説明

Fe基ナノ結晶合金の製造方法、Fe基ナノ結晶合金、磁性部品、Fe基ナノ結晶合金の製造装置

【課題】結晶の粗大化を抑制できるFe基ナノ結晶合金の製造方法であって量産工程に適する製造方法を提供すること。
【解決手段】Fe基ナノ結晶合金の製造方法は、第1昇温速度又は第1昇温速度で近似できる昇温速度にて合金組成物を加熱する第1加熱段階P1と、第1昇温速度よりも速い毎分30℃以上の第2昇温速度で合金組成物を加熱する第2加熱段階P2とを含む。第2加熱段階P2は、第1結晶化開始温度と第1結晶化終了温度との間の第1温度範囲の少なくとも70%以上の加熱範囲であって第1ピークを含む加熱範囲に亘って合金組成物を加熱するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスやインダクタ、モータの磁芯などの使用に好適である、軟磁性合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe基ナノ結晶合金は、高飽和磁束密度と低磁歪の両立が可能な軟磁性材料である。このFe基ナノ結晶合金を得るためには、アモルファス構造を有する合金組成物に対して熱処理を施し結晶化させ、微細なbccFe結晶を析出させる必要がある。通常、Fe基ナノ結晶合金は結晶の粒成長を抑制するためNbやZrなどの金属元素を含有させる必要がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。一方、特許文献3では、NbやZrが含まれていない組成においてもPとCuを複合添加することで結晶の粒成長が抑制でき、1.7Tを超える高い飽和磁束密度が得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2573606号公報
【特許文献2】特許2812574号公報
【特許文献3】特開2010−070852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は結晶の粗大化を抑制できるFe基ナノ結晶合金の製造方法であって量産工程に適する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
NbやZrなどの金属元素が含まれていないFe基ナノ結晶合金の場合、そのナノ結晶析出過程において昇温速度を速くしないと結晶の粗大化が著しく、軟磁気特性が大幅に劣化してしまう。昇温速度を速くすると粒径の微細化は可能であるが、炉やFe基ナノ結晶合金部材の熱容量のため、広い温度領域に亘って急速に昇温することは事実上困難である。加えて、熱処理条件の昇温速度の高速化に伴い、Fe基ナノ結晶合金のそのものの昇温速度のばらつきが大きくなり、特性にも影響が出るおそれがある。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、結晶化に起因した発熱ピークが2つ以上ある非晶質を主相とした合金組成物において、最も低温側に現れる発熱ピークの近傍の温度領域についてのみ昇温速度を上げることにより、結晶の粗大化を抑制し且つ粒度分布を鋭くすることで、保磁力が低減できることを見出した。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づき、以下に掲げる具体的手段を提供する。
【0008】
本発明は、第1のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、
第1昇温速度又は第1昇温速度で近似できる昇温速度にて合金組成物を加熱する第1加熱段階と、前記第1昇温速度よりも速い毎分30℃以上の第2昇温速度で前記合金組成物を加熱する第2加熱段階とを含むFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記合金組成物は、非晶質を主相とし且つ前記第1昇温速度で前記合金組成物を昇温した場合におけるDSC曲線の発熱ピークを2つ以上有するものであり、
前記DSC曲線のベースラインから最も低温側の前記発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化開始温度(Tx1)と、前記ベースラインから前記第1ピークの次の前記発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第2結晶化開始温度(Tx2)との差は、70℃以上300℃以下であり、
前記第2加熱段階は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化終了温度と前記第1結晶化開始温度との間の温度範囲である第1温度範囲の少なくとも70%以上の加熱範囲であって前記第1ピークを含む加熱範囲に亘って前記合金組成物を加熱するものである
Fe基ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、第2のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、第1のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階における前記加熱範囲は、前記第1温度範囲の全体である、
Fe基ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、第3のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、第1又は第2のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階における前記加熱範囲は、前記第1温度範囲を含む幅30℃以上の温度範囲である、
Fe基ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、第4のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、第1乃至第3のいずれかのFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2昇温速度は、毎分100℃以上である
Fe基ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、第5のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、第1乃至第4のいずれかのFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階よりも後の加熱段階であって一定の所定温度にて所定期間に亘り前記合金組成物を加熱し続ける保持段階と、前記保持段階に続く放冷段階とを更に備える
Fe基ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、第6のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、第5のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階と前記保持段階との間において前記第2加熱段階にて加熱された合金組成物を前記所定温度に至るまで前記第2昇温速度より遅い第3昇温速度にて加熱する第3加熱段階を更に備える
Fe基ナノ結晶合金の製造方法を提供する。
【0014】
更に、本発明は、第1のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、
組成式FeSiCu(但し、79≦a≦86at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるFe基ナノ結晶合金であって、
当該Fe基ナノ結晶合金の内部に析出したbccFe結晶の平均結晶粒径が30nm以下であり、
前記析出したbccFeの結晶粒径の標準偏差が7以下である
Fe基ナノ結晶合金を提供する。
【0015】
また、本発明は、第2のFe基ナノ結晶合金の製造方法として、第1のFe基ナノ結晶合金であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦86at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金を提供する。
【0016】
更に、本発明は、第1又は第2のFe基ナノ結晶合金からなる磁性コアを有する磁性部品であって、前記磁性コアの重量が1g以上である、磁性部品を提供する。
【0017】
更に本発明は、合金組成物を加熱する加熱部と、所定の熱処理を実行させるように前記加熱部を制御する制御部とを備えるFe基ナノ結晶合金の製造装置であって、
前記所定の熱処理は、第1昇温速度又は第1昇温速度で近似できる昇温速度にて前記合金組成物を加熱する第1加熱段階と、前記第1昇温速度よりも速い毎分30℃以上の第2昇温速度で前記合金組成物を加熱する第2加熱段階とを含んでおり、
前記合金組成物は、非晶質を主相とし且つ前記第1昇温速度で前記合金組成物を昇温した場合におけるDSC曲線の発熱ピークを2つ以上有するものであり、
前記DSC曲線のベースラインから最も低温側の前記発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化開始温度(Tx1)と、前記ベースラインから前記第1ピークの次の前記発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第2結晶化開始温度(Tx2)との差は、70℃以上300℃以下であり、
前記第2加熱段階は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化終了温度と前記第1結晶化開始温度との間の温度範囲である第1温度範囲の少なくとも70%以上の加熱範囲であって前記第1ピークを含む加熱範囲に亘って前記合金組成物を加熱するものである
Fe基ナノ結晶合金の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1温度範囲(第1結晶化終了温度−第1結晶化開始温度:第1結晶化により発熱反応を示す温度範囲)の少なくとも70%以上の加熱範囲であって第1ピークを含む加熱範囲に関しては、毎分30℃以上の第2昇温速度で熱処理することとしたため、高磁化のbccFeからなる30nm以下の微細なナノ結晶を析出させることが可能になり、高い飽和磁束密度と結晶磁気異方性及び磁歪の低減が可能になる。この加熱範囲は、所望とする結晶の粒度に応じて、第1温度範囲の全体に亘ることとしてもよい。
【0019】
特に、第1温度範囲を含む幅30℃以上の温度範囲のみに前述の加熱範囲を設定することとすると、全温度領域に亘って急速昇温する場合と比較して、サンプルの温度分布が良好になる。また、微細・均一な結晶粒が析出することで良好な軟磁気特性が安定的に得られると共に、急速昇温をする温度範囲が狭いことから熱処理装置にかかる負荷を低減することもできる。
【0020】
また本発明のFe基ナノ結晶合金はPとCuの複合添加により結晶粒の微細効果が発現し、且つ79〜86at%の高Fe組成化と、NbやZr元素を含有せず、Si、B、P、C及びCuを主構成元素とすることで1.65Tを超える高飽和磁束密度を得ることができる。以上の合金組成物を所定の熱処理条件で製造されたFe基ナノ結晶合金は、飽和磁束密度が高く且つ鉄損が低いため、磁性部品の小型化、高効率化に好適である。
【0021】
また、本発明の合金組成物は、融解温度が低いため、合金の溶解及び非晶質の形成が容易であり、現有装置でも製造が可能であると共に当該装置への負荷も小さくすることができる。
【0022】
また、本発明の合金組成物は、結晶化温度が低いため、熱処理によるナノ結晶組織への形成が容易であり、現有装置でも製造が可能であると共に当該装置への負荷も小さくすることができる。
【0023】
また、本発明の合金組成物は、その大部分がFeで構成されており、更にNbやZrを含有しなくてもナノ結晶化が可能であるため、原料価格の低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態によるFe基ナノ結晶合金の製造方法を示す熱処理プロファイルを示す図である。
【図2】図1の熱処理プロファイルを設定するために使用されるDSC曲線を示す図である。
【図3】Fe83.3SiCu0.7組成における昇温速度を変化させたときのDSC曲線を示す図である。
【図4】2つの例について熱処理プロファイルを示す図である。ここで、第1昇温速度及び第3昇温速度はいずれも毎分3℃であり、保持段階の熱処理条件は450℃×10分である。
【図5】第2加熱段階における加熱範囲(幅50℃)をズラしながら昇温したときの保磁力の変化を示す図である。ここで、第1昇温速度及び第3昇温速度はいずれも毎分3℃であり、保持段階の熱処理条件は450℃×10分である。
【図6】第2加熱段階における加熱範囲(幅100℃)をズラしながら昇温したときの保磁力の変化を示す図である。ここで、第1昇温速度及び第3昇温速度はいずれも毎分3℃であり、保持段階の熱処理条件は450℃×10分である。
【図7】本発明の実施例1の高分解能TEM像及び結晶粒径のヒストグラムを示す図である。
【図8】本発明の実施例6の高分解能TEM像及び結晶粒径のヒストグラムを示す図である。
【図9】本発明の実施例10の高分解能TEM像及び結晶粒径のヒストグラムを示す図である。
【図10】本発明の比較例1の高分解能TEM像及び結晶粒径のヒストグラムを示す図である。
【図11】本発明の比較例3の高分解能TEM像及び結晶粒径のヒストグラムを示す図である。
【図12】本発明の比較例4の高分解能TEM像及び結晶粒径のヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示されるように、本発明の実施の形態によるFe基ナノ結晶合金の製造方法は、第1昇温速度で合金組成物を加熱する第1加熱段階P1と、第1昇温速度よりも速い第2昇温速度で合金組成物を加熱する第2加熱段階P2と、第2昇温温度よりも遅い第3昇温温度で合金組成物を加熱する第3加熱段階P3と、一定の所定温度にて所定期間に亘って合金組成物を加熱する保持段階P4と、合金組成物を冷ますための放冷段階P5とを備えている。第1加熱段階P1においては緩やかなカーブで示されるような昇温速度にて昇温することとしてもよい。その場合、緩やかなカーブで示される昇温速度を一次近似した昇温速度を第1昇温速度とすればよい。
【0026】
本実施の形態によるFe基ナノ結晶合金の製造方法において加熱対象となる合金組成物は、非晶質を主相とするものであり、図2に示されるように、第1加熱段階P1の第1昇温速度で昇温し続けた場合に発熱ピーク(11,15)を2つ以上有するようなDSC(示差走査熱量分析:Differential scanning calorimetry)曲線10を得られるようなものである。以下、2つの発熱ピークのうち、最も低温側の発熱ピークを第1ピーク11といい、第1ピーク11の次の発熱ピークを第2ピーク15という。また、DSC曲線10のベースライン20から第1ピーク11に至るまでの第1立ち上がり部12のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線32とベースライン20との交点にて定まる温度を第1結晶化開始温度Tx1とし、第1ピーク11からベースライン21に至るまでの第1立ち下がり部13のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線34とベースライン21との交点にて定まる温度を第1結晶化終了温度Tz1とし、第1結晶化開始温度Tx1から第1結晶化終了温度Tz1までの温度領域を第1温度範囲30とする。同様に、ベースライン22から第2ピーク15に至るまでの第2立ち上がり部16のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線42とベースライン22との交点にて定まる温度を第2結晶化開始温度Tx2とし、第2ピーク15からベースライン23に至るまでの第2立ち下がり部17のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第2下降接線44とベースライン23との交点にて定まる温度を第2結晶化終了温度とし、第2結晶化開始温度Tx2から第2結晶化終了温度までの温度領域を第2温度範囲40とする。なお、図2及び上記説明から理解されるように、各ピーク(11,15)の立ち上がり部(12,16)及び立ち下がり部(13,17)によって直近のベースラインの位置が異なる場合、結晶化開始温度や結晶化終了温度を特定するにあたっては、立ち上がり部(12,16)及び立ち下がり部(13,17)の夫々に対して直近のベースライン(20〜23)を基準とすることとする。
【0027】
第1ピーク11で示される発熱反応(第1温度範囲30に亘る発熱反応)は、合金組成物に最初の結晶化(第1結晶化)が生じた際の発熱反応であり、第2ピーク15で示される発熱反応(第2温度範囲40に亘る発熱反応)は、合金組成物に2回目の結晶化(第2結晶化)が生じた際の発熱反応である。第1結晶化によって析出するのは、主として、軟磁性を担うbccFe(αFe,Fe−Si)であり、第2結晶化によって析出するのは、主として、磁気特性を劣化させるFe−BやFe−Pなどである。従って、第1結晶化のみを促進すべく、第1温度範囲又はその近傍においてのみ高速昇温することとすれば、熱処理装置に対する負荷を可能な限り低く抑えつつ、優れた磁気特性を有するFe基ナノ結晶合金を製造することができる。なお、bccFeの結晶のみを安定して析出させるためには広いΔT(=Tx2−Tx1)を有していることが必要とされる。このため、本実施の形態においては、ΔTが70℃以上300℃以下であるような合金組成物を加熱対象としている。
【0028】
本実施の形態においては、第1結晶化のみを促進すべく、第2加熱段階P2においてのみ高速昇温することとしている。具体的には、第2昇温速度は毎分30℃以上であり、第1昇温速度及び第3昇温速度は毎分30℃より遅い昇温速度である。例えば、第1昇温速度及び第3昇温速度を0.1〜10℃/分とする一方で、第2昇温速度を30〜1000℃/分とする。第2昇温速度を毎分30℃以上とする理由は、昇温速度が毎分30℃より遅いと、結晶粒が粗大化し、製造されたFe基ナノ結晶合金の保磁力が劣化してしまうためである。更に、第2昇温速度を毎分100℃以上とすると、低保磁力特性のFe基ナノ結晶合金を安定的に得ることができる。なお、第2加熱段階P2のみにおいて急速昇温させる熱処理方法としては、例えば、赤外線加熱や高周波過熱など急速昇温が可能な装置を用いた熱処理方法や、結晶化以下の温度で余熱した試料を第1結晶化の発熱反応以上の温度の炉に入れる熱処理方法が考えられる。しかしながら、本発明は、これらに限定されたものではない。
【0029】
上述した事項から明らかなように、第2加熱段階P2として第2昇温速度にて加熱するのは、合金組成物を第1昇温速度で昇温加熱し続けた場合に得られるDSC曲線10に現れる第1温度範囲30の近辺のみである。具体的には、第1温度範囲30の少なくとも70%以上の範囲であって第1ピーク11を含む範囲を加熱範囲とし、その加熱範囲に亘って合金組成物を加熱することとする。加熱範囲は、所望とする結晶粒度によって選択することができる。例えば、より微細且つ均一な粒度を得たい場合には、加熱範囲を第1温度範囲30の全体に亘ることとしてもよい。特に、第1温度範囲30を含む幅30℃以上の温度範囲を加熱範囲とすると、良質なFe基ナノ結晶合金を得ることができる。ここで、熱処理装置に対する負荷を考慮すると加熱範囲は幅100℃以下であることが好ましいが、昇温速度や温度のばらつきによっては加熱範囲の幅が100℃を超えてもよい。このように、急速に昇温する範囲を第2加熱段階P2のみに限定することで、熱処理装置に大きな負荷が加わる期間をt2−t1の間のみに抑えることができることから、本実施の形態によるFe基ナノ結晶合金の製造方法は量産工程においても採用可能である。
【0030】
図1に示される熱処理プロファイルにおいて、保持段階P4は、均質なナノ結晶にゆっくり成長させるための段階である。この保持段階P4を経ることで、磁気特性の改善、具体的には保磁力の低減が見込まれる。
【0031】
また、第3加熱段階P3は、高速昇温する第2加熱段階P2から所定温度で保持する保持段階P4へと直接移行することとした場合に生じる問題を回避するために設けられている段階である。具体的には、第3加熱段階P3を設けることで、第2加熱段階P2を狭くすることができることから、熱処理装置への負荷が減り、制御が容易になる。また、炉のオーバーシュートを防ぎ、結晶粒の粗大化と磁気特性を劣化させる化合物析出を抑制することができる。更に、第2加熱段階P2から直接保持段階P4へ移行させてしまうと、炉の温度に対して第1結晶化による発熱分の温度が上乗せされてしまい、設定した温度以上の温度まで上昇してしまう恐れがあるが、第3加熱段階P3を設けることとすると、第1結晶化の際に生じる発熱が保持段階P4における所定温度へ与える影響を低減することができるため、所望とする温度にて保持段階P4の処理を行うことができ、磁気特性の劣化を抑制することができる。
【0032】
なお、出発原料たる非晶質を主相とする合金組成物として適切なものは、組成式FeSiCu(但し、79≦a≦86at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるものであり、従って、製造されるFe基ナノ結晶合金も同様の組成を有している。
【0033】
上記Fe基ナノ結晶合金において、Fe元素は主元素であり、磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。Feの割合が79at%より少ないと、望ましい飽和磁束密度が得られない。Feの割合が86at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成が困難になり、結晶粒径がばらついたり、粗大化したりする。即ち、Feの割合が86at%より多いと、均質なナノ結晶組織が得られず、合金組成物は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Feの割合は、79at%以上、86at%以下であるのが望ましい。特に1.7T以上の飽和磁束密度が必要とされる場合、Feの割合が81at%以上であることが好ましい。
【0034】
上記Fe基ナノ結晶合金において、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Bの割合が5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成が困難になる。Bの割合が13at%より多いと、ΔTが減少し、均質なナノ結晶組織を得ることができず、合金組成物は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Bの割合は、5at%以上、13at%以下であることが望ましい。特に量産化のため合金組成物が低い融点を有する必要がある場合、Bの割合が10at%以下であることが好ましい。
【0035】
上記Fe基ナノ結晶合金において、Si元素はアモルファス形成を担う元素であり、ナノ結晶化にあたってはナノ結晶の安定化に寄与する。Siの割合が8at%よりも多いと、飽和磁束密度とアモルファス相形成能が低下し、更に軟磁気特性が劣化する。従って、Siの割合は、8at%以下であることが望ましく、更に5at%以下が好ましい。
【0036】
上記Fe基ナノ結晶合金において、P元素はアモルファス形成を担う必須元素である。本実施の形態においては、B元素、Si元素及びP元素の組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、アモルファス相形成能やナノ結晶の安定性を高めることとしている。Pの割合が1at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成が困難になる。Pの割合が10at%より多いと、飽和磁束密度が低下し軟磁気特性が劣化する。従って、Pの割合は、1at%以上、10at%以下であることが望ましい。
【0037】
上記Fe基ナノ結晶合金において、C元素はアモルファス形成を担う元素である。本実施の形態においては、B元素、Si元素、P元素、C元素の組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、アモルファス相形成能やナノ結晶の安定性を高めることとしている。また、Cは安価であるため、Cの添加により他の半金属量が低減され、総材料コストが低減される。但し、Cの割合が5at%を超えると、合金組成物が脆化し、軟磁気特性の劣化が生じるという問題がある。従って、Cの割合は、5at%以下が望ましい。特にCの割合が3at%以下であると、溶解時におけるCの蒸発に起因した組成のばらつきを抑えることができる。
【0038】
上記Fe基ナノ結晶合金において、Cu元素はナノ結晶化に寄与する必須元素である。ここで、Si元素、B元素及びP元素とCu元素との組み合わせ又はSi元素、B元素、P元素及びC元素とCu元素との組み合わせがナノ結晶化に寄与することは、本発明前には知られていなかった点に着目すべきである。また、Cu元素は基本的に高価であり、Feの割合が81at%以上である場合には、合金組成物の脆化や酸化を生じさせやすい点に注意すべきである。なお、Cuの割合が0.4at%より少ないと、ナノ結晶化が困難になる。Cuの割合が1.4at%より多いと、アモルファス相からなる前駆体が不均質になり、そのためFe基ナノ結晶合金の形成の際に均質なナノ結晶組織が得られず、軟磁気特性が劣化する。従って、Cuの割合は、0.4at%以上、1.4at%以下であることが望ましく、特に合金組成物の脆化や酸化、またはナノ結晶への粒成長を考慮するとCuの割合は0.6at%以上、1.3at%以下であることが好ましい。
【0039】
P原子とCu原子との間には強い引力がある。従って、合金組成物が特定の比率のP元素とCu元素とを含んでいると、10nm以下のサイズのクラスターが形成され、このナノサイズのクラスターによってナノ結晶合金の形成の際にbccFe結晶は微細構造を有するようになる。本実施の形態において、Pの割合(x)とCuの割合(z)との特定の比率(z/x)は、0.08以上、1.2以下である。この範囲以外では、均質なナノ結晶組織が得られず、従って合金組成物は優れた軟磁気特性を有せない。なお、特定の比率(z/x)は、合金組成物の脆化及び酸化を考慮すると、0.08以上0.8以下であることが好ましい。
【0040】
本実施の形態における合金組成物は、様々な形状を有することができる。例えば、合金組成物は、連続薄帯形状を有していてもよいし、粉末形状を有していてよい。連続薄帯形状の合金組成物は、Fe基アモルファス薄帯などの製造に使用されている単ロール製造装置や双ロール製造装置のような従来の装置を使用して形成することができる。粉末形状の合金組成物は水アトマイズ法やガスアトマイズ法によって作製してもよいし、薄帯の合金組成物を粉砕することで作製してもよい。また薄帯や粉末などの合金組成物はアルゴンや窒素などの不活性雰囲気中又は真空中で製造することが出来るが大気中でも問題なく作製することもできる。またアルゴンや窒素などのガスをフローさせて製造することも可能である。
【0041】
ここで、耐食性の改善や電気抵抗の調整などのため、飽和磁束密度の著しい低下が生じない範囲でFeの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してもよい。但し、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計はFeの割合aについての条件79≦a≦86at%を満たすものとする。
【0042】
本実施の形態による製造方法によりFe基ナノ結晶合金を製造すると、仮に毎分3℃の速度で昇温させたとき析出する結晶の平均粒径が30nm以上となってしまうような合金組成物を出発原料とした場合であっても、Fe基ナノ結晶合金の内部に析出したbccFe結晶の平均結晶粒径が30nm以下となる。更に、析出したbccFeの結晶粒径の標準偏差は7以下となる。即ち、本実施の形態によれば、微細且つ均一な結晶粒径を有し良好な軟磁気特性を呈するFe基ナノ結晶合金を得ることができる。具体的には、結晶粒径の標準偏差が7以下であることから、安定した保磁力特性を得ることができる。逆に、標準偏差が7より大きいと保磁力は劣化すると同時に特性のばらつきが大きくなる。
【0043】
しかも、実用的な量のFe基ナノ結晶合金を製造した場合であっても、上述したような特徴(bccFeの結晶粒径の標準偏差が7以下など)が保持されることから、この良質なFe基ナノ結晶合金を用いて重量が1g以上となるような磁性コアを製造することも可能となる。磁気コアの形態としては、例えば、薄帯を用いた巻磁芯や積層磁芯、粉末を用いた圧粉磁芯などが挙げられる。更に、かかる良好な特性を有する磁気コアを用いて、トランス、インダクタ、モータや発電機などの磁性部品を構成することができる。
【0044】
以上説明したように、第2加熱段階P2(第2昇温速度によって急速昇温する段階)の対象とする温度範囲を第1温度範囲30(第1結晶化に起因した発熱領域)の近傍のみに限定することにより量産工程においても安定的にFe基ナノ結晶合金を製造することができる。
【0045】
以下、本発明の実施の形態によるFe基ナノ結晶合金の製造方法について、複数の実施例を参照しながら更に詳細に説明する。
【0046】
(実施例1〜8及び比較例1〜3)
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料をFe83.3SiCu0.7の合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。その後溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、厚さ25μm、幅15mm、長さ30mの連続薄帯を作製した。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて表1に示す熱処理条件と同じ昇温速度にて評価した。得られた薄帯を長さ60mmに切断し保磁力(Hc)測定用のサンプルとした。同様に7mm角に切断しVSM測定用のサンプルとした。更に、保磁力測定用サンプルの一部を微細組織観察用のサンプルとした。特に、第2加熱段階P2においては、高速昇温が可能な赤外線加熱装置を用いて前述のサンプルに対して表1に示す熱処理条件にてナノ結晶化熱処理を施した。結果物たるFe基ナノ結晶合金の保磁力は直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて測定し、飽和磁束密度(Bs)は振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。更に、微細組織はTEMを用いて評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から理解されるように、実施例1〜8のFe基ナノ結晶合金は、第2加熱段階P2において第1温度範囲30を含む幅30℃以上の温度範囲を毎分30℃以上の速度(第2昇温速度)で昇温したことから、結晶粒径30nm以下の微細な組織を得ることができ、1.65T以上の高い飽和磁束密度と20A/m以下の低い保磁力を得ることができている。一方、比較例1〜3のFe基ナノ結晶合金は、第2加熱段階P2で熱処理すべき場合にも毎分30℃を超えない範囲で熱処理していることから、粗大な結晶粒が析出し、保磁力が著しく劣化している。
【0049】
図3から理解されるように、毎分3℃の速度で昇温したときの第1結晶化開始温度Tx1及び第1結晶化終了温度Tz1は、それぞれ、370℃及び400℃になる。即ち、この場合の第1温度範囲は370℃〜400℃となる。また図5及び図6から理解されるように、第1温度範囲(370〜400℃)を含む温度範囲を急速に昇温させると、20A/m以下の低い保磁力を得ることができる。また、同図5及び図6から、第2昇温速度にて加熱する加熱範囲が第1温度範囲とずれている熱処理条件においては保磁力が著しく劣化していることも理解される。図5及び図6に示される例のうち、第2加熱段階P2における加熱範囲を330〜430℃及び360〜410℃とした熱処理温度プロファイルを図2に示す。なお、第2昇温速度は毎分300℃とした。
【0050】
Fe83.3SiCu0.7組成において毎分3℃の速度(一定の昇温速度)で昇温させた比較例3の場合の平均結晶粒径は図11に示すように40.6nmであるが、実施例1及び実施例6の場合は、図7及び図8に示されるように、平均結晶粒径が30nm以下となり、20A/m以下の低い保磁力を得ることができる。
【0051】
(実施例9〜15及び比較例4〜6)
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料を表2に示す合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。その後溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、厚さ16〜25μm、幅15mm、長さ30mの連続薄帯を作製した。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて毎分3℃の昇温速度にて評価した。即ち、これらの例において、第1昇温速度は毎分3℃である。更に、表2に示す熱処理条件にてナノ結晶化熱処理を施し、保磁力は直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて飽和磁束密度は振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2から理解されるように、実施例9〜15のFe基ナノ結晶合金は、第2加熱段階P2において第1温度範囲30を含む幅30℃以上の温度範囲を毎分30℃以上の速度(第2昇温速度)で昇温したことから、1.65T以上の高い飽和磁束密度と20A/m以下の低い保磁力を得ることができた。一方、比較例4のFe基ナノ結晶合金は、第2昇温速度のような高速な昇温処理を行っていない(第2加熱段階P2が存在しない)ことから、粗大で粒度分布の広い結晶粒が析出し、保磁力が著しく劣化している。比較例5の合金組成物は、本実施の形態による出発原料(合金組成物)及びFe基ナノ結晶合金の範囲外の組成を有するものであることから、比較例5は熱処理温度が組成から要求される温度と比較して低くナノ結晶化していないため飽和磁束密度が1.65Tより低い。比較例6の合金組成物は、本実施の形態による出発原料(合金組成物)及びFe基ナノ結晶合金の範囲外の組成を有するものであり、ΔTが70℃以下であるため、急速昇温を施しても保磁力が著しく劣化している。
【0054】
図7乃至図9を参照すると、実施例1、6、10は平均結晶粒径が30nm以下であり、標準偏差が7以下の結晶粒径のそろった微細組織を有している。また、実施例1、6のように平均結晶粒径が25nm以下の場合には、図7及び図8に示されるように、10A/m以下の低い保磁力が得られる。また、若干保磁力が高くてもよい場合には、第1温度範囲全体を加熱範囲としなくてもよく、70%以上で且つ100%に満たない範囲を加熱範囲としてもよい。例えば、図9に例示された実施例10の場合、第1温度範囲(385〜425℃)の75%の温度範囲である385〜415℃の温度区間を第2加熱段階P2における加熱範囲として毎分30℃の速度で急速昇温してあり、この場合、20A/m以下の保磁力を得ることができている。一方、図10乃至図12を参照すると、比較例1、3、4は粗大でバラツキの大きい組織となっているため保磁力は著しく劣化している。
【0055】
なお、上述したFe基ナノ結晶合金の製造方法の概念に基づいてFe基ナノ結晶合金の製造装置を構成することとしてもよい。かかる製造装置は、合金組成物を加熱する加熱部と、所定の熱処理を実行させるように加熱部を制御する制御部とを備えている。制御部における「所定の熱処理」の制御(加熱部の制御)は、例えば、その都度プログラムすることとしてもよいし、専用のプログラムを予め組み込んでおくものとしてもよい。「所定の熱処理」は、少なくとも、第1昇温速度又は第1昇温速度で近似できる昇温速度にて合金組成物を加熱する第1加熱段階と、第1昇温速度よりも速い毎分30℃以上の第2昇温速度で合金組成物を加熱する第2加熱段階とを含んでいる。ここに掲げた第1昇温速度、第1加熱段階、第2昇温速度、第2加熱段階は、すべて上述したものと同じ意味であり、加熱対象である合金組成物も実施の形態において例示したものと同じである。かかる製造装置によれば、上述した良質なFe基ナノ結晶合金を効率よく繰り返し簡単に製造することができる。
【符号の説明】
【0056】
P1 第1加熱段階
P2 第2加熱段階
P3 第3加熱段階
P4 保持段階
P5 放冷段階
10 DSC曲線
11 第1ピーク
12 第1立ち上がり部
13 第1立ち下がり部
15 第2ピーク
16 第2立ち上がり部
17 第2立ち下がり部
20〜23 ベースライン
30 第1温度範囲
32 第1上昇接線
34 第1下降接線
40 第2温度範囲
42 第2上昇接線
44 第2下降接線
Tx1 第1結晶化開始温度
Tz1 第1結晶化終了温度
Tx2 第2結晶化開始温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1昇温速度又は第1昇温速度で近似できる昇温速度にて合金組成物を加熱する第1加熱段階と、前記第1昇温速度よりも速い毎分30℃以上の第2昇温速度で前記合金組成物を加熱する第2加熱段階とを含むFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記合金組成物は、非晶質を主相とし且つ前記第1昇温速度で前記合金組成物を昇温した場合におけるDSC曲線の発熱ピークを2つ以上有するものであり、
前記DSC曲線のベースラインから最も低温側の前記発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化開始温度(Tx1)と、前記ベースラインから前記第1ピークの次の前記発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第2結晶化開始温度(Tx2)との差は、70℃以上300℃以下であり、
前記第2加熱段階は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化終了温度と前記第1結晶化開始温度との間の温度範囲である第1温度範囲の少なくとも70%以上の加熱範囲であって前記第1ピークを含む加熱範囲に亘って前記合金組成物を加熱するものである
Fe基ナノ結晶合金の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階における前記加熱範囲は、前記第1温度範囲の全体である、
Fe基ナノ結晶合金の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階における前記加熱範囲は、前記第1温度範囲を含む幅30℃以上の温度範囲である、
Fe基ナノ結晶合金の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2昇温速度は、毎分100℃以上である
Fe基ナノ結晶合金の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階よりも後の加熱段階であって一定の所定温度にて所定期間に亘り前記合金組成物を加熱し続ける保持段階と、前記保持段階に続く放冷段階とを更に備える
Fe基ナノ結晶合金の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のFe基ナノ結晶合金の製造方法であって、
前記第2加熱段階と前記保持段階との間において前記第2加熱段階にて加熱された合金組成物を前記所定温度に至るまで前記第2昇温速度より遅い第3昇温速度にて加熱する第3加熱段階を更に備える
Fe基ナノ結晶合金の製造方法。
【請求項7】
組成式FeSiCu(但し、79≦a≦86at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦1.2)で表わされるFe基ナノ結晶合金であって、
当該Fe基ナノ結晶合金の内部に析出したbccFe結晶の平均結晶粒径が30nm以下であり、
前記析出したbccFeの結晶粒径の標準偏差が7以下である
Fe基ナノ結晶合金。
【請求項8】
請求項7記載のFe基ナノ結晶合金であって、
Feの一部をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換してなるFe基ナノ結晶合金において、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素は組成全体の3at%以下であり、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O及び希土類元素のうち1種類以上の元素とFeとの合計は前記aについての条件79≦a≦86at%を満たす
Fe基ナノ結晶合金。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のFe基ナノ結晶合金からなる磁性コアを有する磁性部品であって、前記磁性コアの重量が1g以上である、磁性部品。
【請求項10】
合金組成物を加熱する加熱部と、所定の熱処理を実行させるように前記加熱部を制御する制御部とを備えるFe基ナノ結晶合金の製造装置であって、
前記所定の熱処理は、第1昇温速度又は第1昇温速度で近似できる昇温速度にて前記合金組成物を加熱する第1加熱段階と、前記第1昇温速度よりも速い毎分30℃以上の第2昇温速度で前記合金組成物を加熱する第2加熱段階とを含んでおり、
前記合金組成物は、非晶質を主相とし且つ前記第1昇温速度で前記合金組成物を昇温した場合におけるDSC曲線の発熱ピークを2つ以上有するものであり、
前記DSC曲線のベースラインから最も低温側の前記発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化開始温度(Tx1)と、前記ベースラインから前記第1ピークの次の前記発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第2結晶化開始温度(Tx2)との差は、70℃以上300℃以下であり、
前記第2加熱段階は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点にて定まる第1結晶化終了温度と前記第1結晶化開始温度との間の温度範囲である第1温度範囲の少なくとも70%以上の加熱範囲であって前記第1ピークを含む加熱範囲に亘って前記合金組成物を加熱するものである
Fe基ナノ結晶合金の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−256453(P2011−256453A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133992(P2010−133992)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】