説明

FTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置

【課題】特別な冷却装置等を用いることなく、FT合成反応によって副生されるFTガス成分から炭素数3以上の炭化水素を効率良く回収し、FT合成炭化水素の生産効率を向上させることが可能なFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置を提供する。
【解決手段】フィッシャー・トロプシュ合成反応において副生されるFTガス成分より炭化水素化合物を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法であって、FTガス成分の圧力を上昇させる昇圧工程S3と、昇圧後のFTガス成分を冷却してFTガス成分中に含まれる炭化水素を凝縮・液化する冷却工程S4と、前記冷却工程において生成した液体炭化水素を含む液体分とガス分とを分離する分離工程S5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成反応より液体炭化水素を生成する過程において副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスから液体燃料を合成するための方法の一つとして、天然ガスを改質し一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分とする合成ガスを生成し、この合成ガスを原料ガスとしてフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)により炭化水素化合物(FT合成炭化水素)を合成し、さらにこの炭化水素化合物を水素化および分留することで、ナフサ(粗ガソリン)、灯油、軽油、WAX等の液体燃料製品を製造するGTL(Gas To Liquids:液体燃料合成)技術が開発されている。
このFT合成炭化水素を原料とした液体燃料製品は、パラフィン含有量が多く、硫黄分をほとんど含まないため、例えば特許文献1に示すように、環境対応燃料として注目されている。
【0003】
ところで、FT合成反応を行うFT合成反応器においては、炭素数が比較的多い重質のFT合成炭化水素が液体としてFT合成反応器の下部から製出されるとともに、炭素数が比較的少ない軽質のFT合成炭化水素がガスとして副生される。この軽質のFT合成炭化水素は、未反応の原料ガス等とともに、FTガス成分としてFT合成反応器の上部から放出されることになる。
【0004】
このFTガス成分には、二酸化炭素、水蒸気、未反応の原料ガス(一酸化炭素ガス及び水素ガス)、炭素数2以下の炭化水素とともに、製品化可能な炭素数が3以上の炭化水素(以下、「軽質FT炭化水素」という。)等が含まれている。
そこで、従来から、このFTガス成分を冷却して軽質FT炭化水素を液化し、気液分離器によって、軽質FT炭化水素と、その他のガス分とを分離することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述の気液分離器では、気液平衡の関係から、分離されたガス分の中にも製品化可能な軽質FT炭化水素が含有されることになり、ガス分に含まれる軽質FT炭化水素の量が増加すると、液体燃料製品の生産効率が低下してしまうことになる。
ここで、気液分離器におけるFTガス成分の温度を10℃程度まで冷却することで、軽質FT炭化水素の多くを液化してガス分から分離することが可能であるが、特別な冷却装置を設ける必要があり、設備構成が複雑になるとともに液体燃料製品の製造コストが上昇してしまう。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、特別な冷却装置等を用いることなく、FT合成反応によって副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を効率良く回収し、FT合成炭化水素の生産効率を向上させることが可能なFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法は、フィッシャー・トロプシュ合成反応において副生されるFTガス成分より軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法であって、前記FTガス成分の圧力を上昇させる昇圧工程と、昇圧後の前記FTガス成分を冷却して前記FTガス成分中に含まれる軽質FT炭化水素を凝縮・液化する冷却工程と、前記冷却工程において生成した液体炭化水素を含む液体分とガス分とを分離する分離工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成のFTガス成分からの炭化水素回収方法においては、冷却工程の前に、FTガス成分の圧力を上昇させる昇圧工程を有しており、昇圧した状態のFTガス成分を冷却しているので、FTガス成分の温度を必要以上に冷却することなく、軽質FT炭化水素を凝縮・液化することが可能となる。よって、特別な冷却装置等を用いることなく冷却工程で軽質FT炭化水素を液化し、分離工程にて液体炭化水素として分離して回収することが可能となり、FTガス成分から軽質FT炭化水素を効率的に回収することができる。
【0010】
ここで、前記分離工程において分離されたガス分の少なくとも一部を、フィッシャー・トロプシュ合成反応の原料ガスとしてFT合成反応器へと還流させる還流工程を備えていることが好ましい。
分離工程において分離されたガス分の中には、FT合成反応器で未反応のままの原料ガス、つまり、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)が存在している。そこで、このガス分をFT合成反応器へと還流させる還流工程を設けることにより、ガス分中の一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)を原料ガスとして再利用することが可能となり、液体燃料製品の製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0011】
また、前記還流工程においては、前記ガス分の圧力を、前記FT合成反応器の原料ガス導入口圧力に調整する圧力調整工程を備えていることが好ましい。
この場合、前記ガス分の圧力を前記FT合成反応器の原料ガス導入口圧力に調整する圧力調整工程を備えているので、昇圧工程後のFTガス成分の圧力を自由に設定することが可能となる。すなわち、昇圧工程で、FTガス成分の圧力を、原料ガス導入口圧力を超える圧力まで上昇させることが可能となり、軽質FT炭化水素の回収率を大幅に向上させることができる。
【0012】
本発明に係るFTガス成分からの炭化水素回収装置は、フィッシャー・トロプシュ合成反応によって炭化水素化合物を合成するFT合成反応器から放出されるFTガス成分より軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収装置であって、前記FT合成反応器から放出される前記FTガス成分を昇圧する昇圧器と、昇圧された前記FTガス成分を冷却する冷却器と、該冷却器によって冷却されることにより生成した液体炭化水素を含む液体分とガス分とを分離する気液分離器と、を備えていることを特徴としている。
【0013】
この構成のFTガス成分からの炭化水素回収装置においては、昇圧器によってFTガス成分の圧力を上昇させた後に、冷却器によってFTガス成分を冷却し、気液分離器によって液化した炭化水素を回収することが可能となる。よって、冷却器に特別な冷却装置を設けることなく、軽質FT炭化水素を効率的に回収することができる。
【0014】
ここで、前記気液分離器において分離されたガス分の少なくとも一部を前記FT合成反応器の原料ガス導入口に導入する還流路が設けられていることが好ましい。
さらに、前記還流路には、前記ガス分の圧力を調整する圧力調整器が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、特別な冷却装置等を用いることなく、FT合成反応によって副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を効率良く回収し、FT合成炭化水素の生産効率を向上させることが可能なFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置が用いられる炭化水素合成システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収装置の周辺を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
最初に、図1を参照して、本実施形態であるFTガス成分からの炭化水素回収方法及びFTガス成分からの炭化水素回収装置が用いられる液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)の全体構成及び工程について説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態にかかる液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)1は、天然ガス等の炭化水素原料を液体燃料に転換するGTLプロセスを実行するプラント設備である。この液体燃料合成システム1は、合成ガス生成ユニット3と、FT合成ユニット5と、製品精製ユニット7とから構成される。
合成ガス生成ユニット3は、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガス(原料ガス)を生成する。
FT合成ユニット5は、生成された合成ガス(原料ガス)からフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)により液体炭化水素を生成する。
製品精製ユニット7は、FT合成反応により生成された液体炭化水素を水素化・分留して液体燃料製品(ナフサ、灯油、軽油、ワックス等)を製造する。以下、これら各ユニットの構成要素について説明する。
【0019】
合成ガス生成ユニット3は、脱硫反応器10と、改質器12と、排熱ボイラー14と、気液分離器16,18と、脱炭酸装置20と、水素分離装置26とを主に備える。
脱硫反応器10は、水添脱硫装置等で構成され、原料である天然ガスから硫黄成分を除去する。
改質器12は、脱硫反応器10から供給された天然ガスを改質して、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分として含む合成ガス(原料ガス)を生成する。
排熱ボイラー14は、改質器12にて生成した合成ガスの排熱を回収して高圧スチームを発生する。
気液分離器16は、排熱ボイラー14において合成ガスとの熱交換により加熱された水を気体(高圧スチーム)と液体とに分離する。
気液分離器18は、排熱ボイラー14にて冷却された合成ガスから凝縮分を除去し気体分を脱炭酸装置20に供給する。
脱炭酸装置20は、気液分離器18から供給された合成ガスから吸収液を用いて炭酸ガスを除去する吸収塔22と、当該炭酸ガスを含む吸収液から炭酸ガスを放散させて再生する再生塔24とを有する。
水素分離装置26は、脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスから、当該合成ガスに含まれる水素ガスの一部を分離する。
ただし、上記脱炭酸装置20は場合によっては設ける必要がないこともある。
【0020】
FT合成ユニット5は、例えば、気泡塔型反応器(気泡塔型炭化水素合成反応器)30と、気液分離器34と、分離器36と、本実施形態である炭化水素回収装置101と、第1精留塔40とを主に備える。
気泡塔型反応器30は、合成ガス(原料ガス)を液体炭化水素に合成する反応器の一例であり、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成反応器として機能する。この気泡塔型反応器30は、例えば、塔型の容器内部に、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容された気泡塔型スラリー床式反応器で構成される。この気泡塔型反応器30は、上記合成ガス生成ユニットで生成された合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガス)を反応させて液体炭化水素を合成する。
気液分離器34は、気泡塔型反応器30内に配設された伝熱管32内を流通して加熱された水を、水蒸気(中圧スチーム)と液体とに分離する。
分離器36は、気泡塔型反応器30の内部に収容されたスラリー中の触媒粒子と液体炭化水素とを分離処理する。
炭化水素回収装置101は、気泡塔型反応器30の上部に接続され、放出されるFTガス成分を冷却処理し、炭素数3以上の炭化水素(軽質FT炭化水素)を回収する。
第1精留塔40は、気泡塔型反応器30から分離器36、炭化水素回収装置101を介して供給された液体炭化水素を蒸留し、沸点に応じて各留分に分留する。
【0021】
製品精製ユニット7は、例えば、ワックス分水素化分解反応器50と、中間留分水素化精製反応器52と、ナフサ留分水素化処理反応器54と、気液分離器56,58,60と、第2精留塔70と、ナフサスタビライザー72とを備える。
ワックス分水素化分解反応器50は、第1精留塔40の下部に接続されており、その下流側に気液分離器56が設けられている。
中間留分水素化精製反応器52は、第1精留塔40の中央部に接続されており、その下流側に気液分離器58が設けられている。
ナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部に接続されており、その下流側に気液分離器60が設けられている。
第2精留塔70は、気液分離器56,58から供給された液体炭化水素を沸点に応じて分留する。
ナフサスタビライザー72は、気液分離器60及び第2精留塔70から分留されたナフサ留分の液体炭化水素を精留して、軽質成分はオフガス側へ排出し、重質成分は製品のナフサとして分離・回収する。
【0022】
次に、以上のような構成の液体燃料合成システム1により、天然ガスから液体燃料を合成する工程(GTLプロセス)について説明する。
【0023】
液体燃料合成システム1には、天然ガス田または天然ガスプラントなどの外部の天然ガス供給源(図示せず。)から、炭化水素原料としての天然ガス(主成分がCH)が供給される。上記合成ガス生成ユニット3は、この天然ガスを改質して合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする混合ガス)を製造する。
【0024】
まず、上記天然ガスは、水素分離装置26によって分離された水素ガスとともに脱硫反応器10に供給される。脱硫反応器10は、当該水素ガスを用いて天然ガスに含まれる硫黄分を例えばZnO触媒で水添脱硫する。
脱硫された天然ガスは、二酸化炭素供給源(図示せず。)から供給される二酸化炭素(CO)ガスと、排熱ボイラー14で発生した水蒸気とが混合された後で、改質器12に供給される。改質器12は、水蒸気・炭酸ガス改質法により、二酸化炭素と水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。
【0025】
このようにして改質器12で生成された高温の合成ガス(例えば、900℃、2.0MPaG)は、排熱ボイラー14に供給され、排熱ボイラー14内を流通する水との熱交換により冷却(例えば400℃)されて、排熱回収される。
排熱ボイラー14において冷却された合成ガスは、凝縮液分が気液分離器18において分離・除去された後、脱炭酸装置20の吸収塔22、又は気泡塔型反応器30に供給される。吸収塔22は、貯留している吸収液内に、合成ガスに含まれる炭酸ガスを吸収することで、当該合成ガスから炭酸ガスを分離する。この吸収塔22内の炭酸ガスを含む吸収液は、再生塔24に導入され、当該炭酸ガスを含む吸収液は例えばスチームで加熱されてストリッピング処理され、放散された炭酸ガスは、再生塔24から改質器12に送られて、上記改質反応に再利用される。
【0026】
このようにして、合成ガス生成ユニット3で生成された合成ガスは、上記FT合成ユニット5の気泡塔型反応器30に供給される。このとき、気泡塔型反応器30に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。
【0027】
また、水素分離装置26は、圧力差を利用した吸着、脱着(水素PSA)により、合成ガスに含まれる水素ガスを分離する。当該分離された水素は、ガスホルダー(図示せず。)等から圧縮機(図示せず。)を介して、液体燃料合成システム1内において水素を利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス分水素化分解反応器50、中間留分水素化精製反応器52、ナフサ留分水素化処理反応器54など)に、連続して供給される。
【0028】
次いで、上記FT合成ユニット5は、上記合成ガス生成ユニット3によって生成された合成ガスから、FT合成反応により、液体炭化水素を合成する。
【0029】
上記合成ガス生成ユニット3によって生成された合成ガスは、気泡塔型反応器30の底部から流入されて、気泡塔型反応器30内に収容されたスラリー内を上昇する。この際、気泡塔型反応器30内では、上述したFT合成反応により、当該合成ガスに含まれる一酸化炭素と水素ガスとが反応して、炭化水素が生成される。
気泡塔型反応器30で合成された液体炭化水素は、スラリーとして触媒粒子ともに分離器36に導入される。
【0030】
分離器36は、スラリーを触媒粒子等の固形分と液体炭化水素を含んだ液体分とに分離する。分離された触媒粒子等の固形分は、その一部が気泡塔型反応器30に戻され、液体分は第1精留塔40に供給される。
また、気泡塔型反応器30の塔頂からは、未反応の合成ガス(原料ガス)及び合成された炭化水素のガス分を含むFTガス成分が放出され、本実施形態である炭化水素回収装置101に供給される。炭化水素回収装置101は、FTガス成分を冷却して、一部の凝縮分の液体炭化水素(軽質FT炭化水素)を分離して第1精留塔40に導入する。一方、炭化水素回収装置101で分離されたガス分は、未反応の合成ガス(COとH)、炭素数2以下の炭化水素を主成分としており、一部は気泡塔型反応器30の底部に再投入されてFT合成反応に再利用される。また、FT合成反応に再利用されなかったガス分は、オフガス側へ排出され、燃料ガスとして使用されたり、LPG(液化石油ガス)相当の燃料が回収されたり、合成ガス生成ユニットの改質器12の原料に再利用されたりする。
【0031】
次いで、第1精留塔40は、上記のようにして気泡塔型反応器30から分離器36、炭化水素回収装置101を介して供給された液体炭化水素を加熱して、沸点の違いを利用して分留し、ナフサ留分(沸点が約150℃未満)と、灯油・軽油に相当する中間留分(沸点が約150〜350℃)と、ワックス分(沸点が約350℃より大)とに分留する。
この第1精留塔40の底部から取り出されるワックス分の液体炭化水素(主としてC21以上)は、ワックス分水素化分解反応器50に移送され、第1精留塔40の中央部から取り出される中間留分の液体炭化水素(主としてC11〜C20)は、中間留分水素化精製反応器52に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC〜C10)は、ナフサ留分水素化処理反応器54に移送される。
【0032】
ワックス分水素化分解反応器50は、第1精留塔40の下部から分留された炭素数の多いワックス分の液体炭化水素(概ねC21以上)を、上記水素分離装置26から供給された水素ガスを利用して水素化分解して、炭素数をC20以下に低減する。この水素化分解反応では、触媒と熱を利用して、炭素数の多い炭化水素のC−C結合を切断して、炭素数の少ない低分子量の炭化水素を生成する。このワックス分水素化分解反応器50により、水素化分解された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器56で気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、中間留分水素化精製反応器52及びナフサ留分水素化処理反応器54に移送される。
【0033】
中間留分水素化精製反応器52は、第1精留塔40の中央部から分留された炭素数が中程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC11〜C20)を、水素分離装置26からワックス分水素化分解反応器50を介して供給された水素ガスを用いて、水素化精製する。この水素化精製反応は、上記液体炭化水素の異性化及び不飽和結合に水素を付加して飽和させ、主に側鎖状飽和炭化水素(イソパラフィン)を生成する反応である。この結果、水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器58で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、上記水素化反応に再利用される。
【0034】
ナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部から分留された炭素数が少ないナフサ留分の液体炭化水素(概ねC10以下)を、水素分離装置26からワックス分水素化分解反応器50を介して供給された水素ガスを用いて、水素化処理する。この結果、水素化処理された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器60で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、ナフサスタビライザー72に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、上記水素化反応に再利用される。
【0035】
次いで、第2精留塔70は、上記のようにしてワックス分水素化分解反応器50及び中間留分水素化精製反応器52から供給された液体炭化水素を蒸留して、炭素数がC10以下の炭化水素(沸点が約150℃未満)と、灯油(沸点が約150〜250℃)と、軽油(沸点が約250〜350℃)及びワックス分水素化分解反応器56からの未分解ワックス分(沸点が約350℃より大)とに分留する。第2精留塔70の塔底からは未分解ワックス分が得られ、これはワックス分水素化分解反応器50の前にリサイクルされる。第2精留塔70の中央部からは灯油及び軽油が取り出される。一方、第2精留塔70の塔頂からは、炭素数がC10以下の炭化水素ガスが取り出されて、ナフサスタビライザー72に供給される。
【0036】
さらに、ナフサスタビライザー72では、上記ナフサ留分水素化処理反応器54及び第2精留塔70から分留された炭素数がC10以下の炭化水素を蒸留して、製品としてのナフサ(C〜C10)を分留する。これにより、ナフサスタビライザー72の下部からは、高純度のナフサが取り出される。一方、ナフサスタビライザー72の塔頂からは、製品対象外である炭素数が所定数以下の炭化水素を主成分とするオフガスが排出される。このオフガスは、燃料ガスとして使用されたり、LPG相当の燃料が回収されたりする。
【0037】
以上、液体燃料合成システム1の工程(GTLプロセス)について説明した。係るGTLプロセスにより、天然ガスは、高純度のナフサ(C〜C10:粗ガソリン)、灯油(C11〜C15:ケロシン)及び軽油(C16〜C20:ガスオイル)等の液体燃料に転換されることになる。
【0038】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態である炭化水素回収装置101周辺の構成・動作について詳細に説明する。
この炭化水素回収装置101は、気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の上部から放出されたFTガス成分を液体分とガス分とに分離する第1気液分離器102と、この第1気液分離器102で分離されたFTガス成分のガス分を昇圧する昇圧器103と、昇圧されたFTガス成分のガス分を冷却する冷却器104と、冷却されたFTガス成分を液体分とガス分とに気液分離する第2気液分離器105と、第2気液分離器105で分離されたガス分に含まれる原料ガスを気泡塔型反応器30の原料ガス導入口30Aへと移送する還流路106と、を備えている。なお、還流路106には、還流される原料ガスの圧力を調整する圧力調整器107が設けられている。
【0039】
まず、気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の上部からFTガス成分が放出される。(FTガス成分放出工程S1)。このFTガス成分は、気泡塔型反応器30の原料ガス導入口30Aに備えられた熱交換器30Bを通過した後に、第1気液分離器102に導入され、FTガス成分中の液体分(水および液体炭化水素)とガス分とが分離される(第1分離工程S2)。この第1気液分離器102で分離された水および液体炭化水素は、それぞれ回収配管108、109を介して回収される。
一方、気泡塔型反応器30より液体として製出される重質FT炭化水素は、前述の分離器36に導入される。
ここで、FTガス成分放出工程S1におけるFTガス成分の温度T1が200℃≦T1≦280℃、圧力P1が1.5MPa≦P1≦5.0MPaとされる。
【0040】
この第1気液分離器102において液体分が分離されたFTガス成分は、昇圧器103によって圧力が上昇される(昇圧工程S3)。
この昇圧工程S3では、FTガス成分の圧力P3が、気泡塔型反応器30の上部から放出されるFTガス成分の圧力P1に対して、P1+0.5MPa≦P3≦P1+5.0MPaとなるように、昇圧することが好ましい。
【0041】
このように昇圧されたFTガス成分は、冷却器104によって冷却される(冷却工程S4)。この冷却工程S4によってFTガス成分の温度T4は、10℃≦T4≦50℃とされる。なお、この冷却器104は、工業用水を用いた熱交換器であって、特別な冷却機構を有していない。また、前記温度T4は、本発明を実施する環境で得られる工業用水の温度によって決定されるものである。
【0042】
冷却されたFTガス成分が第2気液分離器105に導入され、FTガス成分中の液体分(水および液体炭化水素)が分離される(第2分離工程S5)。この第2気液分離器105においては、冷却工程S4における気液平衡状態を保つために、脱圧しないようにする。そして、この第2気液分離器105で分離された水および液体炭化水素(軽質FT炭化水素)は、それぞれ回収配管108、109を介して回収される。
【0043】
一方、第2気液分離器105において分離されたガス分は、未反応の合成ガス(COとH)、炭素数2以下の炭化水素を主成分としており、一部は、還流路106を介して気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の原料ガス導入口30Aへと還流される(還流工程S6)。また、FT合成反応に再利用されなかったガス分は、排出ガス(フレアガス)として、外部の燃焼設備(図示せず)に導入されて、燃焼された後に大気放出される。
【0044】
このとき、還流路106に設けられた圧力調整器107により、還流された原料ガスの圧力が、原料ガス導入口圧力P7に調整される(圧力調整工程S7)。なお、具体的には、原料ガス導入口圧力P7は、1.5MPa≦P7≦5.0MPaとされており、昇圧器103で上昇させられた圧力が、圧力調整器107によって低下させられる。
【0045】
このようにして、気泡塔型反応器30(FT器合成反応器)において副生されたFTガス成分から、炭素数3以上の炭化水素(軽質FT炭化水素)を回収する。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態であるFTガス成分からの炭化水素回収装置101及びこの炭化水素回収装置101を用いた炭化水素回収方法によれば、FTガス成分の圧力を上昇させる昇圧工程S3が、冷却工程S4の前に設けられているので、冷却工程S4においてFTガス成分を必要以上に冷却することなく、軽質FT炭化水素を凝縮・液化して回収することができる。したがって、特別な冷却装置等を用いる必要がなくなり、FTガス成分からの軽質FT炭化水素の回収に伴うコスト上昇を抑えることができる。
【0047】
また、本実施形態では、第2気液分離器105において分離されたガス分に含有される原料ガスを、還流路106を介して、気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の原料ガス導入口30Aへと還流させる還流工程S6を備えているので、気泡塔型反応器30において未反応のまま放出された原料ガス(一酸化炭素ガスと水素ガス)を再利用することが可能となる。
【0048】
さらに、還流路106に圧力調整器107が設けられており、この圧力調整器107によって、還流された原料ガスの圧力を調整する圧力調整工程S7を備えているので、昇圧工程S3を経た後のFTガス成分の圧力を自由に設定することが可能となる。よって、昇圧工程S3で、FTガス成分の圧力を、原料ガス導入口圧力P7を超える圧力まで上昇させることが可能となり、FTガス成分からの軽質FT炭化水素の回収率を大幅に向上させることが可能となる。
【0049】
また、冷却器104(冷却工程S4)の前に第1気液分離器102(第1分離工程S2)が設けられているので、FTガス成分中に液体分(水分及び炭素数が比較的大きな炭化水素)が含まれる場合、この第1気液分離器102(第1分離工程S2)によって液体分を予め回収することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、昇圧工程S3において、昇圧器103を用いてFTガス成分の圧力P3を、気泡塔型反応器30から放出されるFTガス成分の圧力P1に対して、P3≧P1+0.5MPaとなるように昇圧しているので、冷却工程S4においてFTガス成分を例えば10〜50℃程度まで冷却することで、軽質FT炭化水素を効率的に回収することができる。
また、昇圧工程S3において、昇圧器103を用いてFTガス成分の圧力P3を、気泡塔型反応器30から放出されるFTガス成分の圧力P1に対して、P3≦P1+5.0MPaとなるように昇圧しているので、汎用の昇圧器を用いることが可能となり、軽質FT炭化水素の回収に伴うコスト上昇を抑えることができる。なお、P3>P1+5.0MPaとなると、より大きな昇圧器が必要となるため好ましくない。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、第1気液分離器と第2気液分離器とを備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、気液分離器が1つであってもよいし、3つ以上の気液分離器を備えていてもよい。
【0052】
また、第1気液分離器の後に昇圧器を配置したもので説明したが、これに限定されることはなく、昇圧器は、冷却器よりも前に設けられていればよい。
さらに、合成ガス生成ユニット3、FT合成ユニット5、製品精製ユニット7の構成は、本実施形態に記載されたものに限定されることはなく、FTガス成分が炭化水素回収装置に導入される構成であればよい。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の効果を確認すべく実施した確認実験の結果について説明する。
従来例として、気泡塔型反応器(FT合成反応器)の上部から放出されたFTガス成分を、放出された圧力P1(=3MPa)のまま冷却し、気液分離器で水及び液体炭化水素からなる液体分とガス分とに分離した。ここで、気液分離器におけるFTガス成分の温度を20℃、30℃、45℃と変更し、従来例1−3とした。
【0054】
本発明例として、気泡塔型反応器(FT合成反応器)の上部から放出されたFTガス成分の圧力を、昇圧器によって、放出された圧力P1(=3MPa)よりも上昇させた後に冷却し、気液分離器で水及び液体炭化水素からなる液体分とガス分とに分離した。ここで気液分離器におけるFTガス成分の圧力及び温度を調整し、本発明例1−9とした。
【0055】
そして、気液分離器で回収されたFTガス成分からの液体炭化水素の回収量及び気液分離器で分離されたガス分に含まれる炭素数3以上の炭化水素の残存量を評価した。なお、各温度における従来例1−3の回収量及び残存量を基準とし、この基準量からの増減割合で本発明例1−9を評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
各温度条件において、気液分離器におけるFTガス成分の圧力が高いほど、液体炭化水素の回収量が増加するとともに、ガス分中の炭素数3以上の炭化水素の残存量が減少することが確認された。すなわち、圧力を上昇させた状態で冷却することで、炭化水素の回収効率が大幅に改善されることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
30 気泡塔型反応器(FT合成反応器)
101 炭化水素回収装置
103 昇圧器
104 冷却器
105 第2気液分離器(気液分離器)
106 還流路
107 圧力調整器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成反応において副生されるFTガス成分より炭化水素化合物を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法であって、
前記FTガス成分の圧力を上昇させる昇圧工程と、
昇圧後の前記FTガス成分を冷却して前記FTガス成分中に含まれる炭化水素化合物を凝縮・液化する冷却工程と、
前記冷却工程において生成した液体炭化水素を含む液体分とガス分とを分離する分離工程と、
を備えていることを特徴とするFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項2】
前記分離工程において分離されたガス分の少なくとも一部を、フィッシャー・トロプシュ合成反応の原料ガスとしてFT合成反応器へと還流させる還流工程を備えていることを特徴とする請求項1に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項3】
前記還流工程においては、前記ガス分の圧力を、前記FT合成反応器の原料ガス導入口における圧力に調整する圧力調整工程を備えていることを特徴とする請求項2に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項4】
フィッシャー・トロプシュ合成反応によって炭化水素化合物を合成するFT合成反応器から放出されるFTガス成分より炭化水素化合物を回収するFTガス成分からの炭化水素回収装置であって、
前記FT合成反応器から放出される前記FTガス成分を昇圧する昇圧器と、昇圧された前記FTガス成分を冷却する冷却器と、該冷却器によって冷却されることにより生成した液体炭化水素を含む液体分とガス分とを分離する気液分離器と、を備えていることを特徴とするFTガス成分からの炭化水素回収装置。
【請求項5】
前記気液分離器において分離されたガス分の少なくとも一部を前記FT合成反応器の原料ガス導入口に導入する還流路が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のFTガス成分からの炭化水素回収装置。
【請求項6】
前記還流路には、前記ガス分の圧力を調整する圧力調整器が設けられていることを特徴とする請求項5に記載のFTガス成分からの炭化水素回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−202676(P2010−202676A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46150(P2009−46150)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】