DNA二本鎖形成制御
【課題】2本鎖DNAにおける融解温度(Tm)を上昇させるための方法、及びそのための試薬を提供する。
【解決手段】次の一般式(1)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤、それを用いた方法に関する。
【解決手段】次の一般式(1)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤、それを用いた方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のミスマッチを有するDNA分子を安定化させ、その融解温度(Tm)を上昇されるための低分子化合物からなる融解温度(Tm)を上昇化剤、DNA分子の安定化剤、又は不安定なDNA分子を接着させるための「分子糊」のような機能を有する機能性材料に関する。より詳細には、本発明は、後述する一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤に関する。また、本発明は、後述する一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体に関する。さらに、本発明は、これらの低分子化合物を用いた複数のミスマッチを含有する不安定なDNA分子をハイブリダイズさせる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやRNAなどの核酸がハイブリダイズして2本鎖となる場合には、対をなす塩基が決まっている。例えば、グアニン(G)にはシトシン(C)、アデニン(A)にはチミン(T)という具合になっている。そして、通常は全ての塩基がこのような対を形成してハイブリダイズしているのであるが、ときとして塩基配列の中の一部にこのような対を形成することができない場合がある。例えば、あるDNAと他のDNAをハイブリダイズし得る条件下においた場合に、大部分の塩基はこのような対を形成することができるが、1個又は数個の一部の塩基はこのような対を形成することができない場合がある。このような通常の塩基対を形成することができない塩基対のことを、以下ではミスマッチという。
【0003】
一方、最近1個又は2個以上の塩基が異なることに起因する各種の遺伝病についての研究が行われてきている。例えば、遺伝情報の個人差である遺伝子一塩基多形(SNPs(Single Nucleotide Polymorphism))は、罹病しやすさや、薬理作用の個人差の原因となる。現在、各個人に最適化された医療の実現へ向け、SNPsの研究がポストゲノムの重要な位置を占めており、効率的なSNPsの検出法の開発が期待されている。SNPsを含むDNAは、変異を含まない相補的なDNAと混合しアニールさせるとミスマッチ塩基対を形成するので、このミスマッチ塩基対に選択的に結合する低分子リガンドを開発すれば、SNPsの効率的な検出が可能になると考えられる。
現在、このようなミスマッチを検出する方法は、2本鎖DNAのハイブリダイゼーション効率を比較する手法が一般的である。しかし、この方法を用いるためにはミスマッチを含むDNAの塩基配列をあらかじめ知っておかなければならないために多大な労力が必要となり、多くの検体を処理する方法としては不適当である。また、MutS等のDNAの修復蛋白が遺伝子損傷箇所に選択的に結合することを利用する手法もあるが、タンパク質を用いる場合、低分子リガンドを用いる方法に比べて熱安定性や活性な構造(フォールディング)を維持する事が必要となり使用条件の制約が多く、また操作も煩雑となり効率的にミスマッチを検出することは難しい。
【0004】
このように、ハイブリダイズしたDNAなどにおける一部のミスマッチを検出する方法は大変難しく、またその感度も不十分なものであり、これを簡便に且つ高感度で検出できる方法の確立が求められている。
ところで、本発明者らは、2本鎖DNA中に生成する不対塩基(バルジ塩基)を持つDNA(バルジDNA)に特異的に結合し、安定化する分子であるバルジDNA認識分子を開発してきた(特許文献1参照)。このバルジ認識分子は、不対塩基と水素結合をするだけでなく、バルジ塩基の存在により生じてくる空間に、芳香環とバルジ近傍の塩基とのスタッキング相互作用を利用してインターカーレーションし、安定化されているものである。そして、本発明者らは、このような周辺の塩基の存在によるスタッキング効果を利用した不対塩基に対する作用についてさらに研究を行ってきたところ、塩基 対のミスマッチが生じている箇所においても、塩基と対を形成し得る分子種を2個有する化合物がこのようなスタッキング効果により比較的安定に取り込まれる得ることを見出し、具体的にはビス(2−メチルナフチリジン)アミド誘導体がGGミスマッチやGAミスマッチを検出できることを示してきた(特許文献2及び3参照)。しかし、このものは特定のミスマッチには極めて高感度で安定に取り込まれる得ることができるが、他のミスマッチに対しては取り込みが不十分であり、即ち特定のミスマッチに対する特異性が大きすぎて必ずしも実用的ではなかった。例えば、GGミスマッチに対しては高い特異性を有するが、GAミスマッチやGTミスマッチに対しては必ずしも十分な取り込みがなされなかった。
さらに、本発明者らは、このようなミスマッチ認識分子として、特にアミノナフチリジンダイマーに着目して、多数の誘導体を検討してきた(特許文献4〜8参照)。
【0005】
遺伝子の変異を調べる方法として、変異の有無を検査したい遺伝子とその変異の無い野生型遺伝子の50塩基程度のオリゴマーDNAを混合、加熱、冷却により二つの遺伝子をクロスハイブリダイゼーションする方法がある。検査する遺伝子に変異がある場合には遺伝子の融解温度や融解温度差に異常が見出される。この操作は比較的簡便ではあるが、変異があることが分かるだけであり、どの位置にどのような変異が生じているのかということを知ることはできない。
前記してきた本発明者が報告してきた方法によれば(特許文献2〜8参照)、このクロスハイブリダイゼーションする方法により特定のミスマッチの存在を知ることはできるが、このミスマッチ認識分子は特異性が高く、例えば、グアニン塩基に対するミスマッチを調べる場合においても、GGミスマッチ用のもの、GAミスマッチ用のもの、GTミスマッチ用のものと複数のミスマッチ認識分子を用意しなければならなかった。
【0006】
また、本発明者らは、アミノナフチリジンダイマーのようなミスマッチ認識分子が、ミスマッチ部分においてどのような形態で結合しているのかということも検討してきた(非特許文献1参照)。例えば、ナフチリジンカルバメートダイマー(以下、単にNCということもある。)が、G−C塩基対に挟まれたG−Gミスマッチにおいては、NC:DNAが2:1の化学量論的量で結合していることを報告してきた(非特許文献2参照)。これらの解析は、G−Gのひとつのミスマッチについてなされてきたものであり、DNA分子中のひとつだけのミスマッチでは、その融解温度(Tm)にそれほどおおきな影響は与えないが、ミスマッチが2個以上になると融解温度(Tm)に大きな影響が生じる。このようなことから、さらに多数のミスマッチを有するDNA分子についてのミスマッチにおける挙動が注目されていた。
【0007】
【特許文献1】特開2001−89478号公報
【特許文献2】特開2001−149096号公報
【特許文献3】特開2003−259899号公報
【特許文献4】特開2004−261083号公報
【特許文献5】特開2004−275179号公報
【特許文献6】特開2004−325074号公報
【特許文献7】特開2006−94725号公報
【特許文献8】特開2006−104159号公報
【非特許文献1】Nakatani, K., Hagihara, S., et al., Nat. Chem. Biol., 2005, 1, 39-43
【非特許文献2】Peng, T., Nakatani, K., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 2005, 44, 7280-7283
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、2本鎖DNAにおける融解温度(Tm)を上昇させるための方法、及びそのための試薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ミスマッチ認識分子を開発してきたが、このようなミスマッチ認識分子は1塩基対のミスマッチを認識して融解温度(Tm)の変化をもたらすものであった。DNA分子中のミスマッチが2塩基対以上の場合には融解温度(Tm)は大きく下降し、極端な場合にはハイブリダイズすることもできなくなる。このようなDNA分子を充分にハイブリダイズさせて融解温度(Tm)を上昇させることができれば、DNA分子のハイブリダイズ(接着)が可能となるだけでなく、当該DNA分子に結合した分子の接近や離脱を制御することも可能となる。
本発明者らは、本発明者らが開発したミスマッチ認識分子を詳細に検討して結果、これらのミスマッチ認識分子に中のいくつかのものは、2塩基対以上のミスマッチを有するDNA分子における融解温度(Tm)を極度に上昇させることができる分子であることが見出した。
即ち、本発明は、次の一般式(1)
【0010】
【化4】
【0011】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、R3は水素原子又は次の一般式(2)
【0012】
【化5】
【0013】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは2つの窒素原子を結合させるリンカー基を示す。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤に関する。
また、本発明は、前記した一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法に関する。
さらに、本発明は、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記した一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法に関する。
また、本発明は、次の一般式(4)
【0014】
【化6】
【0015】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基を示す。)
で表される新規なナフチリジンカルバメートダイマー誘導体に関する。
さらに、本発明は、前記した一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法、及び、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記した一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法に関する。より詳細には、前記した方法が、前記一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体の光の照射によるアゾ基のシン−アンチ異性化によるものである前記方法に関する。
【0016】
本発明をより具体的に記述すれば、以下のとおりとなる。
(1) 次の一般式(1)
【0017】
【化7】
【0018】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、R3は水素原子又は次の一般式(2)
【0019】
【化8】
【0020】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは2つの窒素原子を結合させるリンカー基を示す。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤。
(2)同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも15℃以上である前記(1)に記載の上昇化剤。
(3)同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも25℃以上である前記(1)又は(2)に記載の上昇化剤。
(4)DNA分子が、G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチを有するDNA分子である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の上昇化剤。
(5)G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチが、T−Gミスマッチである前記(4)に記載の上昇化剤。
(6)DNA分子が、3個以上のミスマッチを有するものである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の上昇化剤。
(7)3個目のミスマッチが、G−Gミスマッチの隣接する位置にある前記(6)に記載の上昇化剤。
(8)DNA分子におけるミスマッチが、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’又は5’−TGG−3’/3’−GGC−5’である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の上昇化剤。
(9)一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である前記(1)〜(8)のいずれかに記載の上昇化剤。
(10)一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、メチル基である前記(9)に記載の上昇化剤。
(11)一般式(1)及び(2)におけるXが、酸素原子である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の上昇化剤。
(12)一般式(1)及び(2)におけるRが、プロピレン基である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の上昇化剤。
(13)一般式(2)におけるリンカー基Lが、アゾ基を含有するものである前記(1)〜(12)のいずれかに記載の上昇化剤。
(14)一般式(2)におけるリンカー基Lが、次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基である前記(13)に記載の上昇化剤。
(15)一般式(3)におけるR4及びR5がメチレン基で、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である前記(14)に記載の上昇化剤。
(16)一般式(3)におけるアゾ基が、シン配置である前記(14)又は(15)に記載の上昇化剤。
【0021】
(17)前記(1)〜(16)に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
(18)2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記(1)〜(16)に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
(19)次の一般式(4)
【0022】
【化9】
【0023】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(20)一般式(4)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である前記(19)に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(21)一般式(4)におけるR1及びR2が、メチル基である前記(20)に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(22)一般式(4)におけるXが、酸素原子である前記(19)〜(21)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(23)一般式(4)におけるRが、プロピレン基である前記(19)〜(22)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(24)一般式(3)におけるR4及びR5がメチレン基で、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である前記(19)〜(23)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(25)前記(19)〜(24)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
(26)2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記(19)〜(24)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
(27)前記(25)又は(26)に記載の方法が、光の照射によるアゾ基のシン−アンチ異性化によるものである前記(25)又は(26)に記載の方法。
(28)次の一般式(10)、
Z1−N(Z2)−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5−N(Z3)−Z4 (10)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置であり、Z1及びZ4は次の一般式(11)
【0024】
【化10】
【0025】
(式中、R8は、水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示し、Z2及びZ3はそれぞれ独立して水素原子又は前記一般式(11)で表される基を示す。)
で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメート誘導体。
(29)一般式(11)におけるZ2及びZ3が水素原子である前記(28)に記載のナフチリジンカルバメート誘導体。
(30)次の式(9)
【0026】
【化11】
【0027】
で表されるアゾベンゼン誘導体。
(31)前記(28)〜(30)に記載のいずれかの化合物からなる、ミスマッチを含有する不安定なDNA分子の安定性を光照射による光異性化により可逆的切り替えるためのDNA分子安定化剤。
(32)前記(28)〜(30)に記載のいずれかの化合物を含有してなる、ミスマッチを含有する不安定なDNA分子の安定性を光照射による光異性化により可逆的に当該DNA分子の融解温度(Tm)制御剤。より詳細には、当該DNA分子の融解温度(Tm)の上昇剤又は下降剤。
【0028】
本発明者らは、5’−CGG−3’/3’−GGC−5’の配列を有する1塩基のミスマッチにおけるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体の構造を解析してきた(非特許文献1及び2参照)。そして、これらの結果から、本発明者らは、当該ナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、特に一般式(1)におけるR1及びR2がメチル基であって、Rがプロピレン基であって、R3が水素原子であって、Xが酸素原子であるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(以下、NCと略すことがある。)がグアニン(G)と水素結合をし、2分子のNCがGGの連続する配列に対して水素結合するものと仮定した。この仮定を図1により説明する。図1のa(図1の左側)はNCとグアニン(G)との水素結合の様子を示したものであり、図1b(図1の右側)はG−Gの1塩基のミスマッチ配列に対するNCの入り方を模式的に示したものである。連続するGGの配列に対して2分子のNCが水素結合する。そして、この結果、連続するGGの配列に隣接する塩基がDNAのらせんの外側に出されると仮定した。そして本発明者らは、この仮定が正しいのであれば、連続するGGの配列に隣接する塩基はマッチするシトシン(C)である必要はなく、ミスマッチの塩基であっても可能ではないかと考えた。なお、図1bでは、この塩基をXで示している。そこで、本発明者らは、この仮説を立証するために5’−TGG−3’/3’−GGC−5’の配列を有する2塩基対のミスマッチについて実験をした。
【0029】
このために11塩基からなるDNA(T1/C1)を作製した。それぞれの塩基配列は、
T1 : 5’−CCCATGGTCCG−3’
C1 : 3’−GGGTGGCAGGC−5’
であり、T−G及びG−Gの2カ所のミスマッチを有するものである(下線部参照)。
このDNA(T1/C1)(5μM)の0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中での融解温度(Tm)は35.7℃であった。これにNC100μMを添加して、同様に融解温度(Tm)を測定したところ71.1℃になった。実に35.7℃もの融解温度の上昇を観測することができた。この結果を図2に示す。図2の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は260nmにおける吸光度を示す。温度は毎分1℃の速度で上昇させ、1℃毎に吸光度を3回測定し、その平均値を図2のグラフに示した。図2の上側の曲線(原図では黒色)はNCが不存在の場合を示し、下側の曲線(原図では赤色)はNCが存在する場合を示している。
図2からもわかるように、特に45℃〜55℃の範囲においては、NCが存在していない場合にはT1及びC1は、1本鎖で存在しているが、NCが存在する場合にはT1及びC1は2本鎖で存在している。
【0030】
これをさらに確認するために、CSI−TOF(cold spray ionization timt-of-flight)マススペクトルをとった。T1及びC1の20μMの、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液におけるNC40μMの存在下又は不存在下におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を図3に示す。試料は−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度で注入された。図3a(図3の左側)はNC不存在下のものであり、図3b(図3の右側)はNC存在下のものである。
図3aに示されるように、1本鎖のT1は3−イオンとして([T1]3−)、m/zが1096.2に観測された(計算値:1096.2)。T1とC1の2本鎖のもは5−イオンとして([T1/C1]5−)、m/zが1344.8に観測された(計算値:1344.6)。一方、NCを添加することにより、新たなピークであるNCとの2:1の複合体([T1/C1+2NC]5−)のピークが、m/z1546.3に観測された(計算値:1545.9)。
また、NCの濃度を変化させると、1本鎖のT1イオン([T1]3−)が減少し、NCとの複合体([T1/C1+2NC]5−)が増加してくる様子が観察された。図4a(図4の左側)は20μMのT1に対するNCの濃度が20μM(T1:NC=1:1)の場合のCSI−TOFマススペクトルであり、図4b(図4の右側)は20μMのT1に対するNCの濃度が60μM(T1:NC=1:3)の場合のCSI−TOFマススペクトルである。この結果、NCの濃度の増加と共に1本鎖のT1イオン([T1]3−)が減少し、NCとの複合体([T1/C1+2NC]5−)が増加してくることが示された。
【0031】
そして、本発明者らは、この場合には5’−TGG−3’/3’−GGC−5’の配列におけるチミン(T)は、DNAのらせんの外側にくるものと予測した。これを確認するために、本発明者らは、NCにより2本鎖を形成したDNA(T1/C1)の過マンガン酸カリウムによる酸化を試みた。もし、チミン(T)が螺旋の外側にあれば、過マンガン酸カリウムによる酸化を受けてチミングリコール(Tg)になる(Hayatsu, H.;Ukita, T., Biochem. Biophys. Res. Comm., 1967, 29, 556-561参照)。そして、酸化されたチミングリコール(Tg)は、ピペリジン中で加熱することによりこの部位で切断される(Rubin, C. M.;Schmid, C. W., Nucleic. Acids Res., 1980, 8, 4613-20 ; Maxam, A. M.;Gilbert, W., Methods Enzymol., 1980, 65, 499-560 ; Gogos, J. A.;Karayiorgou, M., et al., Nucleic. Acids Res., 1990, 18, 6807-6814参照)。
2本鎖DNA(T1/C1)を0℃で過マンガン酸カリウムで酸化し、次いでピペリジン中で90℃で処理した。この反応の概要を次のスキームで示す。
【0032】
【化12】
【0033】
NCの不存在下における2本鎖のT1/C1は0.2mMの過マンガン酸カリウムで320分間処理しても反応しなかったが、40μMのNCの存在下での2本鎖のT1/C1ではTg1(チミングリコールに酸化されたT1鎖)がHPLCにより確認された。そして、ピペリジン中での加熱処理により切断されたフラグメントの存在がHPLCで確認された。これらのHPLCのチャートを図5に示す。図5a(図5の左上側)はNCの不存在下での過マンガン酸カリウムによる処理結果のHPLCを示し、図5b(図5の右上側)はNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる処理結果のHPLCを示し、図5c(図5の左下側)はNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる処理の後、ピペリジンで加熱処理した結果のHPLCを示す。この結果、図5bではTg1のピークを確認することができ、さらにピペリジン中での加熱処理により切断されたフラグメントCCCAp及びpGGTCCGを確認することができた。
また、これらのフラグメントをMALDI−TOFマススペクトルで確認した。酸化される前のT1はm/zが3293.5に観測され(計算値:3293.2)、酸化されたチミングリコール(Tg)のT1、即ちTg1はm/zが3326.1に観測された(計算値:3327.2)。
そして、これをピペリジン中で加熱処理して得られたフラグメント5’−d(CCCA)−PO3H−3’(CCCAp)のm/zは1198.6に観測され(計算値:1198.8)、もう一方のフラグメント5’−HO3P−d(GGTCCG)−3’(pGGTCCG)のm/zは1888.4に観測された(計算値:1888.2)。
また、これらのオリゴマーは、アルカリホスファターゼにより末端を脱リン酸化し、標準のオリゴマーと共に逆相HPLCにおいても確認された。
11塩基からなるT1には2つのチミン(T)が存在している。即ち、−ATGG−におけるチミン(T)と、−GGTCC−におけるチミン(T)が存在している。しかし、過マンガンサンカリウムによる処理及びそれに続くピペリジンでの処理においては前者、即ち、−ATGG−におけるチミン(T)だけが反応した結果が得られた。この結果は、当該チミン(T)のみがNCの存在によりDNAのらせんの外側に存在していることを証明している。
【0034】
これらの結果から、NCが2個のミスマッチを含有するDNAの融解温度(Tm)を上昇させ、かつ2本鎖DNAとして安定に存在させることができる試薬であることを証明している。そしてグアニン以外のミスマッチ塩基はDNAの螺旋の外側に追い出されている構造となっている。
さらに、本発明者らは、これらの結果が普遍的なものであるかどうかをさらに確認するために、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’の配列を有する3塩基対のミスマッチ、即ち、T−Gミスマッチ、G−Gミスマッチ、及びG−Tミスマッチのものについて実験をした。
このために11塩基からなるDNA(T2/T3)を作製した。それぞれの塩基配列は、
T2 : 5’−CCTTTGGTCAG−3’
T3 : 3’−GGAAGGTAGTC−5’
であり、T−G、G−G、及びG−Tの3カ所のミスマッチを有するものである(下線部参照)。このDNA(T2/T3)は室温では1本鎖DNAとして存在しているが、NCの濃度が増加するにつれて2本鎖DNAとして存在するようになる。そして100μMのNCの存在下での融解温度(Tm)は58.8℃に達した。このように、このDNA(T2/T3)(5μM)の0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中での融解温度(Tm)は室温以下であったが、これにNCを100μMを添加して、同様に融解温度(Tm)を測定したところ58.8℃になった。実に30℃以上もの融解温度の上昇を観測することができた。なお、DNA(T2/T3)の融解温度(Tm)は、10℃以下であることまでは測定することができたが、正確な融解温度(Tm)の測定は困難であった。
このDNA(T2/T3)(5μM)の熱変性特性を図6に示す。図6の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は260nmにおける吸光度を示す。温度は毎分1℃の速度で上昇させ、1℃毎に吸光度を3回測定し、その平均値を図6のグラフに示した。図6の8本の曲線は、右末端(80℃付近)の下からNCの濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合をそれぞれ示す。
NCの各濃度におけるT2とT3の1本鎖から2本鎖への転移をCDスペクトルにより観察した。T2及びT3のそれぞれ5μMの、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、25℃における、NCの濃度が0、5、10、15、及び20μMでのそれぞれのCDスペクトルを測定した。結果を図7に示す。図7中の(a)はNCが0、即ち不存在の場合を示し、(b)はNCが5μMの場合を示し、(c)はNCが10μMの場合を示し、(d)はNCが15μMの場合を示し、(e)はNCが20μMの場合を示す。この結果、NCが存在していない場合には272nmでプラスのバンドを示し、250nmではマイナスのバンドがしめされたが、NCの添加により、モル比が1から4に増加するにつれてプラスのバンドが楕円的に増加することが示された。さらに、348nm及び324nmでのCDバンドの強度がNCの濃度の増加と共に変化した。このCDの変化はイソ二色性(isodichroic)のポイントを包含しており、T2及びT3の1本鎖からNCを含む2本鎖への転移を示している。
【0035】
T2及びT3のNCを含む2本鎖の複合体の形成は、CSI−TOFマススペクトルによっても確認された。T2及びT3の20μMの、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液におけるNCの不存在(図8の(a))、NCが20μM存在(図8の(b))、NCが40μM存在(図8の(c))、及びNCが60μM存在(図8の(d))におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を図8に示す。試料は−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度で注入された。図8(a)(図8の左上側)はNC不存在下のものであり、図8(b)(図8の右上側)はNCが20μM存在下のものであり、図8(c)(図8の左下側)はNCが40μM存在下のものであり、図8(d)(図8の右下側)はNCが60μM存在下のものである。
図8(a)に示されるように、1本鎖のT2は3−イオンとして([T2]3−)、m/zが1107.6に観測された(計算値:1106.2)。1本鎖のT3も3−イオンとして([T3]3−)、m/zが1140.2に観測された(計算値:1138.9)。T2とT3の2本鎖のものは5−イオンとして([T2/T3]5−)、m/zが1349.0に観測された(計算値:1347.2)。また、T2とT3の2本鎖のもので4−イオンとして([T2/T3]4−)、m/zが1687.2に観測された(計算値:1684.3)。一方、NCを20μM、即ちモル比で1:1の量を添加した場合(図8の(b))には、新たなピークであるNCとの2:1の複合体([T2/T3+2NC]5−)のピークが、m/z1550.7に観測された(計算値:1548.5)。
また、NCの濃度を変化させると、1本鎖のT2イオン([T2]3−)及びT3イオン([T3]3−)が減少し、NCとの複合体([T2/T3+2NC]5−)が増加してくる様子が観察された(図8(c)(図8の左下側)及び図8(d)(図8の右下側)参照)。
この場合においても、DNA:NCのモル比が1:2の化学量論量での複合体の形成が確認された。
【0036】
さらに、前記の場合と同様に過マンガン酸カリウムによる酸化切断を次に示す11塩基からなるDNAを用いて実験した。
T4 : 5’−GCAATGGTTGC−3’
T4 : 3’−CGTTGGTAACG−5’
この反応スキームを前記したスキームと同様に次に示す。
【0037】
【化13】
【0038】
NCの不存在下におけるT4を、0℃で0.2mMの過マンガン酸カリウムで40分間処理しても反応しなかった(図9(a)参照)が、40μMのNCの存在下での2本鎖のT4/T4では、続くピリミジンでの加熱処理後で生成物1及び2が確認された(図9(b)参照)。0.2mMの過マンガン酸カリウムでの処理を5時間とすることにより、生成物1及び2を主生成物として得ることが出来る(図9(c)参照)。0.2mMの過マンガン酸カリウムでの処理で得られるTg4(チミングリコールに酸化されたT4鎖)は、HPLCではT4のすぐそばにあらわれ、HPLCにより確認することは困難であったが、酸化に続くピペリジンの加熱処理により生成物1及び2が得られることから容易に確認することができた。ここで得られた生成物1及び2は、MALDI−TOFマススペクトルにより確認された。即ち生成物1はオリゴマー5’−d(GCAA)−PO3H−3’であり、m/zが1261.6に観測され(計算値:1262.2)、生成物2はオリゴマー5’−HO3P−d(GGTTGC)−3’であり、m/zが1901.7に観測された(計算値:1902.3)。これらのオリゴマーは、アルカリホスファターゼの存在したで、37℃で30分間処理することにより脱リン酸化してそれぞれ5’−d(GCAA)−3’及び5’−d(GGTTGC)−3’として、これを標品ののものと比較して同じリテンションタイムを有するものであることを確認した(図9(d)参照)。
これらのHPLCのチャートを図9に示す。図9(a)(図9の左上側)はNCの不存在下での過マンガン酸カリウムによる処理結果のHPLCを示し、図9(b)(図9の右上側)は40μMのNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる40分間の処理、続くピペリジン中での加熱処理後のHPLCを示し、図9(c)(図9の左下側)は40μMのNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる5時間の処理、続くピペリジン中での加熱処理後のHPLCを示す。図9(d)(図9の右下側)は生成物1及び2をアルカリホスファターゼで処理した後のHPLCの結果を示す。
この結果、図5bではTg1のピークを確認することができ、さらにピペリジン中での加熱処理により切断されたフラグメントCCCAp及びpGGTCCGを確認することができた。
また、酸化される前のT4のMALDI−TOFマススペクトルはm/zが3372.01に観測され(計算値:3370.60)、酸化されたチミングリコール(Tg)のT4、即ちTg4はm/zが3404.37に観測された(計算値:3404.61)。このことからも前記した5’−TGG−3’/3’−GGC−5’の配列を有する2塩基対のミスマッチと同様な化学量論的な構造が、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’の配列を有する3塩基対のミスマッチいおいても生起していることが確認された。
これらの結果から、NCが3個のミスマッチを有するDNA分子についても、前記した2個のミスマッチを含有するDNAの場合と同様に、融解温度(Tm)を上昇させ、かつ2本鎖DNAとして安定に存在させることができる試薬であることが証明された。そしてグアニン以外のミスマッチ塩基はDNAのらせんの外側に追い出されている構造となっていることが証明された。
【0039】
これらの実験結果は、ナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)が、2つ以上のミスマッチを有するDNAにおいて充分な安定化効果、即ち、融解温度(Tm)を上昇させる作用をゆうしていることを実証するものである。これは、このようなナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)は、通常の温度域でハイブリダイズすることができない程度に塩基配列が相違している1本鎖のDNAを安定化させてハイブリダイズさせることができるという特性を有していることを実証するものである。そして、この事実はシトシン(C)やチミン(T)などのピリミジン塩基に限定されるものではなく、アデニン(A)やグアニン(G)などのプリン塩基においても同等に、即ち、NCの存在によりミスマッチの塩基対の塩基がDNAのらせんの外側に追い出されることを示すものでもある。
このように、本発明が開示するナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC類)は、DNAの安定化や融解温度(Tm)の上昇という現象だけでなく、DNAの構造を水素結合とπ電子系によるπ−スタッキング効果により構造的に安定化させる作用を有するものであることが本発明により具体的に明らかにされたのである。
【0040】
本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC類)は、一般式(1)で示されるものであるり、当該一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体について、さらに詳細に説明する。
本発明の一般式(1)における、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示ものである。ここで、炭素数1〜5の炭化水素基としては、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であっても分岐状であってもよい。かかる炭化水素基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2〜5の直鎖状又は分岐状のアルケニル基、炭素数3〜5のシクロアルキル基などが挙げられる。このような炭化水素基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等を挙げることができる。好ましい炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などの炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。また、R1及びR2における、炭素数1〜5の炭化水素基の少なくとも1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基としては、1個の炭素原子が酸素原子で置換された炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数1〜4のアルコキシアルキル基、1この炭素原子が窒素原子で置換された炭素数1〜4のジアルキルアミノ基、炭素数1〜4の(ジ又はモノ)−アルキルアミノアルキル基、2個の炭素原子が酸素原子で置換された炭素数1〜3のアルコキシアルコキシ基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
本発明の一般式(1)におけるXとしては、酸素原子又は硫黄原子が挙げられる。Xが酸素原子の場合には隣接するアミド基と共にカルバメート基を形成することになり、Xが硫黄原子の場合には、隣接するアミド基と共にチオカルバメート基を形成することになる。このように、本発明におけるカルバメート基としては、酸素源sにからなるカルバメート基であってもよいし、1つの酸素原子が硫黄原子で置換されたチオカルバメート基であってもよい。好ましいカルバメート基としては、酸素原子からなるカルバメート基、即ちXが酸素原子であるカルバメート基が挙げられる。
本発明の一般式(1)におけるRとしては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの直鎖状のアルキレン基、メチルメチレン基、エチルメチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、3−メチルプロピレン基、1−エチルプロピレン基、2−エチルプロピレン基、3−エチルプロピレン基などの分岐状のアルキレン基などが挙げられる。好ましいRとしては、2個のナフチリジン環がグアニン等と水素結合を形成し、立体的にπ−スタッキング効果を得ることが出来る長さと自由度を有し、分子の熱安定性が優れたアルキレン基が挙げられ、具体的には直鎖状における炭素数が3のプロピレン基又はそのそのアルキル基置換体が挙げられる。より好ましいRとしては、直鎖状のプロピレン基が挙げられる。
【0042】
一般式(1)におけるR3としては、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマーを単独で使用とする場合には水素原子であってよいが、これに限定されるものではない。水素原子以外の基としては炭素数1〜5、好ましくは1〜3程度の立体的に余り大きくなく、かつ化学的に不活性な基、例えばアルキル基などが挙げられる。
また、発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマーは、前述してきたようにDNA分子とモル比で1:2の化学量論量で結合することから、この二量体構造を有するものとして使用することもできる。このような二量体構造を有するものとしては、一般式(1)におけるR3が一般式(2)で示される構造を有するものが挙げられる。一般式(2)におけるR1、R2、R、及びXは前記したものと同じである。一般式(2)におけるLとしては、それぞれのナフチリジンカルバメートダイマー部分を化学結合で結合させることができるものであって、両者の距離及び自由度を適度に保てるものであれば特に制限はない。好ましい、Lとしては、炭素数5〜15の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数12〜20のフェニレン基を有するアルキレン基、次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表されるアゾ基を含有する基などが挙げれる。
前記した一般式(3)におけるR4及びR5としては、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基としてはメチレン基が挙げられる。また、Ar1及びAr2で表されるアリーレン基としては、炭素数6〜30、好ましくは6〜12の6員芳香環からなるアリール基から誘導される2価のアリーレン基が挙げられる。好ましいアリーレン基としては、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基などのフェニレン基があげられる。好ましいAr1及びAr2としては、p−フェニレン基が挙げられる。一般式式(3)におけるアゾ基はシン配置であってもアンチ配置であってもよいが、アゾ基の立体配置によりDNA分子の安定性が異なってくることは後述する。
本発明の一般式(1)における好ましい化合物としては、次の式(5)
【0043】
【化14】
【0044】
で表される化合物、即ち、一般式(1)におけるR1及びR2がメチル基であって、Rがプロピレン基であって、R3が水素原子であって、Xが酸素原子であるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、次の式(6)又は(7)
【0045】
【化15】
【0046】
【化16】
【0047】
で表される化合物、即ち、一般式(1)におけるR1及びR2がメチル基であって、Rがプロピレン基であって、R3がN−(アゾ−ビス(p−フェニレンメチレン))−ナフチリジンカルバメートダイマーであって、Xが酸素原子であるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のうちのアンチ異性体(6)及びシン異性体(7)が挙げられる。
【0048】
本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のうちのR3が水素原子である化合物は、公知化合物であり、例えば、特許文献8に記載された方法により製造することができる。例えば、N,N−ビス(ヒドロキシアルキル)アミン又はそのN−保護体をサクシノイル基などのO−保護基で保護されたカーボネートとし、これに2−アミノ−1,8−ナフチリジン又はその7位が上記R1又はR2で置換された2−アミノ−1,8−ナフチリジンを反応させて、製造することができる。この際の保護基としては、塩酸塩やアシル基やアルコキシカルボニル基などのペプチド合成において使用されるアミノ保護基を使用することができる。
【0049】
本発明の一般式(1)におけるR3が水素原子以外のものである化合物、即ち、一般式(4)で表される化合物は新規化合物である。
本発明の一般式(4)で表される化合物は、例えば、次の一般式(8)
OHC−R6−Ar1−N=N−Ar2−R7−CHO
(式中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、R6及びR7はそれぞれ独立して化学結合又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示す。)
で表されるジアルデヒド誘導体を、前記した本発明の一般式(1)におけるR3が水素原子である化合物と還元条件で反応させて、アミノ基をカップリングさせて製造することができる。これらの反応条件としては、通常の還元的アミノ化反応の条件を採用することができる。
【0050】
本発明の一般式(4)で示される化合物は、分子中にナフチリジンのような塩基を認識する、即ち塩基と水素結合することができる部位と、光の照射によりシン−アンチ異性化を起こすことができるアゾ基を有していることを特徴とするものである。
例えば、アンチ体(6)(トランス体)に360nmの光を照射することにより、シン異性体(7)(シス体)とすることができ、また、シン異性体(7)(シス体)に430nmの光を照射することにより、アンチ体(6)(トランス体)に可逆的に変換することができる。これらの光異性化の反応式を次に示しておく。
【0051】
【化17】
【0052】
このように光の照射により可逆的に変換されるシン異性体とアンチ異性体は立体的に大きく異なる構造となり、塩基との相互作用が立体的に制限されることになる。この様子を模式化して図10に示す。このようなアゾ基を有する分子は光1及び光2により可逆的に変換され、シス−トランスの立体構造を取ることになる。例えば、図10に示されるようにシン異性体(シス体)となったときにミスマッチのDNAに前記してきたNCと同様に相互作用をし、ミスマッチを有するDNA分子を安定化させることができる。しかし、このような立体構造により安定化されている状態にあったとしても、ここに光2が照射されてアンチ異性体(トランス体)に変化された場合には、もはや安定な相互作用をしうる立体構造をとることはできず、DNA分子は不安定になる。
例えば、GGミスマッチを含む二本鎖DNA5’−CTA ACG GAA TG−3’/3’−GAT TGG CTT AC−5’、及び式(6)で表されるトランス体−3を混合し、2本鎖DNAの融解温度(Tm)を測定した。360nmの光照射を5分間行い、トランス体−3(i)からシス体−3(ii)へと変換される。この時、2本鎖DNA分子の融解温度(Tm)は29℃から52℃へと大幅に上昇し(図11参照)、安定な二本鎖構造をとる。さらにシス体−3(ii)に対して430nmの光を照射するとトランス体−3(iii)へと戻る。そうすると再び二本鎖はミスマッチ塩基対の存在のため大きく不安定化される。さらに360nmの光照射を行うとシス体−3(iv)のまた戻る。これらのそれぞれの状態における熱変性特性を測定した結果を図11に示す。図11の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は吸光度(AU)を示す。図11中の(i)はトランス体−3(i)の場合を示し、(ii)はシス体−3(ii)の場合を示し、(iii)はトランス体−3(iii)の場合を示し、(iv)はシス体−3(iv)の場合をそれぞれ示している。
このように、光の照射により「分子糊」の機能を再度よみがえらせることができる。以上のように小分子と光によって可逆的にDNAの二重鎖形成を制御することが可能であった。
【0053】
前述してきたように、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体は、2つ以上のミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させ、安定化する。これは、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体がミスマッチ配列中のGG部位に結合することにより、ミスマッチを含んだ二本鎖構造を誘起させ、安定化させるからである。即ち、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体は、ミスマッチを有して不安定なDNAを一本鎖から二本鎖へと変換する「分子糊」としての機能を発揮するからである。本発明の一般式(4)で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメートダイマー誘導体は、このような「分子糊」として機能に、さらに、DNAの二本鎖形成を光などの外部刺激によって可逆的に制御するための機能を有するものということができる。このような光異性化能を有するアゾベンゼン骨格を本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のリンカー部に導入した分子が本発明の一般式(4)で表される化合物である。光照射によってアゾベンゼン部位のトランス/シスが変換され、それに応じて、トランス体及びシス体のミスマッチDNAに対する結合能も変化する(図10参照)。即ち、一般式(4)の化合物は、照射する光の波長により「分子糊」としての機能のオン/オフの切り替えを制御することができることになる。
このような光による制御を可能とする化合物としては、前記してきた本発明の一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体だけでなく、より単純な化学構造をしている、次の式(9)
【0054】
【化18】
【0055】
で表される化合物が挙げられる。この化合物は、窒素原子から1つのナフチリジン構造を削除した化学構造を有するものであり、単純な構造で前記した「分子糊」としての機能のオン/オフの切り替えを制御することができることになる。
したがって、本発明における照射する光の波長により「分子糊」としての機能のオン/オフの切り替えを制御することができる化合物を一般式で表すと、次の一般式(10)、
Z1−N(Z2)−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5−N(Z3)−Z4 (10)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置であり、Z1及びZ4は次の一般式(11)
【0056】
【化19】
【0057】
(式中、R8は、水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示し、Z2及びZ3はそれぞれ独立して水素原子又は前記一般式(11)で表される基を示す。)
で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメート誘導体ということができる。
本発明の一般式(10)におけるR4、R5、Ar1、及びAr2は、それぞれ前記してきたものと同じものを示し、一般式(11)におけるR、及びXも前記してきたものと同じものを示し、一般式(11)におけるR8は前記してきた一般式(1)におけるR1やR2と同じ基を示す。
また、一般式(10)で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメート誘導体も新規化合物であり、前記した一般式(4)で表される化合物と同様な方法で製造することができる。
【0058】
次に、本発明におけるDNA分子について説明する。本発明における「2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子」とは、(1)塩基配列として少なくとも2個のGが連続したGG配列を有すること、(2)G−Gミスマッチを有すること、及び(3)前記したG−Gミスマッチ以外に、さらに少なくとも1つのミスマッチを有することを条件とするものである。さらに、好ましい態様としては、前記(1)で示した2個のグアニン(G)が連続したGG配列における一方のグアニン(G)において前記(2)に示したG−Gミスマッチが有り、前記(3)に示した他のミスマッチが前記(2)で示したG−Gミスマッチに隣接しているものが挙げられる。即ち、好ましい態様としては、5’−NGG−3’/3’−GGY−5’(N及びYは、それぞれ独立してシトシン(C)以外の塩基を示す。)の塩基配列を有するDNA分子が挙げられる。より好ましい態様としては、N又はYの少なくとも一方、好ましくは両方がチミン(T)である塩基配列を有するDNA分子が挙げられる。本発明における好ましいG−Gミスマッチ以外のミスマッチとしては、G−Tミスマッチが挙げられる。
本発明における「ミスマッチ」とは、ワトソン−クリック型塩基対、即ち、T−A又はG−Cの塩基対以外の塩基であり、バルジ塩基をも包含している。したがって、前記した配列におけるN又はYの一方又は両方が塩基でない場合も包含しているが、好ましい態様としてはN及びYがシトシン(C)以外の塩基である場合が挙げられる。
本発明のDNA分子の長さは特別な制限はないが、余り長いとミスマッチ部分に対してマッチしている塩基部分が多くなり、融解温度(Tm)が低くならないことから、好ましい長さとしては、6〜150mer、より好ましくは10〜50mer、さらに好ましくは10〜30mer程度が挙げられる。ミスマッチ部分が多数存在している場合には、前記した長さに制限されず、さらに長いものであってもよい。好ましいDNA分子としては0℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃の範囲で2本鎖DNAを形成することができない程度のミスマッチを有するDNA分子が挙げられる。
【0059】
本発明における融解温度(Tm)とは、通常の核酸類について使用される意味である。即ち、核酸、例えばDNAを加熱してゆくと、ある温度で立体構造に極端な変化が起こって、この変化があたかも相転移に相当するような変化であることから、このときの温度を融解温度(Tm)と言っている。例えば、薄い中性の塩溶液中で二重らせん構造をしているDNAの溶液を、温度を上昇させながら溶液の紫外線吸収を測定いくと、ある温度に達したときに、それまではほぼ一定であった紫外線吸収が急激に上昇し、紫外線吸収が約40〜50%増加した値に達すると再び一定になる(濃色効果)。この変化の温度幅が極めて狭く、あたかも相転移が起こったかのようにみえるために、DNAが「融解した」として変化の起こった温度幅の中間の温度を融解温度(Tm)と呼んでいる。本発明においても「融解温度(Tm)」はこの意味で使用する。融解温度の測定は紫外線吸収だけでなく、円二色性や赤外線吸収でも測定することができる。
本発明における「融解温度(Tm)の上昇」とは、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、又は一般式(11)で表されるナフチリジンカルバメート誘導体のいずれの化合物の不存在下で測定したと同じ測定条件で、前記したナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のいずれかの化合物の存在下、好ましくはDNA分子とこれらの化合物のモル比(一般式(4)の場合には当量の比)が1:1以上、より好ましくは1:2以上の量の存在下で測定したときの融解温度(Tm)を比較したときに、これらの本発明の化合物が存在したときに少なくとも15℃以上、好ましくは25℃以上上昇することをいう。したがって、本発明における「融解温度(Tm)」の測定条件、例えば、溶媒の種類、塩の種類、塩の濃度、DNAの濃度については特に制限はないが、極端な濃度や溶媒の選択は除外されることは当然である。薄い中性の塩溶液での測定であれば特に制限はない。
【0060】
本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は、ミスマッチを有するDNA分子を本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体の存在により安定化させて融解温度(Tm)を上昇させるものである。同じ温度について言えば、1本鎖でしか存在することができないDNA分子を安定化させて2本鎖のDNAとすることができるということであり、本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は1本鎖の状態で存在しているDNA分子を2本鎖にする、即ち、このようなDNA分子を「接着」させる「糊」のような機能を有するものである。この意味で本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は、2つの分子を接着させる「分子糊」ということもできるし、2本鎖DNAの安定化剤ということもできるし、また、一定の温度における2本鎖DNAの形成剤ということもできる。
さらに、本発明の一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体や、一般式(11)で表されるナフチリジンカルバメート誘導体は、前述してきたように、光の照射により可逆的にシン−アンチ異性化を行うことができるアゾ基を含有しているために、光の照射により前記した「分子糊」としての機能をオン又はオフとすることができる。したがって、本発明のこのような「分子糊」としての機能をオン又はオフとすることができる分子は、当該DNA分子の融解温度(Tm)を上昇させたり、下降させたり、即ち、室温のような一定の温度においてDNAの2本鎖を安定化させたり、不安定にさせたりすることがでることから、当該DNA分子の融解温度(Tm)制御剤ということができる。また、当該DNA分子の融解温度(Tm)の上昇剤及び/又は下降剤ということもできる。
【0061】
本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は、単にミスマッチを有する不安定なDNAを安定化させるという機能だけでなく、前記したように「分子糊」としての機能をも有するものであることから、各種の応用が可能となる。
例えば、ミスマッチを有する本発明のDNA分子のそれぞれの鎖に2種類の物質(例えば、蛍光色素、有機分子、核酸分子、タンパク質、糖、ベシクル、金属粒子、金属薄膜、細胞、ベシクル等)を標識しておけば、本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」の存在下でのみ、これらの2種類の物質を空間的に近づけることが出来る。また、アゾ基を有する本発明の上昇剤を使用すれば、光の照射により可逆的のこれらの2種類の物質を空間的に近づけたり遠ざけたりすることが可能となる。
また、細胞内のシグナル伝達系では、異種もしくは同種蛋白の集合が重要であることが知られており、本発明の「分子糊」の機能を利用して本発明の上昇剤の存在下でのみ二つの蛋白を集合させることが可能となる。この方法を用いて、異種蛋白間の相互作用を調べることも可能となる。さらに、光でスイッチングする分子糊を使えば、蛋白間相互作用によるシグナル伝達系を、光の照射により簡便にオン/オフすることが可能になる。
さらに、本発明の上昇剤を基板上に固定化することにより、本発明の上昇剤が固定化されたスポット上でのみ、2種類の物質を空間的に接近させることができ、蛍光発光や蛍光の消光などの2種類の物質の相互作用を簡便な方法で測定することができるようになる。この方法を用いることにより、任意の二つの物質の存在を判別することも簡便に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0062】
以上のように、本発明は、全く新しい発想により、2種類の分子を分子レベルで空間的に接近させたり遠ざけることが可能となる新規な試薬、及びそれを用いた方法を提供するものである。
また、従来の核酸の構造の制御方法の多くは、光などに応答する部位でDNAを修飾することにより、あらかじめDNAに標識となる物質を導入しておく必要があった。そのため、天然のDNAに対してはこのような方法は全く効果がなく、用途が大きく制限されていた。これに対して本発明では、外部より小分子を加えることにより核酸の構造を制御するため、DNA自身に対する修飾は必要がない。すなわち、合成困難な長鎖DNAや細胞内のDNAを標的とすることができる。その上、光照射により可逆的かつ特定の配列のみに構造制御を行うことが可能である。また、本発明は小さな分子の添加によるミスマッチの多い核酸分子を安定化させることができるというユニークな発想に基づくものであり、本発明の手法は多種多様なミスマッチ分子にも拡張することができ、本発明はその基本的な思想を提供するものである。
さらに、本発明により、DNAの張り合わせを小分子と光によりコントロールすることができる。例えば、DNAチップ上のハイブリダイゼーションや核酸を基盤としたナノ構造の制御、核酸の二本鎖形成に伴う様々な生化学的現象、複製・転写などの小分子による制御が可能になる。
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例で使用される式(5)で表される化合物は、特許文献8に記載の方法で製造した。
【実施例1】
【0064】
DNA分子(T1/C1)の熱変性特性の測定。
以下に示す塩基配列を有する11塩基からなるDNA分子(T1/C1)を製造した。
T1 : 5’−CCCATGGTCCG−3’
C1 : 3’−GGGTGGCAGGC−5’
このDNA分子(T1/C1)の5μMを、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、4℃〜94℃の範囲における熱変性特性を測定した。温度は毎分1℃の速度で上昇させ、1℃毎に260nmにおける吸光度を3回測定し、その平均値を測定した。結果を図2の上の曲線で示す。
同様に、このDNA分子(T1/C1)の5μM、及び式(5)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(以下、単にNCという。)100μMを、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、4℃〜94℃の範囲における熱変性特性を測定した。
結果を図2の下側の曲線で示す。
また、これらの融解温度(Tm)を測定した。この結果NC不存在下でのDNA分子(T1/C1)の融解温度(Tm)は35.7℃であった。これにNC100μMを添加して、同様に融解温度(Tm)を測定したところ71.1℃であった。
この結果、本発明のNCがDNA分子の誘拐温度(Tm)を上昇させることがわかった。
【実施例2】
【0065】
DNA分子(T1/C1)のCSI−TOF(cold spray ionization timt-of-flight)マススペクトルの測定。
実施例1で製造したDNA分子T1及びC1の各々の20μMを、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液に溶解し、−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度でCSI−TOFに注入して測定した。m/zが1000−1800の範囲の結果を図3aに示す。
同様に、DNA分子T1及びC1の各々の20μM、及びNC40μMの存在下で、CSI−TOFマススペクトルの結果のm/zが1000−1800の範囲を図3bに示す。
1本鎖のT1([T1]3−) ; 実測値 1096.2
計算値 1096.2。
2本鎖のT1/C1([T1/C1]5−) ; 実測値 1344.8
計算値 1344.6。
NCとの2:1の複合体([T1/C1+2NC]5−) ; 実測値 1546.3
計算値 1545.9。
【実施例3】
【0066】
DNA分子(T1/C1)の酸化、及びそれに続くピペリジン加熱による切断。
実施例1で製造したDNA分子T1及びC1の各々の12.5μMを、100mM塩化ナトリウムを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中に溶解し、これに過マンガン酸カリウム0.2mMを添加し、0℃で320分間反応させた。この結果の生成物のHPLCを図5(a)に示す。この結果、反応は生起しなかった。
同様に、DNA分子T1及びC1の各々の12.5μM、及びNC40μMを、100mM塩化ナトリウムを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中に溶解し、これに過マンガン酸カリウム0.2mMを添加し、0℃で320分間反応させた。この結果の生成物のHPLCを図5(b)に示す。この結果、Tg1(チミングリコールに酸化されたT1鎖)の生成が確認された。
単離されたTg1を、ピペリジンで90℃で30分間加熱処理した。その結果のHPLCを図5(c)に示す。
【実施例4】
【0067】
DNA(T2/T3)の熱変性特性の測定。
以下に示す塩基配列を有する11塩基からなるDNA分子(T2/T3)を製造した。
T2 : 5’−CCTTTGGTCAG−3’
T3 : 3’−GGAAGGTAGTC−5’
このDNA分子(T2/T3)5μMの熱変性特性を、NCの濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合のそれぞれについて、実施例1と同様にして測定した。結果を図6に示す。図6の8本の曲線は、右末端(80℃付近)の下からNCの濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合をそれぞれ示す。
また、NCの各濃度におけるT2とT3の1本鎖から2本鎖への転移をCDスペクトルにより観察した。T2及びT3のそれぞれ5μMの、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、25℃における、NCの濃度が0、5、10、15、及び20μMでのそれぞれのCDスペクトルを測定した。結果を図7に示す。
また、NCを100μMを添加したときの融解温度(Tm)を測定したところ58.8℃であった。
【実施例5】
【0068】
DNA(T2/T3)のCSI−TOFマススペクトルの測定。
実施例4で製造したDNA分子T2及びT3のそれぞれ20μMを、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液に溶解し、−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度でCSI−TOFに注入した。結果を図8の(a)に示す。
また、同様にして、NCが20μM存在(図8の(b))、NCが40μM存在(図8の(c))、及びNCが60μM存在(図8の(d))におけるCSI−TOFマススペクトルを測定した。結果の1000−1800の範囲を図8にそれぞれ示す。
1本鎖のT2([T2]3−) ; 実測値 1107.6
計算値 1106.2。
1本鎖のT3([T3]3−) ; 実測値 1140.2
計算値 1138.9。
2本鎖T2/T3([T2/T3]5−) ; 実測値 1349.0
計算値 1347.2。
2本鎖T2/T3([T2/T3]4−) ; 実測値 1687.2
計算値 1684.3。
NCとの2:1の複合体([T2/T3+2NC]5−) ; 実測値 1550.7
計算値 1548.5)。
【実施例6】
【0069】
DNA(T4/T4)の酸化、及びそれに続くピペリジン加熱による切断。
以下に示す塩基配列を有する11塩基からなるDNA分子(T4/T4)を製造した。
T4 : 5’−GCAATGGTTGC−3’
T4 : 3’−CGTTGGTAACG−5’
NCの不存在下におけるT4を、0℃で0.2mMの過マンガン酸カリウムで40分間処理しても反応しなかった(図9(a)参照)が、40μMのNCの存在下での2本鎖のT4/T4では、続くピリミジンでの加熱処理後で生成物1及び2が確認された(図9(b)参照)。0.2mMの過マンガン酸カリウムでの処理を5時間とすることにより、生成物1及び2を主生成物として得ることができた(図9(c)参照)。
Tg4(チミングリコールに酸化されたT4鎖)は、HPLCにより確認することは困難であったが、酸化に続くピペリジンの加熱処理により生成物1及び2が得られることから容易に確認することができた。ここで得られた生成物1及び2は、MALDI−TOFマススペクトルにより確認した。
生成物1:オリゴマー5’−d(GCAA)−PO3H−3’
実測値 1261.6
計算値 1262.2。
生成物2:オリゴマー5’−HO3P−d(GGTTGC)−3’
実測値 1901.7
計算値 1902.3。
また、酸化される前のT4及びTg4のMALDI−TOFマススペクトルを測定した。 T4 ; 実測値 3372.01
計算値 3370.60。
Tg4 ; 実測値 3404.37
計算値 3404.61。
【実施例7】
【0070】
式(9)で表されるアゾベンゼン誘導体の製造
次に示す反応式に従って式(9)で表されるアゾベンゼン誘導体を製造した。
【0071】
【化20】
【0072】
4,4’−アゾベンズアルデヒド(上記の反応式中の化合物番号11)(79.7mg,0.335mmol)と上記の反応式中の化合物番号12で表されるナフチリジン誘導体(183mg,0.703mmol)をクロロホルム(10mL)、メタノール(5mL)、酢酸(50mL)の混合溶媒中に加えて室温で15分間撹拌する。これにシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(43mg,0.684mmol)のメタノール(1mL)溶液を滴下する。室温で2時間撹拌後、飽和重曹水を加えてクロロホルムで抽出、さらに飽和食塩水で有機相を洗浄する。有機相を減圧下濃縮、回収した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=100:5から100:20)で精製して、標記の化合物(上記の反応式中の化合物番号1)(90.6mg,0.125mmol)を、収率37%で得た。
1H NMR (CDCl3,400MHz) δ
8.25 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 8.11 (d, J = 9.0 Hz, 2H),
7.98 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.85 (d, J = 8.3 Hz, 4H, Azobenzene),
7.65 (brs,2H, NH), 7.47 (d, J = 8.3 Hz, 4H, Azobenzene), 7.25 (d, 2H),
4.35 (t, J = 6.3 Hz, 4H, CH2), 3.90 (s, 4H, Bn),
2.80 (t, J = 6.6 Hz, 4H, CH2), 2.76 (s, 6H, CH3),
1.95 (pseudo quintet, 4H, CH2);
ESIMS 計算値 : [M+Na]+ 749.33,
実測値 : 749.28.
【実施例8】
【0073】
式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体の製造
次に示す反応式に従って式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体を製造した。
【0074】
【化21】
【0075】
(1) 4,4’−アゾベンズアルデヒド(上記の反応式中の化合物番号11)(26.2mg,0.110mmol)と上記の反応式中の化合物番号13で表されるナフチリジンカーバメイトダイマー(62.3mg,0.124mmol)をクロロホルム(1.5mL)、アセトニトリル(4.5mL)、酢酸(7mL)の混合溶媒中に加えて室温で2時間間撹拌する。これにシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(6.9mg,0.110mmol)を加えて、室温で4日間撹拌する。飽和重曹水を加えてクロロホルムで抽出、さらに飽和食塩水で有機相を洗浄する。有機相を減圧下濃縮、回収した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=100:2から100:2.5)で精製して、上記の反応式中の化合物番号14で表されるモノアルキルアミノアルデヒド(36.9mg,0.051mmol)を、収率46%で得た。
1H NMR (CDCl3,400MHz) δ
10.06 (s, 1H, CHO), 8.26 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 8.06 (d, J = 8.8 Hz, 2H),
7.89 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.88 (d, J = 8.3 Hz, 2H),
7.86 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.77 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.60 (brs,2H, NH),
7.50 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.19 (d, J = 8.3 Hz, 2H),
4.31 (t, J = 6.2 Hz, 4H, CH2), 3.64 (s, 2H, Bn), 2.72 (s, 6H, CH3),
2.61 (t, J = 6.6 Hz, 4H, CH2), 1.92 (pseudo quintet, 4H, CH2);
ESIMS 計算値 : [M+Na]+ 748.30,
実測値 : 748.14.
【0076】
(2)前記(1)で得られたモノアルキルアミノアルデヒド14(32.8mg,0.045mmol)と上記の反応式中の化合物番号13で表されるナフチリジンカーバメイトダイマー(32.4mg,0.064mmol)をクロロホルム(2.5mL)、アセトニトリル(2mL)、酢酸(6.2mL)の混合溶媒中に加えて40℃で2時間間撹拌する。これにシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(4.2mg,0.067mmol)を加えて、35℃で12時間撹拌する。飽和重曹水を加えてクロロホルムで抽出、さらに飽和食塩水で有機相を洗浄する。有機相を減圧下濃縮、回収した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール:酢酸=100:5:0.5から100:8:0.5)で精製して、標記の化合物(上記の反応式中の化合物番号2)(17.8mg,0.015mmol)を、収率33%で得た。
1H NMR (CDCl3,400MHz) δ
8.27 (d, J = 9.0 Hz, 4H), 8.09 (d, J = 8.8 Hz, 4H),
7.92 (d, J = 8.1 Hz, 4H), 7.69 (d, J = 8.6 Hz, 4H, Azobenzene),
7.68 (brs,4H, NH), 7.39 (d, J = 8.3 Hz, 4H, Azobenzene),
7.22 (d, J = 8.3 Hz, 4H), 4.32 (t, J = 6.5 Hz, 8H, CH2),
3.62 (s, 4H, Bn), 2.73 (s, 12H, CH3), 2.61 (t, J = 6.6 Hz, 8H, CH2),
1.93 (pseudo quintet, 4H, CH2);
ESIMS 計算値 : [M+Na]+ 1235.53,
実測値 : 1234.93.
【実施例9】
【0077】
実施例8で製造した式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体の光異性化。
GGミスマッチを含む二本鎖DNA5’−CTA ACG GAA TG−3’/3’−GAT TGG CTT AC−5’の4.5mM、及び実施例8で製造した式(6)で表される光感応性リガンド2(6.8mM)を混合し、2本鎖DNAの融解温度(Tm)を測定した。360nmの光照射を5分間行い、トランス体からシス体へと変換される。この時、2本鎖DNA分子の融解温度(Tm)は29℃から52℃へと大幅に上昇し(図11参照)、安定な二本鎖構造をとる。さらにシス体(ii)に対して430nmの光を照射するとトランス体の3(iii)へと戻る。そうすると再び二本鎖はミスマッチ塩基対の存在のため大きく不安定化される。さらに360nmの光照射を行うと「分子糊」の機能を再度よみがえらせることができる。以上のように小分子と光によって可逆的にDNAの二重鎖形成を制御することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、ミスマッチにより不安定になっているDNA分子を低分子化合物の化合物の添加により安定化させるための融解温度(Tm)の上昇化剤、及びそれを用いた方法、並びにそのための新規な化学物質を提供するものである。
本発明の試薬や方法は、DNAなどの核酸類やタンパク質などの各種のアッセイにおいて有用なだけでなく、核酸類やタンパク質などの同定や機能の解析などにおいても有用であり、各種の検査試薬や診断剤用の薬品として産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1a(図1の左側)は、ナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)とグアニン(G)との水素結合の様子を示したものであり、図1b(図1の右側)はG−Gの1塩基のミスマッチ配列に対するNCの入り方を模式的に示したものである。
【図2】図2は、DNA(T1/C1)(5μM)溶液の熱変性を、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の存在下(図2の下側の曲線)及び不存在下(図2の上側の曲線)で測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、DNA分子T1及びC1の20μM溶液における、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の40μMの存在下(図3b)又は不存在下(図3a)におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を示すものである。
【図4】図4は、DNA分子T1及びC1の20μM溶液における、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の20μMの存在下(図4a)、又は60μMの存在下(図4b)におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を示すものである。
【図5】図5は、NCの不存在下における2本鎖のDNA(T1/C1)の本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の存在下(図5b)又は不存在下(図5a)における、過マンガン酸カリウムでの酸化反応の結果のHPLCのチャートである。図5c(図5の左下側)はNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる処理の後、ピペリジンで加熱処理した結果のHPLCを示す。
【図6】図6は、DNA(T2/T3)(5μM)の熱変性特性を示す。図6の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は260nmにおける吸光度を示す。図6の8本の曲線は、右末端(80℃付近)の下から本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合をそれぞれ示す。
【図7】図7は、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の各濃度におけるT2とT3の1本鎖から2本鎖への転移をCDスペクトルにより測定した結果を示すものである。図7中の(a)はNCが0、即ち不存在の場合を示し、(b)はNCが5μMの場合を示し、(c)はNCが10μMの場合を示し、(d)はNCが15μMの場合を示し、(e)はNCが20μMの場合を示す。
【図8】図8は、T2及びT3の本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)を含む2本鎖の複合体の形成を、CSI−TOFマススペクトルにより確認した結果を示すものである。NCの不存在(図8の(a))、NCが20μM存在(図8の(b))、NCが40μM存在(図8の(c))、及びNCが60μM存在(図8の(d))におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を示す。
【図9】図9は、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の不存在下(図9(a))、又は存在下(図9(b))におけるDNA分子T4の過マンガン酸カリウムでの酸化反応、続くピリミジンでの加熱処理後の生成物のHPLCのチャートである。図9(c)(図9の左下側)は40μMのNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる5時間の処理、続くピペリジン中での加熱処理後のHPLCを示す。図9(d)(図9の右下側)は生成物1及び2をアルカリホスファターゼで処理した後のHPLCの結果を示す。
【図10】図10は、光の照射により可逆的に変換されるシン異性体とアンチ異性体は立体的に大きく異なる構造となり、塩基との相互作用が立体的に制限されることになる様子を模式化して示したものである。
【図11】図11は、本発明の式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体を用いて光の照射によるDNA分子の熱変性特性を測定した結果を示すものである。図11中の(i)はトランス体−3(i)の場合を示し、(ii)はシス体−3(ii)の場合を示し、(iii)はトランス体−3(iii)の場合を示し、(iv)はシス体−3(iv)の場合をそれぞれ示している。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
T1 : 5’−CCCATGGTCCG−3’
T2 : 5’−CCTTTGGTCAG−3’
T4 : 5’−GCAATGGTTGC−3’
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のミスマッチを有するDNA分子を安定化させ、その融解温度(Tm)を上昇されるための低分子化合物からなる融解温度(Tm)を上昇化剤、DNA分子の安定化剤、又は不安定なDNA分子を接着させるための「分子糊」のような機能を有する機能性材料に関する。より詳細には、本発明は、後述する一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤に関する。また、本発明は、後述する一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体に関する。さらに、本発明は、これらの低分子化合物を用いた複数のミスマッチを含有する不安定なDNA分子をハイブリダイズさせる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAやRNAなどの核酸がハイブリダイズして2本鎖となる場合には、対をなす塩基が決まっている。例えば、グアニン(G)にはシトシン(C)、アデニン(A)にはチミン(T)という具合になっている。そして、通常は全ての塩基がこのような対を形成してハイブリダイズしているのであるが、ときとして塩基配列の中の一部にこのような対を形成することができない場合がある。例えば、あるDNAと他のDNAをハイブリダイズし得る条件下においた場合に、大部分の塩基はこのような対を形成することができるが、1個又は数個の一部の塩基はこのような対を形成することができない場合がある。このような通常の塩基対を形成することができない塩基対のことを、以下ではミスマッチという。
【0003】
一方、最近1個又は2個以上の塩基が異なることに起因する各種の遺伝病についての研究が行われてきている。例えば、遺伝情報の個人差である遺伝子一塩基多形(SNPs(Single Nucleotide Polymorphism))は、罹病しやすさや、薬理作用の個人差の原因となる。現在、各個人に最適化された医療の実現へ向け、SNPsの研究がポストゲノムの重要な位置を占めており、効率的なSNPsの検出法の開発が期待されている。SNPsを含むDNAは、変異を含まない相補的なDNAと混合しアニールさせるとミスマッチ塩基対を形成するので、このミスマッチ塩基対に選択的に結合する低分子リガンドを開発すれば、SNPsの効率的な検出が可能になると考えられる。
現在、このようなミスマッチを検出する方法は、2本鎖DNAのハイブリダイゼーション効率を比較する手法が一般的である。しかし、この方法を用いるためにはミスマッチを含むDNAの塩基配列をあらかじめ知っておかなければならないために多大な労力が必要となり、多くの検体を処理する方法としては不適当である。また、MutS等のDNAの修復蛋白が遺伝子損傷箇所に選択的に結合することを利用する手法もあるが、タンパク質を用いる場合、低分子リガンドを用いる方法に比べて熱安定性や活性な構造(フォールディング)を維持する事が必要となり使用条件の制約が多く、また操作も煩雑となり効率的にミスマッチを検出することは難しい。
【0004】
このように、ハイブリダイズしたDNAなどにおける一部のミスマッチを検出する方法は大変難しく、またその感度も不十分なものであり、これを簡便に且つ高感度で検出できる方法の確立が求められている。
ところで、本発明者らは、2本鎖DNA中に生成する不対塩基(バルジ塩基)を持つDNA(バルジDNA)に特異的に結合し、安定化する分子であるバルジDNA認識分子を開発してきた(特許文献1参照)。このバルジ認識分子は、不対塩基と水素結合をするだけでなく、バルジ塩基の存在により生じてくる空間に、芳香環とバルジ近傍の塩基とのスタッキング相互作用を利用してインターカーレーションし、安定化されているものである。そして、本発明者らは、このような周辺の塩基の存在によるスタッキング効果を利用した不対塩基に対する作用についてさらに研究を行ってきたところ、塩基 対のミスマッチが生じている箇所においても、塩基と対を形成し得る分子種を2個有する化合物がこのようなスタッキング効果により比較的安定に取り込まれる得ることを見出し、具体的にはビス(2−メチルナフチリジン)アミド誘導体がGGミスマッチやGAミスマッチを検出できることを示してきた(特許文献2及び3参照)。しかし、このものは特定のミスマッチには極めて高感度で安定に取り込まれる得ることができるが、他のミスマッチに対しては取り込みが不十分であり、即ち特定のミスマッチに対する特異性が大きすぎて必ずしも実用的ではなかった。例えば、GGミスマッチに対しては高い特異性を有するが、GAミスマッチやGTミスマッチに対しては必ずしも十分な取り込みがなされなかった。
さらに、本発明者らは、このようなミスマッチ認識分子として、特にアミノナフチリジンダイマーに着目して、多数の誘導体を検討してきた(特許文献4〜8参照)。
【0005】
遺伝子の変異を調べる方法として、変異の有無を検査したい遺伝子とその変異の無い野生型遺伝子の50塩基程度のオリゴマーDNAを混合、加熱、冷却により二つの遺伝子をクロスハイブリダイゼーションする方法がある。検査する遺伝子に変異がある場合には遺伝子の融解温度や融解温度差に異常が見出される。この操作は比較的簡便ではあるが、変異があることが分かるだけであり、どの位置にどのような変異が生じているのかということを知ることはできない。
前記してきた本発明者が報告してきた方法によれば(特許文献2〜8参照)、このクロスハイブリダイゼーションする方法により特定のミスマッチの存在を知ることはできるが、このミスマッチ認識分子は特異性が高く、例えば、グアニン塩基に対するミスマッチを調べる場合においても、GGミスマッチ用のもの、GAミスマッチ用のもの、GTミスマッチ用のものと複数のミスマッチ認識分子を用意しなければならなかった。
【0006】
また、本発明者らは、アミノナフチリジンダイマーのようなミスマッチ認識分子が、ミスマッチ部分においてどのような形態で結合しているのかということも検討してきた(非特許文献1参照)。例えば、ナフチリジンカルバメートダイマー(以下、単にNCということもある。)が、G−C塩基対に挟まれたG−Gミスマッチにおいては、NC:DNAが2:1の化学量論的量で結合していることを報告してきた(非特許文献2参照)。これらの解析は、G−Gのひとつのミスマッチについてなされてきたものであり、DNA分子中のひとつだけのミスマッチでは、その融解温度(Tm)にそれほどおおきな影響は与えないが、ミスマッチが2個以上になると融解温度(Tm)に大きな影響が生じる。このようなことから、さらに多数のミスマッチを有するDNA分子についてのミスマッチにおける挙動が注目されていた。
【0007】
【特許文献1】特開2001−89478号公報
【特許文献2】特開2001−149096号公報
【特許文献3】特開2003−259899号公報
【特許文献4】特開2004−261083号公報
【特許文献5】特開2004−275179号公報
【特許文献6】特開2004−325074号公報
【特許文献7】特開2006−94725号公報
【特許文献8】特開2006−104159号公報
【非特許文献1】Nakatani, K., Hagihara, S., et al., Nat. Chem. Biol., 2005, 1, 39-43
【非特許文献2】Peng, T., Nakatani, K., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 2005, 44, 7280-7283
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、2本鎖DNAにおける融解温度(Tm)を上昇させるための方法、及びそのための試薬を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ミスマッチ認識分子を開発してきたが、このようなミスマッチ認識分子は1塩基対のミスマッチを認識して融解温度(Tm)の変化をもたらすものであった。DNA分子中のミスマッチが2塩基対以上の場合には融解温度(Tm)は大きく下降し、極端な場合にはハイブリダイズすることもできなくなる。このようなDNA分子を充分にハイブリダイズさせて融解温度(Tm)を上昇させることができれば、DNA分子のハイブリダイズ(接着)が可能となるだけでなく、当該DNA分子に結合した分子の接近や離脱を制御することも可能となる。
本発明者らは、本発明者らが開発したミスマッチ認識分子を詳細に検討して結果、これらのミスマッチ認識分子に中のいくつかのものは、2塩基対以上のミスマッチを有するDNA分子における融解温度(Tm)を極度に上昇させることができる分子であることが見出した。
即ち、本発明は、次の一般式(1)
【0010】
【化4】
【0011】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、R3は水素原子又は次の一般式(2)
【0012】
【化5】
【0013】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは2つの窒素原子を結合させるリンカー基を示す。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤に関する。
また、本発明は、前記した一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法に関する。
さらに、本発明は、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記した一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法に関する。
また、本発明は、次の一般式(4)
【0014】
【化6】
【0015】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基を示す。)
で表される新規なナフチリジンカルバメートダイマー誘導体に関する。
さらに、本発明は、前記した一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法、及び、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記した一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法に関する。より詳細には、前記した方法が、前記一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体の光の照射によるアゾ基のシン−アンチ異性化によるものである前記方法に関する。
【0016】
本発明をより具体的に記述すれば、以下のとおりとなる。
(1) 次の一般式(1)
【0017】
【化7】
【0018】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、R3は水素原子又は次の一般式(2)
【0019】
【化8】
【0020】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは2つの窒素原子を結合させるリンカー基を示す。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤。
(2)同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも15℃以上である前記(1)に記載の上昇化剤。
(3)同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも25℃以上である前記(1)又は(2)に記載の上昇化剤。
(4)DNA分子が、G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチを有するDNA分子である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の上昇化剤。
(5)G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチが、T−Gミスマッチである前記(4)に記載の上昇化剤。
(6)DNA分子が、3個以上のミスマッチを有するものである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の上昇化剤。
(7)3個目のミスマッチが、G−Gミスマッチの隣接する位置にある前記(6)に記載の上昇化剤。
(8)DNA分子におけるミスマッチが、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’又は5’−TGG−3’/3’−GGC−5’である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の上昇化剤。
(9)一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である前記(1)〜(8)のいずれかに記載の上昇化剤。
(10)一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、メチル基である前記(9)に記載の上昇化剤。
(11)一般式(1)及び(2)におけるXが、酸素原子である前記(1)〜(10)のいずれかに記載の上昇化剤。
(12)一般式(1)及び(2)におけるRが、プロピレン基である前記(1)〜(11)のいずれかに記載の上昇化剤。
(13)一般式(2)におけるリンカー基Lが、アゾ基を含有するものである前記(1)〜(12)のいずれかに記載の上昇化剤。
(14)一般式(2)におけるリンカー基Lが、次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基である前記(13)に記載の上昇化剤。
(15)一般式(3)におけるR4及びR5がメチレン基で、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である前記(14)に記載の上昇化剤。
(16)一般式(3)におけるアゾ基が、シン配置である前記(14)又は(15)に記載の上昇化剤。
【0021】
(17)前記(1)〜(16)に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
(18)2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記(1)〜(16)に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
(19)次の一般式(4)
【0022】
【化9】
【0023】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(20)一般式(4)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である前記(19)に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(21)一般式(4)におけるR1及びR2が、メチル基である前記(20)に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(22)一般式(4)におけるXが、酸素原子である前記(19)〜(21)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(23)一般式(4)におけるRが、プロピレン基である前記(19)〜(22)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(24)一般式(3)におけるR4及びR5がメチレン基で、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である前記(19)〜(23)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
(25)前記(19)〜(24)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
(26)2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、前記(19)〜(24)のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
(27)前記(25)又は(26)に記載の方法が、光の照射によるアゾ基のシン−アンチ異性化によるものである前記(25)又は(26)に記載の方法。
(28)次の一般式(10)、
Z1−N(Z2)−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5−N(Z3)−Z4 (10)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置であり、Z1及びZ4は次の一般式(11)
【0024】
【化10】
【0025】
(式中、R8は、水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示し、Z2及びZ3はそれぞれ独立して水素原子又は前記一般式(11)で表される基を示す。)
で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメート誘導体。
(29)一般式(11)におけるZ2及びZ3が水素原子である前記(28)に記載のナフチリジンカルバメート誘導体。
(30)次の式(9)
【0026】
【化11】
【0027】
で表されるアゾベンゼン誘導体。
(31)前記(28)〜(30)に記載のいずれかの化合物からなる、ミスマッチを含有する不安定なDNA分子の安定性を光照射による光異性化により可逆的切り替えるためのDNA分子安定化剤。
(32)前記(28)〜(30)に記載のいずれかの化合物を含有してなる、ミスマッチを含有する不安定なDNA分子の安定性を光照射による光異性化により可逆的に当該DNA分子の融解温度(Tm)制御剤。より詳細には、当該DNA分子の融解温度(Tm)の上昇剤又は下降剤。
【0028】
本発明者らは、5’−CGG−3’/3’−GGC−5’の配列を有する1塩基のミスマッチにおけるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体の構造を解析してきた(非特許文献1及び2参照)。そして、これらの結果から、本発明者らは、当該ナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、特に一般式(1)におけるR1及びR2がメチル基であって、Rがプロピレン基であって、R3が水素原子であって、Xが酸素原子であるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(以下、NCと略すことがある。)がグアニン(G)と水素結合をし、2分子のNCがGGの連続する配列に対して水素結合するものと仮定した。この仮定を図1により説明する。図1のa(図1の左側)はNCとグアニン(G)との水素結合の様子を示したものであり、図1b(図1の右側)はG−Gの1塩基のミスマッチ配列に対するNCの入り方を模式的に示したものである。連続するGGの配列に対して2分子のNCが水素結合する。そして、この結果、連続するGGの配列に隣接する塩基がDNAのらせんの外側に出されると仮定した。そして本発明者らは、この仮定が正しいのであれば、連続するGGの配列に隣接する塩基はマッチするシトシン(C)である必要はなく、ミスマッチの塩基であっても可能ではないかと考えた。なお、図1bでは、この塩基をXで示している。そこで、本発明者らは、この仮説を立証するために5’−TGG−3’/3’−GGC−5’の配列を有する2塩基対のミスマッチについて実験をした。
【0029】
このために11塩基からなるDNA(T1/C1)を作製した。それぞれの塩基配列は、
T1 : 5’−CCCATGGTCCG−3’
C1 : 3’−GGGTGGCAGGC−5’
であり、T−G及びG−Gの2カ所のミスマッチを有するものである(下線部参照)。
このDNA(T1/C1)(5μM)の0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中での融解温度(Tm)は35.7℃であった。これにNC100μMを添加して、同様に融解温度(Tm)を測定したところ71.1℃になった。実に35.7℃もの融解温度の上昇を観測することができた。この結果を図2に示す。図2の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は260nmにおける吸光度を示す。温度は毎分1℃の速度で上昇させ、1℃毎に吸光度を3回測定し、その平均値を図2のグラフに示した。図2の上側の曲線(原図では黒色)はNCが不存在の場合を示し、下側の曲線(原図では赤色)はNCが存在する場合を示している。
図2からもわかるように、特に45℃〜55℃の範囲においては、NCが存在していない場合にはT1及びC1は、1本鎖で存在しているが、NCが存在する場合にはT1及びC1は2本鎖で存在している。
【0030】
これをさらに確認するために、CSI−TOF(cold spray ionization timt-of-flight)マススペクトルをとった。T1及びC1の20μMの、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液におけるNC40μMの存在下又は不存在下におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を図3に示す。試料は−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度で注入された。図3a(図3の左側)はNC不存在下のものであり、図3b(図3の右側)はNC存在下のものである。
図3aに示されるように、1本鎖のT1は3−イオンとして([T1]3−)、m/zが1096.2に観測された(計算値:1096.2)。T1とC1の2本鎖のもは5−イオンとして([T1/C1]5−)、m/zが1344.8に観測された(計算値:1344.6)。一方、NCを添加することにより、新たなピークであるNCとの2:1の複合体([T1/C1+2NC]5−)のピークが、m/z1546.3に観測された(計算値:1545.9)。
また、NCの濃度を変化させると、1本鎖のT1イオン([T1]3−)が減少し、NCとの複合体([T1/C1+2NC]5−)が増加してくる様子が観察された。図4a(図4の左側)は20μMのT1に対するNCの濃度が20μM(T1:NC=1:1)の場合のCSI−TOFマススペクトルであり、図4b(図4の右側)は20μMのT1に対するNCの濃度が60μM(T1:NC=1:3)の場合のCSI−TOFマススペクトルである。この結果、NCの濃度の増加と共に1本鎖のT1イオン([T1]3−)が減少し、NCとの複合体([T1/C1+2NC]5−)が増加してくることが示された。
【0031】
そして、本発明者らは、この場合には5’−TGG−3’/3’−GGC−5’の配列におけるチミン(T)は、DNAのらせんの外側にくるものと予測した。これを確認するために、本発明者らは、NCにより2本鎖を形成したDNA(T1/C1)の過マンガン酸カリウムによる酸化を試みた。もし、チミン(T)が螺旋の外側にあれば、過マンガン酸カリウムによる酸化を受けてチミングリコール(Tg)になる(Hayatsu, H.;Ukita, T., Biochem. Biophys. Res. Comm., 1967, 29, 556-561参照)。そして、酸化されたチミングリコール(Tg)は、ピペリジン中で加熱することによりこの部位で切断される(Rubin, C. M.;Schmid, C. W., Nucleic. Acids Res., 1980, 8, 4613-20 ; Maxam, A. M.;Gilbert, W., Methods Enzymol., 1980, 65, 499-560 ; Gogos, J. A.;Karayiorgou, M., et al., Nucleic. Acids Res., 1990, 18, 6807-6814参照)。
2本鎖DNA(T1/C1)を0℃で過マンガン酸カリウムで酸化し、次いでピペリジン中で90℃で処理した。この反応の概要を次のスキームで示す。
【0032】
【化12】
【0033】
NCの不存在下における2本鎖のT1/C1は0.2mMの過マンガン酸カリウムで320分間処理しても反応しなかったが、40μMのNCの存在下での2本鎖のT1/C1ではTg1(チミングリコールに酸化されたT1鎖)がHPLCにより確認された。そして、ピペリジン中での加熱処理により切断されたフラグメントの存在がHPLCで確認された。これらのHPLCのチャートを図5に示す。図5a(図5の左上側)はNCの不存在下での過マンガン酸カリウムによる処理結果のHPLCを示し、図5b(図5の右上側)はNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる処理結果のHPLCを示し、図5c(図5の左下側)はNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる処理の後、ピペリジンで加熱処理した結果のHPLCを示す。この結果、図5bではTg1のピークを確認することができ、さらにピペリジン中での加熱処理により切断されたフラグメントCCCAp及びpGGTCCGを確認することができた。
また、これらのフラグメントをMALDI−TOFマススペクトルで確認した。酸化される前のT1はm/zが3293.5に観測され(計算値:3293.2)、酸化されたチミングリコール(Tg)のT1、即ちTg1はm/zが3326.1に観測された(計算値:3327.2)。
そして、これをピペリジン中で加熱処理して得られたフラグメント5’−d(CCCA)−PO3H−3’(CCCAp)のm/zは1198.6に観測され(計算値:1198.8)、もう一方のフラグメント5’−HO3P−d(GGTCCG)−3’(pGGTCCG)のm/zは1888.4に観測された(計算値:1888.2)。
また、これらのオリゴマーは、アルカリホスファターゼにより末端を脱リン酸化し、標準のオリゴマーと共に逆相HPLCにおいても確認された。
11塩基からなるT1には2つのチミン(T)が存在している。即ち、−ATGG−におけるチミン(T)と、−GGTCC−におけるチミン(T)が存在している。しかし、過マンガンサンカリウムによる処理及びそれに続くピペリジンでの処理においては前者、即ち、−ATGG−におけるチミン(T)だけが反応した結果が得られた。この結果は、当該チミン(T)のみがNCの存在によりDNAのらせんの外側に存在していることを証明している。
【0034】
これらの結果から、NCが2個のミスマッチを含有するDNAの融解温度(Tm)を上昇させ、かつ2本鎖DNAとして安定に存在させることができる試薬であることを証明している。そしてグアニン以外のミスマッチ塩基はDNAの螺旋の外側に追い出されている構造となっている。
さらに、本発明者らは、これらの結果が普遍的なものであるかどうかをさらに確認するために、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’の配列を有する3塩基対のミスマッチ、即ち、T−Gミスマッチ、G−Gミスマッチ、及びG−Tミスマッチのものについて実験をした。
このために11塩基からなるDNA(T2/T3)を作製した。それぞれの塩基配列は、
T2 : 5’−CCTTTGGTCAG−3’
T3 : 3’−GGAAGGTAGTC−5’
であり、T−G、G−G、及びG−Tの3カ所のミスマッチを有するものである(下線部参照)。このDNA(T2/T3)は室温では1本鎖DNAとして存在しているが、NCの濃度が増加するにつれて2本鎖DNAとして存在するようになる。そして100μMのNCの存在下での融解温度(Tm)は58.8℃に達した。このように、このDNA(T2/T3)(5μM)の0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中での融解温度(Tm)は室温以下であったが、これにNCを100μMを添加して、同様に融解温度(Tm)を測定したところ58.8℃になった。実に30℃以上もの融解温度の上昇を観測することができた。なお、DNA(T2/T3)の融解温度(Tm)は、10℃以下であることまでは測定することができたが、正確な融解温度(Tm)の測定は困難であった。
このDNA(T2/T3)(5μM)の熱変性特性を図6に示す。図6の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は260nmにおける吸光度を示す。温度は毎分1℃の速度で上昇させ、1℃毎に吸光度を3回測定し、その平均値を図6のグラフに示した。図6の8本の曲線は、右末端(80℃付近)の下からNCの濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合をそれぞれ示す。
NCの各濃度におけるT2とT3の1本鎖から2本鎖への転移をCDスペクトルにより観察した。T2及びT3のそれぞれ5μMの、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、25℃における、NCの濃度が0、5、10、15、及び20μMでのそれぞれのCDスペクトルを測定した。結果を図7に示す。図7中の(a)はNCが0、即ち不存在の場合を示し、(b)はNCが5μMの場合を示し、(c)はNCが10μMの場合を示し、(d)はNCが15μMの場合を示し、(e)はNCが20μMの場合を示す。この結果、NCが存在していない場合には272nmでプラスのバンドを示し、250nmではマイナスのバンドがしめされたが、NCの添加により、モル比が1から4に増加するにつれてプラスのバンドが楕円的に増加することが示された。さらに、348nm及び324nmでのCDバンドの強度がNCの濃度の増加と共に変化した。このCDの変化はイソ二色性(isodichroic)のポイントを包含しており、T2及びT3の1本鎖からNCを含む2本鎖への転移を示している。
【0035】
T2及びT3のNCを含む2本鎖の複合体の形成は、CSI−TOFマススペクトルによっても確認された。T2及びT3の20μMの、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液におけるNCの不存在(図8の(a))、NCが20μM存在(図8の(b))、NCが40μM存在(図8の(c))、及びNCが60μM存在(図8の(d))におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を図8に示す。試料は−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度で注入された。図8(a)(図8の左上側)はNC不存在下のものであり、図8(b)(図8の右上側)はNCが20μM存在下のものであり、図8(c)(図8の左下側)はNCが40μM存在下のものであり、図8(d)(図8の右下側)はNCが60μM存在下のものである。
図8(a)に示されるように、1本鎖のT2は3−イオンとして([T2]3−)、m/zが1107.6に観測された(計算値:1106.2)。1本鎖のT3も3−イオンとして([T3]3−)、m/zが1140.2に観測された(計算値:1138.9)。T2とT3の2本鎖のものは5−イオンとして([T2/T3]5−)、m/zが1349.0に観測された(計算値:1347.2)。また、T2とT3の2本鎖のもので4−イオンとして([T2/T3]4−)、m/zが1687.2に観測された(計算値:1684.3)。一方、NCを20μM、即ちモル比で1:1の量を添加した場合(図8の(b))には、新たなピークであるNCとの2:1の複合体([T2/T3+2NC]5−)のピークが、m/z1550.7に観測された(計算値:1548.5)。
また、NCの濃度を変化させると、1本鎖のT2イオン([T2]3−)及びT3イオン([T3]3−)が減少し、NCとの複合体([T2/T3+2NC]5−)が増加してくる様子が観察された(図8(c)(図8の左下側)及び図8(d)(図8の右下側)参照)。
この場合においても、DNA:NCのモル比が1:2の化学量論量での複合体の形成が確認された。
【0036】
さらに、前記の場合と同様に過マンガン酸カリウムによる酸化切断を次に示す11塩基からなるDNAを用いて実験した。
T4 : 5’−GCAATGGTTGC−3’
T4 : 3’−CGTTGGTAACG−5’
この反応スキームを前記したスキームと同様に次に示す。
【0037】
【化13】
【0038】
NCの不存在下におけるT4を、0℃で0.2mMの過マンガン酸カリウムで40分間処理しても反応しなかった(図9(a)参照)が、40μMのNCの存在下での2本鎖のT4/T4では、続くピリミジンでの加熱処理後で生成物1及び2が確認された(図9(b)参照)。0.2mMの過マンガン酸カリウムでの処理を5時間とすることにより、生成物1及び2を主生成物として得ることが出来る(図9(c)参照)。0.2mMの過マンガン酸カリウムでの処理で得られるTg4(チミングリコールに酸化されたT4鎖)は、HPLCではT4のすぐそばにあらわれ、HPLCにより確認することは困難であったが、酸化に続くピペリジンの加熱処理により生成物1及び2が得られることから容易に確認することができた。ここで得られた生成物1及び2は、MALDI−TOFマススペクトルにより確認された。即ち生成物1はオリゴマー5’−d(GCAA)−PO3H−3’であり、m/zが1261.6に観測され(計算値:1262.2)、生成物2はオリゴマー5’−HO3P−d(GGTTGC)−3’であり、m/zが1901.7に観測された(計算値:1902.3)。これらのオリゴマーは、アルカリホスファターゼの存在したで、37℃で30分間処理することにより脱リン酸化してそれぞれ5’−d(GCAA)−3’及び5’−d(GGTTGC)−3’として、これを標品ののものと比較して同じリテンションタイムを有するものであることを確認した(図9(d)参照)。
これらのHPLCのチャートを図9に示す。図9(a)(図9の左上側)はNCの不存在下での過マンガン酸カリウムによる処理結果のHPLCを示し、図9(b)(図9の右上側)は40μMのNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる40分間の処理、続くピペリジン中での加熱処理後のHPLCを示し、図9(c)(図9の左下側)は40μMのNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる5時間の処理、続くピペリジン中での加熱処理後のHPLCを示す。図9(d)(図9の右下側)は生成物1及び2をアルカリホスファターゼで処理した後のHPLCの結果を示す。
この結果、図5bではTg1のピークを確認することができ、さらにピペリジン中での加熱処理により切断されたフラグメントCCCAp及びpGGTCCGを確認することができた。
また、酸化される前のT4のMALDI−TOFマススペクトルはm/zが3372.01に観測され(計算値:3370.60)、酸化されたチミングリコール(Tg)のT4、即ちTg4はm/zが3404.37に観測された(計算値:3404.61)。このことからも前記した5’−TGG−3’/3’−GGC−5’の配列を有する2塩基対のミスマッチと同様な化学量論的な構造が、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’の配列を有する3塩基対のミスマッチいおいても生起していることが確認された。
これらの結果から、NCが3個のミスマッチを有するDNA分子についても、前記した2個のミスマッチを含有するDNAの場合と同様に、融解温度(Tm)を上昇させ、かつ2本鎖DNAとして安定に存在させることができる試薬であることが証明された。そしてグアニン以外のミスマッチ塩基はDNAのらせんの外側に追い出されている構造となっていることが証明された。
【0039】
これらの実験結果は、ナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)が、2つ以上のミスマッチを有するDNAにおいて充分な安定化効果、即ち、融解温度(Tm)を上昇させる作用をゆうしていることを実証するものである。これは、このようなナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)は、通常の温度域でハイブリダイズすることができない程度に塩基配列が相違している1本鎖のDNAを安定化させてハイブリダイズさせることができるという特性を有していることを実証するものである。そして、この事実はシトシン(C)やチミン(T)などのピリミジン塩基に限定されるものではなく、アデニン(A)やグアニン(G)などのプリン塩基においても同等に、即ち、NCの存在によりミスマッチの塩基対の塩基がDNAのらせんの外側に追い出されることを示すものでもある。
このように、本発明が開示するナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC類)は、DNAの安定化や融解温度(Tm)の上昇という現象だけでなく、DNAの構造を水素結合とπ電子系によるπ−スタッキング効果により構造的に安定化させる作用を有するものであることが本発明により具体的に明らかにされたのである。
【0040】
本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC類)は、一般式(1)で示されるものであるり、当該一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体について、さらに詳細に説明する。
本発明の一般式(1)における、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示ものである。ここで、炭素数1〜5の炭化水素基としては、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であっても分岐状であってもよい。かかる炭化水素基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基、炭素数2〜5の直鎖状又は分岐状のアルケニル基、炭素数3〜5のシクロアルキル基などが挙げられる。このような炭化水素基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等のアルキニル基等を挙げることができる。好ましい炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などの炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。また、R1及びR2における、炭素数1〜5の炭化水素基の少なくとも1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基としては、1個の炭素原子が酸素原子で置換された炭素数1〜4のアルコキシル基、炭素数1〜4のアルコキシアルキル基、1この炭素原子が窒素原子で置換された炭素数1〜4のジアルキルアミノ基、炭素数1〜4の(ジ又はモノ)−アルキルアミノアルキル基、2個の炭素原子が酸素原子で置換された炭素数1〜3のアルコキシアルコキシ基等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
本発明の一般式(1)におけるXとしては、酸素原子又は硫黄原子が挙げられる。Xが酸素原子の場合には隣接するアミド基と共にカルバメート基を形成することになり、Xが硫黄原子の場合には、隣接するアミド基と共にチオカルバメート基を形成することになる。このように、本発明におけるカルバメート基としては、酸素源sにからなるカルバメート基であってもよいし、1つの酸素原子が硫黄原子で置換されたチオカルバメート基であってもよい。好ましいカルバメート基としては、酸素原子からなるカルバメート基、即ちXが酸素原子であるカルバメート基が挙げられる。
本発明の一般式(1)におけるRとしては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、具体的には例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などの直鎖状のアルキレン基、メチルメチレン基、エチルメチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1−メチルプロピレン基、2−メチルプロピレン基、3−メチルプロピレン基、1−エチルプロピレン基、2−エチルプロピレン基、3−エチルプロピレン基などの分岐状のアルキレン基などが挙げられる。好ましいRとしては、2個のナフチリジン環がグアニン等と水素結合を形成し、立体的にπ−スタッキング効果を得ることが出来る長さと自由度を有し、分子の熱安定性が優れたアルキレン基が挙げられ、具体的には直鎖状における炭素数が3のプロピレン基又はそのそのアルキル基置換体が挙げられる。より好ましいRとしては、直鎖状のプロピレン基が挙げられる。
【0042】
一般式(1)におけるR3としては、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマーを単独で使用とする場合には水素原子であってよいが、これに限定されるものではない。水素原子以外の基としては炭素数1〜5、好ましくは1〜3程度の立体的に余り大きくなく、かつ化学的に不活性な基、例えばアルキル基などが挙げられる。
また、発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマーは、前述してきたようにDNA分子とモル比で1:2の化学量論量で結合することから、この二量体構造を有するものとして使用することもできる。このような二量体構造を有するものとしては、一般式(1)におけるR3が一般式(2)で示される構造を有するものが挙げられる。一般式(2)におけるR1、R2、R、及びXは前記したものと同じである。一般式(2)におけるLとしては、それぞれのナフチリジンカルバメートダイマー部分を化学結合で結合させることができるものであって、両者の距離及び自由度を適度に保てるものであれば特に制限はない。好ましい、Lとしては、炭素数5〜15の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、炭素数12〜20のフェニレン基を有するアルキレン基、次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表されるアゾ基を含有する基などが挙げれる。
前記した一般式(3)におけるR4及びR5としては、炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基としてはメチレン基が挙げられる。また、Ar1及びAr2で表されるアリーレン基としては、炭素数6〜30、好ましくは6〜12の6員芳香環からなるアリール基から誘導される2価のアリーレン基が挙げられる。好ましいアリーレン基としては、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基などのフェニレン基があげられる。好ましいAr1及びAr2としては、p−フェニレン基が挙げられる。一般式式(3)におけるアゾ基はシン配置であってもアンチ配置であってもよいが、アゾ基の立体配置によりDNA分子の安定性が異なってくることは後述する。
本発明の一般式(1)における好ましい化合物としては、次の式(5)
【0043】
【化14】
【0044】
で表される化合物、即ち、一般式(1)におけるR1及びR2がメチル基であって、Rがプロピレン基であって、R3が水素原子であって、Xが酸素原子であるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、次の式(6)又は(7)
【0045】
【化15】
【0046】
【化16】
【0047】
で表される化合物、即ち、一般式(1)におけるR1及びR2がメチル基であって、Rがプロピレン基であって、R3がN−(アゾ−ビス(p−フェニレンメチレン))−ナフチリジンカルバメートダイマーであって、Xが酸素原子であるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のうちのアンチ異性体(6)及びシン異性体(7)が挙げられる。
【0048】
本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のうちのR3が水素原子である化合物は、公知化合物であり、例えば、特許文献8に記載された方法により製造することができる。例えば、N,N−ビス(ヒドロキシアルキル)アミン又はそのN−保護体をサクシノイル基などのO−保護基で保護されたカーボネートとし、これに2−アミノ−1,8−ナフチリジン又はその7位が上記R1又はR2で置換された2−アミノ−1,8−ナフチリジンを反応させて、製造することができる。この際の保護基としては、塩酸塩やアシル基やアルコキシカルボニル基などのペプチド合成において使用されるアミノ保護基を使用することができる。
【0049】
本発明の一般式(1)におけるR3が水素原子以外のものである化合物、即ち、一般式(4)で表される化合物は新規化合物である。
本発明の一般式(4)で表される化合物は、例えば、次の一般式(8)
OHC−R6−Ar1−N=N−Ar2−R7−CHO
(式中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、R6及びR7はそれぞれ独立して化学結合又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示す。)
で表されるジアルデヒド誘導体を、前記した本発明の一般式(1)におけるR3が水素原子である化合物と還元条件で反応させて、アミノ基をカップリングさせて製造することができる。これらの反応条件としては、通常の還元的アミノ化反応の条件を採用することができる。
【0050】
本発明の一般式(4)で示される化合物は、分子中にナフチリジンのような塩基を認識する、即ち塩基と水素結合することができる部位と、光の照射によりシン−アンチ異性化を起こすことができるアゾ基を有していることを特徴とするものである。
例えば、アンチ体(6)(トランス体)に360nmの光を照射することにより、シン異性体(7)(シス体)とすることができ、また、シン異性体(7)(シス体)に430nmの光を照射することにより、アンチ体(6)(トランス体)に可逆的に変換することができる。これらの光異性化の反応式を次に示しておく。
【0051】
【化17】
【0052】
このように光の照射により可逆的に変換されるシン異性体とアンチ異性体は立体的に大きく異なる構造となり、塩基との相互作用が立体的に制限されることになる。この様子を模式化して図10に示す。このようなアゾ基を有する分子は光1及び光2により可逆的に変換され、シス−トランスの立体構造を取ることになる。例えば、図10に示されるようにシン異性体(シス体)となったときにミスマッチのDNAに前記してきたNCと同様に相互作用をし、ミスマッチを有するDNA分子を安定化させることができる。しかし、このような立体構造により安定化されている状態にあったとしても、ここに光2が照射されてアンチ異性体(トランス体)に変化された場合には、もはや安定な相互作用をしうる立体構造をとることはできず、DNA分子は不安定になる。
例えば、GGミスマッチを含む二本鎖DNA5’−CTA ACG GAA TG−3’/3’−GAT TGG CTT AC−5’、及び式(6)で表されるトランス体−3を混合し、2本鎖DNAの融解温度(Tm)を測定した。360nmの光照射を5分間行い、トランス体−3(i)からシス体−3(ii)へと変換される。この時、2本鎖DNA分子の融解温度(Tm)は29℃から52℃へと大幅に上昇し(図11参照)、安定な二本鎖構造をとる。さらにシス体−3(ii)に対して430nmの光を照射するとトランス体−3(iii)へと戻る。そうすると再び二本鎖はミスマッチ塩基対の存在のため大きく不安定化される。さらに360nmの光照射を行うとシス体−3(iv)のまた戻る。これらのそれぞれの状態における熱変性特性を測定した結果を図11に示す。図11の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は吸光度(AU)を示す。図11中の(i)はトランス体−3(i)の場合を示し、(ii)はシス体−3(ii)の場合を示し、(iii)はトランス体−3(iii)の場合を示し、(iv)はシス体−3(iv)の場合をそれぞれ示している。
このように、光の照射により「分子糊」の機能を再度よみがえらせることができる。以上のように小分子と光によって可逆的にDNAの二重鎖形成を制御することが可能であった。
【0053】
前述してきたように、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体は、2つ以上のミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させ、安定化する。これは、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体がミスマッチ配列中のGG部位に結合することにより、ミスマッチを含んだ二本鎖構造を誘起させ、安定化させるからである。即ち、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体は、ミスマッチを有して不安定なDNAを一本鎖から二本鎖へと変換する「分子糊」としての機能を発揮するからである。本発明の一般式(4)で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメートダイマー誘導体は、このような「分子糊」として機能に、さらに、DNAの二本鎖形成を光などの外部刺激によって可逆的に制御するための機能を有するものということができる。このような光異性化能を有するアゾベンゼン骨格を本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のリンカー部に導入した分子が本発明の一般式(4)で表される化合物である。光照射によってアゾベンゼン部位のトランス/シスが変換され、それに応じて、トランス体及びシス体のミスマッチDNAに対する結合能も変化する(図10参照)。即ち、一般式(4)の化合物は、照射する光の波長により「分子糊」としての機能のオン/オフの切り替えを制御することができることになる。
このような光による制御を可能とする化合物としては、前記してきた本発明の一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体だけでなく、より単純な化学構造をしている、次の式(9)
【0054】
【化18】
【0055】
で表される化合物が挙げられる。この化合物は、窒素原子から1つのナフチリジン構造を削除した化学構造を有するものであり、単純な構造で前記した「分子糊」としての機能のオン/オフの切り替えを制御することができることになる。
したがって、本発明における照射する光の波長により「分子糊」としての機能のオン/オフの切り替えを制御することができる化合物を一般式で表すと、次の一般式(10)、
Z1−N(Z2)−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5−N(Z3)−Z4 (10)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置であり、Z1及びZ4は次の一般式(11)
【0056】
【化19】
【0057】
(式中、R8は、水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で表される基を示し、Z2及びZ3はそれぞれ独立して水素原子又は前記一般式(11)で表される基を示す。)
で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメート誘導体ということができる。
本発明の一般式(10)におけるR4、R5、Ar1、及びAr2は、それぞれ前記してきたものと同じものを示し、一般式(11)におけるR、及びXも前記してきたものと同じものを示し、一般式(11)におけるR8は前記してきた一般式(1)におけるR1やR2と同じ基を示す。
また、一般式(10)で表されるアゾ基を有するナフチリジンカルバメート誘導体も新規化合物であり、前記した一般式(4)で表される化合物と同様な方法で製造することができる。
【0058】
次に、本発明におけるDNA分子について説明する。本発明における「2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子」とは、(1)塩基配列として少なくとも2個のGが連続したGG配列を有すること、(2)G−Gミスマッチを有すること、及び(3)前記したG−Gミスマッチ以外に、さらに少なくとも1つのミスマッチを有することを条件とするものである。さらに、好ましい態様としては、前記(1)で示した2個のグアニン(G)が連続したGG配列における一方のグアニン(G)において前記(2)に示したG−Gミスマッチが有り、前記(3)に示した他のミスマッチが前記(2)で示したG−Gミスマッチに隣接しているものが挙げられる。即ち、好ましい態様としては、5’−NGG−3’/3’−GGY−5’(N及びYは、それぞれ独立してシトシン(C)以外の塩基を示す。)の塩基配列を有するDNA分子が挙げられる。より好ましい態様としては、N又はYの少なくとも一方、好ましくは両方がチミン(T)である塩基配列を有するDNA分子が挙げられる。本発明における好ましいG−Gミスマッチ以外のミスマッチとしては、G−Tミスマッチが挙げられる。
本発明における「ミスマッチ」とは、ワトソン−クリック型塩基対、即ち、T−A又はG−Cの塩基対以外の塩基であり、バルジ塩基をも包含している。したがって、前記した配列におけるN又はYの一方又は両方が塩基でない場合も包含しているが、好ましい態様としてはN及びYがシトシン(C)以外の塩基である場合が挙げられる。
本発明のDNA分子の長さは特別な制限はないが、余り長いとミスマッチ部分に対してマッチしている塩基部分が多くなり、融解温度(Tm)が低くならないことから、好ましい長さとしては、6〜150mer、より好ましくは10〜50mer、さらに好ましくは10〜30mer程度が挙げられる。ミスマッチ部分が多数存在している場合には、前記した長さに制限されず、さらに長いものであってもよい。好ましいDNA分子としては0℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃の範囲で2本鎖DNAを形成することができない程度のミスマッチを有するDNA分子が挙げられる。
【0059】
本発明における融解温度(Tm)とは、通常の核酸類について使用される意味である。即ち、核酸、例えばDNAを加熱してゆくと、ある温度で立体構造に極端な変化が起こって、この変化があたかも相転移に相当するような変化であることから、このときの温度を融解温度(Tm)と言っている。例えば、薄い中性の塩溶液中で二重らせん構造をしているDNAの溶液を、温度を上昇させながら溶液の紫外線吸収を測定いくと、ある温度に達したときに、それまではほぼ一定であった紫外線吸収が急激に上昇し、紫外線吸収が約40〜50%増加した値に達すると再び一定になる(濃色効果)。この変化の温度幅が極めて狭く、あたかも相転移が起こったかのようにみえるために、DNAが「融解した」として変化の起こった温度幅の中間の温度を融解温度(Tm)と呼んでいる。本発明においても「融解温度(Tm)」はこの意味で使用する。融解温度の測定は紫外線吸収だけでなく、円二色性や赤外線吸収でも測定することができる。
本発明における「融解温度(Tm)の上昇」とは、本発明の一般式(1)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体、又は一般式(11)で表されるナフチリジンカルバメート誘導体のいずれの化合物の不存在下で測定したと同じ測定条件で、前記したナフチリジンカルバメートダイマー誘導体のいずれかの化合物の存在下、好ましくはDNA分子とこれらの化合物のモル比(一般式(4)の場合には当量の比)が1:1以上、より好ましくは1:2以上の量の存在下で測定したときの融解温度(Tm)を比較したときに、これらの本発明の化合物が存在したときに少なくとも15℃以上、好ましくは25℃以上上昇することをいう。したがって、本発明における「融解温度(Tm)」の測定条件、例えば、溶媒の種類、塩の種類、塩の濃度、DNAの濃度については特に制限はないが、極端な濃度や溶媒の選択は除外されることは当然である。薄い中性の塩溶液での測定であれば特に制限はない。
【0060】
本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は、ミスマッチを有するDNA分子を本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体の存在により安定化させて融解温度(Tm)を上昇させるものである。同じ温度について言えば、1本鎖でしか存在することができないDNA分子を安定化させて2本鎖のDNAとすることができるということであり、本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は1本鎖の状態で存在しているDNA分子を2本鎖にする、即ち、このようなDNA分子を「接着」させる「糊」のような機能を有するものである。この意味で本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は、2つの分子を接着させる「分子糊」ということもできるし、2本鎖DNAの安定化剤ということもできるし、また、一定の温度における2本鎖DNAの形成剤ということもできる。
さらに、本発明の一般式(4)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体や、一般式(11)で表されるナフチリジンカルバメート誘導体は、前述してきたように、光の照射により可逆的にシン−アンチ異性化を行うことができるアゾ基を含有しているために、光の照射により前記した「分子糊」としての機能をオン又はオフとすることができる。したがって、本発明のこのような「分子糊」としての機能をオン又はオフとすることができる分子は、当該DNA分子の融解温度(Tm)を上昇させたり、下降させたり、即ち、室温のような一定の温度においてDNAの2本鎖を安定化させたり、不安定にさせたりすることがでることから、当該DNA分子の融解温度(Tm)制御剤ということができる。また、当該DNA分子の融解温度(Tm)の上昇剤及び/又は下降剤ということもできる。
【0061】
本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」は、単にミスマッチを有する不安定なDNAを安定化させるという機能だけでなく、前記したように「分子糊」としての機能をも有するものであることから、各種の応用が可能となる。
例えば、ミスマッチを有する本発明のDNA分子のそれぞれの鎖に2種類の物質(例えば、蛍光色素、有機分子、核酸分子、タンパク質、糖、ベシクル、金属粒子、金属薄膜、細胞、ベシクル等)を標識しておけば、本発明の「DNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤」の存在下でのみ、これらの2種類の物質を空間的に近づけることが出来る。また、アゾ基を有する本発明の上昇剤を使用すれば、光の照射により可逆的のこれらの2種類の物質を空間的に近づけたり遠ざけたりすることが可能となる。
また、細胞内のシグナル伝達系では、異種もしくは同種蛋白の集合が重要であることが知られており、本発明の「分子糊」の機能を利用して本発明の上昇剤の存在下でのみ二つの蛋白を集合させることが可能となる。この方法を用いて、異種蛋白間の相互作用を調べることも可能となる。さらに、光でスイッチングする分子糊を使えば、蛋白間相互作用によるシグナル伝達系を、光の照射により簡便にオン/オフすることが可能になる。
さらに、本発明の上昇剤を基板上に固定化することにより、本発明の上昇剤が固定化されたスポット上でのみ、2種類の物質を空間的に接近させることができ、蛍光発光や蛍光の消光などの2種類の物質の相互作用を簡便な方法で測定することができるようになる。この方法を用いることにより、任意の二つの物質の存在を判別することも簡便に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0062】
以上のように、本発明は、全く新しい発想により、2種類の分子を分子レベルで空間的に接近させたり遠ざけることが可能となる新規な試薬、及びそれを用いた方法を提供するものである。
また、従来の核酸の構造の制御方法の多くは、光などに応答する部位でDNAを修飾することにより、あらかじめDNAに標識となる物質を導入しておく必要があった。そのため、天然のDNAに対してはこのような方法は全く効果がなく、用途が大きく制限されていた。これに対して本発明では、外部より小分子を加えることにより核酸の構造を制御するため、DNA自身に対する修飾は必要がない。すなわち、合成困難な長鎖DNAや細胞内のDNAを標的とすることができる。その上、光照射により可逆的かつ特定の配列のみに構造制御を行うことが可能である。また、本発明は小さな分子の添加によるミスマッチの多い核酸分子を安定化させることができるというユニークな発想に基づくものであり、本発明の手法は多種多様なミスマッチ分子にも拡張することができ、本発明はその基本的な思想を提供するものである。
さらに、本発明により、DNAの張り合わせを小分子と光によりコントロールすることができる。例えば、DNAチップ上のハイブリダイゼーションや核酸を基盤としたナノ構造の制御、核酸の二本鎖形成に伴う様々な生化学的現象、複製・転写などの小分子による制御が可能になる。
【0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例で使用される式(5)で表される化合物は、特許文献8に記載の方法で製造した。
【実施例1】
【0064】
DNA分子(T1/C1)の熱変性特性の測定。
以下に示す塩基配列を有する11塩基からなるDNA分子(T1/C1)を製造した。
T1 : 5’−CCCATGGTCCG−3’
C1 : 3’−GGGTGGCAGGC−5’
このDNA分子(T1/C1)の5μMを、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、4℃〜94℃の範囲における熱変性特性を測定した。温度は毎分1℃の速度で上昇させ、1℃毎に260nmにおける吸光度を3回測定し、その平均値を測定した。結果を図2の上の曲線で示す。
同様に、このDNA分子(T1/C1)の5μM、及び式(5)で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(以下、単にNCという。)100μMを、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、4℃〜94℃の範囲における熱変性特性を測定した。
結果を図2の下側の曲線で示す。
また、これらの融解温度(Tm)を測定した。この結果NC不存在下でのDNA分子(T1/C1)の融解温度(Tm)は35.7℃であった。これにNC100μMを添加して、同様に融解温度(Tm)を測定したところ71.1℃であった。
この結果、本発明のNCがDNA分子の誘拐温度(Tm)を上昇させることがわかった。
【実施例2】
【0065】
DNA分子(T1/C1)のCSI−TOF(cold spray ionization timt-of-flight)マススペクトルの測定。
実施例1で製造したDNA分子T1及びC1の各々の20μMを、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液に溶解し、−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度でCSI−TOFに注入して測定した。m/zが1000−1800の範囲の結果を図3aに示す。
同様に、DNA分子T1及びC1の各々の20μM、及びNC40μMの存在下で、CSI−TOFマススペクトルの結果のm/zが1000−1800の範囲を図3bに示す。
1本鎖のT1([T1]3−) ; 実測値 1096.2
計算値 1096.2。
2本鎖のT1/C1([T1/C1]5−) ; 実測値 1344.8
計算値 1344.6。
NCとの2:1の複合体([T1/C1+2NC]5−) ; 実測値 1546.3
計算値 1545.9。
【実施例3】
【0066】
DNA分子(T1/C1)の酸化、及びそれに続くピペリジン加熱による切断。
実施例1で製造したDNA分子T1及びC1の各々の12.5μMを、100mM塩化ナトリウムを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中に溶解し、これに過マンガン酸カリウム0.2mMを添加し、0℃で320分間反応させた。この結果の生成物のHPLCを図5(a)に示す。この結果、反応は生起しなかった。
同様に、DNA分子T1及びC1の各々の12.5μM、及びNC40μMを、100mM塩化ナトリウムを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中に溶解し、これに過マンガン酸カリウム0.2mMを添加し、0℃で320分間反応させた。この結果の生成物のHPLCを図5(b)に示す。この結果、Tg1(チミングリコールに酸化されたT1鎖)の生成が確認された。
単離されたTg1を、ピペリジンで90℃で30分間加熱処理した。その結果のHPLCを図5(c)に示す。
【実施例4】
【0067】
DNA(T2/T3)の熱変性特性の測定。
以下に示す塩基配列を有する11塩基からなるDNA分子(T2/T3)を製造した。
T2 : 5’−CCTTTGGTCAG−3’
T3 : 3’−GGAAGGTAGTC−5’
このDNA分子(T2/T3)5μMの熱変性特性を、NCの濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合のそれぞれについて、実施例1と同様にして測定した。結果を図6に示す。図6の8本の曲線は、右末端(80℃付近)の下からNCの濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合をそれぞれ示す。
また、NCの各濃度におけるT2とT3の1本鎖から2本鎖への転移をCDスペクトルにより観察した。T2及びT3のそれぞれ5μMの、0.1MのNaClを含有する10mMカコジル酸ナトリウム(pH=7.0)緩衝液中で、25℃における、NCの濃度が0、5、10、15、及び20μMでのそれぞれのCDスペクトルを測定した。結果を図7に示す。
また、NCを100μMを添加したときの融解温度(Tm)を測定したところ58.8℃であった。
【実施例5】
【0068】
DNA(T2/T3)のCSI−TOFマススペクトルの測定。
実施例4で製造したDNA分子T2及びT3のそれぞれ20μMを、100mM酢酸アンモニウムを含有する50%含水メタノール溶液に溶解し、−10℃に冷却して0.5mL/時間の速度でCSI−TOFに注入した。結果を図8の(a)に示す。
また、同様にして、NCが20μM存在(図8の(b))、NCが40μM存在(図8の(c))、及びNCが60μM存在(図8の(d))におけるCSI−TOFマススペクトルを測定した。結果の1000−1800の範囲を図8にそれぞれ示す。
1本鎖のT2([T2]3−) ; 実測値 1107.6
計算値 1106.2。
1本鎖のT3([T3]3−) ; 実測値 1140.2
計算値 1138.9。
2本鎖T2/T3([T2/T3]5−) ; 実測値 1349.0
計算値 1347.2。
2本鎖T2/T3([T2/T3]4−) ; 実測値 1687.2
計算値 1684.3。
NCとの2:1の複合体([T2/T3+2NC]5−) ; 実測値 1550.7
計算値 1548.5)。
【実施例6】
【0069】
DNA(T4/T4)の酸化、及びそれに続くピペリジン加熱による切断。
以下に示す塩基配列を有する11塩基からなるDNA分子(T4/T4)を製造した。
T4 : 5’−GCAATGGTTGC−3’
T4 : 3’−CGTTGGTAACG−5’
NCの不存在下におけるT4を、0℃で0.2mMの過マンガン酸カリウムで40分間処理しても反応しなかった(図9(a)参照)が、40μMのNCの存在下での2本鎖のT4/T4では、続くピリミジンでの加熱処理後で生成物1及び2が確認された(図9(b)参照)。0.2mMの過マンガン酸カリウムでの処理を5時間とすることにより、生成物1及び2を主生成物として得ることができた(図9(c)参照)。
Tg4(チミングリコールに酸化されたT4鎖)は、HPLCにより確認することは困難であったが、酸化に続くピペリジンの加熱処理により生成物1及び2が得られることから容易に確認することができた。ここで得られた生成物1及び2は、MALDI−TOFマススペクトルにより確認した。
生成物1:オリゴマー5’−d(GCAA)−PO3H−3’
実測値 1261.6
計算値 1262.2。
生成物2:オリゴマー5’−HO3P−d(GGTTGC)−3’
実測値 1901.7
計算値 1902.3。
また、酸化される前のT4及びTg4のMALDI−TOFマススペクトルを測定した。 T4 ; 実測値 3372.01
計算値 3370.60。
Tg4 ; 実測値 3404.37
計算値 3404.61。
【実施例7】
【0070】
式(9)で表されるアゾベンゼン誘導体の製造
次に示す反応式に従って式(9)で表されるアゾベンゼン誘導体を製造した。
【0071】
【化20】
【0072】
4,4’−アゾベンズアルデヒド(上記の反応式中の化合物番号11)(79.7mg,0.335mmol)と上記の反応式中の化合物番号12で表されるナフチリジン誘導体(183mg,0.703mmol)をクロロホルム(10mL)、メタノール(5mL)、酢酸(50mL)の混合溶媒中に加えて室温で15分間撹拌する。これにシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(43mg,0.684mmol)のメタノール(1mL)溶液を滴下する。室温で2時間撹拌後、飽和重曹水を加えてクロロホルムで抽出、さらに飽和食塩水で有機相を洗浄する。有機相を減圧下濃縮、回収した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=100:5から100:20)で精製して、標記の化合物(上記の反応式中の化合物番号1)(90.6mg,0.125mmol)を、収率37%で得た。
1H NMR (CDCl3,400MHz) δ
8.25 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 8.11 (d, J = 9.0 Hz, 2H),
7.98 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.85 (d, J = 8.3 Hz, 4H, Azobenzene),
7.65 (brs,2H, NH), 7.47 (d, J = 8.3 Hz, 4H, Azobenzene), 7.25 (d, 2H),
4.35 (t, J = 6.3 Hz, 4H, CH2), 3.90 (s, 4H, Bn),
2.80 (t, J = 6.6 Hz, 4H, CH2), 2.76 (s, 6H, CH3),
1.95 (pseudo quintet, 4H, CH2);
ESIMS 計算値 : [M+Na]+ 749.33,
実測値 : 749.28.
【実施例8】
【0073】
式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体の製造
次に示す反応式に従って式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体を製造した。
【0074】
【化21】
【0075】
(1) 4,4’−アゾベンズアルデヒド(上記の反応式中の化合物番号11)(26.2mg,0.110mmol)と上記の反応式中の化合物番号13で表されるナフチリジンカーバメイトダイマー(62.3mg,0.124mmol)をクロロホルム(1.5mL)、アセトニトリル(4.5mL)、酢酸(7mL)の混合溶媒中に加えて室温で2時間間撹拌する。これにシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(6.9mg,0.110mmol)を加えて、室温で4日間撹拌する。飽和重曹水を加えてクロロホルムで抽出、さらに飽和食塩水で有機相を洗浄する。有機相を減圧下濃縮、回収した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール=100:2から100:2.5)で精製して、上記の反応式中の化合物番号14で表されるモノアルキルアミノアルデヒド(36.9mg,0.051mmol)を、収率46%で得た。
1H NMR (CDCl3,400MHz) δ
10.06 (s, 1H, CHO), 8.26 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 8.06 (d, J = 8.8 Hz, 2H),
7.89 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.88 (d, J = 8.3 Hz, 2H),
7.86 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.77 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.60 (brs,2H, NH),
7.50 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 7.19 (d, J = 8.3 Hz, 2H),
4.31 (t, J = 6.2 Hz, 4H, CH2), 3.64 (s, 2H, Bn), 2.72 (s, 6H, CH3),
2.61 (t, J = 6.6 Hz, 4H, CH2), 1.92 (pseudo quintet, 4H, CH2);
ESIMS 計算値 : [M+Na]+ 748.30,
実測値 : 748.14.
【0076】
(2)前記(1)で得られたモノアルキルアミノアルデヒド14(32.8mg,0.045mmol)と上記の反応式中の化合物番号13で表されるナフチリジンカーバメイトダイマー(32.4mg,0.064mmol)をクロロホルム(2.5mL)、アセトニトリル(2mL)、酢酸(6.2mL)の混合溶媒中に加えて40℃で2時間間撹拌する。これにシアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(4.2mg,0.067mmol)を加えて、35℃で12時間撹拌する。飽和重曹水を加えてクロロホルムで抽出、さらに飽和食塩水で有機相を洗浄する。有機相を減圧下濃縮、回収した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ(クロロホルム:メタノール:酢酸=100:5:0.5から100:8:0.5)で精製して、標記の化合物(上記の反応式中の化合物番号2)(17.8mg,0.015mmol)を、収率33%で得た。
1H NMR (CDCl3,400MHz) δ
8.27 (d, J = 9.0 Hz, 4H), 8.09 (d, J = 8.8 Hz, 4H),
7.92 (d, J = 8.1 Hz, 4H), 7.69 (d, J = 8.6 Hz, 4H, Azobenzene),
7.68 (brs,4H, NH), 7.39 (d, J = 8.3 Hz, 4H, Azobenzene),
7.22 (d, J = 8.3 Hz, 4H), 4.32 (t, J = 6.5 Hz, 8H, CH2),
3.62 (s, 4H, Bn), 2.73 (s, 12H, CH3), 2.61 (t, J = 6.6 Hz, 8H, CH2),
1.93 (pseudo quintet, 4H, CH2);
ESIMS 計算値 : [M+Na]+ 1235.53,
実測値 : 1234.93.
【実施例9】
【0077】
実施例8で製造した式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体の光異性化。
GGミスマッチを含む二本鎖DNA5’−CTA ACG GAA TG−3’/3’−GAT TGG CTT AC−5’の4.5mM、及び実施例8で製造した式(6)で表される光感応性リガンド2(6.8mM)を混合し、2本鎖DNAの融解温度(Tm)を測定した。360nmの光照射を5分間行い、トランス体からシス体へと変換される。この時、2本鎖DNA分子の融解温度(Tm)は29℃から52℃へと大幅に上昇し(図11参照)、安定な二本鎖構造をとる。さらにシス体(ii)に対して430nmの光を照射するとトランス体の3(iii)へと戻る。そうすると再び二本鎖はミスマッチ塩基対の存在のため大きく不安定化される。さらに360nmの光照射を行うと「分子糊」の機能を再度よみがえらせることができる。以上のように小分子と光によって可逆的にDNAの二重鎖形成を制御することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、ミスマッチにより不安定になっているDNA分子を低分子化合物の化合物の添加により安定化させるための融解温度(Tm)の上昇化剤、及びそれを用いた方法、並びにそのための新規な化学物質を提供するものである。
本発明の試薬や方法は、DNAなどの核酸類やタンパク質などの各種のアッセイにおいて有用なだけでなく、核酸類やタンパク質などの同定や機能の解析などにおいても有用であり、各種の検査試薬や診断剤用の薬品として産業上の利用可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1a(図1の左側)は、ナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)とグアニン(G)との水素結合の様子を示したものであり、図1b(図1の右側)はG−Gの1塩基のミスマッチ配列に対するNCの入り方を模式的に示したものである。
【図2】図2は、DNA(T1/C1)(5μM)溶液の熱変性を、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の存在下(図2の下側の曲線)及び不存在下(図2の上側の曲線)で測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、DNA分子T1及びC1の20μM溶液における、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の40μMの存在下(図3b)又は不存在下(図3a)におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を示すものである。
【図4】図4は、DNA分子T1及びC1の20μM溶液における、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の20μMの存在下(図4a)、又は60μMの存在下(図4b)におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を示すものである。
【図5】図5は、NCの不存在下における2本鎖のDNA(T1/C1)の本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の存在下(図5b)又は不存在下(図5a)における、過マンガン酸カリウムでの酸化反応の結果のHPLCのチャートである。図5c(図5の左下側)はNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる処理の後、ピペリジンで加熱処理した結果のHPLCを示す。
【図6】図6は、DNA(T2/T3)(5μM)の熱変性特性を示す。図6の横軸は温度(℃)を示し、縦軸は260nmにおける吸光度を示す。図6の8本の曲線は、右末端(80℃付近)の下から本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の濃度が0、2.5、5、10、20、40、60、及び100μMである場合をそれぞれ示す。
【図7】図7は、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の各濃度におけるT2とT3の1本鎖から2本鎖への転移をCDスペクトルにより測定した結果を示すものである。図7中の(a)はNCが0、即ち不存在の場合を示し、(b)はNCが5μMの場合を示し、(c)はNCが10μMの場合を示し、(d)はNCが15μMの場合を示し、(e)はNCが20μMの場合を示す。
【図8】図8は、T2及びT3の本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)を含む2本鎖の複合体の形成を、CSI−TOFマススペクトルにより確認した結果を示すものである。NCの不存在(図8の(a))、NCが20μM存在(図8の(b))、NCが40μM存在(図8の(c))、及びNCが60μM存在(図8の(d))におけるCSI−TOFマススペクトルの結果の1000−1800の範囲を示す。
【図9】図9は、本発明のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体(NC)の不存在下(図9(a))、又は存在下(図9(b))におけるDNA分子T4の過マンガン酸カリウムでの酸化反応、続くピリミジンでの加熱処理後の生成物のHPLCのチャートである。図9(c)(図9の左下側)は40μMのNCの存在下での過マンガン酸カリウムによる5時間の処理、続くピペリジン中での加熱処理後のHPLCを示す。図9(d)(図9の右下側)は生成物1及び2をアルカリホスファターゼで処理した後のHPLCの結果を示す。
【図10】図10は、光の照射により可逆的に変換されるシン異性体とアンチ異性体は立体的に大きく異なる構造となり、塩基との相互作用が立体的に制限されることになる様子を模式化して示したものである。
【図11】図11は、本発明の式(6)で表されるアゾベンゼンダイマー誘導体を用いて光の照射によるDNA分子の熱変性特性を測定した結果を示すものである。図11中の(i)はトランス体−3(i)の場合を示し、(ii)はシス体−3(ii)の場合を示し、(iii)はトランス体−3(iii)の場合を示し、(iv)はシス体−3(iv)の場合をそれぞれ示している。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
T1 : 5’−CCCATGGTCCG−3’
T2 : 5’−CCTTTGGTCAG−3’
T4 : 5’−GCAATGGTTGC−3’
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、R3は水素原子又は次の一般式(2)
【化2】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは2つの窒素原子を結合させるリンカー基を示す。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤。
【請求項2】
同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも15℃以上である請求項1に記載の上昇化剤。
【請求項3】
同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも25℃以上である請求項1又は2に記載の上昇化剤。
【請求項4】
DNA分子が、G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチを有するDNA分子である請求項1〜3のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項5】
G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチが、T−Gミスマッチである請求項4に記載の上昇化剤。
【請求項6】
DNA分子が、3個以上のミスマッチを有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項7】
3個目のミスマッチが、G−Gミスマッチの隣接する位置にある請求項6に記載の上昇化剤。
【請求項8】
DNA分子におけるミスマッチが、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’又は5’−TGG−3’/3’−GGC−5’である請求項1〜7のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項9】
一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である請求項1〜8のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項10】
一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、メチル基である請求項9に記載の上昇化剤。
【請求項11】
一般式(1)及び(2)におけるXが、酸素原子である請求項1〜10のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項12】
一般式(1)及び(2)におけるRが、プロピレン基である請求項1〜11のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項13】
一般式(2)におけるリンカー基Lが、アゾ基を含有するものである請求項1〜12のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項14】
一般式(2)におけるリンカー基Lが、次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基である請求項13に記載の上昇化剤。
【請求項15】
一般式(3)におけるR4及びR5が、メチレン基であり、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である請求項14に記載の上昇化剤。
【請求項16】
一般式(3)におけるアゾ基が、シン配置である請求項14又は15に記載の上昇化剤。
【請求項17】
請求項1〜16に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
【請求項18】
2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、請求項1〜16に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
【請求項19】
次の一般式(4)
【化3】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項20】
一般式(4)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である請求項19に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項21】
一般式(4)におけるR1及びR2が、メチル基である請求項20に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項22】
一般式(4)におけるXが、酸素原子である請求項19〜21のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項23】
一般式(4)におけるRが、プロピレン基である請求項19〜22のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項24】
一般式(3)におけるR4及びR5がメチレン基であり、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である請求項19〜23のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項25】
請求項19〜24のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
【請求項26】
2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、請求項19〜24のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の方法が、光の照射によるアゾ基のシン−アンチ異性化によるものである請求項25又は26に記載の方法。
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、R3は水素原子又は次の一般式(2)
【化2】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは2つの窒素原子を結合させるリンカー基を示す。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなる、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤。
【請求項2】
同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも15℃以上である請求項1に記載の上昇化剤。
【請求項3】
同じ条件で測定したときの融解温度(Tm)の上昇が、少なくとも25℃以上である請求項1又は2に記載の上昇化剤。
【請求項4】
DNA分子が、G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチを有するDNA分子である請求項1〜3のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項5】
G−Gミスマッチの隣接する位置に他のミスマッチが、T−Gミスマッチである請求項4に記載の上昇化剤。
【請求項6】
DNA分子が、3個以上のミスマッチを有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項7】
3個目のミスマッチが、G−Gミスマッチの隣接する位置にある請求項6に記載の上昇化剤。
【請求項8】
DNA分子におけるミスマッチが、5’−TGG−3’/3’−GGT−5’又は5’−TGG−3’/3’−GGC−5’である請求項1〜7のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項9】
一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である請求項1〜8のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項10】
一般式(1)及び(2)におけるR1及びR2が、メチル基である請求項9に記載の上昇化剤。
【請求項11】
一般式(1)及び(2)におけるXが、酸素原子である請求項1〜10のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項12】
一般式(1)及び(2)におけるRが、プロピレン基である請求項1〜11のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項13】
一般式(2)におけるリンカー基Lが、アゾ基を含有するものである請求項1〜12のいずれかに記載の上昇化剤。
【請求項14】
一般式(2)におけるリンカー基Lが、次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基である請求項13に記載の上昇化剤。
【請求項15】
一般式(3)におけるR4及びR5が、メチレン基であり、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である請求項14に記載の上昇化剤。
【請求項16】
一般式(3)におけるアゾ基が、シン配置である請求項14又は15に記載の上昇化剤。
【請求項17】
請求項1〜16に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
【請求項18】
2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、請求項1〜16に記載のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
【請求項19】
次の一般式(4)
【化3】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜5の炭化水素基、又は当該炭素数1〜5の炭化水素基の1つ以上の炭素原子が窒素原子及び酸素原子からなる群から選ばれる原子で置換されている基を示し、Rは炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキレン基を示し、Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは次の一般式(3)
−R4−Ar1−N=N−Ar2−R5− (3)
(式中、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基を示し、Ar1及びAr2はそれぞれ独立してアリーレン基を示し、アゾ基はシン又はアンチ配置である。)
で表される基を示す。)
で表されるナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項20】
一般式(4)におけるR1及びR2が、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基である請求項19に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項21】
一般式(4)におけるR1及びR2が、メチル基である請求項20に記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項22】
一般式(4)におけるXが、酸素原子である請求項19〜21のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項23】
一般式(4)におけるRが、プロピレン基である請求項19〜22のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項24】
一般式(3)におけるR4及びR5がメチレン基であり、かつAr1及びAr2がp−フェニレン基である請求項19〜23のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体。
【請求項25】
請求項19〜24のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を、2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液中に添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させる方法。
【請求項26】
2個のグアニン(G)が連続したGG配列を有し、かつG−Gミスマッチ及び少なくとももう1つのミスマッチを有するDNA分子が存在する溶液を、当該DNA分子の融解温度(Tm)以上の温度において、請求項19〜24のいずれかに記載のナフチリジンカルバメートダイマー誘導体からなるDNA分子の融解温度(Tm)上昇化剤を添加することにより当該溶液中のDNA分子の融解温度(Tm)を上昇させて、当該DNA分子をハイブリダイズさせる方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の方法が、光の照射によるアゾ基のシン−アンチ異性化によるものである請求項25又は26に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−201356(P2009−201356A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162265(P2006−162265)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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