説明

FBG光ファイバセンサを用いた傾斜計

【課題】FBG方式(ファイバグレーティング方式)の光ファイバセンサで傾斜計を構成することにより、広域にわたる同時計測の場合であっても、敷設する伝送ケーブル本数を少なくでき、かつ伝送最大距離を延長でき、コストを安価にして構成できる傾斜計 を提供する。
【解決手段】本発明は、傾斜計であって、筐体と、筐体内部の天井面に固定された柔軟性を有する錘保持部材と、錘と、錘保持部材の外周面上に錘保持部材の軸心方向に向かって設置された第1ファイバグレーティング部と、錘保持部材の軸心方向に向かい少なくとも一つ設置された第2ファイバグレーティング部と、第1ファイバグレーティング部及び第2ファイバグレーティング部からの計測信号を伝送する伝送用光ファイバと、を備えて形成された計測部と、第1ファイバグレーティング部及び第2ファイバグレーティング部の両側を前記錘保持部材に固定する固定具と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FBG光ファイバセンサを用いた傾斜計にかかり、特に地すべり斜面地盤や構造物の傾斜角度等の傾斜を検知する傾斜計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傾斜計は地盤や構造物などの挙動変化による傾斜角度の変化量を計測する装置である。従来の傾斜計は内部に錘を内蔵しており、筐体と錘の相対的な位置変化量を検知し、傾斜計の傾斜角度に変換するものである。
錘の相対的な位置変化量は錘の保持部材のひずみ量として検知するものが多く、いずれもひずみ量は電気信号として出力される。
【0003】
したがって、例えば複数の傾斜計で広域にわたる地盤傾斜を同時に計測する場合、
従来の傾斜計では、
(1)傾斜計毎に少なくとも1本の電気信号ケーブルが必要となり、ケーブル材料費と設置費用が多大となってしまう。
(2)電気信号を測定器に伝送する距離は最大1km程度であり、それ以上は信号増幅装置が必要となる。そのため機器費用や設置費用が多大となってしまう。
との課題があった。
【特許文献1】特開2000−97693号公報
【特許文献2】特開2001−50744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かくして、本発明は前記従来の課題に対処すべく創案されたものであって、いわゆるFBG方式(ファイバグレーティング方式)の光ファイバセンサで傾斜計を構成することにより、広域にわたる同時計測の場合であっても、敷設する伝送ケーブル本数を少なくでき、かつ伝送最大距離を延長でき、さらにコストを安価にして構成できる傾斜計の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による傾斜計は、
筐体と、
筐体内部の天井面に一端が固定された柔軟性を有する錘保持部材と、
前記錘保持部材に取り付けられた錘と、
前記錘保持部材の外周面上に、該錘保持部材の軸心方向に向かって設置された第1ファイバグレーティング部と、前記第1ファイバグレーティング部の設置位置より錘保持部材の軸回りへ回転させた位置に、錘保持部材の軸心方向に向かい、少なくとも1つ設置された第2ファイバグレーティング部と、前記第1ファイバグレーティング部及び第2ファイバグレーティング部からの計測信号を伝送する伝送用光ファイバと、を備えて形成された計測部と、
前記第1ファイバグレーティング部及び第2ファイバグレーティング部の両側を前記錘保持部材に固定する固定具と、
を有することを特徴とし、
または
前記計測部は、前記第1ファイバグレーティング部の設置位置より第2ファイバグレーティング部の設置位置方向に向かって、錘保持部材の軸回りに回転させた位置に複数個のファイバグレーティング部を設置して構成された、
ことを特徴とし、
または
前記計測部を、錘保持部材上部に設けられた、
ことを特徴とし、
または
前記傾斜計を複数用意し、該複数の傾斜計は、前記伝送用光ファイバで直列に接続された、
ことを特徴とし、
または
前記複数の傾斜計を地表面や構造物上において直列に接続設置された、
ことを特徴とし、
または
前記複数の傾斜計を地中孔内において鉛直方向直列に接続設置された、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明による傾斜計であれば、広域にわたる複数の傾斜計による同時計測の場合であっても、敷設する伝送ケーブル本数を少なくでき、かつ特別の装置を付加せずに長距離の信号伝送を可能とし、さらにコストを安価にして計測できるとの優れた効果を奏する。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を図に基づき説明する。
図1は、本発明による傾斜計1の基本的構成を示す。本発明において、筒状をなす筐体2内に傾斜計1が収納されており、例えば被測定物(図示省略)の上面部に筐体2の底面部が載置固定される。
よって被測定物が傾斜すると筐体2も同様に傾斜する様構成されている。
この際、例えば筐体2の側面部や天井部が歪むことがあってはならない。また、筐体2自身は、被測定物の傾斜にかかわらず変形しない剛性が要求される。したがって筐体2は鉄、アルミ等の金属部材で製作されることが望ましい。
なお、筐体2内部の天井面には錘保持部材3の一端が固定される。
該固定方法は特に限定されるものではないが、例えば錘保持部材3の先端部を螺刻するとともに、天井部に螺旋孔を穿設し、該螺旋孔に錘保持部材3を螺着すること等が考えられる。
【0008】
ここで錘保持部材3は柔軟性を要求されており、例えば柔軟性のある円柱状あるいは円筒状をなす金属棒あるいは金属製パイプが用いられる。しかしながら、錘保持部材3はこのような円柱状あるいは円筒状をなす金属棒あるいは金属製パイプに限定されるものではなく、柔軟性を有する弾性部材であればよい。
そして錘保持部材3の下部には錘4が取り付けられる。ここで錘4の設置目的は被測定物の傾斜に応じて錘保持部材3に曲げを与えることにある。したがって錘保持部材3と錘4の軸方向全長は、筐体2内部空間高さ以下に制限される。
【0009】
次に、錘保持部材3の外周面上には、該錘保持部材3の軸心方向に向かって第1ファイバグレーティング部5が設置され、該第1ファイバグレーティング部5の設置位置より錘保持部材の軸回りへ回転させた位置に、錘保持部材3の軸心方向に向かい少なくとも1つ第2ファイバグレーティング部6が設置される。そして前記第1ファイバグレーティング部5及び第2ファイバグレーティング部6からの計測信号を伝送する伝送用光ファイバ7と前記の第1ファイバグレーティング部5及び第2ファイバグレーティング部6とを備えて計測部8が形成される。ここで、図1から理解されるように、前記伝送用光ファイバ7は、筐体2上部側面に穿設された貫通孔12を介して外部から導入され、錘保持部材3の上方から軸方向下方に向かって錘保持部材3の略側面に沿うように敷設される。また前記第1ファイバグレーティング部5及び第2ファイバグレーティング部6の下方においてこれら双方のファイバグレーティング部は前記伝送用光ファイバ7によって接続されている。
【0010】
一方図2に示すように第1ファイバグレーティング部5及び第2ファイバグレーティング部6との間に、例えば第3ファイバーグレーティング部13が設けられている場合には、前記伝送用光ファイバ7は、前記第1ファイバグレーティング部5及び第3ファイバグレーティング部13の下部における両方のファイバグレーティング部5、13を接続するとともに、第2ファイバグレーティング部6、第3ファイバグレーティング部13の上部において双方ファイバグレーティング部6、13を接続するものとする。
【0011】
そして末端の第2ファイバグレーティング部6の下側から錘保持部材3の軸方向上方に向かい錘保持部材3に沿って敷設され、更に前記貫通孔12を介して外部へ導出される。
次に前記第1ファイバグレーティング部5、第2ファイバグレーティング部6及び第3ファイバグレーティング部13の両側は、固定具9により前記錘保持部材3に固定される。
【0012】
ここで、固定具9の形態等については何ら限定されるものではなく、接着剤での固定、樹脂材からなる錘保持部材3への埋め込みなどが考えられる。これにより、各ファイバグレーティング部が固定された部分の錘保持部材3のひずみは、前記第1ファイバグレーティング部5、第2ファイバグレーティング部6及び第3ファイバグレーティング部13のひずみから検知することが可能になる。
【0013】
図3は傾斜した被測定物上に載置された傾斜計1の状態を示す。図3から理解されるように筐体2が傾斜した場合、錘保持部材3の錘4による引張方向が変化する。
すなわち筐体2が傾斜することで錘4が受ける分力が変化する。そして錘保持部材3には、その分力の変化に応じた曲げが発生する。したがって錘保持部材3には新たなひずみが発生することになる。ここで当該傾斜によって発生したひずみとは、計測時に検知されたひずみと傾斜角0度における初期ひずみの差によって算出されるものである。
【0014】
したがって、前記第1ファイバグレーティング部5及び第2ファイバグレーティング部6、場合によってはその間に設けられる例えば第3、第4、第5ファイバグレーティング部などの前記ひずみを計測することにより錘保持部材3の当該傾斜によって発生したひずみが算出されることになる。そして後述する関係式より錘保持部材3の最大曲げひずみが算出され、傾斜角と最大曲げひずみとの関係により、筐体2の傾斜角度が求まるものである。
【0015】
次に、図5は錘保持部材3のファイバグレーティング部設置部分の断面における傾斜方向と応力の関係を示す。錘保持部材3の軸心を中心点Oとして、傾斜方向にY軸をとり、軸心を通過するY軸との垂線をX軸とする。またX軸に対して錘保持部材3の軸心と第1ファイバグレーティング部5設置位置がなす角度を傾斜方向角αとし、第1ファイバグレーティング部5の設置位置より錘保持部材3の軸回りへ90度回転させた位置に、第2ファイバグレーティング部6を設置している場合を示す。
【0016】
ここで当該断面における第1ファイバグレーティング部5のひずみをε1、第2ファイバグレーティング部6のひずみをε2とし、最大ひずみをεmaxとすると傾斜方向の角度αは次の式で決定される。
【0017】
【数1】

また数1の式により錘保持部材3上の第1ファイバグレーティング部5及び第2ファイバグレーティング部6設置断面上の最大ひずみεmaxが算出される。この最大ひずみεmaxは、傾斜方向に対して軸回りに180度の位置に発生するものであり、傾斜角に応じて変化する。したがって最大ひずみεmaxを求めることで筐体2の傾斜角を求めることができる。
以上より、筐体2の傾斜角度及び傾斜方向が算出される。この結果被測定物の傾斜角度と方向が導出される。
【0018】
ところで、FBG素子は、温度変化の影響を受けて出力が変化する。そのため一般的には別途温度補正用ファイバグレーティング部を設け補正を行うことが行われる。しかし本発明においては、以下の理由からこのような温度補正用ファイバグレーティング部の設置を必要としない。
【0019】
図6に第1ファイバグレーティング部5乃至第4ファイバグレーティング部14が設置されている錘保持部材3の断面を示す。
ここで、前記各ファイバグレーティング部で検知されるひずみは、曲げにより生じるひずみと、温度変化により生じるひずみを合成したものとなる。
そして、この合成されたひずみのうち曲げによるひずみは、数2の式により算出することができる。
【0020】
時刻t1における各ファイバグレーティング部(1)乃至(4)に検知されるひずみをε11,ε21,
ε31, ε41とし、これらの平均ひずみをεt1とした場合、この各ファイバグレーティング部(1)乃至(4)に検知されるひずみのうち曲げによるひずみε’11,ε’21,
ε’31, ε’41が、当該式により算出することができる。
また、時刻t1からΔt後の時刻t2における各ファイバグレーティング部に検知されるひずみをε12,ε22,
ε32, ε42とし、これらの平均をεt2とすると、数3の式により同様に各ファイバグレーティング部に検知されるひずみのうち曲げによるひずみε’12,ε’22,
ε’32, ε’42が算出できる。
【0021】
一方温度変化は、数4の式により算出することができる。つまり、時刻t1から時刻t2の間の温度変化(温度差)を各時刻における平均ひずみεtiの差分に温度校正係数αを乗じることによって算出するものである。
以上の結果より、温度差算出が可能となりもって計測信号の温度補正が可能となるものである。
したがって前記温度補正用ファイバグレーティング部を設けなくとも、曲げ計測用の第1ファイバグレーティング部5乃至第4ファイバグレーティング部14の計測信号の演算により温度補正が可能となる。
【0022】
【数2】

【0023】
【数3】

時刻t1から時刻t2の間に変化した温度変化(温度差)K12は以下のように示される。
【0024】
【数4】

β:温度校正係数
【0025】
図7は複数の傾斜計1を同時に用いて遠距離の信号伝送を行う場合を示す。図7から理解されるように、各傾斜計1・・・間は伝送用光ファイバ7によって接続される。ここで前述のとおり、各傾斜計1は筐体2側面の貫通孔12から伝送用光ファイバ7を導出している。したがって該伝送用光ファイバ7を例えばコネクタ接続あるいは融着接続などで長尺に接続することによって、傾斜計1、1間および末端の傾斜計1から測定装置11間を伝送用光ファイバ7で直列接続することが可能となる。
【0026】
そして、複数の傾斜計1・・・を水平方向に向かい直列に接続設置して傾斜計測する実施例としては、当該発明の傾斜計を地すべりが予測される斜面に設置し、地すべりによる斜面の傾斜角度の変化量を計測し、災害を事前に予知する場合が考えられる。すなわち地すべり斜面の防災監視に効果を発揮するものと考えられる。
【0027】
また複数の傾斜計1・・・を垂直方向に向かい直列に設置して傾斜計測する実施例としては、当傾斜計を地中に掘削した孔の中に設置することにより、地盤の移動による地盤内の変状を計測することができる。すなわち地盤の斜面下方のすべり挙動の計測に効果を発揮するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による概略構成を説明する構成説明図(その1)である。
【図2】本発明による概略構成を説明する構成説明図(その2)である。
【図3】本発明による概略構成を説明する構成説明図(その3)である。
【図4】本発明による計測原理を説明する説明図である。
【図5】本発明による計測原理を説明する説明図である。
【図6】計測部が形成された錘保持部材の概略を説明する概略構成説明図である。
【図7】本発明による実施例の構成を示す構成説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 傾斜計
2 筐体
3 錘保持部材
4 錘
5 第1ファイバグレーティング部
6 第2ファイバグレーティング部
7 信号伝送用光ファイバ
8 計測部
9 固定具
10 天井
11 測定装置
12 貫通孔
13 第3ファイバグレーティング部
14 第4ファイバグレーティング部
ε1 第1ファイバグレーティング部応力
ε2 第2ファイバグレーティング部応力
εmax 最大ひずみ
θ 傾斜角
α 傾斜方向角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
筐体内部の天井面に一端が固定された柔軟性を有する錘保持部材と、
前記錘保持部材に取り付けられた錘と、
前記錘保持部材の外周面上に、該錘保持部材の軸心方向に向かって設置された第1ファイバグレーティング部と、前記第1ファイバグレーティング部の設置位置より錘保持部材の軸回りへ回転させた位置に、錘保持部材の軸心方向に向かい、少なくとも一つ設置された第2ファイバグレーティング部と、
前記第1ファイバグレーティング部及び第2ファイバグレーティング部からの計測信号を伝送する伝送用光ファイバと、を備えて形成された計測部と、
前記第1ファイバグレーティング部及び第2ファイバグレーティング部の両側を前記錘保持部材に固定する固定具と、
を有することを特徴とする傾斜計。
【請求項2】
前記計測部は、前記第1ファイバグレーティング部の設置位置より第2ファイバグレーティング部の設置位置方向に向かって、錘保持部材の軸回りに回転させた位置に複数個のファイバグレーティング部を設置して構成された、
ことを特徴とする請求項1記載の傾斜計。
【請求項3】
前記計測部は、錘保持部材上部に設けられた、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の傾斜計
【請求項4】
前記傾斜計を複数用意し、該複数の傾斜計は、前記伝送用光ファイバで直列に接続された、
ことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の傾斜計
【請求項5】
前記複数の傾斜計は、地表面や構造物上において直列に接続設置された、
ことを特徴とする請求項4記載の傾斜計
【請求項6】
前記複数の傾斜計は、地中孔内において鉛直方向直列に接続設置された、
ことを特徴とする請求項4記載の傾斜計

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−205740(P2007−205740A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21790(P2006−21790)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)