説明

DME燃料供給システム及びDME燃料の冷却方法

【課題】チラーの出力を増大させることなく、燃料回路内の燃料を効率的に冷却する。
【解決手段】燃料タンク3からDMEエンジン2にDME燃料を供給する供給ライン10と、前記DME燃料を前記供給ライン10に沿って送り出す高圧ポンプ4と、前記DMEエンジン3から前記燃料タンク2に前記DME燃料を戻すリターンライン20と、前記供給ライン10(第2サブ供給ライン12)上に配置されるチラー5の第1熱交換器51と、前記リターンライン20(第4サブリターンライン24)上に配置されるチラー5の第2熱交換器52と、前記供給ライン10の前記第1熱交換器51の下流側と、前記リターンライン20の前記第2熱交換器52の上流側とを連通接続する、バイパスライン30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
燃料タンクからDMEエンジンにDME燃料を供給するための燃料回路内を流れるDME燃料を冷却するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
DMEエンジンにDME(ジメチルエーテル)燃料を供給する燃料回路が知られている。この燃料回路は、例えば、燃料タンクからDMEエンジンに燃料を供給する供給ラインと、DMEエンジンから燃料タンクに燃料を戻すリターンラインと、を備えている。リターンラインを通過する燃料は、エンジンによって加熱される。このため、燃料回路内の燃料の温度は、上昇する傾向にある。
【0003】
従来の燃料回路では、燃料回路内を流れる燃料の温度が上昇するのを防止するため、フィードポンプは、エンジンへの注入ポンプに直接接続されている。また、燃料の温度を下げるために、供給ライン及びリターンラインのそれぞれに、チラー(冷媒を冷やす装置)が設けられている。特許文献1にも、燃料回路内のDME燃料を冷却させるための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−56410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DMEは沸点が低く、蒸発しやすい。このため、燃料の温度が高くなると、燃料回路内で燃料が蒸発する。液体である燃料に気体が混じると、エンジンに供給される燃料の圧力が不安定になる。また、燃料の蒸発によってキャビテーションが発生すると、フィードポンプの回転数が低下する。この結果、エンジンに燃料を適切に供給することができなくなる。
【0006】
燃料を冷却するために、上述したように、燃料回路内には合計2つのチラーが設けられている。熱交換器を介して燃料を冷却する場合、冷媒の温度までしか燃料を冷却することはできない。このため、チラーの出力を最大限利用するには、熱交換器を通過する燃料の量を多くする必要がある。しかし、熱交換器を通過する燃料の量が比較的少ない場合、燃料回路内の燃料を十分に冷却するために、冷媒の温度をより一層低下させる必要がある。つまり、チラーによる冷却効率が低いために、チラーの出力を向上させる必要がある。このため、供給ライン及びリターンラインを通過する燃料を冷却しているだけでは、チラーの出力を大きくしない限り、燃料回路内の燃料を効率的に冷却することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、チラーの出力を増大させることなく、燃料回路内の燃料を効率的に冷却できる、DME燃料供給システム及びDME燃料の冷却方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明は、燃料タンクからDMEエンジンにDME燃料を供給する供給ラインと、前記DME燃料を前記供給ラインに沿って送り出すフィードポンプと、前記DMEエンジンから前記燃料タンクに前記DME燃料を戻すリターンラインと、前記供給ライン上に配置される、第1チラーの第1熱交換器と、前記リターンライン上に配置される、第2チラーの第2熱交換器と、前記供給ラインの前記第1熱交換器の下流側と、前記リターンラインの前記第2熱交換器の上流側とを連通接続する、バイパスラインと、を備えている。
【0009】
第1発明は、構成(a)、(b)を採用することが好ましい。
【0010】
(a)前記供給ラインから前記バイパスラインが分岐する分岐部の下流側において、前記供給ライン上に配置される第1電磁弁と、前記リターンラインに前記バイパスラインが合流する合流部の上流側において、前記リターンライン上に配置される第2電磁弁と、を備えている。
【0011】
(b)第1チラー及び第2チラーが同一のチラーであり、
前記同一のチラーが、前記第1熱交換器及び前記第2熱交換器の双方に、冷却用の冷媒を供給する。
【0012】
第2発明は、燃料回路を通じて燃料タンクとDMEエンジンとを循環するDME燃料の冷却方法であって、前記燃料タンクから送り出された前記DME燃料を冷却する、第1冷却工程と、前記第1冷却工程の後に、前記DME燃料を、前記DMEエンジンを経由させる第1燃料と、前記DMEエンジンを経由させない第2燃料とに分配する、分配工程と、前記DMEエンジンを経由した前記第1燃料と、前記第2燃料とを合流させる、合流工程と、前記合流工程において合流したDME燃料を冷却する、第2冷却工程と、を備えている。
【0013】
第1発明は、構成(c)を採用することが好ましい。
【0014】
前記分配工程において、前記第1燃料の流量に対する前記第2燃料の流量の比を、維持又は変更する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、チラーの出力を増大させることなく、燃料回路内の燃料を効率的に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】燃料供給システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、燃料供給システム及びDME供給源100を示す概略図である。燃料供給システムは、エンジン2にDME燃料を供給するシステムである。DME供給源100は、燃料供給システムの燃料タンク3に、DME燃料を供給する。
【0018】
燃料供給システムは、燃料を供給するための燃料回路1を備えている。燃料回路1は、エンジン2と、燃料タンク3と、高圧ポンプ4と、を備えている。燃料回路1は、燃料タンク3からエンジン2に燃料を供給する供給ライン10と、エンジン2から燃料タンク3に燃料を戻すリターンライン20と、供給ライン10とリターンライン20とを連通接続するバイパスライン30と、を備えている。供給ラインは、第1サブ供給ライン11と、第2サブ供給ライン12と、第3サブ供給ライン13と、第4サブ供給ライン14と、からなっている。リターンラインは、第1サブリターンライン21と、第2サブリターンライン22と、第3サブリターンライン23と、第4サブリターンライン24と、からなっている。バイパスライン30は、第1サブバイパスライン31と、第2サブバイパスライン32と、からなっている。
【0019】
高圧ポンプ(フィードポンプ)4は、第1サブ供給ライン11と第2サブ供給ライン12との間に配置されている。エンジン2は、第4サブ供給ライン14と第1サブリターンライン21との間に配置されている。燃料タンク3は、第4サブリターンライン24と第1サブ供給ライン11との間に配置されている。
【0020】
分岐部1aは、供給ライン10とバイパスライン30との接続部である。第2サブ供給ライン12は、分岐部1aにおいて、第3サブ供給ライン13と第1サブバイパスライン31とに分岐している。合流部1bは、リターンライン20とバイパスライン30との接続部である。第2サブバイパスライン32及び第3サブリターンライン23は、合流部1bにおいて、第4サブリターンライン24に合流している。
【0021】
燃料回路1は、2つの電磁弁CV−1、CV−2を備えている。第1電磁弁CV−1は、第3サブ供給ライン13と第4サブ供給ライン14との間に配置されている。第2電磁弁CV−2は、第1サブリターンライン21と第2サブリターンライン22との間に配置されている。
【0022】
燃料回路1は、2つの圧力調整弁41、42を備えている。第1圧力調整弁41は、第1サブバイパスライン21と第2サブバイパスライン32との間に配置されている。第2圧力調整弁42は、第2サブリターンライン22と第3サブリターンライン23との間に配置されている。2つの圧力調整弁41、42は、エンジン2に供給される燃料の圧力を、一定に保つために設けられている。高圧ポンプ4から2つの圧力調整弁41、42の上流側までの圧力は、高圧に保たれている。2つの圧力調整弁41、42の下流側から高圧ポンプ4までは、低圧である。本実施形態では、高圧は1.6MPaであり、低圧は0.6MPaである。
【0023】
燃料回路1は、燃料タンク3と第4サブリターンライン24との間に、逆止弁43を備えている。逆止弁43は、燃料タンク3から第4サブリターンライン24に燃料が流れることを防止する。
【0024】
燃料供給システムは、燃料回路1内の各部に、燃料の圧力を検出する5つの圧力センサPS−2、PS−3、PS−4、PS−5、及びPS−6を備えている。第2圧力センサPS−2は、第1サブ供給ライン11内の燃料の圧力を検出する。ここで、第1サブ供給ライン11内の燃料の圧力は、燃料タンク3内の燃料の圧力に等しい。第3圧力センサPS−3は、第2上流供給ライン12内の燃料の圧力を検出する。第4圧力センサPS−4は、第4サブ供給ライン14内の燃料の圧力を検出する。第5圧力センサPS−5は、第2サブリターンライン22内の燃料の圧力を検出する。第6圧力センサPS−6は、第4サブリターンライン24内の燃料の圧力を検出する。
【0025】
燃料供給システムは、燃料回路1内の燃料を冷却するための冷却手段を備えている。冷却手段は、チラー5(低温冷媒を循環させる装置)である。チラー5は、供給ライン10及びリターンライン20に、熱交換器51、52を備えている。第1熱交換器51は、第2サブ供給ライン12内に配置されている。第2熱交換器52は、第4サブリターンライン24内に配置されている。チラー5は、2つの熱交換器51、52を介して、供給ライン10及びリターンライン20内の燃料を冷却する。
【0026】
燃料供給システムは、燃料回路1内の各部に、燃料の温度を検出する7つの温度センサ61〜67を備えている。第1温度センサ61は、第1サブ供給ライン11内の燃料の温度を検出する。第2温度センサ62及び第3温度センサ63は、第2サブ供給ライン12において、第1熱交換器51の上流側及び下流側の燃料の温度を検出する。第4温度センサ64は、供給ライン10の終端部、つまりエンジン2の入口における燃料の温度を検出する。第5温度センサ65は、リターンライン20の始端部、つまりエンジン2の出口における燃料の温度を検出する。第6温度センサ66及び第7温度センサ67は、第4サブリターンライン24において、第2熱交換器52の上流側及び下流側の燃料の温度を検出する。
【0027】
燃料供給システムは、制御装置6を備えている。制御装置6は、エンジン2、高圧ポンプ4、及びチラー5の駆動を制御できる。制御装置6は、2つの電磁弁CV−1、CV−2の開度を維持又は変更できる。制御装置6は、5つの圧力センサPS−2〜PS−6及び7つの温度センサ61〜67による検出情報を確認できる。
【0028】
次に、燃料供給システムの作動を説明する。燃料供給システムの作動により、燃料回路1内の燃料が、4つの工程を経て、燃料タンク3及びエンジン2を経由するように循環する。4つの工程は、第1冷却工程、分配工程、合流工程、及び第2冷却工程である。
【0029】
制御装置6は、エンジン2の起動に先だって、高圧ポンプ4及びチラー5の駆動を開始する。高圧ポンプ4の駆動により、燃料タンク3内の燃料が、供給ライン10に沿って流される。燃料は、第2サブ供給ライン12を通過するときに、第1熱交換器51により、冷却される。これが、第1冷却工程である。
【0030】
第2サブ供給ライン12を通過した燃料は、分岐部1aにおいて、第3サブ供給ライン13に供給される第1燃料と、第1サブバイパスライン31に供給される第2燃料と、に分配される。これが、分配工程である。分岐前の燃料、第1燃料、及び第2燃料における流量の比は、例えば、20:10:10である。
【0031】
第1燃料は、第3サブ供給ライン13及び第4サブ供給ライン14を経由して、エンジン2に供給される。第1燃料は、エンジン2内において、エンジン2の熱によって加熱される。このため、第1燃料の温度が上昇する。第1燃料は、エンジン2を通過すると、第1サブリターンライン21及び第2サブリターンライン22を経由して、合流部1bに到達する。第1燃料の一部は、エンジン2において消費される。このため、エンジン2の通過前及び通過後における流量の比は、例えば、10:9である。
【0032】
第2燃料は、第1サブバイパスライン31及び第2サブバイパスライン32を経由して、合流部1bに到達する。
【0033】
第1燃料及び第2燃料は、合流部1bにおいて、合流する。これが、合流工程である。エンジン2通過後の第1燃料、第2燃料、及び合流後の燃料における流量の比は、例えば、9:10:19である。
【0034】
合流した燃料は、第4サブリターンライン24を通過するときに、第2熱交換器52により、冷却される。これが、第2冷却工程である。
【0035】
以上のようにして、燃料は、供給ライン10及びリターンライン20において、冷却される。ここで、燃料回路1には、バイパスライン30が設けられている。このため、エンジン2を通過する第1燃料だけでなく、エンジン2を通過しない第2燃料が、チラー5によって冷却されている。特に、第1燃料の流量よりも第2燃料の流量を大きくすることによって、燃料の冷却効率を上昇させることができる。
【0036】
第1燃料の流量及び第2燃料の流量は、第1電磁弁CV−1及び第2電磁弁CV−2の開度を変更することによって、変更できる。第1電磁弁CV−1及び第2電磁弁CV−2は、エンジン2の入口側及び出口側とに配置されている。このため、第1電磁弁CV−1及び第2電磁弁CV−2の開度が小さくなるにつれて、第1燃料の流量に対する第2燃料の流量の比が、大きくなる。制御装置6は、第1電磁弁CV−1及び第2電磁弁CV−2を制御することによって、第1燃料の流量に対する第2燃料の流量の比R21を維持又は変更できる。
【0037】
R21=V2/V1。V1:第1燃料の流量、V2:第2燃料の流量。
【0038】
比R21が大きくなるにつれて、冷却のみを受ける第2燃料の割合が大きくなる。つまり、エンジン2によって加熱される燃料(第1燃料)の流量を増大させることなく、熱交換器51、52を通過する燃料(第1燃料+第2燃料)の流量が増大している。このため、燃料の冷却のために冷媒の温度を過剰に低下させる必要がなく、チラー5の出力を最大限に効率的に利用することができる。
【0039】
燃料の温度を効率的に低下させることができるので、キャビテーションの発生も防止できる。
【0040】
本実施形態では、同一のチラー5により、2つの熱交換器51、52を冷却している。この構成に代えて、熱交換器毎にチラーが設けられても良い。
【符号の説明】
【0041】
1 燃料回路
1a 分岐部
1b 合流部
2 エンジン
3 燃料タンク
4 高圧ポンプ(フィードポンプ)
5 チラー
6 制御装置
10 供給ライン
11 第1サブ供給ライン
12 第2サブ供給ライン
13 第3サブ供給ライン
14 第4サブ供給ライン
20 リターンライン
21 第1サブリターンライン
22 第2サブリターンライン
23 第3サブリターンライン
24 第4サブリターンライン
30 バイパスライン
31 第1サブバイパスライン
32 第2サブバイパスライン
41 第1圧力調整弁
42 第2圧力調整弁
43 逆止弁
51 第1熱交換器
52 第2熱交換器
CV−1 第1電磁弁
CV−2 第2電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクからDMEエンジンにDME燃料を供給する供給ラインと、
前記DME燃料を前記供給ラインに沿って送り出すフィードポンプと、
前記DMEエンジンから前記燃料タンクに前記DME燃料を戻すリターンラインと、
前記供給ライン上に配置される、第1チラーの第1熱交換器と、
前記リターンライン上に配置される、第2チラーの第2熱交換器と、
前記供給ラインの前記第1熱交換器の下流側と、前記リターンラインの前記第2熱交換器の上流側とを連通接続する、バイパスラインと、
を備えている、DME燃料供給システム。
【請求項2】
前記供給ラインから前記バイパスラインが分岐する分岐部の下流側において、前記供給ライン上に配置される第1電磁弁と、
前記リターンラインに前記バイパスラインが合流する合流部の上流側において、前記リターンライン上に配置される第2電磁弁と、
を備えている、
請求項1に記載のDME燃料供給システム。
【請求項3】
第1チラー及び第2チラーが同一のチラーであり、
前記同一のチラーが、前記第1熱交換器及び前記第2熱交換器の双方に、冷却用の冷媒を供給する、
請求項1又は2に記載のDME燃料供給システム。
【請求項4】
燃料回路を通じて燃料タンクとDMEエンジンとを循環するDME燃料の冷却方法であって、
前記燃料タンクから送り出された前記DME燃料を冷却する、第1冷却工程と、
前記第1冷却工程の後に、前記DME燃料を、前記DMEエンジンを経由させる第1燃料と、前記DMEエンジンを経由させない第2燃料とに分配する、分配工程と、
前記DMEエンジンを経由した前記第1燃料と、前記第2燃料とを合流させる、合流工程と、
前記合流工程において合流したDME燃料を冷却する、第2冷却工程と、
を備えている、
DME燃料の冷却方法。
【請求項5】
前記分配工程において、前記第1燃料の流量に対する前記第2燃料の流量の比を、維持又は変更する、
請求項4に記載のDME燃料の冷却方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−21556(P2011−21556A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167931(P2009−167931)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)