説明

CHA構造を備えた銅含有分子篩を調整する方法、触媒、システム及び方法

アルミナに対するシリカのモル比が10を超えるCHA構造を備えた銅含有分子篩を製造する方法であって、銅交換工程を被覆工程の前に、湿潤状態での交換により行い、銅交換工程において、酢酸銅及び/又は銅イオンのアンモニア性溶液を銅源として用いて銅濃度が約0.001〜約0.25モル濃度の範囲内とされた銅溶液を使用することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、アルミナに対するシリカのモル比が約10より大きいCHA構造を備えた銅含有分子篩を調整する方法に関し、特定の実施の形態においては、銅交換が、被覆の前に、湿潤状態の交換により行われる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成及び天然ゼオライト、及び所定の反応を促進させるためにそれらを使用する方法は、従来技術で知られている。なお、所定の反応には、窒素酸化物とアンモニア、尿素、又は炭化水素等の反応剤との酸素雰囲気下における選択触媒反応が含まれる。ゼオライトは、比較的均一な孔径を有するアルミナケイ酸塩結晶材料であり、この細孔の直径は、ゼオライトの種類及びゼオライト格子構造に含まれるカチオンの種類及び量に依存して、3〜10Åの範囲の値をとる。菱沸石(CHA)は、8員環の小孔開口(3.8Å以下)を有する小孔質のゼオライトであり、その開口には3次元孔質によりアクセス可能である。2つの6環基礎単位を4環により連結することでケージ状構造が生じる。
【0003】
菱沸石におけるカチオンの位置についてX線回折測定により、骨格酸素に合わせて7つのカチオンのサイトが識別される。これらのサイトは、A、B、C、D、F、H、及びIとラベル付される。このカチオンサイトは、菱沸石ケージにおける2つの6員環の中央であるか、その周辺、及び菱沸石ケージの8員環の周辺に位置する。C位置は、菱沸石ケージにおける6員環構造よりもやや上方に配置されており、F、H、及びIの位置は、菱沸石ケージにおける8員環周辺に位置されている(Mortier, W. J. “Compilation of Extra Framework Sites in Zeolites”, Butterworth Scientific Limited, 1982, p11 and Pluth, J. J., Smith, J. V., Mortier, W. J., Mat. Res. Bull., 12 (1977) 1001を参照)。
【0004】
SCR処理において用いられる触媒は、理想的には、使用における広い温度範囲に亘って良好な触媒活性を保つことができるべきである。この温度範囲は、熱水条件の下で例えば、200℃〜600℃、或いはそれ以上である。熱水条件は、例えば、スートフィルタの再生工程や、粒子除去用に使用される排気ガス処理システムの要素において実際に適用されるものである。
【0005】
窒素酸化物をアンモニアで選択的に触媒還元するための、金属で促進化した(metal−promoted)ゼオライト触媒、特に、鉄で促進化した及び銅で促進化したゼオライト触媒が公知である。鉄で促進化したゼオライトベータ(US4961917号)は、窒素酸化物をアンモニアで選択的に還元するのに効果的な触媒である。しかし、700℃を超える温度でのスートフィルタの再生工程の間では、過酷な熱水条件の下で、多くの金属促進化ゼオラトの活性が低下することがわかった。この活性の低下は、ゼオライトの脱アルミニウム効果及びゼオライト内での金属含有活性中心の低下に繋がる。
【0006】
WO2008/106519には、CHAの結晶構造を有するゼオライトを含み、アルミナに対するシリカのモル比が15より大きく、アルミニウムに対する銅の原子比が0.25を超えている触媒が開示されている。触媒は、NH4+―形のCHAを硫酸銅または酢酸銅に交換する銅を用いて製造される。水性硫酸銅イオン交換工程における銅濃度は、0.025から1モルに変化し、複数の銅イオン交換工程が、目標となる銅の量を達成するために必要とされる。水性酢酸銅のイオン交換工程における銅濃度は、0.3〜0.4モルの間で変化し、湿潤状態の交換がなされる。従って、被覆工程の前に、分離された銅交換工程が行われる。銅の被覆工程の間に、銅交換工程を行うと銅濃度が、0.25及び0.12(実施例16及び17)となる。
【0007】
US2008/0241060及びWO2008/132452には、ゼオライト材料を鉄および/または銅でローディングすることができる点が記載されている。US2008/0241060の実施例において、銅イオン交換は記載されていない。WO2008/132452において、複数の水性溶液イオン交換が、3質量%のCuを目標として行うことが記載されている。反応条件の詳細は示されていない。
【0008】
Dedecek等による“Microporous and Mesoporous Materials 32(1999)63〜74において、菱沸石のNa+−、Ca2+−、Cs+−、Ba2+−形への直接銅交換が記載されている。酢酸銅水溶液は、銅濃度を0.20〜7.6質量%の間で変化させるために使用される。従って、酢酸銅水溶液の濃度は、0.001〜0.1モルの間である。固体に対する液体の比は、20〜110の間で変化する。アルミナに対するシリカの比は、5〜8の間である。
【0009】
一般的に、触媒は同様の方法で製造されるが、触媒のNOx変換活性は、1つの実験から他の実験(表1参照)にかけて大きく変動する。CHA構造を備えた銅含有分子篩の合成は、非常に複雑な反応である。一般的に、調整方法には、i)Na/K−菱沸石を含む有機テンプレートの結晶化、ii)Na/K−菱沸石の焼成、iii)NH4−菱沸石におけるNH4-交換、iv)金属菱沸石を形成するためのNH4−菱沸石における金属交換が含まれる。
【0010】
更に、金属−菱沸石を形成するためのNH4−菱沸石における金属交換のような全てのサブ工程は、以下のサブ−サブ工程に分割される。a)金属菱沸石の形成工程、b)分離工程、c)任意の乾燥工程、及びd)焼成工程。例えば、サブ−サブ工程a)、金属含有ゼオライトの形成工程は、(1)出発材料の選択、(2)各出発材料の濃度、(3)出発材料の液体:固体の比、(4)反応時間、(5)反応温度、(6)pH値または(7)攪拌等の他の反応条件などにより影響を受ける可能性がある。
【0011】
現在まで、NOx変換活性の変動を引き起こす最も重要な方法の特徴は、まだ確立されていない。
【0012】
一般的には、菱沸石分子篩に基づいてSCR触媒は、多段階合成(NH4−菱沸石における銅交換)によって得られた最新技術の触媒と同等のNOx変換活性を示すべきである。一般に、触媒は、良好な低温NOx変換活性(200°CにおいてNOx変換率>50%)、及び良好な高温NOx変換活性(450°CにおいてNOx変換率>70%)の双方を示すべきである。NOx活性は、500ppmのNO、500ppmのNH3、10%のO2、5%のH2O、バランスN2の混合ガスにおける最大NH3スリップ条件で、定常状態の条件下で測定される。なお、体積空間速度は、80,000h-1である。
【0013】
CHA構造を備えた分子篩を含む銅を製造する方法を改良する要求が存在している。
【0014】
要約
本発明の一つの側面は、アルミナに対するシリカのモル比が約10を超えるCHA構造を備えた銅含有分子篩の製造方法を含む。第1の実施の形態では、アルミナに対するシリカのモル比が約10を超えるCHA構造を備えた銅含有分子篩において、被覆工程の前に湿潤状態での交換による銅交換工程を行う。特定の実施の形態では、銅交換工程において、銅源として酢酸銅及び/又は銅イオンのアンモニア性溶液を用いて、その銅濃度を約0.001〜約0.25モル濃度の範囲内とする。第2の実施の形態において、銅交換工程において使用される出発ゼオライト材料の質量に対する、銅溶液を製造するために使用される水の質量として定義される固体に対する液体の比が、約2〜約80の範囲となるように、第1の実施の形態を修正する。第3の実施の形態において、第1の実施の形態及び第2の実施の形態を、銅が、菱沸石のNa+−形、又はNH4−形において変換されるように修正する。第4の実施の形態において、第1〜3の実施の形態に係る方法を、銅のモル濃度が、約0.1〜約0.25の範囲となるように修正する。第5の実施の形態において、第1〜3の実施の形態に係る方法を、銅のモル濃度が、約0.15〜約0.225の範囲となるように修正する。
【0015】
第6の実施の形態は、 第1〜5の実施の形態の何れか1つの製造方法により得ることのできる、又は得られた、CHA構造を備えた銅含有分子篩に関連する。第7の実施の形態は、第6の実施の形態の改良であって、酸化銅に対して交換された銅の質量比を、少なくとも1とする。第8の実施の形態は、第6又は第7の実施の形態の改良であって、銅含有分子篩が、H2昇温還元法スペクトルにおいて少なくとも2個の信号を示し、信号Iの最大値は約25〜約400℃の範囲内において存在し、信号IIの最大値が約475℃〜約800℃の範囲内において存在するCHA構造を備えた銅含有分子篩に関連する。第9の実施の形態は、第6〜第8の実施の形態の改良であって、CHA構造を備えた銅含有分子篩が、約15〜約35nmのUV−VISの半値半幅波長を有する、CHA構造を備えた銅含有分子篩に関連する。第10の実施の形態は、第6〜第9の実施の形態の修正である。
【0016】
銅含有CHA分子篩は、拡散反射分光法FT−IR(DRIFT)において約1948cm―1で少なくとも1個のピークを示す。
【0017】
第11実施の形態は、第6〜第10実施の形態の何れか1つにおいて、CHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒に関する。
【0018】
第12の実施の形態は、酸化窒素NOxの選択的還元(SCR)用、NH3の酸化用、N2Oの分解用、すす酸化用、先進エミッション制御システムにおけるエミッション制御用の触媒として;流動接触分解法における添加剤として;有機転化反応における触媒として;又は、固定発生源の処理における触媒として;
第11実施の形態の、CHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒を使用する方法に関する。
【0019】
第13の実施の形態は、アンモニアを含む排気ガス流と、第11実施の形態のCHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒と、触媒化されたスートフィルタと、ディーゼル酸化触媒と、を含む排気ガス処理システムに関する。
【0020】
第14実施の形態は、窒素酸化物NOxを含む気体流を、請求項6〜11の何れか1項に記載のCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させることを特徴とする、窒素酸化物NOxを選択的に還元する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
驚くべきことに、NOx変換活性において観察された変動は 銅交換工程において、銅の濃度が約0.1〜約0.25モル濃度の範囲である銅溶液を用いることで、最小化することができる。NOx変換活性の変動が生じないことに加えて、NOx変換率の全体的な増加が、銅交換工程における上述の濃度を用いることにより観測された。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される単数形は、特に文中に明示されていない限り複数の場合を含む。したがって、例えば、2つ以上の触媒の混合物を含む場合も“触媒”と記載し、他も同様である。
【0023】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されているように、用語 「菱沸石のNa+−形」は、どんなイオン交換も行わないゼオライトの焼成フォームを意味する。この形式では、ゼオライトは、一般的に、交換サイト中にNa+とH+カチオンの混合物を含んでいる。Na+カチオンによって占有されたサイトの断片は、特定のゼオライトバッチおよび方法によって変化する。
【0024】
分子篩は、ゼオライト−ゼオライト又は非ゼオライトであっても良く、ゼオライト及び非ゼオライトの分子篩は、国際ゼオライト協会によりCHA構造と呼ばれる菱沸石の結晶構造を有していても良い。ゼオライト菱沸石は、近似式(Ca、Na2、K2、Mg)Al2Si412x6H2O(例えば、含水カルシウムケイ酸アルミニウム)を有するゼオライト群の天然テクトケイ酸塩鉱物を含んでいる。ゼオライト菱沸石の3つの合成フォームは、“Zeolite Molecular Sieves,” (D.W.Breck著,John Wiley & Sons により1973年発行)に記載されている。Breckによって報告された3つの合成フォームは、Zeolite K−G,(J. Chem.Soc.,p.2822 (1956)に記載), Barrer他による;Zeolite D(英国特許第868846(1961)に記載)、Zeolite R(米国特許3,030,181に記載)である。これらは、本明細書において参考として援用される。ゼオライト菱沸石SSZ−13の他の合成形態における合成は、本明細書において援用される米国特許4544538に記載されている。菱沸石の結晶構造(シリコアルミノリン酸塩34(SAPO−34))を有する非ゼオライト分子篩の合成形態の合成は、本明細書において参考として援用される米国特許第7264789号に記載されている。菱沸石構造(SAPO−44)を有する他の合成非ゼオライト分子篩の製造方法は、本明細書中で参考として援用される米国特許第6162415号に記載されている。
【0025】
CHA:
特定の実施の形態では、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、すべてのアルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ガロシリケート、MeAPSO、及びMeAPO組成物を含む。しかし、これらを含んでも、SSZ−13、SSZ−62、天然菱沸石、ゼオライトKG、リンデD、リンデR、LZ−218、LZ−235、LZ−236ZK−14、SAPO−34、SAPO−44、SAPO−47、ZYT−6、CuSAPO−34、CuSAPO−44、及びCuSAPO−47に限定されるものではない。最も好ましい材料は、SSZ−13及びSSZ−62などのアルミノシリケート組成物である。
【0026】
Na+/K+−ゼオライトの調製:
CHA構造を備えたアルカリ金属(例えば、Na+又はK+)−ゼオライトの合成は、本分野における種々の公知技術にしたがい実行される。たとえば、一般的なSSZ−13の合成において、シリカ源、アルミナ源、及び有機指向剤は、アルカリ性水性溶液条件下で混合される。一般的なシリカ源は、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、コロイダルシリカに加えてシリコンアルコキシドの種々なタイプを含む。一般的なアルミナ源はベーマイト、擬似ベーマイト、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム又はアルミン酸ナトリウム等のアルミニウム塩、及びアルミニウムアルコキシドを含む。水酸化ナトリウムは、通常、反応混合物に添加される。この合成のための一般的な有機指向剤は、アダマンチルトリメチルアンモニウム水酸化物であり、他のアミン及び/又は第四級アンモニウム塩を、上記有機指向剤の代わりに用いるか、或いは追加しても良い。反応混合物は、結晶SSZ−13の製品を得るために撹拌しながら、圧力容器内で加熱される。一般的な反応温度は100〜200°Cの範囲であり、特定の実施の形態では135〜170℃の範囲である。一般的な反応時間は1時間〜30日間であり、特定の実施の形態では、10時間〜3日間である。
【0027】
反応の終了時に、必要に応じてpHを6〜10に調整し、特定の実施の形態では、7〜7.5の間に調整して、生成物を濾過し水で洗浄する。任意の酸をpH調整に使用することができ、特定の実施の形態では硝酸を使用する。また、製品は遠心分離しても良い。有機添加剤は、固体生成物の処理および分離を補助するために使用しても良い。製品の処理の付随的な手順として噴霧乾燥を行っても良い。固体生成物は、熱空気または窒素で処理する。また、各ガス処理は、種々の順序を実行することができ、またはガスの混合物を用いることができる。一般的な焼成温度は400〜850℃の範囲である。
【0028】
必要に応じたNH4−菱沸石を形成するためのNH4−交換:
必要に応じて、得られたアルカリ金属ゼオライトを、NH4−菱沸石を形成するためにNH4−交換する。NH4−イオン交換は、例えば、「Bleken, F.; Bjorgen, M.; Palumbo, L.; Bordiga, S.; Svelle, S.; Lillerud, K.−P.; and Olsbye, U. Topics in Catalysis 52, (2009), 218〜228」等の本分野における種々の公知技術にしたがい実行することができる。
【0029】
金属−菱沸石を形成するための、アルカリ金属又はNH4−菱沸石における銅交換:
特定の実施形態では、下記のように、アルカリ金属又はNH4−菱沸石において銅をイオン交換し、Cu−菱沸石を形成する。
【0030】
濃度:
特定の実施の形態では、銅イオン交換で使用される銅溶液の銅濃度が、約0.01から約0.25モル濃度の範囲であり、より好ましくは約0.05から約0.25モル濃度の範囲であり、更に好ましくは約0.1から約0.25モル濃度の範囲であり、特に約0.125〜約0.25モル濃度の範囲であり、更に好ましくは約0.15〜約0.225モル濃度の範囲であり、さらに特定の実施の形態では、約0.2モル濃度である。
【0031】
液体:固体の比
特定の実施の形態において銅交換工程で使用されている出発ゼオライトの乾燥質量に対する、銅溶液を調整するために使用される水及び銅塩の量として定義されている固体に対する液体の比が、約0.1〜約800の範囲、特定の実施の形態において約2〜約80の範囲、さらに特定の実施の形態において約2〜約15の範囲で、さらに特定の実施の形態では約2〜約10の範囲、さらに特定の実施の形態において約4〜約8の範囲である。
【0032】
組み合わせ:濃縮液体:固体の比
本発明の実施の形態の特定の実施の形態によれば、銅イオン交換工程で使用される銅溶液の濃度は、特定の実施の形態で約0.1〜約0.25の範囲であり、出発ゼオライトの質量に対する、銅溶液を調整するために使用される水と銅塩の量として定義されている固体に対する液体の比が、約2〜約10である。より具体的な実施の形態において、銅イオン交換で使用される銅溶液の濃度は約0.15〜約0.225の範囲内であり、特定の実施の形態において、固体に対する液体比が約4〜約8の範囲である。
【0033】
反応温度:
特定の実施の形態では、銅イオン交換工程の反応温度は約15〜約100℃の範囲内であり、特定の実施の形態においては約20〜約60℃の範囲内である。特定の実施の形態で銅イオンのアンモニア性溶液が銅源として使用されている場合には、反応温度は約20〜約35℃の範囲であり、より具体的な実施の形態においては約20〜約25℃の範囲である。
【0034】
反応物の添加順序:
反応ゼオライト、銅源、及び水は、任意の順序で添加しても良い。 特定の実施の形態では、ゼオライトは予め作成された銅塩または複合体の溶液に添加される。この添加は、室温で、又はイオン交換温度とするための予備加熱の下で行っても良い。さらに特定の実施の形態では、予め作成された銅塩または複合体の溶液は、ゼオライトを添加する前に、約20〜約90℃の温度、特定の実施の形態では約40〜約75℃の温度、特定の実施の形態では約55〜約65℃の温度まで加熱される。
【0035】
反応時間:
さらに特定の実施の形態では、イオン交換工程の反応時間は、約1分〜24時間であり、さらに特定の実施の形態では約30分〜約8時間であり、特定の実施の形態では約1分〜10時間であり、さらに特定の実施の形態では10分〜5時間であり、さらに特定の実施の形態では10分〜3時間であり、さらに特定の実施の形態では30分〜1時間である。
【0036】
反応条件:
特定の実施の形態において、水性溶液は、好適に攪拌される。一般的に、撹拌速度は反応器のサイズが大きくなるにつれて減少する。
【0037】
pH値:酸性の添加剤の使用:
特定の実施の形態において、イオン交換工程のpHは、約1〜約6の範囲、さらに特定の実施の形態において約2〜約6の範囲、さらに特定の実施の形態では約3〜約5.5の範囲である。以上の実施の形態において、銅イオンのアンモニア溶液が銅源として使用される場合、イオン交換工程のpHは、約5〜約14の範囲、特定の実施の形態では約6〜約12の範囲であり、及びさらに特定の実施の形態では約8〜約11の範囲である。
【0038】
用いられる出発材料に応じて、pHが上記の値を持つように、水性溶液のpHを調整する必要がある。特定の実施の形態では、pHは水性溶液として添加される酢酸やアンモニアを用いて上述の値に調整される。
【0039】
銅種:
特定の実施の形態では、酢酸銅又は銅イオンのアンモニア性溶液が、例えば銅アミン炭酸塩のために使用される。
【0040】
銅イオンのアンモニア性溶液:
Panias他による(Oryktos Ploutos(2000)、116、47〜56)では、水性アンモニア溶液中における二価の銅イオンのスペシエーションが報告されている。二価の銅アミノ酸複合体Cu(NH3)N2+は、実際には銅が弱酸性状態で強アルカリ性アンモニア溶液にさらされている支配的な形態である。イオンであるCu(NH342+は、Cu2+−NH3−H2O系の最も重要なイオンである。それはpHが5の弱酸性溶液からpHが14の強アルカリ性溶液にわたる種々な広い安定領域を示す。二価の銅錯体の水酸基は、pHが12を超える強アルカリ性溶液及び総アンモニア濃度が0.1Mより少ない希釈アンモニア溶液中においてのみ、Cu2+−NH3−H2O系に現れる。アンモニア性溶液中で銅は、強い酸性水性溶液中においてのみ、遊離のCu2+イオンの形態で検出される。
【0041】
Cu:Al:
酢酸銅を使用して、銅交換ステップのための銅スラリー中におけるAlに対するCuのモル比は、約0.25〜約2の範囲、特定の実施の形態では、約0.5〜約2の範囲、さらに特定の実施の形態では約0.5〜1.5の範囲、さらに特定の実施の形態では、約0.5〜約1.2の範囲である。銅イオンのアンモニア性溶液を用いる場合、Alに対するCuの比は、特定の実施の形態において約0.001〜約0.1の範囲で、さらに特定の実施の形態において約0.25〜約0.8の範囲で、さらに特定の実施の形態では、約0.25〜約0.6の範囲で、さらに特定の実施の形態では約0.25から約0.5までの範囲である。特定の実施の形態において、スラリーは、銅溶液中に分散されたゼオライトで構成される。
【0042】
イオン交換の繰り返し:
銅交換ステップは、0〜10回、特定の実施の形態において0〜2回繰り返しても良い。特定の実施の形態では、銅の交換工程は、一度行われ、繰り返されない。
【0043】
後処理:
一以上の実施の形態によれば、銅交換ステップの後、CHA構造を備えた本発明の銅含有分子篩を含む交換スラリーは、適切に母液から分離される。分離の前に、母液の温度を、適切な冷却速度を用いて所望の値に減少させることもできる。
【0044】
この分離は、例えば、デカンテーション、濾過、限外濾過、透析濾過又は遠心分離方法または噴霧乾燥、噴霧造粒法等の当業者に知られているすべての適当な方法によって行うことができる。
【0045】
CHA構造を持つ分子篩は、適切な洗浄剤で少なくとも1回は洗浄しても良い。洗浄工程が少なくとも2回の場合には、同一又は異なる洗浄剤またはその混合物を使用することが可能である。
【0046】
使用される洗浄剤の例としては、水、例えばメタノール、エタノール、又はプロパノール等のアルコール類、又はそれらの2種以上の混合物である。例えば、2つまたはそれ以上のアルコールの混合物(例えばメタノールとエタノール、又はメタノールとプロパノール、又はエタノールとプロパノール又は、メタノールとエタノールとプロパノール)、または、例えば水と少なくとも一種のアルコールの混合物(例えば水とメタノール、または水とエタノール、または水とプロパノール、または水とメタノール及びエタノール、または水とメタノール及びプロパノール、または水とエタノール及びプロパノール、または水とエタノール及びプロパノール、または、水とエタノール及びプロパノール又は水とメタノール及びエタノール及びプロパノール)が、混合物として挙げられる。
【0047】
洗浄工程の洗浄液温度は、特定の実施の形態において約10〜約100℃の範囲で、さらに特定の実施の形態において約15〜約60℃の範囲で、さらに特定の実施の形態では約20〜約35℃の範囲で、さらに特定の実施の形態では、約20〜約25℃の範囲である。
【0048】
分離及び必要に応じた洗浄の後、CHA構造を備えた銅含有分子篩を乾燥してもよい。乾燥温度と乾燥時間は、当業者により知られている。乾燥温度は、特定の実施の形態において室温から約200℃の範囲であり、特定の実施の形態における乾燥時間は、約0.1から約48時間の範囲内である。
【0049】
分離した後、必要に応じて、洗浄、乾燥を行い、CHA構造を備えた銅含有分子篩を、少なくとも一つの追加的な工程において焼成しても良い。
【0050】
特定の実施の形態において、菱沸石の分子篩の焼成は、約0℃以上で約750℃以下の温度範囲で行われる。一つ以上の方法によれば、例えばマッフル炉内において静的な条件下で焼成が行われる場合には、約500〜約750℃以下の温度で行われることが好ましい。他の方法では、焼成が動的な条件下(例えば回転焼成)で行われる場合、約500〜約750℃以下の温度が好ましい。
【0051】
焼成は、連続した温度で段階的に行うことができる。本発明の実施の形態の文脈で使用される“連続した温度で段階的”という用語は、焼成されるゼオライトが一定温度まで加熱され、一定の時間の間この温度に保たれ、当該温度から少なくとも一つの他の温度に加熱され、さらに一定時間の間、当該温度に保たれることを意味する。例として、段階的な焼成が、本明細書において参考として援用される出願番号PCT/EP2009/056036の国際特許出願において記載されている。
【0052】
焼成は、例えば、任意の適切な雰囲気、例えば、空気、酸素中で使い果たされるリーンエアー(lean air)、酸素、窒素、水蒸気、合成空気、二酸化炭素の雰囲気の下、行われる。特定の実施の形態において、焼成は、空気雰囲気下で行われる。焼成は、デュアルモード、すなわち、酸素の減少したまたは無酸素雰囲気で第1の焼成を行い、酸素の豊富な雰囲気中または純酸素雰囲気中で第2焼成を行うモードで実行されることも考えられる。
【0053】
特定の実施の形態によれば、第2焼成工程が約100%の空気を含む雰囲気中で実行されるのに対し、第1焼成工程は、約5〜約15%の空気及び約80〜約95%の窒素を含む雰囲気下で実行される。
【0054】
更に、本発明の実施の形態は、上記方法によって得られる又は得られた菱沸石の結晶構造を有するCHA構造を備えた銅含有分子篩に関する。
【0055】
Cu2+対CuO:
特定の実施の形態において、本発明の実施の形態の上記方法によって得られた/得ることのできるCHA構造を備えた焼成銅含有分子篩は、酸化銅に対する交換された銅の質量比が少なくとも約1である。なお、この質量比は、空気中における450℃でのゼオライトの1時間の焼成の後に測定した。特定の実施の形態において、酸化銅に対する交換された銅の質量比が、少なくとも約1.5である。さらに特定の実施の形態では、酸化銅に対する交換された銅の質量比が、少なくとも約2である。
【0056】
特定の実施の形態において、交換された銅は、C及びHサイトという活性部分に位置する。したがって、特定の実施の形態では、CHA構造を備えた銅含有分子篩が、拡散反射FT−IR分光法(DRIFT)により測定して、約1948cm-1(サイトC)及び任意に約1929cm-1(サイトH)においてピークを示す。
【0057】
FTIR技術の使用は、例えばJ. Catal. 136, 510−520 (1992)(Giamelloらによる)で実証されている。
【0058】
2昇温還元法
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた銅含有分子篩が、H2昇温還元法スペクトルにおいて、少なくとも2個の信号を示す。ここで、信号Iの最大値は、25〜400°Cの範囲に存在し、信号IIの最大値は、約475℃〜約800℃の範囲に存在する。なお、測定は、空気中における500℃でのゼオライトの30分間の焼成の後に行った。
【0059】
信号Iは、2つの反応i)Cu2+ +1/2H2= Cu++H+及びii)CuO+ H2 =Cu+ H2Oと相関しても良い。また、信号IIは、その最大値が約475℃〜約800℃の範囲である場合に、信号IIは一つの反応iii)Cu++1/2H2= Cu++H+に相関しても良い。
【0060】
特定の実施の形態では、信号IIの最大値は、約480℃〜約800℃の範囲にあり、さらに特定の実施の形態では、約490℃から約800℃の範囲にあり、さらに特定の実施の形態では、約550℃から約800℃の範囲にある。
【0061】
金属含有ゼオライトの評価のために、この技術を使用することは、文献で実証されている。たとえば、Yanと共同研究者によるCu−ZSM−5の性質(in Journal of Catalysis, 161, 43−54 (1996))において報告されている。
【0062】
UV−VIS:
特定の実施の形態において、本発明の実施の形態の上記方法によって得られた/得られ得るCHA構造を備えた焼成銅含有分子篩は、約5〜約35nm、特に約10〜約30nm、より好ましくは約15〜約25nmの範囲のUV−VIS半値半幅の波長を有する。なお、この値は、空気中において450℃で1時間のゼオライト焼成の後に測定されたものである。
【0063】
UV−VIS技術の使用は、例えば、J. Catal. 220, 500−512 (2003)で実証されている。
【0064】
銅の質量%:
本発明の実施の形態の上述の方法によりは得られた/得られ得るCHA構造を備えた銅含有分子篩のCu含有量は、CuOとして計算され、特定の実施の形態において、揮発性物質が無い状態で、少なくとも1.5質量%であり、さらに特定の実施の形態では少なくとも2質量%であり、さらに特定の実施の形態では少なくとも2.5質量%である。より具体的な実施の形態では、菱沸石分子篩のCu含有量が、CuOとして計算され、それぞれ揮発性物質が無い状態で、約5質量%以下、さらに特定の実施の形態では約4質量%、さらに特定の実施の形態では約3.5質量%以下である。従って、特定の実施の形態において、菱沸石分子篩のCu含有量は、それぞれ揮発性物質が無い状態で、CuOとして計算され、約2〜約5質量%、さらに特定の実施の形態において約2〜約4質量%、及びさらに特定の実施の形態において約2.5〜約3.5質量%、及びさらに特定の実施の形態において約2.75〜約3.25質量%である。すべての質量%の値は、揮発性物質が無い状態で示されている。
【0065】
遊離銅:
ゼオライトの構造中の交換サイトとともに、銅レベル(level of copper)を増加させるために交換される銅に加えて、塩形態の非交換銅は、菱沸石の分子篩中に存在しても良く、いわゆる遊離銅と呼ばれる。しかし、特定の実施の形態において、遊離銅は菱沸石分子篩中に存在しない。
【0066】
シリカ/アルミナ:
特定の実施の形態において、本発明の実施の形態の上記方法によって得られた/得られ得るCHA構造を備えた銅含有分子篩は、アルミナに対するシリカのモル比が約15を超え、特定の実施の形態では約20を超えている。特定の実施の形態において、銅含有の菱沸石は、アルミナに対するシリカのモル比が、約20から約256までの範囲であり、特定の実施の形態において、約25から約40までの範囲である。
【0067】
特定の実施の形態において、アルミニウムに対する銅の原子比は、約0.25を超えている。さらに特定の実施の形態では、アルミニウムに対する銅の原子比が約0.25〜約1であり、さらに特定の実施の形態では、約0.25〜約0.5である。さらに特定の実施の形態では、アルミニウムに対する銅の原子比は約0.3〜約0.4である。
【0068】
SCR活性:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、少なくとも50%の200℃におけるエージングNOx変換率を示す。なお、この値は、500ppmのNO、500ppmのNH3、10%のO2、5%のH2O、バランスN2の混合ガス中において、最大NH3スリップ条件における定常状態条件下で、80000h-1のガス空間速度に基づき測定される。特定の実施の形態において、最大NH3スリップ条件における定常状態条件下で、80000h-1のガス空間速度に基づき測定されるエージングNOx変換率は、450℃で少なくとも75%を示す。特定の実施の形態では、200°CにおけるエージングNOx変換率は、少なくとも55%であり、450℃では少なくとも75%であり、さらに特定の実施の形態では、200℃で少なくとも60%であり、450℃で少なくとも80%である。なお、この変換率は、500ppmのNO、500ppmのNH3、10%のO2、5%のH2O、バランスN2を含むガス流中において、最大NH3スリップ条件における定常状態条件下で、80000h-1の体積空間速度で測定される。コアは、管状炉中において、500ppmのNO、500ppmのNH3、10%のH2O、10%のO2、バランスN2を含むガス流内に置かれ、4000h-1の体積空間速度で、850℃で6時間熱老化される。
【0069】
SCR活性測定は、例えば、文献WO2008/106519で実証されている。
【0070】
ナトリウム含有量:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、CHA構造を備えた焼成分子篩の全質量に対して2質量%未満のナトリウム含有量(揮発性物質が無い状態でNa2Oとして報告)を有する。更に、特定の実施の形態では、ナトリウム含有量が1質量%未満であり、特定の実施の形態において2000ppm未満、さらに特定の実施の形態では、1000ppm未満、さらに特定の実施の形態では、500ppm未満、最も好ましくは 100ppm未満である。
【0071】
Na:Al:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、アルミニウムに対するナトリウムの原子比が0.7未満である。特定の実施の形態では、アルミニウムに対するナトリウムの原子比が0.35未満であり、さらに特定の実施の形態では、0.007未満であり、さらに特定の実施の形態では、0.03未満、さらに特定の実施の形態では、0.02未満である。
【0072】
Na:Cu:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、ナトリウムに対する銅の原子比が0.5より大きい。さらに特定の実施の形態では、ナトリウムに対する銅の原子比が1を超えており、さらに特定の実施の形態では、10を超えており、さらに特定の実施の形態では、50を超えている。
【0073】
CHA構造を備えた銅含有分子篩は、1または複数の遷移金属を含んでいても良い。特定の実施の形態では、菱沸石の分子篩は、NOからNO2への酸化能力及び/又はNH3の貯蔵能力を有する遷移金属を含んでいても良い。特定の実施の形態において遷移金属は、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Ce、Zr、及びVからなる群から選択される。一般的にはFe、Co、Ni、Zn、Y、Ce、Zr、及びVの好適な源を用いることができる。これは、例えば、硝酸、シュウ酸塩、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物、アセチルアセトネート、酸化物、水和物、及び/又は塩化物、臭化物、ヨウ化物等の塩を挙げることができる。
【0074】
更に、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、1又は複数のランタニドを含んでいても良い。好ましいランタニド源は、特に、硝酸ランタンである。
【0075】
CHA構造を備えた銅含有分子篩は、一種以上の貴金属(例えば、Pd、Pt)を含んでいても良い。
【0076】
BET:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた銅含有分子篩は、少なくとも約400m2/g、さらに特定の実施の形態では少なくとも約550m2/g、さらに特定の実施の形態では少なくとも約650m2/gの、DIN66131に従って測定されるBET比表面積を示す。特定の実施の形態では、菱沸石分子篩が、約400〜約750m2/g、さらに特定の実施の形態では、約500〜約750m2/g、さらに特定の実施の形態では約600〜結晶の平均長を示す。
【0077】
特定の実施の形態では、CHA構造を備えた焼成銅含有分子篩の結晶は、10ナノメートル〜100マイクロメートル、特定の実施の形態では50ナノメートル〜5マイクロメートル、特定の実施の形態では50ナノメートル〜500ナノメートルの範囲の平均長を有する。なお、この平均長は、SEMにより測定される。
【0078】
TOC:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた焼成銅含有分子篩は、菱沸石分子篩の総重量に基づいて、0.1質量%のTOC(全有機炭素)含有量を有する。
【0079】
熱安定性:
特定の実施の形態において、CHA構造を備えた焼成銅含有分子篩は、示差走査熱量測定又は示差熱分析によって測定された、約900〜約1400℃の範囲、特定の実施の形態では約1100〜約1400℃の範囲、特定の実施の形態では約1150〜約1400℃の範囲において熱安定性を有する。熱安定性の測定は、例えばPCT/EP2009/056036の38ページに記載されている。
【0080】
形状:
本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩は、例えば、粉体または上述の分離技術(例えば、デカンテーション、濾過、遠心分離または噴霧)で得られた噴霧用材料で提供されても良い。
【0081】
一般に、粉末や噴霧用材料は、例えば、どんな化合物を用いることも無く、適切な圧縮等により、所望の形状の成形品とできる。なお、所望の形状は、平板状、筒状、球状などである。
【0082】
一例として、粉末や噴霧用材料は、当技術分野で周知の適切な重合調整剤とともに混合、或いはこれを塗布しつつ混合される。重合調整剤の例は、シリカ、アルミナ、ゼオライト及び/又は耐火性結合剤(例えば、ジルコニウム前駆体)などを使用することができる。粉末や噴霧用材料は、必要に応じて適切な重合調整剤とともに混合、或いは重合調整剤が塗布された後に、例えば適当な耐火キャリア(例えば、WO106519/2008)を含む水と混合し、スラリー状に形成しても良い。
【0083】
また、本発明の実施の形態の菱沸石分子篩は、微粒子触媒の充填層として使用するために、押出物、ペレット、平板状、又は他の任意の適切な粒子の形態で提供されても良い。また、この形態としては、プレート状、鞍状、チューブ状等が挙げられる。
【0084】
触媒:
従って、本発明の実施の形態は、基体上に配置され、上記方法によって得られた/得られ得るCHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒に関する。
【0085】
基体は、触媒を調製するために通常使用される任意の材料で良く、一般的にセラミック又は金属製のハニカム構造体を含む。任意の適切な基体として、例えば、ガス通路が並行して基体の入口または出口面から延在し、該通路が流体路に開口している(基体を通したハニカム流と呼ばれる)、並列ガス流路を有するタイプのモノリシック基体を用いることができる。また、上記基体は、流路が交互にブロックされたウォールフローフィルタ基体でも良い。この基体では、ガス流が、1方向(入口方向)から流路に入り込み、流路壁を介して他の方向(出口方向)から流れ出るように水が選択的にブロックされる。さらに、適切な担体/基板とともに適切な被覆プロセスは、出願番号PCT/EP2009/056036の国際特許出願やWO2008/106519に記載されている。PCT/EP2009/056036及びWO2008/106519は、参考として本明細書に援用される。
【0086】
SCR/排ガス処理システム:
一般に、上述のCHA構造を備えた銅含有分子篩は、分子篩、吸着剤、触媒、それらの触媒担体又はバインダーとして使用しても良い。特に好ましくは、触媒として使用することである。
【0087】
また、本発明の実施の形態は、化学反応を触媒する方法であって、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩を、触媒活性材料として用いる方法に関する。
【0088】
特に、上記触媒は、窒素酸化物(NOx)の選択還元(SCR)用として、NH3の酸化用として、特にディーゼルエンジンシステムにおけるNH3スリップの酸化用として、N2Oの分解用として、すす酸化用として、予混合圧縮着火(HCCl)エンジンなどの高度なエミッションシステムの放出制御用として、流動接触分解(FCC)プロセスにおける添加剤として、有機転化反応の触媒として、又は“固定発生源”処理における触媒として用いても良い。酸化反応に用いるために、特定の実施の形態では、貴金属成分(例えば、Pd、Pt)が、銅菱沸石に添加される。
【0089】
従って、本発明の実施の形態は、適切な還元条件の下、NOxを含むストリームを、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させ、窒素酸化物(NOx)を選択的に還元する方法に関する。また、本発明の実施の形態は、適切な酸化条件の下、NH3を含むストリームを、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させ、ディーゼルシステムにおけるNH3、特にNH3スリップを酸化する方法に関する。また、本発明の実施の形態は、適切な分解条件の下、N2Oを含むストリームを、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させ、N2Oを分解する方法に関する。更に、本発明の実施の形態は、適切な条件の下、排出流を、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させ、予混合圧縮着火(HCCl)エンジンなどの高度なエミッションシステムにおける放出量を制御する方法に関する。また、本発明の実施の形態は、流動式接触分解FCC法に関し、特に、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩を添加剤として用いるFCC法に関する。更に、本発明の実施の形態は、適切な変換条件の下、有機化合物を、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させ、該有機化合物を変換する方法に関する。また、本発明の実施の形態は、“固定発生源”処理に関し、特に、本発明の実施の形態に係るCHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒を用いる“固定発生源”処理に関する。
【0090】
特に、本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩を触媒活性材料として用いる窒素酸化物の選択還元については、アンモニア又は尿素の存在下で行われる。アンモニアは、固定のパワープラント用に選択される還元剤である一方で、尿素は、移動可能なSCRシステム用に選択される還元剤である。通常、SCRシステムは、車両の排気ガス処理システムに統合されており、また、通常、次の主要コンポーネントを含む。すなわち、この主要コンポーネントは、本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩を含むSCR触媒、尿素貯蔵タンク、尿素ポンプ、尿素投入システム、尿素インジェクター/ノズル、およびそれぞれの制御ユニットである。
【0091】
従って、本発明の実施の形態では、窒素酸化物(NOx)を選択還元する方法に関し、当該方法では、窒素酸化物(NOx)を含む気体ガス流、例えば工業プロセス又は操作により生成された排気ガス(特にアンモニア及び/又は尿素も含有する)を、本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩と接触させる。
【0092】
本発明の実施の形態において、窒素酸化物NOxという語は、特に、一酸化二窒素(N2O)、一酸化窒素(NO)、三酸化二窒素(N23)、二酸化窒素(NO2)、四酸化二窒素(N24)、五酸化二窒素(N25)、過酸化窒素(NO3)を意味する。
【0093】
本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩、又は本発明の実施の形態によって得られ得るか、或いは得られた菱沸石分子篩を含む触媒を使用することで還元される窒素酸化物は、任意のプロセス(例えば、廃棄ガス流)により生じ得る。廃棄ガス流は、特に、アジピン酸、硝酸、ヒドロキシルアミン誘導体、カプロラクタム、グリオキサール、メチルグリオキサール、グリオキシル酸を製造するための方法において生じるか、又は窒素材料を燃焼することで生じる廃棄ガス流である。
【0094】
内燃機関(特にディーゼルエンジン)の排気ガスからの窒素酸化物(NOx)を除去するために、本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩、又は本発明の実施の形態によって得られ得るか、或いは得られた菱沸石分子篩を含む触媒を使用することが特に好ましい。なお、上記内燃機関は、空気が所定の化学量論による燃焼において要求される量に対して過度になっている燃焼条件(すなわち、希薄状態)で動作する。
【0095】
従って、本発明の実施の形態は、所定の化学量論による燃焼において要求される量に対して過度の空気を伴う燃焼条件(すなわち、希薄条件)で動作する内燃機関(特にディーゼルエンジン)の排気ガスから窒素酸化物(NOx)を除去する方法に関し、当該方法では、本発明の実施の形態に係る菱沸石分子篩、又は本発明の実施の形態によって得られ得るか、或いは得られた菱沸石分子篩を含む触媒を触媒活性材料として使用する。
【0096】
本発明の実施の形態は、アンモニア、尿素および/または炭化水素等の還元剤を含み、特定の実施の形態ではアンモニア又は尿素を付随的に含む排気ガス流を含み、上述の方法により得られ得る或いは得られたCHA構造を備えた銅含有分子篩を含有する触媒、スートフィルタ、及びディーゼル酸化触媒が基体に配置された排気ガス処理システムに関する。
【0097】
触媒化された、又は触媒化されていないスートフィルタは、触媒の上流又は下流に配置しても良い。ディーゼル酸化触媒は、特定の実施の形態において、触媒の上流に配置される。特定の実施の形態では、上記ディーゼル酸化触媒及び上記触媒スートフィルタが触媒の上流に配置される。
【0098】
特定の実施の形態では、排気物(特にNOxを含む)が、ディーゼルエンジンから排気システムにおける下流位置に運ばれる。ここで、還元剤が添加され、添加された還元剤とともに排気ガス流が、上記触媒の位置に運ばれる。
【0099】
例えば、触媒スートフィルタ、ディーゼル酸化触媒、及び還元剤は、本明細書において援用されるWO2008/106519に記載されている。
【0100】
更に、以下の実施例において、本発明の実施の形態の方法及び材料について説明する。
【実施例】
【0101】
1.比較例
2.交換されたSSZ−13の調整
アンモニウム交換されたSSZ−13濾過ケークを、US4544538に記載されているように調整した。
【0102】
1.銅交換工程(銅濃度:0.3モル濃度)
酢酸銅一水和物(3.46KG 17.34モル)を、室温で撹拌タンク内において純水(43.1KG)に添加した。アンモニウム交換されたSSZ−13濾過ケーク(25.6KG、10.9KGのSSZ−13)を添加して、反応器を60℃まで30分間加熱した。反応温度を60℃に維持しつつ、混合を60分間継続した。容器の中身をプレートに移し、上澄みを除去するためにフレームフィルタープレスを行い、洗浄及び乾燥を行った。Cu交換されたSSZ−13を、濾過物の導電率が300マイクロジーメンス未満となるまで、純水により洗浄した。その後、フィルタープレス上で空気乾燥した。表1は、実施例1〜5の調整におけるイオン交換用の重要な合成パラメータを示している。
【0103】
1.触媒の被覆
被覆されたモノリシックのテストスコアの調製のために、濾過ケーク(600℃で1時間の間、空気中で焼成した後に測定した含水率が45%である)に、純水を添加することにより、38〜45%の固体含有率のスラリーとした。その後、Cu−CHAスラリーをセラミックボールミルで粉砕し、10μm未満(例えば4〜10μm)のD90のサイズの粒子とした。なお、粒子サイズは、前方レーザー散乱を利用するSYMPATEC社製の粒径分析器を用いて測定した。なお、触媒の固有の活性を検査するために、酸またはバインダーはスラリーに添加していない。粉砕したスラリーを、400cpisのセル密度と6ミル壁厚を有する、“1”直径及び“2”長さのセラミックモノリス(NGK)へ被覆した。目標の乾燥ゲインは、2.3g/in3であり、これは、WO2008/106519における活性触媒の量に対応する。一般的に、目標に達するために2〜3の被覆が必要であり、所望の目標乾燥ゲインの増加を満たすために、追加の被覆により固体含有率が調整される。各被覆の後に、コアを空気中において90°Cで3時間乾燥させた。最後の乾燥工程に続いて、マッフル漏斗内において空気雰囲気下で、450℃で1時間の焼成を行った。
【0104】
1.エージングと触媒試験
管状炉内における10%のH2O、5%のO2、バランスN2を含むガス流中で、体積空間速度が80000h-1、850℃の温度下で、6時間の間、コアを熱水エージングした。このエージングの手順は、Cu−CHA SCR触媒の品質管理テストのために選択した。
【0105】
DeNOx活性は、実験炉の最大NH3スリップ条件における定常状態の条件下で、500ppmのNO、500ppmのNH3、10%のO2、5%のH2O、バランスN2の混合ガス中で測定した。なお、この測定は、体積空間速度が80000h-1で、200℃、250℃、300℃、及び450℃の温度条件下で行った。表1には、200℃、250℃、300℃、及び450℃におけるDeNOx活性を示す。
【0106】
【表1】

【0107】
2.本発明の実施例
2.1 アンモニウム交換されたSSZ−13の調整
アンモニウム交換されたSSZ−13濾過ケークを、1.1.に記載されているように調整した。
【0108】
2.2 銅交換工程(銅濃度:0.2モル濃度)
酢酸銅一水和物(2.28KG、11.43モル濃度)に、室温で撹拌タンク内において純水(42.7KG)を添加した。アンモニウム交換されたSSZ−13濾過ケーク(25.3KGのまま、10.8KGのSSZ−13)を添加して、反応器を60℃まで30分間加熱した。反応温度を60℃に維持しつつ、混合を60分間継続した。容器の中身をプレートに移し、上澄みを除去するためにフレームフィルタープレスを行い、洗浄及び乾燥を行った。Cu交換されたSSZ−13を、濾過物の導電率が300マイクロジーメンス未満となるまで、純水により洗浄した。その後、フィルタープレス上で空気乾燥した。表2は、実施例6〜11の調整におけるイオン交換用の重要な合成パラメータを示している。
【0109】
2.3 触媒の被覆
1.3で記載したように触媒の被覆を行った。
【0110】
2.4 エージングと触媒試験
1.4で記載したようにエージングと触媒試験を行った。表2は、200、250、300、450℃におけるエージング後のDeNOx活性を示している。
【0111】
【表2】

【0112】
3.比較例#1〜#5及び実施例#6〜#11
約0.3モル濃度の銅濃度を有する銅溶液を用いたNOx変換活性における変動は、約0.2モル濃度の銅濃度を有する銅溶液を用いた場合に比べて大きく減少することがある。さらに、NOx変換活性は、約0.2モル濃度の銅濃度を有する銅溶液を用いることによって増加し得る。温度あたりの最大の変動を表3に記載した。温度あたりの平均のNOx変換活性を表4に示す。
【0113】
【表3】

【0114】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナに対するシリカのモル比が10を超えるCHA構造を備えた銅含有分子篩を製造する方法であって、
銅交換工程を被覆工程の前に、湿潤状態での交換により行い、
銅交換工程において、酢酸銅及び/又は銅イオンのアンモニア性溶液を銅源として用いて銅濃度が約0.001〜約0.25モル濃度の範囲内とされた銅溶液を使用することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
銅交換工程において使用される出発ゼオライト材料の質量に対する、銅溶液を製造するために使用される水の質量として定義される、固体に対する液体の比が、約2〜約80の範囲である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
菱沸石のNa+−形、又はNH4−形において銅を交換する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
銅のモル濃度が、約0.1〜約0.25の範囲である請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
銅のモル濃度が、約0.15〜約0.225の範囲である請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法により得ることのできる、又は得られた、CHA構造を備えた銅含有分子篩。
【請求項7】
酸化銅に対して交換された銅の質量比が、少なくとも1である請求項6に記載の銅含有分子篩。
【請求項8】
銅含有分子篩が、
2昇温還元法スペクトルにおいて少なくとも2個の信号を示し、信号Iの最大値は約25〜約400℃の範囲内において存在し、信号IIの最大値が約475℃〜約800℃の範囲内において存在するCHA構造を備えた銅含有分子篩。
【請求項9】
CHA構造を備えた銅含有分子篩が、約15〜約35nmのUV−VISの半値半幅波長を有する請求項6〜8の何れか1項に記載のCHA構造を備えた銅含有分子篩。
【請求項10】
銅含有CHA分子篩が、拡散反射FT−IR分光法(DRIFT)において約1948cm―1で少なくとも1個のピークを示す請求項6〜9の何れか1項に記載のCHA構造を備えた銅含有分子篩。
【請求項11】
基体上に設けられた、請求項6〜10の何れか1項に記載のCHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒。
【請求項12】
酸化窒素NOxの選択的還元(SCR)用、NH3の酸化用、N2Oの分解用、すす酸化用、先進エミッション制御システムにおけるエミッション制御用の触媒として;
流動接触分解法における添加剤として;
有機転化反応における触媒として;
又は、固定発生源の処理における触媒として;
請求項11に記載のCHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒を使用する方法。
【請求項13】
アンモニアを含む排気ガス流と、請求項11のCHA構造を備えた銅含有分子篩を含む触媒と、触媒化されたスートフィルタと、ディーゼル酸化触媒と、を含むことを特徴とする排気ガス処理システム。
【請求項14】
窒素酸化物NOxを含む気体流を、請求項6〜11の何れか1項に記載のCHA構造を備えた銅含有分子篩に接触させることを特徴とする、窒素酸化物NOxを選択的に還元する方法。

【公表番号】特表2013−514167(P2013−514167A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543788(P2012−543788)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070077
【国際公開番号】WO2011/073390
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(505470786)ビー・エイ・エス・エフ、コーポレーション (81)
【Fターム(参考)】