説明

EBG構造体及びノイズフィルタ

【課題】広い周波数帯域に亘って良好な阻止特性を有し且つサイズの小さいEBG構造体及びそれを利用したノイズフィルタを提供すること。
【解決手段】誘電体基板10の上面に磁性体層40を介在させるようにして第1導電体層20を形成し、誘電体基板10の下面には一様パターンの第2導電体層30を形成する。第1導電体層20は、一対のパッチ21及びブランチ22をx方向に連結してなるような単位形状を更にx方向に周期的に配置してなるようなパターンを有しており、誘電体基板10及び第2導電体層30と共にEBG構造体を構成する。磁性体層40は、このEBG構造体のフィルタ特性を広帯域化し且つEBG構造体の小型化を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EBG(Electromagnetic Band Gap)構造体及びそれを利用したノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
EBG構造体とは、所定単位形状を周期的に連結することにより、例えば単位セルの大きさが対象としている電磁波の波長オーダー、あるいは、それから1桁程度小さい場合に、特定の周波数帯域における電磁波の伝播を抑制し得るといった機能を呈するものである。
【0003】
このEBG構造体としては、従来、ビアを有する所謂マッシュルーム状導体を備えるものや(例えば、特許文献1参照)、ビアを用いずに構成して製造コストを低減したもの(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,538,621号公報
【特許文献2】米国特許公開第2006/0050010A1号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ノイズフィルタ用途を念頭においた場合、阻止可能な帯域をできるだけ広くとりたいという一般的要求がある。加えて、実用化に向け、EBG構造体のサイズを小さくしたいという要求もある。
【0006】
そこで、本発明は、広い周波数帯域に亘って良好な阻止特性を有し且つサイズの小さいEBG構造体及びそれを利用したノイズフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、種々の実験の結果、磁性体層、即ち、高比透磁率層をEBG構造体の導体部の少なくとも一部に設けると、阻止特性が低周波数側にも高周波数側にも広がることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものであり、具体的には、以下のような構成を備えるものである。
【0008】
即ち、本発明は、第1及び第2の主面を有する誘電体基板と、該誘電体基板の前記第1の主面上に形成された一対の大きい正方形及び小さい正方形を所定方向において連結してなるような単位形状を更に前記所定方向において周期的に連結してなるような所定パターンを有する第1導電体層と、前記第1導電体層と前記誘電体基板を挟むようにして前記第2の主面上に形成された一様パターンの第2導電体層とを備えたEBG構造体において、前記第1及び前記第2導電体層の少なくとも一方に対して磁性体層を付与してなる、EBG構造体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
一般に、EBG構造体は、サイズを小さくすると、阻止特性が高周波数側にシフトしていくという性質を有する。従って、同一サイズのEBG構造体に関して阻止特性を低いほうへシフトさせることができれば、それを利用して、特定の周波数帯域に阻止特性を有し且つ小型なEBG構造体を構成することができる。
【0010】
前述のように、本発明によれば、EBG構造体を構成する導電体に磁性体層を付与することにより、あるサイズのEBG構造体に関し阻止特性を低周波数側に広げることができる。従って、これを利用してEBG構造の小型化を図ることができる。加えて、磁性体層を設けたことにより、阻止特性が高周波数側にも広がっていることから、全体としては、阻止特性の広帯域化が図られている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態によるEBG構造を備えたノイズフィルタについて図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態によるノイズフィルタは、図1に示されるように、誘電体基板10と、磁性体層40を介在させるようにして誘電体基板10の上面側に形成された第1導電体層20と、誘電体基板10の下面に形成された第2導電体層30とを備えている。
【0013】
本実施の形態における誘電体基板10は、FR−4(耐熱性ガラス基材エポキシ樹脂積層板の一種)からなるものである。
【0014】
第1導電体層20は、図2に示されるように、一対の大きい正方形(以下、「パッチ」という)21及び小さい正方形(以下、「ブランチ」という)22をx方向において連結してなるような形状を単位形状とし、その単位形状をx方向に更に周期的に連結してなるようなパターンを有している。詳しくは、パッチ21とブランチ22は、単位形状内において、パッチ21の辺21aとブランチ22の辺22aとが同一直線上に存するように、並べられている。その結果、図2に示されるように、x方向に延びる帯に対して、周期的にy方向に延びるスリットが入っているような形状となっている。
【0015】
一方、第2導電体層30は、誘電体基板10の下面に一様に配された導体層からなるグランドプレーン電極である。
【0016】
このような第1導電体層20及び第2導電体層30で誘電体基板10を挟んでなる構造は、いわゆるEBG構造を構成するので、ポート25及びポート26を入力ポート及び出力ポートとして伝送線路として利用すると、特定の周波数帯域のみを阻止領域とするフィルタとして機能する。
【0017】
ここで、図1に示されるように、本実施の形態においては、誘電体基板10と第1導電体層20との間に、磁性体層40が形成されている。本実施の形態における磁性体層40は、磁性体粉末と樹脂バインダからなる複合磁性体シートであるが、例えば、フェライト膜などの磁性体膜であっても良い。また、磁性体層40の位置は、第1導電体層20の上面であっても良いし、また、第1導電体層20の上下両面に付与されていても良い。更には、第1導電体層20ではなく、第2導電体層30と誘電体基板10との間に磁性体層40を介在させることとしても良い。同様に、第2導電体層30の下面又は上下両面に付与することとしても良い。
【0018】
このように、第1導電体層20及び又は第2導電体層30の少なくとも一方に磁性体層40を付与することにより、阻止領域を周波数の低いほうにおいても高いほうにおいても広げることができ、全体としては阻止領域の広帯域化を達成することができる。これは、実験により発見できた特性変化であり、正確な原理については未だ検討の余地が残されているものの、概略、磁性体の実数部透磁率μ´が機能して阻止領域をより低周波数側に広げる一方で、高周波数側においては、虚数部透磁率μ″による損失が効いてくることにより、全体としては、上述のように広帯域化が図れているものと思われる。
【0019】
阻止特性を低周波数側に広げることができたということは、即ち、EBG構造のサイズをより小型化することが可能となったということである。従って、本実施の形態によれば、EBG構造を利用したノイズフィルタであって、広い阻止特性を有し且つサイズの小さいノイズフィルタを得ることができる。
【0020】
ここで、本実施の形態における誘電体基板10は、FR−4からなるものであったが、FR−4に代えて、例えば、HfSiO、HfO、Ta、ZrO,AlなどのHigh−K(高比誘電率)材料からなる誘電体膜を備えた基板を用いることとしても良い。第1導電体層20及び第2導電体層30間に介在させる誘電体の誘電率を高めると、阻止領域をより低周波数側にシフトさせることができる。従って、サイズの更なる小型化が可能となる。
【0021】
また、上述した第1の実施の形態においては、第2導電体層30をグランドプレーン電極としたが、構成を逆さまとして、電源プレーン電極としても良い。
【0022】
なお、上述した実施の形態によるEBG構造における第1導電体層20は、パッチ21及びブランチ22からなる単位形状をx方向のみに周期的に(即ち繰り返して)配置してなる形状を有するものであったが、図3に示されるように、y方向にも更なるブランチ22を介在させて周期的に配置し、2次元的な構造としても良い。即ち、L字の鏡像体状の開口51がx方向及びy方向に周期的に存在するように形成された導電体層を第1導電体層としても良い。
【0023】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態によるノイズフィルタは、第1導電体層20を図4に示されるように変更した(第1導電体層20´とした)点を除き、前述の第1の実施の形態と同様である。従って、以下においては、第1導電体層20´についてのみ説明を加えることとし、その他の構成については説明を省略する。
【0024】
本実施の形態による第1導電体層20´は、図4に示されるように、パッチ21´及びブランチ22´をx方向において連結してなるような形状に対して、2つのスリット23,24を加えた形状を単位形状とし、その単位形状をx方向に更に周期的に連結してなるようなパターンを有している。詳しくは、パッチ21´とブランチ22´は、単位形状内において、パッチ21´の辺21´aとブランチ22´の辺22´aとが同一直線上に存するように、並べられている。
【0025】
ここで、スリット23は、ブランチ22´の辺のうちの辺22´aに対向する辺22´bをパッチ21´の内側に延長するような形状を有している。本実施の形態におけるスリット23の長さLS1は、パッチ21´の一辺の半分である。このように、スリット23の長さLS1を長くするとブランチ22´のインダクタンス成分が増加するため、その結果として、阻止帯域が低周波数側にシフトする。従って、スリット23は、フィルタの小型化に寄与する。
【0026】
一方、本実施の形態におけるスリット24は、パッチ21´の辺のうち、ブランチ22´と接する辺21´c及び21´dに平行となるように形成されている。スリット24は、パッチ21´の辺21´aと対向する辺21´bからy方向に向かうように延びている。このように、本実施の形態においては、単位形状当たり、2つのスリット23及び24を形成することとしているが、例えば、スリット23だけを形成することとしても良い。
【0027】
なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態において図3を用いて例示したように、2次元的に単位形状が繰り返されてなるように第1導電体層20´を変形しても良い。即ち、第1導電体層20´においても単位形状の繰り返される方向を、図5に示されるように、x方向及びy方向の2方向することとしても良い。即ち、角ばったC字状の開口51´がx方向及びy方向に周期的に存在するように形成された導電体層を第1導電体層20´としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるノイズフィルタの構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示される第1導電体層を拡大して示した上面図である。
【図3】図1に示される第1導電体層の変形例を示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態によるノイズフィルタの第1導電体層を拡大して示した上面図である。
【図5】図4に示される第1導電体層の変形例を拡大して示す上面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 誘電体基板
20 第1導電体層
21,21´ 大きい正方形(パッチ)
22,22´ 小さい正方形(ブランチ)
23,24 スリット
30 第2導電体層
40 磁性体層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の主面を有する誘電体基板と、該誘電体基板の前記第1の主面上に形成された一対の大きい正方形及び小さい正方形を所定方向において連結してなるような単位形状を更に前記所定方向において周期的に連結してなるような所定パターンを有する第1導電体層と、前記第1導電体層と前記誘電体基板を挟むようにして前記第2の主面上に形成された一様パターンの第2導電体層とを備えたEBG(Electromagnetic Band Gap)構造体において、前記第1及び前記第2導電体層の少なくとも一方に対して磁性体層を付与してなる、EBG構造体。
【請求項2】
前記単位形状は、前記大きい正方形の一辺である第1辺と前記小さい正方形の一辺である第2辺が同一直線上に存するようにして、前記大きい正方形と前記小さい正方形とを連結してなるものである、請求項1記載のEBG構造体。
【請求項3】
前記大きい正方形にはスリットが形成されている、請求項2記載のEBG構造体。
【請求項4】
前記スリットは、前記小さい正方形の辺のうちの前記第2辺と対向する第3辺を、前記大きい正方形の内部に延長するものである、請求項3記載のEBG構造体。
【請求項5】
前記大きい正方形には、当該大きい正方形の辺のうち前記小さい正方形と接する辺に平行な付加的なスリットであって、前記大きい辺のうちの前記第1辺と対向する辺から前記第1辺に向かって延びる付加的なスリットが更に形成されている、請求項3又は請求項4のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項6】
前記第1導電体層は、前記所定方向に直交する方向において、前記所定パターンを更に周期的に連結してなる形状を有している、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項7】
前記磁性体層は、磁性体粉末と樹脂バインダとからなる複合磁性体層である、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項8】
前記第2導電体層は、電源プレーン電極又はグランドプレーン電極である、請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項9】
前記誘電体基板は、高比誘電率材料からなる、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のEBG構造体。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のEBG構造体を備えたノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−131509(P2008−131509A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316226(P2006−316226)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(506391749)
【出願人】(506391048)
【Fターム(参考)】