
ウイルスによらない遺伝子送達システム
(i)遺伝子の組込みの促進のための方法
上で検討された、ウイルスベースのベクターに加えて、ウイルス配列を欠く他のベクターシステムが現在開発中である。代替戦略は、インテグラーゼまたはトランスポゼースの技術の使用を介する従来のプラスミド導入および標的化遺伝子組込みの適用を含む。これらは、ベクター組込みのための重要な新しいアプローチを示し、組込みが効率的かつしばしば部位特異的であるいう利点を有する。現在、ファージP1からのereリコンビナーゼ(Lakso et al., 1992; Orban et al., 1992)、酵母2ミクロンプラスミドからのFLP(フリッパーゼ)(Dymecki, 1996; Rodriguez et al., 2000)、およびストレプトミセスファージ
【化1】

から単離されたインテグラーゼ(Ginsburg and Calos, 2005)の3つのリコンビナーゼシステムが遺伝子工学に利用可能である。これらのリコンビナーゼの各々は特異的標的組込み部位を認識する。CreおよびFLPリコンビナーゼは、それぞれloxP(交差のための遺伝子座)およびFRT(FLPリコンビナーゼの標的)と呼ばれる、34bpパリンドローム配列で組込みを触媒する。ファージインテグラーゼは、哺乳類ゲノム中の2つの短いatt認識部位の間の部位特異的で一方向の組換えを触媒する。att部位が2つの異なるDNA分子上に存在する場合組換えは組込みをもたらし、att部位が同じ分子上にある場合欠失または逆位をもたらす。マウス(インビボ)に加えて培養細胞(インビトロ)においても機能することが見出された。
【0114】
スリーピングビューティー(SB)トランスポゾンは、各々が340塩基対の2つの逆方向末端反復を含む(Izsvak et al., 2000)。このシステムは、哺乳類染色体へのドナープラスミドからの特異的コンストラクトの正確な導入を指令する。染色体部位へのプラスミドベクターからのトランスポゾンの切り出しおよび組込みは、シスまたはトランスのいずれかの様式で細胞に送達できるSBトランスポゼースによって仲介される(Kaminski et al., 2002)。染色体に組込まれたトランスポゾン中の遺伝子は、細胞の一生涯にわたって発現することができる。隣接配列は組込みに影響を及ぼす場合があるが、SBトランスポゾンはTAジヌクレオチド塩基対でランダムに組込まれる。現在までにこの結果は、SBトランスポゾンのランダム挿入がウイルスベクターで見られたものと同レベルのリスクを示すことを示唆しないが、ヒト試験に対して安全にシステムを適用することができる前にはより多くのデーターが必要とされる。
細胞の中へベクターを導入する物理的方法
(i)エレクトロポレーション
【0115】
エレクトロポレーションは、膜のキャパシタンスの克服によって膜において一過性の穴を生成する、短かい高電圧電気パルスの使用に依存する。この方法の1つの長所は、大部分の細胞タイプにおいて安定性および一過性の遺伝子発現のために利用できるということである。この技術は、リン脂質膜における疎水性相互作用および親水性相互作用の比較的弱い性質、ならびに撹乱後に本来の状態を回復する能力に依存する。一旦膜が透過性になれば、極性分子を高効率で細胞の中へ送達することができる。DNAおよびRNAのような大きな荷電分子は、細胞の電気泳動勾配によって駆動されるプロセスを介して細胞の中へ移動する。パルスの振幅は細胞表面上の透過性される全領域を決定し、パルスの継続期間は透過化の程度を決定する(Gabriel and Teissie, 1997)。細胞の透過性状態はパルスの強度に依存する。強いパルスは、不可逆的透過化、細胞に対する不可逆的損傷および最終的に細胞死を導きうる。この理由のために、エレクトロポレーションは恐らく遺伝子送達方法のうちで最も厳しく、一般的により多量のDNAおよび細胞を必要とする。この方法の有効性は、細胞のサイズ、複製、およびパルスの適用の最中の温度のような多くの重要な因子に依存する(Rols and Teissie, 1990)。
【0116】
この技術の最も有利な特色は核の中へDNAを直接導入でき、宿主ゲノムの中へ組込まれる可能性を増加するということである。トランスフェクションが困難な細胞でさえ、この方法を使用して安定的にトランスフェクションすることができる(Aluigi et al., 2005; Zernecke et al., 2003)。エレクトロポレーションの間に使用されるトランスフェクション手技の修飾により、ヌクレオフェクションと呼ばれる効率的な遺伝子導入方法の開発が導かれた。ヌクレオフェクター(Nucleofector)(商標)技術は、トランスフェクションが困難な細胞株およびMSCを含む初代細胞のトランスフェクションのために効率的なツールであると証明された非ウイルス性のエレクトロポレーションベースの遺伝子導入技術である(Michela Aluigi,幹細胞(Stem Cells)Vol. 24, No. 2, February 2006, pp. 454-461)。
【0117】
生体分子ベースの方法
(i)タンパク質形質導入ドメイン(PTD)
PTDは、エンドサイトーシス経路またはタンパク質チャンネルを使用せずに細胞の中へ輸送されるショートペプチドである。それらの侵入に関与する機構は十分に理解されていないが、それは低温ででさえ起こりうる(Derossi et al.1996)。2つの最も一般に使用される天然に存在するPTDは、ヒト免疫不全ウイルスの転写ドメインのトランス活性化活性化因子(TAT)およびアンテナペディア転写因子のホメオドメインである。これらの天然に存在するPTDに加えて、自然に細胞膜を通過する能力を有する多数の人工ペプチドがある(Joliot and Prochiantz, 2004)。これらのペプチドはPNA(ペプチド核酸)の擬似ペプチド骨格に共有結合して、それらの細胞の中への送達を支援する。
【0118】
(ii)リポソーム
リポソームは細胞膜に類似する合成小胞である。脂質分子を水と共に撹拌する場合、それらはリポソームを形成する水溶性中央を囲む球形二重膜コンパートメントを自然に形成する。それらは細胞と融合し、細胞への「パッケージングされた」材料の導入を可能にすることができる。リポソームを使用して、細胞への遺伝子、薬物、リポータータンパク質および他の生体分子の送達が成功している(Felnerova et al., 2004)。リポソームの長所は、それらが天然の生体分子(脂質)で作製されており、非免疫原性ということである。
【0119】
多様な親水性分子を形成の間にリポソームへと組み入れることができる。例えば、正に荷電した頭部基を備えた脂質が組換えDNAと混合される場合、負に荷電したDNAが脂質分子の正の頭部基と共に複合体になるリポプレックスを形成できる。次にこれらの複合物はエンドサイトーシス経路を介して細胞に侵入し、リソソームのコンパートメントの中へDNAを送達することができる。DNA分子はジオレオイルエタノールアミン(DOPE)の支援によってこのコンパートメントを抜け出すことができ、それらを転写できる核の中へ輸送される(Tranchant et al., 2004)。
【0120】
リポソームは、単純さにもかかわらず、血漿タンパク質の吸着のために細網内皮系によって急速に取り除かれるので、トランスフェクションは低効率である。リポソームを安定化する多くの方法が使用され、それらはオリゴ糖によりリポソーム表面を修飾し、それによってリポソームを立体的に安定化することを含む(Xu et al., 2002)。
(iii)イムノリポソーム
【0121】
イムノリポソームは、それらの膜に挿入された特異的抗体を備えたリポソームである。抗体は標的細胞上の特異的表面分子に選択的に結合して取り込みを促進する。抗体によって標的化された表面分子は、好ましくは結合に際して複合体全体が取り込まれるように細胞によって内部移行されるものである。このアプローチは、リポソームコンポーネントの細胞内放出の促進によってトランスフェクションの効率を増加させる。これらの抗体は、様々な脂質アンカーを介してリポソーム表面に挿入されるか、またはリポソーム表面上にグラフトしたポリエチレングリコールの末端で付着することができる。抗体は、遺伝子送達に対する特異性の提供に加えて、内在性のリボヌクレアーゼまたはプロテイナーゼによる取り込み後のそれらの分解の限定を支援する保護被覆もまたリポソームに提供することができる(Bendas, 2001)。リポソームおよびリソソームのコンパートメント中のリポソームの内容物の分解を阻害するために、pH感受性イムノリポソームをさらに使用することができる(Torchilin, 2006)。これらのリポソームは、酸性pHで不安定になり融合する傾向があるので、オルガネラ内でエンドソーム膜と融合することによって、サイトゾルへのリポソーム内容物の放出を促進する。
【0122】
一般に、ウイルスによらない遺伝子送達システムは、ウイルスによる遺伝子送達システムのような幹細胞への遺伝子送達の手段ほど広く適用されなかった。しかしながら、有望な結果が、トランスフェクション生存率、増殖、および3つの神経細胞系譜ニューロンへの成体神経幹細胞/祖先細胞の分化を調査する研究において示された。非ウイルス性の非リポソーム遺伝子送達システム(エクスジェン(ExGen)500およびフュージーン(FuGene)6)は、細胞の16%(エクスジェン500)〜11%(フュージーン6)の間のトランスフェクション効率を有していた。フュージーン6処理細胞は、生存率または増殖率においてトランスフェクションされていない細胞と異ならないが、これらの特性はエクスジェン500のトランスフェクション後に有意に減少した。重要なことには、どちらの薬剤も、トランスフェクション後の分化パターンに影響しなかった。両方の薬剤を使用して遺伝的に細胞を標識し、エクスビボ器官型海馬スライス培養に移植した後に3つの神経細胞系譜への分化をトラッキングすることができた(J Gene Med. 2006 Jan; 8(1):72-81.生存率、増殖または分化に影響のない成体神経幹細胞/祖先細胞の効率的な非ウイルス性トランスフェクション(Efficient non-viral transfection of adult neural stem cell/progenitor cells, without affecting viability, proliferation or differentiation)。Tinsley RB, Faijerson J, Eriksson PS)。
【0123】
(iv)ポリマーベースの方法
ポリ‐L‐リジン(PLL)のプロトン化されたε−アミノ基は、負に荷電したDNA分子と相互作用して、遺伝子送達に使用できる複合体を形成する。これらの複合体はむしろ不安定になりえ、凝集する傾向を示した(Kwoh et al., 1999)。ポリエチレングリコール(PEG)のコンジュゲーションは、複合体の安定性の増加を導くことが見出された(Lee et al., 2005, Harada-Shiba et al., 2002)。組織特異性の程度を参照するために、組織特異的抗体などの標的化分子もまた使用された(Trubetskoy et al., 1992, Suh et al., 2001)。
【0124】
細胞のトランスフェクションのために使用される追加の遺伝子担体は、DNAとも複合体を形成するポリエチレンイミン(PEI)である。PEIは、異なるpKa値のアミンの存在のために、エンドソームコンパートメントを抜け出す能力を有する(Boussif et al., 1995)。PEI複合体上にグラフトされたPEGにより、これらの複合体の細胞毒性および凝集が減少されることが見出された。これもまた組織特異性を参照するためにコンジュゲートされた抗体と組み合わせて使用することができる(Mishra et al., 2004, Shi et al., 2003, Chiu et al., 2004, Merdan et al., 2003)。
【0125】
医薬品に対する影響
幹細胞は多様な組織へと分化する能力を有するだけでなく、損傷を受けた組織へホーミングする先天的な能力のために、特異的組織環境に治療用遺伝子の発現を送達する可能性を有する。分子的操作アプローチの使用を介して幹細胞をビヒクルとして使用し、欠損領域または必要な領域において遺伝子を選択的に発現することができ、それによって必要とされるところでのみトランスフェクションの治療用産物を放出する。将来的に遺伝子操作幹細胞が役割を持ちうる疾患は、タンパク質または酵素全体が欠けているかもしくは機能を持たないか、または特定の因子が特異的組織において改善された機能を提供するものである。
【0126】
治療設定において幹細胞を使用する一連の研究は、癌、パーキンソン病またはアルツハイマー病などの神経変性障害、虚血性心疾患および筋ジストロフィーを含む多様な範囲の疾患の治療のために既に行なわれている。
【0127】
造血幹細胞への薬物耐性遺伝子の導入は、様々な遺伝病の治療に対する将来性を示す。これらは、X連鎖重症複合免疫不全症、アデノシンデアミナーゼ欠損症、サラセミアを含む。
【0128】
幹細胞および遺伝子療法の組合せのアプローチは、乳癌、リンパ腫、脳腫瘍、および精巣癌などの後天性障害のために調整される可能性を有する。この点において、組み合わせアプローチを癌治療のために使用する研究が開始されている。これらの研究は、移植された造血幹細胞の薬物耐性を改善することから、遺伝的に修飾された幹細胞を使用して癌を標的化することにわたる。
【0129】
薬物耐性遺伝子は、化学療法誘導性骨髄抑制に対する骨髄保護の提供のために、または遺伝性の障害の補正のために別の遺伝子と併用して形質導入される造血幹細胞の選択のために、造血幹細胞へと導入されている(Cancer Gene Ther., 2005 Nov; 12 (11): 849-63.薬物耐性遺伝子による造血幹細胞遺伝子療法:最新情報(Hematopoietic stem cell gene therapy with drug resistance genes: an update)。Budak-Alpdogan T, Banerjee D, Bertino JR)。
【0130】
幹細胞を使用して癌を標的化する例は、遺伝子操作神経幹細胞を神経膠腫の治療のために使用し、黒色腫の血管を標的化するためにリボヌクレアーゼ阻害剤の遺伝子を保有する造血幹細胞を使用する、バイスタンダー効果仲介性遺伝子療法の促進を含む。
【0131】
癌に対する追加のアプローチは、幹細胞が腫瘍血管へ動員されて内皮様細胞へと分化する能力を利用する。腫瘍タイプに依存して、腫瘍における新しい血管内皮細胞のおよそ30%は骨髄祖先細胞に由来しうる(Hammerling and Ganss, 2006)。したがって、末梢循環から動員される遺伝的に修飾された祖先細胞の使用は、腫瘍の遺伝子療法のための可能なビヒクルを示しうる(Reyes et al., 2002)。ガンシクロビル(登録商標)(GCV)に加えて単純疱疹ウイルス1(HSV)チミジンキナーゼ(tk)自殺遺伝子は、様々な固形腫瘍のインビボの治療のために成功して使用された(Dancer et al., 2003; Pasanen et al., 2003)。GCVのtk修飾と組み合わせた血管新生の間の内皮細胞によるHSV−tkの選択的遺伝子発現は、増殖細胞に対して致死性環境を導く。操作された前駆細胞の動員および分化後の自殺遺伝子の選択的活性化を可能にする血管新生の間に誘導されるプロモーターのシリーズが同定された。
【0132】
「バイスタンダー効果」は、細胞が離れた細胞に対する細胞損傷を仲介する能力として記載される。Li et al.による最近の研究において、HSV−tk遺伝子(NSCtk)により形質導入された神経幹細胞のラット神経膠腫細胞に対するバイスタンダー効果が検討された。無胸腺ヌードマウスまたはスプレーグ−ドーリーラットにおける頭蓋内の共移植実験から、NSCtkおよび神経膠腫細胞により共移植され、次にガンシクロビル(登録商標)(GCV)により治療された動物は、頭蓋内腫瘍を示さず100日以上生存するが、生理食塩水(PS)により治療されたものは腫瘍進行がもとで死亡した、ということが示された。(Cancer Gene Ther., 2005 Jul; 12(7):600-7.遺伝子操作神経幹細胞を使用する神経膠腫のバイスタンダー効果仲介性遺伝子療法(Bystander effect-mediated gene therapy of gliomas using genetically engineered neural stem cells)。Li S, Tokuyama T, Yamamoto J, Koide M, Yokota N, Namba H)。
【0133】
ヒトリボヌクレアーゼ阻害剤(hRI)は膵臓のRNase(RNase A)の活性を阻害することができ、RIが潜在的な抗血管新生剤として働きうることが示唆された。Fu et al.は、マウス造血細胞の中へRI遺伝子をトランスフェクションし、次に発現を誘導して固形腫瘍における血管新生をブロックする実行可能性を検討した。RIをヒト胎盤からクローン化し、レトロウイルスベクターpLNCXへと挿入した。次にマウス骨髄造血細胞をpLNCX−RIレトロウイルスベクターにより感染させた。次に感染細胞を致死量で照射したマウスへと注入した。RI遺伝子を保有する造血細胞の投与後に、マウスにB16黒色腫を移植し、腫瘍を21日間増殖させた。対照群からの腫瘍は、大きくなり、十分に血管が発達した。これとは対照的に、RI遺伝子を保有する造血細胞により治療されたマウスからの腫瘍は小さく、血管は比較的低密度であった(Cancer Gene Ther. 2005 Mar; 12 (3): 268-75.リボヌクレアーゼ阻害剤の遺伝子を保有する造血細胞の抗腫瘍効果(Anti-tumor effect of hematopoietic cells carrying the gene of ribonuclease inhibitor)。Fu P, Chen J, Tian Y, Watkins T, Cui X, Zhao B)。
【0134】
パーキンソン病に注目する多くの研究は、細胞移植または遺伝子療法のいずれかを使用した。(Gene Ther., 2003 Sep; 10 (20): 1721-7.遺伝子療法の進歩および展望:パーキンソン病(Gene therapy progress and prospects: Parkinson's disease)。Burton EA, Glorioso JC, Fink DJ)。しかしながら、現在までに2つのアプローチを組み合わせた研究はほとんどない。Liu et al.は骨髄由来間質細胞を使用して脳へ治療用遺伝子を送達した。この著者らはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して骨髄間質細胞へチロシンヒドロキシラーゼ(TH)遺伝子を送達した。次にTH遺伝子を発現するMSCを、パーキンソン病ラットの線条体の中へ移植した。遺伝子発現効率はおよそ75%であることが見出された。疾患ラットにおける機能改善は、THにより操作された骨髄間質細胞移植後に検出された。組織学的検査は、TH遺伝子が移植点のまわりに発現し、ラットの損傷線条体におけるドーパミン値は、対照におけるドーパミン値よりも高いことを示した。この動物の機能改善が観察された(Brain Res Brain Res Protoc. , 2005 May; 15(1):46-51. Epub 2005, Apr 22. パーキンソン病のためのTHにより操作された間葉系幹細胞の治療有効性(Therapeutic benefit of TH-engineered mesenchymal stem cells for Parkinson's disease)。Lu L, Zhao C, Liu Y, Sun X, Duan C, Ji M, Zhao H, Xu Q, Yang H)。
【0135】
虚血性心疾患は操作された幹細胞療法のための追加の標的である。Chen et al.,は、ヒト臍帯血から得られた精製CD34(+)細胞を使用し、AAVベクターを使用するヒトアンジオポイエチン−1(Ang1)およびVEGF(165)遺伝子によりトランスフェクションした。操作された細胞をVEGFと共に左側前方の自由壁で心筋内注入し、それにより、梗塞面積の減少、および治療後の毛細血管密度の有意な増加、加えて心筋梗塞の4週間後に心エコー検査を使用して測定された長期心機能の改善がもたらされた(Eur J Clin Invest., 2005 Nov; 35 (11): 677-86.臍帯血幹細胞および遺伝子療法の組合せは、血管新生を促進し、急性心筋梗塞後のマウスの心機能を改善する(Combined cord blood stem cells and gene therapy enhances angiogenesis and improves cardiac performance in mouse after acute myocardial infarction)。Chen HK, Hung HF, Shyu KG, Wang BW, Sheu JR, Liang YJ, Chang CC, Kuan P)。
【0136】
筋ジストロフィーは、進行性の筋肉消耗によって特徴づけられる神経筋障害の不均一なグループを示す。現在までにこれらの患者のための適切な治療様式は存在しない。胚性幹細胞に加えてMSCを含む成体幹細胞集団も、ジストロフィー表現型を補正する能力について評価されている。現在までに記述された方法はあまり将来性を示さない。失敗について記述された理由から、遺伝的に修飾された幹細胞を使用する場合に研究者が遭遇する以下の問題点が例示される。幹細胞における筋原性能力に関与する根底にある機構はまだ完全には解明されておらず、ドナー集団の筋肉へのホーミングはしばしば不十分であり、レシピエントでのよく理解されていない免疫応答が治療の成功を限定する(筋ジストロフィーの治療のための幹細胞ベース療法(Stem cell based therapies to treat muscular dystrophies)。Price, Kuroda, Rudnicki)。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療に使用される1つのアプローチは、治療用発現カセットにより形質導入された筋原幹細胞の自己細胞移植を利用するものである。この方法の開発は、細胞移植の低頻度、移植細胞追跡の困難さ、マーカー遺伝子を保有する自己細胞の急速な損失、および筋原幹細胞の中への大きなジストロフィン遺伝子の安定性導入の困難さ、を含む一連の問題によって妨げられた。
【0137】
ミニDys−GFP融合遺伝子は、ジストロフィンC末端ドメイン(デルタCT)をeGFPをコードする配列に置換すること、およびジストロフィン中央ロッドドメイン(デルタH2R19)の大部分を除去することによって操作された。骨格筋特異的プロモーターの制御下でミニDys−GFP融合タンパク質を発現する遺伝子導入mdx(4Cv)マウスにおいて、緑色融合タンパク質は筋鞘上に局在し、ここでそれはジストロフィン−糖タンパク質複合体を集合させ、遺伝子導入mdx(4Cv)筋肉におけるジストロフィーの進行を阻害した(Hum Mol Genet., 2006 May 15; 15 (10): 1610-22. Epub 2006 Apr 4.デュシェンヌ型筋ジストロフィーの細胞療法および遺伝子療法の研究のための高機能性ミニジストロフィン/GFP融合遺伝子(A highly functional mini-dystrophin/GFP fusion gene for cell and gene therapy studies of Duchenne muscular dystrophy)。Li S, Kimura E, Ng R, Fall BM, Meuse L, Reyes M, Faulkner JA, Chamberlain JS)。
【0138】
ウィスコット‐アルドリッチ症候群は、血小板減少症、調節異常および中年期以降のリンパ腫発生の傾向によって特徴づけられものであり、操作された幹細胞療法の標的となる可能性を示す(Dupre et al., 2006)。ファンコニ貧血は、「幹細胞疾患」と考えられ、遺伝子療法を使用する治療のための集中的な研究の対象であった。この疾患は、最もよく特徴づけられている造血幹細胞の先天性欠損を示す。それは、骨髄機能不全および発生異常(骨髄異形成、急性非リンパ性白血病および固形腫瘍の高発生率)によって特徴づけられるまれな遺伝性疾患である。ファンコニ貧血についての遺伝的根拠は、既知のファンコニ貧血遺伝子のうちの任意の1つの選択的な変異にあり、それによりこの疾患は遺伝子療法のための候補となる。しかし、少なくとも12の遺伝子サブタイプが記述されているので(FA−A、−B、−C、−D1、−D2、−E、−F、−G、−I、−J、−L、−M)この疾患は複雑であり、すべて(FA−Iを例外として)は別の遺伝子へ連結されている。大部分のFAタンパク質は、モノユビキチン化を介してFANCD2タンパク質を活性化する複合体を形成するが、FANCJおよびFANCD1/BRCA2はこの工程の下流で機能する。FAタンパク質は、DNAヘリカーゼであるFANCJ/BRIP1およびFANCM、ならびに恐らくE3ユビキチンコンジュゲート酵素であるFANCLを除いて、典型的には機能ドメインを欠く。架橋剤に対する高感受性に基づいて、FAタンパク質は、DNAストランド間架橋(それらはDNA複製フォークの進行をブロックする)の修復において機能すると考えられる(Cell Oncol. 2006;28 (1-2):3-29.ゲノムの維持のファンコニ貧血経路(The Fanconi anemia pathway of genomic maintenance)。Levitus M, Joenje H, de Winter JP)。
【0139】
遺伝子療法のための有力候補である追加の遺伝性幹細胞欠損は、無巨核球性血小板減少症、先天性角化異常症およびシュワヒマン−ダイアモンド症候群を含む。サラセミアおよび鎌型赤血球症は、世界的に最も一般的な遺伝性疾患である遺伝性溶血性貧血のグループに属し、したがって幹細胞遺伝子療法のための重要な候補である(Persons and Tisdale, 2004)。
【0140】
遺伝的に修飾された間葉系幹細胞を使用する臨床設定における優れた例は、抑制された骨疾患骨形成不全症における遺伝子変異の補正である。骨形成不全症は、I型コラーゲンをコードする遺伝子(COLIA1またはCOLIA2)中の変異のために脆弱な骨をもたらす。Chamberlain et al.は骨形成不全症患者の骨から間葉系幹細胞(MSC)を得て、COLIA1遺伝子中の点変異を同定した(Chamberlain et al., 2004)。MSCをアデノ随伴ウイルスに成功して感染させ、変異COLIA1遺伝子を標的とし不活性化した。次に補正されたMSCを免疫不全マウスの中へ移植し、損傷を受けた細胞は改善された安定性およびコラーゲンプロセシングを示した。
【0141】
(実施例)
実施例1
インビトロの接着増殖を使用して、患者またはドナーの骨髄および他のソースから多能性成体幹細胞を単離し、細胞活性および生物学的機能を決定する。このインビトロのステージで、接着増殖細胞は「幹細胞マーカー」CD34を発現せず、したがってインビトロの培養の間にCD34陰性であると考えられる。このステージで、CD34陰性の接着増殖幹細胞は、ウイルス性または非ウイルス性の技術によって一過性または安定的にトランスフェクションされ、インビボの適用前にインビトロで選択的に増幅される。遺伝子導入CD34陰性祖先細胞の生成のために、2つのプロモーターを選択および治療用遺伝子の器官/標的特異的誘導性について使用する。遺伝子導入システムは、接着選択性と組み合わせて、トランスフェクションおよび組込み(所望されるならば)に基づいて選ばれる。この実施例として、tie2−プロモーターエンハンサーはHSV−TK遺伝子を駆動し、それは腫瘍新血管新生の間に起こる内皮分化の背景においてのみ発現される。全身的に投与された幹細胞に加えて循環している内在性幹細胞も、腫瘍増殖の部位へ生理的に動員されて、腫瘍の新しい血管新生(それが原発腫瘍部位または転移であるかにかかわらず独立して)に関与するが、幹細胞は腫瘍内皮細胞へと分化する。器官特異的分化のこのプロセスの間に、幹細胞は、血管新生に関連するtie2活性化によって駆動されるHSV−TK遺伝子を発現する。ここでプロドラッグのガンシクロビル(登録商標)を患者に与えることができ、腫瘍の血管新生部位でHSV−TKによって細胞毒性物質に変換される。このアプローチは、乳癌、転移性結腸直腸癌、膵臓癌および神経膠芽腫のための前臨床的モデルにおいて成功することが示された。適用は、腫瘍の新しい血管新生に依存するあらゆる(悪性腫瘍)新生物について想定することができる。このアプローチは、腫瘍の血管新生の破壊を目指す。
【0142】
実施例2
実施例1と同様であるが、HSV−TKを発現させる代わりに、細胞毒性タンパク質として凝固物質を発現させる。
【0143】
実施例3
血管新生は、組織再構築および創傷治癒においてもまた極めて重要な生物学的プロセスである。これは、皮膚または粘膜の病変だけでなく、インスリン依存性糖尿病(IDDM)を導く膵臓のインスリン産生β細胞の欠如のように、他の組織にも適用される。遺伝子導入CD34陰性祖先細胞の全身的な適用により、そうでなければ静止している膵臓における膵島祖先細胞の活性化もまた誘導することができ、膵臓内分泌腺を補充し、IDDM患者における高血糖状態を補正する。tie−2エンハンサー/プロモーターは、組織再構築および創傷治癒を促進するVEGFのような血管刺激物質の遺伝子を活性化する。
【0144】
実施例4
実施例3と同様であるが、内在性再生がもうこれ以上十分でないならば、同種異系の膵島細胞の移植と組み合わせる。
【0145】
実施例5
実施例1と同様であるが、腫瘍増殖、組織再構築または創傷治癒の部位へのホーミング能力が促進された遺伝子導入細胞に、ケモカイン生物学を適用する。CD34陰性で接着増殖する幹細胞はGPI−ムチン−ケモカインを使用して操作される。これらの薬剤は、GPIアンカーに融合したCX3CL1またはCXC16のいずれかから得られたムチンドメインに連結された特異的ケモカインの選択的遺伝子発現を可能にするだろう。これらのケモカイン−ムチン薬剤の発現は、ケモカイン受容体を発現する相補的な白血球を動員するだろう。例えば、腫瘍治療の背景においてtie2プロモーター/エンハンサーの制御下でCXCL10−ムチン−GPI発現は、腫瘍環境へのエフェクターT細胞の動員を促進するだろう。これは腫瘍免疫療法のための補助剤として働くだろう。組織再構築において同じアプローチを使用して、選択した白血球集団の匹敵する動員を促進することができるだろう。
【0146】
実施例6
実施例1と同様であるが、例えば、慢性炎症性の腸疾患または同種異系骨髄/幹細胞移植後の移植片対宿主病のような自己免疫疾患において、炎症性の環境を修飾できるCD34陰性幹細胞を遺伝子操作する。これは、インターロイキン(IL−10)のような抗炎症性物質の部位特異的発現によってもまた促進することができる。
【0147】
実施例7
実施例1と同様であるが、例えば腫瘍増殖の部位での体内ワクチン接種ブーストを誘導する一般的なウイルス抗原の部位特異的発現(例えば麻疹または水痘)をともなう。
【0148】
実施例8
実施例1と同様であるが、治療用遺伝子の活性化は初期発生ステージの遺伝子(例えばノギン)によって抑制され、それは最終的には、腫瘍または組織の再構築/再生の部位での成熟組織において、遺伝子導入祖先細胞の分化の間にダウンレギュレートされるようになる。
【0149】
パートII
乳房腫瘍および膵臓腫瘍のモデル
摘要
腫瘍の血管新生は、癌の治療法の選択的送達のための有望な標的である。骨髄由来間葉系幹細胞を発生させて、外来遺伝子を腫瘍の血管新生環境に対して選択的に標的とさせる。これらの実験の結果は、外来的に追加されたMSCは、それらが分化する場所である腫瘍にホーミングすることを示す。自殺遺伝子HSV−tkに加えてRFPレポーター遺伝子などの遺伝子は、Tie2プロモーター/エンハンサーの制御下で分化の間に選択的に発現する。tk発現と協調するプロドラッグガンシクロビル(登録商標)の投与は、効果的に腫瘍を標的とし、腫瘍増殖の抑制をもたらす。
【0150】
内在性マウス乳癌モデル
Christoph Klein博士によってこれまでに確立されているマウス乳癌モデルを使用して、腫瘍の血管新生における操作されたMSCの使用を研究した。このモデルは、ヒト乳癌に対して広範囲で適用可能である。このモデルにおいて、MMTVプロモーターの転写制御下で活性化されるラットc−neu癌遺伝子を保有するトランスジェニックマウスを、癌治療法のための広範囲で適用可能なモデルの開発を目的として、BALB/cマウスに戻し交配した。非形質転換性のラット癌原遺伝子を発現するメスのHER−2/neu(neu−N)トランスジェニックマウスは、5〜6か月齢で始まる自然発生性局所性乳腺癌を発症する。これらの腫瘍の発生および組織学は、乳癌に罹患した患者において見られるものに似ている。
【0151】
腫瘍血管新生の背景における内皮特異的プロモーターの制御下のimMSCにおけるRFPおよびGFPの遺伝子の発現
腫瘍血管新生の背景におけるimMSCの組織特異的発現遺伝子発現の制御を査定し、より長い期間にわたってimMSCsの分布を顕微鏡で追跡するために、赤色蛍光タンパク質および緑色蛍光タンパク質(RFP、GFP)の遺伝子を、修飾発現ベクターの中へクローニングし、インビボで検出した。
【0152】
マウス
非形質転換ラット癌原遺伝子を発現するメスのHER−2/neu(neu−N)トランスジェニックマウスは、5〜6か月齢で自然発生性局所性乳腺癌を発症することが公知である。BALB−neuTトランスジェニックマウスは欧州連合ガイドラインへの合意(Agreement to the European Union Guidelines)に従って維持された。半接合(neuT+/neuT−)のマウスをスクリーニングした。Balb−neuTメスマウスの乳腺を週に二度検査し、生じた腫瘍を測定した。
【0153】
遺伝的に修飾された細胞を、原発腫瘍の外科的切除後に乳癌モデルマウスへと注入した。残存する腫瘍が再び増殖したので、外来的に追加されたimMSCは血管新生に前駆細胞を提供した。安定的にトランスフェクションされたTie−2−RFP(赤色蛍光タンパク質を駆動する内皮特異的プロモーター)imMSCsは、腫瘍に容易にホーミングし、内皮細胞に分化し、RFPレポーター遺伝子を発現することが見出された(図5)。これらの実験において、Balb−neuTマウスの原発性乳腺腫瘍への間充織細胞の組込みを評価した。RFPをトランスフェクションした細胞を3回適用後に、すべての切片において血管様の領域においてRFP発現細胞を検出することができた。この結果は、細胞が血管新生の部位へホーミングし、活性化されたTie2プロモーター/エンハンサーを介してマーカー遺伝子を発現することを実証する。
【0154】
内皮における自殺遺伝子の標的化による腫瘍増殖の阻害
次にプロトコールを変更して、自殺遺伝子HSV−tkの効果を評価した。プロドラッグガンシクロビル(登録商標)(GCV)と組み合わせたtk遺伝子産物は、複製可能細胞に影響を与える強力な毒素を産出する。血管内皮Tie2プロモーター/エンハンサーによって駆動される単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)遺伝子を保有するプラスミドにより、imMSCsを安定的にトランスフェクションした。この目的のために、乳癌の血管新生のマウスモデルを再び使用して、抗血管新生の療法において操作されたMSC株を評価した。
【0155】
アプローチI。18週または22週の指数関数的腫瘍増殖相における、操作されたMSCの注入およびガンシクロビル(登録商標)治療
Balb−neuTのtrsgの治療
マウスは0.2mlの細胞(500,000の細胞)および対照として0.2mlのPBSを注入して、0日目(22週目)で開始した。5〜8日目に、ガンシクロビル(登録商標)を、30μg/g体重(例えば21g体重のマウスについては100μl)の1日の用量で適用した。9日目より後は、マウス治療サイクルを解剖まで反復した。腫瘍進行の治療の間に、体重(各々の治療法サイクルの0および6日目で測定した)および行動を記録した。
【0156】
それぞれ両方の対照群と比較して、Tie2−Tk−asをトランスフェクションした細胞およびGCVによる治療の効果の全体的な印象を得るために、体重の巨視的値を解剖まで治療の間に記録した。測定ポイントは、治療法の各々のサイクルの0および5日目、ならびに解剖日であった。実験は、マウスの1つの治療群および2つの対照群を含んでおり、2つの異なるタイムポイント(18および22週齢)から開始した。
表2。体重、絶対的腫瘍量および相対的腫瘍量を含む、解剖後の治療群のデーター。
【0157】
アプローチII。外科的切除後の腫瘍再増殖の背景における治療法の評価
腫瘍の外科切除後の患者において、手術の間に見逃される残存腫瘍はしばしば増殖し、癌の再発生を導く。この背景における操作されたMSC/tk療法の効率を試験するために、Balb/cのneu−Nトランスジェニックマウスから乳房組織を18週齢で切除し、原発腫瘍の開始を遅延させた。手術後に、マウスは上述されるようなMSC−tkおよびGCVレジメンにより治療された。この治療は、治療されたマウスにおいて腫瘍増殖の劇的な減少をもたらした(図8)。
【0158】
膵臓腫瘍モデル
次に同所性膵臓癌モデルをC57B1/6マウスにおいて開発して、異なる腫瘍系におけるMSCベース療法の効率を査定した。システムは、Christiane BrunsおよびClaudius Conrad(手術部、LMU)によって事前に確立された。このモデルにおいて、C57B1/6マウスと同系のPanc02膵臓癌細胞を、ちょうど脾臓の下の膵臓領域中に被膜下注入して、原発性膵臓腫瘍を生成した。CMVプロモーターの制御下でGFPを備えたコンストラクト、およびTie2プロモーター/エンハンサーの制御下のRFPおよびtkを、C57B1/6マウスから単離されたMSCの中へ導入した。トランスフェクションした幹細胞を静脈内注入を介して全身的に与えた。予備実験において、構成的にGFPを(CMVプロモーターの制御下で)発現するように操作されたMSCを、増殖腫瘍のあるマウスへと注入した。細胞は効率的に腫瘍にホーミングすることが見出された(図9)。
【0159】
平行実験において、増殖腫瘍のあるマウスにTie2−RFPで操作されたMSCを注入した。5日後に動物を屠殺し、RFPの発現について腫瘍を調べた。結果は腫瘍の背景においてRFPの強いアップレギュレーションを示す(図9)。RFPは他の器官(脾臓、リンパ節および胸腺)において検出されなかった。
【0160】
(引用文献)
























【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、胃腸障害に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、および(c)胃腸障害が胃腸内皮における細胞増殖の必要性によって特徴づけられる、方法。
【請求項2】
前期被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記胃腸障害が、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸管障害またはクローン病である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記CD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記CD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記CD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、糖尿病被験体または前糖尿病性被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項8】
前記被験体がヒトである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被験体が前糖尿病性である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記前糖尿病性被験体が、I型糖尿病について前糖尿病性である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記前糖尿病性被験体が、II型糖尿病について前糖尿病性である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記被験体が糖尿病である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記糖尿病被験体がI型糖尿病に罹患する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記糖尿病被験体がII型糖尿病に罹患する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して同種異系である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して自己である、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記CD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103から約1×107細胞/kg体重である、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
被験体の血流の中への非自己CD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、筋ジストロフィーに罹患した被験体を治療する方法であって、(a)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(b)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項19】
前記被験体がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記被験体が、デュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはベッカー型筋ジストロフィーに罹患する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して同種異系である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記CD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、手術をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)CD34-幹細胞が被験体の手術の直前に、その間に、および/またはその直後に血流の中への導入される、(b)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(c)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項24】
前記被験体がヒトである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記手術が、腹部手術または胸部手術、脳手術または形成手術である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記手術が腹腔鏡下手術である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記手術が開腹手術である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して同種異系である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して自己である、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
CD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項24に記載の方法。
【請求項31】
被験体の血流の中へのCD34-幹細胞の治療上効果的な数を導入することを含む物理的外傷をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)CD34-幹細胞が被験体の物理的外傷の直前に、その間に、および/またはその直後に血流の中への導入される、(b)CD34-幹細胞が遺伝的に修飾されていない、および(c)骨髄除去がCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないか後続しない、方法。
【請求項32】
前記被験体がヒトである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記物理的外傷が出産である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記物理的外傷が暴力行為によって引き起こされた軽傷であり、前記CD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記物理的外傷が熱傷であり、前記CD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して同種異系である、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記CD34-幹細胞が被験体に関して自己である、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記CD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項32に記載の方法。
【請求項39】
被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、腫瘍に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)細胞毒性タンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結され、それらによって遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が血管新生を受ける腫瘍組織の近傍の中に入る場合およびその近傍において分化する場合、細胞毒性タンパク質は選択的に発現される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項40】
前記被験体がヒトである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記腫瘍が、前立腺腫瘍、膵臓腫瘍、扁平上皮癌、乳房腫瘍、黒色腫、基底細胞癌、肝細胞癌、精巣癌、神経芽細胞腫、神経膠腫または多形性神経膠芽腫などの悪性星状細胞系腫瘍、大腸腫瘍、子宮内膜癌、肺癌、卵巣腫瘍、頚部腫瘤、骨肉腫、横紋肉腫/平滑筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、ユーイング肉腫/PNETおよび悪性リンパ腫からなる群から選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記プロモーター/エンハンサー組合せがTie2プロモーター/エンハンサーであり、前記細胞毒性タンパク質が単純ヘルペスウイルス性チミジンキナーゼであり、前記被験体が、単純ヘルペスウイルス性チミジンキナーゼがガンシクロビル(登録商標)を細胞毒性にするようにする様式でガンシクロビル(登録商標)により治療される、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項40に記載の方法。
【請求項46】
被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、胃腸障害に罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、および(c)胃腸障害が胃腸内皮における細胞増殖の必要性によって特徴づけられる、方法。
【請求項47】
前記被験体がヒトである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記胃腸障害が、大腸炎、潰瘍性大腸炎、炎症性腸管障害またはクローン病である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記プロモーター/エンハンサー組合せがTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進する前記タンパク質が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項47に記載の方法。
【請求項53】
被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、糖尿病被験体または前糖尿病性被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的なプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項54】
前記被験体がヒトである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記被験体が前糖尿病性である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記前糖尿病性被験体がI型糖尿病について前糖尿病性である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記前糖尿病性被験体がII型糖尿病について前糖尿病性である、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記被験体が糖尿病である、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記糖尿病被験体がI型糖尿病に罹患する、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記糖尿病被験体がII型糖尿病に罹患する、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
前記プロモーター/エンハンサー組合せがTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進する前記タンパク質が血管新生に関連した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項54に記載の方法。
【請求項64】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項54に記載の方法。
【請求項65】
被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入含む、筋ジストロフィーに罹患した被験体を治療する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)被験体の筋細胞に不在であるかもしくは低発現であるか、または被験体の筋細胞における過剰発現が所望されるタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)筋肉特異的プロモーターまたは筋肉特異的プロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項66】
前記被験体がヒトである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項66に記載の方法。
【請求項69】
前記被験体が、デュシェンヌ型筋ジストロフィーまたはベッカー型筋ジストロフィーに罹患する、請求項66に記載の方法。
【請求項70】
前記筋肉特異的プロモーター/エンハンサー組合せがMyoDプロモーター/エンハンサーであり、前記の被験体の筋細胞に不在のタンパク質がジストロフィンである、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項66に記載の方法。
【請求項74】
被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、手術をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的なプロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項75】
前記被験体がヒトである、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記手術が、腹部手術、胸部手術、脳手術または形成手術である、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記手術が腹腔鏡下手術である、請求項75に記載の方法。
【請求項78】
前記手術が開腹手術である、請求項75に記載の方法。
【請求項79】
前記プロモーター/エンハンサー組合せがTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進する前記タンパク質が血管新生に関連した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である、請求項75に記載の方法。
【請求項80】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項75に記載の方法。
【請求項81】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項75に記載の方法。
【請求項82】
前記遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項75に記載の方法。
【請求項83】
被験体の血流の中への遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数の導入を含む、物理的外傷をこれから受けるか受けているかまたは受けた被験体の微小循環および/または急性創傷治癒を改善する方法であって、(a)遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の各々が(i)内皮細胞増殖を促進するタンパク質をコードする領域を含む外来性核酸を含み、その領域は(ii)内皮特異的プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー組合せへ作動可能に連結される、および(b)骨髄除去が遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の導入に先行しないか同時に起こらないかまたは後続しない、方法。
【請求項84】
前記被験体がヒトである、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記物理的外傷が出産である、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記物理的外傷が暴力行為によって引き起こされた軽傷であり、前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される、請求項84に記載の方法。
【請求項87】
前記物理的外傷が熱傷であり、前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が物理的外傷の直後に被験体の血流の中へ導入される、請求項84に記載の方法。
【請求項88】
前記プロモーター/エンハンサー組合せがTie2プロモーター/エンハンサーであり、内皮細胞増殖を促進する前記タンパク質が血管新生に関連した血管内皮細胞増殖因子(VEGF)である、請求項83に記載の方法。
【請求項89】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して同種異系である、請求項84に記載の方法。
【請求項90】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞が、被験体に関して自己である、請求項84に記載の方法。
【請求項91】
前記の遺伝的に修飾されたCD34-幹細胞の治療上効果的な数が、約1×103〜約1×107細胞/kg体重である、請求項84に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2010−528008(P2010−528008A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509362(P2010−509362)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/006434
【国際公開番号】WO2008/150368
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(509323299)アプセト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】