説明

FT合成油中の磁性粒子の除去方法

【課題】フィッシャー・トロプシュ合成スラリーに含まれる残留金属粒子を磁気分離により残留金属粒子を除去するに際し、該残留金属粒子は酸化状態では磁性が弱くなる可能性がある。
【解決手段】磁気分離工程の前処理として、水素処理工程を別個に設けて、金属粒子を還元状態とし、かくして磁気分離工程の磁気分離効率を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素と水素を原料としたフィッシャー・トロプシュ合成法(以下、「FT合成法」と略す。)により得られるFT合成粗油に含まれる残留磁性微粒子を、水素処理によって還元した後、これを磁気分離機により分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素の含有量が低く、環境にやさしいクリーンな液体燃料が求められている。そこで、石油業界においては、クリーン燃料の製造方法として、一酸化炭素と水素を原料としたFT合成法が検討されている。FT合成法によれば、パラフィン含有量に富み、かつ硫黄分を含まない液体燃料基材、例えばディーゼル燃料基材を製造することができるため、その期待は非常に大きい。例えば環境対応燃料油は特許文献1でも提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−323626号公報
【0004】
一方、一酸化炭素と水素を原料としたFT合成法の触媒は、従来、鉄系の固体触媒が多いが、近年は高活性なことからコバルト系の固体触媒も開発されている。
ここで、FT合成法の反応形態も固定床、流動床、移動床等あり得るが、いずれにしろ固体触媒である不均一系触媒が使用される。
そして、得られるFT合成粗油中には、相当量の残留FT触媒が含まれる。
得られたFT合成粗油は、蒸留及び水素化処理等の精製処理を施して燃料油等の製品になるが、残留FT触媒が後の処理工程、たとえば精製処理に影響するため、十分にこれを除去する必要がある。
【0005】
FT合成粗油中の残留FT触媒は微粒子であることが多いので、磁気分離によりこれを分離するのが有利である。
磁気分離は、FT合成スラリーを高勾配磁気分離機により処理して磁性微粒子を分離除去する。この方法は、外部の電磁コイルにより発生する均一な高磁場空間内に強磁性の充填物を配置し、充填物の周囲に生じる通常1〜20kガウス/cmの高い磁場勾配により、充填物の表面に強磁性あるいは常磁性の微粒子物質を付着させてそれらを分離し、さらに付着した粒子を洗浄するように設計された磁気分離機である。洗浄は、捕捉した磁性微粒子を間欠的に洗浄するための洗浄液導入ラインと洗浄済みの洗浄液を排出するラインにより行なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FT合成反応中のスラリーには含酸素化合物が共存するため、FT合成触媒の活性金属、例えばコバルト等は酸化されてしまうことがある。コバルトは、酸化状態では磁性が弱くなることが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、磁気分離工程の前段に、水素処理工程を設け、酸化状態にある残留FT合成触媒を還元状態とし、これにより磁性を強めて、磁気分離の効率を向上させるものである。
【0008】
本発明の第1は、以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とするFT合成粗油の製造方法に関する。
(1)FT合成反応器から抜き出される残留FT合成触媒を含むスラリーを、270℃以上で水素と気液接触させることにより該残留FT合成触媒を水素処理する工程、および
(2)ついで、水素処理されたFT合成触媒を前記スラリーから高勾配磁気分離機により捕捉、除去する磁気分離工程。
【0009】
本発明の第2は、本発明の第1において、前記水素処理工程の前段、前記水素処理工程と磁気分離工程の間の段および高勾配磁気分離機の後段のいずれかの段に、ろ過器、重力沈降分離器、サイクロン、遠心分離器からなる群から選ばれるいずれかの液固分離工程を設けることを特徴とする前記合成粗油の製造方法に関する。
【0010】
本発明の第3は、本発明の第1または2において、前記高勾配磁気分離機により取り除かれたFT合成触媒をFT合成反応器に戻すことを特徴とする前記合成粗油の製造方法に関する。
【0011】
本発明の第4は、本発明の第1〜3のいずれかにおいて、得られた前記合成粗油を水素化する工程をさらに備え、前記水素処理工程に用いた余剰の水素を水素化工程の水素の一部として再使用することを特徴とする前記合成粗油の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
FT反応中のスラリーには含酸素化合物が共存するため、FT触媒の活性金属、例えばコバルト等は酸化されてしまうことがある。コバルトは、酸化状態では磁性が弱く、その結果磁気分離機での触媒の除去が不十分になる恐れがある。
しかし、本発明により、あらかじめ水素処理をすることにより残留FT合成触媒を還元状態とすることができるので、磁気分離効率を向上させることが可能である。上記の水素処理工程により、FT合成スラリー中のFT合成触媒、例えば、コバルトは還元状態となるので、磁気分離機40における分離効率が向上する。
【0013】
しかも、残留FT合成触媒を分離、除去したFT合成粗油は水素化精製処理をすることが多く、水素処理工程で余った水素はこの水素化精製用の水素として再使用することができるので、有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に詳細に本発明を説明する。図1を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
図1に示すように、ライン1から一酸化炭素ガスと水素ガスを含む合成ガスを供給し、FT合成反応器10におけるFT合成反応により液体炭化水素が生成される。合成ガスは、たとえば適宜に炭化水素の改質等により得ることができる。代表的な炭化水素としては、メタンや天然ガス、LNG(液化天然ガス)等を挙げる事ができる。代表的な炭化水素としては、メタンや天然ガス、LNG(液化天然ガス)等を挙げる事ができる。たとえば、酸素を用いた部分酸化改質法(POX)、部分酸化改質法と水蒸気改質法の組合せである自己熱改質法(ATR)、炭酸ガス改質法などを利用することもできる。
【0015】
次に図1につきFT合成工程について説明する。
FT合成にはFT合成反応器10を備える。反応器10は、たとえば気泡塔型反応器とすることができ、これは合成ガスを合成して液体炭化水素とする反応器の一例であり、FT合成反応により合成ガスから液体炭化水素を合成するFT合成用反応器として機能する。
【0016】
反応器10本体は、略円筒型の金属製の容器であって、その直径は1〜20m程度、好ましくは2〜10m程度である。反応器本体の高さは10〜50m程度、好ましくは15〜45m程度である。反応器本体の内部には、液体炭化水素(FT合成反応の生成物)中に固体の触媒粒子を懸濁させたスラリーが収容される。
この反応器10の途中からは、ライン3からスラリーの一部を分離器20に流出させる。塔頂からは、ライン2で未反応の合成ガス等を排出させ、適宜に一部は反応器に循環させる。
【0017】
外部から合成ガス供給管1を通じて供給された合成ガスは、合成ガス供給口(図示せず)から、反応器10内部のスラリー中に噴射される。合成ガスは触媒粒子と接触する接触反応により、液体炭化水素の合成反応(FT合成反応)が行われる。具体的には、下記化学反応式(1)に示すように水素ガスと一酸化炭素ガスとが合成反応を起こす。
【0018】
2nH十nCO→(−CH−)n+nH0 ....(1)
【0019】
具体的には、合成ガスを、反応器10の底部に流入し、反応器内に貯留されたスラリー内を上昇させる。この際、反応器内では、上述したFT合成反応により、当該合成ガスに含まれる一酸化炭素と水素ガスとが反応して、炭化水素が生成される。さらに、この合成反応時には発熱するが、適宜の冷却手段で除熱する。
金属触媒は担持型や沈積型等あるが、いずれにしろ、鉄族金属を含む固体粒子である。固体粒子中に、金属は適宜の量が含まれるが、100%金属でも良い。鉄族金属としては鉄が例示されるほか、高活性な点から、コバルトが好ましい。
【0020】
上記FT合成反応器10に供給される合成ガスの組成比は、FT合成反応に適した組成比(例えば、H:CO=2:1(モル比))に調整されている。なお、反応器10に供給される合成ガスは、適宜の圧縮機(図示せず)により、FT合成反応に適切な圧力(例えば3.6MPaG)まで昇圧される。ただし、上記圧縮機は、設ける必要がない場合もある。
【0021】
かくして反応器10で合成された液体炭化水素は、反応器10の途中のライン3から触媒粒子の懸濁するスラリーとして取り出されて、ライン21、31を経て高勾配磁気分離機40に導入される。高勾配磁気分離機40では、取り出されたスラリーを、磁気分離手段で磁性微粒子と、液体炭化水素を含んだ液体分とに分離する。
以下に当該磁気分離工程を説明する。
【0022】
すなわち、FT合成粗油を高勾配磁気分離機40により処理して磁性微粒子を分離除去する。FT合成用触媒としての鉄族金属の態様は、鉄にしろコバルトにしろ、一定の磁化率を有し、常磁性を示すこともわかった。したがって、磁気分離による除去が相当程度有効である。
【0023】
本発明で用いる高勾配磁気分離機40とは、外部の電磁コイルにより発生する均一な高磁場空間内に強磁性の充填物を配置し、充填物の周囲に生じる通常1〜20kガウス/cmの高い磁場勾配により、充填物の表面に強磁性あるいは常磁性の微粒子物質を付着させてそれらを分離し、さらに付着した粒子を洗浄するように設計された磁気分離機である。たとえば、高勾配磁気分離機としては登録商標”FEROSEP”等で知られる市販機を使用することができる。
【0024】
上記強磁性充填物としては、通常1〜1000μmの径をもつスチールウールあるいはスチールネットのような強磁性細線の集合体、エキスパンドメタル、貝殻状金属細片が用いられる。金属としては耐食、耐熱性、強度に優れるステンレススチールが好ましい。
【0025】
そのほか、特開平7−70568号公報で提案されているような、強磁性金属片が二つの面を有する板状体であって、その二つの面のうち面積が広い方の面の面積が、直径R=0.5〜4mmの円の面積と等しく、かつその板状体の最大厚さdに対するRの比、R/dが5〜20の範囲にあり、しかもその板状体がFeを主成分とし、Crを5〜25wt%、Siを0.5〜2wt%、Cを2wt%以下の量で含有するFe−Cr系合金からなる強磁性金属片もまた好ましく利用できる。
【0026】
高勾配磁気分離機40でライン31により導入された液体分中の磁性微粒子を分離する工程は、該液体分を高勾配磁気分離機40の磁場空間内に導入し、磁場空間内に置かれた強磁性充填物に磁性微粒子を付着させてライン31により導入された液体分から除去する。次に充填物に付着した磁性微粒子を洗浄除去する工程は、一定面積の充填物に捕捉される磁性微粒子の量には限界があり、捕捉量が一定量又は限界量に達したならば捕捉した磁性微粒子を充填物から洗浄除去する。この洗浄除去工程は、磁場を断って磁性微粒子を脱離させ、これを洗浄液によって磁気分離機外に排出することによって行われる。ライン31により導入された液体分中に含有される磁性微粒子の磁気分離条件ならびに充填物に付着した磁性微粒子の洗浄除去条件を以下に述べる。
【0027】
高勾配磁気分離機40の分離条件としては、磁場強度は5000ガウス以上が好ましく、さらに10000ガウス以上が好ましく、特に15000ガウス以上が好ましい。分離機内の液温度(処理温度)は100℃以上400℃以下が好ましく、さらに100℃以上300℃以下が好ましく、特に100℃以上200℃以下が好ましい。液滞留時間(滞留時間)は、10秒以上が好ましく、50秒以上がさらに好ましい。
【0028】
次に、磁性微粒子の磁気分離操作を継続すると、充填物に捕捉された磁性微粒子の量の増加につれて除去率が低下する。従って除去率を維持するためには、一定時間通油した後、捕捉された磁性微粒子を磁気分離機外へ排出する洗浄除去工程が必要となる。工業上の実際運転では、この洗浄除去工程中、磁性微粒子含有原料留分は磁気分離機をバイパスしてもよいが、洗浄必要時間が長いと磁性微粒子の水素化処理工程への流入量が多くなり、除去率が低下することになるので、必要に応じ切替用の予備分離機を設けてもよい。
【0029】
洗浄除去においては、本発明においては磁気分離処理後の液体(ライン41)や磁気分離後に分留した留分を洗浄液として利用することができる。
【0030】
洗浄除去工程は、充填物周囲の磁場を消失(磁気分離機用電磁コイルの通電を止める)させ、上記洗浄液を分離機塔底からライン38(図2)を介して導入し、充填物に単に付着している磁性微粒子を流し去る操作である。洗浄液はライン39(図2)から排出される。洗浄条件としては、洗浄液線速度が1〜10cm/sec、好ましくは2〜6cm/secである。
【0031】
以下に図2を参照して磁気分離工程を説明する。
図2は本発明に使用する高勾配磁気分離塔40の模式簡略図である。高勾配磁気分離機40の分離部は縦型充填塔をなし、ここに強磁性充填物が充填されている。充填物が充填されている充填層45は、塔外部の電磁コイル46により発生する磁力線により磁化されて高勾配の磁気分離部を形成する。この部分が、前記の外部の電磁コイルにより発生する均一な高磁場空間である。操作適温に加熱された磁性粒子を含む液体分は液滞留時間が10秒以上となる所定の流速で、ライン31からこの分離部を下方から上方へ通過し、この間に磁性微粒子が充填物表面に付着して除かれる。
【0032】
FT合成粗油が磁気分離機40を通過中は、洗浄液は洗浄油バイパスライン(図示せず)を通ってバイパスし、洗浄液が磁気分離機40を洗浄中は、液体分は液体分バイパスライン(図示せず)を通ってバイパスさせ、精留塔50に送液することもできる。このようにして除去運転、洗浄運転の切替、繰返し連続運転が可能となる。上記洗浄除去工程は、特開平6−200260号公報記載の方法を参考にして行なうことができる。
【0033】
ここでFT合成反応器後のFTスラリー中の微粒子は、それが微細であり、しかもその量が多く、この状態のままで磁気分離工程で処理すると充填物の洗浄頻度が多くなるものである。結果的に磁気分離が煩雑にならざるを得ない。
そこで、図1の実施態様においては、任意工程であるが、前記磁気分離機40の前段に、磁気分離機以外の別個の液固分離機20を設け、かくして前記磁気分離工程における負荷を低減させるものである。
【0034】
前処理としての磁気分離工程以外の別個の液固分離工程20は、焼結金属フィルター等の適宜のフィルター等を用いるろ過器、自然沈降方式の重力沈降分離器、サイクロン、遠心分離器等から選択される、いずれも常法のものを使用することができる。たとえば、スラリーを満たし、その中の固体粒子を自然沈降させるべく一定時間放置する沈降槽(重力沈降分離器・自然沈降方式)を利用することができる。自然沈降方式の重力沈降分離器は構造が簡単であるので有利である。これらは、連続式またはバッチ式のいずれも使用することができる。
【0035】
磁気分離処理にかけられるFT合成触媒、とりわけコバルト系触媒では、酸化状態では磁性が弱く磁気分離効率が十分でない恐れがある。
そこで本発明では、磁気分離機40の前段に、スラリー中の残留FT合成触媒を還元するために水素処理を行う気液接触塔30を設ける。図の実施態様では、前処理としての磁気分離工程以外の別個の液固分離工程20と高勾配磁気分離機40の間に気液接触塔30を設けるが、いずれにしろ、高勾配磁気分離機40の前段であればよい。
【0036】
気液接触塔30は、ライン21からの触媒を含むスラリーとライン32からの水素を向流または並流で、気液接触させて、スラリー中の金属を水素処理することで還元する。接触効率を向上させるために、セラミックボール、ラッシヒリング等の充填物を充填した充填塔を採用することができる。本発明では、水素処理温度は270℃以上であることが必要であり、金属の還元促進の点で300℃以上、ワックス分の分解や重合抑制の点で400℃以下の範囲であることが好ましい。また、LHSVは0.5〜20h−1の範囲とすることが好ましい。
【0037】
水素はライン32から導入されて、気液接触塔30に供されて消費された後は、過剰の水素はライン33から排出される。排出される余剰の水素は、後記するFT合成粗油の水素化工程のための水素に使用することができる。通常水素処理による還元には過剰の水素を使用するので余剰水素が発生するが、かくすることにより、当該余剰の水素の有効利用がなされるので好ましい。
【0038】
上記の水素処理工程により、FT合成スラリー中の金属触媒、例えばコバルトは還元状態となるので、磁気分離機40における分離効率が向上する。還元状態は適宜に触媒粒子をサンプリングして、その磁化率を測定することにより所定の還元状態であることを確認することができる。なお、磁化率はSQUID磁束計等で測定することができる。
【0039】
磁気分離機40により磁性微粒子が分離されたFT合成粗油は、ついで第1精留塔50に送油されて精留され、水素化処理など各種の精製処理を施されて、製品となる。
すなわち、磁気分離工程40で得られた液体分はライン41から第1精留塔50に張り込まれて分留され、たとえばライン53でナフサ留分(沸点が150℃未満)、ライン52で中間留分(沸点が150〜350℃)とライン51でワックス留分(沸点が350℃以上)とに分留される。図では3留分に分留されるが、2留分でもまた3留分以上であっても良い。また特に蒸留されずに次の精製工程に供されることもできる。
【0040】
水素化処理としては、ナフサ留分(沸点が150℃未満)はライン53から水素化精製装置64で水素化精製し、中間留分(沸点が150〜350℃)はライン52から水素化異性化装置62で水素化異性化反応を、またワックス留分(沸点が350℃以上)はライン51から水素分解装置60で水素化分解する。
前記したように、気液接触塔30の水素はライン32から導入されて、気液接触塔30に供されて消費された後は、過剰の水素はライン33から排出される。ライン33から排出される余剰の水素は、上記の水素化精製装置64の水素化精製、水素化異性化装置62の水素化異性化および水素化分解装置60の水素化分解にFT合成粗油の水素化工程のための水素に使用することができる。
【0041】
水素化分解装置60では、第1精留塔50の塔底から留出するワックス留分を水素化分解する。水素化分解装置60としては、公知の固定床反応塔を用いることができる。本実施形態では、反応塔において、所定の水素化分解触媒を固定床の流通式反応器に充填し、ワックス留分を水素化分解する。
【0042】
中間留分の水素化精製(水素化異性化)装置62は、第1精留塔50の中央部から供給された沸点範囲が中間程度である中間留分の液体炭化水素(概ねC11〜C20)を、水素を用いて水素化精製(水素化異性化)する。この水素化精製反応は、上記液体炭化水素を異性化したり、その不飽和結合に水素を付加して飽和させる等の反応である。この結果、水素化精製された炭化水素を含む生成物は、第2精留塔70に移送される。
【0043】
ナフサ留分水素化精製装置64は、第1精留塔50の上部から留出するナフサ留分(概ねC10以下)を、水素ガスを用いて水素化精製する。この結果、水素化精製された炭化水素を含む生成物は、ナフサ・スタビライザー72に移送され、その下部から精製されたナフサ留分が得られる。ナフサ・スタビライザー72の塔頂からは、C以下の炭化水素を主成分とするガスが排出される。
【0044】
次いで、第2精留塔70は、上記のようにしてワックス留分水素化分解装置60及び中間留分水素化異性化装置62で処理された炭化水素を合流させて精留し、ケロシン留分(沸点が約150〜250℃)と、ガスオイル留分(沸点が約250〜350℃)を取り出す。ワックス留分水素化分解反応装置60及び中間留分水素化精製反応装置62で処理された炭化水素の混合方式は特に限定されず、タンクブレンドでもラインブレンドでも良い。そして、第2精留塔70の塔頂から抜き出される軽質分はスタビライザー72の張り込み線76に導入される。
【0045】
第2の精留塔70の塔底から留出するボトム留分は、ワックスの水素化分解装置60へライン75により、適宜にリサイクルさせて再度これを水素化分解して分解収率を向上させることができる。
【0046】
以上のようにして、FT合成粗油からナフサ留分、ケロシン留分およびガスオイル留分を製造することができ、しかもFTスラリー中の触媒粒子が効率よく分離される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、一酸化炭素と水素を原料としたFT合成法により得られるFT合成粗油に含まれる磁性微粒子を還元状態として、磁気分離機により効率よく分離する方法に利用可能である。
以下実施例により本発明を詳述する。
【実施例】
【0048】
<触媒の調製>
(触媒A)
シリカアルミナ(シリカ/アルミナのモル比:14)及びアルミナバインダーを重量比60:40で混合混練し、これを直径約1.6mm、長さ約4mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成し担体を得た。この担体に、塩化白金酸水溶液を含浸し、白金を担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒Aを得た。なお、白金の担持量は、担体に対して0.8質量%であった。
【0049】
(触媒B)
平均粒子径1.1μmのUSYゼオライト(シリカ/アルミナのモル比:37)、シリカアルミナ(シリカ/アルミナのモル比:14)及びアルミナバインダーを重量比3:57:40で混合混練し、これを直径約1.6mm、長さ約4mmの円柱状に成型した後、500℃で1時間焼成し担体を得た。この担体に、塩化白金酸水溶液を含浸し、白金を担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒Bを得た。なお、白金の担持量は、担体に対して0.8質量%であった。
【0050】
(実施例1)
天然ガスを改質して得られた一酸化炭素と水素ガスとを主成分として含む合成ガスを気泡塔型炭化水素合成反応器(FT合成反応器)10に流入し、FT触媒粒子(平均粒径100μm、活性金属としてコバルトを30重量%担持)を懸濁させたスラリー内で反応させて液体炭化水素を合成する。FT合成反応器10で合成された液体炭化水素はFT触媒粒子を含むスラリーとしてライン3から取り出し、セラミックボール(粒径3mm)を充填した気液接触塔30に導き、FT触媒粒子を含む液体を水素と処理温度350℃、LHSV1.0h−1、並流で気液接触させて液体中のFT触媒粒子を水素処理して還元した。
なお、水素処理による還元で余剰となった水素は、後段の水素化処理工程(水素化装置60、62、64)で使用する水素の一部として再使用した。
【0051】
その後、続いて水素処理した液体をライン31から高勾配磁気分離機(電磁石型高勾配磁気分離機(FEROSEP(登録商標))40に導き、表1記載の処理条件でFT触媒粒子と液体分とに分離する。本実施例では、前処理としての液固分離器20は使用していない。なお、分離されたFT触媒粒子は点線で示したライン42により磁気分離機40からFT合成反応器10へ戻した。
この際、磁気分離機入口のFT触媒の平均粒径は72.5μmであり、分離されたFT触媒粒子の除去率(磁性粒子除去率(質量%))は94質量%となった。
【0052】
ここで、FT合成触媒の平均粒径は(株)島津製作所製レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD−3100)により分析し、粒子の除去率は該測定結果から磁気分離機入口の磁性粒子濃度を基準に下記の式により算出された値を意味する(以下、同様)。
粒子除去率(質量%)=100×(磁気分離機入口磁性粒子濃度−磁気分離機出口磁性粒子濃度)/磁気分離機入口磁性粒子濃度
【0053】
高勾配磁気分離機40で分離した触媒はFT合成反応器10へと戻し、残った液体分は精留塔50へと導かれて分留され、ライン53でナフサ留分(沸点が150℃未満)、ライン52で中間留分(沸点が150〜350℃)とライン51でワックス留分(沸点が350℃以上)とに分留した。
【0054】
(中間留分の水素化異性化条件)
触媒A(150ml)を固定床の流通式反応器である水素化異性化装置62に充填し、上記で得られた中間留分を水素化異性化装置62の塔頂より300ml/hの速度で供給して、水素気流下、以下の反応条件で水素化処理した。
すなわち、中間留分に対して水素/油比338NL/Lで水素を水素化異性化装置62の塔頂より供給し、反応塔圧力が入口圧3.0MPaで一定となるように背圧弁を調節し、この条件にて水素化異性化反応を行った。反応温度は308℃であった。LHSVは1.5h−1である。
【0055】
(ワックス留分の水素化分解条件)
水素化分解装置である反応塔60において、触媒B(150ml)を水素化分解装置としての固定床の流通式反応器60に充填し、上記で得られたワックス留分を反応塔60の塔頂より300ml/hの速度で供給して、水素気流下、以下の反応条件で水素化分解処理した。
【0056】
すなわち、ワックス留分に対して水素/油比676NL/Lで水素を水素化分解装置である反応塔60の塔頂より供給し、反応塔圧力が入口圧4.0MPaで一定となるように背圧弁を調節し、この条件にて水素化分解した。このときの反応温度は329℃であった。LHSVは2.5h−1である。
【0057】
(水素化異性化生成物及び水素化分解生成物の分留)
上記で得られた、中間留分の水素化異性化生成物(異性化中間留分)とワックス留分の水素化分解生成物(ワックス分解分)とをラインブレンドし、この混合物を第2の精留塔70で分留し、ディーゼル燃料基材を抜き出し、タンク(図示せず)に貯蔵した。
【0058】
第2の精留塔70のボトムは、ライン75を経て、水素化分解反応装置60の入口へ連続的に戻して、再度水素化分解をした。
また、第2の精留塔70の塔頂成分は、塔頂から抜き出して、水素化精製反応器64からの抜き出し線76へ導入し、スタビライザー72へ導いた。
【0059】
(比較例1)
FT合成反応器の後段に気液接触塔を設置しない(水素処理を行わない)以外は実施例1と同様の処理を行った。すなわち、水素処理をせずに磁気分離をした。この時、分離されたFT触媒粒子の除去率(磁性粒子除去率(質量%))は87質量%となった。
【0060】
(結果)
スラリーを350℃で水素処理を行った実施例1は、水素処理を行わない比較例1と較べて液体中のFT触媒粒子(磁性粒子)の除去率に優れ、磁気分離効率がよいことが分かる。
【0061】
(実施例2)
天然ガスを改質して得られた一酸化炭素と水素ガスとを主成分として含む合成ガスを気泡塔型炭化水素合成反応器(FT合成反応器)10に流入し、FT合成触媒粒子(平均粒径100μm、活性金属としてコバルトを30重量%担持)を懸濁させたスラリー内で反応させて液体炭化水素を合成する。FT合成反応器10で合成された液体炭化水素はFT合成触媒粒子を含むスラリーとしてライン3から取り出され、取り出されたスラリーをFT合成反応器の後段に配置した液固分離工程(焼結金属フィルター:目開き20μm)20で処理し、その後、ライン1でセラミックボール(粒径3mm)を充填した気液接触塔30に導き、FT合成触媒粒子を含む液体を水素と処理温度300℃、LHSV 1.0h−1の条件下、並流で気液接触させて液体中のFT合成触媒粒子を水素処理して還元した。
なお、水素処理で余剰となった水素は、後段の水素化工程(水素化反応装置60、62、64)で使用する水素の一部として再使用した。
【0062】
その後ライン31で、水素処理した液体を高勾配磁気分離機(電磁石型高勾配磁気分離機(FEROSEP(登録商標)))40に導き、表1記載の処理条件でFT合成触媒粒子と液体分とに分離する。なお、液固分離工程、および高勾配磁気分離機にて分離されたFT触媒粒子はFT合成反応器へと戻した。
この際、磁気分離機入口のFT触媒の平均粒径は10μmであり、分離されたFT合成触媒粒子の除去率(磁性粒子除去率(質量%))は52質量%となった。
【0063】
高勾配磁気分離機40で分離した触媒は点線で示されるライン42でFT合成反応器10へと戻し、液体分は第1精留塔50へと導かれて分留され、ライン53でナフサ留分(沸点が150℃未満)、ライン52で中間留分(沸点が150〜350℃)とライン51でワックス留分(沸点が350℃以上)とに分留した。各留分は実施例1と同様に処理を行い、ディーゼル燃料基材を抜き出し、タンク(図示せず)に貯蔵した。
【0064】
(実施例3)
気液接触塔における水素処理温度を350℃に変更した以外は、実施例2と同様の処理を行った。この際、分離されたFT合成触媒粒子の除去率(磁性粒子除去率(質量%))は56質量%となった。
【0065】
(比較例2)
FT合成反応器の後段に気液接触塔を設置しない(水素処理を行わない)以外は実施例2と同様の処理を行った。この時、分離されたFT合成触媒粒子の除去率(磁性粒子除去率(質量%))は43質量%となった。
【0066】
(比較例3〜4)
気液接触塔における水素処理温度を、それぞれ200℃と250℃とに変更した以外は、実施例2と同様の処理を行った。この際、分離されたFT合成触媒粒子の除去率(磁性粒子除去率(質量%))は、比較例3で44質量%、比較例4で46質量%となった。
【0067】
(結果)
処理温度を300℃および350℃で水素処理を行った実施例2および3は、水素処理を行わない、あるいは低温で水素処理を行なった比較例2〜4と較べて液体中のFT触媒粒子(磁性粒子)の除去率に優れ、磁気分離効率がよいことが分かる。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】FT合成反応器10、FT合成粗油中の微粒子を分離する液固分離器20、水素処理のための気液接触塔30および、磁性微粒子を磁気分離する高勾配磁気分離機40とを備える燃料製造プラント。
【図2】本発明に使用する高勾配磁気分離機40の模式簡略図である。
【符号の説明】
【0070】
10 FT合成反応機
20 液固分離器
30 水素還元塔
40 磁気分離機
60 FT合成粗油を分留する第1精留塔
70 第2精留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)および(2)の工程を含むことを特徴とするフィッシャー・トロプシュ合成粗油の製造方法;
(1)フィッシャー・トロプシュ合成反応器から抜き出される残留フィッシャー・トロプシュ触媒を含むスラリーを、270℃以上で水素と気液接触させることにより該残留フィッシャー・トロプシュ触媒を水素処理する工程、および
(2)ついで、水素処理されたフィッシャー・トロプシュ触媒を前記スラリーから高勾配磁気分離機により捕捉、除去する磁気分離工程。
【請求項2】
前記水素処理工程の前段、前記水素処理工程と磁気分離工程の間の段および高勾配磁気分離機の後段のいずれかの段に、ろ過器、重力沈降分離器、サイクロン、遠心分離器からなる群から選ばれるいずれかの液固分離工程を設けることを特徴とする、請求項1記載の合成粗油の製造方法。
【請求項3】
前記高勾配磁気分離機により取り除かれたフィッシャー・トロプシュ合成触媒をフィッシャー・トロプシュ合成反応器に戻すことを特徴とする、請求項1または2に記載の合成粗油の製造方法。
【請求項4】
得られた前記合成粗油を水素化する工程をさらに備え、前記水素処理工程に用いた余剰の水素を水素化工程の水素の一部として再使用することを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載の合成粗油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221302(P2009−221302A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65774(P2008−65774)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】