説明

ECF漂白パルプの製造方法

【課題】無機ペルオキシ酸を用いるECF漂白において、無機ペルオキシ酸のヘキセンウロン酸除去能力を向上させることにより、漂白パルプの褪色性が改善され、さらに二酸化塩素の使用量がより少ない漂白方法を提供する。
【解決手段】リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白処理し、次いで無機ペルオキシ酸を用いる処理段を含む多段漂白処理を行う方法において、無機ペルオキシ酸を用いる処理段に、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸、および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸、ならびにそれらの酸化物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を、絶乾パルプ当たり少なくとも0.01質量%添加することを特徴とするECF漂白パルプの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグノセルロース物質から漂白パルプを製造する方法に関する。さらに詳しく述べれば、漂白パルプの褪色性が改善され、かつ二酸化塩素の使用量の少ないECF漂白パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、製紙用パルプの漂白には塩素系漂白薬品が用いられてきた。しかし、塩素系漂白薬品は漂白時に環境に有害な有機塩素化合物を生成することから、分子状塩素を使用しない漂白方法に転換が進んでいる。分子状塩素を使用せずに漂白する方法をECF(エレメンタリークロリンフリー)漂白といい、現在、一般に多く使用されている。
【0003】
ECF漂白では二酸化塩素が漂白剤として用いられているが、二酸化塩素も塩素化合物であることや二酸化塩素の製造コストが高いことから二酸化塩素の使用量をより低減しようとする動きもある。
【0004】
二酸化塩素の使用量を低減する方法としては、二酸化塩素漂白の前に高温酸処理を行う方法(特許文献1参照)や二酸化塩素段を高温条件で行う方法(特許文献2参照)が知られている。しかし、これらの方法では大きな熱エネルギーが必要であり、またパルプ収率が小さくなる問題がある。
【0005】
また別の方法として、アルカリ抽出段に添加する過酸化水素量を増やす方法なども知られている。しかしながらアルカリ条件下での過酸化水素漂白ではパルプ中のヘキセンウロン酸を二酸化塩素漂白に比べて効率よく除去できないことから、漂白後のパルプにヘキセンウロン酸が多量に残留してしまい、熱褪色する問題が生じる恐れがある。
【0006】
そのような中で、モノ過硫酸などの無機ペルオキシ酸と二酸化塩素を併用することによって、二酸化塩素の使用量を抑制する方法も知られており、モノ過硫酸処理後に二酸化塩素処理を行うことによって、二酸化塩素の使用量を削減する方法も示されている(特許文献3、4参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平10−508346号公報
【特許文献2】特表2004−522008号公報
【特許文献3】特開2007−169831号公報
【特許文献4】特開2007−308824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、無機ペルオキシ酸を用いるECF漂白において、無機ペルオキシ酸のヘキセンウロン酸除去能力を向上させることにより、漂白パルプの褪色性が改善され、さらに二酸化塩素の使用量がより少ない漂白方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、蒸解、アルカリ酸素漂白後のパルプに無機ペルオキシ酸を用いる処理段を含む多段漂白処理を行う際に、無機ペルオキシ酸処理段にリグニンやリグニン由来の化合物およびそれらの酸化物を添加することによって、モノ過硫酸単独処理よりも漂白後のパルプ中のヘキセンウロン酸量が減少し、漂白パルプの褪色性が改善されることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白処理し、次いで無機ペルオキシ酸を用いる処理段を含む多段漂白処理を行う方法において、無機ペルオキシ酸を用いる処理段に、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸、および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸、ならびにそれらの酸化物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を、絶乾パルプ当たり少なくとも0.01質量%添加することを特徴とするECF漂白パルプの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、無機ペルオキシ酸のヘキセンウロン酸除去能力が向上し、それによって多段漂白工程で用いる二酸化塩素の使用量が削減でき、かつ熱褪色性が良好な漂白パルプが得られると共に漂白コストを低く抑えることができる。また、無機ペルオキシ酸の処理時間を短縮することができ、設備コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いられるリグノセルロース物質としては、ヘキセンウロン酸を生成するメチルグルクロン酸を多く含有する広葉樹材が好適であるが、針葉樹材でもよく、竹や麻のような非木材、さらにこれらの混合物でもよく、特に限定するものではない。
【0013】
本発明に用いられるパルプを得るための蒸解法としては、クラフト蒸解、ソーダ蒸解、ポリサルファイド蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法、または、ポリサルファイド蒸解が好適に用いられる。
【0014】
例えば、広葉樹材100%のリグノセルロースをクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5〜75質量%、好ましくは15〜45質量%、有効アルカリ添加率は絶乾木材質量当たり5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%である。また、蒸解温度は130〜170℃で、蒸解方式は連続蒸解法あるいはバッチ蒸解法のどちらでもよく、連続蒸解釜を用いる場合は蒸解液を多点で添加する修正蒸解法でもよく、その方式は特に問わない。
【0015】
蒸解に際して、使用する蒸解液に蒸解助剤として、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、或いは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物を用いることができる。さらには、ディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種或いは2種以上が添加されてもよい。これら蒸解助剤の添加率は通常の添加率であり、例えば、木材チップの絶乾質量当たり0.001〜1.0質量%である。
【0016】
本発明で使用するパルプは、公知の蒸解法により蒸解され、洗浄、粗選工程を経て、公知のアルカリ酸素漂白法により脱リグニンされる。本発明に使用されるアルカリ酸素漂白法は、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できるが、現在汎用的に用いられているパルプ濃度が8〜15質量%で行われる中濃度法が好ましい。
【0017】
前記中濃度法によるアルカリ酸素漂白法において、アルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。酸素ガスの添加率は、絶乾(BD:bone dry)パルプ質量あたり0.5〜3質量%、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜100分、パルプ濃度は8〜15質量%が好適条件であるが、実施形態については特に限定するものではない。アルカリ酸素漂白処理工程においては、上記アルカリ酸素漂白法による処理を連続して複数回行い、できる限り脱リグニンを進め、重金属の含有量を減らしておくことがより好ましい。アルカリ酸素漂白処理が実施されたパルプは次いで洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄後のパルプは、多段漂白処理工程へ送られる。
【0018】
本発明の多段漂白処理工程は、無機ペルオキシ酸を用いる処理(以下、Px処理と称す)を含む。Px処理段以外の漂白段の種類は限定されるものではなく、A(酸処理段)、D(二酸化塩素処理段)、Z(オゾン処理段)、 Eop(酸素および過酸化水素を併用したアルカリ処理段であり、アルカリ/酸素/過酸化水素併用処理段ということもある)、 Eo(酸素を併用したアルカリ処理段)、Ep(過酸化水素を併用したアルカリ処理段)、P(過酸化水素処理段)、Px/D(無機ペルオキシ酸と二酸化塩素とを併用した処理段であり、無機ペルオキシ酸/二酸化塩素併用処理段ということもある)、ZD(オゾン処理段と二酸化塩素処理段の間に洗浄を行うことなく連続処理する処理段)などの漂白処理を例示することができ、それらを適宜組み合わせて多段漂白処理工程とすることができる。
例えば、Px−D−Eo−D、Px−D−Eop−D、D−Eo−D−Px、D−Eop−D−Px、Px/D−Eo−P−D、Px/D−Eop−P−D、D−Eop−Px/D、A−ZD/Px−Eop−D、Z−Eop−D−Px、Z−Eo−P−D−Px、 シークエンスによる漂白などが挙げられるが、これらのシークエンスに限定されるものでは無く、公知の工程を用いることができる。
【0019】
また、多段漂白シークエンスにおける無機ペルオキシ酸を用いる処理段の順番は特に限定するものではないが、漂白工程が進むほどパルプ中のヘキセンウロン酸濃度は小さくなり、さらなるヘキセンウロン酸の除去が難しくなる。そのため、無機ペルオキシ酸を用いる処理段は多段漂白処理の最終段、例えばD−Eo−D−Px、D−Eop−D−Px、D−Eop−Px/D、Z−Eop−D−Px、Z−Eo−P−D−Pxなどで例示できるシークエンスにおいて、無機ペルオキシ酸を用いる処理段に本発明のリグニン等の化合物を添加すると特に効果的である。更に、アルカリ酸素漂白後の初段を無機ペルオキシ酸段としてもよく、二酸化塩素段に無機ペルオキシ酸を同時に添加してもよい。
【0020】
本発明で使用される無機ペルオキシ酸は、モノ過硫酸、過硫酸、モノ過リン酸、過ホウ酸、過炭酸およびペルオクソポリ酸、ならびにそれらの塩が該当するが、ヘキセウロン酸の除去効果および経済的な面からモノ過硫酸を使用することが好ましい。
本発明で使用されるモノ過硫酸は、ペルオキシ一硫酸(peroxymonosulfuric acid)とも呼ばれるものであり、ペルオキシ二硫酸を加水分解して製造することもできるし、過酸化水素と硫酸を任意の割合で混合して製造することもできるが、その製造方法については特に限定するものではない。また、モノ過硫酸の複塩(2KHSO・KHSO・KSO)であるオキソンのようなものを使用することもできる。ただし、経済性を考慮すると、安価な高濃度の過酸化水素と安価な高濃度の硫酸を混合して低コストでモノ過硫酸を製造し、使用するのが好ましい実施形態である。
【0021】
高濃度の過酸化水素と高濃度の硫酸を混合してモノ過硫酸を製造する方法としては、20〜70質量%、好ましくは35〜70質量%濃度の過酸化水素水に80〜98質量%、好ましくは93〜98質量%濃度の濃硫酸を滴下、混合する方法が好適である。前記硫酸と過酸化水素の混合モル比は好ましくは1:1〜5:1であり、さらに好ましくは2:1〜4:1である。過酸化水素水、硫酸共に、濃度の低いものを用いるとモノ過硫酸の製造効率が低下するため適さない。また、これらの濃度が高すぎると、発火等の危険性が大きくなるため適さない。さらに、硫酸と過酸化水素の混合モル比が1:1〜5:1から外れる場合にもモノ過硫酸の製造効率が低下するために好ましくない。
また、例えば、国際公開第2008/047864号公報に示されるような方法で過酸化水素と硫酸を原料としてオンサイトで製造することが好ましい。
【0022】
本発明で使用される無機ペルオキシ酸の添加率は特に限定するものではなく、添加量が多いほどヘキセウロン酸の除去量が大きくなるが、経済性などを考慮すると絶乾パルプ質量当たり0.01〜2質量%であり、より好ましくは0.05〜1.5質量%である。また、好適なpHは1〜7であり、より好ましくは2〜5である。処理時間は1分〜5時間、好ましくは10〜200分、処理温度は20℃〜90℃、より好ましくは40〜80℃である。パルプ濃度は特に限定されるものではないが通常5〜30質量%であり、操作性の点から好ましくは8〜15質量%である。
【0023】
初段二酸化塩素処理段の処理条件としては、一般的な条件を用いることができるが、例えば、二酸化塩素添加率は絶乾パルプ質量当たり好ましくは0.01〜2.0質量%である。処理pHは好ましくは1.5〜6、より好ましくは2〜4であり、pH調整用に公知のアルカリおよび酸を使用することができる。処理時間は好ましくは1分〜5時間、より好ましくは10〜180分である。処理温度は好ましくは20〜100℃、より好ましくは40〜90℃である。パルプスラリー中のパルプ濃度に関しては特に限定されるものではないが、通常5〜30質量%であり、操作性の点から好適には8〜15質量%で行われる。二酸化塩素処理が行われたパルプは通常、洗浄工程に送られる。洗浄工程においては、パルプ中の残存薬液、COD等が効率よく洗浄できればいずれの洗浄機も使用でき、例えば、ディフュージョンタイプ、プレスタイプ、ワイヤ−タイプの洗浄機が使用できる。洗浄工程後のパルプは、次段の漂白処理工程へ送られる。
【0024】
酸素および過酸化水素を併用したアルカリ処理段(Eop)の処理条件としては、一般的な条件を用いることができるが、例えば、アルカリ量としては、0.5〜3.0質量%であり、酸素量としては、0.05〜0.3質量%であり、過酸化水素量としては、0.05〜1.0質量%である。処理pHは漂白後のpHとして好ましくは10〜12であり、より好ましくは11.0〜11.7である。処理時間は好ましくは15分〜5時間、より好ましくは、30分〜3時間である。酸素および過酸化水素を併用したアルカリ処理されたパルプは通常は洗浄工程が行われる。洗浄工程においては、パルプ中の残存薬液、COD等が効率よく洗浄できればいずれの洗浄機も使用できる。
【0025】
最終二酸化塩素処理段の処理条件としては、一般的な条件を用いることができるが、例えば、二酸化塩素添加率は絶乾パルプ質量当たり好ましくは0.01〜2.0質量%であり、より好ましくは0.05〜1.0質量%である。処理pHは好ましくは1.5〜6、より好ましくは3〜6、さらに好ましくは4〜6である。pH調整用に公知のアルカリおよび酸を使用することができる。処理時間は好ましくは15分〜5時間、より好ましくは30〜180分である。処理温度は好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。パルプ濃度に関しては特に限定されるものではないが、通常5〜30質量%であり、操作性の点から好適には8〜15質量%で行われる。二酸化塩素処理が行われたパルプは洗浄工程が行われる。洗浄工程においては、パルプ中の残存薬液、COD等が効率よく洗浄できればいずれの洗浄機も使用でき、例えば、ディフュージョンタイプ、プレスタイプ、ワイヤ−タイプの洗浄機が使用できる。
【0026】
本発明では、無機ペルオキシ酸を用いる処理段に、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸、および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸、ならびにそれらの酸化物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を添加する。
【0027】
本発明で使用されるリグニンおよびリグニン誘導体としては、特に限定しないが、例えば市販のリグニン、アルカリ性リグニン、リグニンスルホン酸カルシウム塩、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸酢酸ナトリウム塩、さらに、アルドリッチ社製のリグニン,オルガノソルブ(Lignin, organosolve)、リグニン,ハイドロリティック(Lignin, hydrolytic)、リグニン,オルガノソルブ,アセテート(Lignin, organosolve, acetate)、リグニン,ハイドロリティック,ヒドロキシメチル誘導体(Lignin, hydrolytic, hydroxymethyl derivative)、リグニン,オルガノソルブ,プロピオネート(Lignin, organosolve, propionate)などが挙げられる。また、リグノセルロース物質から公知の方法により抽出した各種リグニンの混合物も使用可能である。
【0028】
本発明で使用されるリグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸、および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸、ならびにそれらの酸化物からなる群から選択される1種以上の化合物の添加量は、絶乾パルプ当たり少なくとも0.01質量%であり、経済性などを考慮すると0.01〜3質量%がより好適である。
【0029】
無機ペルオキシ酸を用いる処理段における無機ペルオキシ酸と、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸ならびにそれらの酸化物と、pH調整剤などの添加順は特に限定されるものではない。例えば、無機ペルオキシ酸の水溶液に、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸ならびにそれらの酸化物から選択される1種以上の化合物、pH調整剤を溶解させてからパルプに添加してもよいし、無機ペルオキシ酸を含有するパルプスラリー中に、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸ならびにそれらの酸化物から選択される1種以上の化合物を添加してpH調整剤を添加しても良い。
【0030】
また、処理にキレート剤や多価カルボン酸を併用することも、パルプの粘度低下を抑制することができ好ましい。本発明で用いるpH調整用の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、蟻酸、シュウ酸等の無機、有機の酸が使用できるが、硫酸が好ましい。pH調整用のアルカリとしては、苛性ソーダ、苛性カリウム、炭酸ソーダ、炭酸カルシウム、アンモニア、アミン類等の無機、有機のアルカリが使用できるが、苛性ソーダが好ましい。
【0031】
本発明で用いるリグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸の酸化物は、酸化剤により処理することで得られる。酸化剤や処理方法については限定されるものではないが、例えば、リグニン、ムコン酸、メトキシフェノールの水溶液または水性スラリーに酸化剤として二酸化塩素、次亜塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、過マンガン酸カリウム、過酢酸、過酸化水素、硝酸などを添加する方法が挙げられる。
酸化剤としては、リグニン等が酸化されやすい点から、特に過酸化水素が好ましい。酸化剤に過酸化水素を用いる場合には、例えば、リグニン誘導体と1〜40質量%濃度の過酸化水素水とを混合し、適宜pH調整剤を用いてpH10〜13に調整し、40〜60℃で加温することによってリグニン誘導体の酸化物を得ることができる。
【0032】
また、酸化剤処理後の前記溶液中には未反応の酸化剤が残存することがある。未反応の酸化剤を含有したままの前記溶液を無機ペルオキシ酸を用いる処理段に添加してもよいが、未反応の酸化剤が無機ペルオキシ酸の作用を阻害することがあるので、未反応の酸化剤を除去してから用いることが望ましい。例えば、未反応の過酸化水素が残存する場合は、白金などの金属やカタラーゼなどの酵素を用いて未反応の酸化剤を除去してから無機ペルオキシ酸を用いる処理段に供することが望ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例および比較例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。以下に示す実施例、比較例においては特に限定しない限り、パルプのヘキセンウロン酸量測定、白色度測定、褪色性の評価、モノ過硫酸の製造はそれぞれ以下の方法で行った。
【0034】
1.パルプのヘキセンウロン酸(HexA)量の測定
パルプを絶乾質量で0.16gとり、それを全量が80gになるように蒸留水を加えた。そこにギ酸を0.02g添加し、よく攪拌した。その全量を耐圧容器に移し、120℃で4時間加温してヘキセンウロン酸の酸加水分解を行った。加温後、ろ別された溶液中のヘキセンウロン酸の酸加水分解物である2−フランカルボン酸と5−ホルミル−2−フランカルボン酸をHPLCにて定量し、そのモル比の合計からヘキセンウロン酸量を求めた。
【0035】
2.パルプ白色度の測定
漂白パルプを離解後、JIS P8209に従って坪量60g/mのシートを作製し、JIS P8148に従ってパルプの白色度を測定した。
【0036】
3.パルプの褪色性評価(PC価の算出)
漂白パルプを離解後、硫酸アルミニウムを添加しpH5.5に調製した後、坪量60g/mのシートを作製した。作製したシートを80℃、相対湿度65%の条件下で24時間静置し、処理前後の白色度から下式に従ってPC価を算出した。
PC価={(1−褪色後白色度)2/(2×褪色後白色度)−(1−褪色前白色度)2/(2×褪色前白色度)}×100
【0037】
4.モノ過硫酸(MPS)の製造条件
モノ過硫酸の合成は三菱ガス化学(株)製の工業グレード45%過酸化水素水75.6g(1mol)に鉄濃度10ppm以下の工業用グレード95%濃硫酸310g(3mol)を、混合溶液が70℃を越えないような速度で滴下することにより行い、脱塩素水により希釈してモノ過硫酸2.1%水溶液3500gを得た。合成後のモノ過硫酸濃度は、ヨウ素滴定より求めた全過酸化物濃度から、硫酸(IV)セリウムを用いた酸化還元滴定より得た過酸化水素濃度を差し引いて求めた。
【0038】
実施例1(D0−Eop−D1−Pxシーケンス)
広葉樹材を蒸解後、アルカリ酸素漂白した後の未晒L−パルプ(ヘキセンウロン酸量41.1μmol/パルプg、白色度 54.8%)を以下の条件で処理した。
<D0−Eop−D1処理>
・D0:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量 0.2質量%、反応後pH3、温度70℃、時間30分
・Eop:パルプ濃度10%、過酸化水素添加量 0.25質量%、酸素添加量 0.15%、処理pH11〜12、温度60℃、時間70分
・D1:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量 0.3質量%、反応後pH5、温度70℃、時間120分
・各段の洗浄条件:洗浄率90%、洗浄後パルプ濃度20%まで脱水し、各段の漂白後パルプとした。
なお、「D0」は初段二酸化塩素処理段を意味し、「D1」は、最終二酸化塩素処理段を意味する。
D1後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度は22.8μmol/パルプg、白色度は85.9%であった。
【0039】
<Px処理>
D1処理後のパルプ濃度20%のパルプを40g量り取り、ポリエチレン袋に入れた。そこに2%モノ過硫酸(MPS) 3.6g、10%水酸化ナトリウム 1.6g、リグニン(Aldrich製、lignin organosolv)0.2gと脱塩素水を34.6g加え、パルプ濃度10%の試料を調製し、それを60℃で20分加温しPx処理パルプ(20分加温品)を得た。また、加温時間を60分とした以外は、前記と同様にしてPx処理を行ったPx処理パルプ(60分加温品)を得た。Px処理時の各物質使用量と、20分加温または60分加温処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表1に示した。
【0040】
実施例2
<リグニンの酸化剤処理>
リグニン(Aldrich製、lignin organosolv)0.2gを過酸化水素溶液に加え、水酸化ナトリウム試薬を添加してリグニン濃度0.1%、過酸化水素濃度17%、pH12の溶液に調整した。その溶液を55℃で3時間加温した後、残存過酸化水素濃度が10ppm以下になるようにカタラーゼを加えて過酸化水素を除去し、酸化剤処理リグニン溶液とした。
【0041】
<Px処理>
D1処理後のパルプ濃度20%のパルプを40g量り取り、ポリエチレン袋に入れた。そこに2%モノ過硫酸 3.6g、10%水酸化ナトリウム 0.9gと酸化剤処理リグニン溶液を35.5g加え、パルプ濃度10%の試料を調製した。20分加温しPx処理パルプ(20分加温品)を得た。加温時間を60分とした以外は、前記と同様にしてPx処理を行ったPx処理パルプ(60分加温品)を得た。Px処理時の各物質使用量と、20分加温または60分加温処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表1に示した。
【0042】
実施例3
<リグニンスルホン酸ナトリウム塩の酸化剤処理>
実施例2で作製した酸化剤処理リグニンのリグニンをリグニンスルホン酸ナトリウム塩(Aldrich製)に代え、実施例2と同様にリグニンスルホン酸ナトリウム塩を酸化し、酸化剤処理リグニンスルホン酸ナトリウム塩溶液を作製した。
【0043】
<Px処理>
実施例2の酸化剤処理リグニン溶液を酸化剤処理リグニンスルホン酸ナトリウム塩溶液に代えて実施例2と同様のパルプ漂白を行った。Px処理時の各物質使用量と、20分加温または60分加温処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表1に示した。
【0044】
実施例4
<ムコン酸の酸化剤処理>
実施例2で作製した酸化剤処理リグニンのリグニンをムコン酸(Alfa Aesair製)に代え、実施例2と同様にムコン酸を酸化し、酸化剤処理ムコン酸溶液を作製した。
【0045】
<Px処理>
実施例2の酸化剤処理リグニン溶液を酸化剤処理ムコン酸溶液に代えて実施例2と同様のパルプ漂白を行った。Px処理時の各物質使用量と、20分加温または60分加温処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表1に示した。
【0046】
実施例5
<2−メトキシフェノールの酸化剤処理>
実施例2で作製した酸化剤処理リグニンのリグニンを2−メトキシフェノール(Guaiacol、TCI社製)に代え、実施例2と同様に2−メトキシフェノールを酸化し、酸化剤処理2−メトキシフェノール溶液を作製した。
【0047】
<Px処理>
実施例2の酸化剤処理リグニン溶液を酸化剤処理2−メトキシフェノール溶液に代えて実施例2と同様のパルプ漂白を行った。Px処理時の各物質使用量と、20分加温または60分加温処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表1に示した。
【0048】
比較例1
<Px処理>
実施例2の酸化剤処理リグニン溶液を脱塩素水に代えて、実施例2と同様のパルプ漂白を行った。Px処理時の各物質使用量と、20分加温または60分加温処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の結果からわかるように、実施例1〜5のリグニンや酸化剤処理したリグニン、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、ムコン酸やメトキシフェノールを添加した方が、それらが無添加の場合の比較例1よりも漂白後のパルプ中のヘキセンウロン酸量は小さくなり、より効率良くヘキセンウロン酸が除去できた。
【0051】
実施例6 (Px−D0−Eop−D1シーケンス)
蒸解後、アルカリ酸素漂白した後の未晒L−パルプ(ヘキセンウロン酸量41.1μmol/パルプg、白色度 54.8%)を以下の条件で処理した。
<Px処理>
パルプ濃度18.5%のアルカリ酸素漂白後の未晒パルプを86.4g量り取り、ポリエチレン袋に入れた。そこに2%モノ過硫酸 8g、10%水酸化ナトリウム 2.0gと実施例2で作製した酸化剤処理後のリグニン水溶液63.6gを加え、パルプ濃度10%の試料に調製した。それを60℃で60分加温し、加温後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度を測定した。Px処理時の各物質使用量とPx処理後のヘキセンウロン酸濃度を表2に示した。
【0052】
Px処理後のパルプを以下の条件で処理した。
<D0−Eop−D1処理>
・D0:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量 0.2質量%、反応後pH3、温度60℃、時間60分
・Eop:パルプ濃度10%、過酸化水素添加量 0.25質量%、酸素添加量 0.15%、処理pH11〜12、温度60℃、時間70分
・D1:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量 0.3質量%、反応後pH5、温度60℃、時間60分
・各段の洗浄条件:洗浄率90%、洗浄後パルプ濃度20%まで脱水し、各段の漂白後パルプとした。
D1処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表2に示した。
【0053】
比較例2
<Px処理>
実施例6の酸化剤処理リグニン溶液を脱塩素水に代えて、実施例6と同様のパルプ漂白を行った。実施例6と同様に、Px処理時の各物質使用量と処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表2に示した。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示したようにアルカリ酸素漂白後のパルプを用いても、酸化処理後のリグニン水溶液を添加することによって、効果的にヘキセンウロン酸が除去できた。
【0056】
実施例7(Px/D0−Ep−D1シーケンス)
蒸解後、アルカリ酸素漂白した後の未晒L−パルプ(ヘキセンウロン酸量41.1μmol/パルプg、白色度 54.8%)を以下の条件で処理した。
<Px/D0処理>
パルプ濃度18.5%のアルカリ酸素漂白後の未晒パルプを86.4g量り取り、ポリエチレン袋に入れた。そこに2%二酸化塩素4g、2%モノ過硫酸 4g、10%水酸化ナトリウム 0.9gと実施例2で作製した酸化剤処理後のリグニン水溶液64.7gを加え、パルプ濃度10%の試料を作製した。それを60℃で120分加温し、加温後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度を測定した。Px/D0処理時の各物質使用量とPx/D0処理後のヘキセンウロン酸濃度を表3に示した。
【0057】
<Ep−D1処理>
Px /D0処理後のパルプを以下の条件で処理した。
・Ep:パルプ濃度10%、過酸化水素添加量0.4質量%、処理pH11〜12、温度60℃、時間120分
・D1:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量0.2質量%、反応後pH5、温度60℃、 時間180分
・各段の洗浄条件 洗浄率90%、洗浄後パルプ濃度20%まで脱水し、各段の漂白後パルプとした。
D1処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表3に示した。
【0058】
比較例3
<Px処理>
実施例7の酸化剤処理後のリグニン水溶液を脱塩素水に代えて、実施例7と同様のパルプ漂白を行った。実施例7と同様に、Px/D0処理時の各物質使用量と処理後のパルプ中のヘキセンウロン酸濃度、白色度、PC価を表3に示した。
【0059】
【表3】

【0060】
表3のように二酸化塩素と無機ペルオキシ酸で同時処理する場合でも、酸化剤処理リグニン水溶液を添加することによって、効果的にヘキセンウロン酸が除去できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素漂白処理し、次いで無機ペルオキシ酸を用いる処理段を含む多段漂白処理を行う方法において、無機ペルオキシ酸を用いる処理段に、リグニン、リグニン誘導体、2−メトキシフェノール、3−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、5−アミノ−メトキシフェノール、ムコン酸、および2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエンジオン酸、ならびにそれらの酸化物からなる群から選ばれる1種以上の化合物を、絶乾パルプ当たり少なくとも0.01質量%添加することを特徴とするECF漂白パルプの製造方法。
【請求項2】
前記酸化物が過酸化水素で酸化されたものである請求項1記載のECF漂白パルプの製造方法。
【請求項3】
前記無機ペルオキシ酸がモノ過硫酸であることを特徴とする請求項1または2に記載のECF漂白パルプの製造方法。