FGF2を有効成分として含む喘息および慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤
本発明は、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast Growth Factor-2, FGF2)または塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor, bFGF)を有効成分として含む喘息(Asthma)および慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD)の予防または治療剤に関するものである。また、本発明は、卵アルブミン(Ovalbumin, OA)および二重鎖RNA(dsRNA)によって誘導されるTh1喘息およびCOPDマウス動物モデルに関するものである。
本発明によるFGF2を有効成分として含む治療剤は、気道線維化(fibrosis)、気道炎症、気道過敏性、気道リモデリング、喘息およびCOPDの治療または予防に有用に使用することができる。また、卵アルブミンおよび二重鎖RNAを使用して開発された喘息およびCOPD動物モデルは、喘息およびCOPD治療剤の開発に有用に使用することができる。
本発明によるFGF2を有効成分として含む治療剤は、気道線維化(fibrosis)、気道炎症、気道過敏性、気道リモデリング、喘息およびCOPDの治療または予防に有用に使用することができる。また、卵アルブミンおよび二重鎖RNAを使用して開発された喘息およびCOPD動物モデルは、喘息およびCOPD治療剤の開発に有用に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast Growth Factor-2, FGF2)または塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor, bFGF)を有効成分として含む喘息(Asthma)および慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD)の予防または治療剤に関するものである。また、本発明は、卵アルブミン(Ovalbumin, OA)および二重鎖RNA(dsRNA)によって誘導されるTh1喘息およびCOPDマウス動物モデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この20年間、喘息の発病率は二倍に増加し、今日、世界人口の8%〜10%に影響を及ぼしている。喘息は主に、気道の慢性炎症疾患によって生じ、非特異的刺激に対する気道過敏性(Airway HyperResponsiveness, AHR)および気道リモデリングで特徴付けられ、後者は線維芽細胞(Fibroblast)および筋線維芽細胞(myofibroblasts)のような構成成分の構造および機能の変化を伴う。喘息の種類には、気管支喘息、心臓性喘息等があり、単純に喘息と言えば気管支喘息を意味する。
【0003】
喘息と共に代表的な肺疾患の一つである慢性閉塞性肺疾患は、非可逆的な気道の閉塞を伴うという点で喘息とは異なり、現在世界の死亡率の4位を占めていて、10大疾患中で唯一その発病率が増加している重要な疾患である。COPDは、気道および肺実質の炎症による細気管支および肺実質の病理学的変化によって発生する病気で、閉塞性細気管支炎および肺気腫(肺実質破壊)を特徴とする。慢性閉塞性肺疾患の種類には、慢性閉塞性気管支炎(Chronic obstructive bronchitis)、慢性細気管支炎(Chronic bronchiolitis)および肺気腫(Emphysema)がある。
【0004】
このような喘息および慢性閉塞性肺疾患を治療する従来の方法は、抗炎症作用を持つ治療剤や気管支拡張効果を持つ治療剤を使用するものである。前記抗炎症作用を持つ代表的な治療剤には、グルココルチコイド(glucocorticoid)、ロイコトリエンモディファイアー(leukotriene modifiers)、テオフィリン(theophylline)等がある。
【0005】
しかし、前記グルココルチコイドは効果面では強力であるが、薬物副作用が問題となるため吸入治療を必要とし、治療効果も選択的に作用するのではなく、すべての免疫反応と抗炎症反応を抑制するため、場合によっては必要な免疫反応まで抑制する問題点がある。前記ロイコトリエンモディファイアーは、副作用は少ないが効果面で限界があり、単独使用時には喘息を調節することができない。したがって、大部分補助的に使用しているという問題点がある。前記テオフィリンは効果面でも優秀ではなく、副作用の心配があるという問題点がある。
【0006】
したがって、効果が優秀で副作用が少ない治療剤の開発が切実に求められており、それのためには喘息の発生機序に対する正確な理解が必要である。
【0007】
これと関連して、喘息発生においてタイプ1のヘルパーT細胞(type1 helper T cells, Th1)またはタイプ2のヘルパーT細胞(type2 helper T cells, Th2)が分泌するサイトカインが重要な役割をし、Th1とTh2によって分泌されるサイトカイン間の不均衡によって喘息が誘発されるということが従来の一般的な仮説であるが(Th1/Th2仮説)(Mosmann等, J. Immunol., 1986年, 第136巻, 2348〜57頁; Robinson等, N. Engl. J. Med., 1992年, 第326巻, 298〜304頁; Grunig等, Science, 1998年, 第282巻, 2261〜3頁; Richter等, Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 2001年,第25巻,385〜91頁)、それに関する詳しい機序は、明らかにされていない。
【0008】
Th2細胞によって生産されるサイトカインの中で、特にインターロイキン13(Interleukin-13, IL-13)が喘息の発生機序において重要なものであると考えられている(Grunig 等, Science, 1998年, 第282巻, 2261〜3)。それは、次の報告によって裏付される。アレルギー性喘息動物モデルにおいて、IL−13を遮断した時、アレルゲンによる気道過敏性が抑制され、再び組換えIL−13を気道内に投与した時、気道過敏性が誘導され(Marsha等, Science, 1998年, 第282巻,2258〜2261)、IL−13過剰発現トランスジェニックマウスで見られる組織所見は、喘息患者に見られるものと類似しており、過剰発現したIL−13が気道の炎症、粘液分泌の増加、上皮細胞線維化等を誘導する(Zhu等, J. Clin. Invest., 1999年,第103巻,779〜788頁)。
【0009】
一方、IL−13は好酸球(eosinophils)のような炎症細胞の浸潤を増進させてAHRを促進すると報告されたが(Hargreave等, J. Allergy clin. Immunol., 1986年, 第78巻,825〜-32頁)、最近では、IL−13による気道過敏性の誘導が好酸球の浸潤と関係なく起きるという証拠が提示されている(Venkayya等, Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 2002年,第26巻,202〜8頁)。
【0010】
このようなIL−13による喘息は、形質転換増殖因子β1(Transforming Growth Factor β1, TGF-β1)または血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)を通じて発生することが知られている(Lee等, Nat. Med., 2004年,第10巻,1095〜1103頁)。
【0011】
TGF−β1は、組織損傷後の傷部を治療する最も重要な物質で、気道リモデリングの重要な病理学的変化である組織線維化を誘導する。すなわち、線維芽細胞を筋線維芽細胞に変化させて、筋線維芽細胞は休止線維芽細胞(resting fibroblasts)よりコラーゲンをさらに多量に分泌させて組織線維化を通じた気道リモデリングを誘発する(Vignola等, Am. J. Respir. Crit. Care Med., 1997年,第156巻,591〜599頁)。これは、IL−13過剰発現トランスジェニックマウスが主にTGF−β1依存的な経路を通じて肺の線維化を誘導するという報告と一致するものである(Lee等, J. Exp. Med., 2001年,第194巻,809〜21頁)。
【0012】
前記の組織線維化過程で、TGF−β1は線維芽細胞増殖因子2または塩基性線維芽細胞増殖因子およびその受容体であるFGFレセプター1(FGFR1)またはFGFレセプター2(FGFR2)を誘導するものとして報告された。このようなFGF2は、従来から内皮細胞または平滑筋細胞の増殖に関与し、血管新生に重要な役割を果たすことが知られていたが(Nugent等, Int. J. Biochem. Cell Biol. 2000年,第32巻,115〜20頁)、気道過敏性と喘息の発病におけるFGF2の役割については、現在まで全く知られていない状態であった。
【0013】
血管内皮増殖因子は、毛細管で血漿タンパク質の透過を増加させるサイトカインの一種で、細胞の分裂と移動を促進して細胞の再構成を起こすタンパク質分解酵素を誘導する機能をする。また、アポトーシスの抑制を通じた新しく形成された血管の生存の維持、神経抗原の抑制による免疫調節、および細胞の成長および分裂の誘導に関与する。本発明者らは、抗原および異物に対する免疫反応において、IL−13とVEGFが互いに陽性のフィードバックループを形成することができることをすでに明らかにした(Lee等, Nat. Med., 2004年,第10巻,1095〜1103頁)。VEGFを通じた喘息の発生においても、FGF2の役割は現在まで全く知られていない状態である。
【0014】
次に、喘息の発生と関連して論議される他の機序は、Th1が分泌するサイトカインであるインターフェロンガンマ(Interferon-γ, IFN-γ)によるものである。IFN−γは、病原体に対する防御機序でTh1細胞から分泌される物質で(Fong等, J. Imunol., 1989年,第143巻,2887〜93頁)、Th2によるサイトカインの生産を阻害するものとして知られてきた(Mosann等, J. Immunol., 1986年,第136巻,2348〜57頁)。したがって、Th1/Th2仮説によれば、IFN−γがそれによって発生する喘息を抑制することができるものと考えられた。しかし、このような理論に対する見解はするどく対立しており、反対意見は、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスでも喘息と類似の気道リモデリングが観察され(Wang等, J. Exp. Med., 2000年,第192巻,1587〜1600頁)、特に喘息患者の重篤度とIFN−γの増加が有意な相関関係を持つという多くの報告によって裏付される(Corrogan等, Lancet 1988年,第1巻,1129〜32頁; Mognan等, Am. J. Respir. Crit. Care Med., 2000年,第161巻,1790〜6頁)。
【0015】
同時に、前記反対意見は、喘息治療剤に現在最も広く使用されているコルチコステロイド(corticosteroids)、ベータ2刺激剤(β2-adrenergic agonists)およびメチルキサンチン系薬物(Methylxanthine derivatives)等の薬理作用が、免疫学的な面ではTh2免疫反応を抑制するよりむしろTh1免疫反応を抑制するという事実によっても裏付される。したがって、Th1/Th2仮説によるTh2免疫反応の増進により喘息の発病機序を説明することには限界がある。
【0016】
一方、COPDに関して現在まで正確な発生機序はほとんど知られておらず、様々な治療方法が使用されているが、発病および進行を根本的に治療することができる薬剤は存在しないのが実情である。したがって、COPDの病因機序研究および、それを根拠にした根本的薬剤開発が切望されているのが実情である。
【0017】
しかし、最近のトランスジェニックマウスを使用した研究結果を詳しく見てみると、喘息の発生に関与することが明らかにされたIFN−γ(Wang等, J. Exp. Med., 2000年,第192巻,1587〜1600頁)およびIL−13(Zheng等, J. Clin. Invest., 2000年,第106巻,1081〜93頁)が、ヒトのCOPDと類似の病理所見を導き出すことができる物質として注目されている。先に言及したように、このようなサイトカインは、主に免疫細胞で分泌されるもので、COPDの病因機序において免疫反応の役割が非常に重要であることを示唆している。免疫細胞から分泌されるIFN−γおよびIL−13は、COPDの主要症状である気道および肺実質の炎症反応において攻撃因子として主な役割を果たし、このような炎症反応による組織損傷等を治癒する過程での防御因子と攻撃因子とのバランスが、気道および肺胞上皮細胞の再生過程において特に重要である(Lee等, J. Exp. Med., 2004年,第200巻,377〜89頁)。この過程で攻撃因子が強過ぎたりそれを治癒する防御因子が過剰に不足する状況で、COPDが発生し得ることが考えられる。
【0018】
以上のことに鑑みて本発明者らは、FGF2の喘息発生およびCOPD発生における、IL−13、TGF−β1、VEGFおよびIFN−γに関連した新しい役割を解明して、FGF2がインターロイキン−13によって誘導される血管内皮増殖因子による気道の気道過敏性を抑制することにより気道過敏性を低減し、インターフェロンガンマによる気道過敏性、気道および肺実質の炎症による肺気腫を抑制することを確認することにより、FGF2が喘息およびCOPDの治療または予防に有用に使用できることを確認した。
【0019】
また、卵アルブミンおよび二重鎖RNAを使用して、喘息およびCOPDモデルを開発し、喘息およびCOPD治療剤開発において効率的な実験遂行を可能にする、Th1喘息およびCOPD動物モデルを確立することによって本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、線維芽細胞増殖因子2または塩基性線維芽細胞増殖因子を有効成分として含む喘息および慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供するものである。また、本発明は、アレルゲンとして卵アルブミン(OAlbumin, OA)および二重鎖RNAによって誘導されるTh1喘息およびCOPDマウス動物モデルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、FGF2を有効成分として含む喘息予防または治療剤を提供する。
【0022】
本発明はまた、前記喘息がIL−13の過剰発現によって誘発されることを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0023】
本発明はまた、前記喘息がIFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0024】
本発明はまた、前記FGF2がIL−13の活性を抑制することを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0025】
本発明はまた、前記FGF2が血管内皮増殖因子の活性を抑制することを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0026】
本発明はまた、前記FGF2がTGF−β1の活性を抑制することを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0027】
本発明はまた、FGF2を有効成分として含む、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供する。
【0028】
本発明はまた、前記慢性閉塞性肺疾患がIFN−γの過剰発現によって誘導されることを特徴とする、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供する。
【0029】
本発明はまた、卵アルブミンを含むアレルゲンおよび二重鎖RNAを気道内に直接投与することを含む、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0030】
本発明はまた、前記動物がマウスである、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0031】
本発明はまた、前記製造方法が下記の工程を含む、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0032】
(1)BALB/cマウスに5〜15μgの二重鎖RNAであるポリイノシンポリシチジン酸(polyinosinic-polycytidylic acid)および50〜100μgの卵アルブミンを4回鼻腔に投与して感作する工程、
(2)10日後、25〜75μgの卵アルブミンを鼻腔に感作する工程。
【0033】
本発明はまた、前記工程(1)の感作する二重鎖RNAが10μgで使用される、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0034】
本発明はまた、前記工程(1)の感作する卵アルブミンが、75μgの卵アルブミンであり、工程(2)の10日後、50μgの卵アルブミンを使用する、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0035】
本発明はまた、前記喘息が非好酸球性であることを特徴とする、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0036】
本発明はまた、前記方法によって製造された、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルを提供する。
【0037】
本発明はまた、前記動物がマウスである、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルを提供する。
【0038】
本発明はまた、FGF2を有効成分として含むIL−13、VEGFまたはTGF−β1活性抑制剤を提供する。
【0039】
本発明はまた、FGF2を有効成分として含む気道線維化、気道炎症、気道過敏性または気道リモデリング抑制剤を提供する。
【0040】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、FGF2を有効成分として含む喘息の治療または予防用製薬組成物を提供する。前記喘息が、IL−13またはIFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする喘息予防または治療剤を提供する。前記FGF2が、IL−13、血管内皮増殖因子、またはTGF−β1の活性を抑制することを特徴とする喘息予防または治療剤を提供する。
【0041】
喘息とは、気管支喘息、心臓性喘息等を含み、好ましくは気管支喘息を意味する。喘息の特徴的症状は、気道過敏性および気道リモデリングである。
【0042】
気道リモデリングは、遺伝的素因がある人において、アレルギー抗原、感染、または刺激剤等によって免疫反応が増加して起きるようになり、T細胞が細胞間の情報交換物質であるサイトカインを分泌するようになり、分泌されたサイトカインは炎症細胞を組織内に移動させて気道の慢性的な炎症を繰り返し誘発し、結局気道がリモデリングされるものである。
【0043】
気道過敏性は、喘息発生の主要因子であると考えられ、それが他の呼吸器疾患と区別される点である。しかし、このような気道過敏性症状は、気道リモデリングの特徴である気道平滑筋増殖症(airway smooth muscle hyperplasia)、収縮性(contractility)および上皮下および肺柔組織線維化等を伴う。よって、気道炎症、気道過敏性および気道リモデリングは、お互いに密接不可分の関係があり、一症状の治療が別の症状の治療を伴うことがあり、一つの治療剤で気道炎症、気道過敏性および気道リモデリングのすべてを治療することができる。
【0044】
このような特徴を持つ喘息の経路と関連して、古典的によく知られた代表的なTh2サイトカインIL−4を過剰発現するトランスジェニックマウス(IL-4 TG(+))は、正常マウス(WT)と比較した時、気道過敏性に差がなかったが(図1A)、一方Th2サイトカインであるIL−9過剰発現トランスジェニックマウス(IL-9(+)/IL-13(+/+))の場合、正常マウスに比較して気道過敏性が増加しているが、IL−13遺伝子を除去した場合(IL-9(+)/IL-13(-/-))気道過敏性が消えるという事実によって、IL−9過剰発現による喘息がIL−13を通じて媒介されることが裏付けされる(図1B参照)。
【0045】
これを証明するために、IL−13を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製して気道過敏性、IL−13によって過剰発現されることが知られたTGF−β1とVEGFとの関係を評価した時、平均的にIL−13を過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて、気道過敏性が正常マウスに比較して増加していることが分かる(図2参照)。
【0046】
また、IL−13過剰発現されたトランスジェニックマウスの気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage, BAL)において、TGF−β1とVEGFの生成が増加した(図3参照)。このような結果はまた、IL−13による気道過敏性が下流の物質であるTGF−β1とVEGFとによって調節されることを意味する。
【0047】
さらに、IL−13経路による気道過敏性が下流でVEGFによって調節されるということは、受容体2の信号伝達遮断剤(signaling blocker)であるSU1498を使用してIL−13によって誘導される気道過敏性が阻害されることを確認して証明された(図4参照)。
【0048】
さらに、前記のようなIL−13経路による喘息において、FGF2の役割は解明されていない状態であり、本発明者らはFGF2がIL−13によって誘導されるVEGFおよびTGF−β1を通じた喘息の症状の治療に効果的であることを確認した。
【0049】
FGF2欠損マウスを使用してFGF2が遮断されると正常マウスに比較してVEGFの量が増加することを観察した(図5参照)。したがって、気道過敏性も増加することを確認した(図6参照)。これは、FGF2欠損マウスにおいてVEGFを同時に遮断した場合、気道過敏性が抑制されるという実験結果(図6参照)と一致するものである。
【0050】
これは、FGF2が、IL−13からのVEGFを介した喘息の治療に効果的であることを示すもので、下記の結果から証明される。
【0051】
IL−13が主要媒介物として作用するTh2喘息モデルにおいて、FGF2を投与した後その効果を測定した結果、FGF2はメタコリンに対する気道過敏性を低減し(図20参照)、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数を減少させ(図21参照)、Th2喘息の重要な媒介因子であるIL−13およびVEGFの発現を抑制することを観察した(図22参照)。また、組織学的検査の結果、FGF2によって肺気管支壁の肥厚および閉塞が減少して、肺組織が正常と類似したものになることを確認した(図23参照)。前記結果から、FGF2がVEGFおよびIL−13の生成を阻害して気道過敏性と炎症を抑制し、喘息の治療に効果的に使用できることが分かった。
【0052】
IL−13喘息経路の別の下流物質であるTGF−β1と関連して、以前にTGF−β1で形質転換されたマウスで肺気管支の気道リモデリングが観察され(Lee等, J. Exp. Med., 2004年,第200巻,377〜389頁)、IL−13によって誘導される肺気管支の線維化は 、TGF−β1に依存性であることが報告された(Lee等, J. Exp. Med. 2001年,第194巻,809〜821頁)。TGF−β1で形質転換されたマウスにおいて、TGF−β1によって気道の抵抗力と気道閉塞が重度に誘導され(図7参照)、メタコリンによる気道過敏性は抑制されることを観察した(図8参照)。
【0053】
このようなTGF−β1を通じたIL−13経路による喘息において、FGF2の役割解明のためにFGF2を欠損させたマウスで気道過敏性を測定して比較した結果、TGF−β1による気道過敏性の減少効果がFGF2欠損マウスでは現われないことを確認することができた(図9参照)。前記結果は、TGF−β1による気道過敏性の減少が、TGF−β1自体によるものであるというよりは、TGF−β1と一緒に発現されるFGF2に起因するものであることを示す。すなわち、FGF2が存在する状態でのTGF−β1の増加は気道過敏性を低減するが、FGF2が存在しない状態では、TGF−β1にかかわらず気道過敏性が増加することが分かる。
【0054】
以上の実験結果からFGF2の役割を叙述すると、気道の組織が損傷を被れば免疫システムが作動して、TGF−β1によって気道平滑筋細胞と線維芽細胞とが筋線維芽細胞に変換され、変換された筋線維芽細胞によって線維症が誘発される。この時、TGF−β1によって減少した気道平滑筋細胞および線維芽細胞の細胞数を補うために、FGF2は、気道平滑筋細胞および線維芽細胞を増殖させると同時に、前記筋線維芽細胞の気道平滑筋細胞および線維芽細胞への変換を誘導する。したがって、FGF2は筋線維芽細胞を線維芽細胞に変化させて筋線維芽細胞の細胞数を減らして気道リモデリングを低減し、同時に気道過敏性を低減する役割を果たすということが分かる。
【0055】
このようなFGF2による気道リモデリングの抑制を説明するために、FGF2欠損マウスでコラーゲン量と気道過敏性を測定した結果、FGF2欠損マウスの肺では、コラーゲンを分泌する線維芽細胞の数が正常実験マウスに比較して相対的に少なかった(図10参照)。これは、FGF2による線維芽細胞の増殖が行われずに細胞数が少なくなり、それにより線維芽細胞から分泌されるコラーゲンの量が少なくなったことを示している。また、メタコリンによる気道過敏性を測定した結果、FGF2が正常に存在する正常マウスは気道過敏性に大きな影響を受けないのに比べて、FGF2が欠損した場合、気道過敏性が大幅に増大することを観察した(図9参照)。前記の結果は、IL−13からTGF−β1に至る経路においてFGF2が欠損すると線維芽細胞の増殖および筋線維細胞から線維芽細胞への変換が成立せず、気道リモデリングが進行してメタコリン反応に強い線維芽細胞の数が減少し、気道過敏性が増大したと解釈される。よって、これは、FGF2がIL−13からTGF−β1への経路による喘息の治療にも効果的に使用できることを示すものである。
【0056】
以前のIL−13を通じた喘息の経路以外に、Th1サイトカインであるIFN−γも喘息の発生に重要であるという見方が台頭してきている。Th1から分泌されるサイトカイン、特にIFN−γは、喘息と深い関係があることが多くの研究から明らかにされている。このようなTh1の活性化によって進行する喘息モデルはまだ存在しない。これは、既存の喘息研究の大部分が、Th2の活性化によって喘息が発生するというTh1/Th2理論に焦点を合わせていたため、好酸球や免疫グロブリンE(Immunoglobulin E, IgE)が過剰発現され得る喘息モデルのみを作製し、使用したためである。
【0057】
しかし最近、好酸球性炎症がなくても気道過敏性が誘導され得る(Venkayya R, Am J Respir Cell Mol Biol 2002年,第26巻,202〜8頁)、非好酸球性喘息患者が喘息患者全体の過半数であるという研究結果等が報告されている(Douwes等, Thorax, 2002年,第57巻,643〜8頁)。したがって、既存の仮説を飛び越えて、Th1タイプの喘息モデル製造およびそれを使用した研究が至急な実情である。
【0058】
そこで本発明者らは、IFN−γによって誘導されたTh1喘息およびCOPD動物モデルを作出し、これによりFGF2の役割を解明してFGF2がIFN−γによる喘息およびCOPDの治療にも有用であることを発見した。
【0059】
したがって、本発明は、FGF2を有効成分として含む喘息の予防または治療剤以外に、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供する。前記慢性閉塞性肺疾患は、IFN−γの過剰発現によって誘発され得る。
【0060】
まず、IFN−γによる喘息でのIFN−γとFGF2との関係を解明するために、IFN−γにより形質転換されたマウスの肺からFGF2の発現をRT‐PCRを使用して測定した結果、正常マウスと対照的にFGF2の発現が著しく阻害されていることを観察した(図13参照)。前記結果は、FGF2がIFN−γシグナリング経路によってその発現が抑制されることを意味する。
【0061】
一方、IFN−γによって誘導される気道炎症および気道過敏性からFGF2の役割を詳しくみてみる。IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス(IFN-γ(+)/FGF2(+/+))にFGF2遺伝子欠損を誘導して気道過敏性を測定した。BAL中の炎症細胞数、および炎症関連サイトカインの発現量を測定した。その結果、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスで、FGF2遺伝子欠損の時(IFN-γ(+)/FGF2(-/-))、気道過敏性および炎症が顕著に増加することを観察した(図14A、B参照)。このようなIFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスでの、FGF2欠損による気道過敏性および炎症の増加において、VEGFの増加が重要な役割を果たすと考えられる(図14C参照)。前記結果は、IFN−γによって誘導される気道炎症および気道過敏性もまた、FGF2で有用に治療可能であることを示している。
【0062】
IFN−γが主に媒介物として作用するTh1喘息モデルにおいて、FGF2の活性を測定した結果、FGF2はメタコリンに対する気道過敏性を低減する(図27参照)。前記結果から、FGF2がIFN−γ経路を通じた喘息の治療に有用に使用できることが分かる。
【0063】
続いて、FGF2を前記Th1喘息およびCOPDマウスに投与して治療効果を測定した。
【0064】
FGF2処置時に、前記マウスでは、BAL内の炎症細胞数(図26参照)およびメタコリンに対する気道過敏性(図36参照)が減少した。
【0065】
さらに前記マウスは、気道過敏性以外にCOPDの症状である肺実質細胞のアポトーシスを誘発する。このような気道過敏性と肺実質細胞のアポトーシスは、FGF2の有無によって影響を受ける。IFN−γが過剰発現された実験マウスにおいて、FGF2を投与すると気道過敏性が低減し(図27参照)、IFN−γによって誘導される肺実質細胞の破壊もFGF2の投与によって減少する(図28および図29参照)。また、IFN−γによる組織損傷および肺胞破壊または肺気腫もやはりFGF2の投与によって減少する(図30および図31参照)。
【0066】
以上で詳しく見たように、喘息およびCOPDにおいて増殖因子として知られたFGF2が、むしろ気道過敏性を低減させて肺胞破壊を抑制し、喘息およびCOPDの治療または予防剤としての効果があることが分かる。
【0067】
一方、本発明のFGF2を有効成分として含む喘息またはCOPDの予防または治療剤は、組成物総重量に対して前記有効成分を0.0001〜50重量%含むことができる。
【0068】
本発明の治療剤は、前記有効成分に同様または類似の機能を示す有効成分をさらに1種以上含むことができる。
【0069】
本発明の治療剤は、投与のために、前記有効成分以外に薬剤学的に許容可能な担体を1種以上さらに含んで製造することができる。薬剤学的に許容可能な担体としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エチルアルコール、リポソームおよびこれら成分の中から1成分以上を混合して使用することができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤等他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液等のような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができ、標的器官に特異的に作用するように標的器官特異的抗体またはその他のリガンドを前記担体と結合させて使用することができる。さらに当該技術分野の適正な方法でまたはレミングトンの文献(Remington's Pharmaceutical Science(最新版)、Mack Publishing Company, Easton PA)に開示されている方法を使用して、各疾患に応じてまたは成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0070】
本発明の治療剤の投与方法は、特別にこれに制限されるものではないが、目的と方法に応じて非経口投与(例えば静脈内、皮下、腹腔内、局所または鼻腔に適用)したり経口投与することができ、非経口投与が好ましく、鼻腔投与が好ましい。投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度等によってその範囲が多様である。
【0071】
一日投与量は、化合物の場合約0.005〜10mg/kg、好ましくは0.05〜1mg/kgであり、一日一回〜数回に分けて投与することがさらに好ましい。
【0072】
本発明の治療剤は、治療のために単独で、または手術、ホルモン治療、薬物治療および生物学的反応調節剤を使用する方法等と併用して使用することができる。
【0073】
本発明のFGF2をマウスの鼻腔内に投与して毒性実験を遂行した結果、毒性試験による50%致死量(LD50)が少なくとも1,000mg/kg以上の安全な物質であると判断された。
【0074】
さらに、本発明は卵アルブミンを含むアレルゲンおよび二重鎖RNAを気道内に直接投与することを含む、Th1喘息またはCOPD動物モデルの製造方法を提供する。
【0075】
前記の方法は、下記の工程を含む。
(1)BALB/cマウスに5〜15μgの二重鎖RNAであるポリイノシンポリシチジン酸および50〜150μgの卵アルブミンを4回鼻腔に投与する感作工程、および
(2)10日後に25〜75μgの卵アルブミンを鼻腔に感作する工程。
【0076】
前記工程(1)の感作する二重鎖RNAは、10μgで使用することが好ましい。前記工程(1)の卵アルブミンは、75μgで使用するのが好ましい。前記工程(2)の10日後に使用する卵アルブミンは、50μgで使用するのが好ましい。
【0077】
前記喘息は、非好酸球性であり得る。
【0078】
さらに本発明は、前記方法によって製造されたTh1喘息またはCOPD動物モデルを提供する。
【0079】
前記の動物は、実験用に使用されるすべての哺乳類に属する動物を含み、好ましくはマウスである。
【0080】
Th1喘息またはCOPD動物モデルの作製と関連して、ウイルスの複製工程で生成される二重鎖RNA(double-stranded RNA, dsRNA)は、生体内で抗ウイルス活性を示す1型(type1)インターフェロン(IFN)であるIFN‐α、IFN‐βを強力に誘導することが知られている(Guidotti等, Annu. Rev. Immunol., 2001年,第19巻,65〜91頁)。そして、このような1型インターフェロンは、IL−12およびIFN−γの生成を促進する一方、樹枝状細胞の成熟とT細胞の初回抗原刺激(priming)を増進させて獲得免疫反応を誘導できることが知られている(Londhe等, FEBS Lett., 2003年,第553巻,33〜8頁)。したがって、本発明者らは、dsRNAで処置してTh1経路によって喘息が誘発された動物モデルを作製した。
【0081】
動物モデルの作製に使用するdsRNAの具体的配列および長さは、Th1喘息を誘導する限り制限はなく、市販の物を購入して使用することができるが、好ましくはポリイノシンポリシチジン酸(polyI:C)である。
【0082】
前記Th1経路によって喘息が誘発されたマウスは、気道過敏性が増加することを確認し(図15参照)、リンパ球、好中球およびマクロファージなどの細胞数は増加したが好酸球数は増加しないことを観察した。媒介因子では、Th1反応と関連のあるIP−10だけが格段に増加した(図16および図17参照)。前記結果は、OAおよびdsRNAによって非好酸球性気道炎症(non-eosinophilic airway inflammation)が誘導されたことを意味する。また、肺気管支洗浄液におけるIFN−γの増加と、血液中の抗原特異的IgG1およびIgG2の増加とを確認した(図18および図19参照)。これにより、OAおよびdsRNAによる気道感作は、IFN−γと抗原特異的IgG2aによるものであり、抗原特異的IgEとは関連がないと見られ、Th1動物モデルの確立を確認した。
【0083】
同時に、前記動物モデルはまた、COPDの症状を示し、すなわち肺の大きさおよび容積増加と肺胞の破壊とともに、コラーゲン量の増加から深刻な線維化が招来されたことを確認することができた(図28〜31参照)。
【0084】
前記結果から、Th1喘息モデルマウスがまた、COPDの病因機序を示すことができるモデルであることを確認することができた。
【0085】
したがって、アレルゲン(卵アルブミン、OA)および二重鎖RNAを気道内に直接投与して作製した本発明のモデルが、Th1または非好酸球性喘息動物モデルであることを確認し、喘息およびCOPDモデルを開発して喘息およびCOPD治療剤開発において効率的な実験遂行に有用に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0086】
以下、本発明を例によってより詳しく説明する。
但し、下記の例は本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の例によって限定されるものではない。
【0087】
例1:IL−13過剰発現による喘息の発生およびVEGFとTGF−β1との関連性
IL−13による喘息の発生を調査するためにIL−13が過剰発現されたトランスジェニックマウスを作製して、このマウスでの気道過敏性を測定して、前記マウスでIL−13の過剰発現がTGF−β1およびVEGFの発現に及ぼす影響を調査した。
【0088】
例1−1:IL−13トランスジェニックマウスの作製
IL−13を過剰発現するトランスジェニックマウスを以前に記述されたとおり作製した(Zhou Zhu 等, J. Clin. Invest., 1999年,第103巻,779〜788頁; Tang等, J. Clin. Invest., 1996年,第98巻,2845〜2853頁; Ray等, J. Clin. Invest., 1997年,第l00巻,2501〜2511頁)。要約すると、IL−13の候補遺伝子を気道に選択的に発現させるために、抗炎症呼吸器細胞の一つのクララ(Clara)細胞10kDaタンパク質(CC10)の発現を誘導するプロモーター(University of CincinnatiのB. StrippおよびJ. Whitsett)に連結したIL−13候補遺伝子を含むコンストラクトを使用した。マウス内に導入された遺伝子発現を外部から調節することができる誘導性トランスジェニックマウスの作製のために、CC10プロモーターにリバーステトラサイクリントランス活性化因子(reverse tetracycline transactivator, rtTA)とヒト成長ホルモン(human growth hormone, hGH)遺伝子とを作動可能に連結してpKS-CC10-rtTA-hGHを準備した(Ray等, J. Clin. Invest., 1997年,第98巻,2501〜2511頁)。Elutip-Dカラム(Schleicher and Schuell Inc, 米国)で前記プラスミドDNAを精製し、微細注入バッファー(0.5mM Tris‐HCl、25mM EDTA、pH7.5)で透析した。続いて前記文献による前核内注入法を使用して、CBAマウスおよびC57BL/6マウスを交配させて得たF2卵に前記プラスミドDNAを注入して前記文献に記載された方法によってトランスジェニックマウスを作製した。すべてのトランスジェニックマウスは、トランスジェニックマウスと正常マウスに無作為に0.5mg/mlドキシサイクリン(doxycycline, dox)が含まれた水を飲ませた後、それぞれのマウスから得た気管支肺胞洗浄液でIL−13タンパク質の数値を評価して形質転換の有無を評価した。
【0089】
例1−2:IL−13が過剰発現されたトランスジェニックマウスでの気道過敏性の測定
IL−13によって形質転換されたマウスでの喘息発生の有無を確認するために、喘息の代表的症状である気道過敏性を下記のように測定した。気道過敏性は、当該技術分野で公知の慣用の方法によって、DRS(dose response slope)(Pediatric Allergy and Immunology, 2003年,第14巻,193頁)およびPenh(Mckinley等, Clinical & Experimental Immunology, 2004年,第136巻,224〜231頁)で測定することができる。Penh(enhanced pause, Penh)は、最大呼気圧(peak expiratory pressure, PEP)を最大吸気圧(peak inspiratory pressure, PIP)で割った値にポーズ(pause)を掛けて得た値を求めて得ることができる。具体的には、例1−1の形質転換されたマウスを、再感作の24時間後および48時間後に、メタコリンを3分間噴霧して気道過敏性を誘導し、動物用体容積変動記録機(Whole body plethysmography)を使用して、最大呼気圧および最大吸気圧を10秒単位で3分間測定し、3分間を平均してデータで示した(図2)。図2は、IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示した結果である。
【0090】
図2に見られるように、全般的にIL−13過剰発現トランスジェニックマウスでは、気道過敏性が正常マウスに比較して増加したことが分かる。
【0091】
例1−3:トランスジェニックマウスでのIL−13の過剰発現がVEGFおよびTGF−β1の発現に及ぼす影響
IL−13の過剰発現によって誘導された気道過敏性と、IL−13シグナリング経路の下流に存在することが知られたVEGFおよびTGF−β1との関連性を調査するために下記の実験を遂行した。例1−1で作製したマウスの気道にSP45管(tube)を導管(cannulation)し、0.1%BSAと0.05mM EDTAとを含んだ滅菌生理食塩水で洗浄して得た気管支肺胞洗浄液を遠心分離した。採取したBAL上清において、ELISAキット(CalBiotech, 米国)を使用してVEGFおよびTGF−β1タンパク質の発現量を測定した(図3)。図3は、IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群で気管支肺胞洗浄液に存在するVEGFとTGF−β1の発現量を示したグラフである。
【0092】
図3に見られるように、IL−13の過剰発現によって気道過敏性が誘発されたトランスジェニックマウス由来のBALにおいて、TGF−β1およびVEGFの生成が増加することを確認した。このような結果は、IL−13による気道過敏性が下流の物質であるTGF−β1とVEGFとによって調節されることを示唆し、これは次の例1−4の結果によって証明される。
【0093】
例1−4:VEGFの遮断剤による気道過敏性の抑制
前記例1−3の効果を確認するために、VEGF受容体2の信号伝達経路遮断剤(signaling blocker)であるSU1498(EMD Biosciece, 米国)を前記例1−1で作製したマウスの腹腔に毎日一回ずつ10mg/kgの量で注射した(図4)。図4は、IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群における、VEGF受容体2の抑制剤であるSU1498の投与による気道過敏性を示したグラフである。
【0094】
図4に見られるように、IL−13の過剰発現によって誘導される気道過敏性がVEGF受容体2の信号伝達経路遮断剤によって抑制され、IL−13によって誘導される気道過敏性がVEGFを介した信号伝達によるものであることを確認することができた。
【0095】
例2:IL−13によって誘発された喘息でのFGF2の役割の解明
IL−13およびその下流の物質であるTGF−β1とVEGFの調節によって発生する喘息でのFGF2の役割を調べるために、FGF2欠損マウスでの気道過敏性および気道リモデリング発生の有無を調査した。
【0096】
例2−1:FGF2の欠損による気道過敏性
FGF2の気道過敏性との関連性を調査するために下記の実験を遂行した。FGF2欠損マウスは、ジャクソンラボ(Jackson Lab,CA, 米国)から購入して使用した。気道過敏性は、メタコリンに対するAHR(DRS)、および気道過敏性マウスで増加したことが明らかにされたVEGFおよびTGF−β1タンパク質のBALにおける量をそれぞれ例1−2および1−3に記載したのと同じ方法で測定した(図5および6)。図5は、FGF2欠損マウス群および正常マウス群のBAL中のVEGFおよびTGF−β1の発現量を示したグラフである。図6は、FGF2欠損マウス、および例1−4に記載したようにVEGF遮断剤で処置されたFGF2欠損マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【0097】
図5に見られるように、FGF2欠損マウスは正常マウスに比較してVEGFの量が増加した。これは気道過敏性の増大を示唆するもので、図6の結果と一致するものである。
【0098】
図6に見られるように、FGF2が欠損したマウスでは気道過敏性が増大した。このような気道過敏性は、VEGF遮断剤の投与によって抑制されることを観察した。ゆえに、FGF2の欠損による気道過敏性はVEGFの発現によるものであり、FGF2の投与がVEGFの発現を抑制してVEGF経路を通じた喘息の予防および治療に有用であることを示すものである。
【0099】
例2−2:FGF2の欠損による気道リモデリング
FGF2の気道リモデリングとの関連性を調査するために、気道リモデリングに伴う細胞増殖および変換を測定することができる下記の実験を遂行した。
【0100】
FGF2欠損マウスは、ジャクソンラボ(Jackson Lab,CA, 米国)から購入して使用した。前記マウスから当該技術分野における公知の方法によって肺組織を抽出し、細胞増殖および変換を測定することができる組織内のコラーゲン量を、シルコルコラーゲン分析キット(Sircol Collagen assay kit,Biocolor assay, 北アイルランド)を製造者の指示にしたがって使用して分析した(図10)。図10は、FGF2欠損マウス群と正常マウス群の肺組織内のコラーゲン量を示したグラフである。
【0101】
図10に見られるように、FGF2欠損マウスから分泌されたコラーゲン量が、正常実験マウスに比較して相対的に少ないことを確認した。
【0102】
このような結果は、FGF2が欠損したマウス肺で、コラーゲンを分泌する線維芽細胞の細胞数が少なくなったことを意味するものであり、これはFGF2の欠損により肺で線維芽細胞が筋線維芽細胞に変化して移動したことにより線維芽細胞の数が少なくなったことが原因で、気道リモデリングが増大したことを示す。
【0103】
したがって、このような結果は、FGF2が気道リモデリングおよび気道過敏性を減少させて喘息の治療に効果的に使用できることを示すものである。
【0104】
例3:TGF−β1による喘息の発生
IL−13によって誘導されることが知られたTGF−β1の発現による喘息の発生を調べるために、前記例1−1と同じ方法でTGF−β1を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製して下記の実験を遂行した。
【0105】
例3−1:TGF−β1による気道リモデリングの発生
気道リモデリングによる気道過敏性を例1−2と同じ方法で測定した(図7)。図7は、TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群の時間による気道過敏性を示したグラフである。図8は、TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【0106】
図7に見られるように、気道過敏性(Penh)を測定した結果、TGF−β1によって気道の抵抗力が重度に誘導された。
【0107】
しかし、図8に見られるように、メタコリンによる気道過敏性(AHR)は抑制されることを確認した。前記結果から、TGF−β1の過剰発現は喘息の症状の中で気道リモデリングにだけ関与することが分かる。
【0108】
例3−2:TGF−β1による気道過敏性減少におけるFGF2の役割
前記例3−1で詳しく見たように、TGF−β1による気道過敏性減少にFGF2が関与するかどうかを調べるために、FGF2を制限したマウスで気道過敏性を測定して比較した(図9)。図9は、正常マウスまたはFGF2を欠損したマウスにおける、TGF−β1(R&D system,米国)投与後の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【0109】
図9に見られるように、TGF−β1による気道過敏性の減少は、FGF2の欠損マウスで鈍化した。前記結果は、TGF−β1による気道過敏性の減少は、TGF−β1自体によるものというよりは、TGF−β1と一緒に発現されるFGF2に起因したものであることを示す。TGF−β1の増加による気道過敏性の減少には、FGF2が関与することが分かる。
【0110】
例4:IFN−γ過剰発現による喘息の発生およびFGF2の役割
重症喘息とCOPDの主な媒介物であるIFN−γが媒介する喘息モデルを作製して、FGF2の役割を解明するために、例1と同じ方法でIFN−γで形質転換されたマウスを作製して下記の実験を遂行した。
【0111】
例4−1:IFN−γ過剰発現による気道過敏性の増大
トランスジェニックマウスでの気道過敏性を例1−2と同じ方法で測定した(図11)。続いて、例1−3と同じ方法で、AHRおよびBAL中のVEGF、TGF−β1、およびIFN−γによって誘導されることが知られたIP−10のタンパク質量を測定した(図12)。図11は、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【0112】
図11に見られるように、IFN−γトランスジェニックマウスでは、均質に(homogeneously)気道過敏性が高くなることを確認することができた。
【0113】
図12に見られるように、前記マウスはTh2で発現されるIL−13によって誘導されるVEGFやTGF−β1の量は増加しない代わり、Th2とは関係ないIP−10(Interferon-inducible Protein 10)が増加することを確認し、これは前記マウスで誘導された気道過敏性がIFN−γに特異的であることを示唆する。
【0114】
例4−2:IFN−γ過剰発現による気道過敏性へのFGF2の役割
IFN−γ過剰発現がFGF2の発現に及ぼす影響
IFN−γ過剰発現による気道過敏性へのFGF2の役割を調べるために、IFN−γトランスジェニックマウスでFGF2の転写レベルでの発現量を測定した(図13)。正常マウスおよびトランスジェニックマウスの肺組織から公知の方法によってRNAを抽出して、RT(reverse transcription)−PCRを遂行した。要約すると、正常マウスおよびトランスジェニックマウスの肺組織1gを製造者の指示どおりトリゾル試薬(TRIzol Reagent,Life Technology, 米国)を使用して総RNAを分離した。続いて分離した総RNAを鋳型にして製造者の推奨どおりにRT−PCRキット(Promega, 米国)を使用してcDNAを合成した。続いて、合成されたcDNA1μgを鋳型にして上位プライマー(upper primer: 5'-ACT CAC ATT CGA AAC CCC AAA C-3')および下位プライマー(lower primer: 5'-CGT CAG ATC GCC TGG AGA C-3')を使用して、下記の条件でPCRを遂行してFGF2特異的cDNAを増幅した。PCRは、95℃で8分間予備変性させた後、95℃で1分、56℃で1分、72℃で1分間を35回繰り返し遂行して最後に72℃で10分間反応させた。図13は、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の肺組織内のFGF2特異的cDNAの増幅を示したアガロースゲル写真である。
【0115】
図13に見られるように、IFN−γで形質転換されたマウスでFGF2の発現が阻害されることを確認することができ、これはIFN−γによってFGF2発現が抑制されることを示すものである。
【0116】
IFN−γ過剰発現による気道過敏性へのFGF2の役割
IFN−γにより誘導される気道炎症および気道過敏性における具体的なFGF2の役割を詳しく見るために、下記の遺伝子組換えを有するマウスで気道過敏性、BAL中の炎症細胞数および炎症関連タンパク質量を測定した(図14)。前記マウスは、以前に記述されたとおり作製した(Zhou Zhu等, J. Clin. Invest., 1999年,第103巻,779〜788頁; Tang等, J. Clin. Invest., 1996年,第98巻,2845〜2853頁; Ray等, J. Clin. Invest., 1997年,第l00巻,2501〜2511頁)。図14で、+は該当遺伝子が過剰発現されたマウスを示し、−は該当遺伝子が欠損したマウスを示す。図14のAは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群における気管支肺胞洗浄液中の総細胞数(Total)、マクロファージ(M)、リンパ球(L)、好中球(N)、好酸球(E)の細胞数を示したグラフである。図14のBは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群における、メタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。図14のCは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群における気管支肺胞洗浄液中のVEGF、TGF−β1およびIP−10の発現量を示したグラフである。
【0117】
図14に見られるように、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスでFGF2遺伝子をなくすと、IFN−γによって誘導される気道過敏性がさらに増加し、炎症細胞数が増加することが観察され、気道炎症がさらにひどくなることを確認することができた。これは、FGF2がまた、IFN−γによって誘発される喘息にも有用に使用できることを示す。
【0118】
例5:FGF2投与による、IL−13によって誘導されたTh2喘息の抑制
IL−13によるTh2喘息において、FGF2タンパク質による具体的な喘息抑制活性を測定するため、下記の実験を遂行した。
【0119】
組換えFGFタンパク質(rFGF2)は、ファーマシアアップジョン(Phamacia-Upjohn、イタリア)社から購入して使用した。
【0120】
気道過敏性が誘発されたマウス作製のために、75μgの卵アルブミン(OA)と2mgのアラムをBALB/cマウス(Jackson Lab, 米国)の腹腔に二度注射して感作し、10日後に50μgの卵アルブミンを鼻腔に再感作してTh2喘息を誘発した。前記Th2喘息が誘発されたマウスを、Th2喘息実験マウスと命名した。
【0121】
続いて前記マウスおよび正常マウスにそれぞれrFGF2を4日間、1日1回10μg/頭の用量で鼻腔に投与または非投与(生理食塩水)後、メタコリンに対する気道過敏性(図20)、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞(図21)および、媒介因子としてのVEGF、IL−13、IL−5およびIP−10(図22)の量を例1−2および1−3に記載した方法で測定した。
【0122】
図20は、Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2を投与後の、メタコリン濃度に応じた気道過敏性を示したグラフである。図21は、Th2喘息実験マウス群と正常マウス群でrFGF2を投与した後、気管支肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。図22は、Th2喘息実験マウス群と正常マウス群における、rFGF2を投与した後の、気管支肺胞洗浄液中のVEGF、IL−13、IL−5およびIP−10の量を示したグラフである。
【0123】
図20に見られるように、rFGF2で処置していないTh2喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスでメタコリンに対する気道過敏性が低いことを確認した。
【0124】
図21に見られるように、rFGF2で処置していないTh2喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスにおいて気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数が減少することを確認した。
【0125】
図22に見られるように、rFGF2で処置されていないTh2喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスでは、Th2喘息における重要な媒介因子であるIL−13とVEGFの濃度が減少することを確認した。一方、Th2喘息と関連性がないことが知られているIL−5およびIP−10の発現には、変化がないことを確認した。
【0126】
また、喘息が誘発されたマウスをrFGF2で処置後、肺気管支壁の組織学的検査を行った(図23)。図23は、Th2喘息実験マウスにrFGF2を投与する前(A)および投与した後(B)の肺組織の病理写真である。
【0127】
図23に見られるように、rFGF2で処置したマウスの肺気管支壁の組織学的検査の結果(B)、FGF2の投与によって肺気管支壁の肥厚および閉塞が減少して正常(C)と同様になることを確認した。
【0128】
前記結果から、FGF2がVEGFおよびIL−13生産を阻害してTh2気道過敏性および炎症を抑制し、喘息の予防および治療に有用に使用できることが分かった。
【0129】
例6:FGF2の投与による、IFN−γによるTh1喘息およびCOPDの抑制
IFN−γによるTh1喘息においてFGF2タンパク質による具体的な喘息抑制活性を測定するため、下記の実験を遂行した。
【0130】
rFGF2タンパク質は、ファーマシアアップジョン(Phamacia-Upjohn、イタリア)社から購入して使用した。IFN−γによるTh1喘息が誘発されたマウスの作製のために下記の実験を遂行した。
【0131】
例6−1:卵アルブミンと二重鎖RNAを使用したTh1喘息およびCOPD動物モデルの確立
BALB/cマウス(Jackson Lab, 米国)を使用して、10μgの合成dsRNAであるポリイノシンポリシチジン酸(polyinosinic-polycytidylic acid,PolyIC, Sigma, 米国)、75μgの卵アルブミン(OvAlbumin, OA)を、それぞれまたは一緒に4回鼻腔に投与して感作し、10日後に50μgの卵アルブミンを鼻腔に再感作して喘息を誘発した。前記マウスをTh1喘息マウスと命名した。陰性対照群マウスには、リン酸緩衝食塩水(PBS, Phospho Buffered Saline)のみを投与した。
【0132】
(1)Th1喘息の特性確認
続いて、前記マウスで実際にTh1喘息の誘発の有無を確認するために、例1−2および1−3に記載した方法と同様にメタコリンによる気道過敏性(図15)、BAL中の炎症細胞数(図16)および媒介因子としてのVEGF、IL−13、IL−5およびIP−10の量(図17)を例1−2および1−3に記載した方法で測定した。
【0133】
図15は、アレルゲン(卵アルブミンOA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した際の、メタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。図16は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、気管支肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。図17は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(VEGF、IL−5、IL−13およびIP−10)の発現量を示したグラフである。
【0134】
図15に見られるように、OAおよびdsRNAによって誘導されたマウスでメタコリン気道過敏性が増加することを確認した。
【0135】
図16に見られるように、前記マウスでリンパ球と好中球、マクロファージ(macrophage)などの細胞の数は増加したが、好酸球の数は増加しないことを確認した。
【0136】
図17に見られるように、前記マウスでは、媒介因子としてTh1反応と関連あるIP−10だけが格段に増加した。
【0137】
前記結果から、卵アルブミンとdsRNAによって非好酸球性気道炎症が起きることを確認した。
【0138】
また、前記Th1喘息がIFN−γによるものであることを確認するために、気管支肺胞洗浄液中のIFN−γならびにIgG1およびIgG2aの量を測定した(図18および図19)。図18は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、気管支肺胞洗浄液中のIFN−γ発現量を示したグラフである。図19は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、血清中のアレルゲン特異抗体(IgG1およびIgG2a)の生成量を示したグラフである。
【0139】
図18および図19に見られるように、気管支肺胞洗浄液中でIFN−γが3倍以上増加し、血液中のIgG1とIgG2の増加も確認された。前記結果から、卵アルブミン抗原とdsRNAによって誘発された喘息は、IFN−γおよび抗原特異的IgG2aによるものであり、Th2喘息で現われることが知られたIgEとは関連がないことが確認された。
【0140】
(2)COPDの特性確認
続いて、前記マウスでのCOPDの誘発の有無を確認するために肺の大きさ、容積およびコラーゲン量を測定した(図28、図29および図30)。図28は、前記作製されたマウスにおける肺の大きさを示し、図29は、前記作製されたマウスにおける肺の容積変化を示したグラフである。図30は、前記作製されたマウスにおける肺線維化の程度を示したグラフである。
【0141】
図28、図29および図30に見られるように、Th1喘息モデルマウスでそれぞれ肺の大きさ、容積およびコラーゲンの量が顕著に増加しており、COPDの特性を兼ね備えていることを確認した。このような肺の大きさ、容積、コラーゲン量の増加は、肺の組織損傷、肺胞破壊、肺気腫を伴うもので、典型的なCOPDの特性であり、それは図31によって確認される。
【0142】
図31のAは、Th1喘息モデルマウスで肺実質組織の破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。図31に見られるように、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスの肺は、典型的なCOPD患者で観察される肺実質細胞の死滅による肺胞面積拡大を確認することができた。
【0143】
前記肺の大きさおよび容積増加、肺胞の破壊とともに、コラーゲン量の増加からして、深刻な線維化が招来されたことを確認することができた。
【0144】
前記結果から、Th1喘息モデルマウスがまた、COPDの病因機序を示すことができるモデルであることを確認することができた。
【0145】
例6−2:FGF2の投与によるTh1喘息の抑制
IFN−γによるTh1喘息においてFGF2タンパク質による具体的な喘息抑制活性を測定するため下記の実験を遂行した。前記例6−1によって作製されたマウスを、Th1喘息実験マウス群と命名した。例6−1で作製されたTh1喘息実験マウスおよび正常マウスに例5と同じ方法でrFGF2を投与した。続いて、前記マウスで、メタコリンに対する気道過敏性を例1−2に記載した方法によって測定した。
【0146】
図27は、Th1喘息実験マウス群と正常マウス群にrFGF2を投与後の、メタコリン濃度に応じた気道過敏性を示したグラフである。
【0147】
図27に見られるように、rFGF2で処置していないTh1喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスにおいて、メタコリンに対する気道過敏性が低いことを確認した。
【0148】
図28は、Th1喘息が誘発されたマウスにおいてFGF2処置をした、およびしていないマウスによる肺の大きさを示した写真である。
【0149】
図28に見られるように、rFGF2で処置していないTh1喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスにおいて肺の大きさが減少することを確認した。
【0150】
前記結果は、FGF2が、IFN−γトランスジェニックマウスの喘息症状を低減することにより、IFN−γによって誘導された喘息の治療に有用に使用できることを示す。
【0151】
例6−3:FGF2の投与によるCOPD抑制
FGF2タンパク質のCOPD抑制活性を測定するため、下記の実験を遂行した。例6−1で作製されたマウスおよび正常マウスに例5と同じ方法でrFGF2を投与した。続いて前記マウスでCOPDの特徴である肺の大きさ、容積およびコラーゲン量を測定した(図28、図29および図30)。図28A、B、CおよびDはそれぞれ正常肺およびCOPDマウスモデルでrFGFを投与した、および投与していない肺を示す。図29は、図28の肺の容積を測定したグラフである。図30A、B、CおよびDは、それぞれ正常肺およびCOPDマウスモデルでrFGFを投与した、および投与していない肺の線維化の程度を示したグラフである。図31は、COPD喘息モデルマウスでrFGF投与前後の肺実質組織の破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。
【0152】
図28のCおよびDそして図29のCおよびDに見られるように、rFGF2の投与で、肺の容積が投与する前と比較して著しく減少することが分かる。図30のCおよびDに見られるように、rFGF2投与後のCOPDマウスでコラーゲンの量が顕著に減少することを確認した。このような肺の大きさ、容積、コラーゲン量の減少は、rFGF2がCOPDの治療に効果的に使用できることを示すものであり、これは図31によって確認される。
【0153】
図31は、COPDマウスで肺実質組織の破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。図31のAに見られるように、処置していない肺(B)の場合、処置したもの(A)と比較して、典型的なCOPD患者で観察される肺実質細胞の死滅による肺胞面積拡大を確認することができ、rFGF2の投与がCOPDの治療に効果的であることが分かる。
【0154】
前記結果は、COPDマウスでは、肺の大きさおよび容積増加と肺胞の破壊とともにコラーゲン量が深刻な線維化が招来され、それがFGF2で治療できることを示すものである。
【0155】
例7:ヒトの喘息でのIFN−γの過剰発現の有無
ヒトの喘息でのIFN−γの過剰発現の有無と、それが非好酸球性細胞によるものであるかどうかを確認するために下記の実験を遂行した。215人の可逆的な気道閉塞を示す成人喘息患者から初日喀痰を分離して、公知の方法によって肺活量測定機(sprimetry)を使用して肺活量を測定した。メタコリン誘発検査(methacholin bronchial challenge)を遂行して肺機能検査を遂行した(図24)。図24は、重症喘息患者における、誘発喀痰中の好酸球が陽性の群(Eosinophilic)および陰性の群(Non-eosinophilic)の割合を示したグラフである。図24に見られるように、成人喘息患者の半分以上は好酸球性というよりは非好酸球性の臨床所見であることを確認した。
【0156】
このような喘息を媒介する因子を確認するために、IL−4およびIFN−γ遺伝子の量を調査した(図25)。図25は、喘息患者の重症度による誘発喀痰中のIL−4およびIFN−γの発現量を示したグラフである。
【0157】
図25に見られるように、重症喘息患者でTh1喘息と関連があるIFN−γの発現量が増加したが、Th2喘息と関連があるIL−4は変化がないことを確認した。前記結果からヒト、特に重度の喘息を持つ患者でIFN−γ経路による非好酸球性Th1喘息が発生し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によるFGF2を有効成分として含む治療剤は、気道線維化、気道炎症、気道過敏性、気道リモデリング、喘息およびCOPDの治療または予防に有用に使用することができる。また、卵アルブミンおよび二重鎖RNAを使用して開発された喘息およびCOPD動物モデルは、喘息およびCOPD治療剤の開発に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】Aは、IL−4過剰発現トランスジェニックマウス群での気道過敏性を示したグラフである。Bは、IL-9(-)/IL-13(+/+)、IL-9(-)/IL-13(-/-)、IL-9(+)/IL-13(+/+)およびIL-9(+)/IL-13(-/-)トランスジェニックマウス群での気道過敏性を示したグラフである。
【図2】IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【図3】IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群の気管支肺胞洗浄液中のVEGFおよびTGF−β1の発現量を示したグラフである。
【図4】IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群における、VEGF受容体2の抑制剤であるSU1498の投与による気道過敏性を示したグラフである。
【図5】FGF2欠損マウス群および正常マウス群の気管支肺胞洗浄液中の血管内皮増殖因子およびTGF−β1の発現量を示したグラフである。
【図6】FGF2またはFGF2およびVEGFノックアウトマウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【図7】TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【0160】
【図8】TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【図9】正常マウスまたはFGF2欠損マウスにおける、TGF−β1投与後の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【図10】FGF2欠損マウス群と正常マウス群の肺組織中のコラーゲン量を示したグラフである。
【図11】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【図12】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気管支肺胞洗浄液中のVEGF、TGF−β1およびIP−10の発現様相を示したグラフである。
【図13】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の肺組織中のFGF2の発現を示したアガロースゲル写真である。
【図14】Aは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群の気管支肺胞洗浄液中の全細胞(Total)、マクロファージ(M)、リンパ球(L)、好中球(N)、好酸球(E)の細胞数を示したグラフである。Bは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群のメタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。Cは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群の気管支肺胞洗浄液中のVEGF、TGF−β1およびIP−10の発現量を示したグラフである。
【0161】
【図15】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時のメタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。
【図16】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の気管支肺胞洗浄液中の全細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。
【図17】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(VEGF、IL−5、IL−13およびIP−10)の発現量を示したグラフである。
【図18】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の気管支肺胞洗浄液中のIFN−γの発現量を示したグラフである。
【図19】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与された時の血清中アレルゲン特異抗体(IgG1およびIgG2a)生成量を示したグラフである。
【図20】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2(rFGF2)を投与後の、メタコリン濃度による気道過敏性を示したグラフである。
【図21】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2(rFGF2)投与した後の、気管支肺胞洗浄液中の全細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。
【図22】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2(rFGF2)投与した後の、気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(VEGF、IL−13、IL−5およびIP−10)の量を示したグラフである。
【図23】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群の、組換えFGF2(rFGF2)投与の有無による肺組織の病理写真である。
【図24】重症の喘息患者における、誘発喀痰中に好酸球が陽性の群および陰性の群の割合を示したグラフである。
【図25】喘息患者の重症度による誘発喀痰中のIL−4およびIFN−γの発現量を示したグラフである。
【0162】
【図26】条件的IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群における、過剰発現誘導物質ドキシサイクリン投与の有無による気管支肺胞洗浄液中の全細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。
【図27】IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群のメタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。
【図28】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺の大きさを示した写真である。
【図29】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺容積の変化を示したグラフである。
【図30】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺の線維化の程度を示したグラフである。
【図31】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺実質組織破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞増殖因子2(Fibroblast Growth Factor-2, FGF2)または塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor, bFGF)を有効成分として含む喘息(Asthma)および慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD)の予防または治療剤に関するものである。また、本発明は、卵アルブミン(Ovalbumin, OA)および二重鎖RNA(dsRNA)によって誘導されるTh1喘息およびCOPDマウス動物モデルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この20年間、喘息の発病率は二倍に増加し、今日、世界人口の8%〜10%に影響を及ぼしている。喘息は主に、気道の慢性炎症疾患によって生じ、非特異的刺激に対する気道過敏性(Airway HyperResponsiveness, AHR)および気道リモデリングで特徴付けられ、後者は線維芽細胞(Fibroblast)および筋線維芽細胞(myofibroblasts)のような構成成分の構造および機能の変化を伴う。喘息の種類には、気管支喘息、心臓性喘息等があり、単純に喘息と言えば気管支喘息を意味する。
【0003】
喘息と共に代表的な肺疾患の一つである慢性閉塞性肺疾患は、非可逆的な気道の閉塞を伴うという点で喘息とは異なり、現在世界の死亡率の4位を占めていて、10大疾患中で唯一その発病率が増加している重要な疾患である。COPDは、気道および肺実質の炎症による細気管支および肺実質の病理学的変化によって発生する病気で、閉塞性細気管支炎および肺気腫(肺実質破壊)を特徴とする。慢性閉塞性肺疾患の種類には、慢性閉塞性気管支炎(Chronic obstructive bronchitis)、慢性細気管支炎(Chronic bronchiolitis)および肺気腫(Emphysema)がある。
【0004】
このような喘息および慢性閉塞性肺疾患を治療する従来の方法は、抗炎症作用を持つ治療剤や気管支拡張効果を持つ治療剤を使用するものである。前記抗炎症作用を持つ代表的な治療剤には、グルココルチコイド(glucocorticoid)、ロイコトリエンモディファイアー(leukotriene modifiers)、テオフィリン(theophylline)等がある。
【0005】
しかし、前記グルココルチコイドは効果面では強力であるが、薬物副作用が問題となるため吸入治療を必要とし、治療効果も選択的に作用するのではなく、すべての免疫反応と抗炎症反応を抑制するため、場合によっては必要な免疫反応まで抑制する問題点がある。前記ロイコトリエンモディファイアーは、副作用は少ないが効果面で限界があり、単独使用時には喘息を調節することができない。したがって、大部分補助的に使用しているという問題点がある。前記テオフィリンは効果面でも優秀ではなく、副作用の心配があるという問題点がある。
【0006】
したがって、効果が優秀で副作用が少ない治療剤の開発が切実に求められており、それのためには喘息の発生機序に対する正確な理解が必要である。
【0007】
これと関連して、喘息発生においてタイプ1のヘルパーT細胞(type1 helper T cells, Th1)またはタイプ2のヘルパーT細胞(type2 helper T cells, Th2)が分泌するサイトカインが重要な役割をし、Th1とTh2によって分泌されるサイトカイン間の不均衡によって喘息が誘発されるということが従来の一般的な仮説であるが(Th1/Th2仮説)(Mosmann等, J. Immunol., 1986年, 第136巻, 2348〜57頁; Robinson等, N. Engl. J. Med., 1992年, 第326巻, 298〜304頁; Grunig等, Science, 1998年, 第282巻, 2261〜3頁; Richter等, Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., 2001年,第25巻,385〜91頁)、それに関する詳しい機序は、明らかにされていない。
【0008】
Th2細胞によって生産されるサイトカインの中で、特にインターロイキン13(Interleukin-13, IL-13)が喘息の発生機序において重要なものであると考えられている(Grunig 等, Science, 1998年, 第282巻, 2261〜3)。それは、次の報告によって裏付される。アレルギー性喘息動物モデルにおいて、IL−13を遮断した時、アレルゲンによる気道過敏性が抑制され、再び組換えIL−13を気道内に投与した時、気道過敏性が誘導され(Marsha等, Science, 1998年, 第282巻,2258〜2261)、IL−13過剰発現トランスジェニックマウスで見られる組織所見は、喘息患者に見られるものと類似しており、過剰発現したIL−13が気道の炎症、粘液分泌の増加、上皮細胞線維化等を誘導する(Zhu等, J. Clin. Invest., 1999年,第103巻,779〜788頁)。
【0009】
一方、IL−13は好酸球(eosinophils)のような炎症細胞の浸潤を増進させてAHRを促進すると報告されたが(Hargreave等, J. Allergy clin. Immunol., 1986年, 第78巻,825〜-32頁)、最近では、IL−13による気道過敏性の誘導が好酸球の浸潤と関係なく起きるという証拠が提示されている(Venkayya等, Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 2002年,第26巻,202〜8頁)。
【0010】
このようなIL−13による喘息は、形質転換増殖因子β1(Transforming Growth Factor β1, TGF-β1)または血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)を通じて発生することが知られている(Lee等, Nat. Med., 2004年,第10巻,1095〜1103頁)。
【0011】
TGF−β1は、組織損傷後の傷部を治療する最も重要な物質で、気道リモデリングの重要な病理学的変化である組織線維化を誘導する。すなわち、線維芽細胞を筋線維芽細胞に変化させて、筋線維芽細胞は休止線維芽細胞(resting fibroblasts)よりコラーゲンをさらに多量に分泌させて組織線維化を通じた気道リモデリングを誘発する(Vignola等, Am. J. Respir. Crit. Care Med., 1997年,第156巻,591〜599頁)。これは、IL−13過剰発現トランスジェニックマウスが主にTGF−β1依存的な経路を通じて肺の線維化を誘導するという報告と一致するものである(Lee等, J. Exp. Med., 2001年,第194巻,809〜21頁)。
【0012】
前記の組織線維化過程で、TGF−β1は線維芽細胞増殖因子2または塩基性線維芽細胞増殖因子およびその受容体であるFGFレセプター1(FGFR1)またはFGFレセプター2(FGFR2)を誘導するものとして報告された。このようなFGF2は、従来から内皮細胞または平滑筋細胞の増殖に関与し、血管新生に重要な役割を果たすことが知られていたが(Nugent等, Int. J. Biochem. Cell Biol. 2000年,第32巻,115〜20頁)、気道過敏性と喘息の発病におけるFGF2の役割については、現在まで全く知られていない状態であった。
【0013】
血管内皮増殖因子は、毛細管で血漿タンパク質の透過を増加させるサイトカインの一種で、細胞の分裂と移動を促進して細胞の再構成を起こすタンパク質分解酵素を誘導する機能をする。また、アポトーシスの抑制を通じた新しく形成された血管の生存の維持、神経抗原の抑制による免疫調節、および細胞の成長および分裂の誘導に関与する。本発明者らは、抗原および異物に対する免疫反応において、IL−13とVEGFが互いに陽性のフィードバックループを形成することができることをすでに明らかにした(Lee等, Nat. Med., 2004年,第10巻,1095〜1103頁)。VEGFを通じた喘息の発生においても、FGF2の役割は現在まで全く知られていない状態である。
【0014】
次に、喘息の発生と関連して論議される他の機序は、Th1が分泌するサイトカインであるインターフェロンガンマ(Interferon-γ, IFN-γ)によるものである。IFN−γは、病原体に対する防御機序でTh1細胞から分泌される物質で(Fong等, J. Imunol., 1989年,第143巻,2887〜93頁)、Th2によるサイトカインの生産を阻害するものとして知られてきた(Mosann等, J. Immunol., 1986年,第136巻,2348〜57頁)。したがって、Th1/Th2仮説によれば、IFN−γがそれによって発生する喘息を抑制することができるものと考えられた。しかし、このような理論に対する見解はするどく対立しており、反対意見は、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスでも喘息と類似の気道リモデリングが観察され(Wang等, J. Exp. Med., 2000年,第192巻,1587〜1600頁)、特に喘息患者の重篤度とIFN−γの増加が有意な相関関係を持つという多くの報告によって裏付される(Corrogan等, Lancet 1988年,第1巻,1129〜32頁; Mognan等, Am. J. Respir. Crit. Care Med., 2000年,第161巻,1790〜6頁)。
【0015】
同時に、前記反対意見は、喘息治療剤に現在最も広く使用されているコルチコステロイド(corticosteroids)、ベータ2刺激剤(β2-adrenergic agonists)およびメチルキサンチン系薬物(Methylxanthine derivatives)等の薬理作用が、免疫学的な面ではTh2免疫反応を抑制するよりむしろTh1免疫反応を抑制するという事実によっても裏付される。したがって、Th1/Th2仮説によるTh2免疫反応の増進により喘息の発病機序を説明することには限界がある。
【0016】
一方、COPDに関して現在まで正確な発生機序はほとんど知られておらず、様々な治療方法が使用されているが、発病および進行を根本的に治療することができる薬剤は存在しないのが実情である。したがって、COPDの病因機序研究および、それを根拠にした根本的薬剤開発が切望されているのが実情である。
【0017】
しかし、最近のトランスジェニックマウスを使用した研究結果を詳しく見てみると、喘息の発生に関与することが明らかにされたIFN−γ(Wang等, J. Exp. Med., 2000年,第192巻,1587〜1600頁)およびIL−13(Zheng等, J. Clin. Invest., 2000年,第106巻,1081〜93頁)が、ヒトのCOPDと類似の病理所見を導き出すことができる物質として注目されている。先に言及したように、このようなサイトカインは、主に免疫細胞で分泌されるもので、COPDの病因機序において免疫反応の役割が非常に重要であることを示唆している。免疫細胞から分泌されるIFN−γおよびIL−13は、COPDの主要症状である気道および肺実質の炎症反応において攻撃因子として主な役割を果たし、このような炎症反応による組織損傷等を治癒する過程での防御因子と攻撃因子とのバランスが、気道および肺胞上皮細胞の再生過程において特に重要である(Lee等, J. Exp. Med., 2004年,第200巻,377〜89頁)。この過程で攻撃因子が強過ぎたりそれを治癒する防御因子が過剰に不足する状況で、COPDが発生し得ることが考えられる。
【0018】
以上のことに鑑みて本発明者らは、FGF2の喘息発生およびCOPD発生における、IL−13、TGF−β1、VEGFおよびIFN−γに関連した新しい役割を解明して、FGF2がインターロイキン−13によって誘導される血管内皮増殖因子による気道の気道過敏性を抑制することにより気道過敏性を低減し、インターフェロンガンマによる気道過敏性、気道および肺実質の炎症による肺気腫を抑制することを確認することにより、FGF2が喘息およびCOPDの治療または予防に有用に使用できることを確認した。
【0019】
また、卵アルブミンおよび二重鎖RNAを使用して、喘息およびCOPDモデルを開発し、喘息およびCOPD治療剤開発において効率的な実験遂行を可能にする、Th1喘息およびCOPD動物モデルを確立することによって本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、線維芽細胞増殖因子2または塩基性線維芽細胞増殖因子を有効成分として含む喘息および慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供するものである。また、本発明は、アレルゲンとして卵アルブミン(OAlbumin, OA)および二重鎖RNAによって誘導されるTh1喘息およびCOPDマウス動物モデルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、FGF2を有効成分として含む喘息予防または治療剤を提供する。
【0022】
本発明はまた、前記喘息がIL−13の過剰発現によって誘発されることを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0023】
本発明はまた、前記喘息がIFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0024】
本発明はまた、前記FGF2がIL−13の活性を抑制することを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0025】
本発明はまた、前記FGF2が血管内皮増殖因子の活性を抑制することを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0026】
本発明はまた、前記FGF2がTGF−β1の活性を抑制することを特徴とする、喘息予防または治療剤を提供する。
【0027】
本発明はまた、FGF2を有効成分として含む、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供する。
【0028】
本発明はまた、前記慢性閉塞性肺疾患がIFN−γの過剰発現によって誘導されることを特徴とする、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供する。
【0029】
本発明はまた、卵アルブミンを含むアレルゲンおよび二重鎖RNAを気道内に直接投与することを含む、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0030】
本発明はまた、前記動物がマウスである、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0031】
本発明はまた、前記製造方法が下記の工程を含む、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0032】
(1)BALB/cマウスに5〜15μgの二重鎖RNAであるポリイノシンポリシチジン酸(polyinosinic-polycytidylic acid)および50〜100μgの卵アルブミンを4回鼻腔に投与して感作する工程、
(2)10日後、25〜75μgの卵アルブミンを鼻腔に感作する工程。
【0033】
本発明はまた、前記工程(1)の感作する二重鎖RNAが10μgで使用される、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0034】
本発明はまた、前記工程(1)の感作する卵アルブミンが、75μgの卵アルブミンであり、工程(2)の10日後、50μgの卵アルブミンを使用する、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0035】
本発明はまた、前記喘息が非好酸球性であることを特徴とする、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法を提供する。
【0036】
本発明はまた、前記方法によって製造された、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルを提供する。
【0037】
本発明はまた、前記動物がマウスである、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルを提供する。
【0038】
本発明はまた、FGF2を有効成分として含むIL−13、VEGFまたはTGF−β1活性抑制剤を提供する。
【0039】
本発明はまた、FGF2を有効成分として含む気道線維化、気道炎症、気道過敏性または気道リモデリング抑制剤を提供する。
【0040】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、FGF2を有効成分として含む喘息の治療または予防用製薬組成物を提供する。前記喘息が、IL−13またはIFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする喘息予防または治療剤を提供する。前記FGF2が、IL−13、血管内皮増殖因子、またはTGF−β1の活性を抑制することを特徴とする喘息予防または治療剤を提供する。
【0041】
喘息とは、気管支喘息、心臓性喘息等を含み、好ましくは気管支喘息を意味する。喘息の特徴的症状は、気道過敏性および気道リモデリングである。
【0042】
気道リモデリングは、遺伝的素因がある人において、アレルギー抗原、感染、または刺激剤等によって免疫反応が増加して起きるようになり、T細胞が細胞間の情報交換物質であるサイトカインを分泌するようになり、分泌されたサイトカインは炎症細胞を組織内に移動させて気道の慢性的な炎症を繰り返し誘発し、結局気道がリモデリングされるものである。
【0043】
気道過敏性は、喘息発生の主要因子であると考えられ、それが他の呼吸器疾患と区別される点である。しかし、このような気道過敏性症状は、気道リモデリングの特徴である気道平滑筋増殖症(airway smooth muscle hyperplasia)、収縮性(contractility)および上皮下および肺柔組織線維化等を伴う。よって、気道炎症、気道過敏性および気道リモデリングは、お互いに密接不可分の関係があり、一症状の治療が別の症状の治療を伴うことがあり、一つの治療剤で気道炎症、気道過敏性および気道リモデリングのすべてを治療することができる。
【0044】
このような特徴を持つ喘息の経路と関連して、古典的によく知られた代表的なTh2サイトカインIL−4を過剰発現するトランスジェニックマウス(IL-4 TG(+))は、正常マウス(WT)と比較した時、気道過敏性に差がなかったが(図1A)、一方Th2サイトカインであるIL−9過剰発現トランスジェニックマウス(IL-9(+)/IL-13(+/+))の場合、正常マウスに比較して気道過敏性が増加しているが、IL−13遺伝子を除去した場合(IL-9(+)/IL-13(-/-))気道過敏性が消えるという事実によって、IL−9過剰発現による喘息がIL−13を通じて媒介されることが裏付けされる(図1B参照)。
【0045】
これを証明するために、IL−13を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製して気道過敏性、IL−13によって過剰発現されることが知られたTGF−β1とVEGFとの関係を評価した時、平均的にIL−13を過剰発現するトランスジェニックマウスにおいて、気道過敏性が正常マウスに比較して増加していることが分かる(図2参照)。
【0046】
また、IL−13過剰発現されたトランスジェニックマウスの気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage, BAL)において、TGF−β1とVEGFの生成が増加した(図3参照)。このような結果はまた、IL−13による気道過敏性が下流の物質であるTGF−β1とVEGFとによって調節されることを意味する。
【0047】
さらに、IL−13経路による気道過敏性が下流でVEGFによって調節されるということは、受容体2の信号伝達遮断剤(signaling blocker)であるSU1498を使用してIL−13によって誘導される気道過敏性が阻害されることを確認して証明された(図4参照)。
【0048】
さらに、前記のようなIL−13経路による喘息において、FGF2の役割は解明されていない状態であり、本発明者らはFGF2がIL−13によって誘導されるVEGFおよびTGF−β1を通じた喘息の症状の治療に効果的であることを確認した。
【0049】
FGF2欠損マウスを使用してFGF2が遮断されると正常マウスに比較してVEGFの量が増加することを観察した(図5参照)。したがって、気道過敏性も増加することを確認した(図6参照)。これは、FGF2欠損マウスにおいてVEGFを同時に遮断した場合、気道過敏性が抑制されるという実験結果(図6参照)と一致するものである。
【0050】
これは、FGF2が、IL−13からのVEGFを介した喘息の治療に効果的であることを示すもので、下記の結果から証明される。
【0051】
IL−13が主要媒介物として作用するTh2喘息モデルにおいて、FGF2を投与した後その効果を測定した結果、FGF2はメタコリンに対する気道過敏性を低減し(図20参照)、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数を減少させ(図21参照)、Th2喘息の重要な媒介因子であるIL−13およびVEGFの発現を抑制することを観察した(図22参照)。また、組織学的検査の結果、FGF2によって肺気管支壁の肥厚および閉塞が減少して、肺組織が正常と類似したものになることを確認した(図23参照)。前記結果から、FGF2がVEGFおよびIL−13の生成を阻害して気道過敏性と炎症を抑制し、喘息の治療に効果的に使用できることが分かった。
【0052】
IL−13喘息経路の別の下流物質であるTGF−β1と関連して、以前にTGF−β1で形質転換されたマウスで肺気管支の気道リモデリングが観察され(Lee等, J. Exp. Med., 2004年,第200巻,377〜389頁)、IL−13によって誘導される肺気管支の線維化は 、TGF−β1に依存性であることが報告された(Lee等, J. Exp. Med. 2001年,第194巻,809〜821頁)。TGF−β1で形質転換されたマウスにおいて、TGF−β1によって気道の抵抗力と気道閉塞が重度に誘導され(図7参照)、メタコリンによる気道過敏性は抑制されることを観察した(図8参照)。
【0053】
このようなTGF−β1を通じたIL−13経路による喘息において、FGF2の役割解明のためにFGF2を欠損させたマウスで気道過敏性を測定して比較した結果、TGF−β1による気道過敏性の減少効果がFGF2欠損マウスでは現われないことを確認することができた(図9参照)。前記結果は、TGF−β1による気道過敏性の減少が、TGF−β1自体によるものであるというよりは、TGF−β1と一緒に発現されるFGF2に起因するものであることを示す。すなわち、FGF2が存在する状態でのTGF−β1の増加は気道過敏性を低減するが、FGF2が存在しない状態では、TGF−β1にかかわらず気道過敏性が増加することが分かる。
【0054】
以上の実験結果からFGF2の役割を叙述すると、気道の組織が損傷を被れば免疫システムが作動して、TGF−β1によって気道平滑筋細胞と線維芽細胞とが筋線維芽細胞に変換され、変換された筋線維芽細胞によって線維症が誘発される。この時、TGF−β1によって減少した気道平滑筋細胞および線維芽細胞の細胞数を補うために、FGF2は、気道平滑筋細胞および線維芽細胞を増殖させると同時に、前記筋線維芽細胞の気道平滑筋細胞および線維芽細胞への変換を誘導する。したがって、FGF2は筋線維芽細胞を線維芽細胞に変化させて筋線維芽細胞の細胞数を減らして気道リモデリングを低減し、同時に気道過敏性を低減する役割を果たすということが分かる。
【0055】
このようなFGF2による気道リモデリングの抑制を説明するために、FGF2欠損マウスでコラーゲン量と気道過敏性を測定した結果、FGF2欠損マウスの肺では、コラーゲンを分泌する線維芽細胞の数が正常実験マウスに比較して相対的に少なかった(図10参照)。これは、FGF2による線維芽細胞の増殖が行われずに細胞数が少なくなり、それにより線維芽細胞から分泌されるコラーゲンの量が少なくなったことを示している。また、メタコリンによる気道過敏性を測定した結果、FGF2が正常に存在する正常マウスは気道過敏性に大きな影響を受けないのに比べて、FGF2が欠損した場合、気道過敏性が大幅に増大することを観察した(図9参照)。前記の結果は、IL−13からTGF−β1に至る経路においてFGF2が欠損すると線維芽細胞の増殖および筋線維細胞から線維芽細胞への変換が成立せず、気道リモデリングが進行してメタコリン反応に強い線維芽細胞の数が減少し、気道過敏性が増大したと解釈される。よって、これは、FGF2がIL−13からTGF−β1への経路による喘息の治療にも効果的に使用できることを示すものである。
【0056】
以前のIL−13を通じた喘息の経路以外に、Th1サイトカインであるIFN−γも喘息の発生に重要であるという見方が台頭してきている。Th1から分泌されるサイトカイン、特にIFN−γは、喘息と深い関係があることが多くの研究から明らかにされている。このようなTh1の活性化によって進行する喘息モデルはまだ存在しない。これは、既存の喘息研究の大部分が、Th2の活性化によって喘息が発生するというTh1/Th2理論に焦点を合わせていたため、好酸球や免疫グロブリンE(Immunoglobulin E, IgE)が過剰発現され得る喘息モデルのみを作製し、使用したためである。
【0057】
しかし最近、好酸球性炎症がなくても気道過敏性が誘導され得る(Venkayya R, Am J Respir Cell Mol Biol 2002年,第26巻,202〜8頁)、非好酸球性喘息患者が喘息患者全体の過半数であるという研究結果等が報告されている(Douwes等, Thorax, 2002年,第57巻,643〜8頁)。したがって、既存の仮説を飛び越えて、Th1タイプの喘息モデル製造およびそれを使用した研究が至急な実情である。
【0058】
そこで本発明者らは、IFN−γによって誘導されたTh1喘息およびCOPD動物モデルを作出し、これによりFGF2の役割を解明してFGF2がIFN−γによる喘息およびCOPDの治療にも有用であることを発見した。
【0059】
したがって、本発明は、FGF2を有効成分として含む喘息の予防または治療剤以外に、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤を提供する。前記慢性閉塞性肺疾患は、IFN−γの過剰発現によって誘発され得る。
【0060】
まず、IFN−γによる喘息でのIFN−γとFGF2との関係を解明するために、IFN−γにより形質転換されたマウスの肺からFGF2の発現をRT‐PCRを使用して測定した結果、正常マウスと対照的にFGF2の発現が著しく阻害されていることを観察した(図13参照)。前記結果は、FGF2がIFN−γシグナリング経路によってその発現が抑制されることを意味する。
【0061】
一方、IFN−γによって誘導される気道炎症および気道過敏性からFGF2の役割を詳しくみてみる。IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス(IFN-γ(+)/FGF2(+/+))にFGF2遺伝子欠損を誘導して気道過敏性を測定した。BAL中の炎症細胞数、および炎症関連サイトカインの発現量を測定した。その結果、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスで、FGF2遺伝子欠損の時(IFN-γ(+)/FGF2(-/-))、気道過敏性および炎症が顕著に増加することを観察した(図14A、B参照)。このようなIFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスでの、FGF2欠損による気道過敏性および炎症の増加において、VEGFの増加が重要な役割を果たすと考えられる(図14C参照)。前記結果は、IFN−γによって誘導される気道炎症および気道過敏性もまた、FGF2で有用に治療可能であることを示している。
【0062】
IFN−γが主に媒介物として作用するTh1喘息モデルにおいて、FGF2の活性を測定した結果、FGF2はメタコリンに対する気道過敏性を低減する(図27参照)。前記結果から、FGF2がIFN−γ経路を通じた喘息の治療に有用に使用できることが分かる。
【0063】
続いて、FGF2を前記Th1喘息およびCOPDマウスに投与して治療効果を測定した。
【0064】
FGF2処置時に、前記マウスでは、BAL内の炎症細胞数(図26参照)およびメタコリンに対する気道過敏性(図36参照)が減少した。
【0065】
さらに前記マウスは、気道過敏性以外にCOPDの症状である肺実質細胞のアポトーシスを誘発する。このような気道過敏性と肺実質細胞のアポトーシスは、FGF2の有無によって影響を受ける。IFN−γが過剰発現された実験マウスにおいて、FGF2を投与すると気道過敏性が低減し(図27参照)、IFN−γによって誘導される肺実質細胞の破壊もFGF2の投与によって減少する(図28および図29参照)。また、IFN−γによる組織損傷および肺胞破壊または肺気腫もやはりFGF2の投与によって減少する(図30および図31参照)。
【0066】
以上で詳しく見たように、喘息およびCOPDにおいて増殖因子として知られたFGF2が、むしろ気道過敏性を低減させて肺胞破壊を抑制し、喘息およびCOPDの治療または予防剤としての効果があることが分かる。
【0067】
一方、本発明のFGF2を有効成分として含む喘息またはCOPDの予防または治療剤は、組成物総重量に対して前記有効成分を0.0001〜50重量%含むことができる。
【0068】
本発明の治療剤は、前記有効成分に同様または類似の機能を示す有効成分をさらに1種以上含むことができる。
【0069】
本発明の治療剤は、投与のために、前記有効成分以外に薬剤学的に許容可能な担体を1種以上さらに含んで製造することができる。薬剤学的に許容可能な担体としては、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エチルアルコール、リポソームおよびこれら成分の中から1成分以上を混合して使用することができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤等他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液等のような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができ、標的器官に特異的に作用するように標的器官特異的抗体またはその他のリガンドを前記担体と結合させて使用することができる。さらに当該技術分野の適正な方法でまたはレミングトンの文献(Remington's Pharmaceutical Science(最新版)、Mack Publishing Company, Easton PA)に開示されている方法を使用して、各疾患に応じてまたは成分に応じて好ましく製剤化することができる。
【0070】
本発明の治療剤の投与方法は、特別にこれに制限されるものではないが、目的と方法に応じて非経口投与(例えば静脈内、皮下、腹腔内、局所または鼻腔に適用)したり経口投与することができ、非経口投与が好ましく、鼻腔投与が好ましい。投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度等によってその範囲が多様である。
【0071】
一日投与量は、化合物の場合約0.005〜10mg/kg、好ましくは0.05〜1mg/kgであり、一日一回〜数回に分けて投与することがさらに好ましい。
【0072】
本発明の治療剤は、治療のために単独で、または手術、ホルモン治療、薬物治療および生物学的反応調節剤を使用する方法等と併用して使用することができる。
【0073】
本発明のFGF2をマウスの鼻腔内に投与して毒性実験を遂行した結果、毒性試験による50%致死量(LD50)が少なくとも1,000mg/kg以上の安全な物質であると判断された。
【0074】
さらに、本発明は卵アルブミンを含むアレルゲンおよび二重鎖RNAを気道内に直接投与することを含む、Th1喘息またはCOPD動物モデルの製造方法を提供する。
【0075】
前記の方法は、下記の工程を含む。
(1)BALB/cマウスに5〜15μgの二重鎖RNAであるポリイノシンポリシチジン酸および50〜150μgの卵アルブミンを4回鼻腔に投与する感作工程、および
(2)10日後に25〜75μgの卵アルブミンを鼻腔に感作する工程。
【0076】
前記工程(1)の感作する二重鎖RNAは、10μgで使用することが好ましい。前記工程(1)の卵アルブミンは、75μgで使用するのが好ましい。前記工程(2)の10日後に使用する卵アルブミンは、50μgで使用するのが好ましい。
【0077】
前記喘息は、非好酸球性であり得る。
【0078】
さらに本発明は、前記方法によって製造されたTh1喘息またはCOPD動物モデルを提供する。
【0079】
前記の動物は、実験用に使用されるすべての哺乳類に属する動物を含み、好ましくはマウスである。
【0080】
Th1喘息またはCOPD動物モデルの作製と関連して、ウイルスの複製工程で生成される二重鎖RNA(double-stranded RNA, dsRNA)は、生体内で抗ウイルス活性を示す1型(type1)インターフェロン(IFN)であるIFN‐α、IFN‐βを強力に誘導することが知られている(Guidotti等, Annu. Rev. Immunol., 2001年,第19巻,65〜91頁)。そして、このような1型インターフェロンは、IL−12およびIFN−γの生成を促進する一方、樹枝状細胞の成熟とT細胞の初回抗原刺激(priming)を増進させて獲得免疫反応を誘導できることが知られている(Londhe等, FEBS Lett., 2003年,第553巻,33〜8頁)。したがって、本発明者らは、dsRNAで処置してTh1経路によって喘息が誘発された動物モデルを作製した。
【0081】
動物モデルの作製に使用するdsRNAの具体的配列および長さは、Th1喘息を誘導する限り制限はなく、市販の物を購入して使用することができるが、好ましくはポリイノシンポリシチジン酸(polyI:C)である。
【0082】
前記Th1経路によって喘息が誘発されたマウスは、気道過敏性が増加することを確認し(図15参照)、リンパ球、好中球およびマクロファージなどの細胞数は増加したが好酸球数は増加しないことを観察した。媒介因子では、Th1反応と関連のあるIP−10だけが格段に増加した(図16および図17参照)。前記結果は、OAおよびdsRNAによって非好酸球性気道炎症(non-eosinophilic airway inflammation)が誘導されたことを意味する。また、肺気管支洗浄液におけるIFN−γの増加と、血液中の抗原特異的IgG1およびIgG2の増加とを確認した(図18および図19参照)。これにより、OAおよびdsRNAによる気道感作は、IFN−γと抗原特異的IgG2aによるものであり、抗原特異的IgEとは関連がないと見られ、Th1動物モデルの確立を確認した。
【0083】
同時に、前記動物モデルはまた、COPDの症状を示し、すなわち肺の大きさおよび容積増加と肺胞の破壊とともに、コラーゲン量の増加から深刻な線維化が招来されたことを確認することができた(図28〜31参照)。
【0084】
前記結果から、Th1喘息モデルマウスがまた、COPDの病因機序を示すことができるモデルであることを確認することができた。
【0085】
したがって、アレルゲン(卵アルブミン、OA)および二重鎖RNAを気道内に直接投与して作製した本発明のモデルが、Th1または非好酸球性喘息動物モデルであることを確認し、喘息およびCOPDモデルを開発して喘息およびCOPD治療剤開発において効率的な実験遂行に有用に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0086】
以下、本発明を例によってより詳しく説明する。
但し、下記の例は本発明を例示するだけのものであり、本発明の内容が下記の例によって限定されるものではない。
【0087】
例1:IL−13過剰発現による喘息の発生およびVEGFとTGF−β1との関連性
IL−13による喘息の発生を調査するためにIL−13が過剰発現されたトランスジェニックマウスを作製して、このマウスでの気道過敏性を測定して、前記マウスでIL−13の過剰発現がTGF−β1およびVEGFの発現に及ぼす影響を調査した。
【0088】
例1−1:IL−13トランスジェニックマウスの作製
IL−13を過剰発現するトランスジェニックマウスを以前に記述されたとおり作製した(Zhou Zhu 等, J. Clin. Invest., 1999年,第103巻,779〜788頁; Tang等, J. Clin. Invest., 1996年,第98巻,2845〜2853頁; Ray等, J. Clin. Invest., 1997年,第l00巻,2501〜2511頁)。要約すると、IL−13の候補遺伝子を気道に選択的に発現させるために、抗炎症呼吸器細胞の一つのクララ(Clara)細胞10kDaタンパク質(CC10)の発現を誘導するプロモーター(University of CincinnatiのB. StrippおよびJ. Whitsett)に連結したIL−13候補遺伝子を含むコンストラクトを使用した。マウス内に導入された遺伝子発現を外部から調節することができる誘導性トランスジェニックマウスの作製のために、CC10プロモーターにリバーステトラサイクリントランス活性化因子(reverse tetracycline transactivator, rtTA)とヒト成長ホルモン(human growth hormone, hGH)遺伝子とを作動可能に連結してpKS-CC10-rtTA-hGHを準備した(Ray等, J. Clin. Invest., 1997年,第98巻,2501〜2511頁)。Elutip-Dカラム(Schleicher and Schuell Inc, 米国)で前記プラスミドDNAを精製し、微細注入バッファー(0.5mM Tris‐HCl、25mM EDTA、pH7.5)で透析した。続いて前記文献による前核内注入法を使用して、CBAマウスおよびC57BL/6マウスを交配させて得たF2卵に前記プラスミドDNAを注入して前記文献に記載された方法によってトランスジェニックマウスを作製した。すべてのトランスジェニックマウスは、トランスジェニックマウスと正常マウスに無作為に0.5mg/mlドキシサイクリン(doxycycline, dox)が含まれた水を飲ませた後、それぞれのマウスから得た気管支肺胞洗浄液でIL−13タンパク質の数値を評価して形質転換の有無を評価した。
【0089】
例1−2:IL−13が過剰発現されたトランスジェニックマウスでの気道過敏性の測定
IL−13によって形質転換されたマウスでの喘息発生の有無を確認するために、喘息の代表的症状である気道過敏性を下記のように測定した。気道過敏性は、当該技術分野で公知の慣用の方法によって、DRS(dose response slope)(Pediatric Allergy and Immunology, 2003年,第14巻,193頁)およびPenh(Mckinley等, Clinical & Experimental Immunology, 2004年,第136巻,224〜231頁)で測定することができる。Penh(enhanced pause, Penh)は、最大呼気圧(peak expiratory pressure, PEP)を最大吸気圧(peak inspiratory pressure, PIP)で割った値にポーズ(pause)を掛けて得た値を求めて得ることができる。具体的には、例1−1の形質転換されたマウスを、再感作の24時間後および48時間後に、メタコリンを3分間噴霧して気道過敏性を誘導し、動物用体容積変動記録機(Whole body plethysmography)を使用して、最大呼気圧および最大吸気圧を10秒単位で3分間測定し、3分間を平均してデータで示した(図2)。図2は、IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示した結果である。
【0090】
図2に見られるように、全般的にIL−13過剰発現トランスジェニックマウスでは、気道過敏性が正常マウスに比較して増加したことが分かる。
【0091】
例1−3:トランスジェニックマウスでのIL−13の過剰発現がVEGFおよびTGF−β1の発現に及ぼす影響
IL−13の過剰発現によって誘導された気道過敏性と、IL−13シグナリング経路の下流に存在することが知られたVEGFおよびTGF−β1との関連性を調査するために下記の実験を遂行した。例1−1で作製したマウスの気道にSP45管(tube)を導管(cannulation)し、0.1%BSAと0.05mM EDTAとを含んだ滅菌生理食塩水で洗浄して得た気管支肺胞洗浄液を遠心分離した。採取したBAL上清において、ELISAキット(CalBiotech, 米国)を使用してVEGFおよびTGF−β1タンパク質の発現量を測定した(図3)。図3は、IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群で気管支肺胞洗浄液に存在するVEGFとTGF−β1の発現量を示したグラフである。
【0092】
図3に見られるように、IL−13の過剰発現によって気道過敏性が誘発されたトランスジェニックマウス由来のBALにおいて、TGF−β1およびVEGFの生成が増加することを確認した。このような結果は、IL−13による気道過敏性が下流の物質であるTGF−β1とVEGFとによって調節されることを示唆し、これは次の例1−4の結果によって証明される。
【0093】
例1−4:VEGFの遮断剤による気道過敏性の抑制
前記例1−3の効果を確認するために、VEGF受容体2の信号伝達経路遮断剤(signaling blocker)であるSU1498(EMD Biosciece, 米国)を前記例1−1で作製したマウスの腹腔に毎日一回ずつ10mg/kgの量で注射した(図4)。図4は、IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群における、VEGF受容体2の抑制剤であるSU1498の投与による気道過敏性を示したグラフである。
【0094】
図4に見られるように、IL−13の過剰発現によって誘導される気道過敏性がVEGF受容体2の信号伝達経路遮断剤によって抑制され、IL−13によって誘導される気道過敏性がVEGFを介した信号伝達によるものであることを確認することができた。
【0095】
例2:IL−13によって誘発された喘息でのFGF2の役割の解明
IL−13およびその下流の物質であるTGF−β1とVEGFの調節によって発生する喘息でのFGF2の役割を調べるために、FGF2欠損マウスでの気道過敏性および気道リモデリング発生の有無を調査した。
【0096】
例2−1:FGF2の欠損による気道過敏性
FGF2の気道過敏性との関連性を調査するために下記の実験を遂行した。FGF2欠損マウスは、ジャクソンラボ(Jackson Lab,CA, 米国)から購入して使用した。気道過敏性は、メタコリンに対するAHR(DRS)、および気道過敏性マウスで増加したことが明らかにされたVEGFおよびTGF−β1タンパク質のBALにおける量をそれぞれ例1−2および1−3に記載したのと同じ方法で測定した(図5および6)。図5は、FGF2欠損マウス群および正常マウス群のBAL中のVEGFおよびTGF−β1の発現量を示したグラフである。図6は、FGF2欠損マウス、および例1−4に記載したようにVEGF遮断剤で処置されたFGF2欠損マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【0097】
図5に見られるように、FGF2欠損マウスは正常マウスに比較してVEGFの量が増加した。これは気道過敏性の増大を示唆するもので、図6の結果と一致するものである。
【0098】
図6に見られるように、FGF2が欠損したマウスでは気道過敏性が増大した。このような気道過敏性は、VEGF遮断剤の投与によって抑制されることを観察した。ゆえに、FGF2の欠損による気道過敏性はVEGFの発現によるものであり、FGF2の投与がVEGFの発現を抑制してVEGF経路を通じた喘息の予防および治療に有用であることを示すものである。
【0099】
例2−2:FGF2の欠損による気道リモデリング
FGF2の気道リモデリングとの関連性を調査するために、気道リモデリングに伴う細胞増殖および変換を測定することができる下記の実験を遂行した。
【0100】
FGF2欠損マウスは、ジャクソンラボ(Jackson Lab,CA, 米国)から購入して使用した。前記マウスから当該技術分野における公知の方法によって肺組織を抽出し、細胞増殖および変換を測定することができる組織内のコラーゲン量を、シルコルコラーゲン分析キット(Sircol Collagen assay kit,Biocolor assay, 北アイルランド)を製造者の指示にしたがって使用して分析した(図10)。図10は、FGF2欠損マウス群と正常マウス群の肺組織内のコラーゲン量を示したグラフである。
【0101】
図10に見られるように、FGF2欠損マウスから分泌されたコラーゲン量が、正常実験マウスに比較して相対的に少ないことを確認した。
【0102】
このような結果は、FGF2が欠損したマウス肺で、コラーゲンを分泌する線維芽細胞の細胞数が少なくなったことを意味するものであり、これはFGF2の欠損により肺で線維芽細胞が筋線維芽細胞に変化して移動したことにより線維芽細胞の数が少なくなったことが原因で、気道リモデリングが増大したことを示す。
【0103】
したがって、このような結果は、FGF2が気道リモデリングおよび気道過敏性を減少させて喘息の治療に効果的に使用できることを示すものである。
【0104】
例3:TGF−β1による喘息の発生
IL−13によって誘導されることが知られたTGF−β1の発現による喘息の発生を調べるために、前記例1−1と同じ方法でTGF−β1を過剰発現するトランスジェニックマウスを作製して下記の実験を遂行した。
【0105】
例3−1:TGF−β1による気道リモデリングの発生
気道リモデリングによる気道過敏性を例1−2と同じ方法で測定した(図7)。図7は、TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群の時間による気道過敏性を示したグラフである。図8は、TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【0106】
図7に見られるように、気道過敏性(Penh)を測定した結果、TGF−β1によって気道の抵抗力が重度に誘導された。
【0107】
しかし、図8に見られるように、メタコリンによる気道過敏性(AHR)は抑制されることを確認した。前記結果から、TGF−β1の過剰発現は喘息の症状の中で気道リモデリングにだけ関与することが分かる。
【0108】
例3−2:TGF−β1による気道過敏性減少におけるFGF2の役割
前記例3−1で詳しく見たように、TGF−β1による気道過敏性減少にFGF2が関与するかどうかを調べるために、FGF2を制限したマウスで気道過敏性を測定して比較した(図9)。図9は、正常マウスまたはFGF2を欠損したマウスにおける、TGF−β1(R&D system,米国)投与後の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【0109】
図9に見られるように、TGF−β1による気道過敏性の減少は、FGF2の欠損マウスで鈍化した。前記結果は、TGF−β1による気道過敏性の減少は、TGF−β1自体によるものというよりは、TGF−β1と一緒に発現されるFGF2に起因したものであることを示す。TGF−β1の増加による気道過敏性の減少には、FGF2が関与することが分かる。
【0110】
例4:IFN−γ過剰発現による喘息の発生およびFGF2の役割
重症喘息とCOPDの主な媒介物であるIFN−γが媒介する喘息モデルを作製して、FGF2の役割を解明するために、例1と同じ方法でIFN−γで形質転換されたマウスを作製して下記の実験を遂行した。
【0111】
例4−1:IFN−γ過剰発現による気道過敏性の増大
トランスジェニックマウスでの気道過敏性を例1−2と同じ方法で測定した(図11)。続いて、例1−3と同じ方法で、AHRおよびBAL中のVEGF、TGF−β1、およびIFN−γによって誘導されることが知られたIP−10のタンパク質量を測定した(図12)。図11は、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【0112】
図11に見られるように、IFN−γトランスジェニックマウスでは、均質に(homogeneously)気道過敏性が高くなることを確認することができた。
【0113】
図12に見られるように、前記マウスはTh2で発現されるIL−13によって誘導されるVEGFやTGF−β1の量は増加しない代わり、Th2とは関係ないIP−10(Interferon-inducible Protein 10)が増加することを確認し、これは前記マウスで誘導された気道過敏性がIFN−γに特異的であることを示唆する。
【0114】
例4−2:IFN−γ過剰発現による気道過敏性へのFGF2の役割
IFN−γ過剰発現がFGF2の発現に及ぼす影響
IFN−γ過剰発現による気道過敏性へのFGF2の役割を調べるために、IFN−γトランスジェニックマウスでFGF2の転写レベルでの発現量を測定した(図13)。正常マウスおよびトランスジェニックマウスの肺組織から公知の方法によってRNAを抽出して、RT(reverse transcription)−PCRを遂行した。要約すると、正常マウスおよびトランスジェニックマウスの肺組織1gを製造者の指示どおりトリゾル試薬(TRIzol Reagent,Life Technology, 米国)を使用して総RNAを分離した。続いて分離した総RNAを鋳型にして製造者の推奨どおりにRT−PCRキット(Promega, 米国)を使用してcDNAを合成した。続いて、合成されたcDNA1μgを鋳型にして上位プライマー(upper primer: 5'-ACT CAC ATT CGA AAC CCC AAA C-3')および下位プライマー(lower primer: 5'-CGT CAG ATC GCC TGG AGA C-3')を使用して、下記の条件でPCRを遂行してFGF2特異的cDNAを増幅した。PCRは、95℃で8分間予備変性させた後、95℃で1分、56℃で1分、72℃で1分間を35回繰り返し遂行して最後に72℃で10分間反応させた。図13は、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の肺組織内のFGF2特異的cDNAの増幅を示したアガロースゲル写真である。
【0115】
図13に見られるように、IFN−γで形質転換されたマウスでFGF2の発現が阻害されることを確認することができ、これはIFN−γによってFGF2発現が抑制されることを示すものである。
【0116】
IFN−γ過剰発現による気道過敏性へのFGF2の役割
IFN−γにより誘導される気道炎症および気道過敏性における具体的なFGF2の役割を詳しく見るために、下記の遺伝子組換えを有するマウスで気道過敏性、BAL中の炎症細胞数および炎症関連タンパク質量を測定した(図14)。前記マウスは、以前に記述されたとおり作製した(Zhou Zhu等, J. Clin. Invest., 1999年,第103巻,779〜788頁; Tang等, J. Clin. Invest., 1996年,第98巻,2845〜2853頁; Ray等, J. Clin. Invest., 1997年,第l00巻,2501〜2511頁)。図14で、+は該当遺伝子が過剰発現されたマウスを示し、−は該当遺伝子が欠損したマウスを示す。図14のAは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群における気管支肺胞洗浄液中の総細胞数(Total)、マクロファージ(M)、リンパ球(L)、好中球(N)、好酸球(E)の細胞数を示したグラフである。図14のBは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群における、メタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。図14のCは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群における気管支肺胞洗浄液中のVEGF、TGF−β1およびIP−10の発現量を示したグラフである。
【0117】
図14に見られるように、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスでFGF2遺伝子をなくすと、IFN−γによって誘導される気道過敏性がさらに増加し、炎症細胞数が増加することが観察され、気道炎症がさらにひどくなることを確認することができた。これは、FGF2がまた、IFN−γによって誘発される喘息にも有用に使用できることを示す。
【0118】
例5:FGF2投与による、IL−13によって誘導されたTh2喘息の抑制
IL−13によるTh2喘息において、FGF2タンパク質による具体的な喘息抑制活性を測定するため、下記の実験を遂行した。
【0119】
組換えFGFタンパク質(rFGF2)は、ファーマシアアップジョン(Phamacia-Upjohn、イタリア)社から購入して使用した。
【0120】
気道過敏性が誘発されたマウス作製のために、75μgの卵アルブミン(OA)と2mgのアラムをBALB/cマウス(Jackson Lab, 米国)の腹腔に二度注射して感作し、10日後に50μgの卵アルブミンを鼻腔に再感作してTh2喘息を誘発した。前記Th2喘息が誘発されたマウスを、Th2喘息実験マウスと命名した。
【0121】
続いて前記マウスおよび正常マウスにそれぞれrFGF2を4日間、1日1回10μg/頭の用量で鼻腔に投与または非投与(生理食塩水)後、メタコリンに対する気道過敏性(図20)、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞(図21)および、媒介因子としてのVEGF、IL−13、IL−5およびIP−10(図22)の量を例1−2および1−3に記載した方法で測定した。
【0122】
図20は、Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2を投与後の、メタコリン濃度に応じた気道過敏性を示したグラフである。図21は、Th2喘息実験マウス群と正常マウス群でrFGF2を投与した後、気管支肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。図22は、Th2喘息実験マウス群と正常マウス群における、rFGF2を投与した後の、気管支肺胞洗浄液中のVEGF、IL−13、IL−5およびIP−10の量を示したグラフである。
【0123】
図20に見られるように、rFGF2で処置していないTh2喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスでメタコリンに対する気道過敏性が低いことを確認した。
【0124】
図21に見られるように、rFGF2で処置していないTh2喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスにおいて気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数が減少することを確認した。
【0125】
図22に見られるように、rFGF2で処置されていないTh2喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスでは、Th2喘息における重要な媒介因子であるIL−13とVEGFの濃度が減少することを確認した。一方、Th2喘息と関連性がないことが知られているIL−5およびIP−10の発現には、変化がないことを確認した。
【0126】
また、喘息が誘発されたマウスをrFGF2で処置後、肺気管支壁の組織学的検査を行った(図23)。図23は、Th2喘息実験マウスにrFGF2を投与する前(A)および投与した後(B)の肺組織の病理写真である。
【0127】
図23に見られるように、rFGF2で処置したマウスの肺気管支壁の組織学的検査の結果(B)、FGF2の投与によって肺気管支壁の肥厚および閉塞が減少して正常(C)と同様になることを確認した。
【0128】
前記結果から、FGF2がVEGFおよびIL−13生産を阻害してTh2気道過敏性および炎症を抑制し、喘息の予防および治療に有用に使用できることが分かった。
【0129】
例6:FGF2の投与による、IFN−γによるTh1喘息およびCOPDの抑制
IFN−γによるTh1喘息においてFGF2タンパク質による具体的な喘息抑制活性を測定するため、下記の実験を遂行した。
【0130】
rFGF2タンパク質は、ファーマシアアップジョン(Phamacia-Upjohn、イタリア)社から購入して使用した。IFN−γによるTh1喘息が誘発されたマウスの作製のために下記の実験を遂行した。
【0131】
例6−1:卵アルブミンと二重鎖RNAを使用したTh1喘息およびCOPD動物モデルの確立
BALB/cマウス(Jackson Lab, 米国)を使用して、10μgの合成dsRNAであるポリイノシンポリシチジン酸(polyinosinic-polycytidylic acid,PolyIC, Sigma, 米国)、75μgの卵アルブミン(OvAlbumin, OA)を、それぞれまたは一緒に4回鼻腔に投与して感作し、10日後に50μgの卵アルブミンを鼻腔に再感作して喘息を誘発した。前記マウスをTh1喘息マウスと命名した。陰性対照群マウスには、リン酸緩衝食塩水(PBS, Phospho Buffered Saline)のみを投与した。
【0132】
(1)Th1喘息の特性確認
続いて、前記マウスで実際にTh1喘息の誘発の有無を確認するために、例1−2および1−3に記載した方法と同様にメタコリンによる気道過敏性(図15)、BAL中の炎症細胞数(図16)および媒介因子としてのVEGF、IL−13、IL−5およびIP−10の量(図17)を例1−2および1−3に記載した方法で測定した。
【0133】
図15は、アレルゲン(卵アルブミンOA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した際の、メタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。図16は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、気管支肺胞洗浄液中の総細胞数、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。図17は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(VEGF、IL−5、IL−13およびIP−10)の発現量を示したグラフである。
【0134】
図15に見られるように、OAおよびdsRNAによって誘導されたマウスでメタコリン気道過敏性が増加することを確認した。
【0135】
図16に見られるように、前記マウスでリンパ球と好中球、マクロファージ(macrophage)などの細胞の数は増加したが、好酸球の数は増加しないことを確認した。
【0136】
図17に見られるように、前記マウスでは、媒介因子としてTh1反応と関連あるIP−10だけが格段に増加した。
【0137】
前記結果から、卵アルブミンとdsRNAによって非好酸球性気道炎症が起きることを確認した。
【0138】
また、前記Th1喘息がIFN−γによるものであることを確認するために、気管支肺胞洗浄液中のIFN−γならびにIgG1およびIgG2aの量を測定した(図18および図19)。図18は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、気管支肺胞洗浄液中のIFN−γ発現量を示したグラフである。図19は、アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の、血清中のアレルゲン特異抗体(IgG1およびIgG2a)の生成量を示したグラフである。
【0139】
図18および図19に見られるように、気管支肺胞洗浄液中でIFN−γが3倍以上増加し、血液中のIgG1とIgG2の増加も確認された。前記結果から、卵アルブミン抗原とdsRNAによって誘発された喘息は、IFN−γおよび抗原特異的IgG2aによるものであり、Th2喘息で現われることが知られたIgEとは関連がないことが確認された。
【0140】
(2)COPDの特性確認
続いて、前記マウスでのCOPDの誘発の有無を確認するために肺の大きさ、容積およびコラーゲン量を測定した(図28、図29および図30)。図28は、前記作製されたマウスにおける肺の大きさを示し、図29は、前記作製されたマウスにおける肺の容積変化を示したグラフである。図30は、前記作製されたマウスにおける肺線維化の程度を示したグラフである。
【0141】
図28、図29および図30に見られるように、Th1喘息モデルマウスでそれぞれ肺の大きさ、容積およびコラーゲンの量が顕著に増加しており、COPDの特性を兼ね備えていることを確認した。このような肺の大きさ、容積、コラーゲン量の増加は、肺の組織損傷、肺胞破壊、肺気腫を伴うもので、典型的なCOPDの特性であり、それは図31によって確認される。
【0142】
図31のAは、Th1喘息モデルマウスで肺実質組織の破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。図31に見られるように、IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスの肺は、典型的なCOPD患者で観察される肺実質細胞の死滅による肺胞面積拡大を確認することができた。
【0143】
前記肺の大きさおよび容積増加、肺胞の破壊とともに、コラーゲン量の増加からして、深刻な線維化が招来されたことを確認することができた。
【0144】
前記結果から、Th1喘息モデルマウスがまた、COPDの病因機序を示すことができるモデルであることを確認することができた。
【0145】
例6−2:FGF2の投与によるTh1喘息の抑制
IFN−γによるTh1喘息においてFGF2タンパク質による具体的な喘息抑制活性を測定するため下記の実験を遂行した。前記例6−1によって作製されたマウスを、Th1喘息実験マウス群と命名した。例6−1で作製されたTh1喘息実験マウスおよび正常マウスに例5と同じ方法でrFGF2を投与した。続いて、前記マウスで、メタコリンに対する気道過敏性を例1−2に記載した方法によって測定した。
【0146】
図27は、Th1喘息実験マウス群と正常マウス群にrFGF2を投与後の、メタコリン濃度に応じた気道過敏性を示したグラフである。
【0147】
図27に見られるように、rFGF2で処置していないTh1喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスにおいて、メタコリンに対する気道過敏性が低いことを確認した。
【0148】
図28は、Th1喘息が誘発されたマウスにおいてFGF2処置をした、およびしていないマウスによる肺の大きさを示した写真である。
【0149】
図28に見られるように、rFGF2で処置していないTh1喘息が誘発されたマウスと比較して、rFGF2で処置したマウスにおいて肺の大きさが減少することを確認した。
【0150】
前記結果は、FGF2が、IFN−γトランスジェニックマウスの喘息症状を低減することにより、IFN−γによって誘導された喘息の治療に有用に使用できることを示す。
【0151】
例6−3:FGF2の投与によるCOPD抑制
FGF2タンパク質のCOPD抑制活性を測定するため、下記の実験を遂行した。例6−1で作製されたマウスおよび正常マウスに例5と同じ方法でrFGF2を投与した。続いて前記マウスでCOPDの特徴である肺の大きさ、容積およびコラーゲン量を測定した(図28、図29および図30)。図28A、B、CおよびDはそれぞれ正常肺およびCOPDマウスモデルでrFGFを投与した、および投与していない肺を示す。図29は、図28の肺の容積を測定したグラフである。図30A、B、CおよびDは、それぞれ正常肺およびCOPDマウスモデルでrFGFを投与した、および投与していない肺の線維化の程度を示したグラフである。図31は、COPD喘息モデルマウスでrFGF投与前後の肺実質組織の破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。
【0152】
図28のCおよびDそして図29のCおよびDに見られるように、rFGF2の投与で、肺の容積が投与する前と比較して著しく減少することが分かる。図30のCおよびDに見られるように、rFGF2投与後のCOPDマウスでコラーゲンの量が顕著に減少することを確認した。このような肺の大きさ、容積、コラーゲン量の減少は、rFGF2がCOPDの治療に効果的に使用できることを示すものであり、これは図31によって確認される。
【0153】
図31は、COPDマウスで肺実質組織の破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。図31のAに見られるように、処置していない肺(B)の場合、処置したもの(A)と比較して、典型的なCOPD患者で観察される肺実質細胞の死滅による肺胞面積拡大を確認することができ、rFGF2の投与がCOPDの治療に効果的であることが分かる。
【0154】
前記結果は、COPDマウスでは、肺の大きさおよび容積増加と肺胞の破壊とともにコラーゲン量が深刻な線維化が招来され、それがFGF2で治療できることを示すものである。
【0155】
例7:ヒトの喘息でのIFN−γの過剰発現の有無
ヒトの喘息でのIFN−γの過剰発現の有無と、それが非好酸球性細胞によるものであるかどうかを確認するために下記の実験を遂行した。215人の可逆的な気道閉塞を示す成人喘息患者から初日喀痰を分離して、公知の方法によって肺活量測定機(sprimetry)を使用して肺活量を測定した。メタコリン誘発検査(methacholin bronchial challenge)を遂行して肺機能検査を遂行した(図24)。図24は、重症喘息患者における、誘発喀痰中の好酸球が陽性の群(Eosinophilic)および陰性の群(Non-eosinophilic)の割合を示したグラフである。図24に見られるように、成人喘息患者の半分以上は好酸球性というよりは非好酸球性の臨床所見であることを確認した。
【0156】
このような喘息を媒介する因子を確認するために、IL−4およびIFN−γ遺伝子の量を調査した(図25)。図25は、喘息患者の重症度による誘発喀痰中のIL−4およびIFN−γの発現量を示したグラフである。
【0157】
図25に見られるように、重症喘息患者でTh1喘息と関連があるIFN−γの発現量が増加したが、Th2喘息と関連があるIL−4は変化がないことを確認した。前記結果からヒト、特に重度の喘息を持つ患者でIFN−γ経路による非好酸球性Th1喘息が発生し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によるFGF2を有効成分として含む治療剤は、気道線維化、気道炎症、気道過敏性、気道リモデリング、喘息およびCOPDの治療または予防に有用に使用することができる。また、卵アルブミンおよび二重鎖RNAを使用して開発された喘息およびCOPD動物モデルは、喘息およびCOPD治療剤の開発に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】Aは、IL−4過剰発現トランスジェニックマウス群での気道過敏性を示したグラフである。Bは、IL-9(-)/IL-13(+/+)、IL-9(-)/IL-13(-/-)、IL-9(+)/IL-13(+/+)およびIL-9(+)/IL-13(-/-)トランスジェニックマウス群での気道過敏性を示したグラフである。
【図2】IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【図3】IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群の気管支肺胞洗浄液中のVEGFおよびTGF−β1の発現量を示したグラフである。
【図4】IL−13過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群における、VEGF受容体2の抑制剤であるSU1498の投与による気道過敏性を示したグラフである。
【図5】FGF2欠損マウス群および正常マウス群の気管支肺胞洗浄液中の血管内皮増殖因子およびTGF−β1の発現量を示したグラフである。
【図6】FGF2またはFGF2およびVEGFノックアウトマウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【図7】TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【0160】
【図8】TGF−β1過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【図9】正常マウスまたはFGF2欠損マウスにおける、TGF−β1投与後の時間による気道過敏性を示したグラフである。
【図10】FGF2欠損マウス群と正常マウス群の肺組織中のコラーゲン量を示したグラフである。
【図11】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気道過敏性を示したグラフである。
【図12】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の気管支肺胞洗浄液中のVEGF、TGF−β1およびIP−10の発現様相を示したグラフである。
【図13】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群と正常マウス群の肺組織中のFGF2の発現を示したアガロースゲル写真である。
【図14】Aは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群の気管支肺胞洗浄液中の全細胞(Total)、マクロファージ(M)、リンパ球(L)、好中球(N)、好酸球(E)の細胞数を示したグラフである。Bは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群のメタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。Cは、IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群の気管支肺胞洗浄液中のVEGF、TGF−β1およびIP−10の発現量を示したグラフである。
【0161】
【図15】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時のメタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。
【図16】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の気管支肺胞洗浄液中の全細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。
【図17】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(VEGF、IL−5、IL−13およびIP−10)の発現量を示したグラフである。
【図18】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与した時の気管支肺胞洗浄液中のIFN−γの発現量を示したグラフである。
【図19】アレルゲン(OA)およびdsRNAを単独または一緒に投与された時の血清中アレルゲン特異抗体(IgG1およびIgG2a)生成量を示したグラフである。
【図20】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2(rFGF2)を投与後の、メタコリン濃度による気道過敏性を示したグラフである。
【図21】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2(rFGF2)投与した後の、気管支肺胞洗浄液中の全細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。
【図22】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群に組換えFGF2(rFGF2)投与した後の、気管支肺胞洗浄液中のサイトカイン(VEGF、IL−13、IL−5およびIP−10)の量を示したグラフである。
【図23】Th2喘息実験マウス群と正常マウス群の、組換えFGF2(rFGF2)投与の有無による肺組織の病理写真である。
【図24】重症の喘息患者における、誘発喀痰中に好酸球が陽性の群および陰性の群の割合を示したグラフである。
【図25】喘息患者の重症度による誘発喀痰中のIL−4およびIFN−γの発現量を示したグラフである。
【0162】
【図26】条件的IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウス群および正常マウス群における、過剰発現誘導物質ドキシサイクリン投与の有無による気管支肺胞洗浄液中の全細胞、マクロファージ、リンパ球、好中球、好酸球の細胞数を示したグラフである。
【図27】IFN-γ(-)/FGF2(+/+)、IFN-γ(-)/FGF2(-/-)、IFN-γ(+)/FGF2(+/+)またはIFN-γ(+)/FGF2(-/-)トランスジェニックマウス群のメタコリン量に応じた気道過敏性を示したグラフである。
【図28】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺の大きさを示した写真である。
【図29】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺容積の変化を示したグラフである。
【図30】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺の線維化の程度を示したグラフである。
【図31】IFN−γ過剰発現トランスジェニックマウスにおけるFGF2の有無による肺実質組織破壊の程度を示した肺組織の病理写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF2を有効成分として含む、喘息の予防または治療剤。
【請求項2】
喘息がIL−13の過剰発現によって誘発されることを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項3】
喘息がIFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項4】
FGF2が、IL−13の活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項5】
FGF2が、血管内皮増殖因子の活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項6】
FGF2が、TGF−β1の活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項7】
FGF2を有効成分として含む、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤。
【請求項8】
慢性閉塞性肺疾患が、IFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする、請求項7に記載の慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤。
【請求項9】
卵アルブミンを含むアレルゲンおよび二重鎖RNAを気道内に直接投与することを含む、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項10】
動物がマウスである、請求項9に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項11】
下記の工程、
(1)BALB/cマウスに5〜15μgの二重鎖RNAであるポリイノシンポリシチジン酸および50〜100μgの卵アルブミンを4回鼻腔に投与して感作する工程、および
(2)10日後に25〜75μgの卵アルブミンを鼻腔に感作する工程
を含む、請求項9または請求項10に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項12】
工程(1)の感作する二重鎖RNAが10μgで使用される、請求項11に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項13】
工程(1)の感作する卵アルブミンが、75μgの卵アルブミンであり、工程(2)の10日後に50μgの卵アルブミンを使用する、請求項11に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項14】
喘息が、非好酸球性であることを特徴とする、請求項9〜13のいずれかに記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載の方法によって製造された、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデル。
【請求項16】
動物がマウスである、請求項15に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデル。
【請求項17】
FGF2を有効成分として含む、IL−13活性抑制剤。
【請求項18】
FGF2を有効成分として含む、VEGF活性抑制剤。
【請求項19】
FGF2を有効成分として含む、TGF−β1活性抑制剤。
【請求項20】
FGF2を有効成分として含む、気道線維化、気道炎症、気道過敏性または気道リモデリング抑制剤。
【請求項1】
FGF2を有効成分として含む、喘息の予防または治療剤。
【請求項2】
喘息がIL−13の過剰発現によって誘発されることを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項3】
喘息がIFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項4】
FGF2が、IL−13の活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項5】
FGF2が、血管内皮増殖因子の活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項6】
FGF2が、TGF−β1の活性を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の喘息の予防または治療剤。
【請求項7】
FGF2を有効成分として含む、慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤。
【請求項8】
慢性閉塞性肺疾患が、IFN−γの過剰発現によって誘発されることを特徴とする、請求項7に記載の慢性閉塞性肺疾患の予防または治療剤。
【請求項9】
卵アルブミンを含むアレルゲンおよび二重鎖RNAを気道内に直接投与することを含む、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項10】
動物がマウスである、請求項9に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項11】
下記の工程、
(1)BALB/cマウスに5〜15μgの二重鎖RNAであるポリイノシンポリシチジン酸および50〜100μgの卵アルブミンを4回鼻腔に投与して感作する工程、および
(2)10日後に25〜75μgの卵アルブミンを鼻腔に感作する工程
を含む、請求項9または請求項10に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項12】
工程(1)の感作する二重鎖RNAが10μgで使用される、請求項11に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項13】
工程(1)の感作する卵アルブミンが、75μgの卵アルブミンであり、工程(2)の10日後に50μgの卵アルブミンを使用する、請求項11に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項14】
喘息が、非好酸球性であることを特徴とする、請求項9〜13のいずれかに記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデルの製造方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載の方法によって製造された、Th1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデル。
【請求項16】
動物がマウスである、請求項15に記載のTh1喘息または慢性閉塞性肺疾患動物モデル。
【請求項17】
FGF2を有効成分として含む、IL−13活性抑制剤。
【請求項18】
FGF2を有効成分として含む、VEGF活性抑制剤。
【請求項19】
FGF2を有効成分として含む、TGF−β1活性抑制剤。
【請求項20】
FGF2を有効成分として含む、気道線維化、気道炎症、気道過敏性または気道リモデリング抑制剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2007−537245(P2007−537245A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513067(P2007−513067)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001390
【国際公開番号】WO2005/107794
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(501187848)ドン・ア・ファーム・カンパニー・リミテッド (20)
【出願人】(506377226)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/KR2005/001390
【国際公開番号】WO2005/107794
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(501187848)ドン・ア・ファーム・カンパニー・リミテッド (20)
【出願人】(506377226)
【Fターム(参考)】
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