説明

EGF受容体に対する抗体を含む医薬製剤

本発明は、内皮成長因子受容体(EGF受容体)に対する抗体を含む水性医薬製剤に関する。前記製剤は高温においても高い保存安定性を有し、腫瘍治療に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)に対する抗体を含む安定した医薬製剤、およびその調製と利用に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまなin vivoおよびin vitro試験から、抗体によるEGFRの遮断は、例えば、癌細胞の増殖を阻害し、腫瘍による血管新生を減少させ、癌細胞のアポトーシスを誘発し、放射線療法や従来型の化学療法の毒性作用を増加させるなど、さまざまなレベルで腫瘍に対して作用することが明らかになっている。
【0003】
MABc225(INN:セツキシマブ)は、臨床的に実証されたEGF受容体に結合する抗体である。セツキシマブ(cetuximab)は、その可変領域がマウス由来で、その定常領域がヒト由来のキメラ抗体である。セツキシマブは、Naramuraらにより、Cancer Immunol.Immunotherapy 1993、37:343−349およびWO96/40210A1で初めて記述された。
【0004】
MAB425は、腫瘍細胞、特にA431上皮性悪性腫瘍細胞において過剰発現するEGFRに対する、マウス由来の抗体である。そのヒト化型およびキメラ型が、例えば、EP0531472A1;Kettle boroughら、Protein Engineering1991、4:773−783;Bierら、Cancer Chemother.Pharmacol.2001、47:519−524;Bierら、Cancer Immunol.Immunother.1998、46:167−173に開示されている。EMD72000(h425)は、臨床試験第I/II相にあるMAB425の一形態であり、定常領域がκ鎖およびヒトγ−1鎖からなる。
【0005】
ヒト抗EGFR抗体は、WO91/10741A1、WO94/02602A1およびWO96/33735A1に開示されているゼノマウス技術により提供することができる。この技術により生産され、現在臨床試験中の特異的抗体が、ABX−EGF(Abgenix、Crit.Rev.Oncol.Hematol.2001、38:17−23;Cancer Research 1999、59:1236−43)である。
【0006】
EGFRに対するさらなる抗体は、例えば、EP0586002B1およびJ.Natl.Cancer Inst.1993、85:27−33(MAB528)に記載されている。
【0007】
他の抗体と同様に、抗EGFR抗体は治療用の液剤として非経口でも適用される。これらの抗体を含む溶液において特に問題となるのは、凝集する傾向や、タンパク質多量体を形成する傾向である。還元性多量体の場合、これは、接近する部分間の相互作用を通じて分子間のジスルフィド結合が偶発的に形成されることに帰すことができる。疎水性相互作用と、その結果として非還元性多量体が形成される可能性もある。さらに、脱アミド反応も生じるが、これはその後タンパク質分解反応をきたす結果となる。記載した変性反応は、特に高温での保存時や、例えば、輸送中に生じるような剪断応力を受ける際に起こる。
【0008】
前記凝集傾向の結果、抗体溶液の保存時に製品の沈降が生じる。これは、溶液を入れた容器から再現性のある引き出しを行うことが疑わしいことを意味する。さらに、粒子を含有する溶液を非経口投与すると塞栓を生じる可能性がある。この結果、その都度必要な用量の抗EGFR抗体を患者に投与することは、抗体溶液では再現可能な方法で必ずしも保証されず、必要な信頼性を伴った投与を行うことはできない。
【0009】
注入前のろ過により、凝集を阻止することは可能であるが、しかし、この方法はさらなるステップを含むため複雑であり、臨床治療に非常に適しているとは言えない。加えて、未知のごく少量の抗体が、どのような場合でも溶液から分離するため、用量の再現性の問題は未解決のままであり、ろ過後の粒子形成は安全性のリスクとなり続ける。
【0010】
モノクロナール抗体安定化の一般的な方法は、抗体と補助剤とを含む溶液の凍結乾燥である。しかし、凍結乾燥は、きわめて時間およびエネルギーを費やすため費用がかかる。さらに、凍結乾燥品は、投与前にまず再構成を行わなければならない。
【0011】
EP0073371では、安定化のために3.5〜5.0のpHを有する免疫グロブリンを含む、静脈内投与用の製剤を記載している。しかし、そのような低いpH値は、注入時に好ましくない不適合反応をきたす。
【0012】
US6171586B1では、等張性調整のためのNaClを除外した、抗体水性製剤における酢酸バッファーpH4.48〜5.5、界面活性剤およびポリオールの利用を開示している。等張性調整の欠如により、注入時の不適合反応が同様に生じる可能性がある。
【0013】
特異的抗原を含むさらなる製剤の例として、現時点ではEP0280358、EP0170983およびUS5945098を参照することができる。
【0014】
このうち、EP0280358では、特定のホルモンに対し安定化を図るために、抗体溶液にデキストランを添加することが記載されており、そこでは安定性が9ヵ月にわたり得られた。
【0015】
EP0170983では、加水分解したオボアルブミンと共に加熱することによる、易熱性モノクロナール抗体の安定化を記載しており、その結果、抗体は45℃で7日間保存した後も依然として安定していた。しかし、非経口投与用の製剤に他の種のタンパク質を添加することは、それに関連した問題、特に抗原性のため好ましくない。
【0016】
US5945098では、免疫グロブリンG水溶液の安定化のためのグリシン、ポリソルベート80およびポリエチレングリコールの利用を開示している。
【0017】
DE10133394A1では、抗体セツキシマブ水溶液の安定化のため、pH6からpH8の範囲のリン酸バッファー、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの利用を開示している。これにより、目視可能な凝集物の形成は大幅に減少するが、特に応力条件下での化学安定性は著しく損なわれる。さらに、製剤は(超)熱応力、例えば、40度での長期保存に対し安定性を示さない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、特にEGFRに対する抗体用の水性製剤であって、非経口投与に適し、十分に忍容され、少なくとも24ヵ月間、室温での保存において安定している水性製剤を見出すことであった。保存安定性は、輸送中に剪断力が働く場合や、気候条件の変化、特に高温および高い大気湿度でも保持されなければならない。さらに、製剤は単純な構造を有し、毒物学的な観点から疑わしいいかなる補助剤も含んではならない。
【0019】
驚くべきことに、これらの要件を満たす製剤は、上皮成長因子に対する抗体(抗EGFR抗体)に加えて、バッファー、アミノ酸および界面活性剤を含む溶液の形態で見出されている。したがって本発明は、抗EGFR抗体に加えて、バッファー、アミノ酸および界面活性剤を含む水性医薬製剤に関する。
【0020】
本発明の目的のため、水性製剤は、いくつかの溶媒が存在し、水を含むものである。含まれてもよいさらなる溶媒の構成要素は、非経口使用に適したすべての溶媒であり、特にアルコール類、例えば、エタノール、プロパノール、プロパンジオールまたはグリセロールなどである。
水性製剤は好ましくは、水またはエタノール/水の混合物を溶媒として含むが、溶媒は水からなることが特に好ましい。
【0021】
含まれる抗体は、いかなる抗EGFR抗体でもよく、特に冒頭に挙げたマウス抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体、および前記ゼノマウス技術を用いて調製した、および調製することができるヒト抗EGFR抗体である。好ましくは、抗EGFR抗体のセツキシマブ(cetuximab)またはEMD72000、またはそれらに対応するマウス抗体アナログ、ヒト化抗体アナログまたはキメラ抗体アナログの1つである。特に好ましくは、抗体としてセツキシマブまたはEMD72000を含む水性製剤である。
【0022】
抗EGFR抗体は、本発明による製剤において、0.1mg/ml〜50mg/ml、好ましくは2mg/ml〜10mg/ml、特に好ましくは約5mg/mlの濃度で存在してもよい。
【0023】
使用することのできるバッファーは基本的に、所望のpHを設定するために好適な、生理学的に忍容されるすべての物質であり、例えば、クエン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩または乳酸塩、および/またはそれらの各遊離酸または遊離塩基のほか、それらのさまざまな塩類および/または酸若しくは塩基の混合物である。このバッファーは好ましくは、1種または複数種のクエン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩または乳酸塩および/またはそれらの各遊離酸または遊離塩基、または前記さまざまな塩類の1種または複数種の混合物および/またはそれらの酸若しくは塩基の混合物からなる。ここでいう混合物という用語は、例えば、異なるクエン酸塩の混合物のような同じ酸の異なる塩類の混合物と、例えば、クエン酸塩と酢酸塩の混合物のような異なる酸の塩類の混合物の両方を対象としている。
【0024】
バッファーは好ましくは、1種または複数種のクエン酸塩および/またはその遊離酸(例えばクエン酸、クエン酸1水和物、クエン酸3ナトリウム2水和物、クエン酸3カリウム1水和物など)、酢酸塩および/またはその遊離酸(例えば酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム3水和物など)またはL−ヒスチジンおよび/または、例えば、L−ヒスチジン1塩酸塩1水和物といったその酸付加塩からなる。本発明による製剤は有効には、バッファーを10〜100mmol/l、好ましくは2〜20mmol/l、特に好ましくは約10mmol/lの濃度で含む。
【0025】
製剤のpHは、5.0〜6.0の範囲にあり、好ましくは5.2〜5.8、特に好ましくは約5.5である。
【0026】
本発明による製剤は、生理学的に十分に忍容され、容易に調製することができ、正確に分注でき、かつ、分析ならびに保存期間中や繰り返し行われる凍結および解凍の処理中の分解生成物および凝集物ならびに機械的応力、に関して安定である。本発明による製剤は冷蔵庫温度(2〜8℃)での少なくとも3ヵ月から4年の期間にわたる保存において安定である。驚くべきことに、本発明による製剤は、高温かつより高い大気湿度、例えば温度25℃、相対大気湿度60%での最大2年間にわたる保存、または温度40℃、相対大気湿度75%での3ヵ月間にわたる保存においても安定である。
【0027】
本発明に含まれるアミノ酸は、例えば、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、リジンなどの塩基性アミノ酸、または例えば、グリシン、メチオニン、イソロイシン、ロイシンおよびアラニンなどの中性アミノ酸、または例えば、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンなどの芳香族アミノ酸にすることができる。塩基性アミノ酸は、好ましくはその無機塩(有効には塩酸塩の形、すなわちアミノ酸塩酸塩として)の形で使用される。使用されるアミノ酸は、いずれの場合にもL型であることが好ましい。本発明による製剤に含まれるアミノ酸は、L−アルギニン、グリシンまたはL−メチオニンであることが特に好ましい。
【0028】
製剤は、アミノ酸を、2〜200mmol/l、好ましくは50〜150mmol/l、特に好ましくは約100mmol/lの濃度で含む。
【0029】
使用することができる界面活性剤は、医薬製剤に通常用いられるすべての界面活性剤であり、好ましくはポリエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーである。ポリエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、商標名ツイーン(Tween)としても知られる。好適なポリエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、特に、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテートおよびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレートである。好ましくは、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートおよびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートであり、特に好ましくは、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートである。ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーは、登録商標ポロキサマー(Poloxamer)としても知られる。特に好ましいポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーは、ポロキサマー407(CAS9003−11−6)である。
【0030】
界面活性剤は、0.001重量%〜1.0重量%の濃度で製剤に含まれていてもよい。ポリエチレンソルビタン脂肪酸エステルが界面活性剤として含まれる場合、これらは好ましくは0.005〜0.1重量%、特に好ましくは約0.01重量%の量で存在する。ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーが含まれる場合、これらは好ましくは0.01〜0.5重量%、特に好ましくは約0.1重量%の量で存在する。
【0031】
非経口投与における忍容性を高めるために、浸透圧は等浸透圧の範囲にある、すなわち浸透圧が約250〜350mOsol/kgであることが好ましい。その結果、製剤は静脈内、動脈内および皮下にも、実質上痛みを伴わずに直接投与することができる。
【0032】
有効な実施形態によれば、したがって本発明による製剤は、等張性調整剤(isotonicity modifier)、好ましくは、例えば塩化ナトリウムまたは塩化カリウムなどの生理学的に忍容される塩、または、例えばグルコースまたはグリセロールなどの生理学的に忍容されるポリオールを、等張性の調製に必要な濃度で追加で含む。そのためさらに本発明は、抗EGFR抗体、バッファー、アミノ酸、界面活性剤および等張性調整剤を、等張性の調製に必要な濃度で含む水性製剤に関する。塩化ナトリウムは、等張性調整剤として含まれることが特に好ましい。
【0033】
さらに、本発明による溶液は、例えばアスコルビン酸またはグルタチオンなどの抗酸化物質、例えばフェノール、m−クレゾール、メチル-もしくはプロピルパラベン、クロロブタノール、チオマーサルまたは塩化ベンザルコニウムなどの保存料、例えばPEG400、PEG3000、3350、4000もしくは6000などのポリエチレングリコール(PEG)、例えばトレハロースもしくはサッカロースなどの二糖類、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、スルホブチルエチル−β−シクロデキストリン、α−シクロデキストリンもしくはγ−シクロデキストリンなどのシクロデキストリンといった生理学的に忍容された補助剤をさらに含んでもよい。
【0034】
本発明の特に有効な実施形態によれば、水性製剤は約5mg/mlのセツキシマブもしくはEMD72000、pH約5.5を有する約10mmol/lのクエン酸もしくはヒスチジンのバッファー、約100mmol/lのグリシン、アルギニンもしくはL−メチオニン、約100mmol/lの塩化ナトリウム、および0.01%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートを含む。
【0035】
水性製剤は、前記補助剤を抗EGFR抗体を含む溶液に添加することで調製することができる。この目的のため、前記のさらなる補助剤を規定濃度で含む原液の規定量が、これを添加することで規定濃度に調製されるように抗EGFR抗体を含有する溶液に有利には添加され、所望する場合は、この混合物を事前に計算した濃度まで水またはバッファー溶液により希釈する。あるいは、補助剤は、抗EGFR抗体を含む開始溶液に固体として添加することもできる。抗EGFR抗体が固体の形態、例えば凍結乾燥物の形態にある場合、本発明による製剤は、まず、1種または複数種のさらなる補助剤を含む水または水溶液に各抗体を溶解させ、続いて、固形の形態の補助剤および/または水を含む原液のそれぞれの場合に必要とされる量を加えることにより調製することができる。抗EGFR抗体は、有効にはすべてのさらなる補助剤を含む溶液に直接溶解することもできる。
【0036】
本発明による製剤に含まれる1種または複数種の補助剤は、有効には特定のEGFR抗体の調製処理中または処理の最後に既に添加しておいてもよい。これは好ましくは、その調製後に行われる精製の最終ステップで、1種、1種類以上またはすべてのさらなる補助剤を含む水溶液に抗EGFR抗体を直接溶解させることで行うことができる。製剤を調製するために、それぞれのさらなる成分は、ひいてはいずれの場合も少量を添加する必要があるか、および/または全く添加する必要はない。各成分は、その調製後に行われる精製の最終ステップで、すべてのさらなる補助剤を含む水溶液に直接溶解させることが特に好ましい。
【0037】
各抗体を含む溶液および補助剤が所望のpHにない場合、これは、酸または塩基を添加することで、好ましくは既にバッファーシステムに存在する酸または塩基を用いることで設定する。その後これを滅菌ろ過する。
【0038】
本発明による水性製剤は、有効には腫瘍疾患治療に使用することができる。
【0039】
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0040】
実施例1(比較例1)
以下を含む水溶液:
2mg/mlセツキシマブ
10mmol/lリン酸ナトリウムバッファーpH7.2
145mmol/l塩化ナトリウム
調製は、規定濃度で各補助剤を含む規定容積の水溶液を混合することにより行う。以下の溶液を使用する:
以下を含む溶液A(有効成分溶液):
18mg/mlセツキシマブ
10mmol/lリン酸ナトリウムバッファーpH7.2
(2.07g/lリン酸水素2ナトリウム7水和物および0.31g/lリン酸2水素ナトリウム1水和物からなる)
145mmol/l塩化ナトリウム
(この溶液は、有効成分の調製後にそれを精製する最終ステップで、接線流ろ過を援用して溶液Bに対し有効成分を再緩衝することにより得られる。)
溶液B(バッファー/塩溶液)
有効成分を含まないことを除いては溶液Aと一致する。
【0041】
比較溶液1を調製するには、体積比1.11の溶液Aと体積比8.89の溶液Bを互いに混合する。
【0042】
調製した溶液は、滅菌フィルターを用いてろ過した後、注入バイアルに移す。その後、注入バイアルを栓で密封しクリンプする。
【0043】
実施例2(比較例2)
以下を含む水溶液:
2mg/mlセツキシマブ
10mmol/lリン酸ナトリウムバッファーpH7.2
145mmol/l塩化ナトリウム
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
調製は、規定濃度で各補助剤を含む規定容積の水溶液を混合することにより行う。溶液Aのほかに以下の溶液を使用する。
【0044】
溶液C(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートを含むバッファー/塩溶液)
0.0125重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートをさらに含むことを除いては溶液Bと一致する。
【0045】
比較溶液2を調製するには、体積比1.11の溶液Aと体積比8.89の溶液Cを互いに混合する。
【0046】
調整した溶液は、滅菌フィルターを用いてろ過した後、注入バイアルに移す。その後、注入バイアルを栓で密封しクリンプする。
【0047】
実施例3(本発明による製剤)
5mg/mlセツキシマブ
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
100mmol/lグリシン
100mmol/l塩化ナトリウム
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
調製は、規定濃度で各補助剤を含む規定容積の水溶液を混合することにより行う。
【0048】
溶液D(クエン酸バッファーにおける有効成分溶液)
16mg/mlセツキシマブ
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.1014g/lクエン酸1水和物からなる)
(この溶液は、有効成分の調製後にそれを精製する最終ステップで、接線流ろ過を援用して溶液Eに対し有効成分を再緩衝することにより得られる。)
溶液E(バッファー溶液):
有効成分を含まないことを除いては溶液Dと一致する。
【0049】
溶液F(バッファー/塩溶液):
145.5mmol/lグリシンと、
145.5mmol/l塩化ナトリウムと
0.015重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートと、を含むことを除いては溶液Eと一致する。
【0050】
本発明により製剤を調整するには、体積比3.125の溶液Dと体積比6.875の溶液Fを互いに混合する。
【0051】
調整した溶液は、滅菌フィルターを用いてろ過した後、注入バイアルに移す。その後、注入バイアルを栓で密封しクリンプする。
【0052】
実施例4
以下の溶液は、上記に記載した実施例の方法と同様に調製する。
【0053】
実施例4.1、以下を含む溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lグリシン
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.9410g/lクエン酸3ナトリウム2水和物からなる)
実施例4.2、以下を含む溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lグリシン
100mmol/l塩化ナトリウム
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.1014g/lクエン酸1水和物からなる)
実施例4.3、以下を含む溶液:
5mg/mlEMD72000
100mmol/lグリシン
100mmol/l塩化ナトリウム
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.1014g/lクエン酸1水和物からなる)
実施例4.4、以下を含む溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lL−メチオニン
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.1014g/lクエン酸1水和物からなる)
実施例4.5、以下を含む溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lグリシン
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/l酢酸バッファーpH5.5
(1.3608g/l酢酸ナトリウム3水和物からなる)
実施例4.6、以下を含む溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lグリシン
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/lヒスチジンバッファーpH5.5
(2.069g/lL−ヒスチジン1塩酸塩1水和物からなる)
実施例4.7、以下を含む溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lグリシン
0.01重量%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.1014g/lクエン酸1水和物からなる)
実施例4.8、以下を含む水溶液:
5mg/mlセツキシマブ
100mmol/lグリシン
0.01重量%のポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー407(ポロキサマー407)
10mmol/lクエン酸バッファーpH5.5
(2.1014g/lクエン酸1水和物からなる)
実施例5
本発明による製剤の安定性は、ストレス試験で検査した。このため、実施例3の溶液を含むバイアルと、比較のため実施例1および2の溶液を含むバイアルを、25℃および相対大気湿度60%、ならびに40℃および相対大気湿度75%にて保存した。さらに、実施例1、2および3の溶液を含むバイアルを、室温にて振盪機で振盪回数150min-1で5日間振盪し、−20℃にて連続3回凍結した後、+5℃にて再び解凍した。保存前および規定の保存時間後に、バイアルを冷光源による直接照明にて目視評価し、濁度の尺度である350nmの吸光度を溶液について測定した。保存または処置の影響を明らかにするため、開始時の値に対する相対濁度をそれぞれの場合において計算した。さらに、セツキシマブ、凝集物および分解生成物の含量について、HPLCゲルろ過を用いてバイアルの分析を行った。
安定性検査の結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
結果は明らかに、本発明による製剤は、従来技術の比較溶液に比べて安定性が有意に向上していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗EGFR抗体、バッファー、アミノ酸および界面活性剤を含む水性製剤。
【請求項2】
抗体が、セツキシマブまたはEMD72000、あるいはそれらに対応するマウス抗体アナログ、ヒト化抗体アナログまたはキメラ抗体アナログの1つであることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
抗体が、セツキシマブまたはEMD72000であることを特徴とする、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
バッファーが、1種または複数種のクエン酸塩、酢酸塩、ヒスチジン塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、リン酸塩または乳酸塩および/またはそれらの各遊離酸もしくは遊離塩基、あるいは前記さまざまな塩類の1種または複数種の混合物および/またはそれらの酸もしくは塩基の混合物、からなることを特徴とする、請求項1から3のうちの一項または複数項に記載の製剤。
【請求項5】
バッファーが、1種または複数種のクエン酸塩および/またはその遊離酸、1種または複数種の酢酸塩および/またはその遊離酸、あるいはL−ヒスチジンおよび/またはその酸付加塩、からなることを特徴とする、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
アミノ酸が、L−アルギニン、グリシン、またはL−メチオニンであることを特徴とする、請求項1から5のうちの一項または複数項に記載の製剤。
【請求項7】
界面活性剤が、ポリエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマーであることを特徴とする、請求項1から6のうちの一項または複数項に記載の製剤。
【請求項8】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル界面活性剤が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートまたはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートであることを特徴とする、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
界面活性剤が、ポロキサマー407であることを特徴とする、請求項7に記載の製剤。
【請求項10】
等張性調整剤がさらに、等張性の調整に必要な濃度で存在することを特徴とする、請求項1から9のうちの一項または複数項に記載の製剤。
【請求項11】
等張性調整剤が、塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
5から7のpH、好ましくはpH5.2からpH6.0を有することを特徴とする、請求項1から11のうちの一項または複数項に記載の製剤。
【請求項13】
約5.5のpHを有することを特徴とする、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
約5mg/mlのセツキシマブまたはEMD72000と、
約10mmol/lのクエン酸バッファーまたはヒスチジンバッファーと、
約100mmol/lのグリシン、L−アルギニンまたはL−メチオニンと、
約100mmol/lの塩化ナトリウムと、
約0.01%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートとを含み、
約5.5のpHを有することを特徴とする、請求項1から13のうちの一項または複数項に記載の製剤。
【請求項15】
抗EGFR抗体を含む水性製剤が、前記補助剤の1つに添加されることを特徴とする、請求項1から14のうちの一項または複数項に記載の医薬製剤の調製法。
【請求項16】
腫瘍疾患治療のための請求項1から14のうちの一項または複数項に記載の製剤の使用。

【公表番号】特表2007−512266(P2007−512266A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540214(P2006−540214)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012044
【国際公開番号】WO2005/058365
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】