説明

FTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置

【課題】FT合成反応によって副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を効率良く回収するとともに、FTガス成分から炭酸ガスを除去してFTガス成分をFT合成反応の原料として再利用し、液体燃料製品の生産効率を向上させる。
【解決手段】FTガス成分から軽質FT炭化水素を回収する方法であって、FTガス成分を吸収器内に導入する導入工程S4と、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤中に軽質FT炭化水素及び炭酸ガスを吸収させる吸収工程S6と、吸収溶剤を炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離する分離工程S7と、炭酸ガス吸収剤を加熱して炭酸ガスを放出させる炭酸ガス放出工程S8と、液体炭化水素を加熱して軽質FT炭化水素を回収する軽質FT炭化水素回収工程S9と、軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分をFT合成反応器へと供給するFTガス成分供給工程S11と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成反応より液体炭化水素を生成する過程において副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスから液体燃料を合成するための方法の一つとして、天然ガスを改質し一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分とする合成ガスを生成し、この合成ガスを原料としてフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)により炭化水素化合物(FT合成炭化水素)を合成し、さらにこの炭化水素化合物を水素化および分留することで、ナフサ(粗ガソリン)、灯油、軽油、WAX等の液体燃料製品を製造するGTL(Gas To Liquids:液体燃料合成)技術が開発されている。
このFT合成炭化水素を原料とした液体燃料製品は、パラフィン含有量が多く、硫黄分をほとんど含まないため、例えば特許文献1に示すように、環境対応燃料として注目されている。
【0003】
ところで、FT合成反応を行うFT合成反応器においては、炭素数が比較的多い重質のFT合成炭化水素が液体としてFT合成反応器の下部から製出されるとともに、炭素数が比較的少ない軽質のFT合成炭化水素がガスとして副生される。この軽質のFT合成炭化水素は、未反応の合成ガス等とともに、FTガス成分としてFT合成反応器の上部から放出されることになる。
【0004】
このFTガス成分には、二酸化炭素(炭酸ガス)、水蒸気、未反応の合成ガス(一酸化炭素ガス及び水素ガス)、炭素数2以下の炭化水素とともに、製品化可能な炭素数が3以上の炭化水素(以下、「軽質FT炭化水素」という。)等が含まれており、FTガス成分において軽質FT炭化水素の含有量が増加すると、液体燃料製品の生産効率が低下してしまうことになる。
そこで、従来から、このFTガス成分を冷却して軽質FT炭化水素を液化し、気液分離器によって、軽質FT炭化水素と、その他のガス分とを分離することが行われている。
さらに、特許文献2に示すように、冷却したFT凝縮物留分を使用して、冷却したFT炭化水素リッチ排ガス成分中のFT軽質炭化水素を吸収、回収する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【特許文献2】特表2008−506817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に示すFT凝縮物留分で軽質FT炭化水素を吸収、回収する方法においては、FTガス成分から炭酸ガスを除去することができない。このため、FTガス成分をFT合成反応器の原料として再利用した場合、FT合成反応器内において炭酸ガスが濃縮することになり、FT合成反応器の効率低下を招くおそれがある。
一方、前述の気液分離器において、FTガス成分の温度を10℃程度まで冷却することで、軽質FT炭化水素の多くを液化してガス分から分離することが可能であるが、特別な冷却装置を設ける必要があり、設備構成が複雑になるとともに製品の製造コストが上昇してしまう。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、特別な冷却装置等を用いることなく、FT合成反応によって副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を効率良く回収するとともに、FTガス成分から炭酸ガスを除去してFTガス成分をFT合成反応の原料として再利用し、液体燃料製品の生産効率を向上させることが可能なFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法は、フィッシャー・トロプシュ合成反応において副生されるFTガス成分より軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法であって、吸収器内に前記FTガス成分を導入する導入工程と、前記吸収器内において、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を供給し、前記FTガス成分に含まれる軽質FT炭化水素及び炭酸ガスを前記吸収溶剤中に吸収させる吸収工程と、前記炭酸ガス及び前記軽質FT炭化水素が吸収された前記吸収溶剤を、前記炭酸ガス吸収剤と前記液体炭化水素とに分離する分離工程と、前記炭酸ガスが吸収された前記炭酸ガス吸収剤を加熱して炭酸ガスを放出させる炭酸ガス放出工程と、前記軽質FT炭化水素が吸収された前記液体炭化水素を加熱して前記軽質FT炭化水素を回収する軽質FT炭化水素回収工程と、前記吸収工程において軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分を、前記フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うFT合成反応器へと供給するFTガス成分供給工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成のFTガス成分からの炭化水素回収方法においては、吸収器にFTガス成分を導入し、この吸収器内において、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を供給することにより、FTガス成分中の軽質FT炭化水素と炭酸ガスを吸収溶剤に吸収させることができる。そして、この吸収溶剤を、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離した後に、それぞれ所定の温度で加熱することで、炭酸ガス吸収剤から炭酸ガスを放出するとともに、液体炭化水素から軽質FT炭化水素を回収することができる。なお、本発明に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法には、GTLプラント設備中の合成ガス生成ユニットにおける脱炭酸装置の設備をそのまま利用してもよく、この場合は、新たな設備を設置する必要がないという長所がある。よって、特別な冷却装置等を用いることなく、FTガス成分から軽質FT炭化水素を効率的に回収することができる。
また、FTガス成分から炭酸ガスが除去されるので、炭酸ガスが濃縮されることなく、FTガス成分をFT合成反応の原料として再利用することが可能となる。
【0010】
ここで、前記吸収溶剤は、前記炭酸ガス吸収剤としてアミン類を含有していることが好ましい。
この場合、FTガス成分中の炭酸ガスが吸収溶剤に効率的に吸収されるとともに、吸収溶剤を加熱することで炭酸ガスを放出させることができる。なお、炭酸ガス吸収剤の沸点は、200℃以上であることが好ましい。
【0011】
また、前記吸収溶剤に含有される前記液体炭化水素の沸点が200℃以上360℃以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、液体炭化水素の沸点が200℃以上とされているので、軽質FT炭化水素回収工程において吸収溶剤を加熱した際に、吸収溶剤を構成する液体炭化水素自体が揮発してしまうことを防止でき、吸収溶剤を繰り返し使用することができる。また、液体炭化水素の沸点が360℃以下とされているので、吸収溶剤が比較的低温になった場合でも、吸収溶剤が固形化することなく、吸収溶剤の流動性を確保することができる。
【0012】
さらに、前記炭酸ガス放出工程では、前記吸収溶剤から分離された前記炭酸ガス吸収剤を100℃以上150℃以下に加熱するとともに、前記軽質FT炭化水素回収工程では、前記吸収溶剤から分離された前記液体炭化水素を100℃以上200℃以下に加熱することが好ましい。
この場合、炭酸ガス放出工程で、吸収溶剤から分離された炭酸ガス吸収剤を100℃以上に加熱するので、炭酸ガスを効率的に放出することができる。一方、炭酸ガス放出工程で吸収溶剤から分離された炭酸ガス吸収剤を150℃より高温に加熱しないので、炭酸ガス吸収剤が揮発してしまうことを防止できる。
また、前記軽質FT炭化水素回収工程で、吸収溶剤から分離された液体炭化水素を100℃以上に加熱するので、軽質FT炭化水素を効率的に放出することができる。一方、軽質FT炭化水素回収工程で吸収溶剤から分離された液体炭化水素を200℃より高温に加熱しないので、吸収溶剤を構成する液体炭化水素自体が揮発してしまうことを防止できる。
【0013】
さらに、前記FTガス成分が、合成ガス生成ユニットからFT合成反応器へ導入される合成ガスと混合され、前記吸収器に導入される構成とすることが好ましい。
フィッシャー・トロプシュ合成反応に用いられる合成ガス(一酸化炭素と水素との混合ガス)の中には、炭酸ガスが含有されているので、この合成ガスと前記FTガス成分とを混合した上で、前記吸収器で炭酸ガスを吸収することにより、効率的に炭酸ガスを吸収することができる。
【0014】
また、前記炭酸ガス放出工程を経た前記炭酸ガス吸収剤及び前記軽質FT炭化水素回収工程を経た前記液体炭化水素を、前記吸収工程で再使用することが好ましい。
吸収溶剤を構成する前記炭酸ガス吸収剤及び前記液体炭化水素は、前記軽質FT炭化水素回収工程及び前記炭酸ガス放出工程において、軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されることになるため、吸収工程において再利用することができる。これにより、軽質FT炭化水素の回収に伴うコストの低減を図ることができる。
【0015】
本発明に係るFTガス成分からの炭化水素回収装置は、フィッシャー・トロプシュ合成反応によって炭化水素化合物を合成するFT合成反応器から放出されるFTガス成分より軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収装置であって、前記FT合成反応器から放出される前記FTガス成分が導入されるとともに、このFTガス成分に炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を供給して、該吸収溶剤に炭酸ガス及び軽質FT炭化水素を吸収させる吸収器と、前記吸収器において炭酸ガス及び軽質炭化水素を吸収した吸収溶剤を、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離する分離器と、 前記分離器で吸収溶剤から分離された炭酸ガス吸収剤を貯留、加熱する炭酸ガス放出器と、前記分離器で吸収溶剤から分離された液体炭化水素を貯留、加熱する軽質FT炭化水素回収器と、前記吸収器において軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分を、前記FT合成反応器へと供給するFTガス成分供給路と、を備えていることを特徴としている。
【0016】
この構成のFTガス成分からの炭化水素回収装置においては、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤をFTガス成分に供給し、吸収溶剤中に炭酸ガス及び軽質FT炭化水素を吸収させる吸収器と、炭酸ガス及び軽質FT炭化水素が吸収された吸収溶剤を、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離する分離器と、前記分離器で吸収溶剤から分離された炭酸ガス吸収剤を貯留、加熱する炭酸ガス放出器と、前記分離器で吸収溶剤から分離された液体炭化水素を貯留、加熱する軽質FT炭化水素回収器と、を備えているので、FTガス成分から効率良く軽質FT炭化水素を回収することができる。
さらに、前記吸収器において軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分を、前記FT合成反応器へと供給するFTガス成分供給路を備えているので、FTガス成分をFT合成反応の原料として再利用することが可能となる。
【0017】
ここで、前記炭酸ガス放出器において炭酸ガスが放出された炭酸ガス吸収剤と、前記軽質FT炭化水素回収器において軽質FT炭化水素が回収された液体炭化水素と、を、前記吸収器に還流させる還流部を備えていることが好ましい。
この場合、炭酸ガスが放出された炭酸ガス吸収剤と、軽質FT炭化水素が回収された液体炭化水素と、を吸収溶剤として、吸収器において再度利用することができる。
【0018】
さらに、前記吸収器は、FT合成反応器に導入される合成ガス中の炭酸ガスを吸収する炭酸ガス吸収塔であることが好ましい。
前述のようにフィッシャー・トロプシュ合成反応に用いられる合成ガス(一酸化炭素と水素との混合ガス)の中には炭酸ガスが含有されているので、この炭酸ガスを除去するために、FT合成反応器の前に炭酸ガス吸収塔が設けられていることがある。そこで、この炭酸ガス吸収塔において、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を用いることによって、別途、新規な設備を設けることなく、FTガス成分から軽質FT炭化水素を回収することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、特別な冷却装置等を用いることなく、FT合成反応によって副生されるFTガス成分から軽質FT炭化水素を効率良く回収するとともに、FTガス成分から炭酸ガスを除去してFTガス成分をFT合成反応の原料として再利用し、液体燃料製品の生産効率を向上させることが可能なFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法及び炭化水素回収装置が用いられる炭化水素合成システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収装置の周辺を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るFTガス成分からの炭化水素回収装置の周辺を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付した図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
最初に、図1を参照して、本実施形態であるFTガス成分からの炭化水素回収方法及びFTガス成分からの炭化水素回収装置が用いられる液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)の全体構成及び工程について説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態にかかる液体燃料合成システム(炭化水素合成反応システム)1は、天然ガス等の炭化水素原料を液体燃料製品に転換するGTLプロセスを実行するプラント設備である。この液体燃料合成システム1は、合成ガス生成ユニット3と、FT合成ユニット5と、製品精製ユニット7とから構成される。
合成ガス生成ユニット3は、炭化水素原料である天然ガスを改質して一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを生成する。
FT合成ユニット5は、生成された合成ガスからフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」という。)により液体炭化水素を生成する。
製品精製ユニット7は、FT合成反応により生成された液体炭化水素を水素化・分留して液体燃料製品(ナフサ、灯油、軽油、ワックス等)を製造する。以下、これら各ユニットの構成要素について説明する。
【0023】
合成ガス生成ユニット3は、脱硫反応器10と、改質器12と、排熱ボイラー14と、気液分離器16,18と、脱炭酸装置20と、水素分離装置26とを主に備える。
脱硫反応器10は、水添脱硫装置等で構成され、原料である天然ガスから硫黄成分を除去する。
改質器12は、脱硫反応器10から供給された天然ガスを改質して、一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分として含む合成ガスを生成する。
排熱ボイラー14は、改質器12にて生成した合成ガスの排熱を回収して高圧スチームを発生する。
気液分離器16は、排熱ボイラー14において合成ガスとの熱交換により加熱された水を気体(高圧スチーム)と液体とに分離する。
気液分離器18は、排熱ボイラー14にて冷却された合成ガスから凝縮分を除去し気体分を脱炭酸装置20に供給する。
脱炭酸装置20は、気液分離器18から供給された合成ガスから吸収溶剤を用いて炭酸ガスを除去する吸収塔22と、当該炭酸ガスを含む吸収溶剤から炭酸ガスを放散させて再生する再生塔24とを有する。
水素分離装置26は、脱炭酸装置20により炭酸ガスが分離された合成ガスから、当該合成ガスに含まれる水素ガスの一部を分離する。
【0024】
FT合成ユニット5は、例えば、気泡塔型反応器(気泡塔型炭化水素合成反応器)30と、気液分離器34と、分離器36と、本実施形態である炭化水素回収装置101と、第1精留塔40とを主に備える。
気泡塔型反応器30は、合成ガスを液体炭化水素に合成する反応器の一例であり、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成反応器として機能する。この気泡塔型反応器30は、例えば、塔型の容器内部に、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容された気泡塔型スラリー床式反応器で構成される。この気泡塔型反応器30は、上記合成ガス生成ユニットで生成された合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガス)を反応させて液体炭化水素を合成する。
気液分離器34は、気泡塔型反応器30内に配設された伝熱管32内を流通して加熱された水を、水蒸気(中圧スチーム)と液体とに分離する。
分離器36は、気泡塔型反応器30の内部に収容されたスラリー中の触媒粒子と液体炭化水素とを分離処理する。
炭化水素回収装置101は、気泡塔型反応器30の上部に接続され、放出されるFTガス成分から炭素数3以上の炭化水素(軽質FT炭化水素)を回収する。
第1精留塔40は、気泡塔型反応器30から分離器36、気液分離器38を介して供給された液体炭化水素を蒸留し、沸点に応じて各留分に分留する。
【0025】
製品精製ユニット7は、例えば、ワックス分水素化分解反応器50と、中間留分水素化精製反応器52と、ナフサ留分水素化処理反応器54と、気液分離器56,58,60と、第2精留塔70と、ナフサスタビライザー72とを備える。
ワックス分水素化分解反応器50は、第1精留塔40の下部に接続されており、その下流側に気液分離器56が設けられている。
中間留分水素化精製反応器52は、第1精留塔40の中央部に接続されており、その下流側に気液分離器58が設けられている。
ナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部に接続されており、その下流側に気液分離器60が設けられている。
第2精留塔70は、気液分離器56,58から供給された液体炭化水素を沸点に応じて分留する。
ナフサスタビライザー72は、気液分離器60及び第2精留塔70から分留されたナフサ相当の炭化水素を精留して、軽質成分はオフガス側へ排出し、重質成分は製品のナフサとして分離・回収する。
【0026】
次に、以上のような構成の液体燃料合成システム1により、天然ガスから液体燃料を合成する工程(GTLプロセス)について説明する。
【0027】
液体燃料合成システム1には、天然ガス田または天然ガスプラントなどの外部の天然ガス供給源(図示せず。)から、炭化水素原料としての天然ガス(主成分がCH)が供給される。上記合成ガス生成ユニット3は、この天然ガスを改質して合成ガス(一酸化炭素ガスと水素ガスを主成分とする混合ガス)を製造する。
【0028】
まず、上記天然ガスは、水素分離装置26によって分離された水素ガスとともに脱硫反応器10に供給される。脱硫反応器10は、当該水素ガスを用いて天然ガスに含まれる硫黄分を例えばZnO触媒で水添脱硫する。
脱硫された天然ガスは、二酸化炭素(炭酸ガス)供給源(図示せず。)から供給される二酸化炭素(炭酸ガス)と、排熱ボイラー14で発生した水蒸気とが混合された後で、改質器12に供給される。改質器12は、水蒸気・炭酸ガス改質法により、二酸化炭素(炭酸ガス)と水蒸気とを用いて天然ガスを改質して、一酸化炭素ガスと水素ガスとを主成分とする高温の合成ガスを生成する。
【0029】
このようにして改質器12で生成された高温の合成ガス(例えば、900℃、2.0MPaG)は、排熱ボイラー14に供給され、排熱ボイラー14内を流通する水との熱交換により冷却(例えば400℃)されて、排熱回収される。
排熱ボイラー14において冷却された合成ガスは、凝縮液分が気液分離器18において分離・除去された後、脱炭酸装置20の吸収塔22、又は気泡塔型反応器30に供給される。吸収塔22において炭酸ガスが吸収され、再生塔24において炭酸ガスが放出される。なお、放出された炭酸ガスは、再生塔24から改質器12に送られて、上記改質反応に再利用される。
【0030】
このようにして、合成ガス生成ユニット3で生成された合成ガスは、上記FT合成ユニット5の気泡塔型反応器30に供給される。このとき、気泡塔型反応器30に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。
【0031】
また、水素分離装置26は、圧力差を利用した吸着、脱着(水素PSA)により、合成ガスに含まれる水素ガスを分離する。当該分離された水素は、ガスホルダー(図示せず。)等から圧縮機(図示せず。)を介して、液体燃料合成システム1内において水素を利用して所定反応を行う各種の水素利用反応装置(例えば、脱硫反応器10、ワックス分水素化分解反応器50、中間留分水素化精製反応器52、ナフサ留分水素化処理反応器54など)に、連続して供給される。
【0032】
次いで、上記FT合成ユニット5は、上記合成ガス生成ユニット3によって生成された合成ガスから、FT合成反応により、液体炭化水素を合成する。
【0033】
上記合成ガス生成ユニット3によって生成された合成ガスは、気泡塔型反応器30の底部から流入されて、気泡塔型反応器30内に収容されたスラリー内を上昇する。この際、気泡塔型反応器30内では、上述したFT合成反応により、当該合成ガスに含まれる一酸化炭素と水素ガスとが反応して、炭化水素が生成される。
気泡塔型反応器30で合成された液体炭化水素は、スラリーとして触媒粒子ともに分離器36に導入される。
【0034】
分離器36は、スラリーを触媒粒子等の固形分と液体炭化水素を含んだ液体分とに分離する。分離された触媒粒子等の固形分は、その一部が気泡塔型反応器30に戻され、液体分は第1精留塔40に供給される。
また、気泡塔型反応器30の塔頂からは、未反応の合成ガスと合成された炭化水素のガス分とを含むFTガス成分が放出され、本実施形態である炭化水素回収装置101に供給される。炭化水素回収装置101では、FTガス成分から炭酸ガスと軽質FT炭化水素を回収する。また、炭酸ガスと軽質FT炭化水素を回収した後のガス分は、未反応の合成ガス(COとH)、炭素数2以下の炭化水素を主成分としており、一部は気泡塔型反応器30の底部に再投入されてFT合成反応に再利用される。また、FT合成反応に再利用されなかったガス分は、オフガス側へ排出され、燃料ガスとして使用されたり、LPG(液化石油ガス)相当の燃料が回収されたり、合成ガス生成ユニットの改質器12の原料に再利用されたりする。
【0035】
次いで、第1精留塔40は、上記のようにして気泡塔型反応器30から分離器36、気液分離器38を介して供給された液体炭化水素を加熱して、沸点の違いを利用して分留し、ナフサ留分(沸点が約150℃未満)と、灯油・軽油に相当する中間留分(沸点が約150〜350℃)と、ワックス分(沸点が約350℃より大)とに分留する。
この第1精留塔40の底部から取り出されるワックス分の液体炭化水素(主としてC21以上)は、ワックス分水素化分解反応器50に移送され、第1精留塔40の中央部から取り出される中間留分の液体炭化水素(主としてC11〜C20)は、中間留分水素化精製反応器52に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC〜C10)は、ナフサ留分水素化処理反応器54に移送される。
【0036】
ワックス分水素化分解反応器50は、第1精留塔40の下部から分留された炭素数の多いワックス分の液体炭化水素(概ねC21以上)を、上記水素分離装置26から供給された水素ガスを利用して水素化分解して、炭素数をC20以下に低減する。この水素化分解反応では、触媒と熱を利用して、炭素数の多い炭化水素のC−C結合を切断して、炭素数の少ない低分子量の炭化水素を生成する。このワックス分水素化分解反応器50により、水素化分解された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器56で気体と液体とに分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、中間留分水素化精製反応器52及びナフサ留分水素化処理反応器54に移送される。
【0037】
中間留分水素化精製反応器52は、第1精留塔40の中央部から分留された炭素数が中程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC11〜C20)を、水素分離装置26からワックス分水素化分解反応器50を介して供給された水素ガスを用いて、水素化精製する。この水素化精製反応は、上記液体炭化水素の異性化及び不飽和結合に水素を付加して飽和させ、主に側鎖状飽和炭化水素(イソパラフィン)を生成する反応である。この結果、水素化精製された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器58で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、第2精留塔70に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、上記水素化反応に再利用される。
【0038】
ナフサ留分水素化処理反応器54は、第1精留塔40の上部から分留された炭素数が少ないナフサ留分の液体炭化水素(概ねC10以下)を、水素分離装置26からワックス分水素化分解反応器50を介して供給された水素ガスを用いて、水素化処理する。この結果、水素化処理された液体炭化水素を含む生成物は、気液分離器60で気体と液体に分離され、そのうち液体炭化水素は、ナフサスタビライザー72に移送され、気体分(水素ガスを含む。)は、上記水素化反応に再利用される。
【0039】
次いで、第2精留塔70は、上記のようにしてワックス分水素化分解反応器50及び中間留分水素化精製反応器52から供給された液体炭化水素を蒸留して、炭素数がC10以下の炭化水素(沸点が約150℃未満)と、灯油(沸点が約150〜250℃)と、軽油(沸点が約250〜350℃)及びワックス分水素化分解反応器56からの未分解ワックス分(沸点が約350℃より大)とに分留する。第2精留塔70の塔底からは未分解ワックス分が得られ、これはワックス分水素化分解反応器50の前にリサイクルされる。第2精留塔70の中央部からは灯油及び軽油が取り出される。一方、第2精留塔70の塔頂からは、炭素数がC10以下の炭化水素ガスが取り出されて、ナフサスタビライザー72に供給される。
【0040】
さらに、ナフサスタビライザー72では、上記ナフサ留分水素化処理反応器54及び第2精留塔70から分留された炭素数がC10以下の炭化水素を蒸留して、製品としてのナフサ(C〜C10)を分留する。これにより、ナフサスタビライザー72の下部からは、高純度のナフサが取り出される。一方、ナフサスタビライザー72の塔頂からは、製品対象外である炭素数が所定数以下の炭化水素を主成分とするオフガスが排出される。このオフガスは、燃料ガスとして使用されたり、LPG相当の燃料が回収されたりする。
【0041】
以上、液体燃料合成システム1の工程(GTLプロセス)について説明した。係るGTLプロセスにより、天然ガスを、高純度のナフサ(C〜C10:粗ガソリン)、灯油(C11〜C15:ケロシン)及び軽油(C16〜C20:ガスオイル)等の液体燃料に転換することになる。
【0042】
次に、図2を参照して、本実施形態である炭化水素回収装置101周辺の構成について詳細に説明する。
この炭化水素回収装置101は、気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の上部から放出されたFTガス成分中の液体分(水及び液体炭化水素)を分離する第1気液分離器103及び第2気液分離器105と、このFTガス成分を、合成ガス導入配管28に移送する移送手段106と、合成ガスと混合されたFTガス成分が導入される吸収器112と、この吸収器112において炭酸ガス及び軽質FT炭化水素が吸収された吸収溶剤を、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離する分離器115と、分離器115で分離された炭酸ガス吸収剤を加熱して炭酸ガスを放出する炭酸ガス放出器114と、分離器115で分離された液体炭化水素を加熱して軽質FT炭化水素を回収する軽質FT炭化水素回収器116と、吸収器112から気泡塔型反応器30(FT合成反応器)へとFTガス成分を供給するFTガス成分供給路113と、を備えている。なお、本実施形態においては、第1気液分離器103及び第2気液分離器105が、図1における気液分離器38を構成することになる。
【0043】
本実施形態においては、吸収器112として、前述の脱炭酸装置20の吸収塔22を用いており、炭酸ガス放出器114として、前述の脱炭酸装置20の再生塔24を用いている。また、FTガス成分供給路113として、吸収塔22から合成ガスを気泡塔型反応器30(FT合成反応器)に供給する合成ガス供給路23を用いている。
この吸収器112(吸収塔22)においては、上部から炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤が供給されるように構成されている。
吸収器112(吸収塔22)内の吸収溶剤は、配管を通じて分離器115に移送され、この分離器115において炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離される。分離された炭酸ガス吸収剤は炭酸ガス放出器114(再生塔24)に移送され、分離された液体炭化水素は軽質FT炭化水素回収器116に移送される。
【0044】
次に、このような構成とされた炭化水素回収装置101を用いた本実施形態であるFTガス成分からの炭化水素回収方法について、図2及び図3を参照して説明する。
【0045】
まず、気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の上部からFTガス成分が放出される(FTガス成分放出工程S1)。
このFTガス成分が第1気液分離器103及び第2気液分離器105に導入され、FTガス成分中の液体分(水および液体炭化水素)が分離される(気液分離工程S2)。なお、第1気液分離器103と第2気液分離器105との間には冷却器104が設けられており、第1気液分離器103で液体分が分離されたFTガス成分中の炭化水素を凝縮・液化して第2気液分離器105でさらに分離するように構成されている。また、第1気液分離器103及び第2気液分離器105で分離された水および液体炭化水素は、それぞれ回収配管108、109を介して回収される。
一方、気泡塔型反応器30より液体として製出される重質FT炭化水素は、前述の分離器36に導入される。
【0046】
第1気液分離器103及び第2気液分離器105において液体分が分離されたFTガス成分は、移送手段106によって、合成ガス導入配管28に移送され、改質器12で生成された合成ガスと混合される(混合工程S3)。
次に、合成ガスと混合されたFTガス成分が吸収器112(吸収塔22)に導入される(導入工程S4)。そして、この吸収器112(吸収塔22)内において、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤が供給され(吸収溶剤供給工程S5)、吸収溶剤に炭酸ガス及び軽質FT炭化水素が吸収される(吸収工程S6)。
【0047】
ここで、吸収溶剤に含まれる炭酸ガス吸収剤としては、炭酸ガスを吸収するとともに所定温度に加熱することによって吸収した炭酸ガスを放出するアミン類等の水溶液が用いられる。アミン類としては、下記一般式(1)〜(3)で表されるアミン化合物が挙げられる。
R1R2N(CHOH・・・(1)
R1N((CHOH)・・・(2)
N((CHOH)・・・(3)
ここで、式中、R1は水素またはC1からC10のアルキル基、R2は水素またはC1からC4のアルキル基を示す。また、nは1から5とされる。さらに、式(2)、式(3)のアルコール基については、アルキル基の炭素数が異なる場合も含むものとする。
炭酸ガス吸収剤の具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−メチルアミノエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−プロピルアミノエタノール、n−ブチルアミノエタノール、2−(イソプロピルアミノ)エタノール、3−エチルアミノプロパノール、ジプロパノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。
また、水溶液中のアミン類の濃度は、20重量%以上80重量%以下とされ、さらに好ましくは、30重量%以上50重量%以下とされる。
【0048】
一方、吸収溶剤に含まれる液体炭化水素としては、沸点が200℃以上360℃以下とされたものが使用される。また、不飽和分を含まないものが好ましい。なお、前述の液体炭化水素は、単一成分であっても良いし複数成分の混合物であってもよく、第1精留塔40の中央部から分留された炭素数が中程度である中間留分の液体炭化水素を中間留分水素化精製反応器52で水素化精製することにより得られる液体炭化水素であってもよい。
【0049】
次に、炭酸ガス及び軽質FT炭化水素を吸収した吸収溶剤が分離器115に移送され、分離器115において炭酸ガス吸収剤(アミン類水溶液)と液体炭化水素とに分離される(分離工程S7。)
そして、分離器115で分離された炭酸ガス吸収剤が炭酸ガス放出器114(再生塔24)に移送され、炭酸ガス放出器114(再生塔24)内で100〜150℃に加熱され、炭酸ガス吸収剤から炭酸ガスが放出される(炭酸ガス放出工程S8)。
また、分離器115で分離された液体炭化水素が軽質FT炭化水素回収器116に移送され、軽質FT炭化水素回収器116内で100〜200℃に加熱され、液体炭化水素から軽質FT炭化水素が回収される(軽質FT炭化水素回収工程S9)。
【0050】
そして、炭酸ガスが放出された炭酸ガス吸収剤及び軽質FT炭化水素が回収された液体炭化水素は、再び吸収溶剤として、還流路119を介して吸収器112(吸収塔22)へと還流される(還流工程S10)。
また、軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分は、改質器12で生成された合成ガスとともに、吸収工程S6を経た後、FTガス成分供給路113(合成ガス供給路23)を介して気泡塔型反応器30(FT合成反応器)に供給される(FTガス成分供給工程S11)。
【0051】
このようにして、FTガス成分から、軽質FT炭化水素が回収されるとともに炭酸ガスが除去され、FTガス成分が気泡塔型反応器30(FT合成反応器)の原料として再利用される。
【0052】
以上のような構成とされた本実施形態であるFTガス成分からの炭化水素回収装置101及びこの炭化水素回収装置101を用いた炭化水素回収方法によれば、吸収器112(吸収塔22)にFTガス成分を導入し、この吸収器112(吸収塔22)内において、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を供給することにより、FTガス成分中の軽質FT炭化水素と炭酸ガスを吸収溶剤に吸収させ、この吸収溶剤を分離器115において炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離し、この液体炭化水素を所定の温度で加熱することでFTガス成分から軽質FT炭化水素を回収することが可能となる。
また、FTガス成分から炭酸ガスが除去されることになるので、FTガス成分を気泡塔型反応器30(FT合成反応器)に供給して原料として再利用しても、気泡塔型反応器30(FT合成反応器)内での炭酸ガスの濃縮を抑制でき、FT合成反応を円滑に行うことができる。
また、炭酸ガス放出工程S8において、分離された炭酸ガス吸収剤から炭酸ガスが放出されるので、炭酸ガス吸収剤を再利用することが可能となる。
【0053】
また、吸収溶剤に含有される液体炭化水素の沸点が200℃以上360℃以下の範囲内とされているので、軽質FT炭化水素回収工程S9において液体炭化水素を加熱した際に、吸収溶剤を構成する液体炭化水素自体が揮発してしまうことを防止でき、この液体炭化水素を再利用することができるとともに、吸収溶剤が比較的低温になった場合でも、吸収溶剤が固形化することなく吸収溶剤の流動性を確保することができる。
【0054】
また、炭酸ガス放出工程S8において炭酸ガス吸収剤を100℃以上150℃以下に加熱するとともに、軽質FT炭化水素回収工程S9において液体炭化水素を100℃以上200℃以下に加熱するように構成されているので、吸収溶剤を構成する炭酸ガス吸収剤及び液体炭化水素が揮発してしまうことを防止でき、吸収溶剤を繰り返し使用することができる。
【0055】
さらに、吸収器112として、改質器12で生成された合成ガス中の炭酸ガスを除去する脱炭酸装置20の吸収塔22を利用しているので、別途、新規な設備を設けることなく、FTガス成分から軽質FT炭化水素を回収することができる。
また、炭酸ガス放出工程S8において炭酸ガスを放出した炭酸ガス吸収剤と、軽質FT炭化水素回収工程S9において軽質FT炭化水素が回収された液体炭化水素を、吸収溶剤として吸収器112(吸収塔22)に還流する還流工程S10を備えているので、炭酸ガス吸収剤及び液体炭化水素を繰り返し使用することができる。
よって、FTガス成分からの軽質FT炭化水素の回収に伴うコストの低減を図ることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、吸収器として、改質器12で生成された合成ガス中の炭酸ガスを除去する脱炭酸装置20の吸収塔22を利用するものとして説明したが、これに限定されることはなく、図4に示すように、合成ガス中の炭酸ガスを除去する脱炭酸装置20の吸収塔22とは別途独立に、他の吸収器212を設けたものであっても良い。この場合、FTガス成分単独で吸収器212を使用することになる。そして、吸収器212において、炭酸ガス及び軽質FT炭化水素が除去されたFTガス成分は、FTガス成分供給路213を介してFT合成反応器(例えば、気泡塔型反応器30)に供給され、原料として再利用されることになる。
【0057】
また、吸収溶剤中の炭酸ガス吸収剤については、実施形態に列記したものに限定されることはなく、炭酸ガスを吸収及び放出可能な溶媒であれば適用することができる。
さらに、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とを混合した状態で、吸収塔に供給するものとして説明したが、これに限定されることはなく、それぞれ別々に吸収塔に供給して、吸収塔内において混合される構成であってもよい。
【0058】
また、FTガス成分中の液体分を分離する第1気液分離器と第2気液分離器を備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、気液分離器が一つであってもよいし、3つ以上の気液分離器を備えていてもよい。
さらに、合成ガス生成ユニット3、FT合成ユニット5、製品精製ユニット7の構成は、本実施形態に記載されたものに限定されることはなく、FTガス成分が炭化水素回収装置に導入される構成であればよい。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の効果を確認すべく実施した確認実験の結果について説明する。
従来例として、FT合成反応器の上部から放出されるFTガス成分を気液分離器に導入し、凝縮分のFT炭化水素のみを回収した。ここで、気液分離器におけるFTガス成分の温度を調整し、従来例1−3とした。
本発明例として、FT合成反応器の上部から放出されるFTガス成分を気液分離器に導入し、凝縮分のFT炭化水素を回収するとともに、実施形態に記載されたように、吸収器において炭酸ガス吸収剤(ジエタノールアミン50重量%水溶液、吸収溶剤全量に対し60容量%)と液体炭化水素(中間留分水素化精製反応器52の流出物を蒸留して得られる沸点が200〜360℃の留分、吸収溶剤全量に対し40容量%)との混合液からなる吸収溶剤をFTガス成分に供給し、炭酸ガス及び軽質FT炭化水素を除去したFTガス成分をFT合成反応器の原料として再利用するとともに、軽質FT炭化水素を回収した。ここで、気液分離器におけるFTガス成分の温度を調整し、本発明例1−3とした。
そして、従来例においてFT合成反応器から得られるFT合成炭化水素(液体炭化水素)の全量(気液分離器のみで回収した液体炭化水素とFT合成反応器より液体として製出した重質FT炭化水素の合計量)を100とした場合の、本発明例におけるFT合成反応器から得られるFT合成炭化水素(液体炭化水素)全量(気液分離器より回収した液体炭化水素、回収器より回収した軽質FT炭化水素、及びFT合成反応器より液体として製出した重質FT炭化水素の合計量)を製出量として評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
各温度条件において、吸収器を利用して軽質FT炭化水素を回収することにより、FT合成炭化水素(液体炭化水素)の製出量が増加することが確認された。すなわち、本発明によれば、炭酸ガス及び軽質FT炭化水素を除去したFTガス成分をFT合成反応器の原料として再利用する際に、特別な冷却装置等を設けることなく、液体炭化水素の製出量を増加させることができる。
【符号の説明】
【0062】
30 気泡塔型反応器(FT合成反応器)
101 炭化水素回収装置
112 吸収器
114 炭酸ガス放出器
115 分離器
116 軽質FT炭化水素回収器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成反応において副生されるFTガス成分より軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収方法であって、
吸収器内に前記FTガス成分を導入する導入工程と、
前記吸収器内において、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を供給し、前記FTガス成分に含まれる軽質FT炭化水素及び炭酸ガスを前記吸収溶剤中に吸収させる吸収工程と、
前記炭酸ガス及び前記軽質FT炭化水素が吸収された前記吸収溶剤を、前記炭酸ガス吸収剤と前記液体炭化水素とに分離する分離工程と、
前記炭酸ガスが吸収された前記炭酸ガス吸収剤を加熱して炭酸ガスを放出させる炭酸ガス放出工程と、
前記軽質FT炭化水素が吸収された前記液体炭化水素を加熱して前記軽質FT炭化水素を回収する軽質FT炭化水素回収工程と、
前記吸収工程において軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分を、前記フィッシャー・トロプシュ合成反応を行うFT合成反応器へと供給するFTガス成分供給工程と、
を備えていることを特徴とするFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項2】
前記吸収溶剤は、前記炭酸ガス吸収剤としてアミン類を含有していることを特徴とする請求項1に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項3】
前記吸収溶剤に含有される前記液体炭化水素の沸点が200℃以上360℃以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項4】
前記炭酸ガス放出工程では、前記吸収溶剤から分離された前記炭酸ガス吸収剤を100℃以上150℃以下に加熱するとともに、前記軽質FT炭化水素回収工程では、前記吸収溶剤から分離された前記液体炭化水素を100℃以上200℃以下に加熱することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項5】
前記FTガス成分は、合成ガスユニットから前記FT合成反応器へと導入される合成ガスと混合して前記吸収器に導入されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項6】
前記炭酸ガス放出工程を経た前記炭酸ガス吸収剤及び前記軽質FT炭化水素回収工程を経た前記液体炭化水素を、前記吸収工程で再使用することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のFTガス成分からの炭化水素回収方法。
【請求項7】
フィッシャー・トロプシュ合成反応によって炭化水素化合物を合成するFT合成反応器から放出されるFTガス成分より軽質FT炭化水素を回収するFTガス成分からの炭化水素回収装置であって、
前記FT合成反応器から放出される前記FTガス成分が導入されるとともに、このFTガス成分に炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素との混合液からなる吸収溶剤を供給して、該吸収溶剤に炭酸ガス及び軽質FT炭化水素を吸収させる吸収器と、
前記吸収器において炭酸ガス及び軽質炭化水素を吸収した吸収溶剤を、炭酸ガス吸収剤と液体炭化水素とに分離する分離器と、
前記分離器で吸収溶剤から分離された炭酸ガス吸収剤を貯留、加熱する炭酸ガス放出器と、
前記分離器で吸収溶剤から分離された液体炭化水素を貯留、加熱する軽質FT炭化水素回収器と、
前記吸収器において軽質FT炭化水素及び炭酸ガスが除去されたFTガス成分を、前記FT合成反応器へと供給するFTガス成分供給路と、
を備えていることを特徴とするFTガス成分からの炭化水素回収装置。
【請求項8】
前記炭酸ガス放出器において炭酸ガスが放出された炭酸ガス吸収剤と、前記軽質FT炭化水素回収器において軽質FT炭化水素が回収された液体炭化水素と、を、前記吸収器に還流させる還流部を備えていることを特徴とする請求項7に記載のFTガス成分からの炭化水素回収装置。
【請求項9】
前記吸収器は、合成ガスユニットから前記FT合成反応器へと導入される合成ガス中の炭酸ガスを吸収する炭酸ガス吸収塔であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のFTガス成分からの炭化水素回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−202677(P2010−202677A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46151(P2009−46151)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】