説明

CNT単離分散液

【課題】CNT濃度が低濃度でもマトリクスの物性に影響しないような所望のチキソ指数に制御されかつマトリクスの物性を発現可能なCNT単離分散液を提供する。
【解決手段】CNT平均長が3−8μmで、かつ、CNT濃度1wt%以下でCNTが分散している溶液中において、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散溶液中にCNT(カーボンナノチューブ)が単離分散したCNT単離分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チキソ指数は、せん断速度と粘度との関係を表す指標であり、例えばチキソ指数が高いほど、低いせん断速度領域での粘度が、高いせん断速度領域でのそれより、より大きくなってくる。
【0003】
なお、本明細書でのチキソ指数は、次式で与えられる。
【0004】
チキソ指数=せん断速度6[1/sec]の粘度/60[1/sec]の粘度
こうした場合、マトリクス(分散溶液)中における固形分の濃度を変えてチキソ指数を制御することができる。
【0005】
このような固形分がマトリクス中に分散している分散液として塗布液が考えられる。この塗布液としては、固形分を高濃度にしてチキソ指数を高くすることで塗布作業中では塗布効率を高め、塗布後では高粘度となって塗布だれを防止することができる。
【0006】
しかし、チキソ指数を高くするために固形分濃度を高くした場合、マトリクスの物性が損なわれやすい。その塗布の目的が例えば対象物を被覆して防湿する塗布であれば対象物に被覆させ易いが防湿性が損なわれ易くなる。また固形分を多量に添加することで塗布膜が脆くなるため割れや剥がれを引き起こしてしまう。一方、固形分を低濃度にしたのでは所望のチキソ指数を得ることができないからプロセス的には当該マトリクスを対象物に被覆させにくくなる、という課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−091548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明においては、上記課題に鑑みてなされたものであり、固形分としてCNTを選定し、そのCNTが低濃度でもマトリクスの物性に影響しないような所望のチキソ指数に制御されかつマトリクスの物性を発現可能なCNT単離分散液を提供しようとするものである。そして、本発明では市販のCNTを溶液中に分散させたが、その場合に大きいチキソ性を発現させ得るにはCNT濃度を高くしないと十分なチキソ性を得ることができにくい。
【0009】
そこで、本発明では、CNT濃度が低濃度でも十分大きいチキソ性を発現できるCNT単離分散液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明第1に係るCNT単離分散液は、表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している溶液であって、チキソ性発現度を、CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している、ことを特徴とする。
【0011】
本発明第1において、好ましくは、上記CNTの平均長さは3−8μmである。
【0012】
本発明第2に係るCNT単離分散液は、CNT平均長が3−8μmでかつCNT濃度0.1wt%以下でCNTが分散している溶液であって、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、CNT濃度が0.1wt%以下の低濃度でありながらマトリクスの物性に影響しないような所望のチキソ性発現度に制御されたCNT単離分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、酸処理条件によるCNT長さと分散状態との違いを示す図である。
【図2】図2は粘度とせん断速度との関係をCNT平均長さをパラメータとしてあらわす図である。
【図3】図3はチキソ指数とCNT濃度との関係を示す図である。
【図4】図4はチキソ指数とCNT平均長さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るCNT単離分散液を説明する。実施形態における未処理CNTとしては例えば特開2007−126311号公報に記載されているような熱CVD法を用いて基板上にアルミ、鉄からなる触媒膜を成膜し、CNTの成長のための触媒金属を微粒子化し、加熱雰囲気中で炭化水素ガスを触媒金属に接触させることにより製造したものを用いた。
【0016】
アーク放電法、レーザ蒸発法などその他の製造方法により得たCNTを使用することも可能であるが、CNT以外の不純物を極力含まないものを使用することが好ましい。この不純物についてはCNTを製造した後、不活性ガス中での高温アニールにより除去してもかまわない。
【0017】
実施形態のCNT単離分散液は、表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している溶液であって、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している。そして、上記CNTは好ましくは、CNT平均長が3−8μmである。
【0018】
このようなCNT単離分散液はCNTの濃度が低濃度でありながらチキソ性発現度が極めて大きく、そのため、マトリクスの物性を損なうことなく、チキソ性の付与が可能となり、具体的用途としては半田フラックス、接着剤(2液型やシーラント)、塗料など、幅広い分野に応用することができる。
【0019】
本明細書における上記チキソ性発現度は溶媒中のCNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表される値として定義される。そして、このチキソ性発現度が大きいCNT単離分散液においては、CNTの少量添加でもチキソ性を発現することができる。
【0020】
本明細書におけるCNTの単離分散とは、CNTが1本ずつ物理的に分離して絡み合っていない状態で溶液中に分散している状態を言う。ここで「物理的に分離して絡み合っていない」とは複数のCNTがファンデルワールス力により塊状もしくは束状に凝集集合してなる形態をとらずに1本1本単離した状態で存在していることである。ただし、凝集集合形態が一部含まれていてもかまわないものであり、分散液中のほとんどのCNTが単離状態にあれば実質的に単離分散液であるとすることができる。
【0021】
実施形態のCNT単離分散液中のCNTは溶液中に少量添加されているだけであるにもかかわらずチキソ性を発現することができるのは、その表面炭素が酸処理されていることによる。このようなCNTの製法を第1、第2製法として以下に説明する。
【0022】
第1製法においては、まず、未処理CNTを混酸に浸漬処理する。混酸として、硫酸と硝酸とが1:3の比率で混合された混酸を選定する。そして未処理CNTを浸漬してある混酸に対して周波数が2種類の超音波を交互に照射する。超音波の切替周波数は一例として28kHzと45kHzである。この超音波照射後に、混酸から未処理CNTを引き上げて純水で希釈すると共に中和洗浄し、溶液中に分散させる。こうして表面炭素が酸処理されたCNTを製造することができる。
【0023】
別の第2製法を説明する。
【0024】
まず、未処理CNTを硫酸過水(30%過酸化水素水:硫酸=1:4)に浸漬し、浸漬してある硫酸過水に対して上記第1製法と同様に2種類の周波数の超音波を交互に切り替えて照射する。この照射後、硫酸過水から未処理CNTを引き上げて純水で希釈し中和洗浄し、分散溶液中に分散させる。
【0025】
こうして表面炭素が酸処理されたCNTを製造することができる。
【0026】
以上いずれの製法においても、実施形態のCNT単離分散液が得られた。図1に上記製法条件とそれらにより製造されたCNT単離分散液のチキソ性発現度とそのCNT単離分散液内のCNTのSEM写真とを示す。
【0027】
図1を参照して上記製法で酸処理したCNTを溶液(ジメチルシリコーンオイル)中に分散させた場合におけるそのチキソ性発現度とCNTの単離分散状態を説明する。
【0028】
図1を参照して第1製法では2種類の製造条件に分類する。第1製法の第1製造条件ではCNT長1−2μm、前処理液として混酸(硝酸:硫酸=1:3)浸漬、超音波照射時間5時間、超音波は周波数28kHzと45kHzとの切り替えによる照射である。この場合の倍率(5000倍)のSEM写真観察ではCNTは分散溶液中で単離分散状態は不良であり、このときのチキソ性発現度=(TI−1)/Cは、1.20−2.10と低かった。
【0029】
第1製法の第2製造条件では第1製造条件と比較してCNT長が3−5μmである点と、超音波照射時間が2時間である点で相違するのみであり、この場合の倍率(5000倍)のSEM写真観察からCNTが分散溶液中に単離分散していることが判り、そのチキソ性発現度=(TI−1)/Cは、6.0−9.20と大幅に大きく、第1製造条件と比較してほぼ4.4倍であった。
【0030】
このようにチキソ性発現度が第1製造条件と比較して第2製造条件で大きくなったのは第2製造条件のほうがより長尺のCNT単離分散液が得られたことによると考えられる。
【0031】
次に第2製法も、2種類の製造条件に分類する。
【0032】
第2製法の第1製造条件ではCNT長5−8μm、硫酸過水(H22:6%)浸漬、超音波照射時間2時間、超音波周波数28kHzと45kHzとの切り替えである。この場合の倍率(5000倍)SEM写真観察ではCNTは単離分散しており、このときのチキソ性発現度=(TI−1)/Cは、9.20−12.30であった。
【0033】
第2製法の第2製造条件ではCNT長10μm、硫酸過水(H22:2%)、超音波照射時間2時間、超音波周波数28kHzと45kHzとの切り替えである。この場合の倍率(5000倍)のSEM写真観察ではCNTの単離分散状態は悪い。
【0034】
第2製法の第1製造条件は、第1製法の第1、第2製造条件のいずれよりもチキソ性発現度が大きく、CNTの単離分散状態が最も良好である。これは第2製法の第1製造条件のほうがより長尺のCNT単離分散液が得られたことによる。
【0035】
しかし、第2製法の場合、第2製造条件では、CNTの単離分散状態が悪化している。第2製法において第1製造条件と第2製造条件とを比較した場合、相違しているのは、硫酸過水の濃度が第1製造条件ではH22:6%であるのに対して第2製造条件ではH22:2%であった。これは酸によるCNTの切断を抑制することにより長尺のCNTを得るためによる。
【0036】
図2にCNT濃度を0.1wt%の一定にして粘度とせん断速度との関係を示す。図2は溶液として粘性溶媒であるジメチルシリコーンオイル(信越化学工業製KF−96−5000CS)を選定している。そして、この図2では粘性溶媒そのものの粘度に対し上記製法で製造したCNTをその濃度を0.1wt%の低濃度一定としてCNT平均長さを種々に変えて単離状態で分散した場合の粘度の変化の関係を示す。すなわち、特性線(0)はCNTが無くCNT濃度ゼロでの分散溶液の粘度特性であり、せん断速度(回転数)の変化とは無関係に粘度はほぼ一定である。これは上記粘性溶媒が元々有する粘度の特性である。そして、このような粘性溶媒に対して特性線(1)−(3)はCNT濃度を0.1wt%とし、上記製法で製造したCNTをそのCNT平均長さを変えて粘性溶媒に分散させた場合の粘度特性を示す。
【0037】
特性線(1)は第1製法の第1製造条件(CNT長1−2μm)により製造したCNTを分散させて場合の粘度特性を示すものであり、せん断速度の低下に伴い特性線(0)と比較して粘度が若干大きくなるだけであり、SEM写真で示すようにCNTの単離分散は不良である。
【0038】
特性線(2)は第1製法の第2製造条件(CNT長3−5μm)により製造したCNTを分散させて場合の粘度特性を示すものであり、せん断速度の低下に伴い粘度が第1製造条件よりも大きく、そのチキソ性発現度が大きくなっている。SEM写真で示すようにCNTの単離分散は良好である。
【0039】
特性線(3)は第2製法の第1製造条件(CNT長5−8μm)により製造したCNTを分散させて場合の粘度特性を示すものであり、せん断速度の低下に伴い粘度が第1製法の第2製造条件よりもチキソ性発現度が大きくなる。SEM写真で示すようにCNTの単離分散は最も良好である。
【0040】
結果として、第2製法の第1製造条件におけるチキソ性発現度が最も大きい。
【0041】
以上の特性線(1)−(3)からCNT濃度一定の条件下でCNT長さが長いほどチキソ性発現度が大きくなることが判る。そして本実施形態ではCNT濃度が0.1wt%という低濃度領域でチキソ性発現度が大きいという特徴を達成できている。
【0042】
図3にチキソ指数とCNT濃度との関係を示す。この場合、CNT長は3−5μmでの測定点は黒四角(■)で、CNT長1−2μmでの測定点は白三角(△)、CNT長1.5μmでの測定点は白四角(□)でそれぞれ表している。黒四角(■)で結ぶCNT長3−5μmの特性線(4)ではCNT濃度が0.1wt%以下でチキソ指数が1−2であり、CNTは単離分散している。これに対してCNT長1−2μm、CNT長1.5μmでの単離分散状態は不良である。
【0043】
図4にチキソ指数とCNT平均長との関係を示す。この場合、特性線(5)で示すように、CNT平均長が長くなるとチキソ指数がそれに比例して大きくなる。チキソ性発現度に関しては、CNT平均長さはその式に表されないが、図1ないし図3ではCNT平均長がチキソ性発現度に影響している。これはCNTが長くなるほどCNTの網目構造の形成が進行し、増粘効果を示す。この網目構造はせん断応力を受けることにより容易に壊れ、粘度が下がることから大きなチキソ性を示すようになることによる。
【0044】
なお、第1製法で使用される混酸は硝酸と硫酸との混酸であったが、これに限定されず、例えば硝酸、塩酸、硫酸、過酸化水素、りん酸、重クロム酸、およびこれらの混酸を用いることができる。
【0045】
なかでも硫酸と硝酸の混酸、硫酸と過酸化水素の混酸を使用することができる。
【0046】
また、硝酸と硫酸との混合割合は実施形態に限定されない。
【0047】
第2製法で使用される硫酸過水はCNTの短尺化抑制に効果があり、実施形態では30%過酸化水素水としたが、これに限定されず例えば60%過酸化水素水を例示することができる。
【0048】
超音波照射する際の超音波周波数は上記に限定されず、28kHzから170kHzの範囲で少なくとも2種類の周波数で切替することができる。また、2種類の周波数切替に限定されず、3種類以上の周波数切替でもよい。
【0049】
なお、実施形態では固形分としてはCNTであったが、CNT以外の固形分としてはカーボンナノファイバー、炭素繊維、炭素フィブリル等の炭素系の材料を例示することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している溶液であって、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している、ことを特徴とするCNT単離分散液。
【請求項2】
上記CNTはそのCNT平均長が3−8μmである請求項1に記載のCNT単離分散液。
【請求項3】
CNT平均長が3−8μmでかつCNT濃度0.1wt%以下でCNTが分散している溶液であって、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI−1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している、ことを特徴とするCNT単離分散液。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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