説明

DNA合成酵素の阻害剤

【課題】製造が容易で、副作用の少ないDNA合成酵素阻害剤を提供する。
【解決手段】カロテノイド化合物の中で、ルテイン、ゼアキサンチン及びカプサンチンがDNA代謝系酵素のうちDNA合成酵素、特に修復型DNA合成酵素を選択的に阻害することを見出した。さらに、炎症及び細胞増殖の抑制剤としての効果があることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA合成酵素阻害作用を有する化合物とその利用に関する。この化合物は、DNA合成酵素阻害剤として例えば研究用試薬などに利用できるほか、抗炎症剤、細胞増殖抑制剤、抗癌剤、又はこれらのリード化合物として利用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
真核生物のDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)は、細胞の増殖、分裂、分化などに関与しているが、α型はDNA複製、β型及びλ型は修復と組換え、δ型及びε型は複製と修復の双方、ζ〜κ型は修復を担うといった具合にタイプによって異なる機能を有することが知られており、複製型(α、δ、ε)とミトコンドリア型(γ)、及び修復型(β、δ、ε、ζ、η、θ、κ、λ、μ、σ、φ、poll-like-I、poll-like-II)に分類される(非特許文献1,2)。
【0003】
このようにDNA合成酵素は細胞の増殖等に関与することから、その酵素活性を阻害するDNA合成酵素阻害剤は、例えば、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示し、エイズに対してHIV由来逆転写酵素に対する阻害作用を示し、また、免疫疾患に対して抗原に対する特異的抗体産生を抑制する免疫抑制作用を示すことが考えられる。このため、DNA合成酵素阻害剤を用いた癌、エイズ等のウイルス疾患、免疫疾患の予防・治療に効果のある医薬品の開発が期待されている。
【0004】
例えば、DNA合成酵素阻害活性を有する糖脂質が、制癌剤、HIV由来逆転写酵素阻害剤、免疫抑制剤として有用であることが報告されている(特許文献1、2)。現在、DNA合成酵素阻害剤として、ジデオキシTTP(ddTTP)、N-メチルマレイミド、ブチルフェニル- 2'-デオキシグアノシン-5'-三リン酸(dGTP)などが知られている(非特許文献3)。これらは、製造が容易でないこと、さらに、抗癌剤は、一般的に強い副作用を有することが問題となっている。
【0005】
さらに、従来の抗癌剤は、その多くが発生した癌細胞を殺すこと並びに癌細胞の増殖抑制作用を有するものであったが、近年発癌防止を目的とした抗発癌剤の開発も進められている。この点について、特許文献3に記載されるように、正常細胞の癌化のステップにおいて、「イニシエーター」と「プロモーター」とが関係しており、正常細胞の癌化は「(1)正常細胞の染色体がイニシエーターによりDNAレベルでの障害を受けて潜在的腫瘍細胞に変化する。(2)潜在的腫瘍細胞にプロモーターが作用して腫瘍細胞に変化させる。」の2段階を経て起こるという発癌2段階説が一般化しつつある。このプロモーターとしての作用を持つ化合物の代表としてTPA(12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)等が知られており、癌研究の場でこのような発癌プロモーターを用いた発癌実験が行われると共に、発癌予防及び抗発癌剤の探索においてこのような発癌プロモーターの作用を阻害する抗発癌プロモーターの探索が進められている。
【0006】
また、TPAを皮膚に塗布すると、Epidermal Ornithine DecarboxylaseやCycrooxygenase(COX)-2やinducible Nitric oxide Synthaseの誘導を介して炎症性のサイトカインであるInterleukin-1αの産生を誘導したり、活性酸素の産生を増加させ炎症反応を惹起し、浮腫や肥厚を誘発する(非特許文献4)。
【0007】
従って、TPAは、慢性炎症を誘発するのみならず、発癌プロモーターとして細胞増殖を促進するため、DNA合成酵素阻害作用、抗炎症作用および抗発癌プロモーター活性の間には互いに関連性があると考えられる。
【0008】
近年、アトピー性皮膚炎、化学物質過敏症、花粉症など、炎症性疾患の患者数が増大し、社会問題になっている。従来、皮膚炎などの炎症性疾患にはステロイド系の薬剤が多用され、一定の治療効果が認められてきた。しかし、最近ではむしろ、ステロイド剤の過剰使用による副作用が問題とされるようになってきている。また、非ステロイド系の抗炎症剤(NSAID)であるアスピリンやインドメタシンは、多量に服用することにより、急性の胃潰瘍を発症するなど深刻な副作用を有している。
【0009】
【特許文献1】特開平11−106395
【特許文献2】特開平2000−143516
【特許文献3】特開平9−176184
【非特許文献1】U. Hubscher, G. Maga, S. Spadari, Eukaryotic DNA polymerases, Annu. Rev. Biochem. 71 (2002) 133?163.
【非特許文献2】S. Kimura, Y. Uchiyama, N. Kasai, S. Namekawa, A. Saotome, T. Ueda, T. Ando, T. Ishibashi, M. Oshige, T. Furukawa, T. Yamamoto, J. Hashimoto, K. Sakaguchi, A novel DNA polymerase homologous to Escherichia coli DNA polymerase I from a higher plant, rice (Oryza sativa L.), Nucleic Acids Res. 30 (2002) 1585?1592.
【非特許文献3】Annual Review of Biochemistry, 2002, 71, 133-163頁
【非特許文献4】Carcinogenesis 28(6), 2007, 1224-1231, Chung. et al.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、従来のDNA合成酵素阻害剤の上記の問題点に鑑みて、製造が容易で、副作用の少ないDNA合成酵素阻害剤を提供し、さらに、従来の炎症性疾患の治療薬の上記問題点を解消し、副作用の少ない、炎症の抑制剤を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために、検討した結果、カロテノイド化合物の中で、特に、ルテイン、ゼアキサンチン及びカプサンチンがDNA代謝系酵素のうちDNA合成酵素特に修復型DNA合成酵素を選択的に阻害することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
さらに、前記3つの化合物は抗炎症作用を有することを発見し、炎症の抑制剤としての応用を見出した。
【0013】
さらに、抗癌作用を有することを発見し、抗発癌剤、抗癌剤としての応用を見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、ルテイン、ゼアキサンチン、カプサンチンの何れかを有効成分とする修復型DNA合成酵素阻害剤を提供する。
【0015】
本発明の修復型DNA合成酵素阻害剤は、特にβ型とλ型に有効である。
【0016】
本発明は、また、ルテイン、ゼアキサンチン、カプサンチンの何れかを有効成分とする修復型DNA合成酵素に起因する炎症の阻害剤を提供する。
【0017】
本発明は、また、ルテインを有効成分とする修復型DNA合成酵素に起因する細胞増殖の抑制剤を提供する。
【0018】
本発明の細胞増殖の抑制剤は、特に癌細胞に有効である。
【0019】
さらに、前記癌細胞では、特に大腸癌細胞に有効である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明は、ルテイン、ゼアキサンチン及びカプサンチンがDNA合成酵素阻害作用を有することに関するものであり、DNA合成酵素阻害剤として、生化学試薬として、さらには炎症および細胞増殖の抑制剤として医薬品等へ利用できるほか種々の有用性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の具体的態様、技術的範囲等について詳しく説明する。
【0022】
DNA合成酵素阻害剤は、DNA合成酵素が細胞の増殖、分裂および分化に関与していることから、癌に対して癌細胞の増殖抑制作用を示し、エイズに対してHIV由来逆転写酵素に対する阻害作用を示し、また、免疫疾患に対して抗原に対する特異的抗体産生を抑制する免疫抑制作用を示すことが考えられる。従って、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、癌、エイズ等のウイルス疾患、免疫疾患の予防・治療に効果のある食品や医薬品等となり得る。
【0023】
また、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、炎症の抑制作用を有しているので、炎症の抑制剤として用いることができる。
【0024】
具体的に本発明のDNA合成酵素阻害剤はルテイン、ゼアキサンチン及びカプサンチンのいずれかを有効成分とするものである。
【0025】
本発明者のDNA合成酵素阻害剤は、DNA合成酵素選択的阻害剤としての利用に止まらず、抗癌剤および炎症の抑制剤として医薬品等への応用が可能であり、その薬理上許容される塩についても同様に医薬品等への応用が可能である。
【0026】
本発明における「その薬理上許容される塩」としては、フッ化水素酸塩、塩酸塩などのハロゲン化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの無機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、スルホン酸塩、有機酸塩、及び、アミノ酸塩が挙げられ、好適には塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩を挙げることができる。
【0027】
本発明の各化合物、及びその薬理上許容される塩は、植物などから単離・精製した天然物であってもよいし、公知の合成方法により合成したものであってもよい。
【0028】
本発明の医薬品への利用には、本発明の化合物を医薬品開発過程におけるリード化合物として利用することも含まれる。なお、本発明の化合物を体内投与する際は経口投与よりも非経口投与が好ましく、またリポソームなどの運搬体に封入して投与することが好ましい。このとき癌細胞を特異的に認識する運搬体などを利用すれば、標的部位(病変部位)に本発明の化合物を効率よく運ぶことができ効果的である。
【0029】
また本発明の化合物は、医薬品への利用以外に、飲食品へ添加・配合することにより抗癌効果、抗発癌効果、あるいは抗炎症効果をもった健康食品として利用することも可能である。
【0030】
次に、本発明の化合物を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。本発明の化合物を有効成分とする抗癌剤および抗炎症剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられ、好適には非経口剤を挙げることができる。
【0031】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の化合物の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0032】
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例として挙げることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等を挙げることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例として挙げることができる。また、本発明の化合物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0033】
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常、成人で本発明の化合物の重量として1日あたり1〜60mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中の本発明の化合物の配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、これらも常法に従って製造される。
【0034】
本発明の他の組成物の好適な態様は食用組成物である。即ち、本発明の化合物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0035】
なお、ヒトと他の哺乳類のDNA合成酵素の構造は殆ど同じであるため、本発明のDNA合成酵素阻害剤は、ヒト以外の哺乳類由来のDNA合成酵素阻害剤としても利用可能である。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
また、ルテイン(化合物1)、ゼアキサンチン(化合物2)及びカプサンチン(化合物3)はいずれもカロテノイド化合物であるので、比較例として、同じカロテノイド化合物であるβ-クリプトキサンチン(化合物4)、アスタキサンチン(化合物5)、カンタキサンチン(化合物6)を用いた。いずれの化合物もSigma社(St Luis, CA, UAS)より購入したものを使用した。
【0038】
(DNA合成酵素阻害活性の検証)
カロテノイド化合物1〜6のDNA合成酵素群に対する活性を以下の方法で測定した。DNA合成酵素として哺乳類由来のDNA合成酵素α、βおよびλについて試験を行った。DNA合成酵素αは、牛胸腺から常法により抽出精製した標品を、DNA合成酵素βは、ラット由来の該当遺伝子を、DNA合成酵素λは、ヒト由来の該当遺伝子を、通常の遺伝子組み換え法により大腸菌に組み込み、生産させた標品を用いた。
【0039】
これらのDNA合成酵素に対するカロテノイド化合物の阻害作用の測定には、一般的なDNA合成酵素反応系(日本生化学会編、新生化学実験講座2、核酸IV、東京化学同人、63〜66頁)を用いた。すなわち、放射性同位元素で標識した[3H]-TTPを含む系においてDNA合成反応を行い、放射比活性を生成物(合成DNA鎖)量の指標とするものである。
【0040】
阻害率は、(a)コントロールでの合成DNA量、(b) 被検物質存在下での合成DNA量について、
(a - b) / a x 100 = 阻害率(%)
として評価した。
【0041】
得られた結果はDNA合成阻害率50%の濃度(50%阻害濃度)(μM)として表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示したように、化合物1(ルテイン)、化合物2(ゼアキサンチン)及び化合物3(カプサンチン)は複製型DNA合成酵素αではなく、修復型DNA合成酵素β及びλを選択的に阻害した。一方、化合物4〜6はいずれのDNA合成酵素を阻害しなかった。また、化合物1〜3はヒト由来のDNA合成酵素のみならず、マウス由来のDNA合成酵素も阻害した。
【0044】
(抗炎症作用および抗発癌作用の検証)
TPA(12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate)は、慢性炎症を誘発するのみならず、発癌プロモーターとして哺乳類の細胞増殖を促進する。本発明者は、DNA合成酵素阻害作用(特にDNAの修復・組換えに関与するDNA合成酵素λ阻害活性)、抗炎症作用および抗発癌プロモーター活性の間には互いに関連性があるのではないかと考えた。そこで、カロテノイド化合物1〜6が抗炎症活性を有するかどうかを調べた。
【0045】
マウス耳に予め所定量の各化合物をそれぞれ塗布後、TPAによって誘発される炎症性浮腫の重量を測定することで各阻害効果を算出した。試験は、基本的にCancer Lett. 1984, 25, 177-85頁記載の方法にしたがって行い、マウスの一方の耳に化合物を250μgもしくは500μg塗布し、30分後、同じ箇所と反対側の耳にTPAを0.5μg塗布する。7時間後、TPAによって誘発される炎症性浮腫の重量を測定し、コントロール(反対側の耳)と比較することで各阻害効果を算出した。
【0046】
その結果を下記の表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、化合物1(ルテイン)、化合物2(ゼアキサンチン)及び化合物3(カプサンチン)は塗布量に依存的に炎症を抑制した。アスタキサンチン、ゼアキサンチンおよびルテインは同程度の抗酸化能があるとされている(Invest Ophthalmol Vis Sci, 44, 2003, E-Abstract 1699. Santocono, et al.)にもかかわらず、ルテインおよびゼアキサンチンには顕著な炎症の抑制効果が認められたことから、これら化合物はDNA合成酵素に起因する炎症の抑制作用を有するものである。さらに、発癌プロモーターTPAの働きを抑制する抗発癌プロモーター活性(換言すれば、抗発癌作用)を有するものと考えられる。
【0049】
(細胞増殖抑制活性の検証)
カロテノイド化合物1〜6の癌細胞増殖抑制効果を次の方法を用いて評価した。本実験で用いた細胞はヒト大腸癌由来HCT116細胞である。培地にはDMEM培地(日本製薬(株)製)に牛胎児血清 10%(v/v)とペニシリン-ストレプトマイシン 5%(v/v)を添加したものを用いた。培養は5% CO2インキュベートにて37℃で行った。
【0050】
上記に示した培地に、あらかじめ各試験濃度になるように化合物1〜6をそれぞれ溶解した。ただし、カロテノイド化合物はいずれも水に難溶であるため、一度DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、そのものを上記の培地に溶かした。なお、培地内に存在するDMSOの終濃度は、すべての試験区で0.1%になっており、本測定例で用いた各細胞の増殖の抑制にDMSOが関わる可能性は否定できる状態である。
【0051】
本実験のための培養は、96穴マイクロプレートで行った。各ウェルに5.0×103個の細胞を植え込み、1つの試験濃度に対して3ウェルずつ与えた。各細胞をプレート内で24時間培養し、各濃度の化合物1, 2を添加後は、5%CO2インキュベート内、37℃で48時間培養し、各試験区の細胞生存率の判定を行った。生存率の判定は、生細胞数測定試薬SFを用いた(Talanta 1997, 44の方法で行った)。生細胞測定試薬SFに含まれるテトラゾリウム塩WST-8が細胞内脱水素酵素により還元され、高感度水溶性ホルマザンを生成し、このホルマザンの450 nmの吸光度を直接測定することにより、容易に生細胞数を計測できる。よって、本実験では48時間の培養後、生細胞数測定試薬SFを添加し、さらに2時間の培養後に450 nmの吸光度(O.D.)を測定し、以下の式で細胞生存率を算出した。

細胞生存率(%)=(試験区のO.D.−培地のみのウェルのO.D.)÷(対照区のO.D.−培地のみのウェルのO.D.)
【0052】
得られた結果を図1に示す。なお、このデータは3ウェルの平均と標準偏差で示してある。
【0053】
化合物1(ルテイン)だけがヒト大腸癌細胞の増殖を有意に阻害し、細胞増殖の抑制剤、特に、抗癌剤として利用し得ることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のようにルテイン、ゼアキサンチン及びカプサンチンは、DNA合成酵素阻害剤としての利用に止まらず、炎症及び細胞増殖の抑制剤として医薬品等への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】カロテノイド化合物1〜6のヒト大腸癌細胞の増殖抑制活性の結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテイン、ゼアキサンチン、カプサンチンの何れかを有効成分とする修復型DNA合成酵素の阻害剤。
【請求項2】
ルテイン、ゼアキサンチン、カプサンチンの何れかを有効成分とする修復型DNA合成酵素に起因する炎症の抑制剤。
【請求項3】
ルテインを有効成分とする修復型DNA合成酵素に起因する細胞増殖の抑制剤。
【請求項4】
細胞が癌細胞である請求項3に記載の抑制剤。
【請求項5】
癌細胞が大腸癌細胞である請求項4に記載の抑制剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−64984(P2010−64984A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232865(P2008−232865)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】