説明

CYP153による芳香族化合物の製造方法

【課題】 CYP153を合成させた生きた細胞を用いて効率良く、(1)置換基を有する芳香族化合物に水酸基を導入する方法、(2)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する方法、及び(3)置換基を有する環状オレフィンを芳香化する方法を提供する。
【解決手段】シトクロムP450のCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、(1)置換基を有する芳香族化合物に作用させて水酸基を導入する工程、(2)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する工程、又は(3)置換基を有する環状オレフィンを芳香化する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いる芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロムP450(以下、「P450」という。)モノオキシゲナーゼは細菌から植物や哺乳動物に至る広範囲の生物種に分布している一酸素添加酵素である。放線菌を始めとする細菌由来のP450は通常、NAD(P)HからP450に電子を伝達するのに、フェレドキシンレダクターゼ(ferredoxin reductase;FADを補酵素とする)とフェレドキシン(ferredoxin;Fe-S小タンパク質)[この2つのタンパク質を総称して、電子伝達タンパク質、又はレドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質と呼ばれている。]の介在を必要とする。しかし、P450は、これらの電子伝達タンパク質との相性が厳しく、しかもP450自体が失活しやすい不安定酵素であるので、新しいP450遺伝子を取得しても、その機能発現は難しかった。
【0003】
ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌NCIMB9784株が有するP450RhFが、フェレドキシンレダクターゼ部分(FMNを補酵素とする)とフェレドキシン部分(Fe-S小タンパク質)からなる還元酵素末端(reductase domain、還元酵素ペプチド、レドックスパートナータンパク質部分;C末側)がリンカー配列を介してP450本体タンパク質部分(N末側)と一本に繋がった1本のポリペプチドと言う珍しい構造を持つことが、エジンバラ大学のグループによって示された(非特許文献1)。野舘らは、このP450RhFのリンカー配列を含む還元酵素末端を利用し、機能解析を行いたいP450遺伝子のクローニング部位としてNdeIとEcoRI部位を付与した大腸菌用機能発現ベクターpREDを作製した(非特許文献2)。なお、大腸菌用ベースベクターとしては、T7プロモーターにより制御を受けるpET21a(Novagen社製)が用いられている。pREDベクターの構造を図1に示す。このpREDベクターを用いると、細菌由来のいくつかのP450遺伝子(P450cam、P450Bzo、P450balk)が大腸菌で機能発現されることが示された(非特許文献2)。
【0004】
また、P450balkは、石油由来のアルカンを資化する海洋細菌であるアルカニボラックス・ボルクメンシス(Alcanivorax borkumensis)SK2株由来のファミリー153(CYP153)に属するP450であり、Nelson博士のホームページ(非特許文献3)では、CYP153A13aと言う番号が付けられている。CYP153ファミリーは、最初にアシネトバクター・カルコアセチカス(Acinetobacter calcoaceticus)EB104株においてCYP153A1が発見された(非特許文献4)。その後、アルカンの資化能を有する微生物数種類でもCYP153ファミリーに属するP450が発見されている(非特許文献3:前述のNelson博士のホームページ)。CYP153ファミリーの機能に関しては、アルカン(オクタン)資化能を喪失したシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)を宿主として、CYP153A1遺伝子を発現させ、オクタン入り培地での生育状態を観察することによって、同P450がオクタンの末端に水酸基を導入するモノオキシゲナーゼであることを示唆する報告がなされた(非特許文献5)。
【0005】
CYP153ファミリーに属するP450(以後、単にCYP153と記す)を含めて、P450がアルカンの末端に水酸基を導入する活性を有していることを直接観察した報告はつい最近まで無かった。2005年以降、(株)海洋バイオテクノロジー研究所の野舘ら(非特許文献2)、久保田ら(非特許文献6)、及び、メルシャン(株)の藤井ら(非特許文献7)によって、組換え大腸菌によって直接、炭素数6〜8までのアルカンの末端に水酸基が付与されることが観察された。(株)海洋バイオテクノロジー研究所の野舘ら、及び久保田らの方法は、P450RhFを含むpREDベクターを用いたものであり、メルシャン(株)の藤井らの方法は、シュードモナス・プチダ由来のプチダレドキシンレダクターゼとプチダレドキシン遺伝子を大腸菌で共発現させるものである。さらに、久保田らは、前述の文献で、CYP153がn-ブチルベンゼンの末端にも水酸基を導入できることを明らかにした。また、藤井らは前述の文献で、n-オクタンを基質として生成したn-オクタノールのもう一方への末端にも水酸基が付与されることを観察している。
【0006】
ここで、特許文献1には多様な環境から採取した細菌由来のモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子の配列と、これらの遺伝子がコードするP450本体タンパク質部分のC末端側に、リンカー分子を介してロドコッカス属NCIMB9784株の還元酵素ドメインと同様の機能を持つペプチドを付加した融合型P450モノオキシゲナーゼについて記載されている。この融合型タンパク質はアルカン、アルケン、環状炭化水素、及び分子内に芳香環を含むアルカンやアルケンに作用し、末端メチル基に水素を導入したり、末端オレフィンのエポキシ化を触媒したりする。
このように、CYP153は、炭素数が通常、6〜8と比較的長いアルカンの末端を特異的に水酸化できる酵素活性を有することが最近、明らかにされていた。しかしながら、2005年以降になってようやく組換え大腸菌でのアルカンの直接変換が達成されたことからもわかるように、CYP153遺伝子を機能発現することは難しい技術であると言える。
【0007】
細菌バチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のP450BM3(CYP102A1)は、細菌由来のP450としては珍しい構造を取っている。すなわち、本酵素は、P450本体タンパク質部分(N末側)と、FADとFMNを分子内に補酵素として含有するNADPH-P450還元酵素部分(C末側)が、リンカー配列を介して1本のポリペプチドとして繋がった構造を取っている。その構造の故か、P450としては珍しいほど、その遺伝子を大腸菌で機能発現するのは容易であった。そのため、P450BM3について、多くの研究が行われてきた。P450BM3は元々、脂肪酸の側鎖を水酸化するモノオキシゲナーゼであったが、分子進化工学により、n-オクタンから2−オクタノール、3−オクタノール及び4−オクタノールを生成し、n-ヘキサンから2−ヘキサノール及び3−ヘキサノールを生成するように改変された(非特許文献8)。さらに、P450BM3において87番目のフェニルアラニン(Phe)をバリン(Val)に変えた変異株P450BM3(F87V)は、芳香族化合物を基質とするように変異していることが示された。すなわち、P450BM3(F87V)を発現した大腸菌は、ナフタレンやいくつかの三員環炭化水素を基質としてモノオキシゲナーゼ反応を行うことができた(非特許文献9)。たとえば、ナフタレンから1-ナフトールと2-ナフトールを合成し、フルオレンから9-フルオレノールを合成し、9-メチルアントラセンから9-アントラセンメタノールを合成することができた。さらに、P450BM3(F87V)は、種々のフェノール置換体のp-位に水酸基を導入できることも明らかにされた(非特許文献10)。たとえば、フェノールからヒドロキノンを合成し、o-クレゾールから2-メチルヒドロキノンを合成し、グアイアコール(o-メトキシフェノール)から2-メトキシヒドロキノンを合成し、o-ブロモフェノールから2-ブロモヒドロキノンを合成し、2,6-ジクロロフェノールから2,6-ジクロロヒドロキノンを合成することができた。さらに、P450BM3(F87V)は、β-イオノンを基質として4-ヒドロキシ-β-イオノンを合成することができた(非特許文献11)。このように、P450BM3(F87V)については、基質親和性(基質特異性)に関して非常に多機能な酵素であることがわかった。(株)海洋バイオテクノロジー研究所の野舘らは、このP450BM3(F87V)のN末に、シャペロン様機能を有する古細菌由来のPPIase(ペプチジルプロリルcis-transイソメラーゼ)と融合型にしたタンパク質遺伝子を大腸菌で発現させると、PPIaseとの融合型でないP450BM3(F87V)遺伝子を発現した大腸菌より、インドールからインディゴ合成能に関して数倍強い変換活性を示し、熱安定性も向上することを明らかにした(特許文献2)。なお。この古細菌由来のPPIaseとP450BM3(F87V)との融合型タンパク質遺伝子発現用プラスミドはpFusionP450と名づけられた。
【0008】
一方、P450を利用した他の反応として、芳香環に水酸基を有する芳香族化合物の炭素−炭素結合を介する縮合反応やエーテル結合を介した反応が知られている。例えば、P450melによる1,3,6,8-テトラヒドロナフタレンを基質とする炭素−炭素結合を介した縮合(非特許文献12)、CYP158A2によるフラビオリンを基質とする炭素−炭素結合を介した縮合(非特許文献13)、P450によるバンコマイシンの分子内でエーテル結合を形成させることによる芳香環の縮合(非特許文献14)等が知られている。また、P450以外でも、フェノールを酸化する機能を持つラッカーゼにより、4−ヒドロキシビフェニルと3-クロロ-4-ヒドロキシビフェニルが炭素-炭素結合を介して縮合(非特許文献15)することや2,4-ジクロロフェノールがラッカーゼにより炭素-炭素結合し、又はエーテル結合することにより縮合 (非特許文献16)することが知られている。
【0009】
しかしながら、これらの酵素を用いる変換例では菌体から不安定な酵素タンパクを取り出して反応を行う必要があり、目的化合物を大量に製造するには好ましくない方法である。
【0010】
化学合成では、芳香環に水酸基を有する芳香族化合物の炭素−炭素結合を介する縮合は、バナジル アセチルアセトネート(VO(acac)2)を触媒として用いる反応(非特許文献17)や3価の鉄である塩化第二鉄等を用いる反応等が知られている(非特許文献18)。しかしながら、バナジル アセチルアセトネートを用いる反応は、様々な2−ナフトール誘導体又はフェノール誘導体を縮合することができるが、産物の高価な触媒を必要とし、また水系では反応は進行せず、有害なハロゲン系溶媒を必要とするという問題点があった。塩化第二鉄を用いる反応は、2−ナフトール誘導体を水系で縮合することができるが、3価の鉄を触媒量ではなく、好ましくは1等量以上必要とするため触媒効率が悪いという問題点があった。このため、有害物質を用いず安全に、しかも簡便に効率よく大量に種々の芳香族化合物を製造することができる方法が求められている。
【0011】
さらに、CYP19は、P450arom又はアロマターゼとも呼ばれ、生体内でアンドロステンジオンを芳香化してエストロンを、テストステロンを芳香化してエストラジオールを与えるステロイドホルモンの生合成系に係わる酵素であることが知られている(非特許文献19及び20)。しかしながらCYP153については、このような反応を触媒するとの報告は一切ない。
【特許文献1】WO2006/051729
【特許文献2】特開2005−278637
【非特許文献1】G. A. Roberts et al, J. Bacteriol. 184: 3898-3908 (2002)
【非特許文献2】M. Nodate et al, Appl. Microbiol. Biotechnol., 71: 455-462 (2006)
【非特許文献3】http://drnelson.utmem.edu/CytochromeP450.html
【非特許文献4】T. Maier et al, Biochem. Biophy. Res. Comm. 286: 652-658 (2001)
【非特許文献5】J. B. van Beilen, Appl. Environ. Microbiol., 71: 1737-1744 (2005)
【非特許文献6】M. Kubota et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 69: 2421-2430 (2005)
【非特許文献7】T. Fujii et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 70: 1379-1385 (2006)
【非特許文献8】A. Glieder et al, Nature Biotechnol., 20: 1135-1139 (2002)
【非特許文献9】O. S. Li et al, Appl. Environ. Microbiol., 67: 5737-5739 (2001)
【非特許文献10】W. Triarsi et al, Appl. Microbiol. Biotechnol., 67: 556-562 (2005)
【非特許文献11】V. B. Urlacher et al, Appl. Microbiol. Biotechnol., 70: 53-59 (2006)
【非特許文献12】N. Funa et al., J. Bacteriol., 187; 8149-8155 (2005)
【非特許文献13】B. Zhao et al., J. Biol. Chem., 280; 11599-11607 (2005)
【非特許文献14】K. Zerbe et al., J. Biol. Chem., 277; 47476-47485 (2002)
【非特許文献15】A. Schultz et al., Appl. Environ. Microbiol., 67; 4377-4381 (2001)
【非特許文献16】J. Dec et al, Environ. Sci. Technol., 28; 484-490 (1994)
【非特許文献17】C. Y. Chu et al, Tamkang Journal of Science and Enginnering, 6; 65-72 (2003)
【非特許文献18】K. Ding et al., Terrahedron, 52; 1005-1010 (1996)
【非特許文献19】堅中 正一: “P450の分子生物学”、大村恒雄、石村巽、藤井義明編、株式会社講談社サイエンティフィック、東京、2003、pp.118-132
【非特許文献20】K. Tsutsui et al., Avian and Poulty Biology Reviews, 14; 63-78 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、CYP153を合成させた生きた細胞を用いて効率良く、(1)置換基を有する芳香族化合物に水酸基を導入する方法、(2)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する方法、及び(3)置換基を有する環状オレフィンの環状オレフィンを芳香化する方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
(i) CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させることにより、この芳香族化合物に水酸基を効率的に導入できる。
(ii) CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上に作用させることにより、芳香環2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合することができる。
(iii) CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する環状オレフィンに作用させることにより、該化合物の環状オレフィンを芳香化することができる。
(iv) 上記(i)〜(iii)の反応は、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質と、必要に応じて(特に前者の場合)CYP153に電子を伝達するタンパク質(電子伝達タンパク質;レドックスパートナータンパク質)とを共に発現する組換えベクターを導入した形質転換体を芳香族化合物等に作用させることにより行うことができるが、従来のpREDベクターが利用しているT7プロモーターよりもかなり弱いと考えられているlacプロモーターを利用したpUC系ベクターにCYP153遺伝子を挿入した組換えベクターで大腸菌(エシェリキア・コリ)を形質転換した形質転換体を用いれば、高機能なプラスミドである従来のpFusionP450を有する大腸菌よりも水酸基導入反応が進行し易い。
(v)上記(i)〜(iii)の反応は、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を発現する生きた細胞を用いて行うことができるので、反応の際に酵素を精製して使用する必要がなく、しかも反応後は遠心分離等により菌体を容易に除去することができることから、生成物の精製も容易である。このため、目的化合物を酵素法で簡便に、しかも大量に製造することができる。
【0014】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項の新規な芳香族化合物の効率の良い製造方法、及び組換えベクターを提供する。
項1. シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
項2. シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上に作用させて、芳香環2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
項3. シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する環状オレフィンに作用させて環状オレフィンを芳香化する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【0015】
項4. CYP153が以下の(a)又は(b)である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
項5. CYP153が以下の(o)又は(p)である項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(o)配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(p)配列番号12のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
【0016】
項6. 置換基を有する芳香族化合物がベンゼン環を1〜3個有するものである項1、4及び5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 置換基を有する芳香族化合物の芳香環の炭素原子に水酸基を導入する項1及び4〜6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜4のアルキル基であり、該アルキル基の炭素原子に水酸基を導入する項1及び4〜6のいずれかに記載の製造方法。
項9. 置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜2のアルコキシ基であり、該アルコキシ基の脱アルキル化により水酸基を導入する項1及び4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
項10. フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、ベンゼン環を1〜3個有するものである項2、4及び5のいずれかに記載の製造方法。
項11. 置換基を有する環状オレフィンが、環状オレフィンに結合した置換基を有するものであり、該環状オレフィンを芳香化する項3〜5のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
項12. CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有する芳香族化合物に作用させる項1及び4〜9のいずれかに記載の製造方法。
項13. CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該フェノール性水酸基を有する芳香族化合物に作用させる項2、4〜5及び10のいずれかに記載の製造方法。
項14. CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する環状オレフィンとを共存させることにより、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該環状オレフィンに作用させる項3〜5及び11のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
項15. 形質転換体が、CYP153と、レドックスパートナータンパク質との融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入したものである、項12〜14のいずれかに記載の製造方法。
項16. 形質転換体が、CYP153と、レドックスパートナータンパク質であるロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド又はそれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質をコードする遺伝子を、lacプロモーター及びLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクターを導入したものである、項15に記載の製造方法。
項17. レドックスパートナータンパク質が以下の(c)又は(d)のペプチドである項15又は16に記載の製造方法。
(c) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(d) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するペプチド
【0020】
項18. 組換えベクターが、CYP153をコードする以下の(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、lacプロモーターとLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクターである項16又は17に記載の製造方法。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0021】
項19. 組換えベクターが、CYP153をコードする以下の(w)又は(x)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、T7プロモーターの転写を受けるようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターである項16又は17に記載の製造方法。
(w) 配列番号16の塩基配列からなるDNA
(x) 配列番号16のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0022】
項20. CYP153をコードする以下の(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、lacプロモーターとLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクター。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0023】
項21. CYP153をコードする以下の(w)又は(x)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、T7プロモーターの転写を受けるようにpET系ベクターに挿入した組換えベクター。
(w) 配列番号16の塩基配列からなるDNA
(x) 配列番号16のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【発明の効果】
【0024】
本発明の芳香族化合物の製造方法は、シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を用いてモノオキシゲナーゼとして機能させ、(1)置換基を有する芳香族化合物に水酸基を導入する、(2)フェノール性水酸基を有する化合物の芳香環2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する、又は(3)環状オレフィンを芳香化することを特徴とする。
従来、CYP153に属するタンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、脂肪族化合物に水酸基を導入する反応は知られていた。本発明により、CYP153に属するモノオキシゲナーゼを用いて置換基を有する芳香族化合物の芳香環に水酸基を導入することや、芳香族化合物の芳香環上の置換基に水酸基を導入することが初めて可能になった。本発明による水酸基導入反応には、上記の反応のほか、アルコキシ基の脱アルキル化により結果的に水酸基を生成する反応も含まれる。
【0025】
さらに、本発明により、CYP153に属するタンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、フェノール性水酸基を有する化合物に作用させると、芳香環2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合すること、及び置換基を有する環状オレフィンにおいて環状オレフィンを芳香化することが初めて可能となった。
化学合成により(1)芳香族化合物に水酸基を導入する場合、(2)2以上の芳香環を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する場合、又は(3)環状オレフィンを芳香化する場合には、多工程を要したり、保護基の導入や脱離反応を要する場合がある。また、高温高圧の過酷な条件、高価又は危険な試薬、廃液処理などを要する場合もある。この点、本発明方法は酵素を用いた反応であるため、1工程で、特異的に反応を進めることができる。さらに、CYP153を生産する生きた細胞を用いて反応を行うので、酵素を精製する必要もなく簡便で、変換産物の大量製造も容易であるという優れた利点がある。また、酵素により反応を行うことから、温和な条件で反応を行うことができ、環境に悪影響を与える試薬を使用する必要がない、たいへん環境にやさしい製造方法である。
従って、本発明によれば、医薬品、農薬、染料やこれらの合成中間体等として有用である各種芳香族化合物を、温和な条件下で簡便に、しかも効率よく大量に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の芳香族化合物の製造方法は、CYP153に属するタンパク質又はこれらを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、原料(基質)に作用させて芳香族化合物を製造する方法である。本発明の製造方法における原料(基質)には、(1)置換基を有する芳香族化合物、(2)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上又は(3)置換基を有する環状オレフィンを用いる。以下、置換基を有する芳香族化合物を原料とする芳香族化合物の製造方法(製造方法1ともいう)、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上を原料とする芳香族化合物の製造方法(製造方法2ともいう)及び置換基を有する環状オレフィンを原料とする芳香族化合物の製造方法(製造方法3ともいう)について説明する。
【0027】
製造方法1
本発明の製造方法1は、置換基を有する芳香族化合物に、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、これを作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する工程を含む。これにより、水酸基を有する芳香族化合物を製造することができる。
本発明の製造方法1で得られる水酸基を有する芳香族化合物は、水素結合により水とも親和性を示し、反応性に富むため医薬品、農薬、染料や合成中間体等として好適に使用することができるものである。
【0028】
置換基を有する芳香族化合物
本発明の製造方法1の原料には置換基を有する芳香族化合物が用いられる。このような芳香族化合物として、芳香環を1〜3個有する芳香族化合物が好ましい。中でも、ベンゼン環を1〜3個有する化合物、例えば、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、フェナントレンなどのように芳香族炭化水素だけで環構造を形成している化合物が好ましく挙げられる。また、複素環を含む芳香族化合物であってもよく、このような化合物として、インドール、キノリン、アントラキノン、ピリジルベンゼンなどのようにベンゼン環と複素環とが縮合している化合物が挙げられるが、複素環を含む芳香族化合物としては、ベンゼン環に窒素を含む芳香族化合物が好ましい。また、芳香環が直接結合しない芳香族化合物として、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノンなどのように、芳香環と芳香環が、酸素原子、イオウ原子、アミノ基、カルボニル基を介して結合しているものが挙げられるが、酸素原子を介して結合している芳香族化合物が好ましい。
【0029】
置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1〜4のアルキル基(特に、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、イソブチル基)、5〜7員環の飽和もしくは不飽和炭化水素基(特にシクロヘキセニル基)、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ピリジル基、炭素数7〜9のフェニルアルキル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、置換アミノ基、保護アミノ基、アルデヒド基、ホルミル基、カルボニル基、カルボキシル基、保護カルボキシル基、カルボキシルアルキル基、保護カルボキシル基、アルキル基アシル基、アシル基(特にアセチル基)、シアノ基、オキソ基、ニトロ基、スルホ基、アゾ基、アジド基等が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、炭素数1〜2のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基が好ましい。
置換基の数は芳香族化合物の環の種類によって異なるが、例えば、ベンゼン環の場合は、1〜6個が可能であるが、1〜3個が好ましい。ナフタレンの場合は、1〜8個が可能であるが、1〜4個が好ましい。ビフェニルの場合は、1〜10個が可能であるが、1〜4個が好ましい。アントラセンの場合は、1〜10個が可能であるが、1〜4個が好ましい。フェナントレンの場合は、1〜10個が可能であるが、1〜4個が好ましい。
【0030】
水酸基導入反応
本発明の製造方法1においては、上記置換基を有する芳香族化合物の芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する。
置換基を有する芳香族化合物の芳香環の炭素原子に水酸基を導入するとは、芳香環を構成する炭素原子に水酸基を導入することを意味する。
上記置換基を有する芳香族化合物の置換基の炭素原子に水酸基を導入する反応においては、置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜4のアルキル基であり、該アルキル基の炭素原子に水酸基を導入することが好ましい。上記置換基を有する芳香族化合物の置換基がアルコキシ基である場合には、該アルコキシ基の脱アルキル化により水酸基を導入する反応も、本発明における置換基を有する芳香族化合物の置換基の炭素原子に水酸基を導入する反応に含まれる。この場合、置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜2のアルコキシ基であることが好ましい。
【0031】
製造方法2
本発明の製造方法2は、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上に作用させて、芳香環2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する工程を含む。これにより、原料(基質)化合物中の芳香環2以上が炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合した縮合物が製造される。
【0032】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物
本発明の製造方法2の基質であるフェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上としては、同一の化合物2分子以上、又は異なる2種以上の化合物の混合物を用いる。2種以上のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物を用いると、ハイブリッドタイプの縮合産物を得ることができる。好ましくは、1〜3種、より好ましくは1〜2種のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物を用いる。
【0033】
製造方法2における芳香族化合物としては、上述した製造方法1における芳香族化合物と同様であり、ベンゼン環を1〜3個有する芳香族化合物が好ましい。
基質である芳香族化合物におけるフェノール性水酸基の数は、芳香族化合物の環の種類によって異なるが、例えば、芳香環がベンゼン環であれば1〜5個が可能であるが、1〜3個が好ましい。ナフタレンの場合は、1〜7個が可能であるが、1〜4個が好ましい。ビフェニルの場合は、1〜9個が可能であるが、1〜4個が好ましい。また、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物は、フェノール性水酸基以外の置換基を有してもよいが、フェノール性水酸基のo−位又はp−位に置換基を有さないことが好ましく、o−位及びp−位に置換基を有さないことがより好ましい。また、o−位及び/又はp−位に置換基を有する場合は、置換基がハロゲン原子であることが好ましい。
【0034】
縮合反応
本発明2の製造方法においては、2個以上の芳香環が炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合した縮合物が生成する。本発明における縮合反応としては特に限定されないが、具体的には例えば、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物としてフェノールを用いると、炭素−炭素結合を介した縮合産物として4,4’−ジヒドロキシビフェニルが得られる。また、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物として4−ブロモフェノールを用いると、炭素−炭素結合を介した縮合産物として4,4’−ジヒドロキシビフェニルが、エーテル結合を介した縮合産物として2−(4−ブロモフェノキシ)−4−ブロモフェノールが、それぞれ得られる。
【0035】
製造方法3
本発明の製造方法3は、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する環状オレフィンに作用させて、該化合物が有する環状オレフィンを芳香化する工程を含む。これにより、芳香環を有する化合物、すなわち芳香族化合物を製造することができる。
【0036】
置換基を有する環状オレフィン
本発明の製造方法3における原料(基質)としては、環状オレフィンに結合した置換基を有するものが好ましい。置換基としては、ベンゼン環もしくは置換基を有するベンゼン環1〜3を有する芳香族化合物から水素原子が除かれて形成される基、複素環化合物から水素原子が除かれて形成される基、又は上述したアルキル基、アシル基、エステル基、シアノ基、ニトロ基、エーテル基などが好ましい。ベンゼン環、もしくは置換基を有するベンゼン環1〜3を有する芳香族化合物、又は複素環化合物から水素原子が除かれて形成される基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニレン基、フェナントレン基、インドリル基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基や、これらの基に置換基が結合した基が挙げられる。
環状オレフィンとしては、例えば、不飽和結合を1以上有する炭素数3〜8、好ましくは炭素数5〜8の環、具体的には、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエン等が挙げられる。中でも、シクロヘキセン、シクロヘキサジエンがより好ましい。
【0037】
置換基を有する環状オレフィンの芳香化反応
本発明の製造方法3においては、環状オレフィンが芳香化されて芳香環となる。具体的には、例えば、本発明の製造方法3において置換基を有する環状オレフィンとして1−フェニル−1−シクロヘキセンを用いると、該化合物中のシクロヘキセン環が芳香化されてビフェニルが生成する。
【0038】
上記製造方法1〜3において、原料(基質)となる、置換基を有する芳香族化合物、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物及び置換基を有する環状オレフィンは市販のものを利用しても良いし、従来から知られ、常用されている方法により製造して用いてもよい。
本発明の製造方法1〜3について、以下にさらに説明する。
【0039】
反応
本発明の製造方法1〜3における反応は、適当な溶液又は溶媒中で、原料化合物と生物材料から単離したCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合タンパク質(以下、「CYP153」と略称することがある。)を、必要に応じてレドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質(電子伝達タンパク質)であるフェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシンと共に反応させることにより行うことができる。単離したCYP153としては、菌体のような生物材料の破砕物、抽出物、精製物などが挙げられる。単離したCYP153は適当な担体に固定化されたものであってもよい。この場合、酸化反応を触媒する電子伝達タンパク質であるフェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシンを、反応系に共存させることが必要である。なお、CYP153タンパク質と、P450RhFの還元酵素末端のようなレドックスパートナータンパク質とが融合したタンパク質(融合タンパク質)を原料化合物と反応させる場合は、フェレドキシンレダクターゼやフェレドキシンと共存させる必要は無い。CYP153とレドックスパートナータンパク質とを共に反応させることにより、CYP153はモノオキシゲナーゼとして機能する。
また、P450ファミリータンパク質は不安定な酵素であるため、本発明の反応は、CYP153を生産する細胞と原料化合物とを接触ないしは共存させることにより行うことが好ましい。この反応は、CYP153を生産する細胞の培養液中に原料化合物を添加することにより行ってもよく、例えばバッファー中でCYP153を生産する細胞と原料化合物とを共存させることにより行ってもよい。
【0040】
CYP153、及びこれを生産する細胞については、後に詳述する。
以下、CYP153を生産する細胞を用いた方法について説明する。反応は、回分反応や流加(半回分)反応などのバッチ方式や灌流反応などの連続反応方式で行い得る。基質は一括、又は連続的に添加し得る。
反応条件は用いる微生物、及び原料化合物の種類によって異なるが、例えば、回分反応の場合は、反応液中の原料化合物濃度は約0.1〜10mMが好ましく、約0.5〜3mMがより好ましい。また、非水溶性かつ液体の原料化合物の場合は、重層することができる。反応液のpHは約5〜9が好ましく、約6〜8がより好ましい。また、反応は、通常、約20〜30℃で約12〜24時間行えばよい。流加(半回分)反応や連続反応の場合は、回分反応の条件に準じて条件を設定すればよい。上記範囲であれば、原料化合物の変換率が高く、かつ精製が容易となる。
【0041】
反応生成物
反応で生じた芳香族化合物は、常法により精製され得る。例えば、必要に応じ遠心分離、濾過等の処理を施して菌体等の懸濁物を除去し、次いで一般的な抽出溶剤、例えば酢酸エチル、クロロホルム、メタノール等の有機溶剤で抽出し、有機溶剤を減圧下で除去し、そして減圧蒸留、クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、又は吸着性樹脂等の処理を行うことにより精製され得る。
【0042】
モノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質
モノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質としては、例えば、ロドコッカス(Rhodococcus)属、アシネトバクター属(Acinetobacter)、アルカニボラックス属(Alcanivorax)、キャンディダ(Candida)属、バシラス(Bacillus)属、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)、シュードモナス(Pseudomonas)属、ゴルドニア(Gordonia)属、スマラグジコッカス属(Smaragdicoccus)、コーロドバクター(Caulobacter)属又はストレプトマイセス属(Streptomyces)等に属する微生物が生産するものが挙げられる。
具体的には、例えば、アシネトバクター・カルコアセティカス由来のCYP153A1(Nelsonのホームページ(http://drnelson.utmem.edu/CytochromeP450.html)に登録されているアクセッション番号AJ311718)、CYP153A2(同アクセッション番号AE005680)、アルカニボラックス・ボルクメンシス由来のCYP153A13a(同アクセッション番号(AY505118);配列番号1)、ゴルドニア属由来のCYP153(配列番号12)、コーロドバクター・クレセンタス由来のCYP153A2(配列番号11)等が挙げられる。また、メタゲノムから取得したCYP153A(A)(配列番号9)やCYP153A(B)(配列番号10)等を用いることもできる。
【0043】
中でも、(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。また、(b)配列番号1のアミノ酸配列において1もしくは数個(数個とは、例えば20個、好ましくは10個、以下同様である。)のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチドも好ましく使用できる。
配列番号1のポリペプチドは、アルカニボラックス・ボルクメンシス(Alcanivorax borkumensis)SK2株の培養物から単離することができる。また、配列番号1に基づき化学合成することもできる。
【0044】
(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法について述べれば、生物学的機能を喪失しない改変は、例えば、得られるタンパク質の構造保持の観点から、極性、電荷、可溶性、親水性/疎水性等の点で、置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンは非極性アミノ酸に分類され;セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンは極性アミノ酸に分類され;フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンは芳香族側鎖を有するアミノ酸に分類され;リジン、アルギニン、ヒスチジンは塩基性アミノ酸に分類され;アスパラギン酸、グルタミン酸は酸性アミノ酸に分類される。従って、同じ群のアミノ酸から選択して置換することができる。
モノオキシゲナーゼ活性は、酸素分子を還元して1分子の水を作るとともに、残りの酸素原子を様々な低分子有機化合物に導入して、酸化生成物に変換する反応を触媒する活性を意味する。モノオキシゲナーゼP450活性を有することは、当該ポリペプチドに還元状態で一酸化炭素を通気すると吸収スペクトルが変化し450nmに極大をもつ差スペクトル(CO差スペクトル)が現れることで確認することができる。
【0045】
本発明におけるモノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質としては、下記(i)〜(p)からなる群より選択されるポリペプチドも好適に用いることができる。
(i)配列番号9のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(j)配列番号9のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
(k)配列番号10のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(l)配列番号10のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
(m)配列番号11のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(n)配列番号11のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
(o)配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(p)配列番号12のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
【0046】
配列番号9及び10のポリペプチドは、メタゲノム由来のポリペプチドである。配列番号11のポリペプチドは、Caulobacter crescentus NCIMB9789の培養物から単離することができる。配列番号12のポリペプチドは、Gordonia sp. I72 (MBIC 01536)の培養物から単離することができる。また、これらのポリペプチドは、それぞれ配列番号9〜12の配列に基づき化学合成することもできる。
【0047】
上記(i)のポリペプチドに基づき(j)のポリペプチドを得る方法、(k)のポリペプチドに基づき(l)のポリペプチドを得る方法、(m)のポリペプチドに基づき(n)のポリペプチドを得る方法、及び(o)のポリペプチドに基づき(p)のポリペプチドを得る方法は、上記(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法と同様である。
【0048】
また、CYP153を含む融合タンパク質としては、例えば、CYP153と電子伝達タンパク質(レドックス(redox;酸化還元)パートナータンパク質)との融合タンパク質や分泌シグナルとの融合タンパク質が挙げられるが、代表的には、CYP153と、シトクロムP450モノオキシゲナーゼに含まれる還元酵素ペプチド(レドックスパートナータンパク質)又はそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドとの融合タンパク質が挙げられる。この融合タンパク質は、具体的には、CYP153と、フェレドキシンレダクターゼ及びフェレドキシンの機能を有する還元酵素ペプチドとの融合タンパク質である。
特に、ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)又はそれと同等の還元酵素活性を有するペプチドとの融合タンパク質が好ましい。ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼに含まれる還元酵素ペプチド(ドメイン)は、(c)配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチドである。また、(d)配列番号2において、1又は複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するペプチドも好ましく用いることができる。還元酵素活性を有することは、基質が知られた既知のP450と還元酵素ペプチドの融合タンパク質を作り、実際に反応生成物が生じるかどうかを確かめることで確認することができる。
【0049】
配列番号2のペプチドは、ロドコッカス属NCIMB9784株の培養物から単離することにより得られる。また、化学合成によっても得られる。(c)のペプチドの生物活性を保持しつつ配列を改変して(d)のペプチドを得る方法は、前述した(a)のポリペプチドに基づき(b)のポリペプチドを得る方法と同様である。
CYP153モノオキシゲナーゼと還元酵素ペプチドとの間には、リンカーペプチドを介在させることができる。通常は、P450モノオキシゲナーゼのC末端側にリンカーペプチドを介して還元酵素ペプチドが結合していればよい。リンカーペプチドの長さは、CYP153と還元酵素ペプチドとで効率良く反応を進める上で、約6〜26aa、好ましくは16aa前後とすることができる。
【0050】
これらのモノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質は自然界に存在する微生物等から抽出しても良いし、アミノ酸配列に基づき化学合成してもよい。また、後述する本発明の形質転換体から単離、精製しても良い。
【0051】
組換えベクター
CYP153又はそれを含む融合タンパク質を生産する細胞は、これらをコードするDNAを含む組換えベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体であることが好ましい。このようにCYP153を高発現する形質転換体を用いることにより、効率よく反応を行うことができる。
この組換えベクターは、適当なベクターDNAに本発明のモノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードするDNAを連結することにより得ることができる。ベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、公知のベクターを宿主に応じて広い範囲から選択することができる。例えば、ファージ、ファージミドベクター、プラスミドベクター等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌(エシェリキア・コリ)由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルス、トガウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
細菌細胞は生育が容易で反応を行い易いため、細菌由来のベクターが好ましく、エシェリキア・コリ由来のベクターがより好ましい。エシェリキア・コリ由来のベクターとしては、pUC系ベクターやpETベクターが好ましい。
【0052】
モノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を高発現させるためには、プロモーター及び翻訳シグナルの選択が重要である。プロモーターは、宿主中で機能できるものであればよいが、例えば、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなどが挙げられる。中でも、lacプロモーターやT7プロモーターを用いることにより、CYP153を高発現させることができる。翻訳シグナルも宿主中で機能できるものであればいずれを用いてもよいが、例えば、LacZの翻訳シグナル、Lppの翻訳シグナルなどが挙げられる。中でも、CYP153を高発現させることができる点で、LacZの翻訳シグナルが好ましい。
組換えベクターで最も好ましいのは、モノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質をコードするDNAの3’末端に、リンカーを介して、ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450RhFの還元酵素ドメイン又はこれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドをコードするDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、lacプロモーターとLacZ翻訳シグナルとを利用するようにpUC系ベクターに挿入したCYP153遺伝子機能発現用プラスミドである。
【0053】
CYP153に属するタンパク質をコードするDNAとしては、(e)配列番号3の塩基配列からなるDNA、又は(f)配列番号3の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するタンパク質をコードするDNAが好ましい。また、ロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450の還元酵素ドメイン又はこれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドをコードするDNAとしては、(g)配列番号4の塩基配列からなるDNA、又は(h)配列番号4の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAが好ましい。
配列番号3の塩基配列からなるDNAは、例えばアルカニボラックス・ボルクメンシスのゲノムDNAライブラリーから、配列番号3に基づき設計したプローブを用いたハイブリダイゼーションや、配列番号3に基づき設計したプライマーを用いて、アルカニボラックス・ボルクメンシスのゲノムDNAを鋳型としたPCRなどにより得ることが出来る。また、化学合成によっても得られる。配列番号4の塩基配列からなるDNAは、例えばロドコッカス属細菌のゲノムDNAやそのライブラリーを用いて、配列番号3のDNAの場合と同様にして得ることができる。また化学合成することもできる。また、(e)又は(g)のDNAの改変により(f)又は(h)の遺伝子を得る方法としては、例えば、(e)又は(g)のDNA配列を基に化学合成する方法、(e)又は(g)のDNAにγ-線を照射する方法、(e)又は(g)のDNAを鋳型として用いたエラープローンPCRを行なう方法等の一般的な方法が挙げられる。
【0054】
CYP153をコードする上記(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする上記(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、lacプロモーターとLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクターも、本発明の1つである。
【0055】
CYP153に属するタンパク質をコードするDNAとしては、以下の(q)〜(x)のDNAも好適に用いることもできる。
(q) 配列番号13の塩基配列からなるDNA
(r) 配列番号13のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(s) 配列番号14の塩基配列からなるDNA
(t) 配列番号14のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(u) 配列番号15の塩基配列からなるDNA
(v) 配列番号15のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(w) 配列番号16の塩基配列からなるDNA
(x) 配列番号16のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0056】
本発明における組換えベクターとして、CYP153をコードする(q)〜(x)のいずれかのDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、T7プロモーターの転写を受けるようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターも用いることができる。
CYP153をコードする上記の(w)又は(x)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、T7プロモーターの転写を受けるようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターも、本発明の1つである。
【0057】
配列番号13〜16の塩基配列は、それぞれ配列番号9〜12のポリペプチドをコードするDNA配列である。
配列番号13又は14の塩基配列からなるDNAは、非特許文献6記載の方法にて得ることができる。
配列番号15又は配列番号16の塩基配列からなるDNAは、配列番号13又は配列番号14の場合と同様に、CYP153の共通配列領域をもとに縮重プライマーを設計し、P450遺伝子の中央部分の部分長配列をPCRにより増幅することにより得ることができる。次に、P450遺伝子の全長配列をインバースPCR法又はタカラバイオのin vitro cloning kitを用いて取得し、この情報をもとに全長のCYP153遺伝子を単離することができる。またこれらのDNAは、化学合成することもできる。
【0058】
本発明において、あるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual(Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)に記載の方法等によって得ることができる。本発明において「ストリンジェント」な条件としては、6×SSC(standard saline citrate;1×SSC=0.15M NaCl,0.015M Sodium citrate)、0.5%SDS及び50%ホルムアミドの溶液中において42℃で一夜加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中において68℃で30分間洗浄した場合にそのポリヌクレオチドから脱離しない条件が挙げられる。
【0059】
(e)又は(g)のDNAの改変により(f)又は(h)のDNAを得る方法は前述したとおりである。(q)のDNAの改変により(r)のDNAを得る方法、(s)のDNAの改変により(t)のDNAを得る方法、(u)のDNAの改変により(v)のDNAを得る方法、(w)のDNAの改変により(x)のDNAを得る方法も、前述した(e)又は(g)のDNAの改変により(f)又は(h)のDNAを得る方法と同様である。
【0060】
なお、本発明において、あるDNA、例えば、配列番号3の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAは、配列番号3の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAの塩基配列と約90%以上の配列相同性を有することが好ましく、約95%以上の配列相同性を有することがより好ましく、約98%以上の配列相同性を有することが特に好ましい。
【0061】
形質転換体
本発明の形質転換体は、上記の組換えベクターを宿主中に導入することにより得ることができる。組換えベクターの導入方法としては、特に限定されないが、細菌に導入する方法であれば、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Cohen et a1.: Proc. Nat1. Acad. Sci., USA, 69, 2110, 1972]やエレクトロポレーション法等が挙げられ、また、酵母へ導入する方法であれば、例えば、エレクトロポレーション法[Becker,D.M. et a1.: Methods Enzymo1., 194,182, 1990]、スフェロプラスト法[Hinnen, A. et a1.: Proc. Nat1. Acad. Sci., USA, 75, 1929, 1978]、酢酸リチウム法[Itoh, H.: J .Bacterio1.,153, 163, 983]等が、また、動物細胞へ導入する方法であれば、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が、また、昆虫細胞へ導入する方法であれば、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0062】
宿主はベクターに合わせて選択すればよい。動物、酵母等の真核細胞でも、放線菌や真正細菌(eubacteria)等の原核細胞でもよいが、生育が簡単で早く変換反応を行い易い点で、真正細菌細胞が好ましい。真正細菌細胞としては、例えば、大腸菌(エシェリキア・コリ;Escherichia coli)などのエシェリキア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌などが挙げられるが、中でも、大腸菌が好ましい。
【0063】
実施例
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
(1)プラスミドpUCRED及びpSTVREDの作製
lacプロモーターとLacZの翻訳シグナルを利用するpUC系ベクター(コピー数は一細胞あたり100個程度)、及び、同様のプロモーターと翻訳シグナルを利用するpSTV28ベクター(コピー数は一細胞あたり20〜30個程度)を材料として、pRED改良型ベクターであるpUCRED及びpSTVREDの作製を行った。
具体的には、pREDベクター((株)海洋バイオテクノロジー研究所)をEcoRIとHindIIIで二重消化した後、アガロースゲル電気泳動にかけてP450RhFの還元酵素末端(reductase domain)を含む1.0 kb断片(図1参照)をゲルから切り出した。
次に、pUC18[アンピシリン(Ap)耐性;Takara Bio社製]をEcoRIとHindIIIで二重消化した後、CIAP処理を行ったものと、上記1.0-kb-EcoRI-HindIII断片とを混合し、ライゲーション反応を行い、目的とするプラスミドpUCREDを得た。
さらに、pSTV28[クロラムフェニコール(Cm)耐性;Takara Bio社製]をEcoRIとHindIIIで二重消化した後、CIAP処理を行ったものと、上記1.0-kb-EcoRI-HindIII断片とを混合し、ライゲーション反応を行い、目的とするプラスミドpSTVREDを得た。
【0065】
(2)pUCRED及びpSTVREDの評価
MoxAはCYP105に属するP450であり、メルシャン社による解析より、基質の適応性が広い高機能のP450であることが知られている(H. Agematsu et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 70: 307-311 (2006))。このMoxA、及びアルカニボラックス・ボルクメンシスSK2株由来のP450遺伝子であるP450Balk(CYP153A13a;M. Nodate et al, Appl. Microbiol. Biotechnol.,71: 455-462 (2006))を用いて、(1)で作製した改変pREDベクターである、pUCRED及びpSTVREDの評価を行った。
【0066】
<pUCRED-MoxA、pSTVRED-MoxAの作製>
pUCRED、pSTVREDをそれぞれ制限酵素EcoRIで37℃、5時間処理した。処理後は、QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN社製)を用いてゲル抽出を行った。これをベクターDNAとした。
次に、PCR法を用いて、まず、12.5 μLの2×PrimeSTAR MaxPremix(タカラバイオ社製)、1.0 μLのフォワードプライマー:MoxA-EcoRIF(10 pmol/μL)、1.0 μLのリバースプライマー:MoxA-EcoRIR(10 pmol/μL)、0.5 μLのpRED-MoxAプラスミド(≒20 ng分)、及び10.0 μLの滅菌水を混ぜ合わせ、PCR反応として98℃で10秒間、60℃で5秒間、72℃で7秒間を32サイクル行い、MoxA遺伝子の増幅を行った。その後、反応終了液1 μLを用いて1%アガロースゲルで電気泳動を行い、増幅を確認した(1,220 bp)。なお、pRED-MoxAプラスミドは、MoxA遺伝子(H. Agematsu et al, Biosci. Biotechnol. Biochem.,70: 307-311 (2006))の終止コドンを除いたものをRhF還元酵素末端部分との融合タンパク質になるようにpREDベクター(M. Nodate et al, Appl. Microbiol. Biotechnol.,71: 455-462 (2006))のNdeI-EcoRI部位に挿入したものである。次に、Minelute Reaction Cleanup Kit (QIAGEN社製)を用いてDNAの精製を行い、制限酵素EcoRIで37℃、5時間処理した。次に、QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN社製)を用いてゲル抽出を行った。これをインサートDNAとした。
【0067】
<大腸菌での発現>
次いで、ベクターDNAとインサートDNAをLigation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いて16℃で15分間ライゲーションさせ、氷水上で大腸菌コンピテントセル(Ecos competent E.coli DH5α、ニッポンジーン社製)と混ぜ合わせた。その後、42℃で30秒間処理することで形質転換し、100μg/mLのアンピシリン(Ap)又は25μg/mLのクロラムフェニコール(Cm)を含むLBプレートに塗り広げた。これを37℃で16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、コロニーを、Ap又はCmを含む3 mLのLB培地に植菌し、30℃で16時間振盪培養した。そして、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行った。その後、抽出したプラスミド1 μLを制限酵素BamHIで37℃、2時間処理し、処理液全量を1%アガロースゲルで電気泳動することでインサートDNAが挿入されていることと、方向性とを確認した。これらを、それぞれpUCRED-MoxA、pSTVRED-MoxAとした。
【0068】
(3)pUCRED-Balk、pSTVRED-Balkの作製と大腸菌での発現
<pUCRED-Balk、pSTVRED-Balkの作製>
pUCRED、pSTVREDをそれぞれ制限酵素EcoRIで37℃、5時間処理した。処理後は、QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN社製)を用いてゲル抽出を行った。これらをベクターDNAとした。
次にPCR法を用いて、まず、12.5 μLの2×PrimeSTAR MaxPremix、1.0 μLのフォワードプライマー:Balk-MfeIF(10pmol/μL)、1.0μLのリバースプライマー:Balk-MfeIR(10pmol/μL)、0.5 μLのpBalk-Redプラスミド(M. Nodate et al, Appl. Microbiol. Biotechnol., 71: 455-462 (2006)参照)(約20 ng分)、及び10.0 μLの滅菌水を混ぜ合わせ、PCR反応として98℃で10秒間、60℃で5秒間、72℃で7秒間を32サイクル行い、P450balk遺伝子の増幅を行った。その後、反応終了液1 μLを用いて1%アガロースゲルで電気泳動を行い、増幅を確認した(1,410 bp)。そして、Minelute Reaction Cleanup Kit (QIAGEN社製)を用いてDNAの精製を行い、制限酵素MfeIで37℃、5時間処理した。次に、QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN社製)を用いてゲル抽出を行った。これをインサートDNAとした。
【0069】
<大腸菌での発現>
そして、ベクターDNAとインサートDNAをLigation-Convenience Kit(ニッポンジーン社製)を用いて16℃で15分間ライゲーションさせ、氷水上で大腸菌コンピテントセル(Ecos competent E. coli DH5α(ニッポンジーン社製))と混ぜ合わせた。その後、42℃で30秒間処理することで形質転換し、Ap又はCmを含むLBプレートに塗り広げた。これを37℃で16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、コロニーを、Ap又はCmを含む3 mLのLB培地に植菌し、30℃で16時間振盪培養した。そして、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行った。その後、抽出したプラスミド1 μLを制限酵素BamHIで37℃、2時間処理し、処理液全量を1%アガロースゲルで電気泳動することでインサートDNAが挿入されていることと、方向性とを確認した。これらを、それぞれpUCRED-Balk、pSTVRED-Balkとした。
【0070】
<プライマー配列>
前述のプライマーの塩基配列は以下の通りである。
Balk-MfeIF 5’-acatcaattggATGTCAACGAGTTCAAGTA-3’(配列番号5)
Balk-MfeIR 5’-cagaccaattgTTTTTTAGCCGTCAACTTA-3’(配列番号6)
MoxA-EcoRIF 5’-catggaattcgATGACGAAGAACGTCGCCG-3’(配列番号7)
MoxA-EcoRIR 5’-atcagaattcCCAGGTGACCGGGAGTTCGT-3’(配列番号8)
【0071】
(4)タンパク発現誘導
それぞれの構築したプラスミド、及び、コンロールプラスミドとしてのpRED-MoxA、pBalk-Redを大腸菌コンピテントセル(BL21(DE3)Singles Competent Cells (Novagen社製))と氷水上で混ぜ合わせた。その後、42℃で30秒間処理することで形質転換し、pUCRED-Balk、pUCRED-MoxAの組換え体はLB(Ap)プレートに、pSTVRED-Balk、pSTVRED-MoxAの組換え体はLB(Cm)プレートにそれぞれ塗り広げた。これらを37℃で16時間培養し、コロニーを形成させた。次に、pUCRED-Balk、pUCRED-MoxAの組換え体コロニーを3 mLのLB(Ap)培地に、pSTVRED-Balk、pSTVRED-MoxAの組換え体コロニーを3 mLのLB(Cm)培地に植菌し、30℃で16時間振盪培養した。
その後、タンパク質合成誘導はO/N Express Autoinduction System 1 (Novagen社製)を用いて行った。まず、pUCRED-Balk、pUCRED-MoxAの組換え体は、300 mL三角フラスコに0.5 mLの培養菌体、1 mLのOnEx Solution I、2.5 mLのOnEx Solution II、50 μLのOnEx Solution III、50 mLのLB medium、100 μg/mL のFeSO4・7H2O、80 μg/mLの5-アミノレブリン酸、及び100 μg/mLのApを混ぜ合わせ、28℃で24時間振盪培養を行った。一方、pSTVRED-Balk、pSTVRED-MoxAの組換え体は、100 μg/mLのApの代わりに25 μg/mLのCmを加えた以外は上記と同じ条件で振盪培養を行った。
次に、それぞれタンパク質合成誘導を行った菌体を遠心分離(8000 rpm、4℃、10分)し、上清を捨てた。その後、沈殿に5 mLのCV3 buffer(5%グリセロール、50 mM リン酸緩衝液)を加え、再懸濁した。この内、2 mLを後述のCO差スペクトル測定に、1.5 mLを変換試験に用いた。
【0072】
(5)CO差スペクトル測定
<測定方法>
CV3緩衝液(5% glycerolを含む50 mM potassium phosphate buffer、pH 7.4)に懸濁した2 mLの(4)で得られた菌液を15 mLファルコンチューブに移し、100 μLのBug Buster 10×Protein Extraction Reagent(Novagen社製)、1 μLのBenzonase Nuclease(Novagen社)、及び2 mM DTTを加え、ローテーターを用いて、室温で20分間転倒混和した。その後、遠心分離(8000 rpm、10分、4℃)を行い、氷水上で上清を新しい15 mLファルコンチューブに移した。これを2等分し、1本をブランクとして5 mgのヒドロ亜硫酸ナトリウム2mLを加え溶解させ、もう1本をCOバブリング後、5 mgのヒドロ亜硫酸ナトリウムを加え、溶解させた。分光光度計(BECKMAN社製 DU640型)を用いて、吸収波長350 nmから600 nmにわたり、これらのサンプルの差スペクトルを測定した。
【0073】
<結果>
pRED-MoxA、pUCRED-MoxA、pSTVRED-MoxAの組換え体の機能発現について
CO差スペクトルを測定した結果、pUCRED-MoxAの組換え体とpRED-MoxAの組換え体では、吸収波長450 nmでのピークが確認できた(図2参照)。また、pUCRED-MoxAの組換え体の方がpRED-MoxAの組換え体よりも、吸収波長450 nmでのピーク値が約2.5倍大きかった(図2A及びB)。pSTVRED-MoxAの組換え体では、吸収波長450 nmでのピークは確認できなかった(図2C)。
【0074】
pBalk-Red、pUCRED-Balk、pSTVRED-Balkの組換え体の機能発現について
CO差スペクトルを測定した結果、全ての組換え体で吸収波長450 nmでのピークが確認できた(図3参照)。また、pUCRED-Balkの組換え体の方がpBalk-Redの組換え体よりも吸収波長450 nmでのピーク値が約2.7倍大きかった(図3A及びB)。なお、pBalk-Redの組換え体とpSTVRED-Balkの組換え体を比較すると、吸収波長450 nmでのピーク値に、殆ど差は見られなかった(図3A及びC)。
【0075】
<結論>
pUCREDとpSTVREDは同じ転写シグナルと翻訳シグナル、すなわち、lacのプロモーター、及びLacZのSD(Shine-Dalgarno)配列とN末配列を共有するにもかかわらず、機能発現の程度に大きな差が出た。大腸菌一細胞当りの前者のコピー数は後者の3〜5倍程度なので、当該の転写シグナルと翻訳シグナルの場合、前者のコピー数が、ちょうどP450遺伝子の効率的機能発現に適していたということだと思われる。しかも、pUCREDを利用した場合のP450遺伝子の機能発現の程度は、pUCREDと同程度の多コピーを持ち、pUCREDよりも数倍は強いと考えられるプロモーターを持つpREDを利用した場合の数倍、優れていた。
【0076】
(6)変換率測定のための大腸菌形質転換体と基質との共存培養
改変P450を有する組換えE.coli(BL21)、すなわち、(3)で作製したE.coli(pUCRED-Balk/BL21)又は特開2005-278637号に記載の方法で調製したE.coli (pFusion-102/BL21(DE3))それぞれを100 μg/mLのアンピシリン(Ap)を含むLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl)で対数期中半まで30℃で16時間液体培養し、グリセロールの最終濃度が約8%になるように懸濁し、−70〜−80℃のディープフリーザーに入れることにより、グリセロール保存株とした。また、コントロールとしてpUCRED等のAp耐性ベクターのみを有する大腸菌(BL21株)も同様に培養してグリセロール保存株を作製した。なお、組換えベクターpFusion-102は、特開2005-278637号ではpFusionP450という名前で記載されている。
E.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))との共存培養による基質の変換反応を開始するにあたって、まず、上記のグリセロール保存株から、E.coli形質変換体を白金耳で掻き取り、100 μg/mLのApを含むLB培地3 mLに懸濁し、100 rpm、30℃で約16時間培養した(前培養)。次にこの前培養液2.5 mLを、100 μg/mLのApを含むLB培地250 mLに入れ、100 rpm、30℃でpUCRED-Balk/BL21は7時間、pFusion-102/BL21(DE3)は6時間培養した(本培養)。この本培養液に最終濃度0.5 mMのイソプロピル−1−チオ−β−ガラクトピラノシド(IPTG)、最終濃度80 mg/mLの5−アミノレブリン酸(5−ALA)及び0.1 mMアンモニウム硫酸鉄(II)を加えて、100 rpm、20℃で約19時間培養した。 これを8000 rpmで8分間遠心分離して菌体のみを集めた後、5%グリセロール、5 mM プロリン、1 mM EDTA、及び0.2 mM ジチオスレイトール(DTT)を含むCV-3培地250 mLに懸濁した液の0.5 mLを用い、1 mM(最終濃度)の基質(出発原料化合物)を加えて840 rpm、28℃で24時間共存培養を行った。基質は、2−ブロモフェノール、4−メチルビフェニル、2−メチルナフタレン、又は1−メトキシナフタレンを用いた。なお、基質は前もって、少量のDMSO又はエタノールに溶解したものを培地に加えた。
【0077】
(7)変換産物のHPLC分析
E.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))と上記の種々の基質との反応により得られた生成物を、HPLCにより分析した。
具体的には、E.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))と種々の基質とを用いて(6)に記載の共存培養を行い、次いでE.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))とこれらの基質との混合培養液0.5 mLに等量の酢酸エチルを添加後、ボルテックス撹拌し、15,000 rpmで15分間遠心分離し、酢酸エチル層を回収した。
この酢酸エチル層10 μLを以下の分析条件でHPLCに付し、生成物の変換率を求めた。
検出はPhotodiode array detector(Waters社製、2996)を用い200〜500 nmの吸収を検出した。
【0078】
<分析条件>
カラム: Waters Xterra MS C18 5 μm I.D.4.6 mm×100 mm
移動相: A液=5%-CH3CN/H2O (20 mMリン酸)、B液=95%-CH3CN/H2O (20 mMリン酸)
0→3分:A液 100%
3→28分:A液 100% → B液 100%(リニアグラジエント)
28→43分:B液 100%
流速: 1 mL/分
温度: 30℃
基質及びその保持時間、生成物の保持時間、並びに変換率を表1に示す。以下の表中の化合物番号は、後述する構造決定における番号である。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例2
実施例1の生成物(化合物1〜7)の構造決定を行った。
<E.coli形質転換体と基質との共存培養>
以下の手順で、構造決定のためにE.coli形質転換体と基質との共存培養を行った。基質としては、2−ブロモフェノール、4−メチルビフェニル、2−メチルナフタレン、又は1−メトキシナフタレンを用いた。
E.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))との共存培養による基質の変換反応を開始するにあたって、(6)に記載したグリセロール保存株から、E.coli形質変換体を白金耳で掻き取り、100 μg/mLのApを含むLB培地21 mLに懸濁し、100 rpm、30℃で約16時間培養した(前培養)。次にこの前培養液20 mLを、100 μg/mLのApを含むLB培地2000 mLに入れ、100 rpm、30℃で、後述する(I)では7時間30分、 (II)では7時間40分、(III)では5時間20分、(IV)では6時間、(V)では4時間45分培養した(本培養)。この本培養液に最終濃度0.5 mMのイソプロピル−1−チオ−β−ガラクトピラノシド(IPTG)、最終濃度80 mg/mLの5−アミノレブリン酸(5−ALA)及び0.1 mMアンモニウム硫酸鉄(II)を加えて、100 rpm、20℃で約19時間培養した。これを8000 rpmで8分間遠心分離して菌体のみを集めた後、5%グリセロール、5 mM プロリン、1 mM EDTA、及び0.2 mM ジチオスレイトール(DTT)を含むCV-3培地200 mLに懸濁し、1.5 mM(最終濃度)の基質を加えて200 rpm、28℃で48時間共存培養を行った。なお、基質は前もって、少量のDMSO又はエタノールに溶解したものを培地に加えた。
【0081】
<共存培養により得られた産物の精製、同定>
E.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))と種々の基質を用いて(7)に記載の手順で共存培養を行った後、E.coli(pUCRED-Balk/BL21もしくはpFusion-102/BL21(DE3))とこれらの基質との混合培養液2,000 mLを二倍量の酢酸エチルを添加し分液する操作を2回繰り返して酢酸エチル層を回収した。
得られた酢酸エチル層を減圧下濃縮し粗体を得た。粗体をシリカゲル[Slicagel 60 F254(Merck社製)]を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)に付し、変換産物の確認を行った後、シリカゲルクロマトグラフィー[I.D. 10×200 mm、Silicagel 60(Merck社製)]に供して精製品を得た。
【0082】
(I)2−ブロモフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2−ブロモフェノールの変換実験を行った粗抽出物(233.2 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.4の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物1(3.7 mg)を得た。化合物1の分子式はHRAPCI-MS [m/z 186.94036 (M-H)、calcd.: 186.93947]よりC6H5 Br O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)により化合物1は2−ブロモベンゼン-1,4−ジオール(CAS No.583-69-7)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ6.60 (1H, dd J = 2.7, 8.9 Hz), 6.72 (1H, d J = 8.9 Hz), 6.89 (1H, d J = 2.7 Hz)、13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ110.7, 116.4, 117.8, 120.3, 148.2, 152.0
【0083】
【化1】

【0084】
(II)4−メチルビフェニルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4−メチルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(197.9 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.4の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物2(6.1 mg)を得た。
化合物2の分子式はHREI-MS [m/z 184.08821 (M)、calcd.: 184.08882]よりC13H12O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)により化合物2は4−ヒドロキシメチルビフェニル(CAS-3597-91-9)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ4.67 (2H, s), 7.27 (1H, dd J = 7.4 Hz, 7.4 Hz), 7.37 (2H, dd, J = 7.4, 7.9 Hz), 7.37 (2H, d, J = 7.9 Hz), 7.52 (2H, d, J = 7.9 Hz), 7.52 (2H, d, J = 7.9 Hz)、13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ65.1, 127.1, 127.3, 127.4, 128.8, 139.9, 140.7, 140.8
【0085】
【化2】

【0086】
(III)2−メチルナフタレンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2−メチルナフタレンの変換実験を行った粗抽出物(217.6 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)に付したところRf値0.4の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物3(0.5 mg)を得た。
化合物3の分子式はHREI-MS [m/z 158.07278 (M)、calcd.: 158.07316]よりC11H10Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)により化合物3は2−ヒドロキシメチルナフタレン(CAS-1592-38-7)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ4.87 (2H, s), 7.47 (1H, s), 7.47 (1H, d J=8.5 Hz), 7.50 (2H), 7.84 (2H), 7.85 (1H, d J=8.5 Hz)、13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ65.5, 125.2, 125.5, 125.9, 126.2, 127.7, 127.9, 128.4, 133.0, 133.4, 138.3
【0087】
【化3】

【0088】
(IV)1−メトキシナフタレンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により1−メトキシナフタレンの変換実験を行った粗抽出物(255.7 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)に付したところRf値0.3の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、化合物4(2.5 mg)を得た。化合物4の分子式はHRESI-MS[m/z 143.0491 (M-H)、calcd.: 143.0497]よりC10H8Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)により化合物4は1−ナフトール(CAS No.90-15-3)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ6.82 (1H, d, J = 7.3Hz), 7.31 (1H, dd, J = 7.3, 8.3 Hz), 7.44(1H, d, J=8.3), 7.49 (2H), 7.81 (1H, dd, J = 2.3, 7.3 Hz), 8.17 (1H, dd, J = 2.4Hz, 7.3 Hz)、13C NMR (100MHz, CDCl3):δ108.6, 120.7, 121.5, 124.4, 125.8, 125.8, 126.4, 127.7, 134.6, 151.4
【0089】
【化4】

【0090】
(V)2−メチルナフタレンの変換産物の同定
E.coli(pFusion-102/BL21(DE3))により2−メチルナフタレンの変換実験を行った粗抽出物(162.8 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)に付したところRf値0.40, 0.33, 0.30の産物が生成していることが判明した。これらの化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、化合物5(5.0 mg)、化合物6(1.5 mg)、及び化合物7(1.5 mg)を得た。化合物5の分子式はHRESI-MS[m/z 157.06481 (M-H)、calcd.: 157.06534]よりC11H10Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)より化合物5は1−ヒドロキシ−2−メチルナフタレン(CAS No.856081-23-7)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ2.41 (3H, s), 5.06 (1H, s) , 7.24 (1H, d, J = 8.2Hz) , 7.38 (1H, d, J = 8.2 Hz) , 7.42 (1H, dd, J = 7.8Hz, 8.0Hz), 7.47 (1H, dd、J = 8.0Hz, 8.1Hz) , 7.77 (1H, d, J = 7.8Hz), 8.12 (1H, d, J = 8.1 Hz)、13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ15.6, 116.2, 120.2, 120.8, 124.2, 125.3, 125.4, 127.6, 129.0, 133.4, 148.5
【0091】
【化5】

【0092】
化合物6の分子式はHRESI-MS[157.06501 (M-H)、calcd.: 157.06534]よりC11H10Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)により化合物6は8−ヒドロキシ−2−メチルナフタレン(CAS No.354589-50-7)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ2.53 (3H, s) , 6.78 (1H , d, J = 7.5 Hz) , 7.25 (1H, dd, J = 7.5Hz, 8.4Hz), 7.32 (1H, d、J = 8.4Hz), 7.40 (1H, d, J = 8.4Hz) , 7.71 (1H, d, J = 8.4Hz), 7.91 (s, 1H)、13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ21.9, 108.7, 120.4, 120.5, 124.4, 125.4, 127.5, 129.1, 133.0, 135.0, 150.8
【0093】
【化6】

【0094】
化合物7の分子式はHRESI-MS[m/z 157.06576 (M-H)、calcd. 157.06534]よりC11H10Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H DQF COSY、HMQC、HMBC)より化合物7は5−ヒドロキシ−2−メチルナフタレン(CAS No.24894-78-8)と同定した。
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ2.51 (3H, s) , 6.74 (1H, d, J = 7.7 Hz) , 7.29(1H, dd, J = 7.7Hz, 8.4Hz), 7.32 (1H, d、J = 8.6Hz) , 7.34 (1H, d, J = 8.4Hz) , 7.58 (1H, s), 8.06 (d, J =8.6Hz, 1H)、13C NMR (100 MHz, CDCl3):δ21.6, 107.8, 120.1, 121.3, 122.5, 126.7, 127.6, 128.6, 135.0, 136.1, 151.4
【0095】
【化7】

【0096】
<結論>
化合物1〜7の化合物が生成したことから、pUCRED-Balk(CYP153)は、既に知られていたノルマルアルカン末端を水酸化するだけでなく、芳香環の水酸化、芳香族メチルの水酸化、脱アルキル化の機能を有することが明らかになった。また、pUCRED-Balk(CYP153)は、2−ブロモフェノールから化合物1へ効率良く変換を行うことが知られていたpFusion-102より該物質の変換能力が高いことが明らかになった。
【0097】
実施例3
(1)変換率測定のための大腸菌形質転換体と基質との共存培養
実施例1で作製した改変P450を有する組換えE.coli(BL21)、すなわち、pUCRED-Balk/BL21を100 μg/mLのアンピシリン(Ap)を含むLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% NaCl)で対数期中半まで30℃で16時間液体培養し、グリセロールの最終濃度が約8%になるように懸濁し、−70〜−80℃のディープフリーザーに入れることにより、グリセロール保存株とした。また、コントロールとしてpUCRED等のAp耐性ベクターのみを有する大腸菌(BL21株)も同様に培養してグリセロール保存株を作製した。
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)との共存培養による基質の変換反応を開始するにあたって、まず、上記のグリセロール保存株から、E.coli形質変換体を白金耳で掻き取り、100 μg/mLのApを含むLB培地3 mLに懸濁し、100 rpm、30℃で約16時間培養した(前培養)。次にこの前培養液2.5 mLを、100 μg/mLのApを含むLB培地250 mLに入れ、100 rpm、30℃で6時間培養した(本培養)。この本培養液に最終濃度0.5 mMのイソプロピル−1−チオ−β−ガラクトピラノシド(IPTG)、最終濃度80 mg/mLの5−アミノレブリン酸(5−ALA)及び0.1 mMアンモニウム硫酸鉄(II)を加えて、100 rpm、20℃で約19時間培養した。これを8000 rpmで8分間遠心分離して菌体のみを集めた後、5%グリセロール、5 mM プロリン、1 mM EDTA、及び0.2 mM ジチオスレイトール(DTT)を含むCV-3培地250 mLに懸濁した液の0.5 mLを用い、1 mM(最終濃度)の基質(出発原料化合物)を加えて1700 rpm、28℃で24時間共存培養を行った。用いた基質を表2に示す。なお、基質は前もって、少量のDMSO又はエタノールに溶解したものを培地に加えた。
【0098】
(2)変換産物のHPLC分析
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)と表2に示す種々の基質とを用いて(1)に記載の共存培養を行った。次いで、E.coli(pUCRED-Balk/BL21)と種々の基質との混合培養液0.5 mLに等量の酢酸エチルを添加後、ボルテックス撹拌し、15,000 rpmで15分間遠心分離し、酢酸エチル層を回収した。
この酢酸エチル層10 μLをHPLCに付し、生成物の変換率を求めた。HPLCの分析条件は、検出にPhotodiode array detector(Waters社製、2996)の代わりにPhotodiode array detector(島津製作所社製、LC-20Aシステム)を用いて200〜500 nmの吸収を検出した以外は、実施例1の(7)に記載の条件と同じである。基質及びその保持時間、生成物の保持時間、並びに変換率を表2及び3に示す。表中の化合物番号は後述する構造決定における番号である。
【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
実施例4
(1)形質転換体の作製
配列番号13〜16に記載のCYP153をコードする4種類の遺伝子の各々を野館ら(M. Nodate et al, Appl. Microbiol. Biotechnol., 71: 455-462 (2006))の方法、及び久保田ら(M. Kubota et al, Biosci. Biotechnol. Biochem., 69: 2421-2430 (2005))の方法に従ってpREDベクターに挿入し、4種類の組換えベクターを調製した。なお、このようなベクターの調製方法については、WO2006/016432にも記載されており、該公報の記載に従ってもベクターを調製することができる。さらにこれらの組換えベクターを用いて大腸菌(BL21(DE3)を形質転換し、4種類の形質転換体、すなわちpP02-RED/BL21(DE3)、pN03-RED/BL21(DE3)、p153A2-RED/BL21(DE3)、及びpgoaBAC-RED/BL21(DE3)を調製した。実施例1で作製したE.coli pUCRED-Balk/BL21及び上記4種類の形質転換体を用いて以下の変換試験を行った。
【0102】
(2)共存培養及び得られた変換産物のHPLC分析
上記(1)で作製した4種類の形質転換体又はpUCRED-Balk/BL21と表4に示す基質(2-ブロモフェノール、4-ブロモフェノール、4-メチルビフェニル、2-メチルナフタレン又は1-メトキシナフタレン)とを用いて実施例3の(1)と同様にして共存培養を行った。
それぞれの形質転換体とこれらの基質との混合培養液0.5 mLに等量の酢酸エチルを添加後、ボルテックス撹拌し、15,000 rpmで15分間遠心分離し、酢酸エチル層を回収した。
この酢酸エチル層10 μLをHPLCに付し、生成物の変換率を求めた。HPLCの分析条件は、検出にPhotodiode array detector(Waters社製、2996)の代わりにPhotodiode array detector(島津製作所社製、LC-20Aシステム)を用いて200〜500 nmの吸収を検出した以外は、実施例1の(7)に記載の条件と同じである。生成物の保持時間及び変換率を表4に示す。
【0103】
【表4】

【0104】
実施例5
無機触媒を用いる反応との比較
P450による芳香族化合物の縮合反応について、塩化第二鉄を用いた縮合反応との比較を行った。P450による芳香族化合物の縮合反応は、実施例3と同様にして行った。塩化第二鉄を用いる反応条件はDingらの文献(K. Ding et al., Terrahedron, 52; 1005-1009 (1996))に準じて以下のように設定した。
原料 0.52 mmol(4-フェノキシフェノール; 88.5 mg, 2-ナフトール; 75.0 mg)に0.703 mol/L 塩化第二鉄水溶液 1.5 mL (2.0 等量) を加え、25℃で48時間もしくは50℃で24時間振盪した。反応液を酢酸エチル 1.5mLで抽出した有機層を水0.75mLで洗浄した液を用いて、実施例3の(2)と同条件にてHPLCにより分析を行った。結果を表5に示す。
【0105】
【表5】

【0106】
実施例6
実施例3〜5の生成物(化合物8〜50)の構造決定を行った。
【0107】
(1)E.coli形質転換体と基質との共存培養
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)又は実施例5で作製した4種類の形質転換体との共存培養による基質の変換反応を開始するにあたって、実施例3の(1)又は実施例4の(2)に記載したグリセロール保存株から、E.coli形質変換体を白金耳で掻き取り、100 μg/mLのApを含むLB培地21 mLに懸濁し、100 rpm、30℃で約16時間培養した(前培養)。次にこの前培養液20 mLを、100 μg/mLのApを含むLB培地2000 mLに入れ、120 rpm、30℃で、6時間培養した(本培養)。この本培養液に最終濃度0.5 mMのイソプロピル−1−チオ−β−ガラクトピラノシド(IPTG)、最終濃度80 mg/mLの5−アミノレブリン酸(5−ALA)及び0.1 mMアンモニウム硫酸鉄(II)を加えて、100 rpm、20℃で約19時間培養した。これを8000 rpmで8分間遠心分離して菌体のみを集めた後、5%グリセロール、5 mM プロリン、1 mM EDTA、及び0.2 mMジチオスレイトール(DTT)を含むCV-3培地400 mLに懸濁し、1.0 mM(最終濃度)の基質を加えて160 rpm、28℃で24時間共存培養を行った。なお、基質は前もって、少量のDMSO又はエタノールに溶解したものを培地に加えた。但し、1-フェニルシクロヘキセンについては、1.98 gを重層にて加えた。
【0108】
(2)共存培養により得られた産物の精製、同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)又は実施例4で作製した4種類の形質転換体と種々の基質を用いて(1)に記載の手順で共存培養を行った。次いで、E.coli(pUCRED-Balk/BL21)又は実施例4で作製した4種類の形質転換体とこれらの基質との混合培養液2,000 mLを等倍量の酢酸エチルを添加し分液する操作を2回繰り返して酢酸エチル層を回収した。
得られた酢酸エチル層を減圧下濃縮し粗体を得た。粗体をシリカゲル[Slicagel 60 F254(Merck社製)]を用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)に付し、変換産物の確認を行った後、シリカゲルクロマトグラフィー[I.D. 12×250 mm、Silicagel 60(Merck社製)]に供して精製品を得た。
【0109】
3−ブロモフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により3−ブロモフェノールの変換実験を行った粗抽出物(195.5 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)に付したところRf値0.28の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物8(22.7 mg)を得た。化合物8の分子式はHRAPCI-MS [m/z 186.93878 (M-H)、calcd.: 186.93947]よりC6H5O2Brと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物8は2-ブロモベンゼン-1,4−ジオール(CAS No.583-69-7)と同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ5.10(2H, brS),6.73 (1H, dd J = 2.9, 8.8 Hz), 6.89 (1H, d J = 8.8 Hz), 6.99 (1H, d J = 2.9 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ109.9, 116.3, 116.4, 118.6, 146.5, 149.5
【0110】
【化8】

【0111】
2−クロロフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2−クロロフェノールの変換実験を行った粗抽出物(51.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)に付したところRf値0.23の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、化合物9(18.2 mg)を得た。化合物9の分子式はHRAPCI-MS [m/z 142.98928 (M-H)、calcd.: 142.98998]よりC6H5O2Clと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物9は2-クロロベンゼン-1,4−ジオールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ6.67 (1H, dd J = 2.9, 8.8 Hz), 6.85 (1H, d J = 2.9 Hz), 6.89 (1H, d J = 8.8 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ115.5, 115.8, 116.6, 119.9, 145.5, 149.4
【0112】
【化9】

【0113】
2−ヨードフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2−ヨードフェノールの変換実験を行った粗抽出物(148.9 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.25の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物10(42.1 mg)を得た。化合物10の分子式はHRAPCI-MS [m/z 234.92563 (M-H)、calcd.: 234.92560]よりC6H5O2Iと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物10は2−ヨードベンゼン1,4−ジオールと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ6.63 (1H, dd J = 2.7, 8.7 Hz), 6.67 (1H, d J = 8.7 Hz), 7.12 (1H, d J = 2.7 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ83.3, 114.9, 116.1, 125.1, 149.9, 150.9
【0114】
【化10】

【0115】
2−アセチルフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2−アセチルフェノールの変換実験を行った粗抽出物(111.8 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.30産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物11(4.3 mg)を得た。化合物11の分子式はHRAPCI-MS [m/z 151.03883 (M-H)、calcd.: 151.03952]よりC8H8O3と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物11は1-(2,5-ジヒドロキシフェニル)エタノンと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ2.58 (3H, s), 6.78 (1H, d J = 8.9 Hz), 7.00 (1H, dd J = 2.9 Hz, 8.9 Hz), 7.22 (1H, d J = 2.9 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ25.8, 115.2, 118.4, 119.6, 124.7, 149.5, 155.4, 204.7
【0116】
【化11】

【0117】
フェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)によりフェノールの変換実験を行った粗抽出物(93.9 mg)をTLC(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=19/2)に付したところRf値0.23及びRf値0.25の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム/メタノール=19/2)により精製し、Rf値0.23の化合物12(5.0 mg)及びRf値0.25の化合物13(2.4 mg)を得た。化合物12の分子式はHRAPCI-MS [m/z 109.02857 (M-H)、calcd.: 109.02895]よりC6H6O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物12はハイドロキノンと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ6.61 (4H, s)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ116.8, 151.3
【0118】
【化12】

【0119】
化合物13の分子式はHRAPCI-MS [m/z 185.05973 (M-H)、calcd.: 185.06025]よりC12H10O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物13は4,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 6.80 (4H, d, J = 8.8 Hz), 7.35 (4H, d, J = 8.8 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 115.3, 127.3, 132.8, 156.2
【0120】
【化13】

【0121】
3−ヒドロキシビフェニルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により3−ヒドロキシビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(83.5 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.32、及びRf値0.53の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、Rf値0.32の化合物14(11.7 mg)、及びRf値0.47の化合物15(2.3 mg)を得た。化合物14の分子式はHRAPCI-MS [m/z 185.06060 (M-H)、calcd.: 185.06025]よりC12H10O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物14は2-フェニルベンゼン-1,4-ジオールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.83 (1H, d J = 8.2 Hz), 6.94 (1H, dd J = 2.2 Hz, 8.2 Hz), 7.04 (1H, d J = 2.2 Hz), 7.24 (1H, m), 7.35 (1H, m), 7.50(1H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ113.9, 115.5, 118.3, 126.2, 126.3, 128.5, 133.4, 141.4, 145.0, 145.4
【0122】
【化14】

【0123】
化合物15の分子式はHRAPCI-MS [m/z 337.12339 (M-H)、calcd.: 337.12285]よりC24H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物15は5-ヒドロキシ-2-(3-フェニルフェノキシ)ビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.71 (1H, ddd, J = 1.0, 2.1, 8.2 Hz), 6.82 (1H, dd, J = 2.9, 8.7 Hz), 6.90 (1H, d, J = 2.9), 6.95 (1H, dd, J = 2.1, 2.1 Hz), 6.97(1H, d, J = 8.7 Hz), 7.13 (1H, ddd, 1.0, 2.1, 8.7 Hz), 7.22 (1H, m), 7.23(1H, dd, 8.2, 8.7 Hz), 7.28 (2H, m), 7.30 (1H, m), 7.38 (2H, m), 7.45 (2H, m), 7.46 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 114.7, 115.0, 115.4, 117.1, 120.2, 122.9, 126.8, 127.1, 127.4, 127.9, 128.6, 128.9, 129.6, 135.8, 138.1, 140.9, 142.8, 145.2, 154.5, 159.8
【0124】
【化15】

【0125】
4−エチルビフェニルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4−エチルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(169.2 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.40の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物16(38.6 mg)を得た。化合物16の分子式はHREI-MS [m/z 198.10419 (M+)、calcd.: 198.10446]よりC14H14Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物16は4-(2-ヒドロキシエチル)ビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 2.91 (2H, t J = 6.6 Hz), 3.90 (2H, t J = 6.6 Hz), 7.30 (2H, d J = 8.2 Hz m), 7.33 (1H, m), 7.43 (2H, m), 7.54 (1H, d J = 8.2 Hz), 7.58 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ38.8, 63.6, 127.0, 127.1, 127.3, 128.7, 129.4, 137.5, 139.4, 140.9
【0126】
【化16】

【0127】
3−メチルビフェニルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により3−メチルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(70.3 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)に付したところRf値0.35の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)により精製し、化合物17(7.8 mg)を得た。化合物17の分子式はHREI-MS [m/z 184.08827 (M+)、calcd.: 184.08881]よりC13H12Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物17は3-ヒドロキシメチルビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 4.77 (2H, s), 7.35 (1H, m), 7.35 (1H, ddd, J = 1.2, 1.8, 7.6 Hz), 7.44 (1H, m), 7.44 (2H, m), 7.53 (1H, ddd, J = 1.2, 1.8, 7.7 Hz), 7.60 (1H, m), 7.60 (2H, ddd, J = 1.2, 1.3, 7.1 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 65.4, 125.8, 125.9, 126.5, 127.2, 127.4, 128.8, 129.0, 140.9, 141.3, 141.6
【0128】
【化17】

【0129】
4−イソプロピルビフェニルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4−イソプロピルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(57.3 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)に付したところRf値0.38の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、化合物18(5.8 mg)を得た。化合物18の分子式はHREI-MS [m/z 212.12093 (M+)、calcd.: 212.12011]よりC15H16Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物18は4-(1-ヒドロキシ-2-プロピル)ビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 1.32 (3H, d, J = 7.1 Hz), 3.02 (1H, m), 3.75 (2H, d, J = 6.7 Hz), 7.32 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.34 (1H, m), 7.44 (2H, m), 7.57 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.58 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 17.6, 42.1, 68.7, 127.0, 127.2, 127.4, 127.9, 128.8, 139.7, 140.9, 142.7
【0130】
【化18】

【0131】
2-(p-トリル)-ピリジンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-(p-トリル)-ピリジンの変換実験を行った粗抽出物(106.2 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)に付したところRf値0.26の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物19(40.3 mg)を得た。化合物19の分子式はHRESI-MS [m/z 186.09195 (M+H)+、calcd.: 186.09189]よりC12H11NOと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物19は(4-(ピリジン-2-イル)フェニル)メタノールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 4.71 (2H, s), 7.24 (1H, ddd, J = 1.2, 4.9, 7.3 Hz), 7.42 (1H, dd, J = 2.0, 8.3 Hz), 7.69 (1H, dd, J = 1.2, 7.9 Hz), 7.75 (1H, ddd, J = 1.8, 7.3, 7.9 Hz), 7.90 (1H, dd, J = 2.0, 8.3 Hz), 8.62 (1H, dd, J = 1.8, 4.9)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 64.7, 120.8, 122.1, 127.1, 127.2, 137.0, 138.4, 141.9, 149.4, 157.2
【0132】
【化19】

【0133】
1,6−ジメチルナフタレンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により1,6-ジメチルナフタレンの変換実験を行った粗抽出物(80.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.32の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、化合物20(3.6 mg)を得た。化合物20の分子式はHREI-MS [m/z 172.08915 (M+)、calcd.: 172.08881]よりC12H12Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物20は(1-メチルナフタレン-6-イル)メタノールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 2.70 (3H, s), 4.88 (2H, s), 7.31 (1H, d, J = 7.0 Hz), 7.34 (1H, dd, J = 1.8, 8.7 Hz), 7.38 (1H, dd, J = 7.0, 8.3 Hz), 7.70 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.82 (1H, brs), 8.00 (1H, d, J = 8.7 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 19.4, 65.5, 124.6, 125.5, 125.9, 126.1, 126.3, 126.6, 132.1, 133.5, 134.2, 137.9
【0134】
【化20】

【0135】
3−フェノキシトルエンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により3−フェノキシトルエンの変換実験を行った粗抽出物(63.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)に付したところRf値0.23の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、化合物21(27.0 mg)を得た。化合物21の分子式はHREI-MS [m/z 200.08409 (M+)、calcd.: 200.08373]よりC13H12O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物21は1-フェノキシ-3-ヒドロキシメチルベンゼンと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 4.66 (2H, s), 6.94 (1H, dd, J = 2.4, 8.06 Hz), 7.02(2H, dd, J = 2.1, 8.4 Hz), 7.02 (1H, m) 7.10 (1H, m), 7.11 (1H, m), 7.32 (1H, m), 7.33(2H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 64.9, 117.1, 117.9, 119.0, 121.5, 123.4, 129.8, 129.9, 142.8, 156.9, 157.6
【0136】
【化21】

【0137】
ジ−p−トリルエーテルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)によりジ-p-トリルエーテルの変換実験を行った粗抽出物(51.3 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)に付したところRf値0.22及びRf値0.43の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=4/1→1/1)により精製し、Rf値0.22の化合物22(10.4 mg)及びRf値0.43の化合物23(5.0 mg)を得た。化合物22の分子式はHRAPCI-MS [m/z 243.06462 (M-H)、calcd.: 243.06573]よりC14H12O4と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物22は4-(4-(ヒドロキシメチル)フェノキシ安息香酸と同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 4.61 (2H, s), 6.98 (2H, d, J = 9.0 Hz), 7.05 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.41 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.99 (2H, d, J = 9.0 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 63.4, 116.9, 119.9, 125.1, 128.8, 131.8, 138.1, 155.1, 162.3, 168.3
【0138】
【化22】

【0139】
化合物23の分子式はHRAPCI-MS [m/z 227.07026 (M-H)、calcd.: 227.07082]よりC14H12O3と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物23は4-(p-トリルオキシ)安息香酸と同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 2.37 (3H, s), 6.98 (2H, d, J = 8.3 Hz), 6.98 (2H, d, J = 8.3 Hz), 7.20 (2H, d, J = 8.7 Hz), 8.05 (2H, d, J = 8.9 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 20.8, 116.8, 120.3, 123.1, 130.5, 132.3, 134.4, 152.9, 163.0, 171.0
【0140】
【化23】

【0141】
イブプロフェンメチルエステルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)によりイブプロフェンメチルエステルの変換実験を行った粗抽出物(163.6 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値021の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、化合物24(16.1 mg)を得た。化合物24の分子式はHREI-MS [m/z 236.14198 (M+)、calcd.: 236.14124]よりC14H20O3と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物24はメチル2-(4-(3-ヒドロキシ-2-メチルプロピル)フェニル)プロピオネートと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 0.92 (3H, d, J = 6.7Hz), 1.49 (3H, d, J = 7.1 Hz), 1.93 (1H, m), 2.40, 2.59 (2H, m), 3.50 (2H, m), 3.66 (3H, s), 3.70 (1H, q, J = 7.1Hz), 7.12 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.21(2H, d, J = 8.1 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 16.5, 18.6, 37.7, 39.2, 45.0, 52.0, 67.6, 127.3, 129.4, 138.0, 139.5, 175.2
【0142】
【化24】

【0143】
4-ブロモフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4-ブロモフェノールの変換実験を行った粗抽出物(177.1 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.28及びRf値0.51の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、Rf値0.26の化合物25(2.4 mg)、及びRf値0.51の化合物26(8.2 mg)を得た。化合物25の分子式はHRAPCI-MS [m/z 185.05941 (M-H)、calcd.: 185.06025]よりC12H10O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物25は4,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.87 (4H, d, J = 8.8 Hz), 7.38 (4H, d, J = 8.8 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 115.7, 127.9, 133.1, 155.8
【0144】
【化25】

【0145】
化合物26の分子式はHRAPCI-MS [m/z 340.88285 (M-H)、calcd.: 340.88128]よりC12H8Br2O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物26は2-(4-ブロモフェノキシ)-4-ブロモフェノールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.93 (1H, d, J = 8.9 Hz), 6.93 (1H, d, J = 8.7 Hz), 6.95 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.16 (1H, dd, J = 2.3, 8.7 Hz), 7.49 (1H, d, J = 8.9 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 111.8, 117.0, 117.7, 120.2, 121.1, 127.7, 133.1, 144.1, 146.4, 155.0
【0146】
【化26】

【0147】
o-クレゾールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)によりo-クレゾールの変換実験を行った粗抽出物(40.8 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)に付したところRf値0.27及びRf値0.41の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=10/1→5/2)により精製し、Rf値0.27の化合物27(7.0 mg)及びRf値0.41の化合物28(5.9 mg)を得た。化合物27の分子式はHREI-MS [m/z 213.09109 (M-H)、calcd.: 213.09155]よりC14H14O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物27は3,3’-ジメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 2.30 (6H, s), 6.81 (2H, d, J = 8.3 Hz, 7.25 (2H, dd, J = 2.7, 8.3 Hz), 7.30 (2H, d, J = 2.7 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 15.9, 115.1, 123.9, 125.3, 129.4, 133.7, 152.9
【0148】
【化27】

【0149】
化合物28の分子式はHREI-MS [m/z 213.09087 (M-H)、calcd.: 213.09155]よりC14H14O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物28は3,3’-ジメチル-4,2’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 2.30 (3H, s), 2.30 (3H, s), 5.05 (1H, brs), 5.30 (1H, brs), 6.87 (1H, dd, J = 7.4, 7.6 Hz), 6.89 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.04 (1H, dd, J = 1.3, 7.6 Hz), 7.11 (1H, dd, J = 0.9, 7.4 Hz), 7.17 (1H, dd, J = 2.2, 8.0 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 15.8, 16.2, 115.7, 120.0, 124.4, 124.9, 127.4, 127.7, 127.9, 129.4, 130.1, 131.8, 150.7, 153.7
【0150】
【化28】

【0151】
2-エチルフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-エチルフェノールの変換実験を行った粗抽出物(128.3 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.46及びRf値0.57の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、Rf値0.46の化合物29(13.0 mg)及びRf値0.57の化合物30(8.1 mg)を得た。化合物29の分子式はHRAPCI-MS [m/z 241.12300 (M-H)、calcd.: 241.12285]よりC16H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物29は3,3’-ジエチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 1.28 (6H, t, J = 7.6 Hz), 2.69 (4H, q, J = 7.6 Hz), 4.8 (2H, brs), 6.81 (2H, d, J = 8.2), 7.25 (2H, dd, J = 2.2, 8.2 Hz), 7.32 (2H, d, J = 2.2 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 14.1, 23.1, 115.4, 125.3, 130.0, 134.0, 152.4
【0152】
【化29】

【0153】
化合物30の分子式はHRAPCI-MS [m/z 241.12342 (M-H)、calcd.: 241.12285]よりC16H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物30は3,3’-ジエチル-2,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 1.264 (3H, t, J = 7.6 Hz), 1.266 (3H, t, J = 7.6 Hz), 2.69 (2H, q, J = 7.6 Hz), 2.71 (2H, q, J = 7.6 Hz), 6.87 (1H, d, J = 8.2 Hz), 6.90 (1H, m), 7.05 (1H, dd, J = 1.7, 7.6 Hz), 7.13 (1H, m), 7.16 (1H, dd, J = 2.1, 8.2 Hz), 7.22 (1H, d, J = 2.1 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 13.9, 14.1, 23.0, 23.4, 115.9, 120.2, 126.8, 127.7, 127.8, 128.4, 129.6, 130.2, 130.4, 131.0, 150.2, 153.2
【0154】
【化30】

【0155】
2-メトキシフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-メトキシフェノールの変換実験を行った粗抽出物(97.3 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.32、及びRf値0.35の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=9/5)により精製し、Rf値0.32の化合物31(2.3 mg)、及びRf値0.35の化合物32(2.7 mg)を得た。化合物31の分子式はHRAPCI-MS [m/z 245.08167 (M-H)、calcd.: 245.08138]よりC14H14O4と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物31は3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 3.96 (6H, s), 6.97 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.02 (2H, d, J = 2.0 Hz), 7.04 (2H, dd, J = 2.0, 8.1 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 56.0, 109.6, 114.6, 119.8, 133.9, 144.8, 146.6
【0156】
【化31】

【0157】
化合物32の分子式はHRAPCI-MS [m/z 245.08128 (M-H)、calcd.: 245.08138]よりC14H14O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物32は3,4’-ジヒドロキシ-2,3’-ジメトキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 3.87 (3H, s), 3.89 (3H, s), 6.77 (1H, dd, J =1.2, 8.4 Hz), 6.80 (1H, m) , 6.99 (1H, dd, J = 2.0, 8.2 Hz), 7.19 (1H, d, J = 2.0 Hz), 8.2 (1H, dd, J = 1.2, 8.3 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 55.2, 55.4, 109.6, 113.2, 114.7, 119.2, 122.0, 122.3, 128.5, 130.5, 143.4, 145.4, 147.2, 148.1
【0158】
【化32】

【0159】
2,6-ジメチルフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2,6-ジメチルフェノールの変換実験を行った粗抽出物(136.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.45、及びRf値0.47の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、Rf値0.45の化合物33(6.2 mg)、及びRf値0.47の化合物34(3.2 mg)を得た。化合物33の分子式はHRAPCI-MS [m/z 241.12263 (M-H)、calcd.: 241.12285]よりC16H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物33は3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 2.25 (12H, s), 7.08 (4H, d, J = 0.5 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 15.8, 124.6, 126.4, 133.2, 152.0
【0160】
【化33】

【0161】
化合物34の分子式はHRAPCI-MS [m/z 241.12305 (M-H)、calcd.: 241.12285]よりC16H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物34は6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-2,6-ジメチルシクロヘキサ-2,4-ジエノンと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 1.55 (3H, s), 1.87 (3H, s), 2.20 (6H, s), 4.6 (1H, brs), 6.23 (1H, dd, J = 3.6, 9.4 Hz), 6.33 (1H, m), 6.68 (2H, s), 6.85 (1H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 15.7, 16.1, 23.9, 53.5, 119.4, 123.1, 126.7, 127.0, 132.3, 138.0, 145.8, 151.4, 204.9
【0162】
【化34】

【0163】
4-フェニルフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4-フェニルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(137.1 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.21の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、化合物35(6.0 mg)を得た。化合物35の分子式はHRAPCI-MS [m/z 337.12275 (M-H)、calcd.: 337.12285]よりC24H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物35は2,2’-ジヒドロキシ-5,5’-ジフェニルビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 5.95 (2H, brs), 7.11 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.32 (2H, m), 7.42 (4H, m), 7.566 (2H, d, J = 2.3 Hz), 7.568 (4H, d, J = 7.1 Hz), 7.569 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 117.5, 124.5, 127.1, 127.3, 128.9, 129.1, 130.4, 135.2, 140.5, 152.7
【0164】
【化35】

【0165】
4-フェニルフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4-フェニルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(116.6 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)に付したところRf値0.23の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=10/1)により精製し、化合物36(3.0 mg)を得た。化合物36の分子式はHRAPCI-MS [m/z 337.12250 (M-H)、calcd.: 337.12285]よりC24H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物36は2-(4-フェニルフェノキシ)-4-フェニルフェノールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 5.65 (1H, brs), 7.14 (2H, d, J = 8.4 Hz), 7.15 (1H, d, J = 8.4 Hz), 7.19 (1H, d, J = 2.2 Hz), 7.28 (1H, m), 7.32 (1H, dd, J = 2.2, 8.4 Hz), 7.34 (1H, m), 7.38 (2H, m), 7.44 (2H, m), 7.57 (2H, m), 7.58 (2H, d, J = 8.4 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 116.5, 117.6, 118.2, 123.5, 126.7, 126.92, 126.94, 127.2, 128.6, 128.7, 128.8, 134.3, 136.8, 140.26, 140.30, 143.6, 147.0, 156.2
【0166】
【化36】

【0167】
2-クロロ-4-フェニルフェノールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-クロロ-4-フェニルビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(125.5 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)に付したところRf値0.67の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/2)により精製し、化合物37(1.9 mg)を得た。化合物37の分子式はHRAPCI-MS [m/z 405.04475 (M-H)、calcd.: 405.04491]よりC24H16Cl2O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物37は2-(2-クロロ-4-フェニルフェノキシ)-6-クロロ-4-フェニルフェノールと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.97 (1H, d , J = 2.0 Hz), 7.11 (1H, d, J = 8.5 Hz), 7.32 (1H, m), 7.37 (1H, m), 7.38 (2H, m), 7.39 (1H, d, J = 2.0 Hz), 7.44 (2H, m), 7.45 (2H, m), 7.46 (1H, dd, J = 2.0, 8.5 Hz), 7.55 (2H, m), 7.71 (1H, d, J = 2.0 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 115.2, 120.2, 121.4, 123.5, 125.6, 126.67, 126.7, 126.9, 127.4, 127.5, 127.8, 128.9, 129.0, 134.2, 138.8, 139.0, 139.1, 142.6, 144.5, 150.9
【0168】
【化37】

【0169】
2-ナフトールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-ナフトールの変換実験を行った粗抽出物(96.1 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.20、Rf値0.28及びRf値0.52の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、Rf値0.20の化合物38(6.7 mg)、Rf値0.28の化合物39(0.9 mg)及びRf値0.52の化合物40(8.8 mg)を得た。化合物38の分子式はHRAPCI-MS [m/z 285.09119 (M-H)、calcd.: 285.09155]よりC20H14O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物38は6-(2-ヒドロキシナフタレン-1-イル)ナフタレン-2-オールと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ7.14 (1H, dd, J = 2.4, 8.8 Hz), 7.22 (1H, d, J = 2.4 Hz), 7.25 (1H, d, J = 8.9 H), 7.26 (1H, m), 7.27 (1H, m), 7.38 (1H, dd, J = 1.7, 8.4 Hz), 7.44 (1H, m), 7.74 (1H, d, J =1.7 Hz), 7.77 (1H, m), 7.78 (1H, m), 7.79 (1H, m), 7.80 (1H, m)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 108.7, 117.9, 118.3, 122.1, 122.6, 124.6, 126.00, 126.04, 127.8, 128.7, 128.9, 129.1, 129.4, 129.67, 129.72, 130.9, 134.4, 134.5, 155.4, 155.5
【0170】
【化38】

【0171】
化合物39の分子式はHRAPCI-MS [m/z 285.09185 (M-H)、calcd.: 285.09155]よりC20H14O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物39は1,1’-ビ(2-ナフトール)と同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 7.01 (2H, d, J = 8.5 Hz), 7.16 (2H, ddd, J = 1.3, 8.1, 8.5 Hz), 7.24 (2H, ddd, J = 1.2, 8.1, 8.5 Hz), 7.28 (2H, d, J = 8.9 Hz), 7.82 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.86 (2H, d, J = 8.9 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 114.9, 118.1, 122.7, 124.7, 125.9, 127.9, 129.3, 129.4, 134.7, 150.3
【0172】
【化39】

【0173】
化合物40の分子式はHRAPCI-MS [m/z 285.09187 (M-H)、calcd.: 285.09155]よりC20H14O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物40は1-(ナフタレン-2-イルオキシ)-2-ヒドロキシナフタレンと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 6.89 (1H, d, J = 2.6 Hz), 7.29 (1H, m), 7.30 (1H, m), 7.30 (1H, m), 7.33 (1H, m), 7.33 (1H, m), 7.36 (1H, dd, J = 2.6, 8.9 Hz), 7.50 (1H, d, J = 7.9 Hz), 7.73 (1H, d, J = 8.4 Hz), 7.73 (1H, dd, J = 1.3, 8.4 Hz), 7.78 (1H, d, J = 7.9 hz), 7.83 (1H, d, J = 8.9 Hz), 7.83 (1H, dd, J = 1.7, 8.9 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 108.9, 117.8, 119.0, 120.6, 123.4, 123.8, 126.3, 126.3, 126.3, 126.7, 127.5, 127.9, 129.1, 129.5, 129.7, 129.9, 134.1, 134.7, 146.8, 156.8
【0174】
【化40】

【0175】
2-メチル-1-ナフトールの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-メチル-1-ナフトールの変換実験を行った粗抽出物(12.2 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)に付したところRf値0.49の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=2/1)により精製し、化合物41(6.0 mg)を得た。化合物41の分子式はHRAPCI-MS [m/z 313.12222 (M-H)、calcd.: 313.12285]よりC22H18O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物41は1,1’-ビ(3-メチル-4-ヒドロキシナフタレン)と同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 2.46 (6H, s), 7.16 (2H, m), 7.19 (2H, s), 7.20 (2H, m), 7.38 (2H, m), 8.29 (d, J = 8.5 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 15.3, 117.6, 121.6, 124.4, 124.6, 125.8, 126.3, 130.6, 131.4, 133.1, 149.2
【0176】
【化41】

【0177】
1-フェニル-1-シクロヘキセンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により1-フェニル-1-シクロヘキセン1.98 gを重層して変換実験を行った粗抽出物(2.3 g)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=50/1)に付したところRf値0.55の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=50/1)により精製し、化合物42(39.2 mg)を得た。化合物42の分子式はHRAPCI-MS [m/z 154.07868 (M-H)、calcd.: 154.07825よりC12H10と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物42はビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 7.34 (2H, m), 7.44 (4H, m), 7.59 (4H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 127.1, 127.2, 128.7, 141.2
【0178】
【化42】

【0179】
2-ブロモフェノール及び4-フェニルフェノールを共存させた場合の変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-ブロモフェノール及び4-フェニルフェノールを共存させた変換実験を行った粗抽出物(150.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.19、0.28及びRf値0.61の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、Rf値0.19の化合物43(0.7 mg)、Rf値0.28の化合物44(1.7 mg)及びRf値0.61の化合物45(2.0 mg)を得た。化合物43の分子式はHRAPCI-MS [m/z 339.00177 (M-H)、calcd.: 339.00207]よりC18H13 BrO2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物43は3-ブロモ-4-ヒドロキシ-2’-ヒドロキシ-5’-フェニルビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ7.02 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.15 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.32 (1H, m), 7.40 (1H, dd, J = 2.1, 8.3 Hz), 7.42 (2H, m), 7.43 (1H,m), 7.48 (1H, dd, J = 2.3, 8.3 Hz), 7.56 (2H, m), 7.67 (1H, d, J = 2.1 Hz), 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ110.9, 116.3, 116.6, 126.7, 126.8, 126.9, 127.9, 128.8, 129.0, 130.0, 130.8, 132.7, 134.3, 140.5, 152.0, 152.1
【0180】
【化43】

【0181】
化合物44の分子式はHRAPCI-MS [m/z 339.00201 (M-H)、calcd.: 339.00207]よりC18H13 BrO2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物44は3-ブロモ-2-ヒドロキシ-2’-ヒドロキシ-5’-フェニルビフェニル と同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 6.87 (1H, dd, J = 7.7, 7.8 Hz), 7.02 (1H, d, J = 8.42), 7.27 (1H, dd, J = 1.7, 7.7 Hz), 7.27 (1H, m), 7.38 (2H, m), 7.46 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.51 (1H, dd, J = 1.7, 7.8 Hz), 7.51 (1H, dd, J = 2.3, 8.4 Hz), 7.58 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 111.8, 116.1, 121.1, 125.8, 126.4, 126.5, 127.6, 128.6, 128.7, 130.2, 130.8, 132.1, 133.5, 140.9, 151.3, 153.7
【0182】
【化44】

【0183】
化合物45の分子式はHRAPCI-MS [m/z 339.00298 (M-H)、calcd.: 339.00207]よりC18H13 BrO2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物45は4-(3-ブロモ-2-ヒドロキシフェノキシ)ビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 6.74 (1H, dd, J = 8.1, 8.2 Hz), 6.89 (1H, dd, J = 1.5, 8.1 Hz), 7.04 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.29 (1H, dd, J = 1.5, 8.2 Hz), 7.30 (1H, m), 7.40 (2H, m), 7.56 (2H, m), 7.59 (2H, d, J = 8.8 Hz)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 111.8, 116.1, 121.1, 125.8, 126.4, 126.5, 127.6, 128.6, 128.7, 130.2, 130.8, 132.1, 133.5, 140.9, 151.3, 153.7
【0184】
【化45】

【0185】
o-クレゾール及び4-フェニルフェノールを共存させた場合の変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)によりo-クレゾール及び4-フェニルフェノールを共存させた変換実験を行った粗抽出物(390.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.32の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、化合物46(2.0 mg)を得た。化合物46の分子式はHRAPCI-MS [m/z 275.10700 (M-H)、calcd.: 275.10720]よりC19H16 O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物46は2-ヒドロキシ-3-メチル-2’-ヒドロキシ-5’-フェニルビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 2.30 (3H,s), 6.88 (1H, dd, J = 7.3, 7.6 Hz), 7.03 (1H, d, 8.4 Hz), 7.13 (1H, d, J = 7.3 Hz), 7.13 (1H, d, J = 7.6 Hz), 7.26 (1H, m), 7.34 (2H, m), 7.47 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.49 (1H, dd, J = 2.3, 8.4 Hz), 7.57 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 15.6, 116.1, 120.3, 126.3, 126.4, 126.5, 126.8, 126.8, 127.2, 128.6, 129.0, 130.0, 130.5, 133.8, 141.1, 152.2, 153.3
【0186】
【化46】

【0187】
2,6-ジメチルフェノール及び4-フェニルフェノールを共存させた場合の変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2,6-ジメチルフェノール及び4-フェニルフェノールを共存させた変換実験を行った粗抽出物(393.2 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.28の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、化合物47(3.4 mg)を得た。化合物47の分子式はHRAPCI-MS [m/z 289.12281 (M-H)、calcd.: 289.12285]よりC20H18 O2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物47は3,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-2’-ヒドロキシ-5’-フェニルビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ 2.32 (6H, s), 7.04 (1H, d, J = 8.3 Hz), 7.12 (2H, s), 7.31 (1H, m), 7.40 (2H, m), 7.43 (1H, dd, J = 2.3, 8.3 Hz), 7.49 (1H, d, J = 2.3 Hz), 7.57 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ 16.0, 115.8, 124.1, 126.6, 126.7, 127.3, 128.3, 128.4, 128.7, 128.8, 129.2, 133.8, 140.8, 152.1, 152.2
【0188】
【化47】

【0189】
4-メトキシビフェニルの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により4-メトキシビフェニルの変換実験を行った粗抽出物(102.1 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)に付したところRf値0.33の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=4/1)により精製し、化合物48(7.6 mg)を得た。化合物48の分子式はHRAPCI-MS [m/z 169.06500 (M-H)、calcd.: 169.06534]よりC12H10Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物48は4-ヒドロキシビフェニルと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.91 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.30 (1H, m), 7.41 (2H, m), 7.48 (2H, d, J = 8.7 Hz), 7.54 (2H, m)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 115.6, 126.7, 126.7, 128.4, 128.7, 134.0, 140.7, 155.1
【0190】
【化48】

【0191】
1-フェニルナフタレンの変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により1-フェニルナフタレンの変換実験を行った粗抽出物(280.3 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)に付したところRf値0.30の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)により精製し、化合物49(0.5 mg)を得た。化合物49の分子式はHRAPCI-MS [m/z 219.08203 (M-H)、calcd.: 219.08099]よりC16H12Oと決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物49は1-(4-ヒドロキシフェニル)ナフタレンと同定した。
1H NMR (500 MHz, CDCl3):δ 6.96 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.38 (2H, d, J = 8.8 Hz), 7.40 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.45 (1H, m), 7.48 (1H, m), 7.51 (1H, dd, J = 8.0, 9.0 Hz), 7.84 (1H, d, J = 9.0 Hz), 7.90 (1H, d, J = 7.0 Hz), 7.91 (1H, d, J = 7.0 Hz)、13C NMR (125 MHz, CDCl3):δ 115.1, 125.4, 125.7, 125.9, 126.0, 126.9, 127.4, 128.2, 130.1, 131.3, 133.2, 133.8, 139.8, 154.9
【0192】
【化49】

【0193】
2-ブロモフェノール及び2-ナフトールを共存させた場合の変換産物の同定
E.coli(pUCRED-Balk/BL21)により2-ブロモフェノール及び2-ナフトールを共存させた変換実験を行った粗抽出物(210.0 mg)をTLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)に付したところRf値0.22の産物が生成していることが判明した。本化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)により精製し、化合物50(2.5 mg)を得た。化合物50の分子式はHRAPCI-MS [m/z 312.98522 (M-H)、calcd.: 312.98642]よりC16H11 BrO2と決定された。さらにNMR解析(1H、13C、1H-1H gDQF COSY、gHSQC、gHMBC)により化合物50は1-(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)-2-ヒドロキシナフタレンと同定した。
1H NMR (500 MHz, MeOH-d4):δ4.92(2H, brs),7.03 (1H, d, J = 8.2 Hz), 7.13 (1H, dd, J = 2.0, 8.2 Hz), 7.17 (1H, d, J = 8.9 Hz), 7.25 (1H, ddd, J = 1.5, 8.1, 8.1 Hz), 7.30 (1H, ddd, J = 1.5, 8.1, 8.5 Hz), 7.40 (1H, dd, J = 1.5, 8.5 Hz), 7.42 (1H, d, J = 2.0 Hz), 7.73 (1H, d, J = 8.9 Hz), 7.75 (1H, dd, J = 1.5, 7.9 Hz),13C NMR (125 MHz, MeOH-d4):δ110.7, 117.1, 119.0, 121.7, 123.8, 125.4, 127.2, 129.0, 130.0, 130.1, 130.3, 132.5, 135.5, 136.6, 152.8, 154.5
【0194】
【化50】

【0195】
<結論>
Balk(CYP153)は、上述した芳香環の水酸化、芳香族アルキル(特にメチル、エチル、イソプロピル、イソブチル)基末端の水酸化、脱アルキル化に加えて、さらに、2以上の芳香環の炭素−炭素結合又はエーテル結合を介した縮合、芳香化の機能を有し、様々な芳香族化合物の製造に有用であることが明らかになった。
しかも、基質として異なった種類の芳香族化合物を同時に用いると、ハイブリッドタイプの縮合産物を得ることができた。
また、CYP153としては新規な反応である芳香環への水酸化、芳香族メチルの水酸化、脱アルキル化、2以上の芳香環の炭素−炭素結合を介した縮合は、Balk(CYP153A13)だけでなく、様々なCYP153が触媒することが明らかになった。
さらに、Balk(CYP153)を用いると、塩化第二鉄を用いた場合に比べて、多様な変換産物を得ることができた。塩化第二鉄に比べるとCYPの持つヘム鉄の量は少ないにもかわらず変換率が高いのは、P450による酸化還元反応の効率が高いことことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0196】
本発明により、モノオキシゲナーゼCYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を利用して、(1)置換基を有する芳香族化合物の芳香環への水酸基の導入反応、アルキル基等の置換基への水酸基の導入反応、及び脱アルキル化反応、(2)フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2分子以上における芳香環の炭素−炭素結合又はエーテル結合を介した縮合反応、並びに(3)芳香化反応を行うことが可能になる。さらに本発明においては、生きた細胞を用いて反応を行うので、酵素を精製する必要もなく簡便で、変換産物の大量製造が容易である。さらに、本発明の製造方法は、細菌由来の生体触媒を利用するため、常温、常圧下などの穏やかな条件で反応が可能であり、また、危険な合成触媒や廃液処理を要することがないため、環境にやさしい方法である。本発明の製造方法を用いると、様々な芳香族化合物の製造のみならず、創薬段階における新規化合物の創製、代謝物の調製、長い工程を要する製造プロセスの短縮などの産業利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】P450機能発現ベクターpREDの構造を示す図である。
【図2】MoxAを用いたベクター間のCO差スペクトルを比較した図である。
【図3】P450balkを用いたベクター間のCO差スペクトルを比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する芳香族化合物に作用させて芳香環又は置換基の炭素原子に水酸基を導入する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物2以上に作用させて、芳香環2以上を炭素−炭素結合もしくはエーテル結合を介して縮合する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
シトクロムP450のファミリー153(CYP153)に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をモノオキシゲナーゼとして機能させ、置換基を有する環状オレフィンに作用させて環状オレフィンを芳香化する工程を含むことを特徴とする芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
CYP153が以下の(a)又は(b)である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
【請求項5】
CYP153が以下の(o)又は(p)である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
(o)配列番号12のアミノ酸配列からなるポリペプチド
(p)配列番号12のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつモノオキシゲナーゼP450として機能するポリペプチド
【請求項6】
置換基を有する芳香族化合物がベンゼン環を1〜3個有するものである請求項1、4及び5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
置換基を有する芳香族化合物の芳香環の炭素原子に水酸基を導入する請求項1及び4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜4のアルキル基であり、該アルキル基の炭素原子に水酸基を導入する請求項1及び4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
置換基を有する芳香族化合物の置換基が炭素数1〜2のアルコキシ基であり、該アルコキシ基の脱アルキル化により水酸基を導入する請求項1及び4〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
フェノール性水酸基を有する芳香族化合物が、ベンゼン環を1〜3個有するものである請求項2、4及び5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
置換基を有する環状オレフィンが、環状オレフィンに結合した置換基を有するものであり、該環状オレフィンを芳香化する請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該置換基を有する芳香族化合物に作用させる請求項1及び4〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを共存させることにより、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該フェノール性水酸基を有する芳香族化合物に作用させる請求項2、4〜5及び10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入した形質転換体と置換基を有する環状オレフィンとを共存させることにより、CYP153に属するタンパク質又はこれを含む融合型タンパク質を、該環状オレフィンに作用させる請求項3〜5及び11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
形質転換体が、CYP153と、レドックスパートナータンパク質との融合型タンパク質をコードする遺伝子を導入したものである、請求項12〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
形質転換体が、CYP153と、レドックスパートナータンパク質であるロドコッカス属NCIMB9784株由来のシトクロムP450モノオキシゲナーゼP450RhFに含まれる還元酵素ペプチド又はそれと同等の機能を有する還元酵素ペプチドとの融合型タンパク質をコードする遺伝子を、lacプロモーター及びLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクターを導入したものである、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
レドックスパートナータンパク質が以下の(c)又は(d)のペプチドである請求項15又は16に記載の製造方法。
(c) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(d) 配列番号2記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつ還元酵素活性を有するペプチド
【請求項18】
組換えベクターが、CYP153をコードする以下の(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、lacプロモーターとLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクターである請求項16又は17に記載の製造方法。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項19】
組換えベクターが、CYP153をコードする以下の(w)又は(x)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、T7プロモーターの転写を受けるようにpET系ベクターに挿入した組換えベクターである請求項16又は17に記載の製造方法。
(w) 配列番号16の塩基配列からなるDNA
(x) 配列番号16のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項20】
CYP153をコードする以下の(e)又は(f)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、lacプロモーターとLacZの翻訳シグナルを利用するようにpUC系ベクターに挿入した組換えベクター。
(e) 配列番号3の塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項21】
CYP153をコードする以下の(w)又は(x)のDNAの3’末端側に、リンカーを介して、還元酵素ペプチドをコードする以下の(g)又は(h)のDNAを連結した融合タンパク質発現カセットを、T7プロモーターの転写を受けるようにpET系ベクターに挿入した組換えベクター。
(w) 配列番号16の塩基配列からなるDNA
(x) 配列番号16のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつモノオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(g) 配列番号4の塩基配列からなるDNA
(h) 配列番号4のDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−5687(P2009−5687A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131734(P2008−131734)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(598041795)神戸天然物化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】