説明

CVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型

【課題】CVTエレメントを打抜き加工する際に、ダイのスロット部の根元部分に疲労破壊による亀裂を生じ難くすることができるCVTエレメントの打抜き加工方法を提供すること。
【解決手段】CVTエレメントの打抜き加工方法において、打抜き加工する際に、ダイのスロット部34のうちヘッド孔部側の頭側部分34aとボディ孔部側の胴側部分34bとで、捩りに対する負荷応力を異ならせる。例えば、スロット部34のうち板状素材4と対向する部分にテーパ面34dを設けて、このテーパ面34dを胴側部分34bから頭側部分34aに向かうに従って板状素材4との距離が大きくなるように形成する。これにより、打抜き加工する際に、胴側部分34bに作用する面圧が、頭側部分34aに作用する面圧より大きくなり、打抜き加工する度に、スロット部34は、ボディ孔部側に捩れ、ヘッド孔部側に捩れない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型に関し、特に、打抜き加工する際にダイのスロット部の根元部分に疲労破壊による亀裂を生じ難くすることができるCVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車では環境問題の観点から低燃費化が強く望まれていて、変速機として低燃費化に貢献できるベルト式無段階変速機(以下、「CVT」と呼ぶ)が多く用いられている。CVTは、一対のプーリと、これらに架け渡された金属ベルトとで構成される。金属ベルトは、薄い板厚であるリング状のベルトにCVTエレメント(以下、「エレメント」と呼ぶ)と呼ばれる摩擦部材を多数装着することによって構成される。
【0003】
エレメントは、後述する図1に示すように、略三角形状の頭部11と、略長方形状の胴部12と、頭部11の底辺中央部分と胴部12の上辺の中央部分とを繋ぐ首部13とを備える。そして、頭部11と胴部12との間に凹部14が形成されていて、この凹部14にリング状のベルトが挿入されて組付けられる。このようなエレメント10は、板状素材を準備して、これをエレメント10の輪郭形状に打抜くことによって製作される。そして、このエレメント10の打抜き加工方法は、ダイとパンチとを備えた金型を用いて行われていて、例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−23075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エレメント10の打抜き加工方法で用いられるダイは、後述する図3に示すように、エレメント10の輪郭形状に対応する打抜き孔30Aを有し、エレメント10の頭部11を形成するためのヘッド孔部31と、エレメント10の胴部12を形成するためのボディ孔部32と、エレメント10の首部13を形成するためのネック孔部33とを備えるとともに、ヘッド孔部31とボディ孔部32との間にスロット部34を備えている。
【0006】
ここで、近年、金属ベルトの低コスト化を図るべく、エレメント10の凹部14に組付けるリング状のベルトの層数を減らすという要望がある。この要望に対応するために、エレメント10の凹部14の溝幅を小さくする、即ち後述する図4に示すように、ダイ30のスロット部34のスロット幅S1を小さくする必要がある。しかし、スロット幅S1を小さくする場合、打抜き加工する際に、後述する図7に示すように、スロット部34が、矢印Aで示した方向又は矢印Bで示した方向に捩れ易くなる。この結果、スロット部34の根元部分34cに疲労破壊による亀裂KRが生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、エレメントを打抜き加工する際に、ダイのスロット部の根元部分に疲労破壊による亀裂を生じ難くすることができるCVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明におけるCVTエレメント打抜き加工方法は、略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、ダイとパンチとを備えた金型を用いて、板状素材から打抜き加工する方法であって、前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ボディ孔部との間にスロット部を備え、前記打抜き加工する際に、前記ダイのスロット部のうち前記ヘッド孔部側の頭側部分と前記ボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力を異ならせることにより、前記スロット部を前記ヘッド孔部側及び前記ボディ孔部側の何れか一方側に捩らせることを特徴とする。
【0009】
この場合に、前記打抜き加工する際に、前記ダイのスロット部のうち前記ヘッド孔部側の頭側部分と前記ボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力を異ならせる方法として、前記スロット部の頭側部分に作用する面圧と前記スロット部の胴側部分に作用する面圧とを異ならせると良い。具体的には、スロット部のうち板状素材と対向する部分にテーパ面を設ける、又は板状素材の表面のうちスロット部の頭側部分又は胴側部分と対向する部分に溝部を設ける、或いはスロット部の頭側部分又はスロット部の胴側部分の何れかのうち板状素材と対向する部分に突部を設けて、打抜き加工すると良い。
【0010】
また、前記打抜き加工する際に、前記ダイのスロット部のうち前記ヘッド孔部側の頭側部分と前記ボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力を異ならせる方法として、前記スロット部の頭側部分に作用するせんだん力と前記スロット部の胴側部分に作用するせんだん力とを異ならせても良い。具体的には、スロット部の頭側部分と対向する部分とスロット部の胴側部分と対向する部分との硬さが異なる板状素材を用いて、打抜き加工すると良い。又は、パンチのスロット孔部は、パンチ頭部側の輪郭線である頭側輪郭線及びパンチ胴部側の輪郭線である胴側輪郭線のうち何れか一方の長さが長くなるように形成されているとともに、ダイのスロット部は、ヘッド孔部側の輪郭線である頭側輪郭線及びボディ孔部側の輪郭線である胴側輪郭線のうち何れか一方の長さが長くなるように形成されていて、これらパンチ及びダイを用いて打抜き加工すると良い。
【0011】
また、前記打抜き加工する際に、前記ダイのスロット部のうち前記ヘッド孔部側の頭側部分と前記ボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力を異ならせる方法として、前記スロット部の頭側部分の剛性と前記スロット部の胴側部分の剛性とを異ならせても良い。具体的には、ダイのスロット部において、ヘッド孔部側の頭側部分及びボディ孔部側の胴側部分のうち何れか一方に剛性を小さくする弱剛性部を設けて、打抜き加工すると良い。
【0012】
上記したCVTエレメント打抜き加工方法では、エレメントを打抜き加工する際に、ダイのスロット部のうちヘッド孔部側の頭側部分とボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力を異ならせることにより、スロット部をヘッド孔部側及びボディ孔部側の何れか一方側に捩らせる。これにより、スロット部がヘッド孔部側及びボディ孔部側の両方側に捩れる場合に比べて、スロット部の根元部分に作用する応力振幅を小さくすることができる。この結果、ダイのスロット部の根元部分に疲労破壊による亀裂を生じ難くすることができる。
【0013】
本発明に係るCVTエレメントの打抜き加工用金型は、略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、板状素材から打抜き加工する際に用いるダイとパンチとを備えたものであって、前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ボディ孔部との間にスロット部を備え、前記ダイのスロット部は、前記打抜き加工する際に、前記ヘッド孔部側の頭側部分に作用する面圧と前記ボディ孔部側の胴側部分に作用する面圧とを異ならせる面圧差構造を有することを特徴とする。この場合、具体的に面圧差構造は、スロット部のうち板状素材と対向する部分に設けられたテーパ面、又は板状素材の表面のうち頭側部分又は胴側部分の何れかと対向する部分に設けられた溝部、或いはスロット部の頭側部分又はスロット部の胴側部分の何れかのうち板状素材と対向する部分に設けられた突部であると良い。
【0014】
また、本発明に係るCVTエレメントの打抜き加工用金型は、略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、板状素材から打抜き加工する際に用いるダイとパンチとを備えたものであって、前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ネック孔部との間にスロット部を備え、前記パンチのスロット孔部は、前記パンチ頭部側の輪郭線である頭側輪郭線及び前記パンチ胴部側の輪郭線である胴側輪郭線のうち何れか一方の長さが長くなるように形成されているとともに、前記ダイのスロット部は、前記ヘッド孔部側の輪郭線である頭側輪郭線及び前記ボディ孔部側の輪郭線である胴側輪郭線のうち何れか一方の長さが長くなるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るCVTエレメントの打抜き加工用金型は、略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、板状素材から打抜き加工する際に用いるダイとパンチとを備えたものであって、前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ネック孔部との間にスロット部を備え、前記ダイのスロット部は、前記ヘッド孔部側の頭側部分及び前記ボディ孔部側の胴側部分のうち何れか一方に、剛性を小さくする弱剛性部を有することを特徴とする。
【0016】
上記したCVTエレメントの打抜き加工用金型では、エレメントを打抜き加工する際に、ダイのスロット部のうちヘッド孔部側の頭側部分とボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力が異なり、スロット部がヘッド孔部側及びボディ孔部側の何れか一方側に捩れる。これにより、スロット部がヘッド孔部側及びボディ孔部側の両方側に捩れる場合に比べて、スロット部の根元部分に作用する応力振幅を小さくすることができる。この結果、ダイのスロット部の根元部分に疲労破壊による亀裂を生じ難くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エレメントを打抜き加工する際に、ダイのスロット部の根元部分に疲労破壊による亀裂を生じ難くすることができるCVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】CVTエレメントを示した斜視図である。
【図2】パンチを示した斜視図である。
【図3】ダイを示した斜視図である。
【図4】図3に示したダイの左半分を示した平面図である。
【図5】(A)板状素材が下金型にセットされた状態を示した図である。(B)板状素材が板押さえとダイとによって挟持された状態を示した図である。(C)板状素材が打抜き加工された状態を示した図である。
【図6】(A)胴側部分に作用する負荷が頭側部分に作用する負荷より大きくなる状態を示した図である。(B)頭側部分に作用する負荷が胴側部分に作用する負荷より大きくなる状態を示した図である。
【図7】スロット部がボディ孔部側又はヘッド孔部側に捩れる状態を示した図である。
【図8】打抜き加工する際にスロット部の根元部分に作用する応力を示した図である。
【図9】応力振幅とダイが破壊されるまでの打抜き加工回数との関係を示した概略的な疲労曲線である。
【図10】第1実施形態において、スロット部にテーパ面が設けられている場合の打抜き加工される状態を模式的に示した図である。
【図11】第1実施形態の第1変形例において、板状素材に溝部が設けられている場合の打抜き加工される状態を模式的に示した図である。
【図12】第1実施形態の第2変形例において、(A)胴側部分に突部が設けられているスロット部を示した平面図であり、(B)胴側部分に突部が設けられているスロット部を示した正面図である。
【図13】第2実施形態において、打抜き加工される前の板状素材を示した図である。
【図14】第2実施形態の第1変形例において、(A)パンチの左半分を示した平面図であり、(B)ダイの左半分を示した平面図である。
【図15】第3実施形態において、(A)胴側部分に弱剛性部が設けられているスロット部を示した平面図であり、(B)胴側部分に弱剛性部が設けられているスロット部を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るCVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型の各実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、CVTエレメント10(以下、「エレメント10」と呼ぶ)を示した斜視図である。エレメント10は、図1に示すように、略三角形状の頭部11と、略長方形状の胴部12と、頭部11の底辺の中央部分と胴部12の上辺の中央部分とを繋ぐ首部13とを有する。頭部11と胴部12との間に凹部14が形成されていて、この凹部14にリング状のベルト(図示省略)が挿入されて組付けられる。
【0020】
また、エレメント10は、頭部11の表面中央に突出部15を有し、頭部11の裏面中央に窪み部(図示省略)を有する。これにより、エレメント10が複数積層された場合に、突出部15が窪み部に挿入されて位置決めされる。このエレメント10は、パンチ20とダイ30と備えた金型を用いて、板状素材を打抜き加工することによって製作される。
【0021】
図2は、パンチ20を示した斜視図である。パンチ20は、上記したエレメント10の輪郭形状に対応する外形形状を有し、その輪郭部分の角にパンチ刃20aが形成されている。このパンチ20は、エレメント10の頭部11を切断するためのパンチ頭部21と、エレメント10の胴部12を切断するためのパンチ胴部22と、エレメント10の首部13を切断するためのパンチ首部23とを備える。このパンチ20には、パンチ頭部21とパンチ胴部22との間にスロット孔部24が形成されている。また、パンチ頭部21には、エレメント10の突出部15及び窪み部を形成するピン(図示省略)を挿入するためのピン孔25が形成されている。
【0022】
図3は、ダイ30を示した斜視図であり、図4は、図3に示したダイ30の左半分を示した平面図である。ダイ30は、図3及び図4に示すように、上記したエレメント10の輪郭形状に対応する打抜き孔30Aを有する。そして、ダイ30は、エレメント10の頭部11を形成するためのヘッド孔部31と、エレメント10の胴部12を形成するためのボディ孔部32と、エレメント10の首部13を形成するためのネック孔部33とを備える。ヘッド孔部31とボディ孔部32との間には、スロット部34が形成されている。
【0023】
図4に示すように、スロット部34は、ヘッド孔部31側(図4上側)に頭側部分34aを有し、ボディ孔部32側(図4下側)に胴側部分34bを有し、ネック孔部33と反対側(図4左側)に根元部分34cを有する。ここで、スロット部34のスロット幅S1を二等分する二等分線O1に対して、スロット部34は対称形状である。このため、二等分線O1に対して、ヘッド孔部31側の輪郭線を頭側輪郭線H1と呼び、ボディ孔部32側の輪郭線を胴側輪郭線H2と呼ぶことにすると、第1実施形態では頭側輪郭線H1の長さと胴側輪郭線H2の長さとが同じになっている。
【0024】
次に、上記のように構成されたパンチ20及びダイ30を用いて、板状素材を打抜き加工する手順について説明する。この打抜き加工では、パンチ20及びダイ30を備える打抜き加工用金型1(以下、「金型1」と呼ぶ)が組み込まれたプレス装置が用いられる。ここで、図5は、金型1で打抜き加工される状態を示した図である。金型1は上金型2と下金型3とを備え、上金型2では板押さえ40内にパンチ20が組み込まれていて、下金型3ではダイ30の打抜き孔30A内にエジェクタ50が組み込まれている。
【0025】
先ず、図5(A)に示すように、上金型2と下金型3との間に間隔を設けて、下金型3の上に板状素材4をセットする。次に、図5(B)に示すように、上金型2を下側へ移動させて、板押さえ40とダイ30とによって板状素材4を挟持する。続いて、図5(C)に示すように、パンチ20を下側へ移動させて、板状素材4を打抜き、エレメント10を作製する。
【0026】
ところで、従来、上述したように打抜き加工する際に、ダイ30のスロット部34で以下の問題点が生じていた。この問題点について図6を用いて説明する。図6は、打抜き加工する際に図4のV−V線に沿って切断した場合の断面図である。打抜き加工する際に、スロット部34では、図6(A)に示すように、胴側部分34bに作用する負荷が頭側部分34aに作用する負荷より大きく、アンバランスになる場合がある。また逆に、図6(B)に示すように、頭側部分34aに作用する負荷が胴側部分34bに作用する負荷より大きく、アンバランスになる場合がある。これらは、パンチ20、ダイ30、板押さえ40、エジェクタ50等の金型1の構成部材の傾きによって生じたり、板状素材4の傾きによって不可避的に生じていた。
【0027】
このため、従来では、図7に示すように、胴側部分34bに作用する負荷が頭側部分34aに作用する負荷より大きい場合に、矢印Aで示した方向(ボディ孔部32側)に捩れ、頭側部分34aに作用する負荷が胴側部分34bに作用する負荷より大きい場合に、
矢印Bで示した方向(ヘッド孔部31側)に捩れる。こうして、打抜き加工する度に、スロット部34が矢印A方向又は矢印B方向に捩れて、図8の破線で示すように、スロット部34の根元部分34cに作用する応力振幅がσ1+σ2となる。この結果、図9に示すように、打抜き加工回数が目標回数N(6×10)より少ないときに、スロット部34の根元部分34cに疲労破壊による亀裂KR(図7参照)が生じるという問題点があった。特に、この亀裂KRは、エレメント10の凹部14に組付けるリング状のベルトの層数を減らすという要望に対応するために、スロット部34のスロット幅S1(図4参照)を小さくすることによって、生じ易くなっていた。
【0028】
そこで、上記した問題に対処するために、本実施形態では、意図的に、スロット部34のうち頭側部分34aと胴側部分34bとで、捩りに対する負荷応力が異なるようにしている。具体的には、図10に示すように、スロット部34のうち板状素材4と対向する部分(図10上面)にテーパ面34dが設けられていて、このテーパ面34dは胴側部分34bから頭側部分34aに向かうに従って板状素材4との距離が大きくなるように形成されている。このテーパ面34dが、本発明の面圧差構造に相当する。
【0029】
これにより、第1実施形態では、打抜き加工する際に、胴側部分34bに作用する面圧が、頭側部分34aに作用する面圧より大きくなり、打抜き加工する度に、スロット部34は、図7の矢印Aで示した方向(ボディ孔部32側)に捩れ、図7の矢印Bで示した方向(ヘッド孔部31側)に捩れない。このため、図8の実線で示すように、スロット部34の根元部分34cに作用する応力振幅がσ1になり、スロット部34が図7の矢印A方向及び矢印B方向に捩れる場合に比べて(図8破線参照)、応力振幅が小さくなる。この結果、図9に示すように、打抜き加工回数が目標回数N(6×10)より少ないときに、スロット部34の根元部分34cに疲労破壊による亀裂KRが生じることを防止できる。
【0030】
次に、第1実施形態の第1変形例について、図11を用いて説明する。第1変形例では、図11に示すように、板状素材4に溝部4aが形成されている。この溝部4aは、板状素材4の表面(図11の下面)のうちスロット部34の頭側部分34aと対向する部分に形成されている。この溝部4aが、本発明の面圧差構造に相当する。これにより、打抜き加工する際に、胴側部分34bに作用する面圧が、頭側部分34aに作用する面圧より常に大きくなり、スロット部34は、意図的に図7の矢印Aで示した方向(ボディ孔部32側)に捩れる。こうして、この第1変形例においても、上記した第1実施形態と同じ作用効果を得ることができる。
【0031】
次に、第1実施形態の第2変形例について、図12を用いて説明する。第2変形例では、図12(A)(B)に示すように、スロット部34の胴側部分34bのうち板状素材4と対向する部分に突部34eが設けられている。この突部34eは、スロット部34の上面から僅かに突出した部分であり、スロット部34と一体的に形成されている。なお、突部34eは、スロット部34に対して別体として溶接等で接合されていても良い。この突部34eが、本発明の面圧差構造に相当する。これにより、打抜き加工する際に、胴側部分34bに作用する面圧が、頭側部分34aに作用する面圧より常に大きくなり、スロット部34は、意図的に図7の矢印Aで示した方向(ボディ孔部32側)に捩れる。こうして、この第2変形例においても、上記した第1実施形態と同じ作用効果を得ることができる。
【0032】
続いて、第2実施形態について、図13を用いて説明する。図13では、板状素材4のうち、パンチ20で打抜かれる部分が仮想線で示されている。また、板状素材4の搬送方向(図13の上下方向)に延びてダイ30のスロット部34の頭側部分34aと対向する部分が、ドット領域X1で示され、板状素材4の搬送方向に延びてダイ30のスロット部34の胴側部分34bと対向する部分が、斜線領域Y1で示されている。
【0033】
第2実施形態では、打抜き加工される前の板状素材4において、スロット部34の胴側部分34bと対向する部分4Bが、スロット部34の頭側部分34aと対向する部分4Aより、硬くなっている。具体的に、胴側部分34bと対向する部分4Bを頭側部分34aと対向する部分4Aより硬くする方法として、斜線領域Y1をレーザで焼き入れ処理を行い、胴側部分34bと対向する部分4Bを硬くする。又は、斜線領域Y1を圧延によって加工効果させて、胴側部分34bと対向する部分4Bを硬くしても良い。或いは、ドット領域X1をIH(誘導加熱)で焼きなまし処理を行い、頭側部分34aと対向する部分4Aを柔らかくすることによって、胴側部分34bと対向する部分4Bを頭側部分34aと対向する部分4Aより硬くしても良い。
【0034】
なお、第2実施形態では、ダイ30のスロット部34には第1実施形態のようなテーパ面34d(図10参照)が設けられておらず、第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0035】
これにより、第2実施形態では、打抜き加工する際に、胴側部分34bに作用するせんだん力が、頭側部分34aに作用するせんだん力より大きい。即ち、胴側部分34bの捩りに対する負荷応力が、頭側部分34aの捩りに対する負荷応力より大きい。よって、打抜き加工する度に、スロット部34は、図7の矢印Aで示した方向に捩れ、図7の矢印Bで示した方向に捩れない。このため、上記した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、この第2実施形態では、板状素材4の硬さを部分的に変えるだけであり、従来の打抜き用金型をそのまま用いることができて、安価且つ容易に実施することができる。
【0036】
次に、第2実施形態の第1変形例について、図14を用いて説明する。図14(A)は、この第1変形例で用いるパンチ120の左半分を示した平面図であり、図14(B)は、この第1変形例で用いるダイ130の左半分を示した平面図である。パンチ120のスロット孔部124は、図14(A)に示すように、スロット孔幅T1を二等分する二等分線O1に対して非対称形状になっていて、パンチ胴部122側の輪郭線である胴側輪郭線J2が、パンチ頭部121側の輪郭線である頭側輪郭線J1より長くなるように形成されている。また、ダイ130のスロット部134は、図14(B)に示すように、スロット幅S1を二等分する二等分線O1に対して非対称形状になっていて、ボディ孔部132側の輪郭線である胴側輪郭線H2が、ヘッド孔部131側の輪郭線である頭側輪郭線H1より長くなっている。第2実施形態の第1変形例のその他の構成は、第1実施形態の構成と同様であるため、対応する部位に100番台の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
これにより、第2実施形態の第1変形例では、打抜き加工する際に、ダイ130のスロット部134において、胴側部分134bに作用する摩擦力が、頭側部分に134aに作用する摩擦力より大きくて、胴側部分134bに作用するせんだん力が、頭側部分134aに作用するせんだん力より大きい。よって、打抜き加工する度に、スロット部134は、図7の矢印Aで示した方向に捩れ、図7の矢印Bで示した方向に捩れない。このため、上記した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
次に、第3実施形態について、図15を用いて説明する。図15(A)は、第3実施形態のスロット部234を示した平面図であり、図15(B)は、第3実施形態のスロット部234の正面図である。スロット部234は、図15(A)及び図15(B)に示すように、胴側部分234bの剛性を小さくする弱剛性部ZGを有している。この弱剛性部ZGは、胴側部分234bの側面の一部に形成された溝である。なお、弱剛性部ZGは、溝に限定されるものではなく、適宜変更可能であり、切り欠き又は焼きなまし処理された軟質部分であっても良い。第3実施形態のその他の構成は、第1実施形態の構成と同様であるため、対応する部分に200番台の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
これにより、第3実施形態では、打抜き加工する際に、胴側部分234bの剛性が頭側部分234aの剛性より小さいため、胴側部分234bの捩りに対する負荷応力が、頭側部分234aの捩りに対する負荷応力より大きい。よって、打抜き加工する度に、スロット部234は、図7の矢印Aで示した方向に捩れ、図7の矢印Bで示した方向に捩れない。このため、上記した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
以上、本発明に係るCVTエレメントの打抜き加工方法及び打抜き加工用金型について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0041】
例えば、第1実施形態では、テーパ面34dを胴側部分34bから頭側部分34aに向かうに従って板状素材4との距離が大きくなるように形成することによって、スロット部34を図7の矢印Aで示した方向(ボディ孔部32側)に捩らせた。しかしながら、テーパ面を頭側部分34aから胴側部分34bに向かうに従って板状素材4との距離が大きくなるように形成することによって、スロット部34を図7の矢印Bで示した方向(ヘッド孔部31側)に捩らせても良い。
また、第1実施形態の第1変形例において、溝部を板状素材4の表面のうち胴側部分34bと対向する部分に形成することによって、スロット部34を図7の矢印Bで示した方向に捩らせても良い。
また、第1実施形態の第2変形例において、突部を頭側部分34aのうち板状素材4と対向する部分に設けることによって、スロット部34を図7の矢印Bで示した方向に捩らせても良い。
【0042】
また、第2実施形態では、胴側部分34bと対向する部分4Bを、頭側部分34aと対向する部分4Aより、硬くすることによって、スロット部34を図7の矢印Aで示した方向に捩らせた。しかしながら、頭側部分34aと対向する部分4Aを胴側部分34bと対向する部分4Bより硬くすることによって、スロット部34を図7の矢印Bで示した方向に捩らせても良い。
また、第2実施形態の第1変形例において、パンチ120のスロット孔部124を、頭側輪郭線J1が胴側輪郭線J2より長くなるように形成するとともに、ダイ130のスロット部134を、頭側輪郭線H1が胴側輪郭線H2より長くなるように形成することによって、スロット部134を図7の矢印Bで示した方向に捩らせても良い。
【0043】
また、第3実施形態では、胴側部分234bに弱剛性部ZGを設けることによって、スロット部34を図7の矢印Aで示した方向に捩らせた。しかしながら、頭側部分234aに弱剛性部ZGを設けることによって、スロット部234を図7の矢印Bで示した方向に捩らせても良い。
【符号の説明】
【0044】
1 金型
4 板状素材
4a 溝部
10 エレメント
11 頭部
12 胴部
13 首部
14 凹部
20 パンチ
21 パンチ頭部
22 パンチ胴部
23 パンチ首部
24 スロット孔部
30 ダイ
30A 打抜き孔
31 ヘッド孔部
32 ボディ孔部
33 ネック孔部
34 スロット部
34a 頭側部分
34b 胴側部分
34c 根元部分
34d テーパ面
34e 突部
H1,J1 頭側輪郭線
H2,J2 胴側輪郭線
ZG 弱剛性部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、ダイとパンチとを備えた金型を用いて、板状素材から打抜き加工する方法において、
前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、
前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ボディ孔部との間にスロット部を備え、
前記打抜き加工する際に、前記ダイのスロット部のうち前記ヘッド孔部側の頭側部分と前記ボディ孔部側の胴側部分とで、捩りに対する負荷応力を異ならせることにより、前記スロット部を前記ヘッド孔部側及び前記ボディ孔部側の何れか一方側に捩らせることを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたCVTエレメントの打抜き加工方法において、
前記スロット部の頭側部分に作用する面圧と前記スロット部の胴側部分とに作用する面圧とを異ならせることを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工方法。
【請求項3】
請求項1に記載されたCVTエレメントの打抜き加工方法において、
前記スロット部の頭側部分に作用するせんだん力と前記スロット部の胴側部分に作用するせんだん力とを異ならせることを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工方法。
【請求項4】
請求項1に記載されたCVTエレメントの打抜き加工方法において、
前記スロット部の頭側部分の剛性と前記スロット部の胴側部分の剛性とを異ならせることを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工方法。
【請求項5】
略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、板状素材から打抜き加工する際に用いるダイとパンチとを備えた打抜き加工用金型において、
前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、
前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ボディ孔部との間にスロット部を備え、
前記ダイのスロット部は、前記打抜き加工する際に、前記ヘッド孔部側の頭側部分に作用する面圧と前記ボディ孔部側の胴側部分に作用する面圧とを異ならせる面圧差構造を有することを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工用金型。
【請求項6】
略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、板状素材から打抜き加工する際に用いるダイとパンチとを備えた打抜き加工用金型において、
前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、
前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ネック孔部との間にスロット部を備え、
前記パンチのスロット孔部は、前記パンチ頭部側の輪郭線である頭側輪郭線及び前記パンチ胴部側の輪郭線である胴側輪郭線のうち何れか一方の長さが長くなるように形成されているとともに、
前記ダイのスロット部は、前記ヘッド孔部側の輪郭線である頭側輪郭線及び前記ボディ孔部側の輪郭線である胴側輪郭線のうち何れか一方の長さが長くなるように形成されていることを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工用金型。
【請求項7】
略三角形状の頭部と、略長方形状の胴部と、前記頭部の底辺の中央部分と前記胴部の上辺の中央部分とを繋ぐ首部とを有するCVTエレメントを、板状素材から打抜き加工する際に用いるダイとパンチとを備えた打抜き加工用金型において、
前記パンチは、前記エレメントの輪郭形状に対応する外形形状を有し、前記頭部を切断するためのパンチ頭部と、前記胴部を切断するためのパンチ胴部と、前記首部を切断するためのパンチ首部とを備えるとともに、前記パンチ頭部と前記パンチ胴部との間にスロット孔部を備え、
前記ダイは、前記エレメントの輪郭形状に対応する打抜き孔を有し、前記頭部を形成するためのヘッド孔部と、前記胴部を形成するためのボディ孔部と、前記首部を形成するためのネック孔部とを備えるとともに、前記ヘッド孔部と前記ネック孔部との間にスロット部を備え、
前記ダイのスロット部は、前記ヘッド孔部側の頭側部分及び前記ボディ孔部側の胴側部分のうち何れか一方に、剛性を小さくする弱剛性部を有することを特徴とするCVTエレメントの打抜き加工用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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