説明

ESR検出器

【課題】ESR装置の検出部の試料に寄与する電磁界部の体積を小さくして、感度を上げるとともに、検出部に手を触れても共振周波数に変動が無く、また検出部の分解能を上げて1次元画像、2次元画像及び3次元画像ができるようにする。
【解決手段】共振器を伝送線路で構成して、電磁波が空間的に広がらないようにし、しかも、電流の一番大きいところを検出して、感度を上げる。また、短絡部をさらに細い導体にして、電流密度を一層上げて感度を上げる。しかも細い導体部が小さいので分解能が上がり、1次元、2次元及び3次元画像をできるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESR用検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ESR(Electro Spin Resonance,電子スピン共鳴)は、電子スピン共鳴現象を利用して、分子構造の解析、磁性発生メカニズムの解析、フリーラジカルの計量による健康食品の開発などに使用する観測技術である。なお、原理は、静磁場中に電磁場を導入し、電磁場の中の磁場が静磁場に直交するように電磁場の方向をそろえる。この互いに直交する磁場の中に試料を置き、原子の外殻電子のスピンを共鳴させるものである。また、ESRに使用する検出器を大別すると、非共振器タイプと共振器タイプがある。非共振器タイプはマイクロ波、ミリ波の周波数を変化させることができるので、静磁場強度を一定にしてもあらゆる条件下でのESR信号を検出できるので便利である。しかし、検出感度が悪い。一方、共振器タイプは、入力するマイクロ波やミリ波の周波数は、共振器の共振周波数以外では使用できない。しかし、検出感度を高くすることができる。このため、ESRの主流は共振器タイプである。
次に、共振器タイプについて説明する。
共振器を大別すると、金属製の矩形や円筒の箱の中に電磁波を導入して共振させ、この電磁波中の磁界を使用する方法と、コイルとコンデンサからなる共振器で、コイルを通り抜ける磁界を用いる方法がある。
この2つの方法ともに、磁界が大きな体積中にあり、磁界密度を高くすることが難しい。
【先行技術文献】
【0003】
特許2007−3112851伝送線路を用いたESR検出器
【非特許文献】
【0004】
なし
【発明の概要】

【発明が解決しようとしている課題】
【0005】
本発明は、磁界の体積を小さくして感度及び分解能向上をはかることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、伝送線路を用いた共振器で、電磁界が限られた空間に存在することにより、高感度化できる検出器に関するものである。またさらに、これに加えて、試料を置く場所の導体を細くして電流密度を高めることにより、この電流によって生ずる磁界強度を高めることができ、このことによりさらに高感度化できるとともに、細いところのみでESRを検出するので、大きな試料の中の位置を特定できる。この位置が特定できることにより、ESRの画像化もできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法を用いると、以下に示す効果がある。
・ 今までの感度の2倍以上の高感度化が実現できる。
・ 検出器の周辺に触れても、共振周波数が変化しない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】スタブを含む同軸タイプESR検出器
【図2】短絡部5の拡大
【図3】100μM/l TEMPOL水溶液の扁平セル表面でのESRスペクトラム
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に本発明を実施するためのブロック図を示す。たとえば右方向から9.60GHzの電磁波を同軸ケーブル1に入力する。中心導体2を伝わって左方向に進んだ電磁波は、ギャップ3で構成するコンデンサを伝わって共振器4に入る。共振器4の左端は短絡部5で同軸ケーブル1の外部導体に接続している。なお、この共振器4は左端が短絡した共振器で、共振モード8に示すように3/4λ(λ:波長),5/4λ,7/4λなどで共振する。そして、短絡部5は電圧が0であるが、電流が最大に流れる。短絡部5を流れる電流による磁界の近傍に試料6を置き、電流による交流磁場に直交して、理論通りの強さの静磁場を印加する。もし、試料6に不対電子が存在すると電子スピン共鳴が起こる。
なお、電子スピン共鳴が起こっていないときに、反射波が最小になるようにスタブ7を伸ばしたり縮めたりして調整する。これは共振器からの反射波とスタブ側からの反射波の振幅と位相がベクトル的に加算して反射波が最小になるのである。
なお、スタブとは、同軸ケーブルの外部導体と内部導体がスライドしたり伸縮してりして、反射波の位相が変化するもので、終端はショートでもオープンでもアッテネータであってもよい。
【実施例】
【0010】
図2に短絡部5を拡大したところを示した。短絡部は外部導体の1/50と細い電気導体で、電流が集中するため、交流磁界強度が強くなり、ESR検出感度が向上する。
図3に100μM/lのTEMPOL水溶液をガラス製扁平セルに入れ、その表面を短絡部5で触れたときのESRスペクトラムを示した。
【実施例】
【0011】
外部導体端部が中心導体端部よりも0.3mm飛び出した構造にしたところ、試料が短絡部に接触しないので安定してESRシグナルが検出できた。
なお、中心導体の共振部分の切断をしたギャップ部に0.4mm厚さの誘電体を挿入したところギャップの距離が安定するとともに、検出部の製造も容易になった。なお、感度の低下は見られなかった。
【産業への利用可能性】
【0012】
大きな試料の一部のESR測定,または二次元でスキャニングしてESRの画像化。
人間の手や足の爪を測定することによる、放射線の被爆量の測定など、今まで実現できなかったESR測定が行え、多くの利用可能性がある。
【符号の説明】
【0013】
1 同軸ケーブル
2 中心導体
3 ギャップ
4 共振器
5 短絡部
6 試料
7 スタブ
8 共振モード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部の中心導体が共振周波数で共振する長さで切れていて、先端部で中心導体と外部導体が短絡部で接続している同軸状のESR検出器
【請求項2】
短絡部の導体径が中心導体の1/10以下である、請求項1のESR検出器
【請求項3】
外部導体端部が中心導体端部よりも外部導体最大径の1/50以上飛び出していて、短絡部は中心導体端部から概ね垂直方向で外部導体に接続している請求項1,2のESR検出器
【請求項4】
共振部の手前に、位相調整用のスタブ分を有する請求項1,2,3のESR検出器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−103234(P2012−103234A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265722(P2010−265722)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(502383889)キーコム株式会社 (28)