説明

CaF2の回収方法

【課題】 半導体製造工程等で排出される有害成分ガスであるClF,SiF,WF,F,HF等のフッ素系ガスをCa(OH)等を含むアルカリ固体薬剤で除害した後、その使用済み固体薬剤を処理して高純度なフッ化カルシウム(CaF)を回収する方法を提供する。
【解決手段】 フッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を塩化水素水溶液と反応させた後、水で洗浄する。さらには、フッ化水素水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液のいずれかと反応させた後、水で洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程等で排出される有害成分ガスであるClF,SiF,WF,F,HF等のフッ素系ガスをCa(OH)等を含むアルカリ固体薬剤で除害した後、その使用済み固体薬剤を処理して高純度なフッ化カルシウム(CaF)を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程等では、種々のガスが使用され、その排出されるガス組成については常に一定ではなく様々な成分を含んでいる。特に、ClF,SiF,WF,F,HF等のフッ素を含む排ガスを処理した使用済みのアルカリ固体薬剤(主にカルシウム化合物)の組成は、不純物が多くCaFの回収は困難と思われた。CaF(フッ素成分)の回収技術については以前からあらゆる方面で盛んに行われている。特にフッ素を含む排水からカルシウム化合物を用いCaFとして回収する方法(特許文献1〜4参照)、また、フッ素を含む排ガスからカルシウム化合物を用いCaFとして回収する方法(特許文献5〜7参照)等、数多く報告されている。特に不純物としてSiOおよびWO成分の混在したアルカリ固体薬剤は、高純度のCaF回収を必要とする場合に大きな妨げとなる。そのために使用済みアルカリ固体薬剤は、中和処理して全て産業廃棄物として埋め立て等で処理している。
【0003】
しかし、近年、環境に対する企業の姿勢が問われる時代になっており、廃棄物を減少させる方法およびリサイクル技術の開発が求められるようになっている。また、リサイクルしたCaFの純度は、例えば鉄鋼メーカー等でステンレス等の表面処理用に利用するとして90%以上必要であり、さらに高純度のものが求められている。
【特許文献1】特開2005−97083号公報
【特許文献2】特開2004−75496号公報
【特許文献3】特開2003−305458号公報
【特許文献4】特開2003−117565号公報
【特許文献5】特開2005−28241号公報
【特許文献6】特開2004−331432号公報
【特許文献7】特開2004−255228号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、鋭意検討の結果、フッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を酸またはアルカリ水溶液と反応させた後、水で洗浄することにより高純度のCaFのを回収する方法を見出し、本発明に到達したものである。
【0005】
すなわち本発明は、ClF,SiF,WF,F,HFを少なくとも含むフッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を塩化水素水溶液と反応させ、水で洗浄すること、また、その後フッ化水素水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液のいずれかと反応させた後、水で洗浄すること、また、その後、逆にフッ化水素水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液のいずれかと反応させた後、水で洗浄すること、を特徴とするCaFの回収方法を提供するものである。
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明において、アルカリ固体薬剤とは、Ca(OH)を主成分とする塊状、粉状の化合物であり、単にCa(OH)をバインダーにより固め粒状とした物やCaOを60〜95重量%含むCa(OH)をバインダーにより固め粒状とした物、あるいはソーダライム等である。
【0008】
本発明において、対象とするガスは、ClF,SiF,WF,F,HFを少なくとも含むフッ素系ガスである。それぞれ単独のフッ素系ガスは、以下の処理方法を実施することにより高純度なCaFが回収できる。
【0009】
ClFは、許容濃度0.1ppmの有毒ガスで、半導体製造工程では主にCVD装置のクリーニング用ガスとして使用されている。ClFとCa(OH)との反応は以下のように進みガスの除害が行われ、固体の生成物としてCaFとCaClが生成される。
2ClF+4Ca(OH) →3CaF+CaCl+4HO+2O
従って、ClFのみを除害した場合は、塩化水素水溶液を作用させる操作のみで残留したCa(OH)をCaClに変換すればよく、その後水で洗浄し脱水することによりCaClを取り除き高純度のCaF回収が可能となる。
【0010】
SiFは、許容濃度2.5mg(F)/m3の有毒ガスで、半導体製造工程では主にシリコンウエハーのエピタキシャル成長やエッチング用ガスとして使用されている。SiFとCa(OH)との反応は以下のように進みガスの除害が行われ、固体の生成物としてCaFとSiOが生成される。
SiF+2Ca(OH)→2CaF+SiO+2H
従って、SiFのみを除害した場合は、塩化水素水溶液で残留したCa(OH)をCaClに変換し、その後水で洗浄し脱水することによりCaClを取り除き、さらに、残留したSiOをフッ化水素水溶液を作用させ水に対し溶解度の高いHSiFに変化させた後、その後水で洗浄し脱水することによりHSiFを取り除く操作のみで高純度のCaF回収が可能となる。
【0011】
WFは、許容濃度1mg(W)/m3の有毒ガスで、半導体製造工程ではW膜生成やエッチング用ガスとして使用されている。WFとCa(OH)との反応は以下のように進みガスの除害が行われ、固体の生成物としてCaFとWOが生成される。
WF+3Ca(OH)→3CaF+WO+3H
従って、WFのみを除害した場合は、塩化水素水溶液で残留したCa(OH)をCaClに変換し、その後水で洗浄し脱水することによりCaClを取り除き、さらに、残留したWOを水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液のいずれかを作用させ、水に対し溶解度の高いNaWO、またはKWOに変化させた後、その後水で洗浄し脱水する操作のみで高純度のCaF回収が可能である。
【0012】
は、許容濃度1ppmの有毒ガスで、半導体製造工程では主にエッチング用ガスとして使用されている。FガスとCa(OH)との反応は以下のように進みガスの除害が行われ、固体の生成物としてCaFが生成される。
+Ca(OH)→CaF+HO+1/2O
従って、Fのみを除害した場合は、塩化水素水溶液を作用させる操作のみで残留したCa(OH)をCaClに変換すればよく、その後水で洗浄し脱水することによりCaClを取り除き高純度のCaF回収が可能である。
【0013】
HFは、許容濃度2.5mg(F)/m3の有毒ガスで、半導体製造工程では主にエッチング用ガスとして使用されている。HFガスとCa(OH)との反応は以下のように進みガスの除害が行われ、固体の生成物としてCaFが生成される。
2HF+Ca(OH)→CaF+2H
従って、HFのみを除害した場合は、塩化水素水溶液を作用させる操作のみで残留したCa(OH)をCaClに変換すればよく、その後水で洗浄し脱水することによりCaClを取り除き高純度のCaF回収が可能である。
【0014】
しかし半導体製造工程等では、種々のガスが使用され、その排出されるガス組成については常に一定ではなく様々な成分を含んでいる。従って組成はCa(OH),CaF,CaCl,SiO,WOの混合物となる場合が多い。そのため上記操作を組合わせることが必要かつ有効である。
【0015】
本発明はCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した使用済みアルカリ固体薬剤から高純度のCaFを回収するためになされたもので、本発明の特徴はまず塩化水素(HCl)水溶液、次にフッ化水素(HF)水溶液、最後にアルカリ(NaOHまたはKOH)水溶液を導入するものである。
【0016】
例えば、具体的にCa(OH),CaF,CaCl,SiO,WOの混合物組成からなる使用済みアルカリ固体薬剤は、最初に塩化水素水溶液を導入することで使用済みアルカリ固体薬剤中のCa(OH)を中和により、水に対し溶解度の高いCaClに変化させた後、水洗と脱水を繰り返すことで使用済みアルカリ固体薬剤からCa(OH)およびCaClを取り除く。
Ca(OH) +2HCl→CaCl+2H
次にフッ化水素水溶液を導入することでSiOを水に対し溶解度の高いHSiFに変化させた後、水洗と脱水を繰り返すことでSiOを取り除き、最後にアルカリ(NaOHまたはKOH)水溶液を導入することでWOをアルカリ水溶液中に溶解させた後、水洗と脱水を繰り返すことでWOを取り除く。以上の操作により高純度のCaFを回収することができる。また、前記に示すフッ化水素水溶液導入とアルカリ水溶液導入の順序を逆に実施しても差し支えない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば従来すべて廃棄せざるを得なかったフッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後の使用済みアルカリ固体薬剤をCaFの回収源として利用することが可能となる。またそれに伴い産業廃棄物を低減することが可能になる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により具体的に説明するが、かかる実施例に限定されるものではない。
【0019】
図1に本発明方法による使用済みアルカリ固体薬剤からCaFを回収するための実施フローの概略図の一例を示す。使用済みアルカリ固体薬剤1は、単にCa(OH)を含んだアルカリ固体薬剤で、除害対象となるClF,SiF,WF,F,HF等のガスが化学的に吸収されている。従って組成はCa(OH),CaF,CaCl,SiO,WOからなる。あらかじめ蛍光X線分析装置およびX線回折分析装置により分析した値によれば各成分の含有量は、重量%でCa(OH):35%,CaF:40%,CaCl:8%,SiO:13%,WO:4%であった。この使用済みアルカリ固体薬剤1を150gサンプリングし500ccビーカー3に採取した。
【0020】
次に低濃度のHCl水溶液2を数100mLビーカー3に導入し、反応を実施する。ここでのHCl水溶液濃度は3〜5%位が好ましい。反応が進み水溶液のPHが7に達したところで脱水を行い、廃液4を排出し再度新しく低濃度のHClを導入する。以上の操作により反応がほぼ終了する。そこで再度脱水した後、高濃度のHCl水溶液を導入し一定時間放置させ反応を完全に終了させる。ここでのHCl濃度は20〜30%位が好ましい。この後沈殿物について、洗浄、脱水操作5を繰り返しCaF,SiO,WOの組成からなる固体を得た。
【0021】
次に得られた固体にHF水溶液6を数10mLビーカー7に導入し反応を実施する。ここでのHF水溶液濃度は5〜10%が好ましい。その後一定時間放置し廃液8を排出した後、沈殿物について洗浄、脱水操作9を繰り返しCaF,WOからなる固体を得た。
【0022】
最後に上記反応で得られた固体にアルカリ水溶液(NaOH)10を数10mLビーカー11に導入し反応を実施する。アルカリ水溶液は、5〜10%が好ましい。その後一定時間放置し廃液12を排出した後、沈殿物について13洗浄、脱水操作13を実施し、その後乾燥を実施し、回収品として高純度のCaF14を得た。
【0023】
得られた回収品のCaF純度を蛍光X線分析装置およびX線回折分析装置により分析したところCaF以外の成分はそれぞれ0.5重量%以下であり、CaF純度は98重量%以上であった。また、回収品したCaFの重量を測定したところ重量は、約20gであった。このことからCaFの回収率は約30%となった。
【0024】
また、HF水溶液処理とアルカリ水溶液処理を逆に実施しても同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】高純度CaF回収のための実施フローの概略図の一例である。
【符号の説明】
【0026】
1・・・アルカリ固体薬剤
2・・・塩化水素水溶液
3、7、11・・・ビーカー
4、8、12・・・廃液
5、9、13・・・洗浄・脱水
6・・・フッ化水素水溶液
10・・・アルカリ(NaOHまたはKOH)水溶液
14・・・高純度CaF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ClF,SiF,WF,F,HFを少なくとも含むフッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を塩化水素水溶液と反応させた後、水で洗浄することを特徴とするCaFの回収方法。
【請求項2】
ClF,SiF,WF,F,HFを少なくとも含むフッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を塩化水素水溶液と反応させ、水で洗浄した後、フッ化水素水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液のいずれかと反応させた後、水で洗浄することを特徴とするCaFの回収方法。
【請求項3】
ClF,SiF,WF,F,HFを少なくとも含むフッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を塩化水素水溶液と反応させ、水で洗浄した後、フッ化水素水溶液と反応させ、水で洗浄した後、さらに、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液と反応させた後、水で洗浄することを特徴とするCaFの回収方法。
【請求項4】
ClF,SiF,WF,F,HFを少なくとも含むフッ素系ガスをCa(OH)を主成分とするアルカリ固体薬剤で除害した後、該アルカリ固体薬剤中に含まれるCaFを回収する方法において、該アルカリ固体薬剤を塩化水素水溶液と反応させ、水で洗浄した後、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液と反応させ、水で洗浄した後、さらに、フッ化水素水溶液と反応させた後、水で洗浄することを特徴とするCaFの回収方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−137739(P2007−137739A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336456(P2005−336456)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】