説明

DNA認識のための結合タンパク質におけるまたはそれに関連する改良

【課題】選択的な遺伝子発現を仲介する、亜鉛フィンガー結合モチーフを含むポリペプチドの選択および設計の方法、および同方法により作られるポリペプチドを提供する。
【解決手段】粒子上で提示するための亜鉛フィンガー結合モチーフをコードするDNA配列のライブラリ、および特定の標的配列に結合するための亜鉛フィンガー結合ポリペプチドを設計する方法。さらに、その設計された亜鉛フィンガーポリペプチドのさまざまなインビトロまたはインビボでの用途。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、とりわけ亜鉛フィンガー結合モチーフを含むポリペプチドの選択および設計の方法、同方法により作られるポリペプチド、およびそのさまざまな応用に関連する。
【0002】
〔発明の背景〕
選択的な遺伝子発現は、タンパク質転写因子と遺伝子の調節領域内にある特定のヌクレオチド配列との相互作用によって仲介される。タンパク質転写因子内で最も広く使用されるドメインは亜鉛フィンガー(Zf)モチーフのようである。
これは、モジュールが繰返されるように使用され、DNAの配列特異的認識を行なう、独立して折り畳まれた亜鉛含有ミニドメインである(Klug 1993 Gene 135,83-92)。最初の亜鉛フィンガーモチーフはアフリカツメガエルの転写因子TFIIIAにおいて確認された(Miller他、1985年 EMBO J.4,1609-1614)。Zfタンパク質の構造についてはNMR研究(Lee 他、1989 Science 245,635-637)および結晶学(Pavletich & Pabo、1991 Science 252,809-812)によって確定されてきた。
【0003】
DNA結合タンパク質ドメインでどのようにして異なるDNA配列を区別するかは、分化と発生における遺伝子発現の制御等の重要な過程を理解する上で重要な疑問点である。亜鉛フィンガーモチーフについては、真核生物のゲノムに広く行き渡っていることやショウジョウバエ(Harrison & Travers 1990 EMBO J.9、207-216)、マウス(Christy 他、1988 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、7857-7861)およびヒト(Kinzler 他、1988 Nature(London)332、371)における遺伝子発現を制御するタンパク質において重要な役割を果たしていることから、この問題に何らかの見識を与える目的で広範な研究が行なわれてきた。
【0004】
配列特異的DNA結合タンパク質の多くはαヘリックスを主溝内へ挿入することによりDNA二重螺旋に結合する(Pabo & Sauer、1992 Annu.Rev.Biochem.61、1053-1095、Harrison、1991 Nature(London)353、715-719およびKlug、1993 Gene 135、83-92)。配列特異性は、αヘリックスのアミノ酸側鎖と塩基対の端部上に露出されるアクセス可能な基との間の幾何学的かつ化学的相補性から生じる。DNA配列のこのような直接的読取りに加え、DNA骨格との相互作用は、複合体を安定させるものであり、かつ塩基配列に依存して核酸のコンフォメーションに対し敏感である(Dickerson & Drew 1981 J.Mol.Biol.149、761-786)。ある種のアミノ酸側鎖が特定の塩基対を好むという可能性に基づき、すべての複合体におけるタンパク質とDNAとの特異的結合は、単純な一連のルールによってアプリオリに説明できるかもしれない。しかし、タンパク質−DNA複合体の結晶構造は、タンパク質がDNA認識のモードにおいて特異質になる可能性を示しており、これは少なくとも一部にはタンパク質が自己の知覚αヘリックスをDNAに対し提示するために代替的ジオメトリを使用することかでき、単一のアミノ酸によりなされる異なった塩基接触の多様化が可能になったり、またその逆になったりするからである(Matthews、1988 Nature(London)335、294-295)。
【0005】
Zfタンパク質の突然変異誘発により、ドメインのモジュール方式が確認された。指定部位突然変異誘発を利用して、配列相同性の整合および構造に関するデータから確認された鍵となるZf残基を変化させ、Zfドメインの特異性が変更されてきた(Nardelli他、1992 NAR26、4137-4144)。この文献の著者らは、新規な結合特異性の設計が望ましいが、設計は配列および構造に関するデータを考慮する必要があるだろうと示唆している。彼らは「亜鉛フィンガー認識コードを達成する見込みはない」とも述べている。
にもかかわらずそのようなコードを目指して多くの研究グループが作業を進めてきたが、今のところごく限られた規則が提案されているのみである。たとえば、Desjarlais他(1992b PNAS89、7345-7349)は、ポリペプチドSplのフィンガー2における3つの接触残基(共通配列に基づく)のうち2つの系統的な突然変異を利用して、限定された縮重コードが存在する可能性を示唆している。続いて彼らはこのことを利用して、結合特異性および親和性が異なる3つのZfタンパク質を設計した(Desjarlais & Berg、1993 PNAS 90、2250-2260)。彼らは、特異性および親和性が予測可能なZfタンパク質の設計は「必ずしも容易ではないかもしれない」としている。
【0006】
我々は、TFIIIAクラスの亜鉛フィンガーが構造およびDNAとの相互作用が非常に単純であることから、より一般的に適用可能な特異性の一連の規則を導き出すのに適した候補であると考える。この亜鉛フィンガーは、亜鉛イオンを利用してαヘリックスに抗する逆平行βシートのパッキングを安定させる独立した折り畳みドメインである(Miller他、1985 EMBO J.4、1609-1614、Berg、1988 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85、99-102およびLee 他、1989 Science 245、635-637)。亜鉛フィンガー−DNA複合体の結晶構造は、相互作用の半保存されたパターンを示し、そこにおいて、αヘリックスからの3つのアミノ酸がDNAにおける3つの隣接する塩基(トリプレット)に接触している(Pavletich & Pabo、1991 Science 252、809-817、Fairall 他、1993 Nature(London)366、483-487、およびPavletich & Pabo 1993 Science 261、1701-1707)。したがって、DNA認識のモードは基本的にアミノ酸と塩基との間の1対1の相互作用である。
【0007】
亜鉛フィンガーは独立したモジュールとして作用するため(Miller他、1985 EMBO J.4、1609-1614、Klug & Rhodes 1987 Trends Biochem.Sci.12、464-469)、トリプレット特異性が異なる複数のフィンガーを組合せることにより、より長いDNA配列の特異的認識を行なうことができるはずである。DNA標的配列と結合するため3つのアミノ酸が提示されるように各フィンガーは折り畳まれているが、結合はこれらの位置のうち2つのみを介して直接的に行なわれ得る。たとえばZif268の場合には、タンパク質は標的DNAの9塩基対連続配列に接触する3つのフィンガーから作られる。核酸と直接接触しないと思われるリンカー配列がフィンガーの間に見られる。
【0008】
タンパク質工学実験によって、1つまたはそれ以上のαヘリックスの位置をいくつかのタンパク質において変化させると、個々の亜鉛フィンガーのDNA結合特性を合理的に変化させることかできることかわかった(Nardelli他、1991 Nature(London)349、175-178、Nardelli他、1992 Nucleic Acids Res.20、4137-4144、およびDesjarlais & Berg 1992a Proteins 13、272)。αヘリックス上のアミノ酸と、結合されたDNA配列の対応する塩基とを関連付けるいくつかの原則を提案することが既に可能となっている(Desjarlais & Berg 1992b Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、7345-7349)。しかしながら、このやり方では、αヘリックス上の変更された位置が予め判別されているため、現在重要とは考えられていない位置の役割について見過ごす可能性があり、かつ第2には状況の重要性によって、特異性に影響を及ぼす付随的改変が必要になる場合があり(Desjarlais & Berg 1992b)、アミノ酸と塩基との間の重要な相関関係が誤って解釈される可能性がある。
【0009】
突然変異体Zfタンパク質の結合を調査するため、Thiesen およびBach(1991 FEBS 283、23-26)は、Zfフィンガーを突然変異させ、電気泳動移動度シフト検定を使用して、ランダム化されたオリゴヌクレオチド類に対するそれらの結合を研究した。その後ファージディスプレイ技術を使用してバクテリオファージの表面上にZf突然変異体タンパク質のランダムなライブラリを発現させた。フィンガー1内の4つの位置が無作為化(ランダム化)されているZif268の3つのZfドメインがRebar およびPabo(1994 Science 263、671-673)によって繊維状ファージの表面上に提示された。このライブラリには、新たな結合特異性を有するZfタンパク質を得るために、標的DNAオリゴヌクレオチド配列に結合させることによって何回もの親和性選択が行なわれた。新規な結合特異性および親和性を創出するため、ファージディスプレイでのZif268のフィンガー1のランダムな突然変異誘発(Rebar およびPaboにより選択されたものと同じ位置での)もまたJamieson他(1994年、Biochemistry 33、5689-5695)により使用されている。
より最近では、Wu他(1995 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 344-348)が、各々Zif268からの異なるフィンガーからなり、かつ各々αヘリックスの6つまたは7つの位置が無作為化された3つのライブラリを作っている。選別において6つのトリプレットが使用されたが、いずれの配列塩基によってもフィンガーは戻らず、かつZif268結合部位の3つのトリプレットを対照として個別に使用したところ、選択されたフィンガーの大多数が、野性型Zif268フィンガーの配列に似ておらず、かつインビトロ(in vitro)でそれぞれの標的部位に強く結合することができるにもかかわらず、通常、異なるトリプレットに対しては強く区別をつけることができなかった。著者らはこの結果をコードの存在に否定的な証拠と解釈している。
【0010】
要約すると、Zfタンパク質モチーフはDNA結合タンパク質に広く行き渡っており、かつ結合は、各々標的DNA配列において1つの塩基対に接触する3つの鍵となるアミノ酸を介するものであることがわかっている。複数のモチーフは、モジュールによるものでありかつ互いに連結されて連続するDNA配列を認識する1組のフィンガーを構成する(たとえば3フィンガーのタンパク質が9merを認識する等)。DNA結合に必要なこの鍵となる残基は配列のデータによりかつ構造に関する情報から同定されてきた。指定されかつランダムな突然変異誘発によって、特異性および親和性を決定する上でのこれらアミノ酸の役割が確認されてきた。ファージディスプレイを用いてフィンガーのランダム突然変異体の新たな結合特異性についてスクリーニングが行なわれてきた。新たなフィンガー特異性の設計を補助する認識コードを求めて研究が進められてきたが、特異性の予測は困難であることが指摘されてきた。
【0011】
〔発明の要旨〕
第1の局面で、本発明はDNA配列のライブラリを提供し、各々の配列はウィルス粒子上での提示(ディスプレイ)のために少なくとも1つの亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし、該配列は、位置−1、+2、+3、+6、ならびに位置+1、+5および+8の少なくとも1つでアミノ酸がランダムに割当てられている亜鉛フィンガー結合モチーフをコードする。
亜鉛フィンガー結合モチーフは、当業者には周知の、亜鉛フィンガー結合タンパク質において見られるαヘリックス構造モチーフである。上記の番号付けでは、亜鉛フィンガー結合モチーフのαヘリックスにおける最初のアミノ酸が位置+1となっている。位置−1のアミノ酸残基は厳密に言えば亜鉛結合フィンガーモチーフのαヘリックスの一部を構成しないことは当業者には明らかであろう。しかしながら、−1の残基は機能的に大変重要であることがわかったので、本発明の目的のため結合モチーフαヘリックスの一部として考える。
【0012】
配列は、位置+1、+5および+8のすべてにランダムな割当てを有する亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし得る。また、該配列は他の位置(たとえば位置+9、ただしこの位置ではアルギニンまたはリシン残基を保持することが一般に好ましい)で無作為化(ランダム化)され得る。
さらに、指定された「ランダム」な位置におけるアミノ酸の割当ては、純粋にランダムとすることができるが、それらの位置には疎水性残基(Phe、TrpまたはTyr)またはシステイン残基を避けることが好ましい。
亜鉛フィンガー結合モチーフは、(逆平行βシートを含む)亜鉛フィンガーを形成するように他のアミノ酸のコンテクスト内に存在する(亜鉛フィンガータンパク質に存在してもよい)ことが好ましい。さらに、亜鉛フィンガーは、好ましくは亜鉛フィンガーポリペプチドの一部として提示され、このポリペプチドは介在リンカーペプチドにより結合される複数の亜鉛フィンガーを含む。典型的には、配列のライブラリは、該亜鉛フィンガーポリペプチドが、アミノ酸配列が規定された(一般的には野性型配列の)2つまたはそれ以上の亜鉛フィンガーと、上記で規定された態様で無作為化された亜鉛フィンガー結合モチーフを有する1つの亜鉛フィンガーを含むようになっている。このポリペプチドの無作為化されたフィンガーは、規定された配列をもつ2つまたはそれ以上のフィンガーの間に位置することが好ましい。この規定された複数のフィンガーは、このポリペプチドのDNAに対する結合の「相」を成立させ、そのことによって無作為化されたフィンガーの結合特異性の増大を助ける。
【0013】
好ましくはこれらの配列はZif268ポリペプチドの中央のフィンガーの無作為化された結合モチーフをコードする。これらの配列で好都合なのは、野性型Zif268における中央のフィンガーのアミノ酸N末端とC末端をもコードし、それぞれ第1および第3の亜鉛フィンガーをコードすることである。特定の具体例においては、配列はZif268ポリペプチドの全体をコードする。当業者であれば、ここでリンカーペプチドの配列および/または亜鉛フィンガーポリペプチドのβシートに対しても各種改変を行ない得る点が理解されるであろう。
さらなる局面において、本発明はDNA配列のライブラリを提供し、その各々の配列は、ウィルス粒子上での提示のための亜鉛フィンガー結合ポリペプチドの少なくとも中央のフィンガーの亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし、これらの配列は、位置−1、+2、+3および+6にアミノ酸がランダムに割当てられる結合モチーフをコードする。亜鉛フィンガーポリペプチドはZif268であることが好都合である。
典型的には、いずれのライブラリの配列も、亜鉛フィンガー結合ドメインをバクテリオファージfdの小コートタンパク質(pIII)との融合体としてクローン化できるようになっている。好都合には、このコードされたポリペプチドは亜鉛フィンガードメインのN末端としてトリペプチド配列Met−Ala−Gluを含んでおり、これはバクテリオファージfd系を使用しての発現および提示が可能であることが知られている。好ましくは、このライブラリは106またはそれ以上の異なる配列を含む(理想的には、実施可能な限り多く)。
【0014】
他の局面において、本発明は特定の標的DNA配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを設計する方法であって、標的DNA配列の少なくとも有効部分に対して複数の亜鉛フィンガー結合モチーフの各々をスクリーニングするステップと、標的DNA配列に結合するモチーフを選択するステップとを含む方法を提供する。標的DNA配列の有効部分は、DNAに対する亜鉛フィンガー結合モチーフの結合を可能にするのに十分な長さのDNAである。これは必要な最小の配列情報(標的DNA配列に関連する)である。望ましくは少なくとも2回、好ましくは3回またはそれ以上のスクリーニングを行なう。
本発明はまた特定の標的DNA配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを設計する方法であって、複数の亜鉛フィンガー結合モチーフの各々の1つまたはそれ以上のDNAトリプレットに対する結合を比較するステップと、好ましい結合特性を示すモチーフを選択するステップとを含む方法を提供する。好ましくは、この方法の前に上のパラグラフで定義した方法に従うスクリーニング工程を行なう。
【0015】
したがって、2つのステップによる選択工程が好ましく、第1のステップは、主にまたは全体的に標的配列に対する親和性に基づき複数の亜鉛フィンガー結合モチーフ(典型的にはディスプレイライブラリの形態において)の各々をスクリーニングし、第2のステップは最初のスクリーニングステップにより選択されるモチーフの結合特性を比較しかつ特定のDNAトリプレットについて好ましい結合特性を有するモチーフを選択する。
複数の亜鉛フィンガー結合モチーフを1つのDNAトリプレットに対してスクリーニングする場合、このトリプレットは適切な位置の標的DNA配列に相当することが好ましい。ただし、さまざまな結合モチーフの結合の特異性を比較するためには、複数の亜鉛結合モチーフの標的DNA配列に相当しない1またはそれ以上のDNAトリプレット(たとえば3つの塩基対のうちの1つだけが異なる)に対する結合を比較することも望ましい。複数の亜鉛フィンガー結合モチーフを3つのDNA塩基の可能な64の順列すべてに対してスクリーニングしてもよい。
【0016】
適切な亜鉛フィンガー結合モチーフが同定され得られると、それらのモチーフは1つの亜鉛フィンガーポリペプチドにおいて有利に組合わされる。典型的には、これは組換えDNA技術を利用することによって行なわれ、ファージディスプレイシステムの使用が好都合である。
他の局面において、本発明は64の配列から構成されるDNAライブラリを提供し、各々の配列は上に規定する選択方法においての使用に適した形の3つのDNA塩基の64の可能な順列のうちの異なる1つを含む。好ましくは、これら配列は分離手段と結びつけるかまたは結びつけ得る。有利には、分離手段は以下のうちの1つから選択される、すなわちミクロタイタープレート、磁気ビーズまたはアフィニティクロマトグラフィカラムのうちの1つである。配列をビオチニル化することが都合よい。好ましくは、これらの配列は他の箇所で説明するとおり12のミニライブラリ内に含まれる。
【0017】
さらなる局面において、本発明は上に規定される方法の一方または両方により設計される亜鉛フィンガーポリペプチドを提供する。好ましくは、この方法により設計する亜鉛フィンガーポリペプチドは複数の亜鉛フィンガーの組合せ(隣接する亜鉛フィンガーを介在リンカーペプチドで結合する)を含み、各フィンガーが亜鉛フィンガー結合モチーフを含む。好ましくは、亜鉛フィンガーポリペプチド内の各亜鉛フィンガー結合モチーフは、上に規定する方法によって好ましい結合特性について選択されたものである。介在リンカーペプチドは各々の隣接するフィンガー間で同じでもよく、または同じ亜鉛フィンガーポリペプチドが複数の異なるリンカーペプチドを含んでもよい。介在リンカーペプチドは天然起源の亜鉛フィンガーポリペプチド内に存在するものでもまたは人工的配列のものでもよい。特に、介在リンカーペプチドの配列は、たとえば標的配列に対する亜鉛フィンガーポリペプチドの結合を最適化する目的でさまざま変化し得る。
亜鉛フィンガーポリペプチドが複数の亜鉛結合モチーフを含む場合、各々のモチーフが、対象とする配列において連続するかまたは実質的に連続するDNAとなる複数のDNAトリプレットに結合することが好ましい。いくつかの結合モチーフの候補またはモチーフの組合せの候補が存在する時、これらはポリペプチドの最適組成を決定するために実際の標的配列に対しスクリーニングすることができる。以下に説明するとおり、スクリーニング検定においては、比較のため競合体DNAを含めてもよい。
【0018】
全タンパク質−DNA相互作用のうち非特異的要素は糖−リン酸の骨格に対する接触と塩基対に対する曖昧な接触とを含み、複合体の形成に対しかなりの駆動力となり、また与えられるDNA配列に対してかなりの親和性でDNA−結合タンパク質の選別をもたらすものであるが、特異性を示さないものである。したがって、ポリペプチドを設計する場合にはこれらの非特異的相互作用を最小限に抑えるため、選択は、競合体DNAのバックグラウンドにおける特異的結合部位の濃度を低くして行なうのが好ましく、かつ結合は、好ましくは局所的濃縮による影響および固体表面上に固定されたリガンドに対する多価ファージの結合活性を避けるために溶液中で行なうべきである。
偽の選択に対する保護手段として、個々のファージの特異性を、選択の最終ラウンドの後に決定する必要がある。少数の結合部位に対する結合についてテストを行なう代わりに、可能なすべてのDNA配列をスクリーニングすることが望ましい。
本発明者らにより真にモジュールとなる亜鉛結合ポリペプチドを設計することが可能である点が示され(下記)、それにおいて各亜鉛結合フィンガーの亜鉛結合モチーフは特定のトリプレットに対するその親和性に基づき選択される。したがって、単に、標的DNAに存在するトリプレットの配列について考慮しかつ結合するのに必要な結合特性を有する亜鉛フィンガー結合モチーフを含む亜鉛フィンガーを適切な順序に組合せることによって、どの所望の標的DNA配列にも結合することができる亜鉛フィンガーポリペプチドを設計することが、十分に当業者の能力の範囲内でのことになるはずである。標的DNAのわかっている配列の長さが長いほど、亜鉛フィンガーポリペプチドに含まれ得る亜鉛フィンガー結合モチーフの数は多くなる。たとえば、わかっている配列が9塩基長しかない場合には、ポリペプチドに含まれ得る亜鉛フィンガー結合モチーフの数は3つである。わかっている配列が27塩基長であれば、理論的には9つまでの結合モチーフがポリペプチドに含まれ得る。標的DNA配列が長いほど、DNAの所与の部分におけるその発生の可能性が低くなる。
【0019】
さらに、ポリペプチドに含めるため選択されたこれらのモチーフは、それらの結合特性をさらに最適化するために人工的に修飾され得る(たとえば指定された突然変異誘発によって)。代替的には(または付加的には)、隣接する亜鉛結合フィンガーに結合するリンカーペプチドの長さおよびアミノ酸配列は上に説明したとおりさまざまにすることかできる。そうすることによって対象とするDNA配列に対して亜鉛フィンガー結合モチーフの位置を変位させる効果が得られ、それによって結合特性にさらに影響を与えることができる。
一般的には、標的トリプレットに対し高い親和性と高い特異性とを有するモチーフを選択することが好ましい。
さらなる局面において、本発明は、対象とする核酸配列に結合する亜鉛フィンガーポリペプチドを製作するためのキットであって、ベクター中でクローニングするのに適した形態の結合特性がわかっている亜鉛フィンガー結合モチーフをコードするDNA配列のライブラリと、そのライブラリから1つまたはそれ以上の配列を受入れるのに適したベクター分子と、使用説明とを含むキットを提供する。
【0020】
ベクターは、単一の亜鉛フィンガーポリペプチドとしてクローン化された配列の発現を導くことができるものが好ましい。特に、ベクターは、ウィルス粒子、典型的には当業者に知られるウィルスディスプレイ粒子の類の表面に提示される単一の亜鉛フィンガーポリペプチドとしてクローン化された配列の発現を導くことができるものが好ましい。DNA配列は、発現したポリペプチドが相当数の亜鉛フィンガーポリペプチドに自己集合することができるような形態のものが好ましい。
上に規定するキットは、結合特性が既にわかっている複数の亜鉛フィンガー結合モチーフを含む亜鉛フィンガーポリペプチドを設計する上で特に有用性があることか明らかであろう。他の局面において、本発明は、適切な結合特性を有する亜鉛フィンガー結合モチーフが依然として同定されていない場合に使用するためのキットを提供し、すなわち本発明によるキットは、対象とする核酸配列に結合する亜鉛フィンガーポリペプチドを調製するためのキットであって、各々が上に規定した方法によるスクリーニングおよび/または選択に適した形態の亜鉛フィンガー結合モチーフをコードするDNA配列のライブラリと、使用説明とを含む。
【0021】
このキットにおけるDNA配列のライブラリは、本発明の第1の局面に従うライブラリであることが有利である。好都合には、キットはまた64のDNA配列のライブラリを含んでもよく、各配列は先に規定した選択方法においての使用に適した形態の3つのDNA塩基の可能な64の順列のうち異なる1つを含んでいる。典型的には、この64の配列は12の別個のミニライブラリの中にあって、各ミニライブラリは、関連するトリプレットにおいて1つの位置が固定され2つの位置が無作為化(ランダム化)されている。好ましくは、このキットはまた、適切な緩衝液および/または結合された亜鉛フィンガーの検出に使用するための試薬を含んでもよい。このキットはまた、亜鉛フィンガー結合モチーフをコードするDNA配列のライブラリから選択された1またはそれ以上の配列を受入れるのに適したベクターを含むことができ、有用である。
好ましい実施例において、64のトリプレットのうちの1つにより前もって選択されていて、特異的DNA結合活性を有すると考えられる中央の亜鉛フィンガーについての遺伝子を分離するために、本発明の教示を使用する。所与のトリプレットに結合するフィンガーを特定する遺伝子の混合物が、3組のプライマを使用して、PCRにより増幅される。これらプライマの組は、亜鉛フィンガーの3フィンガーポリペプチドへのアセンブリを明らかにするような、ユニークな制限部位を有することになる。適切な試薬をキットの形で備えることが好ましい。
【0022】
たとえば、最初の組のプライマはSfiIおよびAgeI部位を有し、第2の組がAgeIおよびEagI部位、かつ第3の組がEagIおよびNotI部位を有しているかもしれない。なお、「第1」の部位をSfiIとし、かつ「最後」の部位をNotIにして、ファージベクターのSfiIおよびNotI部位へのクローニングを容易にすることが好ましい。配列AAAGGGGGGを認識する3フィンガータンパク質のライブラリを組立てるため、トリプレットGGGにより選択されるフィンガーは、プライマの最初の2組を使用して増幅され、かつプライマの第3の組を使用して増幅されたトリプレットAAAにより選択されたフィンガーに連結される。組合せのライブラリは、ファージの表面上でクローン化され、9塩基対の部位を使用し一まとめにして最良の組合せのフィンガーを選択することができる。
64のトリプレットの各々に結合するフィンガーについての遺伝子は、各組のプライマにより増幅し、適切な制限酵素を用いて切断することができる。3フィンガータンパク質のためのこれら構築用ブロックは、上に説明したような使用のためのキットを構成する要素として販売することができる。異なるプライマで増幅したライブラリについても同様で、4または5フィンガーのタンパク質を構築することができる。
【0023】
さらに、すべてのトリプレットにより選択されたフィンガーのすべての組合せからなる大型(予め組立てられた)ライブラリを、9bp.またはそれよりずっと長いDNAフラグメントを使用するDNA結合タンパク質の単一ステップ選択用に開発することもできる。この特定の用途では新規な3フィンガータンパク質の大変大きいライブラリが必要になるが、ファージディスプレイ以外の選択方法、たとえばタンパク質およびmRNAが連結されている、(アフィマックス(Affimax)が開発した)ストールされたポリソーム(Stalled Polysomes)を使用することが好ましい。
さらなる局面において、本発明は標的細胞において対象とする遺伝子の発現を変化させる方法であって、(必要な場合)対象とする遺伝子の構造領域および/または調節領域のDNA配列の少なくとも一部を決定するステップと、配列がわかっているDNAに結合する亜鉛フィンガーポリペプチドを設計し、この亜鉛フィンガーポリペプチドを標的細胞中(好ましくはその核の中)に存在するようにさせるステップとを含む方法を提供する。(既にわかっている場合にはDNA配列を決定する必要がないことは明らかであろう。)
【0024】
調節領域は、対象とする遺伝子の構造領域からかなり離れている可能性がある(たとえば離れた位置にあるエンハンサ配列など)。好ましくは亜鉛フィンガーポリペプチドは上に規定した本発明の方法の一方または両方により設計される。
標的配列に亜鉛フィンガーポリペプチドを結合することで、たとえばそのポリペプチドが結合する標的配列の性質(たとえば構造性または調節性)に応じて対象とする遺伝子の発現が増減し得る。
さらに、有利には、亜鉛フィンガーポリペプチドは、他のタンパク質からの機能的ドメイン(たとえば制限酵素、リコンビナーゼ、レプリカーゼ、インテグラーゼ等からの触媒領域)あるいは「合成」エフェクタードメインでさえも含み得る。ポリペプチドはまた、核局在化シグナル等の活性化またはプロセッシングシグナルを含み得る。これらは、核内の標的(ゲノムDNA等)に対するポリペプチドの結合を増強するためポリペプチドを細胞の核に向けさせる際特に有用である。このような局在化シグナルの特定的な例はSV40の大型T抗原からのものである。このような他の機能的ドメイン/シグナル等は亜鉛フィンガーポリペプチドとの融合体として存在することが好都合である。他の望ましい融合パートナーは、結合活性を有する免疫グロブリンまたはそのフラグメント(たとえばFab、scFv等)を含む。
【0025】
亜鉛フィンガーポリペプチドは、このポリペプチドの発現を導くDNAの細胞へのデリバリーの結果、細胞において原位置(in situ)で合成され得る。DNAのデリバリーを容易にする方法は、当業者によく知られており、たとえば組換えウィルスベクター(レトロウィルス、アデノウィルス等)、リポソーム等がある。代替的には、亜鉛フィンガーポリペプチドは細胞の外部で作られた後細胞に運ぶことも可能である。デリバリーは、ポリペプチドをリポソーム等に組込んだりまたはポリペプチドを標的部分(たとえば抗体またはホルモン分子の結合部)に付けることによって容易になり得る。実際、亜鉛フィンガータンパク質が、遺伝子発現を制御する上でオリゴヌクレオチドやタンパク質−核酸(PNA)よりもかなり有利な点の1つは、標的細胞へのタンパク質のベクターのないデリバリーであると考えられる。これ以外に、細胞表面受容体に対する抗体を含む可溶性タンパク質挿入細胞の多くの例が知られている。本発明者らは現在、NIP(4−ヒドロキシ−5−ヨード−3−ニトロフェニルアセチル)を認識することができる一本鎖(sc)Fvフラグメントに対する抗−bcr−ab1フィンガー(下の例3を参照)の融合を行なっている。NIPと共役されたマウスのトランスフェリンを用いてマウスのトランスフェリン受容体を介してフィンガーをマウスの細胞へ運ぶ。
【0026】
固定化された亜鉛フィンガーが必要な用途(たとえば特異的核酸の精製)には、NIPでコーティングした媒体(たとえばミクロタイターウェル、樹脂等)を抗NIPscFvsに融合される亜鉛フィンガー用の固相支持体として使用することもできる。
特定の実施例では、本発明は、細胞分裂を可能にする遺伝子の発現を阻害する亜鉛フィンガーポリペプチドを細胞に存在させることによって、細胞分裂を阻害する方法を提供する。
特定の実施例においては、本発明は癌を治療する方法であって、癌細胞の分裂を可能にする遺伝子の発現を阻害する亜鉛フィンガーポリペプチドを患者にデリバリーするかまたは患者の体内に存在せしめるステップを含む方法を提供する。
標的はたとえば癌遺伝子または癌細胞内で過度に発現している正常遺伝子等が考えられる。
【0027】
本発明者らの知識の範囲では、これまで遺伝子発現の調節における(以下に記述)亜鉛フィンガーポリペプチドの設計および使用の成功例は全く発表されていない。この画期的発明はさまざまな可能性を提示する。特に、亜鉛フィンガーポリペプチドを疾病に関連する遺伝子の発現を調節することで治療および/または予防用途用に設計することができる。たとえば、亜鉛フィンガーポリペプチドを使用してヒトまたは動物における外来遺伝子(たとえば細菌またはウィルス性病原体の遺伝子等)の発現を阻害しまたは突然変異した宿主遺伝子(癌遺伝子等)の発現を改変することができる。
したがって本発明は疾病に関連する遺伝子の発現を阻害することができる亜鉛フィンガーポリペプチドを提供する。典型的には、この亜鉛フィンガーポリペプチドは天然由来のポリペプチドではなく、疾病に関連する遺伝子の発現を阻害するよう特別に設計されるものである。このポリペプチドは上に定義する本発明の方法の一方または両方により設計することが好都合である。疾病に関連する遺伝子は癌遺伝子で、典型的にはBCR−ABL融合癌遺伝子またはras癌遺伝子である。特定の実施例において、本発明はDNA配列GCAGAAGCCに結合するように設計されかつBCR−ABL融合癌遺伝子の発現を阻害することができる亜鉛フィンガーポリペプチドを提供する。
【0028】
さらに他の局面において、本発明は亜鉛フィンガーポリペプチドを結合することによって、サンプル混合物に存在する対象となる核酸配列を修飾する方法であって、対象とする配列の少なくとも一部分に対して親和性を有する亜鉛フィンガーポリペプチドに同サンプル混合物を接触させて、この亜鉛フィンガーポリペプチドが対象とする配列に特異的に結合するようにさせるステップを含む方法を提供する。
【0029】
本明細書中で使用される「修飾」という用語は、単に亜鉛フィンガーポリペプチドの結合によって配列が修飾されると考えられることを意味する。ヌクレオチドの配列の変化(および他の変化)は、次いで対象とする核酸に対する亜鉛フィンガーポリペプチドの結合を引起こすことができるが、ここではそのようなヌクレオチドの配列の変化を示唆しようとしていない。核酸配列はDNAであることが好都合である。
対象とする核酸の修飾(亜鉛フィンガーポリペプチドによる結合という意味での)はいくつかの方法のいずれにおいても検出することができる(たとえばゲル移動度シフト検定、ラベルされた亜鉛フィンガーポリペプチドの使用等。ラベルは放射性、蛍光、酵素またはビオチン/ストレプトアビジンラベルを含みうる)。
【0030】
対象とする核酸配列の修飾(およびその検出)が必要とされるすべてとなり得る(たとえば疾病の診断等において)。ただし、サンプルをさらに処理することが望ましい。亜鉛フィンガーポリペプチド(およびこのポリペプチドに特異的に結合した核酸配列)をサンプルの残りの部分から分離することが好ましい。亜鉛フィンガーポリペプチドを固相支持体に結合すれば、このような分離が容易になる。たとえば、亜鉛フィンガーポリペプチドをアクリルアミドまたはアガロースゲルマトリックス内に存在させてもよいしまたより好ましくは膜の表面上またはミクロタイタープレースのウェル内に固定化する。
【0031】
適切に設計された亜鉛フィンガーポリペプチドの可能な用途は以下のとおりである。
a) 治療(たとえば2本鎖DNAを標的とするもの)
b) 診断(たとえば遺伝子配列における突然変異を検出する等。本研究では、「誂えた」亜鉛フィンガーポリペプチドが塩基対1つ分異なるDNA配列を区別できることがわかっている。)
c) DNAの精製(亜鉛フィンガーポリペプチドを使用して溶液から制限フラグメントを精製したりまたはゲル上のDNAフラグメントを見えるようにすることができる[たとえばポリペプチドが適切な融合パートナーに連結していたり、または抗体で調べることによって検出される場合])。
さらに、亜鉛フィンガーポリペプチドはssまたはdsRNA(たとえばRNA分子の多くに存在するような自己相補的RNA)等の他の核酸または分子レベルで細胞の事象に影響を与える他の可能な機構を提供すると考えられるRNA−DNAハイブリッドさえも標的にすることができる。
【0032】
例1において、本発明者らは明確にされたオリゴヌクレオチド標的配列を使用して、ランダムな亜鉛フィンガー結合モチーフライブラリを構成し、スクリーニングするためのファージディスプレイ技術の使用について記述、論証に成功している。
例2においては、例1のスクリーニング過程によって選択された亜鉛フィンガー結合モチーフ配列についての分析を開示し、無作為化されたDNA標的配列のミニライブラリに対する結合によってモチーフのDNA特異性を研究し、標的トリプレットの各位置に受容可能な塩基のパターンである「結合部位サイン」の存在を明らかにしている。
例3においては、先の2つのセクションの発見を利用して、親和性の高い特定のDNA標的に結合させるため、亜鉛フィンガー結合ポリペプチドを合理的に選択かつ修飾しており、このペプチドが標的配列に結合しかつ生体外で(in vitro)培養される細胞において遺伝子発現を修飾できることがはっきり示されている。
例4は代替的亜鉛フィンガー結合モチーフのライブラリの開発を記述している。
例5は特別な臨床的重要性のあるDNA配列に結合する亜鉛フィンガー結合ポリペプチドの設計について記述している。
【0033】
〔例1〕
この例では、本発明者らはスクリーニング技術を用いて亜鉛フィンガー結合モチーフによる配列特異的DNA認識の研究を行なった。この例は、バクテリオファージの表面上に提示された亜鉛フィンガー結合モチーフのライブラリが、所与のDNAトリプレットに結合することができるフィンガーの選択をいかにして可能にするかを説明する。同じトリプレットに結合する選択されたフィンガーのアミノ酸配列を比較して、配列特異的DNA認識がいかにして起こるかを調査した。いくつかのαヘリックスの位置からの塩基接触を伴う、亜鉛フィンガーとDNAとの間のコードされた相互作用という観点から結果を理論付けることができる。
【0034】
新たな特異性を有するタンパク質の合理的だが偏った設計に対する他の選択肢として、大型のプールから所望の突然変異体を分離するやり方がある。そのようなタンパク質を選択する強力な方法には、バクテリオファージfdの小コートタンパク質(pIII)への融合体としてペプチドをクローニングする方法(Smith 1985 Science 228、1315-1317)またはタンパク質ドメインをクローニングする方法(McCafferty他 1990 Nature(London)348、552-554、Bass他、1990 Proteins 8、309-314)があり、これによるとキャプシドの先端上にペプチドおよびタンパク質が発現する。対象のペプチドを提示するファージをアフィニティ精製し、かつ増幅して、選択のさらなるラウンドおよびクローン化遺伝子のDNA配列決定に利用することができる。本発明者らは、機能的亜鉛フィンガータンパク質をfdファージの表面上で提示することができかつ誘導されたファージを特異的DNAでコーティングした固体支持体上で捕獲できることを実証した後、この技術を亜鉛フィンガー−DNA相互作用の研究に応用した。Zif268(3つの亜鉛フィンガーを含むマウス転写因子、Christy 他、1988年)のDNA結合ドメインからの中央フィンガーの変異型を含むファージディスプレイライブラリを作った。固定した配列のDNAを使用して、数ラウンドの選択を通じてこのライブラリからファージを精製し、所与のDNAに結合するいくつかの異なるが関連のある亜鉛フィンガーが得られた。機能的に等価なフィンガーのアミノ酸配列における類似性を比較することによって、これらのフィンガーのDNAとの相互作用のありそうなモードを推理する。驚くべきことに、多くの塩基接触が、亜鉛フィンガーのαヘリックス上にある3つの主要な位置から生じ得るようであり、(これは結果論として)DNAに結合するZif268の結晶構造(Pavletich & Pabo 1991 年)の意味するところに相通じる。所望の特異性を有する亜鉛フィンガーを選択または設計できるということは、亜鉛フィンガーを含むDNA結合タンパク質をここに「誂える」ことができることを意味する。
【0035】
〔材料および方法〕
遺伝子の構成およびクローニングについて。転写因子IIIA(TFIIIA)の最初の3つのフィンガー(残基3−101)に対する遺伝子を、それぞれNotIおよびSfiIの制限部位を含む順方向プライマおよび逆方向プライマを用いてTFIIIAのcDNAクローンからPCRによって増幅した。Zif268フィンガー(残基333−420)の遺伝子は、SfiIおよびNotIのオーバーハングを与える8つのオーバーラップした合成オリゴヌクレオチドから組立られた。ファージライブラリのフィンガーのための遺伝子を、3つの短い相補的リンカーを用いて指向性の末端対末端連結により4つのオリゴヌクレオチドから合成し、それぞれNotIとSfiIの部位を含んだ順方向および逆方向のプライマを用いて一本鎖からPCRにより増幅した。さらに逆方向PCRプライマは亜鉛フィンガーペプチドの最初の3つのアミノ酸としてMet−Ala−Gluを導入し、かつその後に本文中で議論するような野性型またはライブラリフィンガーの残基が続いた。必要な場合、SfiIとNotIでの消化によってクローニングオーバーハングを生成した。
【0036】
フラグメントを1μgの同様に調製したFd−Tet−SNベクターに連結した。これは、fd−tet−DOG1の誘導体であって(Hoogenboom他、1991 Nucleic Acids Res.19、4133-4137)、pe1Bリーダの区分と酵素SfiIの制限部位(下線部分)とが、次のオリゴヌクレオチド(Seq ID No.1)を用いる指定部位突然変異誘発によって付加されているものである。

このオリゴヌクレオチドはポリリンカーの領域においてアニールする(L.Jespers、私信)。エレクトロコンピテントなDH5α細胞を200ngアリコート中で組換えベクターにより形質転換させ、1%グルコースの2xTY培地中で1時間増殖させ、15μg/mlテトラサイクリンと1%グルコースとを含むTYE上で平板培養した。
【0037】
図2はファージディスプレイライブラリにおいて使用されるZif268からの3つの亜鉛フィンガーのアミノ酸配列(Seq ID No.2)を示す。上と下の列はそれぞれ第1および第3のフィンガーの配列を示す。真中の列は中央フィンガーの配列を表わす。中央フィンガーのαヘリックスにおける無作為化された位置は「X」で示す残基を有する。アミノ酸位置は第1のらせん残基(位置1)に対して番号付けされている。保存されたLeuおよびHisを除いて、位置−1から+8のアミノ酸に対して、コドンは(G,A,C)NNの均等な混合物である。第1の塩基位置においてTを停止コドンを避けるために除外しているが、これはTrp、Phe、TyrおよびCysについてのコドンが表現されないという残念な効果がある。位置+9はコドンA(G、A)Gにより特定され、ArgまたはLysのいずれかを可能にする。疎水性コアの残基は円で囲み、亜鉛リガンドは黒地の円に白抜き文字で示している。亜鉛フィンガーのβシートおよびαヘリックスを形成する位置については配列の下に記す。
【0038】
〔ファージの選択〕
コロニーを平板から200mlの2xTY/Zn/Tet(50μM Zn(CH3COO)2および15μg/mlテトラサイクリンを含む2xTY)へ移し一晩増殖させた。50μM Zn(CH3COO)2を含む20%PEG/2.5MNaClの0.2容量を用いた2回の沈澱により培養物の上清からファージを精製し、亜鉛フィンガーファージ緩衝液(20mMのHEPES pH7.5、50mMのNaCl、1mMのMgCl2および50μMのZn(CH3COO)2)中に再懸濁した。ストレプトアビジン被覆常磁性ビーズ(ダイナル(Dynal))を亜鉛フィンガーファージ緩衝液中で洗浄し、同じ緩衝液を無脂肪乾燥乳(マーベル(Marvel))6%に調製したもので1時間室温でブロックした。ファージの選択は3ラウンドにわたって行なわれ、第1のラウンドではビーズ(1mg)がビオニチル化されたオリゴヌクレオチド(〜80nM)で飽和され、その後ファージ結合前に洗浄されたが、第2および第3のラウンドでは、1.7nMオリゴヌクレオチドと5μgポリdGC(シグマ(Sigma))をファージとともにビーズに添加した。15℃で1時間にわたる結合反応(1.5ml)が、無脂肪乾燥乳(マーベル)2%およびトゥイーン(Tween)20の1%に調製された亜鉛フィンガーファージ緩衝液中で行なわれ、典型的には5×1011のファージが含有された。ビーズは1mlの同じ緩衝液で15回洗浄された。ファージは5分間0.1Mトリエチルアミン中での振とうにより溶出され、かつ等容量の1MのTris、pH7.4で中和された。2×TY中の対数期の大腸菌TG1を37℃で30分間溶出したファージで感染させかつ上記のように平板培養した。ファージの力価は感染されたバクテリアの連続希釈物を平板培養することにより決定された。
【0039】
アフィニティ精製に基づくファージ選択の過程を図1に模式的に示す。亜鉛フィンガー(A)は、小コートタンパク質(C)に対する融合体としてfdファージ(B)の表面上に発現される。第3のフィンガーはDNAの螺旋により大体が隠れている。亜鉛フィンガーファージは、ストレプトアビジンがコーティングされた常磁性ビーズ(E)に付着する5′ビオニチル化DNAオリゴヌクレオチド[D]に結合され、磁石[F]を用いて捕獲された。(図は、Dynal ASおよびMarks 他(1992 J.Biol.Chem.267、16007-16105)からのものを脚色したものである。)
【0040】
図3は、(i)TFIIIAの最初の3つのフィンガーを提示するファージと、(ii)Zif268の3つのフィンガーを提示するファージと、(iii)ファージディスプレイライブラリからの亜鉛フィンガーファージとを精製するのに使用されるDNAオリゴヌクレオチドの配列(Seq ID No.3−8)を示す。X線結晶構造において使用されるZif268共通オペレータ配列(Pavletich & Pabo 1991 Science 252、809-817)は、(ii)と(iii)において強調して示し、(iii)では「X」が、新しい特異性を有するファージを精製するために使用されるオリゴヌクレオチドにおける理想的なオペレータからの塩基の変化を表わしている。一本鎖のビオチニル化は円で囲んだBで示す。
【0041】
〔選択されたファージの配列決定〕
上記のような3ラウンドの選択を行なった後に得られた形質転換細胞の単一コロニーを2xTY/Zn/Tet中で一晩増殖させた。培養物の小さなアリコートが−20℃で15%グリセロール中に貯蔵され、これを保管所として使用した。一本鎖のDNAを培養物の上清中のファージから調製し、かつシーケナーゼ(Sequenase(商標)2.0キット(米国バイオケミカル社、U.S.Biochemical Cor p.)を使用して配列決定した。
【0042】
〔結果および議論〕
〔TFIIIAまたはZif268からの3フィンガーDNA結合ドメインのファージディスプレイ〕
ファージディスプレイライブラリの構築に先立ち、本発明者らは、3つの完全に機能的な亜鉛フィンガーを含むペプチドはベクターFd−Tet−SN中でクローニングすると生きたfdファージの表面上に提示され得ることを明らかにした。予備実験では、本発明者らはpIIIへの融合体としてまずTFIIIAからの3つのN末端フィンガー(Ginsberg他、1984 Cell 39、479-489)をクローニングし、次にZif268からの3つのフィンガー(Christy 他、1998年)をクローニングした。その双方についてDNA結合部位はわかっている。小コートタンパク質に融合化したペプチドが、抗pIII抗体(Stengele他、1990J.Mol.Biol.212、143-149)を用いてウェスタンブロットで検出された。ファージ調製物中の全pIIIのうちおよそ10%から20%が融合タンパク質として存在していた。
【0043】
いずれの組のフィンガーを提示するファージも特異的DNAオリゴヌクレオチドに結合することが可能であったが、これは亜鉛フィンガーがいずれの場合においても発現されかつ正しく折り畳まれたこと示している。特異的オリゴヌクレオチドでコーティングした常磁性ビーズを、その上でDNA結合ファージを捕獲するための媒体として使用し、遊離のビーズまたは非特異的DNAでコーティングされたビーズの場合と比べて、100倍から500倍以上のそのようなファージを一貫して回収することが可能であった。代替的には、Zif268のうち3つのフィンガーを提示するファージを、亜鉛フィンガーを保有していないFd−Tet−SNファージで1:1.7×103の比率に希釈し、その混合物をZif268オペレータDNAでコーティングしたビーズとともにインキュベートした時、溶出されかつ大腸菌へトランスフェクションされた全ファージの3つに1つが、コロニーハイブリッド形成によってZif268遺伝子を運ぶことが示されたが、これは亜鉛フィンガーファージについて500を超えるエンリッチメントファクターとなる。したがって、明らかに、fdファージ上に提示された亜鉛フィンガーが、特定の複合体を形成できるDNA配列に優先的に結合することができ、単一のアフィニティ精製ステップで500倍まで必要なファージを濃縮することが可能になる。したがって、複数回の選択および増幅によって、配列特異的DNA結合が可能な非常に稀少なクローンが大型のライブラリから選択され得る。
【0044】
〔Zif268からの亜鉛フィンガーのファージディスプレイライブラリ〕
本発明者らはZif268の3つのフィンガーのファージディスプレイライブラリを作製し、そのうち中央のフィンガーにおける選択された残基を無作為化し(図2)、かつ修飾したZif268オペレータ配列(Christy & Nathans 1989 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86、8737-8741)を用いて所望の特異性を有する亜鉛フィンガーを保有するファージを分離した。Zif268オペレータ配列のうち中央のDNAトリプレットが対象の配列に改変されている(図3)。データベース分析(Jacobs 1992 EMBO J.11、4507-4517)により示唆される一次的および二次的な推定の塩基認識位置を両方とも研究できるように、本発明者らは、αヘリックスの第1の残基(位置+1)を基準にして、保存されるLeuおよびHisを除く位置−1から+8が、それらの位置ではほとんど生じることのないPhe、Tyr、TrpおよびCys(Jacobs 1993 年、ケンブリッジ大学博士論文)を除くいずれのアミノ酸にもなり得るような中央フィンガーのライブラリを設計した。さらに、本発明者らは、位置−2でSerとフィンガー間接触を作る可能性のある(Pavletich & Pabo 1991 年)位置+9が、その位置で最も頻繁に発生する残基であるArgまたはLysの2つのいずれかになるようにした。
【0045】
Zif268の結晶構造(Pavletich & Pabo 1991 年)に基づくこのプロトコルの論理は、タンパク質−DNA接触の全体的な記録は隣りにある2つによって固定されるので、無作為化されたフィンガーは中央のトリプレットに向けられるというものである。この論理によれば、無作為化されたフィンガーのうちどのアミノ酸が、配列がわかっているDNAと特異的複合体を形成する上で最も重要であるかを調べることができる。包括的なバリエーションがαヘリックスのすべての推定される接触位置にプログラムされるので、DNA結合における各位置の重要性の客観的研究を行なうことができる(Jacobs 1992 年)。
8つの可変位置の完全な縮重を仮定すれば、必要なファージディスプレイライブラリの大きさは(167×21)=5.4×108となるが、Fd−Tet−SNによる形質転換の効率には実質的に限界が存在するので、本発明者らはそのうち2.6×106のみをクローニングできた。したがって使用したライブラリはαヘリックスの可能なバリエーションのすべてを網羅するのに理論上必要な大きさに比べて200倍ほど小さいものである。それにもかかわらず、所与のDNA配列に高い親和性および特異性で結合するファージを分離することができ、これは亜鉛フィンガーモチーフの顕著な融通性を示すものである。
【0046】
〔ファージディスプレイ選択から推定される亜鉛フィンガー−DNA複合体におけるアミノ酸−塩基接触〕
フィンガー2のバリエーションに対して結合部位を形成することが可能な64塩基トリプレットのうち、本発明者らは現在までのところ32個を使用して記載のとおり亜鉛フィンガーファージの分離を試みている。これらの選択から生じた結果を表1に示す。表1は、Zif268オペレータの変異体で3ラウンドのスクリーニングを行なった後に選択されたライブラリファージのクローンからの変異体αヘリックス領域のアミノ酸配列を示す。
【0047】

【0048】
表1において、1文字のコードで並べられたアミノ酸配列は、その精製に使用されたDNAオリゴヌクレオチド(aからp)の横に並べて示されている。後者は、特異体Zif268オペレータの「結合された」鎖における中央DNAトリプレットの配列によって表わされる。アミノ酸位置は第1のらせん残基(位置1)に対して番号付けされ、かつ3つの主要な認識位置を強調して示す。添付した番号は、そのクローンの配列決定された集団(5から10のコロニー)におけるそれぞれの発生数を示し、括弧書の番号の場合、クローンは最終ラウンドではなく、最終から2番目のラウンドの選択で検出されたものである。ここに示すDNAトリプレット以外のものもライブラリから亜鉛フィンガーファージを選択しようとして用いたが、ほとんどが2つのクローンを選択し、その一方はαヘリックス配列KASNLVSHIRを有し、もう一方は配列LRHNLETHMRを有していた。これらのトリプレットはACT、AAA、TTT、CCT、CTT、TTC、AGT、CGA、CAT、AGA、AGCおよびAATであった。
【0049】
概して、本発明者らは、3ラウンドの選択(参照)の後、すべてが同じ限られた組のファージをもたらす5′または3′グアニンのないトリプレットに特異的に結合する亜鉛フィンガーを選択することはできていない。しかしながら、ライブラリをスクリーニングするのに使用する他のトリプレットの各々に対して、一群の亜鉛フィンガーファージが取出される。これらの群の中に無作為化されたαヘリックスの配列偏向が見られ、これはDNAに接触するために使用されるアミノ酸の位置および種類を明らかにするものとして解釈される。たとえば、トリプレットGAT(表1d)で選択された8つの異なるクローンからの中央のフィンガーはすべて位置+3にAsnを有しかつ位置+6にArgを有しているが、これは丁度、特定のDNAとの共同結晶体において同じトリプレットに接触を行なうことがわかっているショウジョウバエタンパク質tramtrack の第1の亜鉛フィンガーと同様である(Fairall 他、1993年)。このことは、機能的に等価なフィンガーにおける特定のアミノ酸の位置的な再現が偶然に一致するのではなく、むしろ何らかの機能的な役割が有ることによることを示している。したがって、ファージディスプレイライブラリ(表1)から収集したデータを使用して、特異的アミノ酸−DNA相互作用のほとんどを推論することが可能である。驚くべきことに、結果のほとんどをX線結晶学(Pavletich & Pabo 1991 年)およびデータベース分析(Jacobs、1992年)から確認される3つの主要なヘリックス位置(−1、+3および+6)からの接触という観点から論理付けることができる。
【0050】
既に指摘される通り(Berg 1992 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89、11109-11110)、グアニンは亜鉛フィンガー−DNA相互作用において特に重要な役割を果たしている。
トリプレットの5′(たとえば表1、c−i)または3′(たとえば表1、m−o)末端に存在する場合、Gはαヘリックスの位置+6または−1でArgを有するフィンガーをそれぞれ選択する。Gがトリプレットの中央の位置に存在する場合(たとえば表1b)、位置+3における好ましいアミノ酸はHisである。
時折トリプレットの5′末端にあるGが+6でSerまたはThrを選択する(たとえば表1b)。Gは絶対的にArgによってのみ特定することができるので(Seeman他、1976 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 73、804-808)、これは−1と+6とにおける最も一般的な決定要素である。この種の接触が、Zif268の結晶構造(Pavletich & Pabo、1991 Science 252、809-817)およびtramtracK(Fairall 他、1993年)に見られるような二座水素結合相互作用であることが予想できる。これらの構造物においておよびArgが3′末端におけるGを認識する選択されたフィンガーのほとんどすべてにおいて、Aspが位置+2に生じて、長いArgの側鎖を支えている(たとえば表1o、p)。位置−1がArgでない場合、Aspは+2においてほとんど生じず、この場合、第2のDNA鎖と作る可能性のある他の接触は、タンパク質−DNA複合体の安定に大きく寄与していないことを示唆している。
【0051】
アデニンも、二座接触を作ることができるAsnまたはGlnによりほとんど排他的に認識される、配列特異性の重要な決定要素である(Seeman他、1976年)。Aがトリプレットの3′末端に存在する場合、Glnはαヘリックスの位置−1で選択される場合が多く、+2に小さい脂肪族残基が伴うことが多い(たとえば表1、b)。+3に両方ともHisを有する2種類のフィンガー(一方は実験中ライブラリを汚染した野性型Zif268)のみを選択したトリプレットCAG(表1、a)の場合を除いて、トリプレットの中央のアデニンは、位置+3でAsnを強く選択する(たとえば表1、c−e)。トリプレットACG(表1、j)およびATG(表1、k)は5′末端にAを有するが、これもファージのオリゴクローナル混合物をもたらし、その大多数が+6においてAsnを有する1つのクローンからなっていた。
【0052】
理論上は、シトシンとチミンを、主溝において水素結合するアミノ酸側鎖によって確実に区別することはできない(Seeman他、1976年)。しかしながら、トリプレットの3′位置におけるCは、位置+1におけるArgとともに位置−1におけるAspまたはGluに対し顕著な好みを示す(たとえば表1、e−g)。
Aspも、Cが中央(たとえば表1、o)および5′(たとえば表1、a)位置にそれぞれある場合、+3と+6において選択される場合がある。AspはCのアミノ基からの水素結合を受入れることができるが、主溝におけるCの正の分子電荷(Hunter 1993 J.Mol.Biol.230、1025-1054)は、水素結合接触に関係なくAspとの相互作用に好都合である点に留意すべきである。
【0053】
しかしながら、中央位置のCは+3においてThr(たとえば表1、i)ValまたはLeu(たとえば表1、o)を最も頻繁に選択する。同様に、中央位置のTは、位置+3においてSer(たとえば表1、i)、AlaまたはVal(たとえば表1、p)を最も頻繁に選択する。脂肪族アミノ酸は水素結合を作ることができないが、AlaはTのメチル基と疎水性相互作用を有する可能性があり、一方Leu等のより長い側鎖は、Tを排除しかつCの環に抗してコンパクトになる。Tがトリプレットの5′末端にある場合、SerおよびThrが位置+6で選択される(時折5′末端のGについて生じる場合と同様)。トリプレットの3′末端のチミンは−1においてさまざまな極性アミノ酸を選択し(たとえば表1、d)、かつ時々+2にSerを有するフィンガーを選ぶが(たとえば表1、a)、これはtramtrack 結晶構造(Fairall 他、1993年)に見られるような接触を作ることができる。
【0054】
〔ファージディスプレイの限界〕
表1から、等価なフィンガーのいずれの族についても3つの主要な位置(−1、+3および+6)のうちの2つに通常、コンセンサスまたはバイアスが生じることがわかるが、これは多くの場合ファージの選択が、Zif268結晶構造(Pavletich & Pabo 1991 年)において見られるものと同様に、フィンガー当り2つの塩基接触のみによって行なわれることを示唆している。したがって、同じフィンガー配列が、しばしば中央のトリプレットにおいて1塩基異なるDNA配列の間で生じてくる。この理由の1つは、ファージディスプレイの選択が本質的に親和性による精製であり、同じぐらい強く複数のDNAトリプレットに結合するために区別できない亜鉛フィンガーをもたらし得るからである。第2に、複合体の形成が質量作用の法則に支配されるので、親和性の選択では、DNAに対する本当の親和性がライブラリにおける他の数の少ないクローンよりも劣っていても、ライブラリにおいて発現が最も多いクローンが優先され得るからである。したがって、親和性によるファージディスプレイの選択は、複合体を安定化させるのに必要な塩基接触を超えて相互作用の可能なものと特異的なものとを区別するには限界がある。したがって、所与のDNAに特異的に結合することができるフィンガーに対して競合がない場合、最も強く結合する非特異的複合体がファージのライブラリから選択されることになる。結果として、ライブラリからのファージディスプレイ選択により得られる結果は、特にそのライブラリのサイズが限られている場合には、特異性検定によって確認する必要がある。
【0055】
〔結論〕
機能的に等価な亜鉛フィンガー族内において見られるアミノ酸配列の偏りは、この研究において無作為化されたαヘリックス位置のうち、3つの主要な(−1、+3および+6)位置および1つの補助的(+2)位置のみがDNAの認識に関連していることを示す。さらに、限られた組のアミノ酸がそれらの位置で見られ、これらが塩基に対して接触すると考えられる。したがって、亜鉛フィンガー−DNA相互作用を記述するコードを導出することができることが示唆される。しかしながら、この段階では、配列の相同関係は特定の塩基対に対するアミノ酸の好みを強く示唆してはいるが、DNAトリプレットに対する個々のフィンガーの特異性が確認されるまではそのような法則をはっきり推定することはできない。したがって、本発明者らは、どのようにして無作為化されたDNA結合部位をこの目的で使用することができるかを記述する以下の例を説明するまで、このような好みについての要約表を作成していない。
【0056】
この研究が進行している間、Rebar およびPaboによる論文が発表され(Rebar & Pabo、1994 Science 263、671-673)、その中でもファージディスプレイが新たなDNA結合特異性を有する亜鉛フィンガーを選択するために使用されていた。同論文の著者らはZif268の第1のフィンガーが無作為化されたライブラリを構築し、テトラヌクレオチドでスクリーニングを行なってこのフィンガーの変異体からの付加的な接触等の末端効果を考慮した。4つの位置(−1、+2、+3および+6)のみが、無作為化され、先に得られたX線結晶構造に基づき選択された。より多くの位置が無作為化された上記の結果は、明らかな効果の損失がないRebar およびPaboによる4つのランダムな位置の使用をある程度正当化するものだが、さらに選択を行なうことによってライブラリに疑念の余地があることが明らかになるかもしれない。一方、4つの位置のみを無作為化することで理論的なライブラリの寸法が低減されるので、実際に完全な縮重が達成され得る。しかしながら、本発明者らは、Rebar およびPaboが2つの変異体Zif268オペレータを用いてそれらの完全なライブラリをスクリーニングすることによって得た結果が、不完全なライブラリから導出されるそれらの結果と一致することを見出した。この結果も一方では亜鉛フィンガーの多面性を目立たせるものであるが、注目すべきことに、今までのところいずれの研究も配列CCTに結合するフィンガーを生成できていない。Rebar およびPaboのライブラリを使用してより多くの選択を行なえば我々が検出したような配列の偏りが明らかとなるかどうかは興味のあるところである。いずれにしても、現在まで使用されているものよりもっと完全なライブラリにおいて異なる数の無作為化された位置を使用することが選択にどのような影響を与えるかを調査することが望ましいであろう。
【0057】
ファージディスプレイライブラリにおける無作為化されたフィンガーのもとの位置または前後関係(コンテクスト)が、新たなDNA−結合ドメイン内へ組込まれる際に選択されるフィンガーの有効性に影響している可能性がある。3フィンガーペプチドの外側のフィンガーのライブラリからの選択(Rebar & Pabo、1994 Science 263、671-673、Jamieson他、1994 Biochemistry 33、5689-5695)により、さまざまに異なるモードでDNAに結合するフィンガーを生成できる。だが、中央のフィンガーのライブラリからの選択では、より限定的なモチーフが生成されるはずである。そこで、Rebar およびPaboは、Zif268の第1のフィンガーが常にトリプレットに結合するとは仮定せず、テトラヌクレオチド結合部位でスクリーニングを行なって異なる結合モードを考慮している。したがって、外側のフィンガーのライブラリから選択されたモチーフはマルチフィンガータンパク質のアセンブリの影響を受けにくいことが証明されるかもしれない。というのも、組立られた3フィンガータンパク質の中央の位置を占めるはずのフィンガーの場合のように、これらフィンガーの結合は、これらを特定の結合モードに制約する際に混乱させられる可能性があるからである。対照的に、もとから制約を受けている中央のフィンガーのライブラリから選択されたモチーフは、組立てられたDNA結合ドメインの外側の位置に置かれた場合でも、それらの結合モードを保存することができるかもしれない。
【0058】
図13は、誂えられる亜鉛フィンガータンパク質の設計に関する他の戦略法を示す。(A)3フィンガーDNA結合モチーフは3つの無作為化されたフィンガーのライブラリからひとまとめにして選択される。(B)3フィンガーDNA結合モチーフは1つの無作為化されたフィンガー(たとえばZif268の中央のフィンガー)のライブラリからそれぞれ独立して選択されたフィンガーから組立てられる。(C)3フィンガーDNA結合モチーフは、無作為化された亜鉛フィンガーの3つの位置的に特異的なライブラリからそれぞれ独立して選択されたフィンガーから組立てられる。
図14は、ひとまとめの選択が後に続く、組合せアセンブリの戦略法を示す図である。ファージディスプレイ選択により分離されるトリプレット特異的亜鉛フィンガーのグループ(A)はランダムな組合せで組立てられかつファージ(B)
上に再提示される。全長標的部位(C)を用いて最も好ましい組合せのフィンガー(D)をひとまとまりで選択する。
【0059】
〔例2〕
この例は、所定の亜鉛フィンガーについてのDNA結合部位の選択を効果的に扱う新規な技術について説明する(本質的には例1の逆)。この技術は、ディスプレイライブラリのスクリーニングに基づく偽りの選択に対する予防策として望ましい。これは、2つの位置において無作為化されている一方1つの塩基が第3の位置で固定されているDNAトリプレット結合部位のライブラリに対するスクリーニングによって行なうことができる。この技術は、ここではファージディスプレイにより予め選択されたフィンガーの特異性を決定するために適用される。本発明者らは、これらフィンガーのうちのいくつかが、同族のトリプレットの各位置において独自の塩基を特定できることを発見した。このことは、それぞれの平衡解離定数による測定で密接に関連するトリプレット間を区別することができるフィンガーの例によってさらに示される。トリプレットにおける特定の塩基を特定するフィンガーのアミノ酸配列を比較して、我々は、多くの場合DNAに対する亜鉛フィンガーの配列特異的結合は、コードに従う小さな組のアミノ酸−塩基接触を用いて達成され得ると推定する。
【0060】
無作為化されたDNAのライブラリからの選択によって、これら(および他の)タンパク質の最適結合部位を決定することができる。この方法は、その原理が本質的に亜鉛フィンガーファージディスプレイの逆になっており、同じように情報量の多いデータベースを提供するものであり、そのデータベースから同じ法則が独立して推定され得る。しかしながら、今まで、結合部位決定のための好ましい方法(標的DNAを繰返し選択しかつ増幅した後に配列決定する方法を含む)は、骨の折れるプロセスであり、大型データベースの分析への利用にはあまり適していなかった(Thiesen & Bach 1990 Nucleic Acids Res.18、3203-3209、Pollock & Treisrnan 1990 Nucleic Acids Res.18、6197-6204)。
【0061】
この例が提示する便利でかつ迅速な新規な方法では、小型ライブラリから単一工程で選択することによってDNA結合タンパク質の最適結合部位を明らかにすることができ、これを用いて、ファージディスプレイにより予め選択された亜鉛フィンガーの結合部位の好みをチェックすることができる。本出願用に、本発明者らはZif268結合部位の12の異なるミニライブラリを使用しており、その各々は、1つの位置が特定の塩基対で規定されかつ他の2つ位置が無作為化された中央トリプレットを有する。したがって、各ライブラリは16のオリゴヌクレオチドを含みかつ多数の潜在的結合部位を中央フィンガーに対し与えるが、ただし後者は規定された塩基対を許容できるものである。各亜鉛フィンガーファージが、ミクロタイタープレートのウェル中で個々に固定化された12のライブラリすべてに対しスクリーニングされ、かつ結合が酵素免疫検定法によって検出される。かくして、各位置における受容可能な塩基のパターンが明らかにされ、これを本発明者らは「結合部位サイン」と呼ぶ。結合部位サインに含まれる情報は、亜鉛フィンガーにより認識される結合部位のレパートリーを包含する。
【0062】
例1において記載されるとおり選択された亜鉛フィンガーファージを利用して得られた結合部位サインは、選択によって、トリプレットの3つの位置すべてにおいて区別をつける高度に配列特異的な亜鉛フィンガー結合モチーフがいくつか得られていることを明らかにする。平衡解離定数の測定から、これらのフィンガーがそれらのサインに示されるトリプレットに硬く結合し、密接に関連する部位に対し(通常少なくとも10のファクタで)区別をつけていることがわかる。結合部位サインは、亜鉛フィンガーとDNAとの相互作用についての特異性コードへの取組を前進させるものである。
【0063】
〔材料および方法〕
〔結合部位サイン〕
フレキシブルな平底96ウェルミクロタイタープレート(Falcon)を、ストレプトアビジン(0.1MのNaHCO3、pH8.6、0.03%NaN3中0.1mg/ml)で4℃において一晩コーティングした。ウェルは2%無脂肪乾燥乳(Marvel)を含むPBS/Zn(PBS、50μMのZn(CH3COO)2)で1時間ブロックし、0.1%トゥイーンを含むPBS/Znで3回かつPBS/Znでさらに3回洗浄した。各オリゴヌクレオチドライブラリの「結合された」鎖は合成されたものであり、かつ他の鎖はDNAポリメラーゼI(Klenowフラグメント)を用いて5′ビオチニル化された一般的なプライマから伸ばされたものである。充填反応物がPBS/Znのウェル(各々0.8pモルのDNAライブラリ)に15分間添加され、その後0.1%のトゥイーンを含むPBS/Znで1回、再びPSB/Znで1回洗浄された。選択された亜鉛フィンガーファージをそれぞれ含む細菌培養物を一晩50mMのZn(CH3.C00)2と15μm/mlのテトラサイクリンとを含む2xTY中で30℃において一晩増殖させた。ファージを含む培養物の上清を、2%無脂肪乾燥乳(Marvel)、1%トゥイーンおよび20μg/mlの音波処理されたサケ精子DNAを含むPBS/Znを添加することによって10倍に希釈した。希釈されたファージ溶液(50μl)をウェルに添加しかつ20℃で1時間結合を進行させた。結合されていないファージは、1%トゥイーンを含むPBS/Znで5回、続いてPBS/Znで3回洗浄して取除いた。結合されたファージは、上に述べた方法(Griffith他、1994 EMBO J.印刷中)またはHRP共役抗M13IgG(Pharmacia)を用いて検出され、かつSOFTmax2.32(Molecular Devices Corp)を用いて定量された。
【0064】
この結果を図4に示す。図4では個々の亜鉛フィンガーファージの結合部位サインを示している。図4はミクロタイタープレートのウェルに固定化された無作為化DNAに対する亜鉛フィンガーファージの結合を表わす。各亜鉛フィンガーファージを各オリゴヌクレオチドライブラリに対しテストするため(上記を参照)、DNAライブラリをウェルの縦列(プレートにおいて縦の方向)に付与し、一方ウェルの横列(プレートを横切る方向)に等容量の亜鉛フィンガーファージ溶液を含ませる。各ライブラリは、Zif268オペレータの「結合された」鎖の中央のトリプレットについて区別され、Nは4つのヌクレオチドすべての混合物を表わしている。亜鉛フィンガーファージは中央のフィンガーの可変領域の配列によって特定され、番号は第1のらせん残基(位置1)に対して付けられたものであり、かつ3つの主要な認識部位が強調して示されている。結合されたファージは酵素免疫検定法により検出される。結合のおよその強度を酵素活性に比例する影の濃淡によって示している。各クローンの「サイン」と呼ばれるDNAライブラリに対する結合のパターンから、1つまたは小数の結合部位を読取ることができ、かつこれらを図の右側に書いている。
【0065】
〔見かけの平衡解離定数の決定〕
細菌培養物を30℃で2xTY/Zn/Tet中、一晩増殖させた。ファージを含む培養物の上清を、4%無脂肪乾燥乳(Marvel)、2%トゥイーンおよび40μg/mlの音波処理されたサケ精子DNAを含むPBS/Znを添加することによって2倍に希釈した。適当な濃度の特定の5′−ビオニチル化DNAおよび等容量の亜鉛フィンガーファージ溶液を含む結合反応物を20℃で1時間平衡になるまで置いた。ストレプトアビジンでコーティングした常磁性ビーズ(ウェル当り500μg)上に全DNAが捕獲され、これらを1%トゥイーンを含むPBS/Znで6回、その後PBS/Znで3回洗浄した。結合されたファージはHRP共役抗M13IgG(Pharmacia)を用いて検出し、上記のとおり(Griffiths 他、1994年)開発された。SOFTmax2.32(Molecular Devices Corp)を用いて最適密度を定量した。
この結果について図5に示しており、同図はDNAの濃度(nM)と飽和分率との関係を示す一連のグラフからなる。2つの外側のフィンガーは、2つの同族の外側のDNAトリプレットと同様、本来の配列を保持している。変化したフィンガーのらせん位置−1から+9までを占めるアミノ酸の配列を各ケースについて示す。グラフは、中央のフィンガーが通常10のファクタで密接に関連するトリプレットを区別することができることを示す。これらグラフによって、以下に述べるとおり見かけの平衡解離定数の決定が可能となる。
【0066】
KaleidaGraph(商標)バージョン2.0プログラム(Abelbeck Software)を用いて、式Kd=[DNA].[P]/[DNA.P]に当て嵌めることによってKdを見積もる。タンパク質−DNA複合体を検出するために使用したELISAの感度に従い、本発明者らはKdの正確な計算に要求されるとおり、亜鉛フィンガーファージの濃度をDNAのものよりかなり低くして使用することができた。ここで使用される方法は、DNAの濃度(変数)が正確にわかっている必要がある一方、亜鉛フィンガーの濃度(定数)についてはわかっている必要がないという利点がある(Choo & Klug 1993 Nucleic Acids Res.21、3341-3346)。これによって各ファージの先端上に発現される亜鉛フィンガーペプチドの数を計算するという問題が避けられる一方、遺伝子IIIタンパク質(pIII)のうち10%から20%しかそのようなペプチドを保有しておらず、平均してファージ当りの1コピーを下回ることが予想される。表面に固定化されたDNAに対するファージの結合活性により引起こされる影響(MarKs 他、1992年)を避けるため、結合は溶液中で行なわれる。さらに、この場合、固相上で捕獲する前に溶液中で平衡状態に到達するので、ELISAによるKdの測定が可能となる。
【0067】
〔結果および議論〕
〔Zif268の第2フィンガーにおける結合部位サイン〕
図4の一番上の行は野性型Zif268の第2フィンガーのサインを示す。公開されている共通配列(Christy & Nathans 1989 Proc.Natl.Acad Sci.USA 86,8737-8741)に従えば、中央トリプレットとしてGNN、TNN、NGNおよびNNGを有するオリゴヌクレオチドライブラリへの結合を示す強いシグナルのパターンから、このフィンガーのための最適な結合部位はT/G,G,Gであるということが明らかとなる。これは、TGGを中央トリプレットとして有する共通オペレータ(Pavletich & Pabo 1991年)との複合体において解決されるZif268のX線結晶構造の解釈について暗示するものである。たとえば、中央フィンガーの位置+3におけるHisはGのN7への水素結合を与えるものとして形作られるものであって、これは等価な接触がAのN7と可能であることを示唆しているが、結合部位のサインから、Aとの区別があることを見て取ることができる。これが示唆するのは、HisはむしろGのO6への水素結合またはO6およびN7の双方への二又の水素結合をなすことを選び得ること、またはAのアミノ基との立体衝突によりこの塩基との緊密な相互作用が阻止され得ることである。したがって、二重螺旋DNAの立体化学を考慮することにより、結合部位のサインで亜鉛フィンガー−DNAの相互作用の詳細を洞察することができるようになる。
【0068】
〔結合部位サインから推察される亜鉛フィンガー−DNA複合体におけるアミノ酸−塩基接触〕
他の亜鉛フィンガーにおける結合部位サインは、例1で行なわれるファージ選択が高度に配列特異的なDNA結合タンパク質をもたらしたことを明らかにしている。これらのいくらかは、変異型Zif268結合部位における中央トリプレットのための独自の配列を特定することができ、したがってその共通部位については、Zif268そのものよりも特異的である。さらに、特定のオリゴヌクレオチドライブラリ、すなわち規定された位置における特異的な塩基を認識するフィンガーを、図4の列を下方に見ていくことによって識別することができる。これらのフィンガーのアミノ酸配列を比較することにより、結合されたDNA上の特定の塩基を真に好むいかなる残基をも識別することができる。いくつかの例外を除けば、これらはファージディスプレイを基準として以前に予測されたようなものであり、表2にまとめられる。
表2は選択された亜鉛フィンガーのDNAとの相互作用において、アミノ酸−塩基接触のよく見られるものをまとめたものである。所与の接触は、適切なトリプレットのための「シラビックな」認識コードを含む。同族アミノ酸およびそれらのαヘリックス中での位置が、トリプレットの各位置と各塩基を関連付けるマトリックスの中に入れられている。位置+2からの補助的なアミノ酸は、位置−1におけるアミノ酸の特異性を高めるかまたは調節することができ、これらは対として列挙されている。位置+6におけるSerまたはThrは、後続するフィンガーにおけるAsp+2(Asp++2と表示)が、間接的にGおよびTの両方を特定することを許容しており、これらの対が列挙されている。Tに対するSer+3およびCに対するThr+3の特異性が互いに交換可能であってもよい場合は稀であり、一方Val+3は常に曖昧なものとして現われる。
【0069】

【0070】
結合部位サインはまた、選択結果の解釈のために大切である、ファージディスプレイライブラリの重要な特徴を明らかにする。本発明者らのパネルにおけるフィンガーはすべて、位置+6に存在するアミノ酸に関係なく、トリプレットの5′末端におけるGまたはGおよびTの双方を認識することができる。これを説明するとおそらく、中央トリプレットの5′位置が、相補的な鎖上のいずれかの塩基のパートナーへのフィンガー3の位置+2における非変異体Aspからの接触によって、GまたはTのいずれかとして固定されるということであり、これはZif268(Pavletich & Pabo 1991 Science 252,809-817)およびtramtrack(Fairall et al,.1993)の結晶構造(CまたはAのNH2へのそれぞれ主溝内における接触)で見られるものに類似する。したがってフィンガー3の位置+2におけるAspは、中央フィンガーの位置+6に存在するアミノ酸よりも優性であり、5′位置におけるAまたはCの認識の可能性は予め排除されている。将来のライブラリは、この相互作用の除外、または位置の変動につき設計されなければならない。興味深いことには、3つのフィンガーにおける保存された領域のフレームワークを考えると、GおよびT双方との頻繁な相互作用、すなわちいずれの塩基への水素結合にも寄与し得る位置+6におけるSerまたはThrの出現を特定する第2のフィンガーにおける規則を認めることができる。
【0071】
〔補助的な位置による塩基認識の調節〕
上で注目されたように、位置+2は、「同族トリプレット」の3′直接的に塩基を特定することができ、したがって先行するフィンガーの位置+6に関連して働き得る。結合部位サインは、3つの主要な位置からのアミノ酸−塩基接触を示す一方で、補助的な位置が塩基認識において他の役割を果たすことができることを示す。明らかな適例は、位置−1におけるGlnである。これは位置+2がAlaなどの小さな非極性アミノ酸である場合にはトリプレットの3′末端におけるAについて特異的であるが、Serなどの極性残基が位置+2にある場合にはTについて特異的である。亜鉛フィンガーのX線結晶構造からその根拠が理解される、位置−1におけるArgと位置+2におけるAspとの間の強い相関性は、これらの2つの位置の間における相互作用の別の例である。したがって、位置+2におけるアミノ酸は、他の位置におけるアミノ酸の特異性を調節または強めることができる。
位置+3では、ThrおよびValの場合に異なったタイプの調節が見られ、これはトリプレットの中央位置ではCを最も頻繁に好ましいとするが、いくつかの亜鉛フィンガーではCおよびTの双方を認識することが可能である。この曖昧さは、おそらくはこれらの残基におけるメチル基にかかわる異なった疎水性の相互作用の結果として生じるものであって、ここでは別の位置からの効果それ自体よりもむしろフィンガーの性向におけるフレキシビリティが、曖昧な読取りの原因となり得るだろう。
【0072】
〔解離定数の定量的測定〕
亜鉛フィンガーの結合部位サインは、DNAの所与の濃度においてその示差的な塩基の好みを明らかにする。DNAの濃度が変わるにつれ、どのクローンの結合部位サインも変化して、低[DNA]ではより特徴的になり、かつより高い[DNA]では、好みのより少ない部位におけるKdに近づいてさらなる塩基がトリプレットの各位置において受入れ可能となるにつれ、それほど特徴的ではなくなることを予測することができる。さらに、2つの塩基位置がオリゴヌクレオチドのどの1つのライブラリにおいてもランダムに占拠されるため、結合部位サインは正式にはいくつかの相互作用についてはコンテクスト依存性の可能性を排除することができない。したがって本質的に比較的なものである結合部位サインを補足するには、異なったDNA結合部位のための各ファージの平衡解離定数を定量的に決定する必要がある。ファージディスプレイ選択および結合部位サインの後では、それが亜鉛フィンガーの特異性を評定する際の第3の最終的な段階となる。
【0073】
図5に提示されるそのような研究の例は、亜鉛フィンガーファージがそれらの結合部位サインに示されるオペレータを10-8〜10-9Mの範囲内のKdsで結合し、かつ1桁よりも大きいファクタで、緊密に関連した結合部位に対し区別をつけることができることを明らかにする。実際、図5が示すのは、9つの塩基対のうちただ1つのみにおいて異なる結合部位に対する親和性におけるそのような差異である。我々のパネルにおける亜鉛フィンガーは、非競合的なアフィニティ精製によってライブラリから選択されるので、より一層識別力のあるフィンガーを、競合的選択プロセスを用いて分離できる可能性がある。
解離定数を測定することで、結合の強度に従って、優先順に、異なるトリプレットをランク付けすることができる。ここでの例は、位置−1または+3のいずれかからの接触が識別力に寄与し得ることを示す。また、上で言及したいくつかの結合部位サインの曖昧さが、密接に関連した複数のトリプレットに対するいくつかのフィンガーの等価な親和性に基準を有することが示され得る。これは、三重のTTGおよびGTGに対するアミノ酸配列RGDALTSHERを含むフィンガーのKdsにより明らかにされる。
【0074】
〔亜鉛フィンガー−DNA認識のためのコード〕
亜鉛フィンガーモチーフの融通性により、単一のコードの範囲内に入るには多様すぎるさまざまなモードのDNAへの(そしてさらにはRNAへの)結合を開発する進化が可能ではないかという期待がなされよう。しかしながら、1つのコードが必ずしもすべての亜鉛フィンガー−DNA相互作用に適用できるものではないとはいえ、今や1つのコードが実質的なサブセットに適用されるという説得力のある根拠が存在する。このコードは、いかなる所与の亜鉛フィンガーのDNA結合部位の好みをもそのアミノ酸配列から間違いなく予測するには不十分であるが、それでも所定のDNA配列に対して特異性を備えた亜鉛フィンガーの設計を可能とするには十分に包括的であろう。
【0075】
(上述のような)ファージディスプレイおよび結合部位サインの選択方法を用いることで、Zif268様亜鉛フィンガーの場合には、DNAの認識にαヘリックス上の4つの固定された主な位置(3つは主要なもの、1つは補助的なもの)がかかわっていることが見出され、ここからアミノ酸−塩基接触における限定された特異的なセットが、さまざまなDNAトリプレットの認識をもたらすことが見出された。換言すれば、1つのコードで亜鉛フィンガーとDNAとの相互作用を記述することができる。このコードの方向に、各塩基をトリプレットの各位置に関連付けるマトリックスに入るものほとんどすべてについてアミノ酸−塩基接触を提案することができる(表2)。重複があるところでは、ここに提示される結果は、データベースに導かれた突然変異体を用いて亜鉛フィンガーの特異性を変えることにより類似の規則を導き出したDesjarlaisおよびBergのものを補足する(Desjarlais & Berg 1992 Proc Natl,Acad.Sci.USA 89,7345-7349; Desjarlais & Berg 1993 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,2256-2260)。
【0076】
〔コードされた接触の組合せでの使用〕
表2に列挙される個々の塩基接触は、コードの一部ではあるが、任意の組合せで用いられた場合に、必ずしも予想される塩基トリプレットに対して配列特異的結合をもたらすとは限らないかもしれない。まず第1には、亜鉛フィンガーが、このコードを用いてもいくつかのトリプレットにおいてはある種の組合せの塩基を認識できないかもしれないか、または全く何も認識できないかもしれないことを承知しておかなければならない。さもなければ、不一致の大部分は、亜鉛フィンガーの三又の読取ヘッドの、それが相互作用しているトリプレットに対する性向の変動を考慮することによって説明され得る。αヘリックスの任意の1つの位置におけるアミノ酸の同一性は、3塩基接触が同時に起こるように他の2つの位置における残基の同一性と調子を合わされていると思われる。したがってたとえば、AlaがトリプレットGTG内でTを選び得るためには、位置+6からGを認識するのにArgを用いてはいけない。なぜなら、それによって前者がDNAからあまりにも遠くに離されてしまうからである。(たとえばアミノ酸配列RGDALTSHERを含むフィンガーを参照されたい。)第2に、αヘリックスのピッチは螺旋1回転当り3.6個のアミノ酸なので、位置−1、+3および+6は離れた螺旋回転の整数ではないため、位置+3は−1または+6よりもDNAに近い。したがってたとえば、HisおよびAsnなどの短いアミノ酸の方が、むしろより長いArgおよびGlnよりも、トリプレットの中央位置におけるプリンの認識に用いられる。
【0077】
これらの距離効果の結果として、このコードは実は「アルファベット的」(常に同一のアミノ酸:塩基接触)ではなく、むしろ「シラビック」(複数のアミノ酸:塩基接触の、少ないレパートリを用いる)であると言えるかもしれない。アルファベット的コードは4つしか規則を必要としないが、成節性によって、体系的な規則の組合せがコードを構成することとなるので、さらなるレベルの複雑さが付加される。それでも、各トリプレットの認識はやはり「表語記号」(トリプレットに応じた特異質のアミノ酸:塩基接触)のカタログよりもむしろ節からなるコードによって最もよく記述される。
【0078】
〔結論〕
DNAとの相互作用の「シラビック」なコードは、亜鉛フィンガーの融通性のあるフレームワークによって可能なものとされる。これは、わずかな配向の変化によりDNAとの界面における適合性が可能になり、それによって多くの異なった複合体における塩基対1つ当り1つの共平面性アミノ酸の化学量論が維持される。アミノ酸と塩基との間の相互作用のこのモードを考えると、それぞれArgおよびAsn/GlnによるGおよびAの認識がこのコードの重要な特徴であることが予想されるが、しかし注目すべきことには、他の相互作用が、予期されていた(Seemanら、1976年)よりも識別力のあるものとなり得る。反対に、異なった調節DNA配列との複雑な相互作用を見込んで、縮重が亜鉛フィンガー内でさまざまな度合いにおいてプログラムされ得ることが明らかである(Harrison & Travers,1990; Christy & Nathans,1989)。この原理がいかにして転写因子の限られたセットにより示差的遺伝子発現の調整を可能にするかを見ることができる。
【0079】
既に上で注目されたように、フィンガーモチーフの融通性はDNAへの結合の他のモードを許容しがちである。同様に、Fairall らにおいて見られるような核酸の順応性を考慮に入れなければならない。Fairall らにおいてはフレキシブルな塩基ステップにおける二重螺旋の変形により、同族トリプレットの3′位置のTに対するフィンガー1の位置+2におけるSerからの直接的な接触が可能となる。本発明者らによる選択においてさえ、結合モードがはっきりしないフィンガーの例が存在し、明確化のためには構造的分析が必要とされるであろう。したがって、たとえばAsp、AsnまたはSerなどの短い側鎖が位置−1から塩基に相互作用する場合には、水が重要な役割を果たすことを見ることができるであろう(Qian et al.,1993 J.Am.Chem,Soc.115,1189-1190; Shakked et al.,1994 Nature(London)368,469-478)。
【0080】
結局、それらのアミノ酸配列からいくつかの亜鉛フィンガーにおける結合部位の好みを予測できるであろう、DNAへの亜鉛フィンガー結合を説明するいくつかのコードを開発することが可能となるかもしれない。位置−1、+3、およびある程度までこの研究では+6で選択される機能的アミノ酸は、天然に存在するフィンガー中の同じ位置で非常に頻繁に見られ(たとえばDesjarlais and Berg 1992 Proteins 12,101-104 の図4を参照)、これら3つの位置からのコードされた接触の存在を支持するものである。しかしながら、現在の研究室の技術(本明細書およびThiesen & Bach 1990 and Pollock & Treisrnan 1990)が所定のDNA結合タンパク質のための結合部位の同定を可能にするであろうから、決定的な予測の方法が欠如していることは、実用上深刻な制約とはならない。むしろ、ファージ選択および認識の規則についての知識を、逆の課題、すなわち予め定められたDNA部位を結合するためのタンパク質の設計に応用することができる。
【0081】
〔DNA結合タンパク質の設計についての見通し〕
亜鉛フィンガーの配列特異性を操作できるということは、医学および研究に応用するための所望の特異性を備えるDNA結合タンパク質の設計が目前であることを意味している(Desjarlais & Berg,1993,Rebar & Pabo,1994)。これがなぜ可能かというと、他のすべてのDNA結合モチーフとは対照的に、DNAの部位は一列に並んで結合されたそれぞれ独立して作用する複数のフィンガーの適切な組合せによって認識され得るため、亜鉛フィンガーのモジュールによる性質を利用できるからである。
DNAと亜鉛フィンガーとのコードされた相互作用は、もっと有望なこととしてファージディスプレイ選択の適切な候補とともに、新たに個々の亜鉛フィンガーの特異性のモデルを作るのに用いることができる。このようにして、必要に応じて、所定の結合部位に対する親和性を調節するか、または特定の塩基位置における無差別性の適切な度合いを操ることさえできるだろう。さらには、複数回繰返されるドメインの付加効果により、広げられ、したがって非常に稀なゲノム座に特異的かつ緊密に結合する機会が与えられる。したがって、亜鉛フィンガータンパク質は、正常であろうと変異体であろうと、所定の遺伝子の作用を抑制するか、または修飾する際にアンチセンス核酸の代わりに用いる良い代替物となり得るだろう。この目的のため、適切な天然または合成のエフェクタを付与することによりこれらのDNA結合ドメインには追加の機能が導入され得るだろう。
【0082】
〔例3〕
これまでの例で提示される根拠から、本発明者らは亜鉛フィンガーを含む特異的DNA結合タンパク質を「誂え」のものにすることができるということを提案する。その可能性を示すため、本発明者らは、BCR−ABL融合癌細胞のユニークな9bp領域に部位特異的に結合でき、それを親ゲノム配列(Kurzrock et al.,1988 N.Engl.J.Med.319,990-998)から区別できる3フィンガーポリペプチドを作り出した。培養において形質転換された細胞をモデルとして用いて、染色体DNAにおける標的癌細胞への結合が可能であって、それにより転写の阻止がもたらされることが示される。その結果、癌遺伝子の働きによって成長因子から独立した状態になったマウス細胞(Daley et al.,1988 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85,9312-9316)が、設計された亜鉛フィンガーポリペプチドを発現するベクターによる一過性のトランスフェクションにおいて因子依存性の状態に戻ることが見出される。
【0083】
特異的DNA配列を認識するよう設計されたDNA結合タンパク質は、広い範囲の応用のために、キメラ転写因子、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ等に組入れることができるであろう。本発明者らは、亜鉛フィンガーのミニドメインが、緊密に関連したDNAトリプレット間で区別を行ない得ることを示しており、より長いDNA配列の特異的な認識のためのドメインを形成すべくそれらをともに結合することができるということを提案している。そのようなタンパク質ドメインの使用について、1つの興味深い可能性は、病原体または形質転換された細胞内で、選択的に遺伝子の差異を標的とすることである。ここでは、1つのそのような応用を説明する。
【0084】
相互の染色体の転座t(9;22)(q34;q11)が、切りつめられた染色体22と、c−ABLプロトオンコジーンからの配列の融合物をブレークポイントにおいてコードするフィラデルフィア染色体(Ph1)5(Bartram et al.,1983 Nature 306,277-280)と、BCR遺伝子(Groffen et al.,1984 Cell 36,93-99)とをもたらす、一連のヒト白血病が存在する。慢性の骨髄性白血病(CML)では、ブレークポイントは通常、c−ABL遺伝子の第1のイントロンおよびBCR遺伝子のブレークポイントクラスタ領域において生じるものであり(Shtivelman et al.,1985 Nature 315,550-554)、かつp210BCR-ABL遺伝子産物を生じさせるものである(Konopka et al.,1984 Cell 37,1035-1042)。代わりに、急性リンパ芽球白血病(ALL)では、ブレークポイントは通常BCRおよびc−ABLの双方における第1イントロンで生じ(Hermans et al.,1987 Cell 51,33-40)、p190BCR-ABL遺伝子産物をもたらす(図6)(Kurzrock et al.,1987 Nature 325,631-635)。
【0085】
図6は、p190cDNAにおけるBCRおよびABL配列間の融合点、およびBCRおよびc−ABL遺伝子内の対応するエキソンの境界のヌクレオチド配列(SeqID No.9−11)を示す。エキソン配列は大文字で書かれ、一方イントロンは小文字で示されている。1行目はp190BCR-ABLcDNAを示し、2行目はエキソン1とイントロン1の接合点におけるBCRゲノム配列を示し、3行目はイントロン1とエキソン2の接合点におけるABLゲノム配列を示す(Hermans et al 1987)。標的として用いられるp190BCR-ABLcDNAの9bp配列は下線を付けられており、ゲノムBCRおよびc−ABLにおける相同配列も同様である。
これらの再配列された遺伝子の複製物は、細胞培養物(Daley et al.,1988)およびトランスジェニックマウス(Heisterkamp et al.,1990 Nature 344,251-253)において優勢な形質転換癌遺伝子として作用する。それらのゲノム相当物と同様に、これらのcDNAはBCRおよびc−ABL遺伝子の融合点において独自のヌクレオチド配列を保持しており、これは部位特異的DNA結合タンパク質によりDNAレベルで認識され得る。本発明者らは、p190BCR-ABLc−DNAにおける独自の融合部位を認識するようなタンパク質を設計している。この融合は明らかに、患者間で変動し得るものであると考えられる、自然発生的な遺伝子の転位におけるブレークポイントからは明らかに区別されるものである。そのようなペプチドの設計は癌研究について示唆をもたらすものではあるが、ここでの主な目的は、タンパク質設計の原理を証明し、入手可能なモデル系における染色体DNAへのインビボでの結合の実現可能性を評定することである。
【0086】
p190BCR-ABLcDNA(Hermans et al.,1987)における融合点に及ぶ、3亜鉛フィンガーペプチドのための9塩基対標的配列(GCA、GAA、GCC)が選択された。この結合部位を形成する3つのトリプレットは、各々例1で上述したように3ラウンドにわたって亜鉛フィンガーファージライブラリをスクリーニングするのに用いられた。次に、選択されたフィンガーが、それらによって好まれるトリプレットを明らかにするため、結合部位サインによって分析され、特異性を向上させるための突然変異が、GCAへの結合のために選択されたフィンガーに対してなされた。推定されるBCR−ABL結合3フィンガータンパク質のファージディスプレイミニライブラリは、適切な順序に結合された、6つの選択されたかまたは設計されたフィンガー(1A,1B;2A;3A,3Bおよび3C)の6つの可能な組合せを含むfdファージにおいてクローニングされた。これらのフィンガーは図7に示される(SeqID No.12−17)。図7では、二次的構造の領域がリストの下で下線を付けられており、一方で残基の位置は、αヘリックスの第1の位置(位置1)に対して上方に示されている。亜鉛フィンガーファージは、各々がトリプレットGCC、GAAまたはGCAの1つを含む3つのDNA結合部位を用いて、2.6×106変異体のライブラリから選択された。結合部位サイン(例2)は、フィンガー1Aおよび1BがトリプレットGCCを特定しており、フィンガー2AがGAAを特定しており、一方でトリプレットGCAを用いて選択されたフィンガーはすべてGCTに結合することを好むことを示す。後者のもののうちにはフィンガー3Aがあり、その特異性は本発明者らの信じるところによると、認識の規則に基づき、点変位によって変化させることができよう。選択されたフィンガー3Aに基づくが、その中では螺旋位置+2におけるGlnがAlaに改変されているフィンガー3Bは、GCAについて特異的であるはずである。フィンガー3Cは、Cの認識がThr+3よりもむしろAsp+3によって仲介される、フィンガー3Aの代替的なバージョンである。
【0087】
ミニライブラリは、弱いバインダーおよびバックグラウンドのベクターファージに対して強い結合のクローンを選択するために、9塩基対BCR−ABL標的配列を含むオリゴヌクレオチドで、1回スクリーニングされた。ライブラリが小さかったため、本発明者らはゲノムBCRおよびc−ABL遺伝子の相同領域に対する競合DNA配列を含ませず、代わりに選択されたクローンをそれらの識別能力についてチェックした。選択されたクローンはすべてBCR−ABL標的配列を結合し、かつこれとゲノムBCR配列とを区別することができたが、ただ1つのサブセットしか、イントロン1とエキソン2の間の接合点でBCR−ABL標的配列に対して8/9塩基対の相同性を有するc−ABL配列(Hermans et al.,1987)を区別することができなかった。識別力を有するクローンの配列決定は、2つのタイプの選択されたペプチドを明らかにし、1つは組成1A−2A−3Bを備えるものであり、他方は1B−2A−3Bを備えるものであった。したがって双方のペプチドが、トリプレットGCAに対して特異的に設計された第3のフィンガー(3B)を保持するが、ペプチド1A−2A−3Bはペプチド1B−2A−3Bよりも高い親和性でBCR−ABL標的配列に結合することが可能であった。
【0088】
ペプチド1A−2A−3Bは、これ以降では抗BCR−ABLペプチドと称するが、これをさらなる実験において用いた。抗BCR−ABLペプチドは、インビトロでp190BCR-ABLcDNA配列に対して6.2+/−0.4×10-7Mの見かけの平衡解離定数(Kd)を有しており、1桁よりも大きいファクタによりゲノムBCRおよびc−ABLのDNAに見られる類似の配列を識別する(図8)。図8を参照して(これは抗BCR−ABLペプチドの結合について、そのp190BCR-ABL標的部位ならびにゲノムBCRおよびc−ABLの類似領域に対する識別力を示すものであるが)、このグラフはさまざまな[DNA]での結合(A450-650として測定)を示している。酵素免疫検定法による結合反応および複合体の検出が前述したように行なわれ、Kdの計算に全曲線解析が用いられた(Choo & Klug 1993)。使用されたDNAは、cDNAの融合点またはエキソン境界のいずれの側にも9bpが及ぶオリゴヌクレオチドであった。抗BCR−ABLペプチドは、Kd=6.2+/−0.4×10-7Mでその意図する標的部位に結合し、かつゲノムBCRおよびc−ABL配列を識別することができるが、後者のものは結合された9bp領域内でただ1つの塩基対だけしか異なっていない。測定された解離定数は、Spl(Kadonga et al.,1987 Cell 51,1079-1090)またはZif268(Chrlsty et al.,1988)などの天然に存在するタンパク質からの3フィンガーペプチドのものよりも高い。これら天然のものの有するKdsは、10-9Mの範囲内にあるが、むしろtramtrack(ttk)タンパク質からの2つのフィンガーのものに匹敵している(Fairall et al.,1992)。しかしながら、抗BCR−ABLペプチドの親和性は、もし所望するならば、指定部位突然変異またはファージディスプレイライブラリの「アフィニティ・マチュレーション」によって、精製され得るであろう(Hawkins et al.,1992 J.Mol.Biol.226,889-896)。
【0089】
DNAの識別力をインビトロで確立した上で、本発明者らは、抗BCR−ABLペプチドがインビボにおいて部位特異的にDNA結合できるかどうかをテストしたかった。このペプチドを単純ヘルペスウイルス(Field 1993 Methods 5,116-124)からのVP16活性化ドメインに融合し、一過性のトランスフェクション検定に用いて(図9)、TATAボックス(Gorman et al.,Mol.Cell.Biol.2,1044-1051)の上流の結合部位からのCAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)リポーター遺伝子の生成をもたらした。詳細には、この実験は以下のように行なわれた。リポータープラスミドpMCAT6BA、pMCAT6A、およびpMCAT6Bが、p190BCR-ABL標的部位(CGCAGAAGCC)、c−ABLの第2のエキソン−イントロン接合配列(TCCAGAAGCC)またはBCRの第1のエキソン−イントロン接合配列(CGCAGGTGAG)のそれぞれの6複製物を、pMCAT3(Luscher et al.,1989 Genes Dev.3.1507-1517)中に挿入することにより構成された。抗BCR−ABL/VP16発現ベクターは、単純ヘルペスウイルスVP16(Fields 1993)の活性化ドメインとpEF−BOSベクター(Mizushima & Shigezaku 1990 Nucl.Acids Res.18,5322)におけるZnフィンガーペプチドとの間にイン・フレーム融合体を挿入することにより生成された。C3H10T1/2細胞が、リポータープラスミド10μgおよび発現ベクター10μgで、一過性に同時トランスフェクションされた。ルシフェラーゼに結合されたラウス肉腫ウイルスLTR(長末端反復)を含むRSVL(de Wet et al.,1987 Mol.Cell Biol.7,725-737)が、トランスフェクション効率における差異を正規化するための内部コントロールとして用いられた。細胞はリン酸カルシウム沈降法によりトランスフェクションされ、CAT検定が記述のとおり行なわれた(Sanchez-Garcia at al.,1993 EMBO J.12,4243-4250)。5つの共通17−merのGAL4結合部位をアデノウイルスE1b TATAボックスの最小限のプロモータから上流のところに有するプラスミドpGSEC、およびGAL4のDNA結合ドメインと単純ヘルペスウイルスVP16の活性化ドメインとの間のインフレーム融合物をコードするpM1VP16ベクターが、正のコントロールとして用いられた(Sadowski et al.,1992 Gene 118,137-141)。その結果を、図9に示す。
【0090】
図9について述べると、C3H10T1/2細胞が、CATリポータープラスミドおよび抗BCR−ABL/VP16発現ベクター(pZN1A)で一過性に同時トランスフェクションされた。図の一番上のパネルは、異なるトランスフェクションからのサンプルの薄層クロマトグラフィーの結果を示しており、ここではリポーターが単独でトランスフェクトされた場合のサンプル(パネル1)に対するCAT活性の誘導倍数が、下方の柱状グラフにプロットされている。
インビボでの結合を示す、BCRまたはc−ABLの半相同配列のいずれかの複製物を保有するリポータープラスミドで同時トランスフェクションされた細胞においてはほとんど増加が検出できないのに比べて、p190BCR-ABLcDNA標的部位の複製物を保有するリポータープラスミドで同時トランスフェクションされた細胞ではCAT活性について特定の(30倍の)増加が見られ、インビボでの結合を示した。異なるトランスフェクションにおいて用いられる特定の構造物を、柱状グラフの下に記載する。
【0091】
転写の選択的な刺激は、高度に部位特異的なDNA結合が、インビボにおいて起こり得ることを説得力を持って示している。しかしながら、一過性のトランスフェクションは結合プラスミドDNAを分析するが、一方、これと他のDNA結合タンパク質のほとんどに対する真の標的部位は、ゲノムDNAである。これは重要な問題を提示することとなるかもしれない。なぜなら、ゲノムDNAが核膜によって細胞質ゾルから物理的に分離されているだけではなく、これが染色質内にパッケージされ得るからである。
ゲノムを標的とすることが可能であるかどうかを研究するため、抗BCR−ABLペプチドのN末端側面にSV40ウイルスの大型T抗原からの核位置測定シグナル(Kalderon et al.,1984 Cell 499-509)を付けかつC末端側面に9E10抗体によって認識可能な11アミノ酸c−mycエピトープ標識(Evan et al.,1985 Mol.Cell.Biol.5,3610-3616)を付けた構造物を調製した。この構造物は、IL−3−依存マウス細胞系Ba/F3(Palacious & Steinmets 1985 Cell 41 727-734)、または代替的にはp190BCR-ABLまたはp210BCR-ABLのいずれかをそれぞれ発現する統合されたプラスミド構造物によって予めIL−3依存性にされたBa/F3+p190およびBa/F3+p210細胞系を一過性にトランスフェクションするのに用いられた。9E10抗体とそれに続く二次的な蛍光共役体での細胞の染色により、抗BCR−ABLペプチドでトランスフェクションされたそれらの細胞において効率的な核の位置測定が示された。
【0092】
実験の詳細は以下のとおりである。抗BCR−ABL発現ベクターをpEF−BOSベクター(Mizushima & Shigezaku 1990)において生成させた。これは、カルボキシル末端において、9E10抗体(Evan et al.,1985)により認識可能な11アミノ酸c−mycエピトープ標識(EQKLISEEDLN)を含ませ、かつアミノ酸末端において、SV40ウイルスの大型T抗原の核位置測定シグナルPKKKRKV(Kalderon et al.,1984)を含ませるものである。3つのグリシン残基が、核位置測定シグナルの下流にスペーサとして導入され、折り畳まれた分子からの核のリーダーが確実に露出されるようにした。Ba/F3細胞が記述のとおり9E10c−mycエピトープで標識付けされる抗BCR−ABL発現構造物25μgでトランスフェクションされ(Sanchez-Garcia & Rabbitts 1994 Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.in press)、48時間後にタンパク質の生成が次のようにして蛍光抗体標識によって分析された。細胞は15分間、4%(w/v)のパラホルムアルデヒド中で固定され、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄され、2分間メタノール中で浸透可能の状態にされた。30分間、PBS中10%のウシ胎児血清においてブロックを行なった後、マウスの9E10抗体が加えられた。室温で30分間のインキュベーションの後、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)共役ヤギ抗マウスIgG(SIGMA)が加えられ、さらに30分間インキュベートが行なわれた。蛍光細胞が共焦点走査顕微鏡(倍率200×)を用いて目に見えるようにされた。その結果を図10に示す。
【0093】
図10では(Ba/F3+p190およびBa/F3+p210細胞が抗BCR−ABL発現ベクターで一過性にトランスフェクションされ、9E10抗体で染色されている免疫蛍光法)、影像は抗BCR−ABLペプチドの発現および核位置測定を示す(パネルB、C、およびD)。加えて、トランスフェクションされたBa/F3+p190細胞は、染色質の凝集と、核のアポトーシス小体へのフラグメント化(パネルBおよびC)を示すが、一方、トランスフェクションされていないBa/F3+p190細胞(パネルA)またはトランスフェクションされたBa/F3+p210細胞(パネルD)のいずれもそうではない。
個体群のうちの蛍光抗体細胞の割合として測定された一過性トランスフェクションの効率は、15−20%であった。IL−3の組織培養における使用をやめると、相当する割合のBa/F3+p190細胞は、因子依存性に戻って死滅し、一方Ba/F3+p210細胞は影響を受けない。実験の詳細は次のとおりであった。細胞系Ba/F3、Ba/F3+p190およびBa/F3+p210が、10%のウシ胎児血清を補充したダルベッコ修正イーグル培地(DMEM)に維持された。Ba/F3細胞系の場合、10%のWEHI−3B調整培地が、IL−3の供給源として含まれていた。抗BCR−ABL発現ベクターでのトランスフェクションの後、細胞(5×105/ml)は血清のない培地で2回洗浄され、WEHI−3B調整培地なしで10%ウシ胎児血清のDMEM培地内において培養された。生存率が、トリバンブルー排除によって決定された。データは、3連の培養物の平均値として表されている。その結果を、図11にグラフ形式で示す。
【0094】
IL−3の不在下におけるトランスフェクションされたBa/F3+p190細胞の疫学蛍光顕微鏡検査により、染色質の凝集および核のアポトーシス小体へのフラグメント化が示される一方で、Ba/F3+p210細胞の核は無傷のままである(図10)。抗BCR−ABLペプチドで一過性にトランスフェクションされたBa/F3+p190細胞からの全細胞質RNAのノーザンブロットにより、トランスフェクションされていない細胞に対してp190BCR-ABLmRNAのレベルが低下していることが明らかとなった。対照的に、同様にトランスフェクションされたBa/F3+p210細胞ではp210BCR-ABLmRNAのレベルにおいて減少が見られなかった(図12)。ブロットは次のようにして行なわれた。指定された細胞からの、全細胞質RNA10μgが、グリオキシル化され、pH7.0の10mM NaPO4緩衝液中1.4%アガロースゲルにおいて分画された。電気泳動の後、ゲルはハイボンド(Hybond)−N(Amersham)上にブロットされ、UV架橋され、32P標識c−ABLプローブに対してハイブリッド形成された。オートラジオグラフィが、14時間、−70℃で行なわれた。ローディングは、フィルタをマウスβ−アクチンcDNAで再プローブすることによってモニタされた。
【0095】
図12(抗BCR−ABL発現ベクターでトランスフェクションされたBa/F3+p190およびBa/F3+p210細胞系のノーザンフィルターハイブリッド形成分析)について述べると、レーン1はトランスフェクションされていないBa/F3+p190細胞系からのものであり、レーン2および3は抗BCR−ABL発現ベクターでトランスフェクションされたBa/F3+p190細胞系からのものであり、レーン4はトランスフェクションされていないBa/F3+p210細胞系からのものであり、レーン5および6は抗BCR−ABL発現ベクターでトランスフェクションされたBa/F3+p210細胞系からのものである。抗BCR−ABL発現ベクターでトランスフェクションされた場合、Ba/F3+p190細胞ではp190BCR-ABLmRNAの特異的ダウンレギュレーションが見られる一方、p210BCR-ABLの発現は、Ba/F3+p210細胞において影響を受けない。
【0096】
まとめると、本発明者らはインビトロで特異的DNA配列を認識すべく設計されたDNA結合タンパク質が、インビボで活性であり、付与された位置決定シグナルによって核に導かれ、染色体DNAにおける標的配列に結合し得ることを明らかにしてきた。これは、そうでなければ活発に転写されるDNA上に見出され、おそらくペプチドの結合がポリメラーゼの経路をブロックし、失速または中断を引き起こしている。この場合、特異的ポリペプチドを標的の遺伝子内配列に対して用いることは、選択された遺伝子の発現を阻害するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはリボザイムに基づくアプローチを思い起こさせる(Stein & Cheng 1993 Science 261,1004-1013)。アンチセンスオリゴヌクレオチドと同様に、亜鉛フィンガーDNA結合タンパク質を、遺伝子内の調節配列だけでなく、染色体転座または点変異によって改変された遺伝子に対してもあつらえることができる。また、ホモプリン−ホモピリミジンプロモータ内での三重螺旋形成により転写を抑えるべく設計され得るオリゴヌクレオチド(Cooney et al.,1988 Science 245,725-730)と同様に、DNA結合タンパク質は、遺伝子の外のさまざまな独自の領域に結合できるが、しかし対照的に、DNA結合タンパク質は、活性化ドメイン(Seipel et al,.1992 EMBO J.11,4961-4968)または抑制ドメイン(Herschbach et al.,1994 Nature 370,309-311)に融合されたときに転写開始のアップレギュレーションまたはダウンメギュレーションの双方によって遺伝子の発現を支配することができる。いずれの場合でも、任意のDNA上に直接働きかけ、さまざまなタンパク質エフェクターへの融合を可能にすることによって、あつらえられた部位特異的DNA結合タンパク質は、医学および研究において、遺伝子発現を制御し、現実に遺伝子材料そのものを操作する能力を有するようになる。
【0097】
例4 ここまでの例で説明されたファージディスプレイ亜鉛フィンガーライブラリは、次のいくつかの態様において、最適状態には至っていないものであると考えられる。
i) ライブラリが、理論上での最大サイズよりもずっと小さかった。
ii) 外側のフィンガーが双方ともGCGトリプレットを認識した(いくつかの場合では、3つの亜鉛フィンガーに対するほぼ対称的な結合部位を作り出し、それらは、ペプチドをDNAの「ボトム」鎖に結合できるようにし、そのため本発明者らがセットしたいと思った相互作用の記録を回避する。)。
iii) フィンガー3のAsp+2(「Asp++2」)は、中央トリプレットの5′塩基とフィンガー2(位置+6)との相互作用よりも優勢であった。
iv) すべてのアミノ酸が、無作為化された位置に提示されたわけではなかった。
これらの問題点を克服するため、次のような新しい3フィンガーライブラリが作り出された。
a) 中央フィンガーは4つの位置(−1、+2、+3および+6)のみにおいて完全に無作為化され、ライブラリのサイズがより小さく、すべてのコドンが表わされるようにする。ライブラリはPharmacia によるpCANTAB5Eファージミドベクターにおいてクローニングした。このベクターは、ファージよりも形質転換頻度を高くすることができるものである。
b) 第1および第3のフィンガーは、それぞれトリプレットGACおよびGCAを認識し、高度に非対称な結合部位を達成する。フィンガー3による、後者のトリプレットでの3′Aの認識は、Gln−1/Ala+2によって仲介される。ここて重要なのは、短いAla+2は、DNA(特に中央トリプレットの5′塩基)への接触をなすべきではなく、これによって上述の(iii)で留意した問題点が回避される。
【0098】
〔例5〕
ヒトのras遺伝子は、それを癌遺伝子に変換することができるいくつかの異なった突然変異を受けやすい。ras癌遺伝子は多数のヒトの癌に見出される。
1つの特定的な突然変異は、G12V突然変異(すなわち変異体遺伝子によってコードされるポリペプチドが、グリシンからバリンへの置換を含んでいる)として知られる。ras癌遺伝子はヒトの癌では非常にありふれたものなので、効果的な治療法にとって極めて重要な標的である。
rasのG12V変異体を認識できる3フィンガータンパク質が設計されてきた。タンパク質は知られた特異性の規則に基づき合理的な設計を用いて生成された。略述すると、(GCCを結合するべく選択されたフィンガーの1つからの)
亜鉛フィンガーフレームワークが、位置+3で点変異によって修飾され、2つの付加的な異なるトリプレットを認識するフィンガーをもたらした。GCCを認識するフィンガーおよびその2つの誘導体は、pCANTAB5Eにおいてクローニングされ、ファージの表面上で発現された。
【0099】
元来、G12V結合ペプチド「r−BP」は、関連するタンパク質の小さなライブラリから選択されるべきものであった。ライブラリが用いられるべきだった理由は、アミノ酸:塩基接触のうち8/9が何であるべきかが明らかであった一方、GCCトリプレットの中央のCが、+3Aspによって認識されるべきなのか、Gluによって認識されるべきなのか、Serによって認識されるべきなのか、Thrによって認識されるべきなのかがはっきりしなかったからである(上述の表2を参照)。したがって3フィンガーペプチド遺伝子は、標準的な手順に従いアニールされ連結された8つのオーバーラップする合成オリゴヌクレオチドおよび2%のアガロースゲルから精製された〜300bpの生成物から組立てられた。フィンガー1のための遺伝子は、位置+3において部分的なコドンの無作為化を含み、これにより上述のアミノ酸(D、E、SおよびT)の各々、また実際には望ましいという予測はされていなかった、ある種の他の残基(たとえばAsn)が含まれ得るようになる。合成オリゴヌクレオチドは、アニールされるときにSfiIおよびNotIのオーバーハングを有するように設計された。〜300bpのフラグメントは、SfiI/NotI切断FdSNベクターに連結し、連結混合物は電気穿孔法によりDH5α細胞に導入した。ファージがこれらから、前述したように生成され、選択ステップが、G12V配列を用いて(やはり既述のように)実行され、挿入なしのファージおよび結合が十分でないライブラリのファージが排除された。
【0100】
選択に続き、いくつかの分かれたクローンが分離され、これらから生成されたファージは、G12Vras配列への結合および野性型ras配列との区別について、ELISAによりスクリーニングされた。いくつかのクローンにこれを行なうことができ、ファージDNAの配列決定により、後にこれらが2つの範疇に分類されることが明らかとなった。1つは+3の無作為化された位置においてアミノ酸Asnを有するものであり、もう1つは2つの他の望ましくない突然変異を有するものであった。
位置+3におけるAsnの出現は予期されないものであり、最も可能性のある原因は、位置+3においてシトシン特異的残基を備えるタンパク質がいくつかの大腸菌DNA配列に致命的なほど緊密に結合するということであろう。したがって、ファージディスプレイ選択は、必ずしも常に最もしっかりした結合クローンの生成を保証するとは限らない。というのも、細菌を通過することは、この技術には不可欠であり、選択されるタンパク質は、結合が有害なものであれば、宿主のゲノムに結合しないものとなり得るからである。
【0101】
dの測定により、Asn+3を備えるクローンはしかしながらnM範囲内のKdで変異体G12V配列に結合し、かつ野性型ras配列を区別することが示された。しかしながら、本発明者らが作り出したいと願ったポリペプチドは最適な結合のためシトシンを特定すべきであるのに、Asn+3は中央位置でアデニン残基を特定するはずであることが予測された。
したがって本発明者らは、再度合成オリゴ体を用いるため、(図15に示すように)フィンガー1の位置+3でSerを有する3フィンガーペプチドを組立てた。今回、遺伝子はpCANTAB5Eファージミドに連結された。形質転換細胞は(ストラタジーン(Stratagene)から)大腸菌ABLE−C株において分離され、30℃で増殖させられた。これらの条件下においてこの株は、プラスミド複製物の数を低減し、細胞内においてそれらの毒性産物がふえないようにする。
【0102】
フィンガーのアミノ酸配列(SeqID No.18)が図15に示される。
数字はαヘリックスのアミノ酸残基についてのものである。フィンガー(F1、F2およびF3)は次のG12V変異体ヌクレオチド配列に結合する。

太字のAは、G12V配列がこれによって野性型配列とは異なったものとなる、単一点変異を示す。
【0103】
真核生物におけるタンパク質の検定(たとえばCATレポータ産物を駆使するもの)は、弱いプロモータの使用を必要とする。抗RAS(G12V)タンパク質の発現が強い場合、ペプチドはおそらく(必要とされる)野性型ras対立遺伝子に結合し、細胞の死をもたらす。この理由により、調節可能なプロモータ(たとえばテトラサイクリンに対して)が、治療的な応用ではタンパク質のデリバリーを行なうのに用いられ、これによってタンパク質の細胞内濃度がG12V点変異遺伝子についてのKdを上回る一方、野性型対立遺伝子についてのKdを上回らないようにする。G12Vの突然変異は、(p190bcr−ablのようにcDNA突然変異だけでなく)自然に起こるゲノム突然変異であるため、ヒト細胞系および他の動物モデルを、研究で用いることができる。
遺伝子の発現を抑えることに加えて、本発明のタンパク質は、ゲノムDNA内またはより有望にはPCR増幅されたゲノムDNA内に存在する正確な点変異を、配列決定を行なうことなく診断するのに用いることができる。したがって、さらなる工夫を伴うことなく、DNA上の変異(たとえば点変異)を検出するための診断キットを設計することができるはずである。ELISAに基づく方法が、特に適切なものであると判明するはずである。
【0104】
ヒトのトランスフェリン受容体に結合するscFvフラグメントに亜鉛フィンガー結合ポリペプチドを融合させることが望まれる。これにより、ヒト細胞へのデリバリーと、ヒト細胞による取込みとが向上するはずである。トランスフェリン受容体は、特に有用であると考えられるが、理論上では、ヒト標的細胞の表面上に発現されるいかなる受容体分子(好ましくは高い親和性のもの)でも、適切なリガンド、特異的イムノグロブリンもしくはフラグメントのための、または亜鉛フィンガーポリペプチドに融合または結合される受容体の天然のリガンドのための適切なリガンドとして作用し得るであろう。
【図面の簡単な説明】
【0105】
ここで本発明について例および添付の図面を参照してさらに説明することにする。
【図1】図において、図1は、ファージコートタンパク質に融合される亜鉛フィンガー結合モチーフを提示するファージ粒子のアフィニティ精製を示す模式図である。
【図2】図2はファージディスプレイライブラリにおいて使用される3つのアミノ酸配列を示す図である。
【図3】図3はファージディスプレイ粒子のアフィニティ精製において使用される3つのオリゴヌクレオチドのDNA配列を示す図である。
【図4】図4はさまざまな亜鉛フィンガー結合モチーフについて決定された結合部位サインの「チェッカーボード」である。
【0106】
【図5−1】図5はさまざまな結合モチーフおよび標的DNAトリプレットについて、DNA(nM)の濃度に対する飽和分率を示す3つのグラフを示す。
【図5−2】図5はさまざまな結合モチーフおよび標的DNAトリプレットについて、DNA(nM)の濃度に対する飽和分率を示す3つのグラフを示す。
【図5−3】図5はさまざまな結合モチーフおよび標的DNAトリプレットについて、DNA(nM)の濃度に対する飽和分率を示す3つのグラフを示す。
【図6】図6はp190cDNAにおけるBCR配列とABL配列との間の融合体のヌクレオチド配列とBCRおよびABL遺伝子における対応するエキソン境界を示す図である。
【図7】図7はBCR/ABL融合体に対する結合についてのテスト用に設計されたさまざまな亜鉛フィンガー結合モチーフのアミノ酸配列を示す図である。
【図8】図8はペプチド結合(A450-460nmにより測定される)と標的または対照DNA配列のDNA濃度(μM)との関係を示すグラフである。
【図9】図9は上のパネルにおいてはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)検定の薄層クロマトグラフィ分析の結果を示し、かつその結果を下のパネルでは棒グラフで示す。
【図10】図10はさまざまなトランスフェクションされた細胞(パネルA−D)の蛍光抗体分析の写真を示す。
【図11】図11はさまざまなトランスフェクションされた細胞について時間に対する生存度をパーセンテージで示すグラフである。
【図12】図12はABL特異的およびアクチン特異的プローブを使用したさまざまなトランスフェクションされた細胞系のノーザンブロット分析を示す図である。
【図13】図13および図14は亜鉛フィンガー結合ポリペプチドを設計するさまざまな方法を模式的に示す図である。
【図14】図13および図14は亜鉛フィンガー結合ポリペプチドを設計するさまざまな方法を模式的に示す図である。
【図15】図15は特定のDNA配列(ras癌遺伝子)に結合するよう設計されたポリペプチドにおける亜鉛フィンガーのアミノ酸配列を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のDNA配列のライブラリであって、その各配列がウイルス粒子上での提示のための少なくとも1つの亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし、該配列は、位置−1、+2、+3、+6ならびに位置+1、+5および+8のうち少なくとも1つにおいてアミノ酸がランダムに割当てられた亜鉛フィンガー結合モチーフをコードする、DNA配列のライブラリ。
【請求項2】
複数のDNA配列のライブラリであって、その各配列がウイルス粒子上での提示のための亜鉛フィンガー結合ポリペプチドの少なくとも中央フィンガーにおける亜鉛フィンガー結合モチーフをコードし、該配列は、位置−1、+2、+3および+6においてアミノ酸がランダムに割当てられた結合モチーフをコードする、DNA配列のライブラリ。
【請求項3】
該結合モチーフをコードする配列は、位置+1、+5および+8のうちの1つまたはそれ以上においてさらにアミノ酸がランダムに割当てられている、請求項2に記載の配列のライブラリ。
【請求項4】
該結合モチーフをコードする配列は、位置+1、+5および+8においてアミノ酸がランダムに割当てられている、請求項1、2または3のいずれかに記載の配列のライブラリ。
【請求項5】
コードされた該配列は、複数の亜鉛フィンガーを含み、隣接するフィンガーが介在するリンカーペプチドによって連結される、亜鉛フィンガーポリペプチドを備える、前述の請求項のいずれかに記載の配列のライブラリ。
【請求項6】
コードされた該配列は、Zif268ポリペプチドの亜鉛フィンガーを含む、前述の請求項のいずれかに記載の配列のライブラリ。
【請求項7】
コードされた該配列は、規定されたアミノ酸配列を有する2つまたはそれ以上の亜鉛フィンガー間に位置付けられ、アミノ酸がランダムに割当てられている亜鉛フィンガーを含む、前述の請求項のいずれかに記載の配列のライブラリ。
【請求項8】
バクテリオファージfdの小コートタンパク質との融合物としてクローニングするのに適する形である、前述の請求項のいずれかに記載の配列のライブラリ。
【請求項9】
特定の標的DNA配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを設計する方法であって、標的DNA配列の少なくとも有効な部分に対して複数の亜鉛フィンガー結合モチーフの各々をスクリーニングするステップと、標的DNA配列に結合するモチーフを選択するステップとを含む、方法。
【請求項10】
2ラウンドまたはそれ以上のスクリーニングが行なわれる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
特定の標的DNA配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを設計する方法であって、複数の亜鉛フィンガー結合モチーフの各々の1つまたはそれ以上のDNAトリプレットに対する結合を比較するステップと、好ましい結合特性の見られるモチーフを選択するステップとを含む、方法。
【請求項12】
請求項9または10に記載のスクリーニングステップをさらに最初に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
標的DNA配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを設計する方法であって、複数の亜鉛フィンガー結合モチーフを単一の亜鉛フィンガーポリペプチド内で組合せるステップを含み、モチーフの各々は請求項9または10に記載の方法によってスクリーニングされており、かつ/または請求項11または12に記載の方法によって選択されている、方法。
【請求項14】
隣接する亜鉛フィンガー結合モチーフ間に介在するリンカーペプチドは、天然に存在する亜鉛フィンガー結合ポリペプチドにあるもの、または人工のペプチド配列か、または人工の非アミノ酸リンカーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれかに記載の方法に従い設計される、標的DNA配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項16】
64の配列からなるDNAライブラリであって、各配列は請求項11または12に記載の選択方法で用いるのに適した形態で3つのDNA塩基の64の可能な順列のうちどれか1つを含む、ライブラリ。
【請求項17】
配列は、分離手段に組合わされるか、または組合わせ得るものである、請求項16に記載のライブラリ。
【請求項18】
該分離手段は、ミクロタイタープレート、磁気もしくは非磁気ビーズまたは沈降分離可能な粒子、およびアフィニィティクロマトグラフィカラムの1つから選択される、請求項17に記載のライブラリ。
【請求項19】
該配列はビオチニル化されている、請求項16、17または18のいずれかに記載のライブラリ。
【請求項20】
該配列は12のミニライブラリ内に含まれる、請求項16から19のいずれかに記載のライブラリ。
【請求項21】
対象となる核酸配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを作るためのキットであって、ベクター中にクローニングするのに適した形態の、結合特性のわかった亜鉛フィンガー結合モチーフをコードするDNA配列のライブラリと、該ライブラリからの1つまたはそれ以上の配列を受入れるのに適したベクター分子と、使用のための説明書とを含む、キット。
【請求項22】
該ベクターは、単一の亜鉛フィンガーポリペプチドとしてクローニングされた配列の発現を導くことができる、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
該ベクターはウイルス粒子の表面上に提示される単一の亜鉛フィンガーポリペプチドとしてクローニングされた配列の発現を導くことができる、請求項21または22に記載のキット。
【請求項24】
対象となる核酸配列に結合するための亜鉛フィンガーポリペプチドを作るためのキットであって、請求項9または10に記載の方法に従うスクリーニング、および/または請求項11または12に記載の方法に従う選択を行なうのに適した形態の、亜鉛フィンガー結合モチーフを各々がコードするDNA配列のライブラリと、使用のための説明書とを含む、キット。
【請求項25】
DNA配列の該ライブラリは、請求項1から8のいずれかに記載のものである、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
請求項16から20のいずれかに従うライブラリをさらに含む、請求項24または25に記載のキット。
【請求項27】
適切な緩衝液および/または結合された亜鉛フィンガーモチーフを検出するための試薬をさらに含む、請求項24、25または26のいずれかに記載のキット。
【請求項28】
亜鉛フィンガー結合モチーフをコードするDNA配列のライブラリから選択される1つまたはそれ以上の配列を受入れるのに適したベクターをさらに含む、請求項24から27のいずれかに記載のキット。
【請求項29】
標的細胞内で対象となる遺伝子の発現を改変する方法であって、必要に応じて対象となる遺伝子の構造領域および/または調節領域のDNA配列の少なくとも部分を決定するステップと、決定された配列のDNAに結合するよう亜鉛フィンガーポリペプチドを設計するステップと、標的細胞内に前記亜鉛フィンガーポリペプチドが存在するようにするステップとを含む、方法。
【請求項30】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは、請求項9から14のいずれかに従い設計される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは、1つまたはそれ以上のさらなる機能的ドメインを含む、請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは、標的細胞の核へ該亜鉛フィンガーポリペプチドを送達するような核位置決定シグナルを含む、請求項29、30または31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは、SV40の大型T抗原からの核位置決定シグナルを含む、請求項29から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは、ポリペプチドの細胞内発現を導くDNAの細胞へのデリバリーによって、該標的細胞内に存在するようにされる、請求項29から33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
請求項29から34のいずれかに記載の方法に従い遺伝子の発現を改変することによって細胞分裂を阻害する方法であって、該遺伝子が細胞分裂を調節することにかかわるものである、細胞分裂を抑制する方法。
【請求項36】
癌細胞の分裂を可能にする遺伝子の発現を阻害する亜鉛フィンガーポリペプチドを、患者へ送達するかまたはそれが患者の中に存在するようにするステップを含む、癌を治療する方法。
【請求項37】
亜鉛フィンガーポリペプチドを結合することによって、サンプル混合物に存在する、対象となる核酸配列を修飾する方法であって、サンプル混合物を対象となる配列の少なくとも一部分に対して親和性を有する亜鉛フィンガーポリペプチドと接触させ、該亜鉛フィンガーポリペプチドが対象となる該配列に特異的に結合できるようにするステップを含む、方法。
【請求項38】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは、請求項9から14のいずれかに記載の方法に従い設計される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
サンプルの残部から該亜鉛フィンガーポリペプチド(およびそれに特異的に結合された核酸配列)を分離するステップをさらに含む、請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
該亜鉛フィンガーポリペプチドは固相支持体に結合される、請求項37、38または39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
対象となる該配列に結合される該亜鉛フィンガーポリペプチドの存在は、1つまたはそれ以上の検出試薬を加えることにより検出される、請求項37から40のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
対象となる該DNA配列は、アクリルアミドまたはアガロースゲルマトリックスに存在するか、または膜の表面に存在する、請求項37から41のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
疾病関連遺伝子の発現を阻害することのできる亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項44】
該ポリペプチドは、天然に存在するものではなく、かつ疾病関連遺伝子の発現を阻害するべく特異的に設計されている、請求項43に記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項45】
請求項9から14のいずれかに記載の方法によって設計される、請求項43または44に記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項46】
癌細胞の発現を阻害することかできる、請求項43、44、または45のいずれかに記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項47】
BCR−ABL融合癌遺伝子の発現を阻害することができる、請求項43から46のいずれかに記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項48】
DNA配列GCAGAAGCCに結合するよう設計された、請求項43から47のいずれかに記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項49】
ras癌遺伝子の発現を阻害することができる、請求項43から46のいずれかに記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。
【請求項50】
DNA配列GACGGCGCCに結合するよう設計された、請求項49に記載の亜鉛フィンガーポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−119007(P2008−119007A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−332964(P2007−332964)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【分割の表示】特願平8−507857の分割
【原出願日】平成7年8月17日(1995.8.17)
【出願人】(507421522)ゲンダック・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】