説明

FT合成油中の磁性粒子の除去方法

【課題】FT合成粗油に含まれるワックス分は、これを分解してより軽質分として燃料油得率を向上させるのが有利であるが、FT合成粗油に含まれる磁性粒子がワックス分に濃縮され、ワックス分の水素化分解反応等に影響を及ぼす可能性がある。
【解決手段】ワックス留分に含まれる磁性粒子を高勾配磁気分離機により処理温度100〜450℃で分離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素と水素を原料としたフィッシャー・トロプシュ合成法(以下、「FT合成法」と略す。)により得られるフィッシャー・トロプシュ合成粗油から分留されたワックス留分に含まれる磁性粒子を、磁気分離機により分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素の含有量が低く、環境にやさしいクリーンな液体燃料が求められている。そこで、石油業界においては、クリーン燃料の製造方法として、一酸化炭素と水素を原料としたFT合成法が検討されている。FT合成法によれば、パラフィン含有量に富み、かつ硫黄分を含まない液体燃料基材、例えばディーゼル燃料基材を製造することができるため、その期待は非常に大きい。例えば環境対応燃料油は特許文献1でも提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【0004】
ところで、FT合成法によって得られる合成粗油(以下、「FT合成粗油」ということがある。)は広い炭素数分布を有しており、このFT合成油からは、例えば、沸点範囲150℃以下の炭化水素を多く含むFTナフサ留分、沸点150℃〜360℃の留分を多く含むFT中間留分及びこの中間留分より重質なFTワックス分を得ることができる。
FTワックス分はそれ自体相当量が併産されるので、合成粗油を分留し、ワックス留分として取得し、これを水素化分解して中間留分へ軽質化できれば、ディーゼル燃料等の燃料油の増産につながる。
【0005】
一方、一酸化炭素と水素を原料としたFT合成法の触媒は、従来、鉄系の固体触媒が多いが、近年は高活性なことからコバルト系の固体触媒も開発されている。
ここで、FT合成法の反応形態も固定床、流動床、移動床等あり得るが、いずれにしろ固体触媒である不均一系触媒が使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、FT合成法には、いずれにしろ固体触媒である不均一系触媒が使用される。得られるFT合成粗油は、ろ過処理や静置処理等により残留触媒の除去処理を常法に従い施すのであるが、残留触媒を完全にゼロとすることはコスト的にも不可能で、その量は微量であっても一定量の残留触媒が含まれざるを得ない。
【0007】
そして、この残留触媒は、FT合成粗油の分留に際しては、ボトム成分であるワックス留分に濃縮される。
その結果、たとえ初めのFT合成粗油には僅かな残留濃度であっても、精留塔ボトムに濃縮される結果、水素化分解装置への堆積が懸念され好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、FT合成油の残留触媒の鉄系触媒粒子のほか、コバルト系触媒粒子もまた磁性を有する粒子であり、しかも磁気分離が可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の第1は、FT合成法により得られるFT合成粗油から合成燃料を製造する方法において、
(a)FT合成法により得られる合成粗油を精留塔で、ディーゼル燃料油に相当する沸点範囲の成分を含む中間留分と、当該中間留分よりも重質なワックス分を含むワックス留分の少なくとも二つの留分に分留する工程、
(b)工程(a)で得られたワックス留分に含まれる磁性粒子を高勾配磁気分離機により処理温度100〜450℃で分離除去する工程、
(c)工程(b)で得られた磁性粒子を分離除去したワックス留分を水素化分解する工程、
を含むことを特徴とする合成燃料の製造方法に関する。
【0010】
本発明の第2は、上記第1の発明の工程(b)において、高勾配磁気分離機による磁性粒子の分離除去を10000ガウス以上の磁場強度、15秒以上の液滞留時間からなる条件で行なうことを特徴とする合成燃料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1により、磁性粒子を磁気分離で除去することで水素化分解装置への堆積を防止でき、水素化分解装置において支障の無い運転が可能となる。
本発明の第2によっては、より効率的に磁性粒子の磁気分離がなされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に詳細に本発明を説明する。
以下、図1を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
図1に示すように、ライン1から一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを供給し、FT合成反応器10におけるFT合成反応により液体炭化水素が生成される。合成ガスは、たとえば適宜に炭化水素の改質等により得ることができる。代表的な炭化水素としては、メタンや天然ガス、LNG(液化天然ガス)等を挙げる事ができる。たとえば、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
【0013】
次に図1につきFT合成について説明する。
FT合成は、FT合成反応器10を備える。反応器10は、たとえば気泡塔型反応器とすることができ、これは合成ガスを合成して液体炭化水素とする反応器の一例であり、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成用反応器として機能する。
【0014】
反応器10本体は、略円筒型の金属製の容器であって、その直径は1〜20m程度、好ましくは2〜10m程度である。反応器本体の高さは10〜50m程度、好ましくは15〜45m程度である。反応器本体の内部には、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容される。
この反応器の途中からは、ライン3からスラリーの一部を分離器20に流出させる。反応器10の塔頂からは、ライン2で未反応の合成ガス等を排出させ、適宜に一部は反応器に循環させる。
【0015】
外部から合成ガス供給管1を通じて供給された合成ガスは、合成ガス供給口(図示せず)から、反応器10内部のスラリー中に噴射される。合成ガスは触媒粒子と接触する接触反応により、液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が行われる。具体的には、下記化学反応式(1)に示すように水素ガスと一酸化炭素ガスとが合成反応を起こす。
【0016】
2nH十nCO→(−CH−)n+nH0 ....(1)
【0017】
具体的には、合成ガスを、反応器10の底部に流入し、反応器内に貯留されたスラリー内を上昇させる。この際、反応器内では、上述したFT合成反応により、当該合成ガスに含まれる一酸化炭素と水素ガスとが反応して、炭化水素が生成される。さらに、この合成反応時には発熱するが、適宜の冷却手段で除熱する。
金属触媒は担持型や沈積型等あるが、いずれにしろ、鉄族金属を含む固体粒子である。固体粒子中に、金属は適宜の量が含まれるが、100%金属でも良い。鉄族金属としては鉄が例示されるほか、高活性な点から、コバルトが好ましい。
【0018】
上記FT合成反応器10に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。なお、反応器10に供給される合成ガスは、適宜の圧縮機(図示せず)により、FT合成反応に適切な圧力(例えば3.6MPaG)まで昇圧される。ただし、上記圧縮機は、設ける必要がない場合もある。
【0019】
かくして反応器10で合成された液体炭化水素は、反応器10の途中のライン3から触媒粒子の懸濁するスラリーとして反応器10から取り出されて、分離器20に導入される。分離器20では、取り出されたスラリーを、液・固分離手段で触媒粒子等の固形分と、液体炭化水素を含んだ液体分とに分離する。この液・固分離手段は従来公知の常法により行なうことができる。たとえば、焼結金属フィルター等の適宜のフィルターを用いるろ過器、たとえば自然沈降方式の重力沈降分離器、サイクロン、磁気分離機および遠心分離器等を例示できる。
【0020】
分離された触媒粒子等の固形分は、可能ならばライン4から反応器10に戻して再使用され、液体分は生成物として第1精留塔30に供給される。
ここで分離された液体分は、たとえば、炭素数5以上の炭化水素基準で、沸点150℃以上の炭化水素含有量が84質量%、沸点360℃以上の炭化水素含有量が42質量%であるような炭化水素として例示され、このほか少量の含酸素化合物、オレフィン分が含まれる。前記した液・固分離手段により残留触媒の程度は微量にはなっているが、触媒粒子が懸濁する反応形態のため、触媒粒子の衝突による粉砕、摩耗等により発生した粉体も多く、それゆえ上記液・固分離操作には相当なロードが必要である。
【0021】
図1では、FT合成油を分留する第1の精留塔30と、第1の精留塔30で分留されたナフサ留分、中間留分、ワックス留分をそれぞれ処理する、水素化精製装置54、水素化異性化装置52、水素化分解装置50を備える。
【0022】
第1精留塔30は、上記のようにして反応器10から分離器20を介して供給された液体炭化水素を分留し、最も軽質なナフサ留分(沸点が約150℃未満)と、中間の沸点領域の中間留分(沸点が約150〜350℃)、および最も重質なワックス留分(沸点が約350℃より大)の3留分に分離・精製する。図では3留分に分けたが、ワックス留分と、それ以外の留分の計2留分に分けても良いし、またさらにはワックス留分を含んで3留分以上に分けることも可能である。
【0023】
この第1精留塔30の底部から取り出されるワックス留分の液体炭化水素(主としてC21以上)は、高勾配磁気分離機40に導かれた後、ワックス留分水素化分解装置50に移送され、第1精留塔30の中央部からライン32で取り出される中間留分の液体炭化水素(主としてC11〜C20)は、中間留分の水素化異性化装置52に移送され、第1精留塔40の上部から取り出されるナフサ留分の液体炭化水素(主としてC〜C10)は、ナフサ留分水素化精製装置54に移送される。
【0024】
ワックス留分水素化分解装置50は、第1精留塔30のボトムからライン31で流出するワックス留分(概ねC21以上)を高勾配磁気分離機40で処理した後、水素により水素化分解して、ワックスの炭素数を低減する。この水素化分解反応では、触媒により炭化水素のC−C結合を切断して炭素数のより少ない低分子量の炭化水素を生成する。このワックス留分水素化分解装置50により、水素化分解された液体炭化水素は、第2精留塔60に移送される。
【0025】
ここで、第1精留塔下部から留出するワックス留分には、たとえ前記液・固分離装置で除去されていても、FT合成用触媒の残渣が濃縮されており、水素化分解装置への堆積が懸念され、同装置において運転に支障の出る可能がある。
一方、FT合成用触媒としての鉄族金属の態様は、鉄にしろコバルトにしろ、一定の磁化率を有し、常磁性を示すこともわかった。したがって、磁気分離による除去が相当程度有効である。
また、既に所定の液固分離器20により相当程度除去しているので、ここではワックス留分に濃縮されて含まれる磁性粒子を高勾配磁気分離機40により処理温度100〜450℃で分離除去するものである。以下に当該工程を説明する。
【0026】
本発明で用いる高勾配磁気分離機40とは、外部の電磁コイルにより発生する均一な高磁場空間内に強磁性の充填物を配置し、充填物の周囲に生じる通常1〜20kガウス/cmの高い磁場勾配により、充填物の表面に強磁性あるいは常磁性の粒子物質を付着させてそれらを分離し、さらに付着した粒子を洗浄するように設計された磁気分離機である。たとえば、高勾配磁気分離機としては登録商標”FEROSEP”等で知られる市販機を使用することができる。
【0027】
上記強磁性充填物としては、通常1〜1000μmの径をもつスチールウールあるいはスチールネットのような強磁性細線の集合体、エキスパンドメタル、貝殻状金属細片が用いられる。金属としては耐食、耐熱性、強度に優れるステンレススチールが好ましい。
【0028】
そのほか、特開平7−70568号公報で提案されているような、強磁性金属片が二つの面を有する板状体であって、その二つの面うち面積が広い方の面の面積が、直径R=0.5〜4mmの円の面積と等しく、かつその板状体の最大厚さdに対するRの比、R/dが5〜20の範囲にあり、しかもその板状体がFeを主成分とし、Crを5〜25wt%、Siを0.5〜2wt%、Cを2wt%以下の量で含有するFe−Cr系合金からなる強磁性金属片もまた好ましく利用できる。
【0029】
高勾配磁気分離機40でワックス留分中の磁性粒子を分離する工程は、該留分を高勾配磁気分離機40の磁場空間内に導入し、磁場空間内に置かれた強磁性充填物に磁性粒子を付着させてワックス留分から除去する。次に充填物に付着した磁性粒子を洗浄除去する工程は、一定面積の充填物が捕捉する磁性粒子の量には限界があり、捕捉量が一定量又は限界量に達したならば捕捉した磁性粒子を充填物から洗浄除去する。この洗浄除去工程は、磁場を断って磁性粒子を脱離させ、これを洗浄液によって磁気分離機外に排出することによって行われる。ワックス留分中に含有される磁性粒子の磁気分離条件ならびに充填物に捕捉され付着した磁性粒子の洗浄除去条件を以下に述べる。
【0030】
高勾配磁気分離機40の分離条件としては、磁場強度は10000ガウス以上が好ましく、さらに25000ガウス以上が好ましく、特に50000ガウス以上が好ましい。分離機内の液温度(処理温度)は本発明では100℃以上450℃以下が必要であり、100℃以上400℃以下が好ましく、さらに100℃以上300℃以下が好ましく、100℃以上200℃以下がさらにより好ましい。液滞留時間(滞留時間)は、15秒以上が好ましく、50秒以上がさらに好ましい。
【0031】
次に、磁性粒子の磁気分離操作を継続すると、充填物に捕捉された磁性粒子の量の増加につれて除去率が低下する。従って除去率を維持するためには、一定時間通油した後、捕捉された磁性粒子を磁気分離機外へ排出する洗浄除去工程が必要となる。工業上の実際運転では、この洗浄除去工程中、磁性粒子含有原料留分は磁気分離機をバイパスしてもよいが、洗浄必要時間が長いと磁性粒子の水素化処理装置への流入量が多くなり、除去率が低下することになるので、必要に応じ切替用の予備分離機を設けてもよい。
【0032】
洗浄除去においては、本発明においては磁気分離処理後の処理油、あるいは磁気分離後に水素化分解したワックス分解生成油を洗浄液として利用することができる。
【0033】
洗浄除去工程は、充填物周囲の磁場を消失(磁気分離機用電磁コイルの通電を止める)させ、上記洗浄液を分離機塔底から導入し、充填物に単に付着している磁性粒子を流し去る操作である。洗浄条件としては、洗浄液線速度が1〜10cm/sec、好ましくは2〜6cm/secである。
【0034】
以下に図2を参照しながら磁気分離工程をさらに説明する。
【0035】
図2は本発明に使用する高勾配磁気分離機40の模式簡略図である。高勾配磁気分離機40の分離部は縦型充填塔をなし、ここに強磁性充填物が充填されている。充填物が充填されている充填層41は、塔外部の電磁コイル42により発生する磁力線により磁化されて高勾配の磁気分離部を形成する。この部分が、前記の外部の電磁コイルにより発生する均一な高磁場空間である。操作適温に加熱されたワックス留分は所定の流速、好ましくは液滞留時間が15秒以上となる流速で、ライン31からこの分離部を下方から上方へ通過し、この間に磁性粒子が充填物表面に付着して除かれる。
【0036】
ワックス留分がライン31から磁気分離機40を通過中は、洗浄液は洗浄油バイパスライン(図示せず)を通ってバイパスし、洗浄液がライン43から供給されて磁気分離機40を洗浄する際は、その間ワックス留分はワックス留分バイパスライン(図示せず)を通ってバイパスさせ、直接水素化分解装置50に送液することもできる。磁気分離機40を洗浄した洗浄液はライン44から、系外へ排出される。このようにして除去運転、洗浄運転の切替、繰返し連続運転が可能となる。上記洗浄除去工程は、たとえば、特開平6−200260号公報記載の方法を参考にして行なうことができる。
【0037】
<ワックス留分の水素化分解>
水素化分解装置50では、磁性粒子が除去されたワックス留分を水素化分解する。水素化分解装置50としては、公知の固定床反応塔を用いることができる。本実施形態では、反応塔において、所定の水素化分解触媒を固定床の流通式反応器に充填し、ワックス留分を水素化分解する。
【0038】
水素化分解触媒としては、例えば、固体酸を含んで構成される担体に、活性金属として周期律表第VIII族に属する金属を担持したものが挙げられる。
【0039】
好適な担体としては、超安定化Y型(USY)ゼオライト、HYゼオライト、モルデナイト及びβゼオライトなどの結晶性ゼオライト、並びに、シリカアルミナ、シリカジルコニア及びアルミナボリアなどの耐熱性を有する無定形金属酸化物の中から選ばれる1種類以上の固体酸を含んで構成されるものが挙げられる。更に、担体は、USYゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアの中から選ばれる1種類以上の固体酸とを含んで構成されるものであることがより好ましく、USYゼオライトとシリカアルミナとを含んで構成されるものであることが更に好ましい。
【0040】
USYゼオライトは、Y型のゼオライトを水熱処理及び/又は酸処理により超安定化したものであり、Y型ゼオライトが本来有する20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成されている。水素化精製触媒の担体としてUSYゼオライトを使用する場合、その平均粒子径に特に制限は無いが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USYゼオライトにおいて、シリカ/アルミナのモル比率(アルミナに対するシリカのモル比率;以下、「シリカ/アルミナ比」という。)は10〜200であると好ましく、15〜100であるとより好ましく、20〜60であるとさらにより好ましい。
【0041】
また、担体は、結晶性ゼオライト0.1質量%〜80質量%と、耐熱性を有する無定形金属酸化物0.1質量%〜60質量%とを含んで構成されるものであることが好ましい。
【0042】
触媒担体は、上記固体酸とバインダーとを含む混合物を成形した後、焼成することにより製造することができる。固体酸の配合割合は、担体全量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。また、担体がUSYゼオライトを含んで構成される場合、USYゼオライトの配合量は、担体全量を基準として0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。更に、担体がUSYゼオライト及びアルミナボリアを含んで構成される場合、USYゼオライトとアルミナボリアとの配合比(USYゼオライト/アルミナボリア)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。また、担体がUSYゼオライト及びシリカアルミナを含んで構成される場合、USYゼオライトとシリカアルミナとの配合比(USYゼオライト/シリカアルミナ)は、質量比で0.03〜1であることが好ましい。
【0043】
バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。バインダーの配合量は、担体全量を基準として20〜98質量%であることが好ましく、30〜96質量%であることがより好ましい。
【0044】
混合物の焼成温度は、400〜550℃の範囲内であることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0045】
第VIII族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、パラジウム及び白金の中から選ばれる金属を、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0046】
これらの金属は、含浸やイオン交換等の常法によって上述の担体に担持させることができる。担持する金属量は特に制限はないが、金属の合計量が担体に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。
【0047】
ワックス分の水素化分解は、次のような反応条件下で行うことができる。すなわち水素分圧としては、0.5〜12MPaが挙げられるが、1.0〜5.0MPaが好ましい。中間留分の液空間速度(LHSV)としては、0.1〜10.0h−1が挙げられるが、0.3〜3.5h−1が好ましい。水素/油比としては、特に制限はないが、50〜1000NL/Lが挙げられ、70〜800NL/Lが好ましい。
【0048】
なお、本明細書において、「LHSV(liquid hourly space velocity;液空間速度)」とは、触媒が充填されている触媒層の容量当たりの、標準状態(25℃、101325Pa)における原料油の体積流量のことをいい、単位「h−1」は時間(hour)の逆数を示す。また、水素/油比における水素容量の単位である「NL」は、正規状態(0℃、101325Pa)における水素容量(L)を示す。
【0049】
また、水素化分解における反応温度(触媒床重量平均温度)としては、180〜400℃が挙げられるが、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃がさらにより好ましい。水素化分解における反応温度が370℃を越えると、中間留分の収率が極度に減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料基材としての使用が制限されるため好ましくない。また、反応温度が200℃を下回ると、アルコール分が除去しきれずに残存するため好ましくない。
【0050】
中間留分の水素化精製(水素化異性化)装置52は、第1精留塔30の中央部からライン32で供給された沸点範囲が中間程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC11〜C20)を、水素を用いて水素化精製(水素化異性化)する。この水素化精製反応は、上記液体炭化水素を異性化したり、その不飽和結合に水素を付加して飽和させる等の反応である。この結果、水素化精製された炭化水素を含む生成物は、第2精留塔60に移送される。
【0051】
<中間留分の水素化異性化>
水素化異性化装置52としては、公知の固定床反応塔を用いることができる。本実施形態では、反応塔において、所定の水素化異性化触媒を固定床の流通式反応器に充填し、第1の精留塔30で得られた中間留分を水素化異性化する。ここでいう水素化異性化処理には、n−パラフィンのイソパラフィンへの異性化のほかに、水素添加によるオレフィンのパラフィンへの転化や、脱水酸基によるアルコールのパラフィンへの転化が含まれる。
【0052】
水素化異性化触媒としては、例えば、固体酸を含んで構成される担体に、活性金属として周期律表第VIII族に属する金属を担持したものが挙げられる。
【0053】
好適な担体としては、シリカアルミナ、シリカジルコニア及びアルミナボリアなどの耐熱性を有する無定形金属酸化物の中から選ばれる1種類以上の固体酸を含んで構成されるものが挙げられる。
【0054】
触媒担体は、上記固体酸とバインダーとを含む混合物を成形した後、焼成することにより製造することができる。固体酸の配合割合は、担体全量を基準として1〜70質量%であることが好ましく、2〜60質量%であることがより好ましい。
【0055】
バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。バインダーの配合量は、担体全量を基準として30〜99質量%であることが好ましく、40〜98質量%であることがより好ましい。
【0056】
混合物の焼成温度は、400〜550℃の範囲内であることが好ましく、470〜530℃の範囲内であることがより好ましく、490〜530℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0057】
第VIII族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、パラジウム及び白金の中から選ばれる金属を、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0058】
これらの金属は、含浸やイオン交換等の常法によって上述の担体に担持させることができる。担持する金属量は特に制限はないが、金属の合計量が担体に対して0.1〜3.0質量%であることが好ましい。
【0059】
中間留分の水素化異性化は、次のような反応条件下で行うことができる。水素分圧としては、0.5〜12MPaが挙げられるが、1.0〜5.0MPaが好ましい。中間留分の液空間速度(LHSV)としては、0.1〜10.0h−1が挙げられるが、0.3〜3.5h−1が好ましい。水素/油比としては、特に制限はないが、50〜1000NL/Lが挙げられ、70〜800NL/Lが好ましい。
【0060】
また、水素化異性化における反応温度としては、180〜400℃が挙げられるが、200〜370℃が好ましく、250〜350℃がより好ましく、280〜350℃がさらにより好ましい。反応温度が370℃を越えると、軽質分へ分解する副反応が増えて中間留分の収率が減少するだけでなく、生成物が着色し、燃料基材としての使用が制限されるため好ましくない。また、反応温度が200℃を下回ると、アルコール分が除去しきれずに残存するため好ましくない。
【0061】
ナフサ留分水素化精製装置54は、第1精留塔30の上部から留出するナフサ留分(概ねC10以下)を、水素ガスを用いて水素化精製する。この結果、水素化精製された炭化水素を含む生成物は、ナフサ・スタビライザー70に移送され、その下部から精製されたナフサ留分が得られる。ナフサ・スタビライザー70の塔頂からは、C以下の炭化水素を主成分とするガスが排出される。
【0062】
次いで、第2精留塔60は、上記のようにしてワックス留分水素化分解装置50及び中間留分の水素化異性化装置52で処理された炭化水素とを合わせて精留し、ケロシン留分(沸点が約150〜250℃)と、ガスオイル留分(沸点が約250〜350℃)を取り出す。ワックス留分水素化分解装置50及び中間留分の水素化異性化装置52で処理された炭化水素の混合方式は特に限定されず、タンクブレンドでもラインブレンドでも良い。そして、第2精留塔60の塔頂から抜き出される軽質分はスタビライザー70の張り込み線55に導入される。
【0063】
第2の精留塔60の塔底から留出するボトム留分は、ワックスの水素化分解装置50の入口へライン61により、適宜にリサイクルさせて再度これを水素化分解して分解収率を向上させることができる。
【0064】
以上のようにして、FT合成粗油からナフサ留分、ケロシン留分およびガスオイル留分を製造することができ、しかもFT合成粗油中に必然的に含まれるワックス留分は効率よく分解されて、より軽質な留分に転換されるので、大幅な収率向上が達成される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、一酸化炭素と水素を原料とするFT合成法により得られるFT合成粗油から、燃料油を得るのに利用することができる。
【実施例】
【0066】
<触媒の調製>
(触媒A)
シリカアルミナ(シリカ/アルミナのモル比:14)及びアルミナバインダーを重量比60:40で混合混練し、これを直径約1.6mm、長さ約4mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成し担体を得た。この担体に、塩化白金酸水溶液を含浸し、白金を担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒Aを得た。なお、白金の担持量は、担体に対して0.8質量%であった。
【0067】
(触媒B)
平均粒子径1.1μmのUSYゼオライト(シリカ/アルミナのモル比:37)、シリカアルミナ(シリカ/アルミナのモル比:14)及びアルミナバインダーを重量比3:57:40で混合混練し、これを直径約1.6mm、長さ約4mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成し担体を得た。この担体に、塩化白金酸水溶液を含浸し、白金を担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒Bを得た。なお、白金の担持量は、担体に対して0.8質量%であった。
【0068】
(実施例1)
<合成燃料の製造方法>
(FT合成油の分留)
図1において気泡塔型反応器を採用するFT合成反応器10で得られた生成油(FT合成粗油)(沸点150℃以上の炭化水素の含有量:84質量%、沸点360℃以上の炭化水素の含有量:42質量%、いずれの含有量もFT合成油全量(炭素数5以上の炭化水素の合計)基準)を、ライン3から抜き出して、常法によりフィルターを用いる液固分離器20を介して、残渣触媒を除去した。この反応器形式は液媒体中をコバルト系の触媒粒子が自由流動する気泡塔型反応器であることもあり、かなり微細な触媒粒子が残渣を構成していた。残渣触媒の除去は完全ではないが、その後の処理に支障が出るようなレベルより低い含有量のレベルにまでは除去をした。
【0069】
ついで、除去されたFT合成粗油は、第1の精留塔30で、沸点150℃以下のナフサ留分と、沸点150〜350℃の第1の中間留分と、ボトム分としてのワックス留分の3留分に分留した。
第1精留塔30のボトムから抜き出したワックス留分は、不純物として、フィッシャー・トロプシュ合成触媒(FT触媒:コバルト担持量が30質量%(触媒に対して)、平均粒子径10μm)をワックス留分全量基準で20質量ppm含有していた。
【0070】
(中間留分の水素化異性化)
触媒A(150ml)を固定床の流通式反応器である水素化異性化装置52に充填し、上記第1精留塔30でライン32から得られた第1の中間留分を水素化異性化反応塔52の塔頂より225ml/hの速度で供給し、水素気流下、表1記載の反応条件で水素化処理した。
すなわち、第1の中間留分に対して水素/油比338NL/Lで水素を塔頂より供給し、反応塔圧力が入口圧3.0MPaで一定となるように背圧弁を調節し、この条件にて水素化異性化反応を行った。反応温度は308℃であった。
【0071】
(磁性粒子の除去)
第1の精留塔30と水素化分解装置50の間に、図2の構造の電磁石型高勾配磁気分離機(FEROSEP(登録商標))40を配置し、第1の精留塔30塔底からライン31で得られたワックス留分を表2に記載の条件で磁気処理し、磁性粒子の除去を行った。磁性粒子の除去率を表2に併記する。
ここで、磁性粒子の除去率は(株)島津製作所製レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−3100)の測定結果から磁気分離機入口の磁性粒子濃度を基準に下記の式により算出された値を意味する(以下、同様)。
磁性粒子除去率(質量%)=100×(磁気分離機入口磁性粒子濃度−磁気分離機出口磁性粒子濃度)/磁気分離機入口磁性粒子濃度
【0072】
(ワックス留分の水素化分解)
水素化分解装置である水素化分解装置50において、触媒B(150ml)を水素化分解装置としての固定床の流通式反応器に充填し、電磁石型高勾配磁気分離機(FEROSEP(登録商標))40により磁性粒子除去後のワックス留分を水素化分解装置50の塔頂より300ml/hの速度で供給して、水素気流下、表1記載の反応条件で水素化分解処理した。
【0073】
すなわち、磁性粒子除去後のワックス留分に対して水素/油比676NL/Lで水素を反応塔60の塔頂より供給し、水素化分解装置圧力が入口圧4.0MPaで一定となるように背圧弁を調節し、この条件にて水素化分解した。このときの反応温度は329℃であった。
【0074】
(水素化異性化生成物及び水素化分解生成物の分留)
上記で得られた、第1の中間留分の水素化異性化生成物(異性化中間留分)とワックス留分の水素化分解生成物(ワックス分解分)とをラインブレンドし、この混合物を第2の精留塔60に張り込んで分留し、ディーゼル燃料基材を抜き出し、タンク(図示せず)に貯蔵した。
【0075】
第2の精留塔60のボトムは、水素化分解装置50の入口へライン61を介して連続的に戻して、再度水素化分解をした。
また、第2の精留塔60の塔頂成分は、塔頂から抜き出して、水素化精製装置54からの抜き出し線55へ導入しスタビライザー70へ導いた。
【0076】
(実施例2〜6)
磁気分離機によるワックス留分の処理を、磁場強度、滞留時間以外の条件は実施例1と同様にして合成燃料の製造を行った。磁性粒子の除去率を表2に示す。
【0077】
(比較例1)
磁気分離機によるワックス留分の処理工程を設けない事以外は、実施例1と同様にして合成燃料の製造を行った。
【0078】
(比較例2)
磁気分離機の処理温度を80℃に設定した以外は、実施例1と同様にして合成燃料の製造を行った。
【0079】
(比較例3)
磁気分離機の処理温度を500℃に設定した以外は、実施例1と同様にして合成燃料の製造を行った。
【0080】
(結果)
第1の精留塔と水素化分解装置の間に電磁石型高勾配磁気分離機を設置し、処理温度100〜450℃で磁性粒子の除去を行った実施例1〜6は、水素化分解処理工程に悪影響を及ぼす磁性粒子の低減を実現できた。なかでも、磁場強度が10000ガウス以上かつ滞留時間が15秒以上の条件で処理した場合は、磁性粒子の大幅な低減をはかることができた。
【0081】
一方、処理温度を80℃にした比較例2では、磁気分離機内でワックス留分が固まってしまうため、磁性粒子の除去処理を行うことができなかった。また、処理温度を500℃にした比較例3では、ワックス留分の分解や重合等により正常な運転を継続することができなかった。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】FT合成反応器10、FT合成粗油中の粒子を分離する分離器20、FT合成粗油をナフサ、中間およびワックス留分に分留する第1精留塔30、ワックス留分の磁性粒子の高勾配磁気分離機40、ナフサ留分、中間留分をそれぞれ処理する水素化精製装置54、水素化異性化装置52、磁性粒子が磁気分離されたワックス留分を水素化分解する装置50および第2精留塔60を備える燃料製造プラント。
【図2】本発明に使用する高勾配磁気分離機40の模式簡略図である。
【符号の説明】
【0085】
10 FT合成反応器
20 FT合成粗油の分離器
30 FT合成粗油を分留する第1の精留塔
40 ワックス留分の磁性粒子の高勾配磁気分離機
50 ワックス留分の水素化分解装置
52 中間留分の水素化異性化装置
54 ナフサ留分の水素化精製装置
60 水素化異性化中間留分とワックス分解留分を合わせて分留する第2の精留塔
70 ナフサ留分のスタビライザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィッシャー・トロプシュ合成法により得られるフィッシャー・トロプシュ合成粗油から合成燃料を製造する方法において、
(a)フィッシャー・トロプシュ合成法により得られる合成粗油を精留塔で、ディーゼル燃料油に相当する沸点範囲の成分を含む中間留分と、当該中間留分よりも重質なワックス分を含むワックス留分の少なくとも二つの留分に分留する工程、
(b)工程(a)で得られたワックス留分に含まれる磁性粒子を高勾配磁気分離機により処理温度100〜450℃で分離除去する工程、
(c)工程(b)で得られた磁性粒子を分離除去したワックス留分を水素化分解する工程、
とを含むことを特徴とする合成燃料の製造方法。
【請求項2】
工程(b)において、高勾配磁気分離機による磁性粒子の分離除去を10000ガウス以上の磁場強度、15秒以上の液滞留時間からなる条件で行なうことを特徴とする請求項1記載の合成燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221299(P2009−221299A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65768(P2008−65768)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】