説明

DNAポリメラーゼに対する結合・阻害核酸リガンド

【課題】ポリメラーゼ・チェーン反応(PCR)に有用な、熱安定性DNAポリメラーゼに対する核酸リガンドの提供。
【解決手段】熱安定性DNAポリメラーゼに、室温においては該ポリメラーゼを阻害できるが、PCRプロセスの高温サイクルでは該ポリメラーゼの活性化を可能にする核酸リガンドを添加する工程を含む、PCRを実施するための改良方法であって、a)増幅すべき核酸配列を含有するサンプルを、増幅すべき配列に隣接する配列と相補性であるプライマー、熱安定性ポリメラーゼ、および室温においてはポリメラーゼを阻害できるがPCRプロセスの高温サイクルではポリメラーゼの活性化を可能にする核酸リガンドを混合し、b)混合物の温度サイクリングによって標的核酸の溶融、標的核酸に対するプライマーのアニーリング、および標的核酸の合成の標準PCR工程を実施することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
DNAポリメラーゼに対する結合・阻害核酸リガンド
発明の分野
本発明は、DNAポリメラーゼ、とくに熱安定性DNAポリメラーゼに対する高親和性核酸リガンドの同定ならびに製造方法に関する。好ましい実施態様においては、DNAポリメラーゼは、Taqポリメラーゼ、Thermus aquaticusから単離される熱安定性ポリメラーゼもしくはTthポリメラーゼ、Thermus thermophilusから単離される熱安定性DNAポリメラーゼおよび逆転写酵素より選択される。しかしながら、本発明の方法は、任意の熱安定性DNAポリメラーゼの同定および製造に拡大することができる。このような核酸リガンドの同定に本発明で用いられる方法は、SELEX(セレックス)法と呼ばれ、これは指数関数的濃縮による核酸リガンドの系統的発生(Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)の頭文字による造語である。本明細書にはまた本発明の核酸リガンドを用いるポリメラーゼ・チェーン反応の実施のための改良方法が記載される。本明細書にはとくに、TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対する高親和性核酸リガンドが開示される。本発明はTaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに結合し、その結果、それらの常温におけるポリメラーゼDNA合成能を阻害する高親和性DNAリガンドを包含する。本発明にはさらに核酸スイッチが包含される。本発明のDNAポリメラーゼに対する核酸リガンドの熱依存性結合は、その所望の性質が様々な反応条件に基づき、オンとオフに切替えることができるリガンドの例である。
発明の背景
ポリメラーゼ・チェーン反応(PCR)は最近開発された技術であり、科学の多くの領域に重要な影響を与えてきた。PCRは、標的DNA配列を指数関数的様式で特異的に増幅させる迅速かつ簡単な方法である「Saikiら(1985)Science230:1350;Mullis & Faloona(1987)Methods Enzymol.155:335]。
略述すれば、この方法は、標的配列に隣接するDNAに相補性のヌクレオチド配列を有するプライマーのセットを合成することから構成される。これらのプライマーをついで標的DNA,熱安定性DNAポリメラーゼおよび4種すべてのデオキシヌクレオチド(A,T,CおよびG)の溶液と混合する。この溶液を次に、DNAの相補性の鎖が分離するのに十分な温度(約95℃)に加熱し、続いてプライマーの隣接配列への結合を可能にするのに十分な温度に冷却する。反応混合物をついで再び加熱して(約72℃)DNA合成を進行させる。短時間後に、反応混合物の温度をもう一度、新たに形成された二本鎖DNAが分離するのに十分な温度に上昇させ、これでPCRの最初のサイクルが完了する。反応混合物をついで冷却し、このサイクルを反復する。すなわち、PCRは、DNAの溶融、アニーリングおよび合成の反復サイクルから構成される。20回の反復サイクルにより標的DNA配列の100万倍までの増幅が達成できる。PCRによる単一DNA分子の増幅能は環境および食品微生物学「Wernarsら(1991)Appl.Env.Microbiol.57:1914−1919;Hill & Keasler(1991)Int.J.Foof Microbiol.12:67−75],臨床微生物学[Wagesら(1991)J.Med.Virol.33:58−63;Sacramentoら(1991)Mol.Cell Probes:229−240;Laureら(1988)Lancet:538],腫瘍学[Kumar & Barbacid(1988)Oncogene:647−651;McCormick(1989)CancerCells:56−61;Crescenziら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:4869],遺伝疾患の予知[Handysideら(1990)Nature344:768−770],血液の保存[Jackson(1990)Transfusion30:51−57],および法医学[Higuchiら(1988)Nature(London)332:543]に適用されている。
TaqDNAポリメラーゼのような熱安定性DNAポリメラーゼの利用によりPCRには単純化と改良の両者が達成された。PCRには元来大腸菌DNAポリメラーゼのような熱感受性ポリメラーゼのみが利用されていた。しかしながら、二本鎖DNAを溶融するために必要な温度では、熱感受性ポリメラーゼは破壊され、各PCRサイクル後にさらにポリメラーゼを添加しなければならない。好熱菌Thermus aquaticusから単離されるTaqDNAポリメラーゼは95℃まで安定で、そのPCRにおける使用は各熱サイクル後に熱感受性ポリメラーゼを反復添加する必要を排除することになった。しかもTaqポリメラーゼは高温で使用できるので、PCRの特異性および感度が改善された。特異性が改善される理由は、高温では所望部位以外の部位へのプロモーターの結合(ミスプライミングと呼ばれる)が有意に低下するからである。
ポリメラーゼ・チェーン反応は、その発見以来、様々な適用のために改良されてきた。たとえば、インシトゥPCRは従来のインシトゥハイブリダイゼーションの検出限界を単一コピーのレベルまで上昇させ[Haaseら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:4971−4975]、PCRによる増幅の前に逆転写酵素(RT)でRNA配列をそのコピーDNA(cDNA)に変える逆転写酵素PCR(RT−PCR)はRNAをPCR基質とすることを可能にした[Kawasaki(1991)Amplification of RNA inPCP ProtocolsA Guide to Methods and Applications,Innisら編,Academic Press Inc.,San Diego,CA,21−27頁]。しかしながら、中温性のウイルス逆転写酵素はRNA分子の安定な二次構造を「読み通す」ことができないので完全長cDNA分子の合成は不能な場合が多い。この限界は最近Thermus thermophilusから単離されるポリメラーゼ(Tthポリメラーゼ)の使用によって克服された。Tthポリメラーゼは逆転写酵素およびDNAポリメラーゼの両者として機能できる熱安定性ポリメラーゼである[Myers & Gelfand(1991)Biochemistry30:7662−7666]。Tthポリメラーゼを用いて高温で行われる逆転写は鋳型RNAの二次構造を排除して、完全長cDNAの合成を可能にする。
PCR技術には有意義な進歩が達成されてきたものの、副反応たとえばバックグランドDNAのミスプライミングおよび/またはプライマーのオリゴマー化による非標的オリゴヌクレオチドの増幅は依然として重大な問題である。これはとくに、バックグランドDNAを含む環境内でPCRが行われ、一方標的DNAは単一コピーで存在する診断的適用の場合に問題である[Chouら(1992)Nucleic Acids Res.20:1717−1723]。これらの副反応は、熱サイクリングを開始する前にすべての試薬を室温で混合すると頻発することが確認されている。
これらの副反応を最小限にする2つの方法が報告されている。第一の方法は、「熱時開始(hot start)」PCRと呼ばれ、試薬のすべてを、最終試薬、通常はポリメラーゼの添加前に72℃に加熱する[Chouら(1992)Nucleic Acids Res.20:1717−1723;D’Aquilaら(1991)Nucleic Acids Res.19:3749]。ワックス媒介「熱時開始」PCRにおいては、ポリメラーゼ活性に必要な成分(単数または複数)はワックス層によって低温時には反応混合物の残部から物理学的に分離され、この層が最初のサイクルにおける加熱に際して溶融する[Chouら(1992)Nucleic Acids Res.20:1717;Hortonら(1994)Bio Techniques16:42]。この「熱時開始」PCRにはある種の欠点がある。熱サイクルの開始前に試験管を再び開栓する必要から乗換え汚染が増大し、ピペット操作の反復は大量のサンプル操作を冗長にする。他のすべての反応成分とともに反応混合物中に直接加えることが可能で、室温においてポリメラーゼを阻害できる試薬があれば、「熱時開始」PCRに伴う制限の克服に有用であろう。この方法は特異性を増大させ、それにより副産物を減少させるが、多数のサンプルの取扱いには不便であり、反応混合物は汚染されやすく、この方法ではエラーを生じがちである。
第二の方法では、Taqポリメラーゼに対する中和抗体(TaqStartと呼ばれる)が完全反応混合物に添加される。この抗体は室温でポリメラーゼ活性を阻害する[Kelloggら(1994)Bio Techniques16:1134−1137]が、反応物が熱サイクルに付されると熱変性によって不活性化し、ポリメラーゼは活性になる。副産物を減少させるこのアプローチの欠点は、抗−Taq抗体は使用まで−20℃に保存しなければならず、これは検出キットを制御された環境下に包装し、輸送しなければならず、経費が上乗せされることを意味する。さらに、1回のPCRにかなりの量の抗体(約1μg抗体/5U Taqポリメラーゼ)が必要である。
熱安定性TaqおよびTthポリメラーゼを阻害できる高親和性核酸リガンドが開発されれば、「熱時開始」法の必要性は除去され、第二の方法に伴う制限は克服されることになる。著しく特異的で高親和性の核酸阻害剤の開発は可能である。核酸は室温ではタンパク質よりも安定で、抗体の使用に伴う輸送および包装の問題も克服できる。さらに抗体と同様、高温ではポリメラーゼに対する親和性を失い、所望の時点でのポリメラーゼの活性化を可能にする核酸が同定できる。核酸ベースの阻害剤がそれ自身、PCRにおいてプライマー(反応に用いられる特異的プライマーに加え)として機能することにより生じるミスプライミングの可能性はそれらの3’末端のキャッピングによって排除できる
数種のDNAポリメラーゼのX−線結晶構造はそれらが類似の三次元構造にフォールディングされることを指示している[総説としてJoyce&Steitz(1994)Annu.Rev.Biochem.63:777参照]。重合に関与するC−末端ドメインは構造的に右手に類似し、「掌部」、「4指」および「親指」に相当する3つのサブドメインに編制されている。TthポリメラーゼとTaqポリメラーゼは、アミノ酸配列レベルで93%の類似性および88%の同一性を有する[Abramson(1995)inPCR Strategies(Academic Press,New York)]。両者ともに3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を欠くが、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性はもっている[Abramson(1995)inPCR Strategies(Academic Press,New York),ならびにTindall & Kunkel(1988)Biochemistry27:6008]。したがって、核酸リガンド阻害剤はこれらの酵素の両者に対し、また他の熱安定性ポリメラーゼに対しても同様に挙動することが期待される。これは多数の熱安定性酵素に対して単一の阻害剤の使用を可能にするものである。
セレックス
標的分子に対し高度な特異的結合性をもつ核酸リガンドのインビトロ発生法が開発されている。この方法,Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的発生)はSELEX(セレックス)と呼ばれ、現在は放棄された米国特許出願一連番号第07/536,428号(発明の名称:Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)、1991年06月10日付で出願された米国特許出願一連番号第07/714,131号(発明の名称:Nucleic Acid Ligands)、現在は米国特許第5,475,096号、1992年08月17日に出願された米国特許出願一連番号第07/931,473号(発明の名称:Nucleic Acid Ligands)、現在は米国特許第5,270,163号(PCT/US第91/04078号も参照)に記載されている。これらはいずれも引用により本明細書にとくに導入される。本明細書において包括的にセレックス特許出願と呼ばれるこれらの各出願には、任意所望の標的分子に対する核酸リガンドを作成する基本的に新規な方法が記載されている。
セレックス法は、実際に任意所望の規準の結合親和性および選択性を達成するために同一の一般的選択スキームを用い、候補オリゴヌクレオチドの混合物からの選択、ならびに結合、分配および増幅の段階的反復を包含する。核酸混合物、好ましくは無作為化された配列のセグメントからなる混合物に出発し、セレックス法は、混合物を標的と、結合に有利な条件下に接触させ、標的分子に特異的に結合した核酸から非結合核酸を分配し、核酸−標的複合体を解離させ、核酸−標的複合体から解離した核酸を増幅させ、リガンドが濃縮された核酸混合物を得て、ついで結合、分配、解離および増幅の工程を所望の回数再反復して、標的分子に対して高度に特異的な高度に親和性の核酸リガンドを得る工程を包含する。
基本セレックス法は多くの特定の目的を達成するために改良されてきた。たとえば、1992年10月14日に出願された米国特許出願一連番号第07/960,093号(発明の名称:Method for Selecting Nucleic Acids on the Basis of Structure)には特異的な構造特性を有する核酸分子たとえばベントDNAを選択するためのゲル電気泳動と組合わせたセレックスの使用が記載されている。1993年09月17日に出願された米国特許出願一連番号第08/123,935号(発明の名称:Photoselection of Nucleic Acid Ligands)には、標的分子に対する結合および/または光架橋および/または光不活性化を可能にする光反応基を含有する核酸リガンドを選択するセレックスに基づく方法が記載されている。1993年10月07日に出願された米国特許出願一連番号第08/134,028号(発明の名称:High−Affinity Nucleic Acid Ligands That Discriminate Between Theophylline and Caffein)には、きわめて類似した分子間の識別が可能な高度に特異的な核酸リガンドを同定する、カウンターセレックス(Counter−SELEX)と呼ばれる方法が記載されている。1993年10月25日出願の米国特許出願一連番号第08/143,564号(発明の名称:Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment:Solution SELEX)には、標的分子に対して高親和性および低親和性を有するオリゴヌクレオチドの間の高度に効率的な分配を達成するセレックスに基づく方法が記載されている。1992年10月21日付出願の米国特許出願一連番号第07/964,624号(発明の名称:Methods of Producing Nucleic Acid Ligands)、現在は米国特許第4,496,938号には、セレックスの実施後に、改良された核酸リガンドを得る方法が記載されている。1995年03月08日付で出願された米国特許出願一連番号第08/400,440号(発明の名称:Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment:Chemi−SELEX)には、リガンドをその標的に共有結合させる方法が記載されている。
セレックス法は、リガンドに対して改良された特性、たとえばインビボ安定性の改良または送達特性の改良を付与する修飾ヌクレオチドを含む高親和性核酸リガンドの同定を包含する。このような修飾の例には、リボースおよび/またはホスフェートおよび/または塩基位置の化学的置換が包含される。修飾ヌクレオチドを含有し、セレックスで同定される核酸リガンドは、1993年09月08日出願の米国特許出願一連番号第08/117,991号(発明の名称:High Affinity Nucleic Acid Ligands Containig Modified Nucleotides)にピリミジンの5−および2’−位が化学的に修飾されたヌクレオチド誘導体を含むオリゴヌクレオチドが記載されている。上記米国特許出願一連番号第08/134,028号には2’−アミノ(2’−NH),2’−フルオロ(2’−F)および/または2’−O−メチル(2’−OMe)により修飾された1もしくは2個以上のヌクレオチドを含有する高度に特異的な核酸リガンドが記載されている。1994年06月22日出願の米国特許出願一連番号第08/264,029号(発明の名称:Novel Method of Preparation of 2’Modified Pyrimidine Intramolecular Nucleophilic Displacement)には様々な2’−修飾ピリミジンを含有するオリゴヌクレオチドが記載されている。
セレックス法は、1994年08月02日出願の米国特許出願一連番号第08/284,063号(発明の名称:Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment:Chimeric SELEX)ならびに1994年04月28日に出願された米国特許出願一連番号第08/234,997号(発明の名称:Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment:Blended SELEX)にそれぞれ記載されているように、選ばれたオリゴヌクレオチドの、他の選ばれたオリゴヌクレオチドおよび非オリゴヌクレオチド機能性単位との結合を包含する。これらの出願は、オリゴヌクレオチドの広範囲の形状および他の性質、ならびに効率的な増幅および複製特性を、他の分子の望ましい性質と組合わせることを可能にする。基本的セレックス操作の修飾を記述する上記特許出願はそれぞれ引用によりそれらの全体が本明細書にとくに導入される。
発明の簡単な概要
本発明は、DNAポリメラーゼに対する核酸リガンドの同定および製造方法を包含する。とくに、ポリメラーゼ・チェーン反応に有用な熱安定性DNAポリメラーゼ、たとえばTaqおよびTthポリメラーゼに対する核酸リガンドの同定方法、ならびにこのようにして同定および製造された核酸リガンドに関する。さらに詳しくは、TaqおよびTthポリメラーゼそれぞれに特異的に結合することが可能であり、それによりDNAの合成を触媒するそれらの能力を室温で阻害できるDNA配列が提供される。本発明の方法は、任意の熱安定性DNAポリメラーゼに対する核酸リガンドの同定および製造、ならびにこのようにして同定および製造されたリガンドに拡大できる。
本発明はさらにTaqおよびTthポリメラーゼに対する核酸リガンドおよび核酸リガンド配列を同定する方法において、(a)核酸の候補混合物を調製し、(b)TaqまたはTthポリメラーゼに対する親和性に基づいて上記候補混合物の間の分配を行い、ついで(c)選択された分子を増幅させて、TaqおよびTthポリメラーゼそれぞれに比較的高い親和性で結合する核酸配列が濃縮された核酸の混合物を得る工程からなる方法を包含する。
本発明はさらに、ポリメラーゼ・チェーン反応を実施する改良方法であって、熱安定性ポリメラーゼを室温で阻害するが高温ではポリメラーゼから解離する核酸リガンドを含有させる工程からなる方法を包含する。このような核酸リガンドは本発明の方法によって同定される。
さらに特定すれば、本発明は上述の方法によって同定されるTaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対するssDNAリガンド、たとえば表2〜5に掲げたリガンド(配列番号:7〜73)を包含する。また、上述の与えられた任意のリガンドと実質的に相同で、TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに結合してその活性を阻害する実質的に同じ能力を有するTaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対するDNAリガンドも包含される。本発明はさらに、本明細書に提示されたリガンドと実質的に同一の構造型を有し、TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに結合してその活性を阻害する実質的に同じ能力を有するTaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対するDNAリガンドも包含する。
本発明はまた、本発明において同定されたDNAリガンドに基づき修飾されたヌクレオチド配列およびその混合物を包含する。
本発明の核酸リガンドは、反応混合物の温度に依存してポリメラーゼ・チェーン反応を「オン」または「オフ」に切替える「スイッチ」として機能することができる。本発明はしたがって、スイッチとして機能する核酸リガンド配列の同定および調製方法において(a)核酸の候補混合物を調製し、(b)TaqまたはTthポリメラーゼに対する親和性に基づいて上記候補混合物のメンバー間の分配を行い、ついで(c)選択された分子を標的分子を使用して増幅させ、TaqおよびTthポリメラーゼそれぞれに増幅温度以下の温度でのみ比較的高い親和性で結合する核酸配列に富む核酸混合物を得る工程からなる方法も包含する。
本発明はしたがって、核酸スイッチの同定方法を包含する。核酸スイッチは、核酸の所望の性質がある環境パラメーターの操作に依存してオンまたはオフにスイッチできる、セレックス法によって同定される核酸である。核酸スイッチは、反応メジウムパラメーターの変化に基づき、逆の結果−多くの場合標的への結合に関して−を与える核酸が選択されるようにセレックス分配工程を操作することによって同定される。この場合の例としては、温度に基づいてオンまたはオフに切替わる核酸スイッチが例証されるが、本発明の方法は温度以外の条件、それらに限定されるものではないが、pH,特定のイオンすなわちMg++の濃度に基づきスイッチとして機能する核酸リガンドの同定および調製に拡張できる。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、Taqポリメラーゼに対して12ラウンドのセレックス後の濃縮されたDNAプール(○)および選択されていないDNAのランダムプール(●)の結合親和性を示す。図1BはTthポリメラーゼに対して10ラウンドのセレックス後の濃縮されたDNAプール(○)および選択されていないDNAのランダムプール(●)の結合親和性を示す。
図2Aは、Taqポリメラーゼに対して濃縮されたDNAプール(○)およびTthポリメラーゼに対して濃縮されたDNAプール(●)のTthポリメラーゼに対する交叉結合分析を示す。図2Bは、Taqポリメラーゼについて濃縮されたDNAプール(○)、およびTthポリメラーゼについて濃縮されたDNAプール(●)のTaqポリメラーゼに対する交叉結合分析を示す。
図3Aは、Taqポリメラーゼに対するリガンド30(●)ならびにリガンド21(○)の結合曲線を表示する。図3Bは、Tthポリメラーゼに対するリガンド30(●)ならびにリガンド21(○)の結合曲線を表示する。
図4Aは、DNAの重合を例示する。
図5Aは、様々な温度および様々なインキュベーション時間で実施したTaqおよびTthポリメラーゼのポリメラーゼ活性アッセイを例示する。DNAは変性条件下15%ポリアクリルアミドゲル上で分割する。パネルAは、TaqポリメラーゼおよびTaqポリメラーゼについて選択された濃縮プールで得られたデータであり、一方パネルBはTthポリメラーゼおよびTthポリメラーゼについて選択された濃縮プールで得られたデータである。非処置、5’−末端標識DNAヘアピン鋳型(レーン1)、ポリメラーゼを欠く反応混合物中の標識鋳型(レーン2)、濃縮プールの不存在下(レーン3)および存在下(レーン4)における完全反応混合物の室温での25分間インキュベーションの結果を示す。レーン5,6および7は濃縮プールの存在下における完全反応混合物のそれぞれ37℃,50℃および60℃での5分間インキュベーションの結果をを示す。レーン8および9は濃縮プールの存在下(レーン8)および不存在下(レーン9)における完全反応混合物の70℃での5分間インキュベーションの結果を示す。レーン10は末端標識プールDNAのゲル移動度を示す。ゲルの右側の表示は、出発した短い末端標識DNAおよびポリメラーゼ伸長生成物の位置を示す。
図5Bおよび5Cは、3つの異なる温度で実施されたTaqおよびTthポリメラーゼについての第二のポリメラーゼ活性アッセイを例示する。DNAは変性条件下15%ポリアクリルアミドゲル上で分割する。図5BのデータはTaqポリメラーゼによって得られ、図5CのデータはTthポリメラーゼによって得られた。レーン1〜3はそれぞれ室温、30℃および37℃での5分間インキュベーションにより阻害剤の不存在下に得られた生成物を示す。レーン4〜6は選択されていないランダム配列プールで得られたデータを示し、レーン7〜9はTaqポリメラーゼについて濃縮されたプールと、レーン10〜12はTthポリメラーゼについて濃縮されたプールと、レーン13〜15はTaqstart抗体と、指示された3種の温度で5分間インキュベートして得られたデータを示す。ゲルの右側の表示は出発した短い末端標識DNAおよびポリメラーゼ伸長生成物を示す。
図5Dおよび5Eは、変性条件下15%ポリアクリルアミドゲル上で分割されたTaqおよびTthポリメラーゼについての第三のポリメラーゼ活性アッセイを例示する。図5Dは熱サイクルに付していない濃縮プールの存在下でのTaqポリメラーゼの活性を示し、一方図5Eは熱サイクルに付した濃縮プールの存在下におけるTaqポリメラーゼの活性を表示する。レーン1〜5はそれぞれ20℃,25℃,30℃,35℃および40℃における5分間のインキュベーション時に形成された生成物の量を指示する。レーン6〜10は濃縮プールの存在下、それぞれ20℃,25℃,30℃,35℃および40℃での5分間のインキュベーション時のTaqポリメラーゼの活性を表示する。右側の表示は出発した短い末端標識DNAおよびポリメラーゼ伸長生成物を示す。
図6は、リガンドTQ30(配列番号:50)およびTQ21(配列番号:59)によるTaqポリメラーゼ(図6A)およびTthポリメラーゼ(図6B)の阻害に対する温度の影響を示す(レーン1〜10)。DNAは変性条件下10%ポリアクリルアミドゲル上で分割する。レーン11〜15は阻害剤の不存在下における生成物の形成を示している。オートラジオグラムの右側にはポリメラーゼ伸長前後の5’−標識鋳型を模式的に示す。図6Cおよび6DはそれぞれTaqポリメラーゼ(図6C)およびTthポリメラーゼ(図6D)を用いリガンドTQ21(○)およびリガンドTQ30(●)の存在下に形成された生成物の百分率を示す。生成物の量はリン光イメージアナライザーにより定量し、同温度で阻害剤の不存在下に形成した生成物に正規化して生成物の百分率(図6Cおよび6D−縦軸)を得た。
図7はリガンドTQ30(配列番号:50)によるTaqポリメラーゼの可逆性阻害を例示する。DNAは変性条件下10%ポリアクリルアミドゲル上で分割する。レーン1〜5は阻害剤の不存在下に20〜40℃でインキュベートして得られた生成物を示す。レーン6〜10は熱サイクルに付していないTQ30の存在下(図7A)および25ラウンドの熱サイクルに付したリガンドTQ30の存在下に20〜40℃においてインキュベートして形成した生成物を示す。
図8は、リガンドTQ30(配列番号:50)(●)およびリガンドTQ21(配列番号:59)(○)によるTaqポリメラーゼ(図8A)およびTthポリメラーゼ(図8B)の阻害に対するリガンド濃度の影響を示す。鋳型伸長アッセイにおいて存在させる阻害剤の濃度を変動させて、形成する生成物の量をリン光イメージアナライザーによって定量し、阻害剤の不存在下に形成した生成物に正規化して生成物の百分率(縦軸)を得た。
図9は、l置換鎖との2ステムループが予測される97−ヌクレオチドDNA配列(Exo−Sub)[5’−TTCGAGCGTGAATCTGAATTCGCGGCTAGCCAGCTTTTGCTGGCTAGCCGCGGTGGGAAACTGAGGTAGGTGTTTTCACCTACCTCAGTTTCCCACC−3’(配列番号:75)]の、TaqおよびTthポリメラーゼ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって触媒される切断を模式的に例示する。フォールディングした配列の極性は小矢印により指示する。DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性によって仲介される切断は、置換鎖とヘリックスの接合部付近で起こることが期待され、20−ヌクレオチドおよび77−ヌクレオチドの2つのDNAフラグメントを生じる。分子の2つの末端の黒丸は放射標識を指示する。
図10は、標準PCR増幅、「熱時開始」PCRならびにオリゴヌクレオチド阻害剤TQ30およびTQ21の存在下におけるPCR増幅(”NeXstart PCR”)を用いる低コピー数標的の検出を例示する。図10Aは、約10および50コピーでの標的の検出において標準条件下に実施した増幅(レーン1〜3)と「熱時開始」PCRの場合(レーン4〜6)の比較を例示する。図10Bは、約10および50コピーでの標的の検出において、非特異的(NS)オリゴヌクレオチドの存在下に実施したPCR増幅(レーン1〜3)と、TQ21(レーン4〜6)およびTQ30(レーン7〜9)の存在下の場合の比較を例示する。図10Cは、数の極めて少ない標的コピー(数を表示)の、オリゴヌクレオチド阻害剤TQ21およびTQ30の存在下における検出を例示する。(B)および(C)いずれにおいても、オリゴヌクレオチド阻害剤は50nMの濃度で使用した。Mは分子量スタンダードを示す。各パネル中の矢印はゲル中の標的特異的203 bp DNAの位置を指示する。
図11は、Taqポリメラーゼの活性に及ぼす頭部切断リガンド、Trunc.1−30(配列番号:75)(●)、Trnc.2−30(配列番号:76)(■)およびTrnc.3−30(配列番号:77)(▲)の濃度の影響を示す。様々な濃度の阻害剤の存在下に形成した生成物の量をリン光イメージアナライザーによって定量し、阻害剤の不存在下に形成した生成物の量に正規化して生成物の百分率(縦軸)を得た。
図12はStoffelフラグメントの活性に及ぼす頭部切断リガンド、Trunc.1−30(●)、Trnc.2−30(■)およびTrnc.3−30(▲)の阻害剤濃度の影響を表示する。様々な濃度の阻害剤の存在下に形成した生成物の量をリン光イメージアナライザーによって定量し、阻害剤の不存在下に形成した生成物の量に正規化して生成物の百分率(縦軸)を得た。
図13は頭部切断リガンドTrnc.21(配列番号:70)の親和性および阻害特性を例示する。図13AはリガンドTrnc.21のTaqポリメラーゼに対する結合曲線を示す。図13BはTaqポリメラーゼ(●)およびTthポリメラーゼ(○)の活性に及ぼすTrnc.21の濃度の影響を例示する。TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対するIC50値は、それぞれ21および36.5nMである。図13CはTrnc.21によるTaqポリメラーゼ(●)およびTthポリメラーゼ(○)の阻害に対する温度の影響を示す。与えられた温度において阻害剤の存在下に形成した生成物の量を同温度で阻害剤の不存在下に形成した生成物の量に正規化して生成物の百分率を得た。TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼの計算されたIT50値はそれぞれ34℃および35.6℃である。
図14はホモダイマー(D.30−D.30)(配列番号:71)の親和性および阻害特性を例示する。図14Aは、ホモダイマー(D.30−D.30)のTaqポリメラーゼに対する結合曲線を示す(K=47.5±5pM)。図14BはTaqポリメラーゼの活性に対するダイマー(●)およびモノマー(○)リガンド濃度の影響を示す。Trnc.2−30(モノマー)のIC50値は48nMであるのに対し、D.30−D.30(ダイマー)のIC50値は14nMである。
図15はヘテロダイマーD.21−D.30(配列番号:72)の阻害特性を例示する。図15AはTaqポリメラーゼ(●)およびTthポリメラーゼ(○)の活性に対するD.21−D.30の濃度の影響を例示する。これらの2種のポリメラーゼの阻害のIC5o値はほぼ30nMである。図15Bは、ヘテロダイマーD.21−D.30によるTaqポリメラーゼ(●)およびTthポリメラーゼ(○)の阻害に対する温度の影響を例示する。TaqポリメラーゼについてのIT50値は41℃であるのに対して、Tthポリメラーゼについての値は34.5℃である。
図16はTaqポリメラーゼへのTrnc.21の結合親和性に対するdNTPおよびヘアピン鋳型DNAの影響を例示する。図16Aは、1mM dNTPの存在下におけるTrnc.21のニトロセルロースフィルター結合分析である。黒丸(●)はヘアピンDNA鋳型の不存在下における結合を指示し、一方白丸(○)は250nMヘアピンDNA鋳型の存在下における結合を指示する。これらの条件下における計算K値は約2.5nMである。図16Bは、TaqポリメラーゼへのTrnc.21の結合に対するdNTP濃度の影響を例示する。この実験では、放射標識Trnc.21の1nM Taqポリメラーゼへの結合を様々な濃度のdNTPの存在下にモニターした。
発明の詳細な説明
本出願は、DNAポリメラーゼに対する核酸リガンドの単離を記述する。とくに本出願は、ポリメラーゼ・チェーン反応に有用な熱安定性ポリメラーゼに対する核酸リガンドの単離を記述する。好ましい実施態様においては、DNAポリメラーゼはTaqまたはTthポリメラーゼから選択される。しかしながら、本発明の方法は、任意の熱安定性DNAポリメラーゼに対する高親和性核酸リガンドの同定および精製に拡張することができる。核酸リガンドは、セレックスとして知られる方法によって同定される。セレックスは、現在は放棄された米国特許出願一連番号第07/536,428号(発明の名称:Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)、1991年06月10日に出願された米国特許出願一連番号第07/714,131号(発明の名称:Nucleic Acid Ligands)、現時点では米国特許第5,475,096号および1992年08月17日出願の米国特許出願一連番号第07/931,473号(発明の名称:Nucleic Acid Ligands)、現在米国特許第5,270,136号(PCT/US91/04078号も参照)に記載されている。これらの出願はいずれも引用により本明細書にとくに導入され、包括的にセレックス特許出願と呼ばれる。
その最も基本的な形態において、セレックス法は以下の一連の工程により定義することができる。
1)異なる配列の核酸の候補混合物を調製する。候補混合物は一般に、固定された配列の領域(すなわち、候補混合物の各メンバーは同一の位置に同一の配列を含有する)および無作為化された配列の領域を包含する。固定配列の領域は、(a)以下に記載する増幅工程を補助するため、(b)標的に結合することが既知の配列に類似させるため、または(c)候補混合物中の核酸の与えられた構造アレンジメントの濃度を増大させるためのいずれかで選択される。無作為化配列は全体に無作為化されていても(すなわち任意の位置におけるある塩基の存在確率は1/4である)または一部のみ無作為化されていても(すなわち任意の位置におけるある塩基の存在確率は0〜100%の任意のレベルに選択できる)よい。
2)候補混合物は選択された標的と、標的と候補混合物のメンバーの間の結合に好都合な条件下に接触させる。このような環境下には標的と候補混合物の核酸の間の相互作用は、標的とその標的に最高の親和性を有する核酸との間の核酸−標的ペアを形成すると考えることができる。
3)標的に対して最高の親和性を有する核酸を、標的に対する親和性がより低い核酸から分配する。最高の親和性核酸に相当する配列は、候補混合物中には極めて少数(多分、核酸1分子のみ)しか存在しないので、一般には、候補混合物中の有意な量の核酸(約5〜50%)が分配時に残存するように分配基準をセットすることが望ましい。
4)標的に対して比較的に高い親和性を有するとして分配時に選択された核酸をついで増幅し、標的に対して比較的に高い親和性を有する核酸が濃縮された新たな候補混合物が創成される。
5)上述の分配および増幅工程を反復することにより、新たに形成される候補混合物に含まれるユニークな配列の数は漸次減少し、標的に対する核酸の平均的親和性の程度は一般に上昇する。極端な場合を考えると、セレックス法では標的分子に最高の親和性を有する最初の候補混合物からの核酸である1種または少数種のユニークな核酸を含有する候補混合物が得られることになる。
セレックス特許出願には、この方法に関して詳細に記述され、精密化が行われている。この方法に使用できる標的、候補混合物内での核酸の分配方法および分配された核酸を増幅して濃縮された候補混合物を発生させる方法が包含されている。セレックス特許出願にはまた、タンパク質が核酸結合タンパク質である場合および核酸結合タンパク質でない場合の両タンパク質標的を含めて、多くの標的種に対して得られたリガンドも記載されている。
セレックス法は標的分子の高親和性リガンドを提供する。これは核酸研究分野には前例のない卓絶した業績である。本発明は、セレックス操作をDNAポリメラーゼとくにTaqおよびTthポリメラーゼの核酸阻害剤の特異的標的に適用するものである。以下の実施例の項には、TaqおよびTthポリメラーゼに対する核酸阻害剤の単離および同定に用いられる実験パラメーターを記述する。
1992年10月21日に出願された、係属中の共通して譲渡された米国特許出願一連番号第07/964,624号(’624)、現在は米国特許第5,496,938号には、セレックスを実施したのちに改良された核酸リガンドを得るための方法が記載されている。発明の名称:Methods of Producing Nucleic Acid Ligandsのこの’624出願は引用によりとくに本明細書に導入される。
本発明を説明するため本明細書で用いられる一部の用語を以下に定義する。
本明細書で用いられる「核酸リガンド」とは、標的に対して望ましい活性を有する天然に存在しない核酸である。所望の活性には、それらに限定されるものではないが、標的の結合、標的の触媒的変化、標的もしくは標的の機能的活性を修飾/変化させる様式での標的との反応、自殺阻害剤の場合のような標的への共有結合、標的と他の分子の間の反応の促進が包含される。好ましい実施態様においては、活性は標的分子に対する特異的結合親和性であり、この場合の標的分子は主としてワトソン・クリック型塩基対合または三重らせん結合に依存する機構を介して核酸リガンドに結合するポリヌクレオチド以外の三次元化学構造であり、核酸リガンドは標的分子により結合される既知の生理学的機能を有する核酸ではない。核酸リガンドには、与えられた標的のリガンドである核酸の候補混合物から、(a)核酸候補混合物に比較して標的に対する親和性が高い核酸が候補混合物の残部から分配できるように核酸候補混合物を標的と接触させ、(b)親和性が高い核酸を候補混合物の残部から分配し、ついで(c)親和性が高い核酸を増幅させてリガンドが濃縮された核酸混合物を得ることからなる方法によって同定される核酸が包含される。
「候補混合物」は、所望のリガンドを選択するための様々な配列の核酸の混合物である。候補混合物の起源は、天然に存在する核酸もしくはそれらのフラグメント、化学的に合成された核酸、酵素的に合成された核酸または上記技術の組合せにより作成された核酸とすることができる。好ましい実施態様においては、それぞれの核酸は、増幅過程を容易にするために、無作為化された領域を囲む固定された配列を有する。
「核酸」は、DNA,RNA,一本鎖または二本鎖およびそれらの任意の化学修飾体とすることができる。修飾にはそれらに限定されるものではないが、付加的な電荷、分極率、水素結合、静電相互作用および核酸リガンド塩基または核酸リガンド全体に対し流動性を導入する他の化学基を付与する修飾が包含される。このような修飾にはそれらに限定されるものではないが、2’−位置の糖修飾、5−位置のピリミジン修飾、8−位置のプリン修飾、環外アミンの修飾、4−チオウリジンの置換、5−ブロモまたは5−ヨードウラシルの置換、骨格の修飾、メチル化、イソ塩基のイソシチジンおよびイソグアニジンのような異常な塩基対合の組合せ等が包含される。修飾にはまた、3’と5’の修飾、たとえばキャッピングも包含される。
「セレックス」法は、標的と所望の様式で相互作用するたとえば、タンパク質に結合する核酸リガンドの選択と、これらの選ばれた核酸の増幅の組合せを包含する。選択/増幅工程の反復サイクリングにより、極めて多数の核酸を含有するプールから標的に最も強力に相互作用する1種または少数種の核酸の選択が可能になる。選択/増幅操作のサイクリングは選択された最終目標が達成されるまで続ける。本発明においては、セレックス法はTaqおよびTthポリメラーゼに対する核酸リガンドを得るために採用される。
セレックス法については、セレックス特許出願に記載されている。
「標的」とは、そのリガンドが求められる任意の関心化合物もしくは分子を意味する。標的は、タンパク質、ペプチド、炭水化物、多糖、糖タンパク質、ホルモン、受容体、抗原、抗体、ウイルス、基質、代謝物、遷移状態アナログ、補因子、阻害剤、薬物、染料、栄養物、増殖因子等とすることができ、制限はない。本出願においては、標的はDNAポリメラーゼである。好ましい実施態様においては、DNAポリメラーゼはTaqおよびTthポリメラーゼである。
本明細書において用いられる「不安定リガンド」とは、環境パラメーターの調整に基づいてその標的に対する親和性が著しく低下する、セレックス法で同定される核酸リガンドである。好ましい実施態様においては、環境パラメーターは温度であり、リガンドのその標的に対する親和性は高温では低下する。
本明細書において用いられる「DNAポリメラーゼ」とは鋳型としてDNAまたはRNA(逆転写酵素)を用いDNA鎖にデオキシリボヌクレオチド単位を付加することによるDNA合成を触媒する任意の酵素を意味する。熱安定性DNAポリメラーゼは、40℃以上の温度で生育する微生物から単離される。
「スイッチ」は、ある特定の反応条件(単数または複数)に依存して、反応を「オン」または[オフ」に切り替える機能を有する任意の化合物を意味する。本発明においては、核酸リガンドは反応温度に依存して、PCRを「オン」または「オフ」に切り替える機能を有する。スイッチは他の反応条件たとえばpH,イオン強度または特定のイオンの存在もしくは不存在に基づいて操作することができる。核酸スイッチは分配技術を適当に選択することによってセレックス法で同定することができる。分配パラメーターは所望のスイッチ特性をもつ核酸が選択されるように決定される。
本発明においては、セレックス実験は30ランダム位置(30N)を含有する縮重ライブラリーからTaqおよびTthポリメラーゼに対して特異的な高親和性を有する核酸を同定するために実施された(実施例1)。この目的では、RNAまたはDNAリガンドが同定できるが、以下の実施例ではDNAリガンドの同定を説明する。セレックス実験は低温(室温)でポリメラーゼに結合しそれを阻害するが、高温(>40℃)では結合、阻害しないオリゴヌクレオチドが同定されるように設計された。これは、PCRにおいて高温で親和性選択分子を増幅する標的ポリメラーゼを用いることによって達成された。このような条件下には、TaqおよびTthポリメラーゼを高温で阻害するDNA配列は、選択時に増幅および増殖することは期待されなかった。本発明は、実施例1に記載の方法で同定される、表2に示したTthポリメラーゼに対する特異的ssDNAリガンド(配列番号:7〜35)および表3に示したTaqポリメラーゼに対する特異的ssDNAリガンド(配列番号:36〜66,76,77)ならびに表4および5に示した核酸リガンド(配列番号:67〜74)を包含する。本発明はさらに、TaqおよびTthポリメラーゼの機能を阻害するTaqおよびTthポリメラーゼに対するDNAリガンドを包含する。
本発明によってカバーされるリガンドの範囲は、セレックス操作に従って同定される修飾および非修飾の、TaqおよびTthポリメラーゼのすべての核酸リガンドに拡張される。さらに特定すれば、本発明は表2〜5に示したリガンドに実質的に相同の核酸配列を包含する。実質的に相同とは、一次配列ホモロジーの程度が70%以上、とくに好ましくは80%以上であることを意味する。表2〜5に示したTaqおよびTthのリガンドの配列ホモロジーの検査から、一次ホモロジーをほとんどまたは全くもたない配列が、それぞれTaqおよびTthポリメラーゼに対して実質的に同じ能力を有する場合があることを示している。この理由から、本発明はまた、表2〜5に示した核酸リガンドと実質的に同じTaqおよびTthポリメラーゼに対する結合能を有する核酸リガンドも包含する。実質的に同じTaqおよびTthポリメラーゼに対する結合能とは、ここに記載のリガンドの親和性の大きさから数オーダーの範囲内の親和性を意味する。本明細書にとくに記載された配列と実質的に相同の与えられた配列が、それぞれTaqおよびTthポリメラーゼに対して実質的に同一の結合能を有するか否かの決定は十分に、本技術分野の通常の熟練者の技術の範囲内にある。
本発明はまた、上述のリガンドにおいて、他の熱安定性DNAポリメラーゼ、それらに限定されるものではないが、たとえば、Stoffelフラグメント、Tbrポリメラーゼ、TlfポリメラーゼおよびM−MLV逆転写酵素の機能を阻害する上述のリガンドも包含する。
本発明はまた、上述のリガンドにおいて、リガンドのインビボもしくはインビトロ安定性の増大、リガンドの結合または他の所望の特性もしくはリガンドの送達を増強または誘発するために、ある種の化学修飾が行われたリガンドを包含する。このような修飾の例には与えられた核酸配列の糖および/またはホスフェートおよび/または塩基位置での化学的置換が包含される。この点に関してはたとえば、1993年09月09日付出願の米国特許出願一連番号第08/117,991号(発明の名称:High Affinity Nucleic Acid Ligands Containing Modified Nucleotides)を参照されたい。この出願は引用により本明細書にとくに導入される。他の修飾は本技術分野の通常の熟練者には周知の通りである。このような修飾はポスト−セレックスによって(予め同定された非修飾リガンドの修飾)またはセレックス過程への導入によって行うことができる。
本明細書に記載されたTaqおよびTthポリメラーゼに対する核酸リガンドはポリメラーゼ・チェーン反応における試薬として有用である。
本発明は、ポリメラーゼ・チェーン反応を実施するための改良方法において、増幅すべき核酸配列を含有するサンプルを1)増幅すべき配列に隣接する配列に相補性のプライマー、2)熱安定性ポリメラーゼ、および3)室温でポリメラーゼを阻害できる核酸リガンドと混合する方法を包含する。核酸リガンド阻害剤は固体支持体上に固定化することができる。ついで、PCRの通常の工程−溶融、アニーリングおよび合成−を、混合物の熱サイクリングによって実施する。核酸リガンドの存在は、サイクリング前またはサイクリング時の低温での合成を防止することによって、混合物をバックグランドDNAの増幅から防止する。本発明にはまた、熱安定性DNAポリメラーゼおよび、このポリメラーゼを室温では阻害するが、PCR過程の高温サイクル時に起こる合成は可能にする核酸リガンドからなるPCRキットも包含される。本発明はまた、本技術分野の熟練者に理解されているPCRの改良方法であり、熱安定性DNAポリメラーゼに、このポリメラーゼを室温では阻害するがPCR過程の高温サイクル時に起こる合成は可能にする核酸リガンドを添加する工程を包含する。
TaqおよびTthポリメラーゼに対する核酸リガンド
実施例1にはTaqおよびTthポリメラーゼの両者に対する核酸リガンドの選択に用いられる実験操作を記述する。Tthポリメラーゼで実施した10ラウンドの選択から得られたssDNA配列は表2に掲げる。Tthポリメラーゼ選択からの29の各クローンを配列決定した(変動する30ヌクレオチド領域のみを表2に示す)。これらのリガンドは一次配列ホモロジーに基づいてファミリーにグループ分けされた。
Taqポリメラーゼについて実施した12ラウンドの選択から得られたssDNA配列は表3に掲げる。Taqポリメラーゼ選択から分析された52の配列中33がユニークであった。大文字は、5’−TTCTCGGTTGGTCTCTGGCGGAGC−および−TCTTGTGTATGATTCGCTTTTCCC−3’固定配列領域に隣接して完全長配列を形成する30−ヌクレオチドのランダム領域を示す。一部の配列中の小文字は5’−固定配列を示す。同一の配列をもつクローンの数を括弧内に指示する。配列は配列類似性に基づいて3つのファミリーにグループ分けされた。ファミリーIおよびIIにおいて保存されたモチーフは箱で囲んである。両ファミリーは異なるコンセンサス配列を含有する。ファミリーIについては5’−A/G/GTGTG/ACAGTAT/GC−3’,ファミリーIIについては5’−A/GCGTTTTG−3’である。ファミリーIにおいては、コンセンサス配列の5’および3’領域は互いに塩基対合の可能性を示した(表3中に下線を付す)。さらにこれらの領域に観察される共変動は、ステムループ構造の存在の可能性を示唆している。大部分のリガンドでは、塩基対合の可能性のある領域はコンセンサス配列を越えて伸長している。これに反し、ファミリーIIのリガンドは、明瞭な二次構造モチーフをもたない。
ファミリーIからのクローン30[TQ30(配列番号:50)]およびファミリーIIからのクローン21[TQ21(配列番号:59)]の典型的な結合曲線を図3に示す。いずれの場合もリガンドは2つのポリメラーゼに対して強固な結合を示して低ピコモル範囲のK値を有する。TQ30のK値は、Taqポリメラーゼについて40±1pM,Tthポリメラーゼについて28±4pMであり、TQ21の場合は、TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼについてそれぞれ36±4pMおよび10±2pMである。2つのファミリーから、さらに数種のリガンドをスクリーニングした。K値はTaqポリメラーゼについて0.04〜9nM,Tthポリメラーゼについて0.01〜0.3nMの範囲であった。
ポリメラーゼ阻害アッセイ:TaqおよびTthポリメラーゼ
実施例2(図5〜9)には多数のポリメラーゼ阻害アッセイについて記載し、本発明のリガンドが40℃未満の温度でTaqおよびTth両ポリメラーゼの相互作用を阻害できることが証明される。実施例2においては、設計されたヘアピンDNA[DAN−HP;5’−ATGCCTAAGTTTCGAACGCGGCTAGCCAGCTTTTGCTGGCTAGCCGCGT−3’(配列番号:6)]をDNAの濃縮プールの能力の測定のための鋳型として、またポリメラーゼ活性を阻害するためTaqポリメラーゼ選択からのリガンドTQ30(配列番号:50)およびTQ21(配列番号:59)を、様々な条件下に使用する。このアッセイは、フォールドバックDNAヘアピン上15ヌクレオチドの鋳型依存性充填合成を検出する。
図5Aは、様々な温度および様々なインキュベーション時間で、DNAリガンドの濃縮プールを使用して実施された阻害アッセイの結果を示す。TaqおよびTthポリメラーゼ両者の活性は、レーン3(室温における反応)とレーン6〜9(それぞれ50℃,60℃および70℃での反応)との比較から明らかなように一般に低温では低く、温度の上昇とともに上昇する。濃縮されたプールはそれらの各ポリメラーゼの活性を室温(レーン4)で阻害するが、50℃〜70℃では阻害しない。レーン10はポリメラーゼに鋳型として働くことができるプール中DNA分子の伸長の可能性を検出するための対照としての放射標識プールの移動度を示す。レーン6〜9において標識プールに接近してまたはその上部を移動する放射標識バンドがないことは、ssDNAプールの重合がないことを指示する。
熱安定性ポリメラーゼの室温における活性は低いことから、アッセイのインキュベーション時間を16時間に増大させた。図5Bおよび5Cは、選択されたプールおよびランダムプールの存在下に2種のポリメラーゼと鋳型の16時間インキュベーションの結果をを示す。さらに、選択されたプールによって誘導される阻害を、抗Taq抗体(TaqStart)の阻害と比較した。図5BのデータはTaqポリメラーゼについて得られ、図5CのデータはTthポリメラーゼについて得られた。検討した3種の温度、室温、30℃および37℃において、ランダムプールは2種のポリメラーゼに阻害を示さず(レーン1〜3とレーン4〜6と比較)、濃縮プールによって起こる阻害は配列特異的であることが示唆される。Taqポリメラーゼについて選択されたプールは、16時間のインキュベーションでポリメラーゼの活性を室温でのみ完全に阻害した(レーン7)が、30℃およびそれ以上では阻害しなかった(レーン8および9)。Tthポリメラーゼについて選択されたプールはTaqポリメラーゼに対し結合を示したが、Taqポリメラーゼを阻害することはできなかった(レーン10〜12)。期待されたようにTaqstart抗体は検討した3種すべての温度において、このポリメラーゼ活性を阻害した(レーン12〜15)。しかしながら、Tthポリメラーゼについて選択されたssDNAプールは16時間にわたるインキュベーションでこの酵素活性を阻害しなかった(レーン1〜3とレーン4〜6と比較)。これに反し、同じプールが短時間のインキュベーションではこの酵素活性を阻害することができた。Taqポリメラーゼについて選択されたプールは室温での16時間のインキュベーション時にわたりTth活性を部分的に(>50%)阻害できた(レーン10)。Taqstart抗体はTthの活性には何ら影響を示さなかった(レーン13〜15)。
Taqstart抗体の使用はPCR反応では1回に限られる。それは高温で変性すると、そのネイティブ型に再生することはできない。しかしながら、単純な二次構造を有する核酸リガンドは熱サイクルに付したのちにも、それらのネイティブな型に再生される可能性がある。Taqポリメラーゼについて選択されたDNAプールの阻害能力が加熱後に回復できるか否かを検討するために実験を実施した(図5Dおよび5E)。図5Dは、熱サイクルに付していない選択DNAプールによる20℃〜40℃でのTaq活性の阻害を示す。20℃および25℃において、45分間のインキュベーション時にこのプールはTaq活性を完全に阻害する。この比較的短いインキュベーション期間内に、このプールは30℃で>70%の阻害を示した。鋳型DNAの不存在下Taqポリメラーゼと2回のPCRサイクルに付したDNAプールでも極めて類似した阻害プロフィルを観察することができる。この結果は、ssDNAによって誘導される阻害は可逆的な温度感受性を示し、PCR後にも阻害が回復できることを証明するものである。
図6は配列TQ30(配列番号:50)およびTQ21(配列番号:59)(表4)がTaqおよびTthDNAポリメラーゼに対して阻害性である温度範囲を示す。この図に表示されたヘアピン伸長アッセイは250nMの各リガンド(レーン1〜10)を用いて1時間指示された温度で実施された。予期されたように、ssDNAリガンドは>40℃の温度でいずれのDNAポリメラーゼも阻害しなかった(図6Aおよび6B)。1時間アッセイ時に生成物の50%が発生する温度(IT50値)はリガンドTQ30の場合、TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対してそれぞれ41℃および29℃である。リガンドTQ21のそれぞれの値は37℃および29℃である。これらのポリマーに対する2つのリガンドの結合親和性は高温では低下し(データは示していない)、高温におけるそれらの阻害活性の低下と一致する。ヘアピン伸長アッセイにおいては、加えたヘアピン鋳型の約2%はDNAポリメラーゼによって伸長せず、これは多分、正しくないフォールディングによるものと思われる。
図7はリガンドTQ30(配列番号:50)によるTaqポリメラーゼの阻害が熱可逆性であり、PCR後でも回復できることを例示する。この図に示すヘアピン鋳型伸長アッセイは、リガンドTQ30の不存在下(レーン1〜5)および50nMの存在下(レーン6〜10)、5UのTaqポリメラーゼと10分間、反応容量100μLで指示した温度において実施した。図7Aでは、リガンドTQ30は熱サイクリングに付していなかった。図7Bでは、リガンドTQ30はTaqポリメラーゼと25ラウンドの熱サイクリング(90℃で30秒、50℃で1分、72℃で30秒)に付して放射標識ヘアピン鋳型(250nM)の添加前に室温に冷却した。図7から明らかなように、いずれの場合も、リガンドTQ30はポリメラーゼを40℃未満の温度で阻害した。さらに、熱サイクリングを受けたサンプルは、熱サイクリングに付されていないサンプルに比較して、同等またはより効率的な阻害を示した。
図8は、TaqおよびTthポリメラーゼの阻害に及ぼすリガンド濃度の影響を示す。ヘアピンアッセイにおいて50%の生成物を産生するのに必要な阻害剤の濃度(IC50値)は室温(約22℃)での16時間にわたるインキュベーション時におけるTaqポリメラーゼの阻害についてTQ30(配列番号:50)およびTQ21(配列番号:59)でそれぞれ、6.5nMおよび10nMであった(図8A)。アッセイに用いられたTaqポリメラーゼの濃度は12.5nMであることから、TQ30(配列番号:50)による酵素阻害は化学量論的結合の結果であると考えられる。30℃において1時間にわたりアッセイした場合、IC50値は約3倍まで上昇した(TQ30では22nM,TQ21では67nM;データは示していない)。Tthポリメラーゼの阻害におけるTQ30およびTQ21のIC50値は、室温でそれぞれ60および36nMであった(図8B)。これらのオリゴヌクレオチドは総体的に、選択に使用した酵素であるTaqポリメラーゼに対し、Tthポリメラーゼに対するよりも有効な阻害剤である。
鋳型の伸長の観察された阻害が選択されたリガンドのポリメラーゼに対する優先的な結合およびその結果、基質としての優先的な利用による可能性を排除するため、5’−末端放射標識TQ21およびTQ30リガンドを2種のDNAポリメラーゼとともに、16時間インキュベートした(実施例2,データは示していない)。リガンドTQ30はいずれの酵素とインキュベートしても伸長生成物を示さず、それはポリメラーゼの基質ではないことが指示された。しかしながら、TQ21は、より高分子量のバンドを与え、両ポリメラーゼとのインキュベート時に配列の伸長を指示した。観察されたTQ21の部分的な伸長は、標準条件を用いてエチレングリコールリンカーにより3’末端をキャッピングして3’−OHの利用を遮断することによって効果的に排除された。3’−がキャッピングされたオリゴヌクレオチド構築体はキャッピングされていない分子と同等に有効な阻害剤である(データは示していない)。これらの結果は、ssDNAリガンドがポリメラーゼ活性に対して貧弱な基質であり、これらの2種のリガンドはDNAポリメラーゼ上で異なる配置をとると思われることを指示している。TQ21はその3’末端が伸長できる(弱くではあるが)ようにポリメラーゼに結合するのに対し、TQ30は結合すると伸長できない。
親和性捕捉実験
核酸リガンドのTaqおよびTthポリメラーゼとの相互作用の熱可逆性は、1回の増幅後に次の増幅における再使用にポリメラーゼを捕捉するために、このようなリガンドで発生される親和性マトリックスの使用の可能性が提起される。親和性捕捉の可能性を検討するために、リガンドTQ30(配列番号:50)およびTQ21(配列番号:59)を含有する親和性ビーズを実施例1に記載のように調製した。ヘアピン含有PCR緩衝液中でヘアピン鋳型をTaqおよびTthポリメラーゼで伸長したのち、反応混合物を親和性ビーズまたは対照ビーズのいずれかと実施例2に記載のように混合し、ビーズを完全に洗浄し、ついでポリメラーゼを除くすべての試薬を含有する反応混合物の新鮮なアリコートに暴露した。さらに5分間70℃でインキュベートして新たに添加した鋳型上で伸長させたのち、反応混合物を変性条件下に8%ポリアクリルアミドゲル上で分析した。対照ビーズを含む反応混合物中においては、増幅の第2ラウンドでは鋳型の伸長はない。これに反して、親和性ビーズを含む反応混合物中では、第1ラウンドおよび第2ラウンドの増幅の両者に伸長生成物の差はなく、リガンドTQ30(配列番号:50)およびTQ21の両者を含む親和性ビーズが、第1ラウンドのPCR後も2種のポリメラーゼを効果的に捕捉することを指示している。
TaqおよびTthポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性に及ぼすリガンドTQ30およびTQ21の影響
上述のように、TaqおよびTthポリメラーゼの両者は、ポリヌクレオチド合成を触媒する能力に加えて、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性も有する[Joyce & Steitz(1987)Trends Biochem.Sci.12:288;Longleyら(1990)Nucleic Acids Res.18:7317]。5’→3’エキソヌクレアーゼ活性の好ましい基質は二本鎖/ssDNA接合部付近で切断が起こる置換ssDNA(またはフォーク様構造)である。ポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性に対するオリゴヌクレオチド阻害剤の影響を検討するために、ヘアピン中に置換ssDNAを含むDNA基質(Exo−Sub)を設計した(実施例3,図9)。Exo−Sub基質を5’および3’末端両者で放射標識するとエキソヌクレアーゼ活性によって生成する2つのDNAフラグメントの検出が可能になる。エキソヌクレアーゼ活性に由来する2つの標識DNAフラグメントは、オリゴヌクレオチド阻害剤の存在下および不存在下の両者で出現したが(データは示していない)、オリゴヌクレオチド阻害剤の存在下に生成した切断生成物の量の方が阻害剤の不存在下に生成した量よりも若干少なく、オリゴヌクレオチド阻害剤が酵素のエキソヌクレアーゼ活性にもある程度の阻害作用を示すことを指示している。これらのオリゴヌクレオチドはこれらの2つの酵素のポリメラーゼ活性を250nMで完全に阻害したので、エキソヌクレアーゼ活性に対するそれらの作用は極めて弱いものと考えられる。
他のDNAポリメラーゼの阻害
数種の他の市販DNAポリメラーゼならびに阻害剤としてリガンドTQ21(配列番号:59)およびTQ30(配列番号:50)を用いた阻害アッセイを実施例4に記載する。4種の熱安定性酵素(Thermus brockianusからのTbrポリメラーゼ,Thermus flavusからのTflポリメラーゼ,Thermotoga maritimaからのTmaポリメラーゼとThermococcus litoralisからのTliポリメラーゼ)、3種類の中温性酵素[大腸菌DNAP1のクレノウフラグメント(KF),T4DNAポリメラーゼおよびT7DNAポリメラーゼ]ならびに4種類の逆転写酵素(RT)[HIV−I RT,AMV(ニワトリ骨髄芽球腫ウィルス)RTおよびM−MLV(モロニーマウス白血病ウイルス)RTとそのRNアーゼH活性欠捐変異種(SuperScript II)]について調べた。
検討した6種の熱安定性ポリメラーゼ(TaqおよびTthポリメラーゼを含む)中、Thermus種に由来する4種のポリメラーゼ(Taq,Tth,TbrおよびTlf)は選択された両オリゴヌクレオチドによって阻害され、これらの酵素が高度の類似性をもつことが示唆される。上述のようにTthポリメラーゼおよびTaqポリメラーゼはアミノ酸配列のレベルにおいて93%の類似性および88%の同一性を示すことが報告されている[Abramson(1995)inPCR Strategies(Academic Press,New York)]。TflポリメラーゼはTaqポリメラーゼとアミノ酸のレベルで93%の類似性および86%の同一性を示すことが記録されている(D.Gelfand,私信)。Thermotoga maritimaからのTmaポリメラーゼおよびThermococcus litoralisからのTliポリメラーゼは他方、いずれのリガンドによっても阻害されなかった。Tliポリメラーゼは真正細菌酵素とほとんど配列ホモロジーを示さない[Ito & Braithwaite(1991)Nucleic Acids Res.19:4045]。Tmaポリメラーゼは、Taqポリメラーゼとアミノ酸のレベルで61%の類似性および44%の同一性を示すと報告されている[Abramson(1995)inPCR Strategies(Academic Press,New York)]が、上記オリゴヌクレオチドリガンドはTmaポリメラーゼを阻害しない。
試験した4種の逆転写酵素中、HIV−IおよびAMV(ニワトリ骨髄芽球腫ウイルス)からのRTは阻害されなかった。他方、M−MLV(モロニーマウス白血病ウイルス)からのRTとそのRNアーゼH活性欠損変異種(SuperScript II)は2種のオリゴヌクレオチドリガンドによって阻害された。
中温性DNAポリメラーゼたとえば大腸菌DNAP1のクレノウフラグメント(KF),T4DNAPおよびT7DNAPはTaqポリメラーゼとKFのポリメラーゼドメインの類似性[Kimら(1995)Nature(London)376:612;Lawyerら(1989)J.Biol.Chem.264:6427]にもかかわらず、0.5μMの濃度でいずれのリガンドによっても阻害されなかった。したがって、オリゴヌクレオチド阻害剤は一般的にかなり特異的であると思われる。これらの結果は、他の逆転写酵素についてのインビトロ選択によって同定された核酸リガンドの挙動に類似している[Tuerk & MacDougal(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:6988;Chen & Gold(1994)Biochemistry33:8746およびSchneiderら(1995)Biochemistry34:9599]。
低コピー数標的の増幅
実施例5(図10)には、標準PCRと比較して、多くのPCR増幅、「熱時開始」PCR,ならびに「熱時開始」条件によらずPCRによる低コピー数標的の検出を容易にするためTQ30およびTQ21を用いたPCRを説明する。Respessら(1994)inInterscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy 94:110に記載のHIV−2LTR(長末端リピート)からの203−塩基対(bp)DNAフラグメントを検出するために設計されたプライマー・鋳型系を用いた。PCR増幅はHIV−2LTR標的0,10および50コピーを用いて実施した。正常PCR条件下には、正しい標的バンドの同定は多くの非特異的バンドの存在によって不確定になった(図10A,レーン1〜3)。「熱時開始」条件下に実施した増幅では非特異的バンドは消失した(図10A,レーン4〜6)。TQ21およびTQ30と同一の5’−および3’−固定配列を含有する非特異的な78−ヌクレオチドssDNA配列の存在下に実施した増幅の結果(図10B,レーン1〜3)は「熱時開始」条件を用いないPCRによって得られた結果と類似していた。しかしながら、TQ21(図10B,レーン4〜6)またはTQ30(図10B,レーン7〜9)いずれかの添加を標準条件下(「熱時開始」条件ではない)に行うと、標的特異的バンドの収率に影響することなく非特異的バンドが消失した。とくに重要な点は、標的コピー数が低いときはシグナル検出が極めて効率的であることの観察である(図10B,レーン2をレーン5および8と比較されたい)。低コピー数HIV−2LTRの検出におけるオリゴヌクレオチド阻害剤の効果は、Taqポリメラーゼに代えてTthポリメラーゼを用いた場合も同様であった(データは示していない)。PCRにおいてオリゴヌクレオチド阻害剤により得られた標的特異的バンドの収率の増大は反応の感度を上昇させ、わずが3コピー程度しか存在しない標的の検出を容易にする(図10C)。
図10に記載の実験で用いられたオリゴヌクレオチド阻害剤はそれらの3’末端がキャッピングされていないので、それらが非特異的に増幅を開始させてPCRの結果をさらに複雑にする可能性がある。しかしながら、偶発的なバンドは検出されず、この系では非特異的バンドの発生を消失させるためにオリゴヌクレオチド阻害剤の3’キャッピングは必要ないことが示唆される。
阻害活性を有するTQ30およびTQ21の頭部切断リガンドの同定
通常、完全長配列中のすべてのオリゴヌクレオチドがその機能に必要なわけではない。したがって、全配列の機能を保持する頭部切断DNA配列の同定が望ましい。ファミリーIからのリガンドTQ30(配列番号:50)およびファミリーIIからのTQ21(配列番号:59)を頭部切断実験に選択した。両リガンドの完全長から発生させた末端標識入れ子フラグメントについての親和性選択ついで実施例2に記載のような配列決定ゲル分析では同定可能な境界は得られなかった。したがって、2つのリガンドを欠失分析に付した。逐次欠失型についてヘアピン伸長アッセイでポリメラーゼ阻害能を試験して機能性の頭部切断体を同定した。
TQ30(配列番号:50)の頭部切断体
ステム−ループ構造が予想される保存配列モチーフを含有するTQ30の可変性30−ヌクレオチド領域[Trnc.A−30(配列番号:75);表5]は25℃において完全長配列と同程度にTaqポリメラーゼを阻害する(データは示していない)。しかしながら、より高い温度ではその阻害効率は完全長配列よりも低い。たとえば、30℃では、Trnc.A−30(250nM)によるTaqポリメラーゼの阻害は約82%であり、一方完全長配列はこの温度および濃度でその酵素を完全に阻害した。Trnc.A−30の熱感受性の増大は、低温で溶融する傾向のあるヘリックス、A−T塩基対で中断されたヘリックスの存在による可能性が考えられる。
したがって、高G−C塩基対による非中断ステムを含有するTrnc.A−30の3種のステム−ループ変異体を設計した。これらの変異体では、ファミリーIに同定される保存配列モチーフは変化させていなかった(表5)が、ステムの長さを変動させた。250nMの阻害剤濃度で、Trnc.1−30(配列番号:67)およびTrnc.2−30(配列番号:68)はTaqポリメラーゼ活性をほぼ95%阻害したが、Trnc.3−30(配列番号:69)はそのポリメラーゼ活性を約60%阻害したにすぎなかった(下記参照)。3つの変異体中最も短いステム(7−塩基対)を含有するTrnc.3−30はTaqポリメラーゼの弱い阻害剤であり、有効な相互作用にはステム内における付加的接触が必要なことを指示している。Trnc.3−30で観察された阻害の低下がポリメラーゼに結合するその親和性の低下によるものかどうかを決定するために、3種の変異体すべてのTaqポリメラーゼに対する結合の親和性を計算した。K値は2〜3nMの範囲に入り(表5)、3種の変異体すべて類似の結合親和性をもつことが指示された。したがって、Trnc.3−30によって生じた阻害の欠如は結合の欠如によるものではなく、多分、活性部位の遮断能力を欠くことによるものと思われる。3種の変異体のTaqポリメラーゼに対する結合の親和性は完全長分子(完全長配列のKは40pMである)の約75分の1と低く、Trnc.A−30の約3〜5分の1である。3種の構築体のIC50値はステムの長さの減少とともに低下し、Trnc.1−30,Trnc.2−30およびTrnc.3−30でそれぞれ25,50および186nMである(図11)。この結果は、ステムの長いリガンドほど有効な阻害剤であるという見解に一致する。完全長配列のIC50値は22nMである。ヘアピン伸長アッセイは30℃で1時間実施した。
完全長TQ30はTthポリメラーゼを阻害するが、Trnc.1−30もTrnc.2−30もその酵素が完全長リガンドによって完全に阻害されるという事実にもかかわらずTthポリメラーゼを阻害しない。
Stoffelフラグメント(61kD)はTaqポリメラーゼの頭部切断型であり、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠き、67kD Klen Taq DNAポリメラーゼ(67kD)に類似する。Stoffelフラグメントのポリメラーゼ活性はTQ30の完全長ならびにその3種類の頭部切断型で完全に阻害された。3種の頭部切断型のIC50値はTrnc.1−30=2.7nM,Trnc.2−30=5.9nMおよびTrnc.3−30=10.3nMである(図12)。全体的に、TQ30の3種の頭部切断型はTaqポリメラーゼよりもStoffelフラグメントをより効果的に阻害する(図11を図12と比較)。これらの頭部切断型のStoffelフラグメント阻害のIC50値はTaqポリメラーゼの場合より1オーダー良好な値を示す。Trnc.2−30によるStoffelフラグメント阻害におけるIT50値は38℃であった(データは示していない)。
TaqおよびTth両ポリメラーゼを阻害するTQ21配列は、驚くべきことにStoffelフラグメントを阻害しない。これは、Stoffelフラグメント上のTQ21の結合部位が部分的にまたは完全に欠失しているか、またはそのタンパク質の切断部分で認識されていたことを示唆している。
リガンドTQ21(配列番号:59)の頭部切断型
TQ30のようなファミリーIリガンドとは異なり、ファミリーIIリガンドTQ21の30−ヌクレオチド可変領域は、TaqまたはTthポリメラーゼのいずれも阻害せず(データは示していない)、阻害には固定領域からの付加的なヌクレオチドが要求されることを示している。完全長TQ21配列の欠失分析から、TaqおよびTth両ポリメラーゼを阻害する能力を維持する51−マー配列[Trnc.21(配列番号:70)(表4)]の同定が導かれた。全30−ヌクレオチドのランダム領域に加えて、Trnc.21配列は5’および3’固定領域からそれぞれ9および12個のヌクレオチドを含有した(表4)。Taqポリメラーゼに対する親和性の低下を示したTQ30頭部切断型とは異なり、Trnc.21は親和性の上昇を示し、Trnc.21のTaqポリメラーゼに対する結合のKは完全長配列より約4倍高い親和性を示す9pMである(図13A)。Trnc.21のTaqポリメラーゼ阻害のIC50値は完全長配列の値の約1/3の21nMである(図13B)。TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに対する計算IT50値は、それぞれ34℃および35.6℃である(図13C)。ヘアピン伸長アッセイは250mMのTrnc.21により35〜50℃の間の温度で1時間実施した。したがって、親和性ならびにIC50およびIT50に基づいて、TQ21の頭部切断型は完全長配列よりも良好な阻害剤である。完全長配列と同様に、Trnc.21はStoffelフラグメントの活性を阻害しなかった。
頭部切断体のダイマー型
リガンドの多量体化は有効局在濃度を上昇させて、標的への滞留時間(結合活性)の延長を生じる。Taqポリメラーゼに対する中等度の親和性に基づいて、Trnc.2−30をホモダイマーの合成用に選択した(表4)。Trnc.2−30のホモダイマー(D.30−D.30)(配列番号:71)(表4)を、標準方法による固相化学合成における支持体として合成ダイマーCPGを用い、尾部と尾部のオリエンテーション(3’末端での結合)で合成した。
Taqポリメラーゼに対する結合のD.30−D.30ダイマーの親和性は40pMで(図14A)、そのモノマー型より約75倍高い。ホモダイマーのIC50値は14nMでモノマー型より約3.5倍低い(図14B)。すなわち、頭部が切断されたTQ30の二量体化はTaqポリメラーゼに対してより有効な阻害剤を生じた。
2種の頭部切断型モノマー、Trnc.2−30およびTrnc.21(表4)が3個のチミンを含むリンカーによって連結された2種類のヘテロダイマー配列も調製した。D.21−D.30(配列番号:72)ではTrnc.21配列が分子の5’末端側に配置され、一方、D.30−D.21(配列番号:73)では、それが分子の3’末端を占める。完全長TQ30とは異なり、その頭部切断型はTthポリメラーゼ阻害しなかった。他方、Trnc.2はTaqおよびTth両ポリメラーゼを阻害したが、Stoffelフラグメントは阻害しなかった。モノマー単位は、単一配列中に移されたのちも、独立に機能できると仮定すれば、この2種の頭部切断型リガンドの組合せはこれら3種のポリメラーゼすべてを阻害できる単一配列を提供するものと考えられる。最低阻害剤濃度(62.5nM)において、Taqポリメラーゼに対する2種のヘテロダイマーの阻害は2種のモノマーより大である。Tthポリメラーゼに対するヘテロダイマーの作用はTrnc.21モノマーの作用と同じである。Stoffelフラグメントは2種ヘテロダイマーの存在下にヘアピン鋳型を完全には伸長できなかった。これに対し、モノマーTrnc.2−30配列の存在下には、部分伸長生成物はさらに減少した。ヘアピン鋳型の完全な伸長を欠くことはヘテロダイマーがStoffelフラグメントの活性を抑制することを示唆するものである。
ヘテロダイマーD.21−D.30は、TaqおよびTthポリメラーゼの阻害に約30nMのIC50値を有する(図15A)。TaqおよびTthポリメラーゼの阻害におけるIT50値はそれぞれ41および34.5℃である(図15B)。D.21−D.30はStoffelフラグメントをIC50値15.5nM,IT50値38℃で阻害する(データは示していない)。リガンドD.21−D.30ヘテロダイマーのTaqポリメラーゼに対する結合のKはTrnc.21の場合に類似し(10pM)、このタンパク質は高い親和性結合でその配列モチーフに優先的に結合することが示唆される。
ダイマー内での2つのモノマー単位の配置は、いずれの3つのポリメラーゼに対する阻害でも全体的な影響はないように思われた。2つの異なるモノマー単位はそれらがダイマーに結合した場合に逆の作用を示すことはなかった。期待されたように、ヘテロダイマーは3種すべてのポリメラーゼに極めて有効な阻害能力を示し、これは概してヘテロダイマー中のモノマー単位の機能は相互に排除的であることを指示している。
以下の実施例は、本発明の説明および例示のために提供されるものであり、本発明の限定を意図するものではない。
実施例1.実験操作
A.材料および方法
100mM KCl,20mM Tris−HCl(pH8.0),0.1mM EDTA,50%グリセロール(v/v)および0.2%Tween20から構成される緩衝液に懸濁した組換えTaqポリメラーゼ(rTaq;Mr94kDa)ならびに50mMビシン−KOH(pH8.3),90mM KClおよび50%グリセロール(v/v)から構成される緩衝液に懸濁したTthポリメラーゼ(rTth;Mr94kDa)はRoche Molecular Systems,Inc.(Alameda,CA)から購入した。Taq,TthおよびUlTmaDNAポリメラーゼはPerkin Elmerから入手した。
Ultmaポリメラーゼは野生型5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠くTmaポリメラーゼの欠失型である。TliおよびTfl DNAポリメラーゼはPromegaから購入した。Tbrポリメラーゼ(テルマラーゼTbr)はAmrescoInc.から入手した。対称分岐3’−3’連結CPGおよびC−6チオールモデファイヤーホスホルアミダイトはClontech(Palo Alto,CA)から入手した。
ULTRALINKTMヨードアセチルビーズはPierce Chemicals(Rockford,IL)から購入した。DNAの放射標識に用いた酵素はBoehringer Mannheim(Indianapolis,IN)から入手した。他のすべての試薬および化学薬品は分析用で、通常の購入経路から入手した。
オリゴヌクレオチドの調製
オリゴヌクレオチドは、標準固相シアノエチルホスホルアミダイト化学によって合成し、使用前に変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって均一サイズに精製した。対称ホモダイマーは対称分岐3’−3’連結CPGで合成した。DNA濃度は33μg/mL=1A260単位をベースとした。
親和性ビーズの調製
5’末端にチオール基を含有するリガンドTQ21(配列番号:59)またはTQ30(配列番号:50)(表3)のいずれか25ナノモルを、AgNOおよびジチオスレイトール(DTT)で製造業者の説明書に従い脱保護した。過剰のDTTを等容の酢酸エチルで4回連続抽出して除去した。ついで、50mMTris−HCl(pH8.3)および5mM EDTAから構成される緩衝液中で2回洗浄した500μLのULTRALINKTMヨードアセチルビーズと脱保護したリガンドを混合した。反応混合物を振盪板上室温で2時間インキュベートした。ヨードアセチルビーズ上の未反応部位は混合物を同一の緩衝液中0.5Mシステイン溶液50μLと5分間反応させてキャッピングした。対照ビーズは500μLのヨードアセチルビーズを500μLの0.5Mシステインと反応させて調製した。反応後、ビーズを75μMヘパリン,12.5mM MgCl,50mM KCl,10mM Tris−HCl(pH8.3)からなるPCR緩衝液500μLで5回洗浄した。
B.セレックス
セレックス操作は米国特許第5,270,163号に詳細に記載されている。両ポリメラーゼに関するセレックス実験は表1に示す鋳型およびプライマーを用いて実施した。Taqポリメラーゼに対する選択は、10mM Tris−HCl(pH8.3,22℃),50mM KClおよび2.5mM MgClから構成される緩衝液(Taq結合緩衝液)中室温で実施した。Tthポリメラーゼに対する選択は、50mMビシン−KOH(pH8.3,25℃),90mM KClおよび3.5mMMn(OAc)を含有する緩衝液(Tth結合緩衝液)中で実施した。
それぞれのセレックス実験は、固定構造の5’および3’領域によって隣接される30ヌクレオチド無作為化領域からなる合成、ゲル精製ランダム配列プール一本鎖DNA(ssDNA)(表1)5nmoleで開始した。通常の選択ラウンドでは、適当な結合緩衝液に懸濁したssDNAを90℃に3分間加熱し、氷上で冷却しついで室温に戻した。室温で平衡化されたならば、DNAを、コンペティターとしてのtRNA 2nmoleおよび0.01%ヒト血清アルブミン(hSA)の存在下に適当な標的ポリメラーゼと15分間インキュベートした。ポリメラーゼ−DNA複合体を、予め湿潤させたニトロセルロースフィルター(0.45μM,Millipore)を通して吸引下、ニトロセルロースろ過によって非結合DNAから分離した。フィルターを直ちに20mLの結合緩衝液、20mLの結合緩衝液中0.5M尿素および水中0.5M尿素で洗浄した。フィルター上に残ったDNAを溶出して、キャリヤーtRNA(5μg)の存在下にエタノール沈殿によって単離した。
単離されたDNAをプライマーセットI(表1)を用いPCRで増幅した。プライマー鎖の一つには5’末端に3個の連続したビオチンを含有させた。得られた二本鎖DNAの非ビオチン化鎖を変性条件下ゲル電気泳動にて単離し(Pagratisら,準備中)、選択の次のラウンドに使用した。以下のラウンドでは、標的ポリメラーゼとのインキュベーションの前に、DNAプールをニトロセルロースフィルターに通し(カウンターセレックス)、ニトロセルロースフィルターに結合するDNA配列を除去した。標的ポリメラーゼのピコモル数はセレックスの経過時に徐々に低下し、高親和性結合をもつ配列の選択圧は上昇した。各選択におけるDNAの量は、高親和性結合DNA配列に対するコンペティションを保証するために、タンパク質の量の少なくとも5倍に保持した。
セレックスの進行は濃縮プールのニトロセルロースフィルター結合分析によってモニターした。最高の親和性結合を示した濃縮プールをプライマーセットIIを用いてPCR増幅し、得られた二本鎖DNAの末端にBamHIおよびEcoRI制限部位を導入した。このDNAをゲル精製し、BamHIおよびEcoRIで消化して、標準法[Sambrookら(1989)in Molecular Cloning:A laboratory Manual,2版,3部,pC.1,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY]を用い予め消化したプラスミドpUC18ベクターにクローン化した。クローンを単離し、標準ジデオキシ配列決定法(U.S.Biochemical,Cleveland,OHからのシクエキナーゼ・キット)によって配列を決定した。
C.ニトロセルロースフィルター結合アッセイ
TaqポリメラーゼおよびTthポリメラーゼに、それぞれ、強固に結合するDNA分子の単離には、セレックス特許出願に記載のように、ニトロセルロースフィルター分配法を用いた。略述すれば、5’末端で標識されたゲル精製32Pss−DNAプールを結合緩衝液に懸濁し、80℃に加熱し、氷上で冷却し、ついで室温に戻した。次にDNA(5〜10pM)を0.1μgのtRNAおよび0.01%hSAを含有する適当な結合緩衝液50μL中様々な量の標的ポリメラーゼと室温で15分間インキュベートした。DNA濃度は過剰のタンパク質濃度の存在下における平衡を保証するために100pMより低く保持させた。15分後、結合反応混合物を予め湿潤させたニトロセルロース/酢酸セルロース混合マトリックスフィルター(0.45μm孔径,Millipore Corporation,Bedford,MA)を通し、フィルターを直ちに結合緩衝液5mLで洗浄した。フィルターに結合したDNAの量はフィルターの放射能を液体シンチレーションカウンターで測定して定量した。タンパク質の不存在下にフィルターに結合したDNAの量をバックグランド補正に使用した。各フィルターに保持された添加DNAに対する百分率を相当するポリメラーゼ濃度の対数に対してプロットした(図1および2)。非線型最小自乗法を用いてTaqおよびTthポリメラーゼそれぞれに対するDNAリガンドの解離定数(K)を計算した[Schneiderら(1995)Biochemistry34:9599;Jellinekら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:11227−11231]。
非選択ランダム配列プールは約70nMの推定KでTthポリメラーゼに結合する[図1B,(●)]が、このプールのTaqポリメラーゼへの結合のKは約50〜100nMである[図1A,(○)]。12ラウンドの選択後、Taqポリメラーゼへの結合のKは約3.5nMであった[図1A,(○)]。選択のこれ以上のラウンドでは親和性の更なる改良は生じなかった。すなわち、Taqポリメラーゼに対して濃縮されたプールに生じた親和性は非選択ランダム配列プールに比較して有意に改善された。類似の結果がTthポリメラーゼについても10回目のラウンドから得られ、Kは約5nMを示した[図1B,(○)]。
Taqポリメラーゼについて選択されたssDNAプールは、Tthポリメラーゼに対してK0.2nMの極めて強固な結合を示した[図2A,(○)]。この結果は、2つのポリメラーゼの間のアミノ酸配列の同一性が約87%[Asakuraら(1993)J.Ferment.Bioeng.76:265−269]であることから、驚くべきことではない。Tthポリメラーゼについて選択されたプールはTaqポリメラーゼに異なる様式で、約50%のレベルでの結合飽和により結合し、プール中の約半数の配列はTaqポリメラーゼと相互作用しないことを示唆した。50%飽和に基づき推定されたKは約0.3nMである。
Tthポリメラーゼで実施した10ラウンドの選択から得られたssDNA配列を表2に掲げる。Tthポリメラーゼ選択からの29のそれぞれのクローンを配列決定した(変動する30ヌクレオチド領域のみを表2に示す)。これらの配列は配列類似性に基づいて2つのファミリーにグループ分けされた。Taqポリメラーゼについて実施した12ラウンドの選択から得られたssDNA配列は表3に掲げる。33のユニークな配列が単離された。一部配列中の小文字は5’−固定配列を示し、大文字は、30−ヌクレオチドのランダム領域を示す。配列は配列類似性に基づいて3つのファミリーにグループ分けされた。
実施例2.ポリメラーゼ阻害アッセイ
ポリメラーゼ阻害アッセイは、T4ポリヌクレオチドキナーゼおよび32P−γ−ATPで5’末端を末端標識した鋳型DNA[DAN−HP;5’−ATGCCTAAGTTTCGAACGCGGCTAGCCAGCTTTTGCTGGCTAGCCGCGT−3’(配列番号:6)]を用いて実施し、変性条件下にゲル電気泳動で精製した(図4)。代表的な実験操作では、0.25pmoleのTaqポリメラーゼ(5U)または0.125pmoleのTthポリメラーゼ(2.5U)いずれかを標準PCR緩衝液(20μL)中5pmole(250nM)の濃縮プール、ランダムプールまたは特異的DNAリガンドと混合した。5pmole(250nM)の標識鋳型DAN−HPを加え、様々な温度で与えられた時間インキュベートした。反応はEDTAを終濃度125mM(0.5MEDTA5μL)を加えて停止させた。
DNAは変性条件下にポリアクリルアミドゲル上で分割した。ゲルはオートラジオグラフィーによって可視化し、結合DNA%をリン光イメージアナライザーにより定量した。この一般的操作の特定の反応についての変動は明細書に示す。
反応混合物にオリゴヌクレオチド阻害剤を添加する順序は、鋳型を最後に加える限り無関係である。オリゴヌクレオチドは、機能し多くの緩衝系に耐容性を示すためにはPCRの必須成分であるMg++イオンを要求する。
図5にはDNAの濃縮プールを用いたポリメラーゼ活性アッセイの結果を例示する。図6〜9にはリガンドTQ30(配列番号:50)およびTQ21(配列番号:59)を用いたポリメラーゼ活性アッセイの結果を例示する。
IC50値の測定
IC50値(アッセイにおいて50%生成物の産生に必要な阻害剤の濃度)はヘアピン伸長アッセイを用いて得られた。典型的な阻害アッセイでは、20μLの反応液に0.25pmoleのTaqポリメラーゼ(5U)または0.125pmoleのTthポリメラーゼ(2.5U),オリゴヌクレオチド阻害剤(様々な濃度で),10mM Tris−HCl(pH8.3),50mM KCl,2.5mM MgCl,ならびに各1mMのdNTPを含有させた。ゲル精製、5’末端標識ヘアピンDNA基質(DAN−HP;5’−ATGCCTAAGTTTCGAACGCGGCTAGCCAGCTTTTGCTGGCTAGCCGCGT−3’)をついで終濃度250nMになるように加えて、反応混合物を30℃にて1時間インキュベートした。5μLの0.5MEDTA(pH8.0)を加えて反応を停止させ、ついでホルムアミドゲル負荷緩衝液を添加した。伸長生成物は変性条件下に10%ポリアクリルアミドゲル上で分割した。伸長生成物の量をリン光イメージアナライザーで定量した。阻害剤の存在下に形成された生成物の量は阻害剤の不存在下に形成された生成物に正規化して生成物の百分率を得た。
IT50値の測定
ヘアピン伸長反応は、阻害剤濃度を250nMとしたほかは上述の通りとした。各温度におけるインキュベーション時間は1時間とした。生成物の量をリン光イメージアナライザーで定量し、同温度で阻害剤の不存在下に形成された生成物に正規化して生成物の百分率を得た。
リガンドTQ30およびリガンドTQ21の基質活性の測定
代表的な実験操作においては、5’末端標識リガンドTQ30(配列番号:50)、TQ21またはTQ21(エチレングリコールリンカーで3’−キャッピング)(約3pmole)を5UのTaqポリメラーゼまたは2.5UのTthポリメラーゼの不存在下または存在下に、20μLの結合緩衝液および1mMの各dNTP中、室温で16時間インキュベートした。TQ21の3’末端のキャッピングはエチレングリコールリンカー(Glen Researchからの3’−Spacer C3支持体)により本技術分野で既知の標準条件を用いて達成された。
親和性捕捉実験
親和性捕捉反応は75μMヘパリン、12.5mM MgCl,各1mMのdNTP,50mM KCl,10mMTris−HCl(pH8.3),5UのTaqポリメラーゼまたは2.5UのTthポリメラーゼおよび250nM5’−末端標識ヘアピンアッセイ鋳型(DNA−HP)を含有する100μLの反応容量中70℃で5分間実施した。5分後、反応混合物を3倍に希釈し、4℃に冷却した。ラウンド1の合成後、15μLのビーズ(上述のように調製した親和性ビーズまたは対照ビーズ)を反応混合物に4℃で加え、10分間穏やかに攪拌した。標識鋳型を含有する上清を遠心分離後に回収し、ゲル分析用に保存した。ビーズをついで、75μMヘパリン、12.5mM MgCl,50mM KClおよび10mMTris−HCl(pH8.3)を含有する緩衝液100μLで5回洗浄した。ラウンド2の合成後、洗浄したビーズをポリメラーゼを除くすべての試薬を含有する反応混合物の新鮮なアリコートと混合した。70℃で5分間インキュベートしたのち、反応混合物を回収し、ゲル電気泳動で分析した。
実施例3.エキソヌクレアーゼ阻害アッセイ
エキソヌクレアーゼ阻害アッセイは、設計された鋳型:
5’−TTCGAGCGTGAATCTGAATTCGCGGCTAGCCAGCTTTTGCTGGCTAGCCGCGGTGGGAAACTGAGGTAGGTGTTTTCACCTACCTCAGTTTCCCACC−3’(Exo−Sub)(配列番号:75)を、5’−末端は[γ32P]−ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼにより、3’−末端は[α32P]−ddATPおよびデオキシターミナルトランスフェラーゼにより放射標識して使用して実施した。典型的な実験操作では、5UのTaqポリメラーゼまたは2.5UのTthポリメラーゼを、標準PCR緩衝液(20μL)中リガンドTQ30またはTQ21(250nM)と混合し、ついで二重標識Exo−Sub(250nM,最後に添加)を加えた。16時間室温でインキュベートしたのち、終濃度が0.1mMになるようにEDTAを添加して反応を停止させた。切断生成物は変性条件下に8%ポリアクリルアミド上で分割した。
実施例4.ポリメラーゼ阻害アッセイ
TQ21(配列番号:50)およびTQ30(配列番号:50)による阻害を(A)高温性DNAポリメラーゼ、(B)中温性DNAP(対照としてTaqポリメラーゼ)および逆転写酵素、ならびに(C)RTについて試験した。反応はすべて、容量20μL中、1mMの各dNTPの存在下、HPヘアピン鋳型(実施例2)と、250または500nMのリガンドTQ21またはTQ30を用いて実施した。各ポリメラーゼについての特定の反応条件は次の通りである。
熱安定性ポリメラーゼ:Tmaポリメラーゼ:Ul Tmaポリメラーゼ(6U),10mM Tris−HCl,pH8.8,10mM KCl,2.5mM MgCl,および0.002%Tween20(v/v);Tbrポリメラーゼ(2U),10mM Tris−HCl,pH8.8,50mM KCl,1.5mM MgCl,および0.01%Triton X−100;Tliポリメラーゼ(3U),およびTflポリメラーゼ(5U),10mM Tris−HCl,pH9.0,50mM KCl,および0.01%Triton X−100。
中温性ポリメラーゼ:Taqポリメラーゼ(5U)(緩衝液に対する内部対照)を含めすべてのインキュベーションは、10mM Tris−HCl,pH7.5,40mM KCl,5mM MgCl,および7.5mM DTT[クレノウフラグメント(5U);T4DNAポリメラーゼ(4U);T7DNAポリメラーゼ(7U)]からなる緩衝液中で実施した。
逆転写酵素:インキュベーションはすべて50mM Tris−HCl,pH8.3,60mM NaCl,6mM Mg(OAc)および10mM DTT[HIV−1RT(0.56pmole);AMV RT(1U);M−MLV RT(10U);SuperScript II(SsriptII)(10U)]からなる緩衝液中で実施した。
実施例5.低コピー数標的の検出
PCR増幅は、Respessら(1994)inInterscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy94:110に記載のHIV−2 LTRからの203−bp標的特異的生成物を増幅する系を用いて実施した。PCR増幅はすべて、1.3μgヒト胎盤DNA,0.4mMの各dNTP,25pmoleの各プライマー,10mM Tris−HCl(pH8.3),2.5mM MgCl,10%グリセロール,5UのTaqポリメラーゼおよび鋳型(おおよそのコピー数は図10A〜10Cに示す)の存在下に、100μLの反応容量で実施した。温度サイクルは、50℃で2分間、ついで94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で30秒間とし、ついで、60℃アニーリングを1℃ずつ上昇させて5サイクル自動伸長させた。これに続いて,90℃30秒、65℃30秒、72℃30秒で35−サイクル増幅させた。
「熱時開始」PCRは”AmpliWax”ビーズ(Perkin Elmerより)を用い、製造業者の説明書に従って実施した。他のPCR増幅はすべて「熱時開始」条件によらずに行った。
”NeXstart”PCRは阻害剤としてTQ30およびTQ21(終濃度50nM)を用いて実施した。比較のために1回の増幅は非特異的オリゴヌクレオチド(終濃度50nM)の存在下に実施した。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】






































【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定性DNAポリメラーゼに、室温においては該ポリメラーゼを阻害できるがPCRプロセスの高温サイクル(elevated temperature cycles)では該ポリメラーゼの活性化を可能にする核酸リガンドを添加する工程を含む、ポリメラーゼ・チェーン反応(PCR)を実施するための改良方法。
【請求項2】
a)増幅すべき核酸配列を含有するサンプルを、増幅すべき配列に隣接する配列と相補性であるプライマー、熱安定性ポリメラーゼ、および室温においてはポリメラーゼを阻害できるがPCRプロセスの高温サイクルではポリメラーゼの活性化を可能にする核酸リガンドを混合し、
b)混合物の温度サイクリングによって標的核酸の溶融、標的核酸に対するプライマーのアニーリング、および標的核酸の合成の標準PCR工程を実施することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸リガンドはDNAである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸リガンドは一本鎖である請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱安定性DNAポリメラーゼは逆転写酵素である請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱安定性DNAポリメラーゼはThermus aquaticus(Taq)ポリメラーゼ又はThermus thermophilus(Tth)ポリメラーゼである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸リガンドは、配列番号:7〜74、76及び77で示される核酸配列、又はそれらの相補性配列からなる群から選択される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸リガンドは、配列番号:7〜74、76及び77において数個の塩基の欠失、置換若しくは付加を有する核酸配列からなる群から選択され、配列番号:7〜74、76及び77で示される核酸配列と同様のTaq又はTthポリメラーゼに対する結合特異性を有する配列又はそれらの相補性配列である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸リガンドは、配列番号:50で示されるか、又は配列番号:50に示される核酸リガンドと同様な、Taq又はTthポリメラーゼに結合しその活性を阻害する能力を有し、配列番号:50に示される配列と一次配列ホモロジーが70%を超える配列を有する核酸リガンドである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸リガンドは、配列番号:59で示されるか、又は配列番号:59に示される核酸リガンドと同様な、Taq又はTthポリメラーゼに結合しその活性を阻害する能力を有し、配列番号:59に示される配列と一次配列ホモロジーが70%を超える配列を有する核酸リガンドである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸リガンドによる阻害は温度に対して可逆性である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸リガンドは3’末端をキャッピングされている、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記PCRは熱時開始(hot start)PCRである、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記高温(elevated temperature)は、40℃より高い、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
熱安定性DNAポリメラーゼと、室温においては該ポリメラーゼを阻害できるがPCRプロセスにおいて利用される高温(elevated temperature)では該ポリメラーゼの活性化を可能にする核酸リガンドとを含む、PCRキット。
【請求項16】
前記核酸リガンドはDNAである請求項15に記載のPCRキット。
【請求項17】
前記核酸リガンドは一本鎖である請求項15又は16に記載のPCRキット。
【請求項18】
前記熱安定性DNAポリメラーゼは逆転写酵素である請求項15から17のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項19】
前記熱安定性DNAポリメラーゼはThermus aquaticus(Taq)ポリメラーゼ又はThermus thermophilus(Tth)ポリメラーゼである、請求項15から18のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項20】
前記核酸リガンドは、配列番号:7〜74、76及び77で示される核酸配列、又はそれらの相補性配列からなる群から選択される、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項21】
前記核酸リガンドは、配列番号:7〜74、76及び77において数個の塩基の欠失、置換若しくは付加を有する核酸配列からなる群から選択され、配列番号:7〜74、76及び77で示される核酸配列と同様のTaq又はTthポリメラーゼに対する結合特異性を有する配列又はそれらの相補性配列である、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項22】
前記核酸リガンドは、配列番号:50で示されるか、又は配列番号:50に示される核酸リガンドと同様な、Taq又はTthポリメラーゼに結合しその活性を阻害する能力を有し、配列番号:50に示される配列と一次配列ホモロジーが70%を超える配列を有する核酸リガンドである、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項23】
前記核酸リガンドは、配列番号:59で示されるか、又は配列番号:59に示される核酸リガンドと同様な、Taq又はTthポリメラーゼに結合しその活性を阻害する能力を有し、配列番号:59に示される配列と一次配列ホモロジーが70%を超える配列を有する核酸リガンドである、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項24】
前記核酸リガンドによる阻害は温度に対して可逆性である、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項25】
前記核酸リガンドは3’末端をキャッピングされている、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。
【請求項26】
前記高温は40℃より高い、請求項15から19のいずれか1項に記載のPCRキット。

【公開番号】特開2009−106277(P2009−106277A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263257(P2008−263257)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【分割の表示】特願平9−501767の分割
【原出願日】平成8年6月5日(1996.6.5)
【出願人】(501345390)ギリード・サイエンシズ・インコーポレーテッド (17)
【Fターム(参考)】